IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ウーブン・プラネット・ホールディングス株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-遠隔運転システム、通信方法 図1
  • 特開-遠隔運転システム、通信方法 図2
  • 特開-遠隔運転システム、通信方法 図3
  • 特開-遠隔運転システム、通信方法 図4
  • 特開-遠隔運転システム、通信方法 図5
  • 特開-遠隔運転システム、通信方法 図6
  • 特開-遠隔運転システム、通信方法 図7
  • 特開-遠隔運転システム、通信方法 図8
  • 特開-遠隔運転システム、通信方法 図9
  • 特開-遠隔運転システム、通信方法 図10
  • 特開-遠隔運転システム、通信方法 図11
  • 特開-遠隔運転システム、通信方法 図12
  • 特開-遠隔運転システム、通信方法 図13
  • 特開-遠隔運転システム、通信方法 図14
  • 特開-遠隔運転システム、通信方法 図15
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023117982
(43)【公開日】2023-08-24
(54)【発明の名称】遠隔運転システム、通信方法
(51)【国際特許分類】
   H04L 45/121 20220101AFI20230817BHJP
   H04W 36/16 20090101ALI20230817BHJP
   H04W 72/044 20230101ALI20230817BHJP
   H04W 4/30 20180101ALI20230817BHJP
【FI】
H04L45/121
H04W36/16
H04W72/04 135
H04W4/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022020823
(22)【出願日】2022-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】521042770
【氏名又は名称】ウーブン・バイ・トヨタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】末廣 優樹
(72)【発明者】
【氏名】伊東 孝紘
(72)【発明者】
【氏名】金子 直矢
【テーマコード(参考)】
5K030
5K067
【Fターム(参考)】
5K030GA02
5K030HA08
5K030LB06
5K030LB08
5K067AA21
5K067BB28
5K067EE24
5K067HH22
5K067JJ11
5K067JJ39
(57)【要約】
【課題】通信回線の切り替え前後で送信したデータが受信側において逆転して受信されることを抑制することが可能な遠隔運転システムを提供する。
【解決手段】本開示に係る遠隔運転システムは、1又は複数のプロセッサを備える。1又は複数のプロセッサは、遠隔運転車と遠隔運転装置との間に形成可能な複数の通信回線から1つの選択回線を選択する処理と、選択回線の通信環境情報を取得する処理と、通信環境情報に基づいて選択回線を切り替える処理と、選択回線を介して遠隔運転車と遠隔運転装置との間でデータの送信を行う送信処理と、を実行するように構成される。送信処理は、送信するデータが時系列データであって選択回線の切り替えが行われたときに、切り替え後の選択回線を介した時系列データの送信を、切り替え時点から切り替え前の選択回線の遅延時間の経過後に開始する遷移制御処理を含む。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠隔運転車と遠隔運転装置との間で通信を行うことにより遠隔運転を実施する遠隔運転システムであって、
1又は複数のプロセッサを備え、
前記1又は複数のプロセッサは、
前記遠隔運転車と前記遠隔運転装置との間に形成可能な複数の通信回線から1つの選択回線を選択する処理と、
前記選択回線の通信環境情報を取得する処理と、
前記通信環境情報に基づいて、前記選択回線を切り替える回線切り替え処理と、
前記選択回線を介して前記遠隔運転車と前記遠隔運転装置との間でデータの送信を行う送信処理と、
を実行するように構成され、
前記送信処理は、送信する前記データが時系列データであって前記回線切り替え処理により前記選択回線の切り替えが行われたときに、切り替え後の前記選択回線を介した前記時系列データの送信を、切り替え時点から切り替え前の前記選択回線の遅延時間の経過後に開始する遷移制御処理を含む
ことを特徴とする遠隔運転システム。
【請求項2】
請求項1に記載の遠隔運転システムであって、
前記1又は複数のプロセッサは、前記通信環境情報に基づいて前記遅延時間を推定する処理をさらに実行するように構成されている
ことを特徴とする遠隔運転システム。
【請求項3】
請求項1に記載の遠隔運転システムであって、
前記通信環境情報は、前記選択回線のRTTの情報を含み、
前記遷移制御処理は、前記遅延時間をRTT/2とすることを含む
ことを特徴とする遠隔運転システム。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の遠隔運転システムであって、
前記遷移制御処理の対象とする特定のデータの種別を格納する記憶装置をさらに備え、
前記送信処理は、送信する前記データの種別が前記特定のデータの種別に含まれることをさらに条件として前記遷移制御処理を実行することを含む
ことを特徴とする遠隔運転システム。
【請求項5】
複数の通信回線から選択する1つの選択回線を介してデータの送受信を行う通信方法であって、
前記選択回線の通信環境情報を取得することと、
前記通信環境情報に基づいて、前記選択回線を切り替えることと、
前記選択回線を介して前記データの送信を行うことと、
を含み、
前記データの送信を行うことは、送信する前記データが時系列データであって前記選択回線の切り替えが行われたときに、切り替え後の前記選択回線を介した前記時系列データの送信を、切り替え時点から切り替え前の前記選択回線の遅延時間の経過後に開始することを含む
ことを特徴とする通信方法。
【請求項6】
遠隔運転車と遠隔運転装置との間で通信を行うことにより遠隔運転を実施する遠隔運転システムであって、
1又は複数のプロセッサを備え、
前記1又は複数のプロセッサは、
前記遠隔運転車と前記遠隔運転装置との間に形成可能な複数の通信回線から1つの選択回線を選択する処理と、
前記選択回線の通信環境情報を取得する処理と、
前記通信環境情報に基づいて、前記選択回線を切り替える回線切り替え処理と、
前記選択回線を介して前記遠隔運転車と前記遠隔運転装置との間でデータの送信を行う送信処理と、
を実行するように構成され、
前記送信処理は、送信する前記データが時系列データであって前記回線切り替え処理により前記選択回線の切り替えが行われたときに、切り替え時点から切り替え前の前記選択回線の遅延時間と切り替え後の前記選択回線の前記遅延時間の差だけ過去の間に送信した前記時系列データのうち最先の時点の前記時系列データから再度送信する再送信処理を含む
ことを特徴とする遠隔運転システム。
【請求項7】
請求項6に記載の遠隔運転システムであって、
前記1又は複数のプロセッサは、前記通信環境情報に基づいて前記遅延時間を推定する処理をさらに実行するように構成されている
ことを特徴とする遠隔運転システム。
【請求項8】
請求項6に記載の遠隔運転システムであって、
前記通信環境情報は、前記選択回線のRTTの情報を含み、
前記再送信処理は、前記遅延時間をRTT/2とすることを含む
ことを特徴とする遠隔運転システム。
【請求項9】
請求項6乃至請求項8のいずれか1項に記載の遠隔運転システムであって、
前記再送信処理の対象とする特定のデータの種別を格納する記憶装置をさらに備え、
前記送信処理は、送信する前記データの種別が前記特定のデータの種別に含まれることをさらに条件として前記再送信処理を実行することを含む
ことを特徴とする遠隔運転システム。
【請求項10】
複数の通信回線から選択する1つの選択回線を介してデータの送受信を行う通信方法であって、
前記選択回線の通信環境情報を取得することと、
前記通信環境情報に基づいて、前記選択回線を切り替えることと、
前記選択回線を介して前記データの送信を行うことと、
を含み、
前記データの送信を行うことは、送信する前記データが時系列データであって前記選択回線の切り替えが行われたときに、切り替え時点から切り替え前の前記選択回線の遅延時間と切り替え後の前記選択回線の前記遅延時間の差だけ過去の間に送信した前記時系列データのうち最先の時点の前記時系列データから再度送信することを含む
ことを特徴とする通信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複数の通信回線を切り替えて通信を行う技術に関する。特に、遠隔運転システムにおける遠隔運転車と遠隔運転装置との間で通信を行う技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、複数の通信回線を備える移動体通信システムにおいて、通信を行う一の回線に障害が発生した場合に複数の回線の中の他の回線に切り替えて通信を継続することで、通信品質の向上を図る技術が開示されている。
【0003】
また特許文献2には、複数のパケット交換機と回線から構成されるパケット交換システムにおけるルーティング方式に関して、発信端末を収容するパケット交換機から着信端末を収容するパケット交換機へのパケットの転送遅延時間が最小となる方路を自動的に選択してルーティングを行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018―093524号公報
【特許文献2】特開平09―321795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通信回線の切り替えは、通信に障害が発生した場合に限らず、より良い通信が可能な通信回線を随時選択するように行われることが考えられる。この場合、典型的には、切り替え後の通信回線の遅延時間は、切り替え前の通信回線の遅延時間よりも改善される。特に、遠隔運転システムにおける遠隔運転車と遠隔運転装置との間の通信では、通信遅延が極力少ないことが求められるため、かかる通信回線の切り替え技術を適用することが考えられている。
【0006】
しかしながら、切り替え後の通信回線の遅延時間が切り替え前の通信回線の遅延時間より改善された結果、通信回線の切り替え前後で送信したデータが受信側において逆転して受信される虞がある。特に、遠隔運転システムにおいて、連続的な時系列データを送信する場合にデータが逆転して受信されると、意図しない車両挙動が発生し車両の安全性が低下する虞がある。また遠隔運転のオペレータは、車両挙動の違和感のため、遠隔運転システムに異常が発生したと誤認してしまう虞がある。
【0007】
本開示の1つの目的は、上記課題を鑑み、通信回線の切り替え前後で送信したデータが受信側において逆転して受信されることを抑制することが可能な遠隔運転システム及び通信方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の開示は、遠隔運転車と遠隔運転装置との間で通信を行うことにより遠隔運転を実施する遠隔運転システムに関する。
第1の開示に係る遠隔運転システムは、1又は複数のプロセッサを備えている。前記1又は複数のプロセッサは、前記遠隔運転車と前記遠隔運転装置との間に形成可能な複数の通信回線から1つの選択回線を選択する処理と、前記選択回線の通信環境情報を取得する処理と、前記通信環境情報に基づいて前記選択回線を切り替える処理と、前記選択回線を介して前記遠隔運転車と前記遠隔運転装置との間でデータの送信を行う送信処理と、を実行するように構成されている。ここで、前記送信処理は、送信する前記データが時系列データであって前記回線切り替え処理により前記選択回線の切り替えが行われたときに、切り替え後の前記選択回線を介した前記時系列データの送信を、切り替え時点から切り替え前の前記選択回線の遅延時間の経過後に開始する遷移制御処理を含んでいる。
【0009】
第2の開示は、第1の開示に係る遠隔運転システムに対して、さらに以下の特徴を有する遠隔運転システムに関する。
前記1又は複数のプロセッサは、前記通信環境情報に基づいて前記遅延時間を推定する処理をさらに実行するように構成されている。
【0010】
第3の開示は、第1の開示に係る遠隔運転システムに対して、さらに以下の特徴を有する遠隔運転システムに関する。
前記通信環境情報は、前記選択回線のRTTの情報を含んでいる。また、前記遷移制御処理は、前記遅延時間をRTT/2とすることを含む。
【0011】
第4の開示は、第1乃至第3のいずれか1つの開示に係る遠隔運転システムに対して、さらに以下の特徴を有する遠隔運転システムに関する。
第4の開示に係る遠隔運転システムは、前記遷移制御の対象とする特定のデータの種別を格納する記憶装置をさらに備えている。また、前記送信処理は、送信する前記データの種別が前記特定のデータの種別に含まれることをさらに条件として前記遷移制御処理を実行することを含んでいる。
【0012】
第5の開示は、複数の通信回線から選択する1つの選択回線を介してデータの送受信を行う通信方法に関する。
第5の開示に係る通信方法は、前記選択回線の通信環境情報を取得することと、前記通信環境情報に基づいて前記選択回線を切り替えることと、前記選択回線を介して前記データの送信を行うことと、を含んでいる。ここで、前記データの送信を行うことは、送信する前記データが時系列データであって前記選択回線の切り替えが行われたときに、切り替え後の前記選択回線を介した前記時系列データの送信を、切り替え時点から切り替え前の前記選択回線の遅延時間の経過後に開始することを含んでいる。
【0013】
第6の開示は、遠隔運転車と遠隔運転装置との間で通信を行うことにより遠隔運転を実施する遠隔運転システムに関する。
第6の開示に係る遠隔運転システムは、1又は複数のプロセッサを備えている。前記1又は複数のプロセッサは、前記遠隔運転車と前記遠隔運転装置との間に形成可能な複数の通信回線から1つの選択回線を選択する処理と、前記選択回線の通信環境情報を取得する処理と、前記通信環境情報に基づいて前記選択回線を切り替える回線切り替え処理と、前記選択回線を介して前記遠隔運転車と前記遠隔運転装置との間でデータの送信を行う送信処理と、を実行するように構成されている。ここで、前記送信処理は、送信する前記データが時系列データであって前記回線切り替え処理により前記選択回線の切り替えが行われたときに、切り替え時点から切り替え前の前記選択回線の遅延時間と切り替え後の前記選択回線の前記遅延時間の差だけ過去の間に送信した前記時系列データのうち最先の時点の前記時系列データから再度送信する再送信処理を含んでいる。
【0014】
第7の開示は、第6の開示に係る遠隔運転システムに対して、さらに以下の特徴を有する遠隔運転システムに関する。
前記1又は複数のプロセッサは、前記通信環境情報に基づいて前記遅延時間を推定する処理をさらに実行するように構成されている。
【0015】
第8の開示は、第6の開示に係る遠隔運転システムに対して、さらに以下の特徴を有する遠隔運転システムに関する。前記通信環境情報は、前記選択回線のRTTの情報を含んでいる。また、前記再送信処理は、前記遅延時間をRTT/2とすることを含んでいる。
【0016】
第9の開示は、第6乃至第8のいずれか1つの開示に係る遠隔運転システムに対して、さらに以下の特徴を有する遠隔運転システムに関する。
第9の開示に係る遠隔運転システムは、前記再送信処理の対象とする特定のデータの種別を格納する記憶装置をさらに備えている。また、前記送信処理は、送信する前記データの種別が前記特定のデータの種別に含まれることをさらに条件として前記再送信処理を実行することを含んでいる。
【0017】
第10の開示は、複数の通信回線から1つの選択回線を介してデータの送受信を行う通信方法に関する。
第10の開示に係る通信方法は、前記選択回線の通信環境情報を取得することと、前記通信環境情報に基づいて前記選択回線を切り替えることと、前記選択回線を介して前記データの送信を行うことと、を含んでいる。ここで、前記データの送信を行うことは、送信する前記データが時系列データであって前記選択回線の切り替えが行われたときに、切り替え時点から切り替え前の前記選択回線の遅延時間と切り替え後の前記選択回線の前記遅延時間の差だけ過去の間に送信した前記時系列データのうち最先の時点の前記時系列データから再度送信することを含んでいる。
【発明の効果】
【0018】
本開示によれば、選択回線の切り替えが行われたとき、データの送信に際して所定の条件のもとで遷移制御処理、又は再送信処理が実行される。遷移制御処理の実行により、選択回線の切り替えが行われた後のデータの送信は、切り替え時点から切り替え前の選択回線の遅延時間が経過するまで送信が待機される。また再送信処理の実行により、切り替え後の選択回線において、切り替え時点から切り替え前の選択回線の遅延時間と切り替え後の選択回線の遅延時間の差だけ過去の間に送信した時系列データのうち最先の時点の時系列データが再度送信される。
【0019】
これにより、連続的な時系列データを送信する場合に、選択回線の切り替え前後で送信された時系列データが受信側において逆転して受信されることを抑制することができる。延いては、車両の安全性の向上やオペレータによる運転操作の操作性の向上に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】第1実施形態に係る遠隔運転システムの概要を説明するための概念図である。
図2】通信装置の概要について説明するための概念図である。
図3】回線切り替え処理の概要について説明するための概念図である。
図4】通信回線の切り替え前後で送信したデータが受信側において逆転して受信される場合の例を示す概念図である。
図5】遷移制御処理の概要について説明するための概念図である。
図6】対象データ決定ポリシーの例を示す図である。
図7】遠隔運転車の概略構成を示すブロック図である。
図8】遠隔運転装置の概略構成を示すブロック図である。
図9】通信装置の概略構成を示すブロック図である。
図10】送受信処理部がデータの送信において実行する処理の構成を示すブロック図である。
図11】第1実施形態に係る遠隔運転システムにおいて実現される通信方法を示すフローチャートである。
図12】変形例に係る送受信処理部がデータの送信において実行する処理の構成を示すブロック図である。
図13】再送信処理の概要について説明するための概念図である。
図14】第2実施形態に係る送受信処理部がデータの送信において実行する処理の構成を示すブロック図である。
図15】第2実施形態に係る遠隔運転システムにおいて実現される通信方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本開示の実施形態について説明する。ただし、以下に示す実施の形態において各要素の個数、数量、量、範囲などの数に言及した場合、特に明示した場合や原理的に明らかにその数が特定される場合を除いて、その言及した数に、本開示に係る思想が限定されるものではない。また、以下に示す実施の形態において説明する構成等は、特に明示した場合や原理的に明らかにそれに特定される場合を除いて、本開示に係る思想に必ずしも必須のものではない。なお、各図中、同一又は相当する部分には同一の符号を附しており、その重複説明は適宜に簡略化ないし省略する。
【0022】
1.第1実施形態
1-1.概要
図1は、第1実施形態に係る遠隔運転システム10の概要を説明するための概念図である。遠隔運転システム10では、遠隔運転装置200において受け付けたオペレータ2の運転操作に従って遠隔運転車100が走行することにより遠隔運転が行われる。
【0023】
遠隔運転装置200は、遠隔運転車100に備えるカメラ120が撮像する走行映像を表示する表示装置250と、オペレータ2の運転操作を受け付ける運転操作装置230と、を備えている。オペレータ2は、走行映像を視認することで遠隔運転車100の走行環境を認識し、運転操作装置230を操作することとなる。さらに、オペレータ2が遠隔運転車100の車内又は周囲の音を認識できるように構成されていても良い。この場合、例えば、遠隔運転車100は、遠隔運転車100の車内又は周囲の音を集音するマイクを備える。
【0024】
ここで、遠隔運転車100と遠隔運転装置200との間の通信は、通信ネットワーク1を介して行われる。言い換えれば、遠隔運転車100と遠隔運転装置200は、通信ネットワーク1上に通信回線を形成する。例えば、カメラ120が撮像する走行映像は通信ネットワーク1を介して遠隔運転装置200に伝達される。また遠隔運転装置200において受け付けた運転操作は、通信ネットワーク1を介して遠隔運転車100に伝達される。通信ネットワーク1は、例えば、遠隔運転車100と無線通信を行う基地局と、基地局が接続するインターネットと、により構成される。
【0025】
通信ネットワーク1上に形成される通信回線として、無線通信チャネル、インターネット回線、光回線、電気通信ケーブル等、あるいはこれらの組み合わせが例示される、通信回線は、「通信チャネル」と言い換えることもできる。
【0026】
遠隔運転車100と遠隔運転装置200との間の通信回線は、部分的に遠隔運転車100及び遠隔運転装置200とは異なる別の機器と共用となることが想定される。例えば、遠隔運転車100が基地局と通信を行うチャネルは、スマートフォン等の携帯端末3が基地局と通信を行うチャネルと同一であることが考えられる。また、同一の構成を有する複数の遠隔運転車100が走行している場合、複数の遠隔運転車100の各々は同一のチャネルで基地局と通信を行うこと考えられる。このように通信回線の利用状況によって、遠隔運転車100と遠隔運転装置200との間の通信回線の通信環境(混雑状況や品質等)は変化する。また、遠隔運転車100の周囲の環境によっても通信回線の通信環境が変化することが考えられる。
【0027】
通信回線の通信環境は、例えば、RTT(Round Trip Time)、レイテンシ、ビット誤り率、回線利用率等を指標とすることができる。RTTやレイテンシは、例えば、測定信号の送信及び送信した測定信号に対する応答信号の受信により測定することができる。
【0028】
図1に示す通信ネットワーク1には、サーバ4が接続している。サーバ4は、通信ネットワーク1上の通信回線の通信環境情報(RTTやレイテンシ等)を管理する。またサーバ4は、要求に応じて通信ネットワーク1上の特定の通信回線の通信環境情報を出力する。サーバ4は、通信ネットワーク1を介して通信を行う装置から通信環境情報を取得するように構成されていても良いし、測定信号の送信等により通信環境情報を算出するように構成されていても良い。サーバ4は、通信環境情報についての「データセンタ」や「データサーバ」と言い換えることもできる。
【0029】
遠隔運転車100及び遠隔運転装置200は、それぞれ通信装置110及び通信装置210を備えている。遠隔運転車100と遠隔運転装置200との間の通信は、通信装置110及び通信装置210が互いにデータの送受信処理を行うことで実現される。ここで、通信装置110及び通信装置210は、複数の通信回線から選択する1つの通信回線を介して互いにデータの送受信を行う。以下、通信装置110及び通信装置210が互いにデータの送受信を行う通信回線を「選択回線」とも称する。
【0030】
図2は、通信装置110及び通信装置210の概要について説明するための概念図である。通信装置110は、送受信処理部111と、送受信機112を備えている。同様に、通信装置210は、送受信処理部211と、送受信機212を備えている。図2では、複数の通信回線として、第1回線20a及び第2回線20bが示されている。図2では、通信装置110及び通信装置210は、第1回線20a又は第2回線20bのいずれか一方を選択回線として互いにデータの送受信を行う。
【0031】
送受信処理部111は、送受信機112によるデータの送信を行う送信処理と、送受信機112で受信した受信信号からデータを取得する受信処理と、を実行する。送信処理は、例えば、所定の通信プロトコルに従って送信信号を生成する処理である。受信処理は、例えば、所定の通信プロトコルに従って受信信号からデータを抽出する処理である。同様に、送受信処理部211は、送受信機212によるデータの送信を行う送信処理と、送受信機212で受信した受信信号からデータを取得する受信処理と、を実行する。
【0032】
送受信機112は、選択回線を介して、送受信処理部111から伝達される送信信号を通信装置210に送信する。また通信装置210から送信される信号を検知し受信信号として取得する。同様に、送受信機212は、送受信処理部211から伝達される送信信号を通信装置110に送信する。また通信装置110から送信される信号を検知し受信信号として取得する。
【0033】
送受信機112及び送受信機212は、第1実施形態に係る遠隔運転システム10を適用する環境に応じて公知の好適な構成を採用して良い。例えば、送受信機112又は送受信機212は、送信信号により変調した変調信号をアンテナにより電波として送信するとともに、アンテナで受信した電波を復調して受信信号を取得するように構成される。あるいは、送受信機112又は送受信機212は、送信信号を光信号に変換して送信するとともに、受信した光信号を変換して受信信号を取得するように構成される。
【0034】
送受信処理部111は、データの送信に際して、通信環境情報に応じて選択回線を切り替える処理(以下、「回線切り替え処理」とも称する。)を実行する。通信環境情報は、通信装置110が通信ネットワーク1を介してサーバ4から取得しても良いし、通信装置110において測定信号の送信等により算出しても良い。回線切り替え処理は、典型的には、遅延時間が小さい通信回線を選択回線とするように行われる。例えば、現在の選択回線が第1回線20aであり、第1回線20aのRTTが第2回線20bのRTTより大きいとき、第2回線20bを選択回線とする。一方で、第1回線20aのRTTが第2回線20bのRTTより小さいときは、選択回線は第1回線20aのままとなる。送受信処理部111は、回線切り替え処理の実行により選択回線を切り替える場合、送受信機112に対して選択回線の切り替えを要求する信号を生成する。切り替えを要求する信号に従って送受信機112が動作することにより、送受信機112のデータの送信における選択回線の切り替えが行われる。
【0035】
同様に、送受信処理部211は、データの送信に際して、回線切り替え処理を実行する。送受信処理部211は、回線切り替え処理の実行により選択回線を切り替える場合、送受信機212に対して選択回線の切り替えを要求する信号を生成する。
【0036】
図3は、回線切り替え処理の概要について説明するための概念図である。図3は、時系列に沿って、送信側が複数のデータ(data1,data2,・・・,data6)を所定の送信周期毎に送信する様子と、送信されたデータを受信側が受信する様子を示している。図3では、回線切り替え処理により、時刻Tsに選択回線が第1回線20aから第2回線20bに切り替わる場合を示している。図3において、第2回線20bの遅延時間は、第1回線20aの遅延時間より小さい。このように、回線切り替え処理が実行されることにより、遅延時間を改善することができる。
【0037】
ところで、切り替え後の通信回線の遅延時間が切り替え前の通信回線の遅延時間より改善された結果、通信回線の切り替え前後で送信側から送信したデータが受信側において逆転して受信される場合がある。図4は、通信回線の切り替え前後で送信したデータが、受信側において逆転して受信される場合の例を示す概念図である。図4は、図3と同様の図を示しており、時刻Tsに選択回線が第1回線20aから第2回線20bに切り替わる場合を示している。図4では、選択回線の遅延時間が改善された結果、切り替え前後で送信されたデータであるdata3とdata4が、受信側において逆転して受信される様子が示されている。
【0038】
このように、切り替え前後で送信されたデータが受信側において逆転して受信されると、連続的な時系列データを送信する場合に、送信側で送信する時系列データと受信側で受信する時系列データに乖離が生じてしまう。特に、遠隔運転システム10において、運転操作量(ステアリング操舵角、アクセル操作量、ブレーキ操作量等)や走行映像等の時系列データが受信側において逆転して受信されると、意図しない車両挙動が発生し車両の安全性が低下する虞がある。またオペレータ2は、車両挙動の違和感のため、遠隔運転システム10に異常が発生したと誤認してしまう虞がある。
【0039】
そこで、第1実施形態に係る遠隔運転システム10では、送受信処理部111及び送受信処理部211は、送信処理において、送信するデータが時系列データであって回線切り替え処理により選択回線の切り替えが行われたときに遷移制御処理を実行するように構成される。遷移制御処理は、切り替え後の選択回線を介した時系列データの送信を、切り替え時点から切り替え前の選択回線の遅延時間の経過後に開始する処理である。
【0040】
図5は、遷移制御処理の概要について説明するための概念図である。図5は、図3と同様の図を示しており、時刻Tsに選択回線が第1回線20aから第2回線20bに切り替わる場合を示している。また図5において送信側が送信するデータは時系列データであるとする。
【0041】
図5に示すように、遷移制御処理の実行により、選択回線の切り替えが行われた後のデータの送信は、送信周期に従うタイミングでは行われない。切り替え時点から第1回線20aの遅延時間が経過するまでデータの送信が待機される。これにより、連続的な時系列データを送信する場合に、切り替え前後で送信された時系列データが受信側において逆転して受信されることを抑制することができる。
【0042】
なお、送受信処理部111及び送受信処理部211は、送信するデータが遷移制御処理を実行する対象であるか否かを判定する。そして、送信するデータが遷移制御処理を実行する対象であることを受けて遷移制御処理を実行する。ここで、送信するデータが遷移制御処理を実行する対象であるか否かは、遷移制御処理を実行する対象である特定のデータの種別を示す「対象データ決定ポリシー」に基づいて判定される。
【0043】
図6に、遠隔運転装置200から遠隔運転車100に送信するデータについての対象データ決定ポリシーの例を示す。図6に示す対象データ決定ポリシーに基づけば、ステアリング操舵角、アクセル操作量、及びブレーキ操作量のデータに対して遷移制御処理が実行されることとなる。一方で、クラクション操作、右ウインカー操作、及び左ウインカー操作に対しては遷移制御処理が実行されないこととなる。
【0044】
対象データ決定ポリシーは、例えば、制御プログラム又は制御情報として通信装置110及び通信装置210それぞれにおいて与えられる。
【0045】
このように、対象データ決定ポリシーに基づき特定のデータに対して遷移制御処理を実行するように構成することで、受信側において逆転して受信されても支障のないデータに対して不必要に遷移制御処理が実行されることを抑制することができる。なお、対象データ決定ポリシーは、第1実施形態に係る遠隔運転システム10を適用する環境に応じて好適に与えられて良い。
【0046】
なお、前述した説明では、第1回線20aと第2回線20bの2つの通信回線を例として説明したが、複数の通信回線から1つの選択回線を選択する場合についても同様である。
【0047】
1-2.構成
以下、遠隔運転車100及び遠隔運転装置200の概略構成、また通信装置110及び通信装置210の概略構成について説明する。
【0048】
まず遠隔運転車100の概略構成について説明する。図7は、遠隔運転車100の概略構成を示すブロック図である。遠隔運転車100は、通信装置110と、カメラ120と、運転環境検出センサ130と、ECU140と、アクチュエータ150と、を備えている。通信装置110は、カメラ120、運転環境検出センサ130、及びECU140と互いに情報を伝達することができるように構成されている。またECU140は、カメラ120、運転環境検出センサ130、及びアクチュエータ150と互いに情報を伝達することができるように構成されている。典型的には、ワイヤーハーネスにより電気的に接続している。
【0049】
カメラ120は、遠隔運転車100に備えられ、遠隔運転車100の走行映像を撮像して出力する。カメラ120は、遠隔運転車100に対して複数の方向の走行映像を撮像する複数のカメラを含んでいても良い。カメラ120が出力する走行映像は、通信装置110及びECU140に伝達される。
【0050】
運転環境検出センサ130は、遠隔運転車100の運転環境に係る情報を検出し、検出情報を出力するセンサである。運転環境検出センサ130は、典型的には、遠隔運転車100の走行状態を検出する走行状態検出センサと、遠隔運転車100の周囲の環境(先行車、白線、障害物等)を検出する周囲環境検出センサと、を含んでいる。
【0051】
走行状態検出センサとして、遠隔運転車100の車速を検出する車輪速センサ、遠隔運転車100の加減速度を検出するGセンサ、遠隔運転車100のヨーレートを検出するジャイロセンサ等が例示される。周囲環境検出センサとして、ミリ波レーダ、ソナー、LiDAR(Light Detection And Ranging)等が例示される。運転環境検出センサ130が出力する検出情報は、通信装置110及びECU140に伝達される。
【0052】
ECU140は、取得する情報に基づいて、遠隔運転車100の制御に係る処理を実行し、制御信号を生成して出力する。特に、通信装置110から遠隔運転装置200において受け付けた運転操作の情報を取得し、運転操作に従って遠隔運転車100を制御する処理を実行し、制御信号を生成する。ECU140が出力する制御信号は、アクチュエータ150に伝達される。また、ECU140が出力する制御信号は、通信装置110に伝達されても良い。
【0053】
アクチュエータ150は、例えば、動力装置(内燃機関、電気モータ、ハイブリット機関等)を駆動するアクチュエータ、遠隔運転車100のブレーキ機構を駆動するアクチュエータ、遠隔運転車100のステアリング機構を駆動するアクチュエータ等を含んでいる。アクチュエータ150に含まれる種々のアクチュエータが、ECU140から取得する制御信号に従って動作することにより、ECU140による遠隔運転車100の制御が実現される。特に、遠隔運転装置200による遠隔運転車100の遠隔運転が実現される。
【0054】
通信装置110は、送信処理の実行により、選択回線を介して遠隔運転装置200にデータを送信する。また、受信処理の実行により、選択回線を介して遠隔運転装置200からデータを受信する。ここで、通信装置110が送信するデータは、カメラ120が撮像する走行映像、運転環境検出センサ130の検出情報、ECU140が出力する制御信号等である。
【0055】
次に遠隔運転装置200の概略構成について説明する。図8は、遠隔運転装置200の概略構成を示すブロック図である。遠隔運転装置200は、通信装置210と、情報処理装置220と、運転操作装置230と、操作盤240と、表示装置250と、を備えている。通信装置210は、情報処理装置220、運転操作装置230、及び操作盤240と互いに情報を伝達することができるように構成されている。また情報処理装置220は、通信装置210、運転操作装置230、操作盤240、及び表示装置250と互いに情報を伝達することができるように構成されている。
【0056】
運転操作装置230は、オペレータ2の運転操作を受け付け、運転操作の情報を出力する。運転操作装置230は、例えば、ステアリングホイール、ガスペダル、ブレーキペダル等が例示される。運転操作装置230が出力する運転操作の情報は、通信装置210及び情報処理装置220に伝達される。
【0057】
操作盤240は、オペレータ2の運転操作以外の種々の操作を受け付け、操作情報を出力する。例えば、操作盤240は、遠隔運転車100に備える装置の操作(アクセサリー機能のオンオフ、ドアの開閉、ライトの点灯等)や表示装置250の表示の切り替えを受け付ける。操作盤240は、例えば、スイッチ、タッチパネル等である。操作盤240が出力する操作情報は、通信装置210及び情報処理装置220に伝達される。
【0058】
情報処理装置220は、取得する情報に基づいて、種々の処理を実行するコンピュータである。特に、情報処理装置220は、表示装置250の表示を制御する処理を実行し、表示信号を生成して出力する。例えば、情報処理装置220は、通信装置210からカメラ120が撮像する走行映像や運転環境検出センサ130が検出する検出情報を表示装置250に表示するための表示信号を生成する。また操作盤240で受け付けた操作に応じて表示を切り替えるように表示信号を生成する。情報処理装置220が出力する表示信号は、表示装置250に伝達される。
【0059】
表示装置250は、情報処理装置220から取得する表示信号に従う表示を行う。これにより、カメラ120が撮像する走行映像や運転環境検出センサ130が検出する検出情報の表示が実現される。
【0060】
次に通信装置110及び通信装置210の概略構成について説明する。図9は、通信装置110の概略構成を示すブロック図である。ただし、通信装置210の概略構成についても同様である。
【0061】
通信装置110は、記憶装置113と、プロセッサ116と、を備えている。記憶装置113及びプロセッサ116により、送受信処理部111が構成される。
【0062】
記憶装置113は、プロセッサ116によって実行可能な制御プログラム114と、プロセッサ116が実行する処理に必要な制御情報115と、を格納している。記憶装置113として、揮発性メモリ、不揮発性メモリ、HDD、SSD等が例示される。
【0063】
制御プログラム114には、送受信機112によるデータの送信を行うためのプログラムと、送受信機112で受信した受信信号からデータを取得するためのプログラムと、が含まれる。
【0064】
制御情報115として、通信装置110が取得する情報、制御プログラム114に係るパラメータ情報、対象データ決定ポリシーを与える情報等が例示される。ただし、対象データ決定ポリシーは、制御プログラム114として与えられていても良い。
【0065】
プロセッサ116は、記憶装置113から制御プログラム114及び制御情報115を読み出し、制御情報115に基づいて制御プログラム114に従う処理を実行する。これにより、送受信機112によるデータの送受信が実現される。
【0066】
送受信処理部111及び送受信処理部211は、前述したようにデータの送信において実行する処理に特徴を有している。図10は、送受信処理部111及び送受信処理部211がデータの送信において実行する処理の構成を示すブロック図である。送受信処理部111及び送受信処理部211がデータの送信において実行する処理は、回線切り替え処理P100と、遅延時間推定処理P110と、対象データ判定処理P120と、を含んでいる。
【0067】
回線切り替え処理P100では、通信環境情報に基づいて、選択回線を切り替えるか否かを判定する。選択回線を切り替えると判定するとき、選択回線の切り替えを要求する信号(切り替え要求信号)が生成される。
【0068】
遅延時間推定処理P110では、通信環境情報に基づいて、選択回線の遅延時間を推定する。
【0069】
対象データ判定処理P120では、送信するデータが遷移制御処理P131の対象となるか否かを判定し、判定信号を生成する。ここで、送信するデータが遷移制御処理P131の対象となるか否かは、送信するデータの種別が対象データ決定ポリシーにより与えられる特定のデータの種別に含まれるか否かにより判定される。
【0070】
送信処理P130では、送信するデータに応じて送信信号を生成する。ここで、送信処理P130では、切り替え要求信号及び判定結果から、回線切り替え処理P100により選択回線の切り替えが行われること、及び送信するデータが遷移制御処理P131の対象となることを受けて、遷移制御処理P131を実行する。なお遷移制御処理P131の実行に際して、選択回線の遅延時間は遅延時間推定処理P110により推定された遅延時間が用いられる。
【0071】
切り換え要求信号及び送信信号は、送受信機112(送受信機212)に伝達される。そして切り換え要求信号及び送信信号に従って、送受信機112(送受信機212)における選択回線の切り替えと、送受信機112(送受信機212)によるデータの送信が行われる。
【0072】
1-3.通信方法
以下、図11を参照して、第1実施形態に係る遠隔運転システム10において実現される遠隔運転車100と遠隔運転装置200との間の通信方法について説明する。図11に示すフローチャートは、通信装置110又は通信装置210においてデータを送信する場合に開始し、各処理は、所定の制御周期毎に実行される。
【0073】
ステップS100において、データの送信に際して遷移制御処理P131が必要となるか否かを判定する。これは、前述したように、回線切り替え処理P100により選択回線の切り替えが行われること、及び対象データ判定処理P120において送信するデータが遷移制御処理P131の対象となることから判定することができる。
【0074】
さらに、選択回線の切り替え前後において、データの値の変動が所定の閾値以上となることを条件としても良い。この場合、選択回線の切り替え前後においてデータの値の変更が所定値未満であるときは、遷移制御処理P131が実行されない。これにより、データの値の変動が小さく、受信側において逆転して受信されても支障のない場合に不必要に遷移制御処理P131が実行されることを抑制することができる。
【0075】
遷移制御処理P131が必要となる場合(ステップS110;Yes)、遷移制御処理P131を実行し(ステップS120)、データの送信を行う(ステップS130)。遷移制御処理P131が必要でない場合(ステップS110;No)、遷移制御処理P131を実行することなく、データの送信を行う(ステップS130)。
【0076】
1-4.効果
以上説明したように、第1実施形態によれば、選択回線の切り替えが行われたとき、データの送信に際して所定の条件のもとで遷移制御処理P131が実行される。遷移制御処理P131の実行により、選択回線の切り替えが行われた後のデータの送信は、切り替え時点から切り替え前の選択回線の遅延時間が経過するまで送信が待機される。これにより、連続的な時系列データを送信する場合に、選択回線の切り替え前後で送信された時系列データが受信側において逆転して受信されることを抑制することができる。延いては、車両の安全性の向上やオペレータ2による運転操作の操作性の向上に寄与する。
【0077】
1-5.変形例
第1実施形態に係る遠隔運転システム10は、以下のように変形した態様を採用しても良い。
【0078】
通信装置110及び通信装置210は、通信環境情報として、選択回線のRTTを取得するように構成される。そして遷移制御処理P131の実行に際して、選択回線の遅延時間をRTT/2としても良い。つまり変形例では、遷移制御処理P131における切り替え後の送信待機の時間は実測値に基づいて与えられる。従って、変形例に係る遠隔運転システム10では、図10に示す遅延時間推定処理P110を実行することを要しない。変形例に係る送受信処理部111及び送受信処理部211がデータの送信において実行する処理の構成を図12に示す。
【0079】
このように変形した態様を採用することによっても、同様の効果を奏することが可能である。
【0080】
2.第2実施形態
以下、第2実施形態に係る遠隔運転システム10について説明する。ただし、第1実施形態において説明した事項と重複する内容については適宜省略している。
【0081】
第2実施形態に係る遠隔運転システム10では、送受信処理部111及び送受信処理部211は、送信処理において、送信するデータが時系列データであって回線切り替え処理により選択回線の切り替えが行われたときに再送信処理を実行するように構成される。再送信処理は、切り替え時点から切り替え前の選択回線の遅延時間と切り替え後の選択回線の遅延時間の差だけ過去の間に送信した時系列データのうち最先の時点の時系列データから再度送信する処理である。
【0082】
図13は、再送信処理の概要について説明するための概念図である。図13は、図3と同様の図を示しており、時刻Tsに選択回線が第1回線20aから第2回線20bに切り替わる場合を示している。また図13において送信側が送信するデータ時系列データであるとする。
【0083】
図13では、時刻Ts(切り替え時点)から第1回線20aの遅延時間(切り替え前の選択回線)と第2回線20bの遅延時間(切り替え後の選択回線)の差だけ過去の間に送信した時系列データは、data2及びdata3である。従って、図13に示す例では、再送信処理の実行により、第2回線20bを介してdata2から再度送信が行われる。
【0084】
切り替え時点から切り替え前の選択回線の遅延時間だけ過去の時点よりさらに過去の時点で送信されたデータ(例えば、図13に示すdata1)は、切り替え後の選択回線においてデータを送信する時点で受信側において受信されているはずである。また、切り替え時点から切り替え前の選択回線の遅延時間だけ過去の間に送信されたデータであっても、切り替え時点から切り替え前の選択回線と切り替え後の選択回線の差だけ過去の時点よりさらに過去の時点で送信されたデータは、切り替え後の選択回線の遅延時間により、切り替え後の選択回線において最初に送信したデータが受信側において受信される以前に受信側において受信される。従って、再送信処理の実行により、切り替え前後で送信された時系列データが受信側において逆転して受信されることを抑制することができる。
【0085】
なお、第1実施形態と同様に、送受信処理部111及び送受信処理部211は、送信するデータが再送信処理を実行する対象であるか否かを判定し、送信するデータが再送信処理を実行する対象であることを受けて再送信処理を実行する。ここで、送信するデータが再送信処理を実行する対象であるか否かは、第1実施形態と同様に対象データ決定ポリシーに基づいて判定されて良い。
【0086】
第2実施形態に係る遠隔運転車100及び遠隔運転装置200の構成は、第1実施形態において説明した構成と同等であって良い。また第2実施形態に係る通信装置110及び通信装置210の構成も、第1実施形態において説明した構成と同等であって良い。ただし、第2実施形態において、送受信処理部111及び送受信処理部211がデータの送信において実行する処理の構成は、第1実施形態と一部異なる。図14に、第2実施形態に係る送受信処理部111及び送受信処理部211がデータの送信において実行する処理の構成を示す。
【0087】
第2実施形態において、対象データ判定処理P120では、送信するデータが再送信処理P132の対象となるか否かを判定し、判定信号を生成する。ここで、送信するデータが再送信処理P132の対象となるか否かは、送信するデータの種別が対象データ決定ポリシーにより与えられる特定のデータの種別に含まれるか否かにより判定される。
【0088】
遅延時間推定処理P110では、選択回線の遅延時間を推定する。さらに切り替え要求信号から回線切り替え処理P100により選択回線の切り替えが行われることを受けて、切り替え後の選択回線の遅延時間を推定する。
【0089】
送信処理P130では、切り替え要求信号及び判定結果から、回線切り替え処理P100により選択回線の切り替えが行われること、及び送信するデータが再送信処理P132の対象となることを受けて、再送信処理P132を実行する。なお再送信処理P132の実行に際して、切り替え前の選択回線の遅延時間及び切り替え後の選択回線の遅延時間は遅延時間推定処理P110により推定された遅延時間が用いられる。
【0090】
以下、図15を参照して、第2実施形態に係る遠隔運転システム10において実現される遠隔運転車100と遠隔運転装置200との間の通信方法について説明する。
【0091】
ステップS200において、データの送信に際して再送信処理P132が必要となるか否かを判定する。これは、前述したように、回線切り替え処理P100により選択回線の切り替えが行われること、及び対象データ判定処理P120において送信するデータが再送信処理P132の対象となることから判定することができる。さらに、選択回線の切り替え前後において、データの値の変動が所定の閾値以上となることを条件としても良い。
【0092】
再送信処理P132が必要となる場合(ステップS210;Yes)、再送信処理P132を実行し(ステップS220)、データの送信を行う(ステップS230)。再送信処理P132が必要でない場合(ステップS210;No)、再送信処理P132を実行することなく、データの送信を行う(ステップS230)。
【0093】
以上説明したように、第2実施形態によれば、選択回線の切り替えが行われたとき、データの送信に際して所定の条件のもとで再送信処理P132が実行される。再送信処理P132の実行により、切り替え後の選択回線において、切り替え時点から切り替え前の選択回線の遅延時間と切り替え後の選択回線の遅延時間の差だけ過去の間に送信した時系列データのうち最先の時点の時系列データが再度送信される。これにより、連続的な時系列データを送信する場合に、選択回線の切り替え前後で送信された時系列データが受信側において逆転して受信されることを抑制することができる。延いては、車両の安全性の向上やオペレータ2による運転操作の操作性の向上に寄与する。
【0094】
なお、第2実施形態においても、第1実施形態の変形例と同様の変形例を採用することが可能である。
【符号の説明】
【0095】
1 通信ネットワーク
2 オペレータ
10 遠隔運転システム
100 遠隔運転車
110 通信装置
111 送受信処理部
112 送受信機
113 記憶装置
114 制御プログラム
115 制御情報
116 プロセッサ
120 カメラ
130 運転環境検出センサ
150 アクチュエータ
200 遠隔運転装置
210 通信装置
211 送受信処理部
212 送受信機
220 情報処理装置
230 運転操作装置
240 操作盤
250 表示装置
P100 回線切り替え処理
P110 遅延時間推定処理
P120 対象データ判定処理
P130 送信処理
P131 遷移制御処理
P132 再送信処理
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15