(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023117831
(43)【公開日】2023-08-24
(54)【発明の名称】車上装置
(51)【国際特許分類】
B60L 15/40 20060101AFI20230817BHJP
B61L 23/14 20060101ALI20230817BHJP
【FI】
B60L15/40 Z
B61L23/14 Z
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022020604
(22)【出願日】2022-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】000001292
【氏名又は名称】株式会社京三製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100124682
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100104710
【弁理士】
【氏名又は名称】竹腰 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 一
(72)【発明者】
【氏名】石川 了
(72)【発明者】
【氏名】國分 壯
【テーマコード(参考)】
5H125
5H161
【Fターム(参考)】
5H125AA05
5H125CA18
5H125CB09
5H125CC05
5H125EE52
5H125EE55
5H161AA01
5H161BB02
5H161CC04
5H161CC07
5H161DD21
5H161EE05
5H161EE07
5H161FF01
(57)【要約】
【課題】トランスポンダ式の地上子のような様々な情報を地上から車上に送信可能な地上子ではなく、既存の地上子を用いた列車の速度制御を実現すること。
【解決手段】車上装置10は、地上子を検出する車上子110と、GNSSによる経緯度を測位する測位部120と、地上子毎に、当該地上子の設置位置経緯度と、当該地上子の種別と、当該地上子の種別に応じた制御情報と、を含む属性情報を記憶する地上子属性DB200と、地上子の検出がなされた際の測位経緯度と、地上子毎の設置位置と、に基づいて検出された地上子を特定地上子として特定する地上子特定部162と、特定時基点からの走行距離を算出する走行距離算出部161と、特定時基点からの走行距離と特定地上子の制御情報と、に少なくとも基づいて、列車の速度制御を行う速度制御部165と、を備える。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
列車に設置される車上装置であって、
地上子を検出する地上子検出手段と、
GNSS(Global Navigation Satellite System)による経緯度を測位する測位手段と、
前記地上子毎に、1)当該地上子の設置位置経緯度と、2)当該地上子の種別と、3)当該地上子の前記種別に応じた制御情報と、を含む属性情報を記憶する属性情報記憶手段と、
前記地上子検出手段による検出がなされた際に前記測位手段から測位経緯度を取得し、当該測位経緯度と、前記属性情報記憶手段に記憶されている前記地上子毎の設置位置経緯度と、に基づいて、前記地上子検出手段により検出された地上子を特定地上子として特定する特定手段と、
前記特定地上子を前記地上子検出手段が検出した時の地点を特定時基点とし、車輪又は車軸の回転に応じて前記特定時基点からの走行距離を算出する走行距離算出手段と、
前記特定時基点からの走行距離と前記特定地上子の前記制御情報と、に少なくとも基づいて、前記列車の速度制御を行う速度制御手段と、
を備える車上装置。
【請求項2】
前記地上子には、減速制御を種別とする地上子が含まれ、
減速制御を種別とする地上子の前記制御情報は、速度照査初速度、当該地上子の内方の速度制限箇所に係る速度制限速度、及び、当該地上子から前記速度制限箇所の始端である速度制限始端までの線路距離を含む、
請求項1に記載の車上装置。
【請求項3】
前記地上子には、停止制御を種別とする地上子が含まれ、
停止制御を種別とする地上子の前記制御情報は、速度照査初速度、及び、当該地上子から内方の信号機に係る停止限界点までの線路距離を含む、
請求項1又は2に記載の車上装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車上装置に関する。
【背景技術】
【0002】
平成17年のJR福知山線脱線事故を契機として鉄道技術基準が改正され、信号機の現示情報、及び、線路の条件に応じて自動的に列車を減速させ、又は停止させる装置の導入が義務化された。これにより、鉄道各社は、信号機の現示情報、及び、線路の条件に応じたATS(Automatic Train Stop)装置(自動列車停止装置ともいう)を導入する必要が生じた。
【0003】
このようなATS装置の一例として、トランスポンダ式の地上子を線路に設置して各種の情報を車上側に送信し、車上側で速度照査パターンを作成して列車の速度制御を行うATS-Pと呼ばれる装置の技術が知られている(例えば、特許文献1の[0004]~[0005]段落を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、トランスポンダ式ではない既存の地上子をトランスポンダ式の地上子に置き換えて、ATS装置に係る全般システムを刷新するためには多額のコストが必要となる。そのため、コスト面で導入が困難な鉄道線区が存在する。このような事情から、トランスポンダ式の地上子のような様々な情報を地上から車上に送信可能な地上子ではなく、地上から車上に送信できる情報が限られた既存の地上子(例えば、ATS-S形と呼ばれるATS装置の地上子)を利用して列車の速度制御を行う技術が望まれている。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、トランスポンダ式の地上子のような様々な情報を地上から車上に送信可能な地上子ではなく、既存の地上子を用いた列車の速度制御を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための第1の発明は、列車に設置される車上装置であって、地上子を検出する地上子検出手段(例えば、
図1等の車上子110)と、GNSS(Global Navigation Satellite System)による経緯度を測位する測位手段(例えば、
図6の測位部120)と、前記地上子毎に、1)当該地上子の設置位置経緯度と、2)当該地上子の種別と、3)当該地上子の前記種別に応じた制御情報と、を含む属性情報を記憶する属性情報記憶手段(例えば、
図6の車上記憶部190、地上子属性DB200)と、前記地上子検出手段による検出がなされた際に前記測位手段から測位経緯度を取得し、当該測位経緯度と、前記属性情報記憶手段に記憶されている前記地上子毎の設置位置経緯度と、に基づいて、前記地上子検出手段により検出された地上子を特定地上子として特定する特定手段(例えば、
図6の地上子特定部162)と、前記特定地上子を前記地上子検出手段が検出した時の地点を特定時基点とし、車輪又は車軸の回転に応じて前記特定時基点からの走行距離を算出する走行距離算出手段(例えば、
図6の走行距離算出部161)と、前記特定時基点からの走行距離と前記特定地上子の前記制御情報と、に少なくとも基づいて、前記列車の速度制御を行う速度制御手段(例えば、
図6の速度制御部165)と、を備える車上装置である。
【0008】
第1の発明によれば、車上装置は、特定手段による地上子の特定がなされた場合に、当該地上子を地上子検出手段が検出した時の地点を特定時基点として、特定時基点からの列車の走行距離を算出することができる。また、車上装置において、検出対象の地上子毎に、1)設置位置経緯度と、2)種別と、3)当該種別に応じた制御情報と、を含む属性情報を記憶しておく。そして、地上子を検出した場合には、車上装置は、検出時の測位経緯度と、地上子毎の設置位置経緯度とから検出された地上子を特定地上子として特定することができ、当該特定地上子の制御情報を取得できる。そして、車上装置は、特定時基点からの走行距離と、特定地上子の制御情報と、に基づいて列車の速度制御を行うことができる。これによれば、トランスポンダ式の地上子のような様々な情報を地上から車上に送信することなく、地上子を特定することにより取得した制御情報により、列車の速度制御を実現することが可能となる。
【0009】
また、第2の発明は、前記地上子には、減速制御を種別とする地上子が含まれ、減速制御を種別とする地上子の前記制御情報は、速度照査初速度、当該地上子の内方の速度制限箇所に係る速度制限速度、及び、当該地上子から前記速度制限箇所の始端である速度制限始端までの線路距離を含む、第1の発明の車上装置である。
【0010】
速度制限箇所とは、鉄道技術基準第57条の解釈基準5に基づく用語であり、線路の条件により運転速度が制限される箇所をいう。第2の発明によれば、車上装置は、種別が減速制御である地上子を特定地上子として特定した場合に、当該特定地上子について制御情報として記憶されている速度照査初速度、速度制限箇所の制限速度、及び、速度制限始端までの線路距離を用いて列車の速度制御を行うことが可能となる。これによれば、トランスポンダ式の地上子のように様々な情報を地上から車上に送信することなく、地上子を特定することにより、特定した地上子の制御情報を用いた線路の条件に応じた速度制御が可能となる。
【0011】
また、第3の発明は、前記地上子には、停止制御を種別とする地上子が含まれ、停止制御を種別とする地上子の前記制御情報は、速度照査初速度、及び、当該地上子から内方の信号機に係る停止限界点までの線路距離を含む、第1又は第2の発明の車上装置である。
【0012】
第3の発明によれば、車上装置は、種別が停止制御である地上子を特定地上子として特定した場合に、当該特定地上子について制御情報として記憶されている速度照査初速度、及び、停止限界点までの線路距離を用いて列車の速度制御を行うことが可能となる。これによれば、トランスポンダ式の地上子のように様々な情報を地上から車上に送信することなく、地上子を特定することにより、特定した地上子の制御情報を用いた停止信号現示に応じた速度制御が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、以下説明する実施形態によって本発明が限定されるものではなく、本発明を適用可能な形態が以下の実施形態に限定されるものでもない。また、図面の記載において、同一部分には同一の符号を付す。
【0015】
図1は、本実施形態における車上装置10を含む全体システムを示す図である。本実施形態の車上装置10は、信号の現示及び線路の条件に応じて照査速度を設定し、この照査速度に抵触する速度に達した場合に自動的に制動制御(ブレーキ制御)を発動することで列車1を減速させ、又は停止させる装置である。車上装置10は、線路3に沿って設置された地上子5を検出して、列車1の速度制御を行う。地上子5は、トランスポンダ式の地上子のような様々な情報を地上から車上に送信可能な地上子ではなく、地上から車上に送信できる情報が限られた共振回路よりなる受動型の地上子であり、例えばATS-S形と呼ばれるATS装置の地上子である。
【0016】
ここで、本実施形態の地上子5には、種別が「減速制御」である地上子5(例えば、
図1の地上子5a)と、種別が「停止制御」である地上子5(例えば、
図1の地上子5b)と、の2種類があり、それぞれ適所に設置されている。具体的には、種別が「減速制御」である地上子5(5a)は、速度制限箇所の外方の所定位置に設置され、種別が「停止制御」である地上子5(5b)は、信号機の外方の所定位置に設置される。そして、種別が「減速制御」である地上子5(5a)は、常時、共振回路を構成している。種別が「停止制御」である地上子5(5b)は、対応する内方の信号機が停止現示である場合に共振回路を構成する。車上装置10は、共振回路を構成している地上子5と結合した場合に地上子5を検出する。したがって、車上装置10により、「減速制御」の地上子5(5a)は、常時、検出されるが、「停止制御」の地上子5(5b)は、内方の信号機が停止現示である場合にのみ、検出可能となる。
図1の例では、地上子5bは、内方の信号機7が停止現示の場合に、検出可能となる。
【0017】
一方、列車1には、車体底部に車上子110が設けられている。車上装置10は、車上子110によって地上子5を検出することで、列車1が当該地上子5の設置位置を通過したことを検出する。
【0018】
また、車上装置10は、列車1の走行位置の経緯度を測位する測位部120(
図6を参照)と、列車1の走行距離を算出する走行距離算出部161(
図6を参照)と、を備える。走行距離は、列車1が線路3に沿って走行した線路距離である。
【0019】
測位部120は、GPS(Global Positioning System)に代表されるGNSS(Global Navigation Satellite System)による測位を行う。例えば、測位部120は、GPS衛星9からの信号を受信するGPSモジュールやGPS受信機等によって実現できる。GPS以外のGalileoや北斗衛星測位システム(BeiDou)を利用することとしてもよい。後述する地上子特定処理では、車上装置10は、測位部120により得られる測位箇所の地球球面座標(緯度・経度・高度)を、測位経緯度として取得する。取得した測位経緯度は、測位経緯度情報193(
図6を参照)として記憶される。
【0020】
走行距離算出部161は、地上子特定部162(
図6を参照)によって地上子5の特定がなされた場合に、当該地上子5を車上子110が検出した時の地点を特定時基点とし、車輪又は車軸の回転に応じて特定時基点からの走行距離を算出する。例えば、走行距離算出部161は、地上子5の検出・特定がなされるたびに、計測値をゼロにリセットする。そして、回転検出器13の検出信号に基づく列車1の走行距離を計測値に加算することで、特定時基点からの走行距離を随時算出する。回転検出器13は、車輪又は車軸の回転を検出するパルスジェネレータや速度発電機等で構成される。
【0021】
また、車上装置10には、地上子5(列車1が走行する線路3上の全ての地上子5)毎に、当該地上子5の設置位置から内方の線路の条件を含む属性情報を登録した地上子属性DB200と、列車の走行性能データ210と、が記憶されている。そして、車上装置10は、車上子110による地上子5の検出のたびに、1)当該地上子5が検出対象の地上子5のうちの何れに該当するのかを特定する地上子特定処理を実行する。地上子特定処理の結果、地上子5の特定がなされると、車上装置10において走行距離算出部161が、2)当該地上子(特定地上子)5を車上子110が検出した時の地点を特定時基点として、列車1の走行距離を算出する。そして、車上装置10は、3)特定された地上子(特定地上子)5の属性情報から制御情報を取得する制御情報取得処理と、4)特定時基点からの走行距離、特定地上子の制御情報、及び列車1の走行性能をもとに列車1の速度制御を行う速度制御処理と、を実行する。
【0022】
1.属性情報について
図2は、本実施形態における地上子属性DB200の設定例を示す図である。
図2に示すように、地上子属性DB200には、検出対象の全ての地上子について、該当する地上子を識別するための地上子番号201と、当該地上子の属性情報203とが対応付けて設定される。
【0023】
属性情報203には、該当する地上子の設置位置経緯度と、種別と、種別に応じた制御情報と、が設定される。設置位置経緯度には、当該地上子の設置位置の経緯度が設定される。種別には、「減速制御」又は「停止制御」が設定される。
【0024】
制御情報には、列車の速度制御に用いられる各種属性項目の規定値が設定される。属性項目は、当該地上子から、鉄道技術基準第57条の解釈基準5に基づく線路の条件に応じた速度制限箇所に至るまでの線路距離、及び/又は、当該地上子より内方における線路勾配に係る項目を含む。速度制限箇所は、a)曲線区間、b)分岐器区間、c)速度を制限している構造物区間、d)線路終端部、e)所定の踏切道、f)所定の下り勾配、のうちの何れかである。制御情報には、当該地上子について内方にa)~f)の何れかの速度制限箇所があるときは、当該速度制限箇所毎に、当該速度制限箇所に係る情報が設定される。e)の所定の踏切道は、当該地上子について内方に踏切道がある場合であって、「踏切遮断機の遮断動作が終了していない踏切道に進入するおそれのある場合」に該当する踏切道である。該当する踏切道がある場合には、速度制限箇所に係る情報として、当該踏切道の箇所の情報が設定される。
【0025】
本実施形態では、種別が「減速制御」である地上子の制御情報には、速度照査初速度、当該地上子の内方の速度制限箇所に係る速度制限速度、当該地上子から速度制限箇所の始端である速度制限始端までの線路距離並びに当該速度制御箇所の終端である速度制限終端までの線路距離、線路勾配、等を属性項目として、各属性項目の既定値が設定される。種別が「停止制御」である地上子の制御情報には、速度照査初速度、当該地上子から内方の信号機に係る停止限界点までの線路距離、線路勾配、等を属性項目として、各属性項目の既定値が設定される。
【0026】
例えば、
図2の地上子番号「No.9」の地上子の例では、制御情報には、速度照査初速度、当該地上子の内方の速度制限箇所の速度制限速度、当該地上子から速度制限始端までの線路距離、当該地上子から速度制限終端までの線路距離、停止制御に適用する線路勾配等の各種属性項目について規定値が設定されている。
【0027】
また、地上子番号「No.10」の地上子の例では、制御情報には、速度照査初速度、当該地上子の内方の信号機に係る停止限界点までの線路距離、停止制御に適用する線路勾配等の各種属性項目について規定値が設定されている。
図1の地上子5bの例では、地上子5bから信号機7に係る停止限界点P1までの線路距離が、停止限界点までの線路距離として設定されることとなる。
【0028】
2.走行性能データについて
走行性能データ210は、列車の走行性能を格納する。例えば、走行性能データ210は、列車の重量や、最大加速度、常用最大ブレーキによる減速度、非常ブレーキによる減速度、最高速度等を走行性能として格納する。
【0029】
3.地上子特定処理について
図3は、本実施形態における地上子特定処理を説明するための説明図である。
図3では、列車1が走行する線路3上の地上子の設置位置経緯度P21,P23を「×」印で示している。また、設置位置経緯度P21の地上子を列車1の車上装置10が検出した際に車上装置10が測位した測位経緯度P3を黒丸印で示している。
【0030】
地上子特定処理では、車上装置10は、車上子110による地上子の検出がなされた際に、測位部120から測位経緯度を取得する。そして、車上装置10は、取得した測位経緯度と、地上子属性DB200に記憶されている地上子毎の設置位置経緯度と、に基づいて、検出された地上子を特定地上子として特定する。
【0031】
具体的には、車上装置10は、検出対象の地上子のうちの、取得した測位経緯度からの距離が測位誤差範囲内の設置位置経緯度の地上子を、特定地上子として(つまり、検出された地上子が当該設置位置経緯度の地上子であるとして)特定する。例えば、
図3で説明すると、設置位置経緯度P21に設置された地上子を検出した際に、測位経緯度P3を取得する。次いで、測位経緯度P3からの距離が測位誤差範囲の距離Da以内である設置位置経緯度P21の地上子を、特定地上子として特定する。
【0032】
ここで、測位誤差範囲内(設置位置経緯度が測位経緯度から距離Da以内)に地上子が唯一存在することが、地上子特定の要件となる。測位誤差としての距離Daは、少なくとも20m以下、更に条件を加えれば10m以下も可能である。そのため、設置間隔が距離Daの2倍以上である地上子の特定が可能であり、設置間隔が少なくとも40m、条件を加えれば20mまで、地上子を特定することが可能となる。
【0033】
4.速度制御処理について
車上装置10は、地上子特定処理の結果、地上子の特定に成功した場合に、走行距離算出部161が、当該地上子に係る特定時基点からの走行距離の算出を開始する。その後、車上装置10は、速度制御処理を実行する。
図4及び
図5は、本実施形態における速度制御処理の例を説明する図であり、横軸を線路起点からの線路距離(キロ程)とし、縦軸を速度として、照査速度の設定例を太い実線で示している。
図4及び
図5では、
図2の9番(No.9)及び10番(No.10)の2つの地上子を黒塗りの三角形で示している。9番の地上子は種別が「減速制御」であり、10番の地上子は種別が「停止制御」である。また、
図4及び
図5では、横軸の区間の勾配を横軸に沿ってグラフ上部に示し、当該区間の速度制限速度を太い破線で示している。
図4は、先行列車がいない場合の設定例を示しており、10番の地上子に対応する内方の信号機7aを丸にGの印(進行現示を示す)で示している。
図4の場合、10番の地上子は、信号機7aが進行現示であるため共振回路を構成していない。一方、
図5は、先行列車がいる場合の設定例を示しており、信号機7aを丸にRの印(停止現示を示す)で示している。
図5の場合、10番の地上子は、信号機7aが停止現示であるため共振回路を構成している。
【0034】
5-1.種別が「減速制御」である地上子を検出した場合
先ず、
図4を参照して、
図4の区間を走行中に、種別が「減速制御」である9番の地上子を検出した場合の速度制御について説明する。9番の地上子のように種別が「減速制御」である地上子を検出した場合は、車上装置10は、内方の速度制限箇所までに所定の速度制限速度になるように列車を減速させる速度制御を行う。
【0035】
車上装置10は、列車が9番の地上子の設置位置(A)に差し掛かり、車上子110を介して当該地上子を検出すると、地上子特定処理を実行して、検出した地上子を特定する。
【0036】
そして、車上装置10は、当該地上子が9番の地上子であることを特定できた場合には、走行距離算出部161が算出している走行距離の計測値をゼロにリセットすることで、当該地上子に係る特定時基点からの走行距離の算出を開始する。地上子を検出・特定するたびに、当該地上子を検出した時の地点を特定時基点とした走行距離を算出することとなるため、当該検出・特定以前の車輪の空転、滑走に伴う誤差の影響を受けることはない。
【0037】
続いて、車上装置10は、制御情報取得処理を実行する。制御情報取得処理では、車上装置10は、地上子属性DB200を参照し、9番の地上子の属性情報203から速度照査初速度、速度制限速度、当該地上子から速度制限始端までの線路距離、当該地上子から速度制限終端までの線路距離、線路勾配等の属性項目の規定値を読み出して、当該地上子の制御情報を取得する。
【0038】
そして、車上装置10は、速度制御処理を行う。本実施形態の速度制御処理では、車上装置10は、走行距離算出部161が算出している9番の地上子に係る特定時基点からの走行距離と、制御情報取得処理で取得した当該地上子の制御情報と、走行性能データ210と、に基づいて列車の速度制御を行う。例えば、車上装置10は、ブレーキ制御を発動する速度の基準となる照査速度を設定し、当該照査速度に基づく列車の速度制御を行う。ここでは、9番の地上子の設置位置(A)より内方の照査速度を設定して、速度制御に用いる。
【0039】
具体的には、車上装置10は、9番の地上子の制御情報と、走行性能データ210とをもとに、速度制限始端から速度制限終端までの間の走行速度を速度制限速度である65km/h以下に制限するための照査速度の設定を行う。先ず、速度照査初速度である80km/hから速度制限速度65km/hに所定のブレーキ力で減速するのに必要な減速距離を算出する。ここで、「所定のブレーキ力」を常用最大ブレーキで発揮させる場合には、走行性能データ210に含まれる常用最大ブレーキの減速度を参考にする。そして、速度制限始端(B)までの線路距離320mから減速距離を減算することで、逆算的に制動開始点(C)を求める。次に、今いる9番の地上子の設置位置(A)から制動開始点(C)までの照査速度を、速度照査初速度80km/hのまま一定の照査速度とする。そして、制動開始点(C)から速度制限始端(B)までの照査速度を、速度照査初速度80km/hから速度制限速度65km/hに徐々に低下させる速度パターンの照査速度とする。そして、速度制限始端(B)から速度制限終端(D)を列車が抜けきる位置(E)までの照査速度を、速度制限速度65km/hのまま一定の照査速度とする。
【0040】
照査速度を設定したならば、車上装置10は、現在の走行距離に従って照査速度と列車の走行速度とを照査し、照査速度を超えないようにブレーキを作動させるブレーキ制御を行う。走行速度が照査速度に達した場合には、ブレーキを作動させて列車を減速させる。作動させるブレーキの種類は、常用ブレーキでもよいし、非常ブレーキでもよい。
【0041】
5-2.種別が「停止制御」である地上子を検出した場合
次に、
図5を参照して、種別が「停止制御」である10番の地上子を検出した場合の速度制御について説明する。
図5では、9番の地上子を検出した際に設定し、10番の地上子を検出するまでの間参照していた照査速度を太い一点鎖線で示している。ここで、上記した
図4の例では、信号機7aが進行現示であり10番の地上子は共振回路を構成していないため、車上装置10は、設置位置(F)に差し掛かっても当該地上子を検出しない。これに対し、
図5の例では、信号機7aは停止現示であり、10番の地上子は共振回路を構成している。よって、車上装置10は、当該地上子を検出する。このように種別が「停止制御」の地上子を検出した場合は、車上装置10は、内方の信号機(ここでは信号機7a)に係る停止限界点(G)までに列車を停止させる速度制御を行う。
【0042】
具体的には、車上装置10は、列車が10番の地上子の設置位置(F)に差し掛かると、車上子110を介して当該地上子を検出する。当該地上子を検出したならば、車上装置10は、地上子特定処理を実行して、検出した地上子を特定する。
【0043】
地上子特定処理の結果、当該地上子が10番の地上子であることを特定できた場合には、車上装置10は、走行距離算出部161が算出している走行距離の計測値をゼロにリセットすることで、当該地上子に係る特定時基点からの走行距離の算出を開始する。
【0044】
続いて、車上装置10は、制御情報取得処理を実行する。制御情報取得処理では、車上装置10は、地上子属性DB200を参照し、10番の地上子の属性情報203から速度照査初速度、停止限界点までの線路距離、線路勾配等の属性項目の規定値を読み出して、当該地上子の制御情報を取得する。
【0045】
そして、車上装置10は、速度制御処理を行う。速度制御処理では、車上装置10は、走行距離算出部161が算出している10番の地上子に係る特定時基点からの走行距離と、制御情報取得処理で取得した当該地上子の制御情報と、走行性能データ210と、に基づいて列車の速度制御を行う。例えば、車上装置10は、10番の地上子の設置位置(F)より内方の照査速度を設定して、速度制御に用いる。
【0046】
具体的には、車上装置10は、10番の地上子の制御情報と、走行性能データ210とをもとに、停止限界点(G)までに列車を停止させるように照査速度を漸減させる速度パターンを照査速度として設定する。ここでは、停止限界点(G)で照査速度がゼロとなる(停止限界点(G)までに停止させる)ような照査速度の速度パターンを、照査速度として設定する。ここで、速度パターンの減速度を、常用最大ブレーキを参考に設定する場合には、走行性能データ210に含まれる常用最大ブレーキの減速度を参考にして設定する。
【0047】
照査速度を設定したならば、車上装置10は、現在の走行距離が停止限界点(G)に達するまで照査速度に基づく列車の速度制御を行って、列車を停止限界点(G)までに停止させる。走行速度が照査速度に達した場合には、ブレーキを作動させて列車を減速させる。作動させるブレーキの種類は、常用ブレーキでもよいし、非常ブレーキでもよいが、速度パターンを設定する際に常用最大ブレーキを参考にした場合には常用最大ブレーキを作動させると好適である。照査速度は、停止限界点(G)でゼロとなるため、結果的に列車は、停止限界点(G)の手前で停止することとなる。
【0048】
また、上記した地上子特定処理では、検出対象の地上子の中から測位誤差範囲内の地上子を特定できず、地上子の特定に失敗する事態も発生し得る。地上子の特定に失敗した場合には、車上装置10は、例えば、非常ブレーキを作動させて列車を停止させる。
【0049】
6.車上装置の構成について
図6は、本実施形態における車上装置10の構成例を示すブロック図である。
図6に示すように、車上装置10は、車上子110と、測位部120と、操作入力部130と、表示部140と、通信部150と、車上制御部160と、車上記憶部190とを備えて構成される。
【0050】
操作入力部130は、例えば、スイッチやボタン等を有する入力装置であり、操作入力に応じた操作信号を車上制御部160に出力する。表示部140は、例えば液晶表示装置等で実現され、車上制御部160からの表示信号に応じた表示を行う。
【0051】
通信部150は、外部装置との間でデータ通信を行う。例えば、無線通信機、モデム、TA(ターミナルアダプタ)、有線用の通信ケーブルのジャックや制御回路等によって実現できる。
【0052】
車上制御部160は、例えばCPU(Central Processing Unit)やDSP(Digital Signal Processor)等のプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の電子部品によって実現され、装置各部との間でデータの入出力制御を行う。そして、車上制御部160は、所定のプログラムやデータ、車上子110を介して地上子から取得した現示情報、測位部120による測位経緯度等に基づいて各種の演算処理を行い、車上装置10の動作を制御する。この車上制御部160は、走行距離算出部161と、地上子特定部162と、制御情報取得部163と、速度制御部165と、特定失敗時速度制御部167と、を含む。これらの機能部は、プログラムを実行することによりソフトウェアとして実現される処理ブロックであってもよいし、ASICやFPGA等のハードウェア回路によって実現される回路ブロックであってもよい。本実施形態では、車上制御部160が列車制御プログラム191を実行することによりソフトウェアとして実現される処理ブロックとして説明する。
【0053】
地上子特定部162は、地上子特定処理を実行する機能部であり、
図3を参照して説明した要領で、車上子110によって検出された地上子を特定地上子として特定する。具体的には、地上子特定部162は、車上子110による地上子の検出がなされた際に、測位部120による検出時の測位経緯度と、地上子属性DB200に記憶されている地上子毎の設置位置経緯度と、に基づいて、検出された地上子を特定地上子として特定する。
【0054】
制御情報取得部163は、制御情報取得処理を実行する機能部であり、地上子特定部162によって特定された特定地上子に基づいて、地上子属性DB200から特定地上子の制御情報を取得する。
【0055】
速度制御部165は、速度制御処理を実行する機能部である。本実施形態では、速度制御部165は、
図4及び
図5を参照して説明した要領で、走行距離算出部161によって随時算出される特定時基点(検出・特定された地上子に係る特定時基点)からの走行距離と、特定地上子の属性情報203と、走行性能データ210とに基づいて照査速度を設定し、当該照査速度に基づく列車の速度制御を行う。速度制御部165は、特に、列車の走行速度が照査速度に達した場合には、例えば、走行速度が照査速度以下となるように常用最大ブレーキを自動的に作動させる。
【0056】
特定失敗時速度制御部167は、検出された地上子の特定に失敗した場合に、例えば、非常ブレーキを作動させて列車を停止させる制御を行う。なお、地上子の特定に失敗した場合には、列車を停止させるのではなく、所定の徐行速度まで減速させるようにブレーキ制御を発動する処理を実行することとしてもよい。
【0057】
車上記憶部190は、IC(Integrated Circuit)メモリやハードディスク、光学ディスク等の記憶媒体により実現されるものである。この車上記憶部190には、車上装置10を動作させ、車上装置10が備える種々の機能を実現するためのプログラムや、当該プログラムの実行中に使用されるデータ等が予め記憶され、或いは処理の都度一時的に記憶される。本実施形態では、車上記憶部190には、列車制御プログラム191と、測位経緯度情報193と、地上子属性DB200(
図2を参照)と、走行性能データ210と、が記憶される。
【0058】
7.処理の流れについて
図7は、車上装置10が行う列車制御処理の流れを示すフローチャートである。ここで説明する処理は、車上装置10において、車上制御部160が車上記憶部190から列車制御プログラム191を読み出して実行することで実現される。
【0059】
列車制御処理では、車上子110によって地上子が検出された場合に(ステップS1:YES)、地上子特定部162が、地上子特定処理を実行する。すなわち、先ず、地上子特定部162は、当該地上子の検出がなされた際の測位経緯度を測位部120から取得する(ステップS3)。そして、地上子特定部162は、取得した測位経緯度と、地上子属性DB200に記憶されている地上子毎の設置位置経緯度とに基づいて、検出された地上子を特定する(ステップS5)。例えば、地上子特定部162は、
図3を参照して説明した要領で、測位経緯度からの距離が所定の距離Da以内である設置位置経緯度の地上子を、特定地上子として特定する。
【0060】
そして、検出された地上子の特定に成功した場合には(ステップS7:YES)、走行距離算出部161が、走行距離の計測値をゼロにリセットすることで、当該地上子に係る特定時基点からの走行距離の算出を開始する(ステップS8)。
【0061】
続いて、制御情報取得部163が制御情報取得処理を実行し、地上子属性DB200において特定地上子の地上子番号201と対応付けられた属性情報203から、制御情報を読み出して取得する(ステップS9)。
【0062】
続いて、速度制御部165が、速度制御処理を実行する。すなわち、先ず、速度制御部165は、ステップS2で算出を開始した特定時基点からの走行距離と、ステップS9で取得した制御情報と、走行性能データ210と、に基づいて照査速度を設定し(ステップS11)、設定した照査速度に基づく列車の速度制御を開始する(ステップS13)。その後は、ステップS1に戻って次の地上子の検出を待機し、上記した処理を繰り返す。
【0063】
一方、地上子を特定できなかった(検出された地上子の特定に失敗した)場合には(ステップS7:NO)、特定失敗時速度制御部167が、非常ブレーキを作動させて列車を停止させる(ステップS15)。
【0064】
以上説明したように、本実施形態によれば、車上装置10において、検出対象の地上子毎に、当該地上子の設置位置経緯度と、当該地上子の種別と、当該地上子の種別に応じた制御情報と、を含む属性情報203を登録した地上子属性DB200を記憶しておく。また、車上装置10において、列車の走行性能データ210を記憶しておく。そして、地上子が検出されたときには、車上装置10は、当該時点で測位された測位経緯度と、地上子毎の設置位置経緯度とから、検出された地上子を特定地上子として特定する。特定地上子を特定した場合は、車上装置10は、当該地上子を検出した時の地点を特定時基点として、列車の走行距離を算出する。そして、地上子属性DB200から特定地上子の制御情報を取得し、特定時基点からの走行距離と、取得した特定地上子の制御情報と、走行性能データ210とに基づいて照査速度を設定し、当該照査速度に基づく列車の速度制御を行う。これによれば、トランスポンダ式の地上子のような様々な情報を地上から車上に送信可能な地上子ではなく、既存の地上子を利用した安全性の高い列車の速度制御を実現することが可能となる。
【符号の説明】
【0065】
10 車上装置、110 車上子、120 測位部、130 操作入力部、140 表示部、150 通信部、160 車上制御部、161 走行距離算出部、162 地上子特定部、163 制御情報取得部、165 速度制御部、167 特定失敗時速度制御部、190 車上記憶部、191 列車制御プログラム、193 測位経緯度情報、200 地上子属性DB、203 属性情報、210 走行性能データ、1 列車、3 線路、5 地上子