(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023117988
(43)【公開日】2023-08-24
(54)【発明の名称】液体クロマトグラフ
(51)【国際特許分類】
G01N 30/32 20060101AFI20230817BHJP
F04B 9/04 20060101ALI20230817BHJP
【FI】
G01N30/32 C
G01N30/32 A
F04B9/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022020835
(22)【出願日】2022-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】亀井 航太
(72)【発明者】
【氏名】北林 大介
【テーマコード(参考)】
3H075
【Fターム(参考)】
3H075AA01
3H075BB03
3H075BB20
3H075CC13
3H075CC36
3H075DA04
3H075DB03
3H075DB23
3H075EE01
3H075EE03
3H075EE12
(57)【要約】
【課題】ポンプの材料に依らずに所定の圧力で予圧をすることができる送液ユニットを備える液体クロマトグラフを提供する。
【解決手段】液体クロマトグラフ1は、貯留部11内の移動相を所定の圧力で送液管12を通してカラム14に送る送液ユニット20を備える液体クロマトグラフであって、送液ユニット20が、貯留部11に接続された吸引口211と送液管12に直接又は他のポンプを介して接続された吐出口212を有するポンプ21と、吸引口211及び吐出口212にそれぞれ設けられた逆止弁231、232と、吸引口211から吸引した移動相を吐出口212から吐出する前にポンプ21内の移動相に印加する圧力の制御を行うものであって、前記移動相の圧縮率及び前記圧力の印加に伴うポンプの内壁の圧縮量に基づいて、吐出口212側に設けられた逆止弁232を開放する逆止弁開放圧力となるように該圧力を制御する圧力印加制御部27とを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
貯留部内の移動相を所定の圧力で送液管を通してカラムに送る送液ユニットを備える液体クロマトグラフであって、
前記送液ユニットが
ポンプ室と、前記ポンプ室内を往復運動するプランジャと、前記ポンプ室に設けられ前記貯留部に接続される吸引口と、前記ポンプ室に設けられ前記送液管に直接又は他のポンプを介して接続される吐出口とを有するポンプと、
前記吐出口に接続された逆止弁と、
前記移動相の圧縮率及び前記ポンプ室内の圧力の変化に伴う該ポンプ室の容積の変化量に関する情報を入力する入力部と、
前記入力部で入力された前記情報に基づいて、前記吸引口から吸引した移動相を前記吐出口から吐出する前に、前記ポンプ室内の移動相に印加する圧力が、前記逆止弁を開放する逆止弁開放圧力となるように前記プランジャを制御する圧力印加制御部と
を備える液体クロマトグラフ。
【請求項2】
前記変化量に関する情報は前記ポンプ室で用いられる材料の変形量に関する情報である、請求項1に記載の液体クロマトグラフ。
【請求項3】
前記ポンプがさらに、
回転運動を前記プランジャの往復運動に変換するカムと、
前記カムを回転させる回転機構と
を備え、
前記圧力印加制御部が、前記圧力が前記逆止弁開放圧力に達するときの前記カムの回転角である逆止弁開放時回転角が所定の基準回転角よりも小さい場合には該逆止弁開放時回転角から該基準回転角までの前記カムの回転速度を低下させ、前記逆止弁開放時回転角が前記基準回転角よりも大きい場合には該基準回転角から該逆止弁開放時回転角までの前記カムの回転速度を上昇させる制御を行う、
請求項1又は2に記載の液体クロマトグラフ。
【請求項4】
互いに成分が異なる複数の溶媒を混合した移動相を所定の圧力で送液管を通してカラムに送る送液ユニットを備える液体クロマトグラフであって、
前記送液ユニットが、
複数の溶媒供給流路と、該複数の溶媒供給流路から1つの溶媒供給流路を選択的に切り替える切替機構とを備える溶媒供給部と、
ポンプ室と、前記ポンプ室内を往復運動するプランジャと、前記ポンプ室に設けられ前記溶媒供給部に接続された吸引口と、前記ポンプ室に設けられ前記送液管に直接又は他のポンプを介して接続された吐出口とを有するポンプと、
前記ポンプ室内の溶媒の圧縮率及び前記ポンプ室内の圧力の変化に伴う該ポンプ室の容積の変化量に関する情報を入力する入力部と、
前記入力部で入力された前記情報に基づいて、前記切替機構による溶媒供給流路の切り替えのタイミングを制御する流路切替制御部と
を備える液体クロマトグラフ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体クロマトグラフに関する。
【背景技術】
【0002】
液体試料に含まれる成分を分析する装置として、液体クロマトグラフが広く用いられている。液体クロマトグラフでは、一定の流量で送液される移動相の流れに乗せて液体試料をカラムに導入し、該液体試料に含まれる各種成分を時間的に分離した後、検出器で測定する。このとき送液流路には、流量や移動相の種類、組成に応じた圧力(数MPa~数十MPa)がかかる。ここで移動相を送液するためにポンプを1個のみ用いると、移動相を吸引してから吐出するまでの間に送液することができない時間帯が生じてしまう。そこで、移動相を一定の流量で間断なく送液するために、従来より2個のポンプを組み合わせた送液ユニットが用いられている。
【0003】
送液ユニットでは、2個のポンプは並列又は直列に接続される。並列接続型の場合には、2台のポンプを同じ周期で互いに逆相となる(一方が吸引している時には他方が吐出する)ように駆動することにより、常にいずれかのポンプが吐出するようにする。直列接続型の場合には、上流側のポンプが移動相を吐出している時間帯には下流側のポンプは上流側のポンプが吐出した移動相のうちの一部を吸引しつつ残りを通過させ、上流側のポンプが移動相を吸引している(移動相を吐出していない)時間帯には下流側のポンプは先に吸引していた分の移動相を吐出する。
【0004】
並列接続型の場合には2個のポンプのそれぞれの吸引口及び吐出口、直列接続型の場合には上流側のポンプの吸引口及び吐出口には、逆止弁が設けられている。並列接続型の場合、一方のポンプの吸引口に設けられた逆止弁はそのポンプが移動相を吐出する際に吸引口側に逆流することを防止し、吐出口に設けられた逆止弁は他方のポンプが移動相を吐出する際に移動相が吐出口から流入することを防止することを目的としている。直列接続型の上流側ポンプの逆止弁も同じ作用をする。なお、直列接続型の下流側のポンプでは、吸引時にも移動相の半分を通過させるために吐出口側の逆止弁は設けられておらず、また、吐出時には上流側のポンプの吐出口に設けられた逆止弁によって移動相の逆流が防止されるため、吸引側の逆止弁も設けられていない。
【0005】
逆止弁が設けられたポンプでは、移動相を吸引する相から吐出する相に切り替わる際に、ポンプ内の圧力が所定値以上になるまで逆止弁が開放されない。そこで、吐出が始まると同時に逆止弁が開放するようにするため、吸引の終了後移動相の吐出が始まる前に、予めポンプ内の移動相の圧力を上昇させる、予圧と呼ばれる操作が行われる(例えば特許文献1)。
【0006】
予圧時(逆止弁の閉鎖時)におけるポンプ内の移動相の圧力は、ポンプ内の体積の変化量(プランジャの移動量に対応)及び移動相の圧縮率により定まる。移動相の圧縮率は移動相の成分によって異なる。そのため、予圧時の体積の変化量(プランジャの移動量)は、使用する移動相毎に定められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006-125367号公報
【特許文献2】特開平07-077521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来、送液ユニットの構成部品の材料にはステンレス鋼等の金属が用いられていた。しかし金属は微量ながら移動相内に溶け込んだ金属イオンが検出され、分析結果に影響を与えてしまうおそれがある。そのため近年、送液ユニットの構成部品のうち移動相と接触する部分の材料に、移動相にほとんど溶出しない樹脂を用いた送液ユニットを備える液体クロマトグラフが開発されている。送液ユニット中のポンプでは、全体を樹脂製としたものや、移動相と接触する部分を樹脂製としてその周囲を金属製としたものが用いられている。
【0009】
これら樹脂を用いたポンプでは、加圧時に流路が膨張するため、従来の金属製のポンプと同じ条件で予圧を行っても圧力が不足し、さらにプランジャを移動させることで初めて逆止弁が開放するため、移動相の吐出のタイミングが遅れてしまう、という問題があった。
【0010】
また、このような樹脂を用いたポンプを備える送液ユニットでは、低圧グラジエント制御を行う際に以下の問題が生じる。一般に、成分が異なる複数の溶媒の混合比を連続的に変化させることによって移動相をその組成を連続的に変化させながらカラムに供給する制御をグラジエント制御といい、グラジエント制御のうち送液ユニットを1組のみ用いてポンプよりも下流側でそれら複数の溶媒を混合させることにより移動相を得るものを低圧グラジエント制御という。低圧グラジエント制御では、例えば水とアセトニトリルを混合した移動相をカラムに供給する場合において、水とアセトニトリルの混合比を20分間で90:10から50:50まで連続的に変化させる制御が行われる。その際、ポンプが溶媒の吐出を完了した時点でポンプ内に圧縮された溶媒(圧縮残液)が僅かに残留することから、吸引の動作を開始してから圧縮残液の圧力が或る値に低下する(除圧完了時)までの間には新たな溶媒を吸引できないことを考慮して、除圧完了時から吸引が完了するまでの間のプランジャの移動量を各溶媒の混合比の目標値に応じて分割することにより、混合比が該目標値となるように各溶媒をポンプに吸引する(特許文献2参照)。しかしながら、樹脂製のポンプを備える送液ユニットを用いて低圧グラジエント制御を行うと、ポンプから吐出される移動相における実際の混合比が目標値からずれるという問題が生じていた。
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、ポンプの材料に依らずに、所定の圧力で予圧をすることや所定の混合比で低圧グラジエント制御を行うことができる送液ユニットを備える液体クロマトグラフを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために成された本発明の第1の態様は、貯留部内の移動相を所定の圧力で送液管を通してカラムに送る送液ユニットを備える液体クロマトグラフであって、
前記送液ユニットが
ポンプ室と、前記ポンプ室内を往復運動するプランジャと、前記ポンプ室に設けられ前記貯留部に接続される吸引口と、前記ポンプ室に設けられ前記送液管に直接又は他のポンプを介して接続される吐出口とを有するポンプと、
前記吐出口に接続された逆止弁と、
前記移動相の圧縮率及び前記ポンプ室内の圧力の変化に伴う該ポンプ室の容積の変化量に関する情報を入力する入力部と、
前記入力部で入力された前記情報に基づいて、前記吸引口から吸引した移動相を前記吐出口から吐出する前に、前記ポンプ室内の移動相に印加する圧力が、前記逆止弁を開放する逆止弁開放圧力となるように前記プランジャを制御する圧力印加制御部と
を備える。
【0013】
本発明の第2の態様は、互いに成分が異なる複数の溶媒を混合した移動相を所定の圧力で送液管を通してカラムに送る送液ユニットを備える液体クロマトグラフであって、
前記送液ユニットが、
複数の溶媒供給流路と、該複数の溶媒供給流路から1つの溶媒供給流路を選択的に切り替える切替機構とを備える溶媒供給部と、
ポンプ室と、前記ポンプ室内を往復運動するプランジャと、前記ポンプ室に設けられ前記溶媒供給部に接続された吸引口と、前記ポンプ室に設けられ前記送液管に直接又は他のポンプを介して接続された吐出口とを有するポンプと、
前記移動相の圧縮率及び前記ポンプ室内の圧力の変化に伴う該ポンプ室の容積の変化量に関する情報を入力する入力部と、
前記入力部で入力された前記情報に基づいて、前記切替機構による溶媒供給流路の切り替えのタイミングを制御する流路切替制御部と
を備える。
【発明の効果】
【0014】
ポンプ室内の移動相の圧力は、実際には上述した移動相の圧縮率のみならず、圧力印加に伴ってポンプ室の壁、プランジャ、プランジャとポンプ室の壁との隙間に設けられたシール材、ポンプ室から逆止弁までの流路等が圧縮されることにより変化するポンプ室の容積にも依存する。ポンプ室の容積の変化量はポンプ室の壁等の材料に依存し、該材料が金属である場合には無視できる程小さいが、該材料が樹脂等の圧縮変形しやすいものである場合には無視することができない。そこで、第1の態様の液体クロマトグラフでは、移動相の圧縮率と共に、圧力の変化に伴うポンプ室の容積の変化に基づいて、吸引口から吸引した移動相を吐出口から吐出する前にポンプ室内の移動相に印加する圧力が逆止弁開放圧力となるようにプランジャを制御する。ここで、プランジャの制御はプランジャの時間毎の位置や移動速度等を調整することにより行うことができ、ポンプ室の容積の変化は予備実験等で求めておくことができる。このようにプランジャを制御することにより、移動相を吐出口から吐出する時点において、ポンプ室内の移動相が逆止弁を開放することが可能な圧力となるため、適切なタイミングでポンプから移動相を吐出することができる。それと共に、操作者が入力部を用いて移動相の圧縮率、及びポンプ室内の圧力の変化に伴ってポンプ室の壁等の部材が圧縮されることにより生じる該ポンプ室の容積の変化量に関する情報を入力することにより、それらの情報に基づいて圧力印加制御部が前記圧力、すなわちポンプ内の移動相に印加する圧力を制御するため、使用する移動相を変更したりポンプを交換することで移動相の圧縮率やポンプ室の容積の変化量が変化しても、適切に圧力の制御を行うことができる。
【0015】
また、低圧グラジエント制御を行う際にポンプ室内の圧力の変化に伴って容積が変化すると、容積の変化が生じない場合と比較して除圧が完了して溶媒を吸引可能になるタイミングが変化するため、この除圧完了のタイミングの変化を考慮することなくポンプ室に導入する溶媒を切り替えると、実際の混合比が目標値からずれてしまう。そこで、第2の態様の液体クロマトグラフでは、ポンプ室内の溶媒の圧縮率に加えて、ポンプ室内の圧力の変化に伴う該ポンプ室の容積の変化に基づいて、切替機構による溶媒供給流路の切り替えのタイミングを制御する。これにより、除圧完了のタイミングの変化に対応して溶媒供給流路の切り替えのタイミングを定めることができるため、複数の溶媒を目標の混合比で混合することができる。それと共に、第1の態様の液体クロマトグラフと同様に、使用する溶媒を変更したりポンプを交換することで溶媒の圧縮率やポンプ室の容積の変化量が変化しても、適切に溶媒供給流路の切り替えのタイミングを制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係る液体クロマトグラフの第1実施形態を示す概略構成図。
【
図2】第1実施形態の液体クロマトグラフが有する送液ユニットの構成を示す図。
【
図3】第1実施形態の液体クロマトグラフが有する送液ユニットにおけるカムプロファイル、カムが定速回転するときのポンプの動作、及びカムの回転速度の例を示す図。
【
図4】第1実施形態の液体クロマトグラフが有する送液ユニットにおいて、ポンプの内壁の圧縮量を考慮して圧縮量を定める方法を示すフローチャート。
【
図5】本発明に係る液体クロマトグラフの第2実施形態を示す概略構成図。
【
図6】溶媒を吸引しようとする時間帯及び吸引する溶液を切り替えるタイミングを説明するための図。
【
図7】第2実施形態の液体クロマトグラフが有する送液ユニットにおいて、ポンプの内壁の圧縮量を考慮して、ポンプに吸引する溶液を切り替えるタイミングを定める方法を示すフローチャート。
【
図8】変形例の液体クロマトグラフが有する送液ユニットの構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(1) 第1実施形態
図1~
図4を用いて、本発明に係る液体クロマトグラフの第1実施形態を説明する。
図1は本実施形態の液体クロマトグラフ1を示す概略構成図である。この液体クロマトグラフ1は、移動相を貯留する貯留槽(貯留部)11と、一端が貯留槽11に接続された送液管12と、送液管12の管路中に設けられたポンプユニット20と、同管路中のポンプユニット20よりも下流に設けられた試料注入部(インジェクタ)13と、同管路中の試料注入部13よりも下流に設けられたカラム14と、同管路中のカラム14よりも下流に設けられた検出器15とを備える。試料注入部13は、移動相中に試料溶液を注入する装置である。カラム14は、移動相中に注入された試料溶液に含まれる各種成分を時間的に分離するものである。検出器15は、カラム14により分離された各種成分を順次検出する装置であって、質量分析計、フォトダイオードアレイ(PDA)検出器、紫外可視分光光度検出器等を用いることができる。第1実施形態ではポンプユニット20が前記送液ユニットに該当する。ポンプユニット20以外の各構成要素は、従来の液体クロマトグラフで用いられているもの同様である。
【0018】
ポンプユニット20は、
図2に示すように、第1ポンプ21と第2ポンプ22を有する。送液管12はポンプユニット20内及びポンプユニット20の前後に、貯留槽11と第1ポンプ21の吸引口(第1吸引口)211を接続する第1送液管121と、第1ポンプ21の吐出口(第1吐出口)212と第2ポンプ22の吸引口(第2吸引口)221を接続する第2送液管122と、第2ポンプ22の吐出口(第2吐出口)222と試料注入部13を接続する第3送液管123とを有する。このように、第1ポンプ21と第2ポンプ22は第2送液管122を介して直列に接続されている。
【0019】
第1吸引口211には第1逆止弁231が、第1吐出口212には第2逆止弁232が、それぞれ設けられている。第1逆止弁231及び第2逆止弁232はいずれも移動相が貯留槽11側に向かって逆流することを防ぐ役割を有する。
【0020】
なお、第2ポンプ22が有する第2吸引口221及び第2吐出口222には逆止弁が設けられていない。これは、第2吸引口221では第1ポンプ21の第1吐出口212に設けられた第2逆止弁232によって移動相の逆流を防ぐことができ、第2吐出口222では後述のように吸引時にも第2吸引口221から吸引した移動相のうちの半分を通過させる必要があるためである。
【0021】
第1ポンプ21は、
図2に示すように、前述の第1吸引口211及び第1吐出口212と連通する第1シリンダ(第1ポンプ室)213、及び第1シリンダ213内を往復運動する第1プランジャ214を備える。第1シリンダ213の壁及び第1プランジャ214の材料には、本実施形態では樹脂であるポリエーテルエーテルケトン(PEEK)を用いている。PEEKは、移動相にほとんど溶出しないという利点を有する。その一方で、第1プランジャ214を押し込むことで第1シリンダ213内の移動相に圧力が印加されると圧縮され、それによって第1シリンダ213内の容積が変化するという特徴を有する。なお、第1シリンダ213の壁及び/又は第1プランジャ214はそれらの全体をPEEK製としてもよいし、移動相と接する表面付近のみをPEEK製としてそれ以外の部分を金属製としてもよい。また、PEEK以外の樹脂を用いてもよい。
【0022】
また、第1シリンダ213の壁と第1プランジャ214との隙間には、該隙間から移動相が漏出することを防ぐためのシール材(図示せず)が設けられている。
【0023】
第2ポンプ22は、第1ポンプ21の第1シリンダ213及び第1プランジャ214と同様の構造、容積及び材料から成る、第2シリンダ(第2ポンプ室)223及び第2プランジャ224を備える。
【0024】
ポンプユニット20はさらに、
図2に示すように、カム軸24、カム軸24に固定された第1カム251及び第2カム252、カム軸24を回転させるステッピングモータ26、並びにステッピングモータ26の回転速度を制御する制御部27を備える。また、液体クロマトグラフ1にはキーボードやマウス等の入力デバイス(入力部28)及びディスプレイ(表示部29)が設けられており、制御部27による制御の条件を入力部28から入力し、表示部29に表示することができる。
【0025】
第1カム251は、第1プランジャ214の後端に接触し、カム軸24の回転に伴って該第1カム251が回転することによって第1プランジャ214を往復運動させる。第2カム252は第2プランジャ224の後端に接触し、第1カム251と同様の仕組みで第2プランジャ224を往復運動させる。第1カム251及び第2カム252の形状は、第2プランジャ224の速度が第1プランジャ214の速度の1/2となるように設定されている。また、原則として、第1プランジャ214と第2プランジャ224は互いに逆方向に移動する(これにより、第1ポンプ21が移動相を吸引する時には第2ポンプ22が移動相を吐出し、第1ポンプ21が移動相を吐出する時には第2ポンプ22が移動相を吸引する)。但し、第1ポンプ21と第2ポンプ22の間で移動相を吐出するポンプを切り替えるタイミング、及び後述の予圧の際には、第1プランジャ214と第2プランジャ224が共に押し込まれる方向に移動する。
【0026】
ポンプユニット20の動作について説明する。カム軸24の回転に伴って第1カム251及び第2カム252が回転することにより、第1プランジャ214と第2プランジャ224はそれぞれ往復運動する。第1ポンプ21が移動相を第1吐出口212から吐出(第1プランジャ214が前進)しているときには、第2ポンプ22は第1吐出口212から吐出された移動相を第2吸引口221から吸引(第2プランジャ224が後退)する。第2ポンプ22は第1ポンプ21が吐出した移動相のうちの半分のみを吸引し、残りの半分を通過させて第2吐出口222から流出させる。一方、第1ポンプ21が移動相を第1吸引口211から吸引しているときには、第2ポンプ22は先に吸引していた半分の移動相を第2吐出口222から吐出する。これにより、各ポンプの吸引/吐出の位相に関わらず常に移動相がほぼ一定の圧力・流量で送液される。
【0027】
第1ポンプ21が移動相を吐出する際には、第1ポンプ21内の移動相は第1吐出口212側のみならず第1吸引口211側にも押されるが、第1逆止弁231が設けられていることにより、移動相が貯留槽11に逆流することが防止される。また、第1ポンプ21が移動相を吸引する際には、第2逆止弁232が設けられていることにより、第2送液管122や第2ポンプ22内の移動相が第1ポンプ21に逆流することが防止される。第2ポンプ22が移動相を吐出する際には、第2ポンプ22内の移動相は第2吐出口222側のみならず第2吸引口221側にも押されるが、第2逆止弁232が設けられていることにより、移動相が第1ポンプ21に逆流することが防止される。
【0028】
以下、予圧に関して説明する。第1ポンプ21が移動相を吐出する際、第1ポンプ21内の圧力が所定値(前述の逆止弁開放圧力)以上になるまでは、第2逆止弁232が開放されないため、移動相を吐出することができない。そこで、本実施形態のポンプユニット20では、以下のように、第1ポンプ21における移動相の吸引の終了後、吐出が始まる前に、第1ポンプ21内の移動相の圧力を逆止弁開放圧力以上となるまで上昇させる予圧の操作を行う。なお、第2ポンプ22は逆止弁が設けられていないため、予圧を行う必要はない。
【0029】
吸引の終了時における第1ポンプ21内の移動相を収容する空間の容積をV、吸引が終了した状態から第2逆止弁232が開放されるまで(予圧期間中)の第1ポンプ21の容積の変化量(プランジャの移動距離に対応)をΔV、予圧期間中の第1ポンプ21内の移動相の圧力の変化量をΔP(ΔPは第2逆止弁232の構造により定まる)、移動相の圧縮率をβとする。
【0030】
従来の送液ユニットでは、ΔVが
ΔV=βVΔP …(1)
の関係を満たすように、予圧期間中のプランジャの移動距離を定めていた。圧縮率βが移動相の成分により相違するため、ΔVは移動相の成分毎に定めることとなる。
【0031】
しかし、本実施形態のように圧力の印加によって圧縮される材料から成るポンプ(第1ポンプ21)を用いる場合には、ΔVは(1)式に示した移動相の圧縮のみならず、ポンプ室の壁、プランジャ、シール材等、ポンプを構成する各部材が圧縮されることによるポンプの容積の変化も考慮する必要がある。そこで本実施形態では、第1ポンプ21内の移動相への圧力の印加に伴う変形によるポンプの容積の変化量をαΔPと規定したうえで、ΔVが
ΔV=(βV+α)ΔP …(2)
の関係を満たすように、予圧期間中のプランジャの移動距離を規定する。
【0032】
αの値は、ポンプの材料に依存することから、第1ポンプ21をそれとは別の材料から成るポンプに交換しない限り、変更する必要はない。従って、通常はαの値は不変の定数としておき、移動相の成分に依って圧縮率βのみを入力することにより、ΔVを定めることができる。第1ポンプ21を交換した場合には、αを、新たな第1ポンプ21の材料により定まる値に変更すればよい。
【0033】
次に、
図3を参照しつつ、予圧時を中心として、第1カム251及び第2カム252の動作を説明する。
図3中の上段に「カムプロファイル」と記載したグラフは、カム軸24(並びに第1カム251及び第2カム252)の回転角θとプランジャ(第1プランジャ214及び第2プランジャ224)の移動速度dr/dθの関係を示している。ここでプランジャの移動速度dr/dθは、カム軸24が単位角度(1°)回転するときにプランジャが移動する速度である(距離を時間で除した値である速度とは異なることに注意)。このようなθとdr/dθの関係は、カムの形状により設定される。dr/dθが正の時にはプランジャが押し込まれる方向に移動し、dr/dθが負の時にはプランジャが引き出される方向に移動していることを意味する。
【0034】
このようにカムプロファイルが設定されていることにより、カム軸24が等速で回転しているときには、
図3中段に示すように、第1ポンプ21は、回転角θが96°~264°のときには移動相を吐出し、回転角θが264°~360°(0°)のときには移動相を吸引し、回転角θが0°~96°のときには移動相を予圧する。ここで、カム軸24が等速で回転しているときに予圧を完了する速度として設定した96°は、後述する「基準回転角」に相当する。予圧の際には、吐出の際よりもdr/dθが小さくなるように設定されている。一方、第2ポンプ22は、回転角θが240°から360°(0°)を経て120°に達するまでの間は移動相を吐出し、回転角θが120°~240°のときには移動相を吸引する。なお、回転角θが96°~120°の範囲内では、第2ポンプ22がカム軸24の回転に伴って第2プランジャ224の移動速度dr/dθを減少させつつ移動相の吐出を継続しているため、第1ポンプ21は予圧時の第1プランジャ214の移動速度dr/dθを維持する(θが120°以降のときのdr/dθよりも小さくする)ことにより移動相の吐出量を抑えている。また、回転角θが240°~260°のときには第1ポンプ21と第2ポンプの双方が移動相を吐出しているため、第3送液管123に供給される移動相の流量が一定となるように第1プランジャ214及び第2プランジャ224の移動速度dr/dθが調整されている。
【0035】
ここで示した、カム軸24が等速回転するときにおける第1ポンプ21の予圧終了(予圧から吐出への切り替え)のタイミングは、第1ポンプ21に特定のポンプを使用して特定の移動相を送液する場合のタイミングに合わせて設定されている。実際には、予圧終了のタイミングは(2)式に従ってポンプの材料及び移動相の成分によって相違する。本実施形態では、第1カム251及び第2カム252の形状(
図3上段のカムプロファイル)は第1ポンプ21の材料及び移動相の成分に依らずに同じものとしたうえで、以下の手法により、それらカム軸24の回転速度を設定することにより、第1ポンプ21の材料及び移動相の成分毎に予圧終了のタイミングを調整する。制御部27は、設定された回転速度に従ってカム軸24を回転させるようにステッピングモータ26の制御を行う。
【0036】
第1ポンプ21の材料が前記特定のポンプの材料よりも硬い場合や移動相の圧縮率が前記特定の移動相の圧縮率よりも小さい場合には(2)式におけるΔVの値が小さくなるため、カム軸24が等速回転するときに設定されたタイミングよりも早く予圧が完了する。その場合には、等速回転の場合において未だ予圧を行っている120°以下の回転角θにおいても第1ポンプ21から移動相が吐出される。そこで、
図3下段に示した回転速度の例のうちパターン1に従って、予圧完了時の回転角(同図に符号51を付した角度。後述の「逆止弁開放時回転角」。同図の例では48°。)から、等速回転の際の予圧完了の角度(96°)まで、等速回転の場合よりも回転速度を遅くする。このときの回転速度は、第1ポンプ21から吐出されて第2ポンプ22を通過する移動相の流量と、第2ポンプ22の動作によって該第2ポンプ22から吐出される移動相の流量を合わせたものが、本来の第2ポンプ22の吐出量と一致するように設定する。これにより、予圧完了時以降は、第1ポンプ21から吐出されて第2ポンプ22を通過する移動相と、第2ポンプ22から吐出される移動相を合わせたものが第3送液管123に供給され、その移動相の流量は予圧完了前と同じ値となる。
【0037】
第1ポンプ21の材料が前記特定のポンプの材料よりも軟らかい場合や移動相の圧縮率が前記特定の移動相の圧縮率よりも大きい場合には(2)式におけるΔVの値が大きくなるため、カム軸24が等速回転するときに設定されたタイミングよりも予圧が完了するのが遅くなる。その場合には、等速回転の場合において予圧が完了している120°以降の回転角θにおいて、当該第1ポンプ21の予圧完了時の回転角まで早期に到達するよう、回転速度を速める。
【0038】
この場合において、
図3下段に示したパターン2のように、第1ポンプ21の予圧完了時の回転角(同図に符号52を付した角度)が96°~120°の間、すなわち第1ポンプ21と第2ポンプ22の双方が移動相を吐出している角度である場合には、96°から予圧完了時の回転角まではカム軸24の回転速度を等速回転時よりも速くし、その後120°までは回転速度を等速回転時よりも遅くする。これにより、予圧完了時の回転角まで早期に到達させると共に、当該回転角に到達した後は過剰な流量で移動相が供給されることを抑えることができる。
【0039】
図3下段に示したパターン3のように、第1ポンプ21の予圧完了時の回転角(同図に符号53を付した角度)が120°以降である場合には、96°から予圧完了時の回転角まではカム軸24の回転速度を等速回転時よりも速くすることにより、当該回転角まで早期に到達させる。その際、96°~120°の間は徐々に回転速度を速くしてゆくことにより、過剰な流量で移動相が供給されることを抑える。
【0040】
ここまでに述べた予圧完了のタイミングは、液体クロマトグラフ1のメンテナンス担当者や使用者等(以下、「操作者」とする)がポンプの材料及び移動相に関する情報を入力部28から入力することによってソフトウエアが自動的に設定するようにすることが好ましい。そのようなソフトウエアの動作の一例を、
図4のフローチャートを参照しつつ説明する。なお、本実施形態では第1プランジャ214を備える第1ポンプ21において予圧を行うが、以下のソフトウエアの動作の説明では一般化して「プランジャ」及び「ポンプ」と呼ぶ。
【0041】
まず、操作者が入力部28を用いて所定の操作を行うことにより、制御部27はソフトウエアの動作が開始させる。ソフトウエアは、以下のようにα及びβの値の入力を受け付ける(ステップ1)。まず、ポンプの材料及び移動相に関する情報を操作者に入力させるための入力画面を表示部29に表示する。ここで当該情報として、(2)式中のα及びβの値を操作者に入力させるようにしてもよいし、使用する移動相の名称やポンプの材料の名称を操作者に入力又は選択肢から選択させたうえで、予め移動相及びポンプの材料毎に記憶部(図示せず)に記憶させておいたα及びβの値を制御部27が該記憶部から取得するようにしてもよい。
【0042】
次に、制御部27は、取得したα及びβの値に基づいて、(2)式を用いて予圧完了までにポンプ内の容積を変化させる量ΔVを計算する(ステップ2)。なお、(2)式中の容積Vはポンプの構造により定まる値であるため、操作者に入力させることなく当該値を用いる。
【0043】
次に、nの値を1に設定し(ステップ3)、予圧を開始する位置からステッピングモータ26をnパルス(この時点ではn=1のため、1パルス)分回転させたときのプランジャの移動距離を、カムプロファイルに基づいて計算する(ステップ4)。そして、当該移動距離だけプランジャを移動させたときのポンプ内の容積の変化量ΔVnを求める(ステップ5)。求めたΔVnがΔVよりも小さければ(ステップ6でNO)、未だポンプ内の容積が予圧を完了させるまで変化していないため。nの値を1だけ増加させた(ステップ7)うえでステップ4~6の動作を再度実行する。
【0044】
一方、ステップ5で求めたΔV
nがΔVと等しいかそれよりも大きければ(ステップ6でYES)、ステッピングモータ26をnパルス分回転させたときに予圧が完了することを意味する。そこで、ステッピングモータ26を予圧開始位置からnパルス分回転させた位置を予圧完了位置と設定する(ステップ8)。そのうえで、予圧完了位置以後であって、ポンプからの移動相の吐出状態が通常の状態(
図3の例では回転角θが144°以上)になるまでのカム軸24の回転速度を、第3送液管123に送出される移動相の流量ができるだけ一定に近くなるように設定する(ステップ9)。以上のソフトウエア動作により、予圧完了のタイミング(及びその後のカム軸24の回転速度)の設定が完了する。
【0045】
このように設定した予圧完了のタイミング等の条件を複数、記憶部に記憶させておき、液体クロマトグラフ1を使用開始する際にそれら複数の条件を表示部29に表示させたうえで使用者に選択させるようにしてもよい。この場合、αの値(又はそれに対応するポンプの種類)はポンプを交換したときのみに変更されるものであるため、通常の液体クロマトグラフ1の使用開始時にはβの値又はそれに対応する移動相の種類のみを使用者に選択させるようにしてもよい(その場合であってももちろん、αの値は使用するポンプに応じて定められた値が使用される)。
【0046】
(2) 第2実施形態
図5~
図7を用いて、本発明に係る液体クロマトグラフの第2実施形態を説明する。
図1は第2実施形態の液体クロマトグラフ4を示す概略構成図である。この液体クロマトグラフ4は、第1貯留部411及び第2貯留部412と、溶媒供給部42と、送液管12と、ポンプユニット20と、ミキサー46と、試料注入部(インジェクタ)13と、カラム14と、検出器15とを備える。送液管12、試料注入部13、カラム14及び検出器15は第1実施形態のそれらと同じ構成を有するため、詳細な説明を省略する。
【0047】
第1貯留部411及び第2貯留部412は、互いに異なる成分を貯留する貯留槽である。以下、第1貯留部411に貯留される溶媒を第1溶媒と呼び、第2貯留部412に貯留される溶媒を第2溶媒と呼ぶ。なお、本実施形態ではこれら第1貯留部411及び第2貯留部412という2個の貯留部を設けたが、3種以上の溶媒を混合した移動相を用いて分析を行う場合には、貯留部を3個以上設けてもよい。
【0048】
移動相供給部42は、それぞれ第1貯留部411及び第2貯留部412から延びる第1供給流路4221及び第2供給流路4222と、切替弁(切替機構)423と、流路切替制御部424とを備える。切替弁423は、送液管12に導入される溶媒を供給する供給流路を第1供給流路4221と第2供給流路4222の間で切り替える弁である。流路切替制御部424は、後述するように所定のタイミングで供給流路を切り替えるように切替弁423を制御するものである。
【0049】
ポンプユニット20は、第1実施形態のものと同様の構成を有しており(前述の
図2参照)、シリンダの壁及びプランジャが樹脂(PEEK)製である第1ポンプ21及び第2ポンプ22が直列に接続され、第1ポンプ21の第1吸引口211及び第1吐出口212にそれぞれ逆止弁(第1逆止弁231及び第2逆止弁232)が接続されている。
【0050】
第2実施形態では、移動相供給部42と送液管12とポンプユニット20を合わせたものにより送液ユニット40が構成される(ポンプユニット20のみから送液ユニットが構成される第1実施形態とは相違する)。
【0051】
ミキサー46は、ポンプユニット20から時間差をもって流入する第1溶媒と第2溶媒を混合して送出するものである。ミキサー46で第1溶媒と第2溶媒が混合された液体が移動相として試料注入部13に供給される。
【0052】
以下、第2実施形態の液体クロマトグラフ4における送液ユニット40の動作を説明する。送液ユニット40中のポンプユニット20の基本的な動作は、第1実施形態と同様である。すなわち、カム軸24の回転に伴って第1カム251及び第2カム252が回転することによって第1プランジャ214と第2プランジャ224がそれぞれ往復運動する。第1ポンプ21が溶媒を第1吐出口212から吐出しているときには、吐出された溶媒のうちの半分を第2ポンプ22が第2吸引口221から吸引し、残りの半分の溶媒を通過させて第2吐出口222から流出させる。第1ポンプ21が移動相を第1吸引口211から吸引しているときには、第2ポンプ22は先に吸引していた半分の溶媒を第2吐出口222から吐出する。
【0053】
移動相供給部42は以下に述べる所定のタイミングで、第1溶媒と第2溶媒との間で第1ポンプ21に供給する溶媒を切り替える。その説明のために、まず、従来の液体クロマトグラフにおける送液ユニット40の動作を説明する。
【0054】
従来の液体クロマトグラフでは、送液ユニット40は、第1ポンプ21が溶媒を吸引しようとする時間帯(
図6中に「吸引」と記載した時間帯)を、第1溶媒と第2溶媒の混合比と同じ比率で分配するように切り替えを行っていた。例えば、第1ポンプ21が溶媒を2サイクル吸引する間に第1溶媒と第2溶媒を20:80の混合比で混合する場合には、1サイクル目の吸引期間に第1溶媒を40%、第2溶媒を60%吸引し、2サイクル目の吸引期間に第2溶媒を100%吸引すればよい(なお、混合比を設定するサイクルの単位は2サイクル単位には限らず、1サイクル単位又は3サイクル単位以上であってもよい)。但し、各吸引期間では、吸引の動作(第1プランジャ214の後退)を開始してから第1ポンプ21内の圧力が所定値に低下する除圧完了時までの間(「欠損期間」と呼ぶ)は、実際には溶媒を吸引することができない。そのため、欠損期間を除いた残りの期間内において第1溶媒と第2溶媒の吸引量の比を設定することにより、目標とする混合比で第1溶媒と第2溶媒を吸引することができる。例えば上記の混合比の例において欠損期間が吸引サイクル全体の20%である場合には、1サイクル目には残りの80%の吸引期間を第1溶媒40%、第2溶媒60%に分ければよい。そうすると、吸引する溶媒を切り替えるタイミングは、欠損期間の終了から(100%-20%)×40%=32%(吸引の動作の開始時からは(20%+32%)=52%)経過時とすればよいはずである(
図6中の「ポンプ圧縮変形を考慮せず(従来)」参照)。
【0055】
しかしながら、第1ポンプ21の各部材の材料が樹脂等、圧力による変形が生じる材料から成る場合には、吸引動作開始前の吐出完了時に残留する溶媒に印加された圧力によって第1シリンダ213に変形が生じる。その結果、圧力による変形が生じない場合と対比して、除圧完了時の第1プランジャ214の位置が異なり、それに伴って実際に溶媒の吸引が開始されるタイミングも異なることとなる。そのため、吸引する溶媒を切り替えるタイミングは、圧力による変形が生じない場合のものから変更する必要がある(
図6中の「ポンプ圧縮変形を考慮する」参照)。
【0056】
吸引動作の開始時の第1ポンプ21内の容積をVm、吸引動作の開始時から除圧完了時までの或る時間における吸引動作開始時との容積及び圧力の差をそれぞれΔVm及びΔPm、吸引動作開始時に第1ポンプ21内に残留していた溶媒の圧縮率をβm、第1ポンプ21内の圧力の変化に伴う変形による第1ポンプ21の容積の変化量をαmΔPmとする。吸引動作開始時から除圧完了時までは第1ポンプ21への溶媒の出入りが無いことから、圧力変化に伴う変形を考慮しない場合には吐出操作の際の予圧時と同様に
ΔVm=βmVmΔPm …(3)
の関係を満たす。圧力変化に伴う変形を考慮した場合も予圧時と同様に、
ΔVm=(βmVm+αm)ΔPm …(4)
の関係を満たす。本実施形態ではこの(4)の関係に基づいて、第1プランジャ214の移動に伴うΔVmとΔPmの関係を求める。そして、第1ポンプ21内の圧力が溶媒を吸引可能な値に低下するとき(すなわち除圧完了時)のΔPmに対応するΔVmとなるまで第1プランジャ214が移動したときを除圧完了時と特定する。
【0057】
αmの値は、ポンプの材料に依存することから、第1ポンプ21をそれとは別の材料から成るポンプに交換しない限り、変更する必要はない。従って、通常はαmの値は不変の定数としておき、第1ポンプ21内に残存する溶媒(直前の吸引時に吸引された溶媒であり、該吸引時に複数種の溶媒が吸引された場合にはそれらを混合したもの)の成分に依って圧縮率βmのみを入力することによって除圧完了時のΔVmを特定することができる。第1ポンプ21を交換した場合には、αmを、新たな第1ポンプ21の材料により定まる値に変更すればよい。除圧完了時のΔVmを特定すれば、従来と同様の方法により、そのときの第1プランジャ214の位置から残りの第1プランジャ214の移動期間内において第1溶媒と第2溶媒の吸引量の比を設定することにより、第1溶媒と第2溶媒を切り替えるタイミングを定めることができる。
【0058】
第1実施形態の場合と同様に、操作者がポンプの材料及び溶媒に関する情報を入力部28から入力することによってソフトウエアが自動的に設定するようにすることが好ましい。そのようなソフトウエアの動作の一例を、
図7のフローチャートを参照しつつ説明する。ここまでの第2実施形態の説明では第1プランジャ214を備える第1ポンプ21の動作を例として述べたが、以下の説明では一般化して「プランジャ」及び「ポンプ」と呼ぶ。
【0059】
操作者が入力部28を用いて所定の操作を行うことによりソフトウエアの動作が開始されると、制御部27は、αm及びβmの値の入力を受け付ける(ステップ11)。αm及びβmの値は、操作者が直接入力するようにしてもよいし、使用する移動相(複数の溶媒及びそれらの混合比)の名称やポンプの材料の名称を操作者に入力又は選択肢から選択させたうえで予め移動相及びポンプの材料毎に記憶部(図示せず)に記憶させておいたαm及びβmの値を制御部27が該記憶部から取得するようにしてもよい。
【0060】
次に、制御部27は、取得したαm及びβmの値に基づいて、(4)式を用いて除圧完了時のΔVmの値を求める(ステップ12)。なお、(4)式中、吸引動作の開始時のポンプの容積Vmはポンプの構造により定まる値であるため、操作者に入力させることなく当該値を用いる。
【0061】
次に、nの値を1に設定し(ステップ13)、吸引動作を開始する位置からステッピングモータ26をnパルス(この時点ではn=1のため、1パルス)分回転させたときのプランジャの移動距離を、カムプロファイルに基づいて計算する(ステップ14)。そして、当該移動距離だけプランジャを移動させたときのポンプ内の容積の変化量ΔVmnを求める(ステップ15)。求めたΔVmnがΔVmよりも小さければ(ステップ16でNO)、未だ除圧が完了していないため。nの値を1だけ増加させた(ステップ17)うえでステップ4~6の動作を再度実行する。
【0062】
一方、ステップ15で求めたΔVmnがΔVmと等しいかそれよりも大きければ(ステップ16でYES)、ステッピングモータ26をnパルス分回転させたときに除圧が完了することを意味する。そこで、ステッピングモータ26を吸引動作の開始位置からnパルス分回転させた位置を除圧完了位置と設定する(ステップ18)。
【0063】
続いて、除圧完了時から吸引動作を終了するまでのポンプ内の容積の変化量を、混合しようとする第1溶媒と第2溶媒の混合比に応じて分割することにより、除圧完了時から溶媒を切り替える時までの第1溶媒の吸引量V1を求める(ステップ19)。
【0064】
次に、kの値を1に設定し(ステップ20)、除圧完了時の位置からステッピングモータ26をkパルス(この時点ではk=1のため、1パルス)分回転させたときのプランジャの移動距離を、カムプロファイルに基づいて計算する(ステップ21)。そして、除圧完了位置から当該移動距離だけプランジャを移動させたときのポンプ内の容積の変化量ΔVmkを求める(ステップ22)。この変化量ΔVmkが第1溶媒の吸引量V1よりも小さければ(ステップ23でNO)、kの値を1だけ増加させた(ステップ24)うえでステップ21~23の動作を再度実行する。一方、ステップ21で求めたΔVmkがV1と等しいかそれよりも大きければ(ステップ23でYES)、ステッピングモータ26を除圧完了時からkパルス分回転させたときが溶媒の切り替えのタイミングであることを意味する。そこで、ステッピングモータ26を除圧完了時からkパルス分回転させた位置に達したときを溶媒切り替えのタイミングと設定する(ステップ25)。以上で一連の操作が終了する。
【0065】
本発明は上記実施形態には限定されず、本発明の主旨の範囲内で種々の変形が可能である。
【0066】
例えば、上記各実施形態では第1ポンプ21と第2ポンプ22を直列に接続したポンプユニット20を用いたが、その代わりに、
図8に示すように、第1ポンプ31と第2ポンプ32を並列に接続したポンプユニット30を用いてもよい。このようにポンプを並列接続する場合には、第1ポンプ31の第1吸引口311及び第1吐出口312にそれぞれ対応して第1逆止弁331及び第2逆止弁332を設けると共に、第2ポンプ32の第2吸引口321及び第2吐出口322にそれぞれ対応して第3逆止弁333及び第4逆止弁334を設ける。その他、第1ポンプ31及び第2ポンプ32はそれぞれ、上記実施形態における第1ポンプ21及び第2ポンプ22と同様に、第1シリンダ313及び第2シリンダ323、並びに第1プランジャ314及び第2プランジャ324を備える。第1ポンプ31と第2ポンプ32はいずれも全体が樹脂製であるが、移動相と接する部分が樹脂製であってそれ以外の部分が金属製であるポンプを用いてもよい。この変形例では、第1ポンプ31のみならず第2ポンプ32においても、第4逆止弁334が設けられているため、移動相の吐出前に予圧を行う。第2ポンプ32の予圧のタイミングは、第1実施形態と同様に、圧力の変化に伴う各ポンプの容量の変化量αΔP及び移動相の圧縮率βを考慮して(2)式に基づいて定めればよい。第1ポンプ31も同様である。第1カム351及び第2カム352の形状は、並列接続の場合のポンプの動作に応じて適宜定める。低圧グラジエント制御をお粉場合には、第2実施形態と同様に、圧力の変化に伴う各ポンプの容量の変化量α
mΔP
m及びポンプ内の溶媒の圧縮率β
mを考慮して除圧完了時を特定すればよい。
【0067】
[付記]
上述した例示的な実施形態は、以下に付記した態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0068】
(第1項)
第1項に係る液体クロマトグラフは、貯留部内の移動相を所定の圧力で送液管を通してカラムに送る送液ユニットを備える液体クロマトグラフであって、
前記送液ユニットが、
ポンプ室と、前記ポンプ室内を往復運動するプランジャと、前記ポンプ室に設けられ前記貯留部に接続される吸引口と、前記ポンプ室に設けられ前記送液管に直接又は他のポンプを介して接続される吐出口とを有するポンプと、
前記吐出口に接続された逆止弁と、
前記移動相の圧縮率及び前記ポンプ室内の圧力の変化に伴う該ポンプ室の容積の変化量に関する情報を入力する入力部と、
前記入力部で入力された前記情報に基づいて、前記吸引口から吸引した移動相を前記吐出口から吐出する前に、前記ポンプ室内の移動相に印加する圧力が、前記逆止弁を開放する逆止弁開放圧力となるように前記プランジャを制御する圧力印加制御部と
を備える。
【0069】
ポンプ室内の移動相の圧力は、実際には上述した移動相の圧縮率のみならず、圧力印加に伴ってポンプ室の壁が圧縮されることにより変化するポンプ室の容積にも依存する。ポンプ室の容積の変化量はポンプ室の壁の材料に依存し、該材料が金属である場合には無視できる程小さいが、該材料が樹脂等の圧縮変形しやすいものである場合には無視することができない。そこで、第1項の液体クロマトグラフでは、移動相の圧縮率と共に、圧力の変化に伴うポンプ室の容積の変化に基づいて、吸引口から吸引した移動相を吐出口から吐出する前にポンプ室内の移動相に印加する圧力が逆止弁開放圧力となるようにプランジャを制御する。ここで、プランジャの制御はプランジャの時間毎の位置や移動速度等を調整することにより行うことができ、ポンプ室の容積の変化は予備実験等で求めておくことができる。このようにプランジャを制御することにより、移動相を吐出口から吐出する時点において、ポンプ室内の移動相が逆止弁を開放することが可能な圧力となるため、適切なタイミングでポンプから移動相を吐出することができる。
【0070】
また、操作者が入力部を用いて移動相の圧縮率、及びポンプ室内の圧力の変化に伴ってポンプ室の壁等の部材が圧縮されることにより生じる該ポンプ室の容積の変化量に関する情報を入力することにより、それらの情報に基づいて圧力印加制御部が前記圧力、すなわちポンプ内の移動相に印加する圧力を制御するため、使用する移動相を変更したりポンプを交換することで移動相の圧縮率やポンプ室の容積の変化量が変化しても、適切に圧力の制御を行うことができる。
【0071】
第1項に係る液体クロマトグラフは、送液ユニットが並列接続型、直列接続型のいずれである場合にも適用することができる。並列接続型の場合には2個のポンプの双方が第1項(並びに第2項及び第3項)における「ポンプ」に相当する。この場合、それら2個のポンプの各々の吸引口及び吐出口にそれぞれ逆止弁が接続され、2個のポンプの圧力がそれぞれ圧力印加制御部により制御される。直列接続型の場合には2個のポンプのうちの上流側のポンプが第1項(並びに第2項及び第3項)における「ポンプ」に相当する。この場合、上流側のポンプの吸引口及び吐出口にはそれぞれ逆止弁が接続され、同ポンプの圧力が圧力印加制御部により制御されるが、下流側のポンプには吸引口及び吐出口共に逆止弁は接続されない。
【0072】
(第2項)
第2項に係る液体クロマトグラフは、第1項に係る液体クロマトグラフにおいて、前記変化量に関する情報は前記ポンプ室で用いられる材料の変形量に関する情報である。
【0073】
第2項に係る液体クロマトグラフによれば、ポンプ室で用いられる材料の相違により変形量の相違が生じても、適切に圧力の制御を行うことができる。
【0074】
(第3項)
第3項に係る液体クロマトグラフは、第1項又は第2項に係る液体クロマトグラフにおいて、
前記ポンプがさらに、
回転運動を前記プランジャの往復運動に変換するカムと、
前記カムを回転させる回転機構と
を備え、
前記圧力印加制御部が、前記圧力が前記逆止弁開放圧力に達するときの前記カムの回転角である逆止弁開放時回転角が所定の基準回転角よりも小さい場合には該逆止弁開放時回転角から該基準回転角までの前記カムの回転速度を低下させ、前記逆止弁開放時回転角が前記基準回転角よりも大きい場合には該基準回転角から該逆止弁開放時回転角までの前記カムの回転速度を上昇させる制御を行う。
【0075】
第3項に係る液体クロマトグラフでは、逆止弁開放時回転角が基準回転角よりも小さい場合には、予圧が早く完了し、予圧を行ったポンプと他のポンプから同時に移動相が吐出されるため、カムの回転速度を低下させることによって、過剰な流量で移動相が供給されることを抑える。一方、逆止弁開放時回転角が基準回転角よりも大きい場合には、そのままの回転速度では予圧の完了が遅れるため、より早期に逆止弁開放時回転角まで達するようにカムの回転速度を上昇させる。このようにカムの回転速度を制御することにより、移動相の圧縮率及びポンプの内壁の圧縮量に依存して逆止弁開放時回転角が変化しても、適切な予圧のタイミング及び吐出量で移動相を供給することができる。
【0076】
(第4項)
第4項に係る液体クロマトグラフは、互いに成分が異なる複数の溶媒を混合した移動相を所定の圧力で送液管を通してカラムに送る送液ユニットを備える液体クロマトグラフであって、
前記送液ユニットが、
複数の溶媒供給流路と、該複数の溶媒供給流路から1つの溶媒供給流路を選択的に切り替える切替機構とを備える溶媒供給部と、
ポンプ室と、前記ポンプ室内を往復運動するプランジャと、前記ポンプ室に設けられ前記貯留部に接続される吸引口と、前記ポンプ室に設けられ前記送液管に直接又は他のポンプを介して接続される吐出口とを有するポンプと、
前記移動相の圧縮率及び前記ポンプ室内の圧力の変化に伴う該ポンプ室の容積の変化量に関する情報を入力する入力部と、
前記入力部で入力された前記情報に基づいて、前記切替機構による溶媒供給流路の切り替えのタイミングを制御する流路切替制御部と
を備える。
【0077】
低圧グラジエント制御を行う際にポンプ室内の圧力の変化に伴って容積が変化すると、容積の変化が生じない場合と比較して除圧が完了して溶媒を吸引可能になるタイミングが変化するため、この除圧完了のタイミングの変化を考慮することなくポンプ室に導入する溶媒を切り替えると、実際の混合比が目標値からずれてしまう。そこで、第4項に係る液体クロマトグラフでは、ポンプ室内の溶媒の圧縮率に加えて、ポンプ室内の圧力の変化に伴う該ポンプ室の容積の変化に基づいて、切替機構による溶媒供給流路の切り替えのタイミングを制御する。これにより、除圧完了のタイミングの変化に対応して溶媒供給流路の切り替えのタイミングを定めることができるため、複数の溶媒を目標の混合比で混合することができる。
【0078】
また、第3項に係る液体クロマトグラフにおいても第1項に係る液体クロマトグラフと同様に、使用する溶媒を変更したりポンプを交換することで溶媒の圧縮率やポンプ室の容積の変化量が変化しても、適切に溶媒供給流路の切り替えのタイミングを制御することができる。
【符号の説明】
【0079】
1、4…液体クロマトグラフ
11…貯留槽
12…送液管
121…第1送液管
122…第2送液管
123…第3送液管
13…試料注入部(インジェクタ)
14…カラム
15…検出器
20、30…ポンプユニット(第1実施形態における送液ユニット)
21、31…第1ポンプ
211、311…第1吸引口
212、312…第1吐出口
213、313…第1シリンダ(第1ポンプ室)
214、314…第1プランジャ
22、32…第2ポンプ
221、321…第2吸引口
222、322…第2吐出口
223、323…第2シリンダ(第2ポンプ室)
224、324…第2プランジャ
231、331…第1逆止弁
232、332…第2逆止弁
24…カム軸
251、351…第1カム
252、352…第2カム
26…ステッピングモータ
27…制御部
28…入力部
29…表示部
40…送液ユニット
411…第1貯留部
412…第2貯留部
42…移動相供給部
42…溶媒供給部
4221…第1供給流路(複数の溶媒供給流路のうちの1つ)
4222…第2供給流路(同上)
423…切替弁
424…切替制御部
46…ミキサー
51、52、53…予圧完了時の回転角(逆止弁開放時回転角)