(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023117566
(43)【公開日】2023-08-24
(54)【発明の名称】合成シリカ粉
(51)【国際特許分類】
C01B 33/18 20060101AFI20230817BHJP
【FI】
C01B33/18 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022020197
(22)【出願日】2022-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】309011192
【氏名又は名称】合資会社 ナベショー
(72)【発明者】
【氏名】渡部 弘行
【テーマコード(参考)】
4G072
【Fターム(参考)】
4G072AA26
4G072BB05
4G072GG01
4G072GG03
4G072HH21
4G072LL06
4G072MM14
4G072MM36
4G072RR05
4G072RR12
4G072TT19
4G072TT20
4G072UU01
(57)【要約】
【課題】
石英ルツボの外層には現状、高純度天然石英粉が使用されているが、シリコン単結晶引上げ中に、ナトリウム、カリウム、カルシウム、リチウムが内層の合成シリカガラス層に拡散し、シリコン融液に混入するという問題があった。また外層に従来の合成シリカ粉を使用するとコストが何倍にも上がること、使用中に変形するなどの問題があった。
【解決手段】
合成シリカ粉を、安価なケイ酸アルカリからイオン交換によってコロイダルシリカとし、それをゲル化、冷凍融解し、シリカゲル粒子を減圧下で摂氏1250から1350度で焼成することによって、シラノール基含有量を10ppm以下とすることにより、石英ルツボの外層に使用しても、単結晶引上げ中に石英ルツボの変形が起きない。かつナトリウム、カリウム、カルシウム、リチウムが0.1ppmであるため、不純物が内層に拡散することがないため、シリコン単結晶を汚染させない。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ酸アルカリ水溶液から合成シリカ粉を調製する時に、減圧下で焼成することにより合成シリカ粉のシラノール含有量が10ppm以下とし、その合成シリカ粉を石英ルツボ外層に使用することを特徴とする合成シリカ粉。
【請求項2】
減圧下での焼成において、焼成温度が摂氏1250から1350度であることを特徴とする請求項1記載の合成シリカ粉。
【請求項3】
特許請求項1に記載の合成シリカ粉を石英ルツボ外層に使用した時の外層の粘度が、摂氏1400度において1.0E+9Pa・s以上であることを特徴とする。
【請求項4】
ナトリウム、カリウム、カルシウムおよびリチウムの含有量がそれぞれ0.1ppm以下であることを特徴とする請求項1記載の合成シリカ粉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体単結晶シリコン引上げ用石英ルツボに使用する合成シリカ粉の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体シリコン単結晶引上げ用石英ルツボは、外層に天然石英ガラス、内層に合成石英ガラスを配置した二層構造となっている。内層の合成石英ガラス層の厚さは2から3mm、外層の天然石英ガラス層の厚さは10から13mmである。この理由は合成シリカを外層に使用すると粘度が低いために、石英ルツボが使用中に変形するためと、合成シリカ粉の価格が高く、コストが高くなってしまうことによる。
【0003】
シリコン単結晶引上げにおいて、シリコン融液が石英ルツボと反応し、石英ルツボの内層がシリコン融液に溶けだして、内層中に含まれる不純物がシリコン融液を汚染する。そのため、内層は純度の良い合成シリカを使用するが、摂氏約1600度では外層からの不純物が拡散により、内層に移動するため、外層にも高純度の天然石英を使用しなくてはならない。特にナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウムなどは極力合成シリカに近い高純度が必要である。
【0004】
石英ルツボの外層に使用される天然石英粉は、地球の存在する高純度の石英を採掘し、それを粉砕し、浮遊選鉱やフッ酸処理、高温塩素ガス処理によって製造されている。非特許文献1には石英ルツボの外層に使用されているIOTA6の純度が示されている。IOTA6は高温塩素ガス処理によってIOTA4を摂氏約1300度で行っている。IOTA6はIOTA4に比較してナトリウム、カリウム、銅が低くなっているが、リチウム、カルシウムはほとんど変わらない。これをさらに高温で塩素ガス処理したIOTA8はリチウムが下がるが、カルシウムは下がらない。またコストが高く大量に使用すれば石英ルツボの価格が何倍にもなってしまう。
【0005】
特許文献1にはケイ酸アルカリから合成シリカ粉を製造する方法の記載がある。この方法であれば天然石英に匹敵するコストで合成シリカ粉を得ることができる。しかしながらシラノール基含有量が40ppmとなり、石英ルツボの外層に使用すると、単結晶引上げ中に石英ルツボが変形していた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】INDIAN MINERALS & MARKETS FORRUM2019 “High purity quartz supply & demand” Muray Line.P36
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、不純物含有量の低減に限界がある天然石英粉の代わりに合成シリカ粉を使用することを提案するものであるが、従来の合成シリカ粉は、コストが高いことと、粘度が低いことが問題であった
【課題を解決するための手段】
【0009】
ケイ酸アルカリからドライゲル粉をつくり、それを減圧下に焼成することにより、天然石英粉より純度が良く、ガラスにした場合、天然石英ガラスと同等の粘度を持つ合成シリカ粉を天然石英粉と同等のコストで製造することができた。
【発明の効果】
【0010】
本発明の合成シリカはケイ酸アルカリを原料にしているため非常に安価であり、ナトリウム、カリウム、カルシウム、リチウム含有量が極めて低く、さらに粘度が天然石英ガラスと同等であるため、石英ルツボの外層に使用した場合、外層から内層に不純物が移動することがない、かつルツボが変形しないため、長時間使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、ケイ酸アルカリ水溶液から合成シリカ粉を調製する時に、減圧下で焼成することにより、合成シリカ粉のシラノール基含有量が10ppm以下であり、それを石英ルツボの外層に使用した時の外層の粘度が摂氏1400度において1.0E+9Pa・s以上と天然石英ガラスと同等であることにより、使用時の変形を防ぐことができるものである。
【0012】
原料となるケイ酸アルカリは、市販の乾式法ケイ酸ソーダやケイ酸カリウム、または湿式法イ酸ソーダやケイ酸カリウムを使用することもできるし、廃棄石英ガラスを粉砕して、乾式法及び湿式法により調製してもよい。ヒュームドシリカやホワイトカーボンから乾式、湿式法でも調整可能であるが、製造コストが高くなり、本用途には向かない。
【0013】
このケイ酸アルカリを希釈してシリカ濃度が4から8重量%になるようにし、ろ過して未溶解のシリカ粒子やコロイド鉄を除去する。このろ過に使用するろ紙は1ミクロンメータ以下のものを用いる。好ましくは0.2ミクロンメータ以下である。また湿式法の場合、使用するオートクレーブの材質からの汚染がある場合は、過酸化水素などの酸化剤を加えてからろ過してもよい。その場合は、ろ液に亜硫酸ナトリウムなどの還元剤を入れて還元処理をしておくほうが良い。
【0014】
ろ過されたケイ酸アルカリ水溶液は、水素型強酸性イオン交換樹脂に通液されるが、この時に発熱をするため、ゲル化しやすい。通液後の温度を摂氏40度以下に管理するため、水冷などができる装置のほうが良い。このイオン交換処理により、アルミニウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、リチウムなどのカチオン元素が水素との交換によりイオン交換樹脂に吸着する。チタンは過酸化水素などの酸化剤により溶解してから、もう一度水素型強酸性イオン交換樹脂に通液する必要があるが、チタンは摂氏1600度でも拡散しにくいため、存在しても問題はない。またケイ酸アルカリを光ファイバーの廃材から調製した場合は、多くの塩素を含むため、水素型強酸性イオン交換樹脂を通した後に水酸基型陰イオン交換樹脂に通液して塩素を除かないと、気泡や粘度低下の原因になる。
【0015】
イオン交換樹脂に通液した後は、コロイダルシリカ、いわゆるシリカゾルになっている。水素イオンが過剰に含まれているため、水素イオン濃度は2から3となっており、シリカゾルとして安定な状態となっている。このシリカゾルを限外ろ過膜で濃縮したり、熱をかけたり、水酸化アンモニウム水溶液などで水素イオン濃度を4から5にすることによりゲル化することができる。合成シリカ粉の粒度分布を石英ルツボなどの用途に使用するためには、、水酸化アンモニウム水溶液などで水素イオン濃度を4から5にする方法が良い。シリカゲルは、凍結―融解法により粒子とするのだが、シリカゲルの約94から95体積%が水分となって均一に分散しているが、凍結することにより水分は氷となり9体積%くらい膨張する。その時の膨張により、シリカゲルにクラックが生じて融解した時に粉体とすることができる。この時の粒径は、凍結前のシリカゲルの強度および水分含有量により異なる。そのため、限外ろ過膜で濃縮したシリカゲルは、凍結融解後の粒径が大きくなるので、好ましくない。
【0016】
得られたシリカゲル粒子を脱水機により水分を取り除くが、この時、水分に溶解した不純物も取り除かれる。しかし、脱水機により得られたシリカゲル粒子にはまだ約50重量%くらいの水分が含まれている。その水分中に溶解している不純物をさらに取り除くために、高純度の酸で煮沸抽出を行う。この酸は、塩酸、硫酸、硝酸、フッ酸などを使用するが、塩酸や硫酸が好ましい。この濃度は、3から10重量%を使用する。好ましくは4から6重量%を用いる。処理温度は、煮沸温度で行う。好ましくは摂氏80から100度である。処理後は、脱水し、超純水でろ液の電気伝導度が一定になるまで洗浄を行う。
【0017】
この時点でのシリカゲル粒子には約50重量%の水分が含まれているため、いったん摂氏300度以上で遊離水を取り除く。シリカゲル粒子は遊離水を除去しても15から25重量%の水分を含んでいる。いかにシラノー基含有量が多いかわかる。これを除去することは常圧下では非常に難しい。これを減圧下で摂氏1250度から摂氏1350度で焼成するとシラノール基含有量が急激に減少する。摂氏1250度未満ではシラノール基含有量が減らないし、摂氏1350度以上では焼結が起こり、取り出しにくくなってしまう。好ましくは摂氏1270度から摂氏1300度である。減圧については、真空が高ければ高い方が良いが、10kPa以下で行う方が良い。好ましくは5kPa以下である。焼成時間は、5時間以上とするが、焼成物の量や真空炉の構造によってシラノール基含有量が異なるため10時間以下とする方が良い。10時間以上の場合、焼結によって取り出しにくくなることがある。
【0018】
シラノール基含有量と合成シリカガラスの粘度は相関があることがわかっている。もちろんシラノール基含有量が下がれば、合成シリカガラスの粘度は上がる。シラノール基含有量がほぼ無い真空溶融した天然石英ガラスの摂氏1400度における粘度が1.2E+9Pa・sであるため、合成シリカガラスを石英ルツボ外層に使用するためには、同じ粘度が必要である。合成シリカガラスの粘度は、シラノール基含有量にだけ依存するため、シラモール基含有量が10ppm以下とする必要がある。好ましくは5ppm以下である。
【0019】
天然石英ガラスの外層に対して内層の合成シリカガラスは純度が良いため、不純物は濃度の低い内層に向かって拡散する。摂氏1600度での石英ガラス中の拡散速度を測定したところ、ナトリウムが1.4E(―5)cm2/s、リチウムが2.0E(―6)cm2/s、カルシウムが4.0E(―8)cm2/s、カリウムが2.0E(―8)cm2/sとなった。アルミニウムやチタンなどは2.0E(―13)cm2/sであった。ナトリウム、リチウムは摂氏1600度において、数分で1mm拡散移動することがわかった。またカリウムとカルシウムは数時間で1mm移動する。アルミニウムやチタンは1mm移動するのに数百年かかることが分かった。すなわち、外層からナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウムが内層に移動し、内層からシリコン融液に溶けだして汚染するといえる。したがって、外層の不純物、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウムは、内層の合成シリカガラスに近いことが必要である。すなわち、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウムが各々0.1ppm以下であることが必要である。好ましくは0.05ppm以下である。
【0020】
ここで評価方法について述べる。合成シリカ中の不純物の定量は合成シリカ粉をフッ酸で溶解し、蒸発乾固したのち、硝酸で溶解してICP―Massで行った。合成シリカ粉のシラノール基含有量は、IRセルに四塩化炭素を溶媒として赤外線吸収スペクトル装置にて測定した。石英ガラスの粘度は、JISR3101―1 2001に準拠して、試料を5.0mm角の長さ50mmにして測定した。
【実施例0021】
実施例について説明する。なお本発明はこの実施例に限ったものではない。
市販の三号水ガラスをシリカ濃度6重量%になるように純水で希釈し、その水溶液1トンを水素型強酸性陽イオン樹脂2m3を詰めたイオン交換塔にSV値7で通液した。できたコロイダルシリカ溶液は、1.1トンであった。この水素イオン濃度は2.7であった。このコロイダルシリカ水溶液に攪拌しながら10重量%の水酸化アンモニウムを水素イオン濃度が4.5になるようにゆっくり加えた。
このコロイダルシリカ水溶液を、ポリオレフィンを内面コーティングした20Lのステンレス容器に小分けして摂氏―30度の冷凍庫に入れて冷凍した。5時間後、完全に凍結したシリカゲルを摂氏80度の温水に投入して解凍した。それを遠心脱水機で脱水・洗浄して125kgのシリカゲル粉体を得た。
シリカゲル粉体を28インチ石英ルツボに移し、55Lの5重量%の電子工業用塩酸を加えて、摂氏95度で1時間煮沸した。その後、遠心脱水機で脱水した。さらに28インチルツボに移し、超純水のみで煮沸を行った。これを減圧ろ過した。その後、石英ガラス管を使用したロータリーキルンを使用し、摂氏700度で乾燥した。乾燥後のシリカゲルは60kgであった。このシリカゲル粉体を、30インチ石英ルツボに入れて、2kPaで摂氏1270度で5時間焼成した。最終製品は55kgであった。
この合成シリカ粉中の不純物はアルミニウムが0.21ppm、鉄が0.02ppm、ナトリウム、カリウム、カルシウムが0.01ppm、リチウムが0.001ppm以下であった。またシラノール基含有量は4ppmであった。この60から120メッシュを外層に、内層に寧波プレシン半導体用石英材料有限公司の商品名PS400SH―Aを使用し、28インチを溶融し、石英ルツボの上部を50mm切断し、外層を5.0mm角に切断・研磨して粘度を測定した結果、摂氏1400度で1.2E+9Pa・sの値を得た。なお、高さ調整した石英ルツボを洗浄して、シリコン単結晶引き上げを実施した。500時間使用しても石英ルツボの倒れこみは生じなかった。
比較例1として、実施例1と同様の条件でドライゲル粒子まで調整した。焼成条件をドライエア中で摂氏1250度で25時間保持した。不純物については実施例と変わらず、シラノール基含有量が62ppmとなった。実施例1と同じように28インチ石英ルツボを溶融し、ルツボ上部から試料を採取し、粘度を測定した。粘度は摂氏1400度で9.3E+8Pa・sの値を得た。高さ調整した石英ルツボを洗浄して、シリコン単結晶引き上げを実施した。150時間使用したところで石英ルツボの上部の倒れこみが生じ、そこで引上げ作業を停止した。
比較例2として、シベルコ社IOTA―6を外層に使用し、内層に寧波プレシン半導体用石英材料有限公司の商品名PS400SH―Aを使用し、28インチを溶融し、石英ルツボの上部を50mm切断し、外層を5.0mm角に切断・研磨して粘度を測定した結果、摂氏1400度で1.2E+9Pa・sの値を得た。なお、高さ調整した石英ルツボを洗浄して、シリコン単結晶引き上げを実施した。500時間使用しても石英ルツボの倒れこみは生じなかった。