IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 保土谷化学工業株式会社の特許一覧

特開2023-118081光電変換素子に用いる材料および有機薄膜
<>
  • 特開-光電変換素子に用いる材料および有機薄膜 図1
  • 特開-光電変換素子に用いる材料および有機薄膜 図2
  • 特開-光電変換素子に用いる材料および有機薄膜 図3
  • 特開-光電変換素子に用いる材料および有機薄膜 図4
  • 特開-光電変換素子に用いる材料および有機薄膜 図5
  • 特開-光電変換素子に用いる材料および有機薄膜 図6
  • 特開-光電変換素子に用いる材料および有機薄膜 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023118081
(43)【公開日】2023-08-24
(54)【発明の名称】光電変換素子に用いる材料および有機薄膜
(51)【国際特許分類】
   H10K 30/60 20230101AFI20230817BHJP
   H10K 30/86 20230101ALI20230817BHJP
   C07D 209/82 20060101ALI20230817BHJP
   H10K 30/30 20230101ALN20230817BHJP
【FI】
H10K30/60
H10K30/86
C07D209/82
H10K30/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023015898
(22)【出願日】2023-02-06
(31)【優先権主張番号】P 2022020480
(32)【優先日】2022-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005315
【氏名又は名称】保土谷化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】望月 俊二
(72)【発明者】
【氏名】樺澤 直朗
(72)【発明者】
【氏名】島 大和
(72)【発明者】
【氏名】三枝 優太
(72)【発明者】
【氏名】北原 秀良
【テーマコード(参考)】
5F849
【Fターム(参考)】
5F849AA03
5F849AB11
5F849BB03
5F849BB06
5F849CB06
5F849CB15
5F849FA04
5F849FA05
5F849GA02
5F849XA02
5F849XA13
5F849XA46
5F849XA55
(57)【要約】
【課題】各種の光電変換素子に適用する有機薄膜の提供。
【解決手段】下記一般式で表される構造を有する化合物を含む有機薄膜。Lは単結合、芳香族炭化水素基等;Lは芳香族炭化水素基等;R~R13は水素原子、アルキル基等;ArおよびArは芳香族炭化水素基等を表す。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光電変換素子に用いる有機薄膜であり、前記有機薄膜は下記一般式(1)で表される構造を有する化合物を含む有機薄膜。
【化1】
(式中、
は、単結合、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基の2価基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基の2価基、または置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基の2価基を表し、
は、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基の2価基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基の2価基、または置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基の2価基を表し、
~R13は、相互に同一でも異なってもよく、水素原子、重水素原子、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、ニトロ基、置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキル基、置換基を有していてもよい炭素原子数2ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキルオキシ基、置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキルオキシ基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基、置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基または置換もしくは無置換のアリールオキシ基を表し、
ArおよびArは、相互に同一でも異なってもよく、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基、または置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基を表し、
前記一般式(1)中のRとR、RとR、RとR、RとR、RとR、RとR、RとR、R10とR11、R11とR12、R12とR13は、それぞれ連結基を介して互いに結合して置換もしくは無置換の芳香族炭化水素環を形成してもよいが、R~R13、L、L、ArおよびArのうちの2つで構成される上記以外のペアが互いに結合して環状構造を形成することはない。
【請求項2】
前記一般式(1)において、Lは、単結合、または、下記一般式(a)~(h)からなる群より選択される2価基である、請求項1に記載の有機薄膜。
【化2】
(式中、*は結合部位を表す。)
【請求項3】
前記一般式(1)において、Lは、置換もしくは無置換のフェニレン基、置換もしくは無置換のビフェニルジイル基、または置換もしくは無置換のターフェニルジイル基である、請求項1に記載の有機薄膜。
【請求項4】
前記一般式(1)において、ArおよびArは、相互に同一でも異なってもよく、下記一般式(i)~(x)からなる群より選択される置換基である、請求項1に記載の有機薄膜。
【化3】
(式中、**は結合部位を表す。)
【請求項5】
前記請求項1~4のいずれか1項に記載の有機薄膜を含む光電変換素子。
【請求項6】
前記請求項1~4のいずれか1項に記載の有機薄膜をp型バッファー層として含む光電変換素子。
【請求項7】
前記p型バッファー層の最高被占分子軌道(HOMO)準位の絶対値が5.0~7.0eVである請求項6に記載の光電変換素子。
【請求項8】
請求項5に記載の光電変換素子を有する撮像素子。
【請求項9】
下記一般式(1)で表される構造を有する化合物を含む光電変換素子用材料。
【化4】
(式中、
は、単結合、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基の2価基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基の2価基、または置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基の2価基を表し、
は、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基の2価基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基の2価基、または置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基の2価基を表し、
~R13は、相互に同一でも異なってもよく、水素原子、重水素原子、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、ニトロ基、置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキル基、置換基を有していてもよい炭素原子数2ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキルオキシ基、置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキルオキシ基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基、置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基または置換もしくは無置換のアリールオキシ基を表し、
ArおよびArは、相互に同一でも異なってもよく、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基、または置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基を表し、
前記一般式(1)中のRとR、RとR、RとR、RとR、RとR、RとR、RとR、R10とR11、R11とR12、R12とR13は、それぞれ連結基を介して互いに結合して置換もしくは無置換の芳香族炭化水素環を形成してもよいが、R~R13、L、L、ArおよびArのうちの2つで構成される上記以外のペアが互いに結合して環状構造を形成することはない。
【請求項10】
p型バッファー層用である、請求項9に記載の光電変換素子用材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換素子に用いる材料と有機薄膜、詳しくはカルバゾール構造と置換アミノ構造を有する化合物を含有する光電変換素子用材料と有機薄膜に関するものである。本発明の有機薄膜は各種の光電変換素子に適用するものである。
【背景技術】
【0002】
光電変換素子は太陽電池や光センサ等に広く利用され、その中でも撮像素子であるイメージセンサーはテレビカメラやスマートホン搭載のカメラだけでなく、運転支援システム用途にも用いられ始めるなど用途、市場共に広がりをみせている。
【0003】
有機物は無機物と比較し吸光度が高いため、無機物よりも薄い膜厚で効率良く光を電気へ変換できる可能性がある。また波長選択性も高くすることができ、それぞれの波長に対応した材料を組み合わせることで、三原色に対しそれぞれの光を効率よく利用できることから、有機薄膜を利用した光センサは、新しい光センサとして有望である。また、可視光の光に限らず、材料選定次第で、近赤外、赤外のセンシングが可能になる他、無機物では達成することのできない、フレキシブル性や作成プロセスでの塗布による大面積化といった価値を付加できる可能性がある(非特許文献1)。
【0004】
このような事から有機物を用いた光電変換素子は、次世代の光センサへの展開が期待されており、いくつかのグループから報告がなされている。例えばキナクリドン、キナゾリン誘導体を光電変換素子に用いた例(特許文献1)、ベンゾチエベンゾチオフェン誘導体を光電変換素子に用いた例(特許文献2)などがある。光センサの感度を向上させるためには、光が入射していないときに流れる電流(暗電流)を低減する必要がある。この暗電流を低減する一つの手法として、光電変換部と電極部間に、有機バッファー層を挿入する手法がある。
【0005】
この有機バッファー層は有機エレクトロニクス分野では、一般的に使用される手法である。これら有機バッファー層はそれぞれデバイスの構成膜中において、電極または導電性を有する膜と、それ以外の膜の界面に配置され、正孔もしくは電子の逆移動を制御しながら、必要な電荷を速やかに伝達させる機能を持つ。
【0006】
加えて、有機バッファー層に用いられる材料に求められる特性としては電荷の逆移動を制御、電荷の速やかな伝達の他に、光センサ素子を作成する際には、カラーフィルター設置、保護膜設置、素子のハンダ付け等、加熱工程を有する製造プロセスへの適用や保存性の向上を考慮するため、有機ELや他の有機エレクトロニクスデバイスよりも高い熱安定性が求められる。特許文献3ではトリスカルバゾール化合物を光電変換素子の有機バッファー層に用いることで残留電荷および暗電流を減らし、光電変換効率、電荷抽出特性、熱安定性を改善することが報告されている。しかしながら、この文献における報告では、光電変換素子の特性としては不十分であった。
【0007】
また特許文献4、5ではビスカルバゾール化合物を有機EL用材料として用いているが、詳しい物性値、および光電変換素子の材料として用いた例はなかった。また、これらの特許文献の他にも、有機EL用材料として多種多様な化合物が提案されているが、いずれの構造を有する化合物が光電変換素子の材料として特に有用であるのかを示す指標を提示したものはない。このため、光電変換素子の材料として特に有用な化合物を見出すには、多大な検討が必要とされている。例えば各素子の電荷輸送を見ると、有機EL素子では、電圧印加によって電極から発光層に向かって電荷が流れるが、光電変換素子では、光電変換層で生成した電荷が該光電変換層から電極に向かって流れる。すなわち、有機EL素子と光電変換素子では、電荷の流れが互い逆向きであることから、電荷輸送性材料に要求される物性も自ずと異なる。そのため、有機EL素子で使用されている材料の中から、光電変換素子の材料として有用な化合物を見い出すには多大な試行錯誤と研究が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4945146号公報
【特許文献2】特開2018-170487号公報
【特許文献3】特開2021-077888号公報
【特許文献4】特開2007-194241号公報
【特許文献5】国際公開第2010-095621号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Adv.Mater.28,4766(2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記の状況を鑑みてなされたものであり、各種の光電変換素子に効果的に適用する材料や有機薄膜を提供できることを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで本発明者らは上記の目的を達成するために鋭意開発を行なった結果、下記の一般式(1)で表される化合物を含む有機薄膜が前記課題を解決するものであることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち本発明は、以下の各項に係るものである。
1)光電変換素子に用いる有機薄膜であり、前記有機薄膜は下記一般式(1)で表される構造を有する化合物を含む有機薄膜。
【0013】
【化1】
【0014】
式(1)中、Lは、単結合、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基の2価基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基の2価基、または置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基の2価基を表し、
は、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基の2価基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基の2価基、または置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基の2価基を表し、
~R13は、相互に同一でも異なってもよく、水素原子、重水素原子、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、ニトロ基、置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキル基、置換基を有していてもよい炭素原子数2ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキルオキシ基、置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキルオキシ基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基、置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基または置換もしくは無置換のアリールオキシ基を表し、
ArおよびArは、相互に同一でも異なってもよく、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基、または置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基を表し、
前記一般式(1)中のRとR、RとR、RとR、RとR、RとR、RとR、RとR、R10とR11、R11とR12、R12とR13は、それぞれ連結基を介して互いに結合して置換もしくは無置換の芳香族炭化水素環を形成してもよいが、R~R13、L、L、ArおよびArのうちの2つで構成される上記以外のペアが互いに結合して環状構造を形成することはない。
【0015】
2)前記一般式(1)において、Lは、単結合、または、下記一般式(a)~(h)からなる群より選択される2価基である、前記1)に記載の有機薄膜。
【0016】
【化2】
【0017】
式(a)~(h)中、*は結合部位を表す。
【0018】
3)前記一般式(1)において、Lは、置換もしくは無置換のフェニレン基、置換もしくは無置換のビフェニルジイル基、または置換もしくは無置換のターフェニルジイル基である、1)に記載の有機薄膜。
【0019】
4)前記一般式(1)において、ArおよびArは、相互に同一でも異なってもよく、下記一般式(i)~(x)からなる群より選択される置換基である、前記1)~3)のいずれか1項に記載の有機薄膜。
【0020】
【化3】
【0021】
式(i)~(x)中、**は結合部位を表す。
【0022】
5)前記1)~4)のいずれか1項に記載の有機薄膜を含む光電変換素子。
【0023】
6)前記1)~4)のいずれか1項に記載の有機薄膜をp型バッファー層として含む光電変換素子。
【0024】
7)前記p型バッファー層の最高被占分子軌道(HOMO)準位の絶対値が5.0~7.0eVである、6)に記載の光電変換素子。
【0025】
8)前記5)~7)のいずれか1項に記載の光電変換素子を有する撮像素子。
【0026】
9)前記1)~4)のいずれか1項に記載の一般式(1)で表される構造を有する化合物を含む光電変換素子用材料。
【0027】
10)p型バッファー層用である、9)に記載の光電変換素子用材料。
【発明の効果】
【0028】
本発明の一般式(1)で表される構造を有する化合物を含む材料や有機薄膜は、各種の光電変換素子に効果的に適用できる。それにより、良い特性を有する光電変換素子、特に撮像素子、およびこれを用いる光センサを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の光電変換素子の一つの構成例である。
図2】本発明の光電変換素子の一つの構成例である。
図3】一般式(1)で表される化合物の例として、化合物(1-1)~(1-10)の構造を示す図である。
図4】一般式(1)で表される化合物の例として、化合物(1-11)~(1-20)の構造を示す図である。
図5】一般式(1)で表される化合物の例として、化合物(1-21)~(1-30)の構造を示す図である。
図6】一般式(1)で表される化合物の例として、化合物(1-31)~(1-40)の構造を示す図である。
図7】一般式(1)で表される化合物の例として、化合物(1-41)~(1-50)の構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、光電変換素子に適用する、上記一般式(1)で表される構造を有する化合物を含む材料と有機薄膜、およびその有機薄膜を使用することを特徴とする光電変換素子に関するものである。
【0031】
また、本明細書にある「ないし」との用語は範囲を表し、例えば「5ないし10」との記載は、「5以上10以下」を意味し、「ないし」の前後に記載される数値自体も含む範囲を表す。
【0032】
上記一般式(1)中のLおよびLおいて、「置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基の2価基」、「置換もしくは無置換の芳香族複素環基の2価基」、または「置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基の2価基」における「芳香族炭化水素基の2価基」、「芳香族複素環基の2価基」または「縮合多環芳香族基の2価基」としては、具体的に、フェニレン基、ビフェニルジイル基、ターフェニルジイル基、ナフタレンジイル基、ナフチルフェニレン基、アントラセンジイル基、フェナントレンジイル基、フルオレンジイル基、スピロビフルオレンジイル基、インデンジイル基、ピレンジイル基、ペリレンジイル基、フルオランテンジイル基、トリフェニレンジイル基、ピリジンジイル基、ピリミジンジイル基、トリアジンジイル基、フランジイル基、ピロ-ルジイル基、チオフェンジイル基、キノリンジイル基、イソキノリンジイル基、ベンゾフランジイル基、ベンゾチオフェンジイル基、インドールジイル基、カルバゾールジイル基、ベンゾオキサゾールジイル基、ベンゾチアゾールジイル基、キノキサリンジイル基、ベンゾイミダゾールジイル基、ピラゾールジイル基、ジベンゾフランジイル基、ジベンゾチオフェンジイル基、ナフチリジンジイル基、フェナントロリンジイル基、アクリジンジイル基およびカルボリンジイル基などを挙げることができる。さらに、炭素数6ないし30のアリーレン基および炭素数2ないし30のヘテロアリーレン基から選択することもできる。
【0033】
上記一般式(1)中のLおよびLにおいて、「置換芳香族炭化水素基」、「置換芳香族複素環基」、または「置換縮合多環芳香族基」における「置換基」としては、具体的に、重水素原子、シアノ基、ニトロ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子;トリメチルシリル基、トリフェニルシリル基などのシリル基;メチル基、エチル基、プロピル基などの炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基;メチルオキシ基、エチルオキシ基、プロピルオキシ基などの炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキルオキシ基;ビニル基、アリル基などのアルケニル基;フェニルオキシ基、トリルオキシ基などのアリールオキシ基;ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基などのアリールアルキルオキシ基;フェニル基、ビフェニリル基、ターフェニリル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントレニル基、フルオレニル基、スピロビフルオレニル基、インデニル基、ピレニル基、ペリレニル基、フルオランテニル基、トリフェニレニル基などの芳香族炭化水素基もしくは縮合多環芳香族基;ピリジル基、チエニル基、フリル基、ピロリル基、キノリル基、イソキノリル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチエニル基、インドリル基、カルバゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、キノキサリニル基、ベンゾイミダゾリル基、ピラゾリル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチエニル基、カルボリニル基などの芳香族複素環基のような基を挙げることができ、これらの置換基は、更に前記例示した置換基で置換されていてもよい。例えば、「置換基」は、重水素原子、炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、芳香族炭化水素基、縮合多環芳香族基、もしくはこれらの組み合わせからなる群より選択してもよい。
【0034】
前記一般式(1)中のR~R13において、「置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基」、「置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキル基」または「置換基を有していてもよい炭素原子数2ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基」における「炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基」、「炭素原子数5ないし10のシクロアルキル基」、または「炭素原子数2ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基」としては、具体的に、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、1-アダマンチル基、2-アダマンチル基、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基および2-ブテニル基などを挙げることができる。
【0035】
前記一般式(1)中のR~R13において、「置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキルオキシ基」または「置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキルオキシ基」における「炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキルオキシ基」または「炭素原子数5ないし10のシクロアルキルオキシ基」としては、具体的に、メチルオキシ基、エチルオキシ基、n-プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n-ブチルオキシ基、tert-ブチルオキシ基、n-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、シクロヘプチルオキシ基、シクロオクチルオキシ基、1-アダマンチルオキシ基および2-アダマンチルオキシ基などを挙げることができる。
【0036】
前記一般式(1)中のR~R13において、「置換もしくは無置換のアリールオキシ基」における「アリールオキシ基」としては、具体的に、フェニルオキシ基、ビフェニリルオキシ基、ターフェニリルオキシ基、ナフチオキシル基、アントラセニルオキシ基およびフェナントレニルオキシ基などの炭素数6ないし30のアリールオキシ基を挙げることができる。
【0037】
前記一般式(1)中のR~R13において、「置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基」、「置換もしくは無置換の芳香族複素環基」、または「置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基」における「芳香族炭化水素基」、「芳香族複素環基」または「縮合多環芳香族基」としては、具体的に、フェニル基、ビフェニリル基、ターフェニリル基、ナフチル基、ナフチルフェニル基、アントラセニル基、フェナントレニル基、フルオレニル基、スピロビフルオレニル基、インデニル基、ピレニル基、ペリレニル基、フルオランテニル基、トリフェニレニル基、ピリジル基、ピリミジニル基、トリアジニル基、フリル基、ピロリル基、チエニル基、キノリル基、イソキノリル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチエニル基、インドリル基、カルバゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、キノキサリニル基、ベンゾイミダゾリル基、ピラゾリル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチエニル基、ナフチリジニル基、フェナントロリニル基、アクリジニル基およびカルボリニル基などを挙げることができる。さらに、炭素数6ないし30のアリール基および炭素数2ないし30のヘテロアリール基から選択することもできる。
【0038】
前記一般式(1)中のR~R13において、「置換芳香族炭化水素基」、「置換芳香族複素環基」、「置換縮合多環芳香族基」、「置換メチレン基」、「置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基」、「置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキル基」、「置換基を有していてもよい炭素原子数2ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基」、「置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキルオキシ基」、または「置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキルオキシ基」における「置換基」の具体例は前記一般式(1)中のLおよびLにおいて挙げられた「置換基」の具体例と同じである。
【0039】
前記一般式(1)中のArおよびArにおいて、「置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基」、「置換もしくは無置換の芳香族複素環基」、または「置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基」における「芳香族炭化水素基」、「芳香族複素環基」または「縮合多環芳香族基」の具体例は、前記一般式(1)中のR~R13において挙げられた具体例と同じである。
【0040】
前記一般式(1)中のArおよびArにおいて、「置換芳香族炭化水素基」、「置換芳香族複素環基」、または「置換縮合多環芳香族基」における「置換基」の具体例は前記一般式(1)中のLおよびLにおいて挙げられた「置換基」の具体例と同じである。
【0041】
前記一般式(1)中のRとR、RとR、RとR、RとR、RとR、RとR、RとR、R10とR11、R11とR12、R12とR13は、それぞれ連結基を介して互いに結合して置換もしくは無置換の芳香族炭化水素環(LおよびLにおいて挙げられた芳香族炭化水素基が有する芳香族炭化水素環の具体例と同じ)を形成してもよいが、R~R13、L、L、ArおよびArのうちの2つで構成される上記以外のペアが互いに結合して環状構造を形成することはない。特に、前記一般式(1)中のArとAr、ArとL、またはArとLが、それぞれ単結合または連結基を介して互いに結合して環状構造(例えばカルバゾール環)を形成することはない。 本発明の一態様では、R~R13、L、L、ArおよびArのうちの2つで構成されるペアが、互いに結合して環状構造を形成することはない。
【0042】
前記一般式(1)においてLが結合している左右のベンゼン環の環骨格構成炭素原子に結合している各々3つの水素原子(H)は表示を省略している。これらの水素原子(H)のうちの少なくとも1つは重水素原子(D)に置換されていてもよい。
【0043】
前記一般式(1)において、2つのカルバゾール環におけるLの結合位置は、各カルバゾール環の1~4位のいずれであってもよいが、2~4位であることが好ましく、3位または4位であることがより好ましい。Lの結合位置は、2つのカルバゾール環で同じであっても異なっていてもよい。Lの結合位置の具体例として、右側のカルバゾール環の3位と左側のカルバゾール環の3位、右側のカルバゾール環の3位と左側のカルバゾール環の4位、右側のカルバゾール環の4位と左側のカルバゾール環の3位が挙げられる。
【0044】
前記一般式(1)で表される構造を有する化合物は、分子内にカルバゾール構造を2つ有するビスカルバゾール化合物であることが好ましい。
【0045】
本発明の化合物の合成が容易であることから、前記一般式(1)中のLが、単結合、または置換もしくは無置換のフェニレン基であることが好ましく、特に単結合であることがより好ましい。
【0046】
本発明の化合物の合成が容易であることから、前記一般式(1)中のLが、置換もしくは無置換のフェニレン基または置換もしくは無置換のビフェニルジイル基であることが好ましく、特にビフェニルジイル基であることがより好ましい。
【0047】
本発明の化合物の耐熱性と正孔輸送の観点であることから、前記一般式(1)中のArおよびArが、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基または置換もしくは無置換の芳香族複素環基であることが好ましく、特にフェニル基、ビフェニル基、ナフチルフェニル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチエニル基であることがより好ましい。
【0048】
本発明の上記一般式(1)で表される構造を有する化合物の中で、好ましい化合物の具体例を図3~7に示すが、本発明は、これらの化合物に限定されるものではない。
【0049】
なお、具体例の化合物は、それ自体公知の方法に準じて合成することができる(例えば、特許文献4および特許文献5参照)。
【0050】
本発明の一般式(1)で表される構造を有する化合物は、蒸着法、スピンコート法およびインクジェット法などの公知の方法によって有機薄膜を形成することができる。また、一般式(1)で表される構造を有する化合物は、単独で成膜してもよいが、複数種を混合して成膜することもできる。更に本発明の効果を損なわない範囲で、他の化合物と混合して成膜することもできる。
【0051】
本発明の一般式(1)で表される構造を有する化合物の精製は、カラムクロマトグラフによる精製、シリカゲル、活性炭、活性白土などによる吸着精製、溶媒による再結晶や晶析法などによって行うことができる。化合物の同定は、NMR分析によって行うことができる。物性値として、ガラス転移温度(Tg)、HOMO準位、および正孔移動度の測定を行うことが好ましい。ガラス転移温度(Tg)は薄膜状態の安定性の指標となるものであり、HOMO準位は暗時におけるn型半導体からの電荷移動や電極からの正孔移動を抑制する指標となるものであり、正孔移動度は正孔輸送能の指標となるものである。
【0052】
ガラス転移温度(Tg)は、粉体を用いて高感度示差走査熱量計(ブルカー・エイエックスエス製、DSC3100SA)によって求めることができる。ガラス転移温度(Tg)は、加熱工程を有する製造プロセスへの適用や保存性の向上の観点から、110℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましい。
【0053】
HOMO準位は、ITO基板の上に真空蒸着により100nmの有機膜を作製して、イオン化ポテンシャル測定装置(住友重機械工業株式会社製、PYS-202)によって求めることができる。HOMO準位の絶対値は、n型半導体との界面電荷の移動や電極からの正孔移動を抑制の観点から、5.0eV~7.0eVの範囲内が好ましく、5.3~6.0eVの範囲内がより好ましい。
【0054】
正孔移動度は、ITO基板の上に真空蒸着により3~4μmの有機膜を作製して、タイムオブフライト測定装置(オプテル社製、TOF-401)によって求めることができる。正孔移動度は、光電変換層で発生した正孔を効率良く陽極へ輸送する観点から、電界強度0.25MV/cmにおける正孔移動度が、1.0×10-7(cm/Vs)以上であることが好ましく、1.0×10-6(cm/Vs)以上であることがより好ましく、1.0×10-4(cm/Vs)以上であることがより好ましい。
【0055】
<光電変換素子>
本発明の光電変換素子は、光エネルギーを電気に変換する素子のことを指す。本発明の光電変換素子は、少なくとも陽極、p型バッファー層、光電変換層および陰極をこの順に有するものである。図1は本発明の光電変換素子の一つの構成例である。図1に示す実施形態は、ガラス基板1/透明陽極2/p型バッファー層3/光電変換層4/陰極5の順で積層されてなる光電変換素子である。また、本発明の光電変換素子は、図2に示す実施形態のように、ガラス基板1/陰極5/光電変換層4/p型バッファー層3/透明陽極2の順で積層されたものであってもよい。しかしながら、本発明の光電変換素子は、図1および図2に示す態様に限定されるものではない。また、本発明の光電変換素子は、少なくとも陽極、p型バッファー層、光電変換層および陰極を上記の順に有している限り、各層の間に他の層を有する態様を排除するものではない。
【0056】
<基板>
本発明の光電変換素子における基板としては、特に限定は無く、ガラス基板、プラスチック基板等を用いることができ、また透明であっても不透明であってもよい。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロファン、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートフタレート、セルロースナイトレート、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンビニルアルコール、シンジオタクティックポリスチレン、ポリカーボネート、ノルボルネン樹脂、ポリメチルペンテン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン類、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトンイミド、ポリアミド、フッ素樹脂、ナイロン、ポリメチルメタクリレート、アクリルまたはポリアリレート類、有機無機ハイブリッド樹脂等のプラスチック基板、ガラス、石英、酸化アルミニウム、シリコン、酸化シリコン、二酸化タンタル、五酸化タンタル、インジウムスズ酸化物等の無機基板、金、銅、クロム、チタン、アルムニウム等の金属基板等を挙げることができる。これらのうち、トランジスタの形成の観点から、ガラス、およびシリコンが好ましい。
【0057】
<n型バッファー層>
本発明の光電変換素子では、陰極と光電変換層の間にもバッファー層を設けてもよい。当該層を形成する材料として、特に限定されるものではないが、アクセプター性有機半導体が好ましい。例えば、ピリジン、キノリン、アクリジン、インドール、イミダゾールベンズイミダゾール、ナフタルイミド、マレイミド、フェナントロリンのような含窒素複素環を含む有機分子および有機金属錯体で、更に可視光領域の吸収が少ない材料が好ましい。また、5nmから30nm程度の薄膜で形成する場合には可視光領域に吸収を有するフラーレンおよびその誘導体などを用いることもできる。
【0058】
<光電変換層>
本発明の光電変換素子における光電変換層は、有機材料でも無機物でもよく、受光した光量に応じた信号電荷を発生することができればよい。光電変換層が有機材料の場合、その有機半導体膜は、一層であっても複数の層であってもよく、一層の場合はp型有機半導体膜、n型有機半導体膜、またはp型有機半導体およびn型有機半導体の混合膜(バルクヘテロ構造)が用いられる。また、複数の層である場合は、p型有機半導体膜、n型有機半導体膜、またはp型有機半導体およびn型有機半導体混合膜のいずれか2つ以上を積層した構造であり、層間にバッファー層を挿入することも可能である。これらのうち、p型有機半導体およびn型有機半導体の混合膜(バルクヘテロ構造)からなる構造がより好ましく、p型有機半導体材料およびn型有機半導体材料を2種以上含有してもよい。
【0059】
前記p型有機半導体はドナー性の有機半導体であり、主に正孔輸送性の有機化合物に代表され、電子を供与しやすい性質がある化合物である。
p型半導体としては、特に限定されないが、例えば、ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、フェナントレン誘導体、ピレン誘導体、ペリレン誘導体、テトラセン誘導体、ペンタセン誘導体、キナクリドン誘導体、クリセン誘導体、フルオランテン誘導体、フタロシアニン誘導体、サブフタロシアニン誘導体、複素環化合物を配位子とする金属錯体、ベンゾチオフェン誘導体、イソベンゾチオフェン誘導体、ジナフトチエノチオフェン誘導体、ジアントラセノチエノチオフェン誘導体、ベンゾビスベンゾチオフェン誘導体、チエノビスベンゾチオフェン、ジベンゾチエノビスベンゾチオフェン誘導体、ジチエノベンゾジチオフェン誘導体、ジベンゾチエノジチオフェン誘導体、ベンゾジチオフェン誘導体、ナフトジチオフェン誘導体、アントラセノジチオフェン誘導体、テトラセノジチオフェン誘導体、ペンタセノジチオフェン誘導体に代表されるチエノアセン系材料やトリアリールアミン化合物、カルバゾール化合物といったアミン系誘導体、インデノカルバゾール誘導体、含酸素複素環式化合物(フラン誘導体、イソベンゾフラン誘導体、ベンゾフラン誘導体、ジベンゾフラン誘導体、ベンゾジフラン誘導体、オキサゾール誘導体、イソオキサゾール誘導体、ベンゾオキサゾール誘導体、ベンズイソオキサゾール誘導体、シクロペンタジフラン誘導体等)などを挙げることができる。
【0060】
前記n型有機半導体は、アクセプター性有機半導体であり、主に電子輸送性有機化合物に代表され、電子を受容しやすい性質がある有機化合物をいう。更に詳しくは2つの有機化合物を接触させて用いたときに電子親和力の大きい方の有機化合物をいう。したがって、アクセプター性有機化合物は、電子受容性のある有機化合物であればいずれの有機化合物も使用可能である。例えば、縮合芳香族炭素環化合物(ナフタレン、アントラセン、フラーレン、フェナントレン、テトラセン、ピレン、ペリレン、フルオランテン、またはこれらの誘導体)、窒素原子、酸素原子、硫黄原子を含有する5ないし7員のヘテロ環化合物(例えばピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、キノリン、キノキサリン、キナゾリン、フタラジン、シンノリン、イソキノリン、プテリジン、アクリジン、フェナジン、フェナントロリン、テトラゾール、ピラゾール、イミダゾール、チアゾール、オキサゾール、インダゾール、ベンズイミダゾール、ベンゾトリアゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾール、フタルイミド、カルバゾール、プリン、トリアゾロピリダジン、トリアゾロピリミジン、テトラザインデン、オキサジアゾール、イミダゾピリジン、ピラリジン、ピロロピリジン、チアジアゾロピリジン、ジベンズアゼピン、トリベンズアゼピン等)、ポリアリーレン化合物、フルオレン化合物、シクロペンタジエン化合物、シリル化合物、含窒素ヘテロ環化合物を配位子として有する金属錯体などが挙げられる。なお、これに限らず、上記したように、ドナー性有機化合物として用いた有機化合物よりも電子親和力の大きな有機化合物であればアクセプター性有機半導体として用いてよい。
【0061】
<p型バッファー層>
本発明の光電変換素子におけるp型バッファー層は、上記一般式(1)で表される構造を有する化合物を含む材料からなる。p型バッファー層として、上記一般式(1)で表される構造を有する化合物を含む有機薄膜を用いることができる。p型バッファー層には、一般式(1)で表される構造を有する化合物群の中から1種類のみを選択して用いてもよいし、この化合物群の中から2種類以上を選択して用いてもよい。
【0062】
<電極(陽極・陰極)>
陽極、陰極としては一般に電極として用いられている導電材料であれば特に制限はなく、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属硼化物、有機導電性化合物、これらの混合物等が挙げられる。具体例としては、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化インジウムタングステン(IWO)、酸化モリブデン(MoO)、酸化チタン等の導電性金属酸化物、酸化窒化チタン(TiNxOx)、窒化チタン(TiN)等の金属窒化物、金(Au)、白金(Pt)、銀(Ag)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)等の金属、更にこれらの金属と導電性金属酸化物との混合物または積層物、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール等の有機導電性化合物、これらとITOとの積層物、などが挙げられる。
【0063】
以下、本発明の実施の形態について、実施例により具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例0064】
<ガラス転移温度の測定>
下記の化合物(1-1)は高感度示差走査熱量計(ブルカー・エイエックスエス製、DSC3100SA)によってガラス転移温度を測定した。またp型バッファー層用の比較化合物として下記構造の比較化合物1(特許文献3を参照)も同様手法で測定を行い、測定したガラス転移温度の結果を表1にまとめて示す。
【0065】
【化4】
【0066】
【化5】
【0067】
【表1】
【0068】
表1から、実施例1の化合物は150℃以上と高いガラス転移温度が得られており、薄膜状態が安定であることを示している。また化合物(1-1)のガラス転移温度は比較化合物1と同等の値であり、比較化合物と同じく熱安定性に優れた素子が作製可能である。
【実施例0069】
<HOMO準位の測定>
前記化合物(1-1)、および前記比較化合物1を用いて、ITO基板の上に膜厚100nmの蒸着膜を作製して、イオン化ポテンシャル測定装置(住友重機械工業株式会社、PYS-202)によって仕事関数(HOMO準位の絶対値に相当)を測定した結果を表2にまとめて示した。
【0070】
【表2】
【0071】
表2から、化合物(1-1)は、比較化合物1と同等のHOMO準位が観測され、適切なHOMO準位を有していることが分かる。
【実施例0072】
<正孔移動度の測定>
前記化合物(1-1)、および比較化合物1を用いて、真空蒸着法によりITO付きガラス基板上に、測定対象の有機化合物を膜厚3~4μmで成膜した。続けてアルミニウムを膜厚100nm程度で成膜することで、正孔移動度測定用の素子を作成した。この素子について、水分や酸素の吸着による劣化が起こらないように、窒素雰囲気中で有機EL用水分ゲッターシートを貼り付けたガラスキャップで封止した。
【0073】
前記素子を、過渡光電流測定装置を用いて、下記の条件で測定し、得られた測定値を表3に示す。
(測定条件)
装置:タイムオブフライト測定装置TOF-401(オプテル社製)
励起光源:窒素レーザ(337.1nm)
光パルス幅:1nsec以下
測定面積:0.04cm
試料温度:25℃
負荷抵抗:50Ω
電界強度:0.25MV/cm
【0074】
【表3】
【0075】
表3から、化合物(1-1)の正孔移動度は、比較化合物の4倍の正孔移動度が観測された。化合物(1-1)を含む有機薄膜を光電変換素子に用いることで、光電変換層で発生した正孔を効果的に取り出すことができ、応答性および変換効率の改善が可能である。
【実施例0076】
<光電変換素子の評価>
光電変換素子は、図1に示すように、ガラス基板1上に透明陽極2としてITO電極をあらかじめ形成したものの上に、p型バッファー層3、光電変換層4、陰極5の順に蒸着して作製した。
【0077】
具体的には、透明陽極2であるITOを成膜したガラス基板1をイソプロピルアルコール中にて超音波洗浄を20分間行った後、200℃に加熱したホットプレート上にて10分間乾燥を行った。その後、UVオゾン処理を15分間行った後、このITO付きガラス基板を真空蒸着機内に取り付け、0.0001Pa以下まで減圧した。続いて、透明陽極2を覆うように、p型バッファー層3として、前記化合物(1-1)を膜厚が10nmとなるように蒸着した。このp型バッファー層3の上に、光電変換層4として下記構造式のp型半導体(SubPC)と下記構造式のn型半導体(C60)とを、蒸着速度比がSubPC:C60=50:50となる蒸着速度で共蒸着し、膜厚が300nmとなるように形成した。この光電変換層4の上に、陰極5として金を膜厚100nmとなるように形成した。
作製した光電変換素子の測定結果を表4にまとめて示した。
【0078】
【化6】
【0079】
【化7】
【0080】
[比較例1]
比較として、実施例4において、p型バッファー層3の材料として化合物(1-1)の代わりに、前記比較化合物1を用いた以外は同様にして光電変換素子を作製し、電気特性を評価した。測定結果を表4にまとめて示した。
【0081】
実施例4および比較例1で作製した有機光電変換素子の外部量子効率(EQE)と暗電流について、分光感度測定装置を用いて、下記測定条件により測定した。測定時の特定波長における照射強度は、Siフォトダイオード(S1337-1010BQ、浜松フォトニクス社製)を用いて校正し、EQEを算出した。暗電流について、光電変換素子への分光放射強度をゼロにして、同様のバイアス条件で電流値を測定した。
表4の電流値は絶対値である。
<EQE・暗電流測定条件>
装置:分光感度測定装置 SM-250A(分光計器社製)
光源:キセノン150W
分光放射照度:50μW/cm(560nm)
有効照射面積:10×10mm
受光面積:0.04cm
面内不均一性:±5%以内
ソースメータ:ケースレー2635B(KEITHLEY社製)
印加バイアス:1~3V
【0082】
【表4】
【0083】
表4に示すように、3V印加時における暗電流は、比較例1の素子が6.7×10-8A/cmに対して、実施例4の素子は7.1×10-10A/cmとおよそ1/100ほど低い暗電流値を実現した。一般式(1)で表される構造を有する化合物の高い電子ブロッキング性と良好な正孔輸送性により、光電変換素子の暗電流特性を大幅に改善できることを示している。
【0084】
以上の結果から、本発明の一般式(1)で表される構造を含む有機薄膜を用いた光電変換素子は有機光電変換素子の暗電流抑制に必要なHOMO準位、高い耐熱性、十分な正孔移動度を有していることから、低い暗電流値の素子が作成可能である。この結果は、化合物の分子内に少なくとも2つのカルバゾール構造を維持することにより、優れた耐熱性と適切なHOMO準位を保てることと、新たにアリールアミン構造を導入することにより耐熱性と適切なHOMO準位を損なうことなく優れた正孔輸送性をさらに付与できることを示している。一般式(1)で表される構造を採用することにより、このような3つの特性をいずれも優れたレベルにできることは、従来技術からは予測できなかったことであり、驚くべき効果である。
また、一般式(1)のArおよびArが芳香族複素環基や縮合多環芳香族基である化合物、Lが芳香族炭化水素基や芳香族複素環基、縮合多環芳香族基である化合物、および一般式(1)のLが芳香族複素環基や縮合多環芳香族基である化合物も、少なくとも2つのカルバゾール構造を有する点で化合物(1-1)と共通していることから、化合物(1-1)と同様に優れた耐熱性と適切なHOMO準位を示すと考えられる。また、こうした化合物もAr、Ar、L、Lにおける芳香環が分子同士で重なって電荷移動に寄与するとともに、ArおよびArがC-N単結合まわりで自由回転しうるという構造の柔軟性により、化合物(1-1)と同様に優れた正孔輸送性を示すと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明により、HOMO準位が深く、正孔移動度の良好な有機薄膜は各種の光電変換素子に適用できるため、良い暗電流特性と変換効率を有する光電変換素子、特に撮像素子、およびこれを用いる光センサを提供できる。
【符号の説明】
【0086】
1 ガラス基板
2 透明陽極
3 p型バッファー層
4 光電変換層
5 陰極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7