(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023117740
(43)【公開日】2023-08-24
(54)【発明の名称】セルロースナノファイバー組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/11 20060101AFI20230817BHJP
C08L 1/02 20060101ALI20230817BHJP
【FI】
C08J3/11 CEP
C08L1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022020464
(22)【出願日】2022-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】000005175
【氏名又は名称】藤倉コンポジット株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】金井 将浩
(72)【発明者】
【氏名】星 徹
【テーマコード(参考)】
4F070
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA02
4F070AB13
4F070AC38
4F070AC66
4F070AC72
4F070AE28
4F070CA02
4F070CB05
4F070CB11
4F070CB12
4J002AB011
4J002AB01W
4J002AB022
4J002AB02X
4J002HA06
(57)【要約】
【課題】セルロースナノファイバーの分散性に優れ、セルロースの適用範囲を容易に広げることができるセルロースナノファイバー組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】分散媒を用意する分散媒用意工程と、用意した前記分散媒に、セルロース誘導体を添加してセルロース誘導体含有溶液を調製するセルロース誘導体添加工程と、前記セルロース誘導体含有溶液にセルロースナノファイバーを添加するセルロースナノファイバー添加工程と、を含むセルロースナノファイバー組成物の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散媒を用意する分散媒用意工程と、
用意した前記分散媒に、セルロース誘導体を添加してセルロース誘導体含有溶液を調製するセルロース誘導体添加工程と、
前記セルロース誘導体含有溶液にセルロースナノファイバーを添加するセルロースナノファイバー添加工程と、
を含むセルロースナノファイバー組成物の製造方法。
【請求項2】
分散媒を用意する分散媒用意工程と、
用意した前記分散媒に、セルロースナノファイバーを添加してセルロースナノファイバー含有分散媒を調製するセルロースナノファイバー添加工程と、
前記セルロースナノファイバー含有分散媒にセルロース誘導体を添加するセルロース誘導体添加工程と、
を含むセルロースナノファイバー組成物の製造方法。
【請求項3】
分散媒を用意する分散媒用意工程と、
用意した前記分散媒に、セルロース成分としてセルロース誘導体とセルロースナノファイバーを添加するセルロース成分添加工程と、
を含むセルロースナノファイバー組成物の製造方法。
【請求項4】
前記セルロース誘導体が、ヒドロキシアルキルセルロース及びアルキルセルロースからなる群から選択された少なくとも1種を含む請求項1乃至3のいずれか1項に記載のセルロースナノファイバー組成物の製造方法。
【請求項5】
前記セルロース誘導体が、ヒドロキシアルキルセルロースである請求項4に記載のセルロースナノファイバー組成物の製造方法。
【請求項6】
前記ヒドロキシアルキルセルロースが、ヒドロキシプロピルセルロースである請求項4または5に記載のセルロースナノファイバー組成物の製造方法。
【請求項7】
前記セルロースナノファイバー100質量部に対して、前記セルロース誘導体が5.0質量部以上5000質量部以下添加される請求項1乃至6のいずれか1項に記載のセルロースナノファイバー組成物の製造方法。
【請求項8】
前記セルロースナノファイバー100質量部に対して、前記セルロース誘導体が10質量部以上2000質量部以下添加される請求項1乃至6のいずれか1項に記載のセルロースナノファイバー組成物の製造方法。
【請求項9】
前記分散媒100質量部に対して、前記セルロース誘導体を0.5質量部以上120質量部以下添加する請求項1乃至8のいずれか1項に記載のセルロースナノファイバー組成物の製造方法。
【請求項10】
前記セルロースナノファイバーの分散液である請求項1乃至9のいずれか1項に記載のセルロースナノファイバー組成物の製造方法。
【請求項11】
前記セルロースナノファイバーが、乾燥処理されているセルロースナノファイバーである請求項1乃至10のいずれか1項に記載のセルロースナノファイバー組成物の製造方法。
【請求項12】
前記乾燥処理が、凍結乾燥である請求項11に記載のセルロースナノファイバー組成物の製造方法。
【請求項13】
前記セルロースナノファイバーの分散液の、撹拌手段の回転数1000rpmにおける波長400nmの光の透過度の平均値が、0.30以下である請求項10に記載のセルロースナノファイバー組成物の製造方法。
【請求項14】
前記セルロースナノファイバーの分散液の、撹拌手段の回転数1000rpmにおける波長400nmの光の透過度の標準偏差が、0.10以下である請求項10または13に記載のセルロースナノファイバー組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノセルロース組成物の製造方法に関し、特に、疎水性物質に対しても親和性を示すセルロースナノファイバー組成物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ナノセルロースは、パルプなどの植物繊維を水媒体中で解繊して得られる、太さがナノメートルオーダーのセルロース繊維である。ナノセルロースは、ナノセルロースの構造化セルロースによって、セルロースナノファイバー、セルロースクリスタル、セルロースウィスカー、バクテリアセルロースなどに分類される。セルロースナノファイバーは、軽量且つ高強度であることから、例えば、熱可塑性樹脂などの補強材としての利用が注目されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一方で、セルロースナノファイバーは、親水性であることから、有機溶媒等の分散媒への均一分散が困難であり、適用範囲が限定されるという問題があった。そこで、例えば、従来、含水状態のセルロースナノファイバーに有機酸ビニルを反応させ、その後に生成物を回収することによって、セルロースナノファイバーに疎水性を付与することで、有機溶媒への分散性を向上させることが提案されている(例えば、特許文献2参照)。以下、植物繊維などから得られた天然由来のセルロースナノファイバーに対して疎水性などの所望の特性を付与したセルロースナノファイバーを、「変性セルロースナノファイバー」ということがある。
【0004】
しかし、特許文献2に示す変性セルロースナノファイバーは、セルロースナノファイバーと有機酸ビニルとの反応条件が厳しく、また生産工程も煩雑であり、製造効率に改善の必要性があった。さらには、有機酸ビニルで変性された変性セルロースナノファイバーでは、変性の程度によりセルロースナノファイバー骨格の分子構造自体が変化してしまい、変性セルロースナノファイバーの疎水性の向上の点、ひいては、有機溶媒等の分散媒への分散性向上の点で改善の余地があった。従って、特許文献2に示す変性セルロースナノファイバーは、セルロースナノファイバーの分散性に優れた分散液を得る点で改善の必要性があり、依然として、セルロースナノファイバーの適用範囲が限定されるという問題があった。
【0005】
また、セルロースナノファイバーに疎水性を付与する技術として、芳香族基等の濡れ性から選定した修飾基とポリアルキレングリコール基等の立体反発性と疎水性から選定した修飾基という2種類の修飾基をセルロースナノファイバーの表面に結合させることで、少ない修飾基の質量で疎水性へ改質したセルロースナノファイバーを得ることが提案されている。しかし、芳香族基等とポリアルキレングリコール基等の2種類の修飾基を用いて製造した変性セルロースナノファイバーは、化学構造が複雑であり、依然として、セルロースナノファイバーの分散性に優れた分散液を得る点で改善の必要性があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-11392号公報
【特許文献2】国際公開第2016/010016号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記事情に鑑み、本発明は、セルロースナノファイバーの分散性に優れ、セルロースの適用範囲を容易に広げることができるセルロースナノファイバー組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の構成の要旨は、以下の通りである。
[1]分散媒を用意する分散媒用意工程と、
用意した前記分散媒に、セルロース誘導体を添加してセルロース誘導体含有溶液を調製するセルロース誘導体添加工程と、
前記セルロース誘導体含有溶液にセルロースナノファイバーを添加するセルロースナノファイバー添加工程と、
を含むセルロースナノファイバー組成物の製造方法。
[2]分散媒を用意する分散媒用意工程と、
用意した前記分散媒に、セルロースナノファイバーを添加してセルロースナノファイバー含有分散媒を調製するセルロースナノファイバー添加工程と、
前記セルロースナノファイバー含有分散媒にセルロース誘導体を添加するセルロース誘導体添加工程と、
を含むセルロースナノファイバー組成物の製造方法。
[3]分散媒を用意する分散媒用意工程と、
用意した前記分散媒に、セルロース成分としてセルロース誘導体とセルロースナノファイバーを添加するセルロース成分添加工程と、
を含むセルロースナノファイバー組成物の製造方法。
[4]前記セルロース誘導体が、ヒドロキシアルキルセルロース及びアルキルセルロースからなる群から選択された少なくとも1種を含む[1]乃至[3]のいずれか1つに記載のセルロースナノファイバー組成物の製造方法。
[5]前記セルロース誘導体が、ヒドロキシアルキルセルロースである[4]に記載のセルロースナノファイバー組成物の製造方法。
[6]前記ヒドロキシアルキルセルロースが、ヒドロキシプロピルセルロースである[4]または[5]に記載のセルロースナノファイバー組成物の製造方法。
[7]前記セルロースナノファイバー100質量部に対して、前記セルロース誘導体が5.0質量部以上5000質量部以下添加される[1]乃至[6]のいずれか1つに記載のセルロースナノファイバー組成物の製造方法。
[8]前記セルロースナノファイバー100質量部に対して、前記セルロース誘導体が10質量部以上2000質量部以下添加される[1]乃至[6]のいずれか1つに記載のセルロースナノファイバー組成物の製造方法。
[9]前記分散媒100質量部に対して、前記セルロース誘導体を0.5質量部以上120質量部以下添加する[1]乃至[8]のいずれか1つに記載のセルロースナノファイバー組成物の製造方法。
[10]前記セルロースナノファイバーの分散液である[1]乃至[9]のいずれか1つに記載のセルロースナノファイバー組成物の製造方法。
[11]前記セルロースナノファイバーが、乾燥処理されているセルロースナノファイバーである[1]乃至[10]のいずれか1つに記載のセルロースナノファイバー組成物の製造方法。
[12]前記乾燥処理が、凍結乾燥である[11]に記載のセルロースナノファイバー組成物の製造方法。
[13]前記セルロースナノファイバーの分散液の、撹拌手段の回転数1000rpmにおける波長400nmの光の透過度の平均値が、0.30以下である[10]に記載のセルロースナノファイバー組成物の製造方法。
[14]前記セルロースナノファイバーの分散液の、撹拌手段の回転数1000rpmにおける波長400nmの光の透過度の標準偏差が、0.10以下である[10]または[13]に記載のセルロースナノファイバー組成物の製造方法。
【0009】
本発明のセルロースナノファイバー組成物の製造方法で使用するセルロースナノファイバーは、疎水性などの所望の特性を付与した変性セルロースナノファイバーではない(以下、変性セルロースナノファイバーではないセルロースナノファイバーを単に「セルロースナノファイバー」ということがある。)。すなわち、本発明のセルロースナノファイバー組成物の製造方法で使用するセルロースナノファイバーは、親水性の化学構造となっている。なお、セルロースナノファイバーは、平均繊維径が1.0μm未満である、すなわち、平均繊維径がナノオーダーであるセルロースファイバーである。
【0010】
また、本発明のセルロースナノファイバー組成物の製造方法で使用するセルロース誘導体は、得られたセルロースナノファイバー組成物中において分散媒に溶解した状態となっている。セルロースナノファイバー組成物中においてセルロース誘導体が分散媒に溶解していることで、セルロース誘導体の水酸基とセルロースナノファイバー組成物中のセルロースナノファイバーの水酸基が相互作用し、セルロースナノファイバーにセルロース誘導体が配位しているような状態になっていると考えられる。
【0011】
「セルロースナノファイバーの分散液の、撹拌手段の回転数1000rpmにおける波長400nmの光の透過度」とは、分散媒20mlにセルロースナノファイバー0.1gに対して、セルロース誘導体を所定量添加したセルロースナノファイバーの分散液を、4.5mlの容器中に2.0ml投入して、25℃の条件下、サイズが直径9mm、高さ6.5 mmであるスターラー(撹拌子)を用いて回転数1000rpmにて撹拌した際の、セルロースナノファイバーの分散液の高さ方向中央部分にて測定した、光路長1cm、波長400nmの光の透過度を意味する。また、1回の透過度の測定結果は、撹拌開始から2秒ごとに180秒間にわたって測定した各測定時間の透過度の平均透過度として算出した値である。また、「透過度の平均値」とは、3回の平均透過度の測定結果の平均値である。また、「透過度の標準偏差」とは、1回の平均透過度の測定、すなわち、2秒ごとに180秒間にわたって測定した透過度について、標準偏差を算出し、3回の平均透過度の測定結果で得られた各標準偏差の平均値を意味する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のセルロースナノファイバー組成物の製造方法によれば、分散媒を用意する分散媒用意工程と、用意した前記分散媒に、セルロース誘導体を添加してセルロース誘導体含有溶液を調製するセルロース誘導体添加工程と、前記セルロース誘導体含有溶液にセルロースナノファイバーを添加するセルロースナノファイバー添加工程と、を含む、または分散媒を用意する分散媒用意工程と、用意した前記分散媒に、セルロースナノファイバーを添加してセルロースナノファイバー含有分散媒を調製するセルロースナノファイバー添加工程と、前記セルロースナノファイバー含有分散媒にセルロース誘導体を添加するセルロース誘導体添加工程と、を含む、または分散媒を用意する分散媒用意工程と、用意した前記分散媒に、セルロース成分としてセルロース誘導体とセルロースナノファイバーを添加するセルロース成分添加工程と、を含むことにより、簡易な製造工程にて、セルロースナノファイバーの分散性に優れ、セルロースの適用範囲を容易に広げることができるセルロースナノファイバー組成物を製造することができる。すなわち、本発明のセルロースナノファイバー組成物の製造方法は、疎水性などの特性を付与した変性セルロースナノファイバーを用意しなくても、セルロースナノファイバーの分散性に優れた組成物を製造することができる。従って、本発明の製造方法で得られるセルロースナノファイバー組成物は、適用対象である疎水性物質へのセルロースナノファイバーへの分散を均一化できるので、セルロースの適用範囲を容易に広げることができる。
【0013】
また、本発明のセルロースナノファイバー組成物の製造方法によれば、セルロースナノファイバーを予め疎水性に変性しておく必要がないので、セルロースナノファイバーの骨格が維持されていることから、セルロースナノファイバーの特性を適用対象へ確実に付与することができる。
【0014】
本発明のセルロースナノファイバー組成物の製造方法によれば、セルロース誘導体がヒドロキシアルキルセルロース及びアルキルセルロースからなる群から選択された少なくとも1種を含むことにより、セルロースナノファイバー組成物中におけるセルロースナノファイバーの優れた分散性を確実に得ることができる。
【0015】
本発明のセルロースナノファイバー組成物の製造方法によれば、セルロース誘導体がヒドロキシアルキルセルロースであることにより、セルロースナノファイバー組成物中におけるセルロースナノファイバーの分散性がより確実に向上する。
【0016】
本発明のセルロースナノファイバー組成物の製造方法によれば、ヒドロキシアルキルセルロースがヒドロキシプロピルセルロースであることにより、セルロースナノファイバー組成物中におけるセルロースナノファイバーの分散性がさらに向上する。
【0017】
本発明のセルロースナノファイバー組成物の製造方法によれば、セルロースナノファイバー100質量部に対して、セルロース誘導体を5.0質量部以上5000質量部以下添加されることにより、セルロースナノファイバー組成物中におけるセルロースナノファイバーの優れた分散性を確実に得ることができる。また、本発明のセルロースナノファイバー組成物の製造方法によれば、セルロースナノファイバー100質量部に対して、セルロース誘導体を10質量部以上2000質量部以下添加されることにより、セルロースナノファイバー組成物中におけるセルロースナノファイバーの優れた分散性をさらに確実に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、比較例1(左)、実施例1(中央)、実施例2(右)におけるセルロースナノファイバー組成物の分散性を示す写真である。
【
図2】
図2は、比較例1(左)、実施例3(中央)、実施例4(右)におけるセルロースナノファイバー組成物の分散性を示す写真である。
【
図3】
図3は、比較例1(左)、実施例5(中央)、実施例6(右)におけるセルロースナノファイバー組成物の分散性を示す写真である。
【
図4】
図4は、比較例1(左)、実施例7(中央)、実施例8(右)におけるセルロースナノファイバー組成物の分散性を示す写真である。
【
図5】
図5は、比較例1(左)、実施例9(中央)、実施例10(右)におけるセルロースナノファイバー組成物の分散性を示す写真である。
【
図6】
図6は、比較例1(上段)、実施例1(下段左)、実施例2(下段右)におけるセルロースナノファイバー組成物の成形性を示す写真である。
【
図7】
図7は、比較例1(上段)、実施例3(下段左)、実施例4(下段右)におけるセルロースナノファイバー組成物の成形性を示す写真である。
【
図8】
図8は、比較例1(上段)、実施例5(下段左)、実施例6(下段右)におけるセルロースナノファイバー組成物の成形性を示す写真である。
【
図9】
図9は、比較例1(上段)、実施例7(下段左)、実施例8(下段右)におけるセルロースナノファイバー組成物の成形性を示す写真である。
【
図10】
図10は、比較例1(上段)、実施例9(下段左)、実施例10(下段右)におけるセルロースナノファイバー組成物の成形性を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のセルロースナノファイバー組成物の製造方法の詳細について、以下に説明する。まず、本発明のセルロースナノファイバー組成物の製造方法の第1の態様について説明する。
【0020】
<セルロースナノファイバー組成物の製造方法の第1の態様>
セルロースナノファイバー組成物の製造方法の第1の態様は、(1)分散媒を用意する分散媒用意工程と、(2)用意した前記分散媒に、セルロース誘導体を添加してセルロース誘導体含有溶液を調製するセルロース誘導体添加工程と、(3)前記セルロース誘導体含有溶液にセルロースナノファイバーを添加するセルロースナノファイバー添加工程と、を含む。第1の態様では、分散媒にセルロース誘導体を所定量添加した後、セルロースナノファイバーを添加してセルロースナノファイバー組成物を製造する。本発明のセルロースナノファイバー組成物の製造方法で得られるセルロースナノファイバー組成物は、セルロース誘導体は分散媒に溶解しており、セルロースナノファイバーは分散媒に分散している状態となる。
【0021】
セルロースナノファイバー組成物の製造方法の第1の態様によれば、上記(1)~(3)の簡易な製造工程にて、セルロースナノファイバーの分散性に優れ、セルロースの適用範囲を容易に広げることができるセルロースナノファイバー組成物を製造することができる。本発明のセルロースナノファイバー組成物の製造方法の第1の態様は、疎水性などの特性を付与した変性セルロースナノファイバーを用意しなくても、セルロースナノファイバーの分散性に優れた組成物を製造することができるので、得られるセルロースナノファイバー組成物は、適用対象である疎水性物質へのセルロースナノファイバーへの分散を均一化でき、結果、セルロースの適用範囲を容易に広げることができる。また、セルロースナノファイバーを予め疎水性に変性しておく必要がないので、セルロースナノファイバーの骨格が維持されており、セルロースナノファイバーの特性を適用対象へ確実に付与することができる。
【0022】
(1)分散媒用意工程
分散媒は、セルロースナノファイバー組成物中においてセルロースナノファイバーを分散させ、また、セルロース誘導体が溶解する媒体として機能する。分散媒用意工程で用意する分散液としては、有機溶媒を挙げることができる。有機溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、アセトン、エタノール、プロパノール等の炭素数1~5個のアルコール、シクロヘキサノール、プロピレングリコール、シクロヘキサノン、ジオキサン、セロソルブ、ブチルセロソルブ、氷酢酸、ギ酸、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ピリジン、塩化メチレン、クロロホルム、ベンゼン:メタノール(1:1(体積比))の混合物、トルエン:エタノール(3:2(体積比))の混合物、グリセリン:水(3:7(体積比))の混合物などを挙げることができる。また、分散媒としては、水を挙げることができる。これらの各種分散媒は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、分散液として、水と相溶する有機溶媒を任意の割合で混合した溶液を使用してもよい。
【0023】
(2)セルロース誘導体添加工程
セルロース誘導体添加工程は、分散媒にセルロース誘導体を所定量添加して、セルロース誘導体が分散媒に溶解したセルロース誘導体含有溶液を調製する工程である。分散媒に添加するセルロース誘導体は、セルロースが化学的に修飾されることで得られる化合物である点で、セルロースナノファイバーとは異なる成分である。セルロース誘導体は、セルロースナノファイバー組成物中において分散媒に溶解した状態となる。セルロースナノファイバー組成物中においてセルロース誘導体が分散媒に溶解していることで、セルロース誘導体の水酸基と、後の工程である(3)セルロースナノファイバー添加工程にてセルロース誘導体含有溶液に添加するセルロースナノファイバーの水酸基が相互作用し、セルロースナノファイバーにセルロース誘導体が配位しているような状態になると考えられる。また、セルロースナノファイバーとセルロース誘導体は、どちらもセルロース骨格を有することから分子構造が類似している。従って、セルロースナノファイバーはセルロース誘導体との親和性が高いことから、セルロースナノファイバーにセルロース誘導体が配位しているような状態になりやすいと考えられる。セルロースナノファイバーにセルロース誘導体が配位しているような状態になっていることで、セルロース誘導体の界面活性能が発揮されて、セルロースナノファイバー組成物中において、セルロースナノファイバーは優れた分散性を有することとなると考えられる。
【0024】
また、本発明の製造方法で得られるセルロースナノファイバー組成物は、生体適合性の材料であるセルロース誘導体を使用するので、環境負荷を低減でき、安全性にも優れている。
【0025】
セルロース誘導体は、セルロースの水酸基の少なくとも一部が化学反応して得られる誘導体であれば、特に限定されず、例えば、ヒドロキシアルキルセルロース、アルキルセルロース、カルボキシアルキルセルロース、ヒドロキシアルキルアルキルセルロース等が挙げられる。これらのうち、セルロースナノファイバー組成物中におけるセルロースナノファイバーの優れた分散性を確実に得ることができる点から、ヒドロキシアルキルセルロース、アルキルセルロースが好ましく、セルロースナノファイバーの分散性がより確実に向上する点で、ヒドロキシアルキルセルロースが特に好ましい。セルロース誘導体として、例えば、ヒドロキシアルキルセルロースとアルキルセルロースを併用してもよく、いずれかを単独で使用してもよい。
【0026】
ヒドロキシアルキルセルロースとしては、例えば、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシブチルセルロース、ヒドロキシペンチルセルロース、ヒドロキシヘキシルセルロース等が挙げられる。これらの化合物は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらのうち、セルロースナノファイバー組成物中におけるセルロースナノファイバーの分散性がさらに向上する点から、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースが好ましく、ヒドロキシプロピルセルロースが特に好ましい。
【0027】
アルキルセルロースとしては、メチルセルロース、エチルセルロース、プロピルセルロース、ブチルセルロース、ペンチルセルロース、ヘキシルセルロース等が挙げられる。これらの化合物は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらのうち、セルロースナノファイバーの優れた分散性をより確実に得ることができる点から、メチルセルロース、エチルセルロースが好ましく、エチルセルロースが特に好ましい。
【0028】
カルボキシアルキルセルロースとしては、例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カルボキシプロピルセルロース、カルボキシブチルセルロース、カルボキシペンチルセルロース、カルボキシヘキシルセルロース等が挙げられる。
【0029】
ヒドロキシアルキルアルキルセルロースとは、ヒドロキシアルキルとアルキルとを有するセルロースである。ヒドロキシアルキルアルキルセルロースとしては、例えば、ヒドロキシメチルメチルセルロース、ヒドロキシメチルエチルセルロース、ヒドロキシメチルプロピルセルロース、ヒドロキシメチルブチルセルロース等のヒドロキシメチルとアルキルとを有するセルロース;ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルエチルセルロース、ヒドロキシエチルプロピルセルロース、ヒドロキシエチルブチルセルロース等のヒドロキシエチルとアルキルとを有するセルロース;ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルエチルセルロース、ヒドロキシプロピルプロピルセルロース、ヒドロキシプロルブチルセルロース等のヒドロキシプロピルとアルキルとを有するセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、ヒドロキシブチルエチルセルロース、ヒドロキシブチルプロピルセルロース、ヒドロキシブチルブチルセルロース等のヒドロキシブチルとアルキルとを有するセルロースが挙げられる。
【0030】
セルロース誘導体含有溶液を調製する方法としては、例えば、分散媒にセルロース誘導体を添加し、所定の撹拌条件にて撹拌して、分散媒にセルロース誘導体を溶解させる方法が挙げられる。撹拌条件は、セルロース誘導体の分子量や添加量、撹拌容器の大きさ、攪拌機の種類等に応じて、適宜選択可能であり、特に限定されないが、例えば、撹拌温度10℃以上60℃以下、撹拌時間1分以上120分以下、撹拌速度600rpm以上1350rpm以下が挙げられる。撹拌時間及び撹拌速度については、撹拌機の種類、撹拌容器の大きさ、セルロース誘導体の分子量や添加量等によって、適当な条件を設定することができる。また、撹拌手段としては、特に限定されず、例えば、スターラー、撹拌翼等が挙げられる。
【0031】
セルロース誘導体の分散媒への添加量は、特に限定されないが、その下限値は、分散媒100質量部に対して、セルロースナノファイバーの優れた分散性を確実に得る点から、0.5質量部が好ましく、2.0質量部がより好ましく、3.0質量部が特に好ましい、一方で、セルロース誘導体の分散媒への添加量の上限値は、分散媒100質量部に対して、セルロースナノファイバーの特性を適用対象へ確実に付与する点から、120質量部が好ましく、75質量部がより好ましく、50質量部が特に好ましい。
【0032】
(3)セルロースナノファイバー添加工程
セルロースナノファイバー添加工程は、上記のようにして得られたセルロース誘導体含有溶液にセルロースナノファイバーを添加する工程である。セルロース誘導体含有溶液にセルロースナノファイバーを添加して、セルロース誘導体含有溶液にセルロースナノファイバーを分散させることでセルロースナノファイバー組成物を製造することができる。
【0033】
本発明のセルロースナノファイバー組成物の製造方法で使用されるセルロースナノファイバーは、セルロースナノファイバーに対して疎水性などの所望の特性を付与した変性セルロースナノファイバーではなく、変性処理をしていない親水性のセルロースナノファイバーである。従って、セルロース誘導体含有溶液にセルロースナノファイバーを添加するにあたり、疎水性などの所望の特性を付与するためにセルロースナノファイバーを変性する必要はない。また、セルロースナノファイバーとして、必要に応じて、乾燥されたセルロースナノファイバーを使用してもよい。この場合、セルロースナノファイバーを乾燥処理してから、セルロース誘導体含有溶液にセルロースナノファイバー(すなわち、乾燥されたセルロースナノファイバー)を添加する。乾燥条件については、特に限定されず、風乾、自然乾燥、凍結乾燥等が挙げられ、特に好ましくは凍結乾燥である。
【0034】
セルロースナノファイバーとしては、天然物由来のセルロースを挙げることができる。例えば、セルロースナノファイバーとしては、原料となる天然物由来であるセルロース前駆体に解繊処理を施してナノファイバー化したものを挙げることができる。セルロースナノファイバーの原料であるセルロース前駆体としては、例えば、パルプなどの植物繊維などを挙げることができる。セルロース前駆体を解繊処理する方法は、特に限定されず、例えば、ミキサー、高速ホモミキサー、超音波ホモジナイザー、低圧ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、高速回転ミキサー、グラインダー、凍結粉砕、メディアミル、ボールミル等を用いた解繊処理を挙げることができる。
【0035】
セルロース前駆体に解繊処理を施してナノファイバー化したセルロースナノファイバーは、例えば、セルロースナノファイバーが水に分散したセルロースナノファイバー水分散体として得られる。セルロースナノファイバー水分散体を乾燥処理して水分を除去する乾燥工程を実施することで、セルロースナノファイバーを得ることができる。
【0036】
セルロースナノファイバーは、平均繊維径が1.0μm未満である。平均繊維径が1.0μm未満であるセルロースナノファイバーであれば、セルロースのサイズは、特に限定されないが、セルロースナノファイバーの適用範囲の拡大の点から、平均繊維径は、4nm以上100nm以下が好ましく、10nm以上50nm以下が特に好ましい。また、セルロースナノファイバーの平均繊維長は、特に限定されないが、セルロースナノファイバーの適用範囲の拡大の点から、20μm以上200μm以下が好ましく、50μm以上150μm以下が特に好ましい。セルロースナノファイバーの平均繊維径及び平均繊維長は、例えば、平均繊維径は、走査型プローブ顕微鏡や窒素吸着法、平均繊維長は、電子顕微鏡(透過型電子顕微鏡(TEM)、走査型電子顕微鏡(SEM))や走査型プローブ顕微鏡で測定することができる。
【0037】
セルロース誘導体含有溶液にセルロースナノファイバーを添加して分散させる方法としては、例えば、セルロース誘導体含有溶液にセルロースナノファイバーを添加して、所定の撹拌条件にて撹拌する方法が挙げられる。撹拌条件は、セルロースナノファイバーの分子量や添加量、撹拌容器の大きさ、攪拌機の種類等に応じて、適宜選択可能であり、特に限定されないが、例えば、撹拌温度10℃以上60℃以下、撹拌時間1分以上120分以下、撹拌速度600rpm以上1350rpm以下が挙げられる。撹拌時間及び撹拌速度については、撹拌機の種類、撹拌容器の大きさ、セルロースナノファイバーの分子量や添加量等によって、適当な条件を設定することができる。また、撹拌手段としては、特に限定されず、例えば、スターラー、撹拌翼等が挙げられる。
【0038】
セルロースナノファイバーの分散媒への添加量は、特に限定されず、セルロースナノファイバー組成物の使用条件やセルロースナノファイバーの分散媒中における分散状態等に応じて、適宜選択可能である。
【0039】
また、セルロースナノファイバーに対するセルロース誘導体の添加割合は、特に限定されないが、その下限値は、セルロースナノファイバー100質量部に対して、セルロースナノファイバー組成物中におけるセルロースナノファイバーの優れた分散性を確実に得る点から、セルロース誘導体が、5.0質量部が好ましく、セルロースナノファイバーの優れた分散性をさらに確実に得る点から、10質量部がより好ましく、セルロースナノファイバー組成物中におけるセルロースナノファイバーの分散性がさらに向上する点から、30質量部がさらに好ましく、100質量部がよりさらに好ましく、200質量部が特に好ましい。一方で、セルロースナノファイバーに対するセルロース誘導体の添加割合の上限値は、セルロースナノファイバー100質量部に対して、セルロースナノファイバーの特性を適用対象へ確実に付与しつつ、セルロースナノファイバーの優れた分散性を確実に得る点から、セルロース誘導体が、5000質量部が好ましく、セルロースナノファイバーの優れた分散性をさらに確実に得る点から、4000質量部がより好ましく、3000質量部さらに好ましく、2000質量部が特に好ましい。
【0040】
<セルロースナノファイバー組成物の製造方法の第2の態様>
セルロースナノファイバー組成物の製造方法の第2の態様は、(1)分散媒を用意する分散媒用意工程と、(2)用意した前記分散媒に、セルロースナノファイバーを添加してセルロースナノファイバー含有分散媒を調製するセルロースナノファイバー添加工程と、(3)前記セルロースナノファイバー含有分散媒にセルロース誘導体を添加するセルロース誘導体添加工程と、を含む。第2の態様では、分散媒にセルロースナノファイバーを所定量添加して、分散媒にセルロースナノファイバーを分散させてセルロースナノファイバー含有分散媒を調製した後、セルロース誘導体をセルロースナノファイバー含有分散媒に添加し、溶解させてセルロースナノファイバー組成物を製造する。従って、第2の態様では、セルロースナノファイバーとセルロース誘導体について、分散媒への添加の順序が相違する点で第1の態様と異なり、その他の点では、各成分の添加量及び撹拌条件を含めて上記した第1の態様と同様である。
【0041】
セルロースナノファイバー組成物の製造方法の第2の態様でも、得られるセルロースナノファイバー組成物は、セルロース誘導体は分散媒に溶解しており、セルロースナノファイバーは分散媒に分散している状態となる。
【0042】
セルロースナノファイバー組成物の製造方法の第2の態様でも、上記(1)~(3)の簡易な製造工程にて、セルロースナノファイバーの分散性に優れ、セルロースの適用範囲を容易に広げることができるセルロースナノファイバー組成物を製造することができる。本発明のセルロースナノファイバー組成物の製造方法の第2の態様でも、疎水性などの特性を付与した変性セルロースナノファイバーを用意しなくても、セルロースナノファイバーの分散性に優れた組成物を製造することができるので、得られるセルロースナノファイバー組成物は、適用対象である疎水性物質へのセルロースナノファイバーへの分散を均一化でき、結果、セルロースの適用範囲を容易に広げることができる。また、セルロースナノファイバーを予め疎水性に変性しておく必要がないので、セルロースナノファイバーの骨格が維持されており、セルロースナノファイバーの特性を適用対象へ確実に付与することができる。
【0043】
<セルロースナノファイバー組成物の製造方法の第3の態様>
セルロースナノファイバー組成物の製造方法の第3の態様は、(1)分散媒を用意する分散媒用意工程と、(2)用意した前記分散媒に、セルロース成分としてセルロース誘導体とセルロースナノファイバーを添加するセルロース成分添加工程と、を含む。第3の態様では、分散媒にセルロースナノファイバーセルロースナノファイバーとセルロース誘導体を添加して、セルロース誘導体を分散媒に溶解させつつ、セルロースナノファイバーを分散媒に分散させることでセルロースナノファイバー組成物を製造する。従って、第3の態様では、セルロースナノファイバーとセルロース誘導体について、分散媒への添加が同時である点で第1の態様と異なり、その他の点では、各成分の添加量及び撹拌条件を含めて上記した第1の態様と同様である。
【0044】
なお、第3の態様では、セルロースナノファイバーとセルロース誘導体を、それぞれ、異なる投入経路から分散媒へ添加してもよく、先ずセルロースナノファイバーとセルロース誘導体を含むセルロース成分を調製し、このセルロース成分を分散媒へ添加してもよい。
【0045】
セルロースナノファイバー組成物の製造方法の第3の態様でも、得られるセルロースナノファイバー組成物は、セルロース誘導体は分散媒に溶解しており、セルロースナノファイバーは分散媒に分散している状態となる。
【0046】
セルロースナノファイバー組成物の製造方法の第3の態様でも、上記(1)~(2)の簡易な製造工程にて、セルロースナノファイバーの分散性に優れ、セルロースの適用範囲を容易に広げることができるセルロースナノファイバー組成物を製造することができる。本発明のセルロースナノファイバー組成物の製造方法の第3の態様でも、疎水性などの特性を付与した変性セルロースナノファイバーを用意しなくても、セルロースナノファイバーの分散性に優れた組成物を製造することができるので、得られるセルロースナノファイバー組成物は、適用対象である疎水性物質へのセルロースナノファイバーへの分散を均一化でき、結果、セルロースの適用範囲を容易に広げることができる。また、セルロースナノファイバーを予め疎水性に変性しておく必要がないので、セルロースナノファイバーの骨格が維持されており、セルロースナノファイバーの特性を適用対象へ確実に付与することができる。
【0047】
本発明の製造方法で得られるセルロースナノファイバー組成物では、セルロース誘導体は分散媒に溶解しており、セルロースナノファイバーは分散媒に分散している状態となっていることにより、セルロースナノファイバーにセルロース誘導体が配位しているような状態となり、セルロースナノファイバー組成物中において、セルロースナノファイバーは優れた分散性を有することとなる。上記から、本発明の製造方法で得られるセルロースナノファイバー組成物の態様は、セルロースナノファイバーの分散液であり、例えば、セルロースナノファイバーが有機溶媒に分散した分散液である。
【0048】
本発明の製造方法で得られるセルロースナノファイバーの分散液について、波長400nmの光の透過度を測定することで、セルロースナノファイバーの分散液におけるセルロースナノファイバーの分散状態を評価することができる。セルロースナノファイバーの分散液においてセルロースナノファイバーの分散性が低く、分散液の底部にてセルロースナノファイバーが凝集した状態となっているほど、セルロースナノファイバーの分散液の高さ方向中央部分にて測定した波長400nmの光の透過度は高くなる。一方で、セルロースナノファイバーの分散液においてセルロースナノファイバーが高い分散性を有し、セルロースナノファイバーの凝集状態が低減されている、すなわち、セルロースナノファイバーの分散が均一化されているほど、セルロースナノファイバーの分散液の高さ方向中央部分にて測定した波長400nmの光の透過度は低くなる。
【0049】
セルロースナノファイバーの分散液の、撹拌手段の回転数1000rpmにおける波長400nmの光の透過度の平均値は、セルロースナノファイバーの優れた分散性が確実に得られている点から、0.30以下が好ましく、0.20以下がより好ましく、セルロースナノファイバーの分散性がさらに向上している点から、0.10以下が特に好ましい。なお、上記した光の透過度の平均値の下限値としては、例えば、0.02が挙げられる。
【0050】
本発明の製造方法で得られるセルロースナノファイバーの分散液の、撹拌手段の回転数1000rpmにおける波長400nmの光の透過度の標準偏差を測定することで、セルロースナノファイバーの分散液におけるセルロースナノファイバーの分散状態を評価することができる。セルロースナノファイバーの分散液においてセルロースナノファイバーの分散性が低く、分散液の底部にてセルロースナノファイバーが凝集しやすい状態となっているほど、セルロースナノファイバーの分散安定性が低いので、透過度の標準偏差は高くなる。一方で、セルロースナノファイバーの分散液においてセルロースナノファイバーの凝集状態が低減され、セルロースナノファイバーの分散が均一化されているほど、セルロースナノファイバーの分散安定性が高いので、透過度の標準偏差は低くなる。
【0051】
セルロースナノファイバーの分散液の、撹拌手段の回転数1000rpmにおける波長400nmの光の透過度の標準偏差は、セルロースナノファイバーの優れた分散性が確実に得られている点から、0.10以下が好ましく、0.06以下がより好ましく、セルロースナノファイバーの分散性がさらに向上している点から、0.03以下がさらに好ましく、0.02以下が特に好ましい。
【0052】
<セルロースナノファイバーフィルムの成形品>
本発明の製造方法で得られたセルロースナノファイバー組成物を所定形状に形成後、セルロースナノファイバー組成物から分散媒を乾燥等により除去することにより、所定形状のセルロースナノファイバー成形品を得ることができる。本発明の製造方法で得られたセルロースナノファイバー組成物では、セルロースナノファイバーの凝集状態が低減され、セルロースナノファイバーの分散が均一化されているので、本発明の製造方法で得られたセルロースナノファイバー組成物から分散媒が除去されて得られたセルロースナノファイバー成形品は、セルロースナノファイバーの分布が均一化され、また、表面が平滑化されている。また、本発明の製造方法で得られたセルロースナノファイバー組成物は、セルロースナノファイバーの優れた分散性に加えて、適度な流動性も有しているので、フィルム状の成形品を容易に得ることができる。
【実施例0053】
次に、本発明の実施例を説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り、これらの例に限定されるものではない。
【0054】
<セルロースナノファイバー組成物の製造>
実施例1
セルロースナノファイバー水分散体(平均繊維長100μm、平均繊維径30~40nm、モリマシナリー株式会社製「CellFim C-100(水分量約95質量%)」)を凍結乾燥し、固相のセルロースナノファイバーを得た。テトラヒドロフラン(分散媒)20ml中にヒドロキシプロピルセルロース(セルロース誘導体)を0.01g添加して、ヒドロキシプロピルセルロースをテトラヒドロフランに溶解させてセルロース誘導体含有溶液を調製した。セルロース誘導体含有溶液に、凍結乾燥をしたセルロースナノファイバー0.1g(セルロースナノファイバー:ヒドロキシプロピルセルロースの質量比=1:0.1)を添加して、24時間撹拌することで、セルロースナノファイバーの分散液であるセルロースナノファイバー組成物を製造した。
【0055】
実施例2
テトラヒドロフラン(分散媒)20ml中にヒドロキシプロピルセルロース(セルロース誘導体)を0.03gと凍結乾燥をしたセルロースナノファイバー0.1g(セルロースナノファイバー:ヒドロキシプロピルセルロースの質量比=1:0.3)を添加した以外は、実施例1と同様にしてセルロースナノファイバー組成物を調製した。
【0056】
実施例3
テトラヒドロフラン(分散媒)20ml中にヒドロキシプロピルセルロース(セルロース誘導体)を0.05gと凍結乾燥をしたセルロースナノファイバー0.1g(セルロースナノファイバー:ヒドロキシプロピルセルロースの質量比=1:0.5)を添加した以外は、実施例1と同様にしてセルロースナノファイバー組成物を調製した。
【0057】
実施例4
テトラヒドロフラン(分散媒)20ml中にヒドロキシプロピルセルロース(セルロース誘導体)を0.1gと凍結乾燥をしたセルロースナノファイバー0.1g(セルロースナノファイバー:ヒドロキシプロピルセルロースの質量比=1:1)を添加した以外は、実施例1と同様にしてセルロースナノファイバー組成物を調製した。
【0058】
実施例5
テトラヒドロフラン(分散媒)20ml中にヒドロキシプロピルセルロース(セルロース誘導体)を0.3gと凍結乾燥をしたセルロースナノファイバー0.1g(セルロースナノファイバー:ヒドロキシプロピルセルロースの質量比=1:3)を添加した以外は、実施例1と同様にしてセルロースナノファイバー組成物を調製した。
【0059】
実施例6
テトラヒドロフラン(分散媒)20ml中にヒドロキシプロピルセルロース(セルロース誘導体)を0.5gと凍結乾燥をしたセルロースナノファイバー0.1g(セルロースナノファイバー:ヒドロキシプロピルセルロースの質量比=1:5)を添加した以外は、実施例1と同様にしてセルロースナノファイバー組成物を調製した。
【0060】
実施例7
テトラヒドロフラン(分散媒)20ml中にヒドロキシプロピルセルロース(セルロース誘導体)を0.7gと凍結乾燥をしたセルロースナノファイバー0.1g(セルロースナノファイバー:ヒドロキシプロピルセルロースの質量比=1:7)を添加した以外は、実施例1と同様にしてセルロースナノファイバー組成物を調製した。
【0061】
実施例8
テトラヒドロフラン(分散媒)20ml中にヒドロキシプロピルセルロース(セルロース誘導体)を1.0gと凍結乾燥をしたセルロースナノファイバー0.1g(セルロースナノファイバー:ヒドロキシプロピルセルロースの質量比=1:10)を添加した以外は、実施例1と同様にしてセルロースナノファイバー組成物を調製した。
【0062】
実施例9
テトラヒドロフラン(分散媒)20ml中にヒドロキシプロピルセルロース(セルロース誘導体)を1.5gと凍結乾燥をしたセルロースナノファイバー0.1g(セルロースナノファイバー:ヒドロキシプロピルセルロースの質量比=1:15)を添加した以外は、実施例1と同様にしてセルロースナノファイバー組成物を調製した。
【0063】
実施例10
テトラヒドロフラン(分散媒)20ml中にヒドロキシプロピルセルロース(セルロース誘導体)を2.0gと凍結乾燥をしたセルロースナノファイバー0.1g(セルロースナノファイバー:ヒドロキシプロピルセルロースの質量比=1:20)を添加した以外は、実施例1と同様にしてセルロースナノファイバー組成物を調製した。
【0064】
比較例1
ヒドロキシプロピルセルロース(セルロース誘導体)を添加しなかった以外は、
実施例1と同様にしてセルロースナノファイバー組成物を調製した。
【0065】
<評価項目>
(1)セルロースナノファイバー組成物の分散性
実施例1~10のセルロースナノファイバー組成物、比較例1のセルロースナノファイバー組成物について、0.5ml採取し、そこにテトラヒドロフラン6mlを添加して分散性評価用の試料を作製し、セルロースナノファイバーの分散状態を目視にて観察し、以下のように評価した。
◎:セルロースナノファイバーの分散状態が非常に優れている。
○:セルロースナノファイバーの凝集状態が若干見られるものの、良好な分散状態である。
×:セルロースナノファイバーの多くが凝集状態となっており、セルロースナノファイバーの分散性が認められない。
【0066】
(2)セルロースナノファイバー組成物から得られたフィルムの成形性
実施例1~10のセルロースナノファイバー組成物及び比較例1のセルロースナノファイバー組成物について、シャーレに展開して、35℃の空気恒温槽中に4時間放置して、テトラヒドロフランを揮発させてセルロースナノファイバーフィルムを得た。セルロースナノファイバーフィルムの成形状態を目視にて観察し、以下のように評価した。
◎:セルロースナノファイバーフィルムの表面状態は平滑であり、セルロースナノファイバーのムラもほとんど認められず、セルロースナノファイバーフィルムの成形状態が非常に優れている。
○:セルロースナノファイバーフィルムの表面状態は若干粗く、セルロースナノファイバーのムラも若干見られるものの、良好な成形状態である。
×:セルロースナノファイバーフィルムが形成できない、またはセルロースナノファイバーのムラが多く見られ、セルロースナノファイバーフィルムへの成形性が認められない。
【0067】
(3)波長400nmの光の透過度
実施例1~10のセルロースナノファイバー組成物、比較例1のセルロースナノファイバー組成物について、4.5mlの容器中に2.0ml投入して、25℃の条件下、サイズが直径9mm、高さ6.5mmであるスターラーを用いて回転数1000rpmにて撹拌し、撹拌中におけるセルロースナノファイバー組成物の高さ方向中央部分に波長400nmの光を光路長1cmにて照射し、入射光の放射強度(I0)とセルロースナノファイバー組成物を透過した光の放射強度(I)から波長400nmの光の透過度を測定した。1回の透過度の測定値は、撹拌開始から2秒ごとに180秒間にわたって測定した各測定時間の透過度の平均値(平均透過度)として算出した。これを3回繰り返して得られた平均透過度(n=3)の平均値を波長400nmの光の透過度とした。
【0068】
(4)透過度の標準偏差
2秒ごとに180秒間にわたって測定した1回の平均透過度の測定について、標準偏差を算出し、3回の平均透過度の測定結果で得られた各標準偏差の平均値から透過度の標準偏差を求めた。
【0069】
評価結果を下記表1に示す。なお、
図1は、比較例1(左)、実施例1(中央)、実施例2(右)におけるセルロースナノファイバー組成物の分散性を示す写真である。
図2は、比較例1(左)、実施例3(中央)、実施例4(右)におけるセルロースナノファイバー組成物の分散性を示す写真である。
図3は、比較例1(左)、実施例5(中央)、実施例6(右)におけるセルロースナノファイバー組成物の分散性を示す写真である。
図4は、比較例1(左)、実施例7(中央)、実施例8(右)におけるセルロースナノファイバー組成物の分散性を示す写真である。
図5は、比較例1(左)、実施例9(中央)、実施例10(右)におけるセルロースナノファイバー組成物の分散性を示す写真である。
図6は、比較例1(上段)、実施例1(下段左)、実施例2(下段右)におけるセルロースナノファイバー組成物の成形性を示す写真である。
図7は、比較例1(上段)、実施例3(下段左)、実施例4(下段右)におけるセルロースナノファイバー組成物の成形性を示す写真である。
図8は、比較例1(上段)、実施例5(下段左)、実施例6(下段右)におけるセルロースナノファイバー組成物の成形性を示す写真である。
図9は、比較例1(上段)、実施例7(下段左)、実施例8(下段右)におけるセルロースナノファイバー組成物の成形性を示す写真である。
図10は、比較例1(上段)、実施例9(下段左)、実施例10(下段右)におけるセルロースナノファイバー組成物の成形性を示す写真である。
【0070】
【0071】
上記表1及び
図1~5から、分散媒にセルロース誘導体とセルロースナノファイバーを添加して製造した実施例1~10のセルロースナノファイバー組成物では、セルロースナノファイバーの分散性に優れていた。特に、セルロースナノファイバー:ヒドロキシプロピルセルロースの質量比=1:1~1:20にてセルロースナノファイバー組成物を製造した実施例4~10では、セルロースナノファイバーの分散性がさらに向上した。
【0072】
また、上記表1と
図6~10から、実施例1~10のセルロースナノファイバー組成物では、セルロースナノファイバーの成形性にも優れており、セルロースの適用範囲を容易に広げることができることが判明した。特に、セルロースナノファイバー:ヒドロキシプロピルセルロースの質量比=1:1~1:20にてセルロースナノファイバー組成物を製造した実施例4~10では、成形性がさらに向上した。
【0073】
また、セルロースナノファイバー組成物の波長400nmの光の透過度が0.176以下、透過度の標準偏差が0.075以下にそれぞれ低減されている実施例1~10の製造方法では、セルロースナノファイバーの分散性と成形性に優れていた。特に、セルロースナノファイバー組成物の波長400nmの光の透過度が0.095以下、透過度の標準偏差が0.014以下にそれぞれに低減されている実施例4~10の製造方法では、セルロースナノファイバーの分散性と成形性がさらに向上した。
【0074】
一方で、上記表1と
図1~5から、セルロース誘導体を添加せずにセルロースナノファイバー組成物を製造した比較例1では、セルロースナノファイバーの分散性を得ることができなかった。また、上記表1と
図6~10から、比較例1のセルロースナノファイバー組成物では、セルロースナノファイバーの成形性が得られず、セルロースの適用範囲を広げるのは難しいことが判明した。比較例1の製造方法で得られたセルロースナノファイバー組成物では、波長400nmの光の透過度が0.661であり、透過度の標準偏差が1.096であった。
本発明のセルロースナノファイバー組成物の製造方法は、セルロースナノファイバーの分散性に優れており、セルロースの適用範囲を容易に広げることができるセルロースナノファイバー組成物を得ることができるので、広汎な分野で利用可能であり、例えば、成形品の材料となる樹脂組成物の分野を挙げることができる。