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特開2023-118370アクティブノイズコントロールシステム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023118370
(43)【公開日】2023-08-25
(54)【発明の名称】アクティブノイズコントロールシステム
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/178 20060101AFI20230818BHJP
   H04R 17/00 20060101ALI20230818BHJP
【FI】
G10K11/178 100
G10K11/178 150
H04R17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022021293
(22)【出願日】2022-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100202201
【弁理士】
【氏名又は名称】兒島 淳一郎
(72)【発明者】
【氏名】大戸 康平
(72)【発明者】
【氏名】梶川 嘉延
(72)【発明者】
【氏名】岡嶌 亮佑
【テーマコード(参考)】
5D004
5D061
【Fターム(参考)】
5D004AA06
5D004BB01
5D004BB03
5D004DD01
5D004EE00
5D004FF07
5D061FF02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】構造物に取り付けられたスピーカー由来の音をスピーカーから見て構造物の背後において減衰させることに適した構成を有するアクティブノイズコントロール(ANC)システムを提供する。
【解決手段】表空間95Aと、表面80aと、裏面80bと、裏空間95Bと、がこの順に並んでいるANCシステムは、構造物80、第1圧電スピーカー10A及び第2圧電スピーカー10Bを備える。第1圧電スピーカー10Aは、表面80a上に配置されている。第1圧電スピーカー10Aは、消音用の音波を放射する。第2圧電スピーカー10Bは、裏面80b上に配置されている。第2圧電スピーカー10Bは、消音用の音波を放射する。
【選択図】図79
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面及び裏面を有する構造物と、
前記表面上に配置され、消音用の音波を放射する第1圧電スピーカーと、
前記裏面上に配置され、消音用の音波を放射する第2圧電スピーカーと、を備えた、
アクティブノイズコントロールシステム。
【請求項2】
表面及び裏面を有する構造物と、
前記表面上に配置され、消音用の音波を放射する第1圧電スピーカーと、
第1参照マイクロフォンと、
制御装置と、を備え、
前記表面を平面視したときに前記表面と重複する表空間と、前記表面と、前記裏面と、前記裏面を平面視したときに前記裏面と重複する裏空間と、がこの順に並び、
前記第1参照マイクロフォンは、前記裏空間に配置され
前記制御装置は、前記表空間を消音するように、前記表空間に位置する誤差マイクロフォンを用いず前記第1参照マイクロフォンを用いて前記第1圧電スピーカーが発する音を制御する、
アクティブノイズコントロールシステム。
【請求項3】
前記第1参照マイクロフォンは、前記第1圧電スピーカーが発する音を制御するために前記制御装置が用いる唯一のマイクロフォンである、
請求項2に記載のアクティブノイズコントロールシステム。
【請求項4】
表面及び裏面を有する構造物と、
前記表面上に配置され、消音用の音波を放射する第1圧電スピーカーと、
第1参照マイクロフォンと、
制御装置と、を備え、
前記表面を平面視したときに前記表面と重複する表空間と、前記表面と、前記裏面と、前記裏面を平面視したときに前記裏面と重複する裏空間と、がこの順に並び、
前記第1参照マイクロフォンは、前記裏空間に配置され
前記制御装置は、前記表空間を消音するように、前記第1参照マイクロフォンを用いて前記第1圧電スピーカーが発する音を制御し、
前記第1圧電スピーカーから発せられ前記第1参照マイクロフォンに入力される音を第1回り込み音と定義したとき、前記制御装置は、前記第1回り込み音が前記第1圧電スピーカーから発せられる音に及ぼす影響を抑制するためのフィードバック補償を行わない、
アクティブノイズコントロールシステム。
【請求項5】
前記表面を平面視したときに前記表面と重複する表空間と、前記表面と、前記裏面と、前記裏面を平面視したときに前記裏面と重複する裏空間と、がこの順に並び、
前記第1圧電スピーカーは、前記表空間に面する第1放射面を有し、
前記アクティブノイズコントロールシステムは、
前記裏空間に配置された第1参照マイクロフォンと、
制御装置と、を備え、
前記制御装置は、第1騒音制御フィルタを有し、
前記第1騒音制御フィルタは、
前記第1参照マイクロフォンに入力される音と前記第1圧電スピーカーから発せられる音とが一対一の対応関係を有し、かつ、
前記対応関係が経時的に固定されるように、構成されている、
請求項1から4のいずれか一項に記載のアクティブノイズコントロールシステム。
【請求項6】
前記表面を平面視したときに前記表面と重複する表空間と、前記表面と、前記裏面と、前記裏面を平面視したときに前記裏面と重複する裏空間と、がこの順に並び、
前記第1圧電スピーカーは、前記表空間に面する第1放射面を有し、
前記裏空間は、第1背後空間と、第2背後空間と、前記第1背後空間及び前記第2背後空間の間の第3背後空間と、を有し、
前記第1圧電スピーカーが形成する前記第1背後空間における音波の位相が正又は負の一方であり、
前記第1圧電スピーカーが形成する前記第2背後空間における音波の位相が正又は負の前記一方であり、かつ、
前記第1圧電スピーカーが形成する前記第3背後空間における音波の位相が正又は負の他方である期間が現れる、
請求項1から5のいずれか一項に記載のアクティブノイズコントロールシステム。
【請求項7】
前記第1放射面は、第1領域と、第2領域と、前記第1領域及び前記第2領域の間の第3領域と、を有し、
前記構造物は、左端部、右端部及び上端部を有し、
前記第1領域、前記第2領域、前記第3領域、前記第1背後空間、前記第2背後空間及び前記第3背後空間は、上下方向に垂直な第1基準平面と交差し、
前記第1領域から前記左端部を介して前記第1背後空間に至る第1回り込み経路にわたって、前記第1圧電スピーカーが形成する音波の位相が正又は負の前記一方に維持され、
前記第2領域から前記右端部を介して前記第2背後空間に至る第2回り込み経路にわたって、前記第1圧電スピーカーが形成する音波の位相が正又は負の前記一方に維持され、かつ、
前記第3領域から前記上端部を介して前記第3背後空間に至る第3回り込み経路にわたって、前記第1圧電スピーカーが形成する音波の位相が正又は負の他方に維持される期間が現れる、
請求項6に記載のアクティブノイズコントロールシステム。
【請求項8】
前記第1圧電スピーカーは、第1放射面を有し、
前記アクティブノイズコントロールシステムは、制御装置を備え、
前記制御装置は、前記第1圧電スピーカーから出力される音の周波数を第1特定周波数範囲内の値に制御する制御モードを有し、
前記第1特定周波数範囲の上限の音の波長を第1基準波長と定義し、
前記第1放射面の左端部と前記構造物の左端部との間のマージンを、第1左マージンと定義し、
前記第1放射面の右端部と前記構造物の右端部との間のマージンを、第1右マージンと定義し、
前記第1放射面の上端部と前記構造物の上端部との間のマージンを、第1上マージンと定義したとき、
前記第1左マージン及び前記第1上マージンの差の絶対値と、前記第1右マージン及び前記第1上マージンの差の絶対値と、の少なくとも一方は、前記第1基準波長の1/8以下である、
請求項1から7のいずれか一項に記載のアクティブノイズコントロールシステム。
【請求項9】
前記第1圧電スピーカーは、第1放射面を有し、
前記第1放射面の左端部と前記構造物の左端部との間のマージンを、第1左マージンと定義し、
前記第1放射面の右端部と前記構造物の右端部との間のマージンを、第1右マージンと定義し、
前記第1放射面の上端部と前記構造物の上端部との間のマージンを、第1上マージンと定義したとき、
前記第1左マージン及び前記第1上マージンの差の絶対値と、前記第1右マージン及び前記第1上マージンの差の絶対値と、の少なくとも一方は、86cm以下である、
請求項1から8のいずれか一項に記載のアクティブノイズコントロールシステム。
【請求項10】
前記第1圧電スピーカーは、第1放射面を有し、
前記第1放射面の単手方向の寸法に対する長手方向の寸法の比率を第1アスペクト比と定義したとき、
前記第1アスペクト比は、1.2以上である、
請求項1から9のいずれか一項に記載のアクティブノイズコントロールシステム。
【請求項11】
前記表面を平面視したときに前記表面と重複する表空間と、前記表面と、前記裏面と、前記裏面を平面視したときに前記裏面と重複する裏空間と、がこの順に並び、
前記アクティブノイズコントロールシステムは、
前記裏空間に配置された第1参照マイクロフォンと、
制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記表空間を消音するように、前記第1参照マイクロフォンを用いて前記第1圧電スピーカーが発する音を制御し、
前記第1圧電スピーカーは、第1放射面を有し、
前記表面と前記第1参照マイクロフォンとの間の距離を第1距離と定義したとき、
前記第1距離は、105cm以下である、
請求項1から10のいずれか一項に記載のアクティブノイズコントロールシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクティブノイズコントロールシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
アクティブノイズコントロールシステム(以下、ANCシステムと称することがある)が知られている。ANCシステムでは、騒音が、逆位相の音で低減される。特許文献1には、ANCシステムの例が記載されている。特許文献1のANCシステムでは、構造物にスピーカーが取り付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-264590号公報
【特許文献2】特開2016-122187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、構造物に取り付けられたスピーカー由来の音をスピーカーから見て構造物の背後において減衰させることに適した構成を有するANCシステムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、
表面及び裏面を有する構造物と、
前記表面上に配置され、消音用の音波を放射する第1圧電スピーカーと、
前記裏面上に配置され、消音用の音波を放射する第2圧電スピーカーと、を備えた、
アクティブノイズコントロールシステムを提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係るANCシステムは、構造物に取り付けられたスピーカー由来の音をスピーカーから見て構造物の背後において減衰させることに適している。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、第1実施形態に係るANCシステムの上面図である。
図2図2は、第1実施形態に係るANCシステムの側面図である。
図3図3は、第1圧電スピーカー及び第2圧電スピーカーが取り付けられた構造物を示す詳細な斜視図である。
図4A図4Aは、第1圧電スピーカーの第1放射面の配置を説明するための拡大図である。
図4B図4Bは、第2圧電スピーカーの第2放射面の配置を説明するための拡大図である。
図5A図5Aは、第1圧電スピーカーの第1放射面の向きの別例を説明するための拡大図である。
図5B図5Bは、第2圧電スピーカーの第2放射面の向きの別例を説明するための拡大図である。
図6A図6Aは、第1圧電スピーカーの第1放射面の形状の別例を説明するための拡大図である。
図6B図6Bは、第2圧電スピーカーの第2放射面の形状の別例を説明するための拡大図である。
図7A図7Aは、第1圧電スピーカーの第1放射面の各領域を説明するための拡大図である。
図7B図7Bは、第2圧電スピーカーの第2放射面の各領域を説明するための拡大図である。
図8A図8Aは、第1騒音源からの回折波を説明するための上面図である。
図8B図8Bは、第1騒音源からの回折波を説明するための側面図である。
図8C図8Cは、第1騒音源からの回折波を説明するための斜視図である。
図8D図8Dは、第1圧電スピーカーが形成する波面を説明するための上面図である。
図8E図8Eは、第1圧電スピーカーが形成する波面を説明するための側面図である。
図8F図8Fは、第1圧電スピーカーが形成する波面を説明するための斜視図である。
図9A図9Aは、第2騒音源からの回折波を説明するための上面図である。
図9B図9Bは、第2騒音源からの回折波を説明するための側面図である。
図9C図9Cは、第2騒音源からの回折波を説明するための斜視図である。
図9D図9Dは、第2圧電スピーカーが形成する波面を説明するための上面図である。
図9E図9Eは、第2圧電スピーカーが形成する波面を説明するための側面図である。
図9F図9Fは、第2圧電スピーカーが形成する波面を説明するための斜視図である。
図10図10は、従来のダイナミックスピーカーが形成する波面の説明図である。
図11図11は、従来の平面スピーカーが形成する波面の説明図である。
図12図12は、圧電スピーカーの放射面の振動の説明図である。
図13図13は、圧電フィルムの支持構造の説明図である。
図14図14は、第1実施形態に係るANCシステムの説明図である。
図15図15は、第2実施形態に係るANCシステムの上面図である。
図16図16は、第2実施形態に係るANCシステムの側面図である。
図17図17は、第2実施形態に係るANCシステムの説明図である。
図18図18は、従来のダイナミックスピーカーを構造物に取り付けることによって構成したANCシステムを示す模式図である。
図19図19は、第1圧電スピーカーを構造物に取り付けることによって構成した第2実施形態に係るANCシステムを示す模式図である。
図20図20は、第2実施形態に係るANCシステムにおいて、構造物の裏面の背後に形成されうる位相分布を示す模式的な上面図である。
図21図21は、圧電スピーカーの厚さ方向に平行な断面図である。
図22図22は、圧電スピーカーを固定面とは反対側から観察したときの上面図である。
図23図23は、別の構成例に係る圧電スピーカーを示す図である。
図24図24は、作製したサンプルの構造を説明するための図である。
図25図25は、サンプルを測定するための構成を説明するための図である。
図26図26は、サンプルを測定するための構成を説明するための図である。
図27図27は、出力系のブロック図である。
図28図28は、評価系のブロック図である。
図29A図29Aは、サンプルの評価結果を示す表である。
図29B図29Bは、サンプルの評価結果を示す表である。
図30図30は、介在層の拘束度と音が出始める周波数との関係を示すグラフである。
図31図31は、サンプルE1の音圧レベルの周波数特性を示すグラフである。
図32図32は、サンプルE2の音圧レベルの周波数特性を示すグラフである。
図33図33は、サンプルR1の音圧レベルの周波数特性を示すグラフである。
図34図34は、暗騒音の音圧レベルの周波数特性を示すグラフである。
図35図35は、参照ANC評価系の構成図である。
図36図36は、スピーカーOFF時の音圧分布を示す図である。
図37図37は、スピーカーOFF時の波面の伝搬を示す図である。
図38図38は、スピーカーOFF時の音圧分布を示す図である。
図39図39は、スピーカーOFF時の波面の伝搬を示す図である。
図40図40は、圧電スピーカー由来の音圧分布を示す図である。
図41図41は、圧電スピーカー由来の波面の伝搬を示す図である。
図42図42は、圧電スピーカー由来の音圧分布を示す図である。
図43図43は、圧電スピーカー由来の波面の伝搬を示す図である。
図44図44は、ダイナミックスピーカー由来の音圧分布を示す図である。
図45図45は、ダイナミックスピーカー由来の波面の伝搬を示す図である。
図46図46は、ダイナミックスピーカー由来の音圧分布を示す図である。
図47図47は、ダイナミックスピーカー由来の波面の伝搬を示す図である。
図48図48は、平面スピーカー由来の音圧分布を示す図である。
図49図49は、平面スピーカー由来の波面の伝搬を示す図である。
図50図50は、平面スピーカー由来の音圧分布を示す図である。
図51図51は、平面スピーカー由来の波面の伝搬を示す図である。
図52A図52Aは、消音効果の説明図である。
図52B図52Bは、消音効果の説明図である。
図52C図52Cは、消音効果の説明図である。
図53A図53Aは、消音効果の説明図である。
図53B図53Bは、消音効果の説明図である。
図53C図53Cは、消音効果の説明図である。
図54図54は、測定用水平断面及び測定用矢状断面を説明するための斜視図である。
図55図55は、実施例1に係るANC評価系の構成図である。
図56図56は、実施例1に係る第1圧電スピーカーが取り付けられたパーティションを示す斜視図である。
図57図57は、実施例1に係る第1圧電スピーカーの第1放射面の配置を説明するための拡大図である。
図58図58は、実施例1における測定用水平断面における音圧分布を示すコンター図である。
図59図59は、実施例2に係るANC評価系の構成図である。
図60図60は、実施例2における測定用矢状断面における音圧分布を示すコンター図である。
図61図61は、実施例3における測定用水平断面における音圧分布を示すコンター図である。
図62図62は、実施例4における測定用矢状断面における音圧分布を示すコンター図である。
図63A図63Aは、実施例5における測定用水平断面における位相分布を示すカラーマップである。
図63B図63Bは、実施例5における測定用水平断面における位相分布を示すコンター図である。
図64図64は、比較例1に係るダイナミックスピーカーが取り付けられたパーティションを示す斜視図である。
図65図65は、比較例1における測定用水平断面における音圧分布を示すコンター図である。
図66図66は、比較例2における測定用矢状断面における音圧分布を示すコンター図である。
図67図67は、比較例3における測定用水平断面における音圧分布を示すコンター図である。
図68図68は、比較例4における測定用矢状断面における音圧分布を示すコンター図である。
図69A図69Aは、比較例5における測定用水平断面における位相分布を示すカラーマップである。
図69B図69Bは、比較例5における測定用水平断面における位相分布を示すコンター図である。
図70図70は、実施例6に係るANC評価系の構成を説明するための上面図である。
図71図71は、実施例6に係るANC評価系の構成を説明するための側面図である。
図72図72は、実施例6に係る第2圧電スピーカーの第2放射面の配置を説明するための拡大図である。
図73図73は、実施例6の消音効果の測定結果を示すグラフである。
図74図74は、実施例7の消音効果の測定結果を示すグラフである。
図75図75は、参考例5の消音効果の測定結果を示すグラフである。
図76図76は、比較例6の消音効果の測定結果を示すグラフである。
図77図77は、比較例7の消音効果の測定結果を示すグラフである。
図78図78は、参考例6の消音効果の測定結果を示すグラフである。
図79図79は、本発明から導かれうる技術及び効果を説明するための上面図である。
図80図80は、本発明から導かれうる技術及び効果を説明するための側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、添付の図面を参照しつつ本発明の実施形態について説明するが、以下は本発明の実施形態の例示に過ぎず、本発明を制限する趣旨ではない。以下では、「上」、「下」、「左」、「右」、「高さ」等の用語は、要素間の相互の配置を指定するために用いており、ANCシステムの使用時におけるこれらの要素の姿勢を限定する意図ではない。また、以下では、同一又は類似する構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略することがある。
【0009】
[アクティブノイズコントロールシステムの第1実施形態]
図1図7Bに示すように、アクティブノイズコントロールシステム(ANCシステム)500は、構造物80と、複数の圧電スピーカー10と、を含む。複数の圧電スピーカー10は、それぞれ、放射面15を有し、消音用の音波を放射する。
【0010】
本実施形態では、複数の圧電スピーカー10は、第1圧電スピーカー10A及び第2圧電スピーカー10Bを有する。具体的には、ANCシステム500は、第1圧電スピーカー10A及び第2圧電スピーカー10Bを用いたデュアルANCシステムである。デュアルANCシステムは、双方向ANCシステムとも称されうる。
【0011】
図3に示すように、構造物80は、板80pを有する。図示の例では、構造物80は、脚80lをさらに有する。脚80lは、板80pを起立した状態に支える。他の図では、脚80lの図示は省略している。
【0012】
構造物80は、表面80a及び裏面80bを有する。構造物80において、表面80a及び裏面80bは、互いに反対側の面である。第1圧電スピーカー10Aは、表面80a上に配置されている。第2圧電スピーカー10Bは、裏面80b上に配置されている。具体的には、板80pが、表面80a及び裏面80bを有する。
【0013】
本実施形態では、構造物80の板80pは、例えば、上下方向寸法が20cm以上400cm以下(具体例では20cm以上200cm以下)であり、左右方向寸法が25cm以上200cm以下(具体例では50cm以上120cm以下)であり、厚さ方向寸法が0.1cm以上15cm以下である。ここで、上下方向、左右方向及び厚さ方向は、互いに直交している。上下方向寸法と左右方向寸法とは、同じであってもよく、異なっていてもよい。構造物80全体の上下方向寸法は、例えば20cm以上400cm以下であり、具体例では20cm以上200cm以下である。
【0014】
本実施形態では、構造物80は、パーティションである。一例では、構造物80は、オフィスに配置されたパーティションである。一具体例では、構造物80は、オフィスのシェアデスクを仕切るパーティションである。
【0015】
以下、第1圧電スピーカー10Aの放射面15を、第1放射面15Aと称する。第1放射面15Aは、振動することによって、音波を放射する。この音波により、騒音が低減される。本実施形態では、第1放射面15Aは、ひとつながりの放射面である。
【0016】
以下、第2圧電スピーカー10Bの放射面15を、第2放射面15Bと称する。第2放射面15Bは、振動することによって、音波を放射する。この音波により、騒音が低減される。本実施形態では、第2放射面15Bは、ひとつながりの放射面である。
【0017】
構造物80は、左端部81、右端部82と上端部83及び下端部84を有する。左端部81及び右端部82は、左右方向に対向している。上端部83及び下端部84は、上下方向に対向している。図示の例では、下端部84は、床に接する端部である。具体的には、板80pが、左端部81と、右端部82及び上端部83を有する。板80p及び脚80lが、下端部84を有する。
【0018】
「左」及び「右」は、構造物80の表面80aから裏面80bに向かう方向に沿って観察したときの位置関係を指す。このため、第1圧電スピーカー10Aの第1放射面15Aの左端部15jと、第2圧電スピーカー10Bの第2放射面15Bの左端部15pとは、表面80a又は裏面80bを平面視したときに重複しうる。同様に、第1放射面15Aの右端部15kと、第2放射面15Bの右端部15qとは、表面80a又は裏面80bを平面視したときに重複しうる。
【0019】
ANCシステム500は、左端部81、右端部82及び上端部83で生じる回折音を低減するのに適している。以下、この点について、図8A図9Fを参照しながら説明する。念のため断っておくが、以下の説明において、波面は、波の位相の等しい点を連ねた面を指す。図8A図8Fでは、第2騒音源200B等の図示は省略している。図9A図9Fでは、第1騒音源200A等の図示は省略している。
【0020】
図8A及び図8Bにおいて、第1騒音源200Aと構造物80の間の距離は、例えば0.3m以上5m以下である。この距離は、具体的には、板80pの厚さ方向に関する第1騒音源200Aと板80pの間の距離である。また、第1騒音源200Aの高さは、例えば、0m以上4m以下である。この文脈において、高さは、上下方向の位置である。
【0021】
図9A及び図9Bにおいて、第2騒音源200Bと構造物80の間の距離は、例えば0.3m以上5m以下である。この距離は、具体的には、板80pの厚さ方向に関する第2騒音源200Bと板80pの間の距離である。また、第2騒音源200Bの高さは、例えば、0m以上4m以下である。この文脈において、高さは、上下方向の位置である。
【0022】
図8A及び図8Bに示すように、第1騒音源200Aからの騒音が構造物80に向かって伝搬してきたとする。この場合、左端部81及び右端部82において、回折が生じうる。左端部81及び右端部82での回折により生じた波面は、第1騒音源200Aから見て構造物80の向こう側に回り込むように伝搬する。第1圧電スピーカー10Aは、左端部81及び右端部82でこのようにして生じる回折音を低減することに適している。
【0023】
図9A及び図9Bに示すように、第2騒音源200Bからの騒音が構造物80に向かって伝搬してきたとする。この場合、左端部81及び右端部82において、回折が生じうる。左端部81及び右端部82での回折により生じた波面は、第2騒音源200Bから見て構造物80の向こう側に回り込むように伝搬する。第2圧電スピーカー10Bは、左端部81及び右端部82でこのようにして生じる回折音を低減することに適している。
【0024】
図4Aに示すように、第1圧電スピーカー10Aの第1放射面15Aは、上下方向D1及び左右方向D2に沿って拡がっている。図4Aの例では、第1放射面15Aは、短手方向及び長手方向を有する。第1放射面15Aの短手方向の寸法は、寸法L1である。第1放射面15Aの長手方向の寸法は、寸法L2である。
【0025】
図4Aの例では、第1放射面15Aの短手方向は、上下方向D1である。第1放射面15Aの長手方向は、左右方向D2である。
【0026】
寸法L1に対する寸法L2の比率すなわち第1アスペクト比L2/L1は、例えば、1.2以上である。第1アスペクト比L2/L1は、1.2以上6以下であってもよく、1.5以上4以下であってもよい。
【0027】
寸法L1は、例えば、20cm以上400cm以下である。寸法L1は、20cm以上200cm以下であってもよい。
【0028】
寸法L2は、例えば、25cm以上200cm以下である。寸法L2は、50cm以上120cm以下であってもよい。
【0029】
寸法L1を調整して、消音可能な音の周波数を調整することも可能である。この観点から、寸法L1の上限を設定してもよい。例えば、寸法L1は、50cm以下である。このようにすれば、周波数の高い騒音を消音し易い。寸法L1は、40cm以下であってもよい。
【0030】
図5Aに示すように、第1放射面15Aの短手方向は、上下方向D1からずれていてもよい。第1放射面15Aの長手方向は、左右方向D2からずれていてもよい。第1放射面15Aの短手方向の上下方向D1からのずれ角θpは、例えば0°以上15°以下の範囲である。ずれ角θpは、例えば0°以上5°以下の範囲であってもよい。同様に、第1放射面15Aの長手方向の左右方向D2からのずれ角θqは、例えば0°以上15°以下の範囲である。ずれ角θqは、例えば0°以上5°以下の範囲であってもよい。
【0031】
図4Aの例では、第1放射面15Aの形状は、四角形であり、具体的には長方形である。ただし、第1放射面15Aの形状は、これに限定されない。例えば、第1放射面15Aの形状は、図6Aに示すような角丸長方形であってもよい。角丸長方形の角部の曲率半径Crは、例えば、0よりも大きく、角丸長方形の短手方向の長さの半分以下である。
【0032】
第1放射面15Aは、長手方向及び短手方向を有していなくてもよい。例えば、第1放射面15Aの形状は、正方形であってもよく、円形であってもよい。
【0033】
図4Bに示すように、第2圧電スピーカー10Bの第2放射面15Bは、上下方向D1及び左右方向D2に沿って拡がっている。図4Bの例では、第2放射面15Bは、短手方向及び長手方向を有する。第2放射面15Bの短手方向の寸法は、寸法L3である。第2放射面15Bの長手方向の寸法は、寸法L4である。
【0034】
図4Bの例では、第2放射面15Bの短手方向は、上下方向D1である。第2放射面15Bの長手方向は、左右方向D2である。
【0035】
寸法L3に対する寸法L4の比率すなわち第2アスペクト比L4/L3は、例えば、1.2以上である。第2アスペクト比L4/L3は、1.2以上6以下であってもよく、1.5以上4以下であってもよい。
【0036】
寸法L3は、例えば、20cm以上400cm以下である。寸法L3は、20cm以上200cm以下であってもよい。
【0037】
寸法L4は、例えば、25cm以上200cm以下である。寸法L4は、50cm以上120cm以下であってもよい。
【0038】
寸法L3を調整して、消音可能な音の周波数を調整することも可能である。この観点から、寸法L3の上限を設定してもよい。例えば、寸法L3は、50cm以下である。このようにすれば、周波数の高い騒音を消音し易い。寸法L3は、40cm以下であってもよい。
【0039】
図5Bに示すように、第2放射面15Bの短手方向は、上下方向D1からずれていてもよい。第2放射面15Bの長手方向は、左右方向D2からずれていてもよい。第2放射面15Bの短手方向の上下方向D1からのずれ角θsは、例えば0°以上15°以下の範囲である。ずれ角θsは、例えば0°以上5°以下の範囲であってもよい。同様に、第2放射面15Bの長手方向の左右方向D2からのずれ角θtは、例えば0°以上15°以下の範囲である。ずれ角θtは、例えば0°以上5°以下の範囲であってもよい。
【0040】
図4Bの例では、第2放射面15Bの形状は、四角形であり、具体的には長方形である。ただし、第2放射面15Bの形状は、これに限定されない。例えば、第2放射面15Bの形状は、図6Bに示すような角丸長方形であってもよい。角丸長方形の角部の曲率半径Crは、例えば、0よりも大きく、角丸長方形の短手方向の長さの半分以下である。
【0041】
第2放射面15Bは、長手方向及び短手方向を有していなくてもよい。例えば、第2放射面15Bの形状は、正方形であってもよく、円形であってもよい。
【0042】
以下、音波の伝搬方向及び位相に触れつつ、ANCシステム500が回折音を低減することに適していることについて、さらに説明する。
【0043】
図7A図9Fから、ANCシステム500によれば、左端部81及び右端部82での回折により生じた回折音を低減できることが理解される。
【0044】
図8Aの例では、第1騒音源200Aからの騒音が構造物80に向かって伝搬している。左端部81での回折により生じた波面81w及び右端部82での回折により生じた波面82wは、軸80Xに近づくように伝搬する。図8Aにおいて、波面81wの伝搬方向を符号81dにより示し、波面82wの伝搬方向を符号82dにより示している。軸80Xは、左端部81及び右端部82の間を通り構造物80から離れる方向に延びる軸である。具体的には、図8Aの例では、軸80Xは、構造物80の表面80aに直交し、表面80aの中心を通っている。
【0045】
一方、図7Aに示すように、第1圧電スピーカー10Aの第1放射面15Aは、第1領域15a、第2領域15b及び第3領域15cを有する。第3領域15cは、第1領域15a及び第2領域15bの間に位置する。具体的には、第1領域15aは、第3領域15cから見て左端部81側に位置する。第2領域15bは、第3領域15cから見て右端部82側に位置する。
【0046】
図8Dに示すように、第1圧電スピーカー10Aは、第1領域15aから第1基準軸10Xに近づくように伝搬する第1波面16aと、第2領域15bから第1基準軸10Xに近づくように伝搬する第2波面16bと、を形成する。具体的には、本実施形態では、第1放射面15Aが振動することによって、そのような第1波面16a及び第2波面16bが形成される。図8Dにおいて、第1波面16aの伝搬方向を符号13aにより示し、第2波面16bの伝搬方向を符号13bにより示している。第1基準軸10Xは、第3領域15cを通り第1放射面15Aから離れていくように延びる軸である。
【0047】
典型例では、制御装置120による制御により、第1圧電スピーカー10Aは、第1領域15aから第1基準軸10Xに近づくように伝搬する第1波面16aと、第2領域15bから第1基準軸10Xに近づくように伝搬する第2波面16bと、を形成する。一具体例では、制御装置120による制御により、第1圧電スピーカー10Aがそのような第1波面16a及び第2波面16bを形成する状態が維持される。
【0048】
本実施形態では、第1領域15aと第3領域15cと第2領域15bとは、左右方向D2に沿ってこの順に並んでいる。このため、本実施形態では、左端部81での回折由来の波面81w及び右端部82での回折由来の波面82wは、図8Dに示す第1基準軸10Xに近づくように伝搬するとも言える。このため、左端部81の回折由来の波面81w及び右端部82の回折由来の波面82wと、ANCシステム500由来の第1波面16a及び第2波面16bとには、伝搬方向に共通性がある。このことは、騒音が左端部81及び右端部82で回折して生じる回折音を低減することに適している。
【0049】
本実施形態では、第1基準軸10Xは、非振動時における第3領域15cに直交している。第1基準軸10Xからの第1波面16aの伝搬方向の逸れ角θ1は、例えば5°以上85°以下の範囲にあり、15°以上75°以下の範囲にあってもよく、25°以上65°以下の範囲にあってもよい。第1基準軸10Xからの第2波面16bの伝搬方向の逸れ角θ2は、例えば5°以上85°以下の範囲にあり、15°以上75°以下の範囲にあってもよく、25°以上65°以下の範囲にあってもよい。第3領域15cは、非振動時において平面であってもよい。また、第1放射面15A全体が、非振動時において平面であってもよい。第1基準軸10Xは、第1放射面15Aの中心を通る軸であってもよい。
【0050】
また、図9Aの例では、第2騒音源200Bからの騒音が構造物80に向かって伝搬している。左端部81での回折により生じた波面81y及び右端部82での回折により生じた波面82yは、軸80Yに近づくように伝搬する。図9Aにおいて、波面81yの伝搬方向を符号81eにより示し、波面82yの伝搬方向を符号82eにより示している。軸80Yは、左端部81及び右端部82の間を通り構造物80から離れる方向に延びる軸である。具体的には、図9Aの例では、軸80Yは、構造物80の裏面80bに直交し、裏面80bの中心を通っている。
【0051】
一方、図7Bに示すように、第2圧電スピーカー10Bの第2放射面15Bは、第4領域15d、第5領域15e及び第6領域15fを有する。第6領域15fは、第4領域15d及び第5領域15eの間に位置する。具体的には、第4領域15dは、第6領域15fから見て左端部81側に位置する。第5領域15eは、第6領域15fから見て右端部82側に位置する。
【0052】
図9Dに示すように、第2圧電スピーカー10Bは、第4領域15dから第2基準軸10Yに近づくように伝搬する第4波面16dと、第5領域15eから第2基準軸10Yに近づくように伝搬する第5波面16eと、を形成する。具体的には、本実施形態では、第2放射面15Bが振動することによって、そのような第4波面16d及び第5波面16eが形成される。図9Dにおいて、第4波面16dの伝搬方向を符号13dにより示し、第5波面16eの伝搬方向を符号13eにより示している。第2基準軸10Yは、第6領域15fを通り第2放射面15Bから離れていくように延びる軸である。
【0053】
典型例では、制御装置120による制御により、第2圧電スピーカー10Bは、第4領域15dから第2基準軸10Yに近づくように伝搬する第4波面16dと、第5領域15eから第2基準軸10Yに近づくように伝搬する第5波面16eと、を形成する。一具体例では、制御装置120による制御により、第2圧電スピーカー10Bがそのような第4波面16d及び第5波面16eを形成する状態が維持される。
【0054】
本実施形態では、第4領域15dと第6領域15fと第5領域15eとは、左右方向D2に沿ってこの順に並んでいる。このため、本実施形態では、左端部81での回折由来の波面81y及び右端部82での回折由来の波面82yは、図9Dに示す第2基準軸10Yに近づくように伝搬するとも言える。このため、左端部81の回折由来の波面81y及び右端部82の回折由来の波面82yと、ANCシステム500由来の第4波面16d及び第5波面16eとには、伝搬方向に共通性がある。このことは、騒音が左端部81及び右端部82で回折して生じる回折音を低減することに適している。
【0055】
本実施形態では、第2基準軸10Yは、非振動時における第6領域15fに直交している。第2基準軸10Yからの第4波面16dの伝搬方向の逸れ角θ3は、例えば5°以上85°以下の範囲にあり、15°以上75°以下の範囲にあってもよく、25°以上65°以下の範囲にあってもよい。第2基準軸10Yからの第5波面16eの伝搬方向の逸れ角θ4は、例えば5°以上85°以下の範囲にあり、15°以上75°以下の範囲にあってもよく、25°以上65°以下の範囲にあってもよい。第6領域15fは、非振動時において平面であってもよい。また、第2放射面15B全体が、非振動時において平面であってもよい。第2基準軸10Yは、第2放射面15Bの中心を通る軸であってもよい。
【0056】
図10は、従来のダイナミックスピーカー610の説明図である。ダイナミックスピーカー610は、その放射面から略半球面波を放射する。その略半球面波の波面610wもまた、略半球面状である。図10において、軸610Xは、ダイナミックスピーカー610の放射面を通りその放射面から離れていくように延びる軸である。
【0057】
図11は、従来の平面スピーカー620の説明図である。平面スピーカー620は、その放射面から略平面波を放射する。その略平面波の波面620wもまた、略平面状である。図11において、軸620Xは、平面スピーカー620の放射面を通りその放射面から離れていくように延びる軸である。
【0058】
図8D図10及び図11から理解されるように、本実施形態に係る、第1領域15aから第1基準軸10Xに近づくように伝搬する第1波面16aと、第2領域15bから第1基準軸10Xに近づくように伝搬する第2波面16bと、の組み合わせは、従来のスピーカー610及び620では得られない。同様に、第4領域15dから第2基準軸10Yに近づくように伝搬する第4波面16dと、第5領域15eから第2基準軸10Yに近づくように伝搬する第5波面16eと、の組み合わせは、従来のスピーカー610及び620では得られない。
【0059】
図12は、本実施形態の圧電スピーカー10の放射面15の振動の説明図である。圧電スピーカー10は、図12に示すように、放射面15の端部も良好に振動できるように構成されている。放射面15は、全体として、振動の自由度が高い。このことが、第1波面16a、第2波面16b、第4波面16d及び第5波面16eの形成に寄与している可能性がある。典型的には、放射面15は、自由端振動モードにある程度近いモードで振動しうる。具体的には、放射面15は、1次自由端振動モードにある程度近いモードで振動しうる。
【0060】
従来のスピーカー610及び620と比較した圧電スピーカー10の消音効果の優位性は、第1騒音源200Aからの騒音の周波数が高いとき及び第2騒音源200Bからの騒音の周波数が高いときに現れ易い傾向にある。
【0061】
一具体例では、第1領域15aに、第1放射面15Aの端部の一部が形成されている。第2領域15bに、第1放射面15Aの端部の一部が形成されている。第4領域15dに、第2放射面15Bの端部の一部が形成されている。第5領域15eに、第2放射面15Bの端部の一部が形成されている。
【0062】
ここで、第1圧電スピーカー10Aが振動しておらず、第1圧電スピーカー10Aがその消音機能を発揮していない状況(以下、第1非消音状況)を考える。第1非消音状況においては、構造物80のサイズ及び第1騒音源200Aからの騒音の波長にもよるが、図8Cに模式的に示すように、第1騒音源200Aからの騒音が構造物80において回折することにより、第1圧電スピーカー10Aにおいて、第1領域15aにおける音波の位相と第2領域15bにおける音波の位相の正負が同じであり、第1領域15aにおける音波の位相と第3領域15cにおける音波の位相の正負が逆であり、かつ、第2領域15bにおける音波の位相と第3領域15cにおける音波の位相の正負が逆である期間が現れうる。図8Cでは、第1領域15a及び第2領域15bにハッチング11mが関連付けられており、このことは第1領域15a及び第2領域15bにおける音波の位相が正及び負の一方であることを模式的に表している。また、図8Cでは、第3領域15cにハッチング11nが関連付けられており、このことは第3領域15cにおける音波の位相が正及び負の他方であることを模式的に表している。
【0063】
この点、本実施形態によれば、以下に説明するように、第1領域15a、第2領域15b及び第3領域15cにおいて上記のような位相分布を有する第1騒音源200A由来の騒音を、第1圧電スピーカー10A由来の音により低減できる。
【0064】
第1圧電スピーカー10Aが形成する第1領域15aにおける音波を、第1音波と定義する。第1圧電スピーカー10Aが形成する第2領域15bにおける音波を、第2音波と定義する。第1圧電スピーカー10Aが形成する第3領域15cにおける音波を、第3音波と定義する。本実施形態では、図8Fに模式的に示すように、第1圧電スピーカー10Aにおいて、第1音波の位相と第2音波の位相の正負が同じであり、第1音波の位相と第3音波の位相の正負が逆であり、かつ、第2音波の位相と第3音波の位相の正負が逆である期間が現れる。本実施形態によれば、第1領域15a、第2領域15b及び第3領域15cにおいて上記のような位相分布を有する第1騒音源200A由来の騒音を、第1圧電スピーカー10A由来の音により低減できる。図8Fでは、第3領域15cにハッチング11mが関連付けられており、このことは第3領域15cにおける第1圧電スピーカー10A由来の音波の位相が正及び負の一方であることを模式的に表している。また、図8Fでは、第1領域15a及び第2領域15bにハッチング11nが関連付けられており、このことは第1領域15a及び第2領域15bにおける第1圧電スピーカー10A由来の音波の位相が正及び負の他方であることを模式的に表している。
【0065】
典型例では、制御装置120による制御により、第1音波の位相と第2音波の位相の正負が同じであり、第1音波の位相と第3音波の位相の正負が逆であり、かつ、第2音波の位相と第3音波の位相の正負が逆である期間T1が現れうる。第1音波、第2音波又は第3音波の一周期をTpとしたとき、T1/Tpは、第1騒音源200Aにもよるが、例えば0.01以上1以下である。また、第1騒音源200Aが正弦波を発する場合、期間T1は継続しうるあるいは周期的に現れうる。T1/Tpは、0.1以上1以下であってもよく、0.5以上1以下であってもよく、0.7以上1以下であってもよく、0.9以上1以下であってもよい。
【0066】
また、第2圧電スピーカー10Bが振動しておらず、第2圧電スピーカー10Bがその消音機能を発揮していない状況(以下、第2非消音状況)を考える。第2非消音状況においては、構造物80のサイズ及び第2騒音源200Bからの騒音の波長にもよるが、図9Cに模式的に示すように、第2騒音源200Bからの騒音が構造物80において回折することにより、第2圧電スピーカー10Bにおいて、第4領域15dにおける音波の位相と第5領域15eにおける音波の位相の正負が同じであり、第4領域15dにおける音波の位相と第6領域15fにおける音波の位相の正負が逆であり、かつ、第5領域15eにおける音波の位相と第6領域15fにおける音波の位相の正負が逆である期間が現れうる。図9Cでは、第4領域15d及び第5領域15eにハッチング11mが関連付けられており、このことは第4領域15d及び第5領域15eにおける音波の位相が正及び負の一方であることを模式的に表している。また、図9Cでは、第6領域15fにハッチング11nが関連付けられており、このことは第6領域15fにおける音波の位相が正及び負の他方であることを模式的に表している。
【0067】
この点、本実施形態によれば、以下に説明するように、第4領域15d、第5領域15e及び第6領域15fにおいて上記のような位相分布を有する第2騒音源200B由来の騒音を、第2圧電スピーカー10B由来の音により低減できる。
【0068】
第2圧電スピーカー10Bが形成する第4領域15dにおける音波を、第4音波と定義する。第2圧電スピーカー10Bが形成する第5領域15eにおける音波を、第5音波と定義する。第2圧電スピーカー10Bが形成する第6領域15fにおける音波を、第6音波と定義する。本実施形態では、図9Fに模式的に示すように、第2圧電スピーカー10Bにおいて、第4音波の位相と第5音波の位相の正負が同じであり、第4音波の位相と第6音波の位相の正負が逆であり、かつ、第5音波の位相と第6音波の位相の正負が逆である期間が現れる。本実施形態によれば、第4領域15d、第5領域15e及び第6領域15fにおいて上記のような位相分布を有する第2騒音源200B由来の騒音を、第2圧電スピーカー10B由来の音により低減できる。図9Fでは、第6領域15fにハッチング11mが関連付けられており、このことは第6領域15fにおける第2圧電スピーカー10B由来の音波の位相が正及び負の一方であることを模式的に表している。また、図9Fでは、第4領域15d及び第5領域15eにハッチング11nが関連付けられており、このことは第4領域15d及び第5領域15eにおける第2圧電スピーカー10B由来の音波の位相が正及び負の他方であることを模式的に表している。
【0069】
典型例では、制御装置120による制御により、第4音波の位相と第5音波の位相の正負が同じであり、第4音波の位相と第6音波の位相の正負が逆であり、かつ、第5音波の位相と第6音波の位相の正負が逆である期間T2が現れうる。第4音波、第5音波又は第6音波の一周期をTqとしたとき、T2/Tqは、第2騒音源200Bにもよるが、例えば0.01以上1以下である。また、第2騒音源200Bが正弦波を発する場合、期間T2は継続しうるあるいは周期的に現れうる。T2/Tqは、0.1以上1以下であってもよく、0.5以上1以下であってもよく、0.7以上1以下であってもよく、0.9以上1以下であってもよい。
【0070】
上述のように、第1音波は、第1圧電スピーカー10Aが形成する第1領域15aにおける音波である。第1音波は、第1領域15aに面する空間のうち、第1領域15aに限りなく近い位置の音波を包含する概念である。よって、第1音波の測定は、この「限りなく近い位置」の音波の測定により実現できる。第2音波及び第3音波についても同様である。
【0071】
上述のように、第4音波は、第2圧電スピーカー10Bが形成する第4領域15dにおける音波である。第4音波は、第4領域15dに面する空間のうち、第4領域15dに限りなく近い位置の音波を包含する概念である。よって、第4音波の測定は、この「限りなく近い位置」の音波の測定により実現できる。第5音波及び第6音波についても同様である。
【0072】
上記のような第1音波、第2音波及び第3音波の位相分布は、第1放射面15Aを1次自由端振動モードで振動させることにより形成されうる。また、上記のような第4音波、第5音波及び第6音波の位相分布は、第2放射面15Bを1次自由端振動モードで振動させることにより形成されうる。
【0073】
ANCシステム500によれば、上端部83での回折により生じた回折音を低減できる。図8Bでは、第1騒音源200A由来の音が上端部83での回折することにより生じた波面83wと、波面83wの伝搬方向83dとが、模式的に示されている。図9Bでは、第2騒音源200B由来の音が上端部83で回折することにより生じた波面83yと、波面83yの伝搬方向83eとが、模式的に示されている。
【0074】
本実施形態では、ANCシステム500は、制御装置120を含む。制御装置120は、第1圧電スピーカー10Aから第1周波数範囲FR1の音を出力させることができるように構成されている。第1周波数範囲FR1は、例えば50Hz以上3000Hz以下であり、100Hz以上2000Hz以下であってもよい。
【0075】
一具体例において、制御装置120では、第2周波数範囲FR2が設定されうる。制御装置120は、第1圧電スピーカー10Aから出力される音の周波数を、第2周波数範囲FR2内の値に制御する。第2周波数範囲FR2は、第1周波数範囲FR1よりも狭い。現実には、ANCシステム500の規模、計算負荷等を考慮して、ANCシステム500の能力を最大限に発揮させるのではなく能力の一部のみを発揮させることが望まれる場合がある。この具体例は、そのような場合に採用可能である。具体的には、この具体例によれば、第2周波数範囲FR2として所望の帯域を選択することができる。
【0076】
また、本実施形態では、制御装置120は、第2圧電スピーカー10Bから第3周波数範囲FR3の音を出力させることができるように構成されている。第3周波数範囲FR3は、例えば50Hz以上3000Hz以下であり、100Hz以上2000Hz以下であってもよい。
【0077】
一具体例において、制御装置120では、第4周波数範囲FR4が設定されうる。制御装置120は、第2圧電スピーカー10Bから出力される音の周波数を、第4周波数範囲FR4内の値に制御する。第4周波数範囲FR4は、第3周波数範囲FR3よりも狭い。現実には、ANCシステム500の規模、計算負荷等を考慮して、ANCシステム500の能力を最大限に発揮させるのではなく能力の一部のみを発揮させることが望まれる場合がある。この具体例は、そのような場合に採用可能である。具体的には、この具体例によれば、第4周波数範囲FR4として所望の帯域を選択することができる。
【0078】
本実施形態では、制御装置120は、第1圧電スピーカー10Aから出力される音の周波数を第1特定周波数範囲内の値に制御し、かつ、第2圧電スピーカー10Bから出力される音の周波数を第2特定周波数範囲内の値に制御する制御モードを有する。以下、第1特定周波数範囲の上限の音の波長を第1基準波長と定義する。また、第2特定周波数範囲の上限の音の波長を第2基準波長と定義する。制御モードは、第1特定周波数範囲が第1周波数範囲FR1であり、かつ、第2特定周波数範囲が第3周波数範囲FR3であるモードであってもよい。制御モードは、第1特定周波数範囲が第1周波数範囲FR1であり、かつ、第2特定周波数範囲が第4周波数範囲FR4であるモードであってもよい。制御モードは、第1特定周波数範囲が第2周波数範囲FR2であり、かつ、第2特定周波数範囲が第3周波数範囲FR3であるモードであってもよい。制御モードは、第1特定周波数範囲が第2周波数範囲FR2であり、かつ、第2特定周波数範囲が第4周波数範囲FR4であるモードであってもよい。制御装置120は、これら4つのモードを有していてもよい。その場合、これら4つのモードを使い分けることができる。
【0079】
図4Aに示すように、本実施形態では、構造物80の表面80aを平面視で観察したとき、第1放射面15Aは、対向する左端部15j及び右端部15kを有する。構造物80の表面80aを平面視で観察したとき、第1放射面15Aの左端部15jと構造物80の左端部81の間の第1左マージンM1は、ゼロ以上第1基準波長の1/10以下である。構造物80の表面80aを平面視で観察したとき、第1放射面15Aの右端部15kと構造物80の右端部82の間の第1右マージンM2は、ゼロ以上第1基準波長の1/10以下である。このようにすることは、第1騒音源200A由来の騒音が左端部81及び右端部82で回折して生じる回折音を低減することに適している。なお、1/10という比率は、一般的なANCの消音領域が制御対象となる騒音の波長の1/10であることに由来している。
【0080】
なお、現実には、製品化の都合で、第1左マージンM1及び第1右マージンM2をある程度大きくするべき場合もある。これを考慮し、第1左マージンM1及び第1右マージンM2の上限を、第1基準波長の1/10よりも大きくしてもよい。回折音を低減する効果を得つつ無理のない製品化を行う観点から、例えば、第1左マージンM1を、ゼロ以上第1基準波長の1/3以下にすることができる。また、構造物80の表面80aを平面視で観察したとき、第1右マージンM2を、ゼロ以上第1基準波長の1/3以下にすることができる。
【0081】
第1左マージンM1は、例えば0cm以上50cm以下であり、0cm以上10cm以下であってもよい。第1右マージンM2は、例えば0cm以上50cm以上であり、0cm以上10cm以下であってもよい。
【0082】
本実施形態では、構造物80の表面80aを平面視で観察したとき、第1放射面15Aの上端部15lと構造物80の上端部83の間の第1上マージンM3は、ゼロ以上、かつ、第1基準波長の1/10以下である。第1上マージンM3は、ゼロ以上、かつ、第1基準波長の1/3以下であってもよい。第1上マージンM3は、例えば0cm以上50cm以下であり、0cm以上10cm以下であってもよい。
【0083】
なお、図5Aに示すように、第1放射面15Aの短手方向が上下方向D1からずれており、第1放射面15Aの長手方向が左右方向D2からずれている場合がある。より一般化すると、構造物80の表面80aを平面視で観察したとき、構造物80の端辺と第1放射面15Aの端辺とが平行ではない場合がある。このような場合、第1左マージンM1として、構造物80の左端辺と第1放射面15Aの左端辺の間の距離の幾何平均値を採用する。第1右マージンM2として、構造物80の右端辺と第1放射面15Aの右端辺の間の距離の幾何平均値を採用する。第1上マージンM3として、構造物80の上端辺と第1放射面15Aの上端辺の間の距離の幾何平均値を採用する。後述の第1下マージンM4として、構造物80の下端辺と第1放射面15Aの下端辺の間の距離の幾何平均値を採用する。
【0084】
図4Bに示すように、本実施形態では、構造物80の裏面80bを平面視で観察したとき、第2放射面15Bは、対向する左端部15p及び右端部15qを有する。構造物80の裏面80bを平面視で観察したとき、第2放射面15Bの左端部15pと構造物80の左端部81の間の第2左マージンM5は、ゼロ以上第2基準波長の1/10以下である。構造物80の裏面80bを平面視で観察したとき、第2放射面15Bの右端部15qと構造物80の右端部82の間の第2右マージンM6は、ゼロ以上第2基準波長の1/10以下である。このようにすることは、第2騒音源200B由来の騒音が左端部81及び右端部82で回折して生じる回折音を低減することに適している。
【0085】
第2左マージンM5及び第2右マージンM6の上限を、第2基準波長の1/10よりも大きくしてもよい。回折音を低減する効果を得つつ無理のない製品化を行う観点から、例えば、第2左マージンM5を、ゼロ以上第2基準波長の1/3以下にすることができる。また、構造物80の裏面80bを平面視で観察したとき、第2右マージンM6を、ゼロ以上第2基準波長の1/3以下にすることができる。
【0086】
第2左マージンM5は、例えば0cm以上50cm以下であり、0cm以上10cm以下であってもよい。第2右マージンM6は、例えば0cm以上50cm以上であり、0cm以上10cm以下であってもよい。
【0087】
本実施形態では、構造物80の裏面80bを平面視で観察したとき、第2放射面15Bの上端部15rと構造物80の上端部83の間の第2上マージンM7は、ゼロ以上、かつ、第2基準波長の1/10以下である。第2上マージンM7は、ゼロ以上、かつ、第2基準波長の1/3以下であってもよい。第2上マージンM7は、例えば0cm以上50cm以下であり、0cm以上10cm以下であってもよい。
【0088】
なお、図5Bに示すように、第2放射面15Bの短手方向が上下方向D1からずれており、第2放射面15Bの長手方向が左右方向D2からずれている場合がある。より一般化すると、構造物80の裏面80bを平面視で観察したとき、構造物80の端辺と第2放射面15Bの端辺とが平行ではない場合がある。このような場合、第2左マージンM5として、構造物80の左端辺と第2放射面15Bの左端辺の間の距離の幾何平均値を採用する。第2右マージンM6として、構造物80の右端辺と第2放射面15Bの右端辺の間の距離の幾何平均値を採用する。第2上マージンM7として、構造物80の上端辺と第2放射面15Bの上端辺の間の距離の幾何平均値を採用する。後述の第2下マージンM8として、構造物80の下端辺と第2放射面15Bの下端辺の間の距離の幾何平均値を採用する。
【0089】
本実施形態では、構造物80の表面80a又は裏面80bを平面視したとき、第1放射面15Aの左端部15jと第2放射面15Bの左端部15pとは互いに重複している。ただし、これらは重複していなくてもよい。本実施形態では、構造物80の表面80a又は裏面80bを平面視したとき、第1放射面15Aの右端部15kと第2放射面15Bの右端部15qとは互いに重複している。ただし、これらは重複していなくてもよい。本実施形態では、構造物80の表面80a又は裏面80bを平面視したとき、第1放射面15Aの上端部15lと第2放射面15Bの上端部15rとは互いに重複している。ただし、これらは重複していなくてもよい。本実施形態では、構造物80の表面80a又は裏面80bを平面視したとき、第1放射面15Aの下端部15mと第2放射面15Bの下端部15sとは互いに重複している。ただし、これらは重複していなくてもよい。
【0090】
本実施形態では、図14に示すように、ANCシステム500は、第1参照マイクロフォン130A、第2参照マイクロフォン130B及び制御装置120を含む。制御装置120は、第1圧電スピーカー10Aから出力される音を、第1参照マイクロフォン130Aを用いて制御する。制御装置120は、第2圧電スピーカー10Bから出力される音を、第2参照マイクロフォン130Bを用いて制御する。
【0091】
本実施形態では、制御装置120は、第1騒音制御フィルタ121A及び第2騒音制御フィルタ121Bを有する。制御装置120は、第1圧電スピーカー10Aから出力される音を、第1騒音制御フィルタ121Aを用いて制御する。制御装置120は、第2圧電スピーカー10Bから出力される音を、第2騒音制御フィルタ121Bを用いて制御する。
【0092】
図1図7Bの例では、下端部84は、床に接している。ただし、下端部84よりも下方に空間が形成されるように構造物80を配置することも可能である。この場合、下端部84で生じる回折音を低減するように、ANCシステム500を構成できる。例えば、床に少なくとも1つのスタンドを設定し、スタンドの上に構造物80を設置してもよい。
【0093】
一例において、構造物80の表面80aを平面視で観察したとき、第1放射面15Aの下端部15mと構造物80の下端部84の間の第1下マージンM4は、ゼロ以上、かつ、第1基準波長の1/10以下である。第1下マージンM4は、ゼロ以上、かつ、第1基準波長の1/3以下であってもよい。第1下マージンM4は、例えば0cm以上50cm以下であり、0cm以上10cm以下であってもよい。
【0094】
一例において、構造物80の裏面80bを平面視で観察したとき、第2放射面15Bの下端部15sと構造物80の下端部84の間の第2下マージンM8は、ゼロ以上、かつ、第2基準波長の1/10以下である。第2下マージンM8は、ゼロ以上、かつ、第2基準波長の1/3以下であってもよい。第2下マージンM8は、例えば0cm以上50cm以下であり、0cm以上10cm以下であってもよい。
【0095】
なお、構造物80の表面80aのいずれの部分に第1圧電スピーカー10Aを配置するかは、特に限定されない。構造物80の裏面80bのいずれの部分に第2圧電スピーカー10Bを配置するかは、特に限定されない。
【0096】
[ANCシステム500が行う制御の具体例]
以下、ANCシステム500が行う制御の具体例について説明する。
【0097】
この具体例では、ANCシステム500は、構造物80、第1圧電スピーカー10A、第2圧電スピーカー10B、第1参照マイクロフォン130A、第2参照マイクロフォン130B及び制御装置120を含む。この具体例では、図14に示すように、第2騒音源200Bと、第2参照マイクロフォン130Bと、第1圧電スピーカー10Aと、構造物80と、第2圧電スピーカー10Bと、第1参照マイクロフォン130Aと、第1騒音源200Aと、がこの順に並んでいる。制御装置120は、第1騒音制御フィルタ121A及び第2騒音制御フィルタ121Bを有する。
【0098】
第1圧電スピーカー10Aにより打ち消されるべき音波が、第1騒音源200Aから構造物80で回折して第1消音領域150Aに到達し、第1消音領域150Aにおいて波形X1を有するとする。第1圧電スピーカー10Aは、第1消音領域150Aに到達したときに波形X1とは位相が逆の波形Y1を有することとなる音波を放射する。これらの音波が、第1消音領域150Aで互いに打ち消し合う。別の言い方をすると、これらの音波は第1消音領域150Aで合成され、振幅がゼロ又は小さいレベルに低減された波形Z1を有する合成音波が生成される。
【0099】
第2圧電スピーカー10Bにより打ち消されるべき音波が、第2騒音源200Bから構造物80で回折して第2消音領域150Bに到達し、第2消音領域150Bにおいて波形X2を有するとする。第2圧電スピーカー10Bは、第2消音領域150Bに到達したときに波形X2とは位相が逆の波形Y2を有することとなる音波を放射する。これらの音波が、第2消音領域150Bで互いに打ち消し合う。別の言い方をすると、これらの音波は第2消音領域150Bで合成され、振幅がゼロ又は小さいレベルに低減された波形Z2を有する合成音波が生成される。
【0100】
第1参照マイクロフォン130A及び第1騒音源200Aは、第1圧電スピーカー10Aから見て構造物80の向こう側に位置する。第1参照マイクロフォン130Aは、第1騒音源200Aからの音を感知する。制御装置120は、第1参照マイクロフォン130Aで感知した音に基づいて、第1消音領域150Aが消音されるように第1圧電スピーカー10Aから放射される音波を調整する。
【0101】
第2参照マイクロフォン130B及び第2騒音源200Bは、第2圧電スピーカー10Bから見て構造物80の向こう側に位置する。第2参照マイクロフォン130Bは、第2騒音源200Bからの音を感知する。制御装置120は、第2参照マイクロフォン130Bで感知した音に基づいて、第2消音領域150Bが消音されるように第2圧電スピーカー10Bから放射される音波を調整する。
【0102】
制御装置120は、第1プレアンプリファイア(以下、アンプリファイアをアンプと称することがある)、第1上段ローパスフィルタ、第1アナログデジタルコンバータ(以下、ADコンバータと称することがある)、第1パワーアンプ、第1演算部、第1デジタルアナログコンバータ(以下、DAコンバータと称することがある)及び第1下段ローパスフィルタを有する。
【0103】
第1プレアンプは、第1参照マイクロフォン130Aの出力信号を増幅する。第1上段ローパスフィルタは、第1プレアンプの出力信号の低域成分を通過させる。第1ADコンバータは、第1上段ローパスフィルタの出力信号をデジタル信号に変換する。これにより、第1ADコンバータから、時刻nにおける第1参照信号x1(n)が出力される。
【0104】
第1演算部は、第1参照信号x1(n)から、時刻nにおける第1制御信号y1(n)を生成する。第1演算部は、例えば、DSP(Digital Signal Processor)又はFPGA(Field-Programmable Gate Array)等によって構成される。第1演算部は、第1騒音制御フィルタ121Aを有する。
【0105】
第1DAコンバータは、第1制御信号y1(n)をアナログ信号に変換する。第1下段ローパスフィルタは、第1DAコンバータの出力信号の低域成分を通過させる。第1パワーアンプは、第1下段ローパスフィルタの出力信号を増幅する。第1パワーアンプから出力された信号が、制御信号として第1圧電スピーカー10Aに送信される。この信号に基づいて、第1放射面15Aから音が出力される。
【0106】
第1騒音制御フィルタ121Aについて説明する。第1騒音制御フィルタ121Aのフィルタ係数は、チューニングステージにおいて同定される。具体的には、このフィルタ係数は、第1騒音源200Aから構造物80を介して進行する回折波を打ち消す逆位相音波が第1圧電スピーカー10Aから放射されるように、決定される。制御ステージでは、同定されたフィルタ係数に基づいた制御がなされる。こうして、第1制御信号y1(n)が生成され、第1騒音制御フィルタ121A及び第1圧電スピーカー10Aを用いた消音が実現される。
【0107】
この具体例では、制御ステージでは、上記のように同定されたフィルタ係数を変更せず固定する。つまり、この具体例における制御ステージでは、第1騒音制御フィルタ121Aは固定フィルタである。これにより、制御ステージにおいて、第1参照マイクロフォン130Aに入力される音と第1圧電スピーカー10Aから発せられる音とが一対一の対応関係を有し、かつ、該対応関係が経時的に固定される。このようにすれば、少ない計算機資源で第1圧電スピーカー10Aによる消音を実現できる。第1騒音源200Aの位置が固定されている場合、特に、第1騒音制御フィルタ121Aを固定フィルタとしつつ第1圧電スピーカー10Aによる消音性能を確保し易い。
【0108】
また、制御装置120は、第2プレアンプ、第2上段ローパスフィルタ、第2ADコンバータ、第2パワーアンプ、第2演算部、第2DAコンバータ及び第2下段ローパスフィルタを有する。
【0109】
第2プレアンプは、第2参照マイクロフォン130Bの出力信号を増幅する。第2上段ローパスフィルタは、第2プレアンプの出力信号の低域成分を通過させる。第2ADコンバータは、第2上段ローパスフィルタの出力信号をデジタル信号に変換する。これにより、第2ADコンバータから、時刻nにおける第2参照信号x2(n)が出力される。
【0110】
第2演算部は、第2参照信号x2(n)から、時刻nにおける第2制御信号y2(n)を生成する。第2演算部は、例えば、DSP又はFPGA等によって構成される。第2演算部は、第2騒音制御フィルタ121Bを有する。
【0111】
第2DAコンバータは、第2制御信号y2(n)をアナログ信号に変換する。第2下段ローパスフィルタは、第2DAコンバータの出力信号の低域成分を通過させる。第2パワーアンプは、第2下段ローパスフィルタの出力信号を増幅する。第2パワーアンプから出力された信号が、制御信号として第2圧電スピーカー10Bに送信される。この信号に基づいて、第2放射面15Bから音が出力される。
【0112】
第2騒音制御フィルタ121Bについて説明する。第2騒音制御フィルタ121Bのフィルタ係数は、チューニングステージにおいて同定される。具体的には、このフィルタ係数は、第2騒音源200Bから構造物80を介して進行する回折波を打ち消す逆位相音波が第2圧電スピーカー10Bから放射されるように、決定される。制御ステージでは、同定されたフィルタ係数に基づいた制御がなされる。こうして、第2制御信号y2(n)が生成され、第2騒音制御フィルタ121B及び第2圧電スピーカー10Bを用いた消音が実現される。
【0113】
この具体例では、制御ステージでは、上記のように同定されたフィルタ係数を変更せず固定する。つまり、この具体例における制御ステージでは、第2騒音制御フィルタ121Bは固定フィルタである。これにより、制御ステージにおいて、第2参照マイクロフォン130Bに入力される音と第2圧電スピーカー10Bから発せられる音とが一対一の対応関係を有し、かつ、該対応関係が経時的に固定される。このようにすれば、少ない計算機資源で第2圧電スピーカー10Bによる消音を実現できる。第2騒音源200Bの位置が固定されている場合、特に、第2騒音制御フィルタ121Bを固定フィルタとしつつ第2圧電スピーカー10Bによる消音性能を確保し易い。
【0114】
ANCシステム500は、オフィス等に設けられうる。一具体例では、パーティションである構造物80に、第1圧電スピーカー10A及び第2圧電スピーカー10Bが取り付けられる。第1騒音源200A及び第2騒音源200Bは、人間である。
【0115】
以下、ANCシステムの第2実施形態について説明する。以下では、ANCシステムの第1実施形態で既に説明した内容については、その説明を省略することがある。これらの構成例に関する説明は、技術的に矛盾しない限り、相互に適用されうる。技術的に矛盾しない限り、これらの構成例は、相互に組み合わされてもよい。
【0116】
[アクティブノイズコントロールシステムの第2実施形態]
先に説明した第1実施形態では、構造物80の表面80a及び裏面80bの両方に、圧電スピーカー10が取り付けられている。ただし、この構成は、必須ではない。
【0117】
図15及び図16に示すように、第2実施形態に係るアクティブノイズコントロールシステム(ANCシステム)550では、第1実施形態と同様、構造物80の表面80aに、第1圧電スピーカー10Aが取り付けられている。ただし、構造物80の裏面80bには、圧電スピーカー10は取り付けられていない。具体的には、ANCシステム550は、第1圧電スピーカー10Aを用いたシングルANCシステムである。
【0118】
本実施形態では、図17に示すように、ANCシステム550は、第1参照マイクロフォン130A及び制御装置120を含む。制御装置120は、第1圧電スピーカー10Aから出力される音を、第1参照マイクロフォン130Aを用いて制御する。本実施形態では、制御装置120は、第1騒音制御フィルタ121Aを有する。
【0119】
本実施形態では、制御装置120は、第1圧電スピーカー10Aから出力される音の周波数を第1特定周波数範囲内の値に制御する制御モードを有する。制御モードは、第1特定周波数範囲が第1周波数範囲FR1であるモードであってもよい。制御モードは、第1特定周波数範囲が第2周波数範囲FR2であるモードであってもよい。制御装置120は、これら2つのモードを有していてもよい。その場合、これら2つのモードを使い分けることができる。
【0120】
本実施形態の具体例では、制御装置120は、第1プレアンプ、第1上段ローパスフィルタ、第1ADコンバータ、第1パワーアンプ、第1演算部、第1DAコンバータ及び第1下段ローパスフィルタと、を有する。第1演算部は、第1騒音制御フィルタ121Aを有する。
【0121】
[圧電スピーカー10から構造物80の背後に回り込んだ音の減衰]
第1実施形態に係るANCシステム500及び第2実施形態に係るANCシステム550は、圧電スピーカー10から構造物80の背後に回り込んだ音を減衰させることに適した構成を有する。以下、この点について、図18図20を参照しながら説明する。
【0122】
上述の通り、音は、直進する性質のみならず、回折する性質を有する。このため、構造物に取り付けられたスピーカーから発せられた音は、スピーカーが面する前方に直進するのみならず、回折して構造物の背後に回り込む。
【0123】
図18は、従来のダイナミックスピーカー610を構造物80に取り付けることによって構成したANCシステム650を示す模式図である。図18の例では、第1騒音源200Aからの騒音を、第1参照マイクロフォン130Aが感知する。感知した音に基づいて、ダイナミックスピーカー610は、消音領域656に向けて音を発する。これにより、第1騒音源200Aから構造物80で回折して消音領域656に到達した騒音が消音される。ただし、ダイナミックスピーカー610から発せられた音の一部は、構造物80の背後に回り込む。回り込んだ音が、第1参照マイクロフォン130Aに入力される。このようにして第1参照マイクロフォン130Aに入力された音は、後にダイナミックスピーカー610から発せられる音の制御において、ノイズとして作用する。このため、このような音の回り込みは、ANCシステム650の消音性能を低下させうる。図18では、音がダイナミックスピーカー610から構造物80の背後に回り込み第1参照マイクロフォン130Aに入力される様子が、点線655により模式的に示されている。なお、このように背後に回り込む音響放射は、AFP(Acoustic Feedback Path)と称されることがある。
【0124】
図19は、第1圧電スピーカー10Aを構造物80に取り付けることによって構成した第2実施形態に係るANCシステム550を示す模式図である。図19の例では、第1騒音源200Aからの騒音を、第1参照マイクロフォン130Aが感知する。感知した音に基づいて、第1圧電スピーカー10Aは、消音領域556に向けて音を発する。これにより、第1騒音源200Aから構造物80で回折して消音領域556に到達した騒音が消音される。しかも、ANCシステム550では、ANCシステム650に比べ、上記のようにして構造物80の背後に回り込んだ音が減衰し易い。図19では、音が第1圧電スピーカー10Aから構造物80の背後に回り込み第1参照マイクロフォン130Aに入力される様子が、点線555により模式的に示されている。図19のANCシステム550では、図18のANCシステム650に比べ、構造物80の背後への音の回り込みは小さい。点線555が点線655よりも細いことは、このことを表している。
【0125】
図20は、第2実施形態に係るANCシステム550において、構造物80の裏面80bの背後に形成されうる位相分布を示す模式的な上面図である。具体的に、図20は、上下方向D1に垂直な第1基準平面85Aにおいて形成されうる位相分布を示している。
【0126】
裏面80bの背後には、第1背後空間90A、第2背後空間90B及び第3背後空間90Cが存在する。第3背後空間90Cは、第1背後空間90A及び第2背後空間90Bの間に位置する。第1背後空間90Aは、第3背後空間90Cから見て左端部81側に位置する。第2背後空間90Bは、第3背後空間90Cから見て右端部82側に位置する。図示の例では、第1背後空間90A、第2背後空間90B及び第3背後空間90Cは、裏面80bの近傍に位置する。
【0127】
第1圧電スピーカー10Aによって第1領域15aで発せられた音波が、その位相の正負を維持したまま、左端部81を介して第1背後空間90Aに回り込んでいる。第1圧電スピーカー10Aによって第2領域15bで発せられた音波が、その位相の正負を維持したまま、右端部82を介して第2背後空間90Bに回り込んでいる。第1圧電スピーカー10Aによって第3領域15cで発せられた音波が、その位相の正負を維持したまま、上端部83を介して第3背後空間90Cに回り込んでいる。
【0128】
図20では、音の回り込みにより、第1背後空間90Aにおける音波の位相が負であり、第2背後空間90Bにおける音波の位相が負であり、かつ、第3背後空間90Cにおける音波の位相が正である期間が現れていることが示されている。音の回り込みにより、これらの位相が反転した期間も現れうる。つまり、音の回り込みにより、第1背後空間90Aにおける音波の位相が正であり、第2背後空間90Bにおける音波の位相が正であり、かつ、第3背後空間90Cにおける音波の位相が負である期間も現れうる。
【0129】
図20では、第1干渉空間91Aが描かれている。第1干渉空間91Aは、構造物80の裏面80bから見て、第1背後空間90A、第3背後空間90C及び第2背後空間90Bよりもさらに遠い空間である。上記の通り、第1背後空間90A、第3背後空間90C及び第2背後空間90Bにおける音波の位相が、それぞれ、負、正及び負である期間、あるいは、正、負及び正である期間が現れうる。第1背後空間90Aにおける音波、第3背後空間90Cにおける音波及び第2背後空間90Bにおける音波が、より背後に位置する第1干渉空間91Aに伝搬する。第1干渉空間91Aにおいて、これらの音波が互いに干渉し、互いに打ち消し合う。このため、第1干渉空間91Aでは、第1圧電スピーカー10A由来の音が減衰された状態にある。この減衰作用は、構造物80の裏面80bの背後の空間のうち裏面80bから遠く離れた位置において特に発現し易い。
【0130】
図12を参照して説明した通り、第1圧電スピーカー10Aの第1放射面15Aは、特徴的な振動形状を呈する。第1干渉空間91Aにおける音の減衰作用は、この特徴的な振動形状に基づいて発現しているものと思われる。
【0131】
第1干渉空間91Aにおいて第1圧電スピーカー10A由来の音が減衰されることは、良好な消音に貢献しうる。例えば、第1干渉空間91Aに第1参照マイクロフォン130Aが存在する場合、第1圧電スピーカー10Aから第1干渉空間91Aへと回り込んだ音が、後に第1圧電スピーカー10Aから発せられる音の制御において、ノイズとして作用し難くなる。
【0132】
図19及び図20では、構造物80の表面80a及び裏面80bの片方に圧電スピーカー10が取り付けられた第2実施形態に係るANCシステム550において得られるメリットについて説明した。構造物80の表面80a及び裏面80bの両方に圧電スピーカー10が取り付けられた第1実施形態に係るANCシステム500においても、同様の効果が得られる。また、第1実施形態に係るANCシステム500では、構造物80の裏面80b側の空間においては第1圧電スピーカー10A由来の音が減衰されることにより、第2圧電スピーカー10Bが消音対象とする空間に、第1圧電スピーカー10A由来の音が騒音として与えられることが抑制されうる。このことは、この空間の良好な消音に貢献しうる。構造物80の表面80a側の空間においては第2圧電スピーカー10B由来の音が減衰されることにより、第1圧電スピーカー10Aが消音対象とする空間に、第2圧電スピーカー10B由来の音が騒音として与えられることを抑制しうる。このことは、この空間の良好な消音に貢献しうる。
【0133】
上述のように、床に少なくとも1つのスタンドを設定し、スタンドの上に構造物80を設置し、下端部84よりも下方に空間が形成されるようしてもよい。この例では、第1圧電スピーカー10Aによって第3領域15cで発せられた音波が、その位相の正負を維持したまま、下端部84を介して第3背後空間90Cに回り込みうる。しかし、この例では、4つの端部81、82、83及び84のそれぞれを介して回り込んだ音波は、第1干渉空間91Aにおいて干渉し、互いに打ち消し合いうる。そして、図20を参照して説明した例と同様、第1干渉空間91Aにおいて、第1圧電スピーカー10A由来の音が減衰された状態になりうる。
【0134】
[圧電スピーカー10の第1構成例]
図21及び図22を用いて、第1構成例に係る圧電スピーカー10を説明する。
【0135】
圧電スピーカー10は、圧電フィルム35と、第1接合層51と、介在層40と、第2接合層52と、を含む。第1接合層51と、介在層40と、第2接合層52と、圧電フィルム35とは、この順に積層されている。
【0136】
圧電フィルム35は、圧電体30と、第1電極61と、第2電極62と、を含んでいる。
【0137】
圧電体30は、フィルム形状を有する。圧電体30は、電圧が印加されることによって振動する。圧電体30として、セラミックフィルム、樹脂フィルム等を用いることができる。セラミックフィルムである圧電体30の材料としては、ジルコン酸鉛、チタン酸ジルコン酸鉛、チタン酸ジルコン酸ランタン酸鉛、チタン酸バリウム、Bi層状化合物、タングステンブロンズ構造化合物、チタン酸バリウムとビスマスフェライトとの固溶体等が挙げられる。樹脂フィルムである圧電体30の材料としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリ乳酸等が挙げられる。樹脂フィルムである圧電体30の材料は、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンであってもよい。また、圧電体30は、無孔体であってもよく、多孔体であってもよい。
【0138】
圧電体30の厚さは、例えば10μm以上300μm以下の範囲にあり、30μm以上110μm以下の範囲にあってもよい。
【0139】
第1電極61及び第2電極62は、圧電体30を挟むように圧電体30に接している。第1電極61及び第2電極62は、フィルム形状を有する。第1電極61及び第2電極62は、それぞれ、図示しないリード線に接続されている。第1電極61及び第2電極62は、蒸着、めっき、スパッタリング等により圧電体30上に形成されうる。第1電極61及び第2電極62として、金属箔を用いることもできる。金属箔は、両面テープ、粘着剤、接着剤等によって圧電体30に貼り付け可能である。第1電極61及び第2電極62の材料としては、金属が挙げられ、具体的には、金、白金、銀、銅、パラジウム、クロム、モリブデン、鉄、錫、アルミニウム、ニッケル等が挙げられる。第1電極61及び第2電極62の材料として、炭素、導電性高分子等も挙げられる。第1電極61及び第2電極62の材料として、これらの合金も挙げられる。第1電極61及び第2電極62は、ガラス成分等を含んでいてもよい。
【0140】
第1電極61及び第2電極62の厚さは、それぞれ、例えば10nm以上150μm以下の範囲にあり、20nm以上100μm以下の範囲にあってもよい。
【0141】
図21及び図22の例では、第1電極61は、圧電体30の一方の主面全体を覆っている。ただし、第1電極61は、圧電体30の該一方の主面の一部のみを覆っていてもよい。第2電極62は、圧電体30の他方の主面全体を覆っている。ただし、第2電極62は、圧電体30の該他方の主面の一部のみを覆っていてもよい。
【0142】
第1構成例では、介在層40は、圧電フィルム35と第1接合層51との間に配置されている。介在層40は、接着層及び粘着層以外の層であってもよく、接着層又は粘着層であってもよい。第1構成例では、介在層40は、多孔体層及び/又は樹脂層である。ここで、樹脂層はゴム層及びエラストマ層を含む概念であり、従って樹脂層である介在層40はゴム層又はエラストマ層であってもよい。樹脂層である介在層40としては、エチレンプロピレンゴム層、ブチルゴム層、ニトリルゴム層、天然ゴム層、スチレンブタジエンゴム層、シリコーン層、ウレタン層、アクリル樹脂層等が挙げられる。多孔体層である介在層40としては、発泡体層等が挙げられる。具体的には、多孔体層及び樹脂層である介在層40としては、エチレンプロピレンゴム発泡体層、ブチルゴム発泡体層、ニトリルゴム発泡体層、天然ゴム発泡体層、スチレンブタジエンゴム発泡体層、シリコーン発泡体層、ウレタン発泡体層等が挙げられる。多孔体層ではないが樹脂層である介在層40としては、アクリル樹脂層等が挙げられる。樹脂層ではないが多孔体層である介在層40としては、金属の多孔体層等が挙げられる。ここで、樹脂層は、樹脂を含む層を指し、樹脂を30%以上含んでいてもよく、樹脂を45%以上含んでいてもよく、樹脂を60%以上含んでいてもよく、樹脂を80%以上含んでいてもよい層を指す。ゴム層、エラストマ層、エチレンプロピレンゴム層、ブチルゴム層、ニトリルゴム層、天然ゴム層、スチレンブタジエンゴム層、シリコーン層、ウレタン層、アクリル樹脂層、金属層等についても同様である。また、圧電体30として採用されうる樹脂フィルム、セラミックフィルム等についても同様である。介在層40は、2種類以上の材料のブレンド層であってもよい。
【0143】
介在層40の弾性率は、例えば10000N/m2以上20000000N/m2以下であり、20000N/m2以上100000N/m2以下であってもよい。
【0144】
一例では、多孔体層である介在層40の孔径は、0.1mm以上7.0mm以下であり、0.3mm以上5.0mm以下であってもよい。別の例では、多孔体層である介在層40の孔径は、例えば0.1mm以上2.5mm以下であり、0.2mm以上1.5mm以下であってもよく、0.3mm以上0.7mm以下であってもよい。多孔体層である介在層40の空孔率は、例えば70%以上99%以下であり、80%以上99%以下であってもよく、90%以上95%以下であってもよい。
【0145】
発泡体層である介在層40として、公知の発泡体を利用できる(例えば、特許文献2の発泡体を利用できる)。発泡体層である介在層40は、連続気泡構造を有していてもよく、独立気泡構造を有していてもよく、半独立半連続気泡構造を有していてもよい。連続気泡構造は、連続気泡率が100%である構造を指す。独立気泡構造は、連続気泡率が0%である構造を指す。半独立半連続気泡構造は、連続気泡率が0%よりも大きく100%よりも小さい構造を指す。ここで、連続気泡率は、例えば、発泡体層を水中に沈める試験を行い、式:連続気泡率(%)={(吸水した水の体積)/(気泡部分体積)}×100を用いて計算することができる。一具体例では、「吸水した水の体積」は、発泡体層を水中に沈めて-750mmHgの減圧下で3分間放置した後に、発泡体層の気泡中の空気と置換された水の質量を測り、水の密度を1.0g/cm3として体積に換算することで得られるものである。「気泡部分体積」は、式:気泡部分体積(cm3)={(発泡体層の質量)/(発泡体層の見かけ密度)}-{(発泡体層の質量)/(材料密度)}を用いて計算される値である。「材料密度」は、発泡体層を形成する母材(中実体)の密度である。
【0146】
発泡体層である介在層40の発泡倍率(発泡前後の密度比)は、例えば5倍以上40倍以下であり、10倍以上40倍以下であってもよい。
【0147】
非圧縮状態における介在層40の厚さは、例えば0.1mm以上30mm以下の範囲にあり、1mm以上30mm以下の範囲にあってもよく、1.5mm以上30mm以下の範囲にあってもよく、2mm以上25mm以下の範囲にあってもよい。典型的には、非圧縮状態において、介在層40は、圧電フィルム35よりも厚い。非圧縮状態において、圧電フィルム35の厚さに対する介在層40の厚さの比率は、例えば3倍以上であり、10倍以上であってもよく、30倍以上であってもよい。また、典型的には、非圧縮状態において、介在層40は、第1接合層51よりも厚い。なお、非圧縮状態における介在層40の厚さは、圧電スピーカーに組み込まれる前の、換言すると単体の、介在層40の厚さを指す。
【0148】
第1接合層51は、その表面により固定面17を形成している。第1接合層51は、構造物80に接合される層である。図21の例では、第1接合層51は、介在層40に接合している。
【0149】
第1構成例では、第1接合層51は、粘着性又は接着性の層である。別の言い方をすると、第1接合層51は、接着層又は粘着層である。固定面17は、接着面又は粘着面である。第1接合層51は、構造物80に貼り付けられうる。図1の例では、第1接合層51は、介在層40に接している。
【0150】
第1接合層51としては、基材と、基材の両面に塗布された粘着剤とを有する両面テープが挙げられる。第1接合層51として用いられる両面テープの基材としては、不織布等が挙げられる。第1接合層51として用いられる両面テープの粘着剤としては、アクリル樹脂を含む粘着剤等が挙げられる。ただし、第1接合層51は、基材を有さない粘着剤の層であってもよい。
【0151】
第1接合層51の厚さは、例えば0.01mm以上1.0mm以下であり、0.05mm以上0.5mm以下であってもよい。
【0152】
第2接合層52は、介在層40と圧電フィルム35との間に配置されている。第1構成例では、第2接合層52は、粘着性又は接着性の層である。別の言い方をすると、第2接合層52は、接着層又は粘着層である。具体的には、第2接合層52は、介在層40と圧電フィルム35とに接合している。
【0153】
第2接合層52としては、基材と、基材の両面に塗布された粘着剤とを有する両面テープが挙げられる。第2接合層52として用いられる両面テープの基材としては、不織布等が挙げられる。第2接合層52として用いられる両面テープの粘着剤としては、アクリル樹脂を含む粘着剤等が挙げられる。ただし、第2接合層52は、基材を有さない粘着剤の層であってもよい。
【0154】
第2接合層52の厚さは、例えば0.01mm以上1.0mm以下であり、0.05mm以上0.5mm以下であってもよい。
【0155】
第1構成例では、圧電フィルム35に接着面又は粘着面が接触することによって、圧電フィルム35が固定面17側の層と一体化されている。具体的には、第1構成例では、当該接着面又は粘着面は、第2粘着層又は接着層52の表面により形成された面である。
【0156】
第1構成例に係る圧電スピーカー10を用いて、ANCシステム500又はANCシステム550を構成可能である。圧電スピーカー10は、ダイナミックスピーカーに比べ、自身に電気信号が届いてから音が出るまでにかかる時間(以下、遅延時間と称することがある)が短い。このため、圧電スピーカー10は、自身のサイズが小さい点のみならず、参照マイクロフォン130と圧電スピーカー10との距離を短くできる点でも、小型のANCシステムの構成に適している。例えば、参照マイクロフォン130、制御装置120及び圧電スピーカー10を1つのパーティションに取り付けることも可能である。
【0157】
圧電スピーカー10が構造物80に固定された状態で、電圧が、リード線を介して、圧電フィルム35に印加される。これにより、圧電フィルム35が振動し、圧電フィルム35から音波が放射される。
【0158】
圧電スピーカー10及び圧電スピーカー10が適用されたANCシステム500又はANCシステム550について、さらに説明する。
【0159】
圧電スピーカー10は、固定面17によって、構造物80に固定されうる。そのようにして、圧電スピーカー10を用いたANCシステム500又はANCシステム550を構成できる。ANCシステム500又はANCシステム550では、介在層40は、圧電フィルム35と構造物80との間に配置される。図示の例では、介在層40は、圧電フィルム35の2つの主面のうち片方の主面のみを拘束している。
【0160】
圧電フィルム35の片方の主面を介在層40によって適度に拘束することにより、圧電フィルム35から可聴音域における低周波側の音が発生し易くなる。これを考慮すると、圧電フィルム35を平面視で観察したときに、圧電フィルム35の面積の25%以上の領域において介在層40が配置されるようにすることができる。圧電フィルム35を平面視で観察したときに、圧電フィルム35の面積の50%以上の領域において介在層40が配置されるようにしてもよく、圧電フィルム35の面積の75%以上の領域において介在層40が配置されるようにしてもよく、圧電フィルム35の全領域において介在層40が配置されるようにしてもよい。また、圧電スピーカー10における固定面17とは反対側の主面38の50%以上を圧電フィルム35よって構成することができる。主面38の75%以上を圧電フィルム35によって構成してもよく、主面38全体を圧電フィルム35によって構成してもよい。
【0161】
第1構成例では、第2接合層52によって、圧電フィルム35と介在層40との分離が防止されている。上記の「適度な拘束」の観点からは、圧電フィルム35を平面視で観察したときに、圧電フィルム35の面積の25%以上の領域において第2接合層52及び介在層40が配置されるようにすることができる。圧電フィルム35を平面視で観察したときに、圧電フィルム35の面積の50%以上の領域において第2接合層52及び介在層40が配置されるようにしてもよく、圧電フィルム35の面積の75%以上の領域において第2接合層52及び介在層40が配置されるようにしてもよく、圧電フィルム35の全領域において第2接合層52及び介在層40が配置されるようにしてもよい。
【0162】
ここで、介在層40が多孔体である場合、介在層40が配置される領域の比率は、その多孔質構造に由来する細孔を考慮した微視的な観点ではなく、より巨視的な観点から規定されるものである。例えば、圧電フィルム35、多孔体である介在層40及び第2接合層52が平面視で共通の輪郭を有する板状体である場合、圧電フィルム35の面積の100%の領域において第2接合層52及び介在層40が配置されていると表現される。
【0163】
第1構成例では、介在層40の拘束度は、5×109N/m3以下である。介在層40の拘束度は、例えば、1×104N/m3以上である。介在層40の拘束度は、好ましくは5×108N/m3以下であり、より好ましくは2×108N/m3以下であり、さらに好ましくは1×105以上5×107N/m3以下である。ここで、介在層40の拘束度(N/m3)は、以下の式のように、介在層40の弾性率(N/m2)と介在層40の表面充填率との積を介在層40の厚さ(m)で割ることによって得られる値である。介在層40の表面充填率は、介在層40における圧電フィルム35側の主面の充填率(1から空孔率を引いた値)である。介在層40の孔が均等に分布している場合、表面充填率は、介在層40の3次元的な充填率に等しいとみなすことができる。
拘束度(N/m3)=弾性率(N/m2)×表面充填率÷厚さ(m)
【0164】
拘束度は、介在層40による圧電フィルム35の拘束の程度を表すパラメータと考えることができる。介在層40の弾性率が大きいほど拘束の程度が大きくなることが、上記の式で表されている。介在層40の表面充填率が大きいほど拘束の程度が大きくなることが、上記の式で表されている。介在層40の厚さが小さいほど拘束の程度が大きくなることが、上記の式で表されている。拘束度が過度に大きい場合には、低周波側の音を出すのに必要な圧電フィルム35の変形が妨げられる。逆に、拘束度が過度に小さい場合には、圧電フィルム35がその厚さ方向に十分に変形せず、その面内方向(厚さ方向に垂直な方向)のみに伸縮し、低周波側の音の発生が妨げられる。介在層40の拘束度を適度な範囲に設定することによって、圧電フィルム35の面内方向の伸縮が厚さ方向の変形に適度に変換され、圧電フィルム35が全体として適切に屈曲し、低周波側の音が発生し易くなる。
【0165】
上述の説明から理解されるように、圧電フィルム35と固定面17との間に、介在層40とは異なる層があってもよい。当該異なる層は、例えば、第2接合層52である。
【0166】
介在層40に比べ、構造物80は、大きい拘束度を有していてもよい。この場合であっても、介在層40の寄与により、圧電フィルム35から低周波側の音が発生しうる。ただし、構造物80は、介在層40と同じ拘束度を有していてもよく、介在層40よりも小さい拘束度を有していてもよい。ここで、構造物80の拘束度(N/m3)は、構造物80の弾性率(N/m2)と構造物80の表面充填率との積を構造物80の厚さ(m)で割ることによって得られる値である。構造物80の表面充填率は、構造物80における圧電フィルム35側の主面の充填率(1から空孔率を引いた値)である。
【0167】
典型的には、介在層40に比べ、構造物80は、大きい剛性(ヤング率と断面2次モーメントの積)、大きいヤング率及び/又は大きい厚さを有する。ただし、構造物80は、介在層40と同じ剛性、ヤング率及び/又は厚さを有していてもよく、介在層40よりも小さい剛性、ヤング率及び/又は厚さを有していてもよい。構造物80のヤング率は、例えば1GPa以上であり、10GPa以上であってもよく、50GPa以上であってもよい。構造物80のヤング率の上限は特に限定されないが、例えば1000GPaである。
【0168】
図示の例では、圧電フィルム35は、介在層40によって完全に包囲されているわけではない。図示の例では、介在層40及び圧電フィルム35をこの順に通りその後介在層40を経由せずに圧電スピーカー10の外部に至る仮想直線が存在する。ここで、「仮想直線が存在する」とは、そのような直線を引くことができるという意味である。図示の例では、介在層40は、圧電フィルム35から見て固定面17側のみに拡がっている。
【0169】
図示の例では、圧電フィルム35における固定面17とは反対側の主面38が、放射面15を構成している。つまり、圧電フィルム35における介在層40とは反対側の主面38が、放射面15を構成している。この構成において圧電フィルム35における介在層40側の主面が介在層40により拘束されることにより、圧電フィルム35の面内方向の伸縮が厚さ方向の変形に適度に変換されうる。ただし、他の形態も採用されうる。
【0170】
具体的には、圧電フィルム35における介在層40とは反対側に、第1の層が設けられていてもよい。例えば、第1の層は、圧電フィルム35の保護に用いられる。この場合、第1の層の主面が、放射面15を構成しうる。あるいは、第1の層とは別の第2の層が、放射面15を構成しうる。
【0171】
第1の層の厚さは、例えば、0.05mm以上5mm以下である。第1の層の材料は、例えば、ポリエステル系の材料である。ここで、ポリエステル系の材料は、ポリエステルを含む材料を指し、ポリエステルを30%以上含んでいてもよく、ポリエステルを45%以上含んでいてもよく、ポリエステルを60%以上含んでいてもよく、ポリエステルを80%以上含んでいてもよい材料を指す。一例では、介在層40の材料と第1の層の材料とは異なる。介在層40の材料と第1の層の材料とが異なる場合、圧電フィルム35における介在層40側の主面が拘束される程度と、圧電フィルム35における第1の層側の主面が拘束される程度と、に差をつけることができる。このことは、圧電フィルム35の面内方向の伸縮を厚さ方向の変形に適度に変換することを可能にしうる。介在層40の拘束度と第1の層の拘束度とは異なっていてもよい。ここで、第1の層の拘束度(N/m3)は、第1の層の弾性率(N/m2)と第1の層の表面充填率との積を第1の層の厚さ(m)で割ることによって得られる値である。第1の層の表面充填率は、第1の層における圧電フィルム35側の主面の充填率(1から空孔率を引いた値)である。介在層40の拘束度と第1の層の拘束度とが異なることは、圧電フィルム35の面内方向の伸縮を厚さ方向の変形に適度に変換することを可能にしうる。一具体例では、介在層40の拘束度は、第1の層の拘束度よりも大きい。第1の層は、フィルム形状を有していてもよい。第1の層は、不織布であってもよい。
【0172】
第1構成例では、圧電フィルム35を平面視で観察したときに、圧電フィルム35の少なくとも一部が固定面17と重複する(図21の例では第1接合層51と重複する)ように、固定面17が配置されている。圧電スピーカー10を構造物80に安定して固定する観点からは、圧電フィルム35を平面視で観察したときに、圧電フィルム35の面積の50%以上の領域において固定面17が配置されるようにすることができる。圧電フィルム35を平面視で観察したときに、圧電フィルム35の面積の75%以上の領域において固定面17が配置されるようにしてもよく、圧電フィルム35の全領域において固定面17が配置されるようにしてもよい。
【0173】
第1構成例では、圧電フィルム35と固定面17との間に存在する互いに隣接する層は接合されている。ここで、「圧電フィルム35と固定面17との間」は、圧電フィルム35及び固定面17を含む。具体的には、第1接合層51と介在層40は接合されており、介在層40と第2接合層52は接合されており、第2接合層52と圧電フィルム35とは接合されている。このため、構造物80への取付姿勢によらず、圧電フィルム35を安定して配置でき、しかも構造物80への取付が容易である。さらに、介在層40の寄与により、取付姿勢によらず、圧電フィルム35から音が出る。従って、第1構成例では、これらが相俟って、使い勝手がよい圧電スピーカーが実現される。なお、「互いに隣接する層は接合されている」は、互いに隣接する層が全体的又は部分的に接合されていることを意味する。図示の例では、圧電フィルム35の厚さ方向に沿って延び圧電フィルム35、介在層40及び固定面17をこの順に通る所定領域において、互いに隣接する層が接合されている。
【0174】
第1構成例では、圧電フィルム35及び介在層40は、それぞれ、厚さが実質的に一定である。このことは、圧電スピーカー10の保管、使い勝手、圧電フィルム35から出る音の制御等の種々の観点から有利である場合が多い。なお、「厚さが実質的に一定」は、例えば、厚さの最小値が最大値の70%以上100%以下であることを指す。圧電フィルム35及び介在層40は、それぞれ、厚さの最小値が最大値の85%以上100%以下であってもよい。
【0175】
ところで、樹脂は、セラミック等に比べ、クラックが発生し難い材料である。一具体例では、圧電フィルム35の圧電体30は樹脂フィルムであり、介在層40は圧電フィルムとしては機能しない樹脂層である。このようにすることは、圧電体30又は介在層40でクラックを生じさせることなく圧電スピーカー10をハサミ、人の手等で切断する観点から有利である(圧電スピーカー10がハサミ、人の手等で切断可能であることは、ANCシステム500又はANCシステム550の設計自由度向上に寄与し、また、ANCシステム500又はANCシステム550の構築を容易にする)。また、このようにすれば、圧電スピーカー10を曲げても圧電体30又は介在層40でクラックが生じ難くなる。また、圧電体30が樹脂フィルムであり介在層40が樹脂層であることは、圧電体30又は介在層40でクラックを生じさせることなく湾曲面上に圧電スピーカー10を固定する観点から有利である。
【0176】
図21の例では、圧電フィルム35、介在層40、第1接合層51及び第2接合層52は、平面視で輪郭が一致している。ただし、これらの輪郭がずれていても構わない。
【0177】
図21の例では、圧電フィルム35、介在層40、第1接合層51及び第2接合層52は、平面視で短手方向及び長手方向を有する長方形である。ただし、これらは、正方形、円形、楕円形等であってもよい。
【0178】
また、圧電スピーカー10は、図21に示す層以外の層を含んでいてもよい。図21に示す層以外の層は、例えば、上述の第1の層及び第2の層である。
【0179】
[圧電スピーカー10の第2構成例]
以下、図23を用いて第2構成例に係る圧電スピーカー10を説明する。以下では、第2構成例に係る圧電スピーカー10を、圧電スピーカー110と表記する。以下では、第1構成例と同様の部分については、説明を省略することがある。
【0180】
圧電スピーカー110は、圧電フィルム35と、固定面117と、介在層140と、を含む。固定面117は、圧電フィルム35を構造物80に固定することに利用可能である。
【0181】
介在層140は、圧電フィルム35と固定面117との間(ここで、「間」は固定面117を含む。第1構成例についても同様である)に配置されている。固定面117は、介在層140の表面(主面)により形成されている。
【0182】
介在層140は、多孔体層及び/又は樹脂層である。介在層140は、粘着層又は接着層である。介在層140として、アクリル樹脂を含む粘着剤を用いることができる。介在層140として、他の粘着剤、例えば、ゴム、シリコーン又はウレタンを含む粘着剤を用いてもよい。介在層140は、2種類以上の材料のブレンド層であってもよい。
【0183】
介在層140の弾性率は、例えば10000N/m2以上20000000N/m2以下であり、20000N/m2以上100000N/m2以下であってもよい。
【0184】
非圧縮状態における介在層140の厚さは、例えば0.1mm以上30mm以下の範囲にあり、1mm以上30mm以下の範囲にあってもよく、1.5mm以上30mm以下の範囲にあってもよく、2mm以上25mm以下の範囲にあってもよい。典型的には、非圧縮状態において、介在層140は、圧電フィルム35よりも厚い。非圧縮状態において、圧電フィルム35の厚さに対する介在層140の厚さの比率は、例えば3倍以上であり、10倍以上であってもよく、30倍以上であってもよい。
【0185】
第2構成例では、介在層140の拘束度は、5×109N/m3以下である。介在層140の拘束度は、例えば、1×104N/m3以上である。介在層140の拘束度は、好ましくは5×108N/m3以下であり、より好ましくは2×108N/m3以下であり、さらに好ましくは1×105以上5×107N/m3以下である。拘束度の定義は、先に説明した通りである。
【0186】
第2構成例では、圧電フィルム35に接着面又は粘着面が接触することによって、圧電フィルム35が固定面117側の層と一体化されている。具体的には、第2構成例では、当該接着面又は粘着面は、介在層140により形成された面である。
【0187】
圧電スピーカー110も、固定面117によって、構造物80に固定されうる。そのようにして、第2構成例に係る圧電スピーカー110を用いたANCシステム500又はANCシステム550を構成できる。
【0188】
第1構成例に係る圧電スピーカー10と、第2構成例に係る圧電スピーカー10と、を用いてANCシステム500を構成してもよい。
【0189】
[実験例]
実験例により、本発明を詳細に説明する。ただし、以下の実験例は、本発明の一例を示すものであり、本発明は以下の実験例に限定されない。
【0190】
(サンプルE1)
固定された支持部材680に圧電スピーカー10の固定面17を貼り付けることによって、図24に示す構造を作製した。具体的には、支持部材680として、厚さ5mmのステンレス平板(SUS平板)を用いた。第1接合層51として、不織布の両面にアクリル系粘着剤を含侵させた、厚み0.16mmの粘着シート(両面テープ)を用いた。介在層40として、エチレンプロピレンゴムとブチルゴムとを含む混和物を約10倍の発泡倍率で発泡させた、厚さ3mmで独立気泡型の発泡体を用いた。第2接合層52として、基材が不織布でありその基材の両面に無溶剤型のアクリル樹脂を含む粘着剤が塗布された、厚さ0.15mmの粘着シート(両面テープ)を用いた。圧電フィルム35として、両面に銅電極(ニッケルを含む)が蒸着されたポリフッ化ビニリデンフィルム(総厚み33μm)を用いた。サンプルE1の第1接合層51、介在層40、第2接合層52及び圧電フィルム35は、平面視で横37.5mm×縦37.5mmの寸法を有しており、平面視で輪郭が重複した非分割かつ非枠状の板状形状を有する(後述のサンプルE2~E17及びR1でも同様である)。支持部材680は、平面視で横50mm×縦50mmの寸法を有しており、第1接合層51を全体的に覆っている。このようにして、図24に示す構成を有するサンプルE1を作製した。
【0191】
(サンプルE2)
介在層40として、エチレンプロピレンゴムを含む混和物を約10倍の発泡倍率で発泡させた、厚さ3mmで半独立半連続気泡型の発泡体を用いた。この発泡体は、硫黄を含むものである。それ以外は、サンプルE1と同様のサンプルE2を作製した。
【0192】
(サンプルE3)
サンプルE3では、介在層40として、サンプルE2の介在層40と同一材料かつ同一構造の、厚さ5mmの発泡体を用いた。それ以外は、サンプルE2と同様のサンプルE3を作製した。
【0193】
(サンプルE4)
サンプルE4では、介在層40として、サンプルE2の介在層40と同一材料かつ同一構造の、厚さ10mmの発泡体を用いた。それ以外は、サンプルE2と同様のサンプルE4を作製した。
【0194】
(サンプルE5)
サンプルE5では、介在層40として、サンプルE2の介在層40と同一材料かつ同一構造の、厚さ20mmの発泡体を用いた。それ以外は、サンプルE2と同様のサンプルE5を作製した。
【0195】
(サンプルE6)
介在層40として、エチレンプロピレンゴムを含む混和物を約10倍の発泡倍率で発泡させた、厚さ20mmで半独立半連続気泡型の発泡体を用いた。この発泡体は、硫黄を含まないものであり、サンプルE2~E5の介在層40として用いた発泡体に比べて柔軟である。それ以外は、サンプルE1と同様のサンプルE6を作製した。
【0196】
(サンプルE7)
介在層40として、エチレンプロピレンゴムを含む混和物を約20倍の発泡倍率で発泡させた、厚さ20mmで半独立半連続気泡型の発泡体を用いた。それ以外は、サンプルE1と同様のサンプルE7を作製した。
【0197】
(サンプルE8)
介在層40として、金属多孔体を用いた。この金属多孔体は、材料がニッケルであり、孔径が0.9mmであり、厚みが2.0mmのものである。第2接合層52として、サンプルE1の第1接合層51と同じ粘着層を用いた。それ以外は、サンプルE1と同様のサンプルE8を作製した。
【0198】
(サンプルE9)
サンプルE1の第1接合層51及び第2接合層52を省略し、圧電フィルム35と構造物80との間に介在層140のみを介在させた。介在層140として、アクリル系粘着剤によって構成された、厚さ3mmの基材レス粘着シートを用いた。それ以外は、サンプルE1と同様の、図24の支持部材680に図23の積層体が取り付けられた構成を有する、サンプルE9を作製した。
【0199】
(サンプルE10)
介在層40として、サンプルE9の介在層140と同じ介在層を用いた。それ以外は、サンプルE8と同様のサンプルE10を作製した。
【0200】
(サンプルE11)
介在層40として、厚さ5mmのウレタンフォームを用いた。それ以外は、サンプルE8と同様のサンプルE11を作製した。
【0201】
(サンプルE12)
介在層40として、厚さ10mmのウレタンフォームを用いた。このウレタンフォームは、サンプルE11の介在層40として用いたウレタンフォームに比べて孔径が小さいものである。それ以外は、サンプルE8と同様のサンプルE12を作製した。
【0202】
(サンプルE13)
介在層40として、厚さ5mmで独立気泡型のアクリルニトリルブタジエンゴムの発泡体を用いた。それ以外は、サンプルE8と同様のサンプルE13を作製した。
【0203】
(サンプルE14)
介在層40として、厚さ5mmで独立気泡型のエチレンプロピレンゴムの発泡体を用いた。それ以外は、サンプルE8と同様のサンプルE14を作製した。
【0204】
(サンプルE15)
介在層40として、天然ゴムとスチレンブタジエンゴムとがブレンドされた厚さ5mmで独立気泡型の発泡体を用いた。それ以外は、サンプルE8と同様のサンプルE15を作製した。
【0205】
(サンプルE16)
介在層40として、厚さ5mmで独立気泡型のシリコーンの発泡体を用いた。それ以外は、サンプルE8と同様のサンプルE16を作製した。
【0206】
(サンプルE17)
介在層40として、サンプルE1の介在層40と同一材料かつ同一構造の、厚さ10mmの発泡体を用いた。第2接合層52として、サンプルE1と同じ粘着シートを用いた。圧電フィルム35の圧電体30として、厚さ35μmのトウモロコシ由来のポリ乳酸を主原料とした樹脂シートを用いた。圧電フィルム35の第1電極61及び第2電極62は、それぞれ、厚さ0.1μmのアルミニウム膜であり、蒸着によって形成した。こうして、総厚みが35.2μmの圧電フィルム35を得た。それ以外は、サンプルE1と同様のサンプルE17を作製した。
【0207】
(サンプルR1)
サンプルE1の圧電フィルム35を、サンプルR1とした。地面に平行な台上に、接着せずにサンプルR1を置いた。
【0208】
サンプルE1~E17及びR1を、以下のようにして評価した。
【0209】
<介在層の厚さ(非圧縮状態)>
介在層の厚さは、厚みゲージを用いて測定した。
【0210】
<介在層の弾性率>
介在層から、小片を切り出した。切り出した小片に対して、引張試験機(TA Instruments社製「RSA-G2」)を用いて、常温で圧縮試験を行った。これにより、応力-ひずみ曲線を得た。応力-ひずみ曲線の初期傾きから、弾性率を算出した。
【0211】
<介在層の孔径>
顕微鏡により、介在層の拡大画像を得た。この拡大画像を画像解析することにより、介在層の孔径の平均値を求めた。求めた平均値を、介在層の孔径とした。
【0212】
<介在層の空孔率>
介在層から直方体の小片を切り出した。切り出した小片の体積及び質量から見かけの密度を求めた。見かけの密度を、介在層を形成する母材(中実体)の密度で除した。これにより、充填率を算出した。さらに1から充填率を差し引いた。これにより、空孔率を得た。
【0213】
<介在層の表面充填率>
サンプルE2~16については、上述の充填率を表面充填率とした。サンプルE1及び17では、介在層は表面スキン層を有するため、表面充填率は100%とした。
【0214】
<サンプルの音圧レベルの周波数特性>
サンプルE1~E8及びE10~E17を測定するための構成を、図25に示す。圧電フィルム35の両面の角部に、厚さ70μmであり横70mm×縦5mmである導電性銅箔テープ70(3M社製のCU-35C)を取り付けた。また、これらの導電性銅箔テープ70のそれぞれに、みのむしクリップ75を取り付けた。導電性銅箔テープ70及びみのむしクリップ75は、圧電フィルム35に交流電圧を印加するための電気経路の一部を構成する。
【0215】
サンプルE9を測定するための構成を、図26に示す。図26の構成には、図25の第1接合層51及び第2接合層52がない。図26の構成には、介在層140がある。
【0216】
サンプルR1を測定するための構成は、図25及び図26に倣ったものである。具体的には、図25及び図26に倣って、圧電フィルム35の両面の角部に導電性銅箔テープ70を取り付け、これらのテープ70にみのむしクリップ75を取り付けた。こうして得られたアセンブリを、地面に平行な台上に接着せずに置いた。
【0217】
図27及び図28に、サンプルの音響特性を測定するためのブロック図を示す。具体的に、図27は出力系を示し、図28は評価系を示す。
【0218】
図27に示す出力系では、音声出力用パーソナルコンピュータ(以下、パーソナルコンピュータをPCと簡略化して記載することがある)401と、オーディオインターフェース402と、スピーカーアンプ403と、サンプル404(サンプルE1~E17及びR1の圧電スピーカー)と、をこの順に接続した。スピーカーアンプ403からサンプル404への出力を確認できるように、スピーカーアンプ403をオシロスコープ405にも接続した。
【0219】
音声出力用PC401には、WaveGeneがインストールされている。WaveGeneは、テスト用音声信号を発生させるためのフリーソフトである。オーディオインターフェース402として、ローランド株式会社製のQUAD-CAPTUREを用いた。オーディオインターフェース402のサンプリング周波数は、192kHzとした。スピーカーアンプ403として、オンキヨー株式会社製のA-924を用いた。オシロスコープ405として、テクトロニクス社製のDPO2024を用いた。
【0220】
図28に示す評価系では、マイクロフォン501と、音響評価装置(PULSE)502と、音響評価用PC503と、をこの順に接続した。
【0221】
マイクロフォン501として、B&K社製のType4939-C-002を用いた。マイクロフォン501は、サンプル404から1m離れた位置に配置した。音響評価装置502として、B&K社製のType3052-A-030を用いた。
【0222】
このように出力系及び評価系を構成し、音声出力用PC401からオーディオインターフェース402及びスピーカーアンプ403を介してサンプル404に交流電圧を印加した。具体的には、音声出力用PC401を用いて、20秒間で周波数が100Hzから100kHzまでスイープするテスト用音声信号を発生させた。この際、スピーカーアンプ403から出力される電圧を、オシロスコープ405により確認した。また、サンプル404から発生した音を、評価系で評価した。このようにして、音圧周波数特性測定試験を行った。
【0223】
出力系及び評価系の設定の詳細は、以下の通りである。
【0224】
[出力系の設定]
・周波数範囲:100Hz~100kHz
・スイープ時間:20秒
・実効電圧:10V
・出力波形:サイン波
【0225】
[評価系の設定]
・測定時間:22秒
・ピークホールド
・測定範囲:4Hz~102.4kHz
・ライン数:6400
【0226】
<音が出始める周波数の判断>
暗騒音よりも3dB以上音圧レベルが大きい周波数域(音圧レベルが暗騒音+3dB以上に保たれる周波数範囲がピーク周波数(音圧レベルがピークとなる周波数)の±10%に満たないような急峻なピーク部を除く)の下端を、音が出始める周波数と判断した。
【0227】
サンプルE1~E17及びサンプルR1の評価結果を、図29A及び図29Bに示す。サンプルE1~E17に関する拘束度と音が出始める周波数の関係を図30に示す。図30において、E1~E17はサンプルE1~E17に対応する。図31図32及び図33に、サンプルE1、E2及びR1に関する音圧レベルの周波数特性を示す。図34に、暗騒音の音圧レベルの周波数特性を示す。
【0228】
[参考ANCシステムの評価]
平面視の寸法を横50cm×縦35cmとしたこと以外はサンプルE1の圧電スピーカー10と同様の圧電スピーカー10を用いて、図35に示す参考ANC評価系800を構成した。参考ANC評価系800で用いた圧電スピーカー10の数は、1つである。
【0229】
圧電スピーカー10を、パーティション780の表面780aに取り付けた。騒音源700と、参照マイクロフォン730と、パーティション780の中心と、圧電スピーカー10の中心と、誤差マイクロフォン735と、がこの順に直線上に並ぶように、これらを配置した。また、パーティション780から見て圧電スピーカー10側に、制御領域790を設定した。制御領域790に、測定用マイクロフォン740を配置した。
【0230】
図35において、x方向は、制御領域790の横方向である。y方向は、制御領域790の縦方向である。z方向は、制御領域790の奥行方向である。x方向、y方向及びz方向は、互いに直交する方向である。
【0231】
z方向は、騒音源700と、参照マイクロフォン730と、パーティション780の中心と、圧電スピーカー10の中心と、誤差マイクロフォン735と、が並ぶ方向でもある。z方向は、圧電スピーカー10の放射面15が面する方向でもある。
【0232】
騒音源700として、富士通テン株式会社製のEclipse TD508MK3を用いた。パーティション780として、有限会社ミハシ工芸製のデスクサイドスクリーンRを用いた。参照マイクロフォン730として、ソニー株式会社製のECM-PC60を用いた。誤差マイクロフォン735として、ソニー株式会社製のECM-PC60を用いた。測定用マイクロフォン740としてソニー株式会社製のECM-PC60を用いた。
【0233】
騒音源700と参照マイクロフォン730との間隔は5cmである。参照マイクロフォン730とパーティション780との間隔は60cmである。圧電スピーカー10の放射面15と誤差マイクロフォン735との間隔は17.5cmである。これらの間隔は、z方向の寸法である。
【0234】
パーティション780は、平面視で長方形の板を有する。この板の寸法は、横60cm×縦45cm×厚さ0.5cmである。制御領域790の寸法は、横60cm×縦45cm×奥行60cmである。これらの横方向は、x方向である。これらの縦方向は、y方向である。これらの厚さ方向又は奥行方向は、z方向である。なお、パーティション780は、板とともに、図示を省略する脚を有する。脚は、板を起立した状態に支える。板が、表面780aを有する。
【0235】
また、圧電スピーカー10の横方向すなわち50cmの方向は、x方向である。圧電スピーカー10の縦方向すなわち35cmの方向は、y方向である。圧電スピーカー10の厚さ方向は、z方向である。
【0236】
左マージンN1は、5cmである。右マージンN2は、5cmである。左マージンN1は、第1実施形態及び第2実施形態で説明した第1左マージンM1に対応する。右マージンN2は、第1実施形態及び第2実施形態で説明した第1右マージンM2に対応する。マージンN1及びN2は、x方向の寸法である。
【0237】
参考ANC評価系800では、出力信号PC(パーソナルコンピュータ)750と、測定用PC760と、制御装置720と、を用いた。出力信号PC750を、騒音源700及び測定用PC760に接続した。
【0238】
出力信号PC750は、騒音源700に、騒音信号を送信する。これにより、出力信号PC750は、騒音源700に、正弦波を放射させる。また、出力信号PC750は、測定用PC760に、トリッガー信号を送信する。トリッガー信号により、各測定データに、共通する基準時を与えることができる。具体的には、後述する176個の測定点について、時間軸の揃った音圧データを得ることが可能となる。このことは、後述する図36図51に示す音圧分布のマッピングを可能にする。
【0239】
参照マイクロフォン730は、騒音源700からの音を感知する。参照マイクロフォン730の出力信号は、制御装置720に送信される。
【0240】
誤差マイクロフォン735は、制御領域790における音を感知する。誤差マイクロフォン735の出力信号は、制御装置720に送信される。
【0241】
制御装置720は、参照マイクロフォン730及び誤差マイクロフォン735の出力信号に基づいて、圧電スピーカー10に制御信号を送信する。これにより、制御装置720は、圧電スピーカー10から放射される音波を制御する。
【0242】
測定用マイクロフォン740は、自身が配置された位置における音を感知する。測定用マイクロフォン740の出力信号は、測定用PC760に送信される。
【0243】
測定用PC760は、出力信号PC750からのトリッガー信号と、測定用マイクロフォン740の出力信号と、を受信する。
【0244】
制御領域790は、x方向及びz方向に延びる測定用断面790CSを有する。参考ANC評価系800では、測定用断面790CSに、176個の測定点が設けられている。具体的には、測定用断面790CSは、x方向に均等に11分割され、z方向に均等に16分割されている。176個という測定点の数は、x方向の分割数11と、z方向の分割数16との積である。測定用断面790CSのy方向の位置は、放射面15のy方向の中心位置と同じである。測定用断面790CS上に、誤差マイクロフォン735が設けられている。
【0245】
参考ANC評価系800では、測定用マイクロフォン740を、176個の測定点に順次移動させる。こうして、測定用マイクロフォン740は、測定用PC760と協働して、176個の測定点における音圧を測定する。具体的には、測定用PC760は、176個の測定点における音圧の分布をマッピングする。このマッピングにより、測定用断面790CSの音場が可視化される。
【0246】
以下、図36図53Cを参照しつつ、実測したデータに基づいた説明を行う。なお、図36図53Cにおいて、図35に示す制御領域790におけるパーティション780から遠い一部分の図示が省略されている。図36図38図40図42図44図46図48及び図50において、カラーバーの数値は、音圧レベルを指し、その単位はパスカル(Pa)である。この数値が正であることは音圧が正であることを意味し、この数値が負であることは音圧が負であることを意味する。
【0247】
(参考例1:回折音の測定)
圧電スピーカー10が音を発しておらず、かつ、騒音源700が正弦波を放射している状況で、測定用断面790CSの176個の測定点における音圧を測定し、マッピングした。図36図39に、マッピングにより得た音圧分布を示す。なお、図36図39では、回折音の測定を行っていることが直感的に理解され易くなるように、圧電スピーカー10の図示は省略している。しかし、参考例1の測定は、後述の参考例2と同様、圧電スピーカー10がパーティション780に取り付けられた状態で行った。
【0248】
具体的には、図36は、騒音源700が放射する正弦波の周波数が500Hzである場合における、ある時刻に関する、騒音源700由来の音圧分布を示す。図37の一連の線は、500Hzの正弦波を放射する騒音源700によって生じる、時間経過に伴うある波面の伝搬を示す。図38は、騒音源700が放射する正弦波の周波数が800Hzである場合における、ある時刻に関する、騒音源700由来の音圧分布を示す。図39の一連の線は、800Hzの正弦波を放射する騒音源700によって生じる、時間経過に伴うある波面の伝搬を示す。
【0249】
図37では、一連の線の各々は、互いに異なる時刻における「ある波面」の位置を示している。概括的にいうと、図37では、互いに隣接する2つの線のうち、パーティション780からより離れているものが、より進んだ時刻における「ある波面」を表している。図37のブロック矢印は、波面の伝搬方向を示す。一連の線及びブロック矢印に関するこれらの説明は、図39図41図43図45図47図49及び図51についても同様である。
【0250】
なお、図37は、以下の手順で作成した。まず、図36と同様の、互いに異なる時刻に関する実測に基づく音圧分布図を複数取得した。次に、それら複数の音圧分布図の各々において、ある波面に対応する線を、手作業で引いた。次に、線を引いた後の複数の音圧分布図を重ね合わせた。これにより、図37に示す、波面の伝搬を表す一連の線が描かれた図を得た。図の作成手順に関するこれらの説明は、図39図41図43図45図47図49及び図51についても同様である。
【0251】
図36図39は、パーティション780における対向する端部において、回折が生じていることを示している。また、図36図39は、これらの端部での回折により生じた波面が、パーティション780の背後に回り込むように伝搬していることを示している。具体的には、図36図39は、これらの端部での回折により生じた波面が、パーティション780の中心を通りz方向に延びる軸に近づくように伝搬していることを示している。図36図39に示す波面の伝搬の仕方は、図8A図8C及び図9A図9Cと同様である。
【0252】
(参考例2:圧電スピーカー10が発する音の測定)
参考例1と同様に騒音源700が正弦波を放射している状態で、制御装置720を用いて圧電スピーカー10を振動させ、圧電スピーカー10から消音用の音波を発生させた。この際に、制御装置720に、圧電スピーカー10に送信する制御信号を記憶させた。その後、騒音源700が音を放射していない状態で、制御装置720に、記憶させた制御信号を圧電スピーカー10に送信させた。このようにして、騒音源700が音を放射していない状態で圧電スピーカー10の振動を再現し、測定用断面790CSの176個の測定点における音圧を測定し、マッピングした。図40図43に、マッピングにより得た音圧分布を示す。
【0253】
具体的には、図40は、騒音源700が放射する正弦波の周波数が500Hzである場合における、ある時刻に関する、圧電スピーカー10由来の音圧分布を示す。図41の一連の線は、騒音源700が放射する正弦波の周波数が500Hzである場合において圧電スピーカー10によって生じる、時間経過に伴うある波面の伝搬を示す。図42は、騒音源700が放射する正弦波の周波数が800Hzである場合における、ある時刻に関する、圧電スピーカー10由来の音圧分布を示す。図43の一連の線は、騒音源700が放射する正弦波の周波数が800Hzである場合において圧電スピーカー10によって生じる、時間経過に伴うある波面の伝搬を示す。
【0254】
図40図43は、圧電スピーカー10の放射面15の中央領域を挟む2つの外側領域から、中央領域を通りz方向に延びる軸に近づくように、波面が伝搬していることを示している。図40図43に示す波面の伝搬の仕方は、図8D図8F及び図9D図9Fと同様である。具体的には、騒音源700からの騒音がパーティション780で回折して生じる回折波の波面と、圧電スピーカー10由来の波面とは、上記軸に近づきながら伝搬している点で、共通している。後述の実施例1~7においても、第1圧電スピーカー10A及び第2圧電スピーカー10Bは、同様の波面を形成すると考えられる。
【0255】
また、図36図39から、パーティション780での回折により、第1領域15aにおける音波の位相と第2領域15bにおける音波の位相の正負が同じであり、第1領域15aにおける音波の位相と第3領域15cにおける音波の位相の正負が逆であり、かつ、第2領域15bにおける音波の位相と第3領域15cにおける音波の位相の正負が逆である期間が現れていることが把握される(領域15a,15b及び15cについては、図1~3C及び関連する説明を参照されたい)。図40図43から、圧電スピーカー10により、第1音波の位相と第2音波の位相の正負が同じであり、第1音波の位相と第3音波の位相の正負が逆であり、かつ、第2音波の位相と第3音波の位相の正負が逆である期間が現れていることが把握される(第1音波、第2音波及び第3音波については、図1~3Cを参照して行った説明を参照されたい)。第1領域15a、第2領域15b及び第3領域15cにおける位相分布についても、騒音源700由来の騒音と圧電スピーカー10由来の音とで共通性が見られる。後述の実施例1~7においても、第1圧電スピーカー10Aは、同様の位相分布を形成すると考えられる。また、後述の実施例6及び7の第2圧電スピーカー10Bも、領域15d,15e及び15fにおいて同様の位相分布を形成すると考えられる。
【0256】
(参考例3:ダイナミックスピーカー610が発する音の測定)
参考例2の圧電スピーカー10を、ダイナミックスピーカー610に置き換えた。このダイナミックスピーカー610は、フォスター電機株式会社製のFostex P650Kである。この置き換えをしたこと以外は、参考例2と同様にして、ダイナミックスピーカー610に由来する、測定用断面790CSの176個の測定点における音圧を測定し、マッピングした。図44図47に、マッピングにより得た音圧分布を示す。なお、ダイナミックスピーカー610は、パーティション780に埋め込まれている。
【0257】
具体的には、図44は、騒音源700が放射する正弦波の周波数が500Hzである場合における、ある時刻に関する、ダイナミックスピーカー610由来の音圧分布を示す。図45の一連の線は、騒音源700が放射する正弦波の周波数が500Hzである場合においてダイナミックスピーカー610によって生じる、時間経過に伴うある波面の伝搬を示す。図46は、騒音源700が放射する正弦波の周波数が800Hzである場合における、ある時刻に関する、ダイナミックスピーカー610由来の音圧分布を示す。図47の一連の線は、騒音源700が放射する正弦波の周波数が800Hzである場合においてダイナミックスピーカー610によって生じる、時間経過に伴うある波面の伝搬を示す。
【0258】
図44図47は、ダイナミックスピーカー610の放射面から略半球面波が放射され、その略半球面波の波面もまた略半球面状であることを示している。図44図47に示す波面の伝搬の仕方は、図10と同様である。
【0259】
(参考例4:平面スピーカー620が発する音の測定)
参考例2の圧電スピーカー10を、平面スピーカー620に置き換えた。この平面スピーカー620は、株式会社エフ・ピー・エス製のFPS2030M3P1Rである。この置き換えをしたこと以外は、参考例2と同様にして、平面スピーカー620に由来する、測定用断面790CSの176個の測定点における音圧を測定し、マッピングした。図48図51に、マッピングにより得た音圧分布を示す。
【0260】
具体的には、図48は、騒音源700が放射する正弦波の周波数が500Hzである場合における、ある時刻に関する、平面スピーカー620由来の音圧分布を示す。図49の一連の線は、騒音源700が放射する正弦波の周波数が500Hzである場合において平面スピーカー620によって生じる、時間経過に伴うある波面の伝搬を示す。図50は、騒音源700が放射する正弦波の周波数が800Hzである場合における、ある時刻に関する、平面スピーカー620由来の音圧分布を示す。図51の一連の線は、騒音源700が放射する正弦波の周波数が800Hzである場合において平面スピーカー620によって生じる、時間経過に伴うある波面の伝搬を示す。
【0261】
図48図51は、平面スピーカー620の放射面から略平面波が放射され、その略平面波の波面もまた略平面状であることを示している。図48図51に示す波面の伝搬の仕方は、図11と同様である。
【0262】
(消音効果)
図52A図53Cを用いて、参考例2と参考例4の消音効果の相違を説明する。以下の説明では、スピーカーON時及びスピーカーOFF時という用語を用いることがある。スピーカーON時は、スピーカーから消音用の音が放射されている時を指す。スピーカーOFF時は、スピーカーから消音用の音が放射されていない時を指す。
【0263】
図52A及び図53Aのカラーマップは、騒音源700から正弦波が放射されているある時刻の消音状態を示す。図52A及び図53Aにおいて、左のカラーマップは、参考例2の圧電スピーカー10による消音状態を示す。右のカラーマップは、参考例4の平面スピーカー620による消音状態を示す。図52Aは、騒音源700が放射する正弦波の周波数が500Hzである場合における、ある時刻の音圧分布を示す。図53Aは、騒音源700が放射する正弦波の周波数が800Hzである場合における、ある時刻の音圧分布を示す。
【0264】
図52A及び図53Aにおいて、カラーバーの右側の数値は、増幅率を指し、その単位はdBである。増幅率がXであることは、スピーカーOFF時を基準として、スピーカーON時の音圧がXdB増幅されたことを表している。増幅率が負であることは、消音効果が現れていることを示す。増幅率が正であることは、反対に、騒音が増幅されていることを示す。リダクションエリア(R.A)は、測定用断面790CSにおいて増幅率が-6dB以下である領域(すなわち消音効果が良好に現れている領域)占める割合を示す。アンプリフィケーションエリア(A.A)は、測定用断面790CSにおいて増幅率が0dBよりも大きい領域(すなわち騒音が増幅されている領域)が占める割合を示す。
【0265】
図52Bは、図52Aにおける増幅率が0dBよりも小さい領域に細かいハッチングを付し、増幅率が0よりも大きい領域に荒いハッチングを付したものである。図53Bは、図53Aにおける増幅率が0dBよりも小さい領域に細かいハッチングを付し、増幅率が0よりも大きい領域に荒いハッチングを付したものである。つまり、図52B及び図53Bでは、騒音が低減されている領域に細かいハッチングを付し、アンプリフィケーションエリアに荒いハッチングを付している。なお、図52B及び図53Bにおけるハッチングは、図52A及び図53Aの目視に基づいて手作業で付した大まかなものである。目視に基づいて手作業で付した点は、後述の図52C及びについても同様である。
【0266】
図52Cは、図52Aにおける増幅率が-6dB以下である領域に細かいハッチングを付し、増幅率が0よりも大きい領域に荒いハッチングを付したものである。図53Cは、図53Aにおける増幅率が-6dB以下である領域に細かいハッチングを付し、増幅率が0よりも大きい領域に荒いハッチングを付したものである。つまり、図52C及び図53Cでは、リダクションエリアに細かいハッチングを付し、アンプリフィケーションエリアに荒いハッチングを付している。
【0267】
図52A図53Cに示すように、参考例2の圧電スピーカー10を用いた場合には、参考例4の平面スピーカー620を用いた場合に比べ、騒音が低減されている領域及びリダクションエリアが大きく、アンプリフィケーションエリアが小さい。
【0268】
具体的には、参考例2の圧電スピーカー10を用いた場合には、騒音源700が放射する正弦波の周波数が500Hzである場合、リダクションエリアは約58%であり、アンプリフィケーションエリアは約18%である。騒音源700が放射する正弦波の周波数が800Hzである場合、リダクションエリアは約27%であり、アンプリフィケーションエリアは約18%である。
【0269】
一方、参考例4の平面スピーカー620を用いた場合には、騒音源700が放射する正弦波の周波数が500Hzである場合、リダクションエリアは約38%であり、アンプリフィケーションエリアは約21%である。騒音源700が放射する正弦波の周波数が800Hzである場合、リダクションエリアは約13%であり、アンプリフィケーションエリアは約61%である。
【0270】
図52A図53Cから、圧電スピーカー10の平面スピーカー620に対する消音効果の優位性は、騒音源700が放射する正弦波の周波数が500Hzのときよりも800Hzのときのほうが顕著に表れている。
【0271】
なお、参考例3のダイナミックスピーカー610を用いた場合には、参考例4の平面スピーカー620を用いた場合よりも、騒音が低減されている領域及びリダクションエリアが小さくなり、アンプリフィケーションエリアが大きくなることが予想される。
【0272】
[圧電スピーカーからパーティションの背後に回り込む音の評価]
図18図20を参照した説明から理解されるように、パーティションに取り付けられたスピーカーから発せられた音がスピーカーから見てパーティションの背後において減衰することは、良好な消音に貢献しうる。これを実現するには、スピーカーとして圧電スピーカーを採用することが有効である。以下、この点について、実施例1、実施例2、実施例3、実施例4、実施例5、比較例1、比較例2、比較例3、比較例4及び比較例5によりさらに説明する。
【0273】
実施例1~5及び比較例1~5において、x方向、y方向及びz方向は、互いに直交する方向である。測定用水平断面990CSHは、x方向及びz方向に拡がる平面である。測定用矢状断面990CSVは、y方向及びz方向に拡がりパーティション及び圧電スピーカーの組み合わせを左右対称に切る、測定用水平断面に直交する平面である。図54は、測定用水平断面990CSH及び測定用矢状断面990CSVを説明するための斜視図である。図54において、一点鎖線により測定用水平断面990CSHを示し、二点鎖線により測定用矢状断面990CSVを示している。
【0274】
(実施例1)
図55に示すように、ANC評価系900を構成した。実施例1のANC評価系900では、平面視の寸法を横50cm×縦35cmとしたこと以外はサンプルE1の圧電スピーカー10と同様の圧電スピーカー10を用いた。実施例1のANC評価系で用いた圧電スピーカー10の数は、1つである。実施例1では、この圧電スピーカー10を、第1圧電スピーカー10Aと称する。また、この圧電スピーカー10の放射面15を、第1放射面15Aと称する。
【0275】
図55に示すように、床に、第1スタンド931及び第2スタンド932を設置した。第1スタンド931及び第2スタンド932上に、パーティション980を設置した。パーティション980に、第1圧電スピーカー10Aを取り付けた。
【0276】
パーティション980は、実験用に試作した。図56は、第1圧電スピーカー10Aが取り付けられたパーティション980を示す斜視図である。パーティション980は、板980p及び脚980lを有する。脚980lは、板980pを起立した状態に支える。板980pが、表面980a及び裏面980bを有する。なお、他の図では、脚980lの図示は省略されていることがある。
【0277】
パーティション980の板980pの寸法は、横60cm×縦45cm×厚さ0.5cmである。横方向はx方向であり、縦方向はy方向であり、厚さ方向はz方向である。また、パーティション980の脚980lのx方向の寸法は60cmであり、y方向の寸法は0.5cmであり、z方向の寸法は、5.5cmである。
【0278】
板980pの左端部981と右端部982とを結ぶ左右方向が、板980pの横方向すなわち60cmの方向である。板980pの上端部983と下端部984とを結ぶ上下方向が、板980pの縦方向すなわち45cmの方向である。
【0279】
また、第1圧電スピーカー10Aの横方向すなわち50cmの方向は、x方向である。第1圧電スピーカー10Aの縦方向すなわち35cmの方向は、y方向である。第1圧電スピーカー10Aの厚さ方向は、z方向である。
【0280】
図55に示すように、具体的には、第1スタンド931は、第1ポール931a及び第1板931bを有する。第1ポール931aの上端に第1板931bの下面が接合されている。第2スタンド932は、第2ポール932a及び第2板932bを有する。第2ポール932aの上端に第2板932bの下面が接合されている。第1ポール931a及び第2ポール932aがx方向に離間しかつ第1板931b及び第2板932bがx方向に離間するように、第1スタンド931及び第2スタンド932が床に設置されている。第1板931bの上面及び第2板932bの上面に脚980lが接するように、パーティション980が第1スタンド931及び第2スタンド932の上に設置されている。こうして、第1圧電スピーカー10Aの縦方向すなわちy方向の中心位置が、床から高さ120cmの位置に設定されている。
【0281】
図57に示すように、第1左マージンM1は、5cmである。第1右マージンM2は、5cmである。第1左マージンM1及び第1右マージンM2は、x方向の寸法である。
【0282】
第1上マージンM3は、5cmである。第1下マージンM4は、5cmである。第1上マージンM3及び第1下マージンM4は、y方向の寸法である。
【0283】
実施例1のANC評価系900では、測定用水平断面990CSHに、88個の測定点が設けられている。具体的には、測定用水平断面990CSHは、x方向に10cm刻みで8分割され、z方向に10cm刻みで11分割されている。88個という測定点の数は、x方向の分割数8と、z方向の分割数11との積である。測定用水平断面990CSHのy方向の位置は、第1圧電スピーカー10Aの第1放射面15Aのy方向の中心位置と同じである。
【0284】
参考ANC評価系800と同様、実施例1のANC評価系900では、測定用PC760を用いた。また、実施例1のANC評価系900では、再生用PC850と、8つの測定用マイクロフォン740と、を用いた。各測定用マイクロフォン740は、自身が配置された位置における音を感知する。各測定用マイクロフォン740の出力信号は、測定用PC760に送信される。
【0285】
図55に示すように、実施例1のANC評価系900では、8つの測定用マイクロフォン740を、x方向に10cm間隔で並べることによって、測定用マイクロフォン740の列を構成する。そして、この列をz方向に10cmずつ移動させる。こうして、8つの測定用マイクロフォン740は、測定用PC760と協働して、測定用水平断面990CSHにおける88個の測定点における音圧を測定する。具体的には、8つの測定用PC760は、これらの測定点における音圧の分布をマッピングする。このマッピングにより、x-z方向に拡がる測定用水平断面990CSHの音場が可視化される。
【0286】
図58のコンター図は、実施例1における測定用水平断面990CSHにおける音圧分布を示す。図58のコンター図の横軸の数値は、パーティション980の表面980aからの距離を指す。この距離は、z軸に沿った距離である。具体的に、パーティション980の裏面980bから表面980aに向かうz方向を、+z方向と定義している。+z方向の反対方向を、-z方向と定義している。図58のコンター図の横軸では、+z方向の位置を正の値で示し、-z方向の位置を負の値で示している。図58のコンター図の縦軸の数値は、x方向の位置を示す。縦軸の「35」の位置が、第1圧電スピーカー10Aの第1放射面15Aのx方向の中心位置に対応する。
【0287】
図58のコンター図は、以下のようにして作成した。すなわち、パーティション980の表面980aから+z方向に35cm離れた位置(図58の菱形マークの位置)における音圧がおおむね60dBとなるように、再生用PC850を用いて第1圧電スピーカー10Aから音波を放射させた。具体的には、第1圧電スピーカー10Aから、200Hz~900Hzに帯域制限されたホワイトノイズを放射させた。この状態で、8つの測定用PC760を上記のように移動させることによって測定用水平断面990CSHの88個の測定点における音圧を測定し、マッピングした。図58のコンター図中の数値は、各コンターが示す音圧レベル(単位:dB)を表している。
【0288】
図58では、パーティション980から見て右側の領域のみならず、パーティション980から見て左側の領域にも、音圧が非ゼロである部分が存在する。このことは、パーティション980に取り付けられた第1圧電スピーカー10Aから発せられた音は、パーティション980の背後の-z方向の領域に回り込んでいることを示している。ただし、パーティション980の背後の-z方向の領域では、音圧レベルが低い。図18図20を参照して説明したように、パーティション980の背後の-z方向の領域では、音が打ち消し合ったものと思われる。
【0289】
なお、第1圧電スピーカー10Aで発せられた音の一部は、床で反射して第1圧電スピーカー10Aの高さの位置に至る。しかし、実施例1では、第1圧電スピーカー10Aが取り付けられたパーティション980が、第1スタンド931及び第2スタンド932の上に設置されている。この構成によれば、第1圧電スピーカー10Aの高さにおける上記反射音の音圧を抑えることが可能である。ただし、第1スタンド931及び第2スタンド932はなくてもよい。第1圧電スピーカー10Aが取り付けられたパーティション980が床に直接的に配置される場合であっても、第1圧電スピーカー10Aから発せられた音が第1圧電スピーカー10Aから見てパーティション980の背後において減衰しうる。
【0290】
(実施例2)
実施例2では、測定用水平断面990CSHではなく測定用矢状断面990CSVにおける音圧分布をマッピングした。この点を除き、実施例2では、実施例1と同様の測定を行った。図59に、実施例2のANC評価系905を示す。
【0291】
実施例2のANC評価系905では、測定用矢状断面990CSVに、88個の測定点が設けられている。具体的には、測定用矢状断面990CSVは、y方向に10cm刻みで8分割され、z方向に10cm刻みで11分割されている。88個という測定点の数は、y方向の分割数8と、z方向の分割数11との積である。測定用矢状断面990CSVのx方向の位置は、第1圧電スピーカー10Aの第1放射面15Aのx方向の中心位置と同じである。
【0292】
図59に示すように、実施例2のANC評価系905では、8つの測定用マイクロフォン740を、y方向に10cm間隔で並べることによって、測定用マイクロフォン740の列を構成する。そして、この列をz方向に10cmずつ移動させる。こうして、8つの測定用マイクロフォン740は、測定用PC760と協働して、測定用矢状断面990CSVにおける88個の測定点における音圧を測定する。具体的には、8つの測定用PC760は、これらの測定点における音圧の分布をマッピングする。このマッピングにより、y-z方向に拡がる測定用矢状断面990CSVの音場が可視化される。
【0293】
図60のコンター図は、実施例2における測定用矢状断面990CSVにおける音圧分布を示す。図60のコンター図の横軸の数値は、パーティション980の表面980aからの距離を指す。この距離は、z軸に沿った距離である。図60のコンター図の横軸では、+z方向の位置を正の値で示し、-z方向の位置を負の値で示している。図60のコンター図の縦軸の数値は、y方向の位置を示す。具体的に、縦軸の数値は、床からの高さ(単位:cm)を表す。
【0294】
図60では、パーティション980から見て右側の領域のみならず、パーティション980から見て左側の領域にも、音圧が非ゼロである部分が存在する。このことは、パーティション980に取り付けられた第1圧電スピーカー10Aから発せられた音は、パーティション980の背後の-z方向の領域に回り込んでいることを示している。ただし、パーティション980の背後の-z方向の領域では、音圧レベルが低い。矢状面についても、水平面と同様、パーティション980の背後の-z方向の領域では、音が打ち消し合ったものと思われる。
【0295】
(実施例3)
実施例3では、パーティション980の表面980aから+z方向に35cm離れた位置ではなく表面980aから+z方向に85cm離れた位置(図61の菱形マークの位置)における音圧がおおむね60dBとなるように、再生用PC850を用いて第1圧電スピーカー10Aから音波を放射させた。この点を除き、実施例3では、実施例1と同様の測定を行った。
【0296】
図61のコンター図は、実施例3における測定用水平断面990CSHにおける音圧分布を示す。図61では、パーティション980から見て右側の領域のみならず、パーティション980から見て左側の領域にも、音圧が非ゼロである部分が存在する。このことは、パーティション980に取り付けられた第1圧電スピーカー10Aから発せられた音は、パーティション980の背後の-z方向の領域に回り込んでいることを示している。ただし、パーティション980の背後の-z方向の領域では、音圧レベルが低い。実施例1に比べてパーティション980から遠い位置を基準に音圧レベルのキャリブレーションを行った場合であっても、パーティション980の背後の-z方向の領域では、音が打ち消し合ったものと思われる。
【0297】
(実施例4)
実施例4では、パーティション980の表面980aから+z方向に35cm離れた位置ではなく表面980aから+z方向に85cm離れた位置(図62の菱形マークの位置)における音圧がおおむね60dBとなるように、再生用PC850を用いて第1圧電スピーカー10Aから音波を放射させた。この点を除き、実施例4では、実施例2と同様の測定を行った。
【0298】
図62のコンター図は、実施例4における測定用矢状断面990CSVにおける音圧分布を示す。図62では、パーティション980から見て右側の領域のみならず、パーティション980から見て左側の領域にも、音圧が非ゼロである部分が存在する。このことは、パーティション980に取り付けられた第1圧電スピーカー10Aから発せられた音は、パーティション980の背後の-z方向の領域に回り込んでいることを示している。ただし、パーティション980の背後の-z方向の領域では、音圧レベルが低い。実施例2に比べてパーティション980から遠い位置を基準に音圧レベルのキャリブレーションを行った場合であっても、パーティション980の背後の-z方向の領域では、音が打ち消し合ったものと思われる。
【0299】
(実施例5)
実施例5では、パーティション980の表面980aから+z方向に35cm離れた位置(図63Aの菱形マークの位置)における音圧がおおむね70dBとなるように、かつ、第1圧電スピーカー10Aから放射される音波が500Hzの音波となるように、実施例1を変更した。この状態で、測定用水平断面990CSHの88個の測定点における音の位相を測定し、マッピングした。こうして、測定用水平断面990CSHにおける音の位相分布を測定した。図63Aのカラーマップは、測定用水平断面990CSHにおける音の位相分布を示す。図63Aにおいて、70dBは、約0.25Paに対応する。図63Bのコンターは、図63Aの目視に基づいて手作業で付した大まかなものである。
【0300】
図63Aのカラーマップ及び図63Bのコンター図から、パーティション980の裏面980b付近で左端部981と右端部982とを結ぶ左右方向に沿って、図20を参照して説明したような負、正及び負の位相分布が形成されていることが把握される。
【0301】
(比較例1)
比較例1では、実施例1の第1圧電スピーカー10Aをダイナミックスピーカー610に置き換えた。図64は、ダイナミックスピーカー610が取り付けられたパーティション980を示す斜視図である。このダイナミックスピーカー610は、株式会社ケーズウェーブ製の壁掛けスピーカーPLB-501Wを加工したものである。壁掛けスピーカーPLB-501Wの横方向の寸法は18.3cmであり、縦方向の寸法は27.0cmであり、厚さ方向の寸法は、3.7cmである。壁掛けスピーカーPLB-501Wは、低中域用スピーカー610L及び高域用ツイーターを有する。加工は、高域用ツイーターをパテ610Pで塞ぎ、ツイーターから音が出ないようにし、周波数領域200~900Hzの音の測定に影響が出ないようにするというものである。また、上記の横方向がx方向に対応し、縦方向がy方向に対応し、厚さ方向がz方向に対応し、かつ、パーティション980の板980pのx方向及びy方向の中心位置に低中域用スピーカー610Lが配置されるように、板980pにダイナミックスピーカー610を取り付けた。このようにしてスピーカーを置き換えたことを除き、比較例1では、実施例1と同様の測定を行った。
【0302】
図65のコンター図は、比較例1における測定用水平断面990CSHにおける音圧分布を示す。図65では、パーティション980から見て右側の領域のみならず、パーティション980から見て左側の領域にも、音圧が非ゼロである部分が存在する。このことは、パーティション980に取り付けられたダイナミックスピーカー610から発せられた音は、パーティション980の背後の-z方向の領域に回り込んでいることを示している。図58及び図65により、実施例1に比べ、比較例1では、パーティション980の背後の-z方向の領域における音圧レベルは、約7~8dB程度大きいことが把握される。
【0303】
(比較例2)
比較例2では、実施例2の第1圧電スピーカー10Aを、比較例1で用いたダイナミックスピーカー610に置き換えた。また、比較例1と同様に、板980pにダイナミックスピーカー610を取り付けた。このようにしてスピーカーを置き換えたことを除き、比較例2では、実施例2と同様の測定を行った。
【0304】
図66のコンター図は、比較例2における測定用矢状断面990CSVにおける音圧分布を示す。図66では、パーティション980から見て右側の領域のみならず、パーティション980から見て左側の領域にも、音圧が非ゼロである部分が存在する。このことは、パーティション980に取り付けられたダイナミックスピーカー610から発せられた音は、パーティション980の背後の-z方向の領域に回り込んでいることを示している。図60及び図66により、実施例2に比べ、比較例2では、パーティション980の背後の-z方向の領域における音圧レベルは大きいことが把握される。具体的には、実施例2に比べ、比較例2では、z方向に-40cmの位置における音圧レベルが8dB程度大きい。
【0305】
(比較例3)
比較例3では、実施例3の第1圧電スピーカー10Aを、比較例1で用いたダイナミックスピーカー610に置き換えた。また、比較例1と同様に、板980pにダイナミックスピーカー610を取り付けた。このようにしてスピーカーを置き換えたことを除き、比較例3では、実施例3と同様の測定を行った。
【0306】
図67のコンター図は、比較例3における測定用水平断面990CSHにおける音圧分布を示す。図67では、パーティション980から見て右側の領域のみならず、パーティション980から見て左側の領域にも、音圧が非ゼロである部分が存在する。このことは、パーティション980に取り付けられたダイナミックスピーカー610から発せられた音は、パーティション980の背後の-z方向の領域に回り込んでいることを示している。図61及び図67により、実施例3に比べ、比較例3では、パーティション980の背後の-z方向の領域における音圧レベルは大きいことが把握される。
【0307】
(比較例4)
比較例4では、実施例4の第1圧電スピーカー10Aを、比較例1で用いたダイナミックスピーカー610に置き換えた。また、比較例1と同様に、板980pにダイナミックスピーカー610を取り付けた。このようにしてスピーカーを置き換えたことを除き、比較例4では、実施例4と同様の測定を行った。
【0308】
図68のコンター図は、比較例4における測定用矢状断面990CSVにおける音圧分布を示す。図68では、パーティション980から見て右側の領域のみならず、パーティション980から見て左側の領域にも、音圧が非ゼロである部分が存在する。このことは、パーティション980に取り付けられたダイナミックスピーカー610から発せられた音は、パーティション980の背後の-z方向の領域に回り込んでいることを示している。図62及び図68により、実施例4に比べ、比較例4では、パーティション980の背後の-z方向の領域における音圧レベルは大きいことが把握される。
【0309】
(比較例5)
比較例5では、パーティション980の表面980aから+z方向に35cm離れた位置(図69Aの菱形マークの位置)における音圧がおおむね70dBとなるように、かつ、ダイナミックスピーカー610から放射される音波が500Hzの音波となるように、比較例1を変更した。この状態で、測定用水平断面990CSHの88個の測定点における音の位相を測定し、マッピングした。こうして、測定用水平断面990CSHにおける音の位相分布を測定した。図69Aのカラーマップは、測定用水平断面990CSHにおける音の位相分布を示す。図69Aにおいて、70dBは、約0.25Paに対応する。図69Bのコンターは、図69Aの目視に基づいて手作業で付した大まかなものである。
【0310】
図63Aのカラーマップ及び図63Bのコンター図とは異なり、図69Aのカラーマップ及び図69Bのコンター図では、裏面980b付近で板980pの左端部981と右端部982とを結ぶ左右方向に沿って正及び負の位相分布は見られない。
【0311】
[デュアルANCシステムの評価]
パーティションの両面のそれぞれにスピーカーが取り付けられ、各スピーカーがそのスピーカーから見てパーティションの向こう側に位置する参照マイクロフォンに関連付けられたデュアルANCシステムを考える。図18図20を参照した説明から理解されるように、そのようなデュアルANCシステムでは、スピーカーとして圧電スピーカーを用いることが、良好な消音に貢献しうる。なぜなら、パーティションの表面に取り付けられた一方の圧電スピーカー由来の音は、該一方の圧電スピーカーから見てパーティションの背後すなわち裏面側の空間において減衰し、該一方の圧電スピーカーに関連付けられた参照マイクロフォンにノイズとして入力され難いためである。また、パーティションの裏面に取り付けられた他方の圧電スピーカー由来の音は、該他方の圧電スピーカーから見てパーティションの背後すなわち表面側の空間において減衰し、該他方の圧電スピーカーに関連付けられた参照マイクロフォンにノイズとして入力され難いためである。以下、この点について、実施例6、実施例7、参考例5、比較例6、比較例7及び参考例6によりさらに説明する。
【0312】
(実施例6:フィードバック補償なし)
図70図72に示すように、ANC評価系1000を構成した。実施例6のANC評価系1000では、ANC評価系900及び905で構成した第1圧電スピーカー10A付きパーティション980に、第2圧電スピーカー10Bを取り付けた。第1スタンド931及び第2スタンド932を省略し、パーティション980の脚980lを床に直接設置した。また、第1騒音源700A、第2騒音源700B、第1参照マイクロフォン730A及び第2参照マイクロフォン730Bを追加した。なお、図70及び図71では、図55及び図59とは異なり、パーティション980の左側に第1圧電スピーカー10Aを描いている。
【0313】
上述の通り、ANC評価系900及び905では、パーティション980の表面980aに第1圧電スピーカー10Aが取り付けられている。ANC評価系1000では、パーティション980の裏面980bに、第2圧電スピーカー10Bをさらに取り付けた。こうして、表面980a及び裏面980bのそれぞれに1つずつ圧電スピーカー10が取り付けられたパーティション980を得た。第2圧電スピーカー10Bは、第1圧電スピーカー10Aと同じ圧電スピーカーである。
【0314】
ANC評価系1000の第1騒音源700A及び第2騒音源700Bは、参考ANC評価系800の騒音源700と同じである。ANC評価系1000の第1参照マイクロフォン730A及び第2参照マイクロフォン730Bは、参考ANC評価系800の参照マイクロフォン730と同じである。
【0315】
参考ANC評価系800と同様、ANC評価系1000では、出力信号PC750及び測定用PC760を用いた。出力信号PC750を、第1騒音源700A及び第2騒音源700Bに接続した。ANC評価系1000では、制御装置1020を用いた。制御装置1020は、第1騒音制御フィルタ1021A及び第2騒音制御フィルタ1021Bを有する。
【0316】
出力信号PC750は、第1騒音源700Aに、第1騒音信号を送信する。これにより、出力信号PC750は、第1騒音源700Aに、騒音を出力させる。
【0317】
出力信号PC750は、第2騒音源700Bに、第2騒音信号を送信する。これにより、出力信号PC750は、第2騒音源700Bに、騒音を出力させる。
【0318】
第1参照マイクロフォン730Aは、第1参照マイクロフォン730Aが感知した音に基づいて、出力信号を生成する。この出力信号は、制御装置1020に送信される。制御装置1020は、この出力信号に基づいて、第1圧電スピーカー10Aに制御信号を送信する。こうして、制御装置1020は、第1圧電スピーカー10Aから放射される音波を制御する。
【0319】
第2参照マイクロフォン730Bは、第2参照マイクロフォン730Bが感知した音に基づいて、出力信号を生成する。この出力信号は、制御装置1020に送信される。制御装置1020は、この出力信号に基づいて、第2圧電スピーカー10Bに制御信号を送信する。こうして、制御装置1020は、第2圧電スピーカー10Bから放射される音波を制御する。
【0320】
パーティション980の裏面980bにおける第2圧電スピーカー10Bに関するマージンM5~M8は、パーティション980の表面980aにおける第1圧電スピーカー10Aに関するマージンM1~M4と同様である。
【0321】
すなわち、図72に示すように、第2左マージンM5は、5cmである。第2右マージンM6は、5cmである。マージンM5及びM6は、x方向の寸法である。
【0322】
第2上マージンM7は、5cmである。第2下マージンM8は、5cmである。マージンM7及びM8は、y方向の寸法である。
【0323】
第1参照マイクロフォン730A、第2参照マイクロフォン730B、第1騒音源700A及び第2騒音源700Bを、床から22.5cm離して配置した。
【0324】
z方向に延びる軸であってパーティション980の表面980aの中心及び裏面980bの中心を通る軸を、対称軸SAと定義する。裏面980bから表面980aに向かうz方向を、+z方向と定義する。表面980aから裏面980bに向かうz方向を、-z方向と定義する。対称軸SA上の点であって、第1圧電スピーカー10Aの第1放射面15Aから+z方向にLcm離れた点を、第1調整点AP1と定義する。対称軸SA上の点であって、第2圧電スピーカー10Bの第2放射面15Bから-z方向にLcm離れた点を、第2調整点AP2と定義する。
【0325】
パーティション980の右端部982から左端部981に向かうx方向を、+x方向と定義する。パーティション980の左端部981から右端部982に向かうx方向を、-x方向と定義する。第1調整点AP1から+x方向に5cm離れた位置に、第2騒音源700Bを配置した。第1調整点AP1から-x方向に5cm離れた位置に、第2参照マイクロフォン730Bを配置した。第2調整点AP2から+x方向に5cm離れた位置に、第1騒音源700Aを配置した。第2調整点AP2から-x方向に5cm離れた位置に、第1参照マイクロフォン730Aを配置した。
【0326】
z方向に延びる軸に垂直な平面であってパーティション980を2等分する平面を、対称平面と定義する。上述の説明から理解されるように、ANC評価系1000では、第1圧電スピーカー10A及び第2圧電スピーカー10Bは、対称平面について対称である。第1参照マイクロフォン730A及び第2参照マイクロフォン730Bは、対称平面について対称である。第1騒音源700A及び第2騒音源700Bは、対称平面について対称である。
【0327】
まず、Lcmを40cmに設定した。
【0328】
チューニングステージにおいて、第1騒音制御フィルタ1021Aのフィルタ係数を、第1騒音源700Aからパーティション980を介して進行する回折波を打ち消す逆位相音波が第1圧電スピーカー10Aから放射されるように、決定した。また、チューニングステージにおいて、第2騒音制御フィルタ1021Bのフィルタ係数を、第2騒音源700Bからパーティション980を介して進行する回折波を打ち消す逆位相音波が第2圧電スピーカー10Bから放射されるように、決定した。このようにして、第1騒音制御フィルタ1021Aのフィルタ係数及び第2騒音制御フィルタ1021Bのフィルタ係数が同定された制御装置1020を得た。
【0329】
制御ステージでは、第1騒音源700A及び第2騒音源700Bから騒音として正弦波を出力させた。この状態で、制御装置1020によって第1圧電スピーカー10A及び第2圧電スピーカー10Bから消音用の音波を放射させた。このときの第1圧電スピーカー10Aが奏する消音効果及び第2圧電スピーカー10Bが奏する消音効果を測定した。第1圧電スピーカー10Aが奏する消音効果は、第2参照マイクロフォン730Bの出力信号を測定用PC760に送信することによって測定した。第2圧電スピーカー10Bが奏する消音効果は、第1参照マイクロフォン730Aの出力信号を測定用PC760に送信することによって測定した。
【0330】
具体的に、制御ステージでは、上記のように同定された第1騒音制御フィルタ1021Aのフィルタ係数を変更せず固定した。これにより、制御ステージにおいて、第1参照マイクロフォン130Aに入力される音と第1圧電スピーカー10Aから発せられる音とが一対一の対応関係を有し、かつ、該対応関係が経時的に固定されるようにした。また、上記のように同定された第2騒音制御フィルタ1021Bのフィルタ係数を変更せず固定した。これにより、制御ステージにおいて、第2参照マイクロフォン130Bに入力される音と第2圧電スピーカー10Bから発せられる音とが一対一の対応関係を有し、かつ、該対応関係が経時的に固定されるようにした。
【0331】
また、制御ステージでは、フィードバック補償なしで、制御装置1020によって第1圧電スピーカー10A及び第2圧電スピーカー10Bから消音用の音波を放射させた。「フィードバック補償なし」とは、第1回り込み音が第1圧電スピーカー10Aから発せられる音に及ぼす影響を抑制するための制御も、第2回り込み音が第2圧電スピーカー10Bから発せられる音に及ぼす影響を抑制するための制御も行わないことを指す。第1回り込み音は、第1圧電スピーカー10Aから発せられ第1参照マイクロフォン730Aに回り込む音である。第2回り込み音は、第2圧電スピーカー10Bから発せられ第2参照マイクロフォン730Bに回り込む音である。
【0332】
チューニングステージ及び制御ステージにおいて、第1騒音源700A及び第2騒音源700Bから放射される騒音は、白色ノイズを200Hz~800Hzの帯域制限フィルタを通過させることにより生成した。より具体的には、帯域制限フィルタを通過した白色ノイズは、200Hz~800Hzの各周波数成分を実質的に均等に含む。
【0333】
次に、Lcmを50cmに変更した。それ以外はLcmが40cmのときと同様に、チューニングステージ及び制御ステージを実行した。こうして、第1圧電スピーカー10Aが奏する消音効果及び第2圧電スピーカー10Bが奏する消音効果を測定した。
【0334】
次に、Lcmを60cmに変更した。それ以外はLcmが40cmのときと同様に、チューニングステージ及び制御ステージを実行した。こうして、第1圧電スピーカー10Aが奏する消音効果及び第2圧電スピーカー10Bが奏する消音効果を測定した。
【0335】
次に、Lcmを70cmに変更した。それ以外はLcmが40cmのときと同様に、チューニングステージ及び制御ステージを実行した。こうして、第1圧電スピーカー10Aが奏する消音効果及び第2圧電スピーカー10Bが奏する消音効果を測定した。
【0336】
次に、Lcmを80cmに変更した。それ以外はLcmが40cmのときと同様に、チューニングステージ及び制御ステージを実行した。こうして、第1圧電スピーカー10Aが奏する消音効果及び第2圧電スピーカー10Bが奏する消音効果を測定した。
【0337】
実施例6では、このようにして、Lcmが、40cm、50cm、60cm、70cm及び80cmのそれぞれの場合について、フィードバック補償なしで第1圧電スピーカー10Aが奏する消音効果及び第2圧電スピーカー10Bが奏する消音効果を測定した。測定結果を、図73に示す。図73において、「L」は、第1圧電スピーカー10Aが奏する消音効果を示す。上述の通り、この消音効果は、第2参照マイクロフォン730Bで感知した音に基づいたものである。「R」は、第2圧電スピーカー10Bが奏する消音効果を示す。上述の通り、この消音効果は、第1参照マイクロフォン730Aで感知した音に基づいたものである。
【0338】
(実施例7:フィードバック補償あり)
「フィードバック補償なし」を「フィードバック補償あり」に変更したこと以外は、実施例6と同様にして、第1圧電スピーカー10Aが奏する消音効果及び第2圧電スピーカー10Bが奏する消音効果を測定した。「フィードバック補償あり」とは、第1回り込み音が第1圧電スピーカー10Aから発せられる音に及ぼす影響を抑制するための制御と、第2回り込み音が第2圧電スピーカー10Bから発せられる音に及ぼす影響を抑制するための制御と、行うことを指す。これらの制御は、AFP(Acoustic Feedback Path)を抑制するための公知の制御である。具体的に、実施例7及び後述の比較例7では、デジタル処理によりフィードバック補償を行った。
【0339】
実施例7では、このようにして、Lcmが、40cm、50cm、60cm、70cm及び80cmのそれぞれの場合について、フィードバック補償ありで第1圧電スピーカー10Aが奏する消音効果及び第2圧電スピーカー10Bが奏する消音効果を測定した。測定結果を、図74に示す。
【0340】
(参考例5:左右単独の制御)
第1圧電スピーカー10Aが奏する消音効果を示す「L」の測定時に、第2圧電スピーカー10B及び第2騒音源700Bからは音を出さないようにした。また、第2圧電スピーカー10Bが奏する消音効果を示す「R」の測定時に、第1圧電スピーカー10A及び第1騒音源700Aからは音を出さないようにした。これら以外は、実施例6と同様にして、第1圧電スピーカー10Aが奏する消音効果及び第2圧電スピーカー10Bが奏する消音効果を測定した。
【0341】
参考例5では、このようにして、Lcmが、40cm、50cm、60cm、70cm及び80cmのそれぞれの場合について、第1圧電スピーカー10Aが奏する消音効果及び第2圧電スピーカー10Bが奏する消音効果を測定した。測定結果を、図75に示す。
【0342】
(比較例6:フィードバック補償なし)
第1圧電スピーカー10Aを第1ダイナミックスピーカー610Aに変更し、第2圧電スピーカー10Bを第2ダイナミックスピーカー610Bに変更した。比較例6の第1ダイナミックスピーカー610A及び第2ダイナミックスピーカー610Bは、フォスター電機株式会社製のFostex P650Kである。これら以外は、実施例5と同様にして、第1圧電スピーカー10Aが奏する消音効果及び第2圧電スピーカー10Bが奏する消音効果を測定した。
【0343】
比較例6では、このようにして、Lcmが、40cm、50cm、60cm、70cm及び80cmのそれぞれの場合について、フィードバック補償なしで第1ダイナミックスピーカー610Aが奏する消音効果及び第2ダイナミックスピーカー610Bが奏する消音効果を測定した。測定結果を、図76に示す。
【0344】
(比較例7:フィードバック補償あり)
「フィードバック補償なし」を「フィードバック補償あり」に変更したこと以外は、比較例6と同様にして、第1ダイナミックスピーカー610Aが奏する消音効果及び第2ダイナミックスピーカー610Bが奏する消音効果を測定した。
【0345】
比較例7では、このようにして、Lcmが、40cm、50cm、60cm、70cm及び80cmのそれぞれの場合について、フィードバック補償ありで第1ダイナミックスピーカー610Aが奏する消音効果及び第2ダイナミックスピーカー610Bが奏する消音効果を測定した。測定結果を、図77に示す。
【0346】
(参考例6:左右単独の制御)
第1ダイナミックスピーカー610Aが奏する消音効果を示す「L」の測定時に、第2ダイナミックスピーカー610B及び第2騒音源700Bからは音を出さないようにした。また、第2ダイナミックスピーカー610Bが奏する消音効果を示す「R」の測定時に、第1ダイナミックスピーカー610A及び第1騒音源700Aからは音を出さないようにした。これら以外は、比較例6と同様にして、第1ダイナミックスピーカー610Aが奏する消音効果及び第2ダイナミックスピーカー610Bが奏する消音効果を測定した。
【0347】
参考例6では、このようにして、Lcmが、40cm、50cm、60cm、70cm及び80cmのそれぞれの場合について、第1ダイナミックスピーカー610Aが奏する消音効果及び第2ダイナミックスピーカー610Bが奏する消音効果を測定した。測定結果を、図78に示す。
【0348】
比較例6に関する図76と比較例7に関する図77から、ダイナミックスピーカーを用いる場合には、フィードバック補償があってもなくても十分な消音効果が得られないことが分かる。より具体的には、図76及び図77から、比較例6及び比較例7では音がかえって増幅されていることが把握される。一方で、図78から、参考例6では消音効果が得られていることが把握される。このことから、比較例6及び比較例7では、ダイナミックスピーカーからパーティションの背後への音の回り込みが消音を妨げていたことが推測される。
【0349】
実施例6に関する図73と実施例7に関する図74を比べることにより、圧電スピーカーを用いる場合には、フィードバック補償があってもなくても十分な消音効果が得られることが分かる。
【0350】
[圧電フィルムの支持構造と振動の自由度]
本発明による圧電スピーカーの支持構造の一例を参照する。図12図21図23図24及びこれらに関連する説明から理解されるように、圧電スピーカー10では、圧電フィルム35の全面が接合層51、52及び介在層40を介して構造物80に固定されている。
【0351】
圧電フィルム35の振動が構造物80により阻害されないようにするためには、圧電フィルム35の一部を支持して構造物80から離間させることも考えられる。この設計思想に基づく支持構造を図13に例示する。図13に示した仮想的な圧電スピーカー108では、枠体88が構造物80から離れた位置で圧電フィルム35の周縁部を支持している。
【0352】
予め一方に湾曲させて湾曲の向きが固定された圧電フィルムからは十分な音量を確保しやすい。このため、例えば圧電スピーカー108において、圧電フィルム35、枠体88及び構造物80に囲まれた空間48に上面が凸面となった厚みが一定でない介在物を配置し、圧電フィルム35の中央部を上方に押し上げておくことが考えられる。しかし、このような介在物は、圧電フィルム35の振動を阻害することがないように圧電フィルム35と接合されることがない。従って、空間48に介在物を配置したとしても、圧電フィルム35をその振動を規定する態様で支持しているのは枠体88のみである。
【0353】
上述の通り、図13に示す圧電スピーカー108では、圧電フィルム35の局部的な支持構造が採用されている。これに対し、図12等の圧電スピーカー10では圧電フィルム35が特定の部分で支持されていない。意外なことに、圧電スピーカー10は、圧電フィルム35の全面が構造物80に固定されているにも関わらず、実用的な音響特性を示す。具体的には、圧電スピーカー10では、圧電フィルム35の周縁部までが上下に振動しうる。圧電フィルム35は、その全体が上下に振動することも可能である。従って、圧電スピーカー108と比較すると、圧電スピーカー10はその振動の自由度が高く、良好な発音特性の実現には相対的に有利である。
【0354】
図12を参照して説明したように、振動の自由度の高さは、第1波面16a、第2波面16b、第4波面16d及び第5波面16eの形成に寄与している可能性がある。なお、図12では、圧電スピーカー10が図21に示す圧電スピーカー10である場合が描かれている。図12において、第1接合層51及び第2接合層52の図示は省略されている。振動の高い自由度は、圧電スピーカー10が図23に示す圧電スピーカー110である場合も得られうる。
【0355】
本発明者らの検討によれば、介在層が多孔体層及び/又は樹脂層であることは、振動の自由度の確保に適している。事実、介在層が多孔体層及び/又は樹脂層であるサンプルE1~E17では、圧電フィルム35の全面が支持部材680に固定されているにも関わらず、実用的な音響特性が発揮されている。ANC評価系800、900、905及び1000において第1圧電スピーカー10A及び第2圧電スピーカー10BをサンプルE1のサイズ違い品からサンプルE2~E17のサイズ違い品に変更したとしても、図40図43図52A図53C図58及び図60図62と同様の傾向の音圧分布が現れ、図63A及び63Bと同様の傾向の位相分布が現れ、また、図73図75と同様の消音効果が得られると考えられる。
【0356】
[本発明から導かれうる技術及び効果等]
以下、本発明から導かれうる技術及び効果等について、図79及び図80を参照しながら説明する。なお、上述の説明から理解されるように、第2圧電スピーカー10B等は省略可能である。ANCシステムは、2つの圧電スピーカーを用いたデュアルANCシステムであってもよく、1つの圧電スピーカーを用いたシングルANCシステムであってもよい。
【0357】
ANCシステムは、構造物80、第1圧電スピーカー10A及び第2圧電スピーカー10Bを含む。構造物80は、表面80a及び裏面80bを有する。
【0358】
第1圧電スピーカー10Aは、表面80a上に配置されている。第1圧電スピーカー10Aは、消音用の音波を放射する。この構成に係るANCシステムは、構造物80に取り付けられたスピーカー由来の音を該スピーカーから見て該構造物の背後において減衰させることに適している。具体的には、この構成では、第1圧電スピーカー10Aから構造物80の向こう側に回り込んだ音が減衰し易い。
【0359】
第2圧電スピーカー10Bは、裏面80b上に配置されている。第2圧電スピーカー10Bは、消音用の音波を放射する。この構成に係るANCシステムは、構造物80に取り付けられたスピーカー由来の音を該スピーカーから見て該構造物の背後において減衰させることに適している。具体的には、この構成では、第2圧電スピーカー10Bから構造物80の向こう側に回り込んだ音が減衰し易い。
【0360】
構造物80は、左端部81、右端部82、上端部83及び下端部84を有する。
【0361】
ANCシステムでは、表空間95Aと、表面80aと、裏面80bと、裏空間95Bと、がこの順に並んでいる。表空間95Aは、表面80aを平面視したときに表面80aと重複する空間である。裏空間95Bは、裏面80bを平面視したときに裏面と重複する空間である。
【0362】
第1圧電スピーカー10Aは、第1放射面15Aを有する。第1放射面15Aは、表空間95Aに面している。第2圧電スピーカー10Bは、第2放射面15Bを有する。第2放射面15Bは、裏空間95Bに面している。
【0363】
第1放射面15Aは、第1領域15a、第2領域15b及び第3領域15cを有する。第3領域15cは、第1領域15a及び第2領域15bの間に位置する。
【0364】
第2放射面15Bは、第4領域15d、第5領域15e及び第6領域15fを有する。第6領域15fは、第4領域15d及び第5領域15eの間に位置する。
【0365】
裏空間95Bは、第1背後空間90A、第2背後空間90B及び第3背後空間90Cを有する。第3背後空間90Cは、第1背後空間90A及び第2背後空間90Bの間に位置する。
【0366】
表空間95Aは、第4背後空間90D、第5背後空間90E及び第6背後空間90Fを有する。第6背後空間90Fは、第4背後空間90D及び第5背後空間90Eの間に位置する。
【0367】
以下、第1基準平面85A及び第2基準平面85Bという用語を用いる。第1基準平面85A及び第2基準平面85Bは、上下方向D1に垂直な平面である。図79及び図80の例では、第1基準平面85A及び第2基準平面85Bは、同一平面である。ただし、第1基準平面85A及び第2基準平面85Bは、高さが互いに異なる平面であってもよい。
【0368】
第1領域15a、第2領域15b、第3領域15c、第1背後空間90A、第2背後空間90B及び第3背後空間90Cは、第1基準平面85Aと交差する。第4領域15d、第5領域15e、第6領域15f、第4背後空間90D、第5背後空間90E及び第6背後空間90Fは、第2基準平面85Bと交差する。
【0369】
第1条件、第2条件及び第3条件が成立する期間が現れる。第1条件は、第1圧電スピーカー10Aが形成する第1背後空間90Aにおける音波の位相が正又は負の一方であるという条件である。第2条件は、第1圧電スピーカー10Aが形成する第2背後空間90Bにおける音波の位相が正又は負の前記一方であるという条件である。第3条件は、第1圧電スピーカー10Aが形成する第3背後空間90Cにおける音波の位相が正又は負の他方であるという条件である。裏空間95Bにおいてこのような位相分布が形成されていると、裏空間95Bにおいて第1圧電スピーカー10A由来の音が減衰し易い。具体的には、第1背後空間90Aにおける音波、第3背後空間90Cにおける音波及び第2背後空間90Bにおける音波が、より背後に位置する第1干渉空間91Aに伝搬する。第1干渉空間91Aにおいて、これらの音波が互いに干渉し、互いに打ち消し合う。このため、第1干渉空間91Aでは、第1圧電スピーカー10A由来の音が減衰された状態となりうる。なお、第1干渉空間91Aは、裏空間95Bに含まれる。
【0370】
一数値例では、制御装置120による制御により、第1背後空間90A、第3背後空間90C及び第2背後空間90Bにおける第1圧電スピーカー10A由来の音波の位相をそれぞれ負、正及び負である又は正、負及び正である期間T3が現れうる。背後空間90A、90C及び90Bにおける音波の一周期をTrとしたとき、T3/Trは、第1騒音源200Aにもよるが、例えば0.01以上1以下である。また、第1騒音源200Aが正弦波を発する場合、期間T3は継続しうるあるいは周期的に現れうる。T3/Trは、0.1以上1以下であってもよく、0.5以上1以下であってもよく、0.7以上1以下であってもよく、0.9以上1以下であってもよい。
【0371】
具体的には、第4条件、第5条件及び第6条件が成立する期間が現れる。第4条件は、第1領域15aから左端部81を介して第1背後空間90Aに至る第1回り込み経路にわたって、第1圧電スピーカー10Aが形成する音波の位相が正又は負の一方に維持されるという条件である。第5条件は、第2領域15bから右端部82を介して第2背後空間90Bに至る第2回り込み経路にわたって、第1圧電スピーカー10Aが形成する音波の位相が正又は負の前記一方に維持されるという条件である。第6条件は、第3領域15cから上端部83を介して第3背後空間90Cに至る第3回り込み経路にわたって、第1圧電スピーカー10Aが形成する音波の位相が正又は負の他方に維持されるという条件である。この期間において、第3領域15cから下端部84を介して第3背後空間90Cに至る回り込み経路にわたって、第1圧電スピーカー10Aが形成する音波の位相が正又は負の他方に維持されるという条件が成立してもよい。
【0372】
第7条件、第8条件及び第9条件が成立する期間が現れる。第7条件は、第2圧電スピーカー10Bが形成する第4背後空間90Dにおける音波の位相が正又は負の一方であるという条件である。第8条件は、第2圧電スピーカー10Bが形成する第5背後空間90Eにおける音波の位相が正又は負の前記一方であるという条件である。第9条件は、第2圧電スピーカー10Bが形成する第6背後空間90Fにおける音波の位相が正又は負の他方であるという条件である。表空間95Aにおいてこのような位相分布が形成されていると、表空間95Aにおいて第2圧電スピーカー10B由来の音が減衰し易い。具体的には、第4背後空間90Dにおける音波、第6背後空間90Fにおける音波及び第5背後空間90Eにおける音波が、より背後に位置する第2干渉空間91Bに伝搬する。第2干渉空間91Bにおいて、これらの音波が互いに干渉し、互いに打ち消し合う。このため、第2干渉空間91Bでは、第2圧電スピーカー10B由来の音が減衰された状態となりうる。なお、第2干渉空間91Bは、表空間95Aに含まれる。
【0373】
一数値例では、制御装置120による制御により、第4背後空間90D、第6背後空間90F及び第5背後空間90Eにおける第2圧電スピーカー10B由来の音波の位相がそれぞれ負、正及び負である又は正、負及び正である期間T4が現れうる。背後空間90D、90F及び90Eにおける音波の一周期をTtとしたとき、T4/Ttは、第2騒音源200Bにもよるが、例えば0.01以上1以下である。また、第2騒音源200Bが正弦波を発する場合、期間T4は継続しうるあるいは周期的に現れうる。T4/Ttは、0.1以上1以下であってもよく、0.5以上1以下であってもよく、0.7以上1以下であってもよく、0.9以上1以下であってもよい。
【0374】
具体的には、第10条件、第11条件及び第12条件が成立する期間が現れる。第10条件は、第4領域15dから左端部81を介して第4背後空間90Dに至る第4回り込み経路にわたって、第2圧電スピーカー10Bが形成する音波の位相が正又は負の一方に維持されるという条件である。第11条件は、第5領域15eから右端部82を介して第5背後空間90Eに至る第5回り込み経路にわたって、第2圧電スピーカー10Bが形成する音波の位相が正又は負の前記一方に維持されるという条件である。第12条件は、第6領域15fから上端部83を介して第6背後空間90Fに至る第6回り込み経路にわたって、第2圧電スピーカー10Bが形成する音波の位相が正又は負の他方に維持されるという条件である。この期間において、第6領域15fから下端部84を介して第6背後空間90Fに至る回り込み経路にわたって、第2圧電スピーカー10Bが形成する音波の位相が正又は負の他方に維持されるという条件が成立してもよい。
【0375】
ANCシステムは、制御装置120を含む。制御装置120は、第1圧電スピーカー10Aから出力される音の周波数を第1特定周波数範囲内の値に制御する制御モードを有する。第1特定周波数範囲の上限の音の波長を第1基準波長と定義する。また、制御装置120は、第2圧電スピーカー10Bから出力される音の周波数を第2特定周波数範囲内の値に制御する制御モードを有する。第2特定周波数範囲の上限の音の波長を第2基準波長と定義する。前者の制御モードと後者の制御モードは、同一の制御モードであってもよく、互いに異なる制御モードであってもよい。
【0376】
第1左マージンM1及び第1上マージンM3の差の絶対値は、第1基準波長の1/8以下であってもよい。このようなマージンによれば、第1放射面15Aの第1領域15aから構造物80の左端部81まで音が伝搬するのに要する期間と、第1放射面15Aの第3領域15cから構造物80の上端部83まで音が伝搬するのに要する期間と、を実質的に同じにすることができる。このため、第1領域15a由来の音が左端部81から裏空間95Bに進み始めるタイミングと、第3領域15c由来の音が上端部83から裏空間95Bに進み始めるタイミングと、を実質的に同じにすることができる。このことは、裏空間95Bに回り込んだ音を裏空間95Bの広い領域で減衰させることに貢献しうる。
【0377】
第1右マージンM2及び第1上マージンM3の差の絶対値は、第1基準波長の1/8以下であってもよい。このようなマージンによれば、第1放射面15Aの第2領域15bから構造物80の右端部82まで音が伝搬するのに要する期間と、第1放射面15Aの第3領域15cから構造物80の上端部83まで音が伝搬するのに要する期間と、を実質的に同じにすることができる。このため、第2領域15b由来の音が右端部82から裏空間95Bに進み始めるタイミングと、第3領域15c由来の音が上端部83から裏空間95Bに進み始めるタイミングと、を実質的に同じにすることができる。このことは、裏空間95Bに回り込んだ音を裏空間95Bの広い領域で減衰させることに貢献しうる。
【0378】
第1左マージンM1及び第1下マージンM4の差の絶対値は、第1基準波長の1/8以下であってもよい。このようなマージンによれば、第1放射面15Aの第1領域15aから構造物80の左端部81まで音が伝搬するのに要する期間と、第1放射面15Aの第3領域15cから構造物80の下端部84まで音が伝搬するのに要する期間と、を実質的に同じにすることができる。このため、第1領域15a由来の音が左端部81から裏空間95Bに進み始めるタイミングと、第3領域15c由来の音が下端部84から裏空間95Bに進み始めるタイミングと、を実質的に同じにすることができる。このことは、裏空間95Bに回り込んだ音を裏空間95Bの広い領域で減衰させることに貢献しうる。
【0379】
第1右マージンM2及び第1下マージンM4の差の絶対値は、第1基準波長の1/8以下であってもよい。このようなマージンによれば、第1放射面15Aの第2領域15bから構造物80の右端部82まで音が伝搬するのに要する期間と、第1放射面15Aの第3領域15cから構造物80の下端部84まで音が伝搬するのに要する期間と、を実質的に同じにすることができる。このため、第2領域15b由来の音が右端部82から裏空間95Bに進み始めるタイミングと、第3領域15c由来の音が下端部84から裏空間95Bに進み始めるタイミングと、を実質的に同じにすることができる。このことは、裏空間95Bに回り込んだ音を裏空間95Bの広い領域で減衰させることに貢献しうる。
【0380】
第1左マージンM1及び第1上マージンM3の差の絶対値は、第1基準波長の1/16以下であってもよい。第1右マージンM2及び第1上マージンM3の差の絶対値は、第1基準波長の1/16以下であってもよい。第1左マージンM1及び第1下マージンM4の差の絶対値は、第1基準波長の1/16以下であってもよい。第1右マージンM2及び第1下マージンM4の差の絶対値は、第1基準波長の1/16以下であってもよい。
【0381】
一数値例では、第1左マージンM1及び第1上マージンM3の差の絶対値は、86cm以下である。第1右マージンM2及び第1上マージンM3の差の絶対値は、86cm以下である。第1左マージンM1及び第1下マージンM4の差の絶対値は、86cm以下である。第1右マージンM2及び第1下マージンM4の差の絶対値は、86cm以下である。
【0382】
第1左マージンM1及び第1上マージンM3の差の絶対値は、43cm以下であってもよい。第1右マージンM2及び第1上マージンM3の差の絶対値は、43cm以下であってもよい。第1左マージンM1及び第1下マージンM4の差の絶対値は、43cm以下であってもよい。第1右マージンM2及び第1下マージンM4の差の絶対値は、43cm以下であってもよい。
【0383】
第1左マージンM1及び第1右マージンM2の幾何平均値と、第1上マージンM3と、の差の絶対値すなわち|M3-(M1+M2)/2|は、第1基準波長の1/8以下であってもよい。この大小関係は、例えば、構造物90の左側、右側及び上側に空間が存在する場合に、裏空間95Bに回り込んだ音を裏空間95Bの広い領域で減衰させることに貢献しうる。上記の差の絶対値は、第1基準波長の1/16以下であってもよい。上記の差の絶対値は、86cm以下であってもよく、43cm以下であってもよい。
【0384】
第1左マージンM1及び第1右マージンM2の幾何平均値と、第1上マージンM3及び第1下マージンM4の幾何平均値と、の差の絶対値すなわち|(M3+M4)/2-(M1+M2)/2|は、第1基準波長の1/8以下であってもよい。この大小関係は、例えば、構造物90の左側、右側、上側及び下側に空間が存在する場合に、裏空間95Bに回り込んだ音を裏空間95Bの広い領域で減衰させることに貢献しうる。上記の差の絶対値は、第1基準波長の1/16以下であってもよい。上記の差の絶対値は、86cm以下であってもよく、43cm以下であってもよい。
【0385】
第2左マージンM5及び第2上マージンM7の差の絶対値は、第2基準波長の1/8以下であってもよい。このようなマージンによれば、第2放射面15Bの第4領域15dから構造物80の左端部81まで音が伝搬するのに要する期間と、第2放射面15Bの第6領域15fから構造物80の上端部83まで音が伝搬するのに要する期間と、を実質的に同じにすることができる。このため、第4領域15d由来の音が左端部81から表空間95Aに進み始めるタイミングと、第6領域15f由来の音が上端部83から表空間95Aに進み始めるタイミングと、を実質的に同じにすることができる。このことは、表空間95Aに回り込んだ音を表空間95Aの広い領域で減衰させることに貢献しうる。
【0386】
第2右マージンM6及び第2上マージンM7の差の絶対値は、第2基準波長の1/8以下であってもよい。このようなマージンによれば、第2放射面15Bの第5領域15eから構造物80の右端部82まで音が伝搬するのに要する期間と、第2放射面15Bの第6領域15fから構造物80の上端部83まで音が伝搬するのに要する期間と、を実質的に同じにすることができる。このため、第5領域15e由来の音が右端部82から表空間95Aに進み始めるタイミングと、第6領域15f由来の音が上端部83から表空間95Aに進み始めるタイミングと、を実質的に同じにすることができる。このことは、表空間95Aに回り込んだ音を表空間95Aの広い領域で減衰させることに貢献しうる。
【0387】
第2左マージンM5及び第2下マージンM8の差の絶対値は、第2基準波長の1/8以下であってもよい。このようなマージンによれば、第2放射面15Bの第4領域15dから構造物80の左端部81まで音が伝搬するのに要する期間と、第2放射面15Bの第6領域15fから構造物80の下端部84まで音が伝搬するのに要する期間と、を実質的に同じにすることができる。このため、第4領域15d由来の音が左端部81から表空間95Aに進み始めるタイミングと、第6領域15f由来の音が下端部84から表空間95Aに進み始めるタイミングと、を実質的に同じにすることができる。このことは、表空間95Aに回り込んだ音を表空間95Aの広い領域で減衰させることに貢献しうる。
【0388】
第2右マージンM6及び第2下マージンM8の差の絶対値は、第2基準波長の1/8以下であってもよい。このようなマージンによれば、第2放射面15Bの第5領域15eから構造物80の右端部82まで音が伝搬するのに要する期間と、第2放射面15Bの第6領域15fから構造物80の下端部84まで音が伝搬するのに要する期間と、を実質的に同じにすることができる。このため、第5領域15e由来の音が右端部82から表空間95Aに進み始めるタイミングと、第6領域15f由来の音が下端部84から表空間95Aに進み始めるタイミングと、を実質的に同じにすることができる。このことは、表空間95Aに回り込んだ音を表空間95Aの広い領域で減衰させることに貢献しうる。
【0389】
第2左マージンM5及び第2上マージンM7の差の絶対値は、第2基準波長の1/16以下であってもよい。第2右マージンM6及び第2上マージンM7の差の絶対値は、第2基準波長の1/16以下であってもよい。第2左マージンM5及び第2下マージンM8の差の絶対値は、第2基準波長の1/16以下であってもよい。第2右マージンM6及び第2下マージンM8の差の絶対値は、第2基準波長の1/16以下であってもよい。
【0390】
一数値例では、第2左マージンM5及び第2上マージンM7の差の絶対値は、86cm以下である。第2右マージンM6及び第2上マージンM7の差の絶対値は、86cm以下である。第2左マージンM5及び第2下マージンM8の差の絶対値は、86cm以下である。第2右マージンM6及び第2下マージンM8の差の絶対値は、86cm以下である。
【0391】
第2左マージンM5及び第2上マージンM7の差の絶対値は、43cm以下であってもよい。第2右マージンM6及び第2上マージンM7の差の絶対値は、43cm以下であってもよい。第2左マージンM5及び第2下マージンM8の差の絶対値は、43cm以下であってもよい。第2右マージンM6及び第2下マージンM8の差の絶対値は、43cm以下であってもよい。
【0392】
第2左マージンM5及び第2右マージンM6の幾何平均値と、第2上マージンM7と、の差の絶対値すなわち|M7-(M5+M6)/2|は、第2基準波長の1/8以下であってもよい。この大小関係は、例えば、構造物90の左側、右側及び上側に空間が存在する場合に、表空間95Aに回り込んだ音を表空間95Aの広い領域で減衰させることに貢献しうる。上記の差の絶対値は、第2基準波長の1/16以下であってもよい。上記の差の絶対値は、86cm以下であってもよく、43cm以下であってもよい。
【0393】
第2左マージンM5及び第2右マージンM6の幾何平均値と、第2上マージンM7及び第2下マージンM8の幾何平均値と、の差の絶対値|(M7+M8)/2-(M5+M6)/2|は、第2基準波長の1/8以下であってもよい。この大小関係は、例えば、構造物90の左側、右側、上側及び下側に空間が存在する場合に、表空間95Aに回り込んだ音を表空間95Aの広い領域で減衰させることに貢献しうる。上記の差の絶対値は、第2基準波長の1/16以下であってもよい。上記の差の絶対値は、86cm以下であってもよく、43cm以下であってもよい。
【0394】
第1上マージンM3は、第1左マージンM1よりも大きくてもよく、第1左マージンM1よりも小さくてもよく、第1左マージンM1と同じであってもよい。第1上マージンM3は、第1右マージンM2よりも大きくてもよく、第1右マージンM2よりも小さくてもよく、第1右マージンM2と同じであってもよい。
【0395】
第1下マージンM4は、第1左マージンM1よりも大きくてもよく、第1左マージンM1よりも小さくてもよく、第1左マージンM1と同じであってもよい。第1下マージンM4は、第1右マージンM2よりも大きくてもよく、第1右マージンM2よりも小さくてもよく、第1右マージンM2と同じであってもよい。
【0396】
第2上マージンM7は、第2左マージンM5よりも大きくてもよく、第2左マージンM5よりも小さくてもよく、第2左マージンM5と同じであってもよい。第2上マージンM7は、第2右マージンM6よりも大きくてもよく、第2右マージンM6よりも小さくてもよく、第2右マージンM6と同じであってもよい。
【0397】
第2下マージンM8は、第2左マージンM5よりも大きくてもよく、第2左マージンM5よりも小さくてもよく、第2左マージンM5と同じであってもよい。第2下マージンM8は、第2右マージンM6よりも大きくてもよく、第2右マージンM6よりも小さくてもよく、第2右マージンM6と同じであってもよい。
【0398】
以下、第1アスペクト比及び第2アスペクト比という用語を用いる。第1アスペクト比は、第1放射面15Aの単手方向の寸法L1に対する長手方向の寸法L2の比率L2/L1である。第2アスペクト比は、第2放射面15Bの単手方向の寸法L3に対する長手方向の寸法L4の比率L4/L3である。
【0399】
第1アスペクト比L2/L1は、1.2以上である。この構成は、第1圧電スピーカー10Aから構造物80の向こう側に回り込んだ音を減衰させることに貢献しうる。具体的には、この構成によれば、第3領域15cの面積を十分に確保し易い。このことは、第1領域15a及び第2領域15bから構造物80の向こう側に回り込んだ音を、第3領域15cから構造物80の向こう側に回り込んだ音により打ち消す観点から有利である。
【0400】
第1アスペクト比L2/L1は、1.2以上6以下であってもよい。具体的には、第1アスペクト比L2/L1は、1.5以上4以下であってもよい。
【0401】
第2アスペクト比L4/L3は、1.2以上である。この構成は、第2圧電スピーカー10Bから構造物80の向こう側に回り込んだ音を減衰させることに貢献しうる。具体的には、この構成によれば、第6領域15fの面積を十分に確保し易い。このことは、第4領域15d及び第5領域15eから構造物80の向こう側に回り込んだ音を、第6領域15fから構造物80の向こう側に回り込んだ音により打ち消す観点から有利である。
【0402】
第2アスペクト比L4/L3は、1.2以上6以下であってもよい。具体的には、第2アスペクト比L4/L3は、1.5以上4以下であってもよい。
【0403】
ANCシステムは、第1参照マイクロフォン130A、第2参照マイクロフォン130B及び制御装置120を含む。第1参照マイクロフォン130Aは、裏空間95Bに配置されている。第2参照マイクロフォン130Bは、表空間95Aに配置されている。
【0404】
制御装置120は、表空間95Aを消音するように、第1参照マイクロフォン130Aを用いて第1圧電スピーカー10Aが発する音を制御する。制御装置120は、裏空間95Bを消音するように、第2参照マイクロフォン130Bを用いて第2圧電スピーカー10Bが発する音を制御する。
【0405】
以下、第1距離Dm1及び第2距離Dm2という用語を用いる。第1距離Dm1は、構造物80の表面80aと第1参照マイクロフォン130Aとの間の距離である。図示の例では、第1距離Dm1は、具体的には、構造物80の板80pの厚さ方向に関する距離である。第2距離Dm2は、構造物80の裏面80bと第2参照マイクロフォン130Bとの間の距離である。図示の例では、第2距離Dm2は、具体的には、構造物80の板80pの厚さ方向に関する距離である。
【0406】
一数値例では、第1距離Dm1は、105cm以下である。この数値例によれば、第1圧電スピーカー10Aから発せられる音の周波数が200Hz以上800以下の場合に、第1圧電スピーカー10Aから発せられた音が、制御におけるノイズとして第1参照マイクロフォン130Aに入力され難い。このことは、実施例1等によって裏付けられている。
【0407】
第1距離Dm1は、0cmよりも大きい。第1距離Dm1は、40cm以上であってもよい。第1距離Dm1は、60cmよりも大きくてもよい。
【0408】
一数値例では、第2距離Dm2は、105cm以下である。この数値例によれば、第2圧電スピーカー10Bから発せられる音の周波数が200Hz以上800以下の場合に、第2圧電スピーカー10Bから発せられた音が、制御におけるノイズとして第2参照マイクロフォン130Bに入力され難い。このことは、実施例1等によって裏付けられている。
【0409】
第2距離Dm2は、0cmよりも大きい。第2距離Dm2は、40cm以上であってもよい。第2距離Dm2は、60cmよりも大きくてもよい。
【0410】
第1距離Dm1及び第2距離Dm2は、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0411】
制御装置120は、表空間95Aを消音するように、表空間95Aに位置する誤差マイクロフォンを用いず第1参照マイクロフォン130Aを用いて第1圧電スピーカー10Aが発する音を制御する。具体的には、この制御において、制御装置120は、誤差マイクロフォンを用いない。この構成によれば、制御をシンプルに行うことができる。具体的には、図18図20を参照した説明から理解されるように、本発明に係るANCシステムは、第1圧電スピーカー10Aから構造物80の向こう側に回り込んだ音を減衰させることに適している。このため、誤差マイクロフォンを用いなくても、消音効果を確保し易い。この文脈において、誤差マイクロフォンとは、消音するべき地点に位置するマイクロフォンであって、ANCシステムが行う該地点の騒音を低減する制御に供されるマイクロフォンである。
【0412】
「表空間95Aに位置する誤差マイクロフォンを用いず」という表現は、図示するように、誤差マイクロフォンが表空間95Aに設置されていない形態を包含する。また、この表現は、表空間95Aに誤差マイクロフォンが設置されているがその誤差マイクロフォンを用いない形態を包含する。
【0413】
具体的には、第1参照マイクロフォン130Aは、第1圧電スピーカー10Aが発する音を制御するために制御装置120が用いる唯一のマイクロフォンである。
【0414】
制御装置120は、裏空間95Bを消音するように、裏空間95Bに位置する誤差マイクロフォンを用いず第2参照マイクロフォン130Bを用いて第2圧電スピーカー10Bが発する音を制御する。具体的には、この制御において、制御装置120は、誤差マイクロフォンを用いない。この構成によれば、制御をシンプルに行うことができる。具体的には、図18図20を参照した説明から理解されるように、本発明に係るANCシステムは、第2圧電スピーカー10Bから構造物80の向こう側に回り込んだ音を減衰させることに適している。このため、誤差マイクロフォンを用いなくても、消音効果を確保し易い。
【0415】
「裏空間95Bに位置する誤差マイクロフォンを用いず」という表現は、図示するように、誤差マイクロフォンが裏空間95Bに設置されていない形態を包含する。また、この表現は、裏空間95Bに誤差マイクロフォンが設置されているがその誤差マイクロフォンを用いない形態を包含する。
【0416】
具体的には、第2参照マイクロフォン130Bは、第2圧電スピーカー10Bが発する音を制御するために制御装置120が用いる唯一のマイクロフォンである。
【0417】
第1圧電スピーカー10Aから発せられ第1参照マイクロフォン130Aに入力される音を第1回り込み音と定義する。このとき、制御装置120は、第1回り込み音が第1圧電スピーカー10Aから発せられる音に及ぼす影響を抑制するためのフィードバック補償を行わない。この構成によれば、制御をシンプルに行うことができる。具体的には、図18図20を参照した説明から理解されるように、本発明に係るANCシステムは、第1圧電スピーカー10Aから構造物80の向こう側に回り込んだ音を減衰させることに適している。このため、フィードバック補償を行わなくても、消音効果を確保し易い。
【0418】
第2圧電スピーカー10Bから発せられ第2参照マイクロフォン130Bに入力される音を第2回り込み音と定義する。このとき、制御装置120は、第2回り込み音が第2圧電スピーカー10Bから発せられる音に及ぼす影響を抑制するためのフィードバック補償を行わない。この構成によれば、制御をシンプルに行うことができる。具体的には、図18図20を参照した説明から理解されるように、本発明に係るANCシステムは、第2圧電スピーカー10Bから構造物80の向こう側に回り込んだ音を減衰させることに適している。このため、フィードバック補償を行わなくても、消音効果を確保し易い。
【0419】
制御装置120は、第1騒音制御フィルタ121Aを有する。第1騒音制御フィルタ121Aは、第1参照マイクロフォン130Aに入力される音と第1圧電スピーカー10Aから発せられる音とが一対一の対応関係を有するように構成されている。また、第1騒音制御フィルタ121Aは、この対応関係が経時的に固定されるように、構成されている。この構成によれば、制御をシンプルに行うことができる。具体的には、図18図20を参照した説明から理解されるように、本発明に係るANCシステムは、第1圧電スピーカー10Aから構造物80の向こう側に回り込んだ音を減衰させることに適している。このため、第1騒音制御フィルタ121Aをこのようにシンプルに構成しても、消音効果を確保し易い。上記の対応関係の経時的な固定は、例えば、第1騒音制御フィルタ121Aのフィルタ係数を更新せず固定することにより実現可能である。フィルタ係数を固定することにより、第1騒音制御フィルタ121Aに一定の演算を行わせることができ、該一定の演算を通じて第1圧電スピーカー10Aを用いた消音を実現できる。
【0420】
制御装置120は、第2騒音制御フィルタ121Bを有する。第2騒音制御フィルタ121Bは、第2参照マイクロフォン130Bに入力される音と第2圧電スピーカー10Bから発せられる音とが一対一の対応関係を有するように構成されている。また、第2騒音制御フィルタ121Bは、この対応関係が経時的に固定されるように、構成されている。この構成によれば、制御をシンプルに行うことができる。具体的には、図18図20を参照した説明から理解されるように、本発明に係るANCシステムは、第2圧電スピーカー10Bから構造物80の向こう側に回り込んだ音を減衰させることに適している。このため、第2騒音制御フィルタ121Bをこのようにシンプルに構成しても、消音効果を確保し易い。上記の対応関係の経時的な固定は、例えば、第2騒音制御フィルタ121Bのフィルタ係数を更新せず固定することにより実現可能である。フィルタ係数を固定することにより、第2騒音制御フィルタ121Bに一定の演算を行わせることができ、該一定の演算を通じて第2圧電スピーカー10Bを用いた消音を実現できる。
【0421】
上述の通り、本発明によれば、制御をシンプルにすることができる。このようにすると、演算量を少なくできる。例えば、ANCシステムを少ないFIR(Finite Impulse Response)フィルタで構成することができる。典型的なFIRフィルタの演算量は多い。FIRフィルタの数を少なくすることにより、制御装置の計算負荷を低減し、制御スピードを向上させることが可能である。このことは、ANCシステムのさらなる実用化につながりうる。ANCシステムをFIRフィルタなしで構成してもよい。
【0422】
上述の通り、本発明によれば、ANCシステムを少ないマイクロフォンで構成することができる。このようにすると、ANCシステムにおけるハードウエア構成をコンパクトにすることができる。
【0423】
上述の通り、本発明によれば、圧電スピーカーから構造物80の向こう側に回り込んだ音を減衰させることができる。このため、バックキャビティなしでANCシステムを構成することも可能である。このようにすると、ANCシステムにおけるハードウエア構成をコンパクトにすることができる。なお、バックキャビティは、スピーカーの背後への音の回り込みを避けるための箱状のカバーである。
【0424】
ただし、ANCシステムは、フィードバック補償を行ってもよい。ANCシステムの設計者は、フィードバック補償の有無を選択できる。また、ANCシステムにおいて、制御装置は、フィードバック補償を実行する制御モードとフィードバック補償を実行しない制御モードとを有していてもよい。この場合、制御装置は、これら2つのモードを切り替え可能でありうる。これらの説明は、シングルANCシステムにもデュアルANCシステムにも適用されうる。
【0425】
また、ANCシステムは、FIRフィルタを有していてもよい。ANCシステムは、誤差マイクロフォンを有していてもよい。ANCシステムは、バックキャビティを有していてもよい。
【0426】
上述の説明に係るANCシステムに対し、種々の改変が適用されうる。例えば、構造物80の表面80aに取り付けられる圧電スピーカー10の数は、1つであってもよく、複数であってもよい。同様に、構造物80の裏面80bに取り付けられる圧電スピーカー10の数は、1つであってもよく、複数であってもよい。
【符号の説明】
【0427】
10,10A,10B,108,110,610,610A,610B,620 スピーカー
10X,10Y,80X,80Y,610X,620X 軸
11m,11n ハッチング
13a,13b,13d,13e,81d,82d,83d,81e,82e,83e 波面の伝搬方向
15,15A,15B 放射面
15a,15b,15c,15d,15e,15f 領域
15j,15k,15l,15m,15p,15q,15r,15s,81,82,83,84,981,982,983,984 端部
16a,16b,16d,16e,81w,82w,83w,81y,82y,83y,610w,620w 波面
17,117 固定面
30 圧電体
35 圧電フィルム
38 主面
40,140 介在層
48 空間
51,52 接合層
61,62 電極
70 導電性銅箔テープ
75 みのむしクリップ
80 構造物
80a,780a,980a 表面
80b,980b 裏面
80l,980l 脚
80p,980p 板
85A,85B 基準平面
88 枠体
90A、90B、90C、90D、90E、90F 背後空間
91A、91B 干渉空間
95A 表空間
95B 裏空間
120,720,920,1020 制御装置
121A,121B,1021A,1021B 騒音制御フィルタ
130A,130B,501,730,730A,730B,735,740 マイクロフォン
200A,200B,700,700A,700B 騒音源
401 音声出力用PC
402 オーディオインターフェース
403 スピーカーアンプ
404 サンプル
405 オシロスコープ
502 音響評価装置
503 音響評価用PC
500,550,650 ANCシステム
555,655,DL 点線
150A,150B,556,656 消音領域
610L 低中域用スピーカー
610P パテ
680 支持部材
750 出力信号PC
760 測定用PC
780,980 パーティション
790,990 制御領域
790CS,990CSH,990CSV 測定用断面
800 参考ANC評価系
850 再生用PC
931,932 スタンド
931a,932a ポール
931b,932b 板
900,905,1000 ANC評価系
AP1,AP2 調整点
Cr 曲率半径
D1,D2 方向
L1,L2,L3,L4 寸法
M1,M2,M3,M4,M5,M6,M7,M8,N1,N2 マージン
Pn1,Pn2,Pn3,Pn4,Pn5,Pp1,Pp2,Pp3,Pp4 音圧がピークとなっている概ねの位置
SA 対称軸
θ1,θ2,θ3,θ4,θp,θq,θs,θt 角度
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図8F
図9A
図9B
図9C
図9D
図9E
図9F
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図52B
図52C
図53A
図53B
図53C
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