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特開2023-118099蒸熟シトラス果皮抽出物を有効成分として含む皮膚改善用化粧料組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023118099
(43)【公開日】2023-08-24
(54)【発明の名称】蒸熟シトラス果皮抽出物を有効成分として含む皮膚改善用化粧料組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/9789 20170101AFI20230817BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20230817BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20230817BHJP
   A23L 19/00 20160101ALI20230817BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20230817BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61Q19/00
A61Q19/08
A23L19/00 Z
A23L33/105
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023019310
(22)【出願日】2023-02-10
(31)【優先権主張番号】10-2022-0018207
(32)【優先日】2022-02-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2022-0171739
(32)【優先日】2022-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】514112488
【氏名又は名称】エルジー ハウスホールド アンド ヘルスケア リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】クァンジン・イ
(72)【発明者】
【氏名】ソ・ヨン・イ
(72)【発明者】
【氏名】ム・ヒョン・ジン
(72)【発明者】
【氏名】ユン・ヒ・チャン
【テーマコード(参考)】
4B016
4B018
4C083
【Fターム(参考)】
4B016LC04
4B016LG02
4B016LP02
4B016LP06
4B018MD52
4B018ME06
4B018ME14
4B018MF01
4B018MF04
4C083AA111
4C083AA112
4C083AC841
4C083AC842
4C083AD391
4C083AD392
4C083EE12
4C083EE13
(57)【要約】
【課題】シトラス果皮抽出物の成分組成を改善することにより皮膚効能の向上を図る。
【解決手段】本発明は、フェノール性化合物を増加させ、かつフラボノイド非配糖体の発生を増加させると共に、有害物質であるフラノクマリンの発生は減少させた蒸熟シトラス果皮抽出物を有効成分として含む、抗酸化、抗炎症、シワ又は弾力改善用化粧料、食品及び医薬部外品組成物、シトラス果皮抽出物の製造方法、並びに前記方法で製造したシトラス果皮抽出物に関し、本発明は、抗酸化、抗炎症、シワ又は弾力改善効果に優れ、皮膚に安全であると共に皮膚状態改善効果に優れる、化粧料組成物、食品組成物、医薬部外品組成物として用いることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸熟シトラス(citrus)果皮抽出物を有効成分として含む、化粧料組成物。
【請求項2】
前記シトラス果皮は、ミカン(Satsuma mandarin, Citrus unshiu)、ユズ(Yuzu, Citrus junos)、グレープフルーツ(Grapefruit, Citrus paradisi)、ダイダイ(Bitter orange, Citrus aurantium)、オレンジ(Orange, Citrus sinensis)、レモン(Lemon, Citrus limonum)又はライム(Lime, Citrus aurantifolia)の果皮である、請求項1に記載の化粧料組成物。
【請求項3】
前記蒸熟シトラス果皮は、密閉容器にて103℃~150℃で1時間~15時間蒸熟されたシトラス果皮であることを特徴とする、請求項1に記載の化粧料組成物。
【請求項4】
前記蒸熟シトラス果皮抽出物は、蒸熟処理されていないシトラス果皮抽出物よりフラボノイド非配糖体の含有量が多いことを特徴とする、請求項1に記載の化粧料組成物。
【請求項5】
前記フラボノイド配糖体は、ナリルチン(Narirutin)、ナリンギン(Naringin)又はヘスペリジン(Hesperidin)であり、前記フラボノイド非配糖体は、ナリンゲニン(Naringenin)又はヘスペレチン(Hesperetin)である、請求項4に記載の化粧料組成物。
【請求項6】
前記蒸熟シトラス果皮抽出物は、蒸熟処理していないシトラス果皮抽出物よりフラノクマリンの含有量が低下していることを特徴とする、請求項1に記載の化粧料組成物。
【請求項7】
前記フラノクマリンは、ベルガプテン(Bergapten)又はベルガモチン(Bergamottin)である、請求項6に記載の化粧料組成物。
【請求項8】
蒸熟シトラス果皮抽出物は、蒸熟処理していないものより総フェノール性化合物の含有量が多いことを特徴とする、請求項1に記載の化粧料組成物。
【請求項9】
抗酸化用である、請求項1に記載の化粧料組成物。
【請求項10】
抗炎症用である、請求項1に記載の化粧料組成物。
【請求項11】
シワ又は弾力改善用である、請求項1に記載の化粧料組成物。
【請求項12】
蒸熟シトラス果皮抽出物を有効成分として含む、食品組成物。
【請求項13】
蒸熟シトラス果皮抽出物を有効成分として含む、医薬部外品組成物。
【請求項14】
シトラス果皮を密閉容器にて103℃~150℃で1時間~15時間蒸熟するステップと、
前記蒸熟されたシトラス果皮を抽出するステップとを含む、シトラス果皮抽出物の製造方法。
【請求項15】
前記シトラス果皮は、ミカン(Satsuma mandarin, Citrus unshiu)、ユズ(Yuzu, Citrus junos)、グレープフルーツ(Grapefruit, Citrus paradisi)、ダイダイ(Bitter orange, Citrus aurantium)、オレンジ(Orange, Citrus sinensis)、レモン(Lemon, Citrus limonum)又はライム(Lime, Citrus aurantifolia)の果皮である、請求項14に記載のシトラス果皮抽出物の製造方法。
【請求項16】
前記蒸熟するステップは、フラボノイド配糖体をフラボノイド非配糖体に低分子化するか、又はフラノクマリンの生成を減少させるステップであることを特徴とする、請求項14に記載のシトラス果皮抽出物の製造方法。
【請求項17】
前記蒸熟されたシトラス果皮を乾燥させるステップをさらに含む、請求項14に記載のシトラス果皮抽出物の製造方法。
【請求項18】
請求項14に記載の方法で製造した、シトラス果皮抽出物。
【請求項19】
請求項18に記載のシトラス果皮抽出物を有効成分として含む、化粧料組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸熟シトラス果皮抽出物を有効成分として含む、抗酸化、抗炎症、シワ又は弾力改善用化粧料、食品及び医薬部外品組成物、その製造方法、並びに前記方法で製造したシトラス果皮抽出物に関する。
【背景技術】
【0002】
シトラス(citus,柑橘類)果皮には、ペクチンをはじめとする食物繊維、カロテノイド、ビタミン、各種フラボノイド(非特許文献1)など、人体に有用な様々な生理活性物質が含有されている。果皮由来フラボノイドの様々な生理活性が最近報告されているが、特にビタミンPともいうヘスペリジン(hesperidin)は、毛細血管を保護し、動脈硬化や高血圧の予防に効果があることが報告されている。このように様々な薬理活性作用のある有効成分の含有量は柑橘類の果肉よりも果皮のほうが多いという事実が明らかになるにつれ、柑橘類果皮由来有効成分の効能に関する研究と共に、果皮の食用としての利用に関する多くの研究が行われるようになった。
【0003】
フラボノイド(flavonoid)は、植物由来のポリフェノール系の化合物であり、主に果実の表面、葉の表面、花などに多く存在し、紫外線(UV)からの植物の防御、植物の色、病害虫抵抗性などに関与する。フラボノイドは、配糖体であり、体内代謝などにより非配糖体(aglycone,アグリコン,無配糖体)に変換されると、より大きな生理学的効能をもたらすことが知られている。しかし、原物からそれを非配糖体に変換する方法として酸加水分解や発酵については報告されているものの、化学物質、微生物の追加混入による不純物の発生など、予期できない効果についていまだ詳細に解明されておらず、非配糖体の形態の抽出物を化粧料に活用する方法は、現在も制限がある。
【0004】
フラノクマリン(furanocoumarin)は、植物によるものであり、ヒトの皮膚で光毒性(phototoxic effect)を引き起こすことが知られている。それにより、日光皮膚炎に似た皮膚反応(紅斑、浮腫、水ぶくれなど)、又は細胞が壊死する現象が生じる(非特許文献2)。フラノクマリンは、肝臓と小腸に存在するシトクロムP450系の酵素(cytochrome P450 3A4; CYP3A4)の活性を阻害することにより、CYP3A4により活性化される薬物は不活性化され、逆にCYP3A4により不活性化される薬物は活性化される現象を引き起こす。その結果、血液中に存在する薬物の適正濃度が過度に低く又は過度に高くなる現象が現れるので、期待した薬物の効果が得られないこともあり、深刻な副作用が生じることもある(非特許文献3)。しかし、フラノクマリンに対する精製などの化学的に複雑なプロセスを経ることなしに、フラノクマリンを選択的に低減する方法については示されていない。
【0005】
こうした背景の下、本発明者らは、シトラス果皮の成分組成を改善することにより皮膚効能の向上を図るべく、最適化された条件で蒸熟されたシトラス果皮の抽出物を製造する方法を開発し、それにより製造された蒸熟シトラス果皮抽出物が抗酸化、抗炎症、及びシワ又は弾力改善に優れることを確認し、本発明を完成するに至った。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Journal of the American Chemical Society, 79(24), 6561-6562.
【非特許文献2】J Food Drug Anal, 25: 71-83
【非特許文献3】CMAJ, 185: 309-316
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、蒸熟シトラス(citrus)果皮抽出物を有効成分として含む化粧料組成物を提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明は、蒸熟シトラス果皮抽出物を有効成分として含む食品組成物を提供することを目的とする。
【0009】
さらに、本発明は、蒸熟シトラス果皮抽出物を有効成分として含む医薬部外品組成物を提供することを目的とする。
【0010】
さらに、本発明は、シトラス果皮を密閉容器にて103℃~150℃で1時間~15時間蒸熟するステップと、前記蒸熟したシトラス果皮を抽出するステップとを含むシトラス果皮抽出物の製造方法を提供することを目的とする。
【0011】
さらに、本発明は、前記方法で製造したシトラス果皮抽出物を提供することを目的とする。
【0012】
さらに、本発明は、前記方法で製造したシトラス果皮抽出物を有効成分として含む化粧料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以下、これらを具体的に説明する。なお、本発明で開示される各説明及び実施形態はそれぞれ他の説明及び実施形態にも適用される。すなわち、本発明で開示される様々な要素のあらゆる組み合わせが本発明に含まれる。また、以下の具体的な記述に本発明が限定されるものではない。
【0014】
また、当該技術分野における通常の知識を有する者であれば、通常の実験のみを用いて本発明に記載された本発明の特定の態様の多くの等価物に想到し、確認することができるであろう。さらに、その等価物も本発明に含まれることが意図されている。
【0015】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、蒸熟シトラス(citrus)果皮抽出物を有効成分として含む化粧料組成物を提供する。
【0016】
本発明における「シトラス(citrus)」とは、ミカン科のミカン属(Citrus)、キンカン属(Fortunella)、カラタチ属(Poncirus)の3属の総称である。シトラスとは、ミカン、キンカン、カラタチ、シトロン、ブンタン、マンダリン、タンジェリン、スウィーティー、シトロン、スダチ、セトカ、カラマンシー、ザボン、シラヌヒ、オレンジ、ダイダイ、レモン、グレープフルーツ、ライム、ユズなどのシトラス系に含まれる果物及びそれらの未熟果を意味し、本発明のシトラスは、ミカン属(Citrus)に属する植物であればいかなるものでもよい。具体的には、本発明におけるシトラスとして、ミカン、ユズ、オレンジ、ダイダイ、グレープフルーツ、レモン又はライムが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0017】
本発明における「果皮」とは、果肉の外側を覆う皮を意味するものであり、植物学的な意味から外果皮(exocarp)、中果皮(mesocarp)、内果皮(endocarp)に分けられる。シトラス(柑橘類)に存在するフラボノイドは、分子構造によりフラボン(flavones)、フラバノン(flavanones)、フラボノール(flavonols)、イソフラボン(isoflavones)、アントシアニジン(anthocyanidins)、フラバノール(flavanols)などの6つのグループに分類され、特に果肉より果皮と種子にフラバノンが豊富である。本発明における果皮とは、外果皮、中果皮、内果皮のうち、外果皮及び中果皮を意味するが、これらに限定されるものではない。
【0018】
前記シトラス果皮は、フラボノイド配糖体としてのナリルチン(Narirutin)、ナリンギン(Naringin)、ヘスペリジン(Hesperidin)、フラボノイド非配糖体としてのナリンゲニン(Naringenin)、ヘスペレチン(Hesperetin)、フラノクマリンとしてのベルガプテン(Bergapten)、ベルガモチン(Bergamottin)など、様々な化合物を含む。
【0019】
本発明における「フラボノイド(flavonoid)」は、食品に広く分布する黄色系の色素であり、植物由来のポリフェノール系の化合物である。フラボノイドは、動物には比較的少なく、植物の葉、花、根、果実、幹などに多く存在し、主に抗酸化、抗炎症、抗突然変異、抗癌作用及び主要酵素の機能調節の役割を果たすので、健康補助剤、医薬用薬剤、化粧品産業において様々に用いられている。
【0020】
本発明における「配糖体(glycone)」とは、グリコシド結合により他の官能基に結合している糖分子の総称であり、主に植物に見られる。多くの配糖体は、加水分解により糖分子が分解されると活性を示すことが知られている。配糖体は、酸、アルカリ、適当な加水分解酵素などの作用により、糖部と、アグリコン又はゲニンという非糖部に分解される。
【0021】
前記フラボノイド配糖体は、例えばナリルチン(narirutin)、ナリンギン(naringin)、ヘスペリジン(hesperdin)、didymin、リモシトリン(limocitrin)、エリオシトリン(eriocitrin)、ネオエリオシトリン(neoeriocitrin)、ネオヘスペリジン(neohesperdin)、ポンシリン(poncirin)、ネオポンシリン(neoponcirin)などであればいかなるものでもよく、代表的には、シトラスのフラボノイド配糖体は、ナリルチン、ナリンギン又はヘスペリジンであるが、これらに限定されるものではない。
【0022】
前記「ナリルチン」は、体内活性向上、抗癌作用及びアルコール性肝疾患改善効果を有することが知られており、前記「ナリンギン」は、抗癌活性及び血中脂肪低下作用を有する。前記「ヘスペリジン」は、植物の防御作用の役割を果たすことが知られており、ストレスを受けた皮膚細胞を鎮静させる。
【0023】
本発明における「非配糖体(aglycone,アグリコン,無配糖体)」とは、配糖体分子中の非炭水化物(非糖成分)を意味し、配糖体が非配糖体に変換されると、より大きな生理学的効能をもたらすことが知られている。
【0024】
前記フラボノイド非配糖体は、例えばナリンゲニン(naringenin)、ヘスペレチン(hesperetin)、エリオジクチオール(eriodictyol)、イソサクラネチン(isosakuranetin)などであればいかなるものでもよく、代表的には、シトラスのフラボノイド非配糖体は、ナリンゲニン又はヘスペレチンであるが、これらに限定されるものではない。
【0025】
前記「ナリンゲニン」は、抗菌、抗ウイルス活性だけでなく、抗癌活性を有することが知られており、酸、アルカリ、適当な加水分解酵素などの作用により、ナリルチン又はナリンギンがナリンゲニンに低分子化(変換)される。前記「ヘスペレチン」は、柑橘類に豊富であり、筋肉再生効能を有し、酸、アルカリ、適当な加水分解酵素などの作用により、ヘスペリジン(ヘスペレチン系配糖体)がヘスペレチンに低分子化される。
【0026】
本発明は、蒸熟過程でフラボノイド配糖体を非配糖体に変換し、蒸熟シトラス果皮抽出物に含まれるフラボノイド非配糖体の含有量を増加させることを特徴とする。
【0027】
本発明における蒸熟は、103℃~150℃、具体的には105℃~130℃、より具体的には120℃で行われ、1時間~15時間、又は1時間~12時間、具体的には2時間~8時間、より具体的には4時間~8時間行われるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
本発明における「フラノクマリン(furanocoumarin)」とは、植物から産生される2次代謝産物であって、フラン(furan)環が結合されたクマリン(coumarin)化合物の総称である。多くのフラノクマリンは、光毒性(phototoxic)を有し、ヒトの皮膚で植物性光線皮膚炎(phytophotodermatitis)を引き起こし、薬物関連副作用を引き起こすことが知られている。
【0029】
前記フラノクマリンは、例えばベルガプトール(bergaptol)、ベルガプテン(bergapten)、ベルガモチン(bergamottin)、エポキシベルガモチン(epoxybergamottin)などであればいかなるものでもよく、代表的には、シトラスのフラノクマリンは、ベルガプテン又はベルガモチンであるが、これらに限定されるものではない。
【0030】
前記「ベルガプテン」は、不揮発性の光毒性(感光性)成分であり、皮膚炎の原因となり、皮膚の紫外線過敏性を高め、紅斑の発生を促進し、メラニン色素を増加(色素沈着)させることがある。前記「ベルガモチン」は、体内で薬物の正常な代謝過程に必要なCytochrome P450を阻害することにより、酵素による特定薬物の酸化代謝を妨げ、血流中の薬物濃度を上昇させる。
【0031】
本発明は、蒸熟過程により有害物質であるフラノクマリンの生成量を低減させることを特徴とする。
【0032】
本発明の具体的な一実施例においては、蒸熟処理していないシトラス種の場合、フラボノイド配糖体は検出されるものの、フラボノイド非配糖体は検出されず、いくつかの果皮からのみフラノクマリンが検出された(表1)。
【0033】
本発明における「蒸熟」とは、温度を加えて蒸気で蒸すこと(steaming)を意味する。蒸熟に用いる装置は、一定の温度及び圧力で蒸熟を行うことができるものであればいかなるものでもよい。
【0034】
具体的には、蒸熟は、密閉容器で行われ、より具体的には、厚い密閉ステンレス容器で行われるが、これらに限定されるものではない。蒸熟過程(蒸す過程)が完全に密閉容器において行われるので、本発明においては、高い圧力が保持された状態で反応が起こるが、これに限定されるものではない。
【0035】
本発明の具体的な一実施例において、120℃で8時間蒸熟する代わりにロースト(焙煎)すると、フラボノイド配糖体及び非配糖体の含有量変化が大きくなく、より高い温度である200℃で5分間ローストすると、有意な成分の変化なしに原物の表面がすぐに焦げてしまうため、ヘスペリジンがヘスペレチンに転換できないことが確認された。また、100℃以下の低温で蒸熟処理すると、水蒸気量が多くは発生しないため圧力が低く、蒸熟処理時間を延長して熱処理を長くしても(低圧,低温)、フラボノイド配糖体が非配糖体に低分子化されず、密閉容器にて105℃~130℃の高温条件で蒸熟処理した場合のみ非配糖体が有意に生じることが確認された(表9)。
【0036】
具体的には、フラボノイド配糖体は、初期(蒸熟30分、蒸熟2時間又は蒸熟4時間)には熱により分解されて減少し、抽出効率上昇により一部回復し、その後再び減少(蒸熟4時間又は蒸熟8時間以降)する傾向を示す。
【0037】
前記抽出効率上昇は、物理化学的変化によるものであり、具体的には、前記物理化学的変化とは、果皮を蒸熟し、その後粉末化する際に、単位重量当たりの体積が減少することにより確認される、粒子の表面積が増加する変化を意味する。
【0038】
フラボノイド非配糖体は、蒸熟2時間から発生し始め、蒸熟8時間では初期に比べて最大6.5倍以上増加した。これにより、フラボノイド配糖体が体内吸収に効果的な形態である非配糖体に低分子化されたことが確認された。フラノクマリンは、蒸熟処理時に減少し、蒸熟8時間では量が一部回復したが、蒸熟8時間以降は再び減少する傾向を示した。これにより、有害物質の量が低減することが確認された(表2~8)。
【0039】
本発明における「フェノール性化合物」は、植物界に広く分布している物質であり、様々な構造及び分子量を有し、フェノール性化合物のフェノール性ヒドロキシル(phenolic hydroxyl)基がタンパク質などの巨大分子と結合することにより、抗酸化、抗癌、抗菌などの生理機能を有することが知られており、DPPHラジカル消去活性は、総フェノール含有量との関連性が高いと考えられている。
【0040】
本発明の具体的な一実施例においては、総フェノール性化合物含有量がフラボノイド配糖体と同様に蒸熟初期には減少する傾向を示し、その後減少した量が一部回復し、蒸熟8時間では初期に比べて総フェノール性化合物含有量が有意に増加したので、抗酸化活性の向上が確認された(表10)。
【0041】
本発明における「抽出物(extract)」とは、目的とする物質を様々な溶媒に浸漬し、次いで常温、低温又は加温状態で所定時間抽出して得られた液状成分、前記液状成分から溶媒を除去して得られた固形分などの結果物を意味する。それだけでなく、前記結果物に加えて、前記結果物の希釈液、濃縮液、粗精製物、精製物などが全て含まれるものと包括的に解釈される。よって、本発明において提供するシトラス果皮抽出物には、それを抽出処理して得られる抽出液、前記抽出液の希釈液や濃縮液、前記抽出液を乾燥させて得られる乾燥物、前記抽出液の粗精製物や精製物、それらの混合物など、抽出液自体及び抽出液を用いて形成可能なあらゆる剤形の抽出物が含まれるものと解釈される。
【0042】
本発明のシトラス果皮を抽出する方法は、特に限定されるものではなく、当該技術分野で通常用いられる方法により抽出することができる。前記抽出方法としては、例えば冷浸法、熱水抽出法、超音波抽出法、濾過法、還流抽出法、CO抽出法などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらは単独で用いてもよく、2種以上の方法を併用してもよい。
【0043】
前記抽出に用いられる溶媒の種類は、特に限定されるものではなく、当該技術分野で公知の任意の溶媒を用いることができる。前記抽出溶媒としては、例えば水、アルコール、それらの混合溶媒などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらは単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよく、具体的には水を用いてもよい。アルコールを溶媒として用いる場合、具体的には炭素数1~4のアルコールを用いてもよい。
【0044】
また、前記抽出物は、抽出後に乾燥粉末の形態に作製して用いるが、これに限定されるものではない。
【0045】
本発明における「蒸熟シトラス果皮抽出物」とは、乾燥したシトラスを蒸熟し、その後乾燥させ、次いでメタノール又はエタノールで抽出したものであるが、これらに限定されるものではない。
【0046】
本発明の具体的な一実施例において、成分評価にはメタノール抽出物を用いた。メタノール抽出物とエタノール抽出物の成分はほぼ同じであるが、実際に産業的に適用する際の安全性を考慮して、効能評価にはエタノール抽出物を用いた。
【0047】
本発明の蒸熟シトラス果皮抽出物を含む化粧料組成物は、皮膚改善用途を有するものであってもよい。
【0048】
本発明における「皮膚改善」とは、抗酸化、抗炎症、及びシワ又は弾力改善からなる群から選択される少なくとも1つであるが、これらに限定されるものではない。
【0049】
本発明における「改善」とは、状態の緩和又は治療に関するパラメーター、例えば症状の程度を少なくとも減少させるあらゆる行為を意味し、抗酸化、抗炎症、及びシワ又は弾力改善の少なくとも1つであればいかなるものでもよい。
【0050】
前記皮膚改善は、フリーラジカル消去、NO産生抑制、コラーゲン合成促進により行われるものであるが、これらに限定されるものではない。
【0051】
具体的には、本発明者らは、蒸熟シトラス果皮抽出物が、蒸熟処理していないシトラス果皮抽出物に比べて、皮膚改善効果に優れることを確認した。より具体的には、蒸熟シトラス果皮抽出物は、フェノール性化合物含有量が増加し、フリーラジカル消去、NO産生抑制、コラーゲン合成促進活性などが著しく向上した。これにより、本発明において、蒸熟処理したシトラス果皮抽出物は、蒸熟処理していないシトラス果皮抽出物に比べて、抗酸化、抗炎症、シワ又は弾力改善などの皮膚改善効果に優れることが確認された。
【0052】
本発明における「抗酸化」とは、酸化を抑制する作用を意味し、酸化を抑制する作用であればいかなるものでもよい。具体的には、活性酸素種などのフリーラジカルを除去する作用を意味するが、これに限定されるものではない。人体では酸化促進物質(prooxidant)と抗酸化物質(antioxidant)が均衡をなしているが、様々な要因によりその均衡状態が不均衡状態となり、酸化促進に向かうと、酸化的ストレス(oxidative stress)が誘発され、潜在的な細胞損傷及び病理的疾患を引き起こす。このような酸化的ストレスの直接的原因となる活性酸素種(reactive oxygenspecies, ROS)は、不安定で反応性が高いので、様々な生体物質と容易に反応し、体内の高分子を攻撃することにより、細胞と組織に不可逆的な損傷、突然変異、細胞毒性、発癌などをもたらす。NO、HNO、ONOO-などの活性窒素種(reactivenitrogen species, RNS)は、炎症反応の際にマクロファージ、好中球、及びその他免疫細胞の免疫反応により多量に産生され、その際にROSも共に産生される。このような活性酸素種が体内で細胞を酸化し破壊することにより、各種疾患にさらされる。本発明の蒸熟シトラス果皮抽出物を含む組成物は、フリーラジカル消去及びNO産生抑制による抗酸化活性を有することにより、健康増進に寄与する。
【0053】
本発明における「フリーラジカル(free radical)」とは、対をなしていない1つの電子を有する原子又は分子、水素原子、塩素原子などの単原子の遊離基を意味するが、通常フリーラジカルと呼ばれるものは、無機又は有機化合物分子においてプロトンが1つ脱離して残基に対をなしていない電子が1つあるものである。活性酸素は化学的な反応性に優れるので、それにより誘導されるフリーラジカルは生体内の各種反応に影響を及ぼし、老化などを引き起こす。生物体はフリーラジカルにより生じる有害性に常にさらされており、細胞の年齢増加により有害性が徐々に蓄積されると様々な疾病が生じる。よって、フリーラジカル阻害は、抗酸化効果に重要な役割を果たす。
【0054】
本発明の具体的な一実施例においては、120℃で8時間蒸熟したシトラス抽出物を用いた結果、フリーラジカルが消去され、その消去の程度が未処理のシトラス抽出物より優れていた(表11)。
【0055】
蒸熟シトラス抽出物は、フラボノイド含有量及び総フェノール性化合物含有量の増加だけでなく、フリーラジカル消去能の向上により、抗酸化活性向上効果が確認された。したがって、蒸熟処理により抗酸化活性が向上したシトラス抽出物は、化粧料組成物に有用である。
【0056】
本発明における「抗炎症」とは、炎症を抑制する作用を意味し、炎症を抑制する作用であればいかなるものであってもよく、一般に、炎症の予防、治療又は改善を意味する。炎症反応は、生体内修復機構の増強や損傷の低減のために生じるが、その程度が著しい場合や、長期間持続した場合は、細胞の損傷が起こり、様々な炎症性疾患が生じる。具体的には、炎症性媒介物質又は活性酸素(ROS)の産生を抑制するものであってよく、前記炎症性媒介物質はNO(nitric oxide)であるが、これらに限定されるものではない。
【0057】
本発明における「NO(nitric oxide,亜硝酸)」は、細菌と腫瘍を除去する役割、血圧を調節する役割、神経伝達を媒介する役割などの様々な役割を果たすが、炎症反応が起こると、関連細胞においてiNOS(誘導性一酸化窒素合成酵素)の発現が増加して多量のNOが産生され、過度に産生されたNOが組織の損傷、遺伝子変異、神経損傷などを誘発し、血管透過性を増加させ、浮腫などの炎症反応を促進する。炎症が生じた細胞においてNO産生が増加するのに対して、皮膚鎮静するとNO産生が抑制されるので、これらには必須の相関関係が存在する。
【0058】
本発明の具体的な一実施例においては、120℃で8時間蒸熟したシトラス抽出物を用いた結果、NO産生が抑制され、その抑制の程度が未処理のシトラス抽出物より優れていた(表12)。
【0059】
本発明における「シワ」は、顔の表情を作るのに用いられる表情筋による表情ジワと、全般的又は局所的に皮膚が衰えて生じる小ジワに大別される。具体的には、シワは遺伝子による原因、皮膚の真皮に存在するコラーゲンと弾力繊維の減少、外部環境などにより誘発される。本発明の目的上、シワは、表情ジワや小ジワが全て含まれる意味で用いられるが、これらに限定されるものではない。
【0060】
本発明における「弾力」とは、皮膚を指で押したときにぴんと張る力を意味し、「弾力改善」又は「弾力向上」とは、個体の皮下脂肪層構造を強化して皮膚の弾力を高めることを意味し、本発明の組成物を用いて皮膚の弾力を高めることを意味する。
【0061】
本発明における「老化」とは、時間の経過により生体構造と機能が衰退する現象を意味し、本発明の老化防止とは、老化を予防、抑制、遅延させることを意味し、老化が改善される場合にその程度などはいかなるものでもよい。本発明におけるシワ改善及び老化防止は、コラーゲン合成促進によるものであるが、これに限定されるものではない。
【0062】
本発明における「コラーゲン(Collagen)」とは、ほとんどの動物、特に哺乳動物において多く見られる繊維状タンパク質であって、皮膚や軟骨などの体内の結合組織の大部分を占めるものを意味し、体内で最も多い細胞である線維芽細胞(fibroblasts)がコラーゲンを産生、分泌する。料理や、食品、医薬産業において広く用いられるゼラチンは、コラーゲンを不可逆的に加水分解したものである。コラーゲンの減少はシワを誘発し、皮膚の弾力を減少させる主な原因であるため、コラーゲンの産生はシワ改善及び弾力向上のために必須である。
【0063】
本発明の具体的な一実施例においては、120℃で8時間蒸熟したシトラス抽出物を用いた結果、コラーゲン追加産生量が増加し、その増加の程度が未処理のシトラス抽出物より優れていた(表14)。
【0064】
本発明における「化粧料組成物」は基本的に皮膚に塗布されるものであり、当該技術分野の化粧料組成物を参照すれば、通常製造されるいかなる剤形に製造することもできる。例えば、溶液、外用軟膏、クリーム、フォーム、栄養化粧水、柔軟化粧水、パック、乳液、メイクアップベース、ファンデーション、エッセンス、石鹸、液体洗浄料、入浴剤、サンスクリーンクリーム、サンオイル、懸濁液、ジェル、ローション、パウダー、界面活性剤含有クレンジング、パッチ及びスプレーからなる群から選択される剤形に製造することができるが、これらに限定されるものではない。
【0065】
前記化粧料組成物は、本発明の蒸熟シトラス果皮抽出物以外に、化粧料組成物に通常用いられる抗酸化剤、安定化剤、可溶化剤、ビタミン、顔料、香料などの通常の補助剤及び担体をさらに含んでもよい。例えば、前記化粧料組成物は、グリセリン、ブチレングリコール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、酢酸トコフェロール、クエン酸、パンテノール、スクアラン、クエン酸ナトリウム、アラントインなどの補助成分をさらに含んでもよい。
【0066】
前記化粧料組成物は、柔軟化粧水、収斂化粧水、栄養化粧水、栄養クリーム、マッサージクリーム、エッセンス、パック、経皮パッチ、経皮ゲル、パウダー、軟膏、ペースト、ジェル、サスペンション、エマルジョン、スプレー、美容液又はカプセルに剤形化されるものであるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0067】
本発明の化粧料組成物は、一般の皮膚化粧料に配合される化粧品学的に許容される担体を1種以上さらに含んでもよく、通常の成分として、例えば油分、水、界面活性剤、保湿剤、低級アルコール、増粘剤、キレート剤、色素、防腐剤、香料などを適宜配合してもよいが、これらに限定されるものではない。本発明の化粧料組成物に含まれる化粧品学的に許容される担体は、剤形によって様々である。
【0068】
本発明の剤形が軟膏、ペースト、クリーム又はジェルの場合は、担体成分として、動物性油、植物性油、ワックス、パラフィン、デンプン、トラガカント、セルロース誘導体、ポリエチレングリコール、シリコーン、ベントナイト、シリカ、タルク、酸化亜鉛又はそれらの混合物が用いられてもよい。
【0069】
本発明の剤形がパウダー又はスプレーの場合は、担体成分として、ラクトース、タルク、シリカ、水酸化アルミニウム、ケイ酸カルシウム、ポリアミドパウダー又はそれらの混合物が用いられてもよく、特にスプレーの場合は、さらにハイドロクロロフルオロカーボン、プロパン/ブタン又はジメチルエーテルなどの推進剤が含まれてもよい。
【0070】
本発明の剤形が溶液又は乳濁液の場合は、担体成分として、溶媒、可溶化剤又は乳濁化剤が用いられ、例えば水、エタノール、イソプロパノール、炭酸ジエチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3-ブチルグリコールオイルが用いられてもよく、特に綿実油、ピーナッツオイル、トウモロコシ胚種油、オリーブ油、ヒマシ油及びゴマ油、グリセリン脂肪族エステル、ポリエチレングリコール又はソルビタンの脂肪酸エステルが用いられてもよい。
【0071】
本発明の剤形が懸濁液の場合は、担体成分として、水、エタノール、プロピレングリコールなどの液状の希釈剤や、エトキシ化ステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトールエステル、ポリオキシエチレンソルビタンエステルなどの懸濁剤や、微結晶性セルロース、メタ水酸化アルミニウム、ベントナイト、アガー、トラガカントなどが用いられてもよい。
【0072】
一方、本発明の剤形がカプセルの場合は、アルギン酸塩(alginate)カプセル、アガー(agar)カプセル、ゼラチン(gelatin)カプセル、ワックス(wax)カプセル又は二重カプセルの形態に剤形化されるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0073】
本発明の他の態様は、蒸熟シトラス果皮抽出物を有効成分として含む食品組成物を提供する。
【0074】
本発明における「食品」は、肉類、ソーセージ、パン、チョコレート、キャンディー類、スナック類、菓子類、ピザ、ラーメン、その他の麺類、ガム類、アイスクリーム類をはじめとする乳製品、各種スープ、清涼飲料水、茶、ドリンク剤、アルコール飲料、ビタミン複合剤、機能性食品などの通常の意味の食品であればいかなるものでもよく、本発明の蒸熟シトラス果皮抽出物を含むものであればいかなるものでもよい。また、本発明による蒸熟シトラス果皮抽出物を主成分として作製した汁、茶、ゼリー、ジュースなどに添加することにより製造することができ、丸剤、粉末、顆粒、錠剤、カプセル、液剤などの形態が含まれる。
【0075】
前記食品組成物の製造時には、当該技術分野において通常添加する原料及び成分を添加して製造することができ、その種類は特に限定されるものではない。例えば、通常の食品と同様に様々な生薬抽出物、食品学的に許容される食品補助添加剤、天然炭水化物などを追加成分として含んでもよいが、これらに限定されるものではない。有効成分の混合量は、使用目的に応じて適宜決定され、本発明の組成物は、天然物由来の抽出物を有効成分とする組成物であるため、混合量が特に限定されるものではない。
【0076】
前記「蒸熟」、「シトラス」、「果皮」及び「抽出物」については前述した通りである。
【0077】
前記食品組成物は、抗酸化、抗炎症、シワ又は弾力改善用途を有するものであるが、これらに限定されるものではない。
【0078】
本発明のさらに他の態様は、蒸熟シトラス果皮抽出物を有効成分として含む医薬部外品組成物を提供する。
【0079】
本発明における「医薬部外品」とは、ヒトや動物の疾病を診断、治療、改善、軽減、処置又は予防する目的で用いられる物品のうち医薬品より作用が軽微な物品を意味する。例えば、薬事法によれば、医薬部外品とは、医薬品の用途に用いられる物品を除くものを意味し、ヒト/動物の疾病治療や予防に用いられる製品、人体に対する作用が軽微であるか、又は直接作用しない製品などが挙げられる。
【0080】
具体的には、前記医薬部外品には、皮膚外用剤及び個人衛生用品が含まれる。より具体的には、手指消毒剤、シャワーフォーム、うがい薬、ウェットティッシュ、洗剤、石鹸、ハンドウォッシュ又は軟膏剤であるが、これらに限定されるものではない。
【0081】
本発明による前記組成物を医薬部外品添加物として用いる場合は、前記組成物をそのまま添加してもよく、他の医薬部外品又は医薬部外品成分と共に用いてもよく、通常の方法で適宜用いられる。有効成分の混合量は、使用目的に応じて適宜決定される。
【0082】
前記「蒸熟」、「シトラス」、「果皮」及び「抽出物」については前述した通りである。
【0083】
前記医薬部外品組成物は、抗酸化、抗炎症、シワ又は弾力改善用途を有するものであるが、これらに限定されるものではない。
【0084】
本発明のさらに他の態様は、シトラス果皮を密閉容器にて103℃~150℃で1時間~15時間蒸熟するステップと、前記蒸熟したシトラス果皮を抽出するステップとを含むシトラス果皮抽出物の製造方法を提供する。
【0085】
本発明において、前記蒸熟は、103℃~150℃、具体的には105℃~130℃、より具体的には120℃で行われ、1時間~15時間、又は1時間~12時間、具体的には2時間~8時間、より具体的には4時間~8時間行われるが、これらに限定されるものではない。
【0086】
本発明のシトラスは、ミカン属(Citrus)植物に属するものであればいかなるものでもよく、具体的には、本発明におけるシトラスとして、ミカン、ユズ、オレンジ、ダイダイ、グレープフルーツ、レモン又はライムが用いられるが、これらに限定されるものではない。
【0087】
本発明におけるシトラス抽出物は、蒸熟処理すると、未処理のシトラス抽出物より、フラボノイド配糖体がフラボノイド非配糖体に低分子化されているか、又はフラノクマリンの含有量が低下しているが、これらに限定されるものではない。
【0088】
本発明は、蒸熟後に、乾燥させるステップをさらに含むが、これに限定されるものではない。
【0089】
前記「蒸熟」、「シトラス」、「果皮」及び「抽出物」については前述した通りである。
【0090】
本発明のさらに他の態様は、前記方法で製造したシトラス果皮抽出物を提供する。
【0091】
前記「蒸熟」、「シトラス」、「果皮」及び「抽出物」については前述した通りである。
【0092】
本発明のさらに他の態様は、前記方法で製造したシトラス果皮抽出物を有効成分として含む化粧料組成物を提供する。
【0093】
前記「蒸熟」、「シトラス」、「果皮」、「抽出物」及び「化粧料組成物」については前述した通りである。
【0094】
本発明による蒸熟シトラス果皮抽出物は、フリーラジカル消去、NO産生抑制、コラーゲン合成促進効果を有することにより、抗酸化、抗炎症、及びシワ又は弾力改善効果を発揮する効果を有するが、これらに限定されるものではない。
【発明の効果】
【0095】
本発明は、フェノール性化合物を増加させ、かつフラボノイド非配糖体の発生を増加させると共に、有害物質であるフラノクマリンの含有量の発生を低下させる蒸熟がされたシトラスの抽出物に関し、抗酸化、抗炎症、シワ又は弾力改善効果に優れるので、皮膚に安全であると共に、皮膚状態改善効果に優れる化粧料組成物、食品組成物、医薬部外品組成物として用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0096】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。しかし、これらの実施例は本発明を例示するものにすぎず、本発明がこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例0097】
蒸熟シトラス(Citrus)果皮抽出物の作製
実施例1-1.シトラス果皮の準備及び蒸熟
韓国内で流通しているミカン(Citrus unshiu)、ユズ(Citrus junos)、オレンジ(Citrus sinensis)、ダイダイ(Citrus aurantium)、グレープフルーツ(Citrus paradisi)、レモン(Citrus limonum)、ライム(Citrus aurantifolia)の表面に付着している汚染物を注意深く洗浄し、その後内部の果肉から分離した。分離した果皮を40℃で完全に乾燥させ、次いで約0.5cmの均一な大きさに切断した。
【0098】
次に、厚い密閉ステンレス容器に切断したシトラス(Citrus)果皮を入れ、少量の精製水で含水させる条件下にて、外部空気が入らないように密閉し、その後各蒸熟時間条件(未処理、30分、2時間、4時間、8時間及び12時間)において120℃で蒸熟を行った。その後、40℃で完全に乾燥するまで十分に乾燥させた。
【0099】
実施例1-2.成分評価のための蒸熟シトラス果皮抽出物の作製
前述したように蒸熟処理したシトラス果皮10gを粉末化し、その後高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等級のメタノール100mLに混合して1時間Sonication抽出する過程をそれぞれ3回繰り返し、全300mlの抽出溶媒を得た。得られた300mLの抽出溶媒を濃縮して100mLに再調整し、その後PTFE filter(0.45μm)で濾過してシトラス果皮抽出物を作製した。
【0100】
後述するようにフラボノイド含有量又はフラノクマリン含有量を評価する際は、上記方法で濃縮した蒸熟シトラス果皮抽出物溶液を用い、総フェノール性化合物含有量を評価する際は、濃縮した蒸熟シトラス果皮抽出物溶液の濃度をメタノールで半分に希釈して用いた。
【0101】
実施例1-3.効能評価のための蒸熟シトラス果皮抽出物の作製
前述したように蒸熟処理したシトラス果皮10gを粉末化し、その後エタノール100mLに混合して1時間Sonication抽出する過程をそれぞれ3回繰り返し、全300mlの抽出溶媒を得た。得られた300mLの抽出溶媒を濃縮して100mLに再調整し、その後PTFE filter(0.45μm)で濾過してシトラス果皮抽出物を作製した。
【0102】
後述するように抗酸化効果を確認する際は、濃縮した蒸熟シトラス果皮抽出物溶液の濃度をエタノールで半分に希釈して用い、抗炎症効果及びコラーゲン合成促進効果を確認する際は、ロータリーエバポレーター(Rotary evaporator)を用いて蒸熟シトラス果皮抽出物溶液からエタノールを全て除去し、その後抽出物溶液が50,000ppmの最終濃度となるように残渣をDMSOに再溶解して用いた。
【実施例0103】
蒸熟処理時間及び熱処理条件による成分の変化及び含有量の比較
実施例2-1.各シトラス種における果皮成分の分析
各シトラス種における果皮成分を分析するために、蒸熟処理していないミカン、ユズ、オレンジ、ダイダイ、グレープフルーツ、レモン及びライムのフラボノイド配糖体、フラボノイド非配糖体及びフラノクマリン含有量を比較した(表1)。
【0104】
島津製作所の高速液体クロマトグラフ(HPLC)とダイオードアレイ検出器(DAD)を用いて、乾燥シトラス果皮100gに含有される3種のフラボノイド配糖体であるナリルチン(Narirutin)、ナリンギン(Naringin)及びヘスペリジン(Hesperidin)、2種のフラボノイド非配糖体であるナリンゲニン(Naringenin)及びヘスペレチン(Hesperetin)、2種のフラノクマリンであるベルガプテン(Bergapten)及びベルガモチン(Bergamottin)の含有量(mg)を評価した。
【0105】
具体的には、固定相にはAgilent社のZORBAX Eclipse Plus逆相カラム(4.6×150mm,3.5μm particle size)、移動相にはFormic acidを少量添加した水、アセトニトリルの組み合わせを用いて、Gradient溶離法により抽出物中の成分を分析した。試料投入量は10μL、流速は1mL/min、検出波長は283、310nmで行った。定性及び定量分析のための標準品はSigma-Aldrich社から購入し、少なくとも5つの濃度における吸光度値により検量線(Calibration curve)を作成し、抽出物中の含有量を計算した(平均値,n=3)。
【0106】
【表1】
【0107】
表1に示すように、シトラス種によってフラボノイド配糖体の含有量や組成に差異があり、蒸熟処理していない果皮においては、フラボノイド非配糖体が検出されなかった(Not Detected, N.D.)。7種の果皮のうち4種(ダイダイ,グレープフルーツ,レモン,ライム)においては、フラノクマリンであるベルガプテン又はベルガモチンが検出された。
【0108】
以下、実施例2-2~2-8においては、各シトラス種における蒸熟処理時間条件によるフラボノイド配糖体、フラボノイド非配糖体及びフラノクマリン成分の変化(100gのシトラスに含まれるmg)を確認した。
【0109】
実施例2-2.ミカン果皮における蒸熟処理時間条件による成分の変化
シトラス種であるミカンにおいて、様々な蒸熟時間条件(未処理、蒸熟30分、蒸熟2時間、蒸熟4時間、蒸熟8時間及び蒸熟12時間)によるフラボノイド配糖体、フラボノイド非配糖体及びフラノクマリン成分の変化を比較した(表2)。
【0110】
その結果、フラボノイド配糖体(ナリルチン,ヘスペリジン)においては、蒸熟時間が増加する初期(未処理,蒸熟30分,蒸熟2時間,蒸熟4時間)には熱により分解されて減少するが、その後(蒸熟4時間超,蒸熟8時間)は蒸熟処理に伴う果皮の物理化学的変化により抽出効率が向上し、減少したフラボノイド配糖体の量が増加して一部回復することが確認された。蒸熟8時間以降は再び減少する傾向を示す。しかし、ナリンギンにおいては、熱による分解よりも、物理化学的変化による抽出効率の向上の方が優勢であり、配糖体が増加する傾向を示す。
【0111】
フラボノイド非配糖体においては、蒸熟2時間から発生し始め、蒸熟8時間では初期の約1.6倍~2倍以上に増加したので、フラボノイド配糖体が非配糖体に低分子化されることが確認された。蒸熟8時間以降は再び減少する傾向を示す。
【0112】
フラノクマリン成分は、未処理及び蒸熟処理条件で検出されなかった。
【0113】
【表2】
【0114】
実施例2-3.ユズ果皮における蒸熟処理時間条件による成分の変化
シトラス種であるユズにおいて、様々な蒸熟時間条件(未処理、蒸熟30分、蒸熟2時間、蒸熟4時間、蒸熟8時間及び蒸熟12時間)によるフラボノイド配糖体、フラボノイド非配糖体及びフラノクマリン成分の変化を比較した(表3)。
【0115】
その結果、フラボノイド配糖体においては、蒸熟時間の増加に伴い、熱により分解されてフラボノイド配糖体含有量が減少することが確認された。
【0116】
フラボノイド非配糖体においては、蒸熟2時間から発生し始め、蒸熟8時間では初期の約1.6倍~2倍以上に増加したので、フラボノイド配糖体が非配糖体に低分子化されることが確認された。蒸熟8時間以降は再び減少する傾向を示す。
【0117】
フラノクマリン成分は、未処理及び蒸熟処理条件で検出されなかった。
【0118】
【表3】
【0119】
実施例2-4.オレンジ果皮における蒸熟処理時間条件による成分の変化
シトラス種であるオレンジにおいて、様々な蒸熟時間条件(未処理、蒸熟30分、蒸熟2時間、蒸熟4時間、蒸熟8時間及び蒸熟12時間)によるフラボノイド配糖体、フラボノイド非配糖体及びフラノクマリン成分の変化を比較した(表4)。
【0120】
その結果、フラボノイド配糖体(ナリルチン,ヘスペリジン)においては、ナリルチンに比べて、ヘスペリジンの含有量が12倍以上多いことが確認された。また、前述した2つの物質においては、蒸熟時間が増加する初期(未処理,蒸熟30分,蒸熟2時間,蒸熟4時間)には熱により分解されて減少するが、その後(蒸熟4時間超,蒸熟8時間,蒸熟12時間)は蒸熟処理に伴う果皮の物理化学的変化により抽出効率が向上し、減少したフラボノイド配糖体の量が増加して一部回復することが確認された。
【0121】
フラボノイド非配糖体においては、オレンジ果皮にはヘスペリジンの量が多いが、ナリルチン及びナリンギンの総量が少なく、蒸熟したところ、ヘスペレチンのみ検出された。ヘスペレチンにおいては、蒸熟2時間から発生し始め、蒸熟8時間では初期の約3倍以上に増加したので、フラボノイド配糖体が非配糖体に低分子化されることが確認された。蒸熟8時間以降は再び減少する傾向を示す。
【0122】
フラノクマリン成分は、未処理及び蒸熟処理条件で検出されなかった。
【0123】
【表4】
【0124】
実施例2-5.ダイダイ果皮における蒸熟処理時間条件による成分の変化
シトラス種であるダイダイにおいて、様々な蒸熟時間条件(未処理、蒸熟30分、蒸熟2時間、蒸熟4時間、蒸熟8時間及び蒸熟12時間)によるフラボノイド配糖体、フラボノイド非配糖体及びフラノクマリン成分の変化を比較した(表5)。
【0125】
その結果、フラボノイド配糖体(ナリルチン,ナリンギン)においては、ナリルチンに比べて、ナリンギンの含有量が著しく多いことが確認された。また、前述した2つの物質においては、蒸熟時間が増加する初期(未処理,蒸熟30分,蒸熟2時間,蒸熟4時間)には熱により分解されて減少するが、その後(蒸熟4時間超,蒸熟8時間)は蒸熟処理に伴う果皮の物理化学的変化により抽出効率が向上し、減少したフラボノイド配糖体の量が増加して一部回復することが確認された。蒸熟8時間以降は、ナリンギンは再び減少する傾向を示し、ナリルチンは検出されなかった。
【0126】
フラボノイド非配糖体においては、蒸熟2時間から発生し始め、蒸熟8時間では初期の約4倍以上に増加したので、フラボノイド配糖体が非配糖体に低分子化されることが確認された。蒸熟8時間以降は再び減少する傾向を示す。
【0127】
フラノクマリン(ベルガプテン)においては、蒸熟2時間から含有量が初期の半分以下に減少したので、蒸熟処理に応じて有害物質が減少することが確認された。蒸熟8時間ではベルガプテン量が一部回復することが確認されたが、蒸熟8時間以降は再び減少する傾向を示し、フラボノイド配糖体の変化に類似した様相を呈することが確認された。
【0128】
【表5】
【0129】
実施例2-6.グレープフルーツ果皮における蒸熟処理時間条件による成分の変化
シトラス種であるグレープフルーツにおいて、様々な蒸熟時間条件(未処理、蒸熟30分、蒸熟2時間、蒸熟4時間、蒸熟8時間及び蒸熟12時間)によるフラボノイド配糖体、フラボノイド非配糖体及びフラノクマリン成分の変化を比較した(表6)。
【0130】
その結果、フラボノイド配糖体においては、ナリルチン及びナリンギンは検出されるのに対して、ヘスペリジンは検出されなかった。ナリルチン及びナリンギンにおいては、蒸熟時間が増加する初期(未処理,蒸熟30分,蒸熟2時間)には熱により分解されて減少するが、その後(蒸熟2時間超)は蒸熟処理に伴う果皮の物理化学的変化により抽出効率が向上し、減少したフラボノイド配糖体の量が増加して一部回復することが確認された。蒸熟4時間以降は再び減少する傾向を示す。
【0131】
フラボノイド非配糖体においては、ヘスペリジンが検出されず、ヘスペレチンも検出されず、ナリンゲニンのみ検出された。ナリンゲニンにおいては、蒸熟2時間から発生し始め、蒸熟8時間では初期の約2.5倍以上に増加したので、フラボノイド配糖体が非配糖体に低分子化されることが確認された。蒸熟8時間以降は再び減少する傾向を示す。
【0132】
フラノクマリン(ベルガモチン)においては、未処理、蒸熟30分及び蒸熟2時間でのみ観察され、蒸熟4時間以降は検出されなかったので、蒸熟処理に応じて有害物質が減少することが確認された。
【0133】
【表6】
【0134】
実施例2-7.レモン果皮における蒸熟処理時間条件による成分の変化
シトラス種であるレモンにおいて、様々な蒸熟時間条件(未処理、蒸熟30分、蒸熟2時間、蒸熟4時間、蒸熟8時間及び蒸熟12時間)によるフラボノイド配糖体、フラボノイド非配糖体及びフラノクマリン成分の変化を比較した(表7)。
【0135】
その結果、フラボノイド配糖体においては、ナリルチン及びナリンギンに比べて、ヘスペリジンの含有量が非常に多いことが確認された。また、フラボノイド配糖体においては、蒸熟時間が増加する初期(未処理,蒸熟30分,蒸熟2時間,蒸熟4時間)には熱により分解されて減少するが、その後(蒸熟4時間超,蒸熟8時間)は蒸熟処理に伴う果皮の物理化学的変化により抽出効率が向上し、減少したフラボノイド配糖体の量が増加して一部回復することが確認された。蒸熟8時間以降は再び減少する傾向を示す。
【0136】
フラボノイド非配糖体においては、ライム果皮にはナリルチン及びナリンギンの量がヘスペリジンより著しく少ないので、蒸熟したところ、ヘスペレチンのみ検出された。ヘスペレチンにおいては、蒸熟2時間から発生し始め、蒸熟8時間では初期の約6.5倍以上に増加したので、フラボノイド配糖体が非配糖体に低分子化されることが確認された。蒸熟8時間以降は再び減少する傾向を示す。
【0137】
フラノクマリンにおいては、未処理及び蒸熟30分でのみ観察され、蒸熟2時間以降は検出されなかったので、蒸熟処理に応じて有害物質が減少することが確認された。
【0138】
【表7】
【0139】
実施例2-8.ライム果皮における蒸熟処理時間条件による成分の変化
シトラス種であるライムにおいて、様々な蒸熟時間条件(未処理、蒸熟30分、蒸熟2時間、蒸熟4時間、蒸熟8時間及び蒸熟12時間)によるフラボノイド配糖体、フラボノイド非配糖体及びフラノクマリン成分の変化を比較した(表8)。
【0140】
その結果、フラボノイド配糖体においては、蒸熟時間が増加する初期(未処理,蒸熟30分,蒸熟2時間)には熱により分解されて減少するが、その後(蒸熟2時間超)は蒸熟処理に伴う果皮の物理化学的変化により抽出効率が向上し、減少したフラボノイド配糖体の量が増加して一部回復することが確認された。
【0141】
フラボノイド非配糖体においては、蒸熟2時間から発生し始め、蒸熟8時間では初期の約2.2~3.5倍以上に増加したので、フラボノイド配糖体が非配糖体に低分子化されることが確認された。蒸熟8時間以降は再び減少する傾向を示す。
【0142】
フラノクマリンにおいては、ベルガプテン含有量は、蒸熟2時間からその量が大幅に減少したが、蒸熟4時間以降の抽出効率上昇により一部回復することが確認された。ベルガモチン含有量も、蒸熟2時間で半分以下に大幅に減少し、蒸熟4時間以降はベルガプテンとは異なり検出されなかったので、蒸熟処理に応じて有害物質が減少することが確認された。
【0143】
【表8】
【0144】
実施例2-2~2-8の実施例により、蒸熟処理時間に応じてフラボノイド配糖体及びフラボノイド非配糖体含有量が変化し、特に蒸熟8時間までの処理でフラボノイド配糖体は減少し、フラボノイド非配糖体は増加したので、フラボノイド配糖体が非配糖体に低分子化されることが確認された。また、有害物質であるフラノクマリンにおいては、蒸熟2時間以上の処理で減少することが確認された。
【0145】
実施例2-9.熱処理条件による性状及び成分の変化
実施例2-2~実施例2-8において現れた成分の変化が本発明の特定条件下での蒸熟(105~130℃)においてのみ現れる特徴であるか否かを確認するために、高温ロースト又は100℃以下の低い温度の蒸熟における性状及び成分の変化と比較した。
【0146】
代表的には、シトラス種であるミカンにおいて様々な熱処理条件(未処理,120℃・ロースト8時間,200℃・ロースト5分,80℃・48時間蒸熟,100℃・蒸熟24時間,120℃・蒸熟8時間)下でヘスペリジン及びヘスペレチンの成分を比較(100gのミカンに含まれるmg)し、性状の変化を確認した(平均値,n=3,表9)。
【0147】
【表9】
【0148】
表9に示すように、120℃で8時間蒸熟の代わりにローストしたものにおいては、ヘスペリジンがヘスペレチンに変換される量が大きくないことが確認された。温度がさらに高い200℃で5分間ローストしたものにおいては、有意な成分の変化がなく、原物の表面がすぐに焦げてしまうので、ヘスペリジンがヘスペレチンに変換されないことが確認された。すなわち、蒸熟過程がヘスペリジン及びヘスペレチン含有量の変化に重要な役割を果たすことが確認された。
【0149】
一方、80℃・蒸熟48時間、100℃・蒸熟24時間で処理したものにおいては、フラボノイド配糖体であるヘスペリジンは120℃・蒸熟8時間に比べて大幅に減少し、フラボノイド非配糖体であるヘスペレチンの発生量も著しく少なかった。よって、密閉容器にて100℃以下で蒸熟処理すると、圧力が高くないので、ヘスペリジンがヘスペレチンに変換されないだけでなく、低温で長時間かけて蒸熟して熱処理を多くしても、フラボノイド配糖体は非配糖体に低分子化されないことが確認され、密閉容器にて105℃~130℃の高温条件で蒸熟処理したもののみ非配糖体が有意に生じることが確認された。
【実施例0150】
蒸熟処理によるフェノール性化合物含有量の変化及びフリーラジカル消去による抗酸化効果
実施例3-1.シトラス果皮における蒸熟処理時間条件によるフェノール性化合物含有量の変化
総フェノール性化合物(Total phenolic contents, TPC)の評価は、様々な蒸熟時間条件(未処理、蒸熟30分、蒸熟2時間、蒸熟4時間、蒸熟8時間及び蒸熟12時間)においてFolin-Ciocalteu比色法を用いて行った。
【0151】
具体的には、2mLの蒸留水、250μLのシトラス果皮抽出物、及び250μLのFolin-Ciocalteu’s phenol reagent(2N)を混合して反応を開始し、5分後に、500μLの7.5%sodium carbonate溶液を添加して青色への変色を確認した。90分間反応させ、その後760nmで吸光度を測定した。
【0152】
同様に没食子酸(Gallic acid)25、50、100、200、400、800ppmの濃度で吸光度を評価して検量線(Calibration curve)を作成し、検量線に抽出物の吸光度を代入して計算した総フェノール性化合物の量をmg gallic acid equivalents/g of dried peelで表した(平均値,n=3)。
【0153】
ミカン、ユズ、オレンジ、グレープフルーツ及びライムのフェノール性化合物含有量を比較した(表10)。
【0154】
【表10】
【0155】
表10に示すように、シトラス果皮抽出物に存在するフェノール酸及び主成分であるフラボノイド配糖体はフェノール性化合物であり、総フェノール性化合物含有量の変化はフラボノイド配糖体の変化に類似した傾向を示すことが確認された。すなわち、蒸熟初期には減少し、その後は減少した量が一部回復した。
【0156】
フラボノイド配糖体とは異なり、総フェノール性化合物は、蒸熟8時間では初期と比較してTPC含有量が概して増加したので、蒸熟過程が総フェノール性化合物の量を増加させることが確認された。
【0157】
以下、シトラス果皮抽出物の総フェノール性化合物の増加が抗酸化効果の向上に寄与するか否かを確認する。
【0158】
実施例3-2.フリーラジカル消去による抗酸化効果
シトラス果皮抽出物の抗酸化効果を確認するために、未処理のまま、又は蒸熟30分もしくは蒸熟8時間の処理を施し、1,1-ジフェニル-2-ピクリルヒドラジル(1,1-diphenyl-2-picrylhydrazyl; DPPH)法でフリーラジカル消去能を測定した。比較的安定したフリーラジカルとしてラジカル状態で存在するときは517nmで最大吸光を示すが、ラジカルが消去されると吸光能力を失うDPPHを0.12mMの濃度でメタノールに溶解して用いた。陽性対照群としては、ビタミンE水溶性アナログであるTroloxを用いた。
【0159】
各濃度のTrolox溶液(0.0125,0.025,0.05,0.1,0.2,0.4,0.8mg/mL)を24ウェルプレートにそれぞれ100μLずつ入れ、DPPH溶液を1,900μLずつ添加した。常温で光を遮断して1時間放置し、ELISA readerを用いて517nmでの吸光度を測定し、7つの濃度における吸光度値により各濃度における検量線(Calibration curve)を作成した。同様に、シトラス果皮抽出物100μLとDPPH溶液1,900μLを反応させた。検量線に抽出物の吸光度を代入し、当該シトラス果皮1gが示す抗酸化効果の程度をTrolox μmol equivalents/gで表した。実験は3回行い、その後平均値を計算した。
【0160】
【表11】
【0161】
その結果、全ての果皮種において、蒸熟8時間で処理したものは、抗酸化効能が大幅に向上することが確認された。特に、オレンジ、グレープフルーツ、レモン、ライムにおいて、未処理のもの及び蒸熟30分で処理したものは抗酸化効能が低かったが、蒸熟8時間で処理したものはその効能が約2~4倍以上に大幅に向上し、抗酸化効果に優れることが確認された。
【実施例0162】
NO産生抑制による抗炎症効果
実施例4-1.NO産生抑制による抗炎症効果
シトラス果皮抽出物の抗炎症効果を確認するために、未処理のまま、又は蒸熟30分もしくは蒸熟8時間の処理を施し、NO産生抑制率を測定した。Raw264.7細胞を培養するために、DMEM(Dulbecco's Modified Eagle's Medium)とFBS(Fetal Bovine Serum)を混合したものを基本培地とし、Raw264.7細胞を24-well plateに1~2×10cells/mLの濃度で分注して24時間培養した。培地を除去して無血清培地で12時間Starvationさせ、その後各抽出物のDMSO溶解物が200ppmになるように処理し、30分後にLipopolysaccharideを500ng/mlの濃度で加えて18時間培養した。陽性対照群であるL-NMMAは、20ppmになるように処理した。培養後に、上清を採取して96-well plateに移し、GRIESS試薬を加えて常温で反応させ、ELISA readerを用いて540nmでの吸光度を測定した。産生が阻害されたNO量を対照群と比較してNO産生抑制率(%)として算出した。実験は3回行い、その後平均値を計算した。
【0163】
【表12】
【0164】
その結果、表12に示すように、蒸熟8時間で処理したものにおいて、未処理のもの及び蒸熟30分で処理したものより抗炎症効果に優れることが確認された。
【0165】
実施例4-2.各シトラス果皮成分及び各濃度における抗炎症効果
蒸熟処理したシトラス果皮抽出物成分中の抗炎効能変化の原因を確認するために、フラボノイド配糖体であるヘスペリジンと非配糖体であるヘスペレチンのNO産生抑制率を比較した(表13)。
【0166】
【表13】
【0167】
その結果、表13に示すように、相対的に高い濃度のヘスペリジン及びヘスペレチンで処理したものにおいてNO産生抑制率が上昇し、所定濃度以上(20ppm)において特にヘスペレチンのNO産生抑制率が著しく上昇したので、蒸熟シトラス果皮抽出物から生じるフラボノイド非配糖体が抗炎効能向上の原因であることが確認された。
【実施例0168】
コラーゲン合成促進効果
実施例5-1.コラーゲン合成促進効果
シトラス果皮抽出物のコラーゲン合成促進効果を確認するために、未処理のまま、又は蒸熟30分もしくは蒸熟8時間の処理を施し、コラーゲン追加産生量を測定した。皮膚線維芽細胞(Human Dermal Fibroblast)を培養するために、DMEMとFBSを混合したものを基本培地とし、皮膚線維芽細胞を48-well plateに2~5×10cells/mLの濃度で分注して24時間培養した。培地を除去して無血清培地で各抽出物のDMSO溶解物が10ppmになるように処理し、その後24時間培養した。コラーゲン合成を促進する陽性対照群は、TGF-βで5ppbになるように処理した。細胞培養液を採取し、Human procollagen 1α1 duoset ELISA Kit(R&D Systems社)とELISA readerを用いて、合成されたコラーゲンを測定した。分離精製されたコラーゲンを0.25,0.5,1,2,4,8ng/mLの濃度で測定して検量線を作成し、それに基づいてシトラス果皮抽出物のDMSO溶解物のコラーゲン(Type I collagen)産生量を計算した。産生されたコラーゲン量を対照群(DMSO)と比較してコラーゲン産生率(%)として算出した。実験は3回行い、その後平均値を計算した(表14)。
【0169】
【表14】
【0170】
その結果、表14に示すように、蒸熟8時間で処理したものにおいて、未処理のもの及び蒸熟30分で処理したものよりコラーゲン産生量に優れることが確認された。
【0171】
実施例5-2.各シトラス果皮成分及び各濃度におけるコラーゲン合成促進効果
蒸熟処理したシトラス果皮抽出物成分中のコラーゲン合成促進効能変化の原因を確認するために、フラボノイド配糖体であるヘスペリジンと非配糖体であるヘスペレチンのコラーゲン追加産生量を比較した(表15)。
【0172】
【表15】
【0173】
その結果、表15に示すように、ヘスペレチンは、ヘスペリジンとは異なり、相対的に低い濃度(0.1ppm,1ppm)でコラーゲン産生量が著しく増加したので、蒸熟シトラス果皮抽出物から生じるフラボノイド非配糖体がコラーゲン合成促進効能向上の原因であることが確認された。
【0174】
以上の説明から、本発明の属する技術分野の当業者であれば、本発明がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施できることを理解するであろう。なお、上記実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本発明には、明細書ではなく請求の範囲の意味及び範囲とその等価概念から導かれるあらゆる変更や変形された形態が含まれるものと解釈すべきである。
【外国語明細書】