(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023117600
(43)【公開日】2023-08-24
(54)【発明の名称】電力系統安定化システム及び電力貯蔵装置並びに直流送電システム
(51)【国際特許分類】
H02J 3/48 20060101AFI20230817BHJP
H02J 3/38 20060101ALI20230817BHJP
H02J 3/32 20060101ALI20230817BHJP
H02J 7/34 20060101ALI20230817BHJP
H02J 13/00 20060101ALI20230817BHJP
【FI】
H02J3/48
H02J3/38 120
H02J3/32
H02J7/34 D
H02J13/00 311R
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022020250
(22)【出願日】2022-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】吉原 徹
(72)【発明者】
【氏名】大原 伸也
(72)【発明者】
【氏名】原口 瑠理子
(72)【発明者】
【氏名】中山 靖章
【テーマコード(参考)】
5G064
5G066
5G503
【Fターム(参考)】
5G064AC06
5G064AC09
5G064CB08
5G064CB12
5G064CB16
5G064DA02
5G066HA11
5G066HA13
5G066HA15
5G066HB01
5G066HB02
5G066HB06
5G066HB09
5G066JA01
5G066JB03
5G066KA01
5G503AA01
5G503AA06
5G503AA07
5G503BA01
5G503BB01
5G503DA04
5G503GB06
(57)【要約】 (修正有)
【課題】再生可能エネルギー電源が多数接続された電力系統に電源脱落や系統分離などの事故が発生した場合でも、発電機毎の周波数変動の違いを考慮し、発電機脱落による停電リスクを低減する電力系統安定化システム、電力貯蔵装置及び直流送電システムを提供する。
【解決手段】電力系統1、複数の発電機2A~2C及び電力貯蔵装置3からの情報が入力され、その情報に基づいて電力貯蔵装置の出力を制御する中央演算装置4は、電力貯蔵装置指令演算部を含む。電力貯蔵装置指令演算部は、複数の発電機の周波数に基づき電力系統内の複数点の周波数変化率を算出する周波数変化率演算部と、周波数変化率演算部が算出した周波数変化率、周波数変化率の感度及び複数の発電機の運転情報に基づき、電力貯蔵装置の制御で、複数の発電機のどの発電機を安定に動かすべきか判定する判定値演算部と、電力貯蔵装置の有効電力の出力を計算する有効電力制御量演算部とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統に接続された複数の発電機と、前記電力系統に電力変換回路を介して接続された装置と、前記電力系統、複数の前記発電機及び前記電力系統に電力変換回路を介して接続された装置からの情報が入力され、その情報に基づいて前記電力系統に電力変換回路を介して接続された装置の出力を制御する中央演算装置とを備え、
前記中央演算装置は、少なくとも前記電力系統に電力変換回路を介して接続された装置指令演算部から成り、前記電力系統に電力変換回路を介して接続された装置指令演算部は、複数の前記発電機の周波数に基づき前記電力系統内の複数点の周波数変化率を算出する周波数変化率演算部と、該周波数変化率演算部で算出された周波数変化率、該周波数変化率の感度及び複数の前記発電機の運転情報に基づき、前記電力系統に電力変換回路を介して接続された装置の制御によって、複数の前記発電機のうちのどの発電機を安定に動かすべきか判定する判定値演算部と、前記電力系統に電力変換回路を介して接続された装置の有効電力の出力を計算する有効電力制御量演算部と、を備えていることを特徴とする電力系統安定化システム。
【請求項2】
請求項1に記載の電力系統安定化システムであって、
前記中央演算装置からの出力を前記電力系統に電力変換回路を介して接続された装置に送信する制御端末を更に備えていることを特徴とする電力系統安定化システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電力系統安定化システムであって、
前記周波数変化率演算部では、前記電力系統に接続された前記発電機又は母線ごとに前記周波数変化率が計算されることを特徴とする電力系統安定化システム。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の電力系統安定化システムであって、
前記判定値演算部は、前記周波数変化率演算部において計算された前記周波数変化率と、前記電力系統に接続された前記発電機の定格容量或いは前記発電機の出力を用いて判定値を計算し、前記電力系統に電力変換回路を介して接続された装置の発電或いは受電の方向を決定することを特徴とする電力系統安定化システム。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の電力系統安定化システムであって、
前記電力系統に電力変換回路を介して接続された装置を複数備え、前記判定値演算部は、前記電力系統に接続された複数の前記電力系統に電力変換回路を介して接続された装置の出力に対する前記発電機の前記周波数変化率への感度を基に、複数の前記電力系統に電力変換回路を介して接続された装置のうちのどの前記電力系統に電力変換回路を介して接続された装置に出力指令を与えるか決定することを特徴とする電力系統安定化システム。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の電力系統安定化システムであって、
前記電力系統に電力変換回路を介して接続された装置は、直流側に蓄電装置を備える電力貯蔵装置であり、前記電力系統に電力変換回路を介して接続された装置指令演算部は、電力貯蔵装置指令演算部であることを特徴とする電力系統安定化システム。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の電力系統安定化システムであって、
前記電力系統に電力変換回路を介して接続された装置は、直流側に直流系統を備える直流送電システムであり、前記電力系統に電力変換回路を介して接続された装置指令演算部は、直流送電システム指令演算部であることを特徴とする電力系統安定化システム。
【請求項8】
電力系統に接続され、直流側に蓄電装置を備える電力貯蔵装置であって、
前記電力貯蔵装置は、請求項6に記載の電力系統安定化システムから与えられた有効電力指令に基づき、有効電力出力を決定することを特徴とする電力貯蔵装置。
【請求項9】
請求項8に記載の電力貯蔵装置であって、
前記電力貯蔵装置は、前記電力系統に接続された前記発電機の周波数変化率に基づいて、有効電力出力値を決定することを特徴とする電力貯蔵装置。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の電力貯蔵装置であって、
前記電力貯蔵装置は、電力変換装置と蓄電装置から構成されると共に、自端の電圧を電圧センサで検出し、周波数計算部及び周波数変化率計算部にて周波数及び周波数変化率を計算し、かつ、有効電力指令値計算部で制御端末から送られてきた有効電力指令値になるよう前記電力変換装置を制御して有効電力を出力することを特徴とする電力貯蔵装置。
【請求項11】
電力系統に接続され、直流側に直流系統を備える直流送電システムであって、
前記直流送電システムは、請求項7に記載の電力系統安定化システムから与えられた有効電力指令に基づき、有効電力出力を決定することを特徴とする直流送電システム。
【請求項12】
請求項11に記載の直流送電システムであって、
前記直流送電システムは、前記電力系統に接続された前記発電機の周波数変化率に基づいて、有効電力出力値を決定することを特徴とする直流送電システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電力系統安定化システム及び電力貯蔵装置並びに直流送電システムに係り、特に、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー電源を用いるものに好適な電力系統安定化システム及び電力貯蔵装置並びに直流送電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー電源の導入拡大に伴い、火力発電や原子力発電など従来電源の連系比率が低下している。
【0003】
火力発電や原子力発電などの従来の電力系統に用いる発電機の大半は、一定の回転速度で運転する同期発電機であった。この同期発電機は、回転速度を一定に保つ慣性を持ち、また、電力系統を介して複数の同期発電機が同じ回転速度に補正し合う作用として、同期化力を持つ。
【0004】
一方、太陽光発電や風力発電など、近年、導入が拡大している再生可能エネルギー電源の多くは、直流の電力を交流に変換するインバータを介して電力系統に連系されるため、火力発電や原子力発電など従来電源で保有していた慣性や同期化力を持たない。その結果、再生可能エネルギー電源の割合が高い電力系統においては、電源脱落や系統分離などの事故が発生した場合、従来の電力系統に比べ事故が拡大しやすい。
【0005】
例えば、電源脱落により電力系統の需給バランスが崩れる場合、慣性の低下により、電力系統に残された発電機の動揺は従来よりも大きくなる。このため、単位時間当たりの周波数の変化df/dtは増加傾向となる。
【0006】
なお、以下の説明では、単位時間あたりの周波数変化df/dtを周波数の時間微分といい、単位時間当たりの周波数変化の大きさ|df/dt|を周波数変化率(RoCoF:Rate of Change of Frequency)という。
【0007】
また、再生可能エネルギー電源には、事故時運転継続(Fault Ride Through)要件(以下、FRT要件という)が定められており、現在、±2[Hz/s]以内のRoCoFに対して、運転を継続することが要求されている。
【0008】
電源脱落や系統分離などの事故により、同期電源の動揺が発生し、RoCoFがFRT要件を超えて検出された場合、再生可能エネルギー電源が連鎖的に脱落し、更なる周波数低下が生じる恐れがある。
【0009】
以下では、系統事故に伴い再生可能エネルギー電源がRoCoF逸脱により脱落する場合を「連鎖脱落」という。
【0010】
このような課題に対し、同期調相機の設置による慣性の増加や系統増強による同期化力の増加が有効である。しかし、同期調相機は回転機であるため保守コストが大きく、また、系統増強は膨大なコストと期間を要する。
【0011】
一方、再生可能エネルギー電源の導入促進に伴い、今後、再生可能エネルギーの適地から需要地までの長距離送電に、直流送電を用いる形態が増加すると考えられる。特に、自励式変換器を用いた直流送電システムは、有効電力と無効電力の独立した高速制御が可能であり、同期発電機のガバナによる有効電力調整よりも応答が速いため、瞬時調整力としての効果が高いと考えられる。
【0012】
なお、事故などのより発生した電力系統の動揺を抑制して電力系統を安定化させる電力系統安定化装置が特許文献1に記載されている。
【0013】
この特許文献1には、有効電力と無効電力の供給、吸収が可能な電力系統安定化装置を得るために、事故検出直後に系統事故検出部によって母線電圧および線路潮流等事故時に急変する情報から系統事故を検出し、制御目標値を強制的に最大の吸収量となるよう強制制御して電力系統安定化効果が高い有効電力を補償することができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上述した特許文献1では、母線周波数又は特定の発電機の回転速度を検出し、算出した周波数変動に基づいて有効電力制御の目標値を算出している。しかし、慣性や同期化力が低下した系統の場合、系統内のエリアごとに発電機の動揺が異なる場合が考えられる。
【0016】
例えば、同一系統に二つの発電機(発電機Aと発電機B)がある場合を仮定する。系統事故により、発電機Aが加速し発電機Bが減速する場合、発電機Aの加速を抑制するための有効電力制御が、発電機Bの減速を助長する可能性がある。この時、発電機BのエリアBにおけるRoCoFがFRT要件を逸脱し、再生可能エネルギー電源が連鎖脱落してしまうリスクがある。
【0017】
本発明は上述の点に鑑みなされたもので、その目的とするところは、再生可能エネルギー電源が多数接続された電力系統に電源脱落や系統分離などの事故が発生した場合であっても、発電機ごとの周波数変動の違いを考慮し、発電機脱落による停電リスクを低減することができる電力系統安定化システム及び電力貯蔵装置並びに直流送電システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の電力系統安定化システムは、上記目的を達成するために、電力系統に接続された複数の発電機と、前記電力系統に電力変換回路を介して接続された装置と、前記電力系統、複数の前記発電機及び前記電力系統に電力変換回路を介して接続された装置からの情報が入力され、その情報に基づいて前記電力系統に電力変換回路を介して接続された装置の出力を制御する中央演算装置とを備え、前記中央演算装置は、少なくとも前記電力系統に電力変換回路を介して接続された装置指令演算部から成り、前記電力系統に電力変換回路を介して接続された装置指令演算部は、複数の前記発電機の周波数に基づき前記電力系統内の複数点の周波数変化率を算出する周波数変化率演算部と、該周波数変化率演算部で算出された周波数変化率、該周波数変化率の感度及び複数の前記発電機の運転情報に基づき、前記電力系統に電力変換回路を介して接続された装置の制御によって、複数の前記発電機のうちのどの発電機を安定に動かすべきか判定する判定値演算部と、前記電力系統に電力変換回路を介して接続された装置の有効電力の出力を計算する有効電力制御量演算部と、を備えていることを特徴とする。
【0019】
また、本発明の電力貯蔵装置は、上記目的を達成するために、電力系統に接続され、直流側に蓄電装置を備える電力貯蔵装置であって、前記電力貯蔵装置は、電力系統安定化システムから与えられた有効電力指令に基づき、有効電力出力を決定することを特徴とする。
【0020】
また、本発明の直流送電システムは、上記目的を達成するために、電力系統に接続され、直流側に直流系統を備える直流送電システムであって、前記直流送電システムは、電力系統安定化システムから与えられた有効電力指令に基づき、有効電力出力を決定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、再生可能エネルギー電源が多数接続された電力系統に電源脱落や系統分離などの事故が発生した場合であっても、発電機ごとの周波数変動の違いを考慮し、発電機脱落による停電リスクを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の電力系統安定化システムの実施例1の概略構成を示す図である。
【
図2】本発明の電力系統安定化システムの実施例1に用いられる中央演算装置の構成を示す図である。
【
図3】本発明の電力系統安定化システムの実施例1における電力貯蔵装置指令演算部に入力される想定事故データの一例を示す図である。
【
図4(a)】本発明の電力系統安定化システムの実施例1における感度情報dRoCoF/dPBESSの第1の算出方法の説明図であり、電力貯蔵装置の出力を示す図である。
【
図4(b)】本発明の電力系統安定化システムの実施例1における感度情報dRoCoF/dPBESSの第1の算出方法の説明図であり、複数の発電機のうちのある発電機の周波数を示す図である。
【
図5(a)】本発明の電力系統安定化システムの実施例1における感度情報dRoCoF/dPBESSの第2の算出方法の説明図であり、電力貯蔵装置の出力を変化させた場合を示す図である。
【
図5(b)】本発明の電力系統安定化システムの実施例1における感度情報dRoCoF/dPBESSの第2の算出方法の説明図であり、
図5(a)のときの発電機の周波数の変化を示す図である。
【
図6】本発明の電力系統安定化システムの実施例1における発電機の出力と周波数の挙動を示す概念図である。
【
図7】本発明の電力系統安定化システムの実施例1における電力貯蔵装置の出力指令の表示例を示す図である。
【
図8】本発明の電力系統安定化システムの実施例1に用いられる電力貯蔵装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図示した実施例に基づいて本発明の電力系統安定化システム及び電力貯蔵装置並びに直流送電システムを説明する。なお、各図において、同一構成部品には同符号を使用する。
【実施例0024】
図1に、本発明の電力系統安定化システムの実施例1の概略構成を示す。
【0025】
図1に示すように、本実施例の電力系統安定化システムは、電力系統1と、この電力系統1に接続された複数の発電機(本実施例では第1の発電機2A、第2の発電機2B、第3の発電機2C)と、電力系統1に接続され、直流側(例えば、太陽光発電装置や風力発電装置側)に蓄電装置を備え、電力系統1の電力の供給又は需要のバランスを取る電力系統1に電力変換回路を介して接続された装置である電力貯蔵装置3と、電力系統1、第1の発電機2A、第2の発電機2B、第3の発電機2C及び電力貯蔵装置3からの情報(第1の発電機2Aからの情報は点線矢印G1、第2の発電機2Bからの情報は点線矢印G2、第3の発電機2Cからの情報は点線矢印G3、電力系統1からの情報は点線矢印R1、電力貯蔵装置3からの情報は点線矢印R2でそれぞれ示す)が入力され、その情報に基づいて電力貯蔵装置3の出力を制御する中央演算装置4と、この中央演算装置4からの出力を電力貯蔵装置3に送信する制御端末5とから概略構成されている。
【0026】
【0027】
図2に示すように、本実施例の中央演算装置4は、電力系統データ6、想定事故データ7及び感度データ8が入力される電力貯蔵装置指令演算部9から成り、この電力貯蔵装置指令演算部9は、第1の発電機2A、第2の発電機2B及び第3の発電機2Cの周波数に基づき電力系統1内の複数点の周波数変化率を算出する周波数変化率演算部9aと、この周波数変化率演算部9aで算出された周波数変化率、周波数変化率の感度及び第1の発電機2A、第2の発電機2B及び第3の発電機2Cの運転情報に基づき、電力貯蔵装置3の制御によって、第1の発電機2A、第2の発電機2B及び第3の発電機2Cのうちのどの発電機を安定に動かすべきか判定する判定値演算部9bと、電力貯蔵装置3の有効電力の出力を計算する有効電力制御量演算部9cとから概略構成されている。
【0028】
そして、中央演算装置4の電力貯蔵装置指令演算部9から出力された電力貯蔵装置3の出力指令である制御内容10は、制御端末5を介して電力貯蔵装置3に送信される。
【0029】
上記した電力貯蔵装置指令演算部9に入力される電力系統データ6は、電力系統1に関するデータであり、第1の発電機2A、第2の発電機2B及び第3の発電機2Cや再生可能エネルギーの諸元、第1の発電機2A、第2の発電機2B及び第3の発電機2Cの出力、送電ネットワークの構成やインピーダンス、電力需要の大きさなどの情報のデータである。
【0030】
また、上記した電力貯蔵装置指令演算部9に入力される想定事故データ7は、中央演算装置4が接続された電力系統1における想定事故の情報のデータである。その一例を
図3に示す。
【0031】
また、上記した電力貯蔵装置指令演算部9に入力される感度データ8は、制御対象の電力貯蔵装置3の有効電力の変化量ΔPBESSに対する発電機のRoCoFの感度を算出したデータである。本実施例では、上記した感度をdRoCoF/dPBESSと定義する。
【0032】
次に、
図4(a)及び
図4(b)と
図5(a)及び
図5(b)を用いて、dRoCoF/dPBESSの算出方法を説明する。
【0033】
図4(a)及び
図4(b)は、本実施例における感度情報dRoCoF/dPBESSの第1の算出方法の説明図であり、
図4(a)の波形が電力貯蔵装置3の出力、
図4(b)の波形が、複数の発電機のうちのある発電機の周波数をそれぞれ示す。
【0034】
図5(a)及び
図5(b)は、本実施例における感度情報dRoCoF/dPBESSの第2の算出方法の説明図であり、
図4(a)及び
図4(b)に対し、電力貯蔵装置3の出力を変えた場合の発電機の周波数の変化の概念図を示す。
【0035】
例えば、
図4(a)及び
図4(b)に示すように、電源脱落の想定事故に対し、電力貯蔵装置3の有効電力を変化させない場合、発電機のRoCoFが最大値として2.3[Hz/s]をとる場合を考える。
【0036】
これに対し、
図5(a)及び
図5(b)に示すように、電力貯蔵装置3を時刻t_fipにΔP=90MW制御した場合、t_rmaxにおけるRoCoFが1.7[Hz/s]に減少するとする。このとき、感度|dRoCoF/dPBESS|は、90/0.6=150と計算される。
【0037】
図3は、上述したように、本実施例における想定事故を示す情報の構成例であり、想定事故ケース番号、監視点、想定事故の種別などの項目を備えている。
【0038】
次に、電力貯蔵装置指令演算部9の周波数変化率演算部9a、判定値演算部9b及び有効電力制御量演算部9cの説明を、本実施例における動作例に合わせて説明する。なお、ここでは、第3の発電機2Cが電力系統1から解列した場合を例にして説明する。
【0039】
図6に、本実施例における発電機の出力と周波数の挙動を示す。
【0040】
図6に示すように、本実施例では、第3の発電機2Cの解列前の状態において、第1の発電機2Aの出力P1が250[MW]、第2の発電機2Bの出力P2が500[MW]であり、第3の発電機2Cの解列によるRoCoFは、第1の発電機2Aが-2.3[Hz/s]、第2の発電機2Bが+2.2[Hz/s]であった場合を例にして説明する。
【0041】
まず、電力貯蔵装置指令演算部9も周波数変化率演算部9aでは、発電機の回転速度又は母線の周波数から各発電機及び母線の位置するエリアの周波数変化率を演算する。ここでは、第1の発電機2Aと第2の発電機2BのRoCoFは、それぞれ-2.3[Hz/s]、+2.2[Hz/s]と計算される。
【0042】
次に、電力貯蔵装置指令演算部9の判定値演算部9bでは、電力貯蔵装置3の出力方向(発電又は受電)を決定するための判定値の計算と電力貯蔵装置3の出力方向の決定を行う。本実施例では、各発電機のRoCoFの基準値からの逸脱幅の絶対値と、第3の発電機2Cの解列前の発電機の出力の積の値を用いて判定を行う。
【0043】
本実施例での判定式は、RoCoFが大きく脱落リスクが高く、かつ、発電機の出力が大きい発電機を解列させないよう電力貯蔵装置3を制御することで、仮に発電機の連鎖的な脱落が発生しても、発電機の解列時の需給アンバランスの変化を極力小さくする、という思想に基づくものである。
【0044】
仮に、RoCoF基準値を±2.0[Hz/s]とした場合、第1の発電機2Aの判定値は、|―2.3+2.0|×250=75であり、第2の発電機2Bの判定値は、|2.2―2.0|×500=100と計算される。
【0045】
本実施例では、第2の発電機2Bの判定値の方が大きいため、第2の発電機2Bが解列しないように、電力貯蔵装置3を制御する。即ち、第2の発電機2BのRoCoFは正であり、第2の発電機2Bは加速しているため、電力貯蔵装置3の出力方向は、第2の発電機2Bの加速を打ち消す向き、つまり、受電となるように制御する。
【0046】
また、電力貯蔵装置指令演算部9の有効電力制御量演算部9cでは、電力貯蔵装置3の有効電力出力値を決定するが、有効電力制御量演算部9cでの有効電力出力値の大きさの決め方については、第2の発電機2BのRoCoF基準値からの逸脱幅の絶対値に、制御ゲインを乗じた比例制御が良い。
【0047】
また、電力貯蔵装置3が2か所以上(複数)ある場合には、複数の電力貯蔵装置3に出力指令を配分して制御すれば良い。
【0048】
即ち、電力貯蔵装置指令演算部9の判定値演算部9bは、電力系統1に接続された複数の電力貯蔵装置3の出力に対する発電機の周波数変化率への感度を基に、複数の電力貯蔵装置3のうちのどの電力貯蔵装置3に出力指令を与えるか決定する。
【0049】
この場合、感度情報dRoCoF/dPBESSを用いて、感度が高い電力貯蔵装置3に優先的に出力指令を与えることが良い。例えば、感度情報dRoCoF/dPBESSに応じて、第2の発電機2BのRoCoF基準値からの逸脱幅の絶対値に制御ゲインを乗じた値に補正係数を乗じることで、複数の電力貯蔵装置3の配分量の調整が可能となる。
【0050】
なお、有効電力出力値の正負(向き)については、電力貯蔵装置指令演算部9の判定値演算部9bで決定済みであるため、有効電力出力値の大きさに、この正負を乗じたものが、最終的な電力貯蔵装置3の出力指令値となる。
【0051】
以上が、電力貯蔵装置指令演算部9の周波数変化率演算部9a、判定値演算部9b、有効電力制御量演算部9cの本実施例における動作例の説明である。
【0052】
図7に、本実施例における電力貯蔵装置3の出力指令の表示例を示す。
【0053】
例えば、
図7は、制御内容テーブルのうち、最新時刻のものから事故検出された想定故障と電力貯蔵装置3の出力を表示している。
【0054】
次に、上述した本実施例で用いられる電力貯蔵装置3の構成について、
図8を用いて説明する。
【0055】
図8に示すように、本実施例で用いられる電力貯蔵装置3は、電力変換装置3aと蓄電装置3bとから構成されている。そして、電力貯蔵装置3は、自端の電圧が電圧センサ3cにて検出され、周波数計算部3d及びRoCoF(周波数変化率)計算部3eで周波数及びRoCoFを計算し、RoCoF(周波数変化率)計算部3eで計算された計算値を有効電力指令値計算部3fに送信し、有効電力指令値計算部3fでは、制御端末5から送られてきた有効電力指令値になるよう電力変換装置3aを制御し、有効電力を出力するものである。
【0056】
このような本実施例とすることにより、再生可能エネルギー電源が多数接続された電力系統1に電源脱落や系統分離などの事故が発生した場合であっても、発電機ごとの周波数変動の違いを考慮し、発電機脱落による停電リスクを低減することができる。
【0057】
なお、本実施例では、電力貯蔵装置指令演算部9の判定値演算部9bでの判定の際に、発電機の解列前の発電機の出力を用いたが、それに代わって発電機の定格容量を用いても本発明の効果は得られる。
【0058】
これは、発電機の定格容量の大きい電源が解列しないよう、電力貯蔵装置3を制御することで、電力系統1の慣性の低下を極力抑えることができるためである。
【0059】
また、本実施例では、電力系統1に電力変換回路を介して接続された装置として電力貯蔵装置3を例にして説明したが、電力貯蔵装置3に代えて直流側に直流系統を有する直流送電システムを用いても、本発明の効果は得られる。この際は、電力貯蔵装置指令演算部9に代えて直流送電システム指令演算部を備えていることは言うまでもない。
【0060】
なお、本発明は上述した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上述した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明したすべての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換える事が可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加える事も可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をする事が可能である。
1…電力系統、2A…第1の発電機、2B…第2の発電機、2C…第3の発電機、3…電力貯蔵装置、3a…電力変換装置、3b…蓄電装置、3c…電圧センサ、3d…周波数計算部、3e…RoCoF(周波数変化率)計算部、3f…有効電力指令値計算部、4…中央演算装置、5…制御端末、6…電力系統データ、7…想定事故データ、8…感度データ、9…電力貯蔵装置指令演算部、9a…周波数変化率演算部、9b…判定値演算部、9c…有効電力制御量演算部、10…制御内容。