IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社テックイデアの特許一覧

特開2023-117894アナログデジタル変換器、イメージセンサ及びアナログデジタル変換方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023117894
(43)【公開日】2023-08-24
(54)【発明の名称】アナログデジタル変換器、イメージセンサ及びアナログデジタル変換方法
(51)【国際特許分類】
   H03M 1/56 20060101AFI20230817BHJP
【FI】
H03M1/56
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022020699
(22)【出願日】2022-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】516205214
【氏名又は名称】株式会社テックイデア
(74)【代理人】
【識別番号】110003753
【氏名又は名称】弁理士法人シエル国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100173646
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 桂子
(72)【発明者】
【氏名】松澤 昭
(72)【発明者】
【氏名】野原 正也
【テーマコード(参考)】
5J022
【Fターム(参考)】
5J022AA09
5J022BA02
5J022CB08
5J022CE05
5J022CF01
(57)【要約】
【課題】広いダイナミックレンジを、低電圧で実現することのできるアナログデジタル変換器、イメージセンサ及びアナログデジタル変換方法を提供する。
【解決手段】比較器120は、被変換アナログ信号の信号電圧としきい値電圧とを比較し、信号電圧がしきい値電圧より大きい場合は、被変換アナログ信号を第1容量Cにサンプリングした後に、第1容量Cに保存された信号電圧と、フルスケールの電圧範囲を上昇又は下降する参照電圧と、の比較を行い、信号電圧が前記しきい値電圧より小さい場合は、比較器120に入力される被変換アナログ信号の信号電圧と、一部の電圧範囲を上昇又は下降する参照電圧と、の比較を行う。カウンタ130等の時間デジタル変換器は比較器120の比較結果に基づいて、クロックによる時間計測を開始及び停止し、計測した時間情報を被変換アナログ信号の変換デジタル信号として出力する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被変換アナログ信号と、時間とともに電圧を上昇又は下降させる参照電圧と、が入力され、前記被変換アナログ信号の信号電圧と前記参照電圧を比較する比較器と、
前記比較器の比較結果に基づいて、クロックによる時間計測を開始及び停止し、計測した時間情報を被変換アナログ信号の変換デジタル信号として出力する時間デジタル変換器と、を備えるアナログデジタル変換器であって、
前記比較器は、前記被変換アナログ信号の信号電圧としきい値電圧とを比較し、前記信号電圧が前記しきい値電圧より大きい場合は、前記被変換アナログ信号を容量にサンプリングした後に、前記容量に保存された前記信号電圧と、フルスケールの電圧範囲を上昇又は下降する前記参照電圧と、の比較を行い、前記信号電圧が前記しきい値電圧より小さい場合は、前記比較器に入力される前記被変換アナログ信号の信号電圧と、一部の電圧範囲を上昇又は下降する前記参照電圧と、の比較を行う
アナログデジタル変換器。
【請求項2】
前記比較器は、
第1入力端、第2入力端、前記第1入力端と前記第2入力端間の反転増幅信号を出力する第1出力端、及び、前記第1入力端と前記第2入力端間の正転増幅信号を出力する第2出力端を有する差動増幅器と、
第1信号入力端と、第2信号入力端と、前記差動増幅器の前記第1入力端と前記第1信号入力端との間に挿入された第1容量と、前記差動増幅器の前記第2入力端と前記第2信号入力端との間に挿入された第2容量と、第1入力端と第1出力端の間に挿入された第1スイッチと、第2入力端と第2出力端の間に挿入された第2スイッチと、を備え、
前記被変換アナログ信号の信号電圧が前記しきい値電圧より大きい場合は、前記第1信号入力端と前記第2信号入力端の双方に前記被変換アナログ信号が入力され、前記第1スイッチ及び第2スイッチを閉じて前記第1容量及び前記第2容量により前記被変換アナログ信号をサンプリングした後に、前記第1スイッチ及び前記第2スイッチを開放して、前記第2信号入力端に前記フルスケールの電圧範囲を上昇又は下降する前記参照電圧が入力されたときの前記信号電圧と前記参照電圧との比較結果を出力し、前記被変換アナログ信号の前記信号電圧が前記しきい値電圧より小さい場合は、前記第1スイッチ及び前記第2スイッチを開放して、前記第1信号入力端に前記被変換アナログ信号が入力され、前記第2信号入力端に前記一部の電圧範囲を上昇又は下降する前記参照電圧が入力されたときの前記信号電圧と前記参照電圧との比較結果を出力する請求項1に記載のアナログデジタル変換器。
【請求項3】
前記比較器は、前記第1の信号入力端と前記第2の信号入力端の双方に基準アナログ信号が入力され、前記第1スイッチ及び前記第2スイッチを閉じて前記第1容量及び前記第2容量により前記基準アナログ信号をサンプリングした後に、前記第1スイッチ及び前記第2スイッチを開放して、前記第2信号入力端に前記一部の電圧範囲を上昇又は下降する前記参照電圧が入力されたときの前記基準アナログ信号の電圧と前記参照電圧との比較結果を出力し、
前記時間デジタル変換器は、前記比較器の出力に基づいて、クロックにより計測した時間情報を変換基準デジタル信号として出力し、
前記時間デジタル変換器が出力した被変換アナログ信号の変換デジタル信号から前記変換基準デジタル信号を差し引いたデジタル信号を出力する減算器をさらに有する請求項2に記載のアナログデジタル変換器。
【請求項4】
前記比較器は、前記基準アナログ信号の電圧と前記参照電圧の比較後に、前記第2信号入力端に基準参照電圧が入力され、前記第1スイッチ及び前記第2スイッチを閉じて前記第2容量により前記基準参照電圧をサンプリングした後に、前記第1スイッチ及び前記第2スイッチを開放して、前記第1信号入力端に前記被変換アナログ信号が入力され、前記第2信号入力端にしきい値電圧が入力されたときの、前記被変換アナログ信号の信号電圧と前記基準アナログ信号の電圧との差電圧と、前記しきい値電圧と前記基準参照電圧との差電圧と、の比較により、前記被変換アナログ信号の前記信号電圧が前記しきい値電圧より大きいか小さいかを判別する請求項3に記載のアナログデジタル変換器。
【請求項5】
前記比較器は、前記基準アナログ信号の電圧と前記参照電圧の比較後に、前記第2信号入力端に基準参照電圧が入力され、前記第1スイッチ及び前記第2スイッチを閉じて前記第2容量により前記基準参照電圧をサンプリングした後に、前記第1スイッチ及び前記第2スイッチを開放して、前記第1信号入力端に前記基準アナログ信号が入力され、前記第2信号入力端に時間とともに前記一部の電圧範囲を上昇又は下降させる前記参照電圧が入力され、前記基準アナログ信号の電圧と前記参照電圧との比較結果を出力し、
前記時間デジタル変換器は、前記比較器の出力に基づいて、時間デジタル変換器により計測した時間情報をリセット期間の変換基準デジタル信号として出力し、
前記時間デジタル変換器が出力した変換デジタル信号から前記変換基準デジタル信号を差し引いたデジタル信号を出力する減算器をさらに有する請求項3に記載のアナログデジタル変換器。
【請求項6】
前記比較器は、前記被変換アナログ信号の信号電圧が前記しきい値電圧より小さい場合に、前記一部の電圧範囲を上昇又は下降する前記参照電圧が複数回入力されたときの前記被変換アナログ信号の信号電圧と前記参照電圧との比較を複数回実行し、
前記時間デジタル変換器は、前記比較器の比較結果に基づいて、複数回クロックにより計測した時間情報を複数記録し、複数の前記時間情報の平均値を変換デジタル信号として出力する請求項1~5のいずれか1項に記載のアナログデジタル変換器。
【請求項7】
前記比較器は、前記一部の電圧範囲を上昇又は下降する前記参照電圧が複数回入力されたときの前記基準アナログ信号の電圧と前記参照電圧との比較を複数回実行し、
前記時間デジタル変換器は、前記比較器の比較結果に基づいて、複数回クロックにより計測した時間情報を複数記録し、複数の前記時間情報の平均値を変換基準デジタル信号として出力する請求項3に記載のアナログデジタル変換器。
【請求項8】
前記比較器は、前記一部の電圧範囲を上昇又は下降する前記参照電圧が複数回入力されたときの前記基準アナログ信号の電圧と前記参照電圧との比較を複数回実行し、
前記時間デジタル変換器は、前記比較器の比較結果に基づいて、複数回クロックにより計測した時間情報を複数記録し、複数の前記時間情報の平均値をリセット期間の前記変換基準デジタル信号として出力する請求項5に記載のアナログデジタル変換器。
【請求項9】
前記第1スイッチ及び前記第2スイッチは、PMOSトランジスタからなり、前記PMOSトランジスタを囲むNウエルの電圧及び前記PMOSトランジスタのゲート電圧を、前記差動増幅器の電源電圧より高く設定した請求項2~5のいずれか1項に記載のアナログデジタル変換器。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載のアナログデジタル変換器を有するイメージセンサ。
【請求項11】
被変換アナログ信号と、時間とともに電圧を上昇又は下降させる参照電圧と、が入力され、前記被変換アナログ信号の信号電圧と前記参照電圧を比較する比較ステップと、
前記比較ステップの比較結果に基づいて、クロックによる時間計測を開始及び停止し、計測した時間情報を変換デジタル信号として出力する計測ステップと、を有するアナログデジタル変換方法であって、
前記比較ステップは、前記被変換アナログ信号の信号電圧としきい値電圧とを比較し、前記信号電圧が前記しきい値電圧より大きい場合は、前記被変換アナログ信号を容量にサンプリングした後に、前記容量に保存された前記信号電圧と、フルスケールの電圧範囲を上昇又は下降する前記参照電圧と、の比較を行い、前記信号電圧が前記しきい値電圧より小さい場合は、入力される前記被変換アナログ信号の前記信号電圧と、一部の電圧範囲を上昇又は下降する前記参照電圧と、の比較を行う
アナログデジタル変換方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アナログデジタル変換器、それを用いたイメージセンサ及びアナログデジタル変換方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電圧情報を時間情報に変換し、時間を計測することでアナログデジタル(Analog-to-Digital:A/D)変換を行う時間領域A/D変換器がある。最も簡単な構成の時間領域A/D変換器として図9に示す積分型A/D変換器があり、主としてCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor:相補性金属酸化膜半導体)イメージセンサのコラムADC(Column Analog-to-Digital Convertor)として用いられている(例えば、特許文献1及び非特許文献1参照)。
【0003】
図9において、時間とともに電圧がリニアに変化するランプ信号が参照電圧となり、入力信号電圧VSIGは、比較器210で参照電圧と比較される。比較器210の出力はクロック数をカウントするカウンタの停止信号となる。参照電圧が入力信号電圧VSIGよりも低い電圧になったときに比較器210から停止信号が出力され、カウンタを停止させる。このカウンタ等の時間・デジタル変換器220の出力が変換デジタル信号となりA/D変換が行われる。この積分型A/D変換器は回路が単純で設計しやすく、原理上DNL(Differential Nonlinearity:微分非直線性)が極めて良好であるのでCMOSイメージセンサのコラムADCとして大量に用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2019/073663号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】S. Yoshihara, et al.、“A 1/1.8-inch 6.4 MPixel 60 frames/s CMOS Image Sensor With Seamless Mode Change,”、IEEE Journal of Solid-State Circuits、2006年12月、Vol.41, No.12、pp.2998-3006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、CMOSイメージセンサに用いられる従来の積分型A/D変換器は、イメージセンサ出力信号に対応した広いダイナミックレンジを確保するために、動作電圧として2.8~3.3Vが使われており、ロジック回路が素子の微細化に伴い1.2V程度の低い電圧を使用して消費電力を下げてきたのに対し、低電圧化が図られていない。
【0007】
このため、比較器の消費電力が下がらない、あるいは、耐圧の低い微細なトランジスタが使用できないためにCMOSイメージセンサに必要な微細な回路ピッチの実現や、面積削減が困難であるという課題がある。
【0008】
そこで、本発明は、広いダイナミックレンジを、低電圧で実現することのできるアナログデジタル変換器、イメージセンサ及びアナログデジタル変換方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前述した課題を解決するため、イメージセンサの画素信号等の被変換アナログ信号をA/D変換する積分型A/D変換器の比較器について検討を行い、被変換アナログ信号をサンプリングしてからA/D変換を行うことで比較器の低電圧化が可能であることを見出した。さらに、被変換アナログ信号をサンプリングすることによって生じるノイズの増大の課題に対して、被変換アナログ信号をその大きさによって判別し、被変換アナログ信号の信号電圧が小さい場合は被変換アナログ信号をサンプリングすることなくそのままA/D変換し、信号電圧が大きい場合には被変換アナログ信号をサンプリングしてからA/D変換することで、ノイズの影響が大きい低レベル信号に対してノイズの増大を防ぎながら比較器の低電圧化が図れることを見出し、本発明に至った。
【0010】
即ち、本発明に係るアナログデジタル変換器は、被変換アナログ信号と、時間とともに電圧を上昇又は下降させる参照電圧と、が入力され、前記被変換アナログ信号の信号電圧と前記参照電圧を比較する比較器と、前記比較器の比較結果に基づいて、クロックによる時間計測を開始及び停止し、計測した時間情報を被変換アナログ信号の変換デジタル信号として出力する時間デジタル変換器と、を備えるアナログデジタル変換器であって、前記比較器は、前記被変換アナログ信号の信号電圧としきい値電圧とを比較し、前記信号電圧が前記しきい値電圧より大きい場合は、前記被変換アナログ信号を容量にサンプリングした後に、前記容量に保存された前記信号電圧と、フルスケールの電圧範囲を上昇又は下降する前記参照電圧と、の比較を行い、前記信号電圧が前記しきい値電圧より小さい場合は、前記比較器に入力される前記被変換アナログ信号の信号電圧と、一部の電圧範囲を上昇又は下降する前記参照電圧と、の比較を行う。
また、本発明に係るイメージセンサは、上記特徴を有するアナログデジタル変換器を備えたものである。
【0011】
また、本発明に係るアナログデジタル変換方法は、被変換アナログ信号と、時間とともに電圧を上昇又は下降させる参照電圧と、が入力され、前記被変換アナログ信号の信号電圧と前記参照電圧を比較する比較ステップと、前記比較ステップの比較結果に基づいて、クロックによる時間計測を開始及び停止し、計測した時間情報を変換デジタル信号として出力する計測ステップと、を有するアナログデジタル変換方法であって、前記比較ステップは、前記被変換アナログ信号の信号電圧としきい値電圧とを比較し、前記信号電圧が前記しきい値電圧より大きい場合は、前記被変換アナログ信号を容量にサンプリングした後に、前記容量に保存された前記信号電圧と、フルスケールの電圧範囲を上昇又は下降する前記参照電圧と、の比較を行い、前記信号電圧が前記しきい値電圧より小さい場合は、入力される前記被変換アナログ信号の前記信号電圧と、一部の電圧範囲を上昇又は下降する前記参照電圧と、の比較を行う。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高レベル信号に対してはサンプリング後にA/D変換を行い、低レベル信号に対してはサンプリングを行わずA/D変換を行うため、ノイズの影響が大きい低レベル信号に対してノイズの増大を防ぎつつ、広いダイナミックレンジを、低電圧で実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の第1の実施形態に係るA/D変換器の構成を示すブロック図である。
図2】積分型A/D変換器を構成する比較器の回路図である。
図3A】第1の実施形態に係る第1動作ステップを表す図である。
図3B】第1の実施形態に係る第2動作ステップを表す図である。
図3C】第1の実施形態に係る第3動作ステップを表す図である。
図3D】第1の実施形態に係る第4動作ステップを表す図である。
図3E】第1の実施形態に係る第5動作ステップを表す図である。
図3F】第1の実施形態に係る第6動作ステップを表す図である。
図3G】第1の実施形態に係る第7動作ステップを表す図である。
図4A】比較例に係る第1の状態を表す図である。
図4B】比較例に係る第2の状態を表す図である。
図5】第1の実施形態における被変換アナログ信号と参照電圧を示す図である。
図6】スイッチの構造を表す図である。
図7】変形例1における被変換アナログ信号と参照電圧を示す図である。
図8A】変形例2に係る第3動作ステップを表す図である。
図8B】変形例2に係る追加ステップを表す図である。
図9】従来の積分型A/D変換器の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について、添付の図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0015】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態に係るアナログデジタル変換器(以下、アナログデジタル変換をA/D変換と記す)100について説明する。A/D変換器100は、イメージセンサ等に用いられる積分型A/D変換器である。
【0016】
[A/D変換器の構成]
図1は本実施形態に係るA/D変換器100のブロック図である。A/D変換器100の比較器に用いられる差動増幅器110は、第1入力端111と、第2入力端112と、第1出力端113と、第2出力端114と、を有する。第1出力端113は、第1入力端111と第2入力端112の間の反転増幅信号を出力し、第2出力端114は、第1入力端111と第2入力端112の間の正転増幅信号を出力する。
【0017】
差動増幅器110の回路構成は、従来の積分型A/D変換器の比較器に用いられる場合の任意の構成でよい。図2は積分型A/D変換器の比較器の回路図の一例である。差動増幅器110は、図2に示すように、差動入力電圧を差動電流に変換するお互いのソースを接続した一対のトランジスタM1a,M1bを有し、電流源として動作するトランジスタMにより一定電流でバイアスされている。さらに、差動増幅器110は、カレントミラーとして動作するトランジスタM2a,M2bを有し、差動電流を差動電圧に変換する。
【0018】
A/D変換器100の比較器120は、図1に示すように、第1信号入力端101と第2信号入力端102を有し、第1信号入力端101は第1容量Cを介して差動増幅器110の第1入力端111と接続され、同様に第2信号入力端102は第2容量Cを介して差動増幅器110の第2入力端112と接続されている。比較器120は、さらに、スイッチS1a(第1スイッチ)とスイッチS1b(第2スイッチ)を有し、第1入力端111と第1出力端113がスイッチS1aで短絡可能に、第2入力端112と第2出力端114がスイッチS1bで短絡可能になっている。スイッチS1a及びスイッチS1bを閉じると、スイッチS1a,S1bの接続端には共通出力電圧Vが発生する。
【0019】
図2に示した回路では第1出力端113の電圧はほぼ一定の電圧Vとなり、時間デジタル変換器の時間計測に用いる比較器120の出力信号は第2出力端114に発生する。この回路では完全な差動出力は得られないが、差動入力信号の極性により第1出力端113から見た第2出力端114の極性が決定されるので、図2に示す回路を、比較器120を構成する差動増幅器110として用いることができる。
【0020】
図1に示すように、本A/D変換器100は時間デジタル変換器として機能するカウンタ130を有する。カウンタ130は、クロック数をカウントし、比較器120の出力に基づいてカウントを開始及び停止し、停止したカウント値がA/D変換値として出力される。なお、カウンタ130に代えて、他の任意の時間デジタル変換器を用いてもよく、比較器120の出力に基づいて時間デジタル変換器がクロックによる時間計測を開始及び停止し、計測した時間情報を、被変換アナログ信号の変換デジタル信号として出力してもよい。本実施形態では、時間デジタル変換器がカウンタ130である場合について説明する。
【0021】
また、A/D変換器100は減算器140を有しており、被変換アナログ信号の変換デジタル信号と基準アナログ信号の変換基準デジタル信号の差分をとり相関二重サンプリング(Correlated Double Sampling:CDS)を行った出力を得ることができる。多数回の変換を行い平均値を取る場合は、さらに平均化回路が追加される。第1容量CにはスイッチS2aが接続され、第2容量CにはスイッチS2b,S3bが接続され、入力電圧を選択できるようになっている。スイッチS2aは必ずしも必須ではないが、スイッチ開閉時のスイッチS2a,S2b,S3bから容量への電荷注入によるオフセット電圧をバランスさせて差動オフセット電圧を抑圧するために用いることが多いので、ここではスイッチS2aを含む構成を記載している。これらスイッチS1a,S1b,S2a,S2b,S3bは比較器120の出力信号を入力とする論理回路150により制御される。なお、スイッチS1a,S1b,S2a,S2b,S3bの制御と、比較器120に入力する信号の切り替えを含むA/D変換器100の制御は、論理回路150又はマイコン等のコンピュータ、あるいはこれらが協働する任意の制御部により実現してもよい。
【0022】
以上説明した構成を有するA/D変換器100の動作について、図3A~Gを用いて各動作ステップ毎に説明する。
【0023】
[第1動作ステップ]
第1動作ステップでは、図3Aに示すように、スイッチS2a,S2bが閉じられ、第1信号入力端101と第2信号入力端102に共通に基準アナログ信号の信号電圧VRSTが入力される。スイッチS1aにより差動増幅器110の第1入力端111と第1出力端113が短絡され、同時にスイッチS1bにより差動増幅器110の第2入力端112と第2出力端114が短絡される。このとき第1容量C、第2容量Cにはともに下記の数式(1)で表される電圧が保存される。
【0024】
【数1】
【0025】
[第2動作ステップ]
第2動作ステップでは、図3Bに示すように、スイッチS1a,S1bが開かれ、スイッチS2bが開かれ、スイッチS3bが閉じられ、第2信号入力端102にフルスケールに対して一部の電圧範囲を上昇又は下降する参照電圧Vが印加される。この時、差動増幅器110の第1入力端111の電圧V及び第2入力端112の電圧Vは、下記の数式(2)で表される電圧になる。
【0026】
【数2】
【0027】
したがって、VとVRSTが同一電圧となったときに、差動増幅器110の出力極性が反転してカウンタ130を停止させることから、基準アナログ信号のA/D変換が行われ、変換基準デジタル信号が得られる。このとき、VRSTの変動幅は小さく、最大でも0.1V程度であり、しかも出力極性が反転するときの差動増幅器110の入力端の電圧はともにVであるので、差動増幅器110の入力端が大きく変動することによる比較器120の電源電圧マージンを大きく取る必要はない。
【0028】
[第3動作ステップ]
第3動作ステップでは、図3Cに示すように、スイッチS2a,S3bが閉じられ,第1信号入力端101に基準アナログ信号の信号電圧VRSTが入力され、第2信号入力端102に基準参照電圧VR0が入力される。スイッチS1aにより差動増幅器110の第1入力端111と第1出力端113が短絡され、同時にスイッチにS1bにより差動増幅器の第2入力端112と第2出力端114が短絡される。このとき第1容量C、第2容量Cには、下記の数式(3)で表される電圧が保持される。
【0029】
【数3】
【0030】
[第4動作ステップ]
第4動作ステップでは、図3Dに示すように、スイッチS1a,S1bが開かれるとともに、第1信号入力端101に被変換アナログ信号の信号電圧VSIGが入力され、第2信号入力端102にしきい値電圧VTHが入力される。この時、差動増幅器110の第1入力端111の電圧V及び第2入力端112の電圧Vは下記の数式(4)で表される電圧になる。
【0031】
【数4】
【0032】
したがって、第1入力端111及び第2入力端112の電圧差V-Vは下記の数式(5)のようになり、VSIG-VRSTとVTH-VR0の大きさの比較が行われる。
【0033】
【数5】
【0034】
このとき、入力される被変換アナログ信号の電圧の大きさが小さく、下記の数式(6)を満たす場合には、第5動作ステップに進み、被変換アナログ信号の電圧の大きさが大きく、下記の数式(6)を満たさない場合には、第6動作ステップに進む。
【0035】
【数6】
【0036】
[第5動作ステップ]
第5動作ステップでは、図3Eに示すように、第2信号入力端102にフルスケールに対して一部の電圧範囲を上昇又は下降する参照電圧Vが入力される。差動増幅器110の第1入力端111の電圧Vと第2入力端112の電圧Vが一致すると差動増幅器110の出力状態が変わり、カウンタ130を停止させて被変換アナログ信号のA/D変換値が得られる。この比較状態で第1入力端111の電圧Vと第2入力端112の電圧Vは、下記の数式(7)のように表される。
【0037】
【数7】
【0038】
減算器140は、電圧VとVの比較により得られた被変換アナログ信号の変換デジタル信号から、第2動作ステップで求めた基準アナログ信号の変換基準デジタル信号を差し引くことで相関二重サンプリング(CDS)されたA/D変換値を得ることができる。
【0039】
[第6動作ステップ]
第6動作ステップでは、図3Fに示すように、スイッチS2a,S2bが閉じられ、第1信号入力端101と第2信号入力端102に共通に被変換アナログ信号が入力される。また、スイッチS1aにより差動増幅器110の第1入力端111と第1出力端113が短絡され、同時にスイッチS1bにより差動増幅器110の第2入力端112と第2出力端114が短絡される。このとき第1容量C、第2容量Cにはともに(VSIG-V)の電圧が保存される。
【0040】
[第7動作ステップ]
第7動作ステップでは、図3Gに示すように、スイッチS1a,S1bが開かれ、第2信号入力端102にフルスケールの電圧範囲を上昇又は下降する参照電圧Vが印加される。このとき、差動増幅器110の第1入力端111の電圧V及び第2入力端112の電圧Vは下記の数式(8)で表される。
【0041】
【数8】
【0042】
したがって、VとVSIGが同一電圧となったときに、差動増幅器110の出力極性が反転してカウンタを停止させることにより被変換アナログ信号のA/D変換値が得られる。減算器140は、被変換アナログ信号の変換デジタル信号から、第2動作ステップで求めた基準アナログ信号の変換基準デジタル信号を差し引くことで相関二重サンプリング(CDS)されたA/D変換値を得ることができる。
【0043】
[比較器の動作電圧]
ここで、本実施形態における比較器120の動作電圧について、比較例を挙げて説明する。比較例として、被変換アナログ信号をサンプリングする機能を有しない場合の動作を図4A,Bに示す。
【0044】
図4Aの第1の状態ではスイッチS1a及びスイッチS1bが閉じられ、信号の基準電圧である画素のリセット信号電圧VRSTと比較器のコモン電圧であるVの差電圧が第1容量Cに保持される。また同様に参照電圧の基準電圧VR0とVの差電圧が第2容量Cに保持される。次に図4Bの第2の状態ではスイッチS1a及びスイッチS1bが開かれ、第1容量Cには画素の信号電圧VSIGが印加され、第2容量Cには参照電圧Vが印加されて比較器の2つの入力端の電圧VとVが一致すると比較器の出力状態が変わり、カウンタが停止する。このときのカウンタの出力値がA/D変換値となる。この比較状態での入力端の電圧VとVは、下記数式(9)で表される。
【0045】
【数9】
【0046】
比較器が正常動作する電圧VとVの条件は、図2に示した比較器回路において、VGSをNMOS(n-channel Metal Oxide Semiconductor)トランジスタのゲート・ソース間電圧、VTNをしきい値電圧、VeffをMOSトランジスタの実効ゲート電圧(Veff=VGS-VTN)としたとき、トランジスタが全て飽和領域で動作する必要があることから、下記の数式(10)を満たす必要がある。
【0047】
【数10】
【0048】
また、|VTP|をPMOS(p-channel Metal Oxide Semiconductor)トランジスタのしきい値電圧としたとき、Vは、下記の数式(11)で表される。
【0049】
【数11】
【0050】
以上の関係から真性の信号電圧ΔVSIGを下記の数式(12)で表したとき、数式(9)(10)より、下記の数式(13)の関係が導かれる。
【0051】
【数12】
【0052】
【数13】
【0053】
CMOSイメージセンサが出力する被変換画素信号の真性の信号電圧ΔVSIGは、通常0V~-1Vであり、VTNは0.4Vであり、Veffは0.2V程度であるので、Vは1.8V以上が必要であり、VTPを0.4Vとすると、式(11)からVDDは2.4Vの電圧が必要であることが分かる。
【0054】
したがって、CMOSイメージセンサのコラムADCの比較器には、これまで2.8V~3.3Vの電圧が使用されており、周辺のロジック回路が素子の微細化に伴い1.2V程度の低い電圧を使用して消費電力を下げてきたのに対し、比較器の低電圧化が図られなかった。
【0055】
次に、本実施形態の動作電圧について説明する。本実施形態において、被変換アナログ信号の電圧がしきい値電圧より小さい場合には、第5動作ステップにおいて、比較状態の第1入力端111の電圧Vと第2入力端112の電圧Vは、前述の数式(7)で表される。このとき、被変換アナログ信号の電圧と、それと比較する参照電圧Vが小さく、下記の数式(14)で表す関係を有する。
【0056】
【数14】
【0057】
ここで、|VTN-VR0|は100mV以下に設定されるので、V,Vは、Vから最大100mV程度下がった電圧となる。
【0058】
また、本実施形態において、被変換アナログ信号の電圧がしきい値電圧より大きい場合には、第7動作ステップにおいて、比較状態の第1入力端111の電圧Vaと第2入力端112の電圧Vは、前述の数式(8)で表されるが、出力極性が反転するときの差動増幅器110の第1入力端111の電圧V及び第2入力端112の電圧Vはともに電圧Vである。したがって、図2に示した差動増幅回路が正常に動作する電圧条件は、下記の式(15)で表される。
【0059】
【数15】
【0060】
ここで、|VTP|=VTN=0.4V、Veff=0.2Vとすると、最低動作電圧VDDminは1.4Vとなる。したがって、上述のサンプリングを行わない比較例の最低動作電圧2.4Vに比べて1.0Vも低い動作電圧で動作するので、消費電力を低減できる他、耐圧が低く、より微細なトランジスタを使用できるので、狭ピッチ化し易く、A/D変換器の面積も小さくできる。
【0061】
また本実施形態では被変換アナログ信号から基準アナログ信号を引いた電圧が小さい時は、第6動作ステップ及び第7動作ステップを経ずに被変換アナログ信号から基準アナログ信号を引いた電圧の変換値を得ることができる。これにより第6動作ステップの被変換アナログ信号のサンプリングにより生じるkT/Cノイズと呼ばれる熱雑音の発生を防ぐことが可能となる。したがってkT/Cノイズが画質に及ぼす影響が強くなる低レベルの信号のA/D変換におけるSNR(Signal to Noise Ratio)劣化を防ぐことができるので、画質を劣化させることなく低電圧化を図ることが可能となる。
【0062】
図5に被変換アナログ信号電圧VSIGと参照電圧Vを示す。基準アナログ信号を入力とするリセット変換後、被変換アナログ信号を入力し、しきい値電圧VTHとの比較を行い、信号変換時には小さな信号に対しては信号のサンプリングを行わずに、限定された一部の電圧範囲で参照電圧Vの掃引を行い、大きな信号に対しては信号のサンプリングを行いフルスケールの参照電圧Vの掃引を行う。これにより、広いダイナミックレンジの被変換アナログ信号に対して、低電圧かつ低ノイズでA/D変換することが可能となる。
【0063】
ところで、本実施形態では比較器120の低電圧化を図ることが可能であるが、スイッチS1a,S1bに課題が生じる場合がある。通常スイッチは図6に示すようにPMOSが使用され、そのウエルは比較器120の電源VDDに接続される。スイッチがオフの状態ではゲート電圧VはVDDになり、PMOSのドレーンもしくはソースのうちどちらか一方はVになり、他方はVになる。第7動作ステップにおいて、Vは式(8)より下記の数式(16)で表される。
【0064】
【数16】
【0065】
ここでVは下記の数式(17)で表されるため、上記の数式(16)は、下記の数式(18)で表される。
【0066】
【数17】
【0067】
【数18】
【0068】
PMOSトランジスタのNウエルとP層のソース・ドレイン端子の電位差は正でなければ寄生ダイオードがオンし、第2容量Cに蓄えられた電荷が変動するので、このような現象を引き起こさないためには、下記の数式(19)が成立する必要がある。
【0069】
【数19】
【0070】
通常の画素信号では、VSIG,Vが下記の数式(20)で表されるため、VSIG=1.0VでVが1.6V以上の場合には、上記の式(19)の条件を満たすことができない。
【0071】
【数20】
【0072】
そこで、スイッチS1a,S1bを構成するPMOSトランジスタのウエル電圧V及びゲート電圧Vを比較器120の電源電圧VDDよりも高く設定することで寄生ダイオードがオンすることを防ぎ、第2容量Cに蓄えられた電荷の変動を抑えることができる。
【0073】
[変形例1]
第5動作ステップにおいて第2信号入力端102に複数回にわたり、一部の電圧範囲で、時間とともに連続的に上昇もしくは下降する参照電圧Vが印加され、差動増幅器110の出力の状態が遷移したタイミングでクロックの時間情報を複数回記録し、その平均値を基準アナログ信号電圧VRSTと被変換アナログ信号電圧VSIGの差電圧のA/D変換値としてもよい。
【0074】
また、第2動作ステップにおいて第2信号入力端102に複数回にわたり、一部の電圧範囲で、時間とともに連続的に上昇もしくは下降する参照電圧Vが印加され、差動増幅器110の出力の状態が遷移したタイミングでクロックの時間情報を複数回記録し、その平均値を基準アナログ信号のA/D変換値としてもよい。さらに、上記の第2動作ステップと第5動作ステップでの平均値に基づくA/D変換を行う動作を合わせて行うことでより低ノイズのA/D変換を行うことができる。
【0075】
図7に被変換アナログ信号電圧VSIGと参照電圧Vを示す。基準アナログ信号を入力とするリセット変換時には参照電圧Vは限られた一部の電圧範囲で複数回電圧掃引を行い、複数回のA/D変換を行う。その後、被変換アナログ信号を入力し、しきい値電圧VTHとの比較を行い、信号変換時には小さな信号に対しては信号のサンプリングを行わずに、限定された一部の電圧範囲で参照電圧Vの掃引を複数回行い、複数回のA/D変換を行う。大きな信号に対しては信号のサンプリングを行い、1回だけフルスケールの参照電圧Vの掃引を行う。これにより低ノイズのA/D変換を行うことができる。
【0076】
[変形例2]
図8A,Bに変形例2の第3動作ステップと追加ステップとを示す。第1の実施形態と同じ図8Aに示す第3動作ステップの後に、図8Bに示す追加ステップとして、スイッチS1a及びスイッチS1bが開放され、第2信号入力端102には参照電圧Vが入力される。このときの第1入力端111の電圧Vaと第2入力端112の電圧Vは、下記の式(21)で表される。
【0077】
【数21】
【0078】
参照電圧Vを掃引して、差動増幅器110の出力の状態が遷移したタイミングでクロックのカウント数等の時間情報を記録しリセット期間の基準アナログ信号のA/D変換値を得る。その後、図3E~Gに示す第5~第7動作ステップを行い、差動増幅器110の出力の状態が遷移したタイミングでクロックの時間情報を記録し、被変換アナログ信号のA/D変換値とし、この値から基準アナログ信号のA/D変換値を引いた値をA/D変換出力とする。
【0079】
これにより、アナログ相関二重サンプリングとデジタル相関サンプリングを同時に行うことができるため、よりノイズの少ない高品質のA/D変換を行うことができる。この場合も変形例1で述べた複数回の参照電圧掃引と複数のA/D変換を行い、その平均値をリセット期間の基準アナログ信号のA/D変換値とすることで、さらに低ノイズのA/D変換を行うことができる。
【符号の説明】
【0080】
100 A/D変換器
101 第1信号入力端
102 第2信号入力端
110 差動増幅器
111 第1入力端
112 第2入力端
113 第1出力端
114 第2出力端
120 比較器
130 カウンタ
140 減算器
150 論理回路
210 比較器
220 時間・デジタル変換器
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図3G
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9