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特開2023-117580油圧駆動装置及びこれを備えた建設機械
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023117580
(43)【公開日】2023-08-24
(54)【発明の名称】油圧駆動装置及びこれを備えた建設機械
(51)【国際特許分類】
   F02D 29/00 20060101AFI20230817BHJP
   F01P 5/04 20060101ALI20230817BHJP
   F02D 43/00 20060101ALI20230817BHJP
   E02F 9/22 20060101ALI20230817BHJP
【FI】
F02D29/00 B
F01P5/04 F
F02D43/00 301T
E02F9/22 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022020223
(22)【出願日】2022-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】000246273
【氏名又は名称】コベルコ建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100214961
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 洋三
(72)【発明者】
【氏名】藤田 修平
【テーマコード(参考)】
2D003
3G093
3G384
【Fターム(参考)】
2D003AA01
2D003AA02
2D003AB05
2D003AB06
2D003BA01
2D003BA03
2D003CA02
2D003DA04
2D003DB03
2D003DB06
2D003DB07
3G093AA10
3G093BA14
3G093DA01
3G093EB06
3G093FB01
3G384AA25
3G384BA42
3G384DA14
3G384EB01
(57)【要約】
【課題】アクチュエータの増速とは異なる目的でエンジン回転数を増加させる場合であっても、アクチュエータの増速を抑制できる油圧駆動装置及びこれを備えた建設機械を提供する。
【解決手段】油圧駆動装置のコントローラ50は、アクチュエータの増速とは異なる所定の目的でエンジン回転数を増加させる場合に、エンジン回転数の増加後における油圧ポンプ12のポンプ流量がエンジン回転数の増加前における油圧ポンプ12のポンプ流量に対応する値になるように、油圧ポンプ12のポンプ容量を調節するとともにエンジン回転数を増加させる制御であるポンプ流量制御を行う。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建設機械のための油圧駆動装置であって、
エンジンと、
前記エンジンにより駆動される可変容量型の油圧ポンプと、
前記油圧ポンプから吐出される作動油が供給されることにより動くアクチュエータと、
コントローラと、を備え、
前記コントローラは、前記アクチュエータの増速とは異なる所定の目的でエンジン回転数を増加させる場合に、前記エンジン回転数の増加後における前記油圧ポンプのポンプ流量が前記エンジン回転数の増加前における前記油圧ポンプのポンプ流量に対応する値になるように、前記油圧ポンプのポンプ容量を調節するとともに前記エンジン回転数を増加させる制御であるポンプ流量制御を行う、油圧駆動装置。
【請求項2】
前記エンジン回転数に応じてファン回転数が決まる冷却ファンをさらに備え、
前記所定の目的は、前記ファン回転数を増加させることである、請求項1に記載の油圧駆動装置。
【請求項3】
前記冷却ファンは、風向を反転させることが可能なように構成され、
前記コントローラは、前記風向の反転に関して予め定められた条件が満たされたときに前記ポンプ流量制御を行う、請求項2に記載の油圧駆動装置。
【請求項4】
流体を冷却するための冷却器をさらに備え、
前記冷却ファンは、前記冷却器に向かう空気の流れを形成するためのものであり、
前記所定の目的は、前記流体の温度が高くなったときに前記ファン回転数を増加させることである、請求項2に記載の油圧駆動装置。
【請求項5】
前記流体の温度を検出する流体温度検出器をさらに備え、
前記コントローラは、前記流体の温度が予め設定された閾値である流体温度閾値以上になったときに前記ポンプ流量制御を行う、請求項4に記載の油圧駆動装置。
【請求項6】
流体を冷却するための冷却器をさらに備え、
前記冷却ファンは、前記冷却器に向かう空気の流れを形成するためのものであり、
前記所定の目的は、前記冷却器が配置された空間の温度が高くなったときに前記ファン回転数を増加させることである、請求項2に記載の油圧駆動装置。
【請求項7】
前記空間の温度を検出する雰囲気温度検出器をさらに備え、
前記コントローラは、前記空間の温度が予め設定された閾値である雰囲気温度閾値以上になったときに前記ポンプ流量制御を行う、請求項6に記載の油圧駆動装置。
【請求項8】
前記エンジン回転数に応じてコンプレッサ回転数が決まるエアコンのコンプレッサをさらに備え、
前記所定の目的は、前記エアコンから吹き出される吹出空気の温度が高くなったときに前記コンプレッサ回転数を増加させることである、請求項1に記載の油圧駆動装置。
【請求項9】
前記吹出空気の温度を検出する吹出温度検出器をさらに備え、
前記コントローラは、前記吹出空気の温度が予め設定された閾値である吹出温度閾値以上になったときに前記ポンプ流量制御を行う、請求項8に記載の油圧駆動装置。
【請求項10】
前記エンジンからの排ガスを処理する排ガス後処理装置をさらに備え、
前記所定の目的は、前記排ガスの温度を上昇させることである、請求項1に記載の油圧駆動装置。
【請求項11】
前記コントローラは、前記排ガスの温度を上昇させるか否かを判定するために予め設定された条件が満たされたときに前記ポンプ流量制御を行う、請求項10に記載の油圧駆動装置。
【請求項12】
請求項1~11の何れか1項に記載の油圧駆動装置と、
前記アクチュエータにより動かされることが可能な可動部と、を備えた建設機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エンジンと当該エンジンにより駆動される油圧ポンプとを含む油圧駆動装置及びこれを備えた建設機械に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベルなどの建設機械は、エンジンと、当該エンジンにより駆動される油圧ポンプと、当該油圧ポンプから吐出される作動油が供給されることにより動くアクチュエータと、当該アクチュエータにより動かされることが可能なブームなどの可動部と、を備える(例えば特許文献1参照)。この建設機械において、油圧ポンプから吐出される作動油の流量であるポンプ流量は、エンジンの回転数であるエンジン回転数の増加に伴って増加する。従って、エンジン回転数が大きくなると、ポンプ流量が増加してアクチュエータに供給される作動油の流量が増加するので、アクチュエータが増速する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3681955号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、建設機械において、エンジンの出力は、油圧ポンプから作動油を吐出させるためだけでなく、他の目的にも用いられることがある。しかしながら、アクチュエータの増速とは異なる目的でエンジン回転数を増加させると、ポンプ流量が増加し、オペレータの意図していないときにアクチュエータが増速するという問題がある。
【0005】
本開示は、上記のような問題を踏まえてなされたものであり、アクチュエータの増速とは異なる目的でエンジン回転数を増加させる場合であっても、アクチュエータの増速を抑制できる油圧駆動装置及びこれを備えた建設機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示により提供されるのは、建設機械のための油圧駆動装置であって、エンジンと、前記エンジンにより駆動される可変容量型の油圧ポンプと、前記油圧ポンプから吐出される作動油が供給されることにより動くアクチュエータと、コントローラと、を備え、前記コントローラは、前記アクチュエータの増速とは異なる所定の目的でエンジン回転数を増加させる場合に、前記エンジン回転数の増加後における前記油圧ポンプのポンプ流量が前記エンジン回転数の増加前における前記油圧ポンプのポンプ流量に対応する値になるように、前記油圧ポンプのポンプ容量を調節するとともに前記エンジン回転数を増加させる制御であるポンプ流量制御を行う。
【0007】
この油圧駆動装置では、エンジン回転数の増加後におけるポンプ流量がエンジン回転数の増加前におけるポンプ流量に対応する値になるようにポンプ容量を調節するとともにエンジン回転数を増加させるポンプ流量制御を行うので、アクチュエータの増速とは異なる目的でエンジン回転数を増加させる場合であってもアクチュエータの増速を抑制できる。これにより、オペレータは、アクチュエータを動かすための操作を違和感なく行うことができる。
【0008】
ところで、建設機械は、冷却器と、当該冷却器に向かう空気の流れを形成する冷却ファンと、を備えている。冷却器としては、例えばエンジンを冷却するためのラジエータ液を冷却するラジエータ、前記作動油を冷却するオイルクーラなどを挙げることができる。特許文献1に記載の作業機は、冷却ファンを回転させるための冷却用モータと、可変容量型の油圧ポンプである冷却用ポンプと、冷却用ポンプと冷却用モータとの間に介在する電磁方向切換弁と、を備える。この特許文献1の作業機では、冷却ファンの回転数を増加させる場合、斜板制御器によって冷却用ポンプの吐出油量を増加させればよいので、エンジン回転数を増加させる必要はない。しかし、冷却ファンが、例えばベルトなどの部材を介してエンジンに接続され、当該エンジンにより駆動されるタイプの冷却ファンである場合、当該冷却ファンのファン回転数はエンジン回転数に応じて決まる。従って、このタイプの冷却ファンのファン回転数を増加させるためにエンジン回転数を増加させると、オペレータの意図していないときにアクチュエータが増速するという課題がある。この課題を解決するために、本開示に係る油圧駆動装置は、前記エンジン回転数に応じてファン回転数が決まる冷却ファンをさらに備え、前記所定の目的は、前記ファン回転数を増加させることであることが好ましい。この構成では、アクチュエータの増速とは異なる目的であるファン回転数を増加させるという目的でエンジン回転数を増加させる場合にコントローラが前記ポンプ流量制御を行うので、冷却ファンのファン回転数がエンジン回転数に応じて決まる場合であっても、アクチュエータの増速を抑制しながらファン回転数を増加させることができる。
【0009】
また、前記冷却ファンは、風向を反転させることが可能なように構成され、前記コントローラは、前記風向の反転に関して予め定められた条件が満たされたときに前記ポンプ流量制御を行うことが好ましい。この構成では、例えば冷却器に詰まった粉塵又はその近傍の部材(例えば防塵フィルタなど)に詰まった粉塵を吹き飛ばすために冷却ファンの風向を反転させる場合にアクチュエータの増速を抑制しながらファン回転数を増加させることができるので、アクチュエータの増速を抑制しながら冷却器又はその近傍の部材における目詰まりを解消する効果を高めることができる。これにより、冷却器の冷却能力の低下を抑制できる。
【0010】
前記油圧駆動装置は、流体を冷却するための冷却器をさらに備え、前記冷却ファンは、前記冷却器に向かう空気の流れを形成するためのものであり、前記所定の目的は、前記流体の温度が高くなったときに前記ファン回転数を増加させることであってもよい。この構成では、アクチュエータの増速とは異なる目的すなわち流体の温度が高くなったときにファン回転数を増加させるという目的でエンジン回転数を増加させる場合にコントローラが前記ポンプ流量制御を行うので、アクチュエータの増速を抑制しながらファン回転数を増加させて冷却器の冷却能力を上げることができる。これにより、オーバーヒートが生じることを抑制できる。
【0011】
前記油圧駆動装置は、前記流体の温度を検出する流体温度検出器をさらに備え、前記コントローラは、前記流体の温度が予め設定された閾値である流体温度閾値以上になったときに前記ポンプ流量制御を行うことが好ましい。この構成では、流体の温度が流体温度閾値以上になったときにコントローラが前記ポンプ流量制御を行うので、ポンプ流量制御を開始させるための操作をオペレータが行わなくても、冷却器の冷却能力を上げる必要があるときにコントローラによって自動的に前記ポンプ流量制御が実行される。これにより、オペレータの負担を軽減することができ、しかも、冷却器の冷却能力をタイミングよく上げることができる。
【0012】
前記油圧駆動装置は、流体を冷却するための冷却器をさらに備え、前記冷却ファンは、前記冷却器に向かう空気の流れを形成するためのものであり、前記所定の目的は、前記冷却器が配置された空間の温度が高くなったときに前記ファン回転数を増加させることであってもよい。この構成では、アクチュエータの増速とは異なる目的すなわち冷却器が配置された空間の温度が高くなったときにファン回転数を増加させるという目的でエンジン回転数を増加させる場合にコントローラが前記ポンプ流量制御を行うので、冷却器が配置された空間が過度に高温雰囲気になることを抑制して冷却器の熱交換の効率低下を抑制できる。これにより、アクチュエータの増速を抑制しながら冷却器の冷却能力が低下することを抑制できる。これにより、オーバーヒートが生じることを抑制できる。
【0013】
前記油圧駆動装置は、前記空間の温度を検出する雰囲気温度検出器をさらに備え、前記コントローラは、前記空間の温度が予め設定された閾値である雰囲気温度閾値以上になったときに前記ポンプ流量制御を行うことが好ましい。この構成では、冷却器が配置された空間の温度が雰囲気温度閾値以上になったときにコントローラが前記ポンプ流量制御を行うので、ポンプ流量制御を開始させるための操作をオペレータが行わなくても、冷却器の冷却能力の低下を抑制する必要があるときにコントローラによって自動的に前記ポンプ流量制御が実行される。これにより、オペレータの負担を軽減することができ、しかも、冷却器の冷却能力の低下をタイミングよく抑制することができる。
【0014】
前記油圧駆動装置は、前記エンジン回転数に応じてコンプレッサ回転数が決まるエアコンのコンプレッサをさらに備え、前記所定の目的は、前記エアコンから吹き出される吹出空気の温度が高くなったときに前記コンプレッサ回転数を増加させることであってもよい。この構成では、アクチュエータの増速とは異なる目的すなわち吹出空気の温度が高くなったときにコンプレッサ回転数を増加させるという目的でエンジン回転数を増加させる場合にコントローラが前記ポンプ流量制御を行うので、アクチュエータの増速を抑制しながらコンプレッサ回転数を増加させて単位時間当たりの冷媒の循環回数を高めることができる。これにより、アクチュエータの増速を抑制しながらエアコンの冷却能力を上げることができる。
【0015】
前記油圧駆動装置は、前記吹出空気の温度を検出する吹出温度検出器をさらに備え、前記コントローラは、前記吹出空気の温度が予め設定された閾値である吹出温度閾値以上になったときに前記ポンプ流量制御を行うことが好ましい。この構成では、エアコンから吹き出される吹出空気の温度が吹出温度閾値以上になったときにコントローラが前記ポンプ流量制御を行うので、ポンプ流量制御を開始させるための操作をオペレータが行わなくても、エアコンの冷却能力を上げる必要があるときにコントローラによって自動的に前記ポンプ流量制御が実行される。これにより、オペレータの負担を軽減することができ、しかも、エアコンの冷却能力をタイミングよく上げることができる。
【0016】
前記油圧駆動装置は、前記エンジンからの排ガスを処理する排ガス後処理装置をさらに備え、前記所定の目的は、前記排ガスの温度を上昇させることであってもよい。この構成では、アクチュエータの増速とは異なる目的すなわち排ガスの温度を上昇させるという目的でエンジン回転数を増加させる場合にコントローラが前記ポンプ流量制御を行うので、アクチュエータの増速を抑制しながらエンジン回転数を増加させて排ガスの温度を上昇させることができる。これにより、前記排ガス後処理装置内においてすすや尿素結晶などの堆積を抑制し、排ガス後処理装置の機能を正常に維持することができる。
【0017】
前記コントローラは、前記排ガスの温度を上昇させるか否かを判定するために予め設定された条件が満たされたときに前記ポンプ流量制御を行うことが好ましい。この構成では、ポンプ流量制御を開始させるための操作をオペレータが行わなくても、排ガスの温度を上昇させる必要があるときにコントローラによって自動的に前記ポンプ流量制御が実行される。これにより、オペレータの負担を軽減することができ、しかも、前記ポンプ流量制御がタイミングよく行われることで排ガス後処理装置の機能を正常に維持することができる。
【0018】
本開示により提供される建設機械は、上述した油圧駆動装置と、前記アクチュエータにより動かされることが可能な可動部と、を備えている。この建設機械では、アクチュエータの増速とは異なる目的でエンジン回転数を増加させる場合であってもアクチュエータの増速を抑制できる。これにより、オペレータは、アクチュエータを動かすための操作を違和感なく行うことができる。
【発明の効果】
【0019】
本開示によれば、アクチュエータの増速とは異なる目的でエンジン回転数を増加させる場合であっても、アクチュエータの増速を抑制できる油圧駆動装置及びこれを備えた建設機械が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本開示の実施形態に係る油圧駆動装置を備える建設機械を示す側面図である。
図2】前記油圧駆動装置を示すブロック図である。
図3】前記油圧駆動装置のコントローラの演算制御動作を示すフローチャートである。
図4】前記実施形態の変形例3に係る油圧駆動装置を示すブロック図である。
図5】前記実施形態の変形例4に係る油圧駆動装置を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本開示の実施形態を図面を参照しながら説明する。図1は、本実施形態に係る油圧駆動装置を備える油圧ショベル100を示す側面図である。油圧ショベル100は、建設機械の一例である。
【0022】
図1に示すように、油圧ショベル100は、地盤上を走行可能な下部走行体1と、上下方向に向く旋回中心軸Xの回りに旋回可能に下部走行体1に支持された上部旋回体2と、上部旋回体2に支持された作業装置3と、を備える。
【0023】
下部走行体1は、一対のクローラ走行装置と、これらの走行装置をつなぐ下部フレームと、を備える。上部旋回体2は、下部フレームに旋回可能に支持された上部フレームと、上部フレームの前部に支持されたキャビンと、上部フレームの後部に支持されたカウンタウエイトと、を備える。上部旋回体2は、例えばキャビンの後方に形成された機械室10を有する。上部旋回体2は可動部の一例である。
【0024】
作業装置3は、ブーム4と、アーム5と、バケット6と、を備える。ブーム4は、上部旋回体2の上部フレームに対して起伏可能となるように上部フレームに支持されている。アーム5は、ブーム4に対して回動可能となるようにブーム4に支持されている。バケット6は、アーム5に対して回動可能となるようにアーム5に支持されている。ブーム4、アーム5及びバケット6のそれぞれは可動部の一例である。
【0025】
図2は、油圧ショベル100の油圧駆動装置を示すブロック図である。図1及び図2に示すように、当該油圧駆動装置は、エンジン11と、油圧ポンプ12と、冷却ファン14と、冷却器15と、防塵フィルタ16と、複数のアクチュエータと、コントローラ50と、を備える。コントローラ50は、CPU、メモリなどを含むコンピュータを備える。コントローラ50は、メインコントローラ51と、ファンコントローラ52と、ECU53(エンジンコントロールユニット)と、を含む。エンジン11、冷却ファン14及び冷却器15は、機械室10内に配置されている。防塵フィルタ16は、機械室10内に配置されていてもよく、機械室10の壁部に配置されていてもよく、機械室10に接続された図略のダクトに配置されていてもよい。なお、図2では、複数のアクチュエータの図示は省略されている。本実施形態では、防塵フィルタ16、冷却器15、冷却ファン14及びエンジン11がこの順に並ぶように配置されているが、これらの配置順序は、図2に示す具体例に限られない。
【0026】
エンジン11は、コントローラ50により制御される。エンジン11の回転数であるエンジン回転数は、コントローラ50からのエンジン回転指令に応じて調節される。具体的には、本実施形態では、メインコントローラ51からのエンジン回転指令がECU53に入力されると、ECU53は、エンジン回転指令に応じたエンジン回転数になるようにエンジン11を制御する。
【0027】
本実施形態に係る油圧駆動装置は、エンジン回転数を指示するための回転数指示器70をさらに備える。回転数指示器70は、オペレータによる操作を受けることが可能であり、当該操作の操作量に応じた回転数に対応する信号であるエンジン回転数指示信号(指令値)をコントローラ50に入力し、コントローラ50のECU53は、エンジン回転数がエンジン回転数指示信号に対応する値になるようにエンジン11を制御する。
【0028】
回転数指示器70は、例えば、オペレータによる操作を受けるアクセルダイヤルにより構成されていてもよい。アクセルダイヤルは、ダイヤル式のロータリスイッチである。このアクセルダイヤルのポジションは、エンジン回転数が最小となる最小位置とエンジン回転数が最大となる最大位置との間で無段階に調整可能なものであってもよく、前記最小位置と前記最大位置との間で段階的に調節可能なものであってもよい。オペレータがアクセルダイヤルのポジションを調節すると、アクセルダイヤルは、調節された位置に応じた信号であるエンジン回転数指示信号(指令値)をコントローラ50に入力する。
【0029】
油圧ポンプ12は、エンジン11により駆動されることにより作動油を吐出する可変容量型の油圧ポンプである。油圧ポンプ12の容量であるポンプ容量は、コントローラ50により制御される。具体的には、油圧ポンプ12は、作動油を吐出するポンプ本体と、油圧ポンプ12のポンプ容量を調節するレギュレータと、を含む。レギュレータは、コントローラ50からのポンプ容量指令(傾転指令)に応じて油圧ポンプ12のポンプ本体における斜板の傾転角を変えるように作動し、これにより、油圧ポンプ12のポンプ容量は、ポンプ容量指令に応じた容量に調節される。油圧ポンプ12から吐出される作動油の流量である吐出流量(ポンプ流量)は、エンジン回転数の増減に応じて増減し、ポンプ容量の増減に応じて増減する。
【0030】
冷却ファン14は、冷却器15に向かう空気の流れを形成する。冷却ファン14は、機械室10内に空気を取り込み、当該空気が冷却器15に供給される。冷却器15は、例えば、エンジン11を冷却するためのラジエータ液を冷却するラジエータと、油圧ショベル100を作動させるための作動油を冷却するオイルクーラとの少なくとも一方を含んでいてもよい。冷却器15は、当該冷却器15のラジエータを通過する空気とラジエータ液との間で熱交換を行わせることによりラジエータ液を冷却し、冷却器15のオイルクーラを通過する空気と作動油との間で熱交換を行わせることにより作動油を冷却する。冷却器15を通過した空気は、機械室10から排出される。ラジエータ液及び作動油のそれぞれは本開示における流体の一例である。
【0031】
本実施形態では、冷却ファン14は、当該冷却ファン14にエンジン11の出力を伝達するためのベルトなどの接続部材を介してエンジン11に接続され、当該エンジン11により駆動されるタイプの冷却ファンである。以下では、このタイプの冷却ファン14のことを、エンジン直結型の冷却ファン14と称することがある。このエンジン直結型の冷却ファン14のファン回転数は、エンジン回転数に応じて決まる。また、エンジン直結型の冷却ファン14の回転方向は、エンジン11の出力軸の回転方向に応じて決まる。なお、エンジン直結型の冷却ファン14は、例えば特許文献1の作業機における冷却用モータ、冷却用ポンプなどの構成要素を省略できるので、省スペース化が可能であり、特に小型又は中型の建設機械に適している。また、エンジン直結型の冷却ファン14は、既存の建設機械にこの冷却ファン14を搭載する場合の変更点が少なくなるというメリットを有する。
【0032】
冷却ファン14は、風向を反転させることが可能なように構成されている。冷却ファン14における風向反転構造は特に限定されるものではないが、例えば次のような構造を採用可能である。図2に示すように、冷却ファン14は、中心部14bと、この中心部14bに支持された複数のブレード14aと、を有する。冷却ファン14は、複数のブレード14aの向きが変わることにより風向を反転させるように構成される。中心部14bは、例えば円筒状のブレード支持部を有し、複数のブレード14aは、ブレード支持部の周りに当該ブレード支持部の周方向(冷却ファン14の回転方向)に沿って間隔をおいて配置されている。複数のブレード14aは、中心部14bのブレード支持部から放射状に延びるように配置されている。各ブレード14aは、ブレード支持部から径方向の外側に延びるような形状を有する。
【0033】
複数のブレード14aのそれぞれは、当該ブレード14aの延びる方向(前記径方向)に向く軸であるブレード軸回りに回動可能にブレード支持部に支持されている。各ブレード14aのブレード軸の基端部の周りには、当該ブレード14aが円滑に回動可能なようにベアリングが配置されていてもよい。複数のブレード14aは、正流位置(冷却位置)と、逆流位置(フィルタ清掃位置)と、の間で前記ブレード軸回りに回動可能となるように前記ブレード支持部に支持されている。正流位置は、冷却ファン14が回転することにより機械室10外の空気を機械室10内に取り込んで冷却器15に向かう空気の流れ(正流)を形成することが可能な位置である。言い換えると、正流位置は、冷却ファン14が回転することにより防塵フィルタ16から冷却ファン14に向かう空気の流れを形成することが可能な位置である。逆流位置は、冷却ファン14が回転することにより冷却ファン14から防塵フィルタ16に向かう空気の流れ(逆流)を形成することが可能な位置である。防塵フィルタ16は、冷却ファン14が正流を形成しているときに、空気中の粉塵等の異物を捕集する。防塵フィルタ16に捕集された異物は、冷却ファン14が逆流を形成しているときに吹き飛ばされて防塵フィルタ16から除去される。
【0034】
冷却ファン14は、コントローラ50(具体的にはファンコントローラ52)から出力される反転信号に応じて複数のブレード14aが正流位置又は逆流位置に同時に変わるように作動する。具体的には、冷却ファン14の複数のブレード14aが正流位置に配置されている状態で、図2に示すようにコントローラ50から反転信号が出力されると、冷却ファン14は、複数のブレード14aが正流位置から逆流位置に切り換わるように作動し、これにより冷却ファン14により形成される空気の流れが正流から逆流に切り換わる。同様に、冷却ファン14の複数のブレード14aが逆流位置に配置されている状態で、コントローラ50から反転信号が出力されると、冷却ファン14は、複数のブレード14aが逆流位置から正流位置に切り換わるように作動し、これにより冷却ファン14により形成される空気の流れが逆流から正流に切り換わる。従って、冷却ファン14は、その回転方向を変えることができなくても、複数のブレード14aの向きが正流位置と逆流位置との間で切り換わることにより風向を反転させることができる。コントローラ50から出力される反転信号は、電気信号であってもよく、空気圧、油圧などの流体の圧力を利用したものであってもよい。
【0035】
複数のアクチュエータのそれぞれは、油圧ポンプ12から吐出される作動油の供給を受けることにより動くように構成されている。複数のアクチュエータは、ブームシリンダ7と、アームシリンダ8と、バケットシリンダ9と、図略の旋回モータと、図略の走行モータと、を含む。ブームシリンダ7は、ブーム4を上部旋回体2に対して起伏させるための油圧シリンダである。アームシリンダ8は、アーム5をブーム4に対して回動させるための油圧シリンダである。バケットシリンダ9は、バケット6をアーム5に対して回動させるための油圧シリンダである。旋回モータは、上部旋回体2を下部走行体1に対して旋回させるための油圧モータである。走行モータは、下部走行体1を走行させるための油圧モータである。
【0036】
上述したように本実施形態では冷却ファン14がエンジン直結型であるので、冷却ファン14のファン回転数を増加させるためにはエンジン回転数を増加させる必要がある。しかし、複数のアクチュエータのうちの少なくとも一つのアクチュエータを増速させる目的とは異なる目的であるファン回転数を増加させるという目的でエンジン回転数を増加させる場合、オペレータが意図していないアクチュエータの増速が生じる。この課題を解決するため、本実施形態に係る油圧駆動装置では、コントローラ50は、ファン回転数を増加させるという目的でエンジン回転数を増加させる場合に、次のようなポンプ流量制御を行う。
【0037】
前記ポンプ流量制御は、エンジン回転数の増加後における油圧ポンプ12のポンプ流量がエンジン回転数の増加前における油圧ポンプ12のポンプ流量に対応する値になるように、油圧ポンプ12のポンプ容量を調節するとともにエンジン11のエンジン回転数を増加させる制御である。このポンプ流量制御は、アクチュエータの増速とは異なる目的でエンジン回転数を増加させる場合であってもアクチュエータの増速を抑制することを可能にし、これにより、オペレータは、アクチュエータを動かすための操作を違和感なく行うことができる。なお、本開示において「エンジン回転数の増加前におけるポンプ流量に対応する値」とは、エンジン回転数の増加後におけるポンプ流量がエンジン回転数の増加前におけるポンプ流量と同じ値である場合だけでなく、オペレータが違和感なく操作可能な範囲で、エンジン回転数の増加後におけるポンプ流量とエンジン回転数の増加前におけるポンプ流量とが多少異なる場合も含むことを意味している。具体的には、エンジン回転数の増加前におけるポンプ流量(増加前ポンプ流量)とエンジン回転数の増加後におけるポンプ流量(増加後ポンプ流量)の流量差の前記増加前ポンプ流量に対する割合は、±10%の範囲内であることが好ましく、±5%の範囲内であることがより好ましい。ただし、アクチュエータを動かすための操作をオペレータが違和感なく行うことができるという効果が最も高いレベルで得られるという観点で、前記増加後ポンプ流量が前記増加前ポンプ流量と同じ値であることがさらに好ましい。
【0038】
コントローラ50は、風向の反転に関して予め定められた条件である反転条件が満たされたときに前記ポンプ流量制御を行うように構成されていてもよい。具体的には、前記反転条件は、例えば、冷却ファン14の複数のブレード14aが正流位置に配置されている状態でオペレータにより風向を反転させるための入力(反転入力)が行われたことであってもよい。この場合、図2に示すように、油圧駆動装置は、オペレータによる前記反転入力を受ける反転スイッチ80を備える。反転スイッチ80は、当該反転スイッチ80がオペレータによる操作(前記反転入力)を受けると、当該反転入力に応じた信号をコントローラ50(例えばファンコントローラ52)に入力し、コントローラ50は、前記ポンプ流量制御を行うとともに、前記反転信号を出力する。これにより、複数のブレード14aが正流位置から逆流位置に切り換わり、冷却ファン14により形成される空気の流れが正流から逆流に切り換わる。このことは、アクチュエータの増速を抑制しながら風量の大きな逆流を発生させ、防塵フィルタ16に捕集された粉塵を効果的に吹き飛ばすことを可能にする。
【0039】
前記反転条件は、冷却器15の目詰まり又は防塵フィルタ16の目詰まりが検出されることであってもよい。具体的には、コントローラ50は、冷却器15内の流体(例えば冷却水)の温度に基づいて冷却器15の目詰まり又は防塵フィルタ16の目詰まりを判定することが可能である。より具体的には、コントローラ50は、前記流体の温度が予め設定された閾値である温度閾値以上になることで冷却器15の目詰まり又は防塵フィルタ16の目詰まりを判定してもよい。この場合、図2に示すように、油圧駆動装置は、冷却器15内の流体の温度を検出可能な流体温度検出器81(温度センサ)を備える。流体温度検出器81は、検出した流体の温度に関する検出信号をコントローラ50(例えばファンコントローラ52)に入力する。コントローラ50は、前記流体の温度が温度閾値以上になると、前記ポンプ流量制御を行うとともに、前記反転信号を出力する。なお、前記反転条件は、前記流体の温度が温度閾値以上になってからの経過時間が予め設定された経過時間閾値(第1の経過時間閾値)以上になることであってもよい。
【0040】
前記反転条件は、所定の経過時間が経過することであってもよい。具体的には、コントローラ50は、タイマーにより計測される経過時間が予め設定された経過時間閾値(第2の経過時間閾値)以上になると、前記ポンプ流量制御を行うとともに、前記反転信号を出力する。この場合、油圧駆動装置は、タイマーリレー、タイムスイッチなどの制御機器を備え、当該制御機器からの信号は、コントローラ50に入力される。これにより、コントローラ50は、経過時間が前記経過時間閾値以上になったことを判定することができる。経過時間の計測を開始する時点は、前回のポンプ流量制御が開始された時点であってもよく、前回のポンプ流量制御が終了した時点であってもよく、オペレータが任意に設定した時点であってもよい。
【0041】
以下では、本実施形態に係る油圧駆動装置のコントローラ50が行う演算制御の一例について具体的に説明する。図3は、コントローラ50の演算制御動作を示すフローチャートである。
【0042】
オペレータは、油圧ショベル100を用いた作業を行うときに、アクセルダイヤルなどの回転数指示器70を操作してエンジン11の回転数を指示する。回転数指示器70は、操作の操作量に対応するエンジン回転数指示信号(指令値)をコントローラ50に入力し、ECU53は、エンジン回転数が指令値に対応する値になるようにエンジン11を制御する(ステップS1)。
【0043】
コントローラ50(例えばメインコントローラ51)は、ポンプ流量制御がONであるか否かを判定する(ステップS2)。コントローラ50は、例えばポンプ流量制御がON又はOFFであることを表すフラグである判定フラグに基づいて、ポンプ流量制御がONであるか否かを判定してもよい。この判定フラグは、ポンプ流量制御が行われているか否かを判定するためのフラグであり、コントローラ50(例えばメインコントローラ51)によりON及びOFFの間で切り換えられてメモリに記憶される(更新される)。
【0044】
具体的には、コントローラ50は、判定フラグがOFFであるときに、前記ポンプ流量制御を開始するか否かを判定するための条件である開始判定条件(例えば、上述した反転条件)が満たされていない場合には、判定フラグをOFFに維持し(ステップS2においてNO)、ステップS1の処理を実行する。また、コントローラ50は、判定フラグがONであるとき、すなわち前記ポンプ流量制御が行われているときに、前記ポンプ流量制御を終了するか否かを判定するための条件である終了判定条件が満たされた場合には、判定フラグをONからOFFに切り換え(ステップS2においてNO)、ステップS1の処理を実行する。前記開始判定条件は、上述した反転条件であってもよく、他の条件であってもよい。他の条件としては、例えば、オペレータが前記ポンプ流量制御を開始させるための操作である開始操作を図略の入力装置に対して行い、当該開始操作に対応する信号である開始信号をコントローラが受けたことであってもよい。
【0045】
前記終了判定条件は、例えば、前記ポンプ流量制御が行われているときに、オペレータが前記ポンプ流量制御を終了させるための操作である終了操作を図略の入力装置に対して行い、当該終了操作に対応する信号である終了信号をコントローラが受けたことであってもよい。また、前記終了判定条件は、例えば、冷却器15の目詰まり又は防塵フィルタ16の目詰まりが解消されたことが検出されることであってもよい。この場合、前記終了判定条件は、冷却器15内の流体の温度が予め設定された閾値(終了判定閾値)未満になったことであってもよく、前記ポンプ流量制御が開始されてからの経過時間が予め設定された閾値である終了判定時間を経過したことであってもよい。
【0046】
一方、コントローラ50は、前記アクチュエータの増速とは異なる所定の目的でエンジン回転数を増加させる場合に、判定フラグをOFFからONに切り換え(ステップS2においてYES)、ステップS3の処理を実行する。言い換えると、コントローラ50は、判定フラグがOFFであるときに、前記開始判定条件が満たされた場合には、判定フラグをOFFからONに切り換え(ステップS2においてYES)、ステップS3の処理を実行する。また、コントローラ50は、判定フラグがONであるときに、前記終了判定条件が満たされていない場合には、判定フラグをONに維持し(ステップS2においてYES)、ステップS3の処理を実行する。
【0047】
次に、コントローラ50は、ポンプ容量の制限値qLを演算する(ステップS3)。ポンプ容量の制限値qLは、エンジン回転数の増加後における油圧ポンプ12のポンプ流量がエンジン回転数の増加前における油圧ポンプ12のポンプ流量に対応する値になるようなポンプ容量である。具体的には、本実施形態では、ポンプ容量の制限値qLは、エンジン回転数の増加後におけるポンプ流量がエンジン回転数の増加前におけるポンプ流量と同じ値になるようなポンプ容量である。
【0048】
本実施形態では、コントローラ50は、次の式(1)を用いて制限値qLを演算する。
【0049】
増加前のエンジン回転数×油圧ポンプ12の容量q=増加後のエンジン回転数×制限値qL ・・・(1)
式(1)において、「増加前のエンジン回転数」は、エンジン回転数指示信号に対応するエンジン回転数、すなわちアクセルダイヤルの指令値通りのエンジン回転数である。「増加後のエンジン回転数」は、前記ポンプ流量制御において用いられるエンジン回転数の目標値であり、増加前のエンジン回転数よりも大きな値である。このエンジン回転数の目標値は、例えば予め設定された値であってもよい。本実施形態では、エンジン回転数の目標値(増加後のエンジン回転数)は、エンジン11の回転数の最大値である最大回転数に予め設定されている。
【0050】
式(1)において、「油圧ポンプ12の容量q」は、エンジン回転数の増加前における油圧ポンプ12の容量の一例であり、制限値qLは、エンジン回転数の増加後における油圧ポンプ12の容量であり、エンジン回転数の増加前における容量qよりも小さな値である。
【0051】
次に、コントローラ50は、ポンプ容量がステップS3で決定された制限値qLであるか否かを判定する(ステップS4)。コントローラ50は、ポンプ容量が制限値qLである場合には(ステップS4においてYES)、ステップS5の処理を行う。前記ポンプ流量制御が開始された時点ではステップS6の処理がまだ行われていないため、その時点のポンプ容量は、制限値qLよりも大きな値(例えば前記容量q)に設定されている(ステップS4においてNO)。この場合、コントローラ50は、ポンプ容量が制限値qLになるように油圧ポンプ12のレギュレータにポンプ容量指令(傾転指令)を入力する(ステップS6)。これにより、油圧ポンプ12の傾転角が調節されてポンプ容量が、例えば容量qから制限値qLに小さくなる。
【0052】
次に、コントローラ50(具体的にはメインコントローラ51)は、エンジン回転数の目標値(本実施形態では、エンジン11の最大回転数)に対応するエンジン回転指令をECU53に出力し、ECU53は、エンジン回転数が、増加前のエンジン回転数(すなわちアクセルダイヤルの指令値通りのエンジン回転数)からエンジン回転数の目標値になるようにエンジン11を制御する(ステップS5)。これにより、ポンプ流量の増加を抑制してアクチュエータの増速を抑制しながら、エンジン11の最大回転数に対応するファン回転数、すなわち冷却ファン14の最大回転数まで冷却ファン14の回転数を上げることができる。このことは、オペレータがアクチュエータを動かすための操作を違和感なく行うことを可能にしつつ、冷却器15に詰まった粉塵又は防塵フィルタ16に詰まった粉塵を効果的に吹き飛ばすことを可能にする。
【0053】
そして、コントローラ50は、ステップS2の処理に戻り、ステップS2以降の処理を繰り返す。
【0054】
[変形例]
以上、本開示の実施形態に係る建設機械について説明したが、本開示は前記実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のような変形例を含む。
【0055】
(A)変形例1
前記実施形態では、冷却ファン14により形成される空気の流れを正流から逆流に切り換えるときに前記ポンプ流量制御が行われるが、このような形態に限られない。例えば以下に説明する変形例1のように、前記ポンプ流量制御は、冷却ファン14により形成される空気の流れを正流に維持しながら行われてもよい。具体的には以下の通りである。
【0056】
この変形例1における前記所定の目的は、アクチュエータの増速とは異なる目的すなわち冷却器15内の流体の温度が高くなったときにファン回転数を増加させることである。この目的でエンジン回転数を増加させる場合にコントローラ50が前記ポンプ流量制御を行うので、アクチュエータの増速を抑制しながらファン回転数を増加させて冷却器の冷却能力を上げることができる。これにより、オーバーヒートが生じることを抑制できる。
【0057】
変形例1において前記ポンプ流量制御は、冷却器15又は防塵フィルタ16の目詰まりを解消するために行われるのではなく、冷却器15の冷却能力を上げるために行われる。従って、この変形例1では、コントローラ50は、図2に示す流体温度検出器81により検出される流体の温度が予め設定された流体温度閾値以上になると、前記ポンプ流量制御を行うが、前記反転信号の出力を行わない。この変形例1では、コントローラ50が前記流体の実際の温度と流体温度閾値とを比較して前記ポンプ流量制御を自動的に行うので、ポンプ流量制御を開始させるための操作をオペレータが行わなくても、冷却器15の冷却能力を上げる必要があるときにコントローラ50によって自動的に前記ポンプ流量制御が実行される。これにより、オペレータの負担を軽減することができ、しかも、冷却器15の冷却能力をタイミングよく上げることができる。なお、この変形例1に係る油圧駆動装置では、冷却ファン14は、必ずしも複数のブレード14aの向きを変えることができるものでなくてもよい。
【0058】
(B)変形例2
以下に説明する変形例2においても、前記ポンプ流量制御は、冷却ファン14により形成される空気の流れを正流に維持しながら行われてもよい。
【0059】
この変形例2における前記所定の目的は、アクチュエータの増速とは異なる目的すなわち冷却器15が配置された空間である機械室10内の空間の温度が高くなったときに前記ファン回転数を増加させることである。この目的でエンジン回転数を増加させる場合にコントローラ50が前記ポンプ流量制御を行うので、機械室10内の空間が過度に高温雰囲気になることを抑制して冷却器15の熱交換の効率低下を抑制できる。これにより、アクチュエータの増速を抑制しながら冷却器15の冷却能力が低下することを抑制できるので、オーバーヒートが生じることを抑制できる。
【0060】
変形例2に係る油圧駆動装置は、図2に示すように機械室10内の空間の温度を検出する雰囲気温度検出器82をさらに備える。雰囲気温度検出器82は、検出した機械室10内の空間の温度に関する検出信号をコントローラ50(例えばメインコントローラ51)に入力する。この変形例2において前記ポンプ流量制御は、冷却器15又は防塵フィルタ16の目詰まりを解消するために行われるのではなく、冷却器15の冷却能力を上げるために行われる。従って、この変形例2では、コントローラ50は、雰囲気温度検出器82により検出される前記空間の温度が予め設定された閾値である雰囲気温度閾値以上になると、前記ポンプ流量制御を行うが、前記反転信号の出力を行わない。この変形例2では、前記空間の実際の温度と雰囲気温度閾値とを比較して前記ポンプ流量制御を自動的に行うので、ポンプ流量制御を開始させるための操作をオペレータが行わなくても、冷却器15の冷却能力の低下を抑制する必要があるときにコントローラ50によって自動的に前記ポンプ流量制御が実行される。これにより、オペレータの負担を軽減することができ、しかも、冷却器15の冷却能力の低下をタイミングよく抑制することができる。なお、この変形例2に係る油圧駆動装置では、冷却ファン14は、必ずしも複数のブレード14aの向きを変えることができるものでなくてもよい。
【0061】
(C)変形例3
図4は、前記実施形態の変形例3に係る油圧駆動装置を示すブロック図である。図4に示すように、変形例3に係る油圧駆動装置は、エアコン90のコンプレッサ91をさらに備える。コンプレッサ91は、冷凍サイクルにおいて冷媒を圧縮するものである。このコンプレッサ91は、当該コンプレッサ91にエンジン11の出力を伝達するためのベルトなどの接続部材を介してエンジン11に接続され、当該エンジン11により駆動されるタイプのコンプレッサである。このコンプレッサ91は、前記エンジン回転数に応じてコンプレッサ回転数が決まる。エアコン90は、冷却された空気を吹き出す吹出口92を備える。油圧駆動装置は、吹出口92から吹き出される吹出空気の温度を検出する吹出温度検出器83をさらに備える。
【0062】
この変形例3では、前記所定の目的は、アクチュエータの増速とは異なる目的すなわち前記吹出空気の温度が高くなったときに前記コンプレッサ回転数を増加させることである。この目的でエンジン回転数を増加させる場合にコントローラ50が前記ポンプ流量制御を行うので、アクチュエータの増速を抑制しながらコンプレッサ回転数を増加させて単位時間当たりの冷媒の循環回数を高めることができる。これにより、アクチュエータの増速を抑制しながらエアコン90の冷却能力を上げることができる。
【0063】
具体的には、コントローラ50は、吹出温度検出器83により検出される前記吹出空気の温度が予め設定された閾値である吹出温度閾値以上になったときに前記ポンプ流量制御を行う。この変形例3では、ポンプ流量制御を開始させるための操作をオペレータが行わなくても、エアコン90の冷却能力を上げる必要があるときにコントローラ50によって自動的に前記ポンプ流量制御が実行される。これにより、オペレータの負担を軽減することができ、しかも、エアコン90の冷却能力をタイミングよく上げることができる。
【0064】
(D)変形例4
図5は、前記実施形態の変形例4に係る油圧駆動装置を示すブロック図である。図5に示すように、変形例4に係る油圧駆動装置は、エンジン11の排ガスが通る排気管17と、排気管17に配置され、排ガスからススを捕集する排ガス後処理装置18と、をさらに備える。
【0065】
この変形例4では、前記所定の目的は、アクチュエータの増速とは異なる目的すなわち前記排ガスの温度を上昇させることである。この目的でエンジン回転数を増加させる場合にコントローラ50が前記ポンプ流量制御を行うので、アクチュエータの増速を抑制しながらエンジン回転数を増加させて排ガスの温度を上昇させることができる。これにより、排ガス後処理装置18内においてすすや尿素結晶などの堆積を効果的に抑制し、排ガス後処理装置18の機能(所謂、再生機能)を正常に維持することができる。
【0066】
具体的には、コントローラ50は、前記排ガスの温度を上昇させるか否かを判定するために予め設定された条件である判定条件が満たされたときに前記ポンプ流量制御を行う。この変形例4では、ポンプ流量制御を開始させるための操作をオペレータが行わなくても、排ガスの温度を上昇させる必要があるときにコントローラ50によって自動的に前記ポンプ流量制御が実行される。これにより、オペレータの負担を軽減することができ、しかも、前記ポンプ流量制御がタイミングよく行われることで排ガス後処理装置18の機能を正常に維持することができる。また、この変形例4では、アクチュエータを動かすためのオペレータによる操作が中断されることなく前記ポンプ流量制御が行われて前記再生機能が維持される。
【0067】
前記判定条件は、例えば、所定の経過時間が経過することであってもよい。この場合、コントローラ50は、タイマーにより計測される経過時間が予め設定された経過時間閾値(第3の経過時間閾値)以上になったときに、前記ポンプ流量制御を行う。経過時間の計測を開始する時点は、前回のポンプ流量制御が開始された時点であってもよく、前回のポンプ流量制御が終了した時点であってもよく、オペレータが任意に設定した時点であってもよい。
【0068】
(E)建設機械について
前記実施形態では、建設機械は、油圧ショベル100であるが、例えばクレーン、ブルドーザなどの他の建設機械であってもよい。
【0069】
(F)コントローラについて
前記コントローラ50は、メインコントローラ51と、ファンコントローラ52と、ECU53と、を含むが、本開示に係るコントローラは、メインコントローラ51、ファンコントローラ52及びECU53の機能を兼ね備えた一つのコントローラにより構成されていてもよい。
【0070】
(G)前記実施形態では、コントローラが自動的に前記ポンプ流量制御を実行するが、例えば、オペレータが前記ポンプ流量制御を開始させるための操作である開始操作を図略の入力装置に対して行い、当該開始操作に対応する信号である開始信号をコントローラが受けたときに、コントローラが前記ポンプ流量制御を実行するように構成されていてもよい。
【0071】
(H)前記実施形態では、流体温度検出器81による検出対象は、冷却器15の一例であるラジエータ内の冷却水(ラジエータ液)であるが、これに限られず、冷却器15の一例であるオイルクーラ内の作動油であってもよく、他の流体であってもよい。また、流体温度検出器81による検出対象は、冷却器15内の流体でなくてもよく、冷却器15に流入する前の流体の温度であってもよく、冷却器15から流出した後の流体の温度であってもよい。
【0072】
(I)前記変形例1では、前記流体の温度が予め設定された流体温度閾値以上になると、冷却ファン14により形成される空気の流れを正流に維持しながら前記ポンプ流量制御を行い、前記変形例2では、前記空間の温度が予め設定された閾値である雰囲気温度閾値以上になると、冷却ファン14により形成される空気の流れを正流に維持しながら前記ポンプ流量制御を行う。ただし、空気の流れを正流に維持しながら行われるポンプ流量制御は、変形例1,2に限られない。コントローラ50は、例えばタイマーにより計測される経過時間が予め設定された経過時間閾値(第4の経過時間閾値)以上になると、冷却ファン14により形成される空気の流れを正流に維持しながら前記ポンプ流量制御を行ってもよい。
【符号の説明】
【0073】
1 :下部走行体
2 :上部旋回体
4 :ブーム
5 :アーム
6 :バケット
7 :ブームシリンダ
8 :アームシリンダ
9 :バケットシリンダ
10 :機械室
11 :エンジン
12 :油圧ポンプ
14 :冷却ファン
15 :冷却器
18 :排ガス後処理装置
50 :コントローラ
81 :流体温度検出器
82 :雰囲気温度検出器
83 :吹出温度検出器
90 :エアコン
91 :コンプレッサ
100 :油圧ショベル
図1
図2
図3
図4
図5