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特開2023-118236水系現像廃液の処理方法、並びに水系現像液の回収方法及び再利用方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023118236
(43)【公開日】2023-08-25
(54)【発明の名称】水系現像廃液の処理方法、並びに水系現像液の回収方法及び再利用方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/30 20060101AFI20230818BHJP
   G03F 7/00 20060101ALI20230818BHJP
   B01D 17/025 20060101ALI20230818BHJP
   B01D 17/00 20060101ALI20230818BHJP
   C02F 1/58 20230101ALI20230818BHJP
【FI】
G03F7/30
G03F7/00 502
B01D17/025
B01D17/00 503A
C02F1/58 A
C02F1/58 C
C02F1/58 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】28
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022021076
(22)【出願日】2022-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 亮介
【テーマコード(参考)】
2H196
4D038
【Fターム(参考)】
2H196AA02
2H196GA08
2H196LA25
4D038AA08
4D038AB02
4D038AB08
4D038AB16
4D038AB24
4D038BB01
4D038BB06
4D038BB13
4D038BB17
4D038BB20
(57)【要約】
【課題】水系現像廃液に含まれる水系現像液の効率的な回収を可能とする、水系現像廃液の新たな処理方法の提供。
【解決手段】界面活性剤と現像残渣と水とを含む水系現像廃液を、前記水系現像廃液が静置状態において前記現像残渣の濃度が異なる二層に分離する温度で加熱する加熱工程、を含む、水系現像廃液の処理方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
界面活性剤と現像残渣と水とを含む水系現像廃液を、前記水系現像廃液が静置状態において前記現像残渣の濃度が異なる二層に分離する温度で加熱する加熱工程、
を含む、水系現像廃液の処理方法。
【請求項2】
前記界面活性剤が、40℃以下の曇点を有する、請求項1に記載の処理方法。
【請求項3】
前記界面活性剤が、下記式(1)で表される、
式(1):RO(AO)p
(式中、
Rは、炭素数10~20のアルキル基、又はアリール基であり、
Aは、炭素数2~4のアルキレン基であり、
pは、1~50の整数である)
請求項1又は2に記載の処理方法。
【請求項4】
Rが、炭素数10~18のアルキル基、又はアリール基であり、
Aが、炭素数2~4のアルキレン基であり、
pが、6~10の整数である、
請求項3に記載の処理方法。
【請求項5】
前記水系現像廃液が、無機塩基を更に含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項6】
前記水系現像廃液が、下記式(2)で表される化合物及び/又は下記式(3)で表される化合物を更に含む、
式(2):R1O(A1O)n2
(式中、
1及びR2は、それぞれ独立して、炭素数2~6のアルキル基又は炭素数2~6のアルケニル基であり、
1は、炭素数2~4のアルキレン基であり、
nは、1~5の整数である)
式(3):R3O(A2O)m
(式中、
3は、炭素数3~8のアルキル基、又は炭素数3~8のアルケニル基であり、
2は、炭素数2~4のアルキレン基であり、
mは、1~5の整数である)
請求項1~5のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項7】
前記水系現像廃液が、静置状態において90℃以下で前記現像残渣の濃度が異なる二層に分離する廃液である、請求項1~6のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項8】
水系現像廃液を、前記水系現像廃液が静置状態において現像残渣の濃度が異なる二層に分離すると予測される温度で加熱する加熱工程、
を含む、水系現像廃液の処理方法であって、
前記水系現像廃液が、40℃以下の曇点を有する界面活性剤と、無機塩基と、現像残渣と、水とを含み、
前記予測される温度が、前記水系現像廃液中の前記現像残渣の濃度、前記水系現像廃液中の前記界面活性剤の濃度、及び前記水系現像廃液のpHに基づいて予測される、処理方法。
【請求項9】
前記予測される温度が、下記式(4)及び式(5):
【数1】
【数2】
(式中、
Wは、前記水系現像廃液中の前記現像残渣の濃度(質量%)であり、
Caは、前記水系現像廃液中の前記界面活性剤の濃度(質量%)であり、
pHは、前記水系現像廃液のpHであり、
Tは、前記水系現像廃液の温度(℃)である)
を満たす温度である、請求項8に記載の処理方法。
【請求項10】
前記界面活性剤が、下記式(1)で表される、
式(1):RO(AO)p
(式中、
Rは、炭素数10~20のアルキル基、又はアリール基であり、
Aは、炭素数2~4のアルキレン基であり、
pは、1~50の整数である)
請求項8又は9に記載の処理方法。
【請求項11】
Rが、炭素数10~18のアルキル基、又はアリール基であり、
Aが、炭素数2~4のアルキレン基であり、
pが、6~10の整数である、
請求項10に記載の処理方法。
【請求項12】
水系現像廃液を、前記水系現像廃液が静置状態において現像残渣の濃度が異なる二層に分離すると予測される温度で加熱する加熱工程、
を含む、水系現像廃液の処理方法であって、
前記水系現像廃液が、40℃以下の曇点を有する界面活性剤と、無機塩基と、現像残渣と、水と、下記式(2)で表される化合物及び/又は下記式(3)で表される化合物と、を含み、
式(2):R1O(A1O)n2
(式中、
1及びR2は、それぞれ独立して、炭素数2~6のアルキル基又は炭素数2~6のアルケニル基であり、
1は、炭素数2~4のアルキレン基であり、
nは、1~5の整数である)
式(3):R3O(A2O)m
(式中、
3は、炭素数3~8のアルキル基、又は炭素数3~8のアルケニル基であり、
2は、炭素数2~4のアルキレン基であり、
mは、1~5の整数である)
前記予測される温度が、前記水系現像廃液中の前記現像残渣の濃度、前記水系現像廃液中の前記界面活性剤の濃度、前記水系現像廃液のpH、並びに前記水系現像廃液中の前記式(2)及び式(3)で表される化合物の合計濃度に基づいて予測される、処理方法。
【請求項13】
前記予測される温度が、下記式(6)及び式(7):
【数3】
【数4】
(式中、
Wは、前記水系現像廃液中の前記現像残渣の濃度(質量%)であり、
Caは、前記水系現像廃液中の前記界面活性剤の濃度(質量%)であり、
pHは、前記水系現像廃液のpHであり、
Cbは、前記水系現像廃液中の前記式(2)及び式(3)で表される化合物の合計濃度(質量%)であり、
Tは、前記水系現像廃液の温度(℃)である)
を満たす温度である、請求項12に記載の処理方法。
【請求項14】
前記界面活性剤が、下記式(1)で表される、
式(1):RO(AO)p
(式中、
Rは、炭素数10~20のアルキル基、又はアリール基であり、
Aは、炭素数2~4のアルキレン基であり、
pは、1~50の整数である)
請求項12又は13に記載の処理方法。
【請求項15】
Rが、炭素数10~18のアルキル基、又はアリール基であり、
Aが、炭素数2~4のアルキレン基であり、
pが、6~10の整数である、
請求項14に記載の処理方法。
【請求項16】
前記予測される温度が、90℃以下である、請求項8~15のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項17】
界面活性剤と現像残渣と水とを含む水系現像廃液に、下記(A)~(D)からなる群から選択される少なくとも1つの調整を行い、調整廃液を得る調整工程と、
(A)前記水系現像廃液のpHを上げる;
(B)前記水系現像廃液に、下記式(2)で表される化合物及び/又は下記式(3)で表される化合物を添加する
式(2):R1O(A1O)n2
(式中、
1及びR2は、それぞれ独立して、炭素数2~6のアルキル基又は炭素数2~6のアルケニル基であり、
1は、炭素数2~4のアルキレン基であり、
nは、1~5の整数である)
式(3):R3O(A2O)m
(式中、
3は、炭素数3~8のアルキル基、又は炭素数3~8のアルケニル基であり、
2は、炭素数2~4のアルキレン基であり、
mは、1~5の整数である);
(C)前記水系現像廃液から前記現像残渣の一部を除去する;
(D)前記水系現像廃液から前記界面活性剤の一部を除去する;
前記調整廃液を、前記調整廃液が静置状態において前記現像残渣の濃度が異なる二層に分離する温度で加熱する加熱工程と、
を含む、水系現像廃液の処理方法。
【請求項18】
前記界面活性剤が、40℃以下の曇点を有する、請求項17に記載の処理方法。
【請求項19】
前記界面活性剤が、下記式(1)で表される、
式(1):RO(AO)p
(式中、
Rは、炭素数10~20のアルキル基、又はアリール基であり、
Aは、炭素数2~4のアルキレン基であり、
pは、1~50の整数である)
請求項17又は18に記載の処理方法。
【請求項20】
Rが、炭素数10~18のアルキル基、又はアリール基であり、
Aが、炭素数2~4のアルキレン基であり、
pが、6~10の整数である、
請求項19に記載の処理方法。
【請求項21】
前記水系現像廃液が、無機塩基を更に含む、請求項17~20のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項22】
請求項1~21のいずれか一項に記載の処理方法によって処理された水系現像廃液から、水系現像液を回収する回収工程、
を含む、水系現像液の回収方法。
【請求項23】
前記回収工程が、前記水系現像廃液を静置して、廃液層と現像液層とに分離し、前記現像液層を回収すること、を含む、請求項22に記載の回収方法。
【請求項24】
請求項22又は23に記載の回収方法によって回収された水系現像液を、現像及び/又はリンスに使用するリサイクル工程、
を含む、水系現像液の再利用方法。
【請求項25】
水系現像液の製造方法であって、
現像に用いられた、界面活性剤と現像残渣と水とを含む水系現像廃液を回収する第一の回収工程と、
前記第一の回収工程で回収した前記水系現像廃液を、前記水系現像廃液が静置状態において前記現像残渣の濃度が異なる二層に分離する温度で加熱する加熱工程と、
を含む、水系現像液の製造方法。
【請求項26】
前記加熱工程で分離した、前記現像残渣の濃度が低い現像液層を回収する第二の回収工程を更に含む、請求項25に記載の水系現像液の製造方法。
【請求項27】
請求項22又は23に記載の回収方法によって回収された水系現像液から、新たな現像液及び/又はリンスに使用する液体を製造する、水系現像液の製造方法。
【請求項28】
印刷版の製造方法であって、
印刷原版に赤外線を照射してパターンを形成する工程と、前記パターンが形成された前記印刷原版に紫外線を照射してパターンを露光する工程と、前記露光する工程での未露光部を請求項25~27のいずれか一項に記載の水系現像液を用いて除去する工程と、を備える印刷版の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系現像廃液の処理方法、並びに水系現像液の回収方法及び再利用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
感光性樹脂を有する印刷版は、コンピュータ上で処理された情報を印刷版状に直接描画してレリーフを作製するコンピュータ製版技術(以下、「CTP技術」と称する)により、製版することができる。その中でも、凸版印刷の一種であるフレキソ印刷は、印刷版にゴムや合成樹脂等の柔らかい材質を用いていることから、種々の被刷体に適用可能であるという利点を有している。
【0003】
CTP技術による印刷版(特にフレキソ印刷版)は、感光性樹脂上の赤外線吸収層にレーザー描画を実施し、感光性樹脂層を感光して硬化させ、未硬化部を現像し、得られた版を乾燥させるとともに後露光する、という手順を経ることにより得られる。フレキソ印刷版は、溶剤現像液で未硬化部を溶解現像する溶剤現像、界面活性剤を有する水系現像液で未硬化部を剥離現像する水系現像、又は、印刷原版を加熱して未硬化部を不織布でふき取る熱現像、を実施することによって得られるが、これらの中で溶剤現像及び水系現像を実施すると、それぞれ溶液の廃液が生じる。
【0004】
溶剤現像においては、現像後の溶液を蒸留により回収して再利用することが行われており、水系現像においても、減圧蒸留により回収した水を再利用する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、かかる蒸留法では、水の潜熱が大きく蒸留に多大なエネルギーが必要である。このため、現在においては、水系現像廃液の分離回収方法として、現像廃液に凝集剤を添加して固液分離を行った後、さらに液を活性炭フィルタに通して現像残渣と現像液を分離する方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。しかし、この方法を採用すると、凝集剤により回収液のpH変化が起き、回収液を再利用した場合に現像性に影響を与える虞がある。また、凝集剤では現像残渣である樹脂成分の一部しか固体として凝集させることができないため、活性炭フィルタで残りの現像残渣を除去する場合、すぐに活性炭の活性が下がり、高頻度で活性炭を交換又は再生する必要がある。
【0005】
そこで、近年においては、現像廃液を超音波霧化させることで溶媒成分を分離回収する方法が開示されている(例えば、特許文献3参照)。この方法では回収液のpH変化はなく、またフィルタ等も用いないため交換又は再生工程を行う必要もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2003/005129号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2014/196358号パンフレット
【特許文献3】特開2013/000613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献3に記載された方法を水系現像廃液に採用しても、十分な分離回収性能が得られないのが現状である。そこで、本発明は、水系現像廃液に含まれる水系現像液の効率的な回収を可能とする、水系現像廃液の新たな処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等が鋭意検討した結果、水系現像廃液を所定の温度で加熱することにより、廃液層と現像液層とに分離すること、及び前記現像液層を回収することにより、水系現像液を効率的に回収できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は以下の実施形態を含む。
[1]
界面活性剤と現像残渣と水とを含む水系現像廃液を、前記水系現像廃液が静置状態において前記現像残渣の濃度が異なる二層に分離する温度で加熱する加熱工程、
を含む、水系現像廃液の処理方法。
[2]
前記界面活性剤が、40℃以下の曇点を有する、[1]に記載の処理方法。
[3]
前記界面活性剤が、下記式(1)で表される、
式(1):RO(AO)p
(式中、
Rは、炭素数10~20のアルキル基、又はアリール基であり、
Aは、炭素数2~4のアルキレン基であり、
pは、1~50の整数である)
[1]又は[2]に記載の処理方法。
[4]
Rが、炭素数10~18のアルキル基、又はアリール基であり、
Aが、炭素数2~4のアルキレン基であり、
pが、6~10の整数である、
[3]に記載の処理方法。
[5]
前記水系現像廃液が、無機塩基を更に含む、[1]~[4]のいずれかに記載の処理方法。
[6]
前記水系現像廃液が、下記式(2)で表される化合物及び/又は下記式(3)で表される化合物を更に含む、
式(2):R1O(A1O)n2
(式中、
1及びR2は、それぞれ独立して、炭素数2~6のアルキル基又は炭素数2~6のアルケニル基であり、
1は、炭素数2~4のアルキレン基であり、
nは、1~5の整数である)
式(3):R3O(A2O)m
(式中、
3は、炭素数3~8のアルキル基、又は炭素数3~8のアルケニル基であり、
2は、炭素数2~4のアルキレン基であり、
mは、1~5の整数である)
[1]~[5]のいずれかに記載の処理方法。
[7]
前記水系現像廃液が、静置状態において90℃以下で前記現像残渣の濃度が異なる二層に分離する廃液である、[1]~[6]のいずれかに記載の処理方法。
[8]
水系現像廃液を、前記水系現像廃液が静置状態において現像残渣の濃度が異なる二層に分離すると予測される温度で加熱する加熱工程、
を含む、水系現像廃液の処理方法であって、
前記水系現像廃液が、40℃以下の曇点を有する界面活性剤と、無機塩基と、現像残渣と、水とを含み、
前記予測される温度が、前記水系現像廃液中の前記現像残渣の濃度、前記水系現像廃液中の前記界面活性剤の濃度、及び前記水系現像廃液のpHに基づいて予測される、処理方法。
[9]
前記予測される温度が、下記式(4)及び式(5):
【数1】
【数2】
(式中、
Wは、前記水系現像廃液中の前記現像残渣の濃度(質量%)であり、
Caは、前記水系現像廃液中の前記界面活性剤の濃度(質量%)であり、
pHは、前記水系現像廃液のpHであり、
Tは、前記水系現像廃液の温度(℃)である)
を満たす温度である、[8]に記載の処理方法。
[10]
前記界面活性剤が、下記式(1)で表される、
式(1):RO(AO)p
(式中、
Rは、炭素数10~20のアルキル基、又はアリール基であり、
Aは、炭素数2~4のアルキレン基であり、
pは、1~50の整数である)
[8]又は[9]に記載の処理方法。
[11]
Rが、炭素数10~18のアルキル基、又はアリール基であり、
Aが、炭素数2~4のアルキレン基であり、
pが、6~10の整数である、
[10]に記載の処理方法。
[12]
水系現像廃液を、前記水系現像廃液が静置状態において現像残渣の濃度が異なる二層に分離すると予測される温度で加熱する加熱工程、
を含む、水系現像廃液の処理方法であって、
前記水系現像廃液が、40℃以下の曇点を有する界面活性剤と、無機塩基と、現像残渣と、水と、下記式(2)で表される化合物及び/又は下記式(3)で表される化合物と、を含み、
式(2):R1O(A1O)n2
(式中、
1及びR2は、それぞれ独立して、炭素数2~6のアルキル基又は炭素数2~6のアルケニル基であり、
1は、炭素数2~4のアルキレン基であり、
nは、1~5の整数である)
式(3):R3O(A2O)m
(式中、
3は、炭素数3~8のアルキル基、又は炭素数3~8のアルケニル基であり、
2は、炭素数2~4のアルキレン基であり、
mは、1~5の整数である)
前記予測される温度が、前記水系現像廃液中の前記現像残渣の濃度、前記水系現像廃液中の前記界面活性剤の濃度、前記水系現像廃液のpH、並びに前記水系現像廃液中の前記式(2)及び式(3)で表される化合物の合計濃度に基づいて予測される、処理方法。
[13]
前記予測される温度が、下記式(6)及び式(7):
【数3】
【数4】
(式中、
Wは、前記水系現像廃液中の前記現像残渣の濃度(質量%)であり、
Caは、前記水系現像廃液中の前記界面活性剤の濃度(質量%)であり、
pHは、前記水系現像廃液のpHであり、
Cbは、前記水系現像廃液中の前記式(2)及び式(3)で表される化合物の合計濃度(質量%)であり、
Tは、前記水系現像廃液の温度(℃)である)
を満たす温度である、[12]に記載の処理方法。
[14]
前記界面活性剤が、下記式(1)で表される、
式(1):RO(AO)p
(式中、
Rは、炭素数10~20のアルキル基、又はアリール基であり、
Aは、炭素数2~4のアルキレン基であり、
pは、1~50の整数である)
[12]又は[13]に記載の処理方法。
[15]
Rが、炭素数10~18のアルキル基、又はアリール基であり、
Aが、炭素数2~4のアルキレン基であり、
pが、6~10の整数である、
[14]に記載の処理方法。
[16]
前記予測される温度が、90℃以下である、[8]~[15]のいずれかに記載の処理方法。
[17]
界面活性剤と現像残渣と水とを含む水系現像廃液に、下記(A)~(D)からなる群から選択される少なくとも1つの調整を行い、調整廃液を得る調整工程と、
(A)前記水系現像廃液のpHを上げる;
(B)前記水系現像廃液に、下記式(2)で表される化合物及び/又は下記式(3)で表される化合物を添加する
式(2):R1O(A1O)n2
(式中、
1及びR2は、それぞれ独立して、炭素数2~6のアルキル基又は炭素数2~6のアルケニル基であり、
1は、炭素数2~4のアルキレン基であり、
nは、1~5の整数である)
式(3):R3O(A2O)m
(式中、
3は、炭素数3~8のアルキル基、又は炭素数3~8のアルケニル基であり、
2は、炭素数2~4のアルキレン基であり、
mは、1~5の整数である);
(C)前記水系現像廃液から前記現像残渣の一部を除去する;
(D)前記水系現像廃液から前記界面活性剤の一部を除去する;
前記調整廃液を、前記調整廃液が静置状態において前記現像残渣の濃度が異なる二層に分離する温度で加熱する加熱工程と、
を含む、水系現像廃液の処理方法。
[18]
前記界面活性剤が、40℃以下の曇点を有する、[17]に記載の処理方法。
[19]
前記界面活性剤が、下記式(1)で表される、
式(1):RO(AO)p
(式中、
Rは、炭素数10~20のアルキル基、又はアリール基であり、
Aは、炭素数2~4のアルキレン基であり、
pは、1~50の整数である)
[17]又は[18]に記載の処理方法。
[20]
Rが、炭素数10~18のアルキル基、又はアリール基であり、
Aが、炭素数2~4のアルキレン基であり、
pが、6~10の整数である、
[19]に記載の処理方法。
[21]
前記水系現像廃液が、無機塩基を更に含む、[17]~[20]のいずれかに記載の処理方法。
[22]
[1]~[21]のいずれかに記載の処理方法によって処理された水系現像廃液から、水系現像液を回収する回収工程、
を含む、水系現像液の回収方法。
[23]
前記回収工程が、前記水系現像廃液を静置して、廃液層と現像液層とに分離し、前記現像液層を回収すること、を含む、[22]に記載の回収方法。
[24]
[22]又は[23]に記載の回収方法によって回収された水系現像液を、現像及び/又はリンスに使用するリサイクル工程、
を含む、水系現像液の再利用方法。
[25]
水系現像液の製造方法であって、
現像に用いられた、界面活性剤と現像残渣と水とを含む水系現像廃液を回収する第一の回収工程と、
前記第一の回収工程で回収した前記水系現像廃液を、前記水系現像廃液が静置状態において前記現像残渣の濃度が異なる二層に分離する温度で加熱する加熱工程と、
を含む、水系現像液の製造方法。
[26]
前記加熱工程で分離した、前記現像残渣の濃度が低い現像液層を回収する第二の回収工程を更に含む、[25]に記載の水系現像液の製造方法。
[27]
[22]又は[23]に記載の回収方法によって回収された水系現像液から、新たな現像液及び/又はリンスに使用する液体を製造する、水系現像液の製造方法。
[28]
印刷版の製造方法であって、
印刷原版に赤外線を照射してパターンを形成する工程と、前記パターンが形成された前記印刷原版に紫外線を照射してパターンを露光する工程と、前記露光する工程での未露光部を[25]~[27]のいずれかに記載の水系現像液を用いて除去する工程と、を備える印刷版の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、水系現像廃液に含まれる水系現像液の効率的な回収を可能とする、水系現像廃液の新たな処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0012】
<定義>
本明細書において「水系現像廃液」とは、水を溶媒として含む現像廃液を意味する。
本明細書において「現像廃液」とは、現像液を使用した現像工程で生じる、現像液と現像残渣とを含む液を意味する。
本明細書において「現像残渣」とは、現像工程を実施した際に現像液に混入する不純物(例えば、現像された原版から除去された未露光部の樹脂)を意味する。
本明細書において「二層に分離」とは、水系現像廃液が廃液層と現像液層とに分離することを意味する。前記分離は、通常、界面活性剤が高温条件で水と分離することにより生じる。
本明細書において「廃液層」とは、現像残渣を含む層を意味する。なお、現像残渣が、分離した二層のいずれにも含まれている場合には、現像残渣の濃度がより高い層が、廃液層である。廃液層は、通常、ミセルを形成できなくなった界面活性剤を含み、不透明な層として観察される。
本明細書において「現像液層」とは、分離した二層のうち、廃液層ではない層を意味する。現像液層には、現像液が含まれている。
本明細書において界面活性剤の「曇点」とは、界面活性剤を1質量%含む水溶液において、温度を上げていった際に肉眼で観察して白濁し始める温度を意味する。
【0013】
<水系現像廃液の処理方法>
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態は、界面活性剤と現像残渣と水とを含む水系現像廃液を、前記水系現像廃液が静置状態において前記現像残渣の分散濃度が異なる二層に分離する温度で加熱する加熱工程、を含む、水系現像廃液の処理方法に関する。以下、水系現像廃液(又は下記の調整廃液)が、現像残渣の分散濃度が異なる二層に分離することを「層分離」を称する。
【0014】
以下、水系現像廃液(又は下記の調整廃液)が静置状態において層分離を起こす温度を、「層分離温度」という。
以下、水系現像廃液(又は下記の調整廃液)が静置状態において層分離を起こす最低温度を、「最低層分離温度」という。水系現像廃液(又は下記の調整廃液)は、通常、一定の温度を超えると層分離を起こす。
【0015】
第1の実施形態に係る処理方法では、水系現像廃液を層分離温度で加熱することにより、静置状態において水系現像廃液を廃液層と現像液層とに分離させることができる。そして、現像液層を回収することにより、水系現像液を効率的に回収することができる。
【0016】
(加熱工程)
第1の実施形態における加熱工程は、水系現像廃液を層分離温度で加熱する工程で
ある。水系現像廃液は、流動状態(例えば、撹拌状態又は循環状態)で加熱されていてもよく、そのような状態では、層分離温度で加熱されても、必ずしも層分離を起こすわけではない。そのため、加熱工程では、水系現像廃液を層分離温度で加熱していればよく、実際に層分離を起こしていることは必ずしも必要はない。
【0017】
最低層分離温度は、好ましくは90℃以下であり、より好ましくは80℃以下であり、更に好ましくは70℃以下であり、特に好ましくは60℃以下である。最低層分離温度が低いほど層分離が容易に起こるため好ましい。最低層分離温度の下限は特に限定されないが、例えば、25℃、30℃、35℃、又は40℃であってもよい。最低層分離温度の範囲は、例えば、25~90℃、30~80℃、35~70℃、又は40~60℃であってもよい。最低層分離温度は、水系現像廃液の組成に依存する。
【0018】
第1の実施形態における水系現像廃液は、少なくとも界面活性剤と現像残渣と水とを含む。
【0019】
界面活性剤は、40℃以下の曇点を有する界面活性剤であることが好ましい。40℃以下の曇点を有する界面活性剤を使用することにより、最低層分離温度を下げて上述した所定の値とすることができる。曇点は、例えば、10~40℃、20~40℃、又は30~40℃であってもよい。
【0020】
界面活性剤は、水系現像廃液を廃液層と現像液層とに分離させる際、現像液層への現像残渣の混入を抑制する観点から、下記式(1)で表されるポリアルキレングリコールであることが好ましい。
式(1):RO(AO)p
(式中、
Rは、炭素数10~20のアルキル基、又はアリール基であり、
Aは、炭素数2~4のアルキレン基であり、
pは、1~50の整数である)
【0021】
Rは、好ましくは炭素数10~18のアルキル基、又はアリール基であり、
Aは、好ましくは炭素数2~4のアルキレン基であり、
pは、好ましくは6~10の整数である。
【0022】
式(1)中のAは、pが2以上のとき、同一でも異なっていてもよい。また、pが2以上のとき、式(1)中の(AO)pは、ランダム重合体を形成していてもよく、ブロック重合体を形成していてもよい。
【0023】
式(1)中のRは炭素数10~20のアルキル基、又はアリール基であるが、アルキル基としては、直鎖状であっても分岐状であってもよく、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n-へキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル、n-デシル基、カプリル基、ラウリル基、ミリスチル基、ペンタデシル基、パルミチル基、パルミトイル基、ステアリル基等が挙げられる。アリール基としては、フェニル基、ナフチル基を挙げることができる。アリール基としては、ビフェニル基、トリフェニル基等の多環フェニル基も含まれる。
【0024】
式(1)における炭素数2~4のアルキレン基としては、例えば、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等が挙げられる。
【0025】
式(1)における炭素数1~20のアルキル基、アリール基、炭素数2~4のアルキレン基は、置換基を有していている基も含まれる。置換基としては、例えば、フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基等のC1~C6のアルキル基;等が挙げられる。
【0026】
式(1)で表されるポリアルキレングリコールの中でも、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレン多環フェニルエーテルがより好ましい。
【0027】
(ポリオキシアルキレンアルキルエーテル)
ポリオキシアルキレンアルキルエーテルは、以下の式(1-1)又は(1-2)で表されることが好ましい。
4O(CH2CH2O)pH (1-1)
4O(CH2CH2O)p1(CH(CH3)CH2O)p2H (1-2)
【0028】
式(1-1)中、R4は、炭素数1~20のアルキル基であり、pは、1から50の整数である。
式(1-2)中、R4は、水素又は炭素数1~20のアルキル基であり、p1とp2との合計は1~50の整数である。-(CH2CH2O)p1(CH(CH3)CH2O)p2-部分は、ランダム重合体であっても、ブロック重合体であってもよい。
【0029】
ポリオキシアルキレンアルキルエーテルとしては、市販品を用いることができる。市販のポリオキシアルキレンアルキルエーテルとしては、特に制限されないが、例えば、ニューコール(登録商標)NT-3、ニューコールNT-5、ニューコールNT-7、ニューコールNT-9、ニューコールNT-12、ニューコール2302、ニューコール2303、ニューコール1203、ニューコール1204、ニューコール2303-Y、ニューコール2304-YM、ニューコール2304-Y、ポリオキシエチレン2-エチルヘキシルエーテル(ニューコール1004、ニューコール1006、ニューコール1008)、ポリオキシエチレントリデシルエーテル(ニューコール1305)、ニューコール2306-Y、ニューコール2306-HY、ニューコール2308-Y、ニューコール2308-LY、ニューコール708、ニューコール709、ニューコール82、ニューコール85、ニューコール1210、ニューコール1902-Y等が挙げられる。
上記の中で、40℃以下の曇点を有する界面活性剤としては、ニューコールNT-7(33℃)、ニューコール2303-Y(38℃)、ニューコール2306-HY(32℃)、ニューコール2308-LY(38℃)、ニューコール1902-Y(33℃)等が挙げられる。
【0030】
(ポリオキシアルキレン多環フェニルエーテル)
ポリオキシアルキレン多環フェニルエーテルとしては、以下の式(1-3)で表されることが好ましい。
4O(CH2CH2O)pH (1-3)
【0031】
式(1-2)中、R4は、多環フェニルであり、pは、1から50の整数である。
【0032】
ポリオキシアルキレン多環フェニルエーテルとしては、市販品を用いることができる。市販のポリオキシアルキレン多環フェニルエーテルとしては、特に制限されないが、例えば、ニューコール703、ニューコール704、ニューコール2604等が挙げられる。
【0033】
水系現像廃液中に含まれる界面活性剤の量は、現像性能を維持する観点から、0.1質量%以上になるよう含有されていることが好ましい。
【0034】
また、水系現像廃液中には複数の界面活性剤が含まれていてもよい。
【0035】
第1の実施形態における水系現像廃液は、無機塩基を更に含んでいてもよい。無機塩基を使用することにより、塩析効果で層分離を起こしやすくでき、最低層分離温度を下げることができる。無機塩基は、pH調整剤としても機能できる。無機塩基としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素セシウム、フッ化カリウム、フッ化ナトリウム、フッ化セシウム、塩化リチウム、又は臭化リチウムが挙げられる。
【0036】
第1の実施形態における水系現像廃液は、層分離促進剤を更に含んでいてもよい。層分離促進剤を使用することにより、最低層分離温度を下げることができる。層分離促進剤は、下記式(2)で表される化合物、及び/又は下記式(3)で表される化合物であることが好ましい。
式(2):R1O(A1O)n2
(式中、
1及びR2は、それぞれ独立して、炭素数2~6のアルキル基又は炭素数2~6のアルケニル基であり、好ましくは炭素数2~6のアルキル基であり、より好ましくは炭素数4のアルキル基(ブチル基)であり、
1は、炭素数2~4のアルキレン基であり、好ましくは炭素数2又は3のアルキレン基であり、より好ましくは炭素数2のアルキレン基(-CH2CH2-)であり、
nは、1~5の整数であり、好ましくは1~3の整数であり、より好ましくは2である。)
式(3):R3O(A2O)m
(式中、
3は、炭素数3~8のアルキル基、又は炭素数3~8のアルケニル基であり、好ましくは炭素数3~8のアルキル基であり、より好ましくは炭素数6のアルキル基(ヘキシル基)であり、
2は、炭素数2~4のアルキレン基であり、好ましくは炭素数2又は3のアルキレン基であり、より好ましくは炭素数2のアルキレン基(-CH2CH2-)であり、
mは、1~5の整数であり、好ましくは1~3の整数であり、より好ましくは2である。)
【0037】
水系現像廃液の最低層分離温度は水系現像廃液の組成に依存するため、界面活性剤、現像残渣、水、無機塩基、及び層分離促進剤は、水系現像廃液の最低層分離温度が上述した所定の値となるような量で、水系現像廃液に含まれていることが好ましい。
【0038】
[第2の実施形態]
本発明の第2の実施形態は、水系現像廃液を、前記水系現像廃液が静置状態において層分離を起こすと予測される温度で加熱する加熱工程、を含む、水系現像廃液の処理方法であって、
前記水系現像廃液が、40℃以下の曇点を有する界面活性剤と、無機塩基と、現像残渣と、水とを少なくとも含み、
前記予測される温度が、前記水系現像廃液中の前記現像残渣の濃度、前記水系現像廃液中の前記界面活性剤の濃度、及び前記水系現像廃液のpHに基づいて予測される、処理方法に関する。
【0039】
以下、水系現像廃液(又は下記の調整廃液)が静置状態において層分離を起こすと予測される温度を、「予測温度」という。
以下、水系現像廃液(又は下記の調整廃液)が静置状態において層分離を起こすと予測される最低温度を、「最低予測温度」という。水系現像廃液(又は下記の調整廃液)は、通常、一定の温度を超えると層分離を起こすと予測される。
【0040】
第2の実施形態における界面活性剤及び無機塩基の詳細は、第1の実施形態との関係で説明したとおりである。
【0041】
(加熱工程)
第2の実施形態における加熱工程は、水系現像廃液を予測温度で加熱する工程である。加熱工程では、水系現像廃液を予測温度で加熱していればよく、予測温度を予測することは必ずしも必要ない。
【0042】
予測温度は、水系現像廃液中の現像残渣の濃度、水系現像廃液中の界面活性剤の濃度、及び水系現像廃液のpHに基づいて予測できる。具体的には、現像残渣の濃度が下がると予測温度は下がる傾向にあり、界面活性剤の濃度が下がると予測温度は下がる傾向にあり、水系現像廃液のpHが上がると予測温度は下がる傾向にある。
【0043】
予測温度は、好ましくは式(4)及び式(5)を満たす温度である。下記式中、W、Ca、及びpHは、水系現像廃液ごとに一義的に定まるものであるから、式(4)及び(5)が成立する任意のTが予測温度であり、式(4)及び(5)が成立する最低のTが最低予測温度である。
【0044】
最低予測温度以上で水系現像廃液を加熱することで、層分離を起こさせることができるが、廃液処理時の消費電力を低く抑え、経済的に有利にする観点から、加熱工程における廃液加熱温度は(最低予測温度+20)℃以下であることが好ましい。
【数5】
【数6】
(式中、
Wは、前記水系現像廃液中の前記現像残渣の濃度(質量%)であり、
Caは、前記水系現像廃液中の前記界面活性剤の濃度(質量%)であり、
pHは、前記水系現像廃液のpHであり、
Tは、前記水系現像廃液の温度(℃)である)
【0045】
式(4)及び式(5)は、下記実施例に示すように、数多くの水系現像廃液の情報に基づくロジスティック回帰分析によって得られたものである。ロジスティック回帰分析では、水系現像廃液中の現像残渣の濃度、水系現像廃液中の界面活性剤の濃度、水系現像廃液のpH、及び水系現像廃液の温度が説明変数として選択され、水系現像廃液の層分離の有無が目的変数として選択されている。
【0046】
式(4)はzに関する単調増加関数であり、zはW、Ca、pH、Tの線形結合である。式(4)は層分離を起こすか起こさないかの判別式であり、左辺が0.5以上になると層分離を起こす。
【0047】
印刷原版を構成する感光性樹脂層には種々の物が挙げられるが、疎水性の樹脂を成分の一つとして使用する場合には、親水性を付与することで水系現像液での現像が可能となる。疎水性成分に親水性成分を付与する方法として、疎水性ポリマーをカルボン酸またはその塩類で変性した樹脂を主成分とするもの、疎水性ポリマーを主成分とした疎水性成分と親水性ポリマーを主成分とした親水性成分の混合体を主成分とするもの、疎水性ポリマーと親水性ポリマーを化学的に結合させたものを主成分とするもの、疎水性ポリマーの原料となる疎水性モノマーと親水性ポリマーの原料となる親水性モノマーをブロック共重合体させたポリマーを主成分とするもの等に挙げられるように、疎水性の成分に何らかの形で親水性成分を組み合わせて、水系現像液に分散型の感光性フレキソ版としたタイプのものが特に好ましい例として挙げられる。
上記のことから、水系現像廃液中に分散した現像残渣(未露光樹脂)は、親水性成分と疎水性部分を併せ持つ。現像残渣が水系現像液中に分散すると、界面活性剤/水の結合に何等かの形で影響を及ぼすと想定される。具体的には、水/現像残渣の親水成分、水/界面活性剤の親水成分、界面活性剤の疎水性分/現像残渣の疎水性分、の結合がそれぞれ生じることで、水と界面活性剤との間に現像残渣が入り込み、結果として水/界面活性剤の結合力を強める作用がある。以上のメカニズムから、水系現像廃液中の現像残渣の濃度が上がることによって層分離が起こりにくくなると考えられる。そのため、説明変数としての水系現像廃液中の現像残渣の濃度は、層分離に関係し、かつ、その回帰係数はマイナス(すなわち、現像残渣の濃度が上がると層分離が起きる確率が下がる)であると想定される。
【0048】
界面活性剤は層分離を起こさせる原因物質であるが、濃度が高すぎるとミセルサイズの増大により界面活性剤と水、又は界面活性剤と現像残渣、又はその両方の結合が強くなり、層分離が起こりにくくなると考えられる。そのため、説明変数としての水系現像廃液中の界面活性剤の濃度は、層分離に関係し、かつ、その回帰係数はマイナス(すなわち、界面活性剤の濃度が上がると層分離が起きる確率が下がる)であると想定される。
【0049】
pHが上がると、pH調整剤としての無機塩基に含まれる塩の濃度も上がり、これによる塩析効果によって層分離が起こりやすくなると考えられる。そのため、説明変数としての水系現像廃液のpHは、層分離に関係し、かつ、その回帰係数はプラス(すなわち、pHが上がると層分離が起きる確率が上がる)であると想定される。
【0050】
水系現像廃液の温度を上げていくと、界面活性剤化合の親水基と水との水素結合が切れ、これにより層分離が起こりやすくなると考えられる。そのため、説明変数としての水系現像廃液の温度は、層分離に関係し、かつ、その回帰係数はプラス(すなわち、温度が上がると層分離が起きる確率が上がる)であると想定される。
【0051】
最低予測温度は、好ましくは90℃以下であり、より好ましくは80℃以下であり、更に好ましくは70℃以下であり、特に好ましくは60℃以下である。最低予測温度が低いほど層分離が容易に起こるため好ましい。最低予測温度の下限は特に限定されないが、例えば、25℃、30℃、35℃、又は40℃であってもよい。最低予測温度の範囲は、例えば、25~90℃、30~80℃、35~70℃、又は40~60℃であってもよい。
【0052】
水系現像廃液の最低予測温度は水系現像廃液の組成に依存するため、界面活性剤、現像残渣、水、及び無機塩基は、水系現像廃液の最低予測温度が上述した所定の値となるような量で、水系現像廃液に含まれていることが好ましい。
【0053】
(予測工程)
第2の実施形態に係る処理方法は、予測温度を予測することは必ずしも必要ないが、予測温度を予測する工程を更に含んでいてもよい。すなわち、第2の実施形態に係る処理方法は、加熱工程の前に、水系現像廃液中の現像残渣の濃度、水系現像廃液中の界面活性剤の濃度、及び水系現像廃液のpHに基づいて予測温度を予測する予測工程を更に含んでいてもよい。予測工程において、予測温度は、式(4)及び式(5)に基づいて予測されることが好ましい。また、予測工程を実施しない場合、加熱温度は予備実験、作業者の勘や経験、その他の如何なる方法・根拠に基づいて決定されてもよく、結果的に式(4)及び式(5)に基づいて予測される予測温度の範囲内で水系現像廃液が加熱されることが好ましい。
【0054】
[第3の実施形態]
本発明の第3の実施形態は、水系現像廃液を、前記水系現像廃液が静置状態において層分離を起こすと予測される温度で加熱する加熱工程、を含む、水系現像廃液の処理方法であって、
前記水系現像廃液が、40℃以下の曇点を有する界面活性剤と、無機塩基と、現像残渣と、水と、層分離促進剤と、を含み、
前記予測される温度が、前記水系現像廃液中の前記現像残渣の濃度、前記水系現像廃液中の前記界面活性剤の濃度、前記水系現像廃液のpH、及び前記水系現像廃液中の前記層分離促進剤の濃度に基づいて予測される、処理方法に関する。
【0055】
第3の実施形態における層分離促進剤は、上記式(2)で表される化合物、及び/又は上記式(3)で表される化合物である。
【0056】
第3の実施形態における界面活性剤、無機塩基、及び層分離促進剤の詳細は、第1の実施形態との関係で説明したとおりである。
【0057】
(加熱工程)
第3の実施形態における加熱工程は、水系現像廃液を予測温度で加熱する工程である。加熱工程では、水系現像廃液を予測温度で加熱していればよく、予測温度を予測することは必ずしも必要ない。
【0058】
予測温度は、水系現像廃液中の現像残渣の濃度、水系現像廃液中の界面活性剤の濃度、水系現像廃液のpH、並びに水系現像廃液中の式(2)及び式(3)で表される化合物の合計濃度に基づいて予測できる。具体的には、現像残渣の濃度が下がると予測温度は下がる傾向にあり、界面活性剤の濃度が下がると予測温度は下がる傾向にあり、水系現像廃液のpHが上がると予測温度は下がる傾向にあり、式(2)及び式(3)で表される化合物の合計濃度が上がると予測温度は下がる傾向にある。
【0059】
予測温度は、好ましくは式(6)及び式(7)を満たす温度である。下記式中、W、Ca、pH、及びCbは、水系現像廃液ごとに一義的に定まるものであるから、式(6)及び(7)が成立する任意のTが予測温度であり、式(6)及び(7)が成立する最低のTが最低予測温度である。最低予測温度以上で水系現像廃液を加熱することで、層分離を起こさせることができるが、廃液処理時の消費電力を低く抑え、経済的に有利にする観点から、加熱工程における廃液加熱温度は(最低予測温度+20)℃以下であることが好ましい。
【数7】
【数8】
(式中、
Wは、前記水系現像廃液中の前記現像残渣の濃度(質量%)であり、
Caは、前記水系現像廃液中の前記界面活性剤の濃度(質量%)であり、
pHは、前記水系現像廃液のpHであり、
Cbは、前記水系現像廃液中の前記式(2)及び式(3)で表される化合物の合計濃度(質量%)であり、
Tは、前記水系現像廃液の温度(℃)である)
【0060】
式(6)及び式(7)は、下記実施例に示すように、数多くの水系現像廃液の情報に基づくロジスティック回帰分析によって得られたものである。ロジスティック回帰分析では、水系現像廃液中の現像残渣の濃度、水系現像廃液中の界面活性剤の濃度、水系現像廃液のpH、水系現像廃液中の式(2)及び式(3)で表される化合物の合計濃度、並びに水系現像廃液の温度が説明変数として選択され、水系現像廃液の層分離の有無が目的変数として選択されている。
【0061】
説明変数としての現像残渣の濃度、界面活性剤の濃度、水系現像廃液のpH、及び水系現像廃液の温度と、層分離との関係については、第2の実施形態における式(4)及び式(5)との関係で説明したとおりである。
【0062】
式(2)及び式(3)で表される化合物のアルキレンオキシ基が水と結合することにより、界面活性剤化合と水とが結合しにくくなり、これにより層分離が起こりやすくなると考えられる。そのため、説明変数としての水系現像廃液中の式(2)及び式(3)で表される化合物の合計濃度は、層分離に関係し、かつ、その回帰係数はプラス(すなわち、式(2)及び式(3)で表される化合物の合計濃度が上がると層分離が起きる確率が上がる)であると想定される。
【0063】
水系現像廃液の最低予測温度は、好ましくは90℃以下であり、より好ましくは80℃以下であり、更に好ましくは70℃以下であり、特に好ましくは60℃以下である。最低予測温度が低いほど層分離が容易に起こるため好ましい。最低予測温度の下限は特に限定されないが、例えば、25℃、30℃、35℃、又は40℃であってもよい。最低予測温度の範囲は、例えば、25~90℃、30~80℃、35~70℃、又は40~60℃であってもよい。
【0064】
水系現像廃液の最低予測温度は水系現像廃液の組成に依存するため、界面活性剤、現像残渣、水、無機塩基、並びに式(2)及び式(3)で表される化合物は、水系現像廃液の最低予測温度が上述した所定の値となるような量で、水系現像廃液に含まれていることが好ましい。
【0065】
(予測工程)
第3の実施形態に係る処理方法は、予測温度を予測することは必ずしも必要ないが、予測温度を予測する工程を更に含んでいてもよい。すなわち、第3の実施形態に係る処理方法は、加熱工程の前に、水系現像廃液中の現像残渣の濃度、水系現像廃液中の界面活性剤の濃度、水系現像廃液のpH、並びに水系現像廃液中の式(2)及び式(3)で表される化合物の合計濃度に基づいて予測温度を予測する予測工程を更に含んでいてもよい。予測工程において、予測温度は、式(6)及び式(7)に基づいて予測されることが好ましい。
【0066】
[第4の実施形態]
本発明の第4の実施形態は、界面活性剤と現像残渣と水とを含む水系現像廃液に、下記(A)~(D)からなる群から選択される少なくとも1つの調整を行い、調整廃液を得る調整工程と、前記調整廃液を、前記調整廃液が静置状態において層分離を起こす温度で加熱する加熱工程と、を含む、水系現像廃液の処理方法に関する。
(A)前記水系現像廃液のpHを上げる。
(B)前記水系現像廃液に層分離促進剤を添加する。
(C)前記水系現像廃液から前記現像残渣の一部を除去する。
(D)前記水系現像廃液から前記界面活性剤の一部を除去する。
【0067】
第4の実施形態の調整(B)における層分離促進剤は、上記式(2)で表される化合物、及び/又は上記式(3)で表される化合物である。
【0068】
第4の実施形態における水系現像廃液は、無機塩基を更に含んでいてもよい。第4の実施形態における水系現像廃液は、層分離促進剤を更に含んでいてもよい。
【0069】
第4の実施形態における界面活性剤、無機塩基、及び層分離促進剤の詳細は、第1の実施形態との関係で説明したとおりである。
【0070】
(調整工程)
第4の実施形態に係る処理方法では、水系現像廃液の最低層分離温度が高いために層分離を起こすことが容易ではない場合に、調整工程を行うことにより、最低層分離温度を下げることができる。これにより、層分離を容易に起こすことができ、水系現像液を効率的に回収することが可能となる。
【0071】
調整工程における調整(A)は、水系現像廃液のpHを上げる調整である。水系現像廃液のpHを上げることにより、最低層分離温度が下がる傾向にある。水系現像廃液のpHを上げる方法は特に限定されず、例えば、水系現像廃液に無機塩基を添加する方法が挙げられる。無機塩基の具体例は、第1の実施形態との関係で説明したとおりである。
【0072】
調整工程における調整(B)は、水系現像廃液に層分離促進剤を添加する調整である。水系現像廃液中の層分離促進剤の濃度が上がると、最低層分離温度が下がる傾向にある。
【0073】
調整工程における調整(C)は、水系現像廃液から現像残渣の一部を除去する調整である。水系現像廃液中の現像残渣の濃度が下がると、最低層分離温度が下がる傾向にある。
水系現像廃液から現像残渣の一部を除去する方法は特に限定されず、例えば、水系現像廃液をフィルターでろ過する方法が挙げられる。
【0074】
調整工程における調整(D)は、水系現像廃液から界面活性剤の一部を除去する調整である。水系現像廃液中の界面活性剤の濃度が下がると、最低層分離温度が下がる傾向にある。水系現像廃液から界面活性剤の一部を除去する方法は特に限定されず、例えば、界面活性剤の疎水性樹脂への結合能を利用して、疎水性樹脂を水系現像廃液中へ浸漬させることで界面活性剤を吸着除去する方法が挙げられる。
【0075】
調整工程では、調整(A)のみ、調整(B)のみ、調整(C)のみ、又は調整(D)のみを実施してもよい。また、調整工程では、次の組み合わせ:調整(A)+(B);調整(A)+(C);調整(A)+(D);調整(B)+(C);調整(B)+(D);調整(C)+(D);調整(A)+(B)+(C);調整(A)+(B)+(D);調整(A)+(C)+(D);調整(B)+(C)+(D);又は調整(A)+(B)+(C)+(D)を実施してもよい。
【0076】
調整工程では、調整廃液の最低層分離温度が、好ましくは90℃以下、より好ましくは80℃以下、更に好ましくは70℃以下、特に好ましくは60℃以下となるように調整することが好ましい。最低層分離温度が低いほど層分離が容易に起こるため好ましい。最低層分離温度の下限は特に限定されないが、例えば、25℃、30℃、35℃、又は40℃であってもよい。最低層分離温度の範囲は、例えば、25~90℃、30~80℃、35~70℃、又は40~60℃であってもよい。
【0077】
(加熱工程)
第4の実施形態における加熱工程は、調整廃液を層分離温度で加熱する工程である。調整廃液は、流動状態(例えば、撹拌状態又は循環状態)で加熱されていてもよく、そのような状態では、層分離温度で加熱されても、必ずしも層分離を起こすわけではない。そのため、加熱工程では、調整廃液を層分離温度で加熱していればよく、実際に層分離を起こしていることは必ずしも必要はない。
【0078】
(第1の予測工程)
第4の実施形態に係る処理方法は、調整工程の前に、水系現像廃液中の現像残渣の濃度、水系現像廃液中の界面活性剤の濃度、及び水系現像廃液のpH(並びに、存在していれば、水系現像廃液中の式(2)及び式(3)で表される化合物の合計濃度)に基づいて予測温度を予測する第1の予測工程を更に含んでいてもよい。第1の予測工程において、予測温度は、式(4)及び式(5)に基づいて(式(2)及び式(3)で表される化合物が存在する場合には、式(6)及び式(7)に基づいて)予測されることが好ましい。
【0079】
第1の予測工程において予測される最低予測温度が、例えば、60℃超え、70℃超え、80℃超え、又は90超えであると、調整工程を実施する意義が高まる。
【0080】
(第2の予測工程)
第4の実施形態に係る処理方法は、調整工程の後に、調整廃液中の現像残渣の濃度、調整廃液中の界面活性剤の濃度、及び調整廃液のpH(並びに、存在していれば、調整廃液中の式(2)及び式(3)で表される化合物の合計濃度)に基づいて予測温度を予測する第2の予測工程を更に含んでいてもよい。第2の予測工程において、予測温度は、式(4)及び式(5)に基づいて(式(2)及び式(3)で表される化合物が存在する場合には、式(6)及び式(7)に基づいて)予測されることが好ましい(なお、第2の予測工程において式(4)~式(7)を使用する場合には、式中の「水系現像廃液」は「調整廃液」に読み替えるものとする。)。
【0081】
第2の予測工程において予測される最低予測温度は、好ましくは90℃以下であり、より好ましくは80℃以下であり、更に好ましくは70℃以下であり、特に好ましくは60℃以下である。最低予測温度が低いほど層分離が容易に起こるため好ましい。最低予測温度の下限は特に限定されないが、例えば、25℃、30℃、35℃、又は40℃であってもよい。最低予測温度の範囲は、例えば、25~90℃、30~80℃、35~70℃、又は40~60℃であってもよい。
【0082】
第2の予測工程において予測される最低予測温度が、例えば、60℃超え、70℃超え、80℃超え、又は90超えである場合には、再度調整工程を実施してもよい。調整廃液の最低予測温度が、例えば、90℃以下、80℃以下、70℃以下、又は60℃以下となるまで調整工程と第2の予測工程とを繰り返してもよい。調整廃液の最低予測温度を十分に下げることにより、加熱工程で層分離を起こすことが容易になる。
【0083】
<水系現像液の回収方法>
[第5の実施形態]
本発明の第5の実施形態は、上記第1~第4の実施形態に係る処理方法によって処理された水系現像廃液から、水系現像液を回収する回収工程、を含む、水系現像液の回収方法に関する。
【0084】
回収工程は、処理された水系現像廃液を静置して、廃液層と現像液層とに分離し、前記現像液層を回収することを含むことが好ましい。回収工程では、水系現像廃液が廃液層と現像液層とに分離しているため、現像液層(すなわち水系現像液)を容易に回収することができる。
【0085】
現像液層を回収する方法は特に限定されず、例えば、廃液層が上層であり、現像液層が下層である場合には、水系現像廃液を静置する容器の下部から現像液層を抜き出す方法、又はデカンテーションによって廃液層を除去し、残った現像液層を得る方法が挙げられる。
【0086】
<水系現像液の再利用方法>
[第6の実施形態]
本発明の第6の実施形態は、上記第5の実施形態に係る回収方法によって回収された水系現像液を、現像及び/又はリンスに使用するリサイクル工程、を含む、水系現像液の再利用方法に関する。
【0087】
リサイクル工程では、水系現像液を再利用することにより、廃液の量を減らすことができ、また、新たな水系現像液の使用量を減らすことができる。
【0088】
回収された水系現像液は単独で使用されてもよいし、新たな水系現像液と混合して使用されてもよい。混合して使用する場合には、現像に適した性質となるように混合割合を適宜調節すればよい。
【実施例0089】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。
【0090】
現像残渣、界面活性剤(ニューコールNT-7(曇点33℃)、ニューコール2303-Y(38℃)、又はニューコール2308-LY(38℃):日本乳化剤株式会社製)、無機塩基(pH調整剤:炭酸カリウム)及び水を様々な濃度で含む水系現像廃液、及び、上記成分に加えて層分離促進剤(ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル及びジエチレングリコールジブチルエーテルのどちらか、又はその両方)を様々な濃度でさらに含む水系現像廃液に関して、加熱温度と層分離の有無との関係について情報を収集し、合計600個の学習用データを用意した。
【0091】
水系現像廃液中の層分離促進剤の濃度は、ガスクロマトグラフィー質量分析法により定量化を行った。また、水系現像廃液中の現像残渣及び界面活性剤の濃度は、以下のようにして求めた。まず、現像廃液を乾固させる前後で秤量して不揮発分を求めることで、界面活性剤、現像残渣の質量パーセント濃度を測定する。具体的には、まず現像廃液を一定量採取し、孔径0.8μmのメンブレンフィルターにより濾過して現像残渣を除去した後、重量W1を測定する。次に、40℃の恒温槽にて現像廃液を乾固させた後、不揮発成分の重量W2を測定し、(W2/W1)×100で計算される値から上記のガスクロマトグラフィー質量分析法により求めた層分離促進剤の濃度を差し引くことで、界面活性剤の濃度を算出する。同様に、再度現像廃液を一定量採取した後、メンブレンフィルターによる濾過をせずに重量W3を測定し、40℃の恒温槽にて現像廃液を乾固させた後に不揮発成分W4を測定する。(W4/W3)×100により算出した不揮発成分濃度から上述の界面活性剤濃度を差し引いた数値が現像残渣の濃度となる。
【0092】
<層分離促進剤を含まない水系現像廃液>
収集した情報から、水系現像廃液中の現像残渣の濃度(質量%)、水系現像廃液中の界面活性剤の濃度(質量%)、水系現像廃液のpH、水系現像廃液中の層分離促進剤の濃度(質量%)、及び水系現像廃液の温度(℃)を説明変数とし、かつ、水系現像廃液の層分離の有無を目的変数としてロジスティック回帰分析を行い、得られた数式に対して層分離促進剤の濃度Cb=0として下記式(4)及び式(5)を得た。
【0093】
【数9】
【数10】
(式中、
Wは、水系現像廃液中の現像残渣の濃度(質量%)であり、
Caは、水系現像廃液中の界面活性剤の濃度(質量%)であり、
pHは、水系現像廃液のpHであり、
Tは、水系現像廃液の温度(℃)(ただし90℃以下)である)
【0094】
式(4)及び式(5)が成立する場合に、層分離が起こると判断される。式(4)及び式(5)の内容によれば、現像残渣の濃度(W)及び界面活性剤の濃度(Ca)の回帰係数はマイナスであるため、これらが上がると層分離が起こる確率が下がる。また、水系現像廃液のpH及び温度(T)の回帰係数はプラスであるため、これらが上がると層分離が起こる確率が上がる。
【0095】
<層分離促進剤を含む水系現像廃液>
収集した情報から、水系現像廃液中の現像残渣の濃度(質量%)、水系現像廃液中の界面活性剤の濃度(質量%)、水系現像廃液のpH、水系現像廃液中の層分離促進剤の濃度(質量%)、及び水系現像廃液の温度(℃)を説明変数とし、かつ、水系現像廃液の層分離の有無を目的変数として、ロジスティック回帰分析を行った結果、下記式(6)及び式(7)が得られた。
【0096】
【数11】
【数12】
(式中、
Wは、水系現像廃液中の現像残渣の濃度(質量%)であり、
Caは、水系現像廃液中の界面活性剤の濃度(質量%)であり、
pHは、水系現像廃液のpHであり、
Cbは、水系現像廃液中の層分離促進剤の濃度(質量%)であり、
Tは、水系現像廃液の温度(℃)(ただし90℃以下)である)
【0097】
式(6)及び式(7)が成立する場合に、層分離が起こると判断される。式(6)及び式(7)の内容によれば、現像残渣の濃度(W)及び界面活性剤の濃度(Ca)の回帰係数はマイナスであるため、これらが上がると層分離が起こる確率が下がる。また、水系現像廃液のpH及び温度(T)並びに層分離促進剤の濃度(Cb)の回帰係数はプラスであるため、これらが上がると層分離が起こる確率が上がる。
【0098】
<水系現像液の回収>
表1及び表2に示す組成を有する水系現像廃液を準備し、各廃液を所定の温度で加熱した際の層分離の有無、及び水系現像液の回収効率を確認した。結果を表1に示す。水系現像廃液が層分離を起こす(数式(4)及び(5)、又は、数式(6)及び(7)を満たす)ことにより、水系現像液を効率的に回収することができた。
【0099】
【表1】
【0100】
【表2】