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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023117932
(43)【公開日】2023-08-24
(54)【発明の名称】光走査装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 26/10 20060101AFI20230817BHJP
   G02B 26/12 20060101ALI20230817BHJP
   F16F 15/32 20060101ALI20230817BHJP
【FI】
G02B26/10 C
G02B26/12
F16F15/32 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022020757
(22)【出願日】2022-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】000006220
【氏名又は名称】ミツミ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】山田 健介
(72)【発明者】
【氏名】西山 隆彦
【テーマコード(参考)】
2H045
【Fターム(参考)】
2H045AA03
2H045BA12
2H045DA44
(57)【要約】
【課題】簡単な構成により回転機構の回転を安定化可能な光走査装置を提供すること。
【解決手段】本光走査装置(120)は、光反射面(501)を有し、第1軸(A1)周りに回転することにより、光反射面(501)により反射された光(L1)を第1軸(A1)と交差する方向に走査させる第1回転機構(5)と、第1回転機構(5)を支持し、第2軸(A2)周りに回転することにより、光(L1)を第2軸(A2)と交差する方向に走査させる第2回転機構(10)と、第2回転機構(10)により支持され、第2回転機構(10)上における第2軸(A2)以外の位置に荷重を付与する第1荷重部材(151)と、第2回転機構(10)上において、第1荷重部材(151)により荷重が付与される位置以外の位置に、高さ可変に取り付けられる複数の第2荷重部材(70)と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光反射面を有し、第1軸周りに回転することにより、前記光反射面により反射された光を前記第1軸と交差する方向に走査させる第1回転機構と、
前記第1回転機構を支持し、第2軸周りに回転することにより、前記光を前記第2軸と交差する方向に走査させる第2回転機構と、
前記第2回転機構により支持され、前記第2回転機構上における前記第2軸以外の位置に荷重を付与する第1荷重部材と、
前記第2回転機構上において、前記第1荷重部材により前記荷重が付与される位置以外の位置に、高さ可変に取り付けられる複数の第2荷重部材と、を有する、光走査装置。
【請求項2】
前記第1荷重部材は、前記第1回転機構を駆動させる駆動部を含む、請求項1に記載の光走査装置。
【請求項3】
前記第2回転機構は載置面を有し、
前記複数の第2荷重部材の少なくとも1つは、前記載置面に設けられる複数の柱状部材に取り付けられる、請求項1または請求項2に記載の光走査装置。
【請求項4】
前記第1回転機構と、前記第1荷重部材と、前記複数の第2荷重部材と、を含む複合体の慣性主軸は、前記第2軸に沿っている、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の光走査装置。
【請求項5】
前記複数の第2荷重部材の少なくとも1つは、質量が可変である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の光走査装置。
【請求項6】
前記第1回転機構と、前記第1荷重部材と、前記複数の第2荷重部材と、を含む複合体の重心は、前記第2軸上に位置する、請求項5に記載の光走査装置。
【請求項7】
前記複数の第2荷重部材の少なくとも1つは、前記第2回転機構による回転の半径方向に沿った位置が可変である、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の光走査装置。
【請求項8】
前記複数の第2荷重部材は、前記第2回転機構上において、前記第2回転機構を前記第2軸に沿う方向から視た場合に前記第2軸を中心にした中心角が120度以内の領域に配置される、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の光走査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光走査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転機構を用いて光を走査させる光走査装置が知られている。このような光走査装置は、走査された光が物体により反射された光に基づいて、物体との間の距離を測定する測距装置や、走査された光により画像を投射する画像投射装置等に使用される。
【0003】
上記光走査装置には、発光素子から出射された測定光を揺動走査させる第1偏向機構と、該測定光を回転走査させる第2偏向機構と、を有する構成が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-131280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光走査装置では、簡単な構成により回転機構の回転を安定化させることが求められる。
【0006】
本発明は、簡単な構成により回転機構の回転を安定化可能な光走査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本光走査装置(120)は、光反射面(501)を有し、第1軸(A1)周りに回転することにより、光反射面(501)により反射された光(L1)を第1軸(A1)と交差する方向に走査させる第1回転機構(5)と、第1回転機構(5)を支持し、第2軸(A2)周りに回転することにより、光(L1)を第2軸(A2)と交差する方向に走査させる第2回転機構(10)と、第2回転機構(10)により支持され、第2回転機構(10)上における第2軸(A2)以外の位置に荷重を付与する第1荷重部材(151)と、第2回転機構(10)上において、第1荷重部材(151)により荷重が付与される位置以外の位置に、高さ可変に取り付けられる複数の第2荷重部材(70)と、を有する。
【0008】
なお、上記括弧内の参照符号は、理解を容易にするために付したものであり、一例にすぎず、図示の態様に限定されるものではない。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、簡単な構成により回転機構の回転を安定化可能な光走査装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態に係る光走査装置を例示する斜視図である。
図2図1の光走査装置の正面図である。
図3図1の光走査装置の側面図である。
図4図1の光走査装置の上面図である。
図5】ジャイロモーメントを説明する図である。
図6】第2回転機構の回転半径方向に沿った平衡錘部材の位置調整例の図である。
図7】第2実施形態に係る光走査装置の制御部の機能構成例のブロック図である。
図8】第2回転機構の比較例に係るモーメント変化を示す図である。
図9】第2回転機構の第2実施形態に係るモーメント変化例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について詳細に説明する。各図面において、同一の構成部分には同一符号を付し、重複した説明を適宜省略する。
【0012】
以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための光走査装置を例示するものであって、本発明を以下に示す実施形態に限定するものではない。以下に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、特定的な記載がない限り、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、例示することを意図したものである。また図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため、誇張している場合がある。
【0013】
以下に示す図でX軸、Y軸およびZ軸により方向を示す場合があるが、Z軸に沿うZ方向は、実施形態に係る光走査装置が備える第1回転機構の回転軸である第1軸に沿う方向を示す。Y軸に沿うY方向は、実施形態に係る光走査装置が備える第2回転機構の回転軸である第2軸に沿う方向を示す。Z軸とY軸は交差する。X軸に沿うX方向は、Z軸およびY軸の両方に交差する方向を示す。
【0014】
また、X方向で矢印が向いている方向を+X方向、+X方向の反対方向を-X方向と表記し、Y方向で矢印が向いている方向を+Y方向、+Y方向の反対方向を-Y方向と表記し、Z方向で矢印が向いている方向を+Z方向、+Z方向の反対方向を-Z方向と表記する。但し、これらは光走査装置の使用時における向きを制限するものではなく、光走査装置は任意の向きに配置可能である。
【0015】
[第1実施形態]
<光走査装置120の構成例>
図1から図4は、実施形態に係る光走査装置120の構成を例示する図である。図1は+Z方向側から視た光走査装置120の斜視図、図2は-X方向側から視た光走査装置120の正面図、図3は+Z方向側から視た光走査装置120の側面図、図4は+Y方向側から視た光走査装置120の上面図である。
【0016】
図1から図4に示すように、光走査装置120は、第1回転機構5と、第2回転機構10と、第1軸モータ151と、2つの柱状部材60と、2つのスペーサ部材61と、2つの固定ネジ部材62と、2つの平衡錘部材70と、を有する。
【0017】
第1回転機構5、第1軸モータ151および2つの平衡錘部材70は、対象複合体200を構成している。対象複合体200は、第1回転機構5、第1軸モータ151および2つの平衡錘部材70の各構成部の重心および慣性主軸等の力学的性質が合成された力学的性質を有する複合体を意味する。なお、第1回転機構5、第1軸モータ151および2つの平衡錘部材70以外の構成部をさらに含んでもよい。
【0018】
第1回転機構5は、ポリゴンミラー50と、回転軸部材51と、軸受け部材52と、モータ取付板53と、を有し、ポリゴンミラー50を第1軸A1周りに回転させる。
【0019】
ポリゴンミラー50は、第1軸A1方向から視た平面視形状が略八角形状であり、第1軸A1に沿う8つの光反射面501を有する回転多面体である。ポリゴンミラー50は、第1軸A1周りに回転することにより、光反射面501に入射する光を第1軸A1と交差する方向に走査させる。本実施形態に係るポリゴンミラー50は、一例として、+Y方向からY軸に沿って入射するレーザ光L1を第1軸A1と交差する方向に走査させる。走査レーザ光L2は走査される光を表している。なお、ポリゴンミラー50が有する光反射面501の数は、8つに限定されるものではなく任意の数であってよいし、上記平面視形状は光反射面501の数に応じて適宜変更可能である。
【0020】
回転軸部材51は、第1軸A1近傍においてポリゴンミラー50に結合し、ポリゴンミラー50と一体に第1軸A1周りに回転可能な軸心部材である。軸受け部材52は、回転軸部材51を回転可能に支持する軸受けを含む部材である。モータ取付板53は、第1軸モータ151が取り付けられる板状部材である。
【0021】
第2回転機構10は、ベース板1の+Y方向側の面上に固定され、第2軸A2に略直交する載置面101を第2軸A2周りに回転させる回転機構の一例である。第2回転機構10は、載置面101上に第1回転機構5がネジ部材等によって固定されることにより、第1回転機構5を支持している。第2軸A2は、重力方向に沿っている。また、第2軸A2は、ポリゴンミラー50の光反射面501に入射するレーザ光L1の光軸に略一致している。第2回転機構10は、載置面101を第2軸A2周りに回転させることにより、光反射面501により反射された走査レーザ光L2を第2軸A2周りに走査させ、第2軸A2に交差する方向に走査させることができる。
【0022】
第1軸モータ151は、回転軸部材51を介して第1軸A1周りにポリゴンミラー50を回転駆動させるDC(Direct Current)モータまたはAC(Alternating Current)モータ等の駆動部である。本実施形態では、第1軸モータ151は、モータ取付板53を介して第2回転機構10により支持されている。また、図2および図4に示すように、第1軸モータ151は、レーザ光L1の光軸と第2軸A2とを略一致させるために、第2軸A2が載置面101に交わる交差位置A20に対して-Z方向側にずれ、かつ+X方向側にずれた位置にその重心が位置するように配置されている。交差位置A20は、第2軸A2の位置に対応し、第2回転機構10における交差位置A20以外の位置は、第2軸A2以外の位置に対応する。
【0023】
第1軸モータ151は、第2回転機構10により支持され、第2回転機構10上における第2軸A2以外の位置に荷重を付与する第1荷重部材に対応する。また、第1軸モータ151は、第1回転機構5を駆動させる駆動部に対応する。第1軸モータ151および第1回転機構5は、その質量、並びにその三次元的な位置に応じ、第2回転機構10の回転に伴って発生する遠心力等によって、第2回転機構10に荷重を付与する。第1軸モータ151は、その重心が第2軸A2に一致しなければ、第1軸モータ151の一部が第2軸A2と重なっていてもよい。
【0024】
2つの柱状部材60は、載置面101に設けられる複数の柱状部材の一例である。本実施形態では、2つの柱状部材60は、第1柱状部材60aと、第2柱状部材60bと、を含む。第1柱状部材60aおよび第2柱状部材60bは、それぞれ重力方向を略軸方向とする円柱状部材であり、載置面101上の重力方向と交差する方向における異なる位置に、ネジ部材または接着部材等により固定されている。第1柱状部材60aおよび第2柱状部材60bの各材質には、金属または樹脂を使用できるが、第1柱状部材60aおよび第2柱状部材60bには平衡錘部材70が取り付けられるため、強度の観点において金属材料を用いることが好ましい。
【0025】
2つの平衡錘部材70は、第2回転機構10上において、第1軸モータ151により荷重が付与される位置以外の位置に、高さ可変に取り付けられる複数の第2荷重部材の一例である。この高さは、重力方向における高さを意味する。2つの平衡錘部材70は、それぞれの質量、並びにそれぞれの三次元的な位置に応じ、回転に伴って発生する遠心力等によって、第2回転機構10に荷重を付与する。2つの平衡錘部材70は、それぞれの重心が第1軸モータ151の重心に一致しなければ、2つの平衡錘部材70それぞれの一部が、第1軸モータ151により荷重が付与される位置と重なっていてもよい。
【0026】
ここで、上述したように、第1軸モータ151は、第2回転機構10上における第2軸A2以外の位置に荷重を付与する。このため、第1回転機構5および第1軸モータ151の質量バランスが第2軸A2に対して不均衡になり、第2回転機構10により第1回転機構5および第1軸モータ151が第2軸A2周りに回転した際に、振動が生じる等して回転が不安定になる場合がある。2つの平衡錘部材70は、このような第1軸モータ151により付与される荷重に由来する回転の不安定性を抑制するために、対象複合体200の質量バランスを調整する機能を有する。
【0027】
本実施形態では、2つの平衡錘部材70は、第1平衡錘部材70aと、第2平衡錘部材70bと、を含む。第1平衡錘部材70aおよび第2平衡錘部材70bは、それぞれ重力方向を略軸方向とし、軸方向に沿って延伸する貫通孔が形成された円筒状部材である。質量バランスを調整する観点では、ある程度の質量を有することが好ましいため、第1平衡錘部材70aおよび第2平衡錘部材70bの各材質には、金属材料を用いることが好ましく、また比重が大きい金属材料を用いることがより好ましい。
【0028】
2つのスペーサ部材61は、2つの柱状部材60と2つの平衡錘部材70との間に設けられ、第2軸A2に沿ったその長さによって、2つの荷重部材の高さを調整する機能を有する。本実施形態では、2つのスペーサ部材61は、第1スペーサ部材61aと、第2スペーサ部材61bと、を含む。第1スペーサ部材61aおよび第2スペーサ部材61bは、それぞれ重力方向を略軸方向とし、軸方向に沿って延伸する貫通孔が形成された円筒状部材である。第1スペーサ部材61aおよび第2スペーサ部材61bの各材質に特段の制限はないが、2つの平衡錘部材70と比較して比重が軽い材料であることが好ましい。
【0029】
2つの固定ネジ部材62は、2つの柱状部材60と、2つの平衡錘部材70と、を結合させるために使用されるネジ部材であり、第1固定ネジ部材62aと、第2固定ネジ部材62bと、を含む。第1固定ネジ部材62aおよび第2固定ネジ部材62bの各材質に特段の制限はないが、2つの平衡錘部材70と比較して比重が軽い材料であることが好ましい。
【0030】
第1平衡錘部材70aは、第1柱状部材60aの+Y方向側の底面上に、第1スペーサ部材61aを介して同軸積載される。そして、第1平衡錘部材70aおよび第1スペーサ部材61aそれぞれの貫通孔を通るように挿入された第1固定ネジ部材62aにより、第1柱状部材60aの+Y方向側の底面上に取り付けられる。なお、同軸積載とは、複数の円柱軸同士、複数の円筒軸同士、または円柱軸および円筒軸同士が、相互に略一致するように積載されることを意味する。
【0031】
第2平衡錘部材70bは、第2柱状部材60bの+Y方向側の底面上に第2スペーサ部材61bを介して同軸積載される。そして、第2平衡錘部材70bおよび第2スペーサ部材61bそれぞれの貫通孔を通るように挿入された第2固定ネジ部材62bにより、第2柱状部材60bの+Y方向側の底面上に取り付けられる。
【0032】
本実施形態では、2つのスペーサ部材61のそれぞれを、第2軸A2に沿った長さが異なるものに個別に変更することによって、2つの平衡錘部材70それぞれの高さを個別に調整できる。
【0033】
また、2つの平衡錘部材70のそれぞれは、固定ネジ部材62を用いて2つの柱状部材60それぞれに対して個別に着脱可能になっている。このため、本実施形態では、2つの平衡錘部材70のそれぞれを質量または形状が異なるものに個別に変更すること、或いは同軸積載する平衡錘部材70の数を変更すること、の少なくとも一方によって、2つの平衡錘部材70それぞれの質量を個別に調整できる。
【0034】
さらに本実施形態では、図4に示すように、2つの平衡錘部材70は、載置面101上において、第2回転機構10を第2軸A2に沿う方向から視た場合に、第2軸A2を中心にした中心角θが120度以内の領域に配置されている。
【0035】
より詳しくは、図4において、第1半径線raおよび第2半径線rbのそれぞれは、第2軸A2を起点として、第2軸A2を中心とする円の半径方向に伸びる線を表している。第1平衡錘部材70aは、第1半径線raが重心を通るように配置されている。第2平衡錘部材70bは、第2半径線rbが重心を通るように配置されている。この状態において、2つの平衡錘部材70のそれぞれは、第1半径線raと第2半径線rbとのなす角である中心角θが120度以内となるように配置されることが好ましい。但し、2つの平衡錘部材70の配置は、上記配置に限定されるものではなく、重量方向と交差する方向における載置面101上の異なる位置であれば、2つの平衡錘部材70の配置は任意に変更されてもよい。
【0036】
図1から図4に例示する光走査装置120では、第1軸モータ151が第2軸A2に対して+X方向側で、かつ-Z方向側にずれている。このため、第2軸A2を中心に第1軸モータ151とは対称に位置する第2平衡錘部材70bの質量が、第1平衡錘部材70aの質量よりも大きくなっている。これにより、対象複合体200の質量バランスが平衡化されている。
【0037】
なお、平衡錘部材70の数は2つに限定されず3以上であってもよい。柱状部材60、スペーサ部材61および固定ネジ部材62それぞれの数も平衡錘部材70の数に合わせて3以上であってもよい。また、平衡錘部材70の柱状部材60への取付方法は、固定ネジ部材62を用いる方法に限定されず、光走査装置120の使用形態等に応じて適宜変更可能である。また、第1平衡錘部材70aおよび第2平衡錘部材70bのうちの少なくとも一方が柱状部材60に着脱可能であってよいし、第1平衡錘部材70aおよび第2平衡錘部材70bのうちの少なくとも一方が高さ可変であってよい。
【0038】
<平衡錘部材70の作用>
ここで、平衡錘部材70の作用として、遠心力およびモーメントの抑制作用と、ジャイロモーメントの抑制作用と、について説明する。
【0039】
(遠心力、モーメントの抑制)
対象複合体200を第2軸A2周りに回転させた場合、対象複合体200の重心が第2軸A2上からずれていると、遠心力が発生する。また、対象複合体200には、その質量分布に応じて対象複合体200が回転しやすい軸である慣性主軸が存在する。このため、慣性主軸が第2軸A2に対して傾いていると、第2軸A2を慣性主軸に一致させるようにモーメントが発生する。遠心力やモーメントは、対象複合体200の回転に伴って振動を生じさせ、対象複合体200の回転を不安定にする。
【0040】
遠心力やモーメントは、対象複合体200の質量バランスを適正化することによって抑制可能であるが、対象複合体200の部材精度や部材の組立精度に応じて、対象複合体200の個体ごとにその質量バランスが異なる場合がある。このため、質量バランスを厳密に適正化するためには、対象複合体200を組み立てた後に、対象複合体200の質量分布を調整することが好ましい。
【0041】
本実施形態では、2つの平衡錘部材70の質量を調整することにより、対象複合体200の組み立て後において、対象複合体200の質量分布を変化させ、第2軸A2に対する対象複合体200の重心位置を調整可能にする。例えば、対象複合体200の重心位置は、2つの平衡錘部材70のうち質量を大きくした平衡錘部材70側にずれる。対象複合体200の重心が第2軸A2上に位置するように2つの平衡錘部材70それぞれの質量を調整することにより、遠心力が抑制され、遠心力に応じた光走査装置120の振動が抑制される。
【0042】
また、本実施形態では、2つの平衡錘部材70の高さを調整することにより、対象複合体200の組み立て後において、第2軸A2を中心にした円の半径方向における重量分布を変えずに、第2軸A2に沿った高さ方向の質量分布を変化させる。そして、対象複合体200の慣性主軸を所望の方向に傾斜させることにより、慣性乗積によるモーメントを調整可能にする。
【0043】
例えば、2つの平衡錘部材70の高さを2つとも高く、あるいは低くすると、対象複合体200の慣性主軸は-X方向または+X方向側に傾く。また、2つの平衡錘部材70のどちらか一方の高さを調整すると、対象複合体200の慣性主軸は+Z方向側または-Z方向側に傾く。対象複合体200の慣性主軸が第2軸A2に沿うように、2つの平衡錘部材70それぞれの高さを調整することにより、慣性乗積によるモーメントが小さくなり、光走査装置120の振動が抑制される。
【0044】
ここで、慣性乗積によるモーメントMの推定方法を説明する。角運動量をL[J・s]、慣性テンソルをI[kg・m]、角速度をω[rad/s]とすると、対象複合体200における慣性主軸の傾きによって発生するモーメントM[N・m]は、オイラーの方程式に基づき、以下の(1)式により表される。
【0045】
【数1】
【0046】
一定速度で回転する場合には、(1)式におけるdω/dtは0となるため、以下の(2)式が得られる。
【0047】
【数2】
【0048】
以下の(3)式および(4)式に基づくと、2つの平衡錘部材70それぞれの高さを調整した場合の、X軸周りのモーメントM、Y軸周りのモーメントMおよびZ方向のモーメントMは、以下の(5)式から(7)式により表すことができる。
【0049】
【数3】
【0050】
【数4】
【0051】
【数5】
【0052】
【数6】
【0053】
【数7】
【0054】
Y軸に沿った第2軸A2周りに対象複合体200を回転させる場合には、X軸周りの角速度ωおよび第2軸A2周りの角速度ωはそれぞれ0となるため、以下の(8)式から(10)式が得られる。
【0055】
【数8】
【0056】
【数9】
【0057】
【数10】
【0058】
以上により、慣性乗積によるモーメントMの絶対値は、以下の(11)式を用いて推定できる。
【0059】
【数11】
【0060】
(11)式において、ZおよびY方向における慣性テンソルIzyと、XおよびY方向におけるIxyがそれぞれ0となるように、2つの平衡錘部材70それぞれの高さを調整することにより、慣性乗積によるモーメントMが小さくなる。この結果、慣性乗積によるモーメントMに伴う光走査装置120の振動が抑制される。
【0061】
(ジャイロモーメントの抑制)
第2回転機構10とは別の回転機構である第1回転機構5を第2回転機構10が支持していると、第1回転機構5および第2回転機構10の双方の回転によりジャイロモーメントが発生する。
【0062】
ここで、図5は、ジャイロモーメントの一例を説明する図である。図5において第2回転機構10がY軸に沿った第2軸A2周りに回転し、第1回転機構5におけるポリゴンミラー50がZ軸に沿った第1軸A1周りに回転すると、X軸周りにジャイロモーメントK[N・m]が発生する。
【0063】
ジャイロモーメントKは、第2軸A2を傾けるように作用するモーメントである。第2回転機構10の回転に伴ってジャイロモーメントKも第2軸A2周りに回転するため、第2回転機構10の回転に同期した振動が発生する。
【0064】
ジャイロモーメントK、および慣性主軸の傾きによるモーメントMは、ともに第2軸A2を傾けるように作用する。このため、本実施形態では、2つの平衡錘部材70の高さを個別に調整することにより、慣性乗積によるモーメントMの方向に対してジャイロモーメントKを逆方向に発生させ、かつ慣性乗積によるモーメントMの大きさと略等しいジャイロモーメントKを発生させる。これにより、ジャイロモーメントKとモーメントMが相殺され、ジャイロモーメントKが抑制される。
【0065】
ここで、第2軸A2周りの角速度である第2角速度をω、第1軸A1周りの角速度である第1角速度をω、第2回転機構10の慣性テンソルである第2慣性テンソルをI、第1回転機構5の慣性テンソルである第1慣性テンソルをIとすると、ジャイロモーメントKは、次の(12)式により表される。
【0066】
【数12】
【0067】
一方、慣性乗積によるモーメントMは、以下の(13)式により表される。
【0068】
【数13】
【0069】
第1慣性テンソルI、第1角速度ωおよび第2角速度ωは、予め定められるため、本実施形態では、ジャイロモーメントKと慣性乗積によるモーメントMとが等しくなる、すなわちI×ω=I×ωとなるように、第2慣性テンソルIを調整する。
【0070】
慣性乗積によるモーメントMは、以下の(14)式から(16)式のように表される。
【0071】
【数14】
【0072】
【数15】
【0073】
【数16】
【0074】
本実施形態では、X軸周りのジャイロモーメントKを相殺するために、Z軸周りのジャイロモーメントKを0とし、XおよびY方向における慣性テンソルIxyを0にする。また、本実施形態では、慣性乗積によるX軸周りのモーメントMと、X軸周りのジャイロモーメントKと、を相殺させるために、ZおよびY方向における第2慣性テンソルIHzyが以下の(17)式および(18)式を満足するなるように、2つの平衡錘部材70それぞれを調整する。
【0075】
【数17】
【0076】
【数18】
【0077】
以上により、ジャイロモーメントKと、慣性乗積によるモーメントMと、が相殺され、光走査装置120の振動が抑制される。
【0078】
<光走査装置120の効果>
以上説明したように、本実施形態では、光走査装置120は、第1回転機構5と、第2回転機構10と、第1軸モータ151(第1荷重部材)と、2つの平衡錘部材70(複数の第2荷重部材)と、を有する。例えば、第2回転機構10は載置面101を有し、2つの平衡錘部材70の少なくとも1つは、載置面101に設けられる2つの柱状部材60(複数の柱状部材)に取り付けられる。2つの平衡錘部材70を高さ可変に取り付け、対象複合体200の慣性主軸が第2軸A2に沿うように調整することにより、慣性乗積によるモーメントMが抑制され、光走査装置120の振動が抑制される。この結果、本実施形態では、簡単な構成により第2回転機構10(回転機構)の回転を安定化可能な光走査装置120を提供できる。
【0079】
また本実施形態では、2つの平衡錘部材70の少なくとも1つは、質量が可変である。2つの平衡錘部材70の質量を調整し、対象複合体200の重心を第2軸A2上に位置させることにより、遠心力が抑制され、光走査装置120の振動が抑制される。この結果、本実施形態では、簡単な構成により第2回転機構10の回転を安定化可能な光走査装置120を提供できる。
【0080】
ここで、第2回転機構10により支持された第1回転機構5によって、第2軸A2に沿って光反射面501に入射するレーザ光L1を走査させる場合、第1回転機構5を駆動させる第1軸モータ151は、第2回転機構10上において第2軸A2からずれた位置に配置されることが多い。このため、2つの平衡錘部材70は、第2回転機構10上において、第2回転機構10を第2軸A2に沿う方向から視た場合に、第2軸A2を中心にした中心角θが120度以内の領域に配置されることが好ましい。この配置により、第1軸モータ151および第1回転機構5により付与される荷重に対する質量バランスの調整を容易にすることができる。
【0081】
また、光走査装置120は、2つの平衡錘部材70の少なくとも1つが、第2回転機構10の回転半径方向に沿った位置が可変に構成されてもよい。ここで、図6は、第2回転機構10の回転半径方向に沿った2つの平衡錘部材70の位置調整を例示する図であり、第2回転機構10を+Y方向側から視た上面図である。
【0082】
図6において、第1平衡錘部材70aは、第2回転機構10の回転半径方向70a1に沿った位置が可変であり、第2平衡錘部材70bは第2回転機構10の回転半径方向70b1に沿った位置が可変である。平衡錘部材70の移動は、直動ステージ等の機構部により行ってもよいし、操作者等が手動により行ってもよい。このように、第2回転機構10の回転半径方向に沿った2つの平衡錘部材70の位置を可変にすることによっても、上述した平衡錘部材70の質量を調整するのと同様の効果を得ることができる。
【0083】
また、本実施形態では、光走査装置120は、第1慣性テンソルをI[kg・m]、第2慣性テンソルをI[kg・m]、第1角速度をω[rad/s]、第2角速度をω[rad/s]とした場合に、I×ω=I×ωである。このようにすることで、ジャイロモーメントKと、慣性乗積によるモーメントMと、が相殺され、光走査装置120の振動が抑制される。この結果、本実施形態では、簡単な構成により第2回転機構10の回転を安定化可能な光走査装置120を提供できる。
【0084】
また、本実施形態では、光走査装置120は、Z方向およびY方向における第2慣性テンソルをIHZY[kg・m]とした場合に、第2軸角速度をωHy[rad/s]とし、Z方向における第1慣性テンソルをIVzz[kg・m]とし、第1角速度をωVz[rad/s]とすると、IHzy×ωHy=-IVzz×ωVzである。これにより、ジャイロモーメントKと、慣性乗積によるモーメントMと、が相殺され、光走査装置120の振動が抑制される。この結果、本実施形態では、簡単な構成により第2回転機構10の回転を安定化可能な光走査装置120を提供できる。
【0085】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態と同一の構成部には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。
【0086】
図7は、第2実施形態に係る光走査装置120aが有する制御部140の機能構成を例示するブロック図である。制御部140は、第1軸回転制御部141と、第2軸回転制御部142と、を有する。なお、制御部140は、これら以外の機能構成部をさらに有してもよい。
【0087】
制御部140は、上記各機能を電気回路により実現できる他、CPU(Central Processing Unit)がRAM(Random Access Memory)を作業領域とし、ROM(Read Onlu Memory)等に記憶されたプログラムを実行することによって実現できる。また制御部140は、CPUと電気回路の両方を用いて上記各機能を実現することもできる。
【0088】
第1軸回転制御部141は、制御信号Dr1を第1回転機構5に出力することにより、第1回転機構5の回転を制御する。第2軸回転制御部142は、制御信号Dr2を第2回転機構10に出力することにより、第2回転機構10の回転を制御する。
【0089】
制御部140は、第1軸回転制御部141および第2軸回転制御部142により、第1回転機構5による第1軸A1周りの第1角速度ωと、第2回転機構10による第2軸A2周りの第2角速度ωと、の角速度比が、第1回転機構5および第2回転機構10がそれぞれ定速回転をしている場合における角速度比と同じになるように制御できる。
【0090】
また、制御部140は、第1回転機構5の第1角速度ω、および第2回転機構10の第2角速度ωがそれぞれ一定になるまでの期間に、第1回転機構5の第1角速度ωおよび第2回転機構10の第2角速度ωの少なくとも一方を制御できる。
【0091】
ここで、第1回転機構5および第2回転機構10がそれぞれ定速回転している場合には、上述した2つの平衡錘部材70を用いた質量調整により、ジャイロモーメントKを抑制できる。しかしながら、光走査装置120aが起動された直後において、第1回転機構5および第2回転機構10による角速度が相互に異なる場合には、ジャイロモーメントKと、慣性乗積によるモーメントMと、を相殺できず、ジャイロモーメントKを抑制できない場合がある。
【0092】
例えば、慣性乗積によるモーメントMは、第2角速度ωの二乗に比例し、ジャイロモーメントKは、第2角速度ωと第1角速度ωVの積に比例する。定速回転時における第2角速度ωに対して第2角速度ωが1/2になると、定速回転時におけるジャイロモーメントKに対してジャイロモーメントKは1/2になるが、慣性乗積によるモーメントMは定速回転時におけるモーメントMの1/4になる。これにより、定速回転時におけるジャイロモーメントKのうちの1/4が相殺されずに残る。
【0093】
図8は、第2回転機構10の比較例に係るモーメント変化を示す図である。図8は、第2回転機構10の起動時におけるモーメント変化を示している。横軸は第2角速度ω[rad/s]を表し、縦軸はジャイロモーメントKおよび慣性乗積によるモーメントMのトルクT[N・m]を表している。実線のグラフはジャイロモーメントKを、破線のグラフは慣性乗積によるモーメントMを、それぞれ表している。
【0094】
定速回転時における第2角速度ωの1/2の角速度である第2角速度ω0では、ジャイロモーメントKは、定速回転時におけるジャイロモーメントKの1/2になり、慣性乗積によるモーメントMは定速回転時におけるモーメントMの1/4になる。これにより、定速回転時におけるジャイロモーメントKのうちの1/4に対応するトルク差ΔTが相殺されずに残る。
【0095】
一方、図9は、第2回転機構10の本実施形態に係るモーメント変化を例示する図である。図9の見方は図8と同様である。図9に示すように、本実施形態では、制御部140によって起動時における角速度比が定速回転時における角速度比と同じになるように制御することにより、ジャイロモーメントKおよび慣性乗積によるモーメントMが略等しくなる。これにより、慣性乗積によるモーメントMと、ジャイロモーメントKと、を相殺できるため、本実施形態では、光走査装置120aの振動を抑制し、簡単な構成により第2回転機構10の回転を安定化可能な光走査装置120aを提供できる。なお、これ以外の効果は第1実施形態と同様である。
【0096】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形または変更が可能である。
【0097】
実施形態の説明で用いた序数、数量等の数字は、全て本発明の技術を具体的に説明するために例示するものであり、本発明は例示された数字に制限されない。また、構成要素間の接続関係は、本発明の技術を具体的に説明するために例示するものであり、本発明の機能を実現する接続関係をこれに限定するものではない。
【符号の説明】
【0098】
1…ベース板、5…第1回転機構、10…第2回転機構、50…ポリゴンミラー、51…回転軸部材、52…軸受け部材、53…モータ取付板、60…2つの柱状部材、60a…第1柱状部材、60b…第2柱状部材、61…2つのスペーサ部材、61a…第1スペーサ部材、61b…第2スペーサ部材、62…2つの固定ネジ部材、62a…第1固定ネジ部材、62b…第2固定ネジ部材、70…2つの平衡錘部材、70a…第1平衡錘部材、
70b…第2平衡錘部材、70a1、70b1…回転半径方向、101…載置面、120…光走査装置、140…制御部、141…第1軸回転制御部、142...第2軸回転制御部、151…第1軸モータ、200…対象複合体、501…光反射面、A1…第1軸、A2…第2軸、Dr1、Dr2…制御信号、L1…レーザ光、L2…走査レーザ光、ra…第1半径線、rb…第2半径線、θ…中心角、ω…角速度、ωV…第1角速度、ω…第2角速度、I…慣性テンソル、IV…第1慣性テンソル、I…第2慣性テンソル、M…モーメント、K…ジャイロモーメント、T…トルク、ΔT…トルク差
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9