(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023118089
(43)【公開日】2023-08-24
(54)【発明の名称】繊維強化ポリアミド成形材料
(51)【国際特許分類】
C08L 77/00 20060101AFI20230817BHJP
C08K 3/08 20060101ALI20230817BHJP
C08L 77/06 20060101ALI20230817BHJP
C08K 3/38 20060101ALI20230817BHJP
C08K 7/04 20060101ALI20230817BHJP
C08K 7/14 20060101ALI20230817BHJP
【FI】
C08L77/00
C08K3/08
C08L77/06
C08K3/38
C08K7/04
C08K7/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023018010
(22)【出願日】2023-02-09
(31)【優先権主張番号】CH000127/2022
(32)【優先日】2022-02-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CH
(71)【出願人】
【識別番号】520424630
【氏名又は名称】エムス-ケミー アーゲー
【氏名又は名称原語表記】EMS-Chemie AG
【住所又は居所原語表記】Via Innovativa 1 7013 Domat/Ems Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】100133503
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 一哉
(72)【発明者】
【氏名】エプリ, エティエネ
(72)【発明者】
【氏名】ハーダー, フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】ホッフマン, ボートー
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CL011
4J002CL031
4J002CL032
4J002DA016
4J002DK007
4J002DL006
4J002FA046
4J002FD016
4J002GB00
4J002GC00
4J002GM00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】 (修正有)
【課題】反り、衝撃強さ及びノッチ付き衝撃強さ、破断時の引張強度及び破断時の伸び、並びに表面品質、荷重たわみ温度並びにカビ及び/又は細菌への耐性を有するポリアミド成形材料を提供する。
【解決手段】A;ポリマー混合物であって、A1;PA6、PA46、PA56、PA66、PA66/6、PA610、PA612、PA6/12、PA1010、PA11、PA12等から選択される少なくとも1種の半結晶性脂肪族ポリアミド、A2;PA6I、PA5I/5T、PA6I/6T、PA10I/10T、PA10T/6T、PA6T/BACT/66/BAC6、PA MXD6等から選択される少なくとも1種の半芳香族ポリアミド、からなるポリマー混合物、
B;強化繊維、
C;金属ホウ酸塩、
D;A、B及びCとは異なる添加剤からなり、
成形材料はハロゲン化銅及びホスフィン酸金属塩の両方を含まない。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド成形材料であって、
A ポリマー混合物であって、
A1 PA6、PA46、PA56、PA66、PA66/6、PA610、PA612、PA6/12、PA1010、PA11、PA12、PA1012、PA1212といった群及びそれらの混合物から選択される、55~85重量%の少なくとも1種の半結晶性脂肪族ポリアミドA1、
A2 PA6I、PA5I/5T、PA6I/6T、PA10I/10T、PA10T/6T、PA6T/BACT/66/BAC6、PA MXD6、PA MXD6/MXDIといった群及びそれらの混合物から選択される、15~45重量%の少なくとも1種の半芳香族ポリアミド、からなり、
A1とA2の合計がAの100重量%である、33~79.4重量%のポリマー混合物、
B 20~60重量%の強化繊維、
C ホウ酸に対する金属のモル比が0.5~4の範囲である、0.6~2.0重量%の金属ホウ酸塩、
D A、B及びCと異なる、0~5.0重量%の添加剤、
からなり、成分A~Dの合計は100重量%であり、前記成形材料がハロゲン化銅もホスフィン酸金属塩もどちらも含まない、ポリアミド成形材料。
【請求項2】
各場合において成分A~Dの合計に対し、成分Aの比率が40.4~74.4重量%の範囲、好ましくは46.6~69.25重量%の範囲であり、
かつ/又は
各場合において成分A1及びA2の合計に対し、成分A1の比率が60~85重量%の範囲、好ましくは65~80重量%の範囲であり、成分A2の比率が15~40重量%の範囲、好ましくは20~35重量%の範囲であり、
かつ/又は
各場合において成分A~Dの合計に対し、成分Bの比率が25~55重量%の範囲、好ましくは30~50重量%の範囲であり、
かつ/又は
各場合において成分A~Dの合計に対し、成分Cの比率が0.6~1.6重量%の範囲、好ましくは0.7~1.4重量%の範囲であり、
かつ/又は
成分Dの比率が0~3.0重量%の範囲、好ましくは0.05~2.0重量%の範囲である
ことを特徴とする、請求項1に記載のポリアミド成形材料。
【請求項3】
前記ポリアミドA1がPA6、PA56、PA66、PA66/6、PA610及びそれらの混合物から選択され、
かつ/又は
前記ポリアミドA2がPA6I/6T、PA6T/BACT/66/BAC6及びそれらの混合物から選択される
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載のポリアミド成形材料。
【請求項4】
前記成分A2が、
55~85mol%のヘキサメチレンイソフタルアミド単位及び15~45mol%のヘキサメチレンテレフタルアミド単位を含む非晶質半芳香族ポリアミドPA6I/6T、
並びに/又は
55~70mol%のヘキサメチレンテレフタルアミド単位、20~25mol%の1,3-ビス(アミノメチル)-シクロヘキサンテレフタルアミド単位、6~16mol%のヘキサメチレンアジポアミド単位及び2~4mol%の1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンアジポアミド単位を含む半結晶性半芳香族ポリアミドPA6T/BACT/66/BAC6から選択されることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載のポリアミド成形材料。
【請求項5】
前記強化繊維Bが
ガラス繊維であり、
及び/若しくは
E-ガラス繊維、ECR-ガラス繊維、D-ガラス繊維、L-ガラス繊維、S-ガラス繊維及び/若しくはR-ガラス繊維からなる群から選択され、
並びに/又は
ガラス長繊維(連続ガラス繊維、ロービング)であり、
及び/若しくは
直径が10~20μmの範囲、好ましくは12~17μmの範囲である、ことを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載のポリアミド成形材料。
【請求項6】
ISO 75:2013による荷重たわみ温度HDT-Cが少なくとも120℃、好ましくは少なくとも130℃、特に好ましくは少なくとも200℃であり、
及び/又は
ISO 75:2013による荷重たわみ温度HDT-Aが少なくとも200℃、好ましくは少なくとも230℃である
ことを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載のポリアミド成形材料。
【請求項7】
前記金属ホウ酸塩Cが、ホウ酸ナトリウム、特に五水ホウ砂(Na2O・2B2O3・5H2O)、ホウ砂十水和物(Na2O・2B2O3・10H2O)、無水ホウ砂(Na2O・2B2O3)及び八ホウ酸二ナトリウム四水和物(Na2O・4B2O3・4H2O)、ホウ酸マグネシウム(2MgO・B2O3)、ホウ酸カルシウム(2CaO・3B2O3・5H2O)、メタホウ酸カルシウム(CaO・B2O3・4H2O)、例えばハイドロボラサイト(CaMg[B3O4(OH)3]2・3H2O)といったホウ酸マグネシウム-カルシウム、メタホウ酸バリウム(BaO・B2O3・H2O)、例えば2ZnO・3B2O3・7H2O、2ZnO・3B2O3・3.5H2O、2ZnO・2B2O3・3H2O、4ZnO・B2O3・H2O、2ZnO・3B2O3といったホウ酸亜鉛(xZnO・yB2O3・zH2O)、ホウ酸カルシウムシリケート、ホウ酸ナトリウムシリケート、ホウ酸アルミニウムシリケート、ホウ酸アルミニウム、ホウ酸銅及びホウ酸鉄からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載のポリアミド成形材料。
【請求項8】
選択された前記金属ホウ酸塩Cが、ホウ酸:金属の比率が1~3、好ましくは3のホウ酸亜鉛化合物であることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載のポリアミド成形材料。
【請求項9】
前記成分Dが、以下の群:UV安定剤、ハロゲン化銅を含まない熱安定剤、ラジカル捕捉剤、加工助剤、包含抑制剤、潤滑剤、離型助剤、結晶化促進剤又は抑制剤、流動促進剤、潤滑剤、離型剤、顔料、染料及びマーキング物質、蛍光染料、加工剤、帯電防止剤、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブから選択されることを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載のポリアミド成形材料。
【請求項10】
成分Dが、UV安定剤、熱安定剤、酸化亜鉛、硫化亜鉛、ステアリン酸亜鉛、モンタン酸亜鉛、モンタン酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム及びそれらの混合物から選択されることを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載のポリアミド成形材料。
【請求項11】
前記成形材料が、以下の成分:
A:ポリマー混合物であって、
A1 65~80重量%のポリアミドPA6、PA66、PA610及びそれらの混合物、
A2 20~35重量%のポリアミドPA6I/6T、PA6T/BACT/66/BAC6及びそれらの混合物、からなり、
A1とA2の合計がAの100重量%である、46.6~69.25重量%のポリマー混合物、
B:30~50重量%のガラス長繊維(連続ガラス繊維、ロービング)、
C:ホウ酸:金属の比率が0.5~4である、0.7~1.4重量%のホウ酸亜鉛、
D:A、B及びCと異なる、0.05~2.0重量%の添加剤、
からなり、成分A~Dの合計は100重量%であり、前記成形材料がハロゲン化銅もホスフィン酸金属塩もどちらも含まない、ことを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載のポリアミド成形材料。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載のポリアミド成形材料から作製された、又は請求項1~11のいずれか一項に記載のポリアミド成形材料から作製された少なくとも1つの領域又はコーティングを有する、成形体であって、好ましくは射出成形、押出成形又はブロー成形により製造され、好ましくは以下の分野:ハウジング、カバー又はフレーム、ハウジング又はハウジング構成要素、好ましくはポータブル電子機器のハウジング又はハウジング部品、クラッディング又はカバー、家庭用機器、家庭用電化製品、眼鏡用土台、眼鏡フレーム、サングラス、カメラ、双眼鏡、装飾用物品、電気通信用装置及び機器並びに個人用電化製品、自動車分野及び他の輸送手段の内装部品及び外装部品、好ましくは電子機器、家具、スポーツ、機械エンジニアリング、設備衛生及び個人衛生、送風機(特に送風機ロータ又は送風機ホイール)、医薬品、エネルギー技術及び運転技術といった分野の支持又は機械的機能を備えた内装部品及び外装部品、特に好ましくは携帯電話、スマートフォン、オーガナイザ、ラップトップコンピュータ、ノートブック型コンピュータ、タブレットコンピュータ、ラジオ、カメラ、腕時計、計算機、センサハウジング、測定装置、音楽及び/又はビデオの再生機器、ナビゲーション装置、GPS装置、電子写真フレーム、外付けハードドライブ及び他の電子記憶媒体、の成形体である、成形体。
【請求項13】
DIN EN ISO 846:2020の方法Aによる殺菌表面のための要件に合致し、附属書Cに記載の方法による試験によって「ゼロ」又は「1A」又は「1」といった分類が行われ、
かつ/又は
DIN EN ISO 846:2020の方法Cによる細菌への耐性に合致し、附属書Cに記載の方法による試験によって「ゼロ」又は「1」といった分類が行われる、
ことを特徴とする、請求項12に記載の成形体。
【請求項14】
カビ耐性及び細菌耐性のある成形体を製造するための請求項1~11のいずれか一項に記載のポリアミド成形材料の使用であって、特にドアのハンドル、ハンズフリーのドアオープナー、手すり、台所用家電、医療機器、自動車内部機能部品、レバー及びボタンを備えたハンドル、シフトレバー、空調システム用の制御ユニット、エンターテインメント機器の制御ユニット、ドア施錠システム、ヒンジ、ハンドル、公共輸送機関での手すり及びバー、医療ケア用ベッド、病院用家具、エレベータのノブ及び制御要素、台所用家具、浴室装備品及び付属品、ハウジング及びカバー、換気システム、送風機、軸流ファン、遠心ファン、プロセスファン用ロータなどを製造するためのポリアミド成形材料の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、選択されたポリマー混合物に加えて2種類の異なるポリアミド強化繊維と金属ホウ酸塩を含有する繊維強化ポリアミド成形材料に関する。本発明は、成形体を製造するためのかかる成形材料の使用及び成形体自体にさらに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミドは現在、実質的には傑出した機械的特性によって内部での使用及び外部での使用のための構造要素として幅広く使用されている。特に、例えば炭素繊維又はガラス繊維といった繊維強化材料を添加することで強度及び剛性などの機械的特性を改善することができる。
【0003】
特許文献1は、加工処理方向に対して垂直方向の引裂き強度、ノッチ付き衝撃強さ及びフロー長さといった点で、丸形ガラス繊維から作製された成形材料よりも有利である扁平なガラス長繊維で強化されたポリアミド成形材料に関する。
【0004】
特許文献2は、銅化合物と亜鉛化合物とを組み合わせることで熱劣化挙動の改善を示すポリアミド組成物を記載している。本発明による実施例では、亜鉛化合物、酸化亜鉛及びホウ酸亜鉛は熱安定剤であるヨウ化銅と組み合わせて使用される。
【0005】
亜鉛化合物は多くの場合、例えば特許文献3に記載されているように、難燃助剤として使用される。ここでは、難燃剤、半芳香族ポリアミド及び難燃剤としてのホスフィン酸金属塩に基づき、難燃助剤として鉱物ベーマイト及び/又はホウ酸亜鉛を含有する繊維強化ポリアミド組成物が開示される。
【0006】
ただし、長繊維を含有するポリアミド成形材料を含み、従来技術で既知の繊維強化プラスチックは、あらゆる点で満足できる結果を未だに提供していないことが示されている。したがって、反りがほとんどなく、高い剛性と強度、同時に強化繊維充填量が高いことによって卓越した表面品質を有する繊維強化ポリアミド成形材料及びその材料から製造された成形部品を提供することが望ましい。特に、ノッチ付き衝撃強さ、荷重たわみ温度(heat distortion temperature、HDT)及びカビ又は細菌への耐性といった点で従来技術よりも優れた特性を有する繊維強化ポリアミド成形材料から作製された成形体の必要が大きくなっている。加えて、乾燥状態及び包装状態での特性の互いの違いはごくわずかでなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】欧州特許第2060607号明細書
【特許文献2】国際公開第2014160564号
【特許文献3】米国特許出願公開第2010/113655号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が対処する課題は、成形体に加工処理され得るポリアミド成形材料を特定するというものであり、成形体は、反り、衝撃強さ及びノッチ付き衝撃強さ、破断時の引張強度及び破断時の伸び、並びに表面品質、荷重たわみ温度並びにカビ及び/又は細菌への耐性といった点で卓越した特性を、可能であれば同時に有する。特に、ポリアミド成形材料は、「ゼロ」(0)、「1A」(1a)又は「1」(1)のカビへの耐性、及び「ゼロ」(0)又は「1」(1)の細菌への耐性についてのISO 846:2020(プラスチック-微生物作用の評価)により分類されなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題は、請求項1の特徴による成形材料に関して、請求項12の特徴による成形体に関して、及び請求項14の特徴による使用に関して解決される。従属請求項は有利な開発技術を開示する。
【0010】
本発明によれば、この課題は請求項1による繊維強化ポリアミド成形材料により解決され、ポリアミド成形材料は、以下の成分:
A ポリマー混合物であって、
A1 PA6、PA46、PA56、PA66、PA66/6、PA610、PA612、PA6/12、PA1010、PA11、PA12、PA1012、PA1212といった群及びそれらの混合物から選択される、55~85重量%の少なくとも1種の半結晶性脂肪族ポリアミド、
A2 PA6I、PA5I/5T、PA6I/6T、PA6T/6I、PA10I/10T、PA10T/6T、PA6T/BACT/66/BAC6、PA MXD6、PA MXD6/MXDIといった群及びそれらの混合物から選択される、15~45重量%の少なくとも1種の半芳香族ポリアミド、からなり、A1とA2の合計がAの100重量%である、33~79.4重量%のポリマー混合物、
B 20~60重量%の強化繊維、
C ホウ酸に対する金属のモル比が0.5~4の範囲である、0.6~2.0重量%の金属ホウ酸塩、
D A、B及びCとは異なる、0~5.0重量%の添加剤からなり、
成分A~Dの合計は100重量%であり、成形材料はハロゲン化銅及びホスフィン酸金属塩の両方を含まない。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の目的について、「ポリアミド」(略称PA)といった用語は、そのモル質量又は粘度とは関係がないホモポリアミド及びコポリアミドを含む一般名称として理解される。このことによって、一般名称であるポリアミドは、縮合前の低分子量ポリアミド及び縮合後の高分子量ホモポリアミド及びコポリアミドを含む。ポリアミド及びそれらのモノマーについて選択された綴り及び略称は、ISO規格16396-1(2015(D))に記載のものに対応している。明細書中に使用されている略称は、モノマーのIUPAC名と同義で使用され、特に以下のモノマー:テレフタル酸についてはT又はTPA、イソフタル酸についてはI又はIPA、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(CAS番号 2579-20-6)についてはBAC、m-キシリレンジアミン(CAS番号 1477-55-0)についてはMXDA、についての略称が存在する。以下において、HMDAは、ヘキサメチレンジアミンとしても知られている1,6-ヘキサンジアミンについての略称として使用される。
【0012】
半結晶性ポリアミドと比較した場合、非晶質ポリアミドは検出可能な融解熱を有さない、又はほとんど検出できない非常に低量のわずかな融解熱を有する。非晶質ポリアミドは、ISO11357(2013)による動的示差熱量測定(dynamic differential calorimetry、DSC)では、好ましくは20K/分の加熱速度、5J/g未満の融解熱、特に好ましくは3J/gの最大値、さらに特に好ましくは0~1J/gを示す。非晶質ポリアミドは、非晶質性であることから融点を有さない。
【0013】
ガラス転移に加え、半結晶性ポリアミドは顕著な融点を有し、ISO11357(2013)による動的示差熱量測定では、好ましくは20K/分の加熱速度、少なくとも15J/gの融解熱、特に好ましくは少なくとも20J/g、さらに特に好ましくは25~80J/gの範囲であることを示す。
【0014】
本発明に従い使用されるポリアミドに関しては、ジカルボン酸のモノマー及びジアミン部分のモノマー並びに使用されるいずれかのアミノカルボン酸又は単官能性調整剤は、縮合によって、それぞれのモノマーに由来するアミド形状の繰返し単位又は末端基を形成する。概して、これらはポリアミド中に存在する全ての繰返し単位及び末端基のうちの少なくとも95mol%、特に少なくとも99mol%から構成されている。加えて、ポリアミドはまた、例えばジアミンのモノマーなどのモノマーの分解反応又は副反応から生じ得る少量の他の繰返し単位を有し得る。
【0015】
本発明による提案された繊維強化ポリアミド成形材料は、独立請求項1によれば、ハロゲン化銅及びホスフィン酸金属塩を含まない、すなわちこの成形材料はハロゲン化銅もホスフィン酸金属塩もどちらも含まないという点、並びにこの成形材料は特定の出発材料A1及びA2から形成されるポリアミドマトリックスを形成するポリマー混合物Aを有するという点を特徴としている。
【0016】
本発明によるポリアミド成形材料は、各場合において成分A~Dの合計に対し、好ましくは40.4~74.4重量%の範囲の成分A、特に好ましくは46.6~69.25重量%の範囲の成分Aを含有する。
【0017】
ポリマー混合物Aは、PA6、PA46、PA56、PA66、PA66/6、PA610、PA612、PA6/12、PA1010、PA11、PA12、PA1012、PA1212といった群及び/又はそれらの混合物から選択される、55~85重量%の少なくとも1種の半結晶性脂肪族ポリアミドA1を含む。ポリアミドA1は、好ましくはPA6、PA56、PA66、PA66/6、PA610及びそれらの混合物から選択される。好ましい混合物は例えば、PA66及びPA6、又はPA610及びPA6からなる。加えて、ポリマー混合物は第2の成分として、PA6I、PA5I/5T、PA6I/6T、PA6T/6I、PA10I/10T、PA10T/6T、PA6T/BACT/66/BAC6、PA MXD6、PA MXD6/MXDIといった群及びそれらの混合物から選択される、15~45重量%の少なくとも1種の非晶質半芳香族ポリアミド又は半結晶性半芳香族ポリアミドA2を含有する。好ましいポリアミドA2は、PA6I/6T及びPA6T/BACT/66/BAC6である。
【0018】
成分A1の比率は、各場合において成分A~Dの合計に対し、好ましくは60~85重量%の範囲、好ましくは65~80重量%の範囲であり、成分A2の比率は好ましくは15~40重量%の範囲、好ましくは20~35重量%の範囲である。
【0019】
提案された繊維強化ポリアミド成形材料において、33~79.4重量%の上記ポリマー混合物Aからなるポリアミドマトリックスは、切断繊維(短繊維)又は連続繊維(長繊維、ロービング)であり、好ましくは連続繊維(長繊維又はロービング)である20~60重量%の強化繊維Bの含有がここでは必須である。
【0020】
強化繊維Bは好ましくはガラス繊維、バサルト繊維若しくは炭素繊維又はこれらの繊維の混合物であり、ガラス繊維が特に好ましい。
【0021】
特に好ましくは、強化繊維Bは連続ガラス繊維(ガラス長繊維、ロービング)である。
【0022】
好適な連続ガラス繊維の直径は10~20μm、好ましくは11~18μm、特に好ましくは12~17μm、さらに特に好ましくは11~13μmである。連続ガラス繊維は、D-ガラス、E-ガラス、ECR-ガラス、L-ガラス、S-ガラス、R-ガラス又はそれらの任意の混合物などの全種類のガラスからなり得る。ガラス繊維は好ましくは、E-ガラス、ECR-ガラス若しくはS-ガラスから、又はこれらの繊維の混合物から作製される。
【0023】
好適なガラス繊維は、円形(若しくは丸形と同義)又は非円形(若しくは扁平状と同義)のいずれかであり得る断面領域を有し、後者の場合、小さな断面軸に対する大きな断面軸の寸法比率は少なくとも2であり、2~6の範囲が好ましい。
【0024】
本発明の好ましい実施形態に従い、成分Bは25~55重量%で、特に好ましくは30~50重量%でポリアミド成形材料中に存在し、これらの量は成分A~Dの合計に関連する。
【0025】
本発明に従い、E-ガラス繊維、ECR-ガラス繊維及び/又はS-ガラス繊維が使用されることが特に好ましい。ただし、D-ガラス繊維、L-ガラス繊維、R-ガラス繊維若しくはそれらの任意の混合物又はE-ガラス繊維、ECR-ガラス繊維及び/若しくはS-ガラス繊維との混合物などの他の種類のガラス繊維が使用され得る。強化繊維、特にガラス繊維には、アミノシラン化合物又はエポキシシラン化合物を基にした接着促進剤を含有し、熱可塑性プラスチック、特にポリアミドに好適なサイジング剤が施される。
【0026】
好ましい実施形態に従い、成分Bは高強度ガラス繊維、いわゆるS-ガラス繊維である。これは、好ましくは三成分系シリカ-アルミナ-酸化マグネシウム又は四成分系シリカ-アルミナ-酸化マグネシウム-酸化カルシウムを基にしており、58~70重量%のシリカ(SiO2)、15~30重量%のアルミナ(Al2O3)、5~15重量%の酸化マグネシウム(MgO)、0~10重量%の酸化カルシウム(CaO)及び0~2重量%の二酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化ホウ酸(B2O3)、二酸化チタン(TiO2)、酸化鉄(Fe2O3)、酸化ナトリウム、酸化カリウム又は酸化リチウム(Li2O)などの他の酸化物の組成が好ましい。特に、高強度ガラス繊維が以下の組成:62~66重量%のシリカ(SiO2)、22~27重量%のアルミナ(Al2O3)、8~12重量%の酸化マグネシウム(MgO)、0~5重量%の酸化カルシウム(CaO)、0~1重量%の二酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化ホウ酸(B2O3)、二酸化チタン(TiO2)、酸化鉄(Fe2O3)、酸化ナトリウム、酸化カリウム又は酸化リチウム(Li2O)などの他の酸化物、を有する場合が好ましい。
【0027】
切断繊維(短繊維)を含む本発明によるポリアミド成形材料は、既知の化合方法により製造されることができ、ポリアミド及び添加剤は押出機内で溶融され、切断繊維は好ましくはポリアミド溶融物に導入されてポリマー溶融物と混合された後、繊維強化ポリマー成形材料は押出機から排出されて造粒される。このようにして、2~5mmの長さ及び2~4mmの直径を有する円筒形顆粒が好ましくは製造される。
【0028】
連続繊維(長繊維)を含む本発明によるポリアミド成形材料は、長繊維により強化された棒状顆粒を製造するための既知の方法、特に引抜成形により製造されることができ、連続繊維ストランド(ロービング)はポリマー溶融物で完全に含浸され、続いて冷却されて切断される。概して、ポリマー成分及び添加剤は押出機内で溶融され、溶融物として含浸ユニットに直接輸送される。
【0029】
このようにして得られ、好ましくは顆粒長さが3~25mmであり、特に4~12mmである長繊維強化棒状顆粒は、通常の加工方法(射出成形、プレス成形)を使用する成形部品へとさらに加工処理されることができ、穏やかな加工処理方法を適用することで特に良好な成形部品の特性を得ることができる。これに関連して、穏やかな、はとりわけ過度の繊維破断及びこれに関連する繊維長の大幅な減少のほとんどが防止されることを意味している。射出成形の場合、これは大きな直径のスクリューを使用することが好ましいことを意味している。
【0030】
引抜成形方法で連続繊維(ロービング)として使用されるガラス繊維は、接着促進剤及びフィルム形成剤から作製された好適なサイジング系が施される。例えば、アミノシラン、エポキシシラン、ビニルシラン、メタクリルシラン又はメタクリロイルオキシシランなどの有機官能化シランが接着促進剤として使用され得る。例えば、ポリウレタン、ポリエステルウレタン、ポリエーテルウレタン、ポリヒドロキシエーテル、エポキシ樹脂、ポリアミド、アクリルポリマー又はそれらの混合物は、フィルム形成剤として好ましくは使用される。
【0031】
材料の観点から、ポリアミドマトリックスを形成するポリマー混合物Aの組成に関しては、本発明は、基本的には特徴A1にて言及された脂肪族ポリアミドと特徴A2にて言及された半芳香族ポリアミドとの組合せ全てを包含する。この場合、半結晶性脂肪族ポリアミドA1は、PA6、PA56、PA66、PA66/6、PA610及びそれらの混合物から選択されることが好ましい。ポリアミドA1は好ましくは、m-クレゾール(100mL、20℃のm-クレゾールに溶解された0.5gのポリマー顆粒)中でISO 307:2007に従い測定された、1.3~2.7の範囲、好ましくは1.4~2.3の範囲、特に1.50~2.00の範囲の溶液粘度ηrelを有する。
【0032】
従来技術から知られているように、これらの脂肪族ポリアミドの製造は、対応するラクタム並びに/又はアミノカルボン酸並びに/又はジアミン及びジカルボン酸の重合又は重縮合、必要に応じて連鎖律の使用、好ましくはモノカルボン酸又はモノアミンの使用によりもたらされる。
【0033】
半芳香族ポリアミドA2については、コポリアミドであるPA6I/6T及びPA6T/BACT/66/BAC6が特に好ましい。コポリアミドであるPA6I/6Tに関しては、6T単位の比率が50mol%未満である組成範囲が特に好ましく、6T:6Iの組成範囲が15:85~45:55であることが特に好ましい。したがって、55~85mol%のヘキサメチレンイソフタルアミド単位と15~45mol%のヘキサメチレンテレフタルアミド単位を有する非晶質半芳香族ポリアミド6I/6T(A2)が好ましい。
【0034】
コポリアミドであるPA6T/BACT/66/BAC6に関しては、60mol%超、特に好ましくは70mol%未満を共に構成する6T及びBACT単位の比率を有する組成範囲が特に好ましく、6T:BACT:66:BAC6の組成範囲が54~72mol%:16~36mol%:6~16mol%:2~4mol%であることがさらに特に好ましい。特に、55~70mol%のヘキサメチレンテレフタルアミド単位、20~25mol%の1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンテレフタルアミド単位、6~16mol%のヘキサメチレンアジポアミド単位及び2~4mol%の1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンアジポアミド単位を有する半結晶性半芳香族ポリアミド6T/BACT/66/BAC6(A2)が好ましい。
【0035】
ポリマー混合物(A)に関しては、以下の組成:
(A1):PA66若しくはPA610、又はPA66及びPA6の混合物、又はPA610及びPA6の混合物、
(A2):モル比が65:35~75:25の範囲である、又は特に67:33である、PA6I/6T、並びに
(A1):PA66又はPA66及びPA6の混合物又はPA610及びPA6、
(A2):6T及びBACT単位のモル比が60を超え、好ましくは70mol%未満である、PA6T/BACT/66/BAC6、が好ましい。
【0036】
さらに好ましい実施形態では、成分A2のガラス転移温度は90℃超、好ましくは110℃超、特に好ましくは120℃である。
【0037】
この場合、ポリアミドA2は好ましくは、m-クレゾール(100mL、20℃のm-クレゾールに溶解された0.5gのポリマー顆粒)中でISO 307:2007に従い測定された、1.3~2.0の範囲、好ましくは1.35~1.9の範囲、特に1.40~1.8の範囲の溶液粘度ηrelを有する。
【0038】
従来技術から知られているように、ポリアミドA2の製造は、必要に応じて鎖調整剤、好ましくはモノカルボン酸又はモノアミンを使用し、対応する実質的なモル量のジアミン及びジカルボン酸を反応させることで行われる。
【0039】
本発明によるポリアミド成形材料はまた、各場合において成分A~Dの合計に対し、0.6~2.0重量%の範囲で、好ましくは0.6~1.6重量%の範囲で、特に好ましくは0.7~1.4重量%の範囲で少なくとも1種の金属ホウ酸塩化合物を含有する。
【0040】
この場合、金属ホウ酸塩化合物中の金属に対するホウ酸のモル比(B:M比)は0.5~4の範囲であり、1~3の範囲であることが特に好ましい。金属ホウ酸塩中にホウ酸とともに存在している金属は好ましくはアルカリ金属、アルカリ土類金属及び遷移金属であり、独立して、又は金属ホウ酸塩中で組み合わせられた状態で存在していてもよい。ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム及び亜鉛は金属としては特に好ましい。加えて、アルミニウム及びケイ素もまた存在し得る。
【0041】
好適な金属ホウ酸塩組成物は、例えばホウ酸ナトリウム、特に五水ホウ砂(Na2O・2B2O3・5H2O)、ホウ砂十水和物(Na2O・2B2O3・10H2O)、無水ホウ砂(Na2O・2B2O3)及び八ホウ酸二ナトリウム四水和物(Na2O・4B2O3・4H2O)、ホウ酸マグネシウム(2MgO・B2O3)、ホウ酸カルシウム(2CaO・3B2O3・5H2O)、メタホウ酸カルシウム(CaO・B2O3・4H2O)、例えばハイドロボラサイト(CaMg[B3O4(OH3)2]・3H2O)といったホウ酸マグネシウム-カルシウム、メタホウ酸バリウム(BaO・B2O3・H2O)、2ZnO・3B2O3・7H2O、2ZnO・3B2O3・3.5H2O、2ZnO・2B2O3・3H2O、4ZnO・B2O3・H2O、2ZnO・3B2O3といったホウ酸亜鉛(xZnO・yB2O3・zH2O)、ホウ酸カルシウムシリケート、ホウ酸ナトリウムシリケート、ホウ酸アルミニウムシリケート、ホウ酸アルミニウム、ホウ酸銅及びホウ酸鉄である。
【0042】
本発明の目的について、金属ホウ酸塩化合物は式(ZnO)x(B2O3)Y(H2O)zを有するホウ酸亜鉛であることが特に好ましい。この場合、所与の式ではXは2~4の範囲の値をとり、Yは1~3の範囲の値をとり、Zは0~5の値をとる場合にはさらに好ましい。
【0043】
種々のホウ酸亜鉛化合物が販売されており、例えば、Firebrake(登録商標)の商標名でUS Boraxにより販売されている。ホウ酸亜鉛の特に好ましい形態は、X=4、Y=1及びZ=1(Firebrake 415)のもの、X=2、Y=3及びZ=3.5(Firebrake 290)のもの、X=2、Y=2及びZ=3(Firebrake ZB-223)のもの又はX=2、Y=3及びZ=0(Firebrake 500)のものである。
【0044】
式(ZnO)2(B2O3)3(H2O)3.3-3.7に従い、B:M比が3であるホウ酸亜鉛化合物が特に好ましく、無水変形型である(ZnO)2(B2O3)3が特に好ましい。
【0045】
本発明に関して、成形部品の機械的強度及び外観の観点から言えば、金属ホウ酸塩の平均粒径は30μm以下であることが好ましく、20μm以下であることが特に好ましい。機械的強度は、粒径が1~20μmである金属ホウ酸塩粉末を使用することで安定化され得ることが好ましい。
【0046】
本発明によるポリアミド成形材料はまた、最大5.0重量%の量で、好ましくは0~3.0重量%の量で、特に好ましくは0.05~2.0重量%の量で、さらなる成分として添加剤Dを含有し得る。添加剤Dは成分A、B及びCとは異なっている。特に、成分Dはハロゲン化銅及びホスフィン酸金属塩とも異なっている。これは、本発明によるポリアミド成形材料がヨウ化銅(I)などのハロゲン化銅を含まないということを意味している。さらに、本発明による成形材料は難燃剤、特にホスフィン酸金属塩を一切含有しない。成形材料はハロゲン化銅もホスフィン酸金属塩もどちらも含まない。
【0047】
好適な添加剤は例えば、無機安定剤、有機安定剤、潤滑剤、染料及びマーキング物質、無機顔料、有機顔料、IR吸収剤、帯電防止剤、ブロッキング防止剤、結晶化抑制剤、縮合触媒、鎖調整剤、消泡剤、鎖延長添加剤、グラファイト、カーボンナノチューブ、離型剤、分離剤、蛍光染料、光互変性添加剤、可塑剤、金属顔料、金属フレーク、金属コーティング粒子である。本発明によるポリアミド成形材料は、例えば酸化防止剤、オゾン防止剤、光安定剤、UV安定剤、UV吸収剤又はUV遮断剤、熱安定剤及びそれらの混合物など、安定剤及び/劣化防止剤を含有することができる。
【0048】
好ましい実施形態では、上述した安定剤に加え、成分Dはまた、酸化亜鉛、硫化亜鉛、ステアリン酸亜鉛、モンタン酸亜鉛、モンタン酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム及びそれらの混合物からなる群から選択される化合物を含有する。さらに、成分A~Dに関して、これらの化合物が成形材料中に0.05~0.5重量%存在する場合が好ましい。
【0049】
実験により、特に以下の成分:
A:ポリマー混合物であって、
A1 65~80重量%のポリアミドPA6、PA66又はPA610及びそれらの混合物、
A2 20~35重量%のポリアミドPA6I/6T、PA6T/BACT/66/BAC6及びそれらの混合物、
からなり、A1とA2の合計がAの100重量%である、46.6~69.25重量%のポリマー混合物、
B:30~50重量%のガラス長繊維(連続ガラス繊維、ロービング)、
C:B:M比が0.5~4である0.7~1.4重量%のホウ酸亜鉛、
D:A、B及びCとは異なる0.05~2.0重量%の添加剤、からなり、
A~Dの合計が100重量%であり、成形材料がハロゲン化銅及びホスフィン酸金属塩の両方を含まないポリアミド成形材料は、優れた特性を有することもまた示されている。
【0050】
驚くべきことに、本発明による充填されたポリアミド成形材料が成形体に加工処理され、平均的な特性、特にノッチ付き衝撃強さ、破断時の引張強度、破断時の伸び、荷重たわみ温度並びにカビ及び/又は細菌への耐性を有する成形体が得られることが見出された。
【0051】
加えて、驚くべきことに、好ましくは使用されるガラス長繊維(連続ガラス繊維)と組み合わせた金属ホウ酸塩の添加は、成形材料の機械性特性及び成形体の機械的特性への悪影響を実際には何ら及ぼさないということも見出された。その一方で、いわゆる切断繊維やガラス短繊維が使用される場合には、機械的特性、特にノッチ付き衝撃強さ、破断時の引張強度及び破断時の伸びといった点での欠点を許容しなければならない。
【0052】
本発明に従って好ましくは使用されているガラス長繊維(連続繊維、ロービング)は、成形体の製造中に形成された繊維断片が巻き付くことで成形体中にウェブ又は骨格(繊維凝集体)を形成することが明らかであるが、これによって亀裂の伝播を効果的に防止し、結果としてさらに高温時の形状維持及びノッチ付き衝撃強さに貢献し、そのことによって金属ホウ酸塩などの顔料のような添加剤が存在するにもかかわらず卓越した特性が可能となる。
【0053】
射出成形中のガラス長繊維の深刻な損傷が少ないという事実によって成形体中のガラス長繊維の巻き付きはさらに顕著に強化される。特に低粘度のポリアミドマトリックスがこのことに貢献することが好ましい。したがって、成形部品製造時、射出成形中のせん断が高いなどの好ましくない状況下であったとしても、成形体中の繊維断片は、顕著な三次元的繊維凝集、ひいては傑出した特性をもたらすために十分な平均長と長さ分布を有する。
【0054】
ガラス長繊維(連続繊維、ロービング)で強化された成形材料及びこの材料から製造された成形体の場合、金属ホウ酸塩を添加することで23℃でのノッチ付き衝撃強さは実質的に変化せずかつ一定に維持されるが、これはすなわち金属ホウ酸塩を含まない成形材料と実質的に同一であることは特に注目に値する。その一方で、ガラス短繊維を使用する場合、23℃でのノッチ付き衝撃強さは、金属ホウ酸塩を添加することで金属ホウ酸塩を含まない成形材料に対して最大40%減少する。同様の挙動は、破断時の伸びに関しても観察することができる。こうしたことからも、ガラス長繊維の好ましい使用によって明確な利点が示される。
【0055】
微粉砕金属ホウ酸塩などのコーティングされていないフィラーは、半結晶性ポリアミドの核形成剤として作用する。これはすなわち、結晶温度を上昇させ、結晶化を加速させるということである。これは多くの場合、繊維強化熱可塑性プラスチックの望ましくない脆化を伴う。半結晶性脂肪族ポリアミドA1と非晶質半芳香族ポリアミドA2との組合せなどのマトリックス成分を好適に選択することで、金属ホウ酸塩の核形成効果を相殺することができる。
【0056】
本発明によるポリアミド成形材料のISO 75:2013に従った荷重たわみ温度HDT-Cは、少なくとも120℃、好ましくは少なくとも130℃、特に好ましくは少なくとも200℃である。
【0057】
本発明によるポリアミド成形材料のISO 75:2013に従った荷重たわみ温度HDT-Aは、少なくとも200℃、好ましくは少なくとも230℃である。
【0058】
本発明はまた、射出成形、押出成形又はブロー成形により好ましくは製造され、記載のポリアミド成形材料から作製された成形体、又はポリアミド成形材料から作製された少なくとも1つの領域又はコーティングを有する成形体に関する。これは好ましくは以下の分野:ハウジング、カバー又はフレーム、ハウジング又はハウジング構成要素、好ましくはポータブル電子機器のハウジング又はハウジング部品、クラッディング又はカバー、家庭用機器、家庭用電化製品、眼鏡用土台、眼鏡フレーム、サングラス、カメラ、双眼鏡、装飾用物品、電気通信用装置及び機器並びに個人用電化製品、自動車分野及び他の輸送手段の内装部品及び外装部品、好ましくは電子機器、家具、スポーツ、機械エンジニアリング、設備衛生及び個人衛生、送風機(特に送風機ロータ又は送風機ホイール)、医薬品、エネルギー技術及び運転技術といった分野の支持又は機械的機能を備えた内装部品及び外装部品、特に好ましくは携帯電話、スマートフォン、オーガナイザ、ラップトップコンピュータ、ノートブック型コンピュータ、タブレットコンピュータ、ラジオ、カメラ、腕時計、計算機、センサハウジング、測定装置、音楽及び/又はビデオの再生機器、ナビゲーション装置、GPS装置、電子写真フレーム、外付けハードドライブ及び他の電子記憶媒体、における成形体である。
【0059】
成形体は好ましくは、DIN EN ISO 846:2020の方法Aによる殺菌表面の要件に合致しており、附属書Cに記載の方法による試験により、「ゼロ」(0)又は「1A」(1a)といった分類が行われることが好ましい。追加的に、又は代替的に、成形体はDIN EN ISO 846:2020の方法Cによる細菌への耐性の要件に合致しており、附属書Cに記載の方法による試験により、「ゼロ」(0)といった分類が行われることが好ましい。
【0060】
本発明はまた、カビ耐性及び細菌耐性のある成形体、特にドアのハンドル、ハンズフリーのドアオープナー、手すり、台所用家電、医療機器、自動車内部機能部品、レバー及びボタンを備えたハンドル、シフトレバー、空調システム用の制御ユニット、エンターテインメント機器の制御ユニット、ドア施錠システム、ヒンジ、ハンドル、公共輸送機関での手すり及びバー、医療ケア用ベッド、病院用家具、エレベータのノブ及び制御要素、台所用家具、浴室装備品及び付属品、ハウジング及びカバー、換気システム、送風機、軸流ファン、遠心ファン、プロセスファン用ロータなどを製造するための記載のポリアミド成形材料の使用に関する。
【実施例0061】
本発明は以下の実施例によってさらに詳細に説明される。実施例及び比較例では以下の材料を使用した。
PA-1:ηrel=1.82、Tm=262℃であるポリアミド66(RADICI,IT)
PA-2:ηrel=1.80、Tm=222℃であるポリアミド6(BASF,DE)
APA-1:ηrel=1.50、Tm=125℃であるポリアミド6I/6T(67:33)(EMS-CHEMIE AG,CH)
APA-2:ηrel=1.65、Tm=325℃、Tg=150℃であるポリアミド(6T/BACT/66/BAC6(68.5/23.5/6/2)(EMS-CHEMIE AG,CH)
LGF-1:E-ガラスロービング NEG TufRov4510-17-2400、直径17μmの丸型断面領域、アミノシラン系接着促進剤及びエポキシ樹脂系フィルム形成剤を含むサイジング系
LGF-2:E-ガラスロービング NEG TufRov4510-12-1200、直径12μmの丸型断面領域、アミノシラン系接着促進剤及びエポキシ樹脂系フィルム形成剤を含むサイジング系
GF:ECR-ガラス短繊維束、Vetrotex 995 EC10-4.5、長さ:4.5mm、フィラメント直径:10μm(Saint-Gobain Vetrotex,FR)
金属ホウ酸塩:Firebrake 500,(ZnO)2(B2O3)3,M:B=3(U.S.Borax,USA)
安定剤:Irganox 1098(BASF,DE)とBruggolen H10(Bruggemann,DE)との比率2:1での混合物
硫化亜鉛:Sachtolith HD-S,ZnS,Huntsman,USA
【0062】
Werner及びPfleiderer製のmodel ZSK 30の二軸押出機で表2の組成物B7~B10、B12及びB13の成形材料を製造した。組成A1及びA2の顆粒並びに添加剤C及びDを計量し、供給ゾーンに供給した。ノズル前面のサイドフィーダ3ハウジングユニットを介し、ポリマー溶融物にガラス繊維(GF、ガラス短繊維)を計量して供給した。270~300℃への上昇プロファイルとしてハウジング温度を設定した。150~200rpmにて10kgのスループットを得た。造粒を水中造粒又は水中ホットカットによって行い、穿孔ダイを通してポリマー溶融物をプレスし、ダイから押し出された直後に水流中にて回転ナイフにより造粒化する。造粒して110℃で24時間にわたり乾燥させた後、顆粒特性を測定して試験片を製造した。
【0063】
引抜成形方法により連続強化組成物B1~B6(表1)及びB11(表2)を製造し、添加剤C及び/又はDを含むポリマー混合物Aを混合し、二軸押出機で溶融し、その後含浸ユニットに移して予熱した連続フィラメントガラス繊維(LGF-1及びLGF-2、連続ガラス繊維)と接触させた。より詳細には、引抜成形プロセスを以下のように進めた:成分A1、A2、C及びDを計量し、スクリューの直径が40mmの二軸押出機の供給ゾーンに供給した。続いて、270~340℃の温度上昇プロファイルで成分を混合した。含浸ユニットにしっかりと接続された押出機は、溶融物を直接含浸ユニットに輸送し、180~220℃に予熱したガラス繊維を浸透させる。340~400℃の範囲の加熱ゾーンを用い、含浸ゾーンを通して1分あたり8~15メートルの速度で12μmの繊維の場合には1200texのロービング、及び17μmの繊維の場合には2400texのロービングの連続ガラス繊維を引き抜く。水中で冷却した後、このように含浸したストランドを10mmの長さに切断した。ペレット化して110℃で24時間にわたって乾燥させた後、ペレットの特性を測定して試験片を製造した。
【0064】
260℃~300℃のシリンダ温度及び周辺機器のスクリュー速度を15m/分に設定したArburg製の射出成形システムで試験片を製造した。成形温度として100~140℃を選択した。
【0065】
以下の規格に従い、以下の試験片で試験を行った。
弾性の引張係数
【0066】
ISO/CD 3167(2003)規格に従い、ISO引張ロッド(タイプA1、大きさ 170×20/10×4)で、延伸速度1mm/分、23℃にて、ISO527(2012)に従い弾性の引張係数を決定した。
破断時の引張応力及び破断時の伸び
【0067】
ISO/CD 3167(2003)規格に従い、ISO引張ロッドタイプA1(大きさ 170×20/10×4mm)で、延伸速度5mm/分、23℃にて、ISO527(2012)に従い、破断時の引張応力及び破断時の伸びを決定した。
シャルピーによる衝撃強さ
【0068】
ISO/CD 3167(2003)に従って製造され、ISO試験ロッドタイプB1(寸法 80×10×4mm)で、23℃にてISO179/2*eU(1997、*2=実装)に従い、シャルピー衝撃強さを決定した。
シャルピーによるノッチ付き衝撃強さ
【0069】
ISO/CD 3167(2003)に従って製造され、ISO試験ロッドタイプB1(寸法 80×10×4mm)で、23℃にてISO179/2*eA(1997、*2=実装)に従い、シャルピーノッチ付き衝撃強さを決定した。
融点(Tm)及び融解エンタルピー(ΔHm)
【0070】
DIN EN ISO 11357-3:2018に従い、顆粒の融点及び融解エンタルピーを決定した。20K/分の加熱速度でDSC(示差走査熱量)測定を行った。
ガラス転移温度、Tg
【0071】
示差走査熱量測定(DSC)により、DIN EN ISO 11357-2:2020に従って顆粒のガラス転移温度Tgを決定した。2回の加熱それぞれに20K/分の加熱速度でこの決定を行った。1回目の加熱後、試料をドライアイスで急冷した。2回目の加熱中、ガラス転移温度Tgを決定した。「半高さ」法により、ガラス転移温度として与えられたガラス転移領域の中間点を決定した。
相対粘度、ηrel
【0072】
ISO307(2007)に従い、20℃で相対粘度を決定した。この目的のため、0.5gのポリマー顆粒を秤量して100mLのm-クレゾールに入れ、ηrel=t/t0に従った相対粘度(ηrel)の計算は規格のセクション11を基準とした。
荷重たわみ温度(HDT)
【0073】
荷重たわみ温度又は荷重たわみ温度(deformation temperature under load、HDT)とも呼ばれるが、この温度はHDT/A及び/又はHDT/Cとして報告される。1.80MPaの曲げ応力を有するHDT/Aは方法Aに対応し、8.00MPaの曲げ応力を有するHDT/Cは方法Cに対応する。80×10×4mmのISO衝撃バーで、ISO 75(2013)に従ってHDT値を決定した。
プラスチック上での微生物の作用の決定
【0074】
50×50×2mmの寸法のプレートを使用してDIN EN ISO 846:2020の方法A及び方法Cに従い、カビ及び細菌への耐性を決定した。附属書Cに記載の方法を使用し、評価を行った。
【0075】
特段表に明記しない限り、試験片を使用して乾燥状態での機械的特性を決定した。この目的のため、射出成形後少なくとも48時間にわたり、室温かつ乾燥環境にてこの試験片を保存した。
【0076】
【0077】
本発明による実施例B1~B8の成形材料は、カビ及び細菌に対して良好な~非常に良好な耐性を示し、したがって、比較例B9~B13と比較すると明確な利点を示す。実施例B11は選択された金属ホウ酸塩の濃度が非常に低く、カビに対する十分な耐性を得られない。実施例B9及びB10と実施例B1~B4とを比較することで、好ましく使用される連続ガラス繊維が荷重たわみ温度HDT-C、破断時の引張強度、破断時の伸び及びノッチ付き衝撃強さに関して利点を有することが示される。その一方で、カビ及び細菌への耐性は、実施例B1、B2及びB4と同じレベルの高さである。
【0078】
【0079】
カビ増殖を評価するため、100個の等しいサイズの正方形を有するグリッドを寸法50×50×2mmのインキュベータサンプルプレート上に配置し、増殖が見られる正方形を計測し、縁の36個の正方形は評価に含まなかった。裸眼又は顕微鏡で見ることができるカビ増殖がある正方形の数に基づき、以下のスコアを決定した。
0:どの内側の正方形も、50倍の倍率にて顕微鏡下で検出することができるカビ増殖を示さない
1a:1~16個の正方形は、50倍の倍率にて顕微鏡下でカビ増殖の痕跡を示す
2:1~16個の正方形は、裸眼で確認した場合にカビ増殖がある
3:17~32個の正方形は、裸眼で確認した場合にカビ増殖がある
4:33~64個の正方形は、裸眼で確認した場合にカビ増殖がある
【0080】
カビ試験と同様に、細菌への耐性に関するインキュベートされたサンプルプレートの評価を行い、裸眼で見ることができる細菌増殖がある正方形を計測した。
0:内側の正方形には細菌増殖が見られない
1:1~16個の正方形に細菌増殖の痕跡が見られる