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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023117994
(43)【公開日】2023-08-24
(54)【発明の名称】磁性壁面掛止システム
(51)【国際特許分類】
   H01F 7/02 20060101AFI20230817BHJP
   A47G 29/02 20060101ALI20230817BHJP
   A47G 29/00 20060101ALI20230817BHJP
【FI】
H01F7/02 F
A47G29/02
A47G29/00 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022020844
(22)【出願日】2022-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】000110893
【氏名又は名称】ニチレイマグネット株式会社
(72)【発明者】
【氏名】前橋 清
(72)【発明者】
【氏名】阿部 雅治
(72)【発明者】
【氏名】笠原 修
【テーマコード(参考)】
3K100
【Fターム(参考)】
3K100AA02
3K100AB10
3K100AE01
3K100AF03
3K100AJ05
(57)【要約】      (修正有)
【課題】簡単な構成で比較的大きな耐荷重を得られる磁性壁面掛止システム及び掛止具を提供する。
【解決手段】実質鉛直な平面を形成している壁表面に壁面マグネットシートを貼着してなる磁性壁面と、掛止具マグネットシート71を装着した掛止具とを有し、磁性壁面に掛止具マグネットシート71を磁気的に吸着させてなる磁性壁面掛止システムにおいて、壁面マグネットシートと掛止具マグネットシート71はともに表面に同一の着磁ピッチで多極着磁が施され、掛止具マグネットシート71の表面における任意の1つの磁極72とその隣の磁極73との境界部分がなす着磁ライン74Xが実質水平であるとともに、掛止具マグネットシート71は、その鉛直方向の略上半部に位置する磁極72、73において、該磁極72、73それぞれの上下方向幅の下層部の一部分が着磁されていないか又は減磁されている中立領域75を有する
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質鉛直な平面を形成している壁表面に壁面マグネットシートを貼着してなる磁性壁面と、掛止具マグネットシートを装着した掛止具とを有し、磁性壁面に掛止具マグネットシートを磁気的に吸着させてなる磁性壁面掛止システムにおいて、
壁面マグネットシートと掛止具マグネットシートはともに表面に同一の着磁ピッチで多極着磁が施され、
掛止具マグネットシートの表面における任意の1つの磁極とその隣の磁極との境界部分がなす着磁ラインが実質水平であるとともに、
掛止具マグネットシートは、その鉛直方向の略上半部に位置する磁極において、該磁極それぞれの上下方向幅の下層部の一部分が着磁されていないか、または減磁されている中立領域を有することを特徴とする磁性壁面掛止システム。
【請求項2】
掛止具は、裏面に掛止具マグネットシートが設けられた背面板と、背面板と直交して一体となった載置板とを備える請求項1に記載の磁性壁面掛止システム。
【請求項3】
掛止具マグネットシートは、その鉛直方向の長さが最上端から測って全長の少なくとも1/4、最大3/4の長さの部分までに位置する磁極において、前記中立領域を有する請求項1または請求項2に記載の磁性壁面掛止システム。
【請求項4】
中立領域は、掛止具マグネットシートの着磁ラインに平行で且つ微小幅を有する細帯状を呈し、掛止具マグネットシートの磁極の最下端と、その最下端から0.1mm以上で該磁極の上下方向幅の1/10以下の領域との間の範囲に形成されている請求項3に記載の磁性壁面掛止システム。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の掛止具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁性壁面掛止システムに関する。より詳しくは、壁面の不燃性が確保できるとともに、磁気的な吸着・反発力を利用して壁面に物品を掛止できるシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気吸着力を利用して壁面に物品を掛止するシステムの一つとして、特許文献1は、マグネット吸着化粧板と、マグネットシートを備える掛止具(用具)とを備える構成を開示している。この掛止具は、マグネット吸着化粧板に対して磁力により着脱自在に掛止され、吊下げフックや本棚等への適用を例示している。
【0003】
上記のようなシステムに用いられる掛止具では、より大きな耐荷重を確保するために、磁気吸引力を高め、或いは粘着質の材質をマグネットシート等の磁石体の表面にコーティング或いは貼ることで摩擦力を高める取組み等がなされてきた。例えば、特許文献2では、軟磁性壁面に磁気吸着させる強力な永久磁石と、滑り止めの弾性体とを組み合わせた掛止具を開示している。
一方、特許文献3は、表面に多極着磁の施された多極着磁型のマグネットシートを貼った壁面に、このマグネットシートと同一ピッチで着磁されているマグネットシートを備えた表示片を磁気吸着させるものである。
【0004】
【特許文献1】実用新案登録第3207754号
【特許文献2】実開昭49-138266号
【特許文献3】実用新案登録第3039710号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術は、壁面の汚染や弾性体の劣化や汚れが起因となって、十分な静止摩擦力を得ることができなくなってしまうことがある。更に特許文献2では特別な永久磁石を必要とし、また大袈裟な掛止具になってしまう。また、特許文献3の技術では、表示シートや軽量な負荷であれば十分機能するが、負荷が増すと、磁気吸着力が弱くまた十分な摩擦係数が確保できないことから掛止具は脱落してしまう。
【0006】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、簡単な構成で、比較的大きな耐荷重を得られる磁性壁面掛止システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するために次のような手段をとる。なお、本欄(「課題を解決するための手段」の欄)において各構成手段に付した括弧書きの符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すための参考用のものであり、本発明の構成手段をこれに限定するものではない。
【0008】
本発明の一の態様は、実質鉛直な平面を形成している壁表面に壁面マグネットシート(21)を貼着してなる磁性壁面(11)と、掛止具マグネットシート(71)を装着した掛止具(70)とを有し、磁性壁面(11)に掛止具マグネットシート(71)を磁気的に吸着させてなる磁性壁面掛止システム(1)において、壁面マグネットシート(21)と掛止具マグネットシート(71)はともに表面に同一の着磁ピッチで多極着磁が施され、掛止具マグネットシート(71)の表面における任意の1つの磁極(72)とその隣の磁極(73)との境界部分がなす着磁ライン(74X)が実質水平であるとともに、掛止具マグネットシート(71)は、その鉛直方向の略上半部に位置する磁極(72,73)において、該磁極(72,73)それぞれの上下方向幅の下層部の一部分が着磁されていないか、または減磁されている中立領域(75)を有することを特徴とする。
【0009】
本発明の他の態様では、掛止具(70)は、裏面に掛止具マグネットシート(71)が設けられた背面板(77)と、背面板(77)と直交して一体となった載置板(78)とを備える。
【0010】
本発明の他の態様では、掛止具マグネットシート(71)は、その鉛直方向の長さが最上端(U0)から測って全長の少なくとも1/4、最大3/4の長さの部分までに位置する磁極(72,73)において、前記中立領域(75)を有する。
【0011】
本発明の他の態様では、中立領域(75)は、掛止具マグネットシート(71)の着磁ライン(74X)に平行で且つ微小幅を有する細帯状を呈し、掛止具マグネットシート(71)の磁極(72,73)の最下端(72D,73D)と、その最下端(72D,73D)から0.1mm以上で該磁極(72,73)の上下方向幅の1/10以下の領域との間の範囲に形成されている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、簡単な構成で、比較的大きな耐荷重を得られる磁性壁面掛止システムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の磁性壁面掛止システムを示す斜視図である。
図2】本発明の磁性壁面掛止システムにおける磁性壁側のマグネットシートの2面図である。
図3】本発明の磁性壁面掛止システムにおける掛止具側のマグネットシートの2面図である。
図4】多極着磁用の着磁器を示す側断面図である。
図5】本発明の磁性壁面掛止システムの使用例を示す側面図である。
図6図5における2枚のマグネットシート間の作用力と相対位置関係を説明するための側面図である。
図7図6の一点鎖線部分の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は本発明の磁性壁面掛止システム1を示す斜視図であり、(a)は外観図、(b)は一部分解図を示す。図2は本発明の磁性壁面掛止システム1における磁性壁10側のマグネットシート21の2面図であり、(a)は正面図、(b)は側面図を示す。図3は本発明の磁性壁面掛止システム1における掛止具70側のマグネットシート71の2面図であり、(a)は正面図、(b)は側面図を示す。
なお、後述の各図を含めたこれらの図において、直交座標系の3軸をXYZとし、磁性壁10の壁面11はXY平面に垂直で且つZX平面に平行であるものとする。また、各図の縮尺は必ずしも正確なものではなく、その一部の要素は、単に本発明をわかりやすくするために描いただけのものである。
【0015】
本発明の磁性壁面掛止システム1は、図1(a)に示すように、磁性壁10と掛止具70を備え、磁性壁10に設けられたマグネットシート21と、掛止具70に設けられたマグネットシート71とが磁気吸着し合うことで、掛止具70を磁性壁10の壁面11に掛止する構成とされる。
【0016】
磁性壁10は、図1(b)に示すように、磁性壁材シート20と軟磁性ボード30と壁下地40を備える。
【0017】
磁性壁材シート20は、マグネットシート21に壁材フィルム25を例えばウレタン系の接着剤を介して積層させた構成とされる。
【0018】
マグネットシート21は、厚さ80μ~400μとされる可撓性シート状の磁石体であり、図2に示すように、その表裏各面は、互いに極性の異なる一定幅の磁極22,23(N極とS極)が交互に等間隔の縞状に形成され、一定ピッチの着磁ライン24Xを有する両面多極着磁型となっている。ここで着磁ライン24Xとは、多極着磁されたマグネットシート21の表面における任意の1つの磁極22と、その隣にある極性の異なる磁極23との仮想の境界線のことである。現実的には、磁気ビュアシート(磁性流体のマイクロカプセルをフィルム中に均一に分散させたもの)を密着させたときに白く見える部分であって、マグネットシート表面における法線方向、即ち表面に垂直方向の磁場が著しく弱いかまたは零の領域である。つまり、着磁ライン24Xは、シート表面の仮想線を意味する。本発明での着磁ライン24Xは、側面図では、マグネットシート21の厚み方向の両端部に位置することになる。
【0019】
ここでマグネットシート21の厚さを上記範囲としたのは、防耐火性と磁気保持力を確保するためである。すなわち400μを超えると防耐火性の確保が難しくなり、80μ未満とすると十分な磁気保持力が期待できない。また、両面多極着磁型としたのは、表裏両面とも相応な磁気吸着力を要するからである。すなわちマグネットシート21の一方の面は、室内空間側に面して、強磁性体(磁石としての性質を有するものと有さないもののいずれでもよい)を装着した表示片或いは棚等の掛止具を磁力によって吸着保持するように機能し、他方の面は、軟磁性層32(後述)を備えた軟磁性ボード30に磁気吸着するとともに、その際に生じるバックヨーク効果を確保するように機能するからである。
【0020】
このようなマグネットシート21は、硬磁性材料(例えばバリウムフェライト、ストロンチウムフェライト等のフェライト系磁石材料またはサマリウム・コバルト系磁石、ネオジウム・鉄・ホウ素系磁石等、希土類磁石材料)の微粉末と、粘結材となる少量の有機高分子エラストマー(例えば塩素化ポリエチレン、クロロスルフォン化ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニール共重合体、エチレン・プロピレンゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム、クロロプレンゴム)との混合体を、圧延または押出しなどの成形方式によりシート状に成形し、両面に着磁を施して製作される。なお、マグネットシート21は、等方性材料よりは異方性材料により構成されることが好ましい。異方性材料は等方性材料に較べて、シートの面に垂直な方向への磁化が強く、且つ片方の面からその裏側への磁力を通し易いので、裏面のバックヨーク(軟磁性層32)と壁面11に磁着させた掛止具70のマグネットシート71との磁気吸引作用を最大限に活かすことができるからである。また、マグネットシート21の着磁ピッチは1.0mm以上7.0mm以下であることが好ましい。さらに好ましくは、2.0以上6.0mm以下である。なお、着磁ピッチは、マグネットシート21の厚さに応じて、要求に適う磁力の得られる幅が選択される。
【0021】
壁材フィルム25は、厚さ70μ~140μとされたフィルム状の装飾壁面材であり、ベースフィルム(図示せず)の上面に絵柄や模様が印刷されたインキ層を備える。ベースフィルムとしては、表面にインキ受理層を形成したポリ塩化ビニール系樹脂、ポリエチレン系樹脂等の熱可塑性樹脂、または薄いコート紙などを使用することができる。このインキ受理層に用途に応じた印刷によりインクを定着させる。印刷方式には、オフセット印刷、凸版印刷、インクジェット印刷、熱転写印刷などを挙げることができる。このような構成の壁材フィルム25は既に生産もされている。厚さ140μ以下としたのは、磁性壁材シート10の総厚を、防耐火性の確保を期待できる最上限の540μ以下に収めるためである。また、必要以上に厚いと、シート磁石からの磁力線の透過率が小さくなり、磁性壁としての磁気吸着能力が劣ってしまうためである。また厚さ70μ以上としたのは適当な引張強度と下層のマグネットシート21の隠蔽能力を確保するためである。
【0022】
以上に示す磁性壁材シート20は、ISO5660-1に準拠し、建築基準法第2条第9号及び建築基準法施工令第108条の2に基づく防耐火試験方法と性能評価規格に従うコーンカロリーメーター試験機による発熱性試験において、〔1〕加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m以下であり、〔2〕加熱開始後20分間、最大発熱速度が10秒以上継続して200KW/mを超えず、〔3〕加熱開始後20分間、防火上有害な亀裂及び穴がない条件を満たす不燃性を有する。
【0023】
更に、昭和51年8月25日建設省告示第1231号によるガス有害試験方法に準じたガス有害性試験において、マウスの平均行動停止時間値が6.8分以上であるという評価基準を満たしている。すなわち、被試験体を加熱炉内で電気ヒータからの輻射熱と接炎により加熱し、発生するガスを吸入した8匹のマウスが行動停止に至るまでの時間(行動停止時間)の平均値X及び標準偏差σを求め、次式によりマウスの行動停止時間Xsを求める。
Xs=X-σ
Xsの値が6.8分(標準的な木材におけるマウスの行動停止時間)よりも大きい場合を合格とする評価基準を満たしている。ここで、行動停止時間の平均値からその標準偏差を引いた値を合否の判断基準としているのは、材料及び試験結果のバラツキを含めて、評価しようとする考え方によるものである。
【0024】
軟磁性ボード30は、石膏ボード31と、石膏ボード31の片面に積層された軟磁性層32を備える。軟磁性ボード30は、その軟磁性層32を表側、すなわち室内空間に向けた状態で、合板、コンクリート、または軽金属などを基材とした壁下地40に対し、釘、ビス、接着剤、ステープルなどで留付け固定される。なお、軟磁性ボード30として、無機ボードの片面に化粧鋼板層を積層させたボード、鋼板、または鋼板に表装シート若しくは機能性シートをラミネートしたボードを用いてもよい。
【0025】
磁性壁材シート20は、そのマグネットシート21の磁着面を、軟磁性ボード30の軟磁性層32の表面に磁気吸着させることで固定する。これによって、磁性壁材シート20は、その壁面11に強磁性体を磁気吸着できる磁性壁として機能する。すなわち、表面に意匠が施されるとともに、強磁性体を装着した表示片或いは棚等の物品などを磁力により吸着保持できる。
【0026】
このような磁性壁材シート20は、マグネットシート21と壁材フィルム25との総厚が150μ~540μであることが好ましい。
【0027】
掛止具70は、図1に示すように、背面板77と載置板78を備えた側面視L字型の磁着式棚であり、背面板77の裏面にマグネットシート71が接着剤により貼り付けられている。背面板77は、その底部が載置板78と直交して一体となっている。掛止具70は、負荷Lとなる物品を載置板78に載せた状態で壁面11に掛止できるようになっている。
【0028】
マグネットシート71は、マグネットシート21と同様に、例えば粘結剤となる合成樹脂と、硬磁性物質からなる磁性粉との混合体に着磁を施したシート状の磁石体からなる。すなわち、図3に示すように、その表裏各面は、互いに極性の異なる一定幅の磁極72,73(N極とS極)が交互に等間隔の縞状に形成され、一定ピッチの着磁ライン74Xを有する両面多極着磁型となっている。マグネットシート71の着磁ピッチは、マグネットシート21の着磁ピッチと同一とされる。
【0029】
ここで、マグネットシート71は、マグネットシート21(図2参照)に対して、次の点で磁極構造が異なる。すなわち、マグネットシート71は、着磁ピッチ方向(図3ではZ軸方向)の略上半部において、N,S各磁極72,73の最下端近傍位置に中立領域75を有する。中立領域75は、着磁ライン74Xに平行で且つ微小幅を有する細帯状を呈し、着磁されていないか、または消磁されているか、或いは減磁されている領域である。具体的には、磁極72,73の最下端72D,73Dからそれぞれ0.1mm以上で磁極72,73の上下方向幅の1/10以下の範囲に形成されている。つまり、磁極72,73の最下端72D,73Dと、その最下端72D,73Dからそれぞれ0.1mm以上で磁極72,73の上下方向幅の1/10以下の領域との間の範囲に形成されている。
【0030】
このようなマグネットシート71の磁極構造は、例えば多極着磁用の着磁器における着磁ヨークの形状を従来品から変更することで実現できる。
図4は多極着磁用の着磁器を示す側断面図であり、(a)は従来の多極着磁型のマグネットシートを製作するときに使用する着磁器90Aを示し、(b)は磁性壁面掛止システム1におけるマグネットシート71を製作するときに使用する着磁器90Bを示す。
着磁器90Bは、着磁器90Aに対して、着磁ヨーク91の表面におけるコイル92を埋設する凹溝を幅広域94としている。なお、95は着磁対象となる未着磁のマグネットシートを示す。
【0031】
また、着磁ヨークの形状を変更するのではなく、従来のマグネットシートの上半部における各磁極の最下端部分に、細長い磁極構造であって且つ表面磁束密度と保磁力が大きい磁石(異なる磁極)を近づけることによって減磁または脱磁させる事でもって、実質同様な磁極構造が得られる。
【0032】
次に、磁性壁面掛止システム1に特有な作用効果を、図5,6,7を用いて説明する。
図5は本発明の磁性壁面掛止システムの使用例を示す側面図である。
図6は2枚のマグネットシート21,71間の作用力と相対位置関係を説明するための側面図であり、(a)は負荷L(図5参照)が軽く静止摩擦力だけで余裕をもって掛止具70が壁面11に留まっているときの状態を示し、(b)は負荷Lが重く静止摩擦力だけでは支えきれなくなる直後の状態を示している。掛止具70にかかる荷重(掛止具70の自重を含む)は(a)ではW3、(b)ではW4(W4>W3)であるものとする。また、図7図6の破線部分の拡大図である。
【0033】
図6(a)では、掛止具70は、マグネットシート21,71間の磁気吸着力Pにより、壁面11に吸着し、掛止されている。すなわち、壁面のマグネットシート21と掛止具70のマグネットシート71とは、互いに異極同士(N極とS極)が磁着した状態となっており、この状態では、掛止具70に働く下向きの力W3と、静止摩擦力Q4とが釣り合っており、掛止具70は滑ることなく壁面11に留まっている。
【0034】
次に、図6(b)のように、掛止具70に載せられた負荷Lによる荷重が、静止摩擦力Q4で掛止できる限界よりやや大きい状況を想定する。
この状況では、掛止具70にかかる荷重W4によって掛止具70は鉛直下方へ引き下げられる力を受け、壁面11に沿って鉛直下方向へ移動する。これによりマグネットシート21とマグネットシート71とが鉛直方向に相対的に微小間隔ずれる。つまりそれぞれのマグネットシート21,71の着磁ライン24X,74Xは、それらに垂直な方向にずれる。
【0035】
ここで、マグネットシート71の下半部では、領域Bにおいて同極性の磁極(N極22とN極72、S極23とS極73)が重なりあうことになり、鉛直上方向と横方向へ向けて磁気的な反発力f4,f5が発生する。ところで、掛止具70のマグネットシート71の下方では、回転モーメントM4によって壁面11の方向へ押し付けられているので、押付力と磁気吸着力が反発力に勝り、掛止具70は壁面11に留まるのである。
【0036】
一方、マグネットシート71の上半部では、磁性壁10のマグネットシート21のN極,S極に、掛止具70のマグネットシート71の中立領域75が近づき重なり合うが、異極同士でないため、磁気的な反発力は生じない。例えば図7中の太矢印部分では、掛止具70のマグネットシート71のN極72は、壁面のマグネットシート21のN極22とZ方向について重ならないので、磁気的な反発力を無視することができる。このため、中立領域75がない場合に比べて、磁気吸着力は、少なくとも反発力相当分が損なわれることがなく維持される。
【0037】
掛止具70には図6に示した回転モーメントM3またはM4が働くが、この場合、掛止具70の上半部では、掛止具のマグネットシート71を壁面11から離脱させる力となり、掛止具の耐荷重を損なう恐れがある。そこで本磁性壁面掛止システム1は、同一磁極が重ならず磁気的な反発力が軽減できるような磁極構造としている。
【0038】
なお、掛止具70に装着されたマグネットシート71において、中立領域75を備えた磁極が形成される範囲は、図3(a)に示すように、マグネットシート71の最上端U0から鉛直下方に測って少なくともU1以上で最大でもU2までの領域であることが好ましい。つまり、マグネットシート71の最上端U0と、その最上端U0から鉛直下方にU1以上でU2以下の領域V1との間の範囲である。
ここで、U1は、マグネットシート71における最上端U0から鉛直下方に測ってマグネットシート71の鉛直方向についての全長の1/4の長さである。
またU2は、マグネットシート71における最上端U0から鉛直下方に測ってマグネットシート71の鉛直方向についての全長の3/4の長さである。
【0039】
上記範囲とした理由は、最上端U0から1/4の長さU1よりも小さい範囲V2にある磁極だけに中立領域75が形成されても、磁気的な反発力を無視できる効果(磁着力確保の効果)は少なく、また、最上端U0から3/4の長さU2よりも大きい範囲V3にある磁極にまで中立領域75が形成されると、十分な磁気吸着力の確保が期待できなくなってしまうからである。
また、鉛直方向についての中立領域75の幅は、磁極幅の10%を超える必要はなく、0.2mm程度で効果がある。
【0040】
以上、本発明の実施の形態について説明を行ったが、上に開示した実施の形態は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこの実施の形態に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、更に特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更を含むことが意図される。
【0041】
なお、本発明のマグネットシートの断面を説明する図、すなわち図2の(b)、図3の(b)、図6の(a)(b)、及び図7における破線(マグネットシート面に垂直方向)は、マグネットシート断面における磁極の構成を略説明するための補助的な線であり、本明細書で定義した「着磁線」ではない。
【産業上の利用可能性】
【0042】
磁気的な吸着・反発力を利用して壁面に物品を掛止できるシステムとして有効である。
【符号の説明】
【0043】
1 磁性壁面掛止システム
11 壁面(磁性壁面)
21 マグネットシート(壁面マグネットシート)
70 掛止具
71 マグネットシート(掛止具マグネットシート)
72 磁極
72D 最下端
73 磁極
73D 最下端
74X 着磁ライン
75 中立領域
U0 最上端
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7