(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023117783
(43)【公開日】2023-08-24
(54)【発明の名称】剃刀用の柄体及び剃刀
(51)【国際特許分類】
B26B 21/52 20060101AFI20230817BHJP
B26B 21/06 20060101ALI20230817BHJP
【FI】
B26B21/52 B
B26B21/52 A
B26B21/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022020531
(22)【出願日】2022-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】弁理士法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横田 善行
(72)【発明者】
【氏名】山室 仁
(57)【要約】
【課題】首振り機構を有する紙製の剃刀用柄体を提供する。
【解決手段】
ハンドル部と、刃又は刃が収納されたカートリッジを取り付けるための取付面を有し、第一折り線を介してハンドル部の先端側に連接され、その第一折り線を軸として揺動可能な取付部と、第一折り線と平行に配された第二折り線を介して取付部に連接し、前記第二折り線でハ折り返されて取付部よりもハンドル部の後端側に位置している背板部と、を有し、取付部側を先端としてハンドル部から切り起こされ、この切り起こしによって板バネ弾性を生ずる舌片部を有し、第二折り線で折り返された背板部が、切り起こされた舌片部とハンドル部との間に差し込まれており、前記舌片部が、背板部をハンドル部とで挟持するとともに、取付部の揺動にともなう背板部の舌片部の基端側への押し込みに対して弾性付勢を生ずる、剃刀用の柄体により解決される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
剃刀用の柄体であって、
一枚のシート材から組み立てられ、
利用者に把持されるハンドル部と、
カートリッジが取り付けられるヘッド部と、を有し、
ヘッド部は、
刃又は刃が収納されたカートリッジを取り付けるための取付面を有し、第一折り線を介してハンドル部の先端側に連接され、その第一折り線を軸として揺動可能な取付部と、
第一折り線と平行に配された第二折り線を介して取付部に連接し、前記第二折り線でハ折り返されて取付部よりもハンドル部の後端側に位置している背板部と、を有し、
取付部側を先端としてハンドル部から切り起こされ、この切り起こしによって板バネ弾性を生ずる舌片部を有し、
第二折り線で折り返された背板部が、切り起こされた舌片部とハンドル部との間に差し込まれており、
前記舌片部が、背板部を押持するとともに、取付部の揺動にともなう背板部の舌片部の基端側への押し込みに対して弾性付勢を生ずる、
ことを特徴とする、剃刀用の柄体。
【請求項2】
舌片部が、背板部をハンドル部とで挟持しており、
背板部の先端にハンドル部に接する摺動片が設けられ、取付部の動きに応じて、摺動片がハンドル部上を摺動する、請求項1記載の剃刀用の柄体。
【請求項3】
背板部は、
第二折り線に向かって凸型のスリットと、このスリットの端に連接し、第二折り線に平行な一対の第三折り線とで囲まれる先端部分が、前記第三折り線で折り返されて、
前記凸型スリットで囲まれる部分が反転されて形成される受け部を有し、この受け部に舌片部が乗って押持している、
請求項1記載の剃刀用の柄体。
【請求項4】
シート材が、パルプ繊維を抄紙した紙であり、その紙が、複数の紙層が積層されている多層紙である、請求項1~3の何れか1項に記載の剃刀用の柄体。
【請求項5】
請求項1~4記載の剃刀用の柄体の取付面に、
刃又は刃が収納されたカートリッジが、刃先を第一折り線に向く方向で取り付けられている、ことを特徴とする剃刀。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、剃刀用の柄体及び剃刀に関する。
【背景技術】
【0002】
剃刀は、樹脂製のケースに金属製の刃が収容されたカートリッジを取り付けるヘッド部と、使用者が把持や操作するためのハンドル部が一体となっている柄体を有し、全体としてT字型をなすものがよく知られている。柄体は、通常は、硬質プラスチックや金属などによって形成されており、折り畳みや分解が難しい構造のものが多く、収容に大きな容積を必要とし、保管のための収容スペースを確保する必要があったり、持ち運びに不便であったりするという問題があった。
【0003】
また、旅館やホテル等の宿泊施設等では、アメニティとして柄体をプラスチックで形成した、使い捨ての剃刀が提供されていることがあるが、近年では、マイクロプラスチックによる海洋汚染等の問題が注目され、環境保護の点等から脱プラスチック化が世界的に進んでいる。日本においては、「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」が成立し、例えば、ホテル業等の特定の事業者に対して、使い捨てプラスチック製品の削減が義務化されることとなった。そして、この「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」では、「特定プラスチック使用製品」として、プラスチック製の剃刀が指定されており、剃刀における脱プラスチック化が注目されている。
【0004】
柄体を紙製として、薄いシート形状から折り曲げ組み立てて形成される剃刀が、例えば、下記特許文献1に提案されている。この剃刀は、柄体が紙製となっており、全体としてプラスチック使用量料が少なく、また、シート型のまま輸送や保管することができるため、収納性や運搬性も改善されている。例えば、店舗等や宿泊施設にシート状のまま納品したり、シート状のままバックヤードに保管したり、必要時に組み立てて使用する使用態様を採ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、柄体がプラスチックや金属製の剃刀においては、首振りヘッド、首振り機構等とも称される、柄体に取り付けたカートリッジが、肌の曲面に追従して動く機構を備えるものがあり、ユーザーに広く受け入れられているが、薄いシート形状から折り曲げ組み立てて形成される剃刀においては、このような首振り機構を有するものがない。
【0007】
引用文献1の剃刀では、柄体の撓りによって、カートリッジ(剃刀ヘッド)がユーザーの肌に付勢されるようになっているが、カートリッジ自体が動くわけではなく、カートリッジと肌との面圧が変化するに留まっている。
【0008】
さらに、特許文献1の剃刀は、柄体のうち、特に把手するためのハンドル部を形成するために、複数回の折り工程が必用となっており、さらなる組み立ての簡易さが求められる。
【0009】
そこで、本発明の主たる課題は、一枚のシート形状から簡易に組み立てることができ、しかも、刃やカートリッジが曲面に追従できる首振り機構を有する剃刀用の柄体及び剃刀を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決した第一の手段は、
剃刀用の柄体であって、
一枚のシート材から組み立てられ、
利用者に把持されるハンドル部と、
カートリッジが取り付けられるヘッド部と、を有し、
ヘッド部は、
刃又は刃が収納されたカートリッジを取り付けるための取付面を有し、第一折り線を介してハンドル部の先端側に連接され、その第一折り線を軸として揺動可能な取付部と、
第一折り線と平行に配された第二折り線を介して取付部に連接し、前記第二折り線で折り返されて取付部よりもハンドル部の後端側に位置している背板部と、を有し、
取付部側を先端としてハンドル部から切り起こされ、この切り起こしによって板バネ弾性を生ずる舌片部を有し、
第二折り線で折り返された背板部が、切り起こされた舌片部とハンドル部との間に差し込まれており、
前記舌片部が、背板部を押持するとともに、取付部の揺動にともなう背板部の舌片部の基端側への押し込みに対して弾性付勢を生ずる、
ことを特徴とする、剃刀用の柄体である。
【0011】
第二の手段は、
舌片部が、背板部をハンドル部とで挟持しており、
背板部の先端にハンドル部に接する摺動片が設けられ、取付部の動きに応じて、摺動片がハンドル部上を摺動する、上記第一の手段に係る剃刀用の柄体である。
【0012】
第三の手段は、
背板部は、
第二折り線に向かって凸型のスリットと、このスリットの端に連接し、第二折り線に平行な一対の第三折り線とで囲まれる先端部分が、前記第三折り線で折り返されて、
前記凸型スリットで囲まれる部分が反転されて形成される受け部を有し、この受け部に舌片部が乗って押持している、
上記第一の手段に係る剃刀用の柄体である。
【0013】
第四の手段は、
シート材が、パルプ繊維を抄紙した紙であり、その紙が、複数の紙層が積層されている多層紙である、上記第一~第三の手段に係る剃刀用の柄体である。
【0014】
第五の手段は、
上記第一~第四の手段に係る剃刀用の柄体の取付面に、
刃又は刃が収納されたカートリッジが、刃先を第一折り線に向く方向で取り付けられている、剃刀である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、一枚のシート形状から簡易に組み立てることができ、しかも、刃やカートリッジが曲面に追従できる首振り機構を有する剃刀用の柄体及び剃刀が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】第一実施形態の剃刀用柄体の後方斜視図である。
【
図5】第一実施形態の剃刀用柄体の前方斜視図である。
【
図7】第二実施形態の剃刀用柄体の後方斜視図である。
【
図10】第二実施形態の剃刀用柄体の側面図である。
【
図11】第二実施形態の剃刀用柄体の前方斜視図である。
【
図12】第二実施形態の剃刀用柄体の正面図である。
【
図13】本実施形態の多層紙の断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次いで、本発明の実施形態を
図1~
図13を参照しながら以下に詳述する。但し、本発明は、図示の形状やこの実施形態に限定されるわけではない。本発明の範囲において、各部の詳細な形状や位置については、本発明の効果を妨げない範囲で変更可能である。また、本発明及び本明細書における「正面」、「背面」、「天」、「底」、「左」及び「右」の語は、観者の位置によって変わるものであり絶対的な位置を示す語ではない。本実施形態のハンガーでは、「正面」、「背面」は、使用時の正面及び背面と一致している必要はない。また、「第一」、「第二」等の語は、必ずしも操作の順を示す語ではない。
【0018】
(第一実施形態)
第一実施形態の剃刀用の柄体を
図1~
図6を参照しながら説明する。この柄体1は、特に
図1に示すように、利用者に把持されるハンドル部10と、カートリッジが取り付けられるヘッド部30と、を有しており、特に
図2に展開図を示すように、一枚のシート材から組み立てられている。
【0019】
この剃刀用の柄体1のヘッド部30は、第一折り線41を介してハンドル部10の先端側に連接された取付部31と、第一折り線41と平行に配された第二折り線42を介して取付部31に連接する背板部32と、を有している。
【0020】
ハンドル部10は後端部が細長形状をなしており、先端側が漸次拡幅する扇状をなし、その縁部に第一折り線41が位置して、取付部31に連接している。
【0021】
取付部31は、直線状の第一折り線41の折り曲げによりハンドル部10から立ち上がるように形成されており、第一折り線41を軸として揺動可能に接続されている。つまり、取付部31とハンドル部10と間の角度が変化可能に接続されている。また、取付部31は、刃や刃が収納されたカートリッジを取り付けるための取付面31Aを有しており、この取付面が、ハンドル部後端方向と反対側の面に形成されている。したがって、取付面に、刃やカートリッジが取り付けられると、第一折り線41を軸として取付部31が揺動すると、それに応じて、刃やカートリッジも動くようになっている。
【0022】
ここで、本発明に係る剃刀用の柄体1では、取付部31側を先端としてハンドル部10から切り起こされ、この切り起こしによって板バネ弾性を生ずる舌片部50を有している。舌片部50の板バネ弾性は、シート材の剛性、コシ等の弾性変形性を主として、舌片部50の幅及び長さ、さらにハンドル部10の全体形状によって調整される。
【0023】
一方、背板部32は、第二折り線42で折り返されて取付部31よりもハンドル部10の後端側に位置されており、特に、背板部32が、切り起こされた舌片部50とハンドル部10との間に差し込まれ、舌片部50によって背板部32は押持されるように構成されている。この図示の形態では、舌片部50が背板部32を押すだけはなく、ハンドル部10とで背板部32を挟持するように構成されている。この時、舌片部50が、切り起こし前の位置に戻ろうとする力が強い場合には、背板部32に弾性付勢力が掛かり、より強く挟持されるようになる。
【0024】
この実施形態の柄体1では、構造的に、第一折り線41を軸として取付部31が揺動可能となっているとともに、第二折り線42が第一折り線41と平行に位置しているため、取付部31が第一折り線41を軸としてハンドル部10の後端方向に向かうように動くと、第二折り線42がハンドル部10の後端側に近づくように移動する。その結果、背板部32がより舌片部50の基端部51側へと差し込まれるようになる。さらに、取付部31が第一折り線41を軸としてハンドル部10の後端方向に向かうと取付部31がハンドル部に10対してより起立した状態になっていく。その結果、背板部32が舌片部50の基端部51側へと差し込まれていくだけなく、背板部32が舌片部50を押し上げようとする。すなわち、舌片部50が、より切り起こされるようになっていくため、背板部32を押し返す対する弾性付勢を発生し、高まっていく。こように、この実施形態では、取付部31の揺動にともなう背板部32の舌片部50の基端部51側への押し込みに対して弾性付勢が生ずるようになっている。
【0025】
ここで、この実施形態では、好ましい形態として、ハンドル部10の舌片部50の切り起こし方向と反対面の幅方向中央部に後端側から先端側に向かって、ハンドル部折り曲げ線11が設けられており、ハンドル部10が幅方向、つまり、舌片部50の切り起こし方向に直交する方向でかつ切り起こされている側が谷側となるようにして略V字型に折り曲げられて立体的なハンドル部10となっている。このようにハンドル部10がV字型となっていると、平面的なハンドル部に比較して意匠性に優れるとともに、各段に操作性が向上する。
【0026】
さらに、このハンドル部10の折り曲げは、舌片部50の機能と切り起こしを好適なものとする。すなわち、ハンドル部10がV字型に折り曲げられると、舌片部50の基端部51が狭められる。その結果、舌片部50の先端側がハンドル部10から持ち上げられるようになる。この際、谷側に持ち上げられるようになるため、上記のハンドル部10のように折り曲げられているのが望ましい。さらに、ハンドル部折り曲げ線11が、図示の形態のように、舌片部50の基端部51まで至っていると、舌片部50の基端部51もやや湾曲するように折り曲がるため基端部51で、バネとして機能しなくなる塑性変形の折れが生じ難くなるとともに、弾性付勢力が発生させやすくなる。
【0027】
さらに、この実施形態の柄体1では、特に、背板部32の先端にハンドル部10に接する摺動片33が設けられており、取付部31の動きに応じて、摺動片33がハンドル部10上を摺動するように構成されている。摺動片33は、舌片部50が切り起こされた際に残る両端位置、つまり、舌片部50を挟んだ位置に接するように一対で設けられており、これにより、背板部32の安定的な移動が行われるようになっているとともに、背板部32とハンドル部10との摩擦が調整され、舌片部50が背板部32に対して、所望の弾性付勢力に調整しやすくなる。
【0028】
なお、本実施形態の柄体の大きさは、一般的な剃刀の大きさにでき限定されないが、展開状態における全長L1が120~138mm、組み立て後の全長が80~100mm、ヘッド部の幅L2が、35~49mm、柄体の幅L3は15~20mmとするのがよい。この大きさであれば、一般的な剃刀の大きさであり、また、シート材から強度の高い剃刀の柄体を構成できる。
【0029】
(第二実施形態)
次いで、
図7~
図12を参照しながら、第二の実施形態を説明する。なお、第一実施形態と同様の構成については、上記のとおりであり、異なる点のみを説明する。第二実施形態は、背板部構造とそれによる舌板片の背板部への弾性付勢力の発生に異なるところがある。
【0030】
この第二実施形態の柄体1は、特に、
図7、
図8及び
図10に示されているように、背板部32が、第二折り線42に向かって凸型のスリットと、このスリット32Sの端に連接し、第二折り線42に平行な一対の第三折り線43と先端縁で囲まれる先端部分32Eを有している。そして、この第三折り線43でその先端部分がハンドル部側に向かう方向で折り返されており、第二折り線42と第三折り線43との間の部分に折り重ねられている。この折り返しによって、凸型のスリット32Sで囲まれる部分が反転されて、背板部32の折り返し縁に皿板状の窪地が形成されている。なお、図示の形状では、スリットの形状は、湾曲する半楕円状となっているが、スリットの具体的な形状は限定されない。
【0031】
凸型スリット32Sの形成位置は、舌片部50の先端の延長線方向にあり、前記窪地は、舌片部50が乗る位置に形成される。この第二実施形態では、舌片部50とハンドル部10との間に、この背板部32の皿状の窪地が差し込まれるようになっている。換言すれば、この窪地が舌片部50を受ける受け部34となっている。第二実施形態では、舌片部50が受け部34に乗る態様で、背板部32を押持している。さらに、この受け部34は、第二折り線42側に背板部32の厚み分の壁が形成されるため、背板部32は、受け部34に乗っている舌片部50の先端が、その壁部35に当接する位置で動きが規制されるようなっている。したがって、過度に取付部31が、ハンドル部10の後端側に倒れ込むことが防止されている。
【0032】
(各実施形態の共通の構成)
以上の各実施形態の柄体1は、取付部31が第一折り線41を軸として揺動可能に構成され、さらに、第二折り線42側がハンドル部10方向へ押し込まれた際に、背板部32が舌片部50によって弾性付勢されて反発力が生じるため、取付面31Aが対象物に対して弾性付勢を有して動くようになり、いわゆる首振り機構を有するものとなっている。したがって、柄体の取付面に、刃や刃が収納されたカートリッジが、刃先を第一折り線に向く方向で取り付けると、首振り機構を備える剃刀となる。なお、本発明の柄体においては取付面に対する刃やカートリッジの取り付け方法は限定されない。接着剤や粘着テープ、カシメやハトメ等適宜の固定手段によって固定して剃刀とすることができる。また、刃やカートリッジについても限定されない。市販の替刃カートリッジを用いてもよいし、紙製の枠に刃を固定して形成するなどされたものでもよい。
【0033】
ここで、本実施形態の柄体における各折り線については、シート材の折り曲げ折り返しや折り曲げを容易に行えるようにするための線であり、位置決めのための単なる印刷による線であってもよいが、好ましくは、折筋とも称される罫線、ミシン目、ハーフスリットであり、特に、舌片部の弾性付勢力の調整、取付部の揺動のスムーズさ、背板部の動きのスムーズさ、折り返しのしやすさ等からハーフスリットとするのが望ましい。但し、すべてが同種の線である必要はない。必要な強度や折り曲げに必要な応力を考慮して適宜に配することができる。また、ミシン目とする場合のカットタイ比、ハーフスリットとする場合のスリット深さも同一にする必要はない。
【0034】
ここで、さらに本実施形態の柄体1に、特に好適なシート材について説明していく。本実施形態のシート材は、上記のとおり脱プラスチックの観点から、パルプ繊維を抄紙した紙であるのが望ましい。具体的には、段ボール紙、コートボール紙、複数の紙層が積層されている多層紙が例示できる。もちろんプラスチックを含む合成繊維を含まない天然素材由来の繊維のみから構成される紙であるのがより望ましい。好適には、パルプ繊維のみからなる紙が望ましい。また、特に好ましい紙は、三以上の紙層を有する多層紙である。
図14に示すように、多層紙90は、複数の紙層91,92が積層されているため各層の特性を変えることができ、強度を有しつつ折り曲げやすくできる。例えば、耐水性や耐摩耗性に優れるものの硬いが折れ易い傾向の一対の表層91に柔軟な中層92を組み合わせることで、強靭性や耐久性に優れるようになり、強度を有しつつ折り曲げたり組み立てやすくすることができる。また、各折り線をハーフスリットとした際に表層を含む複数層が完全に切断されないようにすることができ、各折り線における破断の恐れが格段に小さくなるとともに撓りを持たせることができる。なお、多層紙90は、多層抄きによって製造することができる。また、多層紙90は、市販されているものであってよく、例えば、大日製紙株式会社製のエリプラペーパー等が例示できる。この点から、本実施形態の柄体は、多層紙であって、折り線をハーフスリットとするのが特に好ましい。
【0035】
シート材を紙とする場合、その紙の坪量は、好ましくは700g/m2以上、より好ましくは750g/m2以上、特に好ましくは800g/m2以上である。この坪量の紙であれば、各部の折り曲げによる組み立てをしやすく、しかも十分な剛性及び強度としやすい。坪量の上限値は限定されないが、抄造時にカレンダーロール等で折れジワが発生しやすくなるおそれがあり、この点からは上限値については、1400g/m2が好ましく、1240g/m2がより好ましい。また、シート材を紙とする場合の紙厚は、900μm以上1,400μm以下が好ましく、より好ましくは950μm以上1,350μm以下である。なお、坪量は、JIS P 8124(2011)に記載の「紙及び板紙-坪量測定方法」に準拠して測定した値であり、紙厚は、JIS-P8118(2014)に記載の「紙及び板紙-厚さ及び密度の試験方法」に準拠して測定した値である。
【0036】
シート材を紙とする場合、その紙のJIS K 7171に基づく「曲げ強さ」は、39~45MPaであるのが望ましい。特に望ましくは、40~42.5MPaである。この範囲であれば、舌片部及び背板部による弾性付勢力を好適に発揮でき、取付面が肌の曲面に追従しやすく、しかも、過度の面圧とならないものとすることができる。さらに、JIS K 7171に基づく「曲げ弾性率」は、6500MPa~7500Paであるのが望ましい。この範囲であれば、舌片部及び背板部による弾性付勢力を好適に発揮でき、取付面が肌の曲面に追従しやすく、しかも、過度の面圧とならないものとすることができる。なお、「曲げ強さ」及び「曲げ弾性率」は、試験速度2mm/min、支点間距離64mで測定し、測定値は5回の平均値とする。
【0037】
シート材を紙とする場合、その紙の構成パルプ繊維は、必ずしも限定されないが、好ましい構成パルプ繊維は、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹半晒クラフトパルプ(NSBKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)等の針葉樹クラフトパルプ及び、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹半晒クラフトパルプ(LSBKP)、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)等広葉樹クラフトパルプである。その他のパルプとして、古紙パルプ、広葉樹亜硫酸パルプ、針葉樹亜硫酸パルプ等の化学パルプ、あるいは、ケナフ、麻、葦等の非木材繊維から化学的にまたは機械的に製造されたパルプ等の公知の種々のパルプを適宜組合せて使用されていれもよい。強度を発現させやすいことから、針葉樹クラフトパルプ及び広葉樹クラフトパルプが90~100質量%であるのが望ましい。この場合、針葉樹クラフトパルプ及び広葉樹クラフトパルプの配合割合は、5:95~30:70であるのが望ましい。漂清潔感及び硬質感のある意匠性を有する剃刀とするならば、白パルプであり白色度が高い、針葉樹晒クラフトパルプ及び広葉樹晒クラフトパルプを用いることが特に好ましい。
【0038】
シート材を紙とする場合、その紙は、JIS P 8113(2006)に準拠して測定された縦方向の引張強度が、70kN/m以上、横方向の引張強度が40kN/m以上であるのが望ましい。この引張強度を有していれば、折り畳みや組み立てに適する。
【0039】
また、シート材を紙とする場合、その紙は、JIS P 8125(2000)に準拠して測定されたテーバー剛度が縦方向で150mN・m以上であり、横方向で70mN・m以上であるのが望ましい。この範囲でであれば、折り畳みや組み立てやすい。
【0040】
さらに、シート材を紙とする場合その紙は、JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法No.18-1:2000に準拠して測定されるZ軸強度が400kN/m2以上、好ましくは450kN/m2以上であるのが望ましい。トムソン加工等の打ち抜き、カッティングプロッター等のカッティングによって展開状態の柄体を製造しやすい。
【0041】
シート材を紙とする場合、その紙は、JIS P 8147 ISO水平法による静摩擦係数が、0.25~0.65であるのが望ましい。特に舌片部と背板部の擦れがスムーズとなる。なお、本測定法は、シート材の裏面同士、表面同士で各3回の測定を行い、裏面同士、表面同士の3回目の測定値がいずれも上記範囲であるのが望ましい。ISO水平法は,最初の滑りの静摩擦係数、3回目の滑りの静摩擦係数又は3回目の滑りの動摩擦係数の少なくとも一つを測定すればよく、最初の静摩擦係数よりも3回目の静摩擦係数が小さくなる傾向にあり、また、3回目の静摩擦係数の方がばらつきは小さくなる。
【0042】
シート材を紙とする場合、その紙は、JIS P 8151に準拠するPPS(パーカープリントサーフラフネス)が、表面及び裏面ともに好ましくは3~8μm、より好ましくは4~7μmであるのがよい。舌片部と背板部の擦れがスムーズとなる。
【0043】
シート材を紙とする場合、その紙は、MMDの値が、表面及び裏面ともに好ましくは10~25である。舌片部と背板部の擦れがスムーズとなる。MMDの測定は、摩擦感テスター(KES-SE、カトーテック社製)及びその相当機を用いて測定する。なお、摩擦子は、標準付属の直径0.5mmのピアノ線を20本隣接させて構成された、長さ及び幅がともに10mmの接触面を有するものを用いる。
【0044】
シート材を本実施形態に係る柄体1に特に好ましい多層紙90とする場合、その層数は、限定されないものの、五~九層とし、中層92の層数を三層以上、特に五層とするのがよい。特に
図14に示す形態は、三層の中層92を有するものとなっている。中層92の総数が三層以上であると、多層紙90の強靭性や耐久性がより発現しやすいとされている。中層92の総数の上限としては、層間強度を維持する観点から、七層以下であることが好ましい。また、三層~七層は、円網多筒式抄き合わせ抄紙機を使用する場合における層間強度を維持しながら操業を行いやすい。
【0045】
なお、シート材を多層紙90とする場合、表層91及び中層92の坪量は、上記のシート材を紙とする場合の全体の坪量の範囲で調整することができ、特に限定されないが、好ましくは、表層91の坪量としては、1層あたり60.0g/m2以上150.0g/m2以下、特には100~145g/m2が好ましい。また、中層92全体の坪量としては、490g/m2以上750g/m2以下、特には600g/m2以上740g/m2以下が好ましい。さらに、多層紙90は、多層紙90全体の坪量に対する一対の表層91,91の合計の坪量の割合が、15.0%以上33.0%以下のものであるのが好ましい。一対の表層91の剛直性が高く、中層92の柔軟性が優れるようになる。よって、折り線位置で折り曲げやすく、折り線以外の位置で折れ曲がり難くなり、強度と組み立て易さに優れる柄体としやすい。
【0046】
シート材を多層紙90とする場合、その多層紙90における各層のパルプ繊維の配合は、表層91は針葉樹クラフトパルプと前記広葉樹クラフトパルプの質量比(%)が0/100以上15/85以下であるのが好ましい。また、この配合の表層91ととともに、中層92は、針葉樹クラフトパルプと前記広葉樹クラフトパルプの質量比(%)を15/85以上35/65以下であるのが好ましい。剛直で高密度化しやすい広葉樹クラフトパルプが多く含有され、表層が高密度で剛直な特性となるとともに、中層が表層よりも柔軟性に富む針葉樹クラフトパルプを多く含有するため、組み立て時の各折り線での折り曲げや繰り返しの折り曲げがあっても強度が低下しがたい柄体となりやすい。
【0047】
また、シート材を多層紙90とする場合、その多層紙90は、製紙用添加剤としてサイズ剤及び紙力増強剤の少なくとも一方を添加されているのが望ましい。所望の強度に調整しやすい。なお、多層紙90には、本発明の目的とする効果を損ねない範囲でその他の各種添加剤を含有させることができる。例えば、ポリビニルアルコールやワックス等を塗布することができる。
【0048】
サイズ剤としては、スチレン系サイズ剤、アルキルケテンダイマー(AKD)、アルケニル無水琥珀酸(ASA)、中性ロジンサイズ剤、ロジンサイズ剤、変性ロジンエマルジョンサイズ剤などが挙げられる。これらの中でもロジンサイズ剤及び変性ロジンエマルジョンサイズ剤が好ましい。ロジンサイズ剤は、特に限定されない。ロジン系の物質は、例えば、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン等のロジン類をフマル酸、マレイン酸、アクリル酸等のα,β-不飽和カルボン酸あるいはその無水物で変性した強化ロジンや、ロジン類をグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジグリセリン等の多価アルコールを反応させて得られるロジンエステルを挙げることができる。また、ロジンサイズ剤には、これらの単独またはその混合物をエマルジョン化したもの、単独でエマルジョン化した後に混合したものも含まれる。さらに、エマルジョン化したものに、サイズ発現性をより向上させるために各種ポリマーを添加したものも含まれる。
【0049】
紙力増強剤としては、ポリアクリルアミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアミン系樹脂、アクリル樹脂系、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリアミドエピクロロヒドリン樹脂など公知の種々のものを使用できる。これらの中でも、両性紙力増強剤を使用することが好ましい。両性ポリアクリルアミドとしては、アクリルアミドとアニオン性モノマー及びカチオン性モノマーの共重合物、アクリルアミドとアニオン性モノマーとの共重合物のマンニッヒ変性物、ホフマン分解物等が挙げられる。特に両性ポリアクリルアミドは、自己定着機能を有しているため、紙間強度を向上させるべく増添したとしても、カチオン過多になることがなく、変性ロジンエマルジョンサイズ剤とともに含むことでこれを安定的に定着させることができる。
【0050】
サイズ剤の添加量としては、固形分で0.5kg/t以上5.0kg/t以下が好ましい。紙力増強剤の添加量としては、固形分で12kg/t以上30kg/t以下が好ましい。なお、「kg/t」はパルプ1tあたりの質量(kg)を示す。サイズ剤の添加量をこの範囲とすると、耐水性が高まるため、湿った衣服類やタオルがかけられても十分な強度を保持しやすい。
【0051】
また、シート材を多層紙90とする場合、その多層紙90は、表層91及び中層92の各層に製紙用添加剤として上記のサイズ剤及び紙力増強剤の少なくとも一方を添加することが好ましい。この場合、表層91のサイズ剤の添加量としては、固形分で0.5kg/t以上5.0kg/t以下が好ましい。また、中層92のサイズ剤の添加量としては、固形分で2.0kg/t以上5.0kg/t以下が好ましい。また、各層の紙力増強剤の添加量としては、固形分で12kg/t以上30kg/t以下が好ましい。この範囲とするとで、ハンガーに適した多層紙の層間強度などの各種紙力としやすい。
【0052】
さらに、本実施形態に係る柄体は、シロキサン化合物が含有されているのが望ましい。シロキサン化合物が含有されていると、シロキサン結合によって剛度、強度、耐水性が高まる。シロキサン化合物は、シロキサン結合を有するものであれば、必ずしも限定されないが、柄体1は、人体に接する剃刀を構成するため、生体に対して毒性が無いか、低いものが望ましい。また、シロキサン化合物は、組み立て後のハンガーにシロキサン化合物を塗工する態様のほか、組み立て前のシート材や、素材としてのシート材に対して、適宜のアルコキシシラン溶液やアルコキシシラン溶液加工品を含侵させた後、加温や加熱して含有させてもよい。このようにすると、シロキサン化合物が、パルプ繊維自体に結合したり、パルプ繊維をコーティングしたりする態様で含有されるようになるため望ましい。
【0053】
さらに、本実施形態に係る柄体は、摩擦係数や表面粗さや折り畳み適性を過度に変化させず、柄体の機能及び本発明の効果を妨げない範囲で、表面保護剤や抗菌剤、抗ウィルス剤を塗布したり、含浸させたりしても良い。
【符号の説明】
【0054】
1…剃刀用の柄体、10…ハンドル部、11…ハンドル部折り線、30…ヘッド部、31…取付部、31A…取付面、32…背板部、32E…背板部の先端部分、32S…スリット、33…摺動片、34…受け部、35…壁部、41…第一折り線、42…第二折り線、43…第三折り線、50…舌片部、51…舌片部の基端部。