(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023118156
(43)【公開日】2023-08-25
(54)【発明の名称】3,9-ビス(4-オキシ-3-メトキシフェニル)-2,4,8,10,-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンの結晶多形体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 493/10 20060101AFI20230818BHJP
【FI】
C07D493/10 C CSP
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022020933
(22)【出願日】2022-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】布目 和徳
(72)【発明者】
【氏名】今里 健太
【テーマコード(参考)】
4C071
【Fターム(参考)】
4C071AA04
4C071BB01
4C071CC12
4C071EE23
4C071FF33
4C071GG03
4C071JJ01
4C071LL07
(57)【要約】
【課題】ハンドリングや容積効率に優れる3,9-ビス(4-オキシ-3-メトキシフェニル)-2,4,8,10,-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンの新規な結晶多形体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】Cu-Kα線による粉末X線回折パターンにおける回折角2θが5.0±0.2°、16.8±0.2°および18.2±0.2°にピークを有する3,9-ビス(4-オキシ-3-メトキシフェニル)-2,4,8,10,-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンの結晶多形体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu-Kα線による粉末X線回折パターンにおける回折角2θが5.0±0.2°、16.8±0.2°および18.2±0.2°にピークを有する3,9-ビス(4-オキシ-3-メトキシフェニル)-2,4,8,10,-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンの結晶多形体。
【請求項2】
176~190℃の範囲に示差走査熱量分析による吸熱ピークを有する3,9-ビス(4-オキシ-3-メトキシフェニル)-2,4,8,10,-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンの結晶多形体。
【請求項3】
嵩比重が0.3g/cc以上である3,9-ビス(4-オキシ-3-メトキシフェニル)-2,4,8,10,-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンの結晶多形体。
【請求項4】
芳香族炭化水素から選ばれる少なくとも1種の溶媒を用いて再結晶することを特徴とする3,9-ビス(4-オキシ-3-メトキシフェニル)-2,4,8,10,-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンの結晶多形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハンドリングや容積効率に優れる新規な3,9-ビス(4-オキシ-3-メトキシフェニル)-2,4,8,10,-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンの結晶多形体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
3,9-ビス(4-オキシ-3-メトキシフェニル)-2,4,8,10,-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン等のスピロアセタール環を有するビスフェノールは、エポキシ樹脂の原料として有用である(特許文献1)。3,9-ビス(4-オキシ-3-メトキシフェニル)-2,4,8,10,-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンの製造方法として、特許文献1の例7には、バニリンとペンタエリスリトールとを脱水縮合し、得られた生成物の溶液を水中に投入し、析出した結晶をろ別回収することで、融点175℃の白色結晶を得る方法が記載されている。また、非特許文献1~3には粗生成物を溶媒としてアルコール類で再結晶することで融点170-172℃の結晶を得る方法が記載されている。さらに、非特許文献4には、溶媒として石油エーテルおよびジエチルエーテルを使用し、粗生成物をシリカゲルカラムで分離することで融点167~170℃の結晶を得る方法が記載されている。しかしながら、前記結晶は嵩比重が低いため、生産性が悪いこと、樹脂原料として使用する際のハンドリングが悪いことが課題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】European Journal of Chemistry 5(3)(2014)536-540
【非特許文献2】Catalysis Communications 7(2006)921-925
【非特許文献3】Applied Catalysis A:General 295(2005)185-192
【非特許文献4】Journal of Chemical Research(2004)March,203-205
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ハンドリングや容積効率に優れる3,9-ビス(4-オキシ-3-メトキシフェニル)-2,4,8,10,-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンの結晶多形体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、以下の態様を有する本発明により、上記課題を解決できることを見出した。
《態様1》
Cu-Kα線による粉末X線回折パターンにおける回折角2θが5.0±0.2°、16.8±0.2°および18.2±0.2°にピークを有する3,9-ビス(4-オキシ-3-メトキシフェニル)-2,4,8,10,-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンの結晶多形体。
《態様2》
176~190℃の範囲に示差走査熱量分析による吸熱ピークを有する3,9-ビス(4-オキシ-3-メトキシフェニル)-2,4,8,10,-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンの結晶多形体。
《態様3》
嵩比重が0.3g/cc以上である3,9-ビス(4-オキシ-3-メトキシフェニル)-2,4,8,10,-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンの結晶多形体。
《態様4》
芳香族炭化水素から選ばれる少なくとも1種の溶媒を用いて再結晶することを特徴とする3,9-ビス(4-オキシ-3-メトキシフェニル)-2,4,8,10,-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンの結晶多形体の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、樹脂原料として好適で、生産性に優れる新規な3,9-ビス(4-オキシ-3-メトキシフェニル)-2,4,8,10,-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンの結晶多形体およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例1で得られた結晶多形体Aの示差走査熱量測定(DSC)曲線を示す図である。
【
図2】比較例1で得られた結晶多形体Bの示差走査熱量測定(DSC)曲線を示す図である。
【
図3】実施例1で得られた結晶多形体Aの粉末X線回折パターンを示す図である。
【
図4】比較例1で得られた結晶多形体Bの粉末X線回折パターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
《3,9-ビス(4-オキシ-3-メトキシフェニル)-2,4,8,10,-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン(以下、本発明の化合物と省略することがある)の結晶多形体》
本発明の化合物の結晶多形体は、従来公知の結晶(本願において多形体Bと省略することがある)とは異なる結晶形であり、粉末X線回折パターンにおける回折角2θおよび、示差走査熱分析(DSC)による吸熱ピークの少なくとも1つの特徴により区別される新規な結晶(本願において多形体Aと省略することがある)である。
【0010】
具体的には、本発明の多形体Aは、Cu-Kα線による粉末X線回折パターンにおける回折角2θが5.0±0.2°、16.8±0.2°および18.2±0.2°に特徴的なピークを有する。また、前記ピークに加え、10.0±0.2°、24.1±0.2°に特徴的なピークを有すると好ましい。
【0011】
本発明の多形体Aは、示差走査熱分析による吸熱ピークを176~190℃の範囲に有し、177~185℃の範囲に有すると好ましく、178~183℃の範囲に有するとより好ましい。本発明における示差走査熱分析による吸熱ピークとは、後述する条件にて示差走査熱分析を実施した際、吸熱ピークのピークトップ温度のことをいう。なお、吸熱ピークは、いくつかの要因により、上下に変動することがある。このような偏差に関与する要因としては、分析を実施する際の試料の加熱速度、使用される校正標準、機器の校正方法、分析環境の相対湿度および試料の化学的純度がある。与えられた試料について観察される融解吸熱最大は、装置毎に異なることがあるが、一般に、装置が同様に校正されていれば、本願に定義される範囲内となる。
【0012】
一方、従来公知の結晶である多形体Bは、Cu-Kα線による粉末X線回折パターンにおける回折角2θが11.6±0.2°、20.0±0.2°および23.8±0.2°に特徴的なピークを有し、示差走査熱分析による吸熱ピークを170~175℃の範囲に有する。
【0013】
本発明の多形体Aの嵩比重は、0.30g/cc以上であり、0.35~2.00g/ccであると好ましく、0.40~1.50g/cc以上であるとより好ましく、0.45~1.00g/cc以上であるとさらに好ましい。本発明の多形体Aは、嵩比重が0.3g/cc以上であり、従来公知の多形体Bと比べハンドリングや容積効率に優れるため、結晶のろ過回収工程や乾燥工程での生産性が向上する。また、樹脂等の原料として使用する際の生産性も向上する。本発明における嵩比重は、重量既知の結晶粉体を静かに容器に入れたときの体積を測定する方法、もしくは、体積既知の容器を結晶粉体で満たすのに必要な重量を測定する方法で測定することができ、一般的には、ゆるめ嵩密比重や初期嵩比重と表現されることがある。嵩比重は例えば、メスシリンダー等容積が測定可能な容器へ結晶を入れ、投入された結晶の体積と重量から算出することができる。
【0014】
《3,9-ビス(4-オキシ-3-メトキシフェニル)-2,4,8,10,-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンの結晶多形体の製造方法》
本発明の化合物は、例えば、ペンタエリスリトールとバニリンを酸触媒および溶媒の存在下、脱水縮合反応することで得ることができる。
【0015】
本発明において、バニリンの仕込みモル比は、ペンタエリスリトール1モルに対して、1.5~2.5モルが好ましく、1.7~2.2モルがより好ましく、1.9~2.1モルがより好ましい。
【0016】
本発明で使用する酸触媒として、シュウ酸、酢酸、塩酸、硫酸、リン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、ヘテロポリ酸が挙げられ、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸が好ましく、p-トルエンスルホン酸がより好ましい。
【0017】
本発明で使用する酸触媒の使用量は、ペンタエリスリトール1モルに対して、0.001~1モルが好ましく、0.01~0.1モルがより好ましく、0.02~0.05モルがさらに好ましい。
【0018】
本発明で使用する溶媒として、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルスルホキシドが挙げられ、トルエン、ジメチルホルムアミドが好ましい。これら溶媒は単独で使用しても良く、2種類以上を併用しても良い。
【0019】
本発明で使用する溶媒の量は、ペンタエリスリトールに対して、1~100重量倍であると好ましく、3~50重量倍であるとより好ましく、5~20重量倍であるとより好ましい。
【0020】
本発明では、反応器の上にディーンスターク装置を付け、副生する水を系外に除去することが好ましい。
【0021】
本発明において、脱水縮合反応の反応温度は60~150℃が好ましく、80~130℃がより好ましく、100~120℃がさらに好ましい。
【0022】
反応は大気下でも実施することができるが、安全性や色相の観点から、窒素、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。反応はガスクロマトグラフィーや液体クロマトグラフィーなどの分析手段で追跡することができる。
【0023】
本発明の化合物は、反応後、水と分液可能な有機溶媒に溶解した後、分液水洗しても良い。もしくは、本発明の化合物を蒸留水でリパルプ洗浄しても良い。蒸留水で洗浄することで酸触媒や未反応の原料を除去することができ好ましい。
【0024】
本発明の化合物の多形体Aは、芳香族炭化水素系溶媒から選ばれる少なくとも1種の溶媒を用いて再結晶することによって得られる。
【0025】
本発明の再結晶工程で使用する芳香族炭化水素系溶媒として、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、メシチレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等が挙げられ、トルエンが好ましい。これら溶媒は単独で使用しても良く、2種類以上を併用しても良い。また、必要に応じてヘキサン等の貧溶媒を加えても良い。
【0026】
本発明の再結晶工程で使用する溶媒の使用量は、本発明の化合物に対して、1~100重量倍であると好ましく、3~50重量倍であるとより好ましく、5~20重量倍であるとより好ましい。
【0027】
本発明の再結晶工程において、本発明の化合物を溶媒に溶解させる温度は、65~120℃であると好ましく、80~110℃であるとより好ましい。また、溶解時間は0.1~2時間であると好ましく、0.2~1時間であるとより好ましい。
【0028】
本発明の再結晶工程において、結晶の析出開始温度は40~120℃であると好ましく、60~110℃であるとより好ましく、70~100℃であるとさらに好ましい。結晶の析出開始温度を上記温度範囲内とすることで高嵩比重の多形体Aを得ることができる。
【0029】
本発明の再結晶工程において、冷却速度は毎分0.05~10℃が好ましく、毎分0.1~5℃がより好ましく、毎分0.5~3℃がさらに好ましい。冷却速度が速すぎると結晶中に不純物を取り込みやすく純度低下の原因となることがある。
【0030】
本発明の再結晶工程において、結晶析出後、スラリー液をさらに冷却してもよい。冷却終点の温度は通常-10~40℃が好ましく、0~30℃がより好ましい。
【0031】
スラリー液に含まれる本発明の化合物の結晶は、濾過、遠心分離等の固液分離により回収される。得られた結晶は、上記の再結晶に用いた溶媒等を用いて洗浄しても良いし、乾燥しても良い。上記固液分離によって分離された母液は、再度、再結晶溶媒として利用しても良い。
【実施例0032】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
なお、実施例において、各種測定は以下のように行った。
【0033】
(1)ガスクロマトグラフ測定(GC/MS)
アジレント・テクノロジー製シングル四重極GC/MS 5977Bを用い、下記測定条件で測定した。実施例中、特に断らない限り純度(%)はGC/MSにおける溶媒を除いて補正した面積百分率値である。
(GC)
カラム:DB-1(内径0.25mm、長さ30m、膜厚0.25μm)
注入量:1μl
注入法:スプリット比40:1
注入口温度:280℃
オーブン:60℃-10℃/分-280℃(28分)
キャリアガス:He、線速度 36.6cm/s
(MS)
イオン源温度:230℃
イオン化モード:EI 70eV
測定範囲:m/z 33-700
【0034】
(2)示差走査熱量測定(DSC)
TA Instruments製Discovery DSC25を用い、窒素フロー下、昇温速度:20℃/minで測定した。
【0035】
(3)粉末X線回折測定
RIGAKU RINT TTR IIIを用い、下記測定条件で測定した。
【0036】
X線源:Cu-Kα、出力:50kV-300mA(15kW)
DS:1mm、HS:10mm、SS:解放、RS:解放、Step幅:0.02°、スキャン速度:2°/min
【0037】
(4)嵩比重測定
下記実施例等で得られた結晶2gを10mlのメスシリンダーに入れ、メスシリンダーに入った結晶の体積から嵩密度を算出した。
【0038】
[実施例1]
窒素雰囲気下、撹拌機、冷却器、ディーンスターク管、温度計を備え付けたフラスコにペンタエリスリトール、12.50g、バニリン27.94g、p-トルエンスルホン酸1水和物0.70g、トルエン146g、ジメチルホルムアミド14.6gを仕込み、110℃で6時間反応した。反応終了後、反応液に酢酸エチル500mlを加え希釈した後、分液ロートへ移し、蒸留水で5回分液水洗した。分液水洗後の有機層を濃縮した後、トルエン400mlを加え95℃で加熱溶解後、冷却すると93℃で結晶が析出し始めた。そのまま室温まで冷却後、析出した結晶を回収し、90℃で2時間真空乾燥し、3,9-ビス(4-オキシ-3-メトキシフェニル)-2,4,8,10,-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンの結晶を29g得た(収率:79%)。この結晶の純度は99.52%、DSCによる吸熱ピークは181℃、粉末X線回折パターンは多形体A、嵩比重は0.47g/ccだった。また、DSCチャートを
図1に、粉末X線測定チャートを
図3に、粉末X線測定の主なピーク(相対強度5%以上)を表1に示す。多形体Aは、回折角2θが5.0±0.2°、16.8±0.2°および18.2±0.2°に特徴的な回折ピークを示した。
【0039】
【0040】
[比較例1]
実施例1で得られた3,9-ビス(4-オキシ-3-メトキシフェニル)-2,4,8,10,-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンの結晶3gをメタノール25mlに65℃で加熱溶解後、冷却すると50℃で結晶が析出し始めた。そのまま室温まで冷却後、析出した結晶を回収し、90℃で2時間真空乾燥し、3,9-ビス(4-オキシ-3-メトキシフェニル)-2,4,8,10,-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンの結晶を2.4g得た。この結晶のDSCによる吸熱ピークは173℃、粉末X線回折パターンは多形体B、嵩比重は0.20g/ccだった。また、DSCチャートを
図2に、粉末X線測定チャートを
図4に、粉末X線測定の主なピーク(相対強度5%以上)を表2に示す。多形体Bは、回折角2θが11.6±0.2°、20.0±0.2°および23.8±0.2°に特徴的な回折ピークを示した。
【0041】
本発明の化合物の新規な結晶多形体は、ハンドリングや容積効率に優れるため、本発明の化合物の生産時や本発明の化合物を原料として使用する際の生産性に優れることから、樹脂原料等として好適に使用される。