(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023117796
(43)【公開日】2023-08-24
(54)【発明の名称】ニッケル水素蓄電池の制御方法及び制御装置
(51)【国際特許分類】
H01M 10/44 20060101AFI20230817BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20230817BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20230817BHJP
【FI】
H01M10/44 P
H01M10/48 P
H02J7/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022020552
(22)【出願日】2022-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】室田 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】宮本 佑樹
【テーマコード(参考)】
5G503
5H030
【Fターム(参考)】
5G503AA01
5G503BB01
5G503CA01
5G503CA08
5G503CA11
5G503CB06
5G503CC02
5G503DA08
5G503FA06
5H030AS03
5H030AS08
5H030AS11
5H030BB01
5H030BB21
5H030FF41
5H030FF42
5H030FF43
5H030FF44
5H030FF52
(57)【要約】
【課題】ニッケル水素蓄電池の容量の低下を抑制すること。
【解決手段】ニッケル水素蓄電池の充放電を、SOC100[%]を上限SOCとするとともに、この上限SOCを含んだ充放電範囲で行う(S5)。充電により正極活物質であるNi(OH)
2が、オキシ水酸化ニッケル(NiOOH)に変化するが、このときばらつきが無いように、1/3C以下のゆっくりとした充電レートで充電する(S7)。そのような低レートでゆっくり充電することで、正極内での局所的な過充電などの発生を抑制しつつ、正極活物質に均一な充電を行うことができる。その結果ニッケル水素蓄電池がリフレッシュできる。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル水素蓄電池において予め充電し、未充電の水酸化ニッケルがなくなった状態をSOC100[%]としたとき、
前記ニッケル水素蓄電池の充放電を、SOC100[%]を上限SOCとするとともに、当該上限SOCを含んだ充放電範囲で行うニッケル水素蓄電池の制御方法。
【請求項2】
前記ニッケル水素蓄電池において予め放電し、充電された水酸化ニッケルがなくなった状態をSOC0[%]としたとき、
前記ニッケル水素蓄電池の充放電を、SOC0[%]を超えるように設定したSOCを下限SOCとする充放電範囲で、充放電を行う請求項1に記載のニッケル水素蓄電池の制御方法。
【請求項3】
前記下限SOCが20~40[%]に設定されたことを特徴とする請求項2に記載のニッケル水素蓄電池の制御方法。
【請求項4】
ニッケル水素蓄電池の充放電をSOC100[%]における電池電圧OCVである上限電圧UL[V]を上限とし、かつ上限電圧UL[V]を含んだ電池電圧OCVの充放電範囲で、充放電を行うニッケル水素蓄電池の制御方法。
【請求項5】
ニッケル水素蓄電池の充放電をSOC0[%]を超えるように設定した電池電圧である下限電圧LL[V]を下限とする電池電圧OCVの充放電範囲で、充放電を行う請求項4に記載のニッケル水素蓄電池の制御方法。
【請求項6】
前記充放電の充電レートが1/3C以下に制限されていることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載のニッケル水素蓄電池の制御方法。
【請求項7】
前記充放電の放電レートが1C以下に制限されていることを特徴とする請求項1~6のいずれか一項の記載のニッケル水素蓄電池の制御方法。
【請求項8】
通常モードとリフレッシュモード間で切り替え可能に制御され、
前記通常モードでは、SOC100[%]未満の基準SOCが設定され、前記基準SOCを上限とした充放電範囲で充放電を行い、
前記リフレッシュモードでは、前記上限SOCを上限とし、かつ上限電圧UL[V]を含んだ充放電範囲で、充放電を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載のニッケル水素蓄電池の制御方法。
【請求項9】
通常モードとリフレッシュモード間で切り替え可能に制御され、
前記通常モードでは、SOC100[%]未満のOCVの基準電圧RV[V]を有し、前記基準電圧RV[V]を上限とした充放電範囲で充放電を行い、
前記リフレッシュモードでは設定したタイミングで上限電圧UL[V]を上限とし、かつ上限電圧UL[V]を含んだ充放電範囲で、充放電を行うことを特徴とする請求項8に記載のニッケル水素蓄電池の制御方法。
【請求項10】
前記通常モードにおいて充電幅を設定するとともに、前記設定した充電幅以上で充電した回数が、予め設定した回数以上となった場合に、前記リフレッシュモードを実施することを特徴とする請求項9に記載のニッケル水素蓄電池の制御方法。
【請求項11】
ニッケル水素蓄電池を充放電する充放電装置を制御するニッケル水素蓄電池の制御装置であって、
前記ニッケル水素蓄電池のSOC100[%]における電池電圧である上限電圧UL[V]を記憶するとともに、当該上限電圧UL[V]を上限とし、かつ上限電圧UL[V]を必ず含んだ充放電範囲で、充放電を行うニッケル水素蓄電池の制御装置。
【請求項12】
前記ニッケル水素蓄電池のSOC0[%]を超えるように設定した電池電圧である下限電圧LL[V]を記憶するとともに、当該下限電圧LL[V]を下限とした電池電圧OCVの充放電範囲で、充放電を行う請求項11に記載のニッケル水素蓄電池の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ニッケル水素蓄電池の制御方法及び制御装置に係り、詳しくはSOCの推定の誤差を抑制することができるニッケル水素蓄電池の制御方法及び制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年ニッケル水素蓄電池は、安全で大容量の電流を入出力可能であるため、電気自動車、ノートPCなどや、家庭や工場において深夜電力や太陽光発電した電力を蓄電する用途にも用いられている。
【0003】
このようなニッケル水素蓄電池は、様々な使用態様がある。この場合充放電条件によっては、繰り返し充放電を行う事で電気化学的に不活性なニッケル酸化物(Ni2O3H)が生成することにより、電池抵抗の上昇や電池容量の低下を引き起こすことがある。そのため、特許文献1に開示された発明では、電流密度100A/m2で充電率SOC(State Of Charge、以下単に「SOC」と略記することがある。)20~80[%]の範囲内で総電気量10kAhの充放電を実施した際に、Ni2O3Hが規定量以下になるような電池が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、このような制御のためには正確にSOCを推定する必要がある。
図1は、容量劣化のないニッケル水素蓄電池の開放電池電圧OCV(以下単に「OCV」と略記することがある。)とSOCとの関係示すOCV-SOCカーブである。
図1に示すように、対象となるニッケル水素蓄電池のOCVとSOCとの関係をOCV-SOCカーブとして取得すれば、OCVからSOCを推定することができる。
図1においては、SOC100[%]のときのOCV[V]は、V
100[V]を示す。また、OCVがV
80[V]のときは、SOCが80[%]であると推定できる。
【0006】
図2は、容量が低下したニッケル水素蓄電池のOCVとSOCとの関係を示すOCV-SOCカーブである。ニッケル水素蓄電池などでは、上述のようなSOC20~80[%]のような中間SOC領域で部分充放電を繰り返し行うことで、電池容量が減少する場合がある。電池容量が減少すると、
図2に示すように同じOCVでも、実際には当初のOCV-SOCカーブよりも高いSOCとなっている場合がある。
図1において、SOC80[%]のときのOCV[V]はOCV=V
80である。しかしながら、ニッケル水素蓄電池の容量が低下した場合には、
図2に示すOCV-SOCカーブのように、OCV=V
80[V]のときには、実際にはSOCは、80[%]を超す値になっている。
【0007】
従って、OCV=V80[V]のときに、そのときのSOC=80[%]と推定すると、実際にはSOC=80[%]より高いSOC[%]においてこのニッケル水素蓄電池を制御していることになる。このようにSOCの推定に誤差が生じると、SOCが80[%]を超す高SOC領域で使用されることともなり、場合によっては過充電となり、さらにNi2O3Hの生成要因となってしまう場合がある。このような場合、Ni2O3Hが少量でも生成してしまうと電池の容量が減少するため、指定容量(Ah)を前提として継続使用された場合には実質的にSOCの推定誤差が拡大し、更なるNi2O3Hの生成を招く。結果、電池の繰り返し使用が不可能になる場合さえある。このようにSOCを正確に推定するには、ニッケル水素蓄電池の容量の低下を抑制する必要がある。
【0008】
本発明のニッケル水素蓄電池の制御方法及び制御装置が解決しようとする課題は、ニッケル水素蓄電池の容量の低下を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明のニッケル水素蓄電池の制御方法では、ニッケル水素蓄電池において予め充電し、未充電の水酸化ニッケルがなくなった状態をSOC100[%]としたとき、前記ニッケル水素蓄電池の充放電を、SOC100[%]を上限SOCとするとともに、当該上限SOCを含んだ充放電範囲で行う。
【0010】
前記ニッケル水素蓄電池において予め放電し、充電された水酸化ニッケルがなくなった状態をSOC0[%]としたとき、前記ニッケル水素蓄電池の充放電を、SOC0[%]を超えるように設定したSOCを下限SOCとする充放電範囲で、充放電を行うようにしてもよい。
【0011】
前記下限SOCが20~40[%]に設定されてもよい。
前記ニッケル水素蓄電池の充放電をSOC100[%]における電池電圧OCVである上限電圧UL[V]を上限とし、かつ上限電圧UL[V]を含んだ電池電圧OCVの充放電範囲で、充放電を行うことができる。
【0012】
前記ニッケル水素蓄電池の充放電をSOC0[%]を超えるように設定した電池電圧である下限電圧LL[V]を下限とする電池電圧OCVの充放電範囲で、充放電を行うようにしてもよい。
【0013】
前記充放電の充電レートが1/3C以下に制限されていることが好ましい。また、前記充放電の放電レートが1C以下に制限されていることも好ましい。
通常モードとリフレッシュモード間で切り替え可能に制御され、
前記通常モードでは、SOC100[%]未満の基準SOCが設定され、前記基準SOCを上限とした充放電範囲で充放電を行い、前記リフレッシュモードでは、前記上限SOCを上限とし、かつ上限電圧UL[V]を含んだ充放電範囲で、充放電を行うことも好ましい。
【0014】
通常モードとリフレッシュモード間で切り替え可能に制御され、前記通常モードでは、SOC100[%]未満のOCVの基準電圧RV[V]を有し、前記基準電圧RV[V]を上限とした充放電範囲で充放電を行い、前記リフレッシュモードでは設定したタイミングで上限電圧UL[V]を上限とし、かつ上限電圧UL[V]を含んだ充放電範囲で、充放電を行うこともできる。
【0015】
前記通常モードにおいて充電幅を設定するとともに、前記設定した充電幅以上で充電した回数が、予め設定した回数以上となった場合に、前記リフレッシュモードを実施することもできる。
【0016】
本発明のニッケル水素蓄電池の制御装置は、ニッケル水素蓄電池を充放電する充放電装置を制御するニッケル水素蓄電池の制御装置であって、前記ニッケル水素蓄電池のSOC100[%]における電池電圧である上限電圧UL[V]を記憶するとともに、当該上限電圧UL[V]を上限とし、かつ上限電圧UL[V]を必ず含んだ充放電範囲で、充放電を行うことができる。
【0017】
前記ニッケル水素蓄電池のSOC0[%]を超えるように設定した電池電圧である下限電圧LL[V]を記憶するとともに、当該下限電圧LL[V]を下限とした電池電圧OCVの充放電範囲で、充放電を行うことができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のニッケル水素蓄電池の制御方法及び制御装置によれば、ニッケル水素蓄電池の容量の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】容量劣化のないニッケル水素蓄電池の開放電池電圧OCVとSOCとの関係示すOCV-SOCカーブである。
【
図2】容量が低下したニッケル水素蓄電池の開放電池電圧OCVとSOCとの関係を示すOCV-SOCカーブである。
【
図3】本実施形態のニッケル水素蓄電池の制御方法を示す開放電池電圧OCVとSOCとの関係を示すOCV-SOCカーブである。
【
図4】充電時と放電時の開放電池電圧OCVとSOCとの関係を示すOCV-SOCカーブである。
【
図5】ニッケル水素蓄電池の制御装置1のブロック図である。
【
図6】本実施形態のニッケル水素蓄電池10の制御の手順を示すフローチャートである。
【
図7】充放電のSOCの条件を変えた場合の実験例1~7の総放電電気量[Ah]と、その時点でのニッケル水素蓄電池の充電可能な電池容量[Ah]の関係を示すグラフである。
【
図8】第2実施形態のニッケル水素蓄電池の制御方法のメインルーチンの手順を示すフローチャートである。
【
図9】通常モードでのニッケル水素蓄電池の制御のサブルーチンの手順を示すフローチャートである。
【
図10】通常モードでのニッケル水素蓄電池の時間の経過とOCV[V]の変化を示すグラフである。
【
図11】リフレッシュモードでのニッケル水素蓄電池の制御のサブルーチンの手順を示すフローチャートである。
【
図12】充放電のSOCの条件を変えた場合の実験例1、8、9の総放電電気量[Ah]と、その時点でのニッケル水素蓄電池の充電可能な電池容量[Ah]の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下本発明のニッケル水素蓄電池の制御方法及び制御装置を、一実施形態であるニッケル水素蓄電池10の制御装置1により、
図1~12を参照して説明する。
(第1実施形態)
<本実施形態の技術背景>
従来技術で述べたとおり、Ni
2O
3Hが生成すると、ニッケル水素蓄電池10の電池容量が下がるため、特許文献1に開示された発明では、電流密度100A/m2でSOC(充電率、State Of Charge)20~80[%]の範囲内で総電気量10kAhの充放電を実施した際に、Ni
2O
3Hが規定量以下になるような電池が提案されている。
【0021】
本発明者らも、過充電など高いSOCの状態で充電をすると、正極において酸素が発生し、この酸素の発生に起因するNi2O3Hが生じることを、実験により確認している。
<メモリー効果と従来のリフレッシュ方法>
ところが、ニッケル水素蓄電池10を上述のようなSOC20~80[%]のような中間SOC領域で部分充放電を繰り返し行うことでも、高いSOC時のNi2O3Hの生成以外を原因とする電池容量が減少する場合がある。このような原因として、いわゆるニッケル水素蓄電池10のメモリー効果が生じることが挙げられる。
【0022】
メモリー効果は、正極活物質である水酸化ニッケルの充電のばらつきがその原因の一つとして考えられている。このような場合、メモリー効果を解消するいわゆるバッテリリフレッシュには、従来は、一旦SOC0[%]まで完全放電して充電された水酸化ニッケルがなくなった状態とする。そして、その状態から水酸化ニッケルの充電のばらつきが生じないように、低レートで充電していくことで、メモリー効果を解消することが当業者の技術常識であった。
【0023】
しかしながら、本発明者らの解析によれば、このような一旦SOC0[%]まで、完全放電することで、充電された水酸化ニッケルがなくなった状態とし、その後に低レートで充電していく方法でも、ニッケル水素蓄電池の容量が低下することを見出した。
【0024】
<本実施形態のニッケル水素蓄電池のリフレッシュ方法>
そこで、本発明者らは、このような背景を鑑み、新たな方法でニッケル水素蓄電池の容量の低下が生じにくいニッケル水素蓄電池の制御方法を見出した。この方法により、ニッケル水素蓄電池の容量の低下を抑制する。ニッケル水素蓄電池の容量が一定な状態でSOCの推定を正確にすることができる。その結果、そのときの正確なSOCに応じた適切な制御をすることができる。
【0025】
本実施形態のニッケル水素蓄電池10の制御方法では、ニッケル水素蓄電池10において予め完全放電し、そこから低レートで充電し、未充電の水酸化ニッケルがなくなった状態をSOC100[%]とする。そして、ニッケル水素蓄電池10の充放電を、SOC100[%]を上限SOCとするとともに、この上限SOCを含んだ充放電範囲で行う。但し、SOC100[%]を超える充電はしない。
【0026】
充電により正極活物質であるNi(OH)2が、オキシ水酸化ニッケル(NiOOH)に変化するが、このときばらつきが無いように、例えば1C以下の低レートでゆっくり充電する。さらに1/3C以下であるとなお好ましい。そのような低レートでゆっくり充電することで、正極内での局所的な過充電などの発生を抑制しつつ、正極活物質に均一な充電を行う。
【0027】
このような充電を行い、正極において未充電の水酸化ニッケルがなくなった状態を「SOC100[%]」とする。すなわち、この時点で充電を完了する。これ以上充電すると、過充電となり正極において酸素(O2)が発生しやすくなる。酸素(O2)が発生しやすくなると、Ni2O3Hが生成しやすい状態となる。そのため、このSOC100[%]の時点を正確に把握する必要がある。
【0028】
<SOCの推定>
SOC[%]の厳密な測定には、X線光電子分光分析(XPS)などを用いて、正極板表面(数nmの深さ)に存在する正極活物質である水酸化ニッケルの化学結合状態を明らかすることで、推定することができる。しかしながら、専用の測定装置などが必要となったり、破壊検査が必要となったりするため、容易には分析できない。
【0029】
簡易な方法としては、電池電流[Ah]を積算して推定したり、OCV[V]の変化を分析したりする方法がある。これらの方法では、電流や電圧の測定により非破壊で検査できる。特に、電池電圧OCVからSOCを推定するには、前述のOCV-SOCカーブを用いれば簡単にSOCが推定できるため、本実施形態では、OCV-SOCカーブから求めている。
【0030】
<ニッケル水素蓄電池の二段階充電反応>
ここで、ニッケル水素蓄電池の充電について
図1を参照して説明する。
図1に示すように、OCV-SOCカーブは、概ね領域St1~St4の部分からなる。
【0031】
領域St1では、低いSOCにおいて未充電の水酸化ニッケルが徐々に充電され、容量が増加するとともにOCV[V]も上昇していく。ここでは、未充電の水酸化ニッケルが多いため、充電開始時にはOCVの上昇が速い。その後徐々にOCVの上昇の速度は落ちる。
【0032】
領域St2では、水酸化ニッケル(Ni(OH)2)からオキシ水酸化ニッケル(NiOOH)に最も変化しやすい電位となる。そのため、充電の電気エネルギーが、化学変化のエネルギーに費やされるため、電池容量[Ah]は増加するが、OCV[V]は上昇しにくく、水平に近いグラフとなる。
【0033】
領域St3では、未充電の水酸化ニッケルが減少し、容量の増加に伴って電池電圧OCVは上昇する。このとき、SOC80[%]のときの電池電圧OCVは、V80[V]を示す。また、領域St3の右端は、ちょうどSOC100[%]であり、このとき未充電の水酸化ニッケルがなくなる。このときの電池電圧OCV[V]は、V100[V]を示す。
【0034】
領域St4では、過充電の状態となり、充電電流は、水酸化ニッケルの充電には用いられず、酸素の発生のエネルギーとなる。このため、充電しても電池電圧OCVは、上昇しないため、再び水平なグラフとなる。
【0035】
ニッケル水素蓄電池の電池容量が減少していなければ、
図1に示すようなOCV-SOCカーブを得られるため、OCV[V]を測定すれば容易にSOC[%]を推定することができる。
【0036】
<低SOC時のNi
2O
3Hの生成について>
<Ni
2O
3H生成の条件1>
ここで、
図4は、充電時と放電時の開放電池電圧OCVとSOCとの関係を示すOCV-SOCカーブである。
【0037】
Ni
2O
3Hの生成の1つ目の条件は、以下のとおりである。
図4に示すように、低SOCで繰り返し充放電をするとメモリー効果が発生する。そうすると、充電時のニッケル水素蓄電池のOCV-SOCカーブLcが貴側(高い電位)にシフトするため、充電時は酸素O
2が発生しやすい系となることである。
【0038】
一方で、放電時のOCV-SOCカーブLdは、卑側(低い電位)にシフトするため、放電時は低い正極電位で使用される系となる。正極の水酸化ニッケル界面で酸素が発生するとその酸素によって水酸化ニッケル粒子界面で局所的な液枯れ状態が発生する。この水が不足している状態で放電をすると、放電電圧が卑にシフトしている分、通常よりも低い正極電位へ滞在することでNi2O3H生成電位に近づくことである。
【0039】
<Ni2O3H生成の条件2>
Ni2O3Hの生成の2つ目の条件は、以下のとおりである。酸素が発生することで、局所的に不足している水を補おうとするために、βNiOOHから、H2OとNi2O3Hが同時に生成する反応が促進することである。
【0040】
<Ni2O3H生成>
上記条件1及び条件2が重なり、Ni2O3Hが加速的に生成する。その結果、容量低下を招いてしまう。
【0041】
<本実施形態の制御方法>
図2は、メモリー効果が発生して容量が低下したニッケル水素蓄電池の開放電池電圧OCVとSOCとの関係を示すOCV-SOCカーブである。
【0042】
したがって、これらのNi2O3Hが加速的に生成するメカニズムに基づくと初期の部分充放電が主要因(起点)である。このため、これを防ぐ必要がある。2段階充電反応(≒酸素発生電圧)の開始時の充電電圧は未充電のNi(OH)2粒子はほぼ存在しないため、これを起点に充放電をすることによってメモリー効果の要因である未充電部の粒子を生成することがなくなる。
【0043】
結果、初期のOCV-SOCカーブのズレを抑制できる。
<従来の領域St4における容量回復>
図1において領域St4で示す範囲は、過充電であると説明した。従来、敢えてニッケル水素蓄電池を過充電の状態として容量を回復す方法があった(例えば特開2018-4270号公報)。
【0044】
その容量の回復の方法は、ニッケル水素蓄電池内の水素H2が外部に漏出して電池ケース内の水素分圧の平衡が崩れているという前提である。
この平衡を保つべく、水素漏出量に応じて負極の金属水素化物(MH)から水素が放出させる。このように水素が電池モジュールの外部に排出されると、負極の放電リザーブが減少するという理由から放電容量が減少する。
【0045】
そこで、放電リザーブを増加させるために、電池モジュールの過充電を行う。過充電では、正極の未充電部分がなくなった後も充電が継続されるために、下記の半反応式(1)に示すように、電解液の水酸基が分解されて酸素が生じる。負極では、下記の半反応式(2)に示すように、負極活物質のうち未充電部分、すなわち水素吸蔵合金に水素が吸蔵される反応が進行する。また、下記の半反応式(3)に示すように、水素吸蔵合金に水素を吸蔵する反応と同時に、充電部分、すなわち水素を吸蔵した水素吸蔵合金では金属水素化物と酸素とが反応して、水が生成される反応が生じる。この際、金属水素化物(MH)は、水素吸蔵合金(M)に戻る。つまり、過充電時であって安全弁が開いていない場合には、負極において、未充電部分が充電される反応と、充電部分が未充電部分に戻る反応とが同時に生じることとなる。
【0046】
(正極)OH-→1/4O2+1/2H2O+e-… (1)
(負極)M+H2O+e-→MH+OH-…(2)
MH+1/4O2→M+1/2H2O…(3)
一方、正極から酸素が発生して内部圧力が上昇し、内部圧力が開弁圧以上となると、安全弁が開いて、外部に酸素ガスが排出される。酸素ガスが排出されると、半反応式(3)で示す反応、すなわち充電部分が未充電部分に戻る反応が抑制される。そのため、水素を吸蔵した水素吸蔵合金は、水素を吸蔵した状態が維持され、負極の未充電部分がある場合には、半反応式(2)で示す反応が進行して放電リザーブが確保される。
【0047】
<本実施形態での領域St4における制御>
本実施形態では、ニッケル水素蓄電池内の水素H2が外部に漏出して電池ケース内の水素分圧の平衡が崩れているという前提はない。
【0048】
このため、正極から酸素が発生して内部圧力が上昇し、内部圧力が開弁圧以上となると、安全弁が開いて、外部に酸素ガスが排出されるが、開弁することにより電解液の絶対量が減少するなど、そのデメリットも大きい。
【0049】
さらに、本発明者らは、過充電により正極において酸素O2が発生することで、この酸素の発生に起因するNi2O3Hが生じることを、実験により確認している。
このような理由から、本実施形態では、SOCが100[%]を超える領域St4では、ニッケル水素蓄電池を使用しない。
【0050】
<ニッケル水素蓄電池の制御装置1>
図5は、ニッケル水素蓄電池10の制御装置1のブロック図である。
図5に示す実線は、電気的に接続されていることを示す。また、破線は制御用の信号の接続を示す。本実施形態のニッケル水素蓄電池10の制御装置1は、家庭用の定置式電池であり、例えば夜間単価の安い深夜電力を満充電し、日中は必要な照明、冷暖房、家電製品などに電力を供給するようなものを想定している。
【0051】
もちろん、本実施形態のニッケル水素蓄電池は、電気自動車(EV)、ハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHV)などの車両に用いることができる。そのほか、太陽光発電や風力発電などの小規模発電を行う家庭や工場でも用いることができる。さらに、その用途は、限定されない。ここでは、充放電の操作が単純で、本実施形態のニッケル水素蓄電池の制御方法の説明が理解しやすいため、家庭用の定置用電池を例に説明するものである。ここでは、その共通する基本構成のみを示す。
【0052】
制御装置1は、充放電制御装置2、電源装置3、電圧測定装置4、電流測定装置5、スイッチ6、負荷7を備える。
<充放電制御装置2>
充放電制御装置2は、電源装置3、電圧測定装置4、電流測定装置5、スイッチ6、負荷7を信号の遣り取りをする。電圧測定装置4、電流測定装置5からは、ニッケル水素蓄電池10のOCV[V]や電池電流[A]のデータを受信する。これらに基づいて、電源装置3からの電力供給量や、負荷7に供給する電力を供給する制御信号を送信することで、本実施形態のニッケル水素蓄電池10の制御方法を実行する。
【0053】
充放電制御装置2は、CPU(Central Processing Unit)21、RAM(Random Access Memory)22、ROM(Read Only Memory)23を備える。さらに、例えばPROM(Programmable ROM)などからなる記憶装置24を備えたコンピュータとして構成される。ROM23や記憶装置24には、本実施形態のニッケル水素蓄電池10の制御方法のプログラムが記憶されている。
【0054】
その他、電源装置やインタフェイス、タイマーなど周知のコンピュータとしての構成を備えている。
<電源装置3>
電源装置3は、ニッケル水素蓄電池10に電力を供給可能な装置である。本実施形態では、電灯線を介した深夜電力の供給装置が該当する。また、供給される電力は、例えば、電気自動車(EV)などでは、電灯線による充電機から供給される電力や回生電力である。またハイブリッド車(HV)などでは、原動機により発電された電力や回生電力が相当する。また、太陽光発電、風力発電、小規模水力発電を行っている家庭や工場では、太陽光パネルを含む発電施設などにより発電された電力となる。
【0055】
電源装置3は、供給する電力が適正となるような図示を省略したスイッチ、電圧調整器、電流調整器、インバータなどを有して、制御装置1により制御される。
<電圧測定装置4>
電圧測定装置4は、ニッケル水素蓄電池10の開放電池電圧であるOCV[V]を測定する。実際には、電源装置3や負荷7が接続されているが、OCVを実測又は推定できれば、その方法は限定されない。
【0056】
<電流測定装置5>
電流測定装置5は、ニッケル水素蓄電池10の電池電流[A]を測定する。実際には、電源装置3や負荷7が接続されているが、電池電流[A]を実測又は推定できれば、その方法は限定されない。
【0057】
<負荷7>
本実施形態での負荷7は、照明、冷暖房、家電など家庭内の電力消費をする機器が相当する。電気自動車やハイブリッド車の場合では、駆動用のモータジェネレータや、エアコンなどの機器が相当する。また、太陽光発電を行っている家庭や工場では、売電による送電なども相当する。また、単純に放電させることで、ニッケル水素蓄電池10のSOCの調整をするようなものも含まれる。
【0058】
また、負荷7に設けられたスイッチ6も図示を省略したが、開閉手段のみならず供給する電力が適正となるような図示を省略したスイッチ、電圧調整器、電流調整器、インバータなどを有して、充放電制御装置2により制御される。
【0059】
<本実施形態のニッケル水素蓄電池の制御の手順>
図6は、本実施形態のニッケル水素蓄電池10の制御の手順を示すフローチャートである。
【0060】
前述のとおり本実施形態のニッケル水素蓄電池10の制御装置1は、説明の単純化のため、家庭において夜間に深夜電力を蓄電し、日中これを消費するものを例示した。そのため、実際には例外的な充放電の手順などが行われることがあるが、このフローチャートでは記載を省略している。以下この本実施形態のニッケル水素蓄電池10の制御装置1を用いた本実施形態のニッケル水素蓄電池10の制御方法を説明する。なお、その用途が電気自動車(EV)、ハイブリッド車用、太陽光発電、風力発電などの発電設備を備えた家庭や工場における定置用などにも用いられ、限定されるものではない。また、用途に応じて、その制御の手順が異なることは言うまでもなく、本実施例によっては限定されない。
【0061】
<準備段階>
ニッケル水素蓄電池10の使用開始時には(開始)と、まず、「OCV-SOCカーブ」が取得される(S1)。ここでは、充放電制御装置2によりニッケル水素蓄電池10が完全放電され、充電レート1/3Cの低レートで充電しながら、充電した電流の積算値[Ah]と、OCVの関係が記録される。
【0062】
次に、SOC100[%]のOCVを上限電圧UL[V]として設定する(S2)。ここでは、
図1で示す領域St3と領域St4の境界で、OCV-SOCカーブが設定した傾きより小さくなった瞬間を、
図3に示すようにSOC100[%]になった充電容量[Ah]と見做して、「上限電圧UL[V]」として、記憶装置24に記憶する。なお、OCV[V]の変化dVに対する容量[Ah]の変化dQである「dQ/dV」を測定して、値のピークにより「上限電圧UL[V]」を求めてもよい。以上で、準備段階が完了する。
【0063】
<ニッケル水素蓄電池の制御開始(S3)>
準備段階が完了したら、充放電制御装置2は、ニッケル水素蓄電池10として制御を開始する。本実施形態の場合は、SOC20~100[%]の範囲で運用される。
【0064】
<原則的制御>
ニッケル水素蓄電池10の制御は、原則的には、例えば、電灯線からの夜間の深夜電力による電力で、ニッケル水素蓄電池10がSOC100[%]となるように上限電圧UL[V]まで充電される。この場合の充電レートは1/3Cとなっている。そして、ニッケル水素蓄電池10がSOC100[%]になった時点で充電を停止する。そして、日中は負荷の大きさに応じて、下限電圧LL[V]になるまで放電レート1Cを上限に放電する。なお、必ず上限電圧UL[V]までは充電するが、必ずしも下限電圧LL[V]にまで放電する必要はなく、適時充電を行うことができる。
【0065】
<例外的制御>
なお、例外的な制御として、例えば太陽光パネルを有した家庭では、太陽光発電による電力による充電があるが、このような場合はハイレートの充電を許容するようにしてもよい。また、酷暑によるエアコンの使用により電池の容量が低下した場合に、最低の容量を維持するため、ハイレートの充電を許容するようにしてもよい。
【0066】
一方、放電レートは、基本的に1C以下となるように制限する。また、本実施形態ではSOCが20[%]未満となった場合は、放電を制限する。この場合も、酷暑によるエアコンの使用などにより必要な場合などは、ハイレートの放電が許容される。
【0067】
これらの例外的な制御は、本実施形態における本質的な制御ではないためこのフローチャートでは詳しい記載は省略しているが、常時行われるものである。また、目的が異なれば、当業者により適宜目的合せてその使用環境に合わせて制御が行われることは言うまでもない。
【0068】
<現在の電圧PV[V]の取得(S4)>
充放電制御装置2は、電圧測定装置4により測定された現在のOCVである電圧PV[V]を取得して監視する。
【0069】
<上限電圧UL[V]の制御>
充放電制御装置2は、取得した電圧PV[V]を、上限電圧UL[V]と比較する。ここで「PV>上限電圧UL」ではない、つまり電圧PV[V]が上限電圧UL[V]以下の場合(S5:NO)、充電レートを1/3Cとした充電を許容する(S7)。この場合は、すなわちSOC[%]が100[%]以下の場合である。
【0070】
一方、1/3Cで充電を継続し、「PV>上限電圧UL」となった、つまり電圧PV[V]が上限電圧UL[V]を超えた場合(S5:NO)、直ちに充電を終了する(S6)。この場合は、すなわちSOC[%]が100[%]を超えて過充電の領域となるため、充電を直ちに停止するものである。
【0071】
なお、本実施形態のフローチャートでは、ここで一旦充電を終了したときは(S6)、その後のS5の判断は行われず、原則としてその後充電は行われないとした。基本的に、この充電が完了した段階で、リフレッシュ効果は発揮できる。
【0072】
<下限電圧LL[V]の制御>
充電が完了したら(S6)、充放電制御装置2は、取得した電圧PV[V]を、下限電圧LL[V]と比較する。ここで「PV<下限電圧LL」ではない場合、すなわち電圧PV[V]が下限電圧LL[V]以上の場合(S8:NO)、充電レートを1C以下とした放電を許容する(S9)。この場合は、本実施形態ではSOC[%]が20[%]以上の場合である。
【0073】
一方、「PV<下限電圧LL」の場合、すなわち電圧PV[V]が下限電圧LL[V]より小さい場合(S8:NO)、放電を制限する(S10)。この場合は、すなわちSOC[%]が20[%]を下回った領域となるため、放電を停止するものである。S7に示す「1/3C以下で充電」の手順以外に、このフローチャートに記載していない充電が行われたような場合に「PV<下限電圧LL」ではない場合となった場合は、再び「1C以下で放電許容(S10)」となる。
【0074】
<制御の終了、継続>
例えば、制御を終了する場合は(S11:YES)、制御を終了する(終了)する。このような場合は、例えば再び充電するような場合であり、再び「開始」に戻って制御される。そうでない場合は(S11:NO)、再び、現在の電圧PV[V]の取得(S4)に戻り、S8~S11の手順を繰り返す。
【0075】
なお、以上の記載は、本実施形態の理解のため単純化し、主な手順のみを説明するものである。例外的な大きな充放電があった場合などの手順に関しては記載を省略している。前述のとおり、本実施形態が適用される目的により、当業者によりこのフローチャートには記載されていない処理がなされることは言うまでもない。
【0076】
(第1実施形態の実験例)
図7は、充放電のSOCの条件を変えた場合の実験例1~7の総放電電気量[Ah]と、その時点でのニッケル水素蓄電池10の充電可能な電池容量[Ah]の関係を示すグラフである。実験は、指定されたSOCの範囲で、充放電のレートを1/3Cで繰り返し充放電を行った。
【0077】
<実験例1>
図7に示す実験例1は、上記した本実施形態の総放電電気量[Ah]と、電池容量[Ah]の関係を示す。ここに示すように、充放電のSOCの範囲を100~20[%]とし、その範囲をΔSOC=80[%]とした。ここで、「ΔSOC」とは、SOC[%]の最大値と最小値の差を表す。そして、充電時には上限電圧UL[V]まで充電し、必ずSOC100[%]となるようにした。この場合は、製造当初の電池容量であるおよそ5.2[Ah]が、総放電電気量[Ah]が増えても、電池容量[Ah]が減少しないことが分かった。
【0078】
<実験例2>
次に、実験例2では、充放電のSOCの範囲を100~40[%]とする。そして、その範囲をΔSOC=60[%]と小さくした場合、同様に充電時には必ずSOC100[%]となるようにする。このような場合は、製造当初の電池容量であるおよそ3.9[Ah]が、総放電電気量[Ah]が増えても、電池容量[Ah]が減少しないことが分かった。
【0079】
<実験例3>
さらに、実験例3では、充放電のSOCの範囲を100~60[%]として、ΔSOC=40[%]とさらに小さくする。このような場合でも、充電時には必ずSOC100[%]となるようにした場合は、製造当初の電池容量であるおよそ2.6[Ah]が、総放電電気量[Ah]が増えても、電池容量[Ah]が減少しないことが分かった。
【0080】
<実験例4>
実験例4では、実験例1と同様に、ΔSOC=80[%]としたが、SOC90[%]を上限値とし、SOC10[%]を下限値とした。そして、充電時には、必ずSOC90[%]となるように充電した。この場合は、製造当初の電池容量であるおよそ5.2[Ah]が、総放電電気量[Ah]が増加するに従い、電池容量[Ah]が減少した。
図7に示すように、当初およそ5.2[Ah]あった電池の充電容量が、総放電電気量[Ah]が2000[Ah]には、およそ4.8[Ah]まで低下した。さらに、総放電電気量[Ah]が4000[Ah]には、およそ4.2[Ah]まで低下した。さらに、総放電電気量[Ah]が6000[Ah]には、およそ3.5[Ah]まで低下した。そして、総放電電気量[Ah]が8000[Ah]には、およそ3.2[Ah]まで低下した。このことから、SOC100[%]までの充電を含まない充放電は、使用するに伴って、電池容量[Ah]が減少することが確認できた。
【0081】
<実験例5>
実験例5では、実験例1と同様に、ΔSOC=80[%]としたが、SOC80[%]を上限値とし、SOC0[%]を下限値とした。そして、充電時には、必ずSOC80[%]となるように充電した。この場合は、製造当初の電池容量であるおよそ5.2[Ah]が、総放電電気量[Ah]が増加するに従い、電池容量[Ah]が減少した。
図7に示すように、当初およそ5.2[Ah]あった電池の充電容量が、総放電電気量[Ah]が2000[Ah]には、一挙におよそ2.6[Ah]まで低下した。このことから、SOC100[%]までの充電を含まない充放電は、使用するに伴って、電池容量[Ah]が減少することが確認できた。特に、実験例4と比較しても、電池容量が大きく減少した。
【0082】
本発明者らが特に着目したのは、実験例5がSOC0[%]を含む範囲で充放電が行われていることである。従来、ニッケル水素蓄電池10のリフレッシュは、SOC0[%]まで完全放電させて、そこから低い充電レートでゆっくり充電することでできるものと思われていた。
【0083】
しかしながら、本発明者らは、上述したとおり
図7に示すように、当業者においてメモリー効果解消に効果があると考えられていたSOC0[%]を経由しても電池容量が大きく減少することを見出した。
【0084】
<実験例6>
実験例6では、実験例2と同様に、ΔSOC=60[%]としたが、SOC70[%]を上限値とし、SOC10[%]を下限値とした。そして、充電時には、必ずSOC70[%]となるように充電した。この場合は、製造当初の電池容量であるおよそ3.8[Ah]が、総放電電気量[Ah]が増加するに従い、電池容量[Ah]が減少した。
図7に示すように、当初およそ3.8[Ah]あった電池の充電容量が、総放電電気量[Ah]が2000[Ah]には、およそ4.8[Ah]まで低下した。
【0085】
<実験例7>
実験例7では、実験例3と同様に、ΔSOC=40[%]としたが、SOC50[%]を上限値とし、SOC10[%]を下限値とした。そして、充電時には、必ずSOC50[%]となるように充電した。この場合は、製造当初の電池容量であるおよそ2.6[Ah]が、総放電電気量[Ah]が増加するに従い、電池容量[Ah]が減少した。
図7に示すように、当初およそ2.6[Ah]あった電池の充電容量が、総放電電気量[Ah]が2000[Ah]には、およそ1.1[Ah]まで低下した。
【0086】
<実験のまとめ>
(a)実験例1、2、3から導かれるように、SOC100[%]を上限とする充放電範囲で、充電時に必ずSOC100[%]となるまで充電した場合は、充電範囲であるΔSOCが80~40[%]と異なる。それにも拘わらず、いずれも電池容量[Ah]の劣化が生じなかった。つまり、少なくとも、いわゆるメモリー効果が生じていない。つまり、リフレッシュ効果が認められる。
【0087】
また、同時にNi2O3Hが生成されることもなかったことがわかる。つまり、この実験では、充電時に必ずSOC100[%]になった瞬間に充電を停止し、放電を開始する。このことで、酸素の発生しやすい過充電の状態を回避することで、Ni2O3Hが生成されることもなかったものと推定できる。
【0088】
(b)一方、実験例4、6、7から導かれるように、SOC100[%]より低いSOCを上限とする充放電範囲では、充電範囲であるΔSOCに拘わらず、電池容量[Ah]の劣化が生じた。
【0089】
この場合、酸素の発生するSOC100[%]を超すようなSOCではない。
また、充放電のレートは、いずれも1/3Cであり、10[%]という低SOCにおいてハイレートの充放電を行っているわけでもない。そのため、電池容量[Ah]の劣化は、Ni2O3Hの生成に起因するとは考えにくい。
【0090】
そうであるので、本発明らが提案した充電時にSOC100[%]を必ず到達することによるリフレッシュ効果が発揮できなかったと推定できる。
(c)さらに、実験例5から導かれるように、少なくとも本実験の条件では、SOC0[%]まで完全放電させて、そこから1/3Cという低い充電レートでゆっくり充電しても、電池容量[Ah]の劣化が生じている。つまり、従来SOC0[%]まで完全放電させて、正極活物質である水酸化ニッケルを完全に未充電の状態にして、正極活物質間のばらつきを解消する。その後低い充電レートで充電することでメモリー効果が解消するリフレッシュを行うことができるという当業者の技術常識と思われていたことが、必ずしも成立しないということがわかり、画期的な結果を得ることができた。
【0091】
(第1実施形態の作用)
本実施形態のニッケル水素蓄電池10の制御方法では、ニッケル水素蓄電池10の充放電を、SOC100[%]を上限SOCとするとともに、例えばSOC20[%]を下限としてこのSOC[%]の範囲で充放電を行う。充電により正極活物質であるNi(OH)2が、オキシ水酸化ニッケル(NiOOH)に変化するが、このときばらつきが無いように、例えば1/3C以下の低レートでゆっくり充電する。そのような低レートでゆっくりSOC100[%]まで充電することで、正極内での局所的な過充電などの発生を抑制しつつ、正極活物質に均一な充電を行う。ちょうどSOC100[%]になった時点で充電を完了する。
【0092】
これ以上充電すると、過充電となり正極において酸素(O2)が発生しやすくなる。酸素(O2)が発生しやすくなると、Ni2O3Hが生成しやすい状態となるためである。
このような本実施形態のニッケル水素蓄電池10の制御方法では、メモリー効果による電池容量の低下をリフレッシュすることで電池容量の低下を抑制するという作用がある。
【0093】
また、充電をSOC100[%]を超えた範囲で行わないことで、Ni2O3Hの発生を抑制するという作用がある。
また、電池容量を低下させないため、OCV-SOCカーブが変化しない。このため、一度取得したOCV-SOCカーブに基づけば、OCV[V]から容易かつ正確にSOCを推定できるという作用がある。
【0094】
さらに、このように正確に推定したSOCに基づいて、そのときのSOC[%]に応じた制御も可能となるという作用がある。このため、電池容量の劣化をさらに抑制できるという作用がある。
【0095】
(第1実施形態の効果)
(1-1)本実施形態のニッケル水素蓄電池10の制御方法は、ニッケル水素蓄電池10の充放電を、SOC100[%]を上限SOCとするとともに、当該上限SOC[%]を含んだ充放電範囲で行う。このため、ニッケル水素蓄電池10の容量劣化を抑制することができる。
【0096】
(1-2)制御の対象となるニッケル水素蓄電池10において、予め実際に充電し、未充電の水酸化ニッケルがなくなった状態をSOC100[%]とするため、正確なSOC[%]に基づいた制御をすることができる。
【0097】
(1-3)ニッケル水素蓄電池10において予め放電し、充電された水酸化ニッケルがなくなった状態をSOC0[%]としたとき、ニッケル水素蓄電池10の充放電を、SOC0[%]を超えるように設定したSOCを下限SOCとする充放電範囲で充放電を行う。この範囲でも、SOC100[%]とすることでリフレッシュを行うことができる。このため、ニッケル水素蓄電池10を完全放電した状態とすることがなく、過放電にすることもないという効果がある。
【0098】
(1-4)また、ニッケル水素蓄電池10を完全放電した状態とすることがないため、常に電力供給の余力を残しておけるという効果がある。また、過放電とすることもない。
(1-5)本実施形態では、OCV-SOCカーブを取得しているので、OCV[V]から容易にかつ正確にSOC[%]を推定することができる。
【0099】
(1-6)また、本実施形態のニッケル水素蓄電池10の制御方法は、電池容量を劣化させないので、常にOCV-SOCカーブから容易にかつ正確にSOC[%]を推定することができる。
【0100】
(1-7)常に正確にSOC[%]を推定することができるため、SOC[%]に応じた適切な制御をすることで、さらにニッケル水素蓄電池の劣化を効果的に抑制することができる。
【0101】
(1-8)充電レートは、1/3Cという低レートで行うため、正極において局所的な過充電などを生じないように、均等に正極活物質の充電を行うことができる。
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態では、第1実施形態においては、例外を除き、原則必ずSOC100[%]まで充電をする。一方、第2実施形態では、「通常モード」と「リフレッシュモード」間で切り替え可能に制御される。「通常モード」では、SOC100[%]未満(例えばSOC80[%])に対応するOCVの基準電圧RV[V]を有し、基準電圧RV[V]を上限とした充放電範囲で充放電を行う。
【0102】
一方、「リフレッシュモード」では、設定したタイミングで第1実施形態と同じようにSOC100[%]に対応する上限電圧UL[V]を上限とし、かつ上限電圧UL[V]を含んだ充放電範囲で、充放電を行う。
【0103】
設定したタイミングとは、例えば、通常モードで設定した設定回数(例えば、5回)、OCVが基準電圧RV[V]に達した場合に、リフレッシュモードを実施するような方法が挙げられる。
【0104】
(第2実施形態のニッケル水素蓄電池の制御方法の手順)
図8は、第2実施形態のニッケル水素蓄電池の制御方法のメインルーチンの手順を示すフローチャートである。
【0105】
まず、準備段階であるS101、S102は、
図6に示す第1実施形態の手順S1、S2と同一であるので説明を省略する。
<ニッケル水素蓄電池の制御開始(S103)>
準備段階(S101、S102)が終了したら、ニッケル水素蓄電池の制御開始(S103)に移行する。ここでは、第1実施形態の手順S3と同様に、原則的なニッケル水素蓄電池10の制御と、例外的なニッケル水素蓄電池10の制御が行われる。これらの制御は、常時行われることになる。第1実施形態と異なる点は、原則的なニッケル水素蓄電池10の制御には、「通常モード」と「リフレッシュモード」の2つのモードに切り替えて制御する点に特徴がある。
【0106】
<通常モード(S104)>
図9は、通常モード(S104)でのニッケル水素蓄電池10の制御のサブルーチンの手順を示すフローチャートである。
【0107】
通常モード(S104)が開始されると(S1041)、以下のような制御が行われる。
<原則的制御>
原則的には、夜間の深夜電力のみならず、例えば、日中の太陽光発電による外部からの電力で、ニッケル水素蓄電池10が基準電圧RV[V]を上限として充電される。この場合の充電レートは1Cとなっている。通常モードでは、特に、ニッケル水素蓄電池10のリフレッシュ効果を目的としていないからである。そして、ニッケル水素蓄電池10が基準電圧RV[V]になった時点で充電を停止する。また、下限電圧LL[V]を下限として放電レート1Cを上限に放電する。これをランダムに繰り返す。
【0108】
なお、第1実施形態とは異なり、必ずしも基準電圧RV[V]までは充電する必要はない。また必ずしも下限電圧LL[V]にまで放電する必要もない。
つまり、通常モードでは、基準電圧RV[V]を上限に、下限電圧LL[V]を下限すること以外は、特にニッケル水素蓄電池10の運用に応じて充放電が行われる。リフレッシュモード(S105)のように、必ず上限電圧UL[V]とするような制御は行われない。そのため、ニッケル水素蓄電池10の効率的な利用ができる。
【0109】
一方、ニッケル水素蓄電池10がおかれた環境によっては、SOC[%]の変動がランダムで激しい場合も想定される。例えば、低SOC[%]におけるハイレートの充放電が行われることも許容している。その結果、メモリー効果の発生や、Ni2O3Hの生成も懸念される。
【0110】
そこで、一定の割合で、リフレッシュモード(S105)で、メモリー効果を解消することが望まれる。
<例外的制御>
なお、例外的な制御として、第1実施形態で行ったと同様に例外的制御が行われるが、ここでは説明を省略する。
【0111】
<リフレッシュモードへの移行>
図9に示すように通常モードの制御(S1041)が開始された後は、充電が5回に到達したか否かが判断され(S1402)、充電が5回に到達するまでは(S1042:NO)、通常モードの制御が行われる。そして、充電が5回に到達したら(S1042:YES)、通常モードの制御(S104)のサブルーチンが終了して、
図8に示すメインルーチンに戻り、リフレッシュモードの制御(S105)が行われる。
【0112】
図10は、通常モードでのニッケル水素蓄電池10の時間の経過とOCV[V]の変化の一例を示すグラフである。通常モードでは、基準電圧RV[V]を上限に、下限電圧LL[V]を下限にして、充放電が行われる。ここでは、基準電圧RV[V]を上限に、下限電圧LL[V]を下限すること以外は、特にニッケル水素蓄電池10の運用に応じて充放電が行われる。リフレッシュモード(S105)のように、必ず上限電圧UL[V]に到達するような制御は行われない。
【0113】
そこで、通常モード(104)を終了して、
図8に示すメインルーチンに戻る契機は、以下のような手順としている。
図10に示すように、通常モードにおける充放電は、先のリフレッシュモードが終了すると、上限電圧UL[V]から放電され、通常モードでニッケル水素蓄電池の運用に応じて自由に充放電が行われる。このとき、所定の充電幅を基準として設定する。充電幅は、OCV[V]の差でもよいが、一定のSOC[%]の差(例えば40[%])をOCV[V]の差に換算したものが好ましい。
【0114】
そして、
図10に示すOCV[V]の変動において、先のリフレッシュモードが終了すると、最初に放電が行われ、下限電圧LL[V]になると、充電が基準電圧RV[V]まで、行われる。このとき、下限電圧LL[V]は、SOC20[%]に相当し、基準電圧RV[V]がSOC80[%]に相当するとすれば、充電幅は60[%]に相当する。そのため、設定した充電幅であるSOC40[%]を超えているため、この充電は「1回目」とカウントする。
【0115】
同様に、2回目、3回目の充電も充電幅であるSOC40[%]を超えているため、これらの充電も「充電1回」とカウントする。
一方、次の充電では、充電幅が、概ねSOC10[%]とすると、設定した充電幅であるSOC40[%]より小さいため、この充電は、通常モードにおける「充電1回」とはカウントしない。
【0116】
このように充電が行われると、その充電幅が判定されて通常モードにおける「充電1回」とカウントするかしないかが判定される。通常モードにおける「充電1回」とカウントされた回数は、充放電制御装置2のRAM22か記憶装置24に回数が積算されていく。
【0117】
そして、
図10に示す最後の充電は、設定した充電幅であるSOC40[%]を超えているため、この充電は「充電1回」とカウントされ、充電が「5回目」と判断される。
通常モードにおいては、充電幅を設定するとともに、設定した充電幅以上で充電した回数が、予め設定した回数(ここでは5回)以上となった場合に、リフレッシュモードを実施する。
【0118】
そこで、
図10に示すように、充電が5回に到達したと判断したら(
図9:S1042:YES)、
図8に示すメインルーチンに戻り、リフレッシュモードでの制御(S105)へと移行する。
【0119】
<リフレッシュモード(S105)>
図11は、リフレッシュモードでのニッケル水素蓄電池10の制御のサブルーチンの手順を示すフローチャートである。
【0120】
リフレッシュモードの制御のS1051~S1059の手順は、基本的に
図6に示す第1実施形態のニッケル水素蓄電池の制御のフローチャートのS3~S11の手順と同じである。異なる点は、リフレッシュモード(S105)の手順S1059は、制御全体の終了ではなく、サブルーチンの終了であるので、手順は
図8に示すメインルーチンに戻る。
【0121】
(第2実施形態の実験例)
図12は、充放電のSOCの条件を変えた場合の実験例1、4,9の総放電電気量[Ah]と、その時点でのニッケル水素蓄電池10の充電可能な電池容量[Ah]の関係を示すグラフである。
【0122】
<実験例1>
図12に示す実験例1は、上記した本実施形態の総放電電気量[Ah]と、電池容量[Ah]の関係を示す。ここに示すように、充放電のSOCの範囲を100~20[%]とし、その範囲をΔSOC=80[%]とした。ここで、「ΔSOC」とは、SOC[%]の最大値と最小値の差を表す。そして、充電時には上限電圧UL[V]まで1/3Cの充電レートで充電し、必ずSOC100[%]となるようにした。
【0123】
この場合は、製造当初の電池容量であるおよそ5.2[Ah]が、総放電電気量[Ah]が増えても、電池容量[Ah]が減少しないことが分かった。
<実験例4>
実験例4では、実験例1と同様に、ΔSOC=80[%]としたが、SOC90[%]を上限値とし、SOC10[%]を下限値とした。そして、充電時には、必ずSOC90[%]となるように1/3Cの充電レートで充電した。
【0124】
この場合は、製造当初の電池容量であるおよそ5.2[Ah]が、総放電電気量[Ah]が増加するに従い、電池容量[Ah]が減少した。
図7に示すように、当初およそ5.2[Ah]あった電池の充電容量が、総放電電気量[Ah]が2000[Ah]には、およそ4.8[Ah]まで低下した。さらに、総放電電気量[Ah]が4000[Ah]には、およそ4.2[Ah]まで低下した。さらに、総放電電気量[Ah]が6000[Ah]には、およそ3.5[Ah]まで低下した。そして、総放電電気量[Ah]が8000[Ah]には、およそ3.2[Ah]まで低下した。このことから、SOC100[%]までの充電を含まない充放電は、使用するに伴って、電池容量[Ah]が減少することが確認できた。
【0125】
<実験例8>
実験例8では、第2実施形態に示すように、通常モードでSOC80[%]まで1/3Cの充電レートで充電し、SOC20[%]まで放電レート1Cで放電する。これを5回繰り返した後、リフレッシュモードとして、上限電圧UL[V]に到達するまで1/3Cの充電レートで充電し、必ずSOC100[%]となるようにした。そして、SOC20%まで放電レート1Cで放電した。これをワンセットとして、繰り返した。
【0126】
この場合は、製造当初の電池容量であるおよそ5.2[Ah]が、総放電電気量[Ah]が増加するに従い、電池容量[Ah]が減少した。
図12に示すように、当初およそ5.2[Ah]あった電池の充電容量が、総放電電気量[Ah]が2000[Ah]では変化が無かった。さらに、総放電電気量[Ah]が4000[Ah]には、およそ5.0[Ah]まで低下した。さらに、総放電電気量[Ah]が6000[Ah]には、およそ4.7[Ah]まで低下した。そして、総放電電気量[Ah]が8000[Ah]には、およそ4.5[Ah]まで低下した。
【0127】
<実験のまとめ>
実験例8は、通常モードで5回充放電を行い、リフレッシュモードで1回充放電を行っている。これは、実験例1が第2実施形態のリフレッシュモードのみで充放電を行っているのと、ほぼ等しい。また、実験例4が、第2実施形態の通常モードのみで充放電を行っているのとほぼ等しい。これに対して、実験例8では、第2実施形態で示したように、これらを混合した条件あるといえる。そうすると、実験例8における劣化は、6回中1回だけリフレッシュモードとするので、実験例4の5/6程度となるという予想もできる。しかしながら、実験例8における劣化は、実験例4の劣化に対して、概ね1/3程度となっている。
【0128】
この結果から導かれるのは、リフレッシュモードで充放電を行うことで、劣化が抑制されていることがわかる。
(第2実施形態の作用)
第2実施形態では、通常モードで5回充放電を行い、リフレッシュモードで1回充放電を行っている。このため、リフレッシュモードで、SOC100[%]まで、充電レート1/3でゆっくり充電することで、第1実施形態と同様のリフレッシュの作用を奏する。
【0129】
また、通常モードにおける劣化を、リフレッシュモードで回復させるという作用を奏する。
(第2実施形態の効果)
(2-1)通常モードで制限なく充放電し、劣化が生じても、リフレッシュモードで充放電を行うことで、ニッケル水素蓄電池10の劣化を回復することができる。
【0130】
(2-2)そのため、ニッケル水素蓄電池10の使用の自由度があがり電池の能力を十分に用いるとともに、ニッケル水素蓄電池10の容量の低下を抑制することができる。
(別例)
本発明は、実施形態に限定されず以下のように実施することができる。
【0131】
○本実施形態では、深夜電力により夜間充電する家庭における定置用のニッケル水素蓄電池10を例示したが、動作が単純であることから説明の単純化のため例示したものである。本発明では、ニッケル水素蓄電池10の用途は限定されない。例えば、電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド(PHV)、ハイブリッド(HV)などの車両の駆動用の電池として適用できる。また、太陽光発電施設、風力発電施設、小規模水力発電施設を備えた家庭や工場の定置用の電池としても適用できる。さらに、コンピュータやオーディオ機器用の電源においてのニッケル水素蓄電池10のリフレッシュを目的として実施することもできる。
【0132】
○充放電におけるSOC[%]の実測、推定は、その方法はOCV-SOCカーブによる取得に限定されず、SOC[%]の実測、推定ができればいかなる方法でもよい。
○実施形態における
図1~4に示すOCV-SOCカーブや、
図7,
図12に示す容量劣化のグラフは例示であり、対象となるニッケル水素蓄電池10の特性により変化するものである。
【0133】
○実施形態における下限SOC[%]、下限電圧LL[V]、基準電圧RV[V]、充電レート[C]、放電レート[C]などは、例示であり、これらの数値に限定されず、当業者において、適宜最適化される。
【0134】
○
図5に示すブロック図は、本実施形態の説明のための図であり、本発明は、ニッケル水素蓄電池10を制御するため、異なる構成の制御装置1を用いることができる。
○
図6、8、9、11に示すフローチャートは、制御の手順の一例を示すものであり、その手順を付加し、削除し、変更して実施することができる。
【0135】
○その他、特許請求の範囲の記載を逸脱しな範囲で、本発明は当業者によりその構成を付加し、削除し、変更して実施することができることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0136】
1…ニッケル水素蓄電池の制御装置
2…充放電制御装置
3…電源装置
4…電圧測定装置
5…電流測定装置
6…スイッチ
7…負荷
10…ニッケル水素蓄電池
21…CPU
22…RAM
23…ROM
24…記憶装置
OCV…電池電圧
UL…上限電圧[V]
LL…下限電圧[V]
RV…基準電圧[V]
PV…現在の電圧[V]