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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023117881
(43)【公開日】2023-08-24
(54)【発明の名称】非水電解液蓄電素子
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0587 20100101AFI20230817BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20230817BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20230817BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20230817BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20230817BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20230817BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20230817BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20230817BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20230817BHJP
   H01G 11/26 20130101ALI20230817BHJP
【FI】
H01M10/0587
H01M10/052
H01M10/0566
H01M4/58
H01M4/505
H01M4/485
H01M4/131
H01M4/133
H01M4/13
H01G11/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022020677
(22)【出願日】2022-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100206829
【弁理士】
【氏名又は名称】相田 悟
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 大輔
【テーマコード(参考)】
5E078
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5E078AA05
5E078AB02
5E078AB06
5E078AB13
5E078BA07
5E078BA18
5E078BA26
5E078BA27
5E078BA68
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL03
5H029AL07
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM05
5H029AM07
5H029BJ02
5H029BJ14
5H029DJ17
5H029HJ08
5H029HJ12
5H029HJ19
5H050AA07
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA09
5H050CB03
5H050CB08
5H050DA03
5H050FA05
5H050HA08
5H050HA12
5H050HA19
(57)【要約】      (修正有)
【課題】充放電サイクル時の容量維持率の低下を抑制できる非水電解液蓄電素子を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の一側面に係る非水電解液蓄電素子は、正極と負極とを多孔質基材を介して積層して巻回してなる扁平型巻回電極体を備え、前記扁平型巻回電極体は対向する2つの平坦部と、前記2つの平坦部の端同士を連絡する2つのR部とから構成され、前期負極は負極合剤層を備え、前記R部の最内層から第3層の少なくとも1層の前記負極合剤層における負極合剤密度が前記平坦部の前記負極合剤層における負極合剤密度よりも低く、SOC30%における開回路電圧とSOC70%における開回路電圧の差が0.2V以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と負極とを多孔質基材を介して積層して巻回してなる扁平型巻回電極体を備え、
前記扁平型巻回電極体は対向する2つの平坦部と、前記2つの平坦部の端同士を連絡する2つのR部とから構成され、
前記負極は負極合剤層を備え、
前記R部の最内層から第3層の少なくとも1層の前記負極合剤層における負極合剤密度が前記平坦部の前記負極合剤層における負極合剤密度よりも低く、
SOC30%における開回路電圧とSOC70%における開回路電圧の差が0.2V以下である
非水電解液蓄電素子。
【請求項2】
前記R部の最内層から第3層の少なくとも1層の前記負極合剤層における負極合剤密度は前記平坦部の前記負極合剤層における負極合剤密度の0.80倍以上0.99倍以下である請求項1に記載の非水電解液蓄電素子。
【請求項3】
正極と負極とを多孔質基材を介して積層して巻回してなる扁平型巻回電極体を備え、
前記扁平型巻回電極体は対向する2つの平坦部と、前記2つの平坦部の端同士を連絡する2つのR部とから構成され、
前記負極は負極合剤層を備え、
前記R部の最内層から第3層の少なくとも1層の前記負極合剤層における負極合剤密度が前記平坦部の前記負極合剤層における負極合剤密度よりも低く、
前記正極の正極活物質はリチウムリン酸遷移金属化合物又はスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物を含み、
前記負極の負極活物質は黒鉛又はチタン酸リチウムを含む
非水電解液蓄電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液蓄電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解液二次電池は、エネルギー密度の高さから、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等に多用されている。前記非水電解液二次電池は、一般的には、一対の電極及びセパレータを有する電極体と、非水電解質と、これら電極体及び非水電解質を収容する容器とを有し、両電極間で電荷輸送イオンの受け渡しを行うことで充放電するよう構成される。また、非水電解液二次電池以外の非水電解液蓄電素子として、リチウムイオンキャパシタや電気二重層キャパシタ等のキャパシタも広く普及している。
【0003】
従来、非水電解液蓄電素子の負極に含まれる活物質としては、黒鉛等の炭素材料等が用いられており、非水電解液蓄電素子の充放電特性等の向上のために活物質の開発が進められている。非水電解液蓄電素子の一例として、特許文献1には、正極活物質としてリン酸鉄リチウムを、負極として黒鉛等を用いた非水電解質二次電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-117908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リン酸鉄リチウムを正極活物質として用い、黒鉛を負極に用いる非水電解液二次電池は、充電状態の変化に伴う電圧の変化が充電状態の広い範囲で平坦になる特性(電圧平坦性)に優れる。しかし、電圧平坦性を有する非水電解液二次電池は、充放電過程で電極体内での充放電反応の偏りが起こりやすい。電極体内での充放電反応が偏ると、充放電反応の集中する箇所において充電時に負極表面にリチウム金属等が析出しやすいため、充放電サイクルに伴って容量維持率等が大きく低下するおそれがある。
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、充放電サイクル時の容量維持率の低下を抑制できる非水電解液蓄電素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面に係る非水電解液蓄電素子は、正極と負極とを多孔質基材を介して積層して巻回してなる扁平型巻回電極体を備え、前記扁平型巻回電極体は対向する2つの平坦部と、前記2つの平坦部の端同士を連絡する2つのR部とから構成され、前記負極は負極合剤層を備え、前記R部の最内層から第3層の少なくとも1層の前記負極合剤層における負極合剤密度が前記平坦部の前記負極合剤層における負極合剤密度よりも低く、SOC30%における開回路電圧とSOC70%における開回路電圧の差が0.2V以下である。
【0008】
本発明の他の一側面に係る非水電解液蓄電素子は、正極と負極とを多孔質基材を介して積層して巻回してなる扁平型巻回電極体を備え、前記扁平型巻回電極体は対向する2つの平坦部と、前記2つの平坦部の端同士を連絡する2つのR部とから構成され、前記負極は負極合剤層を備え、前記R部の最内層から第3層の少なくとも1層の前記負極合剤層における負極合剤密度が前記平坦部の前記負極合剤層における負極合剤密度よりも低く、前記正極の正極活物質はリチウムリン酸遷移金属化合物又はスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物を含み、前記負極の負極活物質は黒鉛又はチタン酸リチウムを含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一側面に係る非水電解液蓄電素子は、充放電サイクル時の容量維持率の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、電圧平坦性を説明するための非水電解液蓄電素子の充放電曲線の一例を示すグラフである。
図2図2は、非水電解液蓄電素子の一実施形態を示す透視斜視図である。
図3図3は、非水電解液蓄電素子を複数個集合して構成した蓄電装置の一実施形態を示す概略図である。
図4図4は、非水電解液蓄電素子の要部拡大図である
【発明を実施するための形態】
【0011】
初めに、本明細書によって開示される非水電解液蓄電素子の概要について説明する。
【0012】
本発明の一側面に係る非水電解液蓄電素子は、正極と負極とを多孔質基材を介して積層して巻回してなる扁平型巻回電極体を備え、前記扁平型巻回電極体は対向する2つの平坦部と、前記2つの平坦部の端同士を連絡する2つのR部とから構成され、前記負極は負極合剤層を備え、前記R部の最内層から第3層の少なくとも1層の前記負極合剤層における負極合剤密度(以下、「R部の最内層から第3層の負極合剤密度」ともいう)が前記平坦部の前記負極合剤層における負極合剤密度(以下、「平坦部負極合剤密度」ともいう)よりも低く、SOC30%における開回路電圧とSOC70%における開回路電圧の差が0.2V以下である。
【0013】
当該非水電解液蓄電素子は、充放電サイクル時の容量維持率の低下を抑制できる。この理由としては定かではないが、以下が推測される。
【0014】
当該非水電解液蓄電素子は、SOC30%における開回路電圧とSOC70%における開回路電圧との差が0.2V以下であるため、充電状態の変化に伴う電圧の変化が平坦になる電圧平坦性を有する。ここで、「電圧平坦性」を説明するため、図1に、横軸をSOC(%)、縦軸を電池電圧(V)とした非水電解液蓄電素子の充放電曲線の一例を示す。図1において、LFP/Grは、リン酸鉄リチウム(LFP)を正極に、黒鉛(Gr)を負極に用いたリチウムイオン二次電池であり、NCM/Grは、Ni、Co及びMnを含むリチウム遷移金属複合酸化物(NCM)を正極に、黒鉛(Gr)を負極に用いたリチウムイオン二次電池である。図1では、NCM/Grの電池電圧はSOC30%からSOC70%にかけて単調増加しているのに対し、LFP/Grの電池電圧はSOC30%からSOC70%にかけてほぼ一定である。すなわち、図1のLFP/Grは電圧平坦性を有する。
【0015】
一方、従来の非水電解液蓄電素子が上述の電圧平坦性を有すると、電極体内での充放電反応の偏りによって正極合剤層及び負極合剤層内でのリチウムイオン等の電荷輸送イオンの分布に偏りが生じた場合に、正極合剤層及び負極合剤層内での電位の差によってこの偏りを解消する力が働き難くなるものと推察される。特に、扁平型巻回電極体のR部においては、平面部と比較して電流集中しやすく、また、最内層から第3層の内周部分は非水電解液が浸透しにくい部分でもあることから、充放電反応が偏りやすくなる。それによって、扁平型巻回電極体のR部の最内層から第3層の内周部分において充電時に負極表面にリチウム金属等の析出が起こりやすくなり、充放電サイクルに伴って容量維持率が低下するおそれがある。
【0016】
これに対し、本発明の一側面に係る非水電解液蓄電素子は、前記R部の最内層から第3層の少なくとも1層の前記負極合剤層における負極合剤密度が前記平坦部の前記負極合剤層における負極合剤密度よりも低いことによって、R部の最内層から第3層の内周部分において負極の充電受け入れ性を向上させることができる。これにより、電極体内の充放電反応が偏り難く、その結果、充放電サイクル時の容量維持率の低下を抑制できるものと推測される。
【0017】
ここで、前記R部の最内層から第3層の少なくとも1層の前記負極合剤層における負極合剤密度は前記平坦部の前記負極合剤層における負極合剤密度の0.80倍以上0.99倍以下であってもよい。
【0018】
本発明の他の一側面に係る非水電解液蓄電素子は、正極と負極とを多孔質基材を介して積層して巻回してなる扁平型巻回電極体を備え、前記扁平型巻回電極体は対向する2つの平坦部と、前記2つの平坦部の端同士を連絡する2つのR部とから構成され、前記負極は負極合剤層を備え、前記R部の最内層から第3層の少なくとも1層の前記負極合剤層における負極合剤密度が前記平坦部の前記負極合剤層における負極合剤密度よりも低く、前記正極の正極活物質はリチウムリン酸遷移金属化合物又はスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物を含み、前記負極の負極活物質は黒鉛又はチタン酸リチウムを含む。前記正極活物質と前記負極活物質の組合せによって、SOC30%における開回路電圧とSOC70%における開回路電圧との差を0.2V以下にすることができるため、当該非水電解液蓄電素子は、充電状態の変化に伴う電圧の変化が平坦になる電圧平坦性を有するが、前記R部の最内層から第3層の少なくとも1層の前記負極合剤層における負極合剤密度が前記平坦部の前記負極合剤層における負極合剤密度よりも低いことによって、電極体内の充放電反応が偏り難く、その結果、充放電サイクル時の容量維持率の低下を抑制できる。
【0019】
本発明において、「R部」は、正極及び負極が折り曲げられている部分である。R部の正極及び負極は半円状又は半楕円状に曲折されており、図4に示すように、R部の巻回最内周の負極の内周面と内接する円の中心を設定し、設定した中心を通り、2つのR部の両中心を結ぶ直線と垂直な直線を、R部と平坦部との境界線とする。「平坦部」は、正極及び負極がほぼ平板状になっている部分である。「SOC」とはState Of Chargeの略で、非水電解液蓄電素子の充電状態をそのときの残存容量と満充電時の容量との比率で表したものであり、満充電状態をSOC100%、完全放電状態をSOC0%と表記する。ここで、「満充電状態」とは、当該非水電解液蓄電素子について推奨され、又は指定される充電条件を採用して、上限電圧となるまで充電された状態とし、「完全放電状態」とは、当該非水電解液蓄電素子について推奨され、又は指定される充電条件を採用して、下限電圧となるまで放電された状態とする。
【0020】
負極合剤密度(g/cm)は負極合剤層の面積、厚さ及び質量から、算出することができる。
【0021】
開回路電圧は、非水電解質蓄電素子を充電電流0.1Cで完全放電状態から各SOCまで定電流充電した後、電流を印加していない状態で30分間経過したときの電圧を測定することにより求めることができる。
【0022】
本発明の一実施形態に係る非水電解液蓄電素子の構成、蓄電装置の構成及びその他の実施形態について詳述する。なお、各実施形態に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称は、背景技術に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称と異なる場合がある。
【0023】
<非水電解液蓄電素子の構成>
本発明の一実施形態に係る非水電解液蓄電素子は、正極、負極及びセパレータを有する電極体と、非水電解液と、前記電極体及び非水電解液を収容するための密閉可能な容器と、を備える。電極体は、正極及び負極がセパレータを介して積層された状態で巻回された巻回型である。非水電解質は、正極、負極及びセパレータに含まれた状態で存在する。非水電解液蓄電素子の一例として、非水電解液二次電池(以下、単に「二次電池」ともいう。)について説明する。
【0024】
本発明の一実施形態の非水電解液蓄電素子において、SOC30%における開回路電圧とSOC70%における開回路電圧との差の上限は、0.2Vであり、0.15Vがより好ましく、0.10Vがさらに好ましい。SOC30%における開回路電圧とSOC70%における開回路電圧との差を前記上限以下とすることで、充電状態の変化に伴う電圧の変化が平坦になる充電状態の範囲を比較的広くできる(電圧平坦性を高められる)。一方、SOC30%における開回路電圧とSOC70%における開回路電圧との差の下限は、特に限定されないが、例えば0.05Vであってもよく、0.10Vであってもよい。SOC30%における開回路電圧とSOC70%における開回路電圧との差は、前記のいずれかの下限以上かつ前記のいずれかの上限以下であってもよい。
【0025】
(正極)
正極は、正極基材と、当該正極基材に直接又は中間層を介して配される正極合剤層とを有する。
【0026】
正極基材は、導電性を有する。「導電性」を有するか否かは、JIS-H-0505(1975年)に準拠して測定される体積抵抗率が10Ω・cmを閾値として判定する。正極基材の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属又はこれらの合金が用いられる。これらの中でも、耐電位性、導電性の高さ、及びコストの観点からアルミニウム又はアルミニウム合金が好ましい。正極基材としては、箔、蒸着膜、メッシュ、多孔質材料等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、正極基材としてはアルミニウム箔又はアルミニウム合金箔が好ましい。アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS-H-4000(2014年)又はJIS-H4160(2006年)に規定されるA1085、A3003、A1N30等が例示できる。
【0027】
正極基材の平均厚さは、3μm以上50μm以下が好ましく、5μm以上40μm以下がより好ましく、8μm以上30μm以下がさらに好ましく、10μm以上25μm以下が特に好ましい。正極基材の平均厚さを前記の範囲とすることで、正極基材の強度を高めつつ、二次電池の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。
【0028】
中間層は、正極基材と正極合剤層との間に配される層である。中間層は、炭素粒子等の導電剤を含むことで正極基材と正極合剤層との接触抵抗を低減する。中間層の構成は特に限定されず、例えば、バインダ及び導電剤を含む。
【0029】
正極合剤層は、正極活物質を含む。正極合剤層は、必要に応じて、導電剤、バインダ(結着剤)、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。
【0030】
本発明の一実施形態において、正極活物質は、非水電解液蓄電素子のSOC30%における開回路電圧とSOC70%における開回路電圧との差を0.2V以下にできる正極活物質の中から適宜選択でき、中でもリチウムリン酸遷移金属化合物又はスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物が好ましい。当該リチウムリン酸遷移金属化合物としては、例えば下記式1で表されるものが挙げられる。
LiFeMn(1-x)PO(0≦x≦1) ・・・1
当該スピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物としては、例えばマンガン酸リチウム(LiMn)、ニッケルマンガン酸リチウム(LiNiγMn(2-γ)(0<x<2))が挙げられる。当該リチウムリン酸遷移金属化合物又はスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物は、他の元素からなる原子又はアニオン種で一部が置換されていてもよく、他の材料で被覆されていてもよい。
【0031】
全ての正極活物質に対するリチウムリン酸遷移金属化合物又はスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物の合計含有量の下限は、70質量%が好ましく、80質量%がより好ましく、90質量%がさらに好ましい。前記合計含有量が前記下限以上であることによって、SOC30%における開回路電圧とSOC70%における開回路電圧との差を小さくすることができる。
【0032】
正極活物質は、リチウムリン酸遷移金属化合物にあってはリン酸鉄リチウム(LiFePO)が、スピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物にあってはマンガン酸リチウム(LiMn)が好ましい。全ての正極活物質に対するリン酸鉄リチウム又はマンガン酸リチウムの合計含有量の下限は、70質量%が好ましく、80質量%がより好ましく、90質量%がさらに好ましい。全ての正極活物質に対するリン酸鉄リチウム又はマンガン酸リチウムの合計含有量が前記下限以上であることによって、SOC30%における開回路電圧とSOC70%における開回路電圧との差をより小さくすることができる。一方、全ての正極活物質に対するリン酸鉄リチウム又はマンガン酸リチウムの合計含有量は、100質量%であってもよい。また、正極活物質は、実質的にリン酸鉄リチウムのみ又はマンガン酸リチウムのみからなることが好ましい。
【0033】
正極活物質は、通常、粒子(粉体)である。正極活物質の平均粒径は、例えば、0.1μm以上20μm以下とすることが好ましい。正極活物質の平均粒径を前記下限以上とすることで、正極活物質の製造又は取り扱いが容易になる。正極活物質の平均粒径を前記上限以下とすることで、正極合剤層の電子伝導性が向上する。なお、正極活物質と他の材料との複合体を用いる場合、該複合体の平均粒径を正極活物質の平均粒径とする。「平均粒径」とは、JIS-Z-8825(2013年)に準拠し、粒子を溶媒で希釈した希釈液に対しレーザ回折・散乱法により測定した粒径分布に基づき、JIS-Z-8819-2(2001年)に準拠し計算される体積基準積算分布が50%となる値を意味する。
【0034】
粉体を所定の粒径で得るためには粉砕機や分級機等が用いられる。粉砕方法として、例えば、乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、カウンタージェットミル、旋回気流型ジェットミル又は篩等を用いる方法が挙げられる。粉砕時には水、あるいはヘキサン等の有機溶剤を共存させた湿式粉砕を用いることもできる。分級方法としては、篩や風力分級機等が、乾式、湿式ともに必要に応じて用いられる。
【0035】
正極合剤層における正極活物質の含有量は、50質量%以上99質量%以下が好ましく、70質量%以上98質量%以下がより好ましく、80質量%以上95質量%以下がさらに好ましい。正極活物質の含有量を前記の範囲とすることで、正極合剤層の高エネルギー密度化と製造性を両立できる。
【0036】
導電剤は、導電性を有する材料であれば特に限定されない。このような導電剤としては、例えば、炭素質材料、金属、導電性セラミックス等が挙げられる。炭素質材料としては、黒鉛、非黒鉛質炭素、グラフェン系炭素等が挙げられる。非黒鉛質炭素としては、カーボンナノファイバー、ピッチ系炭素繊維、カーボンブラック等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。グラフェン系炭素としては、グラフェン、カーボンナノチューブ(CNT)、フラーレン等が挙げられる。導電剤の形状としては、粉状、繊維状等が挙げられる。導電剤としては、これらの材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、これらの材料を複合化して用いてもよい。例えば、カーボンブラックとCNTとを複合化した材料を用いてもよい。これらの中でも、電子伝導性及び塗工性の観点よりカーボンブラックが好ましく、中でもアセチレンブラックが好ましい。
【0037】
正極合剤層における導電剤の含有量は、1質量%以上10質量%以下が好ましく、3質量%以上9質量%以下がより好ましい。導電剤の含有量を前記の範囲とすることで、二次電池のエネルギー密度を高めることができる。
【0038】
バインダとしては、例えば、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリル、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子等が挙げられる。
【0039】
正極合剤層におけるバインダの含有量は、1質量%以上10質量%以下が好ましく、3質量%以上9質量%以下がより好ましい。バインダの含有量を前記の範囲とすることで、正極活物質を安定して保持することができる。
【0040】
増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。増粘剤がリチウム等と反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させてもよい。
【0041】
フィラーは、特に限定されない。フィラーとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、二酸化ケイ素、アルミナ、二酸化チタン、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、アルミノケイ酸塩等の無機酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、炭酸カルシウム等の炭酸塩、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウム等の難溶性のイオン結晶、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物、タルク、モンモリロナイト、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカ等の鉱物資源由来物質又はこれらの人造物等が挙げられる。
【0042】
正極合剤層は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge、Sn、Sr、Ba等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Nb、W等の遷移金属元素を正極活物質、導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー以外の成分として含有してもよい。
【0043】
(負極)
負極は、負極基材と、当該負極基材に直接又は中間層を介して配される負極合剤層とを有する。中間層の構成は特に限定されず、例えば前記正極で例示した構成から選択することができる。
【0044】
当該負極は、R部の最内層から第3層の少なくとも1層の負極合剤層における負極合剤密度が平坦部の負極合剤層における負極合剤密度よりも低い。R部の最内層から第3層の少なくとも1層の負極合剤層における負極合剤密度の平坦部の負極合剤層における負極合剤密度に対する比率の上限としては、0.99倍が好ましく、0.97倍がより好ましく、0.95倍がさらに好ましく、0.94倍が特に好ましい。前記下限としては、0.80倍が好ましく、0.85倍がより好ましく、0.90倍がさらに好ましい。R部の最内層から第3層の少なくとも1層及び平坦部の負極合剤層における負極合剤密度の制御は、例えば負極合剤層の間欠プレスによって行うことができるが、間欠プレス以外の方法で制御してもよい。
【0045】
負極基材は、導電性を有する。負極基材の材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼、アルミニウム等の金属又はこれらの合金、炭素質材料等が用いられる。これらの中でも銅又は銅合金が好ましい。負極基材としては、箔、蒸着膜、メッシュ、多孔質材料等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、負極基材としては銅箔又は銅合金箔が好ましい。銅箔の例としては、圧延銅箔、電解銅箔等が挙げられる。
【0046】
負極基材の平均厚さは、2μm以上35μm以下が好ましく、3μm以上30μm以下がより好ましく、4μm以上25μm以下がさらに好ましく、5μm以上20μm以下が特に好ましい。負極基材の平均厚さを前記の範囲とすることで、負極基材の強度を高めつつ、二次電池の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。
【0047】
負極合剤層は、負極活物質を含む。負極合剤層は、必要に応じて導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分は、前記正極で例示した材料から選択できる。
【0048】
負極合剤層は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge、Sn、Sr、Ba等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Ta、Hf、Nb、W等の遷移金属元素を負極活物質、導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー以外の成分として含有してもよい。
【0049】
本発明の一実施形態において、負極活物質は、非水電解液蓄電素子のSOC30%における開回路電圧とSOC70%における開回路電圧との差を0.2V以下にできる負極活物質の中から適宜選択でき、中でも黒鉛又はチタン酸リチウムが好ましい。ここで、「黒鉛」とは、充放電前又は放電状態において、X線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.33nm以上0.34nm未満の炭素材料をいう。黒鉛としては、天然黒鉛、人造黒鉛が挙げられる。安定した物性の材料を入手できるという観点で、人造黒鉛が好ましい。また、負極の「放電状態」とは、負極活物質から、充放電に伴い吸蔵放出可能なリチウムイオンが十分に放出されるように放電された状態を意味する。例えば、負極活物質として黒鉛を含む負極を作用極として、金属Liを対極として用いた単極電池において、開回路電圧が0.7V以上である状態である。
【0050】
全ての負極活物質に対する黒鉛又はチタン酸リチウムの合計含有量の下限は、70質量%が好ましく、80質量%がより好ましく、90質量%がさらに好ましい。黒鉛又はチタン酸リチウムの合計含有量が前記下限以上であることによって、SOC30%における開回路電圧とSOC70%における開回路電圧との差を小さくすることができる。一方、全ての負極活物質に対する黒鉛又はチタン酸リチウムの合計含有量は、100質量%であってもよい。また、負極活物質は、実質的に黒鉛のみ又はチタン酸リチウムのみからなることが好ましい。
【0051】
負極活物質は、通常、粒子(粉体)である。負極活物質の平均粒径は、例えば、1nm以上100μm以下とすることができる。負極活物質の平均粒径は、1μm以上100μm以下であってもよい。負極活物質の平均粒径を前記下限以上とすることで、負極活物質の製造又は取り扱いが容易になる。負極活物質の平均粒径を前記上限以下とすることで、負極合剤層の電子伝導性が向上する。粉体を所定の粒径で得るためには粉砕機や分級機等が用いられる。粉砕方法及び粉級方法は、例えば、前記正極で例示した方法から選択できる。
【0052】
負極合剤層における負極活物質の含有量は、60質量%以上99質量%以下が好ましく、90質量%以上98質量%以下がより好ましい。負極活物質の含有量を前記の範囲とすることで、負極合剤層の高エネルギー密度化と製造性を両立できる。
【0053】
(セパレータ)
セパレータは、多孔性基材を有する。セパレータは、公知のセパレータの中から適宜選択できる。セパレータとして、例えば、多孔性基材層のみからなるセパレータ、多孔性基材層の一方の面又は双方の面に耐熱粒子とバインダとを含む耐熱層が形成されたセパレータ等を使用することができる。セパレータの多孔性基材層の形状としては、例えば、織布、不織布、多孔質樹脂フィルム等が挙げられる。これらの形状の中でも、強度の観点から多孔質樹脂フィルムが好ましく、非水電解液の保液性の観点から不織布が好ましい。セパレータの多孔性基材層の材料としては、シャットダウン機能の観点から例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましく、耐酸化分解性の観点から例えばポリイミドやアラミド等が好ましい。セパレータの多孔性基材層として、これらの樹脂を複合した材料を用いてもよい。
【0054】
耐熱層に含まれる耐熱粒子は、1気圧の空気雰囲気下で室温から500℃まで昇温したときの質量減少が5%以下であるものが好ましく、室温から800℃まで昇温したときの質量減少が5%以下であるものがさらに好ましい。質量減少が所定以下である材料として無機化合物が挙げられる。無機化合物として、例えば、酸化鉄、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、アルミノケイ酸塩等の酸化物;窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物;炭酸カルシウム等の炭酸塩;硫酸バリウム等の硫酸塩;フッ化カルシウム、フッ化バリウム、チタン酸バリウム等の難溶性のイオン結晶;シリコン、ダイヤモンド等の共有結合性結晶;タルク、モンモリロナイト、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカ等の鉱物資源由来物質又はこれらの人造物等が挙げられる。無機化合物として、これらの物質の単体又は複合体を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらの無機化合物の中でも、非水電解液蓄電素子の安全性の観点から、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、又はアルミノケイ酸塩が好ましい。
【0055】
セパレータの空孔率は、強度の観点から80体積%以下が好ましく、放電性能の観点から20体積%以上が好ましい。ここで、「空孔率」とは、体積基準の値であり、水銀ポロシメータでの測定値を意味する。
【0056】
セパレータとして、ポリマーと非水電解液とで構成されるポリマーゲルを用いてもよい。ポリマーとして、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリメチルメタアクリレート、ポリビニルアセテート、ポリビニルピロリドン、ポリフッ化ビニリデン等が挙げられる。ポリマーゲルを用いると、漏液を抑制する効果がある。セパレータとして、上述したような多孔質樹脂フィルム又は不織布等とポリマーゲルを併用してもよい。
【0057】
(非水電解液)
非水電解液としては、公知の非水電解液の中から適宜選択できる。非水電解液は、非水溶媒と、この非水溶媒に溶解されている電解質塩とを含む。
【0058】
非水溶媒としては、公知の非水溶媒の中から適宜選択できる。非水溶媒としては、環状カーボネート、鎖状カーボネート、カルボン酸エステル、リン酸エステル、スルホン酸エステル、エーテル、アミド、ニトリル等が挙げられる。非水溶媒として、これらの化合物に含まれる水素原子の一部がハロゲンに置換されたものを用いてもよい。
【0059】
環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、クロロエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、スチレンカーボネート、1-フェニルビニレンカーボネート、1,2-ジフェニルビニレンカーボネート等が挙げられる。これらの中でもECが好ましい。
【0060】
鎖状カーボネートとしては、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジフェニルカーボネート、トリフルオロエチルメチルカーボネート、ビス(トリフルオロエチル)カーボネート等が挙げられる。これらの中でもEMCが好ましい。
【0061】
非水溶媒として、環状カーボネート又は鎖状カーボネートを用いることが好ましく、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用することがより好ましい。環状カーボネートを用いることで、電解質塩の解離を促進して非水電解液のイオン伝導度を向上させることができる。鎖状カーボネートを用いることで、非水電解液の粘度を低く抑えることができる。環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用する場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの体積比率(環状カーボネート:鎖状カーボネート)としては、例えば、5:95から50:50の範囲とすることが好ましい。
【0062】
電解質塩としては、公知の電解質塩から適宜選択できる。電解質塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、オニウム塩等が挙げられる。これらの中でもリチウム塩が好ましい。
【0063】
リチウム塩としては、LiPF、LiPO、LiBF、LiClO、LiN(SOF)等の無機リチウム塩、リチウムビス(オキサレート)ボレート(LiBOB)、リチウムジフルオロオキサレートボレート(LiFOB)、リチウムビス(オキサレート)ジフルオロホスフェート(LiFOP)等のシュウ酸リチウム塩、LiSOCF、LiN(SOCF、LiN(SO、LiN(SOCF)(SO)、LiC(SOCF、LiC(SO等のハロゲン化炭化水素基を有するリチウム塩等が挙げられる。これらの中でも、無機リチウム塩が好ましく、LiPFがより好ましい。
【0064】
非水電解液における電解質塩の含有量は、20℃1気圧下において、0.1mol/dm以上2.5mol/dm以下であると好ましく、0.3mol/dm以上2.0mol/dm以下であるとより好ましく、0.5mol/dm以上1.7mol/dm以下であるとさらに好ましく、0.7mol/dm以上1.5mol/dm以下であると特に好ましい。電解質塩の含有量を前記の範囲とすることで、非水電解液のイオン伝導度を高めることができる。
【0065】
非水電解液は、非水溶媒と電解質塩以外に、添加剤を含んでもよい。添加剤としては、例えば、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)等のハロゲン化炭酸エステル;リチウムビス(オキサレート)ボレート(LiBOB)、リチウムジフルオロオキサレートボレート(LiFOB)、リチウムビス(オキサレート)ジフルオロホスフェート(LiFOP)等のシュウ酸塩;リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)等のイミド塩;ビフェニル、アルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロヘキシルベンゼン、t-ブチルベンゼン、t-アミルベンゼン、ジフェニルエーテル、ジベンゾフラン等の芳香族化合物;2-フルオロビフェニル、o-シクロヘキシルフルオロベンゼン、p-シクロヘキシルフルオロベンゼン等の前記芳香族化合物の部分ハロゲン化物;2,4-ジフルオロアニソール、2,5-ジフルオロアニソール、2,6-ジフルオロアニソール、3,5-ジフルオロアニソール等のハロゲン化アニソール化合物;ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、エチルビニレンカーボネート、無水コハク酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、無水イタコン酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物;亜硫酸エチレン、亜硫酸プロピレン、亜硫酸ジメチル、メタンスルホン酸メチル、ブスルファン、トルエンスルホン酸メチル、硫酸ジメチル、硫酸エチレン、スルホラン、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、テトラメチレンスルホキシド、ジフェニルスルフィド、4,4’-ビス(2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン)、4-メチルスルホニルオキシメチル-2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン、チオアニソール、ジフェニルジスルフィド、ジピリジニウムジスルフィド、1,3-プロペンスルトン、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、1,4-ブテンスルトン、パーフルオロオクタン、ホウ酸トリストリメチルシリル、リン酸トリストリメチルシリル、チタン酸テトラキストリメチルシリル、モノフルオロリン酸リチウム、ジフルオロリン酸リチウム等が挙げられる。これら添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0066】
非水電解液に含まれる添加剤の含有量は、非水電解液全体の質量に対して0.01質量%以上10質量%以下であると好ましく、0.1質量%以上7質量%以下であるとより好ましく、0.2質量%以上5質量%以下であるとさらに好ましく、0.3質量%以上3質量%以下であると特に好ましい。添加剤の含有量を前記の範囲とすることで、高温保存後の容量維持性能又はサイクル性能を向上させたり、安全性をより向上させたりすることができる。
【0067】
図2に角型電池の一例としての非水電解液蓄電素子1(非水電解液二次電池)を示す。なお、同図は、容器内部を透視した図としている。セパレータを挟んで巻回された正極及び負極を有する電極体2が角型の容器3に収納される。また、容器3は、非水電解液が加えられた状態で密閉されている。容器3としては、非水電解液蓄電素子の容器として通常用いられる公知の金属容器、樹脂容器等を用いることができる。
【0068】
正極は正極リード41を介して正極端子4と電気的に接続されている。負極は負極リード51を介して負極端子5と電気的に接続されている。図2では、非水電解液蓄電素子1における電極体2の巻回の軸線方向をX方向、非水電解液蓄電素子1の厚さ方向をY方向、前記軸線方向(X方向)に垂直かつ前記厚さ方向(Y方向)に垂直な方向をZ方向と示す。なお、Z方向は、非水電解液蓄電素子1における電極体2の平坦部(すなわち平坦部の表面)に平行であり、かつ前記平坦部での電極体2の巻回方向に一致する。ここでは、非水電解液蓄電素子1の厚さ方向は、電極体2の厚さ方向と一致する。電極体2の厚さ方向は、正極、負極及びセパレータの積層方向に相当し、また、これらの正極、負極及びセパレータの表面に垂直な方向にも相当する。
【0069】
<蓄電装置の構成>
本実施形態の非水電解液蓄電素子は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器用電源、又は電力貯蔵用電源等に、複数の非水電解液蓄電素子1を集合して構成した蓄電ユニット(バッテリーモジュール)として搭載することができる。この場合、蓄電ユニットに含まれる少なくとも一つの非水電解液蓄電素子に対して、本発明の技術が適用されていればよい。
図3に、電気的に接続された二以上の非水電解液蓄電素子1が集合した蓄電ユニット20をさらに集合した蓄電装置30の一例を示す。蓄電装置30は、二以上の非水電解液蓄電素子1を電気的に接続するバスバ(図示せず)、二以上の蓄電ユニット20を電気的に接続するバスバ(図示せず)等を備えていてもよい。蓄電ユニット20又は蓄電装置30は、一以上の非水電解液蓄電素子の状態を監視する状態監視装置(図示せず)を備えていてもよい。
【0070】
<非水電解液蓄電素子の製造方法>
本実施形態の非水電解液蓄電素子の製造方法は、公知の方法から適宜選択できる。当該製造方法は、例えば、電極体を準備することと、非水電解液を準備することと、電極体及び非水電解液を容器に収容することと、を備える。電極体を準備することは、正極及び負極を準備することと、セパレータを介して正極及び負極を積層し巻回することにより電極体を形成することとを備える。
【0071】
非水電解液を容器に収容することは、公知の方法から適宜選択できる。例えば、容器に形成された注入口から非水電解液を注入した後、注入口を封止すればよい。
【0072】
<その他の実施形態>
尚、本発明の非水電解液蓄電素子は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えてもよい。例えば、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を追加することができ、また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成又は周知技術に置き換えることができる。さらに、ある実施形態の構成の一部を削除することができる。また、ある実施形態の構成に対して周知技術を付加することができる。
【0073】
前記実施形態では、非水電解液蓄電素子が充放電可能な非水電解液二次電池(例えばリチウムイオン二次電池)として用いられる場合について説明したが、非水電解液蓄電素子の種類、形状、寸法、容量等は任意である。本発明は、種々の二次電池、電気二重層キャパシタ又はリチウムイオンキャパシタ等のキャパシタにも適用できる。
【0074】
前記実施形態では、正極及び負極がセパレータを介して積層された電極体について説明したが、電極体は、セパレータを備えなくてもよい。例えば、正極又は負極の活物質層上に導電性を有さない多孔性基材が形成された状態で、正極及び負極が直接接してもよい。
【0075】
前記実施形態では、正極活物質が上述の式1で表されるリチウムリン酸遷移金属化合物、若しくはマンガン酸リチウム又はニッケルマンガン酸リチウムのいずれかのスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物を含み、かつ負極活物質が黒鉛又はチタン酸リチウムを含む場合を説明したが、正極活物質及び負極活物質の構成は前記実施形態に限定されない。例えば、正極活物質として上述の式1で表されるリチウムリン酸遷移金属化合物、若しくはマンガン酸リチウム又はニッケルマンガン酸リチウムのいずれかのスピネル型リチウムマンガン含有複合酸化物以外を選択し、負極活物質として黒鉛又はチタン酸リチウム以外を選択し、かつSOC30%における開回路電圧とSOC70%における開回路電圧との差が0.2V以下となる構成としてもよい。
【実施例0076】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明する。本発明は以下の実施例に限定されない。
【0077】
[実施例1]
(正極の作製)
正極活物質として、リン酸鉄リチウム(LiFePO)を用いた。N-メチルピロリドン(NMP)を分散媒とし、前記正極活物質、導電剤であるアセチレンブラック(AB)、及びバインダであるポリフッ化ビニリデン(PVDF)を固形分換算で90:5:5の質量比率で含有する正極合剤ペーストを作製した。正極基材42aであるアルミニウム箔の両面に、前記正極合剤ペーストを塗布し、乾燥後プレスした。これにより、正極基材42aの両面に正極合剤層42bが積層された正極42を得た。
【0078】
(負極の作製)
負極活物質として、黒鉛(Gr)を用いた。水を分散媒とし、前期負極活物質、バインダであるスチレン-ブタジエンゴム(SBR)、増粘剤であるカルボキシルメチルセルロース(CMC)を固形分換算で96:2:2の質量比率で含有する負極合剤ペーストを作製した。負極基材52aである銅箔の両面に、負極合剤ペーストを塗布し、乾燥した。その後、ロールプレスを行った。これにより、負極基材52aの両面に負極合剤層52bが積層された負極52を得た。さらに間欠プレスにより、後述する扁平型巻回電極体を作製したときにR部の最内層から第3層及び平坦部に当たる部分の負極合剤層の負極合剤密度を制御した。R部の最内層から第3層の負極合剤層における負極合剤密度は1.20g/cm、平坦部の負極合剤層における負極合剤密度は1.27g/cmであった。
【0079】
(非水電解液の調製)
ECとEMCとを30:70の体積比で混合した非水溶媒に、電解質塩としてLiPFを1.0mol/dmの濃度で溶解させた溶液を作製した。前記溶液を非水電解液として得た。
【0080】
(非水電解液蓄電素子の作製)
セパレータとして、ポリオレフィン製微多孔膜を用いた。このセパレータを介して、前記正極42と前記負極51とを積層し巻回することにより扁平型巻回電極体を作製した。この扁平型巻回電極体を、容器に収納し、内部に前記非水電解液を注入し、実施例1の非水電解液蓄電素子を得た。
【0081】
[実施例2及び比較例1から4]
正極活物質、R部の最内層から第3層の負極合剤層における負極合剤密度及び平坦部の負極合剤層における負極合剤密度を表1に記載の通りに変更したこと以外は実施例1と同様にして、実施例2及び比較例1から4の各非水電解液蓄電素子を得た。
【0082】
(初期充放電)
得られた各非水電解液蓄電素子について、25℃の下、以下の要領にて初期充放電を行った。充電電流0.1C、充電終止電圧3.6Vとして定電流定電圧充電を行った。充電の終了条件は、充電電流が0.02Cとなるまでとした。その後、10分間の休止時間を設けた。その後、放電電流0.1C、放電終止電圧2.0Vとして定電流放電を行った。
【0083】
(初期の容量確認試験)
次いで、各非水電解液蓄電素子について、25℃の下、以下の要領で初期の容量確認試験を行った。
充電電流0.1C、充電終止電圧3.6Vとして定電流定電圧充電を行った。充電の終了条件は、充電電流が0.02Cとなるまでとした。その後、10分間の休止期間を設けた。その後、放電電流0.1C、放電終止電圧2.0Vとして定電流放電を行った。このときの放電容量を「初期の放電容量」とした。その後、各非水電解液蓄電素子について、充電電流0.1Cで完全放電状態からSOC30%まで定電流充電を行った後、電流を印加していない状態で30分間経過したときの開回路電圧と、さらに充電電流0.1CでSOC70%まで定電流充電を行った後、電流を印加していない状態で30分間経過したときの開回路電圧とを測定した。その結果、実施例1、2及び比較例1、2の各非水電解液蓄電素子においては、前記開回路電圧の差はいずれも0.2V以下であった。一方、比較例3、4の各非水電解液蓄電素子においては、前記開回路電圧の差はいずれも0.2Vを超であった。なお、ここでは初期の容量確認試験を行った後の状態を完全放電状態とし、SOC0%と表記し、初期の放電容量と同じ電気量を充電終止電圧3.6Vとして定電流定電圧充電を行った状態を満充電状態とし、SOC100%と表記した。
【0084】
(充放電サイクル試験)
前記初期の容量確認試験後、各非水電解液蓄電素子について、25℃の下、以下の要領で充放電サイクル試験を行った。充電電流1.0C、充電終止電圧3.6Vとして定電流定電圧充電を行った。充電の終了条件は、充電電流が0.05Cとなるまでとした。その後、放電電流1.0C、放電終止電圧2.0Vとして定電流放電を行った。充電後及び放電後は、それぞれ10分間の休止時間を設けた。この充放電を50サイクル実施した。
充放電サイクル試験後、前記「初期の容量確認試験」と同様の方法にて容量確認試験を行い、このときの放電容量を「充放電サイクル試験後の放電容量」とした。充放電サイクル試験後の放電容量を初期の放電容量で除し、容量維持率(%)を求めた。結果を表1に示す。
【0085】
【表1】
【0086】
前記表1に示されるように、電圧平坦性を有する非水電解液蓄電素子であって、R部の最内層から第3層の負極合剤層における負極合剤密度が平坦部の負極合剤層における負極合剤密度より低い実施例1、2は、R部の最内層から第3層の負極合剤層における負極合剤密度が平坦部の負極合剤層における負極合剤密度と同じである比較例1、2と比べて容量維持率が高い。また、電圧平坦性を有さない非水電解液蓄電素子である比較例3、4はR部の最内層から第3層及び平坦部の負極合剤層における負極合剤密度によらず、容量維持率が同一であり、さらに、実施例1、2は比較例3、4と比べて容量維持率が高い。
これらのことから、本発明は電圧平坦性を有する非水電解液蓄電素子特有の課題を、扁平型巻回電極体のR部の最内層から第3層の少なくとも1層及び平坦部の負極合剤層における負極合剤密度を制御することにより、電極体内での充放電反応を偏り難くさせ、解決できたものであると推測される。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車などの電源として使用される非水電解液蓄電素子などに適用できる。
【符号の説明】
【0088】
1 非水電解液蓄電素子
2 電極体
3 容器
4 正極端子
41 正極リード
42 正極
42a 正極基材
42b 正極合剤層
5 負極端子
51 負極リード
52 負極
52a 負極基材
52b 負極合剤層
20 蓄電ユニット
30 蓄電装置
図1
図2
図3
図4