(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023117684
(43)【公開日】2023-08-24
(54)【発明の名称】液圧機器
(51)【国際特許分類】
F16F 9/36 20060101AFI20230817BHJP
F16J 15/3204 20160101ALI20230817BHJP
F16J 15/12 20060101ALI20230817BHJP
F16J 15/10 20060101ALI20230817BHJP
【FI】
F16F9/36
F16J15/3204 101
F16J15/12 F
F16J15/10 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022020387
(22)【出願日】2022-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 憲
(72)【発明者】
【氏名】安河内 直樹
【テーマコード(参考)】
3J006
3J040
3J069
【Fターム(参考)】
3J006AB02
3J006AB11
3J006AE22
3J006BA00
3J040AA13
3J040EA02
3J040EA15
3J040EA25
3J040EA43
3J040FA01
3J040FA05
3J040HA30
3J069AA54
3J069CC11
3J069CC22
(57)【要約】
【課題】組付性を損なわず良好なシール性を実現できる液圧機器を提供する。
【解決手段】液圧機器は、筒状のアウターシェル4と、アウターシェル4内に軸方向へ移動可能に挿入されるロッド3と、環状であってアウターシェル4の一端の内周に嵌合されて、内周にロッド3が挿通されるとともに外周の大気側にテーパ面tを有するロッドガイド5と、ロッドガイド5に積層される環状のインサートメタル7と、インサートメタル7の外周に設けられてテーパ面tに押し当てられてアウターシェル4の内周に密着する環状の外周シール8とを有して、アウターシェル4の内周に挿入されるシール部材6とを備え、外周シール8は、外周シール8がテーパ面tに当接するとアウターシェル4の内周に当接する環状の第1リップ8bを外周に有し、第1リップ8bは、外周シール8がテーパ面tに当接しない状態ではアウターシェル4の内周に当接しない。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のアウターシェルと、
前記アウターシェル内に軸方向へ移動可能に挿入されるロッドと、
環状であって前記アウターシェルの一端の内周に嵌合されて、内周に前記ロッドが挿通されるとともに外周の大気側にテーパ面を有するロッドガイドと、
前記ロッドガイドに積層される環状のインサートメタルと、前記インサートメタルの外周に設けられて前記テーパ面に押し当てられて前記アウターシェルの内周に密着する環状の外周シールとを有して、前記アウターシェルの前記一端の内周に挿入されるシール部材とを備え、
前記外周シールは、前記外周シールが前記テーパ面に当接すると前記アウターシェルの内周に当接する環状の第1リップを外周に有し、
前記第1リップは、前記外周シールが前記テーパ面に当接しない状態では前記アウターシェルの内周に当接しない
ことを特徴とする液圧機器。
【請求項2】
前記外周シールは、複数の環状角部を有し、
前記環状角部のうち、最も反大気側の環状角部で前記第1リップが形成され、
前記環状角部のうち前記第1リップを形成する環状角部以外の環状角部で前記アウターシェルの内周に密着する第2リップが形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の液圧機器。
【請求項3】
前記ロッドガイドは、大気側端に外径が小径な環状の小径部を有し、
前記小径部は、外径が大気側に向かうほど小径となって外周で前記テーパ面を形成する外周傾斜部と、外周傾斜部から垂直に立ち上がり外周面が前記アウターシェルの内周に正対する円環部とを有し、
前記外周シールは、前記小径部と前記アウターシェルとの間の環状隙間に収容される
ことを特徴とする請求項1に記載の液圧機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液圧機器に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に複筒型の油圧緩衝器にあっては、シリンダの開口端およびシリンダを覆う外筒の開口端を閉塞すると共にシリンダ内に移動自在に挿入されるロッドを軸支するロッドガイドを備え、また、このロッドガイドに環状のインサートメタルの内周と外周のそれぞれにシールを備えたシール部材を積層して、油圧緩衝器内を油密に保っている。
【0003】
詳しくは、シール部材は、環状のインサートメタルと、インサートメタルのシリンダ側の端面の外周部に溶着されたゴムで形成されて外筒の内周に当接する環状の外周シールと、インサートメタルの内周に溶着されたゴムで形成されてロッドの外周に摺接するシールリップとダストリップとを備えており、ロッドガイドに積層された状態で外筒内に嵌合される。
【0004】
ロッドガイドは、反シリンダ側となる大気側の端部が徐々に縮径されて外周にテーパ面を備えており、当該テーパ面と外筒の内周面との間に外周シールを収容する環状隙間を形成している。そして、シール部材を外筒の内周に嵌合させてロッドガイドの大気側の端面にインサートメタルを積層させると、外周シールがテーパ面と外筒の内周面との間で圧縮されてテーパ面と外筒の内周面とに密着するので、シール部材は、ロッドガイドと外筒との間をシールできる。
【0005】
このような液圧機器では、外周シールの断面形状は矩形とされているおり、外周シールの外周を外筒の内周面に密着させているが、外周シールの外周における外筒に対する接触面圧の分布が一様になってしまう。良好なシール性を得るには、接触面圧に適度な勾配があるのが好ましいので、外周シールにおけるシール性を向上させるために、外周シールの外周の周囲を取り巻くように複数の突条でなるリップを設けた液圧機器の提案がなされている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述したように、外周シールの外周に複数のリップを設けるとシール性が向上するのであるが、リップにおける接触面圧を高めるためにリップの外径が外筒の内径よりも大径となっており、外筒内にシール部材を挿入しづらく、組付性が悪化してしまう。
【0008】
また、シール部材を外筒内に挿入する際にリップが外筒の内周面にと擦れるために、リップが劣化してシール性を損なってしまう可能性もある。
【0009】
そこで、本発明は、組付性を損なうことなく良好なシール性を実現できる液圧機器の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記した目的を解決するために、本発明の液圧機器は、筒状のアウターシェルと、アウターシェル内に軸方向へ移動可能に挿入されるロッドと、環状であってアウターシェルの一端の内周に嵌合されて、内周にロッドが挿通されるとともに外周の大気側にテーパ面を有するロッドガイドと、ロッドガイドに積層される環状のインサートメタルと、インサートメタルの外周に設けられてテーパ面に押し当てられてアウターシェルの内周に密着する環状の外周シールとを有して、アウターシェルの一端の内周に挿入されるシール部材とを備え、外周シールは、外周シールがテーパ面に当接するとアウターシェルの内周に当接する環状の第1リップを外周に有し、第1リップは、外周シールがテーパ面に当接しない状態ではアウターシェルの内周に当接しないことを特徴としている。
【0011】
このように構成された液圧機器は、シール部材をアウターシェル内に挿入する際に第1リップが抵抗とならず、シール部材をアウターシェル内に容易に挿入できるとともに外周シールをアウターシェル内に挿入する際に第1リップを傷めることもない。また、このように構成された液圧機器は、外周シールがテーパ面に当接すると拡径して第1リップをアウターシェルの内周に押し付けるので、第1リップにおける接触面圧を高めることができ、シール性能を向上できる。
【0012】
また、外周シールが複数の環状角部を有し、環状角部のうち、最も反大気側の環状角部で前記第1リップが形成され、環状角部のうち第1リップを形成する環状角部以外の環状角部でアウターシェルの内周に密着する第2リップが形成されてもよい。このように構成された液圧機器によれば、第1リップ以外にもアウターシェルの内周への接触面圧を高める第2リップを備えるので、より一層シール性を向上でき、シール部材をアウターシェル内に挿入する際に第2リップとアウターシェルとの間に大きな摩擦力が生じないので組付性を損なうこともない。また、このように構成された液圧機器によれば、外周シールのアウターシェル内を向く反大気側の端部の外周の断面を階段形状とすることで第1リップと第2リップとが形成されるので、シール部材を形成する型からシール部材を抜く際に、第1リップと第2リップとが型に引っ掛かることがなく、シール部材を型から容易に抜くことができる。
【0013】
さらに、ロッドガイドは、大気側端に外径が小径な環状の小径部を有し、小径部は、外径が大気側に向かうほど小径となって外周でテーパ面を形成する外周傾斜部と、外周傾斜部から垂直に立ち上がり外周面がアウターシェルの内周に正対する円環部とを有し、外周シールは、小径部とアウターシェルとの間の環状隙間に収容されてもよい。このように構成された液圧機器によれば、第1リップによってシール性を向上できるとともに、環状隙間内での外周シールの充填率を高めて安定したシール性能が得られる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の液圧機器によれば、組付性を損なうことなく良好なシール性を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】一実施の形態における液圧機器の縦断面図である。
【
図2】一実施の形態における液圧機器のシール部における拡大縦断面図である。
【
図3】一実施の形態における液圧機器のシール部材の拡大断面図である。
【
図4】一実施の形態における液圧機器のロッドガイドに積層したシール部材の拡大断面図である。
【
図5】一実施の形態の第1変形例の液圧機器の一部拡大断面図である。
【
図6】一実施の形態の第2変形例の液圧機器の一部拡大断面図である。
【
図7】一実施の形態の第3変形例の液圧機器の一部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の液圧機器を図に基づいて説明する。一実施の形態における液圧機器は、複筒型緩衝器とされている。液圧機器は、複筒型緩衝器として機能するために、
図1に示すように、シリンダ1と、シリンダ1内に摺動自在に挿入されるとともにシリンダ1内を液体が充填されるロッド側室R1とピストン側室R2に区画するピストン2と、シリンダ1内に移動自在に挿入されるとともにピストン2に連結されるロッド3と、シリンダ1の外周側に配置される筒状のアウターシェル4と、シリンダ1とアウターシェル4との間の隙間で形成されてピストン側室R2に連通されるとともに気体と液体とが充填されるリザーバRと、アウターシェル4とシリンダ1の端部を閉塞するとともにロッド3を摺動自在に軸支するロッドガイド5と、ロッドガイド5に積層されてロッド3とアウターシェル4との間をシールするシール部材6とを備えて構成されている。
【0017】
以下、液圧機器の各部について詳細に説明する。シリンダ1は、筒状とされ、上端にはロッド3が摺動自在に挿通されるロッドガイド5が嵌合され、シリンダ1の上端が閉塞されている。また、シリンダ1の下端にはバルブケース12が嵌合されて、当該バルブケース12によってシリンダ1の下端が閉塞されている。
【0018】
このように、シリンダ1は、上端と下端がそれぞれロッドガイド5とバルブケース12によって閉塞され、シリンダ1内に摺動自在に挿入されたピストン2によって、シリンダ1内が
図1中上方のロッド側室R1と下方のピストン側室R2に区画され、これらロッド側室R1およびピストン側室R2内には作動油等の液体が充填されている。
【0019】
また、ピストン2は、シリンダ1内に移動自在に挿通されたロッド3の
図1中下端となる先端に取付けられており、上記ロッド側室R1およびピストン側室R2とを連通するポート2a,2bを有している。
【0020】
ピストン2のポート2aにはピストン側室R2からロッド側室R1へ向かう液体の流れのみを許容するチェックバルブ13が設けられており、また、ピストン2のポート2bには、ロッド側室R1からピストン側室R2へ向かう液体の流れのみを許容するとともに通過する液体の流れに抵抗を与える減衰バルブ14が設けられている。
【0021】
さらに、シリンダ1の外方には、このシリンダ1を覆って、シリンダ1との間に隙間を形成するとともに
図1中上端となる一端が開口されており
図1中下端となる他端が閉塞される有底筒状のアウターシェル4が設けられている。アウターシェル4とシリンダ1との間の隙間には、リザーバRが形成されている。リザーバRには、液体と不活性ガス等の気体とが充填されている。なお、アウターシェル4の下端の閉塞に際し、蓋を設けてこれを閉塞してもよいし、予めアウターシェル4を有底筒状としておいてもよい。
【0022】
ロッドガイド5は、
図2に示すように、環状とされており、アウターシェル4の内周に嵌合される大径な大径部5aと、外径が大径部5aよりも小径であって大径部5aの
図2中下端となるアウターシェル側端から突出してシリンダ1内に嵌合される嵌合部5bと、大径部5aの
図2中上端となる大気側端から上方へ向けて突出する外径が大径部5aより小径な環状の小径部5cと、大径部5aの大気側端の内周に設けた環状凹部5dと、大径部5aを貫いて大径部5aの下端から上端であって小径部5cの内側へ開口する貫通孔5eと、大径部5aの内周から嵌合部5bの内周に装着されてロッド3の外周に摺接する筒状のブッシュ5fとを備えて構成されている。また、小径部5cは、外径が大気側に向かうほど小径となっており、外周でテーパ面tを形成している。
【0023】
このように構成されたロッドガイド5をシリンダ1およびアウターシェル4に嵌合すると、アウターシェル4の内周面と小径部5cの外周のテーパ面tとの間に断面三角形状の環状隙間が形成される。また、ロッドガイド5のアウターシェル側端における貫通孔5eの開口は、リザーバRに臨んでおり、貫通孔5eを介してロッドガイド5の小径部5cの内周側の空間とリザーバRとが連通されている。
【0024】
つづいて、シール部材6は、ロッドガイド5に積層される環状のインサートメタル7と、インサートメタル7のアウターシェル内側端となる
図2中下端の外周に設けられてテーパ面tに押し当てられてアウターシェル4の内周に密着する環状の外周シール8と、インサートメタル7の内周に設けられてロッド3の外周に摺接する環状のオイルシール9およびダストシール10と、インサートメタル7の
図2中の下端の中間部に設けられた環状のチェックシール11とを備えている。
【0025】
インサートメタル7は、円環状であって、ロッドガイド5の小径部5cの大気側面に積層されている。外周シール8は、ゴム製であって、
図2および
図3に示すように、インサートメタル7のアウターシェル4側を向く端部の外周であってロッドガイド5の小径部5cにおけるテーパ面tに軸方向で対向する部位に取り付けられている。詳しくは、外周シール8は、断面矩形の略矩形の環状の本体部8aと、本体部8aのアウターシェル4内を向く端部である
図3中下端部の外周の断面を階段形状にすることで本体部8aに設けれられた2つの環状角部で形成された第1リップ8bおよび第2リップ8cとを備えている。
【0026】
このように、第1リップ8bおよび第2リップ8cは、本実施の形態の液圧機器では、外周シール8の本体部8aの
図3中の下端外周の角を矩形に切り落としたような階段形状とすることで形成されている。そして、第1リップ8bは、本体部8aに設けられた環状角部のうち、最も反大気側、つまり、最もアウターシェル4内側の環状角部とされている。また、第2リップ8cは、本体部8aに設けられた環状角部のうち、第1リップ8bを形成する環状角部以外の環状角部とされている。
【0027】
シール部材6がロッドガイド5に積層される前は、外周シール8における第1リップ8bの外径は、本体部8aの外径よりも小径であって、アウターシェル4の内径よりも小径となっている。なお、第2リップ8cの外径は、本体部8aの外径と同径となっている。なお、本体部8aおよび第2リップ8cの外径は、アウターシェル4の内径よりも小径となっているが、アウターシェル4内に無理なく挿入できる程度であればアウターシェル4の内径よりも大径となっていてもよい。
【0028】
オイルシール9は、環状であってインサートメタル7の内周のアウターシェル内側に設けられており、ロッド3の外周に摺接してロッド3がアウターシェル4から退出する方向へ移動する際にロッド3の外周に付着した液体をかき落してアウターシェル4外へ漏洩するのを防止する。ダストシール10は、環状であってインサートメタル7の内周の大気側に設けられており、ロッド3の外周に摺接してロッド3がアウターシェル4内へ侵入する方向へ移動する際にロッド3の外周に付着したダストをかき落してアウターシェル4内にダストが侵入するのを防止する。
【0029】
チェックシール11は、皿ばね状であってシール部材6をロッドガイド5に積層すると、先端が大径部5aの大気側端であって小径部5cの内周側に当接して環状凹部5dと貫通孔5eとの連通を断っている。そして、オイルシール9がかき落した液体が環状凹部5d内に蓄積して環状凹部5d内の圧力が高くなるとチェックシール11が撓んで大径部5aから離間し、環状凹部5d内の液体が貫通孔5eを通過してリザーバRへ排出される。なお、リザーバR内の圧力が環状凹部5d内の圧力よりも高くなることがあっても、チェックシール11は、リザーバR内の圧力を受けて大径部5aに押し付けられて環状凹部5dと貫通孔5eとの連通を阻止するため、リザーバR内の液体或いは気体が環状凹部5dへ逆流することはない。
【0030】
このように構成されたシール部材6は、たとえば、外周シール8、オイルシール9、ダストシール10およびチェックシール11を形成する型内に予め接着剤を塗布したインサートメタル7を収容してゴム材料を型内に注入してインサートメタル7に各シール8,9,10,11を加硫接着することで製造される。
【0031】
そして、このシール部材6は、ロッドガイド5を収容した状態のアウターシェル4の一端である開口端の内周に挿入されてロッドガイド5に積層された後、アウターシェル4の開口端を内周側に加締めて、加締部4aとロッドガイド5との間で挟持されてアウターシェル4に固定される。このように、アウターシェル4に固定されたシール部材6は、シリンダ1とアウターシェル4の開口端を封止して、シリンダ1およびアウターシェル4内を密封状態に維持する。
【0032】
なお、シリンダ1の下端は、バルブケース12が嵌合して封止され、当該バルブケース12によってリザーバRとピストン側室R2とが仕切られている。バルブケース12は、アウターシェル4の下端の底とシリンダ1とで挟持されて固定されている。つまり、この実施の形態の場合、アウターシェル4内にバルブケース12、シリンダ1、ロッドガイド5およびシール部材6の順に挿入して、アウターシェル4の
図1中上端開口端を外周側から内周側へ向けて加締めることで、アウターシェル4内に挿入された各部材がアウターシェル4に固定される。
【0033】
また、シール部材6をロッドガイド5に積層すると、
図4に示すように、外周シール8がロッドガイド5における小径部5cの外周のテーパ面tに押し付けられて、外周シール8の下端となる先端側がテーパ面tに倣って拡径するように変形して、第1リップ8bの先端の外径が
図4中で破線で示したアウターシェル4の内径よりも大径となるとともに、第2リップ8cの先端の外径もアウターシェル4の内径よりも大径となる。
【0034】
よって、シール部材6をアウターシェル4内に収容されたロッドガイド5に積層すると、外周シール8がロッドガイド5の外周のテーパ面tに当接して下端が拡径変形して第1リップ8bおよび第2リップ8cがアウターシェル4の内周面に押し付けられる。外周シール8の第1リップ8bおよび第2リップ8c以外の外周も前記拡径変形によってアウターシェル4の内周に密着するが、第1リップ8bと第2リップ8cにおけるアウターシェル4に対する接触面圧は、外周シール8の第1リップ8bおよび第2リップ8c以外の外周における接触面圧より高くなる。
【0035】
よって、外周シール8の外周がアウターシェル4の内周に対して接触する部位における接触面圧に勾配が生じて、外周シール8がアウターシェル4の内周をシールする際のシール性能が向上する。なお、ロッドガイド5の外周に設けられるテーパ面tは、外周シール8の下端を拡径変形させて第1リップ8bをアウターシェル4の内周面に押し付け得る形状となっていればよいので、一定の勾配で傾斜する傾斜面以外にも湾曲面や途中で勾配が変化する傾斜面とされてもよい。
【0036】
つづいて、バルブケース12は、リザーバRとピストン側室R2とを連通する吸込通路21と、同じくリザーバRとピストン側室R2とを連通する排出通路22とを備えている。吸込通路21には、リザーバRからピストン側室R2へ向かう液体の流れのみを許容するチェックバルブ23が設けられており、排出通路22には、ピストン側室R2からリザーバRへ向かう液体の流れのみを許容するとともに通過する液体の流れに抵抗を与える減衰バルブ24が設けられている。
【0037】
以上のように、液圧機器は構成されており、つづいて、液圧機器の作動について説明する。液圧機器である複筒型緩衝器が伸長作動する場合、ピストン2が
図1中上方へ移動して、図中の上方のロッド側室R1内の圧力が上昇して、ロッド側室R1内の液体がピストン2のポート2bを介してピストン側室R2へ移動する。この液体の移動に際してポート2bに設けた減衰バルブ14が抵抗を与えるのでロッド側室R1とピストン側室R2に差圧が生じ、複筒型液圧緩衝器は、伸長作動を抑制する伸側減衰力を発生する。また、シリンダ1からロッド3が退出するので、チェックバルブ23開いてシリンダ1内で不足する液体がリザーバRからバルブケース12の吸込通路21を介してシリンダ1内に供給される。
【0038】
逆に、複筒型緩衝器が収縮作動する場合、ピストン2が
図1中下方へ移動するので、図中の上方のロッド側室R1内の容積が減少するが、ロッド3がシリンダ1内に侵入することで、シリンダ1内ではロッド侵入体積分の液体が過剰となる。
【0039】
そして、この場合、チェックバルブ13が開いてロッド側室R1とピストン側室R2の圧力が略等しくなるものの、過剰となる液体が排出通路22を介してリザーバRへ排出されることになって、この排出通路22を通過する液体の流れに対して減衰バルブ24が抵抗を与えるので、シリンダ1内の圧力が昇圧され、複筒型緩衝器は、シリンダ1内圧力とピストン2における受圧面積差に応じて収縮作動を抑制する圧側減衰力を発生する。
【0040】
以上、本実施の形態の液圧機器は、筒状のアウターシェル4と、アウターシェル4内に軸方向へ移動可能に挿入されるロッド3と、環状であってアウターシェル4の一端の内周に嵌合されて、内周にロッド3が挿通されるとともに外周の大気側にテーパ面tを有するロッドガイド5と、ロッドガイド5に積層される環状のインサートメタル7と、インサートメタル7の外周に設けられてテーパ面tに押し当てられてアウターシェル4の内周に密着する環状の外周シール8とを有して、アウターシェル4の一端の内周に挿入されるシール部材6とを備え、外周シール8は、外周シール8がテーパ面tに当接するとアウターシェル4の内周に当接する環状の第1リップ8bを外周に有し、第1リップ8bは、外周シール8がテーパ面tに当接しない状態ではアウターシェル4の内周に当接しないようになっている。
【0041】
このように構成された液圧機器では、外周シール8がテーパ面tに当接しない状態では外周シール8における第1リップ8bがアウターシェル4の内周に当接しないので、シール部材6をアウターシェル4内に挿入する際に第1リップ8bが抵抗とならず、シール部材6をアウターシェル4内に容易に挿入できるとともに外周シール8をアウターシェル4内に挿入する際に第1リップ8bを傷めることもない。また、本実施の形態の液圧機器では、外周シール8がテーパ面tに当接すると拡径して第1リップ8bをアウターシェル4の内周に押し付けるので、第1リップ8bにおける接触面圧を高めることができ、シール性能を向上できる。以上より、本実施の形態の液圧機器によれば、組付性を損なうことなく良好なシール性を実現できる。また、複筒型緩衝器の製造する過程において、リザーバR内に気体を注入する工程で、アウターシェル4内にシール部材6を収容した状態で、外周シール8とアウターシェル4との間からリザーバR内に気体を注入する作業工程が採用される場合があるが、シール部材6をロッドガイド5から浮かした状態では第1リップ8bがアウターシェル4に強く押し当てられないので、気体封入作業を容易に行うことができる。よって、本実施の形態の液圧機器によれば、液圧機器を複筒型緩衝器とする場合、組付性およびシール性の向上だけでなく、気体封入の際の作業も容易となる。
【0042】
なお、
図5に示した液圧機器の第1変形例における外周シール8のように、第1リップ8b1および第2リップ8c1の先端を円弧状面としてもよく、このように構成された一実施の形態の第1変形例における液圧機器によれば、シール部材6をアウターシェル4内により抵抗なく挿入でき、より一層組付性を向上できる。
【0043】
さらに、本実施の形態の液圧機器における外周シール8は、アウターシェル4内を向く反大気側の端部の外周の断面を階段形状とすることで形成される複数の環状角部を有し、環状角部のうち、最も反大気側の環状角部で第1リップ8bが形成され、環状角部のうち第1リップ8bを形成する環状角部以外の環状角部でアウターシェル4の内周に密着する第2リップが形成される。このように構成された液圧機器によれば、第1リップ8b以外にもアウターシェル4の内周への接触面圧を高める第2リップ8cを備えるので、より一層シール性を向上できる。また、アウターシェル4内を向く端部の外周の断面を階段形状とすることで形成される複数の環状角部で第1リップ8bと第2リップ8cとが形成されるので、外周シール8がロッドガイド5のテーパ面tに当接しない状態では、第2リップ8cの外径は、外周シール8の最も大きな外径以下となる。よって、このように構成された液圧機器によれば、シール部材6をアウターシェル4内に挿入する際に、第2リップ8cとアウターシェル4との間に大きな摩擦力が生じないので、組付性を損なうことなくシール性をより一層向上できる。さらに、外周シール8のアウターシェル4内を向く反大気側の端部の外周の断面を階段形状とすることで第1リップ8bと第2リップ8cとが形成されるので、シール部材6を形成する型からシール部材6を抜く際に、第1リップ8bと第2リップ8cとが型に引っ掛かることがなく、シール部材6を型から容易に抜くことができる。
【0044】
なお、
図6に示した液圧機器の第2変形例における外周シール81のように、外周シール81の反大気側の端部の外周の断面を複数段の階段形状とすることで、最も反大気側の第1リップ81aの他に、2つ以上の第2リップ81b,81cを設けてもよい。このように構成された一実施の形態の第2変形例の液圧機器によれば、アウターシェル4内に大きな接触面圧で当接する第2リップ81b,81cを複数とすることで、より一層シール性を向上できる。
【0045】
また、
図7に示した一実施の形態の第3変形例の液圧機器におけるロッドガイド51のように形状を変更してもよい。ロッドガイド51は、本体部51aと、本体部51aの大気側端に外径が小径な環状の小径部51bを備えており、小径部51bが外径が大気側に向かうほど小径となって外周でテーパ面t1を形成する外周傾斜部51b1と、外周傾斜部51b1から垂直に立ち上がり外周面がアウターシェル4の内周に正対する円環部51b2とを備えている。このように構成されたロッドガイド51をアウターシェル4の一端である開口端の内周に嵌合すると、小径部51bとアウターシェル4との間に環状隙間が形成され、シール部材6における外周シール8が当該環状隙間内に収容される。
【0046】
外周シール8は、外周傾斜部51b1の外周のテーパ面t1に当接すると、下端が拡径して第1リップ8bと第2リップ8cとがアウターシェル4の内周面に押し付けられるので、第1リップ8bと第2リップ8cにおけるアウターシェル4の内周に対する接触面圧を高めてシール性を向上できる。そして、本実施の形態のロッドガイド51における小径部51bとアウターシェル4との間の環状隙間の容積は、前述した外周が全てテーパ面tとなっているロッドガイド5における小径部5cに比べて円環部51b2を備えている関係上、前述のロッドガイド5における小径部5cとアウターシェル4との間の環状隙間の容積よりも小さくなっており、外周シール8の体積よりも小さくなっている。
【0047】
このように構成された一実施の形態の第3変形例における液圧機器における環状隙間の容積に対する外周シール8の体積の比率である充填率は、一実施の形態の液圧機器における環状隙間の容積に対する外周シール8の体積の比率である充填率よりも高くなる。よって、一実施の形態の第3変形例における液圧機器では、外周シール8が圧縮量が大きくなり、アウターシェル4の内周に対する第2リップ8cの接触面圧の勾配が減少するものの外周シール8の外周における接触面圧が全体として高まるので、外周シール8の外周に細かな傷があってもシール性が損なわれることがない。よって、一実施の形態の第3変形例の液圧機器によれば、第1リップ8bによってシール性を向上できるとともに、環状隙間内での外周シール8の充填率を高めることによって安定したシール性能を得ることができる。
【0048】
なお、前述したところでは、液圧機器を複筒型緩衝器としているが、本発明は、アウターシェル内に直接ピストンが摺接する単筒型の緩衝器や、緩衝器以外にもアクチュエータといった液圧機器に適用できる。
【0049】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形、および変更が可能である。
【符号の説明】
【0050】
3・・・ロッド、4・・・アウターシェル、5,51・・・ロッドガイド、5c,51b・・・小径部、6・・・シール部材、7・・・インサートメタル、8・・・外周シール、8b・・・第1リップ、8c・・・第2リップ、51b1・・・外周傾斜部、51b2・・・円環部、t,t1・・・テーパ面