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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023117942
(43)【公開日】2023-08-24
(54)【発明の名称】過冷却解消装置及び蓄冷体
(51)【国際特許分類】
   F25D 3/00 20060101AFI20230817BHJP
   C09K 5/06 20060101ALI20230817BHJP
【FI】
F25D3/00 E
C09K5/06 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022020769
(22)【出願日】2022-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 温
(72)【発明者】
【氏名】大河 誠司
(72)【発明者】
【氏名】寳積 勉
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 彬夫
(72)【発明者】
【氏名】入江 祥幸
(72)【発明者】
【氏名】葛谷 拓嗣
【テーマコード(参考)】
3L044
【Fターム(参考)】
3L044AA04
3L044DC04
3L044KA01
3L044KA04
(57)【要約】
【課題】簡易な構造で過冷却を解消することが可能な過冷却解消装置を提供する。
【解決手段】凝固伝播剤42を収容したチューブ32を備え、チューブ32は一端部32aが閉じられており、チューブの内径が0.3mm~2mmであり、チューブ32内に凝固伝播剤42の結晶化を促す銅線が入っている。
【選択図】図3

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凝固伝播剤を収容したチューブを備えることを特徴とする、蓄冷剤の過冷却解消装置。
【請求項2】
前記チューブ内に前記凝固伝播剤の結晶化を促す結晶核体が入っている請求項1に記載の過冷却解消装置。
【請求項3】
前記結晶核体が金属である請求項2に記載の過冷却解消装置。
【請求項4】
前記チューブは一端が閉じられている請求項1~3のいずれか一項に記載の過冷却解消装置。
【請求項5】
前記チューブの内径が0.3mm以上である請求項1~4のいずれか一項に記載の過冷却解消装置。
【請求項6】
前記チューブの内径が2mm以下である請求項1~5のいずれか一項に記載の過冷却解消装置。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の過冷却解消装置が収容されていることを特徴とする、蓄冷体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄冷剤の過冷却を解消することが可能な過冷却解消装置及び蓄冷体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、家庭用や業務用の冷凍庫などで冷凍される蓄冷体が知られている。蓄冷体においては、蓄冷剤容器に蓄冷剤が収容されている。蓄冷体は、予め冷凍庫等に収容され、蓄冷剤を冷凍させて使用される。蓄冷体は、使用時の融解潜熱によって長時間保冷作用を発揮することができる。このような蓄冷剤の凝固には、過冷却現象が伴う。蓄冷剤の潜熱を確実に利用するには、一般的には、蓄冷剤の凝固点よりも10K(ケルビン)程低い温度まで、蓄冷剤を冷却可能な冷凍機が必要と言われている。
【0003】
例えば、主成分が15%NaCl水溶液である蓄冷剤の場合、凝固点は-11℃だが、実際には-21℃程度まで冷却する必要がある。家庭用の冷凍庫付冷蔵庫を含む一般的な冷凍機では、-18℃程度までしか冷却することができないため、過冷却を解消することが難しい。そして、蓄冷体の冷却に関する新たな設備投資や電力負荷の増加を抑制するためには、過冷度を能動的に制御する必要がある。
【0004】
発明者らは、後掲の特許文献1において、蓄冷剤の過冷却を解消することが可能な蓄冷体を提案した。特許文献1に開示された発明においては、カプセル状の過冷却解消装置(31)内に凝固伝播剤(42)が充填され、過冷却解消装置(31)が、蓄冷剤容器(11)に蓄冷剤(21)とともに収容される。過冷却解消装置(31)の外殻(32)の一部には伸長可能な膜(33)が用いられており、膜(33)には切れ込み(開口部36)が形成されている。
【0005】
蓄冷体(10)の蓄冷剤(21)が凝固点に達する前に、過冷却解消装置(31)内の凝固伝播剤(42)が凝固し、凝固伝播剤(42)の体積膨張を利用して切れ込み(開口部36)が開く。氷面が切れ込み(開口部36)を介して蓄冷剤(21)側に露出し、氷核となり、凝固伝播剤(42)の凝固が蓄冷剤(21)に伝播する。特許文献1に開示された発明によれば、このような仕組みにより、蓄冷剤(21)の過冷却を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-27670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示された発明は、簡便な構成により過冷却を防止できるが、外殻(32)内の構成として、外殻本体(34)と膜(33)の2部品を必要とし、さらなる構成の簡略化は困難である。また、外殻(32)内に気泡を入れずに凝固伝播剤(42)となる水を封入することが困難である。さらに、切れ込み(開口部36)の入れ方や、入り方により、過冷却解消の程度や耐久性に影響が出る場合があり、厳密な加工精度が要求される。
【0008】
本発明は、簡易な構造で過冷却を解消することが可能な過冷却解消装置及び蓄冷体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による過冷却解消装置の特徴は、凝固伝播剤を収容したチューブを備えることである。
また、本発明による蓄冷体の特徴は、上記の過冷却解消装置が収容されていることである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、簡易な構造で過冷却を解消することが可能な過冷却解消装置及び蓄冷体を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の好適な実施形態に係る蓄冷体の外観構成を示す斜視図である。
図2図1の蓄冷体を2-2線で切断した断面図である。
図3】同実施形態に係る過冷却解消装置の構成を示す断面図である。
図4】過冷却解消装置の機能を示す説明図である。
図5】液体が収容された隙間の大きさと液体の融点との関係に係る公知の実験結果を示すグラフである。
図6】閉塞部材に係る他の実施形態を一部縦断して示す説明図である。
図7】チューブ内の濃度の変化を示す説明図である。
図8】チューブにおける位置の定義を示す説明図である。
図9】(a)は凝固伝播剤を融解させて放置した場合における濃度の変化を示すグラフ、(b)は凝固伝播剤の凝固と融解を繰り返した場合における濃度の変化を示すグラフである。
図10】時間経過による濃度上昇を調べるための実験装置の概略構成を示す説明図である。
図11】時間経過による濃度上昇に係る補正前の実験結果と補正後の実験結果とを比較して示す説明図である。
図12】チューブ内の水の凝固点と過冷度の測定に係る実験装置の概略構成を示す説明図である。
図13】チューブ内の水の凝固点と過冷度の測定に係る実験結果を示すグラフである。
図14】NaCl水溶液を用いた場合における蓄冷剤の凝固を測定するための実験装置の概略構成を示す説明図である。
図15】NaCl水溶液を用いた場合における蓄冷剤の凝固の実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本実施形態、及び、本実施形態に係る図面において、同一の符号が付された構成要素は、同様の構造又は機能を有するものとする。
【0013】
また、本実施形態に係る過冷却解消装置や、過冷却解消装置を備える蓄冷体については、以下の順序で説明する。
1.実施形態に係る蓄冷体10の構成
1-1. 蓄冷剤容器11
1-2. 蓄冷剤21
2.実施形態に係る過冷却解消装置31の構成
2-1.凝固伝播剤42
2-2.チューブ32の素材
2-3.チューブ32の内径
2-4.チューブ32の長さ
2-5.チューブ32の端部
2-6・チューブ32内の濃度
2-7.時間経過による濃度上昇
2-8.チューブ32内の水の凝固点と過冷度の測定
2-9.チューブ32外のNaCl水溶液の凝固
2-10.その他の実験
【0014】
<1.実施形態に係る蓄冷体10の構成>
図1は、本発明の好適な実施形態に係る蓄冷体10を示しており、図2は、図1の蓄冷体10を、図1における2-2線に沿って切断した断面を示している。図2に示すように、蓄冷体10は、蓄冷剤容器11を備えており、蓄冷剤容器11には、蓄冷剤21が収容されている。蓄冷剤容器11の中の蓄冷剤21には、本発明の好適な実施形態に係る過冷却解消装置31が収容されている。過冷却解消装置31については後述する。
【0015】
<<1-1.蓄冷剤容器11>>
蓄冷剤容器11は、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン若しくはポリアミド、ポリエステル等のプラスチック容器、アルミニウム等の金属製容器、又は、アルミプレート等がインサートされた樹脂製複合容器、ラミネートフィルムを熱シールした柔軟な袋状容器等である。特に、ダイレクトブロー成形した中空平板状に製造されたものが多く使用される。蓄冷剤容器11の平面視形状は、矩形その他の多角形等、任意の形状とされるが、この例では略長方形とされている。なお、本実施形態における蓄冷剤容器11の大きさも特に限定はされず、用途に応じて適宜外形寸法を定めればよい。また、蓄冷剤容器11には、側面に蓄冷剤充填口13が形成されている。この蓄冷剤充填口13は、蓄冷剤21及び過冷却解消装置31の収容後、キャップが嵌められ、接着剤、熱融着あるいは高周波融着等により封止される。
【0016】
<<1-2.蓄冷剤21>>
蓄冷剤21としては、冷凍食品等の保冷に用いられる公知の蓄冷剤を使用することができ、特に限定されるものではないが、例えば、塩化ナトリウム、塩化アンモニウム、塩化マグネシウム等の無機塩の水溶液、メタノールやエタノール等のアルコール水溶液、あるいは水溶性高分子にゲル化剤(天然高分子、硫酸カリウムアルミニウム、アンモニウムミョウバン、カルボキシメチルセルロースナトリウム等)を添加したもの、これらの混合物等が挙げられる。ここで、例えば、冷凍食品は、通常-18℃以下程度の低温に保持する必要があることから、蓄冷体10を冷凍食品の輸送時の保冷等の用途として用いる場合には、蓄冷剤21として、上記低温の凝固点を有する蓄冷剤を使用することが好ましい。また、無機塩の水溶液の濃度を変えることで蓄冷剤21の凝固点を調整することができ、ゲル化剤の種類と濃度を変えることで蓄冷剤21の粘度を調整することができる。
【0017】
<2.実施形態に係る過冷却解消装置31の構成>
過冷却解消装置31は、上述した蓄冷剤21の過冷却を解消するために、図2に示すように、蓄冷体10の蓄冷剤容器11の中に収容される。図3は、本実施形態に係る過冷却解消装置31の断面を示している。
【0018】
図3に示すように、過冷却解消装置31は、チューブ32と、チューブ32内に収容された凝固伝播剤42とを有している。以下に、過冷却解消装置31の構成について説明するが、構成の説明の前に、過冷却解消装置31の基本的な動作原理について、図4に基づき説明する。ここで、図2図4では、過冷却解消装置31が、S字状の形状に撓んだ状態で示されている。これは、過冷却解消装置31が柔軟性を有することを示したものであり、過冷却解消装置31は、直線状に形成することが可能である。
【0019】
図4の左側に示すように、過冷却解消装置31は、蓄冷体10の蓄冷剤容器11の中に、蓄冷剤21とともに収容される。過冷却解消装置31のチューブ32は、中空で細長い形状を有している。チューブ32は円管であり、チューブ32には、凝固伝播剤42が収容されている。凝固伝播剤42の凝固温度は、蓄冷剤21の凝固温度よりも高い。このため、蓄冷体10が冷却されると、過冷却解消装置31内の凝固伝播剤42が、蓄冷剤21よりも先に凝固して氷になる。
【0020】
凝固伝播剤42が凝固して氷になる際には、チューブ32内において、チューブ32の一端部(図4における左側の閉塞された端部)32a付近から氷核が発生し、チューブ32内を凝固が伝播する。蓄冷剤21の温度が融点以下に達したとき、蓄冷剤21へと固相が伝播する。チューブ32の開放された側の端部32bが蓄冷剤21と接している。
【0021】
凝固伝播剤42の凝固の際には、凝固伝播剤42における体積の膨張(体積増加)が発生する。図4の例では、チューブ32の一端部(図4におけるチューブ32の左側の端部)32aが、閉塞部材54(後述する)を用いて密閉されている。
【0022】
図7における上段の図を援用して示すように、凝固伝播剤42の凝固時には、約10%の凝固伝播剤42が、チューブ32の外へ溢れ出る。これに対し、凝固伝播剤42の溶融時には、図7における下段の図を援用して示すように、チューブ32における他端部(図4における右側の開放された端部)32bから、蓄冷剤21(図7の例ではNaCl水溶液としている)が、チューブ32の中へ、1割程度(10%程度)侵入する。このチューブ32内に侵入した部分へも一緒に、凝固が伝播する。固相の結晶構造が蓄冷剤21に影響を与え、凝固伝播剤42の凝固が蓄冷剤21に伝播する。伝播の際には、凝固が、溶質を排除しながら延びていく。
【0023】
この結果、蓄冷剤21のみを冷却した場合は過冷却状態が継続する状況下であっても、蓄冷剤21が凝固する。そして、蓄冷剤21の過冷却を解消させることが可能となる。蓄冷剤21に凝固を伝播させるのに必須な構成は、チューブ32と凝固伝播剤42である。このような簡易な構造で、過冷却を解消することが可能である。
【0024】
なお、過冷却解消装置31の、蓄冷剤容器11の中における配置は、チューブ32の開放された側の端部32bが、蓄冷剤容器11の外側(外周側)寄りに位置するように行うことが望ましいという考え方がある。換言すれば、チューブ32の開放された側の端部32bが、蓄冷剤容器11の中の中央部に位置するよりも、端部や隅部などに位置する方が、凝固が伝播する範囲が大きくなり易く、凝固が速くなり易いという考え方がある。このようにすることで、チューブ32内における凝固伝播剤42の凝固を、蓄冷剤容器11の中における蓄冷剤21の全体に亘って、効率よく伝播させることができる。
【0025】
この場合に、凝固の伝播が効率よく行われるのは、蓄冷剤容器11の中の端部や隅部は中央部に対して相対的に温度が低いので、蓄冷剤がより早く過冷却の解消を開始するのが要因と考えられる。さらに、このようになるのは、外部の冷気は先ず蓄冷剤容器11の中の端部や隅部を冷やし、その後に中央部に伝わるためではないかと考えられる。ただし、蓄冷剤容器11の壁に沿って凝固が伸展して速度が速まる事象も生じ得る。
【0026】
このような考え方がある一方で、チューブ32の開放された側の端部32bを、蓄冷剤容器11の中央寄りに位置するように行うことが望ましいという考え方もある。このようにすることで、冷え難い中央寄りの位置から凝固を開始させることができ、蓄冷剤容器11内の温度分布による影響を抑制することができる。過冷却解消装置31の配置や向きについては、いずれの考え方も採用することが可能である。
【0027】
<<2-1.凝固伝播剤42>>
凝固伝播剤42は、蓄冷剤21よりも高い凝固温度を有する液体である。凝固伝播剤42としては、蓄冷剤21よりも高い凝固温度を有し、凝固を蓄冷剤21に伝播させることができる液体であれば、特に制限されるものではない。例えば、蓄冷剤21が水溶液である場合は、凝固伝播剤42として、水(凝固点:0℃)を利用することができる。水は、純水でなくてもよく、例えば、水道水でもよい。
【0028】
また、凝固伝播剤42として、無機塩の水溶液(食塩水、NaCl水溶液)を利用できる。食塩水としては、蓄冷剤21よりも濃度が低く、凝固点が-11℃や-12℃程度のものを例示できる。蓄冷剤21が水溶液でない場合は、蓄冷剤21に凝固を伝播させるのに適した他の液体を選定する必要がある。発明者らは、過冷却解消装置31の基本的な動作原理(図4)を確認するための実験において、凝固伝播剤42として、水(凝固点:0℃)を用いた。なお、凝固伝播剤42として、例えば、TBAB(臭化テトラブチルアンモニウム)又はその他の物質の水和物なども利用することが可能である。
【0029】
<<2-2.チューブ32の素材>>
チューブ32は、柔軟性や可撓性を有し、上述した凝固伝播剤42を収容可能な容器である。チューブ32の素材として、例えば、合成樹脂を成形して得られた弾性体を採用することができる。合成樹脂としては、例えば、ポリウレタン、ナイロン、シリコン、及び、ポリエチレン等のように一般的な種々のものを採用できる。
【0030】
チューブ32の素材を、チューブ32の表面(内周面を含む)に疎水性が生じるものとすることが可能である。しかし、チューブ32の素材を疎水性のものとした場合には、過冷却を解消し難くなる。この場合には、チューブ32の表面に、疎水性を低下させるための加工を施すことが望ましい。また、チューブ32の加工を要しないような素材を用いれば、チューブ32の製作のための工数を削減できる。
【0031】
なお、チューブ32の素材として、例えば、金属や硬質の合成樹脂のような剛体を採用することも可能である。この場合は、チューブ32の内周面に氷核となり得る箇所を多く確保でき、凝固伝播剤42の凝固を早く開始させるうえで有利である。しかし、凝固伝播剤42が、凝固して固体となった際に体積増加することから、チューブ32の素材としては、破裂のおそれがないよう十分な柔軟性を有する弾性体を用いることが好適である。
【0032】
<<2-3.チューブ32の内径>>
過冷却解消装置31として蓄冷剤21の冷却時に過冷却を防止できるようにする観点で、チューブ32の大きさ(内径)は、小さいほど好ましいが、凝固伝播剤42の凝固により凝固伝播剤42と蓄冷剤21とを接触させる観点で、チューブ内径は0.3mm以上が好ましく、0.4mm以上がより好ましく、0.5mm以上がさらに好ましく、0.6mm以上が特に好ましい。
【0033】
また、チューブ32の内径は、過冷却解消装置31を収納した蓄冷体を、凝固と融解を繰り返し使用する観点では、凝固伝播剤42の対流(自然対流、濃度差対流)を考慮して決定することが望ましい。チューブ32の内径が太すぎると、凝固伝播剤42の対流が起き易く、対流の影響によりチューブ32内の濃度が上昇し易い。蓄冷体10を繰り返し使用する点では、チューブ32内の濃度は上昇させないほうが望ましく、このため、チューブ32の内径は、濃度差対流を起こさないよう2mm以下が好ましく、1.5mm以下がより好ましく、1.2mm以下がさらに好ましく、1mm以下が特に好ましい。但し、内径が小さすぎると、チューブ32内の凝固伝播剤42の体積が少なすぎて、過冷却を起こし易くなるので、チューブの32の内径は、0.6mm以上であることが望ましい。
【0034】
これらのことから、チューブ32の内径は、大き過ぎても、小さ過ぎても好ましくなく、適切な大きさとすることが好ましい。
【0035】
チューブ32内での対流は、チューブ32が置かれた空間中において、チューブ32の下側から上側へ向かって発生する。チューブ32の内径が太いほど、凝固伝播剤42の流動が発生し易くなる。したがって、臨界レイレー数を抑え、熱が熱伝導により伝達される限界値を超えないようにするためには、チューブ32の内径を、十分に小さく(細く)することが望ましい。
【0036】
また、チューブ32の内径を十分に大きくすることで、凝固伝播剤42の凝固点(凝固温度)が低くなり難い。さらに、チューブ32の内径を十分に大きくすることで、凝固伝播剤42の体積が十分に大きくなり、過冷度が小さくなる。
【0037】
図5は、Andreas Schreiberらによる、液体が収容された隙間(横軸)と、隙間に存在する液体の融点(縦軸)との関係を表した実験結果を示している(Phys.Chem.Chem.Phys., 2001, 3, 1185-1195.)。この実験結果は、隙間が小さくなるほど(横軸の左側へいくほど)、融点(縦軸)が上がることを示している。
【0038】
ただし、図5に示す実験結果は、ナノメートル(nm)レベルの大きさの隙間についてのものであり、1mm程度の大きさの隙間の場合は、図5に示すような融点降下を考慮する必要はない。さらに、凝固は、確率的に論じることができ、凝固し得る物質の体積が大きければ、最初に凝固が発生し得る箇所(氷核となり得る箇所)も多くなる。このため、体積が大きければ、物質中のいずれかの箇所で凝固が開始され、全体として凝固し易くなる。
【0039】
なお、チューブ32の内径が、1mmを下回る程度になると、チューブ32の中に凝固伝播剤42を注入することが容易ではなくなる。このような場合は、凝固伝播剤42の注入のための機器を利用することが可能である。凝固伝播剤42の注入のための機器としては、注射器のような構成の注入機器を例示できる。
【0040】
<<2-4.チューブ32の長さ>>
チューブ32の長さは、蓄冷剤容器11内に収容可能であれば、特に制限されるものではない。チューブ32の長さは、蓄冷剤容器11に入る範囲で、十分に長くすることができる。チューブ32の全長が、蓄冷剤容器11に収まらない程度である場合には、チューブ32を弾性的に折り曲げ、束の状態になるよう紐やバンドなどで拘束して、蓄冷剤容器11に収容してもよい。
【0041】
<<2-5.チューブ32の端部>>
チューブ32の端部32a、32bについては、図3及び図4に示したように、一端部32aを閉じ、他端部32bを開放することが可能である。凝固伝播剤42から蓄冷剤21への凝固の伝播は、チューブ32における開放した端部でおいて行われる。図3及び図4の例では、図中の左側の端部32aが、閉じた閉塞端部であり、図中の右側の端部32bが、開放した開放端部である。
【0042】
チューブ32の端部32a、32bについては、図3及び図4の例に限定されず、両端部32a、32bを開放することも可能である。この場合は、両端部32a、32bから氷を突出させることができる。そして、一端部32aを閉じたチューブ32と比較すると、半分の長さのチューブを2本用いたのと同等なものとなる。
【0043】
チューブ32の端部(図3及び図4の例では端部32a)を、閉塞部材54を用いて閉塞する場合、例えば、閉塞部材54として接着剤を用いることが可能である。この場合、端部32aを接着剤で覆い、接着剤を硬化させて閉塞部材54を形成する。
【0044】
また、図6に示すように、閉塞部材54として、針状の栓(例えば、画鋲のような形状のものでもよい)を用いることも可能である。この場合、栓を端部32aの穴に着脱可能に圧入し、この栓を閉塞部材54とする。栓としては、金属製のものや合成樹脂製のものなどを用いることが可能である。このようにすることで、閉塞部材54の装着や変更が容易になる。
【0045】
また、図示は省略するが、閉塞部材54を用いず、例えば、熱融着や高周波融着等の方法により、チューブ32の端部32aを閉塞しても良い。
【0046】
<<2-6.チューブ32内の濃度>>
チューブ32内の液体の濃度は、凝固のし易さに影響する。図7は、凝固時から融解時にかけての、凝固伝播剤42の膨出と、蓄冷剤21の侵入とを示している。図7の上段に示すように、凝固伝播剤42の凝固時には、約10%の体積膨張がある。このため、凝固伝播剤42の凝固時には、約10%の凝固伝播剤42が、チューブ32の外へ溢れ出る。これに対し、凝固伝播剤42の溶融時には、図7の下段に示すように、蓄冷剤21(図7の例ではNaCl水溶液としている)が、チューブ32の中へ侵入する。
【0047】
例えば、凝固伝播剤42を水とし、蓄冷剤21を15wt%NaCl水溶液とした場合、上述のような凝固伝播剤42の凝固と溶融により、チューブ32内の液体の濃度が上昇する。チューブ32内の濃度の上昇は、以下の(1)に示すフィックの法則(非定常濃度拡散方程式)により表される。

∂c/∂t=D(∂c/∂x) ・・・式(1)

c:濃度[kg/m
t:時間[s]
D:拡散係数=1.8×10-9[m-1
x:位置[m]

収束条件を以下の(2)のように定めると、初期条件は(3)のようになる。

(DΔt/Δx)≦1/2 ・・・式(2)
x=200[mm]=0.2[m]、t=0[s]で、c=150kg/m ・・・式(3)

ここで、位置x[m]については、図8に示すように、チューブ32の閉じた側の端部(閉塞端部)32aをx=0[m]とし、開放した側の端部(開放端部)32bをx=200[m]としている。
【0048】
図9(a)、(b)は、チューブ32の濃度に関する解析結果を示している。図9(a)は、 凝固伝播剤42の凝固と融解を1回のみ行い、その後は凝固伝播剤42の凝固を行わずに、過冷却解消装置31を150日間放置したときの、濃度分布を示している。図9(b)は、凝固伝播剤42の凝固と融解を300回繰り返したときの濃度分布を示している。図9(a)、(b)のグラフの横軸が位置(上記式(1)のx)をmmの単位で示しており、縦軸が濃度を示している。
【0049】
図9(a)、(b)を比較すると、凝固伝播剤42を放置した場合(図9(a))には、x=200[mm]の位置で濃度が最大となっている。これに対し、凝固と融解を繰り返した場合(図9(b))には、概ねx=190[mm]の位置で濃度が最大となっている。しかし、濃度変化の前半部分(x=0~90[mm]、c(濃度、縦軸)=6.4%以下)の辺りの範囲であれば、濃度の変化に差は見られない。
【0050】
このことから、チューブ32の閉じた側の端部(閉塞端部)32aに近いx=0~90[mm]で凝固を開始させることができれば、繰り返しの使用による濃度変化が、凝固に影響を与えるのを防止できるといえる。また、実験では、チューブ32内の濃度が6.4%以下の場合には、-14℃までには凝固させることができた。このため、蓄冷剤21を濃度15%のNaCl水溶液(凝固点が-11℃)とした場合には、過冷度を3K(ケルビン)に抑えることが可能となる。
【0051】
ここで、図9(b)に係る300回の凝固と融解は、蓄冷体10について、1日に2回の凝固と融解が行われると仮定すると、蓄冷体10を少なくとも150日間使用できることとなる。したがって、過冷却解消装置31は、十分に実用性を有している。なお、図9(a)、(b)に係る実験では、チューブ32の内径は1mm、外径は2mmとした。
【0052】
<<2-7.時間経過による濃度上昇>>
図10は、チューブ32内の濃度の時間経過による変化を調べるための実験装置の概要を示している。図11の左右のグラフは、図10の実験装置を用いた実験結果(エラーバーを用いて示す)と、前掲の式(1)による理論値の曲線とを重ねて示している。図11における左側のグラフは、実測値と理論値の補正前の関係を示しており、図11における右側のグラフは、実測値と理論値の補正前の関係を示している。
【0053】
先ず、図10の実験装置及び実験方法について説明する。水(凝固伝播剤42)を注入したチューブ32を複数用意し、各チューブ32の一端部(図7における上端部)32aを、接着剤(閉塞部材54)により塞いで密閉する。試験管56に、濃度15wt%のNaCl水溶液(蓄冷剤21)を収容し、このNaCl水溶液(蓄冷剤21)に、チューブ32の、開放された端部(図7における下端部)32bを含む1/2程度を浸ける。試験管56の口はビニール製のラップ材(図10では「ラップ」と示す)59により覆う。チューブ32は、ラップ材59に通す。
【0054】
続いて、10分おきに1本ずつチューブ32を取り出し、チューブ32内の全ての水(凝固伝播剤42)を濃度測定器(Brix屈折計、図示略)に移して、水(凝固伝播剤42)の濃度を測定する。水(凝固伝播剤42)の濃度の測定結果を、解析から算出した平均の濃度(理論値)と照合する。
【0055】
図11の左側のグラフに実験結果を示す。測定された濃度は、エラーバーと平均値(丸印)を用いて示されている。測定された濃度は、理論値(理論値曲線60により示す)と比べて、全般に亘り、濃度が高い側にシフトしている。
【0056】
時間が0[min]の場合における濃度のデータは、チューブ32を試験管56のNaCl水溶液(蓄冷剤21)に浸け、即座にチューブ32をNaCl水溶液(蓄冷剤21)から取り出して得られた値である。図11の左側のグラフでは、時間が0[min]の時点において、濃度が0.2%程度を示している。
【0057】
発明者らは、このようなデータについて、拡散とは別な理由により得られているものであると推測した。理由の一つとして、チューブ32の弾性を挙げることができる。すなわち、チューブ32が弾性を有しているため、チューブ32をNaCl水溶液(蓄冷剤21)に浸けた際に、ある程度の量の水(凝固伝播剤42)が押し出されると推測される。そして、即座にチューブ32をNaCl水溶液(蓄冷剤21)から引き抜いた際に、ある程度の量のNaCl水溶液(蓄冷剤21)が、チューブ32に入り込むと推測される。
【0058】
このような仮説に基づき、測定値に対し-0.2の補正を行ったところ、図11の右側のグラフに示すように、測定値(補正済)と理論値とがほぼ一致した。これにより、図3に示す過冷却解消装置31においては、式(1)に示すフィックの法則(非定常濃度拡散方程式)に基づいた設計が可能であることが裏付けられた。なお、図10及び図11に係る実験では、チューブ32の内径は1mm、外径は2mmとした。
【0059】
<<2-8.チューブ32内の水の凝固点と過冷度の測定>>
チューブ32は、柔軟性を有する。このため、金属等の硬質な素材を用いてチューブ32を形成した場合に比べて、結晶化を促す部分が少なく、その分凝固が遅くなる。したがって、チューブ32の中に、凝固伝播剤42の結晶化を促す物質(結晶核体)を配置することで、より一層、過冷却を解消できると考えられる。
【0060】
凝固伝播剤42、十分に素早く自然に凝固(自然凝固)させることができれば、結晶核体を追加しなくてもよい。しかし、自然凝固では十分な場合には、凝固伝播剤42に接するよう結晶核体を設けることが有効と考えられる。
【0061】
図12は、チューブ32の中に結晶核体を配置して過冷度の測定を行った実験装置の概要を示している。チューブ32内に凝固伝播剤42の結晶化を促す結晶核体が入っている。結晶核体には金属を用い、金属として銅線64を採用した。銅線64の長さは20mmとし、銅線64の直径(外径)は0.3mmとした。銅線64の配置は、チューブ32における開放側の端部32b寄りの部位とした。チューブ32の内径は1mm、外径は2mmとした。
【0062】
結晶核体(図12の例では銅線64)の配置は、チューブ32における閉塞側の端部32a寄りの部位に行ったほうが、望ましい。これは、凝固伝播剤42の凝固が奥から開始され、凝固が凝固伝播剤42の全体に行き渡るためである。
【0063】
また、図7に基づいて説明したように、チューブ32の開放した端部32bにおいては、蓄冷剤21の凝固と融解により、凝固伝播剤42の侵入がある。このため、チューブ32の開放した端部32bにおいて、次第に濃度が高くなり、凝固点が上がる。したがって、結晶核体(図12の例では銅線64)の配置は、チューブ32における閉塞側の端部32a寄りの部位に行ったほうが、望ましい。
【0064】
しかし、実験で用いられたチューブ32の内径や、銅線64の直径は、1mm以下という小さな値である。そして、手作業で、銅線64をチューブ32の奥へ配置することは容易ではない。このため、実験では銅線64の配置を、手作業が比較的容易な、チューブ32における開放側の端部32b寄りの部位とした。
【0065】
チューブ32は、恒温槽66の中に収容した。恒温槽66には不凍液68を収容し、チューブ32は、不凍液68の中に配置した。チューブ32の開放側の端部32bに熱電対70を差し込み、熱電対70からの信号の変化をA/D(アナログ/デジタル)変換機72に入力し、凝固伝播剤42の温度変化を計測した。また、チューブ32に銅線64を入れない状態についても、凝固伝播剤42の温度変化を計測した。
【0066】
図13における曲線C1は、銅線64をチューブ32内に入れた場合(銅線ありの場合)の温度変化を示しており、曲線C2は、銅線64をチューブ32内に入れない場合(銅線なしの場合)の温度変化を示している。いずれの場合も、時間(横軸)が経過し、凝固伝播剤42の冷却が進むことにより、温度(縦軸)が徐々に下がっている。経過時間が200[s]を過ぎたあたりで、温度のジャンプが見られ、凝固伝播剤42が凝固している。
【0067】
曲線C2で示す銅線なしの場合は、-15.4℃で凝固しており、過冷度は-15.4K(ケルビン)である。これに対し、曲線C1で示す銅線ありの場合は、-7.9℃で凝固しており、過冷度は-7.7K(ケルビン)である。図12及び図13に示す実験により、銅線64を用いることで、過冷度が減少することを確認できた。
【0068】
そして、図13に示す実験結果によれば、例えば、凝固伝播剤42を水とし、蓄冷剤21を濃度15%のNaCl水溶液(凝固点が-11℃)とした場合には、チューブ32内に銅線64を入れることで、蓄冷剤21が凝固点である-11℃(過冷度:-11K)に達する前に、凝固伝播剤42を凝固させることができる。
【0069】
なお、結晶核体は、氷核となり得るものであればよい。結晶核体は、可能な限り表面状態の変化が見られないものが望ましい。結晶核体として、ヨウ化銀の粒子などを利用することも可能である。ヨウ化銀は、表面の状態が変化し難い。また、ヨウ化銀の結晶構造は、水や水溶液を凝固させるのに適している。このため、ヨウ化銀は、結晶核体として利用するのに好適である。特に、ヨウ化銀の粒子を凝固伝播剤42に混合することで、効果的に凝固伝播剤42を凝固させることができる。ヨウ化銀以外にも、錆び難い素材(ステンレス鋼など)であれば、結晶核体に適している。ただし、銅線64などの、比較的入手が容易で、加工し易い素材を利用することで、結晶核体に係るコストを低く抑えることができる。
【0070】
また、チューブ32の両端部32a、32bを開放する例について前述したが、この場合には、結晶核体を、チューブ32の、軸方向における中央部(各端部32a、32bから概ね等しい距離の位置)に配置することが有効と考えられる。
【0071】
<<2-9.チューブ32外のNaCl水溶液の凝固>>
図14は、チューブ32の外側のNaCl水溶液の温度変化を測定した実験装置と実験方法を示している。図14の実験装置においては、図10に示した実験と同様に、試験管56に、濃度15wt%のNaCl水溶液(蓄冷剤21)を収容し、このNaCl水溶液(蓄冷剤21)に、チューブ32の開放側の端部(図14における下端部)32bを含む1/2程度を浸けた。チューブ32のもう一方の端部(図12における上端部)32aは、接着剤(閉塞部材54)により塞いで密閉した。
【0072】
チューブ32の中には、水(凝固伝播剤42)を注入し、水(凝固伝播剤42)の中には、結晶核体となる銅線64を入れた。銅線64の大きさは、図12及び図13に示す実験と同様に、長さが20mm、直径(外径)が0.3mmである。銅線64は、チューブ32における開放側の端部32b寄りの部位に配置した。
【0073】
図14に示す実験でも熱電対70を用いられているが、熱電対70は、チューブ32の中ではなく、チューブ32の外側のNaCl水溶液(蓄冷剤21)に差し込まれている。熱電対70は、試験管56に差し込まれ、チューブ32の外側の周りにおけるNaCl水溶液(蓄冷剤21)の温度測定に用いられている。熱電対70からの信号の変化はA/D変換機72に入力される。
【0074】
図15は、温度測定の結果を示している。実験結果においても、時間(横軸)が経過し、凝固伝播剤42の冷却が進むことにより、温度(縦軸)が徐々に下がっている。経過時間が400[s]を過ぎ、温度が-11.9℃に達したあたりで、温度のジャンプが見られる。温度のジャンプは、曲線の高温側に突出する部分により示される。
【0075】
このときに、チューブ32内における凝固伝播剤42の凝固が伝播し、NaCl水溶液(蓄冷剤21)が凝固したことが、図15の実験結果から確認できる。つまり、チューブ32内に銅線64を入れることで、チューブ32の周囲のNaCl水溶液(蓄冷剤21)を、従来の冷却温度(-21℃など)よりも低い温度(ここでは-11.9℃)で、凝固させることが可能である。このことにより、従来の一般的な冷凍機を用いたまま、過冷却を解消することが可能となる。
【0076】
<<2-10.その他の実験>>
図示は省略するが、発明者らは、複数の過冷却解消装置31を蓄冷剤21に収容して蓄冷剤21を冷却する実験も行った。この実験では、複数回の温度のジャンプ(1回のジャンプについては図15の曲線の突出箇所を参照)が見られた。
【0077】
なお、前述した実施形態は、本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその要旨、又はその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【実施例0078】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下により何ら限定されるものではない。
【0079】
<実施例1>
実施例1においては、図3を援用して示すチューブ32の長さを200mmとし、内径を0.7mmとする。 チューブの素材をポリウレタンとする。チューブ32の一端部32aを接着剤(閉塞部材54)により密閉する。凝固伝播剤42は水(凝固点:0℃)とし、蓄冷剤21として濃度15%のNaCl水溶液(凝固点:-11℃)を用いる。銅線64(図12参照)のような結晶核体の収容は行わない。実施例1は、図3に基づき説明した実施形態と同様の構成を備えており、図9(a)、(b)に基づき説明した実験結果と同様に、凝固と融解の繰り返しが可能である。さらに、凝固伝播剤42の過冷度を低下させることができる。
【0080】
<実施例2>
実施例2においては、実施例1の構成に加え、結晶核体として銅線64(図12参照)を用いる。銅線64の長さを20mmとし、直径を0.3mmとする。実施例2は、図12及び図14に示した実験装置や、図13及び図15に示した実験結果と同様に、凝固伝播剤42や蓄冷剤21の過冷度を低下させることができる。
【0081】
<実施例3>
実施例2においては、閉塞部材54が接着剤であったが、接着剤を栓(図6を援用する)に置き換え、栓を閉塞部材54とする。
【符号の説明】
【0082】
10 :蓄冷体
11 :蓄冷剤容器
13 :蓄冷剤充填口
21 :蓄冷剤
31 :過冷却解消装置
32 :チューブ
32a :閉塞側の端部
32b :開放側の端部
42 :凝固伝播剤
54 :閉塞部材
56 :試験管
59 :ラップ材
60 :理論値曲線
64 :銅線
66 :恒温槽
68 :不凍液
70 :熱電対

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15