(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023117896
(43)【公開日】2023-08-24
(54)【発明の名称】イオン分析装置
(51)【国際特許分類】
H01J 49/04 20060101AFI20230817BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20230817BHJP
H01J 49/16 20060101ALI20230817BHJP
【FI】
H01J49/04 770
G01N27/62 G
H01J49/04 500
H01J49/16 500
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022020705
(22)【出願日】2022-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋口 佳実
【テーマコード(参考)】
2G041
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041CA02
2G041DA05
2G041DA18
2G041EA04
2G041GA17
2G041GA20
2G041GA23
2G041GA26
(57)【要約】
【課題】試料プローブ内で液体試料が沸騰することを防ぐことができるイオン分析装置を提供する。
【解決手段】質量分析装置(イオン分析装置)(10)は、イオン化室(11)と、イオン化室(11)の壁(111)に固定された、イオン化室(11)内に液体試料を噴霧する試料プローブ(15)と、両端壁(212)及び周壁(211)を有する管状部材(21)、管状部材(21)の内部を加熱するヒータ(25)、管状部材(21)の周壁(211)又は端壁(212)に設けられたガス流入口(22)及びガス流出口(23)、並びに一端がガス流出口(23)に接続され他端がイオン化室(11)内に挿入されたガス流出管(24)を有するガス加熱器(20)と、ガス加熱器(20)をイオン化室(11)の壁に固定する固定具(26)と、固定具(26)を冷却する冷却部(28)とを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン化室と、
前記イオン化室の壁に固定された、該イオン化室内に液体試料を噴霧する試料プローブと、
両端壁及び周壁を有する管状部材と、前記管状部材の内部を加熱するヒータと、前記管状部材の前記周壁又は前記端壁に設けられたガス流入口及びガス流出口と、一端が前記ガス流出口に接続され他端が前記イオン化室内に挿入されたガス流出管とを有するガス加熱器と、
前記ガス加熱器を前記イオン化室の壁に固定する固定具と、
前記固定具を冷却する冷却部と
を備えるイオン分析装置。
【請求項2】
前記冷却部が、一端が前記ガス流入口に接続されたガス流入管を有し、前記固定具が該ガス流入管と熱的に接触している、請求項1に記載のイオン分析装置。
【請求項3】
前記固定具が金属製である、請求項1又は2に記載のイオン分析装置。
【請求項4】
前記固定具が、前記ガス流出管が通過し該ガス流出管の外径よりも径が大きいガス流出管通過孔を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載のイオン分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析装置やイオン移動度分析装置等のイオン分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフと組み合わせて用いられる質量分析装置は一般に、該液体クロマトグラフのカラムから溶出してきた液体試料中の成分を略大気圧雰囲気の下でイオン化するイオン化室を有する。イオン化室には、液体試料を噴霧するためのネブライザガスと共に、噴霧された液体試料からの溶媒の気化(脱溶媒)を促進するために、高温(例えば400℃程度)に加熱されたヒーティングガスが導入される。
【0003】
特許文献1には、両端壁及び周壁を有する管状部材と、管状部材の内部を加熱するヒータと、管状部材の周壁又は端壁に設けられたガス流入口及びガス流出口と、一端がガス流出口に接続され他端がイオン化室に挿入されたガス流出管(同文献では「第2管状部材」と記載)とを有するガス加熱器を備えたイオン分析装置が記載されている。このガス加熱器では、ヒータで管状部材の内部を加熱しつつガス流入口からガスを導入し、管状部材の内部で加熱されたガス(ヒーティングガス)をガス流出口からガス流出管を通してイオン化室に導入する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のイオン分析装置では、ネブライザガスと共にイオン化室内に噴霧された液体試料の近傍の所定の位置にヒーティングガスを導入する必要がある。これら噴霧された液体試料とヒーティングガスの位置関係がずれないように、液体試料を噴霧する試料プローブとガス加熱器は共にイオン化室の壁に固定される。このような構成では、ヒータによってガスのみならずガス加熱器の管状部材も加熱されることから、管状部材の熱が、それが取りつけられるイオン化室の壁を介して、該壁に固定された試料プローブに伝導し、試料プローブが加熱されてしまう。これにより、試料プローブ内の液体試料が沸騰してイオン室内に間欠的に噴出し、液体試料に含まれる成分の量の多寡とは無関係に検出信号の強度が時間変化してしまう。
【0006】
ここまでは質量分析装置を例に説明したが、液体試料をイオン化して分析を行う、イオン移動度分析装置等の他のイオン分析装置においても同様の問題が生じる。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、試料プローブ内で液体試料が沸騰することを防ぐことができるイオン分析装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために成された本発明に係るイオン分析装置は、
イオン化室と、
前記イオン化室の壁に固定された、該イオン化室内に液体試料を噴霧する試料プローブと、
両端壁及び周壁を有する管状部材と、前記管状部材の内部を加熱するヒータと、前記管状部材の前記周壁又は前記端壁に設けられたガス流入口及びガス流出口と、一端が前記ガス流出口に接続され他端が前記イオン化室内に挿入されたガス流出管とを有するガス加熱器と、
前記ガス加熱器を前記イオン化室の壁に固定する固定具と、
前記固定具を冷却する冷却部と
を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るイオン分析装置によれば、ガス加熱器をイオン化室の壁に固定する固定具を冷却部により冷却するため、ガス加熱器の管状部材の熱が固定具及びイオン化室の壁を介して試料プローブに伝導することを抑え、試料プローブ内で液体試料が沸騰することを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に係るイオン分析装置の一実施形態である質量分析装置の概略構成図。
【
図2】本実施形態の質量分析装置が有するガス加熱器の斜視図。
【
図3】本実施形態の質量分析装置が有するガス加熱器の断面図。
【
図4】本実施形態の質量分析装置が有する固定具の斜視図。
【
図5】本実施形態の質量分析装置において、ガス加熱器をイオン化室の壁に取りつけた状態を示す部分拡大斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1~
図5を用いて、本発明に係るイオン分析装置の実施形態を説明する。
【0012】
(1) 本発明に係る質量分析装置(イオン分析装置)の一実施形態の構成
図1に、本実施形態のイオン分析装置である質量分析装置10の概略構成を示す。この質量分析装置10は、略大気圧であるイオン化室11と、真空ポンプにより真空排気された高真空の分析室14と、それらイオン化室11と分析室14との間に段階的に真空度が高められるように設けられた第1中間真空室12及び第2中間真空室13とを備えた多段差動排気系の構成を有している。イオン化室11と第1中間真空室12の間は細径のキャピラリ112を介して連通している。第1中間真空室12と第2中間真空室13との間は、頂部に小孔を有するスキマー123で隔てられている。第1中間真空室12と第2中間真空室13にはそれぞれ、イオンを収束させつつ後段へ輸送するためのイオンガイド121、131が設置されている。分析室14には、四重極マスフィルタ141とイオン検出器142が設置されている。イオン化室11、第1中間真空室12、第2中間真空室13及び分析室14の壁(外壁)は、本実施形態ではアルミニウム製である。
【0013】
イオン化室11の壁111には、試料プローブ(イオン化プローブ)15が固定されている。試料プローブ15は、液体試料が流れる金属製のキャピラリ151と、キャピラリ151の外側に同軸に設けられた管状の部材から成るネブライザガスノズル152とを有する。キャピラリ151及びネブライザガスノズル152の先端付近はイオン化室11内に挿入されている。キャピラリ151には、接地との間に電圧を印加する電源(図示せず)が接続されている。ネブライザガスノズル152にはネブライザガスを供給する第1ガスボンベ153が接続されている。ネブライザガスには、例えば窒素ガスを用いることができる。
【0014】
質量分析装置10はさらに、ガス加熱器20を有する。ガス加熱器20は(上記ネブライザガスとは別の)ガスを加熱してイオン化室11内に供給するものである。以下では、ガス加熱器20で加熱される前のガスを「加熱前ガス」、加熱前ガスがガス加熱器20で加熱された後のガスを「ヒーティングガス」と呼ぶ。本実施形態におけるガス加熱器20は、
図2及び
図3に示すように、円筒形の管状部材21と、2個のガス流入口22と、ガス流出口23と、ガス流出管24と、ヒータ25とを有する。
【0015】
管状部材21は、周壁211と、管状部材21の両端を気密に閉鎖する2枚の端壁212とを有する。周壁211及び端壁212はいずれも、ステンレス鋼製である。2個のガス流入口22は管状部材21の両端付近の周壁211にそれぞれ1個ずつ設けられている。ガス流入口22にはそれぞれ、管状部材21の外側でガス流入管221が接続されている。ガス流出口23は、管状部材21の長手方向中央の周壁211に設けられている。本実施形態では、ガス流出口23の周方向の位置はガス流入口22の周方向の位置から70°ずらしている。
【0016】
ガス流出管24の一端は、管状部材21の外側でガス流出口23に接続されている。ガス流出管24の他端側は、イオン化室11の壁111に設けられた孔を通してイオン化室11内に挿入されている。
【0017】
ヒータ25はニクロム線で構成されており、管状部材21の内径よりも小さい外径を有するセラミックス製のボビン251の周壁の外面に巻回させてコイル状にしたものである。ボビン251には、その内径とほぼ等しい幅を有する板材2511が内部を貫くように設けられており、該板材2511の両端が2個の端壁212の内表面に固定されることによって管状部材21内に保持されている。なお、
図3ではガス流入管221の軸に平行な断面を示しており、板材2511はその板面に対して傾斜した断面で表されている。ヒータ25は、両端壁212にそれぞれ設けられた端子252に接続されており、この端子252を通して電流が供給される。また、管状部材21内には熱電対(
図3の断面内には無いため図示省略)が配置されており、管状部材21の外に設けた端子253(
図2)に接続されている。
【0018】
ガス加熱器20は、固定具26によってイオン化室11の壁111に固定される。固定具26はステンレス鋼製の板材を加工したものであって、イオン化室11の壁111に接触しつつ固定される板状の主部261と、主部261から90°折り曲げられた板状の被冷却部262とを有する(
図2、
図4参照)。
【0019】
主部261には、ガス流出管24が通過する孔であるガス流出管通過孔263が設けられている。なお、ガス流出管24とイオン化室11の壁111が接触していると、ガス流出管24内を流れるヒーティングガスの熱がイオン化室11の壁111に伝導しやすくなる。そのため本実施形態では、ガス流出管通過孔263の縁とガス流出管24の側面が非接触となるように、ガス流出管通過孔263の径をガス流出管24の外径よりも大きくしている。
【0020】
被冷却部262は、本実施形態では互いに分離して2つ設けられている。それら2つの被冷却部262にはそれぞれ、ガス流入管221が通過する孔であって該ガス流入管221の外径と略同一の径を有するガス流入管通過孔265が設けられている。さらに、ガス流入管221の外側には、雄ネジが切られていると共に、該ガス流入管221の外径と略同一の内径を有し雌ネジが切られた押さえ具266が設けられている(なお、
図2ではガス流入管通過孔265は、押さえ具266により隠れているため図示されていない)。押さえ具266は、ガス流入管221にねじ込まれることにより被冷却部262に押しつけられている。このような構造により、固定具26は、ガス流入管通過孔265の縁及び押さえ具266を介して、ガス流入管221内を通過する加熱前ガスにより冷却される。従って、ガス流入管221及び押さえ具266は冷却部28として機能する。
【0021】
ガス流入管221には、加熱前ガスを供給する第2ガスボンベ29(
図1)が接続されている。加熱前ガス(及びそれが加熱されたヒーティングガス)には、例えば乾燥空気や窒素ガスを用いることができる。
【0022】
主部261のうちの一部であってガス流出管通過孔263の周囲には面接触部27が設けられている。面接触部27は、主部261よりも表面が平滑になるように研磨されたステンレス鋼から成り、イオン化室11の壁111に設けられた、ガス流出管24を通過させる孔の周囲にある該壁111の外壁面と面接触する。面接触部27により、ガス流出管通過孔263からイオン化室11内に固体や液体の異物が侵入することを防ぐと共に、ガス流出管通過孔263を通してイオン化室11と外部の間で気体が流出入することを抑えている。なお、ガス流出管24内を通過するヒーティングガスが400℃程度に加熱され、それによってガス流出管24も同程度の温度に加熱されるため、ガス流出管通過孔263の所をOリング等の耐熱性の低いシール材を用いて気密にシールすることはできない。また、イオン化室11は内部が略大気圧であり、外部との間で気体が多少流出入することは許容されるため、気密にシールする必要性もない。
【0023】
固定具26及び面接触部27は共通のネジ271によって管状部材21の周壁211に固定されている。また、固定具26の主部261には、固定具26をイオン化室11の壁111に固定するネジ267(
図5参照)が通過する孔又は切れ込みである4つのネジ通過部264が設けられている。ネジ271を用いて管状部材21を固定具26に固定したうえで、ネジ267を用いて固定具26をイオン化室11の壁111に固定することにより、ガス加熱器20がイオン化室11の壁111に固定される(
図5)。ネジ通過部264の径(孔の場合)及び幅(切れ込みの場合)はネジ267の径よりも大きくなっており、それにより、イオン化室11内におけるガス流出管24の位置を微調整したうえでガス加熱器20を固定することができるようになっている。なお、イオン化室11の壁111にはネジ271の頭に対応する位置に凹部が設けられており、面接触部27とイオン化室11の壁111を面接触させることにネジ271の頭が支障することはない。
【0024】
キャピラリ151には、液体クロマトグラフ30のカラム34の出口が接続されている(
図1)。液体クロマトグラフ30は、カラム34の他に、移動相が貯留された移動相容器31と、移動相を吸引して一定流量(あるいは流速)で送給するポンプ32と、移動相中に所定量の試料原液を注入するインジェクタ33とを備える。カラム34は、試料原液に含まれる成分を時間的に分離するものである。カラム34から流出した、試料原液の成分と移動相から成る液体試料は、キャピラリ151に導入される。また、液体クロマトグラフ30には、インジェクタ33に複数の液体試料を1つずつ導入するオートサンプラ35が接続されている。
【0025】
(2) 本実施形態の質量分析装置の動作
本実施形態の質量分析装置10は、ガス加熱器20及びその周辺の構成要素(固定具26,冷却部28等)を除いて、従来の質量分析装置と同様に動作する。そのため以下では、ガス加熱器20及びその周辺の構成要素の動作を中心に説明し、それ以外の質量分析装置10の構成要素の動作は概略のみを説明する。
【0026】
液体クロマトグラフ30では、従来と同様に試料原液に含まれる成分が時間的に分離された液体試料がカラム34から流出し、試料プローブ15のキャピラリ151に導入される。試料プローブ15では、キャピラリ151の先端から液体試料が放出されると共に、第1ガスボンベ153から供給されるネブライザガスがネブライザガスノズル152の先端から放出されることにより、霧状の液体試料がイオン化室11内に噴霧される。
【0027】
また、第2ガスボンベ29からは常温の加熱前ガスが、ガス流入管221を通してガス加熱器20の管状部材21内に供給される。管状部材21内では、ヒータ25に電流を流すことによってヒータ25から熱が発生し、加熱前ガスが加熱される。管状部材21内で所定の温度(例えば400℃程度)に加熱されたガスは、ヒーティングガスとして、ガス流出管24からイオン化室11内に導入される。
【0028】
このようにヒーティングガスがイオン化室11内に導入されることにより、試料プローブ15からイオン化室11内に噴霧された液体試料の脱溶媒が促進される。それと共に、キャピラリ151と接地の間に電圧が印加されることにより、液体試料からイオンが生成される。こうして溶媒が脱離したイオンは、イオンガイド121、131によって収束しつつ第1中間真空室12及び第2中間真空室13を通過し、分析室14に導入される。分析室14では、四重極マスフィルタ141によって、特定の質量電荷比を有するイオンのみを通過させるか、又は通過させるイオンの質量電荷比を所定の範囲内で走査し、四重極マスフィルタ141を通過したイオンをイオン検出器142で検出する。
【0029】
ここでガス加熱器20では、管状部材21内のガスが加熱されるのに伴い、管状部材21自体も加熱される。仮に、このように加熱された管状部材21から固定具26及びイオン化室11の壁111を介して試料プローブ15に熱が伝導すると、試料プローブ15内の液体試料が沸騰してしまい、それによって試料プローブ15から液体試料が間欠的に噴出してしまうため、検出信号が不安定になってしまう。しかし、本実施形態では、冷却部28であるガス流入管221及び押さえ具266が固定具26の被冷却部262と熱的に接触しているため、ガス流入管221内を流れる加熱前ガスによって固定具26が冷却される。そのため、ガス加熱器20の管状部材21の熱によって試料プローブ15が加熱されること、ひいては試料プローブ15内の液体試料が沸騰することを抑えることができる。また、固定具26の熱は加熱前ガスに回収され、加熱前ガスを加熱してヒーティングガスを得ることに寄与するため、熱の利用効率を高くすることができる。
【0030】
なお、固定具26を介した熱の伝導を抑えるという点だけを考慮すると、固定具26に断熱性の高い材料(断熱材)から成るものを用いることも考えられる。しかしながら、断熱材は一般に金属よりも脆いため、固定具26の形状に加工し難いうえに、質量分析装置10を長期間使用している間に断熱材の一部が崩れて微細な滓となり、イオン化室11の壁111に設けられた孔とガス流出管24との隙間からイオン化室11内に侵入してしまうおそれがある。また、断熱材は一般に金属よりも柔らかいため、断熱材から成る固定具を用いるとイオン化室11内でガス流出管24の位置や向きが時間と共に変化し、それによって、イオン化室11内に導入されたヒーティングガスと液体試料の位置関係がずれてしまい、適切に脱溶媒することができなくなってしまう。そのため、固定具26には、長期間使用しても崩れることがなく且つ硬い材料である金属を用いることが好ましい。そして、金属は一般に熱が伝導し易いため、金属製の固定具26は本実施形態のように冷却することが好ましい。
【0031】
(3) 変形例
本発明は上記実施形態には限定されず、種々の変形が可能である。
【0032】
例えば、上記実施形態ではガス流入管221と固定具26を熱的に接触させることにより、ガス流入管221内を流れる加熱前ガスを冷媒として用いたが、その代わりに、加熱前ガスとは別の液体(例えば水)又は気体(例えば代替フロンガス)が流れる管を固定具26に熱的に接触させるようにしてもよい。あるいは、固定具26を固体の熱浴に熱的に接触させるようにしてもよい。
【0033】
固定具26の形状は上記実施形態のものには限定されず、ガス加熱器20をイオン化室11の壁111に固定できるのであれば任意の形状とすることができる。また、上記実施形態ではガス加熱器20を1個の固定具26で固定したが、2個以上の固定具を用い、それら2個以上の固定具をそれぞれ冷却部で冷却するようにしてもよい。
【0034】
ガス加熱器20の構成は上記実施形態のものには限定されない。例えば、上記実施形態ではガス流入口22とガス流出口23を管状部材21の周方向に70°ずらして配置したが、それら両者を周方向に180°あるいはそれら以外の角度にずらして配置してもよい。管状部材21の長手方向に関するガス流入口22及びガス流出口23の位置も上記実施形態の例には限定されない。また、ガス流入口22及び/又はガス流出口23を管状部材21の端壁212に設けてもよい。ガス流入口22の個数は上記実施形態における2個には限定されず、1個又は3個以上であってもよい。さらに、ヒータ25は、上記実施形態では管状部材21の内部の空間に設けたが、管状部材21の壁内や管状部材21の外側に設けてもよい。また、ヒータ25は上記実施形態におけるニクロム線から成るものには限定されず、管状部材21の内部の空間を加熱するものであれば任意のヒータを用いることができる。管状部材21の材料は上記実施形態におけるステンレス鋼には限定されず、管状部材21内のガスの温度に対する耐性を有する材料であれば任意の材料を用いることができる。但し、固定具26と同様に、長期間使用している間に崩れることがない金属材料を管状部材21の材料に用いることが好ましい。
【0035】
また、質量分析装置の構成や、液体クロマトグラフの構成も上記実施形態におけるものには限定されず、適宜変形が可能である。あるいは、液体クロマトグラフと併用しない質量分析装置にも本発明を適用することができる。さらに、イオン移動度分析装置等の、質量分析装置以外のイオン分析装置にも本発明を適用することができる。
【0036】
[態様]
上述した例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0037】
(第1項)
第1項に係るイオン分析装置は、
イオン化室と、
前記イオン化室の壁に固定された、該イオン化室内に液体試料を噴霧する試料プローブと、
両端壁及び周壁を有する管状部材と、前記管状部材の内部を加熱するヒータと、前記管状部材の前記周壁又は前記端壁に設けられたガス流入口及びガス流出口と、一端が前記ガス流出口に接続され他端が前記イオン化室内に挿入されたガス流出管とを有するガス加熱器と、
前記ガス加熱器を前記イオン化室の壁に固定する固定具と、
前記固定具を冷却する冷却部と
を備える。
【0038】
第1項に係るイオン分析装置によれば、ガス加熱器をイオン化室の壁に固定する固定具を冷却部により冷却するため、ガス加熱器の管状部材の熱が固定具及びイオン化室の壁を介して試料プローブに伝導することを抑え、試料プローブ内で液体試料が沸騰することを防ぐことができる。
【0039】
(第2項)
第2項に係るイオン分析装置は、第1項に係るイオン分析装置において、前記冷却部が、一端が前記ガス流入口に接続されたガス流入管を有し、前記固定具が該ガス流入管と熱的に接触している。
【0040】
第2項に係るイオン分析装置によれば、固定具がガス流入管と熱的に接触しているため、ガス流入管内を流れる加熱前ガスによって固定具が冷却される。また、固定具の熱が加熱前ガスに回収され、加熱前ガスを加熱してヒーティングガスを得ることに寄与するため、熱の利用効率を高くすることができる。
【0041】
(第3項)
第3項に係るイオン分析装置は、第1項又は第2項に係るイオン分析装置において、前記固定具が金属製である。
【0042】
第3項に係るイオン分析装置によれば、固定具が金属製であるため、長期間使用している間に崩れて滓を発生させることがなく、そのような滓が侵入してイオン化室内を汚染させることがない。また、金属製の固定具は変形し難いため、イオン化室においてガス流出管の位置がずれ難く、試料プローブから噴霧される液体試料とガス流出管から供給されるヒーティングガスの位置関係がずれることを抑えることができる。
【0043】
(第4項)
第4項に係るイオン分析装置は、第1項~第3項のいずれか1項に係るイオン分析装置において、前記固定具が、前記ガス流出管が通過し該ガス流出管の外径よりも径が大きいガス流出管通過孔を有する。
【0044】
第4項に係るイオン分析装置によれば、ガス流出管の外径よりもガス流出管通過孔の径の方が大きいため、ガス流出管の側面とガス流出管通過孔の縁を接触させることなくガス加熱器を固定具でイオン化室の壁に取り付けることができる。そのため、ガス加熱器の熱がガス流出管から固定具に伝導することを抑えることができる。
【符号の説明】
【0045】
10…質量分析装置
11…イオン化室
111…壁
112…キャピラリ
12…第1中間真空室
121、131…イオンガイド
123…スキマー
13…第2中間真空室
14…分析室
141…四重極マスフィルタ
142…イオン検出器
15…試料プローブ
151…キャピラリ
152…ネブライザガスノズル
153…第1ガスボンベ
20…ガス加熱器
21…管状部材
211…管状部材の周壁
212…管状部材の端壁
22…ガス流入口
221…ガス流入管
23…ガス流出口
24…ガス流出管
25…ヒータ
251…ボビン
2511…ボビンを固定する板材
252…ヒータの端子
253…熱電対の端子
26…固定具
261…固定具の主部
262…固定具の被冷却部
263…ガス流出管通過孔
264…ネジ通過部
265…ガス流入管通過孔
266…押さえ具
267、271…ネジ
27…面接触部
28…冷却部
29…第2ガスボンベ
30…液体クロマトグラフ
31…移動相容器
32…ポンプ
33…インジェクタ
34…カラム
35…オートサンプラ