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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023117573
(43)【公開日】2023-08-24
(54)【発明の名称】ポリオレフィン多層微多孔膜
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/32 20060101AFI20230817BHJP
   B32B 5/32 20060101ALI20230817BHJP
   H01M 50/417 20210101ALI20230817BHJP
   H01M 50/449 20210101ALI20230817BHJP
   H01M 50/491 20210101ALI20230817BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20230817BHJP
   H01M 50/457 20210101ALI20230817BHJP
【FI】
B32B27/32 E
B32B5/32
H01M50/417
H01M50/449
H01M50/491
H01M50/489
H01M50/457
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022020214
(22)【出願日】2022-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】金子 慧
(72)【発明者】
【氏名】陳 燕仔
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 木乃美
【テーマコード(参考)】
4F100
5H021
【Fターム(参考)】
4F100AK04A
4F100AK05A
4F100AK05B
4F100AK07A
4F100BA02
4F100BA07
4F100CA06A
4F100CA06B
4F100DJ00A
4F100DJ00B
4F100DJ06A
4F100DJ06B
4F100EH202
4F100EJ17
4F100EJ38
4F100EJ42
4F100GB41
4F100JA04A
4F100JA04B
4F100JD02
4F100JG01
4F100JK01
5H021CC04
5H021EE04
5H021HH00
5H021HH01
5H021HH02
5H021HH03
5H021HH06
(57)【要約】
【課題】 高いエネルギー密度が要求される電池設計において、優れたメルトダウン特性を有し、かつ、耐衝撃性とサイクル特性が良好なポリオレフィン多層微多孔膜を提供すること。
【解決手段】 ポリプロピレンを含む第1の微多孔層と、ポリエチレンを含む第2の微多孔層の少なくとも2層を有するポリオレフィン多層微多孔膜であって、前記ポリオレフィン多層微多孔膜断面における第1の微多孔層と第2の微多孔層の空孔率差が0%以上5%以下であり、厚み9μm、空孔率40%換算での突刺強度が330cN以上であるポリオレフィン多層微多孔膜。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレンを含む第1の微多孔層と、ポリエチレンを含む第2の微多孔層の少なくとも2層を有するポリオレフィン多層微多孔膜であって、前記ポリオレフィン多層微多孔膜断面における第1の微多孔層の空孔率と第2の微多孔層の空孔率の差が0%以上5%以下であり、厚み9μm、空孔率40%換算での突刺強度が330cN以上であるポリオレフィン多層微多孔膜。
【請求項2】
メルトダウン温度が160℃以上である請求項1に記載のポリオレフィン多層微多孔膜。
【請求項3】
第1の微多孔層に含まれるポリプロピレンの含有量が第1の微多孔層全体に対して10重量%以上50重量%未満である請求項1または2に記載のポリオレフィン多層微多孔膜。
【請求項4】
温度70℃圧力7.8MPaで10秒間圧縮した前後での膜厚変化率が、圧縮前の膜厚に対して13%以下である請求項1~3のいずれかに記載のポリオレフィン多層微多孔膜。
【請求項5】
温度70℃圧力7.8MPaで10秒間圧縮した前後での電気抵抗度の変化率が、加熱圧縮前の電気抵抗度に対して60%未満である請求項1~4のいずれかに記載のポリオレフィン多層微多孔膜。
【請求項6】
前記ポリオレフィン多層微多孔膜断面における第1の微多孔層の空孔率と第2の微多孔層の空孔率の差が0%以上3%以下である請求項1~5のいずれかに記載のポリオレフィン多層微多孔膜。
【請求項7】
ポリオレフィン多層微多孔膜の少なくとも一方の表面に多孔層を有する請求項1~6のいずれかに記載のポリオレフィン多層微多孔膜。
【請求項8】
電池用セパレータとして用いる請求項1~7のいずれかに記載のポリオレフィン多層微多孔膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池用セパレータとして用いるに好適な、ポリオレフィン多層微多孔膜に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン微多孔膜は、電池用セパレータとして広く用いられ、正極と負極の間に介在することで両極活物質の接触による短絡を防ぐと共に、空孔内に保持した電解液を通じてイオン伝導の通路を形成することができる。また、セパレータには電池安全性や電池性能の観点から、メルトダウン特性、透過性、機械的特性、インピーダンス特性等を要求されている。さらに近年では、電池の高エネルギー密度化による電極の体積増加やガス発生によりセパレータが圧縮され、微細な孔が潰れることによって、電気抵抗やサイクル特性に影響を与えることが懸念されている。
【0003】
特許文献1には、ポリオレフィン多層微多孔膜の各層の平均細孔径差を10nm以上とすることで、電解液注入性と機械的強度が向上することが開示されている。
【0004】
特許文献2には、ポリオレフィン多層微多孔膜において、内層の孔径が表層よりも15nm以上大きくなるように、層厚比に関しても内層が表層よりも薄くなるよう設計することで、透過性や電解液注入性などが向上することが開示されている。
【0005】
特許文献3には、ポリプロピレンを均一に分散させることで、メルトダウン特性や耐酸化などが向上することが記載されている。
【0006】
特許文献4には、ポリプロピレンを含まない単層ポリオレフィン微多孔膜において、平均細孔径を50nm以下とすることで、耐圧縮性が優れ、電池のサイクル特性が向上することが開示されている。
【0007】
特許文献5には、ポリオレフィン多層微多孔膜において、内層と表層の融点差を10℃未満、粘度平均分子量差を50万以下とすることで、耐電圧や透過性が向上することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2007/037289号
【特許文献2】特開2008-255307号公報
【特許文献3】国際公開第2014/192862号
【特許文献4】国際公開第2015/194504号
【特許文献5】特開2010-36355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年は電池の高エネルギー密度化に向けて、正極のニッケル高比率化や負極のシリコン導入化が進んでいる。特に負極のシリコンに関しては、従来黒鉛の約10倍の理論容量を有しているため、シリコンを適用する積極的な開発が行われている。一方で、シリコンは充電時の体積膨張が黒鉛の3倍以上となり、これに伴いセパレータが圧縮され、微細な孔が閉塞する。その結果、電池特性、特にサイクルや特性が悪化するという課題が挙げられている。そのため、セパレータには圧縮時にも潰れにくいこと、つまり耐圧縮性が必要とされている。耐圧縮性はセパレータの単位体積当たりの重量が大きいほど、つまり空孔率が低いほど良化することが分かっている。しかしながら、空孔率を低くすると電気抵抗が上昇するため、耐圧縮性と電気抵抗を両立することが難しい。上記特許文献1ないし5に記載されているような従来技術では、電池の安全性に関わる高温メルトダウン特性を維持しながら、近年要求されているレベルの耐圧縮性と電気抵抗を両立することは難しい。
【0010】
本発明は、上記した耐圧縮性と電気抵抗を両立した、ポリオレフィン多層微多孔膜を提供することを課題とする。また本発明のより好ましい態様として、上記の課題に加えて、高温メルトダウン特性も有するポリオレフィン多層微多孔膜を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、ポリオレフィンを含む第1の微多孔層と、ポリエチレンを含む第2の微多孔層の2層以上からなるポリオレフィン多層微多孔膜において、各層の空孔率の差を一定範囲とすることで、膨張率の高いシリコンを負極に用いた際にも耐圧縮性と電気抵抗を高いレベルで達成するポリオレフィン多層微多孔膜をなし得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
本発明は主として次の構成からなる。すなわち、
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜は、下記の特性(1)~(8)を有する。
(1)ポリオレフィンを含む第1の微多孔層と、ポリエチレンを含む第2の微多孔層の少なくとも2層を有するポリオレフィン多層微多孔膜であって、前記ポリオレフィン多層微多孔膜断面における第1の微多孔層の空孔率と第2の微多孔層の空孔率の差が0%以上5%以下であり、厚み9μm、空孔率40%換算での突刺強度が330cN以上であるポリオレフィン多層微多孔膜。
(2)メルトダウン温度が160℃以上である(1)に記載のポリオレフィン多層微多孔膜。
(3)第1の微多孔層に含まれるポリプロピレンの含有率が、第1の微多孔層全体に対して10質量%以上50%未満である、前記(1)または(2)に記載のポリオレフィン多層微多孔膜。
(4)温度70℃圧力7.8MPaで10秒間圧縮した前後での膜厚変化率が、圧縮前の膜厚に対して13%以下である(1)~(3)のいずれかに記載のポリオレフィン多層微多孔膜。
(5)温度70℃圧力7.8MPaで10秒間圧縮した前後での電気抵抗度の変化率が、加熱圧縮前の電気抵抗度に対して60%未満である(1)~(4)のいずれかに記載のポリオレフィン多層微多孔膜。
(6)前記ポリオレフィン多層微多孔膜断面における第1の微多孔層の空孔率と第2の微多孔層の空孔率の差が0%以上3%以下である(1)~(5)のいずれかに記載のポリオレフィン多層微多孔膜。
(7)ポリオレフィン多層微多孔膜の少なくとも一方の表面に多孔層を有する(1)~(6)のいずれかに記載のポリオレフィン多層微多孔膜。
(8)電池用セパレータとして用いる(1)~(7)のいずれかに記載のポリオレフィン多層微多孔膜。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、優れた耐圧縮性と電気抵抗を両立したポリオレフィン多層微多孔膜を提供することができる。また、本発明の好ましい態様では、さらに高温メルトダウン特性を有するポリオレフィン多層微多孔膜を提供することができる。また、本発明のポリオレフィン多層微多孔膜を電池用セパレータとして用いた場合、高エネルギー密度化のための電池設計下においても電池サイクル特性、レート特性の向上が見込まれるため、電池用セパレータとして好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の本実施形態について説明する。なお、本発明は以下説明する実施形態に限定して解釈されるものではない。
【0015】
1.ポリオレフィン多層微多孔膜(以下、単に「微多孔膜」とも言う)
[各層の空孔率]
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜は、ポリプロピレンを含む第1の微多孔層と、ポリエチレンを含む第2の微多孔層の少なくとも2層以上のポリオレフィン多層微多孔膜からなり、第1の微多孔層の空孔率と第2の微多孔層の空孔率の差は5%以下であり、より好ましくは3%以下である。
【0016】
空孔率差を上記範囲内とすることは、第1の微多孔層と第2の微多孔層の構造差が小さい、つまり均一構造であることを意味し、機械的変形が起こりにくいと言える。そのため、微多孔膜面に対して垂直方向からの衝撃や圧力に対する耐性が高くなる。さらに圧力耐性が向上することで、微細な孔が潰れにくくなり、圧縮後も電気抵抗を高いレベルで維持することができる。また、圧縮された場合でも面内で均一に圧縮されるため、構造的なバラツキが発生しにくく、電池セパレータとして用いた場合、均一にイオンが透過することでサイクル特性向上にも繋がる。
【0017】
第1の微多孔層の空孔率と第2の微多孔層の空孔率差が5%を超える場合、構造が不均一であることから、機械的変形が起こりやすく、微細な孔が閉塞するため、耐圧縮性や電気抵抗が低下する。
【0018】
前記空孔率は、第1の微多孔層や第2の微多孔層に用いるポリエチレンやポリプロピレンの重量平均分子量(Mw)や、含有率、第一の延伸工程、第二の延伸工程、熱処理工程などを適宜調整することにより上記範囲とすることができる。また、各層の空孔率は、走査型電子顕微鏡(SEM)で得られる、多層微多孔膜の断面画像を、空孔と樹脂で二値化処理することで求めることができ、具体的には実施例に記載の測定方法により求める値をいう。
【0019】
[メルトダウン温度]
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜は、メルトダウン温度が160℃以上であることが好ましい。前記範囲内であると、電池セパレータとして用いた場合に安全性が向上する。メルトダウン温度はより好ましくは170℃以上であり、さらに好ましくは175℃以上である。上限は特に限定されないが、190℃以下であることが好ましい。メルトダウン温度は、昇温時の透気抵抗度を測定することにより求めることができ、具体的には実施例に記載の測定方法により求める値をいう。
【0020】
前記メルトダウン温度は、用いるポリプロピレンの融点や、含有率、第一の延伸工程、第二の延伸工程、熱処理工程などを適宜調整することにより上記範囲とすることができる。
【0021】
[突刺強度]
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜は、厚み9μm、空孔率40%換算での突刺強度が330cN以上である。厚み9μm、空孔率40%換算で換算した突刺強度は、好ましくは350cN以上、より好ましくは400cN以上600cN以下である。前記好ましい範囲内とすることで、フィルム面に対して垂直方向からの衝撃や圧力に対する耐性が高くなるため、より良い耐圧縮性が得られ、電池セパレータとして用いた場合、耐衝撃性やサイクル特性に優れる。突刺強度は、後述するポリエチレンのMwや含有率、第一の延伸工程、第二の延伸の延伸工程などを適宜調整することにより上記範囲とすることができる。なお、換算突刺強度は、具体的には実施例に記載の測定方法により求めることができる。
【0022】
[ポリプロピレン含有率]
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜は、第1の微多孔層に含まれるポリプロピレンの含有率は、第1の微多孔層全体に対して10質量%以上50質量%未満であることが好ましく、より好ましくは10質量%以上30質量%以下である。ポリプロピレンの含有率が上記範囲内であると、ポリプロピレン同士でネットワークを形成することができるため、安定して高いメルトダウン温度を維持することができ、耐熱性が要求される電池に用いることができる。また、ポリプロピレンの含有率を50質量%未満とすることで、ポリオレフィン多層微多孔膜の強度を維持することができる。
【0023】
[膜厚変化率]
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜は、温度70℃、圧力7.8MPaで10秒間加熱圧縮後の膜厚変化率が、加熱圧縮前の膜厚を100%としたとき、13%以下であることが好ましく、より好ましくは10%以下であり、さらに好ましくは9%以下である。前記好ましい範囲内とすることで、電池セパレータとして用いた場合、電極の膨張にも耐えることができ、繰り返し使用する場合にもセパレータ本来の機能を発現することができるため耐衝撃性やサイクル特性が向上する。
【0024】
膜厚変化率は、各層の空孔率差を制御すると共に、より構造を均一化するように、延伸温度や倍率などの製造条件を調整することにより、上記範囲とすることができる。
【0025】
膜厚変化率は、加熱圧縮前の膜厚100%に対する加熱圧縮後の膜厚の変化率を算出することにより求めることができ、具体的には実施例に記載の測定方法により求める値をいう。
【0026】
[電気抵抗変化率]
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜は、温度70℃、圧力7.8MPaで10秒間加熱圧縮前の電気抵抗変化率が、加熱圧縮後の電気抵抗100%に対して60%未満であることが好ましく、より好ましくは50%以下であり、さらに好ましくは40%以下である。前記好ましい範囲内とすることで、電池セパレータとして用いた場合、電池内での膨張・収縮を繰り返した場合でも抵抗の上昇が抑制され、サイクル特性が向上する。
【0027】
電気抵抗変化率は、各層の空孔率差を制御すると共に、より構造を均一化するように、延伸温度や倍率などの製造条件を調整することにより、上記範囲とすることができる。
【0028】
電気抵抗変化率は、加熱圧縮後の電気抵抗100%に対する加熱圧縮前の電気抵抗の変化率を算出することにより求めることができ、具体的には実施例に記載の測定方法により求める値をいう。
【0029】
2.ポリオレフィン多層微多孔膜の製造方法
以下、微多孔膜の製造方法について説明する。なお、以下の説明は、製造方法の一例であって、この方法に限定されるものではない。
【0030】
[層構成]
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜は、ポリプロピレンを含む第1の微多孔層と、ポリエチレンを含む第2の微多孔層の2層以上のポリオレフィン微多孔層を有する。各層は異なる組成のポリオレフィン樹脂から構成されてもよく、例えば、2種類のポリオレフィン樹脂層(便宜的に、これらの層をそれぞれ「A層」と「B層」と表記する)とによる3層以上の層構成でもよい。積層順は特に限定されず、A層/B層/A層またはB層/A層/B層であってもよい。以下、A層は第1の微多孔層、B層は第2の微多孔層を意味する。
【0031】
[ポリプロピレンを含む第1のポリオレフィン樹脂]
ポリプロピレンを含む第1の微多孔層を構成する第1のポリオレフィン樹脂の様態は以下の通りである。
【0032】
ポリエチレン
第1のポリエチレン樹脂は、超高分子量ポリエチレンを含むことが好ましい。ここで、「超高分子量ポリエチレン」とはMwが1.0×10以上のポリエチレンを示す。超高分子量ポリエチレンの種類は、エチレン以外の他のα-オレフィンが少量共重合された共重合体や他のα-オレフィン重合体が少量混合された混合物の態様であってもよいが、ポリオレフィン多層微多孔膜の均一構造形成の観点から、エチレンの単重合体であることが好ましい。
【0033】
エチレン以外のα-オレフィンとしては、プロピレン、ブテン-1、ペンテン-1、ヘキセン-1、4-メチルペンテン-1、オクテン-1、酢酸ビニル、メタクリル酸メチル及びスチレンが好ましい。エチレン以外のα-オレフィンの含有率は、ポリオレフィン樹脂を100mol%として5mol%以下が好ましい。
【0034】
超高分子量ポリエチレンの重量平均分子量(Mw)としては、1.0×10以上2.0×10未満であることが好ましく、1.8×10以下であることがより好ましい。なお、Mwは、後述するGPC法により測定される値である。
【0035】
超高分子量ポリエチレンの含有率は、第1のポリオレフィン樹脂100質量%に対して、65質量%以上であることが好ましく、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上である。
【0036】
第1のポリオレフィン樹脂は、超高分子量ポリエチレン以外のポリエチレンは実質的に含まないことが好ましいが、第1のポリオレフィン樹脂100質量%に対して0質量%以上15質量%以下の範囲で含んでもよい。超高分子量ポリエチレン以外のポリエチレンのMwは、3.0×10未満であることが好ましく、2.0×10未満であることがより好ましい。さらに膜強度の観点から、Mwの下限は5.0×10以上であることが好ましい。高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、分岐状低密度ポリエチレン及び線状低密度ポリエチレンからなる群から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
【0037】
ポリプロピレン
第1のポリオレフィン樹脂はポリプロピレンを含む。ポリプロピレンの種類は特に限定されず、プロピレンの単重合体、プロピレンと他のα-オレフィン及び/又はジオレフィンとの共重合体(プロピレン共重合体)、あるいはこれらから選ばれる2種以上の混合物のいずれでも良いが、プロピレンの単重合体を単独で用いることがより好ましい。
【0038】
プロピレン共重合体としてはランダム共重合体又はブロック共重合体のいずれも用いることができる。プロピレン共重合体中のα-オレフィンとしては、炭素数が8以下であるα-オレフィンが好ましい。炭素数が8以下のα-オレフィンとして、エチレン、ブテン-1、ペンテン-1、4-メチルペンテン-1、オクテン-1、酢酸ビニル、メタクリル酸メチル、スチレン及びこれらの組合せ等が挙げられる。プロピレンの共重合体中のジオレフィンとしては、炭素数は4~14のジオレフィンが好ましい。炭素数が4~14のジオレフィンとして、例えばブタジエン、1,5-ヘキサジエン、1,7-オクタジエン、1,9-デカジエン等が挙げられる。プロピレン共重合体中の他のα-オレフィン及びジオレフィンの含有率は、プロピレン共重合体を100mol%として10mol%未満であることが好ましい。
【0039】
ポリプロピレンの重量平均分子量(Mw)は1×10以上が好ましく、1.2×10以上がより好ましく、1.2×10~4×10が特に好ましい。またポリプロピレンの融点は、155~170℃が好ましく、160℃~165℃がより好ましい。なお、融点は後述する走査型示差熱量計(DSC)により測定される値である。
【0040】
ポリプロピレンの含有率は、第1のポリオレフィン樹脂100質量%に対して、好ましくは10質量%以上50質量%未満、より好ましくは10質量%以上30質量%以下である。ポリプロピレンの含有率を上記範囲内とすることで、ポリエチレン構造中に、ポリエチレンが島構造として存在することができ、そのポリプロピレンが形成するネットワークによりメルトダウン温度を160℃以上とすることができる。
【0041】
[ポリエチレンを含む第2のポリオレフィン樹脂]
第2の微多孔層を構成する第2のポリオレフィン樹脂の様態は以下の通りである
ポリエチレン
第2のポリエチレン樹脂は、重量平均分子量(Mw)が1.0×10以上の超高分子量ポリエチレンを含むことが好ましい。第2のポリオレフィン樹脂の超高分子量ポリエチレンの種類やMw、含有率は、上記第1のポリオレフィン樹脂の項において説明した超高分子量ポリエチレンの説明と同じであるため説明を省略する。
【0042】
第2のポリオレフィン樹脂は、重量平均分子量(Mw)が1.0×10以上の超高分子量ポリエチレン以外のポリエチレンを含むことが好ましい。前記超高分子量ポリエチレン以外のポリエチレンの含有率は、第2のポリオレフィン樹脂100質量%に対して、好ましくは10質量%以上30質量%以下であり、より好ましくは10質量%以上20質量%以下である。第2のポリオレフィン樹脂の超高分子量ポリエチレン以外のポリエチレンのMwと種類は、第1のポリオレフィン樹脂の項において説明した超高分子量ポリエチレン以外のポリエチレンの説明と同じであるため説明を省略する。
【0043】
ポリプロピレン
第2のポリオレフィン樹脂は、ポリプロピレンを実質的に含まないことが好ましいが、第2のポリオレフィン樹脂100質量%に対して、0質量%以上15質量%以下の範囲で含んでもよい。ポリプロピレンの種類、Mw、融点は、第1のポリオレフィン樹脂の項において説明したポリプロピレンの説明と同じであるため説明を省略する。
【0044】
上記の第1のポリオレフィン樹脂及び第2のポリオレフィン樹脂の超高分子量ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン以外のポリエチレン、ポリプロピレンを上記好ましい範囲で適宜調整することで、第1の微多孔層と第2の微多孔層の空孔率差、つまり構造差が少ない均一構造を有することに繋がり、垂直方向からの衝撃や圧力に対する耐性が高いポリオレフィン多層微多孔膜が得られる。また、均一構造を有するため、圧縮による孔の潰れも均一となり、電池として用いた場合、セパレータの一部分にイオンが集中することが起こりにくいため、セパレータが劣化しにくく、電池のサイクル特性が向上する傾向になる。さらに、上記の範囲に制御することで、ポリオレフィン多層微多孔膜はメルトダウン温度を160℃以上に保つことができるため、電池の耐熱性が上昇し安全性が向上する。
【0045】
ポリオレフィン多層微多孔膜の各層の厚さは、A層/B層の比として、好ましくは20/80~40/60、より好ましくは20/80~30/70である。なお、複数のA層またはB層が設けられた場合は当該複数のA層またはB層の層厚みの和として求める。
【0046】
なお、この例では、A層とB層の2種類の層による微多孔膜を説明しているが、3種類以上の層による微多孔膜とすることもできることはいうまでもない。
【0047】
(3)ポリオレフィン多層微多孔膜の製造方法
次に、A層/B層/A層、または、B層/A層/B層の層構成を有するポリオレフィン多層微多孔膜を例に挙げて、本発明のポリオレフィン多層微多孔膜の製造方法について説明する。例えば、このポリオレフィン多層微多孔膜の製造方法は以下の工程を含む。
(a)A層およびB層の溶液の調製
(b)ゲル状多層シートの成形
(c)第一の延伸
(d)可塑剤の除去
(e)乾燥
(f)第二の延伸
(g)熱処理
(a)A層およびB層を構成するための溶液の調製
二軸押出し機中にてポリオレフィン樹脂組成物に可塑剤を添加し、溶融混練し、A層およびB層を構成するための溶液をそれぞれ調製する。A層及びB層のポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤との配合割合は、ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤との合計を100質量%として、ポリオレフィン樹脂組成物の含有率を20質量%以上30質量%以下とすることが好ましい。ポリオレフィン樹脂組成物の濃度を上記の範囲内にすることで、ポリオレフィン溶液を押出す際に、ダイ出口でスウェルやネックインが防止でき、押出し成形体の成形性及び自己支持性を良好にできる。
【0048】
用いうる可塑剤としては、ポリオレフィン樹脂と混合した際にポリオレフィン樹脂の融点以上において均一溶液を形成しうる不揮発性溶媒であれば特に制限はなく、例えば、流動パラフィンやパラフィンワックス等の炭化水素類、フタル酸ジオクチルやフタル酸ジブチル等のエステル類を挙げることができる。
【0049】
A層およびB層を構成するための溶液をそれぞれ押出機から1つのダイに送給し、そこで両溶液を層状シート状に押し出し押出し成形体を得る。押出方法はフラットダイ法及びインフレーション法のいずれでもよい。いずれの方法でも、溶液を別々のマニホールドに供給して多層用ダイのリップ入口で層状に積層する方法(多数マニホールド法)、又は溶液を予め層状の流れにしてダイに供給する方法(ブロック法)を用いることができる。多数マニホールド法及びブロック法は通常の方法を適用できる。多層用フラットダイのギャップは0.1mm以上5mm以下に設定できる。押出し温度は140℃以上250℃以下が好ましく、押出速度は0.2~15m/分が好ましい。各層の溶液の押出量を調節することにより、層の膜厚比を調節することができる。
【0050】
(b)ゲル状多層シートの成形
得られた押出し成形体を冷却することによりゲル状多層シートを成形する。冷却により、成膜用溶剤によって分離されたポリオレフィンのミクロ相を固定化することができる。冷却速度が上記範囲内であると結晶化度が適度な範囲に保たれ、延伸に適したゲル状シートとなる。冷却方法としては冷風、冷却水等の冷媒に接触させる方法、冷却ロールに接触させる方法等を用いることができるが、冷媒で冷却したロールに接触させて冷却させることが好ましい。冷却は少なくともゲル化温度までは50℃/分以上の速度で行うのが好ましい。冷却は25℃以下まで行うのが好ましい。冷却により、成膜用溶剤によって分離された第一及び第二のポリオレフィンのミクロ相を固定化することができる。冷却速度が上記範囲内であると結晶化度が適度な範囲に保たれ、延伸に適したゲル状多層シートとなる。
【0051】
(c)第一の延伸
次いで、ゲル状シートを延伸する。ゲル状シートの延伸は、湿式延伸ともいう。ゲル状シートは溶剤を含むので、均一に延伸できる。ゲル状シートは、加熱後、テンター法、ロール法、インフレーション法、又はこれらの組合せにより所定の倍率で延伸するのが好ましい。延伸は一軸延伸でも二軸延伸でもよいが、二軸延伸が好ましい。二軸延伸の場合、同時二軸延伸、逐次延伸及び多段延伸(例えば同時二軸延伸及び逐次延伸の組合せ)のいずれでもよい。
【0052】
延伸倍率(面延伸倍率)は、一軸延伸の場合、2倍以上が好ましく、3倍以上30倍以下がより好ましい。二軸延伸の場合は、9倍以上が好ましく、16倍以上がより好ましく、25倍以上が特に好ましい。また、MD及びTDのいずれも延伸倍率は3倍以上が好ましく、MDおよびTDでの延伸倍率は互いに同じでも異なってもよい。なお、本工程における延伸倍率とは、本工程直前の微多孔膜を基準として、次工程に供される直前の微多孔膜の面積延伸倍率のことをいう。
【0053】
延伸温度の下限は、好ましくは90℃以上であり、より好ましくは110℃以上である。また、この延伸温度の上限は120℃以下であり、好ましくは115℃以下である。延伸温度が上記範囲内であると、低融点成分のポリオレフィン樹脂の延伸による破膜が抑制され、高倍率の延伸ができる。
【0054】
(d)可塑剤の除去
洗浄溶媒を用いて、可塑剤の除去を行う。洗浄溶媒およびこれを用いた可塑剤の除去方法は公知であるので説明を省略する。例えば日本国特許第2132327号明細書や特開2002-256099号公報に開示の方法を利用することができる。
【0055】
(e)乾燥
可塑剤を除去したポリオレフィン多層微多孔膜を、加熱乾燥法又は風乾法により乾燥する。加熱乾燥、風乾(空気を動かすこと)等の従来の方法を含む、洗浄溶媒を除去することが可能ないずれの方法を用いてもよい。洗浄溶媒等の揮発性種を除去するための処理条件は、例えば国際公開第WO2008/016174号および同第WO2007/132942号に開示されているものと同じであってもよい。
【0056】
(f)第二の延伸
次いで、乾燥後のポリオレフィン多層微多孔膜を延伸する。乾燥後の微多孔膜の延伸は、第二の延伸という。乾燥後の微多孔膜フィルムを、少なくとも一軸方向に延伸する。ポリオレフィン多層微多孔膜の第二の延伸は、加熱しながら上記と同様にテンター法等により行うことができる。本願は同層にポリエチレンとポリプロピレンの2種のポリオレフィン樹脂を含有しているため、ラメラ構造の均一性の観点から第二の延伸は一軸延伸が好ましい。
【0057】
延伸倍率は、MDまたはTDに1.5倍以上であることが好ましく、2.0倍以上であることがより好ましい。ただしシャットダウン温度や熱収縮が上昇するためそのバランスを考慮して、上限は3.5倍であることが好ましい。ここで第二の延伸における延伸倍率とは、第二の延伸前のポリオレフィン多層微多孔膜のMDまたはTDの長さを基準として、第二の延伸後のポリオレフィン多層微多孔膜のMDまたはTDの長さの倍率をいう。ここで、A層のポリプロピレンは、ポリエチレンの海構造の中に、島構造として存在している(海島構造)。延伸倍率を上記範囲内とすることで、ポリプロピレンの島構造を維持することができ、ポリプロピレンのネットワークによる高温メルトダウンが担保できる。また、延伸倍率を上記範囲内とすることで、各層が高度に配向するため均一構造を形成することができる。
【0058】
(g)熱処理
第二の延伸後のポリオレフィン多層微多孔膜には熱処理を施す。例えば、ポリオレフィン多層微多孔膜をクリップで把持した状態で、幅を固定したまま熱処理を施す(TD熱固定処理工程)。熱処理は120℃以上135℃以下とすることが好ましく、130℃以下とすることがより好ましい。熱処理温度を上記範囲内とすることで、第2の微多孔層に含む超高分子量ポリエチレン以外のポリエチレンが融解せず、フィブリルに取り込まれたまま存在できるため、細孔が潰れずに第1の微多孔層との空孔率差を5%以内とすることができる。
【0059】
第1及び第2のポリオレフィン樹脂、前記の第一の延伸工程、第二の延伸工程、熱処理工程を上記好ましい範囲で適宜調整することで、第1及び第2の微多孔層の空孔率差を5%以下とすることができ、均一構造を形成することができる。その結果、加熱圧縮時の膜厚変化率や電気抵抗が良好なポリオレフィン多層微多孔膜が得られる。また、ポリプロピレンによる高温メルトダウン特性も発現する。
【0060】
また、本発明のポリオレフィン多層微多孔膜は、その表面の一面または両面に他の多孔質層を積層して積層ポリオレフィン多孔質膜としてもよい。他の多孔質層としては、特に限定されないが、例えば、バインダーと無機粒子とを含む無機粒子層を挙げることができる。無機粒子層に用いられるバインダー成分としては、特に限定されず、公知の材料を用いることができ、例えば、アクリル樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂などを用いることができる。無機粒子層を構成する無機粒子としては、特に限定されず、公知の材料を用いることができ、例えば、アルミナ、ベーマイト、硫酸バリウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、ケイ素などを用いることができる。
【実施例0061】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれらの例に限定して解釈されるものではない。
[測定方法]
(1)膜厚
ポリオレフィン多層微多孔膜の95mm×95mmの範囲内における5点の膜厚を接触厚み計(株式会社ミツトヨ製ライトマチック、接触圧0.01N、10.5mmφプローブを使用)により測定し、平均値を膜厚(μm)とした。
【0062】
(2)空孔率
ポリオレフィン多層微多孔膜を95mm×95mmの大きさに切り出し、その体積(cm)と重量(g)を求め、それらと膜密度(g/cm)より、次式を用いて計算した。
式:空孔率(%)=((体積-重量/膜密度)/体積)×100
ここで、膜密度は0.99(g/cm)とした。また、体積の算出には、前述の(1)で測定した膜厚を使用した。
【0063】
(3)透気抵抗度
ポリオレフィン多層微多孔膜について、JIS P-8117:2009に準拠して、透気抵抗度計(旭精工株式会社製、EGO-1T)を用いて透気抵抗度(sec/100cm)を測定した。
【0064】
(4)突刺強度
直径1mm(先端は0.5mmR)の針を用い、速度2mm/秒で膜厚T(μm)、空孔率P(%)のポリオレフィン多層微多孔膜を突刺したときの最大荷重値S(cN)を測定した。さらに下記の式により、膜厚9μm、空孔率40%の換算突刺強度を算出した。
式:換算突刺強度(cN)={S×9×60}/{T×(100-P)}
(5)シャットダウン温度及びメルトダウン温度
ポリオレフィン多層微多孔膜を30℃の雰囲気中にさらして、5℃/分の速度で昇温しながら透気抵抗度を測定する。ポリオレフィン多層微多孔膜の透気抵抗度が100,000秒/100cmに到達した時の温度をシャットダウン温度と定義した。メルトダウン温度は、前記シャットダウン温度に到達後さらに昇温を継続し、透気抵抗度が100,000秒/100cm未満となる温度と定義した。透気抵抗度は、JIS P8117:2009に準拠して、透気抵抗度計(旭精工株式会社製、EGO-1T)を用いて測定した。
【0065】
(6)加熱圧縮後の膜厚変化率
ポリオレフィン多層微多孔膜をTDに等間隔に25か所、40mm×40mmに切り出し、一枚あたり5点の厚みを測定し平均を算出した。ついで、切り出された試料5枚を積層し、一組としたサンプルを、水平な板の間に静置し、10秒間、70℃で7.8MPaの圧力下で圧縮装置(新東工業株式会社製、CYPT-20特)により加熱圧縮した。加熱圧縮を解放してから3時間後のポリオレフィン多層微多孔膜について、一枚あたり5点の厚みを測定し平均(平均厚さ)を算出し、下記式により算出した。
式:膜厚変化率(%)=[(加熱圧縮前の平均厚さ-加熱圧縮解放後の平均厚さ)/(加熱圧縮前の平均厚さ)]×100
ここで、厚さの測定は、前述の(1)の方法に準じて行った。
【0066】
(7)加熱圧縮後の電気抵抗変化率
前述の(6)で使用した加熱圧縮前後のサンプルについて電気抵抗を測定し、下記式により算出した。
式:電気抵抗変化率(%)=[(加熱圧縮解放後の電気抵抗-加熱圧縮前の電気抵抗)/(加熱圧縮解放後の電気抵抗)]×100
ここで、電気抵抗の測定は、後述の(8)の方法に準じて行った。
【0067】
(8)電気抵抗
ポリオレフィン多層微多孔膜の電気抵抗はコインセルを作成し、以下の測定条件で測定した。
【0068】
測定条件
・セルサイズ:2032
・電解質:LiPF6(1.0M) EC/EMC(4/6)
・セパレータサイズ:Φ19
・装置:IM3590(Solatron製)
・周波数:200,000Hz。
【0069】
(9)各層の空孔率
ポリオレフィン多層微多孔膜をイオンミリング装置(日立ハイテクノロジーズ社製 IM4000 )を用いてMDの断面が得られるように切削した。得られたサンプルの断面画像を、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microdcope:SEM)を用いて得た後、HALCON13(MVTec Software社製)を用いて、樹脂と空孔部分を二値化処理することで、A層とB層の空孔率をそれぞれ算出した。また、各層の空孔率差は下記式により絶対値として算出した。
式:空孔率差 = |二値化して求めたA層空孔率 - 二値化して求めたB層空孔率|
なお、A層とB層の境界面は、後述する層比測定結果を基に同定した。
また、このときのイオンミリングとSEM観察は下記条件で行った。
イオンミリング条件
・温度:-160℃
・加速電圧:4kV
SEM観察条件
・加速電圧:2kV
・倍率:7000倍。
【0070】
(10)融点、融解ピーク
ポリオレフィン樹脂の融点及びポリオレフィン多層微多孔膜の融解ピークは示差走査熱量計(PARKING ELMER製 PYRIS DIAMOND DSC)により求めた。ポリオレフィン樹脂とポリオレフィン多層微多孔膜をそれぞれサンプルホルダー内に静置し、窒素雰囲気下(20mL/min)にて昇温速度10℃/minとし、230℃まで昇温して完全に溶融させたのち、230℃で3分間保持し、10℃/minの速度で30℃まで降温させた(ファースト・ラン)。この降温後、窒素雰囲気下(20mL/min)にて昇温速度10℃/minとし、再び230℃まで昇温して完全に溶融させたのち、230℃で3分間保持し、10℃/minの速度で30℃まで降温させた(セカンド・ラン)。得られたDSC曲線から0℃と157℃を結ぶ直線をベースラインとし、セカンド・ランでの温度-融解吸熱量曲線からポリオレフィン樹脂の融点(Tm)を求め、また、ポリオレフィン多層微多孔膜の融解ピーク温度を求めた。
【0071】
(11)ポリプロピレン含有率
ポリオレフィン多層微多孔膜を切り出してミクロトームによりMDの断面が得られるよう切削し、断面切片を試料とした。試料をAFM-IR用ZnSe製プリズムに固定してプリズム側から赤外レーザー光をATR条件で第1の微多孔層断面に照射し、光吸収に伴う試料の熱膨張をAFMカンチレバーの変位として検出した。
下記の条件で赤外レーザーを試料に照射し、測定を行った。
【0072】
・測定装置:NanoIR Spectroscopy System(Anasys Instruments 社製)
・光源:Tunable Pulsed Laser(1kHz)
・AFMモード:コンタクトモード
・測定波数範囲:1575~1200 cm-1
・波数分解能:2cm-1
・Coaverages:32
・積算回数:2回以上
・偏光角度:45度
次にポリオレフィン多層微多孔膜の断面におけるポリプロピレンの分布を可視化するため、ポリプロピレン含有層に相当する領域(MDを10μmとして、フィルム表層部から厚み方向にポリプロピレン含有層がすべて含まれる領域)をAFM-IR測定した。このとき、試料へ1465cm-1と1376cm-1のレーザー照射時のAFMカンチレバーの変位を測定し、その強度割合からポリピロピレン含有量を求めてマッピングを行った。即ち、1465cm-1のレーザー照射でポリエチレンのCH変角、1376cm-1レーザー照射でポリプロピレンのCH変角を測定することでポリエチレンとポリプロピレンの含有量を求めることができる。
【0073】
(12)ポリオレフィン多層微多孔膜の分析
ポリオレフィン多層微多孔膜は、層に含まれている成分に着眼し、その厚み方向での分布を分析することで判断することができる。
【0074】
例えば、ポリオレフィンの重合においては触媒が使用されるが、多孔質膜中に残存する触媒に着眼することで分析が可能であり、この場合、微多孔膜の厚み方向(MD/ZDまたはTD/ZD)面を二次イオン質量分析法(Secondary Ion Mass Spectrometry:SIMS)により分析し、触媒に起因する微量金属元素の濃度分布を測定する。TD/ZD面で金属元素が均一に分布していれば単層と判断し、金属種が異なっていたり、濃度分布が見られれば多層と判断できる。
測定条件
・試料調整:ポリオレフィン多層微多孔膜をウルトラマイクロトームでTD/ZD面に断面切断する。
【0075】
・測定装置:NanoSIMS50L(CAMEKA製)
・真空度:1.33×10-Pa
・一次イオン:O
・一次イオン加速電圧:25kV
・二次イオン極性:正
・二次イオン検出エリア:300×300μm
また、他の方法として、ポリオレフィン多層微多孔膜をエッジングし表層と内層成分に分ける。各箇所の分子量分布や融点、吸収スペクトルを測定し、表層と内層の分析結果が同等であれば単層と判断でき、違いが見られれば多層と判断できる。なお、分子量分布と融点は上記のGPCおよびDSC分析によって得られ、吸収スペクトルは下記の手法により得られる。
【0076】
吸収スペクトル
ポリオレフィン多層微多孔膜の吸収スペクトルは赤外吸収分光法(Infrared absorption spectrometry:IR)分析を用いて求めた。
測定条件
・検出器:MCT
・スキャンスピード:5kHz
・積算回数:64回
・分解能:4cm-1
・測定波長:4000~700cm-1
【0077】
(13)層比
ポリオレフィン多層微多孔膜が有する各層の層比は、以下の測定条件で透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察した。
【0078】
測定条件
・試料調整:ポリオレフィン多層微多孔膜を四酸化ルテニウムにより染色し、ウルトラマイクロトームで断面切断する。
【0079】
・測定装置:透過型電子顕微鏡(日本電子製JEM1400Plus型)
・観察条件:加速電圧100kV
・観察方向:TD/ZD。
【0080】
[実施例1]
(1)A層の溶液調製
Mw2.0×10のアイソタクチックポリプロピレン(融点162℃)20質量%、Mw1.35×10の超高分子量ポリエチレン90質量%からなるポリオレフィン組成物100質量%に対し、酸化防止剤としてテトラキス(メチレン-3-(3,5-ジターシャリーブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート)メタン0.2質量%を二軸押出機に投入した。さらに二軸押出機のサイドフィーダーから流動パラフィンを供給し、二軸押出機内でポリオレフィン組成物が17質量%、流動パラフィンが83質量%となるよう溶融混練して、A層のポリオレフィン溶液を調製した。
(2)B層の溶液調製
Mw1.35×10の超高分子量ポリエチレン100質量%からなるポリオレフィン組成物100質量%に対し、酸化防止剤としてテトラキス(メチレン-3-(3,5-ジターシャリーブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート)メタン0.2質量%を二軸押出機に投入した。さらに二軸押出機のサイドフィーダーから流動パラフィンを供給し、二軸押出機内でポリオレフィン組成物が17質量%、流動パラフィンが83質量%となるよう溶融混練して、B層のポリオレフィン溶液を調製した。
(3)ゲル状多層シートの成形
各溶液を二軸押出機から三層用Tダイに供給し、B層の溶液/A層の溶液/B層の溶液が層厚比35/30/35となるように押し出した。押出し成形体を、25℃に温調した冷却ロールで引き取り速度4m/分で引き取りながら冷却し、ゲル状三層シートを形成した。
(4)第一の延伸、成膜用剤の除去、乾燥
ゲル状三層シートを、テンター延伸機により115℃でMD及びTDともに5倍に同時二軸延伸し、そのままテンター延伸機内でシート幅を固定し、110℃の温度で熱固定した。次いで延伸したゲル状三層シートを洗浄槽で塩化メチレン浴中に浸漬し、流動パラフィンを除去し、室温で風乾した。
(5)第二の延伸、熱処理
その後、127℃で予熱してからテンター延伸機によりTDに1.7倍延伸をした後、TDに14%の緩和を施し、テンターに保持しながら128℃で熱固定し、B層/A層/B層のポリオレフィン多層微多孔膜を得た。得られたポリオレフィン多層微多孔膜の各特性を表1に示す。
【0081】
[実施例2]
B層の溶液調整、ゲル状多層シートの層厚比、第二の延伸条件を表1の通りに変更した以外は実施例1と同様にしてポリオレフィン多層微多孔膜を得た。
【0082】
[実施例3]
A層及びB層の溶液調整、第二の延伸条件を表1の通りに変更した以外は実施例1と同様にしてポリオレフィン多層微多孔膜を得た。
【0083】
[実施例4]
A層及びB層の溶液調整、ゲル状多層シートの層構成、第一及び第二の延伸条件を表1の通りに変更した以外は実施例1と同様にしてポリオレフィン多層微多孔膜を得た。
【0084】
[実施例5]
A層及びB層の溶液調整、ゲル状多層シートの層厚比、第一及び第二の延伸条件を表1の通りに変更した以外は実施例1と同様にしてポリオレフィン多層微多孔膜を得た。
【0085】
[比較例1~3]
A層及びB層の溶液調整、ゲル状多層シートの層構成、第一及び第二の延伸条件を表1の通りに変更した以外は実施例1と同様にしてポリオレフィン多層微多孔膜を得た。
【0086】
【表1】
【0087】
表中、「UHMWPE」は「超高分子量ポリエチレン」の、「PP」は「ポリプロピレン」の、「その他のPE」は「超高分子量ポリエチレン以外のポリエチレン」を表す。