(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023118084
(43)【公開日】2023-08-24
(54)【発明の名称】ex vivo腫瘍免疫微小環境モデル、ex vivo腫瘍免疫微小環境モデルにおいて腫瘍特異的な免疫細胞プロファイルを保存する方法およびナノフィブリルセルロースの使用
(51)【国際特許分類】
C12N 5/09 20100101AFI20230817BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20230817BHJP
【FI】
C12N5/09
C12Q1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】23
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023016038
(22)【出願日】2023-02-06
(31)【優先権主張番号】22156361
(32)【優先日】2022-02-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】514158855
【氏名又は名称】ユー ピー エム キュンメネ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マルクス・ヌオッポネン
(72)【発明者】
【氏名】ピーア・ミッコネン
(72)【発明者】
【氏名】ジョナサン・シェアード
(72)【発明者】
【氏名】ユハ・クレフストレーム
(72)【発明者】
【氏名】パウリーナ・ミュンネ
(72)【発明者】
【氏名】リタ・トゥルピン
(72)【発明者】
【氏名】アイノ・ペウラ
(72)【発明者】
【氏名】トピ・ターボネン
(72)【発明者】
【氏名】マリア・サルメラ
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B063QA20
4B063QQ08
4B065AA93X
4B065AA94X
4B065AC20
4B065BB19
4B065BC41
4B065CA46
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ex vivo腫瘍免疫微小環境モデルを提供する。また、ex vivo腫瘍免疫微小環境モデルにおいて腫瘍特異的な免疫細胞プロファイルを保存する方法を提供する。
【解決手段】0.25~1.2質量%の範囲内のナノフィブリルセルロースの濃度を有するナノフィブリルセルロースハイドロゲルを含むマトリックス中に包埋された腫瘍特異的な免疫細胞プロファイルを有する患者由来外植片を含むex vivo腫瘍免疫微小環境モデルであって、前記ナノフィブリルセルロースが、200nmまたはそれ未満の数平均直径を有する原線維および/または原線維束を含む、ex vivo腫瘍免疫微小環境モデルとする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.25~1.2質量%の範囲内のナノフィブリルセルロースの濃度を有するナノフィブリルセルロースハイドロゲルを含むマトリックス中に包埋された腫瘍特異的な免疫細胞プロファイルを有する患者由来外植片を含むex vivo腫瘍免疫微小環境モデルであって、前記ナノフィブリルセルロースが、200nmまたはそれ未満の数平均直径を有する原線維および/または原線維束を含む、ex vivo腫瘍免疫微小環境モデル。
【請求項2】
前記ナノフィブリルセルロースが、化学的に陰イオン的に修飾されたナノフィブリルセルロースを含む、請求項1に記載のex vivo腫瘍組織微小環境モデル。
【請求項3】
前記ナノフィブリルセルロースが、TEMPO酸化されたナノフィブリルセルロースを含む、請求項1または2のいずれか1項に記載のex vivo腫瘍組織微小環境モデル。
【請求項4】
前記ナノフィブリルセルロースが、水中に分散された場合に、22±1℃の水性媒体中で0.5質量%の粘稠性において回転式レオメーターにより決定される100~50000Pa・sの範囲内のゼロせん断粘度および1~50Paの範囲内の降伏応力を提供する、請求項1~3のいずれか1項に記載のex vivo腫瘍組織微小環境モデル。
【請求項5】
前記ナノフィブリルセルロースが、水性媒体中の0.1%(w/w)の粘稠性において比濁分析により測定される90NTUまたはそれ未満の濁度を有する化学的に陰イオン的に修飾されたナノフィブリルセルロースである、請求項1~4のいずれか1項に記載のex vivo腫瘍組織微小環境モデル。
【請求項6】
前記化学的に陰イオン的に修飾されたナノフィブリルセルロースが、アビジンをコンジュゲートされている、請求項1~5のいずれか1項に記載のex vivo腫瘍組織微小環境モデル。
【請求項7】
前記ナノフィブリルセルロースが、1つまたは複数の機能性分子で機能化されている、請求項1~6のいずれか1項に記載のex vivo腫瘍組織微小環境モデル。
【請求項8】
前記ナノフィブリルセルロースが、インターロイキンIL-2で機能化されている、請求項1~7のいずれか1項に記載のex vivo腫瘍組織微小環境モデル。
【請求項9】
前記ナノフィブリルセルロースハイドロゲル中の前記ナノフィブリルセルロースの前記濃度が0.3~1.1質量%の範囲内である、請求項1~8のいずれか1項に記載のex vivo腫瘍組織微小環境モデル。
【請求項10】
ex vivo腫瘍免疫微小環境モデルにおいて腫瘍特異的な免疫細胞プロファイルを保存する方法であって、
- 腫瘍特異的な免疫細胞プロファイルを有する患者由来外植片を提供すること、
- ナノフィブリルセルロースハイドロゲルを含むマトリックスを提供することであって、前記ナノフィブリルセルロースが、200nmまたはそれ未満の数平均直径を有する原線維および/または原線維束を含む、提供すること、
- 腫瘍特異的な免疫細胞プロファイルを有する前記患者由来外植片を、ナノフィブリルセルロースハイドロゲルを含む前記マトリックス中に包埋し、
それにより、前記ナノフィブリルセルロースハイドロゲルが、0.25~1.2質量%の範囲内の前記ナノフィブリルセルロースの濃度を有する、前記ex vivo腫瘍免疫微小環境モデルを得ること
を含む、方法。
【請求項11】
ナノフィブリルセルロースハイドロゲルを含む前記マトリックス中に包埋する前に、1つまたは複数の酵素を含む培地中で腫瘍特異的な免疫細胞プロファイルを有する前記患者由来外植片をインキュベートすることを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
ナノフィブリルセルロースハイドロゲルを含む前記マトリックス中で前記患者由来外植片を培養することを含む、請求項10または11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記ナノフィブリルセルロースが、化学的に陰イオン的に修飾されたナノフィブリルセルロースを含む、請求項10~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記ナノフィブリルセルロースが、TEMPO酸化されたナノフィブリルセルロースを含む、請求項10~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記ナノフィブリルセルロースが、水中に分散された場合に、22±1℃の水性媒体中で0.5質量%の粘稠性において回転式レオメーターにより決定される100~50000Pa・sの範囲内のゼロせん断粘度および1~50Paの範囲内の降伏応力を提供する、請求項10~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記ナノフィブリルセルロースが、水性媒体中の0.1%(w/w)の粘稠性において比濁分析により測定される90NTUまたはそれ未満の濁度を有する化学的に陰イオン的に修飾されたナノフィブリルセルロースである、請求項10~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記化学的に陰イオン的に修飾されたナノフィブリルセルロースが、アビジンをコンジュゲートされている、請求項10~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記ナノフィブリルセルロースが、1つまたは複数の機能性分子で機能化されている、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記ナノフィブリルセルロースが、インターロイキンIL-2で機能化されている、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記ナノフィブリルセルロースハイドロゲル中の前記ナノフィブリルセルロースの前記濃度が0.3~1.1質量%の範囲内である、請求項10~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
請求項1~9のいずれか1項に記載のex vivo腫瘍免疫微小環境モデルを調製するための、200nmまたはそれ未満の数平均直径を有する原線維および/または原線維束を含むナノフィブリルセルロースの使用。
【請求項22】
患者から得られた腫瘍組織に対する関心対象の物質の効果を研究するex vivo方法であって、
- 請求項1~9のいずれか1項に記載のex vivo腫瘍組織微小環境モデルを提供すること、
- 前記モデルに1つまたは複数の関心対象の物質を提供すること、
- 前記1つまたは複数の関心対象の物質に対する前記モデルの反応を検出すること
を含む、ex vivo方法。
【請求項23】
前記モデルの前記反応が、腫瘍細胞および/または免疫細胞の生存能における変化、活性化における変化、生存能の維持、ならびに/または生存能における変化および/もしくは活性化における変化の徴候である、患者から得られた腫瘍組織に対する関心対象の物質の効果を研究する請求項22に記載のex vivo方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
出願の分野
本出願は、ex vivo腫瘍免疫微小環境モデルおよびそのようなモデルを提供する方法に関する。
【0002】
背景
患者由来の腫瘍組織のための生物模倣的ex vivo培養システムは、還元主義およびアーチファクトが生じやすいがん細胞株およびモデルに対する魅力的な代替物を提供することによりがん研究のための大きな有望性を保持している。ex vivo培養システムは患者特異的な分子情報の供給源を提供し、該分子情報は、得られる分子情報に関して異なる処置オプションを試験するために使用され得る。
【0003】
現在の3Dがんモデルは、腫瘍細胞と共に腫瘍微小環境として公知の実体を形成する重要な細胞種、例えば免疫細胞または線維芽細胞を欠いている。腫瘍とその微小環境との間の複雑な相互作用は、処置応答の調節において基礎的な役割を果たす。したがって、そのようなモデルにおいて生物学的文脈を維持すること、ならびに腫瘍細胞だけでなくその微小環境の生存能および維持の他に、これらの2つの間の相互作用を促すような条件を提供することが重要である。これは、特にヒト細胞について、非常に難しいことが見出されている。
【0004】
免疫細胞の構成を欠いている還元主義3Dモデルに起因して、ex vivo免疫療法有効性研究は不可能であった。免疫療法剤に対する応答の可能性に関する腫瘍免疫微小環境(tumour immune microenvironment;TIME)の別個のクラスおよびサブクラスを定義する統一的な特徴および不可欠な差異を同定する必要性が高まっている。腫瘍免疫微小環境を保存することができ、ならびにがん患者が処置に対してどのように応答するのかおよび免疫系が処置応答を助けるのか、それとも邪魔するのかを決定することを可能にすることができる方法、モデルおよびスキャフォールドに対する必要性もまた存在する。これは、がん創薬および免疫療法の開発者のために途方もない価値を有する。
【0005】
概要
腫瘍免疫微小環境(TIME)を保存し、および先行技術の問題を克服し得るex vivo組織モデルシステムをどのように提供するのかが見出された。
【0006】
本開示は、0.25~1.2質量%の範囲内のナノフィブリルセルロースの濃度を有するナノフィブリルセルロースハイドロゲルを含むマトリックス中に包埋された腫瘍特異的な免疫細胞プロファイルを有する患者由来外植片を含むex vivo腫瘍免疫微小環境モデルであって、ナノフィブリルセルロースが、200nmまたはそれ未満、例えば100nmまたはそれ未満の数平均直径を有する原線維および/または原線維束を含む、ex vivo腫瘍免疫微小環境モデルを提供する。
【0007】
本開示はまた、ex vivo腫瘍免疫微小環境モデルにおいて腫瘍特異的な免疫細胞プロファイルを保存する方法であって、
- 腫瘍特異的な免疫細胞プロファイルを有する患者由来外植片を提供すること、
- ナノフィブリルセルロースハイドロゲルを含むマトリックスを提供することであって、ナノフィブリルセルロースが、200nmまたはそれ未満、例えば100nmまたはそれ未満の数平均直径を有する原線維および/または原線維束を含む、提供すること、
- 腫瘍特異的な免疫細胞プロファイルを有する患者由来外植片を、ナノフィブリルセルロースハイドロゲルを含むマトリックス中に包埋し、
それにより、ナノフィブリルセルロースハイドロゲルが、0.25~1.2質量%の範囲内のナノフィブリルセルロースの濃度を有する、ex vivo腫瘍免疫微小環境モデルを得ること
を含む、方法を提供する。
【0008】
本開示はまた、ナノフィブリルセルロースハイドロゲルを含むマトリックス中に包埋された腫瘍特異的な免疫細胞プロファイルを有する患者由来外植片を含むex vivo腫瘍免疫微小環境モデルを調製するための、200nmまたはそれ未満、例えば100nmまたはそれ未満の数平均直径を有する原線維および/または原線維束を含むナノフィブリルセルロースの使用を提供する。
【0009】
主な実施形態は独立請求項において特徴付けられる。様々な実施形態は従属請求項において開示される。本明細書に開示される実施形態および実施例は、他に明示的に記載されなければ、相互に自由に組合せ可能である。
【0010】
本開示のモデルは、ex vivo条件において変化しやすい腫瘍の元々の特性、例えば組織学的特徴、表現型、遺伝子発現プロファイル、および免疫細胞組成を維持することができた。
【0011】
本開示は、第1に末梢血単核細胞(PBMC)、および次に患者由来外植片培養物(PDEC)プラットフォームを用いる免疫腫瘍学の目的のためのナノセルロースベースのマトリックスの好適性を実証する。研究されたマトリックスの各々は、懸濁液での従来の増殖において通常は必要とされるIL-2の追加の補充なしに免疫細胞の生存をサポートし得る。しかしながら、試験されたマトリックスはまた、免疫細胞の生存および特には腫瘍浸潤性リンパ球の維持をサポートするためにビオチン化組換えIL-2での機能化を可能にする。マトリックスを機能化する能力はまた、腫瘍微小環境中で他の細胞種を分化させることを可能にし得る。
【0012】
PDECは、多くの競合する3D培養システムと比較して独特のex vivoがんモデルであり、その理由は、PDECは、それらが元々由来した腫瘍の元々の免疫的構成を保存するからである。これは、PDEC中に存在する免疫細胞の量および質は免疫細胞の元々の状態をよく反映することを意味する。腫瘍浸潤性リンパ球(TIL)は免疫チェックポイント阻害剤、例えば抗PD-1および抗PD-L1の主な標的であるので、腫瘍免疫微小環境(TIME)を保存するPDECは、免疫腫瘍学(IO)診断法および免疫療法の開発者、すなわち世界の実際的にすべての主要な医薬品企業のために、途方もない価値を有する。免疫療法の有効性にもかかわらず、免疫細胞の欠如に起因してすべての腫瘍が処置に適するわけではない。がん免疫逃避は、がん細胞が未知の理由のために免疫細胞サーベイランスから隠れることができることを意味する。免疫逃避を克服することは依然として、有効な抗がん治療用モダリティーの設計における大きな課題となっている。本研究は、免疫腫瘍学研究のためのセルロースマトリックスの好適性を実証する。
【0013】
組換えタンパク質は高価であり、再構成後に不安定であり、これは免疫細胞in vitro培養を非常にコストのかかるものとする。NFCを使用してIL-2補充の使用を代用することは、免疫学的研究におけるNFCの新規の市場機会を提供することができる。IL-2を小さい体積のマトリックスにリンクさせることは、従来の培養方法で為されるように該タンパク質を大きい体積の培地に加えるよりもはるかにコスト効率が高い。
すべての試験されたナノセルロースマトリックスは、免疫細胞の生存能および活性化を培養において少なくとも1週間維持することができた。試料生存能は、未培養の対照試料および先行技術の動物ベースECMマトリックス材料と同等であった。
【0014】
異なるマトリックスの間で免疫細胞活性における差異が見られたが、これは、腫瘍関連および浸潤性免疫細胞への洞察の獲得において利用され得る。マトリックス剛性は、腫瘍内在性免疫細胞の活性において重要性を有することが示された。
患者自身の免疫系は腫瘍細胞を認識および排除できることが最近認められた。したがって、免疫ベースのがん処置が開発され得るが、課題は、関与する機序を研究するため、例えば浸潤し、腫瘍細胞を認識および排除する免疫細胞の能力をモデル化するための生理学的に関連する3D培養モデルを得ることであった。
【0015】
特に、感受性であり、生存および増殖のためにある特定の圧力を要求するヒト細胞は、使用されたマトリックスによりサポートされ得る。理論に縛られないが、多くの数の露出されたヒドロキシル基およびマトリックス中に特有の化学的な環境を提供する高度にフィブリル化したセルロースナノフィブリルおよび/または原線維束の高いアスペクト比は、そのような条件を作り出すことができ、それが、腫瘍組織および感受性免疫細胞を含む、同時に異なる生物学的物質の維持を促したと考えられる。
【0016】
本開示のナノフィブリルセルロースマトリックスは、先行技術の材料と比較して通常はより低い、ある特定の濃度範囲において所望される特性を提供することができ、ナノフィブリルセルロースマトリックスはまた、モデリング応用において、例えば物質、例えば薬物候補分子がシステムに提供される場合に、得られたex vivoモデルシステムの効率的な使用のために要求される、前記濃度における良好な透過性を呈することができることを本発見は示唆する。特に本開示のマトリックスは、封入された免疫細胞を維持しおよび活性化させるため、ならびに直ちに免疫細胞への物質の流れを可能とするために好適な条件を提供し、迅速なおよび信頼できる応答を得ること、ならびに応答を検出することをさらに可能にする。
【0017】
これらの条件に寄与するナノフィブリルセルロースの特徴は、濃度、化学修飾の種類および程度、原線維の寸法、アスペクト比、セルロースの供給源、ナノフィブリルセルロースの生産の間のセルロースの機能化およびさらなる処理を含むことが見出された。すべてのフィブリルセルロースが類似した条件を提供できるわけではなかった。
【0018】
高度に原線維状のナノフィブリルセルロース、特にアニオンタイプは、多くの点において有利であることが見出された。機械的、化学的および機能的特性に加えて、短い原線維直径を有するナノフィブリルセルロースは透明性を提供し、これはモデルに対する視覚的または光学的検査を要求する検査手順を実行する場合に有利である。
【0019】
ナノフィブリルセルロースがマトリックス材料として使用された場合、それは、先行技術の材料と比較してまたは機能性分子が液体培地中に加えられるオプションと比較して、類似した効果を得るためにより少ない量の機能性分子で機能化されることができた。要求される機能性分子の差異は10~100倍またはより高いものであることができたため、本開示のシステムおよび材料ならびに本開示のコンジュゲーションおよび機能化を用いて、効率的な機能性を得るために有意により少ない量の高価な生物活性(機能性)物質を使用することが可能であった。本開示のex vivoモデルにおいて、機能性物質を培地中に大きい体積および/もしくは量でならびに/または連続的に補充することも必要でなく、これは、モデルシステムを相対的に小型および単純なものに保つことを助ける。機能性物質、例えばサイトカインおよび増殖因子などを培養培地中に提供することを全く必要としない可能性もある。特に、一般的に使用されるインターロイキン2補充は必要でないことが見出された。
【0020】
本開示のナノフィブリルセルロースマトリックス材料は好ましくは植物起源に由来するため、動物由来材料に基づく先行技術の材料と比較して均一な品質およびより低い価格で実質的により多い。本開示の材料を用いて、大きいマトリックス体積を有する非常に大きいシステムがコスト効率的に実施され得る。外植片培養物の増殖および/もしくは維持またはモデルの使用に有害に影響し得る生物学的に活性な化合物は存在しない。従来の浮遊培養と比較して、本開示のモデルは、安定な、安価なおよび制御可能なオプションを提供する。
【0021】
本開示のex vivoモデルは、ネイティブな組織の免疫腫瘍学的特性を模倣するために使用され得る。モデルは、ハイスループットにおいて3D培養と共に研究することを促すことができる。モデルは、広範囲の応用、例えば疾患モデリング、薬物スクリーニングならびに複雑な組織構築物の開発および設計において使用されてもよい。それは、腫瘍免疫微小環境中の免疫抑制の基礎となる分子機序のより大きな理解、およびより一般的な、すべてに対して同じ(one-size-fits-all)のプラットフォームから、個々の問題に合わせて特殊化されたモデルへの進化を提供し得る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】0.3% NFC中での7日目におけるPDECの免疫蛍光染色を示す図である。緑色染色は増殖(KI67)または細胞死(CC3)を示す。赤色染色は細胞骨格を指し示し、青色染色は細胞核を示す。スケールバー10μm。FoV:視野(field of view)。
【
図2】1.0% NFC中での7日目におけるPDECの免疫蛍光染色を示す図である。緑色染色は増殖(KI67)または細胞死(CC3)を示す。赤色染色は細胞骨格を指し示し、青色染色は細胞核を示す。スケールバー10μm。FoV:視野。
【
図3】0.3% ANFC中での7日目におけるPDECの免疫蛍光染色を示す図である。緑色染色は増殖(Ki67)または細胞死(CC3)を示す。赤色染色は細胞骨格を指し示し、青色染色は細胞核を示す。スケールバー10μm。FoV:視野。
【
図4】0.7% ANFC中での7日目におけるPDECの免疫蛍光染色を示す図である。緑色染色は増殖(Ki67)または細胞死(CC3)を示す。赤色染色は細胞骨格を指し示し、青色は細胞核を示す。スケールバー10μm。FoV:視野。
【
図5】0.3% ANFC-A/IL2中での7日目におけるPDECの免疫蛍光染色を示す図である。緑色染色は増殖(KI67)または細胞死(CC3)を示す。赤色染色は細胞骨格を指し示し、青色染色は細胞核を示す。スケールバー10μm。FoV:視野。
【
図6】0.7% ANFC-A/IL2中での7日目におけるPDECの免疫蛍光染色を示す図である。緑色染色は増殖(KI67)または細胞死(CC3)を示す。赤色染色は細胞骨格を指し示し、青色染色は細胞核を示す。スケールバー10μm。FoV:視野。
【
図7】Matrigel[10mg/ml]中での7日目におけるPDECの免疫蛍光染色を示す図である。緑色染色は増殖(KI67)または細胞死(CC3)を示す。赤色染色は細胞骨格を指し示し、青色染色は細胞核を示す。スケールバー10μm。FoV:視野。
【
図8】3D培養の前の、0日目におけるPDECの免疫蛍光染色を示す図である。緑色染色は、異なる濃度のNFCマトリックス中での増殖(KI67)を示す。赤色染色は細胞骨格を指し示し、青色染色は細胞核を示す。スケールバー10μm。FoV:視野。
【
図9】7日目におけるPDECの免疫蛍光染色を示す図である。緑色染色はマクロファージ(CD11b)を示し、黄色染色はリンパ球を指し示す。赤色染色は細胞骨格を指し示し、青色染色は細胞核を示す。スケールバー10μm。
【
図10A】細胞の総数のフローサイトメトリー定量化 - MatrigelおよびNFC中で5日間増殖させたPBMCからの結果を示す図である。ボールのサイズおよび色はマイクロリットル中の細胞数を指し示す。図は、T細胞、単球、リンパ球、B細胞/前駆細胞、およびすべての生細胞を示す。
【
図10B】MatrigelおよびNFC中で5日間増殖させたPBMCからのフローサイトメトリーの結果を示す図である。ボールのサイズおよび色はマイクロリットル中の細胞数を指し示す。図は、活性マーカーCD16を伴うおよび伴わないNKおよびNKT細胞を示す。
【
図10C】MatrigelおよびNFC中で5日間増殖させたPBMCからのフローサイトメトリーの結果を示す図である。ボールのサイズおよび色はマイクロリットル中の細胞数を指し示す。マーカーは以下を示す:より多くのCD80がマクロファージおよび樹状細胞(DC)上に発現されている。より多くのCD86が単球およびDC上に発現されている。CD14は単球およびマクロファージマーカーである。
【
図11A】5日の培養後のNFC中で増殖させたPBMCからのフローサイトメトリーの結果を示す図である。データは、
図10におけるものと同じであるが、細胞種の各々は生細胞数と比較されている。各々のグラフは、
図10におけるものと同じマーカーを示す。ボール内の数は、各々のマトリックス中の全生免疫細胞のうちの各々の免疫細胞種の%を示す。異なる色は異なる免疫細胞マーカーを表す。
【
図11B】5日の培養後のNFC中で増殖させたPBMCからのフローサイトメトリーの結果を示す図である。データは、
図10におけるものと同じであるが、細胞種の各々は生細胞数と比較されている。各々のグラフは、
図10におけるものと同じマーカーを示す。ボール内の数は、各々のマトリックス中の全生免疫細胞のうちの各々の免疫細胞種の%を示す。異なる色は異なる免疫細胞マーカーを表す。
【
図11C】5日の培養後のNFC中で増殖させたPBMCからのフローサイトメトリーの結果を示す図である。データは、
図10におけるものと同じであるが、細胞種の各々は生細胞数と比較されている。各々のグラフは、
図10におけるものと同じマーカーを示す。ボール内の数は、各々のマトリックス中の全生免疫細胞のうちの各々の免疫細胞種の%を示す。異なる色は異なる免疫細胞マーカーを表す。
【
図11D】5日の培養後のNFC中で増殖させたPBMCからのフローサイトメトリーの結果を示す図である。データは、
図10におけるものと同じであるが、細胞種の各々は生細胞数と比較されている。各々のグラフは、
図10におけるものと同じマーカーを示す。ボール内の数は、各々のマトリックス中の全生免疫細胞のうちの各々の免疫細胞種の%を示す。異なる色は異なる免疫細胞マーカーを表す。
【
図11E】5日の培養後のNFC中で増殖させたPBMCからのフローサイトメトリーの結果を示す図である。データは、
図10におけるものと同じであるが、細胞種の各々は生細胞数と比較されている。各々のグラフは、
図10におけるものと同じマーカーを示す。ボール内の数は、各々のマトリックス中の全生免疫細胞のうちの各々の免疫細胞種の%を示す。異なる色は異なる免疫細胞マーカーを表す。
【
図11F】5日の培養後のNFC中で増殖させたPBMCからのフローサイトメトリーの結果を示す図である。データは、
図10におけるものと同じであるが、細胞種の各々は生細胞数と比較されている。各々のグラフは、
図10におけるものと同じマーカーを示す。ボール内の数は、各々のマトリックス中の全生免疫細胞のうちの各々の免疫細胞種の%を示す。異なる色は異なる免疫細胞マーカーを表す。
【
図11G】5日の培養後のNFC中で増殖させたPBMCからのフローサイトメトリーの結果を示す図である。データは、
図10におけるものと同じであるが、細胞種の各々は生細胞数と比較されている。各々のグラフは、
図10におけるものと同じマーカーを示す。ボール内の数は、各々のマトリックス中の全生免疫細胞のうちの各々の免疫細胞種の%を示す。異なる色は異なる免疫細胞マーカーを表す。
【
図11H】5日の培養後のNFC中で増殖させたPBMCからのフローサイトメトリーの結果を示す図である。データは、
図10におけるものと同じであるが、細胞種の各々は生細胞数と比較されている。各々のグラフは、
図10におけるものと同じマーカーを示す。ボール内の数は、各々のマトリックス中の全生免疫細胞のうちの各々の免疫細胞種の%を示す。異なる色は異なる免疫細胞マーカーを表す。
【
図12】Matrigelおよび0.3% NFC中で7日間増殖させたTIME-PDECSからのフローサイトメトリーの結果を示す図である。結果は細胞/μlとして示されている。より濃い赤色およびより大きいボールサイズは、そのカテゴリーにおけるより多くの免疫細胞を指し示す。
【
図13】
図12におけるFACS分析において使用された腫瘍試料の免疫組織学画像を示す図である。試料は、試料間の免疫細胞の構成における差異を示す。試料はH&Eで染色されている。
【
図14】MatrigelおよびNFC中で3日間増殖させたPDECからのサイトカインアッセイの結果を示す図である。培地を収集し、ELISAベースのアッセイで分析した。測定されたサイトカインレベル(pg/ml)。
【
図15】MatrigelおよびNFC中で3および6日間増殖させたPDECからのサイトカインアッセイの結果を示す図である。3日目からの結果は点線で示しており、6日目からの結果はフルカラーで示している。測定されたサイトカインレベル(pg/ml)。
【
図16】A:NFC-PDECの培地、B:NFC無細胞試料の培地およびC:NFC-PBMCの培地からELISAベースのアッセイで測定されたIL-2サイトカインレベル(pg/ml)を示す図である。
【
図17】MatrigelおよびNFC中で5日間増殖させたPBMCからのサイトカインアッセイの結果を示す図である。培地を2日目および5日目に収集し、ELISAベースのアッセイで分析した。A:IFN-γ、B:IL-10およびC:IL-4サイトカインレベル(pg/ml)。
【
図18】MatrigelおよびNFC中で5日間増殖させたPBMCからのサイトカインアッセイの結果を示す図である。培地を3日目および5日目に収集し、ELISAベースのアッセイで分析した。A:TNF-α、B:IL-1β、C:IL-6およびD:LAP(TGF-β1)。サイトカインレベル(pg/ml)。
【
図19】PBMC(A)およびPDEC(B)における炎症応答に対するビオチン補充からの効果を示す図である。Matrigelおよび0.3% NFC中で7日間増殖させたPDECからのサイトカインアッセイの結果。培地を7日目に収集し、ELISAベースのアッセイで分析した。A:IFN-γおよびB:IL-10サイトカインレベル(pg/ml)。
【
図20】5つのPDEC試料からのPCAを示す図である。A)RNA品質にしたがってクラスター化された試料。B)患者による試料クラスタリング。C)培養条件による試料クラスタリング。群1:未培養、群2:Matrigel、群3:NFC 0.3%、群4:NFC 1.0%、群5:ANFC 0.3%、群6:ANFC 0.7%、群7:ANFC-A 0.3%、群8:ANFC-A 0.7%、群9:ANFC-A 0.3%+IL2、群10:ANFC-A 0.7%+IL2。
【
図21】未培養の患者試料(2人の患者を一緒にプールした)からのscRNASEQデータを示す図である。免疫細胞サブタイプが、異なる色を用いてプロットで示されている(左)。異なる免疫細胞種のための典型的なマーカー遺伝子の発現がピンクで示されている(右)。
【
図22】未培養の患者試料からのscRNASEQデータを示す図である。異なる色は異なる免疫細胞サブタイプを指し示す。
【
図23】未培養のおよびNFC培養された患者試料からのscRNASEQデータを示す図である。異なる色は異なる免疫細胞サブタイプを指し示す。データはプールされていない。
【
図24】3d培養された試料と未培養の試料との間のscRNASeqデータの比較を示す図である。2つの患者試料が一緒にプールされている。
【
図25A】未培養のおよび3D培養された試料中の免疫細胞種の割合を示す図である。2つの患者試料が一緒にプールされている。25A:NFC、25B:未培養。
【
図25B】未培養のおよび3D培養された試料中の免疫細胞種の割合を示す図である。2つの患者試料が一緒にプールされている。25A:NFC、25B:未培養。
【
図26】リンパ球亜群を同定するためのゲーティング戦略を示す図である。リンパ球集団は、SSC-A対FSC-Aドットブロットにおいてサイズに基づいて認識される。T細胞はCD3陽性細胞として、B細胞はCD19陽性細胞として、ならびにNK細胞はCD3陰性およびCD56陽性細胞として同定された。T細胞亜群は、CD4陽性(ヘルパーT)、CD8陽性(細胞傷害性T)およびCD56陽性(NKT細胞)として同定された。NFC 0.3%マトリックスの例が示されている。
【
図27】活性化T細胞およびNKT細胞(CD69 high)を同定するためのゲーティング戦略を示す図である。NFC 0.3%マトリックスおよびIL-2コンジュゲートANFC-A 0.3%マトリックスからの例が示されている。
【
図28】骨髄細胞を同定するためのゲーティング戦略を示す図である。骨髄細胞は、SSC-A対FSC-Aドットブロットにおいてサイズに基づいてゲーティングされ、高いCD80およびCD86を発現する。骨髄細胞集団から、単球はCD14 highとして、マクロファージおよび樹状細胞はCD14 lowとして認識される。M1クラスマクロファージは高いCD16を発現する。NFC 0.3%マトリックスの例が示されている。
【
図29】活性化NK細胞(CD16 low)を同定するためのゲーティング戦略を示す図である。NFC 0.3%マトリックスおよびIL-2コンジュゲートANFC-A 0.3%マトリックスからの例が示されている。
【
図30】TIME-PDEC中のリンパ球および単球集団を同定するためのゲーティング戦略を示す図である。NFC 0.3%マトリックスからの例が示されている。
【0023】
詳細な説明
本明細書において、パーセンテージ値は、特に他に指し示されなければ、質量(w/w、質量による(by weight)、またはwt%)に基づく。任意の数値範囲が提供される場合、範囲は上限値および下限値も含む。「含む」という開いた用語はまた、1つのオプションとして「からなる」という閉じた用語を含む。本明細書に開示される直径は、特に他に指し示されなければ、最小の直径を指し、平均または数平均直径として示されることがあり、顕微鏡により決定され得る。
【0024】
本明細書に記載される材料および製造物は、医学的および/または科学的な材料および製造物、例えば生命科学の材料および製造物であってもよく、生細胞および/または生物活性材料もしくは物質を伴う方法および応用、例えば本明細書に記載されているもの、例えば検査方法、がん研究、薬物研究および/または創薬、バイオマーカー研究、シグナル伝達研究、ならびに診断方法などの方法および/または研究において使用され得る。
【0025】
本開示は、腫瘍特異的な免疫細胞プロファイルを有する患者由来外植片を含むex vivo腫瘍免疫微小環境モデルを提供する。本開示はまた、ex vivo腫瘍免疫微小環境モデルにおいて腫瘍特異的な免疫細胞プロファイルを保存する方法を提供する。ex vivo腫瘍免疫微小環境モデルは、該方法を用いて得られてもよい。
【0026】
一般に、微小環境は、他の細胞および組織を取り囲んでそれをサポートする細胞、分子および構造を指す。「腫瘍微小環境」(TME)は、増殖性腫瘍細胞/間質、血管、浸潤性免疫細胞、および様々な他の組織関連細胞の複雑なおよび動的なアンサンブルを指す。腫瘍微小環境において、細胞は同じまたは異なる起源の他の細胞と相互作用するだけでなく、細胞外マトリックス中にも根付いている。
【0027】
「腫瘍免疫微小環境」(TIME)という用語は、患者の腫瘍内に存在する、すなわち腫瘍と関連付けられるかまたはそれに内在する、免疫構成要素を指す。免疫微小環境は、先天免疫細胞、適応免疫細胞、細胞外免疫因子、および細胞表面分子を含む。TIMEおよびその構成要素は、新生物進行の間におよび異なる患者の間で広く変動し得る。1つの定義によれば、腫瘍免疫微小環境は、腫瘍の開始、発生および療法に対する応答に対して独特の影響を有する、免疫系の異なる亜集団および腫瘍微小環境ニッチ内でのそれらの相互作用を指す。
【0028】
一般に、科学において、ex vivoは、天然の条件の最小の変更と共に外部環境において生物からの組織中または上に実行される実験または測定を指す。ex vivo条件は、in vivo実験において可能であるよりも制御された条件下での生物の細胞または組織に対する実験を可能とする。ex vivoはin vitroと同等でなくてもよい。1つの定義によれば、ex vivoという用語は、試験されるべき試料が生物から抽出されている状況、例えば患者由来外植片の場合を指す。in vitroの方法は、通常は、通常の生物学的な環境から単離、分離および精製された、すなわち人工的に作り出された、特有の系列の細胞を使用する。
【0029】
外植片培養は、動物から除去された組織または臓器の1つまたは複数の小片からの細胞を器官型培養するための技術である。外植片という用語は、生物の任意の部分から得られた試料に応用され得る。本開示の文脈において、該用語は、供給源、例えば患者から得られた初代および/もしくは腫瘍細胞を含む組織、ならびに/または前記組織に由来する細胞を指すために使用され、本開示のモデルは外植片培養を表すことができる。
【0030】
「患者由来外植片」(PDE)という用語は、患者から新たに得られた、例えば外科的に切除された、組織、例えば腫瘍組織の小片または断片を指す。外植片は、本開示の方法において凍結なしで直ちに使用されてもよいが、外植片は、本開示のマトリックスに包埋された場合に、凍結を許容し、再生され得ることもまた見出された。PDEは、一般に、元々の腫瘍の組織学的特徴を保持する切除されたヒト腫瘍の断片のex vivo培養を伴う。
【0031】
患者はヒト患者であってもよい。患者は、医学的状態、例えば疾患もしくは障害、例えばがんもしくは他の腫瘍を有してもよく、または患者は、そのような医学的状態を有することが疑われる者であってもよい。
【0032】
本開示は、ex vivo腫瘍免疫微小環境モデルにおいて腫瘍特異的な免疫細胞プロファイルを保存する方法であって、腫瘍特異的な免疫細胞プロファイルを有する患者由来外植片を提供することを含む、方法を提供する。
【0033】
保存することは、ex vivo腫瘍免疫微小環境モデルにおいて免疫細胞プロファイルの組成、活性、生存能、文脈および/または他の特性を維持することを指す。腫瘍特異的な免疫細胞プロファイルは、モデルを利用するために要求される期間、例えば少なくとも24時間、少なくとも2日、少なくとも3日または少なくとも7日にわたり保存されることが所望される。保存することはまた、腫瘍組織または腫瘍細胞の対応する特徴を維持することを指すことができる。
【0034】
維持することは、細胞および/もしくは組織表現型および/もしくは細胞および/もしくは組織同一性を維持すること、ならびに/または細胞および/もしくは組織の1つもしくは複数の特徴および/もしくは要素、例えば1つもしくは複数の受容体、および1つもしくは複数の遺伝子発現もしくはその生成物などの存在および/もしくは活性を維持することを含むことができる。維持することは、維持されるべき元々の活性もしくは他の特性のレベルの100%もしくは実質的に100%を維持もしくは保存すること、または元々の少なくとも95%、90%、80%、70%、60%もしくは50%を維持もしくは保存することを含むことができる。パーセンテージは、組織から直接的に得られた提供された試料に対して比較すること、および活性または他の特性、例えば細胞の物質または要素の数、レベルまたは量を検出する好適な方法を実行することにより定義されてもよい。
【0035】
本開示のモデルおよび該モデルを使用する方法は、腫瘍組織の文脈において本明細書において説明される。しかしながら、モデルおよび方法は、応用可能な場合に、類似の仕方で他の組織および免疫細胞に応用され得る。患者由来免疫細胞、または免疫プロファイルを含むモデルは、腫瘍または他の組織なしであっても取得および維持され得る。
【0036】
開示されるのはまた、0.25~1.2質量%の範囲内の濃度を有するナノフィブリルセルロースハイドロゲルを含むマトリックス中に包埋された患者由来免疫細胞プロファイルを含む、例えば末梢血単核細胞(PBMC)を含む、ex vivo免疫微小環境モデル、ならびにex vivo免疫微小環境モデルにおいて免疫細胞プロファイルを保存する方法であって、患者由来免疫細胞プロファイルを提供すること、ナノフィブリルセルロースハイドロゲルを含むマトリックスを提供すること、およびナノフィブリルセルロースハイドロゲルを含むマトリックス中に患者由来免疫細胞プロファイルを包埋することを含む、方法である。開示されるのはまた、そのようなモデルを調製するためのナノフィブリルセルロースの使用である。ex vivo腫瘍免疫微小環境モデルの本開示の記載は、免疫微小環境モデルに応用され得る。
【0037】
1つの例は、0.25~1.2質量%の範囲内のナノフィブリルセルロースの濃度を有するナノフィブリルセルロースハイドロゲルを含むマトリックス中に包埋された末梢血単核細胞の患者由来免疫細胞プロファイルを含むex vivo免疫微小環境モデルを調製するための、200nmまたはそれ未満、例えば100nmまたはそれ未満の数平均直径を有する原線維および/または原線維束を含むナノフィブリルセルロースの使用を開示する。
【0038】
本明細書における「組織」という用語は、試料の採取および/または処理の間に分離されていてもよい、固体組織および任意選択的に任意の別々の対応する組織細胞を包含すると考えられ得る。組織試料は、元々の組織中にあったのと実質的に同様に、同じ起源からのそれらの間質構成要素および/または細胞外マトリックスと共に一緒に結合したものであり得る、2つまたはより多くの、例えば複数の、細胞のアンサンブルを含むか、または該アンサンブルである。
【0039】
試料は、一次組織であってもよい組織から得られ、および/または組織細胞は初代細胞を含んでもよく、および/または組織は腫瘍組織であってもよく、および/または組織細胞は腫瘍細胞を含んでもよい。腫瘍はがんであってもよく、そのため組織はがん組織またはがん性組織であってもよい。腫瘍はまた良性腫瘍であってもよい。がんは、本明細書において使用される場合、任意の異常な細胞増殖、特に身体中の他の部分に浸潤または拡大する潜在能力を有するものを指すことができる。がん種の例は、癌腫、肉腫、白血病、リンパ腫、骨髄腫、黒色腫、脳および脊髄腫瘍、生殖細胞腫瘍、神経内分泌腫瘍、カルチノイド腫瘍、ならびに芽細胞腫を含む。特有のがんの例は、例えば乳がん、前立腺がんおよび卵巣がんを含む。
【0040】
組織はまた非がん性または非腫瘍性組織であってもよい。そのような場合において、組織は、それ以外に興味深い、および特にex vivo条件において維持することが困難な特性、例えば細胞表現型または他の特徴を呈してもよい。
方法は、
- 腫瘍特異的な免疫細胞プロファイルを有する患者由来外植片を提供すること、
- ナノフィブリルセルロースハイドロゲルを含むマトリックスを提供することであって、ナノフィブリルセルロースが、200nmまたはそれ未満、例えば100nmまたはそれ未満の数平均直径を有する原線維および/または原線維束を含む、提供すること、
- 腫瘍特異的な免疫細胞プロファイルを有する患者由来外植片を、ナノフィブリルセルロースハイドロゲルを含むマトリックス中に包埋し、
それにより、ナノフィブリルセルロースハイドロゲルが、0.25~1.2質量%の範囲内のナノフィブリルセルロースの濃度を有する、ex vivo腫瘍免疫微小環境モデルを得ること
を含む。
【0041】
0.25~1.2質量%の範囲内のナノフィブリルセルロースの濃度を有するナノフィブリルセルロースハイドロゲルを含むマトリックス中に包埋された腫瘍特異的な免疫細胞プロファイルを有する患者由来外植片を含むex vivo腫瘍免疫微小環境モデルであって、ナノフィブリルセルロースが、200nmまたはそれ未満、例えば100nmまたはそれ未満の数平均直径を有する原線維および/または原線維束を含む、ex vivo腫瘍免疫微小環境モデルが得られる。
【0042】
PDEは、新鮮な腫瘍組織試料の断片化またはスライス化により生成され得る。組織試料は、処理および/または加工されてもよく、例えば化学的におよび/または酵素的に処理されてもよく、例えば1つまたは複数の酵素、例えばコラゲナーゼを用いて消化されてもよい。化学的および/または酵素処理は、組織中の細胞の間の結合を少なくとも部分的に消化するために実行されてもよい。組織が化学的におよび/または酵素的に処理される場合、組織の細胞は、互いから、例えば組織の表面において、少なくとも部分的に分離されてもよく、これはハイドロゲルマトリックス中への組織の包埋を促すことがあり、ならびに例えば生存、活性、増殖、物質の移動、および/またはハイドロゲルとの組織の一体化を促すことがある。化学的におよび/または酵素的に処理された組織試料は、マトリックスへの組込みのために好適な組織試料を得るために、例えば遠心分離機または濾過を使用することにより、収集および/または濃縮されてもよい。組織試料はまた、処理されなくてもよい。
【0043】
1つの実施形態は、1つまたは複数の酵素、例えばコラゲナーゼを含む培地中に腫瘍特異的な免疫細胞プロファイルを有する患者由来外植片を提供すること、および1つまたは複数の酵素を含む培地中で外植片をインキュベートして、好ましくは外植片中の細胞の間の結合を酵素的に消化した後に、ナノフィブリルセルロースハイドロゲルを含むマトリックス中に包埋することを含む。
【0044】
組織は、断片として維持されてもよく、または均一な切片の、例えば200~300μmの厚さを有する切片の、組織スライスの生成のために加工されてもよく、該組織スライスは次に培養される。アプローチは、薬物拡散を促し得るだけでなく、設定時間の増加に起因して一部の組織完全性の喪失を結果としてもたらし得る。
【0045】
しかしながら、試料の加工において、免疫細胞および任意選択的に他の生物活性物質を含む対応する微小環境を維持することが重要である。特に線維芽細胞は、腫瘍関連宿主線維芽細胞(TAF)のように、TAF由来細胞外マトリックス(ECM)成分およびモジュレーターを通じて免疫調節において決定的な役割を果たす。
【0046】
培養された細胞株は異なる材料を表し、本開示の材料および方法から除外される。
【0047】
試料は、ハイドロゲルにそのまま適用されてもよく、または最初に加工されてもよく、例えば組織の寸法は、好ましくはハイドロゲル環境によってより良好にサポートされる組織の好適な厚さを得るために、調整、例えば切断されてもよい。
【0048】
ex vivoモデルのための患者由来外植片の調製において使用されるべき組織は、マトリックスにより提供される条件により適正にサポートされるために好適なサイズまたは寸法を有するべきである。加工された組織試料であってもよい、組織または組織試料は、約0.05mm、0.1mm、約0.2mm、約0.3mm、約0.4mm、約0.5mmまたは約1.0mm、またはより長い、またはより短い最小平均寸法、例えば3.0mmもしくはそれ未満、2.0mmもしくはそれ未満、または1.0mmもしくはそれ未満の最小平均寸法(厚さ)を有してもよい。最小平均寸法は、0.05~3mm、0.1~3mm、例えば0.05~0.5mm、0.05~0.2mm、0.05~1.0mm、0.1~3.0mmまたは0.1~2.0mm、例えば0.1~1.0mmの範囲内であってもよく、最大平均寸法は、1.0mmもしくはそれより長い、2.0mmもしくはそれより長い、3.0mmもしくはそれより長い、5.0mmもしくはそれより長い、7.0mmもしくはそれより長いまたは10.0mmもしくはそれより長い、例えば1.0~20.0mm、1.0~10.0mm、1.0~5.0mm、3.0~20mm、または3.0~10.0mmの範囲内であってもよい。そのようなサイズ範囲の組織試料、特に前記最小寸法を含むものは、本開示のモデルにおいて維持され得ることが驚くべきことに見出されたが、これは、マトリックスは、組織小片から細胞内物質、例えば小胞および高分子までの範囲に及ぶ、そしてまた分離した細胞を含む、および/またはその範囲に及ぶ、様々な物質を含有する材料を維持するために使用され得ることを立証する。
【0049】
1つの実施形態において、モデルは組織試料を含み、および/または方法は、3.0mmもしくはそれ未満、2.0mmもしくはそれ未満、1.0mmもしくはそれ未満、もしくは0.5mmもしくはそれ未満の最小平均寸法、もしくは0.05~3.0mm、例えば0.05~2.0mm、0.05~1.0mm、0.1~2mm、0.1~1.0mmもしくは0.1~0.5mmの範囲内、もしくは本明細書に開示される数値のいずれかの間の別の範囲内の最小平均寸法を有する組織試料を提供することを含む。
【0050】
試料は生検試料であってもよい。生検の例は、針生検、例えば細針生検(吸引)およびコア針生検(コア生検)、腫瘍の全体または腫瘍の部分が除去される切除および切開生検、内視鏡生検、腹腔鏡、胸腔鏡、および縦隔鏡生検、開腹術および開胸術、皮膚生検、ならびにセンチネルリンパ節マッピングおよび生検を含む。試料の寸法は、試料を採取する方法、例えば生検を採取する方法に依存してもよい。
【0051】
方法は、ナノフィブリルセルロースハイドロゲルを含むマトリックスを提供すること、および患者由来外植片を、ナノフィブリルセルロースハイドロゲルを含むマトリックスと合わせて、ex vivo腫瘍免疫微小環境モデルを提供することを含む。
【0052】
外植片は、マトリックスと、必要な場合、マトリックスおよび/または外植片を単純に適用、包埋および/または混合することにより、例えば穏やかなかき混ぜ、撹拌、ボルテックスまたは他の混合により、任意選択的にスパチュラなどの手動の混合またはハイドロゲル中に外植片を適正に包埋するためのマニピュレート手段を使用することにより、合わせられてもよい。適用は、ピペットもしくはシリンジなどを含む、任意の好適な適用手段を使用することにより実行されてもよく、または外植片は、一部の場合において、例えば鉗子もしくはスパチュラなどを使用することにより、ハイドロゲル中に単純にプレスされてもよい。外植片は、マトリックス中での外植片の維持、生存能および活性化を確認するためにハイドロゲルマトリックスにより完全にカバーされるか、または取り囲まれてもよい。1つの例において、ある量のハイドロゲルは、外植片上に適用されて、例えばドームなどのカバー形態が形成され、外植片を少なくとも部分的にカバーする。外植片をマトリックスと合わせることは、好適な容器またはコンパートメント中、例えばウェル中、例えばマルチウェルプレートのウェル中で実行されてもよい。このようにしてex vivo腫瘍免疫微小環境モデルのアレイは調製および提供され得る。好適な培地もまた適用されてもよく、これは例えば本明細書に開示される培地の1つまたは複数であってもよい。
【0053】
ナノフィブリルセルロースの濃度は、生存もしくは増殖するかまたは濃縮されるための免疫細胞種の効率に対して影響力を有する。濃度はまた、モデルにおけるサイトカインプロファイルに対して影響力を有する。1つの例において、ハイドロゲル中のナノフィブリルセルロースの濃度は、0.25~0.8質量%、例えば0.3~0.7質量%または0.25~0.5質量%の範囲内であり、これは、本開示のモデルにおいて使用される、より低い濃度範囲を表す。1つの例において、ナノフィブリルセルロースハイドロゲル中のナノフィブリルセルロースの濃度は、0.5~1.2質量%、例えば0.6~1.2質量%、0.8~1.2質量%、または0.7~1.0質量%の範囲内であり、これは、本開示のモデルにおいて使用される、より高い濃度範囲を表す。そのようなより高い濃度は、特有の種類のNFC、例えば陰イオン性NFC、例えばコンジュゲートまたは機能化された陰イオン性NFCと共に使用されてもよい。より高い濃度は、ある特定の種類の免疫細胞、例えばCD14+単球などのために所望され得る。マトリックスの剛性もまた前記効果に対して影響力を有する。濃度は、剛性に対して影響力を有し得るが、特徴、例えばNFCの種類、ならびに修飾および原線維化の程度ならびに/または本明細書において議論されている他の特徴もまた剛性に影響する。NFCの本開示の濃度は、モデル構成要素の生存能のためおよびモデルを使用するために要求される、異なる物質のための好適な透過性を提供することを可能にする。
【0054】
方法は、ナノフィブリルセルロースハイドロゲルを含むマトリックス中で組織を培養することを含んでもよい。培養は、組織および/もしくは組織中の細胞を維持すること、組織および/もしくは組織中の細胞を増殖させること、ならびに/または微小環境を維持もしくは保存することを含んでもよい。維持または保存は、組織および/もしくは、免疫細胞を含む、組織中の細胞の生存能および/もしくは活性化、および/もしくは微小環境中の生物活性物質を維持し、保存し、促し、もしくは増強すること、ならびに/または、元々の組織および/もしくは組織中の細胞の多様性を維持することを意味し得る、ex vivo条件により誘導されるクローン選択を予防もしくは抑制することを含んでもよい。
【0055】
培養は、組織または組織中の細胞の生存、生存能、活性および/または増殖を促す条件において実行されてもよい。条件は好適な培養温度を含んでもよく、これは35~39℃の範囲内、例えば約37℃であってもよく、および条件は好適な培養培地を提供することを含んでもよく、これは、1つまたは複数の要求される栄養分、緩衝化剤、塩および任意選択的に1つまたは複数の生物活性剤または物質を含有してもよい。
【0056】
本開示のモデルは、3Dシステムまたは培養である。3Dシステムまたは培養は、ナノフィブリルセルロース中のシステムまたは培養であって、細胞および/または組織が、マトリックス中の3つすべての次元において増殖および/または相互作用することを許容されているシステムまたは培養を指す。「3D」という用語は、膜中のおよび/または層としてのシステムまたは培養を指す2Dシステムから区別するために使用される。NFCハイドロゲルマトリックスは、天然の細胞外マトリックス構造を模倣し、3Dシステムにおける栄養分およびガスなどの効率的な輸送を提供する。
【0057】
ex vivoモデル
ex vivoモデルは、複雑な生物学的システムの機能および挙動に対して価値のある洞察を提供できる強力な科学ツールである。得られたかまたは提供されたex vivo腫瘍免疫微小環境モデルは、腫瘍微小環境の免疫抑制の基礎となる分子機序を調べるため、および個々の問題に適合され得る特殊化されたモデルに対する相対的に安価なプラットフォームをさらに開発するために使用されてもよい。プラットフォームは、in vivo薬物応答を予測し、薬物応答データを迅速に生成することができる。
【0058】
本開示のモデルは患者関連材料を使用し、対応する患者情報および腫瘍診断情報が通常は利用可能である。並行して周囲の正常組織を研究することが可能である。モデルにおいて腫瘍はそれらの増殖能力を保持し、組織構造および腫瘍-間質相互作用は維持される。腫瘍内および間不均質性はモデル化され得る。腫瘍および間質の両方の他に免疫細胞を標的化する剤は評価され得る。
【0059】
複数の種類のエンドポイント分析が応用可能であり、これは例えば空間的および非空間的なものである。複数の薬力学的バイオマーカーがプロファイルされ得る。モデルは、腫瘍病理、患者の特徴、遺伝学、薬物分布および/またはバイオマーカー発現との薬物応答の相関付けを可能とする。
【0060】
ex vivo腫瘍免疫微小環境モデルは、1つまたは複数の培養手段中で提供されてもよく、該手段は、1つまたは複数の細胞および/または組織培養容器、例えば1つまたは複数の培養プレート、マイクロウェルプレート、培養フラスコまたはボトル、および培養リアクターまたは他のバイオリアクターなどの手段、容器またはシステムを含んでもよい。細胞および/または組織培養培地は、例えばバッチ式でおよび/または連続的に、培養手段に提供されてもよい。培地は、1つまたは複数の生物活性物質、例えばサイトカインを補充されてもよい。しかしながら、本開示のマトリックスを用いて、免疫細胞の増殖および活性化に影響するために一般的に使用される追加の生物学的に活性な化合物を使用することなく、または実質的により少ないそのような生物活性物質を使用することにより、免疫細胞の増殖を促進することが可能であることが見出された。したがって、1つの例において、培地は、1つまたは複数の生物活性物質、例えばサイトカインを補充されない。
【0061】
方法は、例えば試料を採取することならびに/または、視覚的にもしくは光学的に、例えば顕微鏡によりおよび/もしくはコンピューター化された視覚的もしくは光学的手段を使用することにより、および/もしくは他のモニタリング手段、例えば同位体もしくは蛍光標識の検出などを使用することにより、モデルをモニターすることにより、ex vivo腫瘍免疫微小環境モデルからの1つまたは複数の特徴を調べるかまたはモニターすることを含んでもよい。視覚的検査方法において、マトリックスが透明であり、そのためモデルの構成要素、例えばがん組織および細胞、間質ならびに/または免疫細胞、ならびにモデル中の反応の乱されていない視覚的検査を可能とする場合に有利である。高度に原線維状のNFC、例えば陰イオン性NFC、特に酸化されたNFCは、そのような透明性を提供し、低い濁度、例えば90NTUもしくはそれ未満、60NTUもしくはそれ未満、または40NTUもしくはそれ未満の濁度を呈する。
【0062】
ex vivo腫瘍免疫微小環境モデルは、腫瘍研究方法、例えばがん研究方法、例えば薬物スクリーニング方法において使用されてもよい。がんは任意の好適ながん種であってもよい。
【0063】
1つの例は、腫瘍組織、例えばがん組織を研究するex vivo方法であって、
- 関心対象の患者から得られたex vivo腫瘍免疫微小環境モデルを提供すること、
- 1つまたは複数の関心対象の物質をモデルに提供すること、
- 1つまたは複数の物質に対するモデルの反応を検出すること
を含む、方法を提供する。
【0064】
方法は、関心対象の患者から得られた腫瘍組織、間質および/または腫瘍組織を伴うかもしくはその中にある免疫細胞に対する関心対象の物質の効果を研究するex vivo方法であってもよい。方法は、例えばマルチウェルプレートのウェルにおいて実行されてもよい。
【0065】
関心対象の物質は、例えば、薬物候補分子、ホルモン、および/または任意の他の好適な分子もしくは物質であってもよい。例えば方法は、2つもしくはより多くのもしくは複数の異なる薬物候補分子、もしくは他の分子を含んでもよいアレイを提供すること、ならびに/またはモデルの1つもしくは複数、例えばアレイを提供すること、ならびに、別々および/もしくは2つもしくはより多くのそのような分子の組合せのいずれかでの、分子の各々に対するモデルの反応を検出することを含んでもよい。モデルの反応は、例えば、免疫細胞、間質、腫瘍組織および/または腫瘍組織細胞、例えばがん組織および/またはがん細胞の生存能、活性化および/または増殖に関する反応、例えば組織および/もしくは組織細胞の増殖、もしくは生存能における減少もしくは増加、または他の反応、例えば組織および/もしくは細胞への、例えば受容体への、物質の結合、ならびに任意選択的にそのような作用により引き起こされる任意の反応であってもよい。
【0066】
1つの実施形態において、モデルの反応は、免疫細胞、例えば1つまたは複数の種類の免疫細胞の生存能における変化、生存能の維持、または生存能における変化の徴候である。生存能における変化は、正または負であってもよい。正の変化、すなわち免疫細胞が生存能の増加、活性化の増加および/または生存能の維持を示すことは、腫瘍を処置するための関心対象の物質の好適性を指し示し得る。1つの実施形態において、モデルの反応は負の免疫調節の阻害である。例えば、因子、例えばCTLA-4およびPD-1などは、T細胞ががん細胞を殺傷することを予防することができ、したがって負の免疫調節を抑制または阻害するために好適な候補分子をスクリーニングおよび同定することが可能である。
【0067】
1つの実施形態は、患者から得られた腫瘍組織、例えばがん組織に対する関心対象の物質の効果を研究するex vivo方法であって、
- ex vivo腫瘍免疫微小環境モデルを提供すること、
- モデルに対して1つまたは複数の関心対象の物質を提供すること、
- 1つまたは複数の関心対象の物質に対するモデルの反応を検出すること
を含み、好ましくはモデルの反応が、腫瘍細胞および/または免疫細胞の生存能における変化、活性化における変化、生存能の維持、ならびに/または生存能における変化および/もしくは活性化における変化の徴候であり、例えば変化が増加である、方法を提供する。方法は、患者から得られた腫瘍組織の免疫プロファイル、または腫瘍免疫微小環境に対する関心対象の物質の効果を研究するex vivo方法であってもよい。
【0068】
1つの例において、方法は、
- 好ましくは各々がマルチウェルプレートの異なるウェル中にある、ex vivo腫瘍免疫微小環境モデルの2つまたはより多くを提供すること、
- 2つまたはより多くの異なる関心対象の物質を2つまたはより多くのex vivo腫瘍組織微小環境モデルに提供することであって、モデルの各々が1つまたは複数の異なる物質を含む、提供すること、
- 物質に対する各々のモデルの反応を検出すること
を含む。
【0069】
1つの例において、1つまたは複数の物質に対するモデルの反応を検出することは、関心対象の疾患または障害、例えばがんを処置するための薬物としての提供された物質の1つまたは複数の好適性を指し示す反応を含んでもよい。がんの場合、モデルの反応は、免疫細胞の活性化の増加または開始、がん組織および/または細胞の生存能および/または増殖の減少、例えば死を含んでもよい。
【0070】
1つまたは複数の物質に対するモデルの反応は、任意の応用可能な検出手段および/または方法、例えば、モデルからの光または画像を検出することに基づく手段および方法を指す視覚的または光学的手段および/または方法を用いて検出されてもよい。光は、可視光、UV光および/またはIR光を含んでもよい。そのような検出手段は、顕微鏡的手段、例えば光学顕微鏡および/またはデジタルイメージング手段ならびに画像もしくはビデオを分析するためおよび/または反応を検出するための関連付けられるソフトウェアを含んでもよい。
【0071】
検出手段および/または方法は、標識化手段および方法、例えばマーカーに特異的な抗体、核酸ベースの方法、例えばRNAプロファイリング、RNAシークエンシング、染色方法、例えば免疫蛍光染色、顕微鏡的方法、例えば共焦点顕微鏡法、フローサイトメトリー、サイトカインプロファイリング、放射線学的方法、およびこれらの任意の組合せを含んでもよい。例えば特徴、例えば組織学的特性はモニターおよび/または検出され得る。
【0072】
ナノフィブリルセルロース
マトリックスを形成するための出発材料は、ナノセルロースとも呼ばれるナノフィブリルセルロースであってもよく、これは、繊維状セルロース原材料から分離された単離されたセルロース原線維および/または原線維束を指す。ナノフィブリルセルロースは、天然に豊富に存在する天然ポリマーに基づく。ナノフィブリルセルロースは、水中で粘性のハイドロゲルを形成する能力を有する。本開示の目的のために有用なナノフィブリルセルロースは水に可溶性でないが、水中で分散体を形成する。ナノフィブリルセルロース製造技術は、繊維状原材料の崩壊、すなわち原線維化、例えばパルプ繊維の水性分散体の摩砕によりナノフィブリル化したセルロースを得ることに基づいてもよい。摩砕または均質化加工後に、得られるナノフィブリルセルロース材料は、希薄な粘弾性ハイドロゲルである。
【0073】
得られる材料は、通常は、崩壊条件に起因して水中に均質に分散された相対的に低い濃度で存在する。出発材料は、0.2~10%(w/w)、例えば0.2~5%(w/w)の濃度の水性ゲルであってもよい。ナノフィブリルセルロースは、繊維状原材料、例えばセルロース繊維、例えばパルプの崩壊から直接的に得られてもよい。ナノフィブリルセルロースは一度も乾燥されていないものであってもよい。
【0074】
そのナノスケール構造のために、ナノフィブリルセルロースは、従来の非ナノフィブリルセルロースまたは例えば合成繊維もしくは原線維によっては提供され得ない機能性を可能にする独特の特性を有する。従来の製造物または従来のセルロース材料もしくは他のポリマー材料を使用した製造物とは異なる特性を呈する材料および製造物を調製することが可能である。しかしながら、ナノスケール構造のために、ナノフィブリルセルロースは課題のある材料でもある。例えばナノフィブリルセルロースの脱水または取扱いは困難であり得る。
【0075】
ナノフィブリルセルロースは、植物起源のセルロース原材料から調製されてもよく、またはそれはまた、ある特定の細菌発酵過程に由来してもよい。ナノフィブリルセルロースは好ましくは植物材料から作られている。ナノフィブリルセルロースは、原線維および/または原線維束を分離するためのセルロース繊維の機械的な崩壊により植物から得られ得る。原材料は、セルロースを含有する任意の植物材料に基づいてもよい。1つの例において、原線維は、非柔組織植物材料から得られる。そのような場合において、原線維は二次細胞壁から得られてもよい。そのようなセルロース原線維の1つの豊富に存在する供給源は木材繊維である。ナノフィブリルセルロースは、パルプ、例えば化学パルプであってもよい木材由来繊維状原材料を崩壊、例えばホモジナイズすることにより生産されてもよい。セルロース繊維は、水中の原線維および/または原線維束の分散体を提供するために、数ナノメートルに過ぎない平均直径を有する原線維束および/またはさらには原線維を製造するために崩壊され得る。二次細胞壁を起源とする原線維は、少なくとも55%の結晶化度と共に本質的に結晶性である。そのような原線維は、一次細胞壁を起源とする原線維とは異なる特性を有してもよい。一般に、一次細胞壁からのセルロース供給源、例えばテンサイ、ジャガイモ塊茎およびバナナ花軸において、ミクロフィブリルは、木材からの原線維よりも容易に繊維マトリックスから解放され、崩壊はより少ないエネルギーを要求する。しかしながら、これらの材料は依然として幾分不均質であり、主に大きい原線維束を含む。
【0076】
非木材材料は、農業残渣、草または他の植物物質、例えばワタ、トウモロコシ、コムギ、カラスムギ、ライ、オオムギ、コメ、アマ、アサ、マニラアサ、サイザルアサ、ジュート、ラミー、ケナフ、バガス、タケまたはアシからの藁、葉、樹皮、種子、外皮、花、野菜または果実からのものであってもよい。セルロース原材料はまた、セルロース産生微生物に由来し得る。微生物は、アセトバクター(Acetobacter)、アグロバクテリウム(Agrobacterium)、リゾビウム(Rhizobium)、シュードモナス(Pseudomonas)またはアルカリゲネス(Alcaligenes)属のもの、好ましくはアセトバクター属のもの、より好ましくはアセトバクター・キシリナム(Acetobacter xylinumor)またはアセトバクター・パスツリアナス(Acetobacter pasteurianus)種のものであることができる。
【0077】
植物セルロース、特に木材セルロースから得られたナノフィブリルセルロースは、本明細書に記載される生命科学、医療および/または科学製造物のために好ましいことが見出された。植物繊維、特に木材繊維を原線維化することにより得られるナノフィブリルセルロースは、微小生物から得られるナノフィブリルセルロースとは構造的に異なり、それは異なる特性を有する。例えば細菌セルロースと比較して、ナノフィブリル化した木材セルロースは、均質およびより多孔性および粗い材料であり、これは生細胞を伴う応用において有利である。細菌セルロースは、通常は、植物セルロースにおけるものと類似した原線維化の必要性なしにそのまま利用可能であるため、材料はこの点においても異なる。
【0078】
植物材料に由来するナノフィブリルセルロースは、セルロース繊維を原線維および/または原線維束に崩壊させることを要求し、これは、原線維化加工および得られる原線維化したセルロース材料の特性を制御することを可能にする。崩壊加工の前にセルロースを修飾し、ならびに、例えば好適なデバイス、好適な加工条件および時間、ならびに他の関連するパラメーターを選択することにより、原線維化の種類および効率を制御して、所望される特性、例えば原線維化の程度、アスペクト比、修飾の種類、剛性および連続性を有するナノフィブリルセルロースを得ることが可能である。
【0079】
木材は、軟木、例えばトウヒ、マツ、モミ、カラマツ、ダグラスモミもしくはヘムロックから、または硬木、例えばカバノキ、ヤマナラシ、ポプラ、ハンノキ、ユーカリ、オーク、ブナノキもしくはアカシアから、または軟木および硬木の混合物からのものであってもよい。1つの例において、ナノフィブリルセルロースは木材パルプから得られる。ナノフィブリルセルロースは硬木パルプから得られてもよい。1つの例において、硬木はカバノキである。ナノフィブリルセルロースは軟木パルプから得られてもよい。1つの例において前記木材パルプは化学パルプである。
【0080】
セルロース原線維および/または原線維束を含む、ナノフィブリルセルロースは高いアスペクト比(長さ/直径)により特徴付けられる。長さ/直径(L/D)比は、5もしくはより高い、例えば10もしくはより高い、好ましくは20もしくはより高い、30もしくはより高い、40もしくはより高い、または50もしくはより高いものであってもよい。ナノフィブリルセルロースの平均長さ(粒子、例えば原線維および/または原線維束のメジアン長さ)は1μmを上回っていてもよく、ほとんどの場合においてそれは50μmまたはそれ未満である。基本原線維が互いから完全には分離されていない場合、絡み合った原線維、例えば原線維束は、例えば1~100μm、1~50μm、または1~20μmの範囲内の平均全長を有してもよい。これは特に、例えば化学的に、酵素的にまたは機械的に、短縮も消化もされていないネイティブグレードの原線維に適用される。しかしながら、ナノフィブリル材料が高度に原線維化されている場合、基本原線維は、完全にまたはほぼ完全に分離されていてもよく、平均原線維長さはより短い、例えば1~10μmまたは1~5μmの範囲内である。強く誘導体化されたナノフィブリルセルロースは、より短い平均原線維長さ、例えば0.3~50μm、例えば0.3~20μm、例えば0.5~10μmまたは1~10μmの範囲内のものを有してもよい。特に短縮された原線維、例えば酵素的におよび/もしくは化学的に消化された原線維、または機械的に処理された材料は、1μm未満、例えば0.1~1μm、0.2~0.8μmまたは0.4~0.6μmの平均原線維長さを有してもよい。高いアスペクト比が所望される場合、原線維長さを短縮することは所望されないため、化学的にもしくは酵素的に加水分解もしくは消化されたセルロース、または原線維が既に短縮されているような高度に機械的に原線維化された材料を使用することは所望されないことがある。
【0081】
原線維の長さおよび/または直径は、いくつかの技術を用いて、例えば顕微鏡法、特に電子顕微鏡法により、決定されてもよい。原線維の厚さおよび/または幅分布は、顕微鏡画像、例えば走査電子顕微鏡(SEM)、例えば電界放出走査電子顕微鏡(FE-SEM)、透過電子顕微鏡(TEM)、例えば極低温透過電子顕微鏡(CRYO-TEM)、または原子間力顕微鏡(AFM)からの画像の画像分析により測定されてもよい。一般に、AFMおよびTEM、特にCRYO-TEMは、狭い原線維直径分布を有するナノフィブリルセルロースグレードのために最も適する。Cryo-TEM画像から、束化した構造もまた見られ得る。好適なイメージングソフトウェアが使用され得る。
【0082】
ナノフィブリルセルロースの平均直径(幅)は、1μm未満、または500nmもしくはそれ未満、例えば1~500nmの範囲内であるが、好ましくは200nmもしくはそれ未満、さらには100nmもしくはそれ未満、または50nmもしくはそれ未満、例えば1~200nm、1~100nm、または1~50nmの範囲内、さらには高度に原線維化したおよび/または化学的に修飾されたセルロースについて1~20または5~30nmである。本明細書に開示される直径は、原線維および/または原線維束を指す。最小の原線維は基本原線維のスケールにあり、平均直径は典型的には4~12nmの範囲内である。原線維の寸法およびサイズ分布は、精製方法および効率、ならびに可能な修飾の種類および程度に依存する。高度に精製されたネイティブなナノフィブリルセルロースの場合において、平均原線維および/または原線維束直径は、2~200nmまたは2~100nmの範囲内、例えば10~50nmの範囲内であってもよい。高度に精製された化学的に修飾されたナノフィブリルセルロースの場合において、平均原線維および/または原線維束直径は通常はより短い。
【0083】
本明細書に開示される平均長さおよび/または直径は数平均長さおよび/または直径であってもよい。「原線維」という用語はまた、本明細書において使用される場合、適用可能な場合、原線維束を含む。機械的に崩壊されたセルロース材料は、基本原線維に完全には分離されずに依然として原線維束の形態にある、少なくとも少量のセルロースを含有してもよい。
【0084】
原線維が角化されることもまた所望されず、角化される場合、原線維の非可逆的な塊状化がナノフィブリルセルロースの質を劣化させ、アスペクト比を低下させ、結果的にその有益な特性の完全な喪失を結果としてもたらす。角化は、後処理、例えば水性NFC懸濁液の乾燥の間に起こることがあり、それは、隣接するナノフィブリルのヒドロキシル基の間の多数の水素結合の形成を用いて説明され得る。低下したアスペクト比、または角化した材料は、通常は、NFC分散体の粘度の減少として、および/または顕微鏡的にさえも、検出され得る。
【0085】
一般に、ナノフィブリルセルロースは、大きい比表面積および水素結合を形成する強い能力により特徴付けられる。水分散体中で、ナノフィブリルセルロースは、典型的には、光または濁ったゲル様材料のいずれかとして見える。繊維原材料に依存して、植物、特に木材から得られるナノフィブリルセルロースはまた、少量の他の植物成分、特に木材成分、例えばヘミセルロースまたはリグニンを含有してもよい。量は、植物供給源、および/または原材料の種類に依存することがある。例えば化学パルプは、他の植物成分を少量で含有するか、または実質的に含有しないものであってもよい。
【0086】
1つの例において、セルロースナノマテリアルは、セルロースナノマテリアルのための標準的な用語を提供するTAPPI W13021(2014)にしたがってカテゴリーに分けられ得る。これらの材料のすべてがナノフィブリルセルロースであるわけではなく、したがって類似した特性を呈し得るわけではない。2つの主なカテゴリーは「ナノ物体」および「ナノ構造化材料」である。ナノ構造化材料は、10~15μmの直径および長さ:直径比(L/D)<2を有する「セルロース微結晶」(CMCと呼ばれる場合もある)、ならびに10~100nmの直径(幅)および0.5~50μmの長さを有する「セルロースミクロフィブリル」を含む。ナノ物体は「セルロースナノファイバー」を含み、これは、3~10nmの直径およびL/D>5を有する「セルロースナノ結晶」(CNC)、ならびに5~30nmの直径およびL/D>50を有する「セルロースナノフィブリル」(CNFまたはNFC)に分けられ得る。1つの例において、ナノフィブリルセルロースは、5~30nmの範囲内の数平均直径および50またはより高い長さ/直径(L/D)比を有する。
【0087】
ナノ結晶セルロースはナノフィブリルセルロースとは異なる材料であり、異なる特性および挙動を有する。ナノ結晶セルロースは、非晶性領域を除去してセルロースの結晶性領域を得る酸加水分解によりセルロースから製造される。原線維の長さは実質的に短縮される。ナノフィブリルセルロースはまた、本明細書において使用される場合、セルロースナノウィスカーもしくは他のロッド様粒子、または従来のセルロースパルプ化加工において、例えばセルロース繊維の表面上に少量として、形成される微細物を含むことは意味されない。
【0088】
ナノフィブリルセルロースの異なるグレードはまた、3つの主な特性:(i)サイズ分布、長さおよび/または直径、(ii)化学組成、ならびに(iii)レオロジー特性に基づいてカテゴライズされ得る。グレードを十分に記載するために、2つまたはより多くの特性が並列で使用されてもよい。異なるグレードの例は、ネイティブな(化学的におよび/または酵素的に非修飾の)NFC、酸化NFC(高粘度)、酸化NFC(低粘度)、カルボキシメチル化NFCならびにカチオン化NFCを含む。これらの主グレード内に、副グレードもまた存在し、例えば:極めてよく原線維化したものに対して中程度に原線維化したもの、高い置換度に対して低い置換度、低い粘度に対して高い粘度などである。原線維化技術および化学的予備修飾の両方は、フィブリルセルロースの特性、例えば原線維サイズおよび原線維サイズ分布に対して影響を有する。典型的には、非イオン性グレードは、より大きい平均原線維および/または原線維束直径(例えば10~100nm、または10~50nmの範囲内)を有するが、化学的に修飾されたグレードは非常により薄い(例えば2~20nmの範囲内)。分布はまた、修飾されたグレードについて、より狭い。ある特定の修飾、特にTEMPO酸化は、より短い原線維をもたらす。しかしながら、原線維サイズおよび分布は、生産過程の間に制御され得る唯一の特性ではなく、得られる材料のレオロジー特性を制御することも可能である。主な特性およびそのサブグレードは、必ずしも互いに対して直接的に比例したものではない。例えば、同じ直径を有するフィブリルセルロースは、同じレオロジー特性、および/または他の特性、例えば本明細書において議論される貯蔵弾性率および透過性などを呈しないことがある。
【0089】
セルロースの前処理および/または後処理もまたセルロースの特性に対して影響を有し得る。例えば、材料の連続性を制御するためおよび/またはある特定の崩壊デバイスのために好適な材料を提供するために1つまたは複数の非原線維化前処理または後処理工程を含めることが所望され得る。例えば角化を回避するために、後処理工程においてまたは取扱いおよび貯蔵の間に、得られたナノフィブリルセルロースへの損傷を回避することもまた所望される。
【0090】
水性環境中で、セルロースナノフィブリルの分散体は粘弾性ハイドロゲルネットワークを形成する。ゲルは、分散および水和した絡み合った原線維により例えば0.05~0.2%(w/w)の低い濃度において既に形成されている。NFCハイドロゲルの粘弾性は、例えば動的振動レオロジー測定を用いて特徴付けが可能であり、そしてまたこれらの特性は、従来の材料のものとは有意に異なる。
【0091】
ナノフィブリルセルロースハイドロゲルまたは分散体は、特徴的なレオロジー特性および非ニュートン挙動を呈し、すなわちナノフィブリルセルロース分散体は非ニュートン流体を表す。例えば、それらはずり減粘または擬塑性材料であり、これは、チキソトロピー挙動の特別な場合として考えることができ、これは、それらの粘度は、材料が変形される速度または力に依存することを意味する。回転式レオメーターにおいて粘度を測定する場合、ずり減粘挙動は、せん断速度の増加に伴う粘度における減少として見られる。ハイドロゲルは、可塑性挙動を示し、これは、材料が容易に流れ始める前にある特定のせん断応力(力)が要求されることを意味する。この臨界的なせん断応力は多くの場合に降伏応力と呼ばれる。降伏応力は、応力制御されたレオメーターを用いて測定される定常状態流れ曲線から決定され得る。粘度が適用されたせん断応力の関数としてプロットされる場合、臨界的なせん断応力を上回った後に粘度における劇的な減少が見られる。ゼロせん断粘度および降伏応力は、材料のサスペンド力(suspending power)を記載するための最も重要なレオロジーパラメーターである。これらの2つのパラメーターは異なるグレードをかなり明確に分離し、そのためグレードの分類を可能にする。ゼロせん断粘度および降伏応力はまた、粘度が適用されたせん断応力の関数としてプロットされた場合に粘度における類似した劇的な減少を呈さず、むしろ連続的な実質的に直線状の曲線を示すニュートン材料、例えば従来の繊維状セルロース材料からナノフィブリルセルロースを区別するために使用され得る。
【0092】
本明細書において使用される場合、「原線維化」という用語は、一般に、粒子に適用される作業により機械的に繊維材料を崩壊させることであって、セルロース原線維および/または原線維束が繊維または繊維断片から脱離し、フィブリルセルロースが得られる崩壊させることを指す。作業は、摩砕、圧砕もしくはせん断、またはこれらの組合せ、または粒子サイズを低減させる別の対応する行為のように、様々な効果に基づいてもよい。「崩壊」または「崩壊処理」という表現は「原線維化」と交換可能に使用され得る。原線維化処理は、パルプ化におけるセルロースの従来の精製と比較して有意により多くのエネルギーを要求し、デバイスおよび/またはデバイスの設定は異なり得る。
【0093】
原線維化に供される繊維材料分散体は、本明細書において「パルプ」とも呼ばれる、繊維材料と水との混合物である。繊維材料分散体は、一般に、繊維全体、それらから分離された部分(断片)、原線維束、または水と混合された原線維を指すことができ、典型的には水性繊維材料分散体はそのような要素の混合物であり、それにおいて成分の間の比は、処理の程度または処理ステージ、例えば繊維材料の同じバッチの処理を通じた実行または「パス」(passes)の回数に依存する。
【0094】
原線維および/または原線維束の寸法の他に、ナノフィブリルセルロースの他の特性は、例えば、原材料、崩壊方法および崩壊実行の回数に依存する。セルロース原材料の機械的な崩壊は、任意の好適な機器、例えば精製機(refiner)、粉砕機、分散機、ホモジナイザー、コロイダー、摩擦粉砕機、ピンミル、ローター-ローター分散機、超音波処理装置、フルイダイザー、例えばマイクロフルイダイザー、マクロフルイダイザーもしくはフルイダイザー型ホモジナイザー、またはこれらの組合せを用いて実行されてもよい。崩壊処理は、繊維および/または原線維の塊状化を結果としてもたらし得る繊維および/または原線維の間の結合の形成を予防するために水が十分に存在する条件において行われる。
【0095】
1つの例において、崩壊は、少なくとも1つのローター、ブレードまたは類似した移動する機械的部材を有する分散機、例えば少なくとも2つのローターを有するローター-ローター分散機を使用することにより実行される。ローター-ローター分散機の1つの例はAtrexデバイスである。崩壊のために好適なデバイスの別の例はピンミル、例えばマルチペリフェラルピンミル(multi-peripheral pin mill)である。1つの例において、崩壊は、ホモジナイザーを使用することにより実行される。ホモジナイザーはまた、前記調整および加工条件に依存して、原線維化なしでセルロース材料をホモジナイズするために使用され得る。
【0096】
本出願において使用されるべきハイドロゲルは好ましくは均質である。したがって、調製方法は、好ましくはホモジナイズデバイス、例えば本明細書に記載されるものを用いて、ナノフィブリルセルロースを含むハイドロゲルをホモジナイズすることを含んでもよい。この好ましくは非原線維化のホモジナイズ工程を用いて、ゲルから不連続性の区画を除去することが可能である。特に、そのような処理を用いて木材セルロースの特性を制御することが可能である。本出願のためにより良好な特性を有する均質なゲルが得られる。非原線維化ホモジナイズ工程は、1つもしくは複数の原線維化工程の後に、ならびに/または、原線維および/もしくは原線維束が凝集することを引き起こして、ハイドロゲルの連続性および均質性に対して影響力を有することがある1つもしくは複数の濃縮工程の後に実行されてもよい。ハイドロゲルはさらに、例えば熱を使用することにより、例えばオートクレーブにより、および/または放射線を使用することにより、および/または滅菌剤、例えば抗微生物剤を加えることにより、滅菌されてもよい。
【0097】
ナノフィブリルセルロースを特徴付けるための1つの仕方は、前記ナノフィブリルセルロースを含有する水性溶液または分散体の粘度を使用することである。粘度は、例えばブルックフィールド粘度またはゼロせん断粘度であってもよい。本明細書に記載されている特有の粘度は、ナノフィブリルセルロースを非ナノフィブリルセルロースから区別するため、および/または原線維化の程度を定義するために使用され得る。
【0098】
ナノフィブリルセルロースはまた、平均直径(もしくは幅)により、または粘度、例えばゼロせん断粘度と共に平均直径により特徴付けられてもよい。
【0099】
原線維化の程度は、繊維分析を使用することにより評価可能であり、該分析において、より大きい、部分的にのみ原線維化した実体の数が評価される。例えば、誘導体化ナノフィブリルセルロースの場合、乾燥試料1mg当たりのそれらの粒子の数は、0~10000の範囲内、例えば0~5000の範囲内、例えば0~1000の範囲内であってもよい。しかしながら、非誘導体化NFCにおいて、mg当たりの非原線維化粒子の数は典型的には幾分より多く、0~20000の範囲内、例えば0~10000の範囲内、例えば0~5000の範囲内である。繊維分析は、Fiberlabの方法を使用して実行されてもよい。
【0100】
ナノフィブリルセルロースハイドロゲルの機械的剛性はゲルの粘弾性測定から評価され得る。「機械的剛性」は、適用された力によるたわみまたは変形に対する弾性体の抵抗性を指す。貯蔵弾性率は、剛性、そしてまたナノフィブリルセルロースハイドロゲルのゲル化状態を特徴付けるために使用され得る。誘導体化NFCは、より硬いハイドロゲルを構築し得るが、これらのグレードの大規模な原線維化はまた、より低い貯蔵弾性率に繋がり得る。剛性は、ハイドロゲルの特性、微小環境と共に包埋された細胞および/または組織の機械的特性だけでなく、挙動に対しても影響力を有する。本明細書に開示されているような特有の剛性を選択することにより、組織および細胞のための好適な圧力を提供することならびに組織微小環境全体を所望される形態においておよびハイドロゲル中で活性に維持することが可能である。
【0101】
貯蔵弾性率は、ハイドロゲルの濃度においておよび37±1℃において測定されてもよく、それは、使用、例えば組織もしくは細胞培養および/または本明細書に開示される他の手順の間のハイドロゲルの剛性を反映する。一般に、ナノフィブリルセルロースは、ナノフィブリルセルロースハイドロゲルの0.25~1.2質量%、例えば0.3~1.1質量%において水中に分散された場合に、回転式レオメーターにより決定されるpH 7および37±1℃における1~1000Paの範囲内の貯蔵弾性率を提供する。
【0102】
1つの実施形態において、ナノフィブリルセルロースは、ナノフィブリルセルロースハイドロゲルの0.25~1.2質量%、例えば0.3~1.1質量%において水中に分散された場合に、回転式レオメーターにより決定されるpH 7および37±1℃における1~500Paの範囲内、例えば2~100Pa、例えば2~50Paの範囲内の貯蔵弾性率を提供する。
【0103】
好適なデバイスを選択することならびに原線維化過程およびパラメーターを制御することにより生産過程の間に得られるナノフィブリルセルロースハイドロゲルの特性、例えば貯蔵弾性率を制御することが可能である。
【0104】
一般に、NFCマトリックスの特性、例えば修飾、濃度、剛性、寸法および本明細書において議論される他の特性は、例えばハイドロゲルのみの試料を採取することおよび試料から特性を決定することにより、組織または組織を含む試料なしでNFCマトリックスハイドロゲルから決定されてもよい。
【0105】
ナノフィブリルセルロース分散体のレオメーター粘度は、1つの例によれば、30mmの直径を有する円筒形試料カップ中で狭い間隙の羽根幾何形状(直径28mm、長さ42mm)を備えた応力制御回転式レオメーター(AR-G2、TA Instruments、UK)を用いて22℃で測定されてもよい。レオメーターに試料をロードした後に、それらを5分間静置した後に測定が開始される。定常状態粘度は、せん断応力(適用されるトルクに比例する)を徐々に増加させて測定され、せん断速度(角速度に比例する)が測定される。ある特定のせん断応力において報告される粘度(=せん断応力/せん断速度)は、一定のせん断速度に達した後にまたは2分の最大時間の後に記録される。測定は、1000s-1のせん断速度を上回った場合に停止される。この方法は、ゼロせん断粘度を決定するために使用されてもよい。
【0106】
別の例において、ハイドロゲル試料のレオロジー測定は、20mmのプレート幾何形状を備えた応力制御回転式レオメーター(AR-G2、TA instruments、UK)を用いて実行された。1mmの間隙、希釈なしで、レオメーターに試料をロードした後に、それらを5分間落ち着かせた後に、測定が開始された。ストレススイープ粘度が、周波数10rad/s、歪み2%、22±1℃において0.001~100Paの範囲内でせん断応力を徐々に増加させて測定された。貯蔵弾性率、損失弾性率および降伏応力/破壊強度が決定され得る。
【0107】
1つの例において、例えば方法における出発材料として提供される、ナノフィブリルセルロースは、水中に分散された場合に、100~50000Pa・sの範囲内、または1000~50000Pa・sの範囲内のゼロせん断粘度(小さいせん断応力における一定粘度の「プラトー」)を提供する。本開示の目的のために有用なほとんどの場合において、ゼロせん断粘度は、3000~50000Pa・sの範囲内、例えば5000~30000Pa・sまたは3000~20000Pa・sの範囲内であり、降伏応力(ずり減粘が始まるせん断応力)は、1~50Paの範囲内、例えば2~15Paまたは3~15Paの範囲内であり、これらは22±1℃の水性媒体中で0.5質量%(w/w)の粘稠性において回転式レオメーターにより決定される。そのようなナノフィブリルセルロースはまた、200nmまたはそれ未満、例えば1~200nm、1~100nm、1~50nmまたは1~20nmの範囲内の数平均原線維直径を有してもよい。そのような材料は、本明細書において議論される応用を特に促すような程度に原線維化され、そのような特性を有する。特には、5000~30000Pa・sの範囲内のゼロせん断粘度および3~15Paの範囲内の降伏応力は本出願のために特に好適である。
【0108】
レオロジー特性の他に、本明細書において開示および議論されている他の特性、例えば濁度は、通常は、標準的な粘稠性、例えば水中、例えば純水中、または水性媒体中での0.5wt%または0.8wt%の粘稠性または濃度を含む、標準的な条件において決定される。水性媒体は、水、例えば純水もしくは精製水、または前記水を加えることにより得られる水性媒体であってもよい。ナノフィブリルセルロース、例えばナノフィブリルセルロースから採取された試料は、したがって、1つまたは複数のレオロジー特性または他の特性を決定するための所望される標準的な粘稠性を得るために水中に分散されてもよく、これは本明細書において「水中に分散された場合」という表現により表される。分散は、セルロースをさらに原線維化することなく水性溶液中へのNFCの均質な分散を引き起こす好適な機械的な崩壊処理を使用することにより実行されてもよい。NFCの均質な分散体が得られる。ナノフィブリルセルロースが、所望される測定粘稠性よりも低い粘稠性を有する場合、所望される粘稠性および均質性を得るためにそれを濃縮させ、任意選択的にさらに分散させることができる。
【0109】
ナノフィブリルセルロースを特徴付けるための1つの仕方は、濁度、または粘度および濁度の両方を定義することである。低い濁度は、原線維の小さいサイズ、例えば小さい直径を指し、これは、小さい原線維は光を乏しく散乱させるからである。一般に原線維化の程度が増加するにつれて、粘度は増加し、同時に濁度は減少する。しかしながら、これはある特定の点まで起こる。原線維化がさらに継続される場合、原線維は最後に破壊および短縮し始め、したがって強いネットワークをこれ以上形成できなくなる。したがって、この点の後に、濁度および粘度の両方は減少し始める。
【0110】
濁度は、裸眼には一般に見えない個々の粒子(全体の懸濁または溶解した固体)により引き起こされる流体の混濁または濁りである。濁度を測定するいくつかの実践的な仕方があり、最も直接的なものは、光が水の試料カラムを通過する際のその減弱(すなわち、強度における低減)の何らかの指標である。代替的に使用されるJackson Candle法(単位:Jackson濁度単位またはJTU)は本質的に、水のカラムを通じて見られる蝋燭の炎を完全に覆い隠すために必要とされる該カラムの長さの指標の逆数である。
【0111】
濁度は、光学的な濁度測定機器を使用して定量的に測定されてもよい。濁度を定量的に測定するために利用可能ないくつかの商用の濁度計がある。本開示の場合において、比濁分析に基づく方法が使用される。軟正された比濁計からの濁度の単位は比濁法濁度単位(NTU)と呼ばれる。測定装置(濁度計)は、標準的な軟正試料を用いて軟正および制御され、続いて希釈されたNFC試料の濁度が測定される。濁度は、ISO 7027にしたがって測定されてもよい。
【0112】
1つの濁度測定方法において、ナノフィブリルセルロース試料は、前記ナノフィブリルセルロースのゲル点未満の濃度まで水中に希釈され、希釈された試料の濁度が測定される。ナノフィブリルセルロース試料の濁度が測定される前記濃度は0.1%である。50mlの測定容器を伴うHACH P2100濁度計が濁度測定のために使用される。ナノフィブリルセルロース試料の乾燥分が決定され、乾燥分として算出される、0.5gの試料が測定容器にロードされ、該容器は、500gまで水道水で満たされ、振盪により約30sにわたり激しく混合される。遅延なしで、水性混合物は5つの測定容器に分けられ、これらは濁度計に挿入される。各々の容器における3回の測定が実行される。平均値および標準偏差が、得られた結果から算出され、最終結果がNTU単位として与えられる。
【0113】
1つの例において、化学的に陰イオン的に修飾されたナノフィブリルセルロースの濁度は、水性媒体中の0.1%(w/w)の粘稠性において比濁分析により測定される、90NTUもしくはそれ未満、60NTUもしくはそれ未満、または40NTUもしくはそれ未満、例えば3~90NTU、例えば5~60、例えば8~40である。1つの例において、ネイティブなナノフィブリルの濁度は、水性媒体中の0.1%(w/w)の粘稠性において20℃±1℃で比濁分析により測定される200NTU以上、例えば10~220NTU、例えば20~200、例えば50~200であってもよい。ナノフィブリルセルロースを特徴付けるために、これらの範囲は、ナノフィブリルセルロースの粘度範囲、例えばゼロせん断粘度、貯蔵弾性率および/または降伏応力と組み合わせられてもよい。
【0114】
ナノフィブリルセルロースは、非修飾ナノフィブリルセルロースであるかまたはそれを含むものであってもよい。非修飾ナノフィブリルセルロースのドレナージは、例えば陰イオン性グレードよりも有意に速い。非修飾ナノフィブリルセルロースは、一般に、0.8%(w/w)の粘稠性および10rpmにおいて20℃±1℃で測定される、2000~10000mPa・sの範囲内のブルックフィールド粘度を有する。
【0115】
崩壊された繊維状セルロース原材料は、修飾された繊維状原材料であってもよい。修飾された繊維状原材料は、繊維が処理により影響され、その結果、セルロースナノフィブリルが繊維からより容易に脱離可能である原材料を意味する。修飾は、通常は、液体中の懸濁物、すなわちパルプとして存在する繊維状セルロース原材料に対して行われる。
【0116】
繊維に対する修飾処理は、化学的、酵素的および/または物理的なものであってもよい。化学修飾において、セルロース分子の化学構造は化学反応により変化し(セルロースの「誘導体化」)、好ましくは、セルロース分子の長さは影響されないが、官能基がポリマーのβ-D-グルコピラノース単位に付加される。セルロースの化学修飾は、ある特定の変換度において起こり、これは反応物の投薬量および反応条件に依存し、一般にそれは完全ではなく、その結果、セルロースは原線維として固体形態に留まり、水中に溶解しない。物理修飾において、陰イオン性、陽イオン性、もしくは非イオン性物質またはこれらの任意の組合せがセルロース表面上に物理的に吸着される。出発材料、繊維状セルロースの修飾は、通常は、得られるナノフィブリルセルロース中に残存し、例えば化学修飾されたセルロース繊維を使用して、化学修飾されたナノフィブリルセルロースを得ることができる。
【0117】
繊維中のセルロースは、修飾後に特にイオン的に荷電していてもよい。セルロースのイオン性電荷は繊維の内部結合を弱め、後にナノフィブリルセルロースへの崩壊を促す。イオン性電荷は、セルロースの化学的または物理的修飾により達成されてもよい。繊維は、出発原材料と比較して修飾後により高い陰イオン性または陽イオン性電荷を有してもよい。陰イオン性電荷を作るために最も一般的に使用される化学修飾方法は酸化であり、それにおいてヒドロキシル基は、アルデヒドおよびカルボキシル基、スルホン化およびカルボキシメチル化に酸化される。ナノフィブリルセルロースと生物活性分子との間の共有結合の形成に参加し得る基、例えばカルボキシル基を導入する化学修飾が所望され得る。次いで、陽イオン性電荷は、陽イオン基、例えば第四級アンモニウム基をセルロースに取り付けることによりカチオン化により化学的に作り出され得る。
【0118】
ナノフィブリルセルロースは、化学的に修飾されたナノフィブリルセルロース、例えば陰イオン的に修飾されたナノフィブリルセルロースまたは陽イオン的に修飾されたナノフィブリルセルロースを含んでもよい。1つの例において、ナノフィブリルセルロースは、陰イオン的に修飾されたナノフィブリルセルロースである。1つの例において、陰イオン的に修飾されたナノフィブリルセルロースは、酸化されたナノフィブリルセルロースである。1つの例において、陰イオン的に修飾されたナノフィブリルセルロースは、スルホン化されたナノフィブリルセルロースである。1つの例において、陰イオン的に修飾されたナノフィブリルセルロースは、カルボキシメチル化されたナノフィブリルセルロースである。セルロースの陰イオン性修飾を用いて得られる材料は陰イオン性セルロースと呼ばれることがあり、これは、陰イオン基、例えばカルボン酸基の量または割合が、非修飾の材料と比較した場合に、修飾により増加している材料を指す。カルボン酸基の代わりにまたはそれに加えて、セルロースに他の陰イオン基、例えばリン酸基または硫酸基を導入することもまた可能である。これらの基の含有量は、本明細書においてカルボン酸について開示されるものと同じ範囲内であってもよい。化学修飾または誘導体化の程度は、セルロースの原線維化能力を促し、および得られるナノフィブリルセルロースの特性に対して有利な効果を提供するが、ナノフィブリルセルロースを、その特性が有意に変化するであろう可溶性とはしない範囲内である。
【0119】
化学的誘導体化過程において、セルロースの所望される置換度が得られ得る。これは、化学的誘導体化過程を制御することにより、例えば好適な原材料、反応条件、機器、反応時間、および/または試薬などの特性を選択することにより実行されてもよい。酸化されたNFCはまた、アルデヒド官能基を含有してもよく、これは典型的には10~250マイクロモル/gセルロース、例えばパルプ、例えば50~250マイクロモル/gの範囲内である。カルボキシメチル化を介する誘導体化は、典型的には、原線維化の前に0.05~0.3マイクロモル/g、好ましくは0.08~0.25マイクロモル/g、最も好ましくは0.10~0.2マイクロモル/gの範囲内のdsレベルまでセルロースパルプについて実行される。誘導体化が陽イオン化により実行される場合、DSレベルは、典型的には0.05~0.4マイクロモル/g、好ましくは0.15~0.3マイクロモル/gの範囲内である。
【0120】
セルロースは酸化されてもよい。セルロースの酸化において、セルロースの第一級ヒドロキシル基は、複素環式ニトロキシル化合物により触媒的に、例えばN-オキシル媒介性触媒性酸化、例えば2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-1-オキシフリーラジカル、一般に「TEMPO」と呼ばれるものを通じて酸化されてもよい。セルロースβ-D-グルコピラノース単位の第一級ヒドロキシル基(C6-ヒドロキシル基)は、カルボン酸基に選択的に酸化される。一部のアルデヒド基もまた、第一級ヒドロキシル基から形成される。低い程度の酸化は効率的な十分な原線維化を可能とせず、より高い程度の酸化は機械的破壊処理後にセルロースの分解を与えるという発見に関して、セルロースは、伝導分析的滴定により決定される、0.5~2.0mmol COOH/gパルプ(またはmmol/gセルロース)、0.6~1.4mmol COOH/gパルプ、または0.8~1.2mmol COOH/gパルプ、好ましくは1.0~1.2mmol COOH/gパルプの範囲内の酸化されたセルロース中のカルボン酸含有量を有するレベルまで酸化されてもよい。TEMPOまたはN-オキシル媒介性酸化は、典型的には、0.3~1.5mmol COOH/gパルプ、好ましくは0.6~1.2mmol COOH/gパルプ、最も好ましくは0.7~1.1mmol COOH/gパルプの範囲内の電荷値まで実行される。
【0121】
化学的に陰イオン的に修飾されたナノフィブリルセルロース、例えば酸化されたセルロースはある特定の使用のために好ましいことが見出された。1つの実施形態において、ナノフィブリルセルロースは、酸化されたナノフィブリルセルロース、例えばTEMPO酸化されたナノフィブリルセルロースを含むか、またはそれである。
【0122】
触媒「TEMPO」が本開示において言及される場合は常に、「TEMPO」が関与するすべての測定および操作は、セルロース中のC6炭素のヒドロキシル基の酸化を選択的に触媒する能力を有するTEMPOの任意の誘導体または任意の複素環式ニトロキシルラジカルに等しくおよび類似的に適用されることは明らかである。
【0123】
そのように得られた酸化されたセルロースの繊維が水中で崩壊される場合、それらは、例えば、平均で3~5nmの幅であってもよい、個別化されたセルロース原線維の安定な透明な分散体を与える。酸化されたパルプを出発媒体として用いて、0.8%(w/w)の粘稠性において測定されるブルックフィールド粘度が、0.8%(w/w)の粘稠性および10rpmにおいて20℃±1℃で測定される少なくとも10000mPa・s、例えば10000~30000mPa・sの範囲内であるナノフィブリルセルロースを得ることが可能である。
【0124】
生産過程を増強するか、またはNFCもしくはNFCから形成される製造物の特性を改善もしくは調整するための助剤がナノフィブリルセルロース分散体中に含まれてもよい。そのような助剤は分散体の液相中で可溶性であってもよく、それらはエマルションを形成してもよく、またはそれらは固体であってもよい。助剤は、ナノフィブリルセルロース分散体の生産の間に原材料に既に加えられてもよく、またはそれらは、形成されたナノフィブリルセルロース分散体もしくはゲルに加えられてもよい。
【0125】
本出願は、ハイドロゲルを調製するためのナノフィブリルセルロースの使用を開示する。ナノフィブリルセルロースは、本明細書に開示される任意の好適なナノフィブリルセルロースであってもよい。本出願はまた、本明細書に開示される方法および目的のいずれか、例えば検査方法、がん研究、薬物研究および/または創薬、バイオマーカー研究、シグナル伝達研究、ならびに診断方法などのためのナノフィブリルセルロースの使用を開示する。
【0126】
ナノフィブリルセルロースはまた、ハイドロゲル中の唯一の原線維状、繊維状、ポリマー状、セルロースおよび/または有機物質であってもよいため、そのような場合において、ナノフィブリルセルロースに加えて他のマトリックスおよび/または強化材料は存在しなくてもよい。ハイドロゲルは、他の強化および/またはマトリックス様材料または構造、例えば合成、半合成もしくは天然ポリマーまたは他の化合物、例えばコラーゲン、タンパク質もしくはペプチドもしくは他の生物学的ポリマー、またはプラスチックポリマーを含有しなくてもよい。
【0127】
ナノフィブリルセルロースは、1つまたは複数の機能性分子、例えばサイトカイン、細胞外マトリックスタンパク質、例えばラミニンもしくはフィブロネクチン、医薬品分子および/または抗体を用いて機能化されてもよい。機能性分子は生物活性分子であってもよく、それらは様々な供給源を起源としてもよく、例えばそれらは組換えにより得られたおよび/または生物から単離されたものであってもよい。機能性分子は、共有結合的に取り付けられた(コンジュゲートされた)結合性分子を含有してもよく、これは、機能性分子が、ナノフィブリルセルロースにコンジュゲートされた受入れ分子(receiving molecule)に非共有結合的に結合することを可能にする。そのようなコンジュゲート可能な結合性分子の例はビオチンおよびアビジンを含む。
【0128】
1つの実施形態において、ナノフィブリルセルロースは、アビジンをコンジュゲートされたナノフィブリルセルロースを含む。アビジンは、ビオチン化された分子を用いてナノフィブリルセルロースを機能化することを可能にし、これは、1つまたは複数のビオチン化された機能性分子を用いてナノフィブリルセルロースを機能化するために使用され得る。アビジンの代替物はストレプトアビジンおよびニュートラアビジンを含む。アビジンとビオチンとの間の非共有結合は非常に高い結合親和性を有し、これはそれを本開示の目的のために特に好適なものとする。ビオチン化は化学的にまたは酵素的に実行され得る。
【0129】
ナノフィブリルセルロースがアビジンを用いてコンジュゲートされる場合、細胞培養培地中に(コンジュゲートされていない)ビオチンを加えるかまたは含めて、ハイドロゲル中の遊離アビジンを遮断することが必要であり得る。これは、遊離アビジンにより引き起こされる可能性がある有害効果、例えば炎症反応を予防するかまたは減少させることができる。
【0130】
1つの実施形態において、ナノフィブリルセルロースは、1つまたは複数のサイトカインを用いて機能化される。サイトカインは、本開示のex vivoモデルシステムの条件において、組織および細胞、特に免疫細胞の生存能、培養、維持および活性化を可能にするおよび/または促すことが見出された。サイトカインは免疫細胞の生存および腫瘍浸潤性リンパ球の維持をサポートすることが見出された。
【0131】
サイトカインは、任意の好適なサイトカインであり得るビオチン化されたサイトカイン、またはNFCマトリックスの機能化を可能とする任意の他の好適な結合性分子にコンジュゲートされたサイトカインを含んでもよい。サイトカインは、細胞シグナル伝達において役割を有する、通常は約5~25kDaの、小さいタンパク質またはペプチドの広い種類を表す。サイトカインの例は、ケモカイン、インターフェロン、インターロイキン、リンホカイン、および腫瘍壊死因子を含むが、ホルモンまたは増殖因子を一般に含まない。サイトカインの1つの例はインターロイキン(IL)、例えばインターロイキン2(IL-2)である。1つの実施形態において、ナノフィブリルセルロースは、ビオチン化されたIL-2を用いて機能化される。
【0132】
ナノフィブリルセルロースハイドロゲル中のナノフィブリルセルロースの濃度は0.25~1.2質量%の範囲内である。ほとんどの場合において、濃度は0.3~1.1質量%の範囲内であってもよい。
【実施例0133】
実施例
パーセンテージは、他に指し示されなければ、質量パーセント(重量による(by weight)、wt%、w/w)を指す。木材セルロースから得られたナノフィブリルセルロースを試験のために選択したが、これは、化学的に修飾されていないNFC(NFC)、透明な酸化された陰イオン性NFC(ANFC)およびアビジンをコンジュゲートされた透明な酸化された陰イオン性NFC(ANFC-A)を含んだ。酸化された陰イオン性NFCは、電子顕微鏡画像から決定された、50nm未満またはさらには25nm未満の数平均直径を有する原線維および/または原線維束を含んだ。
【0134】
PDECのためのNFCの最適化:
PDECのためのNFC濃度を最適化した。以下のマトリックス濃度は、培養において7日間PDEC生存をサポートすることが見出された:
NFC 0.3% & 1.0%
ANFC 0.3% & 0.7%
ANFC-A 0.3% & 0.7%
【0135】
ANFC-Aを、ビオチン化されたIL-2を用いて機能化した。機能化されたマトリックスもまた、培養において7日間PDEC生存をサポートすることができた。
【0136】
PDEC-TIMEのためのNFCの最適化:
ANFC-Aは炎症反応を引き起こすことが見出されたが、これは増殖培地中のビオチンの追加の補充により予防することができた。患者特異的な免疫細胞プロファイルがナノフィブリルセルロースにおいて一般に保持された。ANFC-AおよびANFCは、腫瘍内在性免疫細胞の保存においてNFCよりも良好な成績であった。TNFαおよびIL-1β産生は、より濃縮されたマトリックスにおいてより高かった。IL-6およびTGFβ産生は、より低く濃縮されたマトリックスにおいて経時的に増加した。試験されたマトリックスおよび濃度のいずれが、異なる免疫細胞種のために最良に適するのかを明らかにすることにより最適化に成功した。
【0137】
上述のマトリックス濃度はまた、PBMC免疫細胞の生存をサポートすることが見出された。しかしながら、ANFC-Aは炎症反応を引き起こすことが見出されたが、これは増殖培地中のビオチンの追加の補充により予防することができた。NFCは、IL-2補充の必要性なしに従来の浮遊方法よりもPBMCのための増殖利益を与えた。ナノセルロースの中で、T細胞は、高いポリマー濃度においてANFC-AおよびANFCにおいてより多く存在した。NK/NKT細胞およびCD14-単球はIL-2機能化に対して最も正の応答であった。単球は、異なるポリマー濃度に対して異なって応答する。
【0138】
研究問題の背景
PDECは、標準的な7日の培養条件においてNFCマトリックス中で良好に生存および増殖する。しかしながら、ナノフィブリルセルロース中で増殖されたPDECの生存能および増殖状態は正確にどのように長期培養において元々の腫瘍を反映するのかは知られていなかった。元々の腫瘍とNFC中のPDECとの相互性の程度がどのようなものであるのかを定義することは、現行の研究において計画されるすべての実験のために必須であり、したがって、増殖および生存能に関連する指標が最初に評価される。増殖は元々の腫瘍試料と比較される。
【0139】
「腫瘍免疫微小環境との患者由来乳がん外植片培養物」(TIME-PDEC)のためのスキャフォールドとしてのセルロースベースのマトリックスの好適性の検証
PDECのためのNFCの好適性
マトリックス濃度における増加は、免疫蛍光染色の間の外植片の喪失を予防するためであった。低濃度と高濃度との間の適正な差異がしかしながら維持された。ANFC-Aは、NFCにおける免疫細胞の生存を促進するために、ビオチン化されたインターロイキン-2(IL-2)の導入を用いて機能化されることを許容した。IL-2は、T細胞増殖を誘導し、および腫瘍微小環境中での免疫細胞の生存をサポートすることが予想され、これが、それが以前にT細胞増殖因子とも呼ばれた理由である。外植片生存能指標を、未培養の、0日目の試料の結果と比較したが、該試料は元々の腫瘍試料を表し、そのため、ex vivo培養の間の外植片生存能における任意の変化を明らかにする。
【0140】
これもまた外植片生存能を保存することが公知であるMatrigel培養物を、外植片ex vivo成長のための対照として使用した。各々の試験されたNFCマトリックスは、それらの濃度にかかわらず、元々の外植片生存能を保存することが見出された。外植片を、元々の腫瘍を表すそれらの未培養の対応物、およびMatrigel培養物と比較した。外植片は、細胞骨格染色(f-アクチン)を用いて観察されるそれらの3D構造およびインタクトな核(Hoechst)を保存した。活性カスパーゼ3(CC3)を用いて測定された場合に、細胞死における増加は、外植片の周辺のみにおいて、外植片構造の内側で7日の培養後に観察されず、NFCマトリックスは乳がん外植片ex vivo培養のために好適であることを示唆した(
図1~6)。ANFC-Aマトリックス中のビオチン化されたヒト組換えIL-2は、上皮細胞の生存能に対して任意の有害効果を有することは観察されず、さらなる腫瘍学研究のためのその安全な使用も確認された(
図5、6)。一般的な増殖レベル(Ki67)は、しかしながら、かなり低いことが観察されたが、同じことが未培養(0日目)の試料およびMatrigel培養物において観察されたため、これは、培養条件よりもむしろ腫瘍種類の結果としてもたらされた可能性がある(
図7~8)。
【0141】
免疫細胞は、あらゆる試験されたNFCマトリックス中で検出された(
図9)。しかしながら、マトリックス濃度における変化は、免疫蛍光染色プロトコールの大規模な洗浄の間に腫瘍および免疫細胞の喪失を予防しなかった。試料を、細胞を増殖させていた同じ8チャンバースライド中で染色した。この利点は、細胞を、同時に顕微鏡スライドである、それらが増殖されている同じ場所にマウントすることが可能であるため、1つの容器から別の容器に試料を移動させることを回避することが可能であるということである。免疫細胞の生存を定量化することおよび異なる免疫細胞種に対するNFCマトリックスの効果をモニターすることを可能にするために、IF染色(UH)の代わりにフローサイトメトリーを用いて次の分析を実行した。染色に伴う技術的な問題に起因して、培養物内の免疫細胞の正確な量について確定的なことを述べることは困難である。
【0142】
免疫細胞に対するNFCの効果
PBMCのフロー分析
免疫細胞数および免疫細胞種に対するNFCの直接的な効果をモニターするために、PDECを、末梢血単核細胞(PBMC)と呼ばれるナイーブ免疫細胞で置き換えた。ナイーブPBMC集団は、大まかに60%のT細胞、15%のB細胞、5%のNK細胞、ならびにマクロファージ、および組織中で樹状細胞に分化できる20%の単球から構成される。ここで、すべての細胞種がNFCによりサポートされるかどうか、それらが活性化されるかどうか、ならびに単球がマクロファージおよび樹状細胞に分化するかどうかを見ることが関心対象であった。細胞を、試験されるNFC中に包埋し、5日間(5d)培養した。
【0143】
培養後に、NFCを、GrowDaseを用いて+37C°で1h解離させ、Matrigel試料を、Cultrex Organoid Harvesting solutionを用いて+4C°で1h解離させた。生細胞を、フローサイトメトリー抗体パネルを用いて染色し、BD FACS Aria IIを用いて分析した。実験を2回繰り返した。実験の第1のセットにおいて、課題は、GrowDaseの不完全な性能に起因して細胞をマトリックスから十分に解離させることであった。NFC分解に伴う問題は、Matrigelと比較して低下した細胞数として結果において見られた。Cultrex Organoid Harvesting solution解離は、本開示の目的のために以前に既に最適化されていた。実験の第2のセットのためにマトリックス分解は最適化され、GrowDase酵素の濃度が増加された(5.2 プロトコール/フローサイトメトリーにおける詳細なプロトコールを参照)。
図10は、第2の実験からの結果を絶対的な細胞数として示す(
図10a~c)。ボールのサイズは細胞数と相対的なものであり、灰色の影も同様である。ボールのサイズがより大きくなり、灰色の影がより暗くなるほど、より多くの特定の種類の免疫細胞(免疫細胞種はY軸において示される)が試料(試料=マトリックス、x軸において指し示される)中に存在する。
CD80+CD86+樹状細胞、マクロファージ(M1)
CD80-CD86+単球、DC、マクロファージ(M2)
CD80+CD86-マクロファージ(M1)
CD80-CD86-単球
【0144】
FACSの結果によれば、各々のマトリックスは、IL-2を補充される伝統的な浮遊培養と比較してex vivo条件におけるPBMC細胞の維持においてより良好な性能を有した(
図10)。しかしながら、マトリックス解離におけるバラつきに起因して各々のマトリックスの性能を互いと比較することは困難である。したがって、各々の細胞種を、各々のマトリックス中の全生細胞数に対して正規化することにより、マトリックス解離における差異により引き起こされる技術的なバラつきを除外することおよび免疫細胞種に対する各々のマトリックスの効果のみに焦点を当てることが可能となった(
図11)。異なる免疫細胞種は、灰色の異なる影を用いて示される。Y軸は、各々のマトリックス中の異なる免疫細胞種のパーセンテージを示す(細胞の%はボール中に指し示される)。異なるマトリックスはX軸に示される。
【0145】
異なるNFCは、ex vivo条件において免疫細胞種を維持する異なる能力を有した。
【0146】
FACSの結果によれば、IL-2機能化は、NK、NKT、ならびにマクロファージおよび樹状細胞を含有するCD14-単球に対して正の効果を有した。
【0147】
NK、NKT、およびCD14-単球とは反対に、IL-2補充はCD14+単球に対して負の効果を有するようであった。この免疫細胞種は、低く濃縮されたNFCにおいて最も多く存在することが観察され、IL-2機能化は0.3% ANFC-Aにおいてそれらの存在量を低下させた。
【0148】
ナノセルロースのうち、T細胞は、より高く濃縮されたANFC-AおよびANFCゲルにおいてより多く存在した。
【0149】
5人の患者からの腫瘍をフローサイトメトリーで分析して、7日の培養の前および後の生腫瘍内在性免疫細胞および免疫細胞サブタイプの数を概算した(
図12)。ここで、条件は、Matrigel、NFC 0.3%、ANFC 0.3%、ANFC-A 0.3%、ビオチンありのANFC-A 0.3%、ビオチンおよびIL-2機能化ありのANFC-A 0.3%であった。生免疫細胞の量は、7日の培養後に新鮮な試料中の免疫細胞(CD45+)の総量の約20%であり、比は同じままであった。7日の培養後の3D培養物中のT細胞、B細胞、NK細胞ならびに骨髄細胞(単球、マクロファージおよび樹状細胞の集団)の存在を確認することができた(
図12)。患者由来免疫細胞は、研究された0.3%マトリックスのいずれにおいても明確により良好に保存されなかったが、患者不均質性と共に予想されたように結果は患者の間で変動した。
図12は、ボールと共に異なる免疫細胞種を図示する。ボールサイズがより大きくなり、灰色の影がより暗くなるにつれて、より多くのその種類の免疫細胞が存在する。より多くのCD80がマクロファージおよび樹状細胞(DC)上に発現されている。より多くのCD86が単球およびDC上に発現されている。
【0150】
FACSの結果と同様に、他の測定されたサイトカイン(TNF-α、IL-6、IL-1β、およびLAP[TGF-β1])は、免疫細胞組成における主に患者特有の変動を示した。例えば、2人の患者におけるより高いIL-4レベルはTGFβのより低いレベルと相関した。TGFβとIL-4との間のアンタゴニスト効果は文献から公知である。追加的に、2つの主要な傾向が結果から観察された。TNFαおよびIL-1β産生は、より高く濃縮されたマトリックスにおいて増加した一方、IL-6およびTGFβ産生は、軟マトリックスにおいて経時的に増加することが観察された。これらの結果は、異なるマトリックスは免疫細胞組成に差次的に影響することを示したFACS分析からの結果と合致している。IL-6およびTGFβは、抑制性サイトカインとして考えられ、より低く濃縮されたNFCにおけるこれらのサイトカインの産生は、免疫抑制性単球の集団における増加と相関することが観察された。より高く濃縮されたNFCは、より多くのT細胞保存(FACSにより指し示される)をサポートしたため、これらの材料において観察された炎症促進性サイトカインのより高いレベルと相関した。
【0151】
サイトカインの結果を円グラフと共に示す。異なるマトリックスは、異なる灰色の影と共に指し示される。特定の試料中のサイトカインのレベルがより高くなるほど、影は外縁のより近くに達する。数はpg/mlでのサイトカインの量を指し示す。
【0152】
ANFC-Aマトリックスにより引き起こされる炎症反応が、PDECサイトカインプロファイリングと共に見られた。結果は、ANFC-AマトリックスにおけるIL-4、IFN-γ、およびIL-10の明確な上方調節を明らかにした(
図14)。これらのサイトカインは炎症応答の指標である。IL-2サイトカイン分泌は、機能化されたマトリックスからのビオチン化されたIL-2の漏出に起因してNFC-PDEC増殖培地から測定することはできない(
図16)。望ましくない炎症反応を予防するために、空アビジン部位を遮断し、そのためこれらの遊離アビジン部位が培養培地のビオチンを盗むことを予防するために追加のビオチン処理工程をマトリックス機能化の後にプロトコールに含めることができた。PDEC増殖培地への1μMビオチンの添加は、NFC培養物中の炎症性サイトカインIFN-γの量を明確に減少させた(
図19)。
【0153】
PBMCと共に炎症効果がIFN-γサイトカインレベルの増加を通じて主に観察された(
図17)。追加的に、IL-4は、任意の追加のビオチン補充を伴わない高く濃縮されたANFC-Aにおいてピークとなることが観察された(
図17)。これは、PBMCSにおけるIL-4産生に対するビオチン補充の阻害効果を提唱する公知の文献と合致する。IL-2機能化は、両方ともIFN-γを産生するNKおよびNKT細胞に対して増殖利益を与えたため、これは、IFN-γが機能化されたマトリックスにおいてのみ見られる理由を説明する可能性がある。PDECを用いた場合と異なり、IL-10産生のみがPBMCSにおいてマトリックス剛性に依存していることが見られた。また、サイトカイン産生のいずれにおいても増加は経時的に見られず、これは、PBMC培養物からは存在しない、免疫細胞と腫瘍細胞との間の追加のレベルの調節を示唆し得る。経時的なサイトカイン産生の全般的な減少は、マトリックスから放出される、経時的な細胞の段階的な喪失を引き起こし得る培地変化の結果としてもたらされている可能性がある。別の理由は、これらのナイーブ初代細胞の一部は、FACSの結果から見られるように、異なる系列にコミットし、そのためそれらの再生能力を喪失するからである可能性がある。
【0154】
NFC増殖TIME-PDECにおける免疫的構成の包括的な分析
NFC増殖TIME-PDECにおける免疫細胞素性の分析
単一細胞RNAシークエンシングを使用して、免疫細胞素性を解明し、PDEC培養物におけるヒトT細胞の不均質性を定義した。目的は、最もCD45+を保存するNFC条件を選択することおよびNFC中で1週間増殖させた2つのTIME-PDEC試料から免疫細胞を選別し、それらを単一細胞シークエンシング分析に供することであった。0.3%の濃度のNFCは、
図10aに基づいて最も免疫細胞を保存する条件であると選択された。第1の分析は以下の条件:未培養(コラゲナーゼ処理後)、およびNFC 0.3%での培養と共に行った。条件の数は、単一細胞分析のための十分な数の生免疫細胞を確実にするためにできるだけ少なく保った。分析のために必要とされる生免疫細胞の最小量は条件当たり10000細胞である。第1の実験において、未培養の試料中の生免疫細胞の量は単一細胞シークエンシングのために少なすぎた。未培養の試料中の全体的なCD45+集団はかなり大きかったので、腫瘍解離方法は免疫細胞のために苛酷すぎたものであり、細胞は処理を生き延びなかった。次のアッセイのために、腫瘍解離方法のためのより穏やかなコラゲナーゼ処理は免疫細胞の生存を著しく改善し、2つの試料を単一細胞RNAシークエンシングのためにさらに処理した。
【0155】
NFC増殖TIME-PDECにおける腫瘍免疫微小環境の詳細な分析
免疫細胞に対する微小環境のより詳細な効果を調べるため、およびNFC増殖PDECの遺伝子発現プロファイルに対するex vivo培養の一般的な影響力を同時に分析するために、バルクRNAシークエンシングを行った。分析のために、5つの患者試料を分析した。選択された条件は以下であった:未培養(コラゲナーゼ処理後)、Matrigel、NFC(1.0%/0.3%)、ANFC(0.7%/0.3%)ならびにIL-2機能化ありおよびなしのANFC-A(0.7%/0.3%)。試料の量は各々の条件において元々類似していたが、RNAの量はNFC由来試料において非常に少なかった。RNEasy RNA extraction kit(Qiagen)の代わりに、Trizol抽出はNFC抽出のためにより好適であり、非常に多くの量の良好な品質のRNAをもたらす。これはプロジェクトの後に初めて発見された。
【0156】
一部の条件は分析のために十分なRNAを有しなかったが、これは5つの複製が各々の条件から達成され得なかった理由である。結果を、遺伝子セット富化分析(gene set enrichment analysis)(UC San Diego & Broad Institute)およびMolecular Signature Databaseを使用して分析し、Cytoscape(v.3.7.2)およびenrichment mapプラグインを使用して可視化した。ここで、遺伝子発現における変化を、遺伝子を遺伝子セット(Hallmark[50遺伝子のセット]、PID[196遺伝子のセット]、Biocarta[288遺伝子のセット]、および免疫細胞機能関連遺伝子セットの収集物)にグループ分けすることならびに異なる条件の間でこれらの遺伝子セットの富化を評価することにより分析した。分析は、NFC中でPDECを7日間培養した後にいずれの遺伝子セットが富化または減少されたかを示した。患者材料は非常に不均質であり、各々の患者のあらゆる培養条件から十分なRNAを得ることは困難であった。3つの生物学的複製物/条件をそのためシークエンシングのための最小として保った。RNA品質におけるバラつきに起因して、シークエンシングからのデータを最初に主成分分析(PCA)を用いて可視化して、RNA品質が試料クラスタリングに影響するかどうかを調べた(
図20)。RNA完全性値が高い(RIN>7=良好な品質のRNA)場合、不良なRNA品質(RIN<7)を有する試料を表す青色ドットと比較して赤色ドットにより表されるように試料は2D空間中でより分布した。分布における差異は、不良な品質の試料から、良好な品質の試料と比較してより少ないリードが、高発現される遺伝子から得られたことおよびライブラリーの多様性はそのためこれらの試料においてより低かったことを示唆する(
図20A)。RNA品質における差異がデータ分析において考慮されている。第2のPCAグラフにおいて、試料はまた、わずかに患者にしたがってクラスター化したようであり、これは多くの場合に腫瘍試料と共に見られる(
図20B)。トランスクリプトミクスに対する培養条件(マトリックス)からの効果を調べた場合(
図20における第3のPCA)、品質の差異および試料の起源の両方を考慮に入れた。
【0157】
調べられた遺伝子セットは、主要なシグナル伝達経路からのプロファイルおよび複数の免疫細胞プロファイルを含んでいた。3D培養されたPDECSと未培養の試料との間のトランスクリプトームにおける全般的な変化を調べるために、これらの2つの群の間の578個すべての遺伝子セットを最初に比較した。各々のボールは単一の遺伝子セットを表し、ボールの内側の各々のセクターは個々の増殖条件(マトリックス)を表す。3D培養において有意(qFDR=<0.2)に上方調節された遺伝子セットは赤色で示された一方、有意に下方調節された遺伝子セットは青色で指し示された。全部で535セットからの150個未満の遺伝子セットが、未培養の試料と比較して3Dマトリックスにおいて有意に富化された(FDR q<0.2)。次に、各々のマトリックスを未培養の試料と別々に比較して、マトリックス特異的な遺伝子発現プロファイルを調べた。マトリックスが試料の転写プロファイルに対して強い効果を有する場合、未培養の試料と比較した場合により多くの遺伝子セットが富化されると予想される。これは、例えば、試料の転写プロファイルに対して影響力を有する多くの増殖因子を含有することが公知である、Matrigelから見られた。遺伝子発現プロファイルに対するMatrigelの効果はPCAダイアグラムからも見られ、PCAダイアグラムにおいてMatrigel試料はNFC試料とは別々にクラスター化することが見られ、これは、マトリックスは試料の遺伝子発現プロファイルに明確に影響することを裏付けている(
図20B)。同様に、0.3% NFCマトリックスは、試料のほとんどにおいて残りのNFCとは別々にクラスター化することが観察された。複数のシグナル伝達経路における上方調節が、元々の腫瘍と比較して一般にNFCおよびMatrigelにおいて観察された。上方調節された遺伝子シグネチャーは、例えば以下の経路:TGFβ、mTOR、KRAS、WNTを含んでいた。これらの経路を上方調節しなかった唯一のマトリックスは1% NFCであった。
【0158】
scRNASEQを用いた最も詳細な免疫細胞分析を2つの患者試料P981TおよびP982Tについて行った。新鮮な未培養の腫瘍からの免疫細胞を、蛍光活性化細胞選別(FACS)を用いてそれらのCD45発現に基づいて単離した。単離された免疫細胞をシークエンシングに供した。残りの腫瘍を0.3% NFC中に包埋し、ex vivo条件において1週間培養した。免疫細胞を、培養された試料からそれらのCD45発現に基づいて単離した。単離された免疫細胞をシークエンシングに供した。scRNASEQからの結果は、すべての免疫細胞種が1週の培養後に培養物中に現れたことを示す。異なる免疫細胞サブタイプをそれらの発現プロファイルに基づいて同定した(
図21)。細胞数は、培養された試料と未培養の試料との間で変動し、これは試料のカバレージに影響する。これは、より低く発現される遺伝子を、3D培養された試料においてより良好に示すことにより結果に影響する。全体的な細胞数は、未培養の試料と比較して3D培養された試料においてより低いので、シークエンシングカバレージはより少ない数の細胞で割られ、これはより深いシークエンシングを結果としてもたらすため、低く発現される遺伝子を3D試料においてもより良好に示す。シークエンシング能力がより多くの数の細胞で割られる未培養の試料において、シークエンシングの深さはそのためより低く、その理由は、シークエンシング能力はより多くの数の細胞の間で割られるからである。カバレージにおける差異は、しかしながら、10x GenomicsのFIMM内蔵パイプラインを用いて考慮に入れられ、これはデータを、カバレージ差異にかかわらず異なる試料の間で同等のものとする。
【0159】
scRNASEQデータは、2人の患者の間の免疫細胞の構成における明確な差異を明らかにした(
図22、
図23)。両方の試料はルミナールB型の腫瘍であったが、患者P981T(P1)は腺管癌であり、P982T(P2)は小葉癌であった。
【0160】
未培養の試料と3D培養された試料との間の比較は、免疫細胞組成におけるわずかな変化を示した(
図24)。詳細な免疫細胞比較は、最も自明な変化は、3D培養物からの一部のT細胞サブタイプに関連付けられる遺伝子を大抵は発現するクラスターの消失において観察されることを明らかにした。また、B細胞および肥満細胞集団は3D培養物において減少した一方、骨髄細胞集団におけるわずかな増加が、未培養の試料と比較して3D培養物において観察された。結果は、低いNFC濃度は、より高いポリマーNFC濃度においてより多数であったT細胞と比較して骨髄細胞のためにより有益であることを示すことによりFACSの結果と合致する。以上を合わせて、結果は、低いポリマーNFC濃度は、サイトカイン産生および免疫細胞組成における変化により示される腫瘍細胞媒介性免疫細胞逃避をサポートする条件を再現することを示唆する。
図25は、未培養の試料(25B)および3D培養された試料(25A)中の免疫細胞種の割合を示す。2つの患者試料は一緒にプールされている。
【0161】
材料および方法
PDECの培養
原発性乳がん組織を小さい外植片に加工し(Haikalaら(Pharmacological reactivation of MYC-dependent apoptosis induces susceptibility to anti-PD-1 immunotherapy、Nature Communications、2019年10巻:620号;https://www.nature.com/articles/s41467-019-08541-2において以前に記載されている)、3Dマトリックス中に包埋した。ドームを形成する、ウェル当たり全部で40μlのマトリックス中、500μlのMammoCult増殖培地(STEMCELL、#05620)中ex vivoで7日間、8ウェルチャンバースライド(Thermo Fisher Scientific、177402)上で培養した。試験された3Dマトリックスは以下:NFC(1.0%/0.3%)、ANFC(0.7%/0.3%)およびANFC-A(0.7%/0.3%)、および対照としての非希釈のMatrigelであった。Matrigelは、ウェル中で500μlのMammoCult増殖培地と共に40μlのマトリックスとして使用した。生産者の指示書にしたがって所望される濃度までNFCを希釈した。ANFC-Aを、ヒト組換えビオチン化IL-2(2ng/ml)(BT202-025/CF、R&D Systems)を用いて機能化した。1x PBS中に希釈された50μlのIL-2を300μl(0.3%)または700μl(0.7%)のNFCと混合し、1時間RTでインキュベートした。機能化されたマトリックスを培養培地と混合して正確な濃度(0.3%について550μlおよび0.7%について150μl)を調整した。最後に、外植片を他の研究されたマトリックスと同様にマトリックスと混合した。患者由来外植片培養物(PDEC)の3つの生物学的複製物を各々の条件において処理した。
【0162】
PBMCの培養
1人のドナーからのバフィコートをFRC blood service、Helsinkiから得た。ヒト末梢血単核細胞をFicol-Paque密度遠心分離で単離し、-145℃で貯蔵した。細胞を急速に解凍し、希釈されたNFCと混合し、その結果、1つの8ウェルチャンバースライドは40μlのマトリックス中に200万個の細胞を十分に含有した。500μlの培地を上に加え、培地が3日目に補充されるときに、試料をサイトカインプロファイリングのために収集した。5日目に増殖培地をサイトカインプロファイリングのために収集し、3D培養物をフローサイトメトリー分析のためにさらに処理した。3D培養に加えて、200万個のPBMCを浮遊培養として培養し、この場合、細胞を、IL-2補充(2ng/ml)ありまたはなしで、低接着6ウェルプレート上の2mlの増殖培地中に加えた。浮遊培養において、培地は5日の培養の間に交換しなかった。
【0163】
免疫蛍光染色
外植片の生存能、増殖およびアポトーシスに対する3D培養の効果を、免疫蛍光染色を用いて分析した。細胞を免疫蛍光マーカーki67(ab15588)およびCC3(Cell signalling # 9661)で然るべく染色した。最初に、細胞を4% PFAで10分間固定し、免疫蛍光(IF)緩衝液(7.7mM NaN3、0.1% BSA、0.2% Triton-X、0.05% Tween20)で3×10分洗浄し、次にPBS中の0.25% Triton-Xで20分間透過処理し、再び洗浄した。細胞を1h、RTでIF緩衝液中の10%正常ヤギ血清(カタログ番号16210064、Thermo Fisher Scientific)とインキュベートすることにより非特異的結合部位を遮断した。一次抗体を次に遮断緩衝液中に希釈し、細胞と24h、+4℃で静的にインキュベートした。一次抗体とのインキュベーション後に、細胞をIF緩衝液で穏やかな振盪下RTで3×20分洗浄した。一次抗体およびF-アクチンに対する二次抗体を遮断緩衝液中に希釈し、細胞と15~17h、+4℃で光から保護してインキュベートした。F-アクチン(細胞骨格)をAlexaFluor Phalloidin 546(Invitrogen、A22283)で、細胞核をHoechstで標識した。Hoechst染色は10分であった。二次抗体とインキュベーション後に試料をIF緩衝液で2回洗浄し、Immu-Mountを用いてマウントした。
【0164】
共焦点顕微鏡法
免疫染色された細胞構造を共焦点レーザー走査型顕微鏡(HC PL APO 40x/1.10 water CS2対物レンズを有するLeica TCS SP8 MP CARS、Leica Microsystems)でイメージングした。ピンホールを1.00AUに設定し、405nmダイオード、488nmアルゴンおよび561nm DPSSレーザーを使用した。
【0165】
サイトカインプロファイリング
3日目および7日目の時点においてNFC増殖PDECまたはPBMCから収集された培地(1ml)を-80℃で分析の日まで貯蔵した。収集された増殖培地の体積は問題ではなく、その理由は、各々の試料から同じ体積(100μl)を分析において使用したからである。解凍後に遠心分離(10分、10000G、RT)により細胞およびマトリックスデブリを除去した。増殖培地に分泌されたサイトカインを、生産者のプロトコールにしたがってDuoSet Ancillary Reagent Kit 2(DY008)と共にR&D DuoSetELISA kit(IL2:DY202-05、IL-10:DY217B-05、TNF-α:DY210-05、IFN-γ:DY285B-05、IL-4:DY204-05、IL-6:DY206-05、IL-1β/IL1F2:DY201-05、LAP(TGF-β1):DY246-05)を用いて分析した。簡潔に述べれば、プレートを捕捉抗体で終夜RTで被覆し、3回洗浄し、PBS中の1% BSAで1時間ブロッキングした。増殖培地中に希釈された試料を加え、2時間RTでインキュベートした。3回の洗浄後に、検出抗体を加え、2時間RTでインキュベートした。洗浄後に、ストレプトアビジン-HRPを加え、20分間RTでインキュベートし、光から保護した。洗浄後に、基質溶液を20分間加え、光から保護した後、反応を停止溶液で停止させ、吸光度を直ちに、450nm、およびバックグラウンドを差し引くための540nmに設定されたマイクロプレートリーダー(Omega Fluostar、BMG Labtech)を使用して決定した。
【0166】
フローサイトメトリー
リンパ球およびマクロファージパネル抗体を用いてフローサイトメトリーによる免疫表現型分析のためにNFC増殖PBMCを染色した。最初に、ウェル当たり250μlの希釈されたGrowDase酵素を加えることにより40μlのNFC-PBMCを解離させ、+37℃で1時間インキュベートした。
【0167】
5mg/mlの作用濃度をもたらすGrowDase酵素[ストック=10mg/ml]の1:2希釈液を作製した。この希釈液から250μlを使用して1%および0.7%ゲルを分解した。
【0168】
0.3%ゲルのために1:3の酵素希釈液を作製し、これは3.3mg/mlの作用濃度を形成する。そのような希釈液から250μlを使用して0.3%ゲルを分解した。
【0169】
この量の酵素は、細胞に害を与えることなく、1時間のうちにNFCを効率的に解離させることができた。Matrigel Growth Factor Reduced Basement Membrane Matrix(Corning、354230)を、400μl/ウェルの非希釈のCultrex Organoid Harvesting Solution(Nordic Biosite、3700-100-01)を用いて+4℃で1h解離させた。浮遊培養細胞をピペッティングにより収集し、増殖培地を遠心分離により除去した。採取された細胞を2つのセットに分け、これらをパネル1またはパネル2のいずれかの抗体混合物(条件当たり100万個の細胞)を用いて1.5時間免疫標識した(表1)。SYTOX green死細胞マーカー(Thermo Fisher Scientific、S34860)およびCountbright Absoluteカウンティングビーズ(Invitrogen、C36950)を試料チューブに加え、BD FACS Aria II(BD Biosciences)を用いて行った試料獲得の間にカウントされたビーズに対して細胞数を正規化した。UltraComp eBeads Plus Compensation Beads(Invitrogen、01-3333-42)をシグナル補償設定のために単一の抗体コンジュゲートで標識した。データをFlowJoバージョン10.7で分析した。
【0170】
以下のゲーティング戦略をPBMCリンパ球および単球集団の同定のために使用した(
図18~21を参照)。リンパ球および骨髄細胞集団を前方散乱対側方散乱ドットブロット上でサイズに基づいて同定した。死細胞をSYTOX green染色に基づいて除外した。T細胞をCD3陽性として同定し、これらからサブタイプであるヘルパーT細胞をCD4陽性として、細胞傷害性T細胞をCD8陽性として、ナチュラルキラーT細胞をCD56陽性として同定した。NK細胞をCD3-CD56+リンパ球集団として同定した。活性化NK細胞はCD16マーカーを喪失し始め、活性化T細胞はCD69マーカーを発現し始める。B細胞をCD19陽性集団として同定した。骨髄細胞(単球、マクロファージおよび樹状細胞)は高いCD80および高いCD86を発現する。これらから単球集団をCD14マーカーを用いて同定した。CD14陰性細胞はマクロファージおよび樹状細胞であり、これらからCD16発現細胞をM1クラスマクロファージとして同定した。両方のPBMCのためのゲーティング戦略を
図26~30に示す。
【0171】
【0172】
3人の患者からのPDECをフローサイトメトリーで分析して、7日の増殖後の試料における免疫細胞の構成および生存能の概算を得た。以下の増殖条件を使用した:Matrigel、NFC 0.3%、ANFC 0.3%、ANFC-A、ならびにIL-2機能化ありまたはなしのビオチンありのANFC-A 0.3%。1μMのビオチン(Sigma、B4639-1G)をANFC-A試料における増殖培地に加えた。マトリックスを上記のように解離させた。採取された細胞をパネル3抗体混合物(表2)で45分間免疫標識した。SYTOX green死細胞マーカー(Thermo Fisher Scientific、S34860)およびCountbright Absoluteカウンティングビーズ(Invitrogen、C36950)を試料チューブに加え、BD FACS Aria II(BD Biosciences)を用いて行った試料獲得の間にカウントされたビーズに対して細胞数を正規化した。UltraComp eBeads Plus Compensation Beads(Invitrogen、01-3333-42)をシグナル補償設定のために単一の抗体コンジュゲートで標識した。データをFlowJoバージョン10.7で分析した。
【0173】
【0174】
以下のゲーティング戦略をPDECリンパ球および単球集団の同定のために使用した(
図23を参照)。最初に、デブリおよびカウンティングビーズをFCS対SSCブロット上でサイズに基づいて除去し、シングレットをFSC-H対FCS-Aブロットから分離した。死細胞をSYTOX green染色に基づいて除外した。CD45陽性免疫細胞をCD45陰性がん細胞から分離した。T細胞をCD3陽性として、ならびにナチュラルキラーT細胞をCD3およびCD56陽性細胞として同定した。NK細胞をCD3-CD56+リンパ球集団として同定した。CD3陰性細胞から、B細胞をCD19陽性集団として、ならびに骨髄細胞(単球、マクロファージおよび樹状細胞)を高CD80および高CD86発現細胞として同定した。生/死免疫細胞を決定するために、細胞を追加的に最初にCD45発現に基づいて選択し、次にSYTOX green陽性(死)および陰性(生)集団として分離した(図示せず)。
【0175】
バルクRNAシークエンシングおよびデータ分析
5つの患者試料からのRNAを7日の培養後にRNeasy Mini kit(Qiagen 74106)を用いて単離し、DNAをZymo RNA clean & concentrator kit(R1019)で除去した。対照として、コラゲナーゼ処理の後に、腫瘍の部分を培養なしで凍結した(未培養)。選択された条件は、Matrigel、NFC(1.0%/0.3%)、ANFC(0.7%/0.3%)ならびにIL-2機能化ありおよびなしのANFC-A(0.7%/0.3%)であった。抽出の前に、培地をサイトカイン分析のために収集し、残りの試料を、マトリックス分解なしで、-80℃でさらなる処理まで凍結させた。解凍された試料をベータ-メルカプトエタノールを含む350μlの緩衝液RLTで溶解し、試料を20G針に通過させることによりホモジナイズした。350μlの70%エタノールを加え、試料をスピンカラムに移した。洗浄後に、試料を30μlのRNAse非含有水で溶出させた。DNA消化ならびにRNA精製および濃縮を抽出の直後にRna Clean & Concentrator(商標) kit(Zymo Research、BioSite-R1013)を用いて行った。RNAをRNAse非含有水で溶出させ、濃度をNanodropで測定した。RNAを-80℃で分析まで凍結させた。QubitでのRNA濃度の確認、TapeStationでのRNA品質チェック、およびIllumina NextSeq 500でのバルクRNAシークエンシングは、the Biomedicum Functional Genomics Unit、the Helsinki Institute of Life ScienceおよびBiocenter Finland、the University of Helsinkiにより提供されるサービスとして行われた。検出可能なRNAレベルを有しない試料を分析から除外した。バルクRNAシークエンシングからのデータをGene Set Enrichment Analysis(UC San Diego & Broad Institute)およびMolecular Signature Databaseを使用して分析する。
【0176】
単一細胞RNAシークエンシング
2人の患者からの新鮮な腫瘍試料を終夜コラゲナーゼを用いて+37℃で穏やかな振盪と共に消化した。翌日、0日目の試料(未培養)をフローサイトメトリー分析のために処理し、残りの試料をNFC 0.3%中で7日間、上記のように培養した。フィルターキャップチューブを使用して細胞を解離させた。採取された細胞をCD45抗体(3μl/試料)で45分間免疫標識し、細胞選別はBD Influx Cell sorterで、Biomedicum Flow Cytometry Unit(HiLIFE、University of Helsinki)からのサービスとして行われた。細胞をPBS(Mg2/Ca2なし)+ 0.04% BSA中に収集した。単一細胞RNAシークエンシングはFIMM Single-Cell Analytics unitにおけるサービスとして行われた。
【0177】
単一細胞シークエンシングおよび分析をFinland Institute of Molecular Medicineと共に10xプロトコールおよびソフトウェアを使用して行った。
【0178】
4つすべての試料の遺伝子バーコードマトリックスを10xプロトコールで集合させた。集合させた遺伝子バーコードマトリックスをさらなる分析のために使用した。
【0179】
健常なおよびダブレットを有しない信頼できる細胞を得るために個々の細胞を次に以下の基準を用いてフィルタリングした。ミトコンドリア遺伝子のパーセンテージは10%未満に設定し、200より多く5000より少ない個々の遺伝子の数、500より高く30000より低いUMIとした。健常でない細胞およびダブレットの除去後に、全部で12188個の細胞がさらなる分析のために選択された。NFC 0.3%におけるドナー1からの932個の細胞および同じドナーからの未培養の試料における5581個の細胞があった。第2のドナーからのNFC 0.3%において541個の細胞が残り、同じ患者からの未培養の試料は5134個の健常細胞を提供した。未培養の試料とNFC試料との間の細胞数における差異を主な分析において、そしてまたグラフ表現において考慮に入れた。細胞数における10倍の差異は試料の間でシークエンシング深さにおけるバイアスを作り出す。シークエンシング深さは、各々の細胞がどれほど詳細に分析されるのかを記載するパラメーターである。深さが大きい場合、少ないmRNA量であっても細胞からシークエンシングされる。深さがより浅い場合、最も一般的に発現されるmRNAのみが検出される。深さは、免疫細胞サブタイプがどれほど詳細に検出され得るのかの限度である。シークエンシングランは、試料当たりでn個のmrnaリード(nは試料の間で一定である)を認識する限られた能力を有する。これは、非常に単純な数式:n=細胞×シークエンシング深さにおいて記載され得る。そのため、より多くの細胞がある場合、細胞当たりでより少量の情報が得られる。非常に少ない細胞がある場合、細胞当たりの情報の量はより大きく、サブタイプはより詳細に検出される。このバイアスは、予備分析と共に考慮に入れられた。シークエンシング深さは、最も非詳細な試料にマッチさせるために試料のすべてにおいてダウンスケールされる。これに起因して、すべての試料は情報の同じ正確性を有する。さらに、グラフは、試料中のすべての細胞からのパーセンテージとして細胞数を記載する。NFC試料と未培養の試料との間で差異が作り出されなかった場合、ランダムな試料(試料サイズが十分に大きい場合)中の異なる細胞種のパーセンテージはおおよそ同じはずである(自明なことにある程度の生物学的バラつきを伴う)。しかしながら、パーセンテージにおける何らかの差異が見られることがあり、これは、関心対象の本開示のマトリックスは、試料の細胞組成に対して真の効果を有することを意味する。
【0180】
異なる試料の間のバッチ効果が最小化されるようにSeurat v3を試料の統合のために使用した。フィルタリングされた遺伝子バーコードマトリックスを次にSeurat v3で正規化した。対数正規化の見解(opinion)を使用し;各々の細胞の特徴カウントをその細胞からの総カウントで割り、スケール係数で乗算した。この後に、各々の値をlog1pで自然対数変換した。
【0181】
最後に、遺伝子バーコードマトリックスをPCAで分析し、Uniform Manifold Approximation and Projectionを上位20個の主成分で行った。JackStraw分析を使用することによりおよび各々のクラスター中の上位の遺伝子の視覚的表現を用いて最適な数のPCAを選択した。分解能0.5を用いたグラフベースのクラスタリングをSeurat v3ライブラリーの良好なプラクティスにしたがって行った。分解能の変更と共に異なるクラスターの安定性およびサイズを観察することを可能とするclustree-packageを用いて最適な分解能を得た。
【0182】
個々のクラスターを次に、各々の細胞種のための従来のマーカーを用いて同定した。これらのマーカーならびに各々のクラスター中の細胞発現細胞(cells expressing cells)のそれらの平均発現およびパーセンテージは補遺において提供される。
【0183】
材料
機器:
・HC PL APO 40x/1.10 water CS2対物レンズを伴うLeica TCS SP8 MP CARS共焦点レーザー走査型顕微鏡(Leica Microsystems)
・BD FACS Aria II Flow cytometer(BD Biosciences)
・Omega Fluostar microplate reader(BMG Labtech)
サービス:
・Qubit、Biomedicum Functional Genomics Unit
・TapeStation、Biomedicum Functional Genomics Unit
・Bulk RNA sequencing、Biomedicum Functional Genomics Unit
・Chromium Single Cell Gene Expression analysis、FIMM Single-Cell Analytics unit
・BD Influx Cell sorter、Biomedicum Flow Cytometry Unit
試薬:
・NFC(ロット:100 103 005)
・ANFC(ロット:121 140 920)
・ANFC-A(ロット:121 962 620)
・GrowDase(ロット:180 020 820)
・AlexaFluor Phalloidin 546(Invitrogen、A22283)
・ki67(Abcam、ab15588)
・CC3(Cell signaling、# 9661)
・CD11b(Abcam、ab8878)
・CD45(Leica、NCL-L-LCA)
・IL-2(2ng/ml)(R&D Systems、BT202-025/CF)
・Matrigel Growth Factor Reduced Basement Membrane Matrix(Corning、354230)
・Cultrex Organoid Harvesting Solution(Nordic Biosite、3700-100-01)
・MammoCult growth media(STEMCELL、#05620)
・8-well chamber slides(Thermo Fisher Scientific、177402)
・Immu-Mount(Thermo Scientific、9990402)
・Human DuoSet ELISA(R&D Systems;IL2:DY202-05、IL-10:DY217B-05、TNF-アルファ:DY210-05、IFN-ガンマ:DY285B-05、IL-4:DY204-05、IL-6:DY206-05、IL-1ベータ/IL1F2:DY201-05、LAP(TGF-ベータ1):DY246-05)
・DuoSet Ancillary Reagent Kit 2(R&D Systems、DY008)
・UltraComp eBeads Plus Compensation Beads(Invitrogen、01-3333-42)
・Countbright Absolute counting beads(Invitrogen、C36950)
・SYTOX green(Thermo Fisher Scientific、S34860)
・Biotin(Sigma、B4639-1G)
・RNeasy Mini kit(Qiagen、74106)
・Rna Clean & Concentrator(商標) kit(Zymo Research、BioSite-R1013)
【0184】
【0185】
結果
木材由来NFCマトリックスは、乳がん外植片ex vivo培養のために好適であることが見出された。細胞死における増加は、木材セルロースから得られた3つのマトリックス(化学的に修飾されていないNFC(NFC)、透明な酸化された陰イオン性NFC(ANFC)またはアビジンをコンジュゲートされた透明な酸化された陰イオン性NFC(ANFC-A))のいずれにおいてもまたは試験された濃度(0.3%および0.7/1.0%)のいずれにおいても7日の培養の間に観察されなかった。NFCはまた免疫細胞の生存能および活性化をサポートした。免疫細胞集団に対するNFCの直接的な効果が、フローサイトメトリー方法を使用し、末梢血単核細胞(PBMC;T細胞、B細胞、NK細胞、および単球の集団)を用いて研究された。研究されたマトリックスの各々は、懸濁液での従来の増殖において通常は必要とされるIL-2の追加の補充なしで免疫細胞の生存をサポートすることができた。すべての調べられたNFCはまた、3D条件において患者由来外植片培養物(PDEC)の生存能をサポートし、腫瘍内在性免疫細胞を保存した。患者由来腫瘍およびPBMCの両方からのサイトカイン分泌は、しかしながら、異なるマトリックスにおける免疫細胞種を維持する能力における差異を明らかにした。第1に、ANFC-Aマトリックスは、PDECおよびPBMCの両方において炎症反応を引き起こすことが観察された。これは、他のマトリックスと比較してANFC-Aにおいてのみ炎症性サイトカイン(IL-2、IFNγ、およびIL-4)の産生から著明であった。炎症反応の理由は、培養培地からビオチンを盗み、そのため培養物に対してビオチン枯渇を引き起こす、マトリックス中の遊離アビジン部位に後続することが疑われた。この仮説を試験するために、追加のビオチンをマトリックスの機能化後に培養培地中に補充した。増殖培地にビオチンを加えることは、培地中への炎症性サイトカイン分泌を明確に減少させた。
【0186】
IL-2は、免疫細胞の生存および特には腫瘍浸潤性リンパ球(TIL)の維持をサポートすることが見出された。したがって、IL-2を、免疫腫瘍学的目的のためにマトリックス機能化を試験するための候補として選択した。ビオチン化されたIL-2でのANFC-Aの機能化は、TIL維持のための良好な選択であるようであり、免疫細胞のより良好な生存が、機能化されたANFC-Aにおいてフローサイトメトリー分析で観察された。特にはNKおよびNKT細胞はIL-2機能化に対して最も陽性に応答するようであった。使用されたIL-2濃度は、PBMCのための従来の浮遊培養において使用されるものと同じであった。
【0187】
ナノセルロースのフローサイトメトリー分析によれば、T細胞は、より高いポリマー濃度においてANFC-AおよびANFCにおいてより多く存在した。両方のマトリックスは、NFCよりもT細胞維持においてより良好な成績であった。単球でポリマー濃度への差次的な応答が示された。CD14+単球は一般に低く濃縮されたマトリックスを選好するようであり、IL-2機能化は、これらの細胞のための任意の増殖利益を与えることは観察されなかった。反対に、CD14-単球はIL-2補充に対して陽性に応答したが、マトリックス剛性に対していかなる選好性も示さなかった。
【0188】
PDECからの結果は一般に、NFCは患者試料の全体的な免疫細胞の構成を保持することができ、そのため患者特異的な免疫細胞プロファイルを捕捉することができることを示した。異なる免疫細胞種を維持する能力における何らかの差異が異なるNFCマトリックスの間で観察された。これらの観察の1つは、ANFC-AおよびANFCマトリックスと比較した非修飾のNFCのより低い性能であった。
【0189】
FACSからの結果をさらに確認するために、腫瘍内在性免疫細胞の活性を異なるNFC中のPDECにおいて調べ、3D培養からのサイトカインプロファイルを分析した。2つの主要な発見が観察された。TNFαおよびIL-1β産生は硬いマトリックスにおいて増加した一方、IL-6およびTGFα産生は軟らかいマトリックスにおいて経時的に増加した。これらの観察は、FACS分析からの結果と合致し、異なる材料における特定の免疫細胞集団の発見を裏付けた。同じ条件におけるPBMCと比較した場合、類似した現象は観察されなかったが、これは、異なるNFC条件における腫瘍細胞から来る免疫細胞に対する追加のレベルの調節を示唆する。
【0190】
腫瘍と腫瘍内在性免疫細胞との間の動態をさらに調べるために、元々の未培養のおよび3D培養された対応物について単一細胞RNAシークエンシングを行った。シークエンシングは、NFCで培養されたPDECは腫瘍の元々の免疫細胞組成を保持し、患者特異的なプロファイルを保持することができることを裏付けた。追加的に、免疫細胞の構成におけるわずかな変化が観察された。最大の差異は骨髄系列において観察され、これは、元々の腫瘍と比較して0.3% NFCで培養された外植片において増加した。同時に、B細胞、肥満細胞、およびT細胞集団は、わずかに減少することが観察された。
【0191】
最後に、バルクRNAシークエンシングを行って、CMB培養におけるPBMCと比較して腫瘍内在性免疫細胞の調節における観察される差異に寄与し得る腫瘍細胞の発現プロファイルにおける変化を調べた。複数のシグナル伝達経路における上方調節が、元々の腫瘍と比較して一般にNFCおよびMatrigelにおいて観察された。上方調節された遺伝子シグネチャーは、例えば以下の経路:TGFβ、mTOR、KRAS、WNTを含んでいた。これらの経路を上方調節しなかった唯一のマトリックスは1.0% NFCであり、これはそのため、その発現プロファイルにより元々の未培養の試料のほとんどに似ていた。