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▶ 日本製紙株式会社の特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023118237
(43)【公開日】2023-08-25
(54)【発明の名称】染料分散剤
(51)【国際特許分類】
   C09K 23/50 20220101AFI20230818BHJP
   C09B 67/20 20060101ALI20230818BHJP
   C08H 7/00 20110101ALI20230818BHJP
【FI】
B01F17/50
C09B67/20 L
C09B67/20 F
C08H7/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022021078
(22)【出願日】2022-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130812
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100164161
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 彩
(72)【発明者】
【氏名】西盛嘉人
(72)【発明者】
【氏名】進藤大輝
【テーマコード(参考)】
4D077
【Fターム(参考)】
4D077AA08
4D077AB03
4D077AB05
4D077AB17
4D077AC05
4D077BA01
4D077BA07
4D077CA02
4D077CA03
4D077CA13
4D077DA02X
4D077DD64Z
4D077DD70X
(57)【要約】
【課題】
分散染料の貯蔵安定性に優れるリグニン系染料分散剤を提供する。
【解決手段】
クラフトリグニン等のリグニンに亜流酸塩、及びアルデヒド類を反応させて製造したスルホメチル化リグニンを含有する染料分散剤を用いた分散染料組成物を調製し、貯蔵安定性について比較した。スルホメチル化リグニンを含有する染料分散剤であって、前記スルホメチル化リグニンに含まれる有機態S含量が1.0質量%以上6.0質量%以下である染料分散剤は、N材クラフトリグニンを染料分散剤にした条件と比較して、7日間静置してもほとんど粘性が変化することなく、貯蔵安定性に優れていた。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルホメチル化リグニンを含有する染料分散剤。
【請求項2】
スルホメチル化リグニンを含有する染料分散剤であって、前記スルホメチル化リグニンに含まれる有機態S含量が1.0質量%以上6.0質量%以下である染料分散剤。
【請求項3】
スルホメチル化リグニンの原料リグニンがクラフトリグニンである請求項1または請求項2に記載の染料分散剤。
【請求項4】
染料分散剤に含まれる還元性糖類が5.0質量%以下である請求項1~請求項3のいずれかに記載の染料分散剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スルホメチル化リグニンを含有する染料分散剤に関する。
【背景技術】
【0002】
リグニンは、樹木中に存在する天然高分子成分であり、木材を原料として使用する製紙産業で、大規模かつ商業的に発生している。例えば、クラフトパルプ廃液からはクラフトリグニンが得られ、亜硫酸パルプ廃液からはリグニンスルホン酸が得られる。クラフトリグニンとリグニンスルホン酸、又はクラフトリグニンを亜硫酸塩とホルムアルデヒドによりスルホメチル化したものや、リグニンスルホン酸又はリグニンスルホン酸の塩を部分的に脱スルホン化したものや限外濾過処理によって精製したものは、分散剤として染料、インクジェットインク組成物、水硬性組成物(例えば、セメント、石膏)、無機及び有機顔料、石炭-水スラリー、農薬、窯業、油田掘削用泥水など広範囲な工業分野で多用されている。
【0003】
スルホン基量及びカルボキシル基量、ならびに分子量が制御された変性リグニンスルホン酸塩の染料分散剤としての用途が開示されている(特許文献1)。また、所定範囲の分子量分布を有するリグニンスルホン酸とアクリル系又はビニル系モノマーとのグラフト共重合体の、セメント分散剤としての用途が開示されている(特許文献2)。さらに、油田掘削用泥水分散安定剤として、アクリル酸とリグニンスルホン酸塩とのグラフト共重合体が開示されている(特許文献3)。そして、リグニンスルホン酸塩とポリアルキレンオキシド鎖を有する水溶性単量体との反応物からなるリグニン誘導体が開示されている(特許文献4)。特許文献5には、リグニンスルホン酸を分散剤とする捺染用インクジェットインク組成物が開示されている。
【0004】
しかしながら、前述の従来のリグニン系分散剤は、分散染料の貯蔵安定性が劣るという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-146028号公報
【特許文献2】特開平01-145358号公報
【特許文献3】米国特許第4,322,301号公報
【特許文献4】特許第5769930号公報
【特許文献5】特開2015-147826号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、分散染料の貯蔵安定性が優れたリグニン系染料分散剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らはこれらの目的を達成するために検討を重ねた結果、スルホメチル化リグニンが、高い分散性があり、分散染料の貯蔵安定性を改善できることを見出し、上記目的が達成されることを見出した。
すなわち本発明は下記の発明を提供するものである。
[1]スルホメチル化リグニンを含有する染料分散剤。
[2]スルホメチル化リグニンを含有する染料分散剤であって、前記スルホメチル化リグニンに含まれる有機態S含量が1.0質量%以上6.0質量%以下である染料分散剤。
[3]スルホメチル化リグニンの原料リグニンがクラフトリグニンである請求項1または請求項2に記載の染料分散剤。
[4]還元性糖類の含有量が5.0質量%以下である請求項1~請求項3のいずれかに記載の染料分散剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明の染料分散剤は、分散染料において優れた貯蔵安定性を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<スルホメチル化クラフトリグニン>
本発明のスルホメチル化リグニンの原料となるリグニンは、クラフトリグニン、ソーダリグニン、ソーダ-アントラキノンリグニン、オルガノソルブリグニン、爆砕リグニン、リグニンスルホン酸、硫酸リグニンなどがある。これらのうち、クラフトリグニンを用いることが好ましい。
(クラフトリグニン)
本発明の原料リグニンとして、クラフトリグニン(KraftLignin)を用いることができる。上記クラフトリグニンは別名としてチオリグニン(ThioLignin)、サルフェートリグニン(SulphateLignin)とも呼ばれる。クラフトリグニンとしては、調製したものを使用してもよく、市販品を用いてもよい。調整方法としては、クラフトリグニンのアルカリ溶液や、クラフトリグニンのアルカリ溶液をスプレードライして粉末化した粉末化クラフトリグニン、クラフトリグニンのアルカリ溶液を酸で沈殿させた酸沈殿クラフトリグニンを用いることができる。
【0010】
クラフトリグニンのアルカリ溶液は、例えば特開2000-336589に記載されているような公知の方法により得られるが、これらの方法に限定されるものではない。
【0011】
クラフトリグニンのアルカリ溶液を酸で沈殿させた酸沈殿クラフトリグニンとしては、WO2006/038863、WO2006/031175、WO2012/005677に記載されている方法などにより得られる粉末状の酸沈殿クラフトリグニンを用いることができるが、これらの方法に限定されるものではない。
【0012】
本発明のリグニン原料は、還元性糖類を含む。還元性糖類は一般的に、木質バイオマスをクラフト蒸解する過程で残留する。
【0013】
本発明で使用するスルホメチル化リグニンは、スルホメチル化リグニンに含まれる有機態S含量が1.0質量%以上6.0質量%以下であることが好ましい。この範囲であると、分散染料組成物の貯蔵安定性が良化するする。
【0014】
具体的には、下記数式(1)より算出する値である。
数式(1):有機態S含量(質量%)=全S含量(質量%)-無機態S含量(質量%)
(数式(1)中、S含量はいずれもリグニンの固形物量に対するS含量を示す。)
数式(1)中、全S含量は、リグニン成分に含まれるすべてのS含量であり、ICP発光分光分析法により定量することができる。また、無機態S含量は、イオンクロマト法により定量したSO3含量、S含量及びSO4含量のS換算合計量として算出できる。
【0015】
クラフトリグニンのスルホメチル化反応では一般的にリグニンのC-Cユニットに対して、下記に示す一般式(1)の位置にスルホン基が導入される。一般式(1)はリグニンの部分構造であるC-Cユニットを示す。すなわち、左側の矢印の反応ではα位にスルホン基が導入される反応であり、一般にスルホン化と呼ばれる。右側の矢印の反応ではα位以外に芳香核の4位にホルムアルデヒドを介してスルホン基が導入される。
【0016】
【化1】
【0017】
本発明の染料分散剤は、還元性糖類を含有してもよい。還元性糖とは、還元性を示す糖をいい、塩基性溶液中でアルデヒド基又はケトン基を生じる糖をいう。還元性糖としては、例えば、ラムノース、ラクトース、ガラクトース、アラビノース、キシロース、マルトース、グルコース、マンノース、フルクトース等の単糖;キシロオリゴ糖、セロオリゴ糖等のオリゴ糖、アラビノース、スクロースの転化糖等の二糖、及び多糖が挙げられる。還元性糖類含量の測定方法としては、例えば、Somogyi-Schaffer法によって測定した測定値をグルコース量に換算して得る方法が挙げられる。還元性糖類の含有量としては5.0質量%以下であることが好ましい。還元性糖類が5.0質量%以上であると、染料組成物を乾燥させる際に染料が凝集するなどの問題が生じる。
【0018】
<スルホメチル化リグニンの製造>
スルホメチル化リグニンの製造は、公知の方法で製造すればよく、例えば、リグニンを亜硫酸塩及びアルデヒド類を反応させることによって製造することができる。
【0019】
リグニンをスルホメチル化する方法の一例が、米国特許第2,680,113号に開示されている。この方法ではリグニンのスルホン化メチル処理は50~200℃の温度範囲で行われ、80~170℃の温度範囲が好ましく、さらに好ましくは100~160℃の温度範囲で行われる。添加する亜硫酸塩の量は、リグニンに対して1~50%が好ましい。亜硫酸塩の添加量が前記範囲でないと、リグニンの親水性が低く布の汚染性が低くなる。一方、過剰に亜硫酸塩が添加された場合、リグニンの純度が低下するため良好な染料分散性が得られない。アルデヒド類としてはホルムアルデヒドが好ましく、添加するアルデヒドの量は、リグニンに対して0.25~12.5%が好ましい。ホルムアルデヒドが前記範囲でないとスルホン基がリグニンに導入されない。また、pHは8以上が好ましい。
【0020】
本発明の染料分散剤に適用される染料としては、例えば、C.I.Disperse Red17などのアゾ系分散染料や、C.I.Disperse Red60などのアントラキノン系分散染料等の、溶媒に分散させて用いられる分散染料が挙げられる。
【0021】
染料組成物の調製方法は特に限定されないが、例えば染料分散剤、分散染料、水を混合して微粒化することで染料組成物をスラリー状で得る方法がある。
【0022】
上記染料組成物には、必要に応じて保湿剤、界面活性剤を含んでいてもよい、更に必要に応じて防黴剤、防腐剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、pH調整剤、などを含んでいてもよい。
【0023】
分散染料はポリエステル等の疎水性繊維等の工業染色に広く使われており、繊維のインクジェット捺染法、筆記用水性インク、情報記録インクなどにも使われている。
【実施例0024】
以下に実施例を挙げ、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例により制限されるものではなく、前・後記述の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。なお、例中特に断りの無い限り%は質量%を、また、部は重量部を示す。
【0025】
<クラフトリグニンの分離>
公知の方法により、クラフトリグニンを分離した。すなわち、針葉樹(N材)クラフト蒸解黒液に二酸化炭素を通気して黒液のpHを10にまで下げ、1次濾過を実施した。再度水中に再分散させ、硫酸でpH2まで下げ、2次濾過を実施し、水洗後乾燥させてN材クラフトリグニンを得た。
【0026】
<製造例1>
還流冷却器を付属した1Lオートクレーブに、N材クラフトリグニンを固形分20%となるようNaOHでpH10に溶解した溶液500部、亜硫酸ナトリウム10部、37%ホルムアルデヒド溶液7部を仕込み、140℃で120分反応した。室温まで冷却後、N材クラフトリグニンのスルホメチル化物(A-1)を得た。
【0027】
<製造例2>
還流冷却器を付属した1Lオートクレーブに、N材クラフトリグニンを固形分20%となるようNaOHでpH10に溶解した溶液500部、亜硫酸ナトリウム20部、37%ホルムアルデヒド溶液14部を仕込み、140℃で120分反応した。室温まで冷却後、N材クラフトリグニンのスルホメチル化物(A-2)を得た。
【0028】
<製造例3>
還流冷却器を付属した1Lオートクレーブに、N材クラフトリグニンを固形分20%となるようNaOHでpH10に溶解した溶液500部、亜硫酸ナトリウム30部、37%ホルムアルデヒド溶液21部を仕込み、110℃で120分反応した。室温まで冷却後、N材クラフトリグニンのスルホメチル化物(A-3)を得た。
製造例1~3で得られた各リグニン成分の組成を表1に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
表1中の%は、各製造例で得られたリグニン成分(サンプル全体)の固形分に対する質量%を表す。
【0031】
<実施例1~3、比較例>
製造例1~3のN材クラフトリグニンのスルホメチル化物にアルデヒド類を添加した染料分散剤(実施例1~3、比較例)について下記の方法で染料スラリーを調製した。
【0032】
<分散染料の作製>
C.I.Disperse Red60、製造例の分散剤、水を表2記載の重量比率で仕込んで染料分散液を調製した。この分散染料液に粒径1mmのガラスビーズを300重量部加え、六連式サンドグラインダー(アイメックス株式会社製)を用いて破砕して、その後ろ過することでガラスビーズを除いて実施例に用いる分散染料組成物を作製した。破砕後の分散染料組成物の体積平均粒径(D50)をマスターサイザー3000(マルバーン社製)で測定して120nm以上150nm以下となるように、破砕時間を調整した。体積平均粒径(D50)は、マスターサイザー3000(マルバーン社製)を用いて測定した。比較例には製造例の分散剤の替わりに<クラフトリグニンの分離>の方法で得られたN材クラフトリグニンを添加して分散染料組成物を作製した。
【0033】
【表2】
【0034】
<貯蔵安定性の評価>
得られた分散染料組成物の調製直後、及び25℃条件下で7日静置にて貯蔵後、ホモディスパーにて15分間撹拌した後の分散染料組成物の粘度を測定した。粘度の測定には、TVK型粘度計(東機産業株式会社製)を用いた。
以下の換算式で粘度の変化率を求め、粘度変化率によって評価した。
粘度変化率(%) = 7日静置にて貯蔵後の粘度÷調製直後の粘度×100
評価 〇 粘度変化率 100以上130未満
△ 粘度変化率 130以上200未満
× 粘度変化率 200以上
【0035】
実施例1~3と比較例の粘度変化評価結果を表3に示す。
【0036】
【表3】
【0037】
表3から明らかなように、比較例のN材クラフトリグニンを添加した分散染料組成物では、粘度変化が多いことがわかる。一方、実施例1~3のスルホメチル化リグニンを添加した分散染料組成物は粘度変化がほとんどみられなかった。実施例3のスルホメチル化リグニンに含まれる有機態S含量が比較的高い分散染料組成物では、特に粘度に変化がみられなかった。