(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023118307
(43)【公開日】2023-08-25
(54)【発明の名称】ガスケット
(51)【国際特許分類】
F16J 15/08 20060101AFI20230818BHJP
F02F 11/00 20060101ALI20230818BHJP
【FI】
F16J15/08 Q
F02F11/00 B
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022021197
(22)【出願日】2022-02-15
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】000198237
【氏名又は名称】石川ガスケット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】安田 紀章
【テーマコード(参考)】
3J040
【Fターム(参考)】
3J040BA01
3J040EA15
3J040EA17
3J040EA27
3J040EA46
3J040FA01
3J040FA05
3J040HA17
3J040HA20
3J040HA30
(57)【要約】
【課題】機能が異なる穴が形成されていても、ミクロシール性と摺動性とを確保するガスケットを提供する。
【解決手段】金属板部2にシール対象穴3と締結用穴4とが形成されていて、金属板部2の表面にコーティング層10が施されているガスケット1において、コーティング層10として、ゴム層12、および、潤滑層13を有していて、金属板部2の表面のうちの少なくともシール対象穴3の周縁部位を含む部位のコーティング層10は、ゴム層12と潤滑層13とが積層して表層に潤滑層13が配置されていて、締結用穴4の周縁部位のコーティング層10は、ゴム層12が積層して表層にゴム層12が配置されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板部にシール対象穴と締結用穴とが形成されていて、前記金属板部の表面にコーティング層が施されているガスケットにおいて、
前記コーティング層として、ゴム層、および、前記金属板部の表面よりも摩擦係数が小さい潤滑層を有していて、
前記金属板部の表面のうちの少なくとも前記シール対象穴の周縁部位を含む部位の前記コーティング層は、前記ゴム層と前記潤滑層とが積層して表層に前記潤滑層が配置されていて、前記締結用穴の周縁部位の前記コーティング層は、前記ゴム層が積層して表層に前記ゴム層が配置されていることを特徴とするガスケット。
【請求項2】
前記金属板部の表面に液体に常時曝される蓋部が区画されており、前記蓋部は、前記コーティング層が省かれていて前記金属板部の表面が露出している請求項1に記載のガスケット。
【請求項3】
前記コーティング層として、密着層を備えていて、前記密着層が前記金属板部の表面と前記ゴム層との間に介在する請求項1または2に記載のガスケット。
【請求項4】
前記金属板部の表面のうちの前記締結用穴の周縁部位と前記蓋部とを除いた部位の前記コーティング層は、前記金属板部の表面から順に、前記密着層、前記ゴム層、および、前記潤滑層の三層が積層する請求項3に記載のガスケット。
【請求項5】
前記金属板部は、平面視で外周から外側にはみ出したタグ部を備え、そのタグ部の表面には、前記コーティング層の各々が露出している請求項1~4のいずれか1項に記載のガスケット。
【請求項6】
前記金属板部と前記コーティング層の各々の層を含む全ての層の各々の物体色は色別管理が可能に異なっている請求項1~5のいずれか1項に記載のガスケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスケットに関し、より詳細には、金属板にミクロシール用のコーティング層を備えるガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
金属板の表面にコーティング層が施されたガスケットが種々提案されている(特許文献1~3参照)。特許文献1で提案されているコーティング層は、ゴム塗料の溶剤に溶解しない無機潤滑剤粉末を含有したゴム被覆層の一層構造であり、燃焼室孔の周縁部、あるいは、金属板の表面の全体に亘って設けられている。特許文献2で提案されているコーティング層は、フッ素ゴムを原料とする塗料に無機潤滑剤粉末とシランカップリング剤とを添加したゴム混和物塗料の一層構造であり、シリンダボアなどの流体孔を囲んでシールするボードおよびその近傍に設けられている。特許文献3で提案されているコーティング層は、金属板に被覆したエラストマーと、アニオン性ポリエステル系ウレタン樹脂、固定潤滑剤、および、溶剤を含有した塗料組成物とが積層した二層構造であり、その設置位置は特に限定されていない。以上のように、特許文献1~3で提案されているコーティング層のいずれも、ゴム層のみでは阻害されるガスケットの摺動性を確保するために、ゴム層と潤滑層とをセットにしたものである。
【0003】
ところで、エンジン用や排気用のガスケットには、シール対象穴(例えば、シリンダボアや水油穴、排気流路の穴)の他に、ボルトなどの締結具が挿入される締結用穴が形成されている。締結用穴の周縁部にも特許文献1~3で提案されているゴム層と潤滑層とがセットになったコーティング層を施した場合に、締結用穴の周縁部の円滑な摺動により締結用穴の位置がずれるおそれがある。また、経年劣化などにより潤滑層の成分が締結用穴に侵入して、締結具の緩みの要因となる。一方で、この締結用穴の周縁部にコーティング層を施さない場合に、金属板の表面における傷、表面粗さ、歪みなどの影響により密封性が低下する。このように機能が異なる穴が複数存在するガスケットに、特許文献1~3で提案されているコーティング層を施しても、ミクロシール性と摺動性との両立が出来ず、更なる改良が必要になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-81140号公報
【特許文献2】特開2004-68886号公報
【特許文献3】特開2012-219183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、機能が異なる穴が形成されていても、ミクロシール性と摺動性とを確保するガスケットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成する本発明のガスケットは、金属板部にシール対象穴と締結用穴とが形成されていて、前記金属板部の表面にコーティング層が施されているガスケットにおいて、前記コーティング層として、ゴム層、および、前記金属板部の表面よりも摩擦係数が小さい潤滑層を有していて、前記金属板部の表面のうちの少なくとも前記シール対象穴の周縁部位を含む部位の前記コーティング層は、前記ゴム層と前記潤滑層とが積層して表層に前記潤滑層が配置されていて、前記締結用穴の周縁部位の前記コーティング層は、前記ゴム層が積層して表層に前記ゴム層が配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、コーティング層を機能ごとに多層化することで、部位によってコーティング層の機能を異ならせることができる。つまり、ミクロシール性が求められる部位にはゴム層を配置し、ミクロシール性に加えて摺動性が求められる部位にはゴム層に潤滑層を積層する。それ故、金属板に機能が異なるシール対象穴と締結用穴とが形成されていても、ミクロシール性と摺動性とを確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】ガスケットの実施形態を例示する説明図である。
【
図2】ガスケットのタグ部を例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のガスケットを、図に示す実施形態に基づいて説明する。なお、
図1~
図2は、構成が分かり易いように寸法を変化させており、寸法は必ずしも実際に製造するものの比率とは一致させていない。
【0010】
図1に例示するガスケット1は、公知のエンジンのシリンダブロックとシリンダヘッドとの間に介在するエンジン用のシリンダヘッドガスケットである。ガスケット1は、金属板部2に、シール対象穴3と締結用穴4と蓋部5が形成されている。なお、金属板部2に形成される各々のシール対象穴3と締結用穴4と蓋部5の数は特に限定されるものではなく、用途に応じて多数のシール対象穴や締結用穴、蓋部が形成されていてもよい。
【0011】
金属板部2は、一枚の金属板または複数枚の金属板がZ方向に積層した積層板で構成されている。金属板を構成する金属や合金は、ステンレス鋼、銅、アルミニウムなどの公知の金属や合金を用いることができる。金属板部2が積層板で構成される場合には、各々の金属板が異なる金属や合金で構成されていてもよい。積層板の積層数は特に限定されるものでは無いが、三層以上、六層以下が好ましい。
【0012】
シール対象穴3は、金属板部2をZ方向に貫通した穴のうちのガスなどの気体あるいは水および油などの液体が流通する穴である。シール対象穴3としては、シリンダボア、水油穴、および、排ガス流路穴が例示される。シール対象穴3の周縁部には、シール部6が形成されている。シール部6は、公知のシール構造を用いることができる。シール構造としては、金属板部2の金属板を屈曲させて形成したビードや折り返し、金属板の端部に取り付けたグロメットやラバーリングなどが例示される。
【0013】
締結用穴4は、金属板部2をZ方向に貫通した穴のうちのボルトなどの締結具が挿入される穴である。締結用穴4の周縁部には、シール対象穴3と同様にシール部を形成してもよいが、締結用穴4へのシールは不要である場合にシール部を形成する必要はない。
【0014】
蓋部5は、水や油などの液体の流路を塞ぐ部位であり、金属板部2の下面に区画されている。蓋部5は、それらの液体に常時曝されている。蓋部5としては、オープンデッキ構造のエンジンに組み込まれるガスケットにおいて、シリンダブロックのシリンダボアの外側に形成されたウォータジャケットに蓋をする部位が例示される。なお、蓋部5は、運動している流体(所定の方向に流れている流体)に常時曝されている部位に限定されるものではなく、静止している流体に常時曝されている部位を含んでもよい。また、蓋部5は、金属板部2の下面に限定されずに、上面に区画されたものも含んでもよい。上面に区画された蓋部5は、流体の流路などの底として機能する。
【0015】
コーティング層10は、少なくとも金属板部2のZ方向の上面および下面の両面の表面に施されている。コーティング層10は、ガスケット1が積層板で構成される場合に、各々の金属板の上下面の表面の全てに施されてもよい。コーティング層10は、蓋部5にも施されてもよいが、常時流体に曝されている蓋部5に施されることでコーティング層10が剥離するおそれがある。それ故、コーティング層10は、蓋部5では省かれていて、蓋部5を除いた金属板部2の上下面の表面に施されることが望ましい。コーティング層10は、金属板部2の表面に施されることで、金属板の表面における傷、表面粗さ、歪みなどの影響を排除して、ガスケット1の密封性を向上することができる。コーティング層10によるガスケット1の密封性の向上がミクロシール性である。コーティング層10を構成する層の種類によりミクロシール性は高低するが、構成する層の種類が異なっていてもコーティング層10を施さない金属板の表面よりはミクロシール性を確保することが可能となっている。
【0016】
コーティング層10は、密着層11、ゴム層12、および、潤滑層13を有している。コーティング層10は、各々の層がミクロシール性以外の機能を果たしていて、ガスケット1の部位によって積層する層が異なっている。
【0017】
密着層11は、金属板部2の表面とゴム層12との間に介在している。密着層11は、金属板部2の表面にゴム層12を密着させる機能を有している。密着層11は、金属板部2の表面やゴム層12に比して密着性に富んでいればよく、水系バインダや有機溶媒系バインダ、あるいは、無機系バインダなどの公知のバインダを用いることができる。密着層11は、場合によっては公知のバインダに後述するゴム層12と同種の材料を混合してもよいが、金属板部2の表面にゴム層12を密着させる機能のみを有するものが望ましい。本実施形態の密着層11は、例えば、エポキシ樹脂で構成されている。
【0018】
ゴム層12は、金属板部2の密着性をより高める機能に加えて金属板よりも熱伝導率が低い。また、ゴム層12は、密着層11よりも耐熱性に優れており、その耐熱温度が密着層11の耐熱温度よりも高い。耐熱温度とは、軟化、機械的性質の低下、変形、周囲への粘着などが生じる温度であり、使用限界温度や最高使用温度などとも呼称される。ゴム層12は、金属板よりも熱伝導率が低く、かつ、密着層11よりも耐熱性に優れていればよく、公知の耐熱性に富むゴムを用いることができる。耐熱性に富むゴムとしては、フッ素ゴム、シリコーンゴムなどの合成ゴムが例示される。本実施形態のゴム層12は、例えば、フッ素ゴムで構成されている。
【0019】
本実施形態においては、密着層11とゴム層12とを別々の層としたが、ゴム層12が金属板部2の表面に十分に密着すれば、密着層11を設けることは必須ではない。また、密着層11とゴム層12との代わりに、ゴム層12に密着層11を構成するバインダと同種のバインダを混合した密着ゴム層を用いてもよい。ただし、密着ゴム層では、単位体積当たりのゴム成分やバインダ成分の各々の比率の低くなり、密着層11とゴム層12とを別々の層とした構成に比して、ゴムやバインダによる機能が低下する。したがって、密着層11とゴム層12とは、互いに独立した層とすることが望ましい。
【0020】
潤滑層13は、金属板部2の表面よりも潤滑性に優れており、金属板の表面よりも摩擦係数が小さい。潤滑層13は、金属板部2の表面よりも潤滑性に優れていればよく、公知の個体潤滑剤を用いることができる。個体潤滑剤としては、フッ素樹脂、二硫化モリブデン、および、グラファイトなどが例示される。潤滑層13は、個体潤滑剤のみで構成することもできるが、下層との密着性を高めるために結合剤としてバインダを用いてもよい。本実施形態の潤滑層13は、結合剤としてエポキシ樹脂を用いたフッ素樹脂で構成されている。
【0021】
シール対象穴3の周縁部であるシール部6を含む部位は、コーティング層10が、密着層11、ゴム層12、および、潤滑層13の三層で構成されている。詳述すると、シール部6を含む部位は、金属板部2の表面から順に、密着層11、ゴム層12、および、潤滑層13が積層し、コーティング層10の表層には潤滑層13が配置されている。シール部6を含む部位は、シール部6のみを含む部位でもよいが、ガスケット1の密封性を向上するには、締結用穴4の周縁部と蓋部5とを除いた部位とすることが望ましい。
【0022】
シール部6を含む部位には、三層のコーティング層10が施されることで、コーティング層10によるマクロシール性の機能の他に概ね三つの機能が発揮される。一つ目の機能は、密着層11による密着性の向上によりコーティング層10の剥離などを防止する機能である。二つ目の機能は、ゴム層12による耐熱性の向上により密着層11の熱損傷を防ぐ機能である。また、この機能に付随して、金属板部2への伝熱も抑制することで金属板部2の熱損傷を防ぐ機能もある。三つ目の機能は、潤滑層13による摺動性の向上によりガスケット1の表面を低摩擦化して円滑に摺動させる機能である。
【0023】
締結用穴4の周縁部位は、コーティング層10が、密着層11およびゴム層12の二層で構成されている。詳述すると、締結用穴4の周縁部位は、金属板部2の表面から密着層11およびゴム層12の順に積層し、コーティング層10の表層にはゴム層12が配置されている。
【0024】
締結用穴4の周縁部位には、二層のコーティング層10が施されることで、三層のコーティング層10では存在していた潤滑層13が存在しないことにより、潤滑層13による締結用穴4の位置ずれや潤滑層13による締結具の緩みを防止することができる。なお、締結用穴4の周縁部位では、ミクロシール性の機能に加えて、密着層11による密着性の向上によりコーティング層10の剥離などを防止する機能と、ゴム層12による耐熱性の向上により密着層11の熱損傷を防ぐ機能とが発揮されることになる。
【0025】
ついで、ガスケット1の製造方法について説明する。ガスケット1は、金属板部2を構成する金属板にコーティング層10が施された後に、シール対象穴3、締結用穴4、および、シール部6が形成される。コーティング層10は、各々の層が各々の層ごとに異なる塗料の塗布と乾燥とを繰り返すことにより形成される。詳述すると、金属板部2の上下面の表面となる面を有する金属板に、蓋部5を除いてエポキシ樹脂を成分とする密着層用塗料を塗布して乾燥させて密着層11を形成する。ついで、密着層11の上に、フッ素ゴムを成分とするゴム層用塗料を塗布して乾燥させてゴム層12を形成する。ついで、ゴム層12の上に、締結用穴4の周縁部位を除いて、エポキシ樹脂とフッ素樹脂を成分とする潤滑層用塗料を塗布して乾燥させて潤滑層13を形成する。
【0026】
図2に例示するタグ部7は、平面視で金属板部2の外周から外側にはみ出している。タグ部7は、ガスケット1が上下の二部材の間に挟持されて締結される際に、上下の二部材の間に挟持されない部材である。タグ部7は、上下の二部材の外周よりも外側にはみ出していることが望ましい。タグ部7の表面には、コーティング層10の各々が露出している。具体的に、タグ部7の表面には、Y方向の一端から他端に向かって順に、密着層11、ゴム層12、および、潤滑層13が露出している。タグ部7は、コーティング層10を形成する際に、各々の層が塗布されている。このようなタグ部7を備えて、各々の層を塗布する際にタグ部7にも塗布することで、コーティング層10の積層状態を容易に確認することが可能となる。これにより、製造過程での塗り忘れなどの過失を予防するには有利になる。
【0027】
また、金属板部2とコーティング層10の各々の層とを含む全ての層の物体色は、色別管理が可能に各々異なっていることが望ましい。全ての層のいずれかの物体色に違いが生じない場合は、塗料を混合して、色相、彩度、明度を異ならせるとよい。このように、金属板部2とコーティング層10の各々の層とを含む全ての層の物体色が異なることで、締結用穴4、蓋部5、および、それ以外のシール部6を含む部位がより区別し易くなる。このように、ガスケット1の各部位の区別が明確になることで、ガスケット1の裏表などの向きが判別し易くなる。それ故、金属板部2の組み合わせの際や、ガスケット1をエンジンなどに組み込む際の間違いを防ぐには有利になる。
【0028】
コーティング層10の各々の厚さは、全て等しくてもよいが、異ならせることもできる。例えば、ゴム層12を他の層よりも厚くすることで、耐久性を向上させることができる。コーティング層10の各々の層の厚さは、例えば、5μm~15μmである。
【0029】
以上のように、本実施形態によれば、コーティング層10を機能ごとに多層化することで、ガスケット1の部位によってコーティング層10の機能を異ならせることができる。つまり、ミクロシール性が求められる部位にはゴム層12を配置し、ミクロシール性に加えて摺動性が求められる部位にはゴム層12に潤滑層13を積層する。それ故、金属板にシール対象穴3と締結用穴4とが形成されていても、ミクロシール性と摺動性とを確保することができる。
【0030】
例えば、従来技術の一層構造のコーティング層では、ゴム、個体潤滑剤、および、バインダのそれぞれが混合されることにより、塗布工程が一回で済むが、各々の単位面積当たりの比率が低くなる。つまり、一層構造のコーティング層では、ゴム、個体潤滑剤、および、バインダの各々の機能が発揮されるが、それぞれの機能が低くなっている。一方、本実施形態によれば、コーティング層10を機能ごとに多層化することで、各々の層を形成する工程や手間が増えるが、各々の層の機能が低下することが無い。また、従来技術の一層構造のコーティング層では、多数の成分が混合されることで部位によっては機能が不均一になり、歩留まりも低くなる。一方、本実施形態によれば、コーティング層10を機能ごとに多層化することで、部位による機能の不均一が生じ難く、歩留まりを高く維持できる。
【0031】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明のガスケットは特定の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0032】
本発明のガスケットは、シリンダヘッドガスケットに限定されずに、公知の種々のガスケットに適用可能である。例えば、排気管どうしの連結に用いられる排気用のガスケットや、マニホールド用のガスケットにも適用可能である。
【0033】
本発明のガスケットは、部位によってコーティング層10の機能を異ならせているが、部位どうしが重なった場合には、コーティング層10のデメリットを優先するとよい。例えば、シール対象穴3の周縁部位と締結用穴4の周縁部位とが重なった場合に、重なった部位では、三層ではなく二層(密着層11、ゴム層12)のコーティング層10を施すとよい。
【符号の説明】
【0034】
1 ガスケット
2 金属板部
3 シール対象穴
4 締結用穴
5 蓋部
6 シール部
10 コーティング層
11 密着層
12 ゴム層
13 潤滑層
【手続補正書】
【提出日】2022-12-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板部にシール対象穴と締結用穴とが形成されていて、前記金属板部の表面にコーティング層が施されているガスケットにおいて、
前記コーティング層として、ゴム層、および、前記金属板部の表面よりも摩擦係数が小さい潤滑層を有していて、
前記金属板部の表面のうちの少なくとも前記シール対象穴の周縁部位を含む部位の前記コーティング層は、前記ゴム層と前記潤滑層とが積層して表層に前記潤滑層が配置されていて、前記締結用穴の周縁部位の前記コーティング層は、前記ゴム層が積層して表層に前記ゴム層が配置されていることを特徴とするガスケット。
【請求項2】
前記金属板部の表面に液体に常時曝される蓋部が区画されており、前記蓋部は、前記コーティング層が省かれていて前記金属板部の表面が露出している請求項1に記載のガスケット。
【請求項3】
前記コーティング層として、密着層を備えていて、前記密着層が前記金属板部の表面と前記ゴム層との間に介在する請求項1または2に記載のガスケット。
【請求項4】
金属板部にシール対象穴と締結用穴とが形成されていて、前記金属板部の表面にコーティング層が施されているガスケットにおいて、
前記コーティング層として、ゴム層、および、前記金属板部の表面よりも摩擦係数が小さい潤滑層を有していて、
前記金属板部の表面のうちの少なくとも前記シール対象穴の周縁部位を含む部位の前記コーティング層は、前記ゴム層と前記潤滑層とが積層して表層に前記潤滑層が配置されていて、前記締結用穴の周縁部位の前記コーティング層は、前記ゴム層が積層して表層に前記ゴム層が配置され、
前記金属板部の表面に液体に常時曝される蓋部が区画されており、前記蓋部は、前記コーティング層が省かれていて前記金属板部の表面が露出し、
前記コーティング層として、密着層を備えていて、前記密着層が前記金属板部の表面と前記ゴム層との間に介在し、
前記金属板部の表面のうちの前記締結用穴の周縁部位と前記蓋部とを除いた部位の前記コーティング層は、前記金属板部の表面から順に、前記密着層、前記ゴム層、および、前記潤滑層の三層が積層することを特徴とする記載のガスケット。
【請求項5】
前記金属板部は、平面視で外周から外側にはみ出したタグ部を備え、そのタグ部の表面には、前記コーティング層の各々が露出している請求項1~4のいずれか1項に記載のガスケット。
【請求項6】
前記金属板部と前記コーティング層の各々の層を含む全ての層の各々の物体色は色別管理が可能に異なっている請求項1~5のいずれか1項に記載のガスケット。