(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023117885
(43)【公開日】2023-08-24
(54)【発明の名称】学習装置、欠陥判定装置、学習方法、欠陥判定方法、溶接制御装置及び溶接装置
(51)【国際特許分類】
B23K 9/095 20060101AFI20230817BHJP
B23K 31/00 20060101ALI20230817BHJP
B23K 9/032 20060101ALI20230817BHJP
B23K 9/04 20060101ALI20230817BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20230817BHJP
B33Y 50/00 20150101ALI20230817BHJP
B33Y 50/02 20150101ALI20230817BHJP
【FI】
B23K9/095 505B
B23K31/00 Z
B23K9/032 Z
B23K9/04 G
B23K9/04 Z
B23K9/095 515Z
B23K31/00 N
B33Y30/00
B33Y50/00
B33Y50/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022020686
(22)【出願日】2022-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】黄 碩
(72)【発明者】
【氏名】椿 翔太
【テーマコード(参考)】
4E081
【Fターム(参考)】
4E081AA02
4E081CA01
4E081CA10
4E081CA11
4E081CA14
(57)【要約】
【課題】欠陥サイズを精度よく予測して欠陥の発生を未然に抑制できる学習装置、欠陥判定装置、学習方法、欠陥判定方法、溶接制御装置及び溶接装置を提供する。
【解決手段】学習装置140は、ビードBを積層する際の溶接条件、ビードBを積層する前の積層造形体の表面形状のうち谷部を形成する狭隘部Nに関する寸法、狭隘部NとビードBの狙い位置との位置関係、及び未溶着欠陥Cの欠陥サイズ、に関する情報を取得するデータ取得部141と、溶接条件、狭隘部Nに関する寸法、及び位置関係と、欠陥サイズとの関係を学習して推定モデルを生成する学習部142を備え、狭隘部Nに関する寸法は、谷部の底幅U、谷部を形成する谷部両脇の頂部同士の間隔を表す開口幅W、頂部から谷部の底までの谷深さHの少なくともいずれかを含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材上に複数のビードが層状に重ねられた積層造形体の内部に発生する未溶着欠陥の欠陥サイズを学習し、入力された情報に応じた前記欠陥サイズを出力する推定モデルを生成する学習装置であって、
前記ビードを積層する際の溶接条件、前記ビードを積層する前の前記積層造形体の表面形状のうち谷部を形成する狭隘部に関する寸法、前記狭隘部と前記ビードの狙い位置との位置関係、及び前記未溶着欠陥の欠陥サイズ、に関する情報を取得する情報取得部と、
前記溶接条件、前記狭隘部に関する寸法、及び前記位置関係と、前記欠陥サイズとの関係を学習して前記推定モデルを生成する学習部を備え、
前記狭隘部に関する寸法は、前記谷部の底幅、前記谷部を形成する谷部両脇の頂部同士の間隔を表す開口幅、前記頂部から前記谷部の底までの谷深さの少なくともいずれかを含む、
学習装置。
【請求項2】
前記溶接条件は、溶接ワイヤの送給速度、溶接速度、溶接電流、溶接電圧、溶接トーチのトーチ角、前記ビードの体積、前記ビードの長手方向に直交する断面の断面積の少なくともいずれかを含む、
請求項1に記載の学習装置。
【請求項3】
前記位置関係は、前記狭隘部の代表位置と、次に形成する前記ビードの狙い位置との差分距離を含む、
請求項1又は2に記載の学習装置。
【請求項4】
前記欠陥サイズは、前記ビードの長手方向に直交する断面における断面積又は長さを含む、
請求項1~3のいずれか1項に記載の学習装置。
【請求項5】
前記学習部は、前記溶接条件、前記狭隘部に関する寸法、及び前記位置関係に対する前記欠陥サイズに加えて、前記欠陥サイズの分散を前記推定モデルに登録し、
前記推定モデルは、入力される情報に応じて、該情報に対応した前記欠陥サイズとその分散値とを出力可能である、
請求項1~4のいずれか1項に記載の学習装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の学習装置と、
前記推定モデルに少なくとも前記狭隘部に関する寸法情報と前記位置関係とを含む溶接計画の情報を入力し、前記推定モデルから出力される前記未溶着欠陥の欠陥サイズの推定値と、予め定めた許容限界となる基準値とを比較する判定部と、
を備える、
欠陥判定装置。
【請求項7】
前記判定部が前記基準値を超えると判定した場合に、前記溶接条件と前記位置関係の少なくともいずれかを修正して修正溶接計画を作成する溶接計画修正部を更に備え、
前記推定モデルが出力する前記修正溶接計画の情報に応じた前記欠陥サイズの推定値が前記基準値以下となるまで前記溶接計画修正部による前記溶接計画の修正を繰り返す、
請求項6に記載の欠陥判定装置。
【請求項8】
母材上に複数のビードが層状に重ねられた積層造形体の内部に発生する未溶着欠陥の欠陥サイズを学習し、入力された情報に応じた前記欠陥サイズを出力する推定モデルを生成する学習方法であって、
前記ビードを積層する際の溶接条件、前記ビードを積層する前の前記積層造形体の表面形状のうち谷部を形成する狭隘部に関する寸法、前記狭隘部と前記ビードの狙い位置との位置関係、及び前記未溶着欠陥の欠陥サイズ、に関する情報を取得する工程と、
前記溶接条件、前記狭隘部に関する寸法、及び前記位置関係と、前記欠陥サイズとの関係を学習して前記推定モデルを生成する工程と、
を有し、
前記狭隘部に関する寸法は、前記谷部の底幅、前記谷部を形成する谷部両脇の頂部同士の間隔を表す開口幅、前記頂部から前記谷部の底までの谷深さの少なくともいずれかを含む、
学習方法。
【請求項9】
請求項8に記載の学習方法によって生成される前記推定モデルに、少なくとも前記狭隘部に関する寸法情報と前記位置関係とを含む溶接計画の情報を入力し、前記推定モデルから出力される前記未溶着欠陥の欠陥サイズの推定値と、予め定めた許容限界となる基準値とを比較して、前記推定値が前記基準値を超える場合に前記未溶着欠陥が生じると判定する、
欠陥判定方法。
【請求項10】
前記基準値を超えると判定した場合に、前記溶接条件と前記位置関係の少なくともいずれかを修正して修正溶接計画を作成し、
前記修正溶接計画を前記推定モデルに入力し、
前記推定モデルが出力する前記修正溶接計画の情報に応じた前記欠陥サイズの推定値が前記基準値以下となるまで前記溶接計画の修正を繰り返す、
請求項9に記載の欠陥判定方法。
【請求項11】
請求項6又は7に記載の欠陥判定装置と、
前記欠陥判定装置により出力された結果に応じてアーク溶接を実行する制御部を備える、溶接制御装置。
【請求項12】
請求項11に記載の溶接制御装置と、
アーク溶接を行う溶接ロボットと、
を備える、
溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、学習装置、欠陥判定装置、学習方法、欠陥判定方法、溶接制御装置及び溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アーク溶接において、溶接された構造物に発生した欠陥を検出して適正な溶接施工がなされているかを判定する技術が知られている。例えば、特許文献1には、フィルタを通して溶融プールの状況を視覚センサで撮像して溶接状態の良否を判定する技術が開示されている。また、この文献には、視覚センサによる撮像と同時に、溶接電流、電圧及びワイヤ送給速度の計測も行うことも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ビードを積層して造形した造形物の品質を非接触で検査する手段として、例えば、超音波探傷による検査手段がある。しかし、この超音波探傷では、探触子を造形物の表面に接触させる都合上、造形物の表面を切削した後でないと適用が困難であり、また、複雑な造形物に対しては超音波の反射波を円滑に検出できないおそれがある。
【0005】
また、X線CT装置を使用した非接触の検査手段も考えられるが、検査対象のサイズが装置に制約されるうえに装置自体が高価であるため、必ずしも現実的ではない。
【0006】
そこで本発明は、欠陥サイズを精度よく予測して欠陥の発生を未然に抑制できる学習装置、欠陥判定装置、学習方法、欠陥判定方法、溶接制御装置及び溶接装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記の構成からなる。
(1) 母材上に複数のビードが層状に重ねられた積層造形体の内部に発生する未溶着欠陥の欠陥サイズを学習し、入力された情報に応じた前記欠陥サイズを出力する推定モデルを生成する学習装置であって、
前記ビードを積層する際の溶接条件、前記ビードを積層する前の前記積層造形体の表面形状のうち谷部を形成する狭隘部に関する寸法、前記狭隘部と前記ビードの狙い位置との位置関係、及び前記未溶着欠陥の欠陥サイズ、に関する情報を取得する情報取得部と、
前記溶接条件、前記狭隘部に関する寸法、及び前記位置関係と、前記欠陥サイズとの関係を学習して前記推定モデルを生成する学習部を備え、
前記狭隘部に関する寸法は、前記谷部の底幅、前記谷部を形成する谷部両脇の頂部同士の間隔を表す開口幅、前記頂部から前記谷部の底までの谷深さの少なくともいずれかを含む、
学習装置。
(2) (1)に記載の学習装置と、
前記推定モデルに少なくとも前記狭隘部に関する寸法情報と前記位置関係とを含む溶接計画の情報を入力し、前記推定モデルから出力される前記未溶着欠陥の欠陥サイズの推定値と、予め定めた許容限界となる基準値とを比較する判定部と、
を備える、
欠陥判定装置。
(3) 母材上に複数のビードが層状に重ねられた積層造形体の内部に発生する未溶着欠陥の欠陥サイズを学習し、入力された情報に応じた前記欠陥サイズを出力する推定モデルを生成する学習方法であって、
前記ビードを積層する際の溶接条件、前記ビードを積層する前の前記積層造形体の表面形状のうち谷部を形成する狭隘部に関する寸法、前記狭隘部と前記ビードの狙い位置との位置関係、及び前記未溶着欠陥の欠陥サイズ、に関する情報を取得する工程と、
前記溶接条件、前記狭隘部に関する寸法、及び前記位置関係と、前記欠陥サイズとの関係を学習して前記推定モデルを生成する工程と、
を有し、
前記狭隘部に関する寸法は、前記谷部の底幅、前記谷部を形成する谷部両脇の頂部同士の間隔を表す開口幅、前記頂部から前記谷部の底までの谷深さの少なくともいずれかを含む、
学習方法。
(4) (3)に記載の学習方法によって生成される前記推定モデルに、少なくとも前記狭隘部に関する寸法情報と前記位置関係とを含む溶接計画の情報を入力し、前記推定モデルから出力される前記未溶着欠陥の欠陥サイズの推定値と、予め定めた許容限界となる基準値とを比較して、前記推定値が前記基準値を超える場合に前記未溶着欠陥が生じると判定する、
欠陥判定方法。
(5) (2)に記載の欠陥判定装置と、
前記欠陥判定装置により出力された結果に応じてアーク溶接を実行する制御部を備える、溶接制御装置。
(6) (5)に記載の溶接制御装置と、
アーク溶接を行う溶接ロボットと、
を備える、
溶接装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、欠陥サイズを精度よく予測して欠陥の発生を未然に抑制させることを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】
図2は、溶接トーチ及び形状検出部と、ビードの形成軌道とを示す模式図である。
【
図3】
図3は、欠陥判定装置の概略的な機能ブロック図である。
【
図4】
図4は、溶接トーチによる狭隘部へのビードの形成状況を示す説明図である。
【
図5】
図5は、既設ビードのビード形成方向に直交する断面における特徴量を説明する説明図である。
【
図6】
図6は、
図5に示す既設ビードの間隔を変化させた様子を示す説明図である。
【
図7】
図7は、
図5に示す既設ビードの間隔を変化させた様子を示す説明図である。
【
図8】
図8は、欠陥が形成された積層試験体の断面図である。
【
図9】
図9は、欠陥が形成された積層試験体の断面図である。
【
図10】
図10は、溶接条件を決定する手順を示すフローチャートである。
【
図11】
図11は、欠陥サイズの実測値と予測値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の構成例について、図面を参照して詳細に説明する。ここでは、ビードを積層して積層造形物を造形する積層造形を例に説明するが、隅肉溶接、突き合わせ溶接等の一般的な溶接についても本発明の適用が可能である。
【0011】
<溶接システムの構成>
図1は、溶接システムの全体構成図である。
溶接システム100は、溶接装置110と、溶接制御装置120とを備える。溶接制御装置120は、制御部11と、欠陥判定装置130とを有している。
【0012】
(溶接装置)
まず、溶接装置110の構成を説明する。
溶接装置110は、溶接ロボット13と、ロボット駆動部15と、溶加材供給部17と、溶接電源部19と、形状検出部21とを備える。これらの溶接ロボット13、ロボット駆動部15、溶加材供給部17、溶接電源部19及び形状検出部21は、それぞれ溶接制御装置120の制御部11に接続されている。
【0013】
溶接ロボット13は、多関節ロボットであり、その先端軸に溶接トーチ27が装着されている。ロボット駆動部15は、溶接ロボット13を駆動する指令を出力し、溶接トーチ27の位置及び姿勢をロボットアームの自由度の範囲で三次元的に任意に設定する。また、溶接トーチ27の先端には、連続供給される溶加材(溶接ワイヤ)Mが支持される。
【0014】
溶接トーチ27は、不図示のシールドノズルを有し、シールドノズルからシールドガスが供給されるガスメタルアーク溶接用のトーチである。アーク溶接法としては、被覆アーク溶接又は炭酸ガスアーク溶接等の消耗電極式、TIG溶接又はプラズマアーク溶接等の非消耗電極式のいずれであってもよく、作製する造形物(構造物)に応じて適宜選定される。例えば、消耗電極式の場合、シールドノズルの内部にはコンタクトチップが配置され、溶融電流が給電される溶加材Mがコンタクトチップに保持される。溶接トーチ27は、溶加材Mを保持しつつ、シールドガス雰囲気で溶加材Mの先端からアークを発生する。
【0015】
溶加材供給部17は、溶加材Mが巻回されたリール17aを備える。溶加材Mは、溶加材供給部17からロボットアーム等に取り付けられた繰り出し機構(不図示)に送られ、必要に応じて繰り出し機構により正逆送給されながら溶接トーチ27へ送給される。
【0016】
溶加材Mとしては、あらゆる市販の溶接ワイヤを使用できる。例えば、軟鋼,高張力鋼及び低温用鋼用のマグ溶接及びミグ溶接ソリッドワイヤ(JIS Z 3312)、軟鋼,高張力鋼及び低温用鋼用アーク溶接フラックス入りワイヤ(JIS Z 3313)等で規定される溶接ワイヤが使用可能である。さらに、求められる特性に応じてアルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ニッケル基合金等の溶加材Mの使用も可能である。
【0017】
溶接電源部19は、トーチ先端からアークを発生させるための溶接電流及び溶接電圧を溶接トーチ27に供給する。
【0018】
形状検出部21は、溶接ロボット13の先端軸又は先端軸の近傍に設けられ、溶接トーチ27の先端付近を計測領域とする。形状検出部21は、溶接トーチ27とは別位置に設けた他の検出手段であってもよい。
【0019】
本構成の形状検出部21は、溶接ロボット13の駆動によって溶接トーチ27とともに移動され、ビードB及びビードBを形成する際の下地となる部分の形状を計測する。この形状検出部21としては、例えば、照射したレーザ光の反射光を高さデータとして取得するレーザセンサを使用できる。また、形状検出部21として、三次元形状計測用のカメラ等、他の検出手段を用いてもよい。
【0020】
上記構成の溶接装置110によれば、ロボット駆動部15に、作製しようとする造形物に応じた造形プログラムが制御部11から送信されてくる。造形プログラムは、多数の命令コードにより構成され、造形物の形状データ(CADデータ等)、材質、入熱量等の諸条件に応じて、適宜なアルゴリズムに基づいて作成される。
【0021】
ロボット駆動部15は、受信した造形プログラムを実行して、溶接ロボット13、溶加材供給部17及び溶接電源部19等を駆動し、造形プログラムに応じてビードBを形成する。つまり、ロボット駆動部15は、溶接ロボット13を駆動して、造形プログラムに設定された溶接トーチ27の軌道(ビード形成軌道)に沿って溶接トーチ27を移動させる。これとともに、設定された溶接条件に応じて溶加材供給部17及び溶接電源部19を駆動して、溶接トーチ27の先端の溶加材Mをアークによって溶融、凝固させる。これにより、母材であるベースプレートP上に、溶接トーチ27の軌道に沿ってビードBが形成される。ビードBは互いに隣接して形成されて、複数のビードBからなるビード層を形成する。このビード層の上に次層のビード層が積層される等して、所望の三次元形状の造形物WKが造形される。
【0022】
溶接制御装置120は、図示を省略するが、CPU等のプロセッサと、ROM、RAM等のメモリと、HD(ハードディスクドライブ)、SSD(ソリッドステートドライブ)等の記憶部とを含むコンピュータデバイスにより構成される。上記した溶接制御装置120の各構成要素は、それぞれCPUの指令によって動作して、それぞれの機能を発揮する。また、溶接制御装置120は、溶接装置110と離隔して配置され、ネットワーク等の通信手段を介して遠隔地から溶接装置110に接続される構成であってもよい。
【0023】
溶接制御装置120を構成する制御部11は、
図1に示すロボット駆動部15、溶加材供給部17、溶接電源部19及び形状検出部21を統括して制御する機能を有する。制御部11は、予め用意された駆動プログラム、又は所望の条件で作成した駆動プログラムを実行して、溶接ロボット13等の各部を駆動する。これにより、駆動プログラムに応じて溶接トーチ27を移動させ、作成した溶接計画に基づいてベースプレートP上に複数層のビードBを積層することで、多層構造の造形物WKが造形される。
【0024】
図2は、溶接トーチ27及び形状検出部21と、ビードBのビード形成軌道とを示す模式図である。
ビードBは、溶接トーチ27がベースプレートP上で、予め作成されたビード形成軌道に沿って移動することで順次に形成される。また、溶接トーチ27を移動させると同時に、形状検出部21により、既設のビードB及びビード形成予定面Gの表面形状を計測する。そして、形状検出部21は、ビードB及びビード形成予定面Gの表面形状(これらを纏めて形状プロファイルという)を溶接制御装置120に出力する。
【0025】
形状プロファイルの計測は、ビードBの形成時と同時に実施することが好ましい。その場合、溶接トーチ27の移動方向後方に形状検出部21を配置すればよい。これによれば、溶接トーチ27の移動によってビードBを形成しつつ、その移動パスで、形成したビードBの形状を効率よく計測できるため、タクトタイムの短縮が図れる。この形状プロファイルの計測は、ビードBの形成時とは別のタイミングで実施してもよく、種々の条件に応じて所望のタイミングで行ってもよい。以下、これから形成する予定の形成前のビードを「新設ビード」、既に形成したビードを「既設ビード」ともいう。
【0026】
ここで示す造形物WKは、ビードBにより形成された枠状の壁部Awと、壁部Awに囲まれた領域内をビードBで充填する充填部Afとを有する。この充填部Afは、壁部Awを形成した後に形成される。つまり、壁部Awを形成した後、壁部Awの内側で充填部AfとなるビードBを、点線で示すビード形成軌道F1~F3に沿って形成する。その後、ビード形成軌道F4に沿ってビードBを形成する。なお、充填部Af内のビードBの形成順は任意である。
【0027】
図3は、欠陥判定装置130の概略的な機能ブロック図である。
溶接制御装置120を構成する欠陥判定装置130は、学習装置140と、判定部151と、溶接計画修正部152とを備える。学習装置140は、データ取得部(情報取得部)141と、学習部142と、推定モデル部(推定モデル)143とを有する。判定部151及び溶接計画修正部152は、それぞれ学習装置140の推定モデル部143に接続されている。
【0028】
学習装置140では、ベースプレートP上に複数のビードBが層状に重ねられた積層造形体の内部に発生する未溶着欠陥の欠陥サイズを学習し、入力された情報に応じた欠陥サイズを出力する推定モデルを生成する装置である。データ取得部141は、ビードBを積層する際の溶接条件、ビードBを積層する前の積層造形体の表面形状のうちの谷部を形成する狭隘部に関する寸法、狭隘部とビードBの狙い位置との位置関係、及び未溶着欠陥の欠陥サイズ、に関する情報を取得する。なお、狭隘部とビードBの狙い位置との位置関係としては、例えば、狭隘部の中心等の代表位置と、次に形成するビードBの狙い位置との差分距離が挙げられるが、これに限らない。学習部142は、溶接条件、狭隘部に関する寸法、及び位置関係と、欠陥サイズとの関係を学習して推定モデルを生成する。推定モデル部143は、学習部142によって生成される推定モデルを登録する。
【0029】
判定部151は、推定モデル部143に登録されている推定モデルに対して、狭隘部に関する寸法情報と位置関係とを含む溶接計画の情報を入力する。そして、この推定モデル部143から出力される未溶着欠陥の欠陥サイズの推定値と、予め定めた許容限界となる基準値とを比較する。
【0030】
溶接計画修正部152は、欠陥サイズの推定値が基準値を超えると判定部151が判定した場合に、溶接条件と位置関係の少なくともいずれかを修正して修正溶接計画を作成する。そして、この修正溶接計画を推定モデル部143へ送信する。
【0031】
<学習データの生成>
次に、学習データの生成のプロセスについて説明する。
(学習データの準備)
図4は、溶接トーチ27による狭隘部NへのビードBの形成状況を示す説明図である。
まず、学習装置140のデータ取得部141に取得させる学習データを準備する。具体的には、
図4に示すように、学習データとして、狭隘部Nを埋めるビードBの溶接条件、前層におけるビードBの狭隘部Nの形状の特徴量、溶接トーチ27と狭隘部Nの水平距離δを準備する。狭隘部Nを埋めるビードBの溶接条件としては、ビードBの積層時に設定する溶接電圧や溶接電流、溶接速度や溶加材Mの送給速度、溶接トーチ27の傾き角度であるトーチ角α、ビードBの体積、ビードBの長手方向に直交する断面の断面積などが挙げられる。ここでのトーチ角αは、ビードBの長手方向に直交する断面内における、長手方向に直交する方向に傾斜する傾き角であるが、ビードBの長手方向と平行な断面において、長手方向に傾斜する傾き角(トーチ前進角、トーチ後退角)であってもよい。
【0032】
図5は、既設ビードBのビード形成方向に直交する断面における特徴量W,U,Hの例を示す説明図である。
前層におけるビードBの狭隘部Nとは、ベースプレート又は下層の既設ビード間に谷状に形成される部位を指し、狭隘部Nの形状の特徴量として、少なくともビード間隔W、底部間隔U及び平均深さHの3つの特徴量を抽出する。つまり、ベースプレート又は下層の既設ビードの表面を表す下地面FL上に、互いに隣り合う一対の既設ビードBが形成されている場合、前述した底部間隔U及びビード間隔Wに加え、下地面FLからそれぞれのビードBの頂部Ptまでの平均深さHを特徴量とする。平均深さHは、積層方向に関して、一対の既設ビードBにより形成される谷部の谷底までの谷深さに相当する。
【0033】
図6及び
図7は、
図5に示す既設ビードBの間隔を変化させた様子を示す説明図である。
図6に示すように、既設ビードBが互いに接する位置まで接近した場合、底部間隔Uは0となり、平均深さHは、点線で示す三角形で表されるビード間の谷深さとなる。更に
図7に示すように、既設ビードB同士が互いに重なる場合には、底部間隔Uは0であり、平均深さHは、
図5、
図6に示す場合よりも浅くなる。このように、特徴量として底部間隔Uと、ビード間隔Wと、平均深さHとの組合せを含むことで、谷部の形状を容易に特定できる。
【0034】
これらの特徴量W,U,Hは、実際に計測して得られる形状プロファイルに対してビードの形状を模擬するモデル関数を当てはめてから算出してもよい。狭隘部Nの形状を計測するセンサとしては、本例の形状検出部21のように、非接触式であると好ましく、さらに溶接トーチ27の近傍に取り付けてビードBの表面上を走査しつつ計測するものであることがさらに好ましい。
【0035】
溶接トーチ27と狭隘部Nとの水平距離δについては、狭隘部Nの代表位置と次にビードBを盛る中心位置との差分距離として算出する。狭隘部Nの代表位置は、例えば深さが最小となる位置あるいは特徴量Uで評価される部位の中間点としてもよい。
【0036】
図8及び
図9は、欠陥Cが形成された積層試験体の断面図である。
欠陥サイズのデータとしては、
図8及び
図9に示すビードの積層試験体を切断した後に、この切断面を直接観察して測定したものを用いることができる。また、欠陥サイズのデータとしては、ビードの積層試験体をCT装置によって観察して欠陥サイズを求めたデータでもよい。
【0037】
ここで、ビードを形成した際に、このビードには、その側縁部の根元部分に凹部が形成され易く、また、側縁部の根元部分に異物が溜まり易い。このため、
図8に示すように、一方のビードB1の側縁部に重なるように他方のビードB2を隣接させて形成した際に、ビードB1の側縁部の根元部分にアークが十分接触しないことでわずかに隙間が生じて欠陥(未溶着欠陥)Cを生じることがある。また、
図9に示すように、隙間をあけて一対のビードB1,B2を形成した際にも、これらのビードB1,B2同士の間の谷部を埋めるようにビードB3を形成しても、アークが底部に十分接触しないことで、既設ビードB1,B2の側縁部の根元部分の凹部に未溶着欠陥Cを生じることがある。
【0038】
なお、欠陥サイズは、ビードBの長手方向に直交する断面における断面積又は長さを含むサイズであり、例えば、欠陥Cの形状を真円で近似した際の直径や近似された円の断面積、あるいは観察される欠陥Cの面積、欠陥の形状を楕円近似した際の長軸長さや短軸長さなどの指標を含む。
【0039】
(推定モデルの生成)
準備した学習データを学習装置140のデータ取得部141へ入力すると、学習部142は、学習データに基づいて、学習データと欠陥サイズとの関係からなる推定モデルを生成する。この学習部142によって生成された推定モデルは、推定モデル部143へ送信され、この推定モデル部143に登録される。学習部142における推定モデルを生成する手段としては、決定木、線形回帰、ランダムフォレスト、サポートベクターマシン、ガウス過程回帰、ニューラルネットワーク等の公知の手段が挙げられる。このとき、欠陥サイズの他に、特定のサイズの欠陥が生じる確率や特定の領域(面積や体積)あたりに生じる欠陥の発生密度なども併せて学習させてもよい。
【0040】
<溶接条件の決定>
次に、溶接制御装置120における溶接条件の決定のプロセスについて説明する。
図10は、溶接条件を決定する手順を示すフローチャートである。
【0041】
予め作成されたビード形成軌道に沿って溶接トーチ27を移動させることにより、この溶接トーチ27に並設させた形状検出部21によって既設のビードB及びビード形成予定面Gの表面形状を計測する。これにより、ビード形成予定面Gにおける狭隘部Nの形状を計測する(S1)。
【0042】
測定したビード形成予定面Gにおける狭隘部Nの形状に基づいて、狭隘部Nに関する特徴量W,U,Hを算出する(S2)。この特徴量W,U,Hの算出は、狭隘部Nを模擬したモデル関数を予め用意してフィッティングしてもよい。なお、計測で得られた形状プロファイルについて、モデル関数でフィッティングする前に平滑化処理などを行ってもよい。
【0043】
算出した特徴量W,U,H、ビード形成予定面Gに形成するビードBの溶接条件及び溶接トーチ27の狙い位置に関する情報を推定モデル部143に入力し、欠陥サイズの推定値を求める(S3)。
【0044】
判定部151が、推定モデル部143によって求めた欠陥サイズの推定値と予め設定した許容値とを比較し、推定値が許容値以下であるか否かを判定する(S4)。この許容値は、許容される欠陥のサイズである許容限界サイズの値である。なお、許容限界サイズは造形対象とする造形物や造形に使用する材料ごとに設定してもよい。
【0045】
判定部151における判定によって欠陥サイズの推定値が許容値を超える場合は(S4:No)、溶接計画修正部152によって、欠陥サイズが許容限界サイズ以下に抑えられる条件が探索される(S5)。例えば、溶接計画修正部152は、ビード形成予定面Gに形成するビードBの溶接条件や溶接トーチ27の狙い位置などの溶接計画を修正し、修正後の溶接計画を推定モデル部143へ送信する。これにより、欠陥サイズの推定値が再度求められ(S3)、再度求められた欠陥サイズの推定値と許容値とが判定部151によって比較されて判定される。そして、この溶接計画修正部152による溶接計画の修正、推定モデル部143による欠陥サイズの推定及び判定部151による判定を繰り返す。
【0046】
判定部151における判定によって欠陥サイズの推定値が許容値以下である場合は(S4:Yes)、推定値を求めるために推定モデル部143に入力したビード形成予定面Gに形成するビードBの溶接条件及び溶接トーチ27の狙い位置等を溶接計画として決定する(S6)。その後、この溶接計画によってビード形成予定面GにビードBを形成する。
【0047】
以上説明した本溶接システム100によれば、溶接条件、狭隘部に関する寸法、及び位置関係と、欠陥サイズとの関係を学習して推定モデルを生成する。このとき、狭隘部Nに関する寸法として、下地となる狭隘部Nの谷部の底部間隔(底幅)U、谷部を形成する谷部両脇の頂部同士の間隔を表す開口幅(ビード間隔)W、頂部から谷部の底までの谷深さHの少なくともいずれかを用いる。このように、下地となる狭隘部Nの形状とその上に積層するビードBの条件をベースに機械学習させることで、データ数が比較的少なくても、欠陥サイズを精度よく予測できる。
【0048】
また、溶加材Mの送給速度、溶接速度、溶接電流、溶接電圧、溶接トーチ27のトーチ角α、ビードBの体積、ビードBの長手方向に直交する断面の断面積の少なくともいずれかを含む溶接条件を用いて推定モデルを生成することで、欠陥サイズを精度よく予測できる。特に、ビードBの体積または入熱量に関する指標を学習することで、前層の狭隘部Nを充填しきれるか否かの関係を機械学習に取り入れることができる。
【0049】
しかも、欠陥Cの欠陥サイズの推定値と、予め定めた許容限界となる基準値とを比較することで、欠陥Cの発生が予見されても、推定される欠陥Cが無害な欠陥か有害な欠陥か判定して、不必要な欠陥対応を抑制できる。
【0050】
そして、溶接計画の修正、推定値の算出及び推定値の判定を繰り返すことで、欠陥Cの抑制に適した溶接条件や溶接トーチ27の狙い位置を抽出できる。
【0051】
これにより、欠陥Cの抑制に適した溶接条件や溶接トーチの狙い位置によってアーク溶接を実行させることができ、狭隘部Nにおける未溶着欠陥等の欠陥Cを抑制しつつ造形物を造形できる。
【0052】
なお、上記構成の学習装置140において、学習部142が、欠陥サイズに加え、欠陥サイズの分散を推定モデル部143に登録し、推定モデル部143が、入力される情報に応じて、この情報に対応した欠陥サイズとその分散値とを出力可能としてもよい。
【0053】
ここで、
図11は、欠陥サイズの実測値と予測値との関係を示すグラフである。なお、
図11では、欠陥サイズを、欠陥の形状を真円で近似した際の直径としている。欠陥サイズの予測値(欠陥相当直径予測値)は、欠陥サイズの実測値(欠陥相当直径実測値)に対してある程度のばらつきが生じ、このばらつきは、狭隘部Nの深さが2mm~4mmの範囲で減少する。つまり、欠陥サイズは、特に、狭隘部Nの深さが、2mm~4mmの場合に高い精度で予測可能である。
【0054】
学習部142が、欠陥サイズに加え、欠陥サイズの分散を推定モデル部143に登録し、推定モデル部143が、欠陥サイズとその分散値とを出力可能とすることにより、欠陥サイズに応じて生じるばらつきを考慮した欠陥Cの予測が可能となる。
【0055】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせること、及び明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0056】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 母材上に複数のビードが層状に重ねられた積層造形体の内部に発生する未溶着欠陥の欠陥サイズを学習し、入力された情報に応じた前記欠陥サイズを出力する推定モデルを生成する学習装置であって、
前記ビードを積層する際の溶接条件、前記ビードを積層する前の前記積層造形体の表面形状のうち谷部を形成する狭隘部に関する寸法、前記狭隘部と前記ビードの狙い位置との位置関係、及び前記未溶着欠陥の欠陥サイズ、に関する情報を取得する情報取得部と、
前記溶接条件、前記狭隘部に関する寸法、及び前記位置関係と、前記欠陥サイズとの関係を学習して前記推定モデルを生成する学習部を備え、
前記狭隘部に関する寸法は、前記谷部の底幅、前記谷部を形成する谷部両脇の頂部同士の間隔を表す開口幅、前記頂部から前記谷部の底までの谷深さの少なくともいずれかを含む、学習装置。
この学習装置によれば、溶接条件、狭隘部に関する寸法、及び位置関係と、欠陥サイズとの関係を学習して推定モデルを生成する。このとき、狭隘部に関する寸法として、下地となる狭隘部の谷部の底幅、谷部を形成する谷部両脇の頂部同士の間隔を表す開口幅、頂部から谷部の底までの谷深さの少なくともいずれかを用いる。このように、下地となる狭隘部の形状とその上に積層するビードの条件をベースに機械学習させることで、データ数が比較的少なくても、欠陥サイズを精度よく予測できる。
【0057】
(2) 前記溶接条件は、溶接ワイヤの送給速度、溶接速度、溶接電流、溶接電圧、溶接トーチのトーチ角、前記ビードの体積、前記ビードの長手方向に直交する断面の断面積の少なくともいずれかを含む、(1)に記載の学習装置。
この学習装置によれば、溶接ワイヤの送給速度、溶接速度、溶接電流、溶接電圧、溶接トーチのトーチ角、ビードの体積、ビードの長手方向に直交する断面の断面積の少なくともいずれかを含む溶接条件を用いて推定モデルを生成することで、欠陥サイズを精度よく予測できる。特に、ビードの体積または入熱量に関する指標を学習することで、前層の狭隘部を充填しきれるか否かの関係を機械学習に取り入れることができる。
【0058】
(3) 前記位置関係は、前記狭隘部の代表位置と、次に形成する前記ビードの狙い位置との差分距離を含む、(1)又は(2)に記載の学習装置。
この学習装置によれば、狭隘部の代表位置と、次に形成する前記ビードの狙い位置との差分距離を含む位置関係を用いて精度の高い推定モデルを生成できる。
【0059】
(4) 前記欠陥サイズは、前記ビードの長手方向に直交する断面における断面積又は長さを含む、(1)~(3)のいずれか1つに記載の学習装置。
この学習装置によれば、欠陥サイズは、前記ビードの長手方向に直交する断面における断面積又は長さを含む欠陥サイズを用いて精度の高い推定モデルを生成できる。
【0060】
(5) 前記学習部は、前記溶接条件、前記狭隘部に関する寸法、及び前記位置関係に対する前記欠陥サイズに加えて、前記欠陥サイズの分散を前記推定モデルに登録し、
前記推定モデルは、入力される情報に応じて、該情報に対応した前記欠陥サイズとその分散値とを出力可能である、(1)~(4)のいずれか1つに記載の学習装置。
この学習装置によれば、欠陥サイズと併せて分散値を出力させることで、推定の信頼性を判断でき、その信頼性を基に実用上信頼できる推定値の範囲を定めることができる。
【0061】
(6) (1)~(5)のいずれか1つに記載の学習装置と、
前記推定モデルに少なくとも前記狭隘部に関する寸法情報と前記位置関係とを含む溶接計画の情報を入力し、前記推定モデルから出力される前記未溶着欠陥の欠陥サイズの推定値と、予め定めた許容限界となる基準値とを比較する判定部と、
を備える、欠陥判定装置。
この欠陥判定装置によれば、未溶着欠陥の欠陥サイズの推定値と、予め定めた許容限界となる基準値とを比較する判定部を備えることで、欠陥発生が予見されても、推定される欠陥が無害な欠陥か有害な欠陥か判定して、不必要な欠陥対応を抑制できる。
【0062】
(7) 前記判定部が前記基準値を超えると判定した場合に、前記溶接条件と前記位置関係の少なくともいずれかを修正して修正溶接計画を作成する溶接計画修正部を更に備え、
前記推定モデルが出力する前記修正溶接計画の情報に応じた前記欠陥サイズの推定値が前記基準値以下となるまで前記溶接計画修正部による前記溶接計画の修正を繰り返す、(6)に記載の欠陥判定装置。
この欠陥判定装置によれば、溶接計画の修正、推定値の算出及び推定値の判定を繰り返すことで、未溶着欠陥の抑制に適した溶接条件や溶接トーチの狙い位置を抽出できる。
【0063】
(8) 母材上に複数のビードが層状に重ねられた積層造形体の内部に発生する未溶着欠陥の欠陥サイズを学習し、入力された情報に応じた前記欠陥サイズを出力する推定モデルを生成する学習方法であって、
前記ビードを積層する際の溶接条件、前記ビードを積層する前の前記積層造形体の表面形状のうち谷部を形成する狭隘部に関する寸法、前記狭隘部と前記ビードの狙い位置との位置関係、及び前記未溶着欠陥の欠陥サイズ、に関する情報を取得する工程と、
前記溶接条件、前記狭隘部に関する寸法、及び前記位置関係と、前記欠陥サイズとの関係を学習して前記推定モデルを生成する工程と、
を有し、
前記狭隘部に関する寸法は、前記谷部の底幅、前記谷部を形成する谷部両脇の頂部同士の間隔を表す開口幅、前記頂部から前記谷部の底までの谷深さの少なくともいずれかを含む、学習方法。
この学習方法によれば、溶接条件、狭隘部に関する寸法、及び位置関係と、欠陥サイズとの関係を学習して推定モデルを生成する。このとき、狭隘部に関する寸法として、下地となる狭隘部の谷部の底幅、谷部を形成する谷部両脇の頂部同士の間隔を表す開口幅、頂部から谷部の底までの谷深さの少なくともいずれかを用いる。このように、下地となる狭隘部の形状とその上に積層するビードの条件をベースに機械学習させることで、データ数が比較的少なくても、欠陥サイズを精度よく予測できる。
【0064】
(9) (8)に記載の学習方法によって生成される前記推定モデルに、少なくとも前記狭隘部に関する寸法情報と前記位置関係とを含む溶接計画の情報を入力し、前記推定モデルから出力される前記未溶着欠陥の欠陥サイズの推定値と、予め定めた許容限界となる基準値とを比較して、前記推定値が前記基準値を超える場合に前記未溶着欠陥が生じると判定する、欠陥判定方法。
この欠陥判定方法によれば、未溶着欠陥の欠陥サイズの推定値と、予め定めた許容限界となる基準値とを比較することで、欠陥発生が予見されても、推定される欠陥が無害な欠陥か有害な欠陥か判定して、不必要な欠陥対応を抑制できる。
【0065】
(10) 前記基準値を超えると判定した場合に、前記溶接条件と前記位置関係の少なくともいずれかを修正して修正溶接計画を作成し、
前記修正溶接計画を前記推定モデルに入力し、
前記推定モデルが出力する前記修正溶接計画の情報に応じた前記欠陥サイズの推定値が前記基準値以下となるまで前記溶接計画の修正を繰り返す、(9)に記載の欠陥判定方法。
この欠陥判定方法によれば、溶接計画の修正、推定値の算出及び推定値の判定を繰り返すことで、未溶着欠陥の抑制に適した溶接条件や溶接トーチの狙い位置を抽出できる。
【0066】
(11) (6)又は(7)に記載の欠陥判定装置と、
前記欠陥判定装置により出力された結果に応じてアーク溶接を実行する制御部を備える、溶接制御装置。
この溶接制御装置によれば、未溶着欠陥の抑制に適した溶接条件や溶接トーチの狙い位置によってアーク溶接を実行させることができる。
【0067】
(12) (11)に記載の溶接制御装置と、
アーク溶接を行う溶接ロボットと、
を備える、溶接装置。
この溶接装置によれば、狭隘部における未溶着欠陥等の欠陥を抑制しつつ造形物を造形できる。
【符号の説明】
【0068】
11 制御部
13 溶接ロボット
27 溶接トーチ
100 溶接システム
110 溶接装置
120 溶接制御装置
130 欠陥判定装置
140 学習装置
141 データ取得部(情報取得部)
142 学習部
143 推定モデル部(推定モデル)
151 判定部
152 溶接計画修正部
B,B1,B2,B3 ビード
C 欠陥(未溶着欠陥)
H 谷深さ
M 溶加材(溶接ワイヤ)
N 狭隘部
P ベースプレート(母材)
U 底幅
W 開口幅
α トーチ角
δ 水平距離(差分距離)