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  • 特開-積層体及び包装体 図1
  • 特開-積層体及び包装体 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023117640
(43)【公開日】2023-08-24
(54)【発明の名称】積層体及び包装体
(51)【国際特許分類】
   B65D 65/40 20060101AFI20230817BHJP
【FI】
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022020313
(22)【出願日】2022-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(72)【発明者】
【氏名】戸田 順子
【テーマコード(参考)】
3E086
【Fターム(参考)】
3E086AA23
3E086AB01
3E086AD01
3E086BA04
3E086BA15
3E086BB01
3E086BB21
3E086BB51
3E086BB90
3E086DA08
(57)【要約】
【課題】基材フィルムと熱融着層とを容易に分離して、モノマテリアルのポリオレフィン樹脂を回収できる積層体と、この積層体を包装用フィルムとして使用した包装体を提供すること。
【解決手段】基材フィルム11と熱融着層13とを易剥離層12を介して積層して積層体10を構成する。前記熱融着層13と易剥離層12の両方をポリオレフィン樹脂で構成する。そして、易剥離層12をポリエチレン樹脂と他のポリオレフィン樹脂との混合物で構成し、しかも、このポリエチレン樹脂と他のポリオレフィン樹脂とを互に相溶性のないものとする。易剥離層12は容易に凝集破壊するから、基材フィルム11と熱融着層13とを容易に剥離分離してポリオレフィン樹脂を回収できる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムと熱融着層とを易剥離層を介して積層して構成された積層体であって、
前記熱融着層と易剥離層の両方がポリオレフィン樹脂から成り、
前記易剥離層がポリエチレン樹脂と他のポリオレフィン樹脂との混合物から成り、このポリエチレン樹脂と他のポリオレフィン樹脂とが互に相溶性のないことを特徴とする積層体。
【請求項2】
前記易剥離層がポリエチレン樹脂を70質量%以上含有することを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記他のポリオレフィン樹脂がポリブテン樹脂から成ることを特徴とする請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
前記熱融着層がポリエチレン樹脂から成ることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の積層体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の積層体を包装用フィルムとして使用して、内容物を包装して構成されたことを特徴とする包装体。
【請求項6】
前記包装用フィルムの端部に、易剥離層から基材フィルムと熱融着層とを分離するきっかけが設けられていることを特徴とする請求項5に記載の包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、易剥離層を有する積層体で、この易剥離層で剥離することによりポリオレフィン樹脂のみから成る層を他の層から分離することができる積層体に関する。この積層体は、例えば、包装用のフィルムとして使用し、使用した後には、そのポリオレフィン樹脂のみを回収して再生できる。
【背景技術】
【0002】
包装袋等を構成する包装用のフィルムは、一般に、基材フィルムの内面に熱融着層を積層して構成されている。熱融着層としては、通常、ポリオレフィン樹脂が使用されているが、基材フィルムにはポリエステル樹脂フィルム等、種々のフィルムが使用されている。また、遮光性やガスバリア性のため、金属蒸着した蒸着フィルムや金属箔をその層構成中に含む多層構造のフィルムを基材フィルムとして使用していることもある。
【0003】
ところで、SDGsや環境保護の観点から、使用後の材料を回収して再生することが推奨されている。しかしながら、前述の熱融着層のように、ポリオレフィン樹脂のみから
成るものは、例えば、ポリエチレン樹脂とポリブテン樹脂との混合物のように、その中に異なる種類のポリオレフィン樹脂が含まれている場合であっても、再生できる可能性があるが、異種の樹脂、例えば、ポリオレフィン樹脂とポリエステル樹脂とが含まれている場合には、再生することができない。もちろん、ポリオレフィン樹脂に金属が混合されている場合にも再生することができない。
【0004】
そこで、前記包装フィルムを回収して再生するためには、それぞれ単一種類の材料(モノマテリアル)に分離して、その材料(モノマテリアル)ごとに回収再生する必要がある。例えば、ポリオレフィン樹脂から成る熱融着層を回収再生するためには、この熱融着層を基材フィルムから剥離する必要がある。
【0005】
このように基材フィルムから熱融着層を剥離可能とし包装フィルムは、例えば、特許文献1,2に記載されている。特許文献1は、基材フィルムと熱融着層とを接着する
接着層に磁性材料を使用したものである。また、特許文献2は、溶剤溶解性の接着層を用いたものである。消費者が使用済の包装袋からモノマテリアルの熱融着層を分離することを考えると、これら特許文献1,2に記載の包装フィルムは現実的な技術とはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4274684号公報
【特許文献2】国際公開第2020/166685号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、基材フィルムと熱融着層とを容易に分離して、モノマテリアルのポリオレフィン樹脂を回収できる積層体と、この積層体を包装用フィルムとして使用した包装体とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、請求項1に記載の発明は、基材フィルムと熱融着層とを易剥離層を介して積層して構成された積層体であって、
前記熱融着層と易剥離層の両方がポリオレフィン樹脂から成り、
前記易剥離層がポリエチレン樹脂と他のポリオレフィン樹脂との混合物から成り、このポリエチレン樹脂と他のポリオレフィン樹脂とが互に相溶性のないことを特徴とする積層体である。
【0009】
なお、前記易剥離層がポリエチレン樹脂を70質量%以上含有することが望ましい。また、前記他のポリオレフィン樹脂はポリブテン樹脂で構成することができる。
【0010】
また、前記熱融着層はポリエチレン樹脂で構成することができる。
【0011】
そして、この積層体を包装用フィルムとして使用して、内容物を包装することにより、包装体を構成することができる。この包装体では、前記包装用フィルムの端部に、易剥離層から基材フィルムと熱融着層とを分離するきっかけが設けられていることが望ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明においては、易剥離層がポリエチレン樹脂と他のポリオレフィン樹脂との混合物から成り、しかも、このポリエチレン樹脂と他のポリオレフィン樹脂とが互に相溶性がないから、この易剥離層は、その内部において、ポリエチレン樹脂と他のポリオレフィン樹脂との界面で分離し易い。このため、この易剥離層は凝集破壊する性質を有する。そして、基材フィルムと熱融着層とが易剥離層を介して積層されているから、易剥離層の凝集破壊により、基材フィルムと熱融着層とを剥離して分離することができる。この剥離は、基材フィルムの端部と熱融着層の端部とをそれぞれ摘まんで引き剥がせば可能であり、消費者にとっても容易である。
【0013】
なお、凝集破壊した易剥離層の一部が熱融着層に付着した状態で基材フィルムと熱融着層とが剥離分離されるが、熱融着層と易剥離層の両方がポリオレフィン樹脂から成るため、これらは一体として再生することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は本発明の実施の形態に係り、本発明の積層体を包装フィルムとして使用したピロー包装袋の斜視図である。
図2図2は、図1のピロー包装袋の説明用縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明の具体例を説明する。図1は本発明の実施の形態に係り、本発明の積層体を包装フィルムとして使用したピロー包装袋Aの斜視図であり、図2はその説明用縦断面図である。なお、図2においては内容物の図示を省略している。
【0016】
よく知られているように、ピロー包装袋Aは、包装フィルムを筒状に丸めてその両端を合掌状に重ねてシールすることにより、背シール線aを形成し、内容物を収容した後、両端をシールして密封したものである。図1において、符号「b」「c」は両端のシール線、すなわち、上部シール線bと下部シール線cを示している。
【0017】
このピロー包装袋Aを構成する包装フィルムは、積層体10から構成されており、図2から分かるように、この積層体10は基材フィルム11と熱融着層13とを易剥離層12を介して積層して構成されている。そして、熱融着層13がピロー包装袋Aの内表面を構成し、この熱融着層13同士を互いにヒートシールすることにより、前記背シール線a、上部シール線b及び下部シール線cが形成されている。なお、基材フィルム11はピロー包装袋Aの外表面を構成している。なお、図中、d1は背シール線aに設けたノッチ、d2はこのノッチd1に続く引裂き誘導線を示している。
【0018】
基材フィルム11は任意のフィルムでよく、単層構造でもよいし、多層構造でもよいが、ポリオレフィン樹脂とは異質の材料を含むものである場合、本発明の趣旨を生かすことができる。
【0019】
単層構造の基材フィルム11としては、例えば、ポリエステル樹脂フィルムやポリアミド樹脂フィルム等を例示できる。ポリプロピレン樹脂フィルム等のポリオレフィン樹脂フィルムであってもよい。
【0020】
多層構造の基材フィルム11としては、例えば、ポリエステル樹脂フィルムにポリアミド樹脂フィルムやアルミニウム箔を貼り合せたフィルム、あるいは金属や無機物を真空蒸着した蒸着フィルムを例示できる。もちろん、これらを積層して3層以上の多層構造としたものであってもよいし、印刷を施したものであってもよい。
【0021】
熱融着層13は、前述のように、ピロー包装袋Aを形成する際に互いにヒートシールしてシール線a,b,cを構成するものである。このような熱融着層13は従来公知のシーラントを使用できる。一般にポリオレフィン樹脂である。例えば、低密度ポリエチレン樹脂、中密度ポリエチレン樹脂、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂等のポリエチレン樹脂を使用することができる。このほか、ポリプロピレン樹脂を使用することも可能であるが、後述するように易剥離層12がポリエチレン樹脂を主成分とする場合には、この易剥離層12の主成分と同様に、熱融着層13もポリエチレン樹脂から成ることが望ましい。
【0022】
次に、易剥離層12は基材フィルム11と熱融着層13とを接着して、不用意にこれらが剥離することがないようにすると共に、廃棄の際には、これら基材フィルム11と熱融着層13とを容易に剥離して、モノマテリアルのポリオレフィン樹脂を分離できるようにする役割を有している。このため、易剥離層12は、熱融着層13と同様にポリオレフィン樹脂をその材質としている必要がある。
【0023】
そして、基材フィルム11と熱融着層13との剥離を容易とするため、易剥離層12はポリエチレン樹脂と他のポリオレフィン樹脂との混合物で構成され、しかも、このポリエチレン樹脂と他のポリオレフィン樹脂とは互に相溶性のないものである必要がある。このように互いに相溶性のない樹脂の混合物で構成される熱融着層13は、主成分となる樹脂を海とし、他方の樹脂成分を島として、海の中に島が点在するいわゆる「海島構造」をとる。そして、その海と島との境界、すなわち、両樹脂成分の界面で分離し易い。このため、この易剥離層12は凝集破壊する性質を有する。そして、基材フィルム11と熱融着層13とが易剥離層12を介して積層されているから、易剥離層12の凝集破壊により、基材フィルム11と熱融着層13とを剥離して分離することができる。この剥離は、基材フィルム11の端部と熱融着層13の端部とをそれぞれ摘まんで引き剥がせば可能であり、消費者にとっても容易である。
【0024】
なお、凝集破壊した易剥離層12の一部が熱融着層13に付着した状態で基材フィルム11と熱融着層13とが剥離分離されるが、熱融着層13と易剥離層12の両方がポリオレフィン樹脂から成るため、これらは一体として再生することが可能である。
【0025】
この易剥離層12の主成分、すなわち、易剥離層12の質量のうち過半数を占める樹脂成分としては、ポリエチレン樹脂を使用することができる。また、このポリエチレン樹脂と相溶性がないポリオレフィン樹脂としてはポリブテン樹脂を使用することができる。
【0026】
ところで、発明者は、ポリエチレン樹脂とポリブテン樹脂との配合比を変化させて、そのラミネート強度や剥離容易性について確認する実験を行った。
【0027】
すなわち、まず、日本ポリエチレン(株)製低密度ポリエチレン樹脂(商品名LC600A)を易剥離層12の主成分とし、これに三井化学(株)製ポリブテン樹脂(商品名BL4000)を混合して得られた混合物を易剥離層12用の混合物とした。そして、この混合物を使用して押出しラミネート方式で基材フィルム11と熱融着層13とを積層して、積層体10を製造した。基材フィルム11は、ポリエステル樹脂フィルム(厚さ12μm)とアルミニウム箔(厚さ7μm)との2層構造のフィルムである。また、熱融着層13としては、厚さ60μmのポリエチレン樹脂フィルムである。そして、前記熱易剥離層12は、基材フィルム11のアルミニウム箔と熱融着層13との間に位置するようにこれら基材フィルム11、易剥離層12及び熱融着層13を積層して積層体10とした。易剥離層12の厚みは10μmである。
【0028】
そして、この積層体10の基材フィルム11と熱融着層13との間のラミネート強度(N/15mm)を測定した。
【0029】
また、この積層体10を使用してピロー包装袋Aを製造して、その剥離容易性を判定した。
【0030】
これらの結果を表1に示す。なお、易剥離層12中のポリエチレン樹脂とポリブテン樹脂との配合比(質量比)は表中に示す。また、表中、「LDPE」はポリエチレン樹脂、「PB」はポリブテン樹脂をそれぞれ示す。
【0031】
【表1】
【0032】
この結果から、易剥離層12に含まれるポリエチレン樹脂の配合率が70質量%を下回ると、ラミネート強度が極めて小さく、不用意に剥離し易く、一方、70質量%以上であれば、十分なラミネート強度を有し、したがって不用意な剥離を防止できることが理解できる。
【0033】
一方、易剥離層12に含まれるポリエチレン樹脂の配合率が90質量%以上となると、ラミネート強度が大きく、このため、剥離に困難が生じることが理解できる。
【0034】
このため、易剥離層12に含まれるポリエチレン樹脂の配合率は70質量%以上で90質量%未満であることが望ましい。
【0035】
次に、図1及び図2に示すように、背シール線aの端部には、基材フィルム11が熱融着層13に接着されていないつまみ片xが設けられている。このつまみ片xは、基材フィルム11と熱融着層13とを剥離して分離する際のきっかけとなる部分であり、このつまみ片xを摘まんで引っ張ることにより、基材フィルム11と熱融着層13とを剥離して分離することができる。
【0036】
このつまみ片xは、押出しラミネート方式で基材フィルム11と熱融着層13とを積層する工程で設けることができる。すなわち、押出しラミネート方式で2枚のフィルムを積層する場合、これら2枚のフィルムの中央に樹脂を押し出して積層するが、その両サイドには樹脂が積層されないことが通常である。このように樹脂が積層されなかった両サイドでは前述の2枚のフィルムは接着されていない。この非接着の部分は「耳」と呼ばれ、その後の工程で切除されるが、この耳を切除することなく残すことにより、前述のつまみ片xを形成することができる。
【0037】
すなわち、易剥離層12を構成する混合物を溶融し、この溶融物を、前記基材フィルム11と熱融着層13の一方の上に塗布した後、他方を重ね、圧着して積層一体化する。こ
の際、前記溶融物は、基材フィルム11又は熱融着層13の中央のみに塗布して、その両サイドは非塗布部分とする。この非塗布部分が前記耳に相当するもので、この非塗布部分を前記つまみ片xとして利用することができる。
【0038】
以上の説明から明らかなように、この包装体Aは、前記つまみ片xを摘まんで引っ張ることにより、基材フィルム11を熱融着層13から剥離して分離することができる。その剥離原理は易剥離層12の凝集剥離であり、このため、易剥離層12を構成する材料の一部が熱融着層13に熱融着層に付着した状態で基材フィルムと熱融着層とが剥離分離されるが、熱融着層と易剥離層の両方がポリオレフィン樹脂から成るため、これらは一体として再生することが可能である。
【0039】
なお、この包装体Aは、ノッチd1から引裂誘導線d2で引き裂くことにより開封できる。
【0040】
以上、ピロー包装袋を例として説明したが、これに限らず、平袋、ガゼット袋、スタンディングパウチ等でもよいことは明らかである。
【符号の説明】
【0041】
A:ピロー包装袋
10:包装フィルム 11:基材フィルム 12:易剥離層 13:熱融着層
a:背シール線 b:上部シール線 c:下部シール線
x:つまみ片
図1
図2