(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023118009
(43)【公開日】2023-08-24
(54)【発明の名称】X線回折装置及び計測方法
(51)【国際特許分類】
G01N 23/207 20180101AFI20230817BHJP
【FI】
G01N23/207
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022020882
(22)【出願日】2022-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】000250339
【氏名又は名称】株式会社リガク
(74)【代理人】
【識別番号】110002789
【氏名又は名称】弁理士法人IPX
(72)【発明者】
【氏名】小中 尚
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA18
2G001CA01
2G001DA08
2G001SA01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明の一態様によれば、X線回折装置が提供される。
【解決手段】X線回折装置は、X線源と、試料台と、検出器と、スリット部材と、を備える。X線源は、試料にX線を照射可能に構成される。試料台には、X線が回折するように試料を設置可能に構成される。検出器は、回折したX線である回折X線を検出ストリップにて1次元で検出可能に構成される。スリット部材は、試料台及び検出器の間に設けられる。回折X線が通過可能なスリットを有する。スリットの長手方向の軸は、検出ストリップの長手方向の軸と平行である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線回折装置であって、
X線源と、試料台と、検出器と、スリット部材と、を備え、
前記X線源は、試料にX線を照射可能に構成され、
前記試料台には、前記X線が回折するように前記試料を設置可能に構成され、
前記検出器は、回折した前記X線である回折X線を検出ストリップにて1次元で検出可能に構成され、
前記スリット部材は、
前記試料台及び前記検出器の間に設けられ、
前記回折X線が通過可能なスリットを有し、
前記スリットの長手方向の軸は、前記検出ストリップの長手方向の軸と平行である、
X線回折装置。
【請求項2】
請求項1に記載のX線回折装置において、
前記スリットは、前記試料台から前記検出器に向かって広がるようにテーパ形状を有する、
X線回折装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のX線回折装置において、
前記スリットの短手方向の幅は、前記検出ストリップの短手方向の幅よりも広い、
X線回折装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3までの何れか1つに記載のX線回折装置において、
ゴニオメータ円の中心、前記スリットの短手方向の中心及び前記検出ストリップは、一直線上に設けられる、
X線回折装置。
【請求項5】
請求項4に記載のX線回折装置において、
前記回折X線の回折角は、前記スリットから前記検出器までの距離に依存する、
X線回折装置。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載のX線回折装置において、
前記スリット及び前記検出器の間の距離は、前記回折X線の回折角、ゴニオメータの角度及び一の検出ストリップから他の検出ストリップまでの距離に依存する、
X線回折装置。
【請求項7】
請求項4から請求項6までの何れか1つに記載のX線回折装置において、
前記検出器は、前記回折X線の回折角がゴニオメータ角と等しいときに、第1検出ストリップで前記回折X線を検出し、前記回折角が前記ゴニオメータ角と等しくないときに、第2検出ストリップで前記回折X線を検出する、
X線回折装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7までの何れか1つに記載のX線回折装置において、
干渉防止部材を備え、
前記スリット部材は、第1スリットと、第2スリットと、を有し、
前記第1スリットの長手方向の軸及び前記第2スリットの長手方向の軸は、平行であり、
前記干渉防止部材は、前記スリット部材及び前記検出器の間において、前記第1スリットを通過した第1回折X線と、前記第2スリットを通過した第2回折X線と、の干渉を防止するように構成される、
X線回折装置。
【請求項9】
請求項1から請求項8までの何れか1つに記載のX線回折装置において、
モノクロメータを備え、
前記モノクロメータは、
特定波長の前記回折X線を回折する格子面を有し、
前記スリット部材及び前記検出器の間において、前記格子面が前記スリットの長手方向の一端から他端に向かう方向に傾斜して設けられる、
X線回折装置。
【請求項10】
請求項1から請求項9までの何れか1つに記載のX線回折装置において、
前記試料台は、前記試料を設置する設置面を有し、前記設置面に対して平行に移動する、
X線回折装置。
【請求項11】
請求項1から請求項10までの何れか1つに記載のX線回折装置において、
前記試料台は、前記試料を設置する設置面を有し、前記設置面の向きを変更するように、軸中心に回転可能に構成される、
X線回折装置。
【請求項12】
請求項1から請求項11までの何れか1つに記載のX線回折装置において、
前記X線源から前記試料に照射されるX線は、平行X線である、
X線回折装置。
【請求項13】
試料の計測方法であって、
前記試料にX線を照射し、前記X線を回折させ、
回折した前記X線である回折X線をスリットに通過させ、
検出ストリップにて、前記回折X線を1次元で検出することで、前記試料を計測し、
前記スリットの長手方向の軸は、前記検出ストリップの長手方向の軸と平行である、
計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線回折装置及び計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、平行スリットアナライザを介してX線を検出するX線回折装置が開示されている。また、特許文献2には、1次元検出器、2次元検出器等を用いて回折X線を検出するX線回折装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-010486号公報
【特許文献2】特開2020-153724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のような平行スリットアナライザ(すなわち、PSA(Parallel Slit Analyzer))を介してX線を検出するX線回折測定において、高精度及び高強度なプロファイルを維持することが難しく、依然として改良の余地があった。
【0005】
また、特許文献2のようなPSAを用いないX線回折測定においても、試料の設置条件、試料形状等に依存して、精度及び正確度を維持することができず、依然として改良の余地があった。
【0006】
本発明では、このような問題を解決するためになされたものであって上記事情に鑑み、条件に依存せずに高精度及び高正確度なプロファイルをより高強度で取得できるX線回折装置及び計測方法を提供することを目的とするとした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、X線回折装置が提供される。このX線回折装置は、X線源と、試料台と、検出器と、スリット部材と、を備える。X線源は、試料にX線を照射可能に構成される。試料台には、X線が回折するように試料を設置可能に構成される。検出器は、回折したX線である回折X線を検出ストリップにて1次元で検出可能に構成される。スリット部材は、試料台及び検出器の間に設けられる。回折X線が通過可能なスリットを有する。スリットの長手方向の軸は、検出ストリップの長手方向の軸と平行である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態1に係るX線回折装置100の一例を示す側面図である。
【
図2】X線回折装置100とプロファイルの強度との関係性を説明する図である。
【
図3】X線回折装置100の各パラメータを説明する図である。
【
図4】X線回折装置100とピークの精度との関係性を説明する図である。
【
図5】ゴニオメータ角2Θと回折角2θとが一致する場合の検出器160の検出面160aのX線検出位置Dとの関係性の一例を説明する側面図である。
【
図6】ゴニオメータ角2Θと回折角2θとが一致する場合の検出器160のX線検出位置Dとの関係性の一例を説明する斜視図である。
【
図7】ゴニオメータ角2Θと回折角2θとが一致しない場合の検出器160の検出面160aのX線検出位置Dとの関係性の一例を説明する斜視図である。
【
図8】ゴニオメータ角2Θと回折角2θとが一致しない場合の検出器160の検出面160aのX線検出位置Dとの関係性の一例を説明する斜視図である。
【
図9】X線回折測定により得られるプロファイルを説明する図である。
【
図10】同じ回折角2θのデータを取得するときのX線回折装置100の動作を説明する図である。
【
図11】実施形態1に係るX線回折装置100の動作の一例を示す側面図である。
【
図12】実施形態1に係るX線回折装置100の動作の一例を示す側面図である。
【
図13】比較例1に係るX線回折装置200の一例を示す側面図である。
【
図14】比較例2に係るX線回折装置300の一例を示す側面図である。
【
図15】X線回折測定における正確度及び精度を説明する図の一例である。
【
図16】各X線回折装置100、200、300を用いて測定した結果の一例を示す図である。
【
図17】実施形態1におけるX線回折装置100を用いて、試料Fを上下方向に移動させて行った測定の結果の一例を示す図である。
【
図18】比較例1におけるX線回折装置200を用いて、試料Fを上下方向に移動させて行った測定の結果の一例を示す図である。
【
図19】比較例2におけるX線回折装置300を用いて、試料Fを上下方向に移動させて行った測定の結果の一例を示す図である。
【
図20】実施形態1におけるX線回折装置100を用いて、試料表面をあおり方向に回転させて行った測定の結果の一例を示す図である。
【
図21】比較例1におけるX線回折装置200を用いて、試料表面をあおり方向に回転させて行った測定の結果の一例を示す図である。
【
図22】比較例2におけるX線回折装置300を用いて、試料表面をあおり方向に回転させて行った測定の結果の一例を示す図である。
【
図23】実施形態1におけるX線回折装置100を用いて入射X線120のビーム幅を変化させたときの測定の結果の一例を示す図である。
【
図24】比較例1におけるX線回折装置200を用いて入射X線120のビーム幅を変化させたときの測定の結果の一例を示す図である。
【
図25】比較例2におけるX線回折装置300を用いて入射X線120のビーム幅を変化させたときの測定の結果の一例を示す図である。
【
図26】実施形態1におけるX線回折装置100を用いて入射X線120の入射角度を変更して行った測定の結果の一例を示す図である。
【
図27】比較例1におけるX線回折装置200を用いて入射X線220の入射角度を変更して行った測定の結果の一例を示す図である。
【
図28】比較例2におけるX線回折装置300を用いて入射X線の入射角度を変更して行った測定の結果の一例を示す図である。
【
図29】実施形態1の変形例1に係るX線回折装置400の一例を示す側面図である。
【
図30】実施形態1の変形例1に係るX線回折装置400の一例を示す上面図である。
【
図31】実施形態1の変形例2に係るX線回折装置500の一例を示す側面図である。
【
図32】実施形態1の変形例3に係るX線回折装置600の一例を示す側面図である。
【
図33】実施形態1の変形例4に係るX線回折装置700の一例を示す側面図である。
【
図34】実施形態1の変形例5に係るX線回折装置800の一例を示す側面図である。
【
図35】
図34の破線で囲まれる領域を拡大した拡大図である。
【
図36】実施形態2に係るX線回折装置900の一例を示す斜視図である。
【
図37】ピンホール部材1050及び2次元検出器1060を用いるX線回折装置1000の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係るX線回折装置を実施形態に基づいて説明する。以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。なお、本発明は、この実施形態に限定されない。また、本明細書に添付した図面では特徴的な部分を分かり易く示すために実際のものとは異なった比率で構成要素を示す場合がある。また、本明細書において、互いに直交する3つの空間軸をX軸、Y軸、Z軸とし、X軸、Y軸、Z軸に沿った方向をそれぞれX軸方向、Y軸方向、Z軸方向とする。A軸方向、B軸方向、C軸方向についても同様である。
【0010】
X線回折測定の方法には、アウトオブプレーン(Out of Plane)測定とインプレーン(In-Plane)測定とがあり、これらは、測定する格子面の方向によってそれぞれ規定される。アウトオブプレーン測定は、
図1に示すように試料の表面に対して垂直でない格子面を評価する手法である。一方で、インプレーン測定は、後述する
図36に示すように試料の表面に対して垂直な格子面を評価する手法である。
【0011】
[実施形態1]
まず、アウトオブプレーン測定を行う場合について説明する。
図1は、実施形態1に係るX線回折装置100の一例を示す側面図である。
X線回折装置100は、X線源110と、試料台130と、スリット部材150と、検出器160と、を備える。X線源110は、試料Fに入射X線120を照射可能に構成される。X線回折装置100は、アウトオブプレーン測定を行う装置である。
【0012】
図1におけるXYZ座標系は、試料台130の試料Fの設置面130aを基準に設定されたデカルト座標系である。軸の正負は、図示の通りである。X軸方向及びY軸方向によって規定される面は、試料台130の設置面130aと平行であり、Z軸方向は、試料台130の設置面130aと垂直である。以降の側面図におけるX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向も同様である。なお、設置面130aにおいて微量な試料Fを平坦に均した場合、その厚みは無視可能なほどに小さくなるため、試料表面は、設置面130aと一致するものとして取り扱ってよい。また、実施形態1では、XYZ座標は、試料台130の設置面130aを基準とするが、試料表面を基準とすることもできる。
【0013】
また、
図1におけるABC座標系は、検出器160の検出面160aを基準に設定されたデカルト座標系である。軸の正負は、図示の通りである。A軸方向及びB軸方向によって規定される面は、検出器160の検出面160aと平行であり、C軸方向は、検出器160の検出面160aと垂直である。以降の側面図におけるA軸方向、B軸方向及びC軸方向も同様である。
【0014】
X線回折測定において検出器160は、試料Fで回折したX線を検出するために、ゴニオメータ中心Gを基準としたゴニオメータ円と呼ばれる円に沿って回転して移動する。
【0015】
X線源110は、試料台130上の試料Fに向けて入射X線120を照射する。このとき、X線源110から試料Fに照射されるX線は、入射側スリット(不図示)を介すること等により、平行X線とされる。また、X線源110は、ゴニオメータ中心Gを基準として動作するように、固定されてもよい。さらに、X線源110は、CuKα、FeKα等の特性X線からなる入射X線120を照射するように構成されてもよい。
【0016】
試料台130は、入射X線120(X線)が回折するように試料Fを設置可能に構成される。試料Fは、試料台130に接着されてもよい。試料Fの表面に入射X線120が照射される。X線源110から出た入射X線120は、試料Fの表面に当たり、試料Fの内の特定の結晶格子面で回折する。結晶格子面で回折した回折X線140は、スリット部材150のスリット151を通過し、検出器160の検出ストリップ161で検出される。
【0017】
スリット部材150は、試料台130及び検出器160の間に設けられる。ここで、スリット部材150は、回折X線140が通過可能なスリット151を有する。スリット部材150のスリット151の長手方向(B軸方向)の軸は、検出ストリップ161の長手方向(B軸方向)の軸と平行である。すなわち、スリット151は、B軸方向に沿って形成される。また、スリット151の短手方向(A軸方向)の幅は、検出ストリップ161の短手方向(A軸方向)の幅よりも広い。他の実施形態では、スリット151の短手方向の幅は、検出ストリップ161の短手方向の幅よりも狭くしてもよい。さらに、スリット151の短手方向の幅は、検出ストリップ161の短手方向の幅と等しくしてもよい。また、スリット151は、試料台130から検出器160に向かう方向にテーパ形状を有する。すなわち、スリット151は、C軸の+方向に広がるテーパ形状を有する。スリット151をテーパ形状に構成することにより、プロファイルのバックグラウンドを低減することができる。また、スリット部材150は、試料台130、検出器160又はゴニオメータのアーム上に支持される。さらに、スリット部材150は、X線を透過しない性質を持つものであればよく、モリブデン等により構成される。
【0018】
さらに、極微小な領域にX線を照射することに代えて、適切なサイズのスリット151を有するスリット部材150を設けることができる。これにより、特定の位置から回折したX線を測定することができる。
【0019】
検出器160は、回折したX線である回折X線140を検出ストリップ161にて1次元で検出可能に構成される。すなわち、検出器160は、回折平面に平行な平面内において1次元の位置感応型の検出器である。B軸方向に伸びる細長い面として構成される検出ストリップ161は、ひとつの検出チャンネルを構成し、この検出チャンネルが水平方向(A軸方向)に多数個(例えば、128個)並ぶことで検出面160aを構成する。任意の回折角2θの回折X線が検出面160aで検出される場合、異なる検出ストリップ161で計測した同じ回折角2θの測定結果を積算することで、高強度のプロファイル(ピーク)を得ることができる。ここで、検出ストリップ161の幅が狭くなるほど、精度が高くなるが、強度は低くなる。また、検出ストリップ161の数を多くすることで、高い精度を維持したまま、高強度なデータを得ることができる。なお、検出器160は、1次元に検出することが可能なものであればよく、0次元又は2次元に検出することが可能な機能を備えていてもよい。
【0020】
次に、
図2乃至
図4を用いて、本実施形態のX線回折装置100と、得られるプロファイルと、の関係性を説明する。
図2は、X線回折装置100とプロファイルの強度との関係性を説明する図である。
試料F(より具体的には、ゴニオメータ中心G)からスリット部材150の前面150aまでの最短の距離L
S及びスリット151の短手方向(A軸方向)のスリット幅W
Sは、測定されるプロファイルの強度に影響を及ぼす。すなわち、数1に示すように、測定可能なプロファイルの強度(Intensity)は、距離L
S及びスリット幅W
Sに比例する。距離L
Sを短くすることで、精度を低くすることなく、プロファイルの強度が高くなる。
【0021】
【0022】
ゴニオメータ中心Gからスリット部材150の前面150aまでの最短の距離LSは、例えば、5~160mmであり、好ましくは、5~50mmであり、具体的には例えば、5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20,21,22,23,24,25,26,27,28,29,30,31,32,33,34,35,36,37,38,39,40,41,42,43,44,45,46,47,48,49,50,51,52,53,54,55,56,57,58,59,60,61,62,63,64,65,66,67,68,69,70,71,72,73,74,75,76,77,78,79,80,81,82,83,84,85,86,87,88,89,90,91,92,93,94,95,96,97,98,99,100,101,102,103,104,105,106,107,108,109,110,111,112,113,114,115,116,117,118,119,120,121,122,123,124,125,126,127,128,129,130,131,132,133,134,135,136,137,138,139,140,141,142,143,144,145,146,147,148,149,150,151,152,153,154,155,156,157,158,159,160mmであり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0023】
また、スリット151の短手方向(A軸方向)のスリット幅WSは、例えば、0.01~3mmであり、好ましくは、0.01,0.02,0.03,0.04,0.05,0.06,0.07,0.08,0.09,0.1,0.11,0.12,0.13,0.14,0.15,0.16,0.17,0.18,0.19,0.2,0.21,0.22,0.23,0.24,0.25,0.26,0.27,0.28,0.29,0.3,0.31,0.32,0.33,0.34,0.35,0.36,0.37,0.38,0.39,0.4,0.41,0.42,0.43,0.44,0.45,0.46,0.47,0.48,0.49,0.5,0.51,0.52,0.53,0.54,0.55,0.56,0.57,0.58,0.59,0.6,0.61,0.62,0.63,0.64,0.65,0.66,0.67,0.68,0.69,0.7,0.71,0.72,0.73,0.74,0.75,0.76,0.77,0.78,0.79,0.8,0.81,0.82,0.83,0.84,0.85,0.86,0.87,0.88,0.89,0.9,0.91,0.92,0.93,0.94,0.95,0.96,0.97,0.98,0.99,1,1.05,1.1,1.15,1.2,1.25,1.3,1.35,1.4,1.45,1.5,1.55,1.6,1.65,1.7,1.75,1.8,1.85,1.9,1.95,2,2.05,2.1,2.15,2.2,2.25,2.3,2.35,2.4,2.45,2.5,2.55,2.6,2.65,2.7,2.75,2.8,2.85,2.9,2.95,3mmであり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0024】
次に、
図3及び
図4を用いて、X線回折装置100とプロファイル中のピークの精度との関係性を説明する。
図3は、X線回折装置100の各パラメータを説明する図である。
ピークの精度は、スリット部材150の前面150aから検出器160の検出面160aまでの最短の距離L、スリット151の短手方向(A軸方向)のスリット幅W
S及び検出ストリップ161の短手方向(A軸方向)のストリップ幅W
Dに依存する。
【0025】
図4は、X線回折装置100とピークの精度との関係性を説明する図である。
精度を示す指標として、ピークの半値幅FWHM(Full Width Half Maximum)が使用される。半値幅FWHMは、数2に示すように近似することができる。すなわち、スリット部材150の前面150aから検出器160の検出面160aまでの最短の距離Lを大きくするか、スリット151の短手方向(A軸方向)のスリット幅W
S又は検出ストリップ161の短手方向(A軸方向)のストリップ幅W
Dを小さくすることで、半値幅FWHMを小さくでき、ピークの精度が高くなる。
【0026】
【0027】
検出ストリップ161の短手方向(A軸方向)のストリップ幅WDは、例えば、0.01mm未満でもよいが、好ましくは0.01~0.5mmであり、さらに好ましくは、0.05~0.2mmであり、具体的には例えば、0.01,0.02,0.03,0.04,0.05,0.06,0.07,0.08,0.09,0.1,0.11,0.12,0.13,0.14,0.15,0.16,0.17,0.18,0.19,0.2,0.21,0.22,0.23,0.24,0.25,0.26,0.27,0.28,0.29,0.3,0.31,0.32,0.33,0.34,0.35,0.36,0.37,0.38,0.39,0.4,0.41,0.42,0.43,0.44,0.45,0.46,0.47,0.48,0.49,0.5mmであり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0028】
スリット部材150の前面150aから検出器160の検出面160aまでの最短の距離Lは、例えば、50~300mmであり、好ましくは、100~300mmであり、具体的には例えば、50,60,70,80,90,100,110,120,130,140,150,160,170,180,190,200,210,220,230,240,250,260,270,280,290,300mmであり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0029】
したがって、数1より、プロファイルの強度のために、ゴニオメータ中心Gからスリット部材150の前面150aまでの最短の距離LS及びスリット151の短手方向(A軸方向)のスリット幅WSは、任意に調整される。また、数2より、ピークの精度のために、スリット部材150の前面150aから検出器160の検出面160aまでの最短の距離L、スリット幅WS及び検出ストリップ161の短手方向(A軸方向)のストリップ幅WDは、任意に調整される。すなわち、本実施形態において、距離LS、距離L、スリット幅WS及びストリップ幅WDを調整することにより、強度及び精度を任意に調整することができる。
【0030】
次に、
図5乃至
図8を参照して、ゴニオメータ角2Θと、検出器160の検出面160aのX線検出位置Dにある検出ストリップ161、162、163と、回折角2θと、の関係について説明する。本関係は、入射X線120が平行X線の場合に、少なくとも適用することができるが、これに限定されるものではない。まず、
図5及び
図6を用いて、X線検出位置D=0の場合について、説明する。ここで、ゴニオメータ中心線GLは、ゴニオメータ中心Gを通り、かつ、Y軸方向に伸びる直線である。また、スリット中心線SLは、スリット151の短手方向(A軸方向)の中心を通り、かつ、B軸方向に伸びる直線である。さらに、検出器中心線DLは、検出器160のX線検出位置D=0の位置を通り、かつ、B軸方向に伸びる直線である。なお、ゴニオメータ中心線GL、スリット中心線SL及び検出器中心線DL上の任意の点同士を結ぶ直線は、一直線上に設けられる。
図5は、ゴニオメータ角2Θと回折角2θとが一致する場合の検出器160の検出面160aのX線検出位置Dとの関係性の一例を説明する側面図である。また、
図6は、ゴニオメータ角2Θと回折角2θとが一致する場合の検出器160のX線検出位置Dとの関係性の一例を説明する斜視図である。
【0031】
図5及び
図6に示す通り、ゴニオメータ中心G、スリット151の短手方向(A軸方向)の中心を通るスリット中心線SL及び検出ストリップ161は、一直線上に設けられる。ゴニオメータ中心Gに位置する試料表面131から、回折角2θで回折した回折X線141がスリット部材150のスリット151を通り、スリット151から距離Lだけ離れた位置にある検出器160に到達したとする。その時のゴニオメータの角度を2Θ
0、検出器160のX線検出位置DをD=0とする。すなわち、ゴニオメータ角2Θ
0のとき、X線検出位置D=0にある検出器160の検出ストリップ161(第1検出ストリップ)では、回折角2θで回折した回折X線141を検出することができる。
【0032】
次に、
図7及び
図8を用いて、X線検出位置D≠0の場合について、説明する。
図7は、ゴニオメータ角2Θと回折角2θとが一致しない場合の検出器160の検出面160aのX線検出位置Dとの関係性の一例を説明する斜視図である。
図7に示すとおり、ゴニオメータ角2Θが、回折角2θよりもδ
iだけ小さいとき、試料表面132から、回折角2θで回折した回折X線142がスリット151を通り、検出器160のX線検出位置D=D
iの検出ストリップ162(第2検出ストリップ)に到達する。すなわち、ゴニオメータ中心G、スリット151の短手方向(A軸方向)の中心を通るスリット中心線SL及び検出ストリップ162は、一直線上に設けられる。なお、X線検出位置D=D
iは、X線検出位置D=0を基準に、正の値をとる位置である。
【0033】
また、
図8は、ゴニオメータ角2Θと回折角2θとが一致しない場合の検出器160の検出面160aのX線検出位置Dとの関係性の一例を説明する斜視図である。
図8に示すとおり、ゴニオメータ角2Θが、回折角2θよりもδ
jだけ大きいとき、試料表面133から、回折角2θで回折した回折X線143がスリット151を通り、検出器160のX線検出位置D=D
jの検出ストリップ163(第2検出ストリップ)に到達する。すなわち、ゴニオメータ中心G、スリット151の短手方向(A軸方向)の中心を通るスリット中心線SL及び検出ストリップ163は、一直線上に設けられる。なお、X線検出位置D=D
jは、X線検出位置D=0を基準に、負の値をとる位置である。
【0034】
ゴニオメータ角2Θ、回折角2θ、検出器160のX線検出位置D及びスリット部材150の前面150aから検出器160の検出面160aまでの最短の距離Lの間には、数3に示す関係式が成り立つ。すなわち、回折X線141の回折角2θは、スリット部材150の前面150aから検出器160の検出面160aまでの最短の距離Lに依存する。別の観点によれば、スリット部材150の前面150a及び検出器160の検出面160aの間の距離Lは、回折X線142の回折角2θ、ゴニオメータ角2Θ及び検出ストリップ161(第1検出ストリップ)から検出ストリップ162(第2検出ストリップ)までの最短の距離に依存する。
【0035】
【0036】
図9は、X線回折測定により得られるプロファイルを説明する図である。
各検出ストリップ161、162、163から得られた強度は、積算されることによりプロファイルを形成する。具体的には、まず、数3を用いて回折角2θを計算する。例えば、
図6では、スリット部材150の前面150aから検出器160の検出面160aまでの最短の距離L、ゴニオメータ角2Θ及びX線検出位置D=0を用いることで、回折角2θを計算する。また、
図7では、距離L、ゴニオメータ角2Θ
i及びX線検出位置D=D
iを用いることで、回折角2θを計算する。さらに、
図8では、距離L、ゴニオメータ角2Θ
j及びX線検出位置D=D
jを用いることで、回折角2θを計算する。各検出ストリップで得られた強度データについて、同じ回折角2θのデータを積算することで、プロファイルを得ることができる。これにより、距離Lをパラメータとしてプロファイルを取得することができる。
【0037】
次に、前述したX線回折装置100の動作について説明する。
X線源110は、試料台130の試料Fに入射X線120を照射し、X線を回折させる。回折したX線である回折X線140は、スリット部材150のスリット151を通過する。検出器160は、検出ストリップ161にて、回折X線140を1次元で検出する。
【0038】
図10は、同じ回折角2θのデータを取得するときのX線回折装置100の動作を説明する図である。
図10では、スリット部材150及び検出器160がゴニオメータ中心Gを基準に円運動している。具体的には、スリット151から検出面160aまでの最短の距離L及びスリット151の長手方向(B軸方向)の軸が、検出ストリップ161の長手方向(B軸方向)の軸と平行の状態を維持したまま、ゴニオメータ角2Θ及びX線検出位置Dが、変化する。検出器160は、回折X線141の回折角2θがゴニオメータ角2Θと等しいときに、検出ストリップ161(第1検出ストリップ)で回折X線142を検出する。回折角2θがゴニオメータ角2Θと等しくないときに、検出ストリップ161(第1検出ストリップ)以外である検出ストリップ162、163等(第2検出ストリップ)で回折X線142、143を検出する。すなわち、同時に測定されたデータであっても(ゴニオメータ角2Θが所定の値のとき)、検出ストリップの位置によって、別の回折角2θのデータを測定していることとなる。
【0039】
図11は、実施形態1に係るX線回折装置100の動作の一例を示す側面図である。
試料台130は、試料Fを設置する設置面130aを有し、設置面130aに対して平行に移動する。すなわち、
図11にて、試料台130は、X軸方向(実線矢印の方向)又はY軸方向に移動する。このようなX軸方向又はY軸方向への移動は、試料の粒径が不均一の場合等において、より正確な回折強度を得られる点で有効である。また、試料台130は、設置面130aに対して垂直に移動してもよい。すなわち、
図11にて、試料台130は、Z軸方向(一点鎖線矢印の方向)に移動することができる。さらに、X線源110等の入射側及び検出器160等の受光側を移動させず、試料台130のみをX軸方向、Y軸方向又はZ軸方向に移動させてもよい。
【0040】
図12は、実施形態1に係るX線回折装置100の動作の一例を示す側面図である。
試料台130は、試料Fを設置する設置面130aを有し、設置面130aの向きを変更可能に構成される。試料台130は、設置面130aの向きを変更するように、ゴニオメータ中心Gを基準として、X軸中心(実線矢印の向き)又はY軸中心(破線矢印の向き)に回転可能に構成される。このとき、試料台130は、X線源110等の入射側又は検出器160等の受光側を移動させず、試料Fのみを回転させてもよい。特に、格子面法線が一定の方向を向いているエピタキシャル薄膜等の試料Fについて、試料Fの回転により、試料Fの格子面と入射X線120の角度が回折条件を満たした場合、その回折条件を満す回折X線を検出器160の検出ストリップで検出することができる。加えて、試料台130は、設置面130aの向きを変更しないまま、ゴニオメータ中心Gを基準として、Z軸中心(一点鎖線矢印の向き)に回転可能に構成されてもよい。なお、X軸中心の回転方向は、あおり方向とも言う。
【0041】
[比較例1]
図13は、比較例1に係るX線回折装置200の一例を示す側面図である。
比較例1のX線回折装置200は、X線源(不図示)と、試料台230と、PSA250と、検出器260と、を備える。X線源、試料台230及び検出器260の基本的な構成については、実施形態1の試料台130と検出器160とを参照されたい。なお、実施形態1と、比較例1とでは、回折角2θと、ゴニオメータ角2Θとの関係が異なる。具体的には、実施形態1の検出器160では、あるゴニオメータ角2Θについて、スリット部材150の前面150aから検出器160の検出面160aまでの距離Lに基づいて、回折角2θに変換する。しかしながら、比較例1の検出器260では、あるゴニオメータ角2Θは、回折角2θに等しいものとして取り扱う。
【0042】
PSA250は、平行に並べられた複数の箔から構成される。検出器260は、箔の間を通過した回折X線240のみを検出する。これにより、検出器260は、試料台230の位置といった条件に関わらず、同じプロファイルを取得することができる。なお、PSA250は、箔の間隔を狭くし、箔を通る光路を長くすることで、精度を上げることができる。しかしながら、箔の間隔を短くした場合、回折X線は、箔により散乱してしまうことがある。この散乱した回折X線が検出されることにより、精度が悪くなる。PSA250を使用した測定では、得られるプロファイルについて、正確度は高いが、強度は低い。また、回折X線のビーム幅が広くなる場合でも、得られるプロファイルは変わらないため、正確度の高い測定が可能である。
【0043】
[比較例2]
図14は、比較例2に係るX線回折装置300の一例を示す側面図である。
比較例2のX線回折装置300は、X線源(不図示)と、試料台330と、検出器360と、を備える。X線源、試料台330及び検出器360については、実施形態1の試料台130と検出器160とを参照されたい。
【0044】
次に、先に述べた実施形態1、比較例1及び比較例2について、測定結果1乃至測定結果5を説明する。
【0045】
[測定の条件]
実施形態1のX線回折装置100において、ゴニオメータ中心Gとスリット部材150の前面150aの間の距離L
Sは30mmである。スリット部材150の前面150aと検出器160の検出面160aの間の距離Lは270mmである。スリット幅W
Sは0.15mmである。ストリップ幅W
Dは0.1mmである。
また、比較例1のX線回折装置200において、PSA250の平行に並べられた箔同士の対角線上の開口角度(
図13の2本の破線に挟まれた領域の鋭角)は0.114°である。
さらに、比較例2のX線回折装置300において、ゴニオメータ中心Gと検出器360の検出面360aの間の距離は300mmであり、ストリップ幅は、0.1mmである。
【0046】
次に、X線回折測定により得られるプロファイルの観察方法について説明する。
図15は、X線回折測定における正確度及び精度を説明する図の一例である。
X線回折測定により得られるプロファイルでは、ピークが観察される。このピークの、位置及び強度を解析することにより試料の正確度及び精度を判断することができる。正確度は、ピークの位置から判断される。より具体的に説明すると、本来ピークが得られる位置である基準位置と、実際に測定されたピークの位置とのズレの大きさにより正確度を判断する。すなわち、ピークの位置が基準位置に近い場合は、正確度が高いと判断することができる。一方で、ピークの位置が基準位置より遠い場合、正確度が低いと判断することができる。また、精度は、ピークの幅(より具体的には、半値幅FWHM)から判断される。より具体的に説明すると、ピークの幅が狭い場合は、精度が高いと判断することができる。一方で、ピークの幅が広い場合は、精度が低いと判断することができる。なお、精度は、角度精度ともいう。
【0047】
[測定結果1 強度の比較]
図16は、各X線回折装置100、200、300を用いて測定した結果の一例を示す図である。
図16では、実線は、実施形態1のスリット部材150を設けた測定の結果を示す。また、
図16では、一点鎖線は、PSA250を用いた比較例1を使用した測定の結果を示す。さらに、
図16では、破線は、スリット及びPSAを使用しない比較例2の測定の結果を示す。実施形態1のX線回折装置100では、PSAを用いる比較例1のX線回折装置200と比較して、ピークの強度が高く、ピークの幅が狭いことから、高強度かつ高精度で測定できていることがわかる。
【0048】
[測定結果2 試料のZ軸方向への移動]
次に、
図17乃至
図19を用いて、試料を上下方向(Z軸方向)に移動させたときの測定結果を説明する。
図17は、実施形態1におけるX線回折装置100を用いて、試料Fを上下方向に移動させて行った測定の結果の一例を示す図である。また、
図18は、比較例1におけるX線回折装置200を用いて、試料Fを上下方向に移動させて行った測定の結果の一例を示す図である。さらに、
図19は、比較例2におけるX線回折装置300を用いて、試料Fを上下方向に移動させて行った測定の結果の一例を示す図である。
【0049】
図17乃至
図19において、実線は、ゴニオメータ中心Gに試料Fを設置した場合を示す。また、
図17乃至
図19において、破線は、ゴニオメータ中心Gから試料Fを上向きに0.5mm移動した場合を示す。さらに、
図17乃至
図19において、一点鎖線は、ゴニオメータ中心Gから試料Fを下向きに0.5mm移動した場合を示す。
【0050】
図17より、スリット部材150を用いた実施形態1では、試料Fが移動した場合でも、ピークの位置のシフトが観察されないため正確度が高い。一方で、
図18より、PSA250を用いた比較例1では、試料Fが移動した場合、ピークの位置のシフトは観察されないため正確度が高いものの、
図17と比較して正確なピークの形状を観察することができていないため精度が低い。また、
図19より、スリット及びPSAを用いない比較例2では、試料Fが移動した場合、ピークの位置のシフトが観察され、正確度に欠けることがわかる。
なお、温度可変測定などでは、温度に依存して試料位置が上下方向に変化することがあり、そのような場合に、本実施形態が有効であることがわかる。
【0051】
[測定結果3 試料表面のあおり角の変更]
次に、
図20乃至
図22を用いて、試料表面をあおり方向に変更(X軸を中心に回転)して測定した結果について説明する。
図20は、実施形態1におけるX線回折装置100を用いて、試料表面をあおり方向に回転させて行った測定の結果の一例を示す図である。また、
図21は、比較例1におけるX線回折装置200を用いて、試料表面をあおり方向に回転させて行った測定の結果の一例を示す図である。さらに、
図22は、比較例2におけるX線回折装置300を用いて、試料表面をあおり方向に回転させて行った測定の結果の一例を示す図である。
【0052】
図20乃至
図22において、実線は、ゴニオメータ中心Gを基準に試料Fのあおり角が0°の場合を示す。また、
図20乃至
図22において、破線は、ゴニオメータ中心Gを基準に試料Fのあおり角が5°の場合を示す。
【0053】
図20より、スリット部材150を用いた実施形態1では、試料表面をあおり方向に回転させた場合でも、正確なピークの形状が観察され、ピークの位置のシフトも観察されず、精度及び正確度も高いことがわかる。一方で、
図21より、PSA250を用いた比較例1では、試料表面をあおり方向に回転させた場合、ピークの位置のシフトは観察されないため正確度が高いものの、
図20と比較して正確なピークの形状を観察できておらず、精度が低いことがわかる。また、
図22より、スリット及びPSAを用いない比較例2では、試料表面をあおり方向に回転させた場合、ピークの位置のシフトは観察されないため正確度が高いものの、ピークの幅が広がっており精度が低いことがわかる。
なお、表面が平らでない試料を測定した場合、本測定結果と同様の影響を受ける。よって、表面が平らでない試料を測定する場合においても、スリット部材150を用いることが効果的である。
【0054】
[測定結果4 ビーム幅の変更]
次に、
図23乃至
図25を用いて、入射X線のビーム幅を変化させて測定した結果を説明する。
図23は、実施形態1におけるX線回折装置100を用いて入射X線120のビーム幅を変化させたときの測定の結果の一例を示す図である。また、
図24は、比較例1におけるX線回折装置200を用いて入射X線120のビーム幅を変化させたときの測定の結果の一例を示す図である。さらに、
図25は、比較例2におけるX線回折装置300を用いて入射X線120のビーム幅を変化させたときの測定の結果の一例を示す図である。
【0055】
図23乃至
図25において、実線は、入射ビーム幅が0.8mmの場合を示す。
図23乃至
図25において、破線は、入射ビーム幅が0.4mmの場合を示す。
図23乃至
図25において、一点鎖線は、入射ビーム幅が0.1mmの場合を示す。
【0056】
図23より、スリット部材150を用いた実施形態1では、入射X線のビーム幅を変化させた場合でも、ピークの形状の変化は観察されず、高精度で測定できている。一方で、
図24より、PSA250を用いた比較例1では、入射X線のビーム幅を変化させた場合、
図23と比較して正確なピークの形状をそもそも観察することはできていないものの、入射X線のビーム幅を変化させた場合による、ピークの形状の変化は観察されないため、精度への影響が小さい。さらに、
図25より、スリット及びPSAを用いない比較例2では、入射X線のビーム幅を変化させた場合、同じ回折角のピークでありながら、入射ビーム幅の増加に応じてピークの幅も増加しており、精度が低くなっていることがわかる。
【0057】
[測定結果5 入射X線の入射角度の変更]
入射X線の試料への入射角度を変化させて測定した結果について説明する。
図26は、実施形態1におけるX線回折装置100を用いて入射X線120の入射角度を変更して行った測定の結果の一例を示す図である。また、
図27は、比較例1におけるX線回折装置200を用いて入射X線220の入射角度を変更して行った測定の結果の一例を示す図である。さらに、
図28は、比較例2におけるX線回折装置300を用いて入射X線の入射角度を変更して行った測定の結果の一例を示す図である。
【0058】
図26乃至
図28において、実線は、対称な配置(入射角度と出射角度が同じ)で測定した結果を示す。
図26乃至
図28において、破線は、入射角度を1.0°に固定して受光側だけ移動させながら測定した場合を示す。
【0059】
図26より、スリット部材150を用いた実施形態1では、入射X線の入射角度を変化させた場合、ピークの形状の変化は観察されず、高い精度で測定できている。一方で、
図27より、PSAを用いる比較例1では、入射X線の入射角度を変化させた場合、精度に変化は見られないが、
図26と比較して正確なピークの形状を観察できておらず、精度が低いことがわかる。
図28より、スリット及びPSAを用いない比較例2では、入射X線の入射角度を変化させた場合、同じ回折角のピークでありながら、ピークの幅が増加しており、精度が低下していることがわかる。
なお、入射角度が出射角度に比べて浅い場合、回折X線のビーム幅が広がるため、測定結果4の入射X線のビーム幅を広くした時と同じ状態となる。インプレーン測定や薄膜材料などの測定では、試料表面に対して小さな入射角度に固定して測定することがあり、そのような場合に、本実施形態が有効であることがわかる。
【0060】
以上の測定結果より、スリット部材150を用いる実施形態1は、PSA250を用いる比較例1と比較して、高精度及び高強度の結果が得られる。また、スリット及びPSAを用いない比較例2で観察された、試料の位置、試料表面のあおり角、入射X線のビーム幅、入射X線の入射角度等の変化によって、引き起こされる精度及び正確度への影響が、実施形態1では観察されなかった。
【0061】
[変形例1]
図29は、実施形態1の変形例1に係るX線回折装置400の一例を示す側面図である。また、
図30は、実施形態1の変形例1に係るX線回折装置400の一例を示す上面図である。
変形例1のX線回折装置400は、X線源(不図示)と、試料台430と、スリット部材450と、検出器460と、モノクロメータ470と、を備える。X線源と、試料台430と、スリット部材450とについては、実施形態1の試料台130とスリット部材150とを参照されたい。
【0062】
モノクロメータ470は、特定波長の回折X線を回折する格子面を有する。また、モノクロメータ470は、スリット部材450及び検出器460の間において、格子面がスリット451の長手方向(B軸方向)の一端から他端に向かう方向に傾斜して設けられる。さらに、モノクロメータ470は、回折角とは垂直な向きに設けられる。モノクロメータ470は、回折X線を単色化する。モノクロメータ470は、粉末の試料を用いたX線回折測定では主にグラファイト製が使用されるがこれに限定されるものではない。
【0063】
検出器460は、モノクロメータ470により回折した特定波長の回折X線を検出するように設けられる。すなわち、検出器460は、モノクロメータ470よりも下流側において、検出面460aがモノクロメータ470を指向して設けられる。また、検出器460は、モノクロメータ470からY軸方向にシフトして設けられる。
【0064】
次に、
図31及び
図32を用いて、入射X線が非平行な場合について説明する。
特に、入射X線が試料で集光する場合を除いて、入射X線の進行方向及び試料形状が既知の場合に、非平行な入射X線520、620を適用することができる。
【0065】
[変形例2]
図31は、実施形態1の変形例2に係るX線回折装置500の一例を示す側面図である。
変形例2のX線回折装置500において、X線源(不図示)は、進行方向に向かって発散するように、試料Fに向けて入射X線520を照射する。
【0066】
[変形例3]
図32は、実施形態1の変形例3に係るX線回折装置600の一例を示す側面図である。
変形例2のX線回折装置600において、X線源(不図示)は、進行方向に向かって収束するように、試料Fに向けて入射X線620を照射する。
【0067】
[変形例4]
図33は、実施形態1の変形例4に係るX線回折装置700の一例を示す側面図である。
変形例4のX線回折装置700において、X線源(不図示)等の入射側、検出器760等の受光側及び試料台730等の試料Fの位置を一定に保ちながらプロファイルを得ることができる。
特に、粉末の試料Fを用いた測定で、経時変化を測定する場合、温調測定時など短い時間間隔でピークの変化を測定する場合、単純に狭い範囲(一本のピーク)などを測定する場合等に使用することができる。
【0068】
[変形例5]
図34は、実施形態1の変形例5に係るX線回折装置800の一例を示す側面図である。
変形例5のX線回折装置800は、X線源(不図示)と、試料台830と、スリット部材850と、検出器860と、干渉防止部材870と、を備える。試料台830及び検出器860は、実施形態1の試料台130と検出器160とを参照されたい。
【0069】
スリット部材850は、第1スリット851と、第2スリット852と、を有する。第1スリット851の長手方向(B軸方向)の軸及び第2スリット852の長手方向(B軸方向)の軸は、平行である。
【0070】
干渉防止部材870は、スリット部材850及び検出器860の間において、第1スリット851を通過した第1回折X線841と、第2スリット852を通過した第2回折X線842と、の干渉を防止するように構成される。すなわち、干渉防止部材870は、スリット部材850から検出器860に向かって延在する。言い換えると、干渉防止部材870は、C軸方向に延在する。また、干渉防止部材870は、X線を透過しない性質を持つものであればよく、ステンレス等により構成される。さらに、干渉防止部材870の形状は、異なるスリットを通過した回折X線同士が干渉しあわないようX線を遮蔽可能な形状であればよく、板状に限定されない。また、干渉防止部材870は、スリット部材850、検出器860又はゴニオメータのアーム上に支持される。
【0071】
変形例5において、スリット851、852の数は2つであるが、検出器860での検出領域の拡大のために、任意の数が選択される。また、干渉防止部材870の数は1つであるが、異なるスリットを通過した回折X線同士が干渉しあわないよう任意の数が選択される。
【0072】
次に、
図35を参照して、変形例5のX線回折装置800を用いた場合の回折角2θへの変換方法について説明する。変形例5においても、回折X線841、842の回折角2θは、スリット部材850の前面850aから検出器860の検出面860aまでの最短の距離Lに依存する。
図35は、
図34の破線で囲まれる領域を拡大した拡大図である。ゴニオメータ角線ALは、ゴニオメータ中心G及び検出器中心線DLを最短の距離で結ぶ直線である。また、スリット中心線SL1、SL2は、スリット851、852の短手方向(A軸方向)の中心を通り、かつ、B軸方向に伸びる直線である。変形例5では、ゴニオメータ角線ALと、ゴニオメータ中心G及び第1スリット851のスリット中心線SL1(及び第2スリット852のスリット中心線SL2)を最短で結ぶ線と、のなす角度を加味して、回折角2θに変換してプロファイルを積算する必要がある。
【0073】
ここで、X線検出位置D=0の位置は、ゴニオメータ角線AL及び検出器860が交わる位置であり、検出器中心線DLの位置と等しい。また、距離Sは、第1スリット851のスリット中心線SL1(又は第2スリット852のスリット中心線SL2)からゴニオメータ角線ALまでの最短の距離である。さらに、距離Lは、スリット部材850の前面850aから検出器860の検出面860aまでの距離である。以上より、第1スリット851を通って、X線検出位置D=D1の位置で検出される第1回折X線の回折角2θは、次の数4で表される。また、第2スリット852を通って、X線検出位置D=D2の位置で検出される第2回折X線842の回折角2θは、次の数5で表される。
【0074】
【0075】
【0076】
[実施形態2]
本明細書に開示の技術は、インプレーン測定にも使用することができる。
インプレーン測定によれば、試料の表面に対して垂直な格子面からの回折を直接的に測定でき、そのため表面付近の構造を直接的に評価でき、その結果、試料に対して正確な評価を行うことができる。
【0077】
図36は、実施形態2に係るX線回折装置900の一例を示す斜視図である。
実施形態2のX線回折装置900は、X線源(不図示)と、試料台930と、スリット部材950と、検出器960と、を備える。すなわち、X線源は、試料の表面に対して、単色で平行な試料の表面へ小さな入射角で入射X線920を照射する。入射X線920は、試料表面に垂直な格子面で回折し、回折X線940となって試料表面に対してすれすれの方向へ進行する。この回折X線940は、スリット部材950を介して、検出器960によって受け取られる。検出器960は、受け取ったX線の強度に対応した電気信号を出力する。
【0078】
また、実施形態2において、回折X線940を検出するために、スリット部材950及び検出器960は、スリット951及び検出ストリップ961の長手方向が、平行となるように配置される。さらに、インプレーン測定を行うX線回折装置900の他に、インプレーン逆格子マッピング装置や、GI-WAXS/SAXS(Grazing-IncidenceWide-AngleX-RayScattering/Small-AngleX-RayScattering)装置等を用いることもできる。
【0079】
[その他]
また、本明細書に開示の技術は、ピンホール及び2次元検出器を用いた測定にも使用することができる。
図37は、ピンホール部材1050及び2次元検出器1060を用いるX線回折装置1000の一例を示す斜視図である。
実施形態1及び実施形態2では、スリット及び1次元検出器を用いる場合について説明したが、それぞれピンホール及び2次元検出器に代えてデバイリングを検出することもできる。
【0080】
本実施形態のX線回折装置1000は、X線源(不図示)と、試料台1030と、ピンホール部材1050と、2次元検出器1060と、を備える。X線源は、試料台1030に向かって平行な入射X線1020を照射する。ピンホール部材1050の中央には、回折X線を通過させるためのピンホール1051が形成されている。ここで、試料の表面に直角な方向に存在する結晶格子面で回折したX線のうちピンホール1051を通過した回折X線1040だけが2次元検出器1060へ向かう。また、2次元検出器1060は、1次元検出器のような幅方向に広がる検出ストリップではなく、ピクセル1061により回折X線1040を検出する。さらに他の実施形態として、複数のスリット部材について、スリットの長手方向がそれぞれ異なるように、試料台1030と2次元検出器1060との間に設けることで、ピンホール部材1050の代わりとするように構成してもよい。例えば、スリットの長手方向がA軸方向に伸びる第1スリット部材と、スリットの長手方向がB軸方向に伸びる第2スリット部材と、を試料台1030と2次元検出器1060との間に設けるとよい。
【0081】
本明細書に開示の技術によると、スリット(又はピンホール)と1次元(又は2次元)検出器を使用したX線回折装置及び計測方法に関するもので、ピークの精度及び正確度が、試料位置及び試料形状に依存しない。また、PSAを使用した測定と比較して高強度及び高精度のデータを取得することができる。さらに、スリットの位置、スリットの幅及びスリットと検出器の配置を変更することにより、強度及び精度を選択することができる。
【0082】
次に記載の各態様で提供されてもよい。
前記X線回折装置において、前記スリットは、前記試料台から前記検出器に向かって広がるようにテーパ形状を有する、X線回折装置。
前記X線回折装置において、前記スリットの短手方向の幅は、前記検出ストリップの短手方向の幅よりも広い、X線回折装置。
前記X線回折装置において、ゴニオメータ円の中心、前記スリットの短手方向の中心及び前記検出ストリップは、一直線上に設けられる、X線回折装置。
前記X線回折装置において、前記回折X線の回折角は、前記スリットから前記検出器までの距離に依存する、X線回折装置。
前記X線回折装置において、前記スリット及び前記検出器の間の距離は、前記回折X線の回折角、ゴニオメータの角度及び一の検出ストリップから他の検出ストリップまでの距離に依存する、X線回折装置。
前記X線回折装置において、前記検出器は、前記回折X線の回折角がゴニオメータ角と等しいときに、第1検出ストリップで前記回折X線を検出し、前記回折角が前記ゴニオメータ角と等しくないときに、第2検出ストリップで前記回折X線を検出する、X線回折装置。
前記X線回折装置において、干渉防止部材を備え、前記スリット部材は、第1スリットと、第2スリットと、を有し、前記第1スリットの長手方向の軸及び前記第2スリットの長手方向の軸は、平行であり、前記干渉防止部材は、前記スリット部材及び前記検出器の間において、前記第1スリットを通過した第1回折X線と、前記第2スリットを通過した第2回折X線と、の干渉を防止するように構成される、X線回折装置。
前記X線回折装置において、モノクロメータを備え、前記モノクロメータは、特定波長の前記回折X線を回折する格子面を有し、前記スリット部材及び前記検出器の間において、前記格子面が前記スリットの長手方向の一端から他端に向かう方向に傾斜して設けられる、X線回折装置。
前記X線回折装置において、前記試料台は、前記試料を設置する設置面を有し、前記設置面に対して平行に移動する、X線回折装置。
前記X線回折装置において、前記試料台は、前記試料を設置する設置面を有し、前記設置面の向きを変更するように、軸中心に回転可能に構成される、X線回折装置。
前記X線回折装置において、前記X線源から前記試料に照射されるX線は、平行X線である、X線回折装置。
試料の計測方法であって、前記試料にX線を照射し、前記X線を回折させ、回折した前記X線である回折X線をスリットに通過させ、検出ストリップにて、前記回折X線を1次元で検出することで、前記試料を計測し、前記スリットの長手方向の軸は、前記検出ストリップの長手方向の軸と平行である、計測方法。
もちろん、この限りではない。
【0083】
最後に、本開示に係る種々の実施形態を説明したが、これらは、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。当該新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。当該実施形態及びその変形は、発明の範囲又は要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0084】
100 :X線回折装置
110 :X線源
120 :入射X線
130 :試料台
130a:設置面
131 :試料表面
132 :試料表面
133 :試料表面
140 :回折X線
141 :回折X線
142 :回折X線
143 :回折X線
150 :スリット部材
150a:前面
151 :スリット
160 :検出器
160a:検出面
161 :検出ストリップ
162 :検出ストリップ
163 :検出ストリップ
200 :X線回折装置
220 :入射X線
230 :試料台
240 :回折X線
260 :検出器
300 :X線回折装置
330 :試料台
360 :検出器
360a:検出面
400 :X線回折装置
430 :試料台
450 :スリット部材
451 :スリット
460 :検出器
460a:検出面
470 :モノクロメータ
500 :X線回折装置
520 :入射X線
600 :X線回折装置
620 :入射X線
700 :X線回折装置
720 :入射X線
730 :試料台
760 :検出器
800 :X線回折装置
830 :試料台
841 :第1回折X線
842 :第2回折X線
850 :スリット部材
850a:前面
851 :第1スリット
852 :第2スリット
860 :検出器
860a:検出面
870 :干渉防止部材
900 :X線回折装置
920 :入射X線
930 :試料台
940 :回折X線
950 :スリット部材
951 :スリット
960 :検出器
961 :検出ストリップ
1000:X線回折装置
1020:入射X線
1030:試料台
1040:回折X線
1050:ピンホール部材
1051:ピンホール
1060:2次元検出器
1061:ピクセル
2Θ :ゴニオメータ角
2θ :回折角
AL :ゴニオメータ角線
D :X線検出位置
DL :検出器中心線
F :試料
G :ゴニオメータ中心
GL :ゴニオメータ中心線
L :距離
LS :距離
S :距離
SL :スリット中心線
SL1 :スリット中心線
SL2 :スリット中心線
WD :ストリップ幅
WS :スリット幅