(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023118134
(43)【公開日】2023-08-25
(54)【発明の名称】熱伝導部材
(51)【国際特許分類】
F28D 15/02 20060101AFI20230818BHJP
H01L 23/427 20060101ALI20230818BHJP
H05K 7/20 20060101ALI20230818BHJP
【FI】
F28D15/02 106Z
F28D15/02 M
F28D15/02 101H
F28D15/02 102G
F28D15/02 102H
H01L23/46 B
H05K7/20 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020103169
(22)【出願日】2020-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000232302
【氏名又は名称】ニデック株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】503190785
【氏名又は名称】尼得科超▲しゅう▼科技股▲ふん▼有限公司
【住所又は居所原語表記】No.184-3,Zhongxing N.St.,Sanchong Dist.,New Taipei City 24158,Taiwan
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】弁理士法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石田 淳一
(72)【発明者】
【氏名】花野 雅昭
【テーマコード(参考)】
5E322
5F136
【Fターム(参考)】
5E322DB08
5E322EA01
5F136CC14
5F136FA01
5F136FA02
5F136FA03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】金属板を繋ぎ合わせる接合部を有する熱伝導部材を、簡単且つ低コストで製造することができる技術を提供する。
【解決手段】熱伝導部材1は、内部に空間を有する筐体2と、前記空間に配置されるウィック構造体3と、前記空間に収容される作動液4と、を有する。前記筐体は、1又は複数の金属板20と、前記金属板を繋ぎ合わせる接合部21と、を有する。前記接合部は、前記金属板の一部で構成される第1層および第2層と、前記第1層と前記第2層との間に配置される接合層と、前記第1層と前記接合層との第1境界部と、前記第2層と前記接合層との第2境界部と、を有する。前記第1境界部は、前記第1層と前記接合層とに跨って存在する少なくとも1つの第1結晶粒により構成される第1領域を有する。前記第2境界部は、前記第2層と前記接合層とに跨って存在する少なくとも1つの第2結晶粒により構成される第2領域を有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に空間を有する筐体と、
前記空間に配置されるウィック構造体と、
前記空間に収容される作動液と、
を有する熱伝導部材であって、
前記筐体は、
1又は複数の金属板と、
前記金属板を繋ぎ合わせる接合部と、
を有し、
前記接合部は、
前記金属板の一部で構成される第1層および第2層と、
前記第1層と前記第2層との間に配置される接合層と、
前記第1層と前記接合層との第1境界部と、
前記第2層と前記接合層との第2境界部と、
を有し、
前記第1境界部は、前記第1層と前記接合層とに跨って存在する少なくとも1つの第1結晶粒により構成される第1領域を有し、
前記第2境界部は、前記第2層と前記接合層とに跨って存在する少なくとも1つの第2結晶粒により構成される第2領域を有する、熱伝導部材。
【請求項2】
前記金属板は、
第1金属板と、
前記第1金属板と対向して配置される第2金属板と、
で構成され、
前記第1層は、前記第1金属板の一部であり、
前記第2層は、前記第2金属板の一部である、請求項1に記載の熱伝導部材。
【請求項3】
少なくとも1つの前記第1結晶粒は、前記第2結晶粒と繋がっている、請求項1又は2に記載の熱伝導部材。
【請求項4】
少なくとも1つの前記第1結晶粒は、前記第2結晶粒から離れている、請求項1から3のいずれか1項に記載の熱伝導部材。
【請求項5】
前記第1境界部は、前記第1層と前記接合層との界面により構成される第3領域を更に有し、
前記第2境界部は、前記第2層と前記接合層との界面により構成される第4領域を更に有する、請求項1から4のいずれか1項に記載の熱伝導部材。
【請求項6】
前記接合層は、前記第1層および前記第2層よりも弾性が大きい、請求項1から5のいずれか1項に記載の熱伝導部材。
【請求項7】
前記接合部に対して前記空間側と、前記空間側の反対側とのうちの少なくとも一方側に、前記金属板同士が接触する接触部が設けられている、請求項6に記載の熱伝導部材。
【請求項8】
前記第1層、前記第2層、および、前記接合層は、同一の素材で構成される、請求項1から7のいずれか1項に記載の熱伝導部材。
【請求項9】
前記第1層および前記第2層を有する前記金属板は、ステンレス製である、請求項1から8のいずれか1項に記載の熱伝導部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱伝導部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばヒートパイプおよびベーパーチャンバー等の、作動液を用いた熱伝導部材が知られる。
【0003】
例えば、従来の平面型ヒートパイプは、対向する2枚の板状体により空洞部が中央部に形成されたコンテナと、空洞部に封入された作動液とを有し、空洞部にウィック構造が備えられた構成とされる。当該平面型ヒートパイプにおいては、板状体の少なくとも一方は、2種類以上の金属部材が積層され一体化された複合部材とされる。空洞部の外周部は、3層以上の部材が積層された構成となり、レーザ溶接で封止される(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
空洞部の外周部をレーザ溶接によって封止する構成では、レーザ光線の位置、或いは、レーザ光線にて溶接される部材の位置を動かしながら、接合作業を行う必要がある。このために、部材の接合に必要となる設備の構造が複雑となったり、高価となったりする可能性がある。
【0006】
本開示は、金属板を繋ぎ合わせる接合部を有する熱伝導部材を、簡単且つ低コストで製造することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の例示的な熱伝導部材は、内部に空間を有する筐体と、前記空間に配置されるウィック構造体と、前記空間に収容される作動液と、を有する。前記筐体は、1又は複数の金属板と、前記金属板を繋ぎ合わせる接合部と、を有する。前記接合部は、前記金属板の一部で構成される第1層および第2層と、前記第1層と前記第2層との間に配置される接合層と、前記第1層と前記接合層との第1境界部と、前記第2層と前記接合層との第2境界部と、を有する。前記第1境界部は、前記第1層と前記接合層とに跨って存在する少なくとも1つの第1結晶粒により構成される第1領域を有する。前記第2境界部は、前記第2層と前記接合層とに跨って存在する少なくとも1つの第2結晶粒により構成される第2領域を有する。
【発明の効果】
【0008】
本開示の例示的な熱伝導部材によれば、金属板を繋ぎ合わせる接合部を有する熱伝導部材を、簡単且つ低コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本開示の実施形態に係る熱伝導部材の概略の構成を示す断面図である。
【
図2】
図2は、接合部、および、その周辺を拡大して示した断面図である。
【
図3】
図3は、接合部の一部を拡大して示した模式図である。
【
図4】
図4は、
図3に示す第1境界部をZ軸方向から見た平面図である。
【
図5】
図5は、接合部の状態を説明するための模式図である。
【
図6】
図6は、接合部の状態を説明するための他の模式図である。
【
図7】
図7は、変形例の熱伝導部材について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の例示的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図面においては、適宜、3次元直交座標系としてXYZ座標系を示す。XYZ座標系において、Z軸方向は、鉛直方向(すなわち上下方向)を示し、+Z方向が上側であり、-Z方向が下側である。X軸方向は、Z軸方向と直交する方向を指し、その一方向および逆方向を、それぞれ+X方向および-X方向とする。Y軸方向は、Z軸方向およびX軸方向の両方と直交する方向を指し、その一方向および逆方向を、それぞれ+Y方向および-Y方向とする。X軸方向およびY軸方向は、水平面と平行な方向である。ただし、これらの方向は単に説明のために用いられる名称であって、実際の位置関係及び方向を限定する意図はない。
【0011】
<1.熱伝導部材の概要>
図1は、本開示の実施形態に係る熱伝導部材1の概略の構成を示す断面図である。なお、
図1には、理解を容易とするために、熱伝導部材1の他に発熱体Hが示されている。
【0012】
本実施形態では、熱伝導部材1はベーパーチャンバーである。発熱体Hは、例えば、熱を発する電子部品、または、その電子部品を搭載する基板である。発熱体Hは、例えばCPUなどを含む。発熱体Hは、熱伝導部材1による熱の輸送によって冷却される。熱伝導部材1は、例えば、スマートフォン或いはノート型パーソナルコンピュータなどの、発熱体Hを有する電子機器に搭載される。
【0013】
熱伝導部材1は、被加熱部101と、放熱部102とを有する。被加熱部101は、例えば発熱体Hと接して配置され、発熱体Hが発する熱によって加熱される。つまり、被加熱部101は、発熱体Hから放散された熱が伝達される部分である。放熱部102は、被加熱部101で加熱された後述の作動液4が有する熱を外部に放出する。
【0014】
図1に示すように、熱伝導部材1は、筐体2と、ウィック構造体3と、作動液4とを有する。
【0015】
筐体2は、内部に空間2aを有する。空間2aは、詳細には密閉空間である。空間2aは、大気圧よりも気圧が低い減圧状態に維持されることが好ましい。筐体2のZ軸方向の厚みは、例えば100μm以上1000μm以下であることが好ましい。本実施形態においては、筐体2は直方体形状である。ただし、筐体2は、例えば円柱状等の他の形状であってよい。なお、筐体2の一部は、被加熱部101に含まれる。筐体2の他の一部は、放熱部102に含まれる。
【0016】
筐体2は、1又は複数の金属板20と、金属板20を繋ぎ合わせる接合部21とを有する。金属板20は、金属を主成分とする板状部材である。金属板20は、例えば、銅、鉄、アルミニウム、亜鉛、銀、金、マグネシウム、マンガン、チタン、或いは、これらの金属を含む合金等で構成される。筐体2が有する接合部21は、1つの金属板20の一部と他の一部、又は、複数の金属板20同士を繋ぎ合わせる接合構造のことを指す。接合部21の詳細については後述する。
【0017】
本実施形態では、金属板20は、第1金属板201と第2金属板202とで構成される。すなわち、筐体2は、第1金属板201と第2金属板202との2つの金属板20を有する。接合部21は、第1金属板201と第2金属板202とを繋ぎ合わせる。第2金属板202は、第1金属板201と対向して配置される。詳細には、第1金属板201と第2金属板202とは、Z軸方向に対向して配置される。
【0018】
なお、上述のように、筐体2が有する金属板20は1つであってもよい。この場合には、例えば、1つの金属板20が折り曲げられて、1つの金属板20の端部同士が繋ぎ合わされて接合部21が形成される構成としてよい。
【0019】
第1金属板201は、ウィック構造体3を-Z方向側から支持する。第1金属板201は、好ましくは、銅又はステンレス製である。本実施形態では、第1金属板201は、-Z方向に凹む凹形状である。第1金属板201は、Z軸方向からの平面視において矩形状であり、その凹部も矩形状である。ただし、第1金属板201は平板であってもよい。また、第1金属板201およびその凹部は、矩形状以外であってもよい。
【0020】
第2金属板202は、第1金属板201に対して+Z方向側に配置され、第1金属板201上のウィック構造体3を覆う。第2金属板202は、第1金属板201と同じ金属材料で構成されることが好ましい。すなわち、第1金属板201が銅製である場合、第2金属板202も銅製であることが好ましい。第1金属板201がステンレス製である場合、第2金属板202もステンレス製であることが好ましい。
【0021】
第2金属板202は、詳細には、+Z方向に凹む凹形状である。第2金属板202は、Z軸方向からの平面視において矩形状であり、その凹部も矩形状である。なお、第2金属板202およびその凹部は、矩形状以外であってもよい。また、第2金属板202は、複数のリブ202aを有する。リブ202aは、第2金属板202の-Z方向側の面から-Z方向に延びてウィック構造体3と接触する。リブ202aは、例えば、円柱状や角柱状等であってよい。リブ202aは、例えば、XY平面内において規則的に並んで配置される。Z軸方向においてリブ202aがウィック構造体3と接触することにより、筐体2の厚みが一定に保たれる。なお、第2金属板202とリブ202aとは、単一部材であってもよいし、別部材であってもよい。また、リブ202aは、必須ではなく、設けられなくてもよい。
【0022】
ウィック構造体3は、空間2aに配置される。上述のように、本実施形態では、ウィック構造体3は第1金属板201に支持される。ウィック構造体3は、毛細管構造を有する部材であればよい。ここで、毛細管構造とは、毛管圧力により作動液4を移動させることができる構造を指す。毛細管構造としては、例えば、多孔構造、繊維構造、溝構造、および、網目構造が挙げられる。ウィック構造体3のZ軸方向の厚みは、例えば、5μm以上200μm以下であってよい。Z軸方向からの平面視において、ウィック構造体3は、空間2aと同程度の面積を有することが好ましい。
【0023】
ウィック構造体3としては、例えば、ワイヤー、メッシュ、および、多孔質体が挙げられる。多孔質体は、例えば焼結体である。ウィック構造体3は、例えば、銅、アルミニウム、ニッケル、鉄、チタン、これらの合金、炭素繊維、或いは、セラミック等で構成される。ウィック構造体3は、例えば銅製であることが好ましい。なお、ウィック構造体3は、例えば第1金属板201自体に設けられてもよい。ウィック構造体3は、例えば、第1金属板201の+Z方向側の面に形成された溝又は凹凸構造であってよい。
【0024】
作動液4は、空間2aに収容される。詳細には、作動液4は空間2aに封入される。空間2aが減圧状態である場合、空間2aに封入される作動液4は蒸発し易くなる。作動液4は、熱伝導部材1の使用環境において蒸発および凝縮する液体であればよい。作動液4は、例えば、水、アルコール、或いは、エチレングリコール等であってよい。作動液4は、水であることが好ましい。
【0025】
以上のように構成される熱伝導部材1では、発熱体Hで発生した熱により、被加熱部101が加熱される。被加熱部101の温度が上昇すると、筐体2の内部の空間2aに収容された作動液4が蒸発する。この際、被加熱部101は、蒸発潜熱の吸収により冷却される。作動液4の蒸発により発生した蒸気は、空間2aを放熱部102側に移動する。放熱部102では、放熱によって蒸気が凝縮する。この際、放熱部102は、蒸発潜熱の放出により加熱される。放熱部102には、放熱効率を高めるために放熱フィンが設けられることが好ましい。凝縮した作動液4は、毛細管現象によってウィック構造体3中を被加熱部101に向かって移動する。なお、
図1では、作動液4が蒸発して発生する蒸気の流れを黒矢印で示し、凝縮した作動液4の流れを白抜き矢印で示す。以上のように作動液4が状態変化を伴いながら移動することにより、被加熱部101側から放熱部102側への熱の輸送が連続的に行われる。
【0026】
<2.接合部の詳細>
図2は、接合部21、および、その周辺を拡大して示した断面図である。
図2に示すように、金属板20の接合には、接合部材22が利用される。すなわち、接合部21は、接合部材22を用いて構成される。本実施形態では、第1金属板201と第2金属板202とのZ軸方向間に接合部材22が配置され、第1金属板201と第2金属板202とは、接合部材22を介して接合されている。
【0027】
図3は、接合部21の一部を拡大して示した模式図である。
図3は、
図2の破線で囲んだ部分を拡大して示した模式図である。
図3に示すように、接合部21は、第1層21aおよび第2層21bと、接合層21cと、第1境界部21dと、第2境界部21eと、を有する。
【0028】
第1層21aおよび第2層21bは、金属板20の一部で構成される。本実施形態では、第1層21aは、第1金属板201の一部である。第2層21bは、第2金属板202の一部である。第1層21aは、第1金属板201の+Z方向側の外縁部に位置する。第1層21aは、Z軸方向からの平面視において矩形の環状である。第2層21bは、第2金属板202の-Z方向側の外縁部に位置する。第2層21bは、Z軸方向からの平面視において矩形の環状である。第1層21aおよび第2層21bは、Z軸方向に対向して配置される。
【0029】
本実施形態のように金属板20を2つとし、2つの金属板20を接合部21にて繋ぎ合わせて筐体2を形成する構成とすると、ウィック構造体3および作動液4が内部に配置される筐体2を製造し易くすることができる。すなわち、熱伝導部材1の製造を簡単とすることができる。
【0030】
なお、第1層21aおよび第2層21bを有する金属板20は、ステンレス製であることがより好ましい。このような構成とすれば、例えば、金属板20を銅で構成する場合に比べて熱伝導部材1を軽量化することができる。また、このような構成とすれば、例えば、金属板20を銅で構成する場合に比べて、筐体2を薄型化した場合においても強度を確保することができる。
【0031】
接合層21cは、第1層21aと第2層21bとの間に配置される。詳細には、接合層21cは、Z軸方向に互いに対向する第1層21aと第2層21bとの間に配置される。本実施形態では、接合層21cは、Z軸方向からの平面視において矩形の環状である。接合層21cは、上述の接合部材22で構成される。接合層21cは、単一層であってもよいし、複数の層が積層された構成でもよい。複数の層が積層された構成の場合には、各層間は接合される。
【0032】
接合層21cは、好ましい形態として金属層である。接合層21cは、例えば、銅、鉄、アルミニウム、亜鉛、銀、金、マグネシウム、マンガン、チタン、或いは、これらの金属を含む合金等で構成される。第1層21a、第2層21b、および、接合層21cは、同一の素材で構成されてよい。このような構成とすれば、同一条件の接合処理で、第1層21aと接合層21cとの接合状態と、第2層21bと接合層21cとの接合状態との差異を小さくすることができる。すなわち、接合処理が複雑となることを避けることができ、接合処理の効率化を図ることができる。
【0033】
なお、接合層21cは、第1層21aおよび第2層21bよりも弾性が大きい構成とされてもよい。このような構成とすれば、金属板20の接合時において、接合層21cにおいてZ軸方向の厚みのばらつきを吸収することができる。この場合において、第1層21aと第2層21bとは、同一の素材で構成されてもよいし、互いに異なる素材で構成されてもよい。
【0034】
第1境界部21dは、第1層21aと接合層21cとの境界部である。第1境界部21dは、第1層21aと接合層21cとに跨って存在する第1結晶粒CP1により構成される第1領域A1を有する。第1結晶粒CP1は、第1層21aと接合層21cとの間で結晶組織が再構成されて生成される。具体的には、第1結晶粒CP1は 金属組織が再構成されて生成される。第1領域A1では、第1層21aと接合層21cとの界面が消失して、両層が単一化している。すなわち、第1領域A1が形成されることにより、第1層21aと接合層21cとを接合することができる。
【0035】
第2境界部21eは、第2層21bと接合層21cとの境界部である。第2境界部21eは、第2層21bと接合層21cとに跨って存在する第2結晶粒CP2により構成される第2領域A2を有する。第2結晶粒CP2は、第2層21bと接合層21cとの間で結晶組織が再構成されて生成される。具体的には、第2結晶粒CP2は 金属組織が再構成されて生成される。第2領域A2では、第2層21bと接合層21cとの界面が消失して、両層が単一化している。すなわち、第2領域A2が形成されることにより、第2層21bと接合層21cとを接合することができる。
【0036】
第1層21aと接合層21cとが接合され、第2層21bと接合層21cとが接合されるために、第1層21aと第2層21bとは接合層21cを介して接合される。すなわち、接合部21により金属板20を繋ぎ合わせることができる。第1層21aと接合層21cとの接合、および、第2層21bと接合層21cとの接合は、金属板20間に接合部材22を挟んだ状態で、加熱加圧処理をすることにより形成できる。すなわち、本実施形態の構成によれば、レーザ接合とは異なる方法で金属板20の接合を行うことができ、簡単且つ低コストで金属板20を繋ぎ合わせることができる。ここで、加熱加圧処理は、加熱しながら加圧処理を行う処理のことを指す。
【0037】
なお、接合部材22は、ろう材とは異なる。第1金属板201と第2金属板202との間に配置される部材がろう材である場合には、結晶組織の再構成によって生成される上述の結晶粒CP1、CP2は生じない。また、ろう材を用いて接合する場合には、接合処理時にろう材が液化するために、ろう材が漏れ出さない工夫が必要とされる。例えば、第1金属板201と第2金属板202とのうちの少なくとも一方に、ろう材を収容する溝が設けられる。しかし、本実施形態の構成では、接合部材22は、接合処理の際に液化しないために、このような溝の形成は必ずしも必要でない。すなわち、本実施形態の構成によれば、簡単且つ低コストで金属板20を繋ぎ合わせることができる。
【0038】
本実施形態では、第1境界部21dは、第1層21aと接合層21cとの界面S1により構成される第3領域A3を更に有する。第1層21aと接合層21cとの界面S1では、互いの結晶組織にずれが認められる。すなわち、第3領域A3では、第1層21aと接合層21cとの間で金属組織の再構成は起こっておらず、第1層21aと接合層21cとは単一化するに至ってはいない。ただし、第3領域A3では、第1層21aと接合層21cとは完全に分離しておらず、弱い結合で接合されていることが好ましい。これにより、第3領域A3が存在するにもかかわらず、流体が第1境界部21dを通り抜けて筐体2の外部に漏れることを抑制することができる。なお、本実施形態では、流体は、作動液4および作動液4の蒸気である。以下の同様の意味で、流体との文言を使用する場合がある。
【0039】
また、第2境界部21eは、第2層21bと接合層21cとの界面S2により構成される第4領域A4を更に有する。第2層21bと接合層21cとの界面S2では、互いの結晶組織にずれが認められる。すなわち、第4領域A4では、第2層21bと接合層21cとの間で金属組織の再構成は起こっておらず、第2層21bと接合層21cとは単一化するには至っていない。ただし、第4領域A4では、第2層21bと接合層21cとは完全に分離しておらず、弱い結合で接合されていることが好ましい。これにより、第4領域A4が存在するにもかかわらず、流体が第2境界部21eを通り抜けて筐体2の外部に漏れることを抑制することができる。
【0040】
以上からわかるように、本実施形態では、第1境界部21dにおいては、部分的に第1層21aと接合層21cとが単一化し、両層の区別がなくなっている。また、第2境界部21eにおいては、部分的に第2層21bと接合層21cとが単一化し、両層の区別がなくなっている。すなわち、本実施形態の接合部21は、第1層21aと接合層21cとが全体的に区別がなくなる条件と、第2層21bと接合層21cとが全体的に区別がなくなる条件とのいずれの場合よりも、緩い条件での加熱加圧処理により形成することができる。このために、本実施形態の構成によれば、簡単且つ低コストで金属板20を繋ぎ合わせることができる。
【0041】
なお、第1層21aと接合層21cとが全体的に区別がなくなる条件とは、第1層21aと接合層21cとが、いわゆる、拡散接合される条件である。第2層21bと接合層21cとが全体的に区別がなくなる条件とは、第2層21bと接合層21cとが、いわゆる、拡散接合される条件である。
【0042】
また、加熱加圧処理において設定される設定値には、温度、圧力、および、処理時間が含まれる。本実施形態の構成では、これらの設定値が適切な値に調整されることにより、接合部21は、拡散接合とは異なる接合となっている。
【0043】
接合部21から無作為に選択された10箇所において、第1境界部21dの1mmの範囲を断面観察した際に、全ての第1境界部21dは、
図3に示すように、第1領域A1と第3領域A3とが交互に存在していることが好ましい。また、接合部21から無作為に選択された10箇所において、第2境界部21eの1mmの範囲を断面観察した際に、全ての第2境界部21eは、
図3に示すように、第2領域A2と第4領域A4とが交互に存在していることが好ましい。このように第1領域A1と第3領域A3、および、第2領域A2と第4領域A4がミクロレベルで混在することにより、筐体2の密閉性を向上することができる。
【0044】
図4は、
図3に示す第1境界部21dをZ軸方向から見た平面図である。
図4に示すように、第1境界部21dにおいては、不連続相として存在する複数の第1領域A1が、連続相として存在する第3領域A3内に不規則に散在されていることが好ましい。このように構成することにより、筐体2の密閉性を更に向上することができる。以下、これについて説明する。
【0045】
第1領域A1では、第1層21aと接合層21cとが単一化している。このために、流体は第1領域A1を通過できない。一方、第3領域A3では、第1層21aと接合層21cとは、弱い結合で繋がっているが、単一化している状態ではない。このために、流体が第3領域A3を通過する可能性がある。
【0046】
図4において、Fは流体であり、矢印は流体Fの移動方向を示す。
図4において、流体Fは、-X方向に直進した場合に、最短距離で筐体2の内部の空間2aから外部へと至る。流体Fは、可能な限り-X方向に直進しようとする。しかし、流体Fは、第1境界部21d内に散在する第1領域A1を直進することができないために、第1領域A1を回避しながら第3領域A3を移動する。このために、流体Fは、屈曲しながら第1境界部21dを移動することになり、あたかも迷路内を移動するかの如く長距離の移動を強いられることになる。これにより、流体Fが筐体2の内部から外部に至る可能性を低減することができる。
【0047】
同様に、第2境界部21eにおいても、不連続相として存在する複数の第2領域A2が、連続相として存在する第4領域A4内に不規則に散在されていることが好ましい。このように構成することにより、第1境界部21dの場合と同様に、筐体2の密閉性を更に向上することができる。
【0048】
少なくとも1つの第1結晶粒CP1は、第2結晶粒CP2から離れている構成としてよい。換言すると、少なくとも1つの第1結晶粒CP1は、第2結晶粒CP2と別の粒子として構成されてよい。熱伝導部材1をこのような構成とする場合、接合部21を緩い条件での加熱加圧処理により形成することができ、例えば製造時間を短縮化することができる。なお、
図3においては、図中の全ての第1結晶粒CP1が第2結晶粒CP2から離れている。接合部21に存在する全ての第1結晶粒CP1が第2結晶粒CP2から離れている構成としてよい。
【0049】
少なくとも1つの第1結晶粒CP1は、第2結晶粒CP2と繋がっている構成としてよい。換言すると、少なくとも1つの第1結晶粒CP1は、第2結晶粒CP2と単一の粒子を構成していることとしてよい。熱伝導部材1をこのような構成とする場合、全ての第1結晶粒CP1が第2結晶粒CP2から離れている構成とする場合に比べて強い条件での加熱加圧処理が必要となり、接合部21の接合強度を向上することができる。
【0050】
図5は、接合部21の状態を説明するための模式図である。
図5は、
図3に示す状態と異なる状態を示す断面図である。
図5においては、図中の全ての第1結晶粒CP1が第2結晶粒CP2と繋がっている。接合部21に存在する全ての第1結晶粒CP1が第2結晶粒CP2と繋がっている構成としてもよい。
【0051】
図6は、接合部21の状態を説明するための他の模式図である。
図6は、
図3および
図5に示す状態と異なる状態を示す断面図である。
図6においては、図中の一部の第1結晶粒CP1が第2結晶粒CP2と繋がり、残りの一部の第1結晶粒CP1は第2結晶粒CP2から離れている。接合部21の全体において、一部の第1結晶粒CP1が第2結晶粒CP2と繋がっており、残りの一部の第1結晶粒CP1が第2結晶粒CP2から離れている構成としてもよい。
【0052】
<3.熱伝導部材の製造方法>
以下、本実施形態に係る熱伝導部材1の製造方法を例示する。熱伝導部材1の製造方法は、例えば、配置工程と、接合工程と、注入工程とを有する。熱伝導部材1の製造方法は、例えば、配置工程、接合工程、注入工程の順に進められる。
【0053】
配置工程においては、ウィック構造体3を支持した第1金属板201を用意する。そして、ウィック構造体3を覆うように、第1金属板201に対して第2金属板202を対向配置する。この際、第1金属板201と第2金属板202との外縁において、両者の対向方向間に接合部材22を配置する。これにより、内部の空間2aにウィック構造体3が配置された仮設筐体が形成される。仮設筐体は、接合部21を有しないという点で、本実施形態に係る熱伝導部材1が備える筐体2と相違する。
【0054】
接合工程においては、仮設筐体を形成する第1金属板201および第2金属板202と、接合部材22を加熱加圧処理することにより、接合部21を形成する。加熱加圧処理の際に設定される温度、圧力、および、処理時間は、上述した第1領域A1、第2領域A2、第3領域A3、および、第4領域A4が形成される条件に設定される。当該設定値は、例えば実験によって決めることができる。なお、本例では、接合工程においては、仮設筐体の少なくとも1箇所に、作動液4を注入する注入口が残される。
【0055】
注入工程においては、接合工程において残しておいた注入口から、例えば水などの作動液4を空間2a内に注入する。作動液4の注入後、例えば溶接により注入口を閉じる。これにより、熱伝導部材1が完成する。なお、注入口を閉じる方法は、溶接以外でもよく、例えば、加熱加圧処理により注入口の位置に接合部21を形成する構成としてもよい。また、注入口を閉じる際に、加熱により空間2a内の空気の一部を外部に追い出して、筐体2の空間2aが大気圧より気圧が低い減圧状態とされることが好ましい。
【0056】
<4.変形例>
図7は、変形例の熱伝導部材1Aについて説明するための図である。
図7は、熱伝導部材1Aの断面図の一部を示す。変形例の熱伝導部材1Aにおいては、接合部21に対して空間2a側と、空間2a側の反対側とのうちの少なくとも一方側に、金属板20同士が接触する接触部23が設けられている。空間2a側の反対側とは、筐体2の外部側が該当する。接合部21に対して空間2a側は、接合部21から見て内方であり、接合部21に対して空間2a側の反対側は、接合部21から見て外方である。
【0057】
図7に示す例では、接合部21に対して空間2a側の反対側に、第1金属板201と第2金属板202とが接触する接触部23が設けられている。なお、接触部23においては、第1金属板201と第2金属板202とは接合されていても、接合されていなくてもよい。
【0058】
第1金属板201と第2金属板202との間に接合部材22が挟まれている。この点を考慮して、本変形例では、第2金属板202の外縁に、第2境界部21eより-Z方向に突出する突起部202bを設け、接触部23を形成している。接触部23が形成されることにより、筐体2のZ軸方向の厚みを精度良く製造することができる。本変形例では、接合部材22は、第1金属板201および第2金属板202より弾性が大きい部材であることが好ましい。また、上述のリブ202aは設けられない構成としてもよい。
【0059】
なお、接触部23は、第2金属板202の外縁に突起部202bを設ける替わりに、例えば、第1金属板201の外縁に、第1境界部21dよりも+Z方向に突出する突起部を設けて形成してもよい。また、接触部23は、例えば、第1金属板201と第2金属板202との各外縁に突起部を設けて形成してもよい。
【0060】
<5.留意事項>
本明細書中に開示される種々の技術的特徴は、その技術的創作の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることが可能である。また、本明細書中に示される複数の実施形態および変形例は可能な範囲で組み合わせて実施されてよい。本開示の熱伝導部材の構成は、ベーパーチャンバーに限らず、例えばヒートパイプに適用されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本開示の熱伝導部材は、例えば電子機器に搭載される基板又は電子部品の放熱用の部材として利用することができる。
【符号の説明】
【0062】
1、1A・・・熱伝導部材
2・・・筐体
2a・・・空間
3・・・ウィック構造体
4・・・作動液
20・・・金属板
21・・・接合部
21a・・・第1層
21b・・・第2層
21c・・・接合層
21d・・・第1境界部
21e・・・第2境界部
23・・・接触部
201・・・第1金属板
202・・・第2金属板
A1・・・第1領域
A2・・・第2領域
A3・・・第3領域
A4・・・第4領域
CP1・・・第1結晶粒
CP2・・・第2結晶粒
S1、S2・・・界面