(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023117843
(43)【公開日】2023-08-24
(54)【発明の名称】水素製造システム及び水素製造方法
(51)【国際特許分類】
C25B 9/00 20210101AFI20230817BHJP
C25B 1/042 20210101ALI20230817BHJP
C25B 15/08 20060101ALI20230817BHJP
C25B 15/00 20060101ALI20230817BHJP
C25B 15/021 20210101ALI20230817BHJP
B01D 46/00 20220101ALI20230817BHJP
B01D 47/00 20060101ALI20230817BHJP
B01D 50/60 20220101ALI20230817BHJP
B01D 50/00 20220101ALI20230817BHJP
C02F 1/04 20230101ALI20230817BHJP
【FI】
C25B9/00 A
C25B1/042
C25B15/08 302
C25B15/00 304
C25B15/021
B01D46/00 E
B01D47/00 Z
B01D50/60
B01D50/00 501L
B01D50/00 501A
C02F1/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022020625
(22)【出願日】2022-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100150717
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 和也
(74)【代理人】
【識別番号】100198029
【弁理士】
【氏名又は名称】綿貫 力
(72)【発明者】
【氏名】茂木 理子
(72)【発明者】
【氏名】塚田 侑香
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 悠介
(72)【発明者】
【氏名】松本 純平
(72)【発明者】
【氏名】長田 憲和
(72)【発明者】
【氏名】藤田 己思人
(72)【発明者】
【氏名】宮本 真哉
(72)【発明者】
【氏名】山下 雄生
(72)【発明者】
【氏名】土屋 直実
(72)【発明者】
【氏名】田嶋 彩花
【テーマコード(参考)】
4D032
4D034
4D058
4K021
【Fターム(参考)】
4D032AC07
4D032BA01
4D034AA01
4D034CA12
4D058JA01
4D058JB05
4D058JB22
4D058SA15
4D058TA01
4D058UA01
4K021AA01
4K021BA02
4K021BC01
4K021CA08
4K021DC01
4K021DC03
4K021EA06
(57)【要約】
【課題】水蒸気中の海水不純物の濃度を低減する。
【解決手段】実施の形態による水素製造システムは、海水を蒸発させて水蒸気を生成する蒸発器と、蒸発器から供給される水蒸気を電気分解して水素を製造する電解装置と、蒸発器と電解装置との間に設けられ、水蒸気から海水成分を除去する除去機構と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
海水を蒸発させて水蒸気を生成する蒸発器と、
前記蒸発器から供給される前記水蒸気を電気分解して水素を製造する電解装置と、
前記蒸発器と前記電解装置との間に設けられ、前記水蒸気から海水成分を除去する除去機構と、を備える、水素製造システム。
【請求項2】
前記除去機構は、前記水蒸気に随伴する海水の液滴を除去することによって、前記水蒸気から前記海水成分を除去する、請求項1に記載の水素製造システム。
【請求項3】
前記除去機構は、前記液滴を捕集するフィルタを含む、請求項2に記載の水素製造システム。
【請求項4】
前記除去機構は、前記液滴に対して霧状の液体を噴射するスプレー装置を含む、請求項2または3に記載の水素製造システム。
【請求項5】
前記除去機構は、前記液滴を加熱して蒸発させる加熱装置を含む、請求項2~4のいずれか一項に記載の水素製造システム。
【請求項6】
前記加熱装置は、300℃以上1000℃以下の範囲内の温度で前記液滴を加熱する、請求項5に記載の水素製造システム。
【請求項7】
前記蒸発器の上流側に設けられ、前記蒸発器に供給される海水をろ過するろ過機構を更に備える、請求項1~6のいずれか一項に記載の水素製造システム。
【請求項8】
前記電解装置は、固体酸化物型または溶融炭酸塩型の電解セルを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の水素製造システム。
【請求項9】
海水から水素を製造する水素製造方法であって、
海水を蒸発させて水蒸気を生成する蒸発工程と、
前記蒸発工程の後、前記水蒸気から海水成分を除去する除去工程と、
前記除去工程の後、前記水蒸気を電気分解して水素を製造する電解工程と、を備える、水素製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施の形態は、水素製造システム及び水素製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
新エネルギーの一つとして、水素が挙げられる。この水素の製造方法として、電解装置を用いて水を電気分解する方法が挙げられる。水の電気分解による水素製造方法は、温度域や、使用する材料や燃料の種類等に応じて、固体高分子型、リン酸型、溶融炭酸塩型、固体酸化物型等に分類される。固体高分子型及びリン酸型は、低温で運転される低温型の水素製造方法である。低温型の水素製造方法では、液体の状態の原料水を電気分解して水素を製造する。溶融炭酸塩型及び固体酸化物型は、高温で運転される高温型の水素製造方法である。高温型の水素製造方法では、水蒸気を電気分解して水素を製造する。低温型の水素製造方法は高温型の水素製造方法よりも開発が進んでおり、現状製品として用いられる水の電気分解による水素製造システムのほとんどは、この低温型の水素製造方法が用いられている。
【0003】
ところで、従来、水の電気分解による水素製造方法では、原料水として淡水が用いられてきた。そのため、水素製造システムを設置可能な立地は、淡水が得られる場所に限られていた。また、淡水は今後ますます希少化し、価格が高騰することが予想されており、原料水のコストは今後上昇し続けていくと考えられる。
【0004】
そこで、原料水として海水を用いることが考えられる。これにより、離島、船上、砂漠等、淡水の入手が困難な地域にも水素製造システムを設置することが可能となり、適用可能エリアを大幅に広げることができる。また、海水は淡水とは異なり潤沢に存在するため、将来的にも原料水を安価に入手し続けることができると考えられる。このように、水素製造の原料水として海水を用いることには大きなメリットがある。
【0005】
しかしながら、水素製造の原料水として海水を用いる場合には多くの課題が存在する。まず、上述したように、低温型の水素製造方法は高温型の水素製造方法よりも開発が進んでおり技術的にも確立されているため、第一選択肢として、低温型の水素製造システムを海水の電気分解に適用することが考えられる。しかしながら、低温型の水素製造システムにおいて海水を電気分解した場合、大量の塩素が発生する。塩素は有毒かつ腐食性があるため、その処理に大きなコストがかかる。また、電気分解の触媒部への海水成分の析出による効率低下も起こり得る。さらに、海水に接触するすべての部分で腐食が起こり得るため、腐食対策を施した高価な部品を用いるか、あるいは短期間で部品を交換することが求められる。あらかじめ海水を精製して淡水化すればこれらの問題は解決できるが、その精製には大きなコストがかかる。
【0006】
一方、高温型の水素製造システムを適用した場合、海水を蒸発させて水蒸気を生成し、その水蒸気を電気分解して水素を製造するため、海水の水蒸気化の際に海水中に含まれる塩化ナトリウム等の海水成分(以下、海水不純物と称する)を取り除くことができる。しかしながら、それでもなお、微量の海水不純物が水蒸気中に含まれ得る。海水を水蒸気化した際の水蒸気中の海水不純物の濃度は最大で数百ppm程度であり、これは高温型の水素製造システムにおいて水蒸気を電気分解する際の許容濃度を上回っている。このため、水蒸気中の海水不純物の濃度を低減することが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2002/16289号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
実施の形態は、このような点を考慮してなされたものであり、水蒸気中の海水不純物の濃度を低減することができる水素製造システム及び水素製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施の形態による水素製造システムは、海水を蒸発させて水蒸気を生成する蒸発器と、蒸発器から供給される水蒸気を電気分解して水素を製造する電解装置と、蒸発器と電解装置との間に設けられ、水蒸気から海水成分を除去する除去機構と、を備える。
【0010】
また、実施の形態による水素製造方法は、海水から水素を製造する水素製造方法であって、海水を蒸発させて水蒸気を生成する蒸発工程と、蒸発工程の後、水蒸気から海水成分を除去する除去工程と、除去工程の後、水蒸気を電気分解して水素を製造する電解工程と、を備える。
【発明の効果】
【0011】
実施の形態によれば、水蒸気中の海水不純物の濃度を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、第1の実施の形態による水素製造システムの概略図である。
【
図2】
図2は、第2の実施の形態による水素製造システムの概略図である。
【
図3】
図3は、
図2に含まれる除去機構の概略構成を示す断面図である。
【
図4】
図4は、第3の実施の形態による水素製造システムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態による水素製造システム及び水素製造方法について説明する。
【0014】
(第1の実施の形態)
まず、
図1を参照して、第1の実施の形態による水素製造システム及び水素製造方法について説明する。
【0015】
本実施の形態による水素製造システム1は、原料水として海水Wを用い、海水Wから水素H
2を製造する。海水Wは、例えば海洋等の水源2から採取される。
図1に示すように、水素製造システム1は、ろ過機構3と、蒸発器4と、除去機構5と、電解装置6と、を備えていてもよい。水源2から採取された海水Wは、供給管を通って、ろ過機構3に供給される。
【0016】
ろ過機構3は、水源2から採取された海水Wをろ過するように構成されている。ろ過機構3は、海水Wに含まれる海草等の固形不純物を取り除く。ろ過機構3は、フィルタを含んでいてもよい。ろ過機構3は、フィルタにより固形不純物を捕集することで、海水Wから固形不純物を取り除いてもよい。ろ過機構3は、後述する蒸発器4の上流側に設けられており、ろ過機構3によりろ過された海水Wは、蒸発器4に供給される。
【0017】
蒸発器4は、ろ過機構3の下流側に設けられている。蒸発器4は、配管を介してろ過機構3と接続されている。蒸発器4は、ろ過機構3から供給される海水Wを蒸発させて水蒸気Sを生成するように構成されている。蒸発器4は、加熱装置を含んでいてもよい。蒸発器4は、加熱装置により海水Wを加熱することで、海水Wを水蒸気化させてもよい。加熱装置は、70℃以上100℃以下の範囲内の温度で海水Wを加熱してもよい。この蒸発器4による海水Wの水蒸気化により、海水W中に含まれる塩化ナトリウム等の海水成分(以下、海水不純物と称する)の大部分(例えば99%以上)が取り除かれる。蒸発器4は、後述する除去機構5の上流側に設けられており、蒸発器4により生成された水蒸気Sは、除去機構5に供給される。
【0018】
除去機構5は、蒸発器4の下流側に設けられている。除去機構5は、蒸発器4と後述する電解装置6との間に設けられている。除去機構5は、配管を介して蒸発器4と接続されている。除去機構5は、蒸発器4から供給される水蒸気Sから海水不純物を除去するように構成されている。上述したように、蒸発器4による海水Wの水蒸気化により、海水不純物の大部分(例えば99%以上)が取り除かれる。しかしながら、それでもなお、微量の海水不純物が水蒸気S中に含まれ得る。蒸発器4により生成された水蒸気S中の海水不純物の濃度は最大で数百ppm程度である。一方、後述する電解装置6により水蒸気Sを電気分解する際の水蒸気S中の海水不純物の許容濃度は数ppm~数十ppmである。このため、蒸発器4により生成された水蒸気S中の海水不純物の濃度は、電解装置6により水蒸気Sを電気分解する際の許容濃度を上回っている。そこで、本実施の形態においては、蒸発器4と電解装置6との間に、水蒸気Sから海水不純物を除去する除去機構5が設けられている。
【0019】
本発明者らが鋭意検討した結果、水蒸気Sに含まれる海水不純物は、海水Wの水蒸気化の際に水とともに気化したものではなく、海水Wの水蒸気化の際に微小な海水Wの液滴が巻き上げられて運ばれているものであることが明らかになった。そこで、本実施の形態においては、除去機構5は、水蒸気Sに随伴する海水Wの液滴を除去することによって、水蒸気Sから海水不純物を除去する構成とした。
【0020】
本実施の形態においては、除去機構5は、フィルタ5aを含んでいる。フィルタ5aは、水蒸気Sに随伴する海水Wの液滴を捕集するように構成されている。除去機構5は、フィルタ5aにより水蒸気Sに随伴する海水Wの液滴を捕集することで、海水Wの液滴を除去し、水蒸気Sから海水不純物を除去する。
【0021】
フィルタ5aは、耐熱性が高く、吸湿性が低いものが好ましい。とりわけ、フィルタ5aの使用環境温度として70℃~200℃が想定されるため、フィルタ5aは、この使用環境温度に耐え得る耐熱性を有していることが好ましい。このようなフィルタとして、例えばホウケイ酸塩からなるガラスフィルタ等が挙げられるが、これに限られることはない。耐熱性の観点から、ガラスフィルタは有機バインダを含まないものであることが好ましい。フィルタ5aの目の粗さ(保持粒子径)は、捕集効率と圧損との観点から、0.1μm以上10μm以下であることが好ましい。フィルタ5aの目の粗さが0.1μm以上であることにより、目詰まりや圧損上昇を抑制することができる。フィルタ5aの目の粗さが10μm以下であることにより、海水不純物の除去性能を確保することができる。また、複数のフィルタ5aが設けられていてもよい。
【0022】
フィルタ5aは、蒸発器4の上方に位置していてもよい。蒸発器4とフィルタ5aとを繋ぐ配管は、鉛直方向に延びていてもよい。このことにより、蒸発器4から供給される水蒸気Sがフィルタ5aに到達する前に、水蒸気Sに随伴する海水Wの液滴をある程度重力により落下させて除去することができる。また、フィルタ5aに捕集された海水Wの液滴を重力により落下させることができ、フィルタ5aの目詰まりを抑制することができる。
【0023】
除去機構5は、電解装置6の上流側に設けられており、除去機構5により海水不純物が除去された水蒸気Sは、電解装置6に供給される。なお、図示しないが、除去機構5を通過した水蒸気Sは、電解装置6に供給される前に、水素や酸素等の水素製造システム1の排ガスとの熱交換により加熱されてもよい。また、水蒸気Sは、水素等の他のガスと混合されて電解装置6に供給されてもよい。
【0024】
電解装置6は、蒸発器4及び除去機構5の下流側に設けられている。電解装置6は、配管を介して除去機構5と接続されている。電解装置6は、蒸発器4から除去機構5を通過して供給される水蒸気Sを電気分解して水素H2を製造するように構成されている。電解装置6は、固体酸化物型の電解セル6aを含んでいてもよい。すなわち、電解装置6は、固体酸化物型の電解セル6aを用いて、水蒸気Sを電気分解して水素H2を製造してもよい。この場合、電解装置6は、600℃以上1000℃以下の範囲内の温度で運転される。あるいは、電解装置6は、溶融炭酸塩型の電解セル6aを含んでいてもよい。すなわち、電解装置6は、溶融炭酸塩型の電解セル6aを用いて、水蒸気Sを電気分解して水素H2を製造してもよい。この場合、電解装置6は、600℃以上700℃以下の範囲内の温度で運転される。電解装置6は、水素H2と共に酸素等の他のガスも製造してもよい。また、電解装置6は、水蒸気Sと共に二酸化炭素が供給され、共電解反応を行って、水素H2と一酸化炭素の混合ガス(シンガス)を製造してもよい。電解装置6は、後述する貯留タンク7の上流側に設けられており、電解装置6により製造された水素H2は、貯留タンク7に供給される。
【0025】
貯留タンク7は、電解装置6の下流側に設けられている。貯留タンク7は、配管を介して電解装置6と接続されている。貯留タンク7は、電解装置6から供給される水素H2を貯留するように構成されている。貯留タンク7に貯留された水素H2は用途に応じて消費される。
【0026】
次に、このような構成からなる本実施の形態の作用効果について説明する。ここでは、まず、本実施形態による水素製造方法について説明する。
【0027】
本実施の形態による水素製造方法は、ろ過工程と、蒸発工程と、除去工程と、電解工程と、を備えていてもよい。
【0028】
まず、ろ過工程が実施される。ろ過工程においては、ろ過機構3により、水源2から採取された海水Wをろ過する。これにより、海水Wから海草等の固形不純物を取り除くことができる。例えば、ろ過機構3のフィルタにより固形不純物を捕集することで、海水Wから固形不純物を取り除いてもよい。
【0029】
ろ過工程の後、蒸発工程が実施される。蒸発工程においては、蒸発器4により、ろ過工程でろ過された海水Wを蒸発させて水蒸気Sを生成する。例えば、蒸発器4の加熱装置により、海水Wを70℃以上100℃以下の範囲内の温度で加熱することで、海水Wを水蒸気化させてもよい。この際、海水W中に含まれる海水不純物の大部分(例えば99%以上)が取り除かれる。
【0030】
蒸発工程の後、除去工程が実施される。除去工程においては、除去機構5により、蒸発工程で生成された水蒸気Sから海水不純物を除去する。上述したように、蒸発工程で海水不純物の大部分(例えば99%以上)が取り除かれる。しかしながら、それでもなお、微量の海水不純物が水蒸気S中に含まれ得る。蒸発工程で生成された水蒸気S中の海水不純物の濃度は最大で数百ppm程度である。一方、後述する電解工程で水蒸気Sを電気分解する際の水蒸気S中の海水不純物の許容濃度は数ppm~数十ppmである。このため、蒸発工程で生成された水蒸気S中の海水不純物の濃度は、電解工程で水蒸気Sを電気分解する際の許容濃度を上回っている。そこで、本実施の形態においては、蒸発工程と電解工程との間に、水蒸気Sから海水不純物を除去する除去工程が設けられている。
【0031】
上述したように、本発明者らが鋭意検討した結果、水蒸気Sに含まれる海水不純物は、海水Wの水蒸気化の際に水とともに気化したものではなく、海水Wの水蒸気化の際に微小な海水Wの液滴が巻き上げられて運ばれているものであることが明らかになった。そこで、本実施の形態においては、除去工程において、水蒸気Sに随伴する海水Wの液滴を除去することによって、水蒸気Sから海水不純物を除去する。本実施の形態においては、除去機構5のフィルタ5aにより水蒸気Sに随伴する海水Wの液滴を捕集することで、海水Wの液滴を除去し、水蒸気Sから海水不純物を除去する。
【0032】
除去工程の後、電解工程が実施される。電解工程においては、電解装置6により、除去工程で海水不純物が除去された水蒸気Sを電気分解して水素H2を製造する。例えば、電解装置6に含まれる固体酸化物型の電解セル6aを用いて、水蒸気Sを電気分解して水素H2を製造してもよい。電解装置6により、水素H2と共に酸素等の他のガスも製造されてもよい。
【0033】
電解工程で製造された水素H2は、貯留タンク7に貯留される。貯留タンク7に貯留された水素H2は、その後、用途に応じて消費される。
【0034】
このように本実施の形態によれば、蒸発器4と電解装置6との間に、水蒸気Sから海水不純物を除去する除去機構5が設けられている。このことにより、電解装置6に供給される水蒸気S中の海水不純物の濃度を低減することができる。このため、水蒸気S中の海水不純物の濃度を、電解装置6により水蒸気Sを電気分解する際の許容濃度以下にすることができる。この結果、水素製造の原料水として海水を用いた場合に生じ得る、効率の低下や部材の腐食、コストの増大といった問題を解決することができる。
【0035】
また、本実施の形態によれば、除去機構5は、水蒸気Sに随伴する海水Wの液滴を除去することによって、水蒸気Sから海水不純物を除去する。本発明者らが鋭意検討した結果、水蒸気Sに含まれる海水不純物は、海水Wの水蒸気化の際に水とともに気化したものではなく、海水Wの水蒸気化の際に微小な海水Wの液滴が巻き上げられて運ばれているものであることが明らかになった。このため、除去機構5により、水蒸気Sに随伴する海水Wの液滴を除去することによって、水蒸気Sから海水不純物を効果的に除去することができる。
【0036】
また、本実施の形態によれば、除去機構5は、水蒸気Sに随伴する海水Wの液滴を捕集するフィルタ5aを含んでいる。このようなフィルタ5aを用いることによって、水蒸気Sに随伴する海水Wの液滴を除去することができる。このため、水蒸気Sから海水不純物を効果的に除去することができる。
【0037】
また、本実施の形態によれば、蒸発器4の上流側に、蒸発器4に供給される海水Wをろ過するろ過機構3が設けられている。このことにより、蒸発器4に供給される海水Wから、海草等の固形不純物を取り除くことができる。このため、蒸発器4に海水Wとともに固形不純物が供給されることを抑制することができ、蒸発器4の故障や効率低下を抑制することができる。
【0038】
また、本実施の形態によれば、電解装置6は、固体酸化物型または溶融炭酸塩型の電解セル6aを含んでいる。本実施の形態は、とりわけ、このような高温型の水素製造システム1において有用である。すなわち、高温型の水素製造システム1において原料水として海水Wを用いた場合、蒸発器4により海水Wを蒸発させて水蒸気Sを生成し、電解装置6により水蒸気Sを電気分解して水素H2を製造する。本実施の形態によれば、蒸発器4と電解装置6との間に除去機構5が設けられていることにより、電解装置6に供給される水蒸気S中の海水不純物の濃度を低減することができる。
【0039】
(第2の実施の形態)
次に、
図2及び
図3を参照して、第2の実施の形態による水素製造システム及び水素製造方法について説明する。
【0040】
図2及び
図3に示す第2の実施の形態においては、除去機構が、水蒸気に随伴する海水の液滴に対して霧状の液体を噴射するスプレー装置を含む点が主に異なり、他の構成は、
図1に示す第1の実施の形態と略同一である。なお、
図2及び
図3において、
図1に示す第1の実施の形態と同一部分には同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0041】
図2に示すように、本実施の形態においては、除去機構5は、スプレー装置5bを含んでいる。スプレー装置5bは、水蒸気Sに随伴する海水Wの液滴に対して霧状の液体Mを噴射するように構成されている。除去機構5は、スプレー装置5bにより水蒸気Sに随伴する海水Wの液滴に対して霧状の液体Mを噴射することで、海水Wの液滴を除去し、水蒸気Sから海水不純物を除去する。
【0042】
図3に示すように、スプレー装置5bは、筐体50と、筐体50内に設けられたスプレーノズル55と、を備えていてもよい。筐体50は、鉛直方向に延びる中空の円筒状の構造物であってもよい。筐体50は、入口部51と、出口部52と、液体貯留部53と、を含んでいてもよい。
【0043】
図3に示すように、入口部51は、筐体50の鉛直方向における下方の側面に設けられていてもよい。入口部51は、配管を介して蒸発器4に接続されており、蒸発器4で生成された水蒸気Sは、この入口部51から筐体50内に流入する。
図3に示すように、出口部52は、筐体50の鉛直方向における上方に設けられていてもよい。出口部52は、配管を介して電解装置6に接続されており、筐体50内を通った水蒸気Sは、この出口部52から電解装置6に流出する。このような入口部51及び出口部52の配置により、入口部51から流入した水蒸気Sは、
図3の実線矢印で示すように、筐体50内を鉛直方向における下方から上方に向かって流れ、出口部52から流出する。
【0044】
図3に示すように、液体貯留部53は、筐体50の鉛直方向における下方に設けられていてもよい。液体貯留部53は、入口部51よりも鉛直方向における下方に設けられていてもよい。液体貯留部53は、後述するスプレーノズル55よりも鉛直方向における下方に設けられていてもよい。液体貯留部53は、液体Cを貯留するように構成されている。液体Cは、例えば水であってもよい。水としては、純水を用いてもよいし、海水を用いていてもよい。液体貯留部53に貯留された液体Cは、供給管Lを通って、後述するスプレーノズル55に供給される。後述するように、スプレーノズル55は、鉛直方向における下方に向けて霧状の液体Mを噴射する。このため、スプレーノズル55から噴射された霧状の液体Mは、液体Cとしてこの液体貯留部53に貯留される。このように、液体Cは、液体貯留部53とスプレーノズル55との間を循環するようになっている。また、液体Cは、後述するように、スプレーノズル55から噴射された霧状の液体Mと衝突して落下した海水Wの液滴を含み得る。
【0045】
図3に示すように、スプレーノズル55は、入口部51よりも鉛直方向における上方に設けられていてもよい。スプレーノズル55は、液体貯留部53よりも鉛直方向における上方に設けられていてもよい。
図3に示すように、複数のスプレーノズル55が設けられていてもよい。スプレーノズル55は、支持部56を介して筐体50に支持されていてもよい。スプレーノズル55は、液体貯留部53から供給された液体Cを、霧状の液体Mにして噴出する。
図3に示すように、スプレーノズル55は、鉛直方向における下方に向けて霧状の液体Mを噴射してもよい。上述したように、水蒸気Sは、筐体50内を鉛直方向における下方から上方に向かって流れる。このため、スプレーノズル55は、水蒸気Sに対して、水蒸気Sの流れ方向とは反対側の方向に霧状の液体Mを噴射する。スプレーノズル55から噴射された霧状の液体Mは、水蒸気Sに随伴する海水Wの液滴と衝突する。このことにより、水蒸気Sに随伴する海水Wの液滴は、霧状の液体Mと共に下方に落下し、液体貯留部53に回収される。
【0046】
スプレーノズル55の噴射角度は、30度以上120度以下の範囲内の角度であってもよい。スプレーノズル55の噴射角度は、筐体50の直径等に応じて適宜選択されてもよい。スプレーノズル55の噴射速度は、1m/sec以下であってもよい。スプレーノズル55の噴射流量は、300L/min/m2以上であってもよく、より好ましくは、400L/min/m2以上であってもよい。
【0047】
スプレーノズル55から噴射される霧状の液体Mの平均粒子径は、100μm以上500μm以下であってもよい。水蒸気Sに随伴する海水Wの液滴の平均粒子径は数μm~数十μm程度である。このため、霧状の液体Mの平均粒子径を100μm以上とすることで、水蒸気Sに随伴する海水Wの液滴を効果的に落下させることができる。なお、平均粒子径は、レーザー回折・散乱法により測定される体積基準の粒子径分布からメジアン径(D50)として算出される。
【0048】
スプレーノズル55から噴射される霧状の液体Mの温度は、蒸発器4の加熱装置による加熱温度(70℃~100℃)以上100℃以下の範囲内の温度であってもよい。霧状の液体Mの温度が蒸発器4の加熱装置による加熱温度以上であることにより、水蒸気Sが凝縮して水に戻ることを抑制することができる。また、霧状の液体Mの温度が100℃以下であることにより、液体Mが揮発することを抑制することができる。
【0049】
スプレー装置5bは、蒸発器4の上方に位置していてもよい。蒸発器4とスプレー装置5bとを繋ぐ配管は、鉛直方向に延びていてもよい。このことにより、蒸発器4から供給される水蒸気Sがスプレー装置5bに到達する前に、水蒸気Sに随伴する海水Wの液滴をある程度重力により落下させて除去することができる。
【0050】
なお、上述した例においては、スプレーノズル55は、水蒸気Sに対して、水蒸気Sの流れ方向とは反対側の方向に霧状の液体Mを噴射していたが、このことに限られることはない。例えば、スプレーノズル55は、水蒸気Sに対して、水蒸気Sの流れ方向と同じ方向に霧状の液体Mを噴射してもよいし、水蒸気Sの流れ方向と交差する方向(例えば直交する方向)に霧状の液体Mを噴射してもよい。
【0051】
本実施の形態においては、水素製造方法の除去工程において、除去機構5のスプレー装置5bにより、水蒸気Sに随伴する海水Wの液滴に対して霧状の液体Mを噴射する。スプレー装置5bのスプレーノズル55から噴射された霧状の液体Mは、水蒸気Sに随伴する海水Wの液滴と衝突する。このことにより、水蒸気Sに随伴する海水Wの液滴は、霧状の液体Mと共に下方に落下し、液体貯留部53に回収される。このようにして、海水Wの液滴が除去され、水蒸気Sから海水不純物が除去される。
【0052】
このように本実施の形態によれば、除去機構5は、水蒸気Sに随伴する海水Wの液滴に対して霧状の液体Mを噴射するスプレー装置5bを含んでいる。このことにより、スプレー装置5bから噴射された霧状の液体Mによって、水蒸気Sに随伴する海水Wの液滴を除去することができる。このため、水蒸気Sから海水不純物を効果的に除去することができる。
【0053】
(第3の実施の形態)
次に、
図4を参照して、第3の実施の形態による水素製造システム及び水素製造方法について説明する。
【0054】
図4に示す第3の実施の形態においては、除去機構が、水蒸気に随伴する海水の液滴を加熱して蒸発させる加熱装置を含む点が主に異なり、他の構成は、
図1に示す第1の実施の形態と略同一である。なお、
図4において、
図1に示す第1の実施の形態と同一部分には同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0055】
図4に示すように、本実施の形態においては、除去機構5は、加熱装置5cを含んでいる。加熱装置5cは、水蒸気Sに随伴する海水Wの液滴を加熱して蒸発させるように構成されている。加熱装置5cにより水蒸気Sに随伴する海水Wの液滴を加熱して蒸発させることで、海水Wの液滴に含まれる海水不純物を、加熱装置5cにおいて固体として析出させて除去することができる。すなわち、除去機構5は、加熱装置5cにより水蒸気Sに随伴する海水Wの液滴を加熱して蒸発させることで、水蒸気Sから海水不純物を除去する。
【0056】
加熱装置5cは、蒸発器4の加熱装置による加熱温度(70℃~100℃)よりも高い温度で海水Wの液滴を加熱してもよい。例えば、加熱装置5cは、300℃以上1000℃以下の範囲内の温度で海水Wの液滴を加熱してもよい。
【0057】
加熱装置5cは、蒸発器4の上方に位置していてもよい。蒸発器4と加熱装置5cとを繋ぐ配管は、鉛直方向に延びていてもよい。このことにより、蒸発器4から供給される水蒸気Sが加熱装置5cに到達する前に、水蒸気Sに随伴する海水Wの液滴をある程度重力により落下させて除去することができる。
【0058】
本実施の形態においては、水素製造方法の除去工程において、除去機構5の加熱装置5cにより、水蒸気Sに随伴する海水Wの液滴を加熱して蒸発させる。このことにより、海水Wの液滴に含まれる海水不純物は、加熱装置5cにおいて固体として析出されて除去される。このようにして、水蒸気Sから海水不純物が除去される。
【0059】
このように本実施の形態によれば、除去機構5は、水蒸気Sに随伴する海水Wの液滴を加熱して蒸発させる加熱装置5cを含んでいる。このことにより、海水Wの液滴に含まれる海水不純物を、加熱装置5cにおいて固体として析出させて除去することができる。このため、水蒸気Sから海水不純物を効果的に除去することができる。
【0060】
また、本実施の形態によれば、加熱装置5cは、300℃以上1000℃以下の範囲内の温度で海水Wの液滴を加熱する。このことにより、水蒸気Sに随伴する海水Wの液滴を確実に蒸発させることができる。このため、水蒸気Sから海水不純物を効果的に除去することができる。
【0061】
(その他の実施の形態)
上述した各実施の形態は適宜組み合わされてもよい。
【0062】
すなわち、除去機構5は、第1の実施の形態で述べたようなフィルタ5a、第2の実施の形態で述べたようなスプレー装置5b及び第3の実施の形態で述べたような加熱装置5cのうちの二つ以上を含んでいてもよい。例えば、除去機構5に供給された水蒸気Sは、フィルタ5aやスプレー装置5bによって海水不純物が除去された後、加熱装置5cによって更に海水不純物が除去されてもよい。このことにより、水蒸気Sから海水不純物をより一層効果的に除去することができる。
【0063】
以上述べた実施の形態によれば、水蒸気中の海水不純物の濃度を低減することができる。
【0064】
以上、本発明のいくつかの実施の形態を説明したが、これらの実施の形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの新規な実施の形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施の形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0065】
1:水素製造システム、3:ろ過機構、4:蒸発器、5:除去機構、5a:フィルタ、5b:スプレー装置、5c:加熱装置、6:電解装置、6a:電解セル、H2:水素、S:水蒸気、W:海水