(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023118077
(43)【公開日】2023-08-24
(54)【発明の名称】電池の電極用フィルム、及び電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/66 20060101AFI20230817BHJP
【FI】
H01M4/66 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023013844
(22)【出願日】2023-02-01
(31)【優先権主張番号】P 2022020216
(32)【優先日】2022-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】清水 国光
(72)【発明者】
【氏名】森本 雄大
【テーマコード(参考)】
5H017
【Fターム(参考)】
5H017AA03
5H017CC01
5H017DD06
5H017EE07
5H017HH00
5H017HH03
(57)【要約】
【課題】電池に異物が突き刺さるなどして短絡した際に、短絡の継続を抑制し、電池の安全性を向上させる電池の電極用フィルムを提供すること。
【解決手段】
二軸配向フィルムであって、下記(1)を満たす電池の電極用フィルム。
(1)長手方向(MD)と幅方向(TD)の190℃で20分加熱後の熱収縮率がいずれも1%以上であり、かつ190℃で20分加熱後の熱収縮率について、長手方向(MD)と幅方向(TD)の各値の和が3~8%
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二軸配向フィルムであって、下記(1)を満たす電池の電極用フィルム。
(1)長手方向(MD)と幅方向(TD)の190℃で20分加熱後の熱収縮率がいずれも1%以上であり、かつ190℃で20分加熱後の熱収縮率について、長手方向(MD)と幅方向(TD)の各値の和が3~8%
【請求項2】
前記二軸配向フィルムが二軸配向ポリエステルフィルムである、請求項1に記載の電池の電極用フィルム。
【請求項3】
前記二軸配向フィルムの厚さが1.5~15μmである、請求項1または2に記載の電池の電極用フィルム。
【請求項4】
長手方向(MD)と幅方向(TD)の破断強度がいずれも200MPa以上である、請求項1または2に記載の電池の電極用フィルム。
【請求項5】
中心面平均粗さ(SRa)が両面とも40~100nmである、請求項1または2に記載の電池の電極用フィルム。
【請求項6】
フィルムの面配向係数(fn)が0.155~0.168である請求項1または2に記載の電池の電極用フィルム。
【請求項7】
長手方向(MD)の5%伸長時の強度が110MPa以上である請求項1または2に記載の電池の電極用フィルム。
【請求項8】
平均結晶粒径(χc)が5.0~8.0nmである請求項1または2に記載の電池の電極用フィルム。
【請求項9】
請求項1または2に記載の二次電池の電極用フィルム。
【請求項10】
請求項9に記載のリチウムイオン二次電池用の電極用フィルム。
【請求項11】
請求項1または2に記載の電池の電極用フィルムを有する、電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池の電極用フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、再生可能エネルギーの推進は、温室効果ガス排出量の削減とエネルギーセキュリティーの確保を同時に実現させるための施策として重要性が高まっている。特に、太陽光発電や風力発電は発電電力量が気象条件に依存するため安定した出力を確保することが困難であり、再生可能エネルギー発電施設ではリチウムイオン二次電池が効果的に活用されている。
【0003】
最近では、電気自動車(EV:electric vehicle)やプラグインハイブリッド車(PHEV:plug-in hybrid electric vehicle)をはじめとする自動車関連での利用も新たに始まっており、さらには、携帯電話、ノートバソコン、携帯音楽プレイヤーなどの小型電子機器を中心に幅広く使用されている。こうした携帯用電子機器市場の発展にあわせてリチウムイオン二次電池の小型化を進めるには、性能および信頼性の向上が必要となっている。
【0004】
これらリチウムイオン二次電池に使用される電極は、正負どちらの電極にもリチウムを吸ったり(吸蔵)、吐き出したり(放出)する機能があり、充電時にはリチウムイオンは負極に、放電時には正極に移動している。そして、それぞれの電極は電解液や固体電解質と接触して電極間でのリチウムイオンのやり取りを担う機能を必要としており、従来10~30μm程度の厚みの金属箔が電極の基材として用いられている。
【0005】
金属に代わる新たな素材としては、二軸延伸ポリエステルフィルムの表面に金属などの導電性薄膜層を設けた構成を有する素材を集電体機能を持った電極基材として用いることが提案されている(特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10-40919号公報
【特許文献2】特開平10-40920号公報
【特許文献3】特開2014-220187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、近年、リチウムイオン二次電池の大容量化により体積エネルギー密度が向上したことにより、小型化による重量エネルギー密度の向上が必要となり、電極基材の薄膜化が進められている中で、従来技術では、短絡防止による安全性の確保に対して課題があることが明らかとなった。特に車載電池が自動車事故にあった際には、電池に導電性の異物が突き刺さるなどし、電極が短絡し熱暴走し発火に至る課題がある。
【0008】
上記に鑑み、本発明の課題は電池に異物が突き刺さるなどして短絡した際に、短絡の継続を抑制し、電池の安全性を向上させる電池の電極用フィルムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の物性を有する二軸配向フィルムを基材フィルムとして用いれば上記課題を解決することを見出し、本発明に至ったものである。
【0010】
すなわち、本発明の電池の電極用フィルム及び電池の好ましい一態様は、以下の構成よりなる。
1.二軸配向フィルムであって、下記(1)を満たす電池の電極用フィルム。
(1)長手方向(MD)と幅方向(TD)の190℃で20分加熱後の熱収縮率がいずれも1%以上であり、かつ190℃で20分加熱後の熱収縮率について、長手方向(MD)と幅方向(TD)の各値の和が3~8%
2.前記二軸配向フィルムが二軸配向ポリエステルフィルムである、1.に記載の電池の電極用フィルム。
3.前記二軸配向フィルムの厚さが1.5~15μmである、1.または2.に記載の電池の電極用フィルム。
4.長手方向(MD)と幅方向(TD)の破断強度がいずれも200MPa以上である、1.~3.のいずれかに記載の電池の電極用フィルム。
5.中心面平均粗さ(SRa)が両面とも40~100nmである、1.~4.のいずれかに記載の電池の電極用フィルム。
6.フィルムの面配向係数(fn)が0.155~0.168である1.~5.のいずれかに記載の電池の電極用フィルム。
7.長手方向(MD)の5%伸長時の強度が110MPa以上である1.~6.のいずれかに記載の電池の電極用フィルム。
8.平均結晶粒径(χc)が5.0~8.0nmである1.~7.のいずれかに記載の電池の電極用フィルム。
9.1.~8.のいずれかに記載の二次電池の電極用フィルム。
10.9.に記載のリチウムイオン二次電池用の電極用フィルム。
11.1.~10.のいずれかに記載の電池の電極用フィルムを有する、電池。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電池に異物が突き刺さるなどして短絡した際に、短絡の継続を抑制し、電池の安全性を向上させる電池の電極用フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0013】
本発明の電池の電極用フィルムは二軸配向フィルムであることが好ましい。二軸配向フィルムは無延伸状態の樹脂シートまたはフィルムを長手方向及び幅方向の二方向に延伸されて作られるものであり、広角X線回折で二軸配向のパターンを示すものをいう。二軸方向へ延伸する方法としては、逐次二軸延伸法、同時二軸延伸法のどちらも使用できる。
【0014】
本発明の電池の電極用フィルムはポリエステルからなるフィルムであることが好ましく、二軸配向ポリエステルフィルムであることがより好ましい。二軸配向ポリエステルフィルムは無延伸状態のポリエステルシートまたはフィルムを長手方向及び幅方向の二方向に延伸されて作られるものであり、広角X線回折で二軸配向のパターンを示すものをいう。二軸方向へ延伸する方法としては、逐次二軸延伸法、同時二軸延伸法のどちらも使用できる。
【0015】
本発明の電池の電極用フィルムを構成するポリエステルとはエステル結合を主鎖の主要な結合鎖とする高分子の総称であるが、耐熱性、製膜性等の点からエチレンテレフタレート及び/またはエチレンナフタレート単位を主構成成分とするものが好ましい。
【0016】
本発明のポリエステルには特性を損ねない範囲で他の共重合成分を含有してもよく、ジカルボン酸成分としては、例えば、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、フタル酸、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、エイコ酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、ドデカンジオン酸、マレイン酸、フマル酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキシンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸、p-オキシ安息香酸等のオキシカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の多官能酸等を用いることができる。一方、グリコ-ル成分としては例えばプロパンジオ-ル、ブタンジオ-ル、ペンタンジオ-ル、ヘキサンジオ-ル、ネオペンチルグリコ-ル、トリエチレングリコール等の脂肪族グリコ-ル、シクロヘキサンジメタノ-ル等の脂環族グリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールS等の芳香族グリコール、ジエチレングリコール、ポリアルキレングリコール等が用いられる。さらにポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリエーテルを共重合してもよい。
【0017】
なお、これらのジカルボン酸成分、グリコール成分は2種以上を併用してもよく、2種以上のポリエステルをブレンドして使用してもよい。さらに2層以上に共押出して積層フィルムとして使用してもよい。
【0018】
本発明の電池の電極用フィルムを構成するポリエステル樹脂としては、耐熱性、製膜性の点からエチレンテレフタレート及び/又はエチレンナフタレート単位を主構成成分とするものが好ましく、エチレンテレフタレート単位を主構成成分とするものがより好ましい。エチレンテレフタレート及び/又はエチレンナフタレート単位を主構成成分とする、とは、ポリエステル樹脂のジオール成分100モル%中に、エチレングリコール成分を70モル%以上含みかつポリエステル樹脂のジカルボン酸成分100モル%中にテレフタル酸及び/又はナフタレンジカルボン酸成分を70モル%以上含むことをいう。
【0019】
さらに、ポリエステル樹脂は、ポリエチレンナフタレートを含有しても良く、その場合、0.5重量%以上20重量%以下含有することが耐熱性の点から好ましい。より好ましくは、1重量%以上10重量%以下である。さらに好ましくは、3重量%以上5重量%以下である。ポリエチレンナフタレートの含有量が0.5重量%未満であると、耐熱性を向上させる効果が働きにくい場合がある。また、ポリエチレンナフタレートの含有量が20重量%を超えると、ポリエチレンテレフタレートとポリエチレンナフタレートの相溶性が悪く、結晶構造を形成しにくくなり、非晶構造の増加により配向や耐熱性、耐湿熱性が低下する場合がある。前記二軸配向ポリエステルフィルムが二軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルム/または二軸配向ポリエチレンナフタレートフィルムであることが好ましく、前記二軸配向ポリエステルフィルムが二軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルムであることがさらに好ましい。また、前記ポリエステルの融点が250℃以上280℃以下であることが好ましい。融点を250℃以上とすることで加工時の熱負荷に対する耐久性が良好となる。
【0020】
また、このポリエステル樹脂の中に本発明の効果を阻害しない範囲で各種の添加剤、例えば耐熱安定剤、耐酸化安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、有機の易滑剤、顔料、染料、有機または無機の微粒子、充填剤、核剤などを配合してもよい。
【0021】
上述したポリエステルフィルムの極限粘度(25℃オルソクロロフェノール中で測定)は0.40~1.20dl/gが好ましく、より好ましくは0.50~1.15dl/g、更に好ましくは0.55~1.10dl/gの範囲にあるものが本発明の内容に適したものである。
【0022】
本発明の電池の電極用フィルムに含有することができる粒子としては、各種核剤により重合時に生成した粒子、凝集体、二酸化珪素粒子、炭酸カルシウム粒子、アルミナ粒子、酸化チタン粒子、硫酸バリウム粒子、珪酸アルミ粒子、リン酸カルシウム粒子、マイカ、カオリン、クレーなどの無機粒子を、また、架橋ポリスチレン粒子、アクリル粒子、イミド粒子、シリコーン粒子等のような有機粒子を、或いは、それらの混合体をその代表例として挙げることができる。なかでも、二酸化珪素粒子、炭酸カルシウム粒子、アルミナ粒子、珪酸アルミ粒子等の無機粒子または、これら無機粒子と各種核剤により重合時に生成した粒子との混合物が好ましい。
【0023】
使用される各種粒子の径は特に限定されないが、通常は沈降法あるいは光散乱法により測定した平均粒径が0.05~8.0μm、好ましくは0.1~4.0μmをその代表として挙げることができる。かかる粒子の含有量は、フィルム全体に対して0.01~0.2質量%であることが好ましく、より好ましくは0.02~0.15質量%である。
【0024】
本発明の電池の電極用フィルムを構成するポリエステルは、カルボキシル末端基量が25~55当量/トンであり、好ましくは35~50当量/トンである。カルボキシル末端基量が25当量/トン以上とすることで、蒸着した際のポリエステルフィルムと蒸着膜との密着性が向上する。また、カルボキシル末端基量が55当量/トン以下とすることで、ポリエステルフィルムが着色したり、ポリエステルフィルムの製膜性が悪化する等の問題を抑制することができる。
【0025】
本発明の電池の電極用フィルムを構成するポリエステルは、フィルム中のジエチレングリコール量が1.5質量%以下であることが好ましい。より好ましくは1.2質量%以下、更に好ましくは1.0質量%以下である。フィルム中のジエチレングリコール量を前述の範囲内とすることで、蒸着した際に蒸着膜が均一となって、電極性能を安定化させることができる。さらに、ポリエステルフィルムが蒸着工程にて受けた熱履歴によりフィルムの耐熱性が落ちてそれ以降の加工工程でフィルムが外力に対して伸びたりしてシワが発生したり、フィルムの走行性が不安定となり、加工性が悪化するという問題の発生を抑制することができる。
【0026】
本発明の電池の電極用フィルムは、厚さが1.5~15μmであることが好ましい。厚さを1.5μm以上とすることにより、電池内に微小な異物が入って、部分的に応力集中がある状態で、かつ電池動作温度が高くなった際においても、電極用フィルムに穴が開きにくく(つまり、電極用フィルムに穴が開き始める温度が高く)なり、高い動作温度においても電極の変形による効率低下を抑制することができる。同様の観点から、3.0μm以上であることがより好ましく、5.0μm以上であることがさらに好ましい。また、厚さが15μm以下とすることにより、電極の重量を減らすことができ、電池のエネルギー密度向上に寄与することができる。同様の観点から、13μm以下であることがより好ましく、6.9μm以下であることがさらに好ましく、6.5μm未満であることが特に好ましい。なお、厚さは実施例に記載の方法で求めるものとする。
【0027】
本発明に用いられる基材フィルム構成は、単層でもよいし、また、異なる組成の樹脂組成物A、B、Cにより構成される積層構成、例えば、A/Bの2層構成、A/B/A あるいはA/B/Cの3層構成、3層よりも多層の積層構成でもよい。その際の積層厚み比も任意に設定してよい。これらの積層構成は共押出による積層フィルムとして製造することができる。
【0028】
本発明の電池の電極用フィルムは、両面とも中心面平均粗さ(SRa)が40~100nmであることが好ましい。より好ましくは50~100nmである。ここでいう中心面平均粗さSRaは、後述する測定方法により求められる3次元表面粗さのパラメーターである。SRaを前述の範囲内とすることで、蒸着加工時に蒸着膜との密着表面積が増加し、電極として十分な密着性が得ることができる。さらに滑り性も良好となることで、加工工程での巻取りが容易となり、ブロッキングの発生も抑制することができる。一方、SRaが40nm未満であると、蒸着膜との密着表面積が減少し、電極として十分な密着力を得ることができなくなる場合がある。また、100nmを超えると、蒸着加工時の巻き取りの際に突起が蒸着膜を傷つけて電極性能を低下させる場合がある。
【0029】
本発明の電池の電極用フィルムは、長手方向と幅方向の破断強度がいずれも200MPa以上であることが好ましい。より好ましくは、いずれも210MPa以上である。200MPa未満である場合には、突き刺し強度が低下する場合がある。どちらか片方が200MPa未満であると、その方向から破れやすく突刺し強度が低下する場合がある。なお、各方向における破断強度は実施例に記載の方法で測定するものとする。
【0030】
本発明における突刺し強度(耐突刺し性)は0.25N/μm以上であることが好ましい。より好ましくは0.30N/μm以上、さらに好ましくは0.35N/μm以上である。0.25N/μm未満の場合には異物などの混入によりプレスした際に孔が空きやすくなる場合がある。
【0031】
本発明の電池の電極用フィルムは、長手方向の5%伸長時の強度が110MPa以上であることが好ましい。より好ましくは、120MPa以上である。長手方向の5%伸長時の強度が110MPa未満であると、蒸着工程における蒸着後の搬送工程において、工程張力によりシワが発生したり、基材フィルムが伸びて蒸着膜が割れたり亀裂が入ったりしやすくなり、電極性能を悪化させる場合がある。なお、長手方向の5%伸長時の強度は実施例に記載の方法で求めるものとする。
【0032】
破断強度、5%伸長時の強度を前述の範囲とする方法は特に限られるものでは無いが、縦延伸工程において延伸温度と延伸倍率を調整する方法などが挙げられる。その際、端部加熱用の赤外線ヒーターを用いてフィルム端部を加熱しておくと、縦延伸工程が安定化し、より制御がしやすくなる。この時、横延伸工程での延伸温度、延伸倍率、熱固定処理の温度と時間によりいずれの強度も影響を受けるため、それぞれの強度が範囲内になるようにバランスをとることが好ましい。
【0033】
本発明の電池の電極用フィルムは、190℃で20分加熱後の熱収縮率について、長手方向と幅方向の各値の和が3~8%であることが好ましい。より好ましくは4~7%である。熱収縮率を上述の範囲内とすることで、釘が刺さるなどといった、リチウムイオン二次電池内にて導電性の針状物が突き刺さるなどして電極が短絡した際、一度は短絡による発熱が発生するが、フィルムの破損部(孔)が熱収縮により瞬時に広がり、この時、蒸着膜もフィルムと一緒に孔となることによって短絡が継続することを防止することができる。3%未満であると熱収縮が十分ではないため、フィルムの破損部(孔)が小さく短絡が継続することを防止することができなくなる場合がある。また、8%を超えると、フィルムの破損部(孔)が大きくなり電解液の漏れなど不具合を発生させる場合があったり、フィルム自体の変形が大きく、蒸着膜自体により電極が短絡する場合がある。
【0034】
さらに、本発明の電池の電極用フィルムは、190℃で20分加熱後の熱収縮率が長手方向と幅方向のいずれも1.0%以上であることが好ましい。より好ましくは1.5%以上である。熱収縮率が上述の範囲以内であると、破損部(孔)の形状のバランスがよくなり、短絡の継続を防止することができる。1%未満の場合には、破損部(孔)の形状に偏りができたり、孔の面積が小さすぎて、電極の短絡の継続を防止しきれないことがあり、さらには、収縮速度も遅くなり、短絡防止に遅れることとなる場合がある。長手方向、幅方向の190℃で20分加熱後の熱収縮率を前述の範囲とする方法は特に限られるものでは無いが、縦延伸工程における延伸温度と延伸倍率、横延伸工程における延伸温度と延伸倍率、さらには熱固定工程における温度と時間を制御する方法や、熱固定工程における緊張熱処理あるいは弛緩熱処理、さらには熱固定工程の後に低温下(例えば190℃)において弛緩処理をする方法が挙げられる。なお、190℃で20分加熱後の熱収縮率は実施例に記載の方法で求めるものとする。
【0035】
本発明の電池の電極用フィルムを構成しているポリエステルフィルムは、面配向係数(fn)が0.155~0.168であることが好ましい。より好ましくは0.158~0.165である。上述の範囲以内であると、フィルムの配向性が良好であり、強度低下や外力に対して伸びにくく蒸着加工適性が良好となる。また、蒸着膜との密着性も良好となり、蒸着後の加工工程において蒸着膜の剥離脱落を抑制することができる。0.155未満であると、加工時にしわ等のトラブルが生じやすくなり、0.168を超えるとフィルムの劈開等により蒸着膜が剥がれやすくなり、加工時のトラブルが生じやすくなる場合がある。なお、フィルムの面配向係数(fn)は実施例に記載の方法で求めるものとする。
【0036】
本発明の電池の電極用フィルムを構成するポリエステルの結晶化度は25~40%であることが好ましい。結晶化度を25%以上とすることで、耐熱性や寸法安定性が良好となり、蒸着した際に蒸着膜を均一にでき電極特性を良好にすることができる。また40%以下とすることで、フィルム表面の脆化を抑制し、蒸着後の搬送系において蒸着膜に欠陥が生じるのを抑制できる。
【0037】
本発明の電池の電極用フィルムは、平均結晶粒径(χc)が5.0~8.0nmが好ましく、更に好ましくは5.3~6.8nmである。χcが5.0以上であることにより蒸着した際に蒸着膜が均一となり、また、フィルムと蒸着膜との密着性が良好となることで電極性能を向上させることができる。生産性やフィルム強度の観点からχcが8.0nm以下であることが好ましいが、6.8nmを超過するとフィルムが脆化し突刺し強さが低下する場合がある。χcを制御する方法は特に限られるものでは無いが、熱固定条件などによりポリエステル樹脂の結晶化を制御する方法が挙げられる。例えば、延伸後の熱固定温度を高くしたり、熱固定時間を長くしたりすると、ポリエステル樹脂の結晶化を促進できるため、χcは高くなる傾向がある。一方で、熱固定温度を高くし過ぎたり、熱固定温度を長くし過ぎたりすると、いったん結晶化したものが融解するため、χcは低下する傾向がある。ポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂に応じて、熱固定温度や時間を適宜調整することで所望のχcの値を有するフィルムを得ることができる。なお、χcは実施例に記載の方法で求めるものとする。
【0038】
本発明の電池の電極用フィルムは、フィルムの融解サブピーク(Tmeta)が220℃ 以上であることが好ましい。より好ましくは、225℃以上であり、更に好ましくは230℃以上である。Tmetaが220℃以上であると、ポリエステルフィルムの熱結晶化が十分に進行し、上述の平均結晶粒径(χc)を前述の範囲としやすくなる。そのため、蒸着した際に蒸着膜が均一となり電極性能を向上させることができる。さらには高温における熱寸法安定性を良好にでき、蒸着加工時の蒸着金属による熱により伸びにくくし、蒸着膜の均一性を保つことができる。
【0039】
フィルムの融解サブピークは以下の測定によって得られるものである。フィルムを示差走査熱量計(TA Instruments社製DSC Q100)により、20℃/分の昇温速度で測定し、融解ピーク温度(融点)を求め、この測定の際に発生する擬結晶の変態により発生する微小吸熱ピーク温度をTmetaとする。なお、Tmetaはポリエステルフィルムに対する熱処理温度の履歴として出現する。
【0040】
本発明の電池の電極用フィルムは、以下の方法で穿孔開始温度を測定したとき、穿孔開始温度が150℃以上であることが好ましく、160℃以上であることがより好ましい。本態様とすることにより、電池内に微小な異物が入って、部分的に応力集中がある状態で、かつ電池動作温度が高くなった際においても、電極用フィルムに穴が開きにくくなり、高い動作温度においても電極の変形による効率低下を抑制することができる。
【0041】
<穿孔開始温度の測定方法>
白光(株)製(FX880D-01SV)半田ごてのこて先の先端温度を所定温度に設定し、台紙上に固定したフィルムに3秒接触させてからフィルムの表面を顕微鏡にて観察する。フィルムに孔が観察された最も低い温度を穿孔開始温度とする。
【0042】
穿孔開始温度は150℃以上であることが、穿孔性から望ましい。150℃未満の場合には高い動作温度において穿孔し易く好ましくない場合がある。
【0043】
本発明の電池の電極用フィルムは、以下の方法で200℃における穿孔面積を求めたとき、穿孔面積が2mm2以上であることが好ましく、3mm2以上であることがより好ましい。本態様とすることにより、釘が刺さるなど、異物により短絡した場合にはフィルムの熱収縮により孔が速く、大きく広がることによって、短絡の継続を抑制することができる。また、当該穿孔面積が6mm2以下であることが好ましい。本態様とすることによりフィルムの破損部(孔)が大きくなり電解液の漏れなど不具合を発生させることを抑制したり、フィルム自体の変形が大きくなって蒸着膜自体により電極が短絡することを抑制できる。同様の観点から当該穿孔面積が5mm2以下であることが好ましい。
【0044】
<200℃における穿孔面積の測定方法>
白光(株)製(FX880D-01SV)半田ごてのこて先の先端温度を200℃に設定し、台紙上に固定したフィルムに3秒接触させてからフィルムの表面を顕微鏡にて観察する。
穿孔面積 = π × {(短軸+長軸)/2}2
本発明の電池の電極用フィルムは、穿孔開始温度が高かったり、異物により短絡してもフィルムの熱収縮により短絡の継続を抑制するなどの特性を活かして、フィルムの両面に金属を蒸着するなどにより金属層を形成することで電池の電極基材として好適に用いることができる。なかでも熱暴走による発火の危険性を抑制できる観点から、有機電解液を有する電池の電極として好適に用いることができ、なかでもリチウムイオン二次電池用電極として好適に用いることができる。
【0045】
かかる金属層の積層方法としては、蒸着法やスパッタリング法、イオンプレーティング法、プラズマ気相成長法(CVD)等で形成することができる。ただし、生産性を考慮すれば、現時点では真空蒸着法が最も優れている。真空蒸着法による真空蒸着装置の加熱手段としては、電子線加熱方式、抵抗加熱方式および誘導加熱方式が好ましい。また、金属層の厚みとしては、一般的には1~10μmの範囲であることが好ましく、より好ましくは2~8μmの範囲である。膜厚を上述範囲以上であると、蒸着薄膜のフレキシビリティ(柔軟)性が失われ、製膜後(後加工工程等において)の折り曲げ、引っ張りなどの外力で、薄膜に亀裂やピンホール等の発生を抑制しやすくなり、電極性能を低下させる場合がある。一方、上述範囲以下の膜厚とすることで、導電性が低下し、電極特性を低下させる場合がある。
【0046】
以下に、本発明の電池の電極用フィルムの製造方法の好ましい一態様を具体的に説明する。本発明は以下の製造方法に限られるものではない。
【0047】
本発明の電池の電極用フィルムは、2層以上の共押出し積層フィルムとしての構成を有してもよい。
【0048】
本発明の電池の電極用フィルムで使用するポリエステル樹脂は、耐熱性、製膜性の点から、融点が250℃以上であることが好ましい。また、市販されているポリエステル樹脂をそのまま用いることができるが、以下のように重縮合反応を経て製造し、使用してもよい。
【0049】
テレフタル酸ジメチル100質量部とエチレングリコール70質量部の混合物に0.09質量部の酢酸マグネシウムと0.03質量部の三酸化アンチモンとを添加して、徐々に加熱し、最終的に220℃でメタノールを留出させながらエステル交換反応を行い、ポリエチレンテレフタレートの前駆体を合成する。ついで、該前駆体に0.02質量部のリン酸85%水溶液(モル濃度14.6mol/L)を添加し、重縮合反応釜に移行する。重縮合反応釜で加熱昇温しながら反応系を徐々に減圧して1hPaの減圧下、290℃で重縮合反応を行い、所望の分子量であるポリエステル樹脂を得ることができる。なお、粒子を添加する場合には、エチレングリコールに粒子を分散させたスラリーを所定の粒子濃度となるように重縮合反応釜に添加して、重縮合反応を行うことが好ましい。
【0050】
蒸着膜との密着性向上のために、ポリエステル樹脂中のジエチレングリコール(DEG)量を減少させるには、重合時間を短縮したり、重合触媒として使用されるアンチモン化合物、ゲルマニウム化合物、チタン化合物などの量を限定する方法、液相重合と固相重合を組み合わせる方法、アルカリ成分を含有させる方法などが挙げられるが、特に限定されるものではない。例えば、水酸化カリウムを含有させDEG量を調節する場合、添加する量をテレフタル酸ジメチル100質量部に対して0.01質量部以上0.10質量部以下とすることでDEG量が0.01質量%以上1.5質量%以下のポリエステル樹脂を得ることができる。
【0051】
次にポリエステル樹脂を用いて本発明の電池の電極用フィルムを製造する好ましい方法について具体的に記述する。まず、使用するポリエステル樹脂を減圧下や窒素雰囲気下で加熱し、たとえば150℃で5時間の乾燥を行い、好ましくは樹脂中の水分率を50ppm以下とする。
【0052】
その後、押出機に供給し溶融押出を行う。なお、ベント式二軸押出機を用いる場合は、乾燥工程を省略してもよい。また、複数のポリエステル樹脂を混合して使用する場合は、所定の混合比率となるように乾燥工程で混合してもよいし、押出機に供給する際に、混合比率を計量しながら供給してもよい。このようにして、溶融押出を行った樹脂は、溶融状態のままフィルターで異物を除去し、ギアポンプにて押出量を計量し、スリット状の吐出口を有するTダイから溶融シートとして押し出し、冷却ロールに密着固化してキャストフィルム(未配向フィルム(未延伸フィルム))を得る。溶融シートと冷却ロールの密着性を向上させるには、通常、静電印加密着法および/または液面塗布密着法を採用することが好ましい。
【0053】
該キャストフィルムは二軸に延伸される。まず、好ましくは、ポリエステル樹脂のガラス転移温度以上、例えば全幅加熱用と端部加熱用の2本以上の赤外線ヒーターによる加熱を加えて、90℃以上135℃以下、より好ましくは100℃以上130℃以下に加熱したロール群による加熱を施し、フィルム長手方向(MD)に4.0~5.5倍延伸し、一軸配向フィルム(一軸延伸フィルム)を得る。次いでフィルム幅方向(TD)に好ましくは100℃以上130℃以下で3.5~5.0倍に延伸する。
【0054】
かくして得られたフィルムを引き続きインラインおよび/またはオフラインで熱固定することが好ましい。さらに、必要に応じ熱固定を行う前または後に再度MDおよび/またはTDに延伸してもよい。熱固定温度は220~245℃とするのが好ましいが、よりガスバリア性を向上させるためには225~245℃とするとより好ましく、230~245℃だと特に好ましい。熱処理時間は通常1秒~1分である。また、この熱固定工程において、長手方向および/または幅方向に弛緩(リラックス)処理を施すことで熱収縮特性を調整することができる。
【0055】
熱固定処理後に、100~200℃の冷却ゾーンを経て、結晶配向の完了したポリエステルフィルムを得ることができる。例えば、熱固定後、フィルムを急冷あるいは徐冷、あるいは中間冷却ゾーンを設けることで熱収縮応力を調整することができる。
【0056】
フィルムには必要に応じコーティングを施すこともできる。フィルムに塗布層を設けることにより、特に蒸着層や導電性インク層との接着性を向上できる。塗液は防爆性や環境汚染の点で水溶解、乳化または懸濁したものが用いられる。塗布層は結晶配向完了後の二軸延伸フィルムに塗布する方法あるいは結晶配向完了前のフィルムに塗布した後に延伸する方法があるが、本発明の効果をより顕著に発現させるためには後者の方法が特に好ましい。塗布する方法は特に限定されないが、ロールコーター、グラビアコーター、リバースコーター、キスコーター、バーコーター等を用いて塗布するのが好ましい。また、塗布する前に必要に応じて塗布面に空気中その他種々の雰囲気中でコロナ放電処理を施しておいてもよい。
【0057】
塗布層には、必要に応じて消泡剤、塗布性架橋剤、増粘剤、有機系潤滑剤、無機系粒子、酸化防止剤、紫外線吸収剤、発砲剤、染料、顔料等を含有させてもよい。
【0058】
本発明の電池の好ましい一態様は、上記した電池の電極用フィルムを有する、電池、である。本態様とすることにより、動作温度を高くしても効率の低下を抑制できたり、釘が刺さるなど、異物により短絡してもフィルムの熱収縮により短絡の継続を抑制することができる。前記電池の電極用フィルムに金属層を設けることで、電池の電極基材を得ることができ、そこへ正極材や負極材を積層することで正極や負極を得ることができる。正極/セパレーターおよび、または固体電解質/負極の積層構造とし、中に必要に応じて電解液を注入することにより、電池の基本的構成を作ることができる。
【実施例0059】
[特性値の測定法]
(1)厚さ
JIS C2151(2019年)に準じて、マイクロメーターを用い、10枚に重ねた試験片の測定をおこなった。厚さの測定値を10で除した値を各測定点の厚みとし、その平均値を厚さとした。
【0060】
(2)平均結晶粒径(χc)
試料を回折式X線装置PHILIPS社Compact X-ray Diffractrometer System PW1840、光源にCuのKα線(波長0.1542nm)を用い、下記条件にて回折強度を測定した。
走査範囲 18~32°
走査速度 0.05°/秒
加速電圧 35kV
管球電流 15mA
平均結晶粒径(χc)は最大ピークの半価幅(rad)、から
χc=0.9λ/βcosθ
λ:X線の波長(nm)、β:最大ピークの半価幅(rad)、θ:最大ピークの回折角にて算出した。
【0061】
(3)面配向係数(fn)
ナトリウムD線(波長589nm)を光源として、中間液としてジヨードメタンを用い、アッベ屈折計を用いて長手方向(nMD)、幅方向(nTD)、厚さ方向(nZD)の屈折率を測定した。下記式により面配向係数fnを算出した。
fn={(nMD+nTD)/2}-nZD
(4)190℃で20分加熱後の熱収縮率
フィルムを長手方向(MD)および幅方向(TD)それぞれに長さ150mm×幅10mmの矩形に切り出しサンプルとした。サンプルに100mmの間隔(中央部から両端に50mmの位置)で標線を描き、3gの錘を吊るして所定温度(190℃)に加熱した熱風オーブン内に20分間設置し加熱処理を行った。熱処理後の標線間距離を測定し、加熱前後の標線間距離の変化から下記式により熱収縮率を算出した。任意に採取した5サンプルについて上記測定を実施し、その数平均を熱収縮率とした。
熱収縮率(%)={(加熱処理前の標線間距離)-(加熱処理後の標線間距離)}/(加
熱処理前の標線間距離)×100。
【0062】
(5)5%伸長時の強度、破断強度
JIS C2151(2019年)に準じて、オリエンテック社製“TENSILON”(登録商標)UCT-100を用いて、室温23℃、相対湿度65%の雰囲気下において、フィルム長手方向(MD)の5%伸長時の強度、ならびにフィルムを長手方向(MD)・幅方向(TD)の破断強度を測定した。具体的には、フィルムを長手方向(MD)と幅方向(TD)にそれぞれ長さ150mm、幅10mmの短冊状にサンプルを切り出し、初期引張チャック間距離50mm、引張速度200mm/分で、5回の測定を行い、平均値を5%伸長時の強度、破断強度とした。
【0063】
(6)中心面平均粗さSRa
フィルム表面を3次元表面粗さ計ET4000AK(小坂研究所社製)を用い、次の条件で触針法により測定を行った。なお、中心面平均粗さ(SRa)は、粗さ曲面の高さと粗さ曲面の中心面の高さの差をとり、その絶対値の平均値を表したものである。
針径 2μmR
針圧 10mg
測定長 500μm
縦倍率 20000倍
CUT OFF 250μm
測定速度 100μm/s
測定間隔 5μm
記録本数 80本
ヒステリシス幅 ±6.25nm
基準面積 0.1mm2。
【0064】
(7)蒸着膜の密着性
東洋モートン社製“アドコート”(登録商標)503(AD503)と硬化剤CAT-10と酢酸エチルを100:5:100質量%の割合で調合した接着剤を#12のメイヤリングバーにて試料の透明蒸着面に塗布した。塗布後70℃の熱風オーブンにて30秒間乾燥後、60μm厚みの未延伸ポリプロピレンフィルムのコロナ処理面と貼合せ、熱風オーブンを用い40℃で72時間エージングを行った。貼合せサンプルを15mm幅にカットし、オリエンテック社製“TENSILON”(登録商標)UCT-100を用いて、室温23℃、相対湿度65%の雰囲気下においてにてポリプロピレンフィルムとポリエステルフィルム間を剥離角度90° にて剥離力を測定した。
A:400g/15mm巾以上
B:200g/15mm巾以上400g/15mm巾未満
C:200g/15mm巾未満。
【0065】
(8)安全性(穿孔開始温度・200℃における穿孔面積)
白光(株)製(FX880D-01SV)半田ごてのこて先の先端温度を所定温度に設定し、台紙上に固定したフィルムに3秒接触させてからフィルムの表面を顕微鏡にて観察した。フィルムに孔が観察された最も低い温度を穿孔開始温度とし、以下の通り判断する。
[穿孔開始温度]
140℃未満:D
140℃以上150℃未満:C
150℃以上160℃未満:B
160℃以上:A
[200℃における穿孔面積]
また、200℃における穿孔面積は、こて先の先端温度を200℃に設定し、台紙上に固定したフィルムに3秒接触させてからフィルムの表面の孔を顕微鏡にて観察し、孔の短軸と長軸を計測し、穿孔面積は以下の式に従い求めた。
穿孔面積 = π × {(短軸+長軸)/2}2
(9)耐突き刺し性
フィルムを直径40mmのリングにフィルムを弛みのないように張り、先端角度60度、先端0.5mmRのサファイア製針を使用し、円の中央を50mm/分の速度でフィルムへ突き刺し、針が貫通するときの荷重(N)を求め、厚さで割り返した。突き刺し強さが強いほうが望ましい。
突刺し強さ = 荷重(N) ÷ 厚さ(μm)
次に、実施例を挙げて、具体的に本発明のポリエステルフィルムについて説明する。実施例中で「部」とは、特に注釈のない限り「質量部」である。
【0066】
[ポリエチレンテレフタレートの製造]
ポリエチレンテレフタレート樹脂は以下のように準備した。
【0067】
(1)ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET-1)
テレフタル酸ジメチル100質量部、およびエチレングリコール61質量部の混合物に、0.04質量部の酢酸マグネシウム、0.02質量部の三酸化アンチモンを添加して、徐々に昇温し、最終的には220℃でメタノールを留出させながらエステル交換反応を行った。ついで、該エステル交換反応生成物に、0.020質量部のリン酸85%水溶液を添加した後、重縮合反応釜に移行した。さらに、加熱昇温しながら反応系を徐々に減圧して1hPaの減圧下、290℃で常法により重縮合反応を行い、ジエチレングリコール量1.45質量%、極限粘度0.65dl/gであり、なおかつ酸成分の95モル%以上がテレフタル酸からなり、グリコール成分の95モル%以上がエチレングリコールからなるポリエチレンテレフタレート樹脂(以下、「PET-1」)を作製した。
【0068】
(2)粒子マスター
上記(1)のポリエチレンテレフタレートを製造する際、エステル交換反応後にレーザ回折/散乱式粒度分布測定装置LA-700(株式会社堀場製作所製)によって測定されるメジアン径(平均粒子径)2.1μmの凝集シリカ粒子のエチレングリコールスラリーを添加してから重縮合反応を行い、粒子濃度2.0質量%の粒子マスター(以下、「PET-2」)を得た。
(3)イソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂
テレフタル酸成分が85モル%、イソフタル酸が15モル%、グリコール成分としてエチレングリコール成分が100モル%であるイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂(以下、「PET-3」。極限粘度0.65dl/g、ガラス転移温度78℃)を作製した。
【0069】
(実施例1)
PET-1を90質量部、PET-2を10質量部の割合で混合して使用した。PET-1とPET-2の混合物を真空乾燥した後、押出機に供給して、280℃で溶融押出し、14μmカットのステンレスパウダー焼結フィルター(PSS)で濾過した後、T字型口金からシート状に押出し、これを表面温度25℃の冷却ドラムに静電密着法で冷却固化せしめた。このようにして得られた未延伸(未配向)PETフィルムを、127℃に加熱して長手方向に一段目を2.21倍、二段目を1.14倍、三段目を2.30倍とした三段延伸にて一軸延伸フィルムとした。このフィルムを112℃に加熱しつつ幅方向に3.8倍に延伸した(横延伸)。このフィルムを229℃の熱風中に導き入れ、2秒間MD方向、TD方向に弛緩させずに熱処理(熱固定)した後、150℃で幅方向にTD延伸後のフィルム幅に対して4.0%の弛緩処理(リラックス)を施し冷却した。このようにして最終的に厚さ5.7μmのポリエステルフィルムを得た。
【0070】
このようにして得られた厚さ5.7μmのポリエステルフィルムにアルミニウム蒸着を所定の蒸着速度で行った。アルミニウムを蒸着する方法は、フィルムを連続式真空蒸着機の巻き出し装置にセットし、冷却金属ドラムを介して走行させフィルムを巻き取る。この時、連続式真空蒸着機を10-4Torr以下に減圧し、冷却ドラムの下部よりアルミナ製ルツボに純度99.99%の金属アルミニウムを装填して金属アルミニウムを加熱蒸発させ、フィルム上に付着堆積させ、厚さ1μmのアルミニウム膜を形成させる工程を3回行った。さらに、反対面も同様に3回蒸着し、両面に3μmのアルミ蒸着膜を形成させ、トータル11.7μmの蒸着フィルムを得た。
【0071】
(実施例2~6、比較例1~5)
表に記載のとおり、製膜条件(ポリエチレンテレフタレート樹脂混合率、延伸条件、熱固定条件、冷却条件)を変更した以外は、実施例1と同様の方法にてポリエステルフィルム、アルミ蒸着フィルムを得た。結果を表1に示す。
【0072】
実施例により得られたポリエステルフィルムを基材として用いた蒸着フィルムは、蒸着膜との密着性、突刺し性、安全性に優れていた。一方、比較例1~5により得られたポリエステルフィルムを基材として用いたアルミ蒸着フィルムは、劣るものであった。
【0073】
本発明によれば、突刺し性および短絡に対する安全性に優れた電池の電極用フィルムを提供することができる。そして当該フィルムは特に電池の電極用フィルムとして好適に用いることができる。