(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023118399
(43)【公開日】2023-08-25
(54)【発明の名称】イオン注入装置、イオン注入方法
(51)【国際特許分類】
H01J 37/317 20060101AFI20230818BHJP
H01L 21/265 20060101ALI20230818BHJP
【FI】
H01J37/317 C
H01J37/317 B
H01J37/317 A
H01L21/265 V
H01L21/265 603C
H01L21/265 603B
【審査請求】未請求
【請求項の数】36
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022021335
(22)【出願日】2022-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】000183196
【氏名又は名称】住友重機械イオンテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】工藤 哲也
(72)【発明者】
【氏名】越智 昭浩
(72)【発明者】
【氏名】戎 真志
【テーマコード(参考)】
5C101
【Fターム(参考)】
5C101AA25
5C101BB03
5C101EE22
5C101EE36
5C101EE43
5C101EE45
5C101EE48
5C101EE53
5C101EE63
5C101EE64
5C101EE65
5C101EE69
5C101FF09
5C101FF31
5C101FF53
5C101GG13
5C101HH02
5C101HH23
5C101JJ12
(57)【要約】
【課題】被処理物のビーム非照射範囲における滞在時間を短縮できるイオン注入装置等を提供する。
【解決手段】イオン注入方法は、(a)イオンビームに対して第1注入角度に調整されたウェハを、イオンビームが照射されるビーム照射範囲から、当該ビーム照射範囲の少なくとも一方の端に隣接しウェハにイオンビームが照射されないビーム非照射範囲に向けて移動させるステップと、(b)第1注入角度のウェハがビーム照射範囲から移ったビーム非照射範囲内で移動している間に、ウェハの第1注入角度から第2注入角度への変更を開始するステップと、(c-1)ビーム非照射範囲の端でウェハの移動方向を反転させてビーム照射範囲に向けて移動させるステップと、(c-2)ウェハがビーム照射範囲に戻る前にビーム非照射範囲内で移動している間に、当該ウェハの第1注入角度から第2注入角度への変更を完了するステップと、を備える。
【選択図】
図18
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンビームが照射される被処理物を支持する支持機構と、
前記支持機構で支持された前記被処理物の前記イオンビームに対する注入角度を調整可能な注入角度調整機構と、
前記支持機構を前記イオンビームと交差する方向に往復移動させる駆動機構であって、当該往復移動範囲が、前記被処理物の少なくとも一部に前記イオンビームが照射されるビーム照射範囲と、当該ビーム照射範囲の少なくとも一方の端に隣接し前記被処理物に前記イオンビームが照射されないビーム非照射範囲と、を含む駆動機構と、
前記注入角度調整機構および前記駆動機構を制御するプロセッサと、
プログラムが格納されたメモリと、
を備え、
前記プロセッサは、前記プログラムに基づいて、
(a)前記注入角度調整機構によって第1注入角度に調整された前記被処理物を、前記駆動機構によって前記ビーム照射範囲から前記ビーム非照射範囲に向けて移動させるステップと、
(b)前記ステップ(a)に続いて、前記駆動機構によって前記第1注入角度の前記被処理物が前記ビーム照射範囲から前記ビーム非照射範囲に移った後に当該ビーム非照射範囲内で移動している間に、前記注入角度調整機構によって前記被処理物の前記第1注入角度から当該第1注入角度と異なる第2注入角度への変更を開始するステップと、
(c-1)前記ステップ(b)に続いて、前記駆動機構によって前記ビーム非照射範囲の端で前記被処理物の移動方向を反転させて前記ビーム照射範囲に向けて移動させるステップと、
(c-2)前記ステップ(b)に続いて、前記駆動機構によって前記被処理物が前記ビーム非照射範囲から前記ビーム照射範囲に戻る前に当該ビーム非照射範囲内で移動している間に、前記注入角度調整機構によって前記被処理物の前記第1注入角度から前記第2注入角度への変更を完了するステップと、
を実行するイオン注入装置。
【請求項2】
前記ビーム非照射範囲は、前記ビーム照射範囲の一端に隣接する第1ビーム非照射範囲および前記ビーム照射範囲の他端に隣接する第2ビーム非照射範囲を含む、請求項1に記載のイオン注入装置。
【請求項3】
前記イオンビームの一部が前記被処理物に照射される際に、当該被処理物に照射されない当該イオンビームの他の部分をビーム電流として測定するドーズ制御用のビーム電流測定器を備え、
前記ステップ(a)において、前記駆動機構は前記被処理物を前記ビーム照射範囲内で前記ビーム電流測定器によって測定された前記ビーム電流に応じて制御される速度で移動させる、
請求項1または2に記載のイオン注入装置。
【請求項4】
前記ステップ(b)において前記ビーム非照射範囲内で移動中の前記被処理物は、当該ビーム非照射範囲の端に対して前記駆動機構によって減速される、請求項1から3のいずれかに記載のイオン注入装置。
【請求項5】
前記ステップ(c-1)において前記ビーム非照射範囲内で移動中の前記被処理物は、前記ビーム照射範囲に向けて前記駆動機構によって加速される、請求項1から4のいずれかに記載のイオン注入装置。
【請求項6】
前記ステップ(c-1)において、前記被処理物は前記ビーム非照射範囲の端で所定の停止時間に亘って停止される、請求項1から5のいずれかに記載のイオン注入装置。
【請求項7】
前記ステップ(b)において前記被処理物が前記ビーム非照射範囲内を当該ビーム非照射範囲の端に向けて移動する時間、前記停止時間、前記ステップ(c-1)において前記被処理物が前記ビーム非照射範囲内を前記ビーム照射範囲に向けて移動する時間の合計は、前記注入角度調整機構による前記被処理物の前記第1注入角度から前記第2注入角度への変更に要する時間以上である、請求項6に記載のイオン注入装置。
【請求項8】
前記ステップ(b)において前記被処理物が前記ビーム非照射範囲内を当該ビーム非照射範囲の端に向けて移動する時間、前記停止時間、前記ステップ(c-1)において前記被処理物が前記ビーム非照射範囲内を前記ビーム照射範囲に向けて移動する時間の合計は、0.05秒以上かつ1秒以下である、請求項7に記載のイオン注入装置。
【請求項9】
前記停止時間は0秒より大きく0.45秒以下である、請求項8に記載のイオン注入装置。
【請求項10】
前記注入角度調整機構は、前記支持機構で支持された前記被処理物の被処理面の中央において当該被処理面に対して直交する法線を回転軸とする当該被処理物のツイスト角度を調整するツイスト角度調整機構を備え、
前記ツイスト角度調整機構は、前記第1注入角度におけるツイスト角度を第1ツイスト角度に調整し、前記第2注入角度におけるツイスト角度を前記第1ツイスト角度と異なる第2ツイスト角度に調整する、
請求項1から9のいずれかに記載のイオン注入装置。
【請求項11】
前記第1ツイスト角度と前記第2ツイスト角度の差は0度より大きく180度以下である、請求項10に記載のイオン注入装置。
【請求項12】
前記プロセッサが前記ステップ(a)~(c-2)をN回(Nは2以上の自然数)実行する場合、前記第1ツイスト角度と前記第2ツイスト角度の差はN回全てで等しい、請求項10または11に記載のイオン注入装置。
【請求項13】
前記Nは2以上かつ32以下の偶数である、請求項12に記載のイオン注入装置。
【請求項14】
前記第1ツイスト角度と前記第2ツイスト角度の差は、360度を前記Nで除した角度である、請求項13に記載のイオン注入装置。
【請求項15】
前記支持機構で支持された前記被処理物を静電引力によって保持する静電保持機構を備える、請求項1から14のいずれかに記載のイオン注入装置。
【請求項16】
電界および磁界の少なくとも一方によって前記イオンビームを偏向させるビーム偏向装置であって、当該イオンビームが前記被処理物に照射可能な照射可能方向に向かう照射可能状態、および、当該イオンビームが前記被処理物に照射不能な照射不能方向に向かう照射不能状態の間で切り替え可能なビーム偏向装置を備え、
前記プロセッサは、前記プログラムに基づいて、
(d)前記ステップ(b)において、前記駆動機構によって前記被処理物が前記ビーム非照射範囲内で移動している間であって、前記注入角度調整機構によって前記被処理物の前記第1注入角度から前記第2注入角度への変更が開始する前に、前記ビーム偏向装置を前記照射不能状態に切り替えるステップと、
(e)前記ステップ(c-1)において前記駆動機構によって前記被処理物が前記ビーム非照射範囲内で移動している間であって、前記ステップ(c-2)において前記注入角度調整機構によって前記被処理物の前記第1注入角度から前記第2注入角度への変更が完了した後に、前記ビーム偏向装置を前記照射可能状態に切り替えるステップと、
を実行する請求項1から15のいずれかに記載のイオン注入装置。
【請求項17】
前記ビーム偏向装置は前記イオンビームを挟んで対向する一対の電極を備え、当該一対の電極に印加する電圧の変更による電界変化に応じて前記照射可能状態および前記照射不能状態の間で切り替え可能である、請求項16に記載のイオン注入装置。
【請求項18】
前記ビーム偏向装置は前記イオンビームを挟んで対向する一対の磁極、当該一対の磁極を磁気的に接続するヨーク、前記磁極および前記ヨークの少なくとも一方に巻き付けられるコイルを備え、当該コイルに印加する電流の変更による磁界変化に応じて前記照射可能状態および前記照射不能状態の間で切り替え可能である、請求項16に記載のイオン注入装置。
【請求項19】
前記照射可能方向に向かう前記イオンビームの少なくとも一部を通過させるスリットが、前記ビーム偏向装置と前記支持機構の間に設けられ、
前記照射不能方向に向かう前記イオンビームは、前記スリット外に衝突して遮断される、
請求項16から18のいずれかに記載のイオン注入装置。
【請求項20】
前記照射可能方向と前記照射不能方向のなす偏向角度は2度と60度の間である、請求項16から19のいずれかに記載のイオン注入装置。
【請求項21】
前記照射可能方向と前記照射不能方向のなす偏向角度は3度と45度の間である、請求項20に記載のイオン注入装置。
【請求項22】
前記照射可能方向と前記照射不能方向のなす偏向角度は5度と30度の間である、請求項21に記載のイオン注入装置。
【請求項23】
電界および磁界の少なくとも一方によって前記被処理物に照射される前記イオンビームで所定の走査角度範囲を走査するビーム走査装置を備える、請求項16から22のいずれかに記載のイオン注入装置。
【請求項24】
前記ビーム偏向装置および前記ビーム走査装置は同じ装置であり、
前記走査角度範囲は前記照射可能方向を含む角度範囲であり、
前記走査角度範囲の最外角度が前記イオンビームが走査されない状態における基準軌道方向となす最大走査角度は、前記照射不能方向が前記基準軌道方向となす偏向角度より小さい、
請求項23に記載のイオン注入装置。
【請求項25】
前記イオンビームを物理的に遮断する遮断状態、および、前記イオンビームを通過させる非遮断状態の間で切り替え可能なビーム遮断機構を備える、請求項16から24のいずれかに記載のイオン注入装置。
【請求項26】
前記プロセッサは、前記ステップ(d)より後に前記ビーム遮断機構を前記遮断状態に切り替え、前記ステップ(e)より前に前記ビーム遮断機構を前記非遮断状態に切り替える、請求項25に記載のイオン注入装置。
【請求項27】
前記照射可能方向に向かう前記イオンビームのビーム電流を測定する第1ビーム電流測定器を備え、
前記プロセッサは、前記第1ビーム電流測定器によって第1所定値以上のビーム電流が測定されない場合、照射不能状態にあるものと判断して前記ビーム遮断機構を前記遮断状態に切り替える、
請求項25または26に記載のイオン注入装置。
【請求項28】
前記照射不能方向に向かう前記イオンビームのビーム電流を測定する第2ビーム電流測定器を備え、
前記プロセッサは、前記第2ビーム電流測定器によって第2所定値以上のビーム電流が測定される場合、照射不能状態にあるものと判断して前記ビーム遮断機構を前記遮断状態に切り替える、
請求項25から27のいずれかに記載のイオン注入装置。
【請求項29】
(a)イオンビームに対して第1注入角度に調整された被処理物を、当該被処理物の少なくとも一部に前記イオンビームが照射されるビーム照射範囲から、当該ビーム照射範囲の少なくとも一方の端に隣接し前記被処理物に前記イオンビームが照射されないビーム非照射範囲に向けて移動させるステップと、
(b)前記ステップ(a)に続いて、前記第1注入角度の前記被処理物が前記ビーム照射範囲から前記ビーム非照射範囲に移った後に当該ビーム非照射範囲内で移動している間に、前記被処理物の前記第1注入角度から前記第1注入角度と異なる第2注入角度への変更を開始するステップと、
(c-1)前記ステップ(b)に続いて、前記ビーム非照射範囲の端で前記被処理物の移動方向を反転させて前記ビーム照射範囲に向けて移動させるステップと、
(c-2)前記ステップ(b)に続いて、前記被処理物が前記ビーム非照射範囲から前記ビーム照射範囲に戻る前に当該ビーム非照射範囲内で移動している間に、当該被処理物の前記第1注入角度から前記第2注入角度への変更を完了するステップと、
を備えるイオン注入方法。
【請求項30】
前記ビーム非照射範囲は、前記ビーム照射範囲の一端に隣接する第1ビーム非照射範囲および前記ビーム照射範囲の他端に隣接する第2ビーム非照射範囲を含む、請求項29に記載のイオン注入方法。
【請求項31】
前記ステップ(a)において、前記イオンビームの一部が前記被処理物に照射される際に、当該被処理物に照射されない当該イオンビームの他の部分をビーム電流として測定し、前記被処理物は前記ビーム照射範囲内で測定された前記ビーム電流に応じて制御される速度で移動する、請求項29または30に記載のイオン注入方法。
【請求項32】
前記ステップ(b)において前記ビーム非照射範囲内で移動中の前記被処理物は、当該ビーム非照射範囲の端に対して減速される、請求項29から31のいずれかに記載のイオン注入方法。
【請求項33】
前記ステップ(c-1)において前記ビーム非照射範囲内で移動中の前記被処理物は、前記ビーム照射範囲に向けて加速される、請求項29から32のいずれかに記載のイオン注入方法。
【請求項34】
前記ステップ(c-1)において、前記被処理物は前記ビーム非照射範囲の端で所定の停止時間に亘って停止される、請求項29から33のいずれかに記載のイオン注入方法。
【請求項35】
前記ステップ(b)において前記被処理物が前記ビーム非照射範囲内を当該ビーム非照射範囲の端に向けて移動する時間、前記停止時間、前記ステップ(c-1)において前記被処理物が前記ビーム非照射範囲内を前記ビーム照射範囲に向けて移動する時間の合計は、前記被処理物の前記第1注入角度から前記第2注入角度への変更に要する時間以上である、請求項34に記載のイオン注入方法。
【請求項36】
(d)前記ステップ(b)において、前記被処理物が前記ビーム非照射範囲内で移動している間であって、前記被処理物の前記第1注入角度から前記第2注入角度への変更が開始する前に、電界および磁界の少なくとも一方を変化させることによって前記イオンビームを当該被処理物に照射不能な照射不能方向に偏向させるステップと、
(e)前記ステップ(c-1)において前記被処理物が前記ビーム非照射範囲内で移動している間であって、前記ステップ(c-2)において前記被処理物の前記第1注入角度から前記第2注入角度への変更が完了した後に、電界および磁界の少なくとも一方を変化させることによって前記イオンビームを当該被処理物に照射可能な照射可能方向に戻すステップと、
を備える請求項29から35のいずれかに記載のイオン注入方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン注入装置およびイオン注入方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、往復移動する同一のウェハに対して注入角度の異なるイオンビームを複数回に亘って照射するイオン注入装置が開示されている。イオンビームの照射方向が略一定の場合、当該イオンビームのウェハに対する注入角度は、例えばウェハのツイスト角度(回転角度)およびチルト角度(傾き角度)の組によって定まる。ウェハの往復移動範囲の端部はウェハにイオンビームが照射されないビーム非照射範囲となっているため、当該ビーム非照射範囲の端でもある往復移動範囲の端でウェハの移動方向を反転させる際にウェハのツイスト角度および/またはチルト角度を変更することで、ウェハをイオンビームに晒さない状態で注入角度を変更できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のイオン注入装置では、ウェハの往復移動範囲(ビーム非照射範囲)の端での移動方向反転の際にウェハのツイスト角度および/またはチルト角度を変更する必要があるため、ウェハがビーム非照射範囲に滞在する時間が長くなってしまう。ビーム非照射範囲内のウェハにはイオンビームが照射されないため、結果的にイオン注入処理の効率が低下する恐れがあった。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その例示的な目的の一つは、被処理物のイオンビームに対する注入角度を変更する際のビーム非照射範囲における滞在時間を短縮できるイオン注入装置等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のイオン注入装置は、イオンビームが照射される被処理物を支持する支持機構と、支持機構で支持された被処理物のイオンビームに対する注入角度を調整可能な注入角度調整機構と、支持機構をイオンビームと交差する方向に往復移動させる駆動機構であって、当該往復移動範囲が、被処理物の少なくとも一部にイオンビームが照射されるビーム照射範囲と、当該ビーム照射範囲の少なくとも一方の端に隣接し被処理物にイオンビームが照射されないビーム非照射範囲と、を含む駆動機構と、注入角度調整機構および駆動機構を制御するプロセッサと、プログラムが格納されたメモリと、を備える。プロセッサは、プログラムに基づいて、(a)注入角度調整機構によって第1注入角度に調整された被処理物を、駆動機構によってビーム照射範囲からビーム非照射範囲に向けて移動させるステップと、(b)ステップ(a)に続いて、駆動機構によって第1注入角度の被処理物がビーム照射範囲からビーム非照射範囲に移った後に当該ビーム非照射範囲内で移動している間に、注入角度調整機構によって被処理物の第1注入角度から当該第1注入角度と異なる第2注入角度への変更を開始するステップと、(c-1)ステップ(b)に続いて、駆動機構によってビーム非照射範囲の端で被処理物の移動方向を反転させてビーム照射範囲に向けて移動させるステップと、(c-2)ステップ(b)に続いて、駆動機構によって被処理物がビーム非照射範囲からビーム照射範囲に戻る前に当該ビーム非照射範囲内で移動している間に、注入角度調整機構によって被処理物の第1注入角度から第2注入角度への変更を完了するステップと、を実行する。
【0007】
この態様では、第1注入角度の被処理物がビーム照射範囲からビーム非照射範囲に移動した後で当該ビーム非照射範囲の移動方向反転端(以下では省略して反転端という)に到着する前に第2注入角度への変更が開始し、当該被処理物がビーム非照射範囲からビーム照射範囲に戻る前に当該ビーム非照射範囲内で移動している間に第2注入角度への変更が完了する。このように、ビーム非照射範囲内での被処理物の移動と注入角度の変更を並行して行うことで、被処理物のビーム非照射範囲における滞在時間を短縮できる。この結果、被処理物にイオンビームが照射されるビーム照射範囲における滞在時間が相対的に長くなるため、イオン注入処理の効率を向上できる。
【0008】
本発明の別の態様は、イオン注入方法である。この方法は、(a)イオンビームに対して第1注入角度に調整された被処理物を、当該被処理物の少なくとも一部にイオンビームが照射されるビーム照射範囲から、当該ビーム照射範囲の少なくとも一方の端に隣接し被処理物にイオンビームが照射されないビーム非照射範囲に向けて移動させるステップと、(b)ステップ(a)に続いて、第1注入角度の被処理物がビーム照射範囲からビーム非照射範囲に移った後に当該ビーム非照射範囲内で移動している間に、被処理物の第1注入角度から第1注入角度と異なる第2注入角度への変更を開始するステップと、(c-1)ステップ(b)に続いて、ビーム非照射範囲の端で被処理物の移動方向を反転させてビーム照射範囲に向けて移動させるステップと、(c-2)ステップ(b)に続いて、被処理物がビーム非照射範囲からビーム照射範囲に戻る前に当該ビーム非照射範囲内で移動している間に、当該被処理物の第1注入角度から第2注入角度への変更を完了するステップと、を備える。
【0009】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラム等の間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のある態様によれば、被処理物のイオンビームに対する注入角度を変更する際のビーム非照射範囲における滞在時間を短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】イオン注入装置の概略構成を示す上面図である。
【
図2】イオン注入装置の概略構成を示す側面図である。
【
図3】電界によって照射可能方向から照射不能方向に偏向されたイオンビームを模式的に示す。
【
図4】磁界によって照射可能方向から照射不能方向に偏向されたイオンビームを模式的に示す。
【
図10】注入処理室内の概略構成を示す正面図である。
【
図11】注入工程における注入処理室内を模式的に示す上面図である。
【
図12】準備工程における注入処理室内を模式的に示す上面図である。
【
図13】校正工程における注入処理室内を模式的に示す上面図である。
【
図14】非零のチルト角度による注入工程を模式的に示す図である。
【
図15】ツイスト角度調整機構によるツイスト角度の変化を模式的に示す。
【
図16】ツイスト角度が異なる非零チルト角度注入工程を模式的に示す。
【
図18】イオン注入装置の注入工程における基本動作を模式的に示すタイミングチャートである。
【
図19】ビーム走査機能とビーム偏向機能を一つのビーム走査装置で実現する例を模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。説明または図面において同一または同等の構成要素、部材、処理には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。図示される各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限りは限定的に解釈されるものではない。実施形態は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。実施形態に記載される全ての特徴やそれらの組合せは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0013】
図1は本発明の実施形態に係るイオン注入装置10の概略構成を示す上面図であり、
図2は当該イオン注入装置10の概略構成を示す側面図である。イオン注入装置10は、被処理物Wの表面にイオン注入処理を施す装置である。被処理物Wは、例えば半導体ウェハやディスプレイデバイス等の基板である。本明細書では被処理物Wを便宜的にウェハWともいうが、イオン注入処理の対象を半導体ウェハ等の特定の物体や物質に限定する意図ではない。
【0014】
イオン注入装置10は、イオンビームを一方向(以下では走査方向、ビーム走査方向、ビーム移動方向ともいう)に往復走査させ、ウェハWを走査方向と直交する方向(以下では往復運動方向、往復移動方向、ウェハ移動方向ともいう)に往復運動させることで、ウェハWの被処理面全体に亘ってイオンビームを照射できる。本明細書では、設計上のビームラインAに沿って進むイオンビームの進行方向(以下ではビーム進行方向ともいう)をz方向とし、z方向に垂直な面をxy平面とする。イオンビームを被処理物Wに対して走査する場合のイオンビームの走査方向(ビーム移動方向)をx方向とし、z方向およびx方向に垂直なy方向をウェハ移動方向とする。このように、イオンビームの往復走査はx方向に行われ、ウェハWの往復運動はy方向に行われる。
【0015】
イオン注入装置10は、イオン生成装置12と、ビームライン装置14と、注入処理室16と、ウェハ搬送装置18を備える。イオン生成装置12は、イオンビームをビームライン装置14に供給する。ビームライン装置14は、イオン生成装置12から供給されたイオンビームを注入処理室16まで輸送する。注入処理室16にはイオン注入対象であるウェハWが収容され、ビームライン装置14から供給されるイオンビームをウェハWに照射するイオン注入処理が施される。搬送装置としてのウェハ搬送装置18は、イオン注入処理前の未処理ウェハを注入処理室16に搬入し、イオン注入処理後の処理済ウェハを注入処理室16から搬出する。なお、図示は省略するが、イオン生成装置12、ビームライン装置14、注入処理室16、ウェハ搬送装置18に所望の真空環境を提供するための真空排気系がイオン注入装置10に設けられる。
【0016】
ビームライン装置14は、ビームラインAの上流側から順に、質量分析部20、ビームパーク装置24、ビーム整形部30、ビーム走査装置32、ビーム平行化部34、角度エネルギーフィルタ(AEF:Angular Energy Filter)36を備える。なお、ビームラインAの上流(側)とはイオン生成装置12に近い側であり、ビームラインAの下流(側)とは注入処理室16(またはビームストッパ46)に近い側である。
【0017】
イオン生成装置12の下流に設けられる質量分析部20は、イオン注入処理に使用される所望のイオン種を、イオン生成装置12が生成したイオンビームから質量分析を通じて選択または抽出する。質量分析部20は、質量分析磁石21と、質量分析レンズ22と、質量分析スリット23を備える。
【0018】
質量分析磁石21は、イオン生成装置12から引き出されたイオンビームに磁界を印加して、イオンの質量電荷比M=m/q(mは質量、qは電荷)の値に応じて異なる軌道にイオンビームを偏向させる。質量分析磁石21は、例えばイオンビームに-y方向の磁界を印加してイオンビームをx方向に偏向させる。質量分析磁石21の磁界強度は、所望の質量電荷比Mを有するイオン種が下流の質量分析スリット23を通過できるように調整される。
【0019】
質量分析レンズ22は、質量分析磁石21の下流(かつ質量分析スリット23の上流)に設けられ、イオンビームに対する収束力/発散力(またはイオンビームの収束度/発散度)を調整する。質量分析レンズ22は、質量分析スリット23を通過するイオンビームのビーム進行方向(z方向)における収束位置を調整し、質量分析部20の質量分解能M/dMを調整する。なお、質量分析レンズ22は、質量分析部20に設けられなくてもよい。
【0020】
質量分析スリット23は、質量分析レンズ22から離れた下流の位置に設けられる。質量分析スリット23は、x方向の幅が相対的に短くy方向の高さが相対的に長い矩形状の開口23aを有する。開口23aの幅方向(x方向)が質量分析磁石21によるビーム偏向方向(x方向)と一致するため、質量分析スリット23において質量電荷比Mに応じた所望のイオン種の選別に主に寄与するのは開口23aの幅(x方向の寸法)である。
【0021】
質量分析スリット23は、質量分解能の調整のためにスリット幅(開口23aの幅)を可変としてもよい。例えば、スリット幅方向(x方向)に相対移動可能な二枚の遮蔽体で質量分析スリット23を構成し、当該二枚の遮蔽体のスリット幅方向の間隔を変化させることでスリット幅を調整してもよい。また、質量分析スリット23は、スリット幅の異なる複数のスリットを切り替えることで、スリット幅を変更してもよい。
【0022】
ビームパーク装置24は、電界および磁界の少なくとも一方によってイオンビームを偏向させるビーム偏向装置を構成する。具体的には、ビームパーク装置24は、イオンビームがウェハWに照射可能な照射可能方向に向かう照射可能状態、および、イオンビームがウェハWに照射不能な照射不能方向に向かう照射不能状態の間で切り替え可能である。
図2の例では、質量分析スリット23の開口23a内に向かう矢印が照射可能方向を表し、質量分析スリット23の開口23a外のビームダンプ26に向かう矢印が照射不能方向を表す。ここで、質量分析スリット23は、照射可能方向に向かうイオンビームの少なくとも一部を通過させるスリットであり、ビーム偏向装置としてのビームパーク装置24と、後述する保持装置としてのウェハ保持装置52(
図2)の間に設けられる。
【0023】
照射不能状態にあるビームパーク装置24は、ビームラインAからイオンビームを一時的に退避し、下流の注入処理室16(またはウェハW)に向かうイオンビームをビームダンプ26によって遮蔽する。すなわち、照射不能方向に向かうイオンビームは、質量分析スリット23外のビームダンプ26に衝突して遮断される。ビームパーク装置24は、ビームラインA上の任意の位置に配置できるが、図示の例では質量分析レンズ22と質量分析スリット23の間に配置されている。前述のように質量分析レンズ22と質量分析スリット23の間には一定以上の距離が必要であるため、その間にビームパーク装置24を配置することで効率的にスペースを利用できる。この結果、他の場所にビームパーク装置24を配置する場合に比べて、ビームラインAを短くしてイオン注入装置10全体を小型化できる。
【0024】
図1および
図2に示されるビームパーク装置24は、電界によってイオンビームを偏向させるタイプのビーム偏向装置を構成する。このビームパーク装置24は、一対のパーク電極25(25a、25b)とビームダンプ26を備える。一対のパーク電極25a、25bは、ビームラインAを挟んでy方向に対向する。ビームパーク装置24は、一対のパーク電極25a、25bに印加する電圧の変更によるy方向の電界変化に応じて、イオンビームを照射可能方向と照射不能方向の間で切り替える。
【0025】
図2の例では、一対のパーク電極25a、25bに電圧が印加されていない時(すなわち電圧が略零の時)に、イオン注入処理に使用される所望のイオン種のビームが偏向されずに、照射可能方向に直進して質量分析スリット23の開口23a内を通過する照射可能状態となっている。一方、一対のパーク電極25a、25bに電圧が印加されている時(すなわち電圧が有意な非零の値の時)に、イオン注入処理に使用される所望のイオン種のビームが-y方向に偏向されて、照射不能方向に進んで質量分析スリット23の開口23a外のビームダンプ26に衝突して遮蔽される照射不能状態となっている。
【0026】
以上の例では、一対のパーク電極25a、25bに電圧が印加されていないイオンビームの非偏向時に当該イオンビームが照射可能方向に進み、一対のパーク電極25a、25bに電圧が印加されているイオンビームの偏向時に当該イオンビームが照射不能方向に進むが、非偏向時のイオンビームが照射不能方向に進み、偏向時のイオンビームが照射可能方向に進むようにしてもよい。この場合、例えば、
図2における質量分析スリット23の開口23aの位置にビームダンプ26を設け、
図2におけるビームダンプ26の位置に質量分析スリット23の開口23aを設ければよい。この場合、開口23aより下流の構成も、当該開口23aを通過する(偏向された)イオンビームのビームラインA上に設けられる。
【0027】
また、照射可能方向に進むイオンビームおよび照射不能方向に進むイオンビームが、一対のパーク電極25a、25bに印加される異なる電圧によって偏向されたものでもよい。例えば、照射可能方向(質量分析スリット23の開口23aが位置している方向)がビームパーク装置24へのイオンビームの入射方向に対して第1偏向角度Θ1をなし、照射不能方向(ビームダンプ26が位置している方向)がビームパーク装置24へのイオンビームの入射方向に対して第1偏向角度Θ1と有意に異なる第2偏向角度Θ2をなす場合、一対のパーク電極25a、25bに印加する電圧を、第1偏向角度Θ1を実現する第1電圧V1と第2偏向角度Θ2を実現する第2電圧V2(≠V1)の間で切り替えることによって、所望のイオン種のビームの進む方向を照射可能方向と照射不能方向の間で切り替えられる。
【0028】
以上のように一対のパーク電極25a、25bの対向方向はy方向であり、質量分析磁石21のビーム偏向方向(x方向)と直交する。このため、一対のパーク電極25a、25bに印加されるy方向の偏向電圧は、質量分析磁石21がx方向に沿って行う質量電荷比Mに応じた所望のイオン種の選別を阻害しない。
【0029】
図2の例では、第1パーク電極25aがビームラインAより重力方向(第1パーク電極25aおよび第2パーク電極25bの対向方向)上側に配置され、第2パーク電極25bがビームラインAより重力方向下側に配置される。第1パーク電極25aおよび第2パーク電極25bの下流に設けられるビームダンプ26は、ビームラインAより重力方向下側であって、質量分析スリット23の開口23aより重力方向下側に配置される。ビームダンプ26は、例えば、質量分析スリット23の開口23aが形成されていない壁状部分である。なお、ビームダンプ26を質量分析スリット23と別体に構成してもよい。
【0030】
図3は、一対のパーク電極25a、25bに印加された電圧によって、照射可能方向D1(またはビームラインA)から照射不能方向D2に偏向されたイオンビームIBを模式的に示す。図示されるイオンビームIBの偏向角度θは、照射可能方向D1と照射不能方向D2のなす角度である。ここで、イオンビームIBは一対のパーク電極25a、25b間の電界が作用する電極間およびその近傍の領域では曲がりながら進むが、イオンビームIBの偏向角度θは、イオンビームIBが曲がる前に直進していた照射可能方向D1の直線と、イオンビームIBが曲がった後に直進する照射不能方向D2の直線がなす角度と定義される。偏向角度θが小さすぎるとイオンビームIBの一部が質量分析スリット23の開口23a内に入り込んでしまう恐れがあり、偏向角度θが大きすぎるとビームダンプ26を構成する質量分析スリット23が大型化してしまう。本発明者の検討の結果、照射可能方向D1と照射不能方向D2のなす偏向角度θは2度と60度の間とするのが好ましい。また、偏向角度θは3度と45度の間とするのがより好ましく、5度と30度の間とするのが更に好ましい。
【0031】
図4は、一対の磁極25c、25d間に印加された磁界によって、照射可能方向D1(またはビームラインA)から照射不能方向D2に偏向されたイオンビームIBを模式的に示す。
図1~
図3に示されたビームパーク装置24が電界によってイオンビームを偏向させるタイプのビーム偏向装置を構成していたのに対し、
図4の変形例に係るビームパーク装置24は磁界によってイオンビームを偏向させるタイプのビーム偏向装置を構成する。
【0032】
このビームパーク装置24は、イオンビームIBを挟んでx方向に対向する一対の磁極25c、25dを備える。各磁極25c、25dは鉄等の磁性材料の芯であり、その外周にコイル25e、25fが巻き付けられている。各磁極25c、25dおよび各コイル25e、25fは、当該各コイル25e、25fに印加される電流の変更によってx方向の磁界変化をもたらす電磁石を構成する。各磁極25c、25d間のx方向の磁界によって、z方向に進行するイオンビームIBは-y方向のローレンツ力を受けるため、
図3と同様にイオンビームIBを照射可能方向D1と照射不能方向D2の間で切り替えられる。なお、各磁極25c、25dに巻き付けられる各コイル25e、25fに代えてまたは加えて、当該一対の磁極25c、25dを磁気的に接続する不図示のヨークにコイルを巻き付けてもよい。
【0033】
図4の例では、一対の磁極25c、25d間にx方向の磁界が印加されていない時に、イオン注入処理に使用される所望のイオン種のビームが偏向されずに、照射可能方向に直進して質量分析スリット23の開口23a内を通過する照射可能状態となっている。一方、一対の磁極25c、25d間にx方向の磁界が印加されている時に、イオン注入処理に使用される所望のイオン種のビームが-y方向に偏向されて、照射不能方向に進んで質量分析スリット23の開口23a外のビームダンプ26に衝突して遮蔽される照射不能状態となっている。
【0034】
以上の例では、一対の磁極25c、25d間に磁界が印加されていないイオンビームの非偏向時に当該イオンビームが照射可能方向に進み、一対の磁極25c、25d間に磁界が印加されているイオンビームの偏向時に当該イオンビームが照射不能方向に進むが、非偏向時のイオンビームが照射不能方向に進み、偏向時のイオンビームが照射可能方向に進むようにしてもよい。また、照射可能方向に進むイオンビームおよび照射不能方向に進むイオンビームが、一対の磁極25c、25d間に印加される異なる磁界によって偏向されたものでもよい。
【0035】
なお、
図1~3の実施形態や
図4の変形例に係るビームパーク装置24に代えてまたは加えて、質量分析部20における質量分析磁石21を、磁界によってイオンビームを照射可能方向と照射不能方向の間で偏向させるビーム偏向装置として利用してもよい。前述のように、質量分析磁石21は-y方向の磁界を印加してイオンビームをx方向に偏向させ、照射可能状態では所望の質量電荷比Mを有するイオン種が質量分析スリット23の開口23aを通過する。一方、照射不能状態では質量分析磁石21のy方向の磁界を変化させて、所望のイオン種を含むイオンビームを質量分析スリット23の開口23aから外れたx方向の位置に偏向させる。この場合、
図2の例では開口23aからy方向に外れた位置に設けられたビームダンプ26が、開口23aからx方向に外れた位置に設けられることになる。また、
図1~3の実施形態のような電界偏向タイプのビームパーク装置24と、
図4の変形例のような磁界偏向タイプのビームパーク装置24を併用して、イオンビームを照射可能方向と照射不能方向の間で偏向させてもよい。
【0036】
以下では、前述のような各種のビームパーク装置24およびビーム偏向装置として機能する質量分析部20における質量分析磁石21等を、ビーム偏向装置24と総称する。
【0037】
図1および
図2において、質量分析スリット23の下流にはビーム遮断機構としても機能するインジェクタファラデーカップ28が設けられる。インジェクタファラデーカップ28は、インジェクタ駆動部29の動作によってビームラインAに出し入れ可能である。インジェクタ駆動部29は、インジェクタファラデーカップ28をビームラインAの延びる方向(z方向)と直交する方向(例えばy方向)に移動させる。
図2の破線で示すように、インジェクタファラデーカップ28がビームラインA上に配置された場合、下流側に向かうイオンビームが物理的に遮断される遮断状態となる。一方、
図2の実線で示すように、インジェクタファラデーカップ28がビームラインA上から外された場合、下流側に向かうイオンビームが物理的に遮断されずに通過する非遮断状態となる。このように、インジェクタファラデーカップ28およびインジェクタ駆動部29は、イオンビームを物理的に遮断する遮断状態、および、イオンビームを通過させる非遮断状態の間で切り替え可能なビーム遮断機構として機能する。
【0038】
インジェクタファラデーカップ28は、質量分析部20によって質量分析されたイオンビームのビーム電流を計測する。質量分析磁石21の磁界強度を変化させながらビーム電流を測定することで、インジェクタファラデーカップ28はイオンビームの質量分析スペクトラムを取得できる。この質量分析スペクトラムは、例えば質量分析部20の質量分解能の算出に利用される。
【0039】
図5~
図9は、ビーム遮断機構の変形例を示す。各図のA(
図5A等)は、ビーム遮断機構がイオンビームIBを物理的に遮断する遮断状態を示し、各図のB(
図5B等)は、ビーム遮断機構がイオンビームIBを通過させる非遮断状態を示す。
【0040】
図5のビーム遮断機構は円形等の板状の遮蔽板28aである。
図5Aの遮断状態では、遮蔽板28aがビームラインA上に配置されており、イオンビームIBを物理的に遮断する。
図5Bの非遮断状態では、遮断状態から図示の矢印のようにビームラインAの延びる方向(z方向)と直交する方向(例えばx方向)の回転軸の周りに回転された遮蔽板28aがビームラインAから外れるため、イオンビームIBが通過できる。
【0041】
図6のビーム遮断機構は円形等の板状の遮蔽板28bである。
図6Aの遮断状態では、遮蔽板28bがビームラインA上に配置されており、イオンビームIBを物理的に遮断する。
図6Bの非遮断状態では、遮断状態から図示の矢印のようにビームラインAの延びる方向(z方向)と直交する方向(例えばy方向)に移動された遮蔽板28bがビームラインAから外れるため、イオンビームIBが通過できる。
【0042】
図7のビーム遮断機構は円板状の遮蔽板28cであり、その外周の少なくとも一箇所にイオンビームIBが通過可能な窓28dまたは孔が形成されている。
図7Aの遮断状態では、窓28dがビームラインAから外れているため、遮蔽板28cの窓28d以外の部分がイオンビームIBを物理的に遮断する。
図7Bの非遮断状態では、遮断状態から図示の矢印のようにビームラインAの延びる方向(z方向)と平行な方向の回転軸の周りに回転された遮蔽板28cの窓28dがビームラインA上に配置されるため、イオンビームIBが窓28dを通過できる。
【0043】
図8のビーム遮断機構は、ビームラインAの延びる方向(z方向)と直交する方向(例えばx方向)の回転軸28fの周りに回転可能な板状の遮蔽板28eである。
図8Aの遮断状態では、遮蔽板28eがビームラインA上に配置されており、イオンビームIBを物理的に遮断する。
図8Bの非遮断状態では、遮断状態から図示の矢印のように回転軸28fの周りに回転された遮蔽板28eがビームラインAから外れるため、イオンビームIBが通過できる。
【0044】
図9のビーム遮断機構は、イオンビームIBが通過可能な通路28hが形成され、ビームラインAの延びる方向(z方向)と直交する方向(例えばx方向)の回転軸の周りに回転可能なブロック状の遮蔽体28gである。
図9Aの遮断状態では、通路28hがビームラインAと交差または直交しているため、遮蔽体28gの通路28h以外の部分がイオンビームIBを物理的に遮断する。
図9Bの非遮断状態では、遮断状態から図示の矢印のように回転された遮蔽体28gの通路28hがビームラインA上に略平行に配置されるため、イオンビームIBが通路28hを通過できる。
【0045】
以下では、
図5~
図9のビーム遮断機構および
図1および
図2のインジェクタファラデーカップ28を、ビーム遮断機構28と総称する。
【0046】
図1および
図2において、ビーム整形部30は収束/発散四重極レンズ(Qレンズ)等の収束/発散装置を備え、質量分析部20を通過したイオンビームを所望の断面形状に整形する。例えば電界式の三段四重極レンズ(トリプレットQレンズともいう)で構成されるビーム整形部30は、三つの四重極レンズ30a、30b、30cを有する。三つのレンズ装置30a~30cを用いることで、ビーム整形部30はイオンビームの収束または発散をx方向およびy方向について独立に調整できる。ビーム整形部30は、磁界式のレンズ装置を含んでもよいし、電界と磁界の両方を利用してイオンビームを整形するレンズ装置を含んでもよい。
【0047】
ビーム走査装置32は、電界および磁界の少なくとも一方によってウェハWに照射されるイオンビーム(ビーム整形部30が整形したもの)でx方向の所定の走査角度範囲を往復走査する。後述するように、ビーム走査装置32は、ビームパーク装置24に代えてまたは加えて、イオンビームを照射可能方向と照射不能方向の間で偏向させるビーム偏向装置としても利用できる。ビーム走査装置32は、ビーム走査方向(x方向)に対向する走査電極対を備える。走査電極対は可変電圧電源(不図示)に接続されており、走査電極対の間に印加される電圧を周期的に変化させることで、電極間の電界を変化させてイオンビームをzx平面内の様々な角度に偏向させる。この結果、イオンビームがx方向の走査範囲全体に亘って走査される。
図1において、矢印Xによってイオンビームの走査方向および走査範囲が例示され、当該走査範囲におけるイオンビームの複数の軌道が一点鎖線で例示されている。
【0048】
ビーム平行化部34は、ビーム走査装置32によって走査されたイオンビームの進行方向を設計上のビームラインAの軌道と略平行に整える。ビーム平行化部34は、y方向の中央部にイオンビームの通過スリットが設けられた円弧状の複数の平行化レンズ電極を備える。平行化レンズ電極は、高圧電源(不図示)に接続されており、印加された電圧による電界をイオンビームに作用させて、イオンビームの進行方向をビームラインAと略平行に揃える。なお、ビーム平行化部34は他のタイプのビーム平行化装置、例えば磁界を利用する磁石装置で置換してもよい。また、ビーム平行化部34の下流には、イオンビームを加速または減速させるためのAD(Accel/Decel)コラム(不図示)を設けてもよい。
【0049】
角度エネルギーフィルタ(AEF)36はイオンビームのエネルギーを分析し、必要なエネルギーのイオンを下方(-y方向)に偏向して注入処理室16に導く。角度エネルギーフィルタ36は、高圧電源(不図示)に接続された電界偏向用のAEF電極対を備える。
図2において、上側(+y側)のAEF電極に正電圧を印加し、下側(-y側)のAEF電極に負電圧を印加することで、正電荷のイオンビームを下方に偏向させる(負電荷のイオンビームの場合は、上側のAEF電極に負電圧を印加し、下側のAEF電極に正電圧を印加する)。なお、角度エネルギーフィルタ36は、磁界偏向用の磁石装置で構成されてもよいし、電界偏向用のAEF電極対と磁界偏向用の磁石装置の組合せで構成されてもよい。
【0050】
以上のように、ビームライン装置14は、被処理物としてのウェハWに照射されるべきイオンビームを注入処理室16に供給する。注入処理室16は、ビームラインAの上流側から順に、エネルギースリット38、プラズマシャワー装置40、サイドカップ42(42R、42L)、プロファイラカップ44、ビームストッパ46を備える。
図2に示されるように、注入処理室16は、一枚または複数枚のウェハWを保持するプラテン駆動装置50を備える。
【0051】
エネルギースリット38は、角度エネルギーフィルタ36の下流側に設けられ、角度エネルギーフィルタ36と共にウェハWに入射するイオンビームのエネルギーを分析する。エネルギースリット38は、ビーム走査方向(x方向)に横長のスリットであるエネルギー制限スリット(EDS:Energy Defining Slit)である。エネルギースリット38は、エネルギーが所望の値または所望の範囲内のイオンビームをウェハWに向けて通過させ、それ以外のイオンビームを遮蔽する。
【0052】
プラズマシャワー装置40は、エネルギースリット38の下流側に配置される。プラズマシャワー装置40は、イオンビームのビーム電流量に応じてイオンビームおよび/またはウェハWの表面(ウェハ被処理面)に低エネルギー電子を供給し、イオン注入で生じるウェハ被処理面上の正電荷の蓄積(いわゆるチャージアップ)を抑制する。プラズマシャワー装置40は、例えば、イオンビームが通過するシャワーチューブと、当該シャワーチューブ内に電子を供給するプラズマ発生装置を含む。
【0053】
サイドカップ42(42R、42L)は、ウェハWへのイオン注入処理中にイオンビームのビーム電流を測定する。
図1に示されるように、サイドカップ42R、42Lは、ビームラインA上に配置されるウェハWから左右(x方向)にずれて配置されており、イオン注入時にウェハWに向かうイオンビームを遮らない位置に配置される。イオンビームは、ウェハWが位置する範囲を超えてx方向に走査されるため、イオン注入時においても走査されるビームの一部がサイドカップ42R、42Lに入射する。このように、イオン注入処理中のビーム電流量がサイドカップ42R、42Lによって計測される。イオン注入時にサイドカップ42R、42Lに入射するイオンビームは被処理物としてのウェハWに照射されないため、サイドカップ42R、42LはウェハWに照射不能な照射不能方向に向かうイオンビームのビーム電流を測定する第2ビーム電流測定器(第1ビーム電流測定器については後述する)を構成する。なお、照射不能方向に向かうイオンビームが衝突するビームダンプ26上にファラデーカップ等のビーム電流測定器を設けて第2ビーム電流測定器としてもよい。
【0054】
プロファイラカップ44は、ウェハ被処理面におけるビーム電流を測定する。プロファイラカップ44は、駆動部45の動作によってx方向に移動可能であり、イオン注入時にウェハWが位置する注入領域から待避され、ウェハWが注入領域にない時に当該注入領域に挿入される。x方向に駆動されるプロファイラカップ44は、x方向のビーム走査範囲の全体に亘ってビーム電流を測定できる。プロファイラカップ44は、ビーム走査方向(x方向)の複数の位置におけるビーム電流を同時に計測できるように、x方向に配列された複数のファラデーカップを備えてもよい。プロファイラカップ44に入射するイオンビームはイオン注入時に被処理物としてのウェハWが位置する注入領域に入射するため、プロファイラカップ44はウェハWに照射可能な照射可能方向に向かうイオンビームのビーム電流を測定する第1ビーム電流測定器を構成する。なお、照射可能方向に向かうイオンビームが衝突するビームストッパ46上にファラデーカップ等のビーム電流測定器を設けて第1ビーム電流測定器としてもよい。
【0055】
プロファイラカップ44は、第1プロファイラカップ44aおよび第2プロファイラカップ44bを備える。第1プロファイラカップ44aは、注入工程の前の準備工程で使用される通常測定用の第1ファラデーカップである。第2プロファイラカップ44bは、校正工程で使用される校正用の第2ファラデーカップである。第2プロファイラカップ44bの手前には遮蔽部材43が設けられ、注入工程や準備工程において第2プロファイラカップ44bにイオンビームが入射できないようになっている。なお、遮蔽部材43は、第2プロファイラカップ44bへのイオンビームの入射を遮るための専用部材でなくてもよく、注入処理室16内に設けられる任意の構造体の一部または全体でよい。
【0056】
第2プロファイラカップ44bは、第1プロファイラカップ44aに比べて測定精度が高いものでもよい。例えば、第2プロファイラカップ44bは、第1プロファイラカップ44aより高精度に構成部品が加工されることで、測定対象のイオンビームが入射する開口のサイズの公差が小さくなる。また、第2プロファイラカップ44bは、第1プロファイラカップ44aに比べて使用による測定精度の低下が遅くなるものでもよい。例えば、第2プロファイラカップ44bは、第1プロファイラカップ44aより耐消耗性が高い構成部品によって構成されてもよい。
【0057】
第1プロファイラカップ44aおよび第2プロファイラカップ44bは、互いに独立して駆動部45によって駆動可能である。第1プロファイラカップ44aは、駆動部45の第1駆動軸45aに沿ってx方向に移動可能である。第2プロファイラカップ44bは、駆動部45の第2駆動軸45bに沿ってx方向に移動可能である。第1プロファイラカップ44aおよび第2プロファイラカップ44bの移動方向は互いに略平行である。
【0058】
サイドカップ42およびプロファイラカップ44の少なくとも一つは、ビーム電流量を測定するための単一のファラデーカップを備えてもよいし、イオンビームの角度情報を測定するための角度計測器を備えてもよい。角度計測器は、例えば、スリットと、当該スリットからビーム進行方向(z方向)に離れて設けられる複数の電流検出部を備える。この角度計測器は、スリットを通過したイオンビームをスリット幅方向に並ぶ複数の電流検出部で計測することで、スリット幅方向のビームの角度成分または角度分布を測定できる。サイドカップ42およびプロファイラカップ44の少なくとも一つは、x方向の角度情報を測定可能な第1角度測定器および/またはy方向の角度情報を測定可能な第2角度測定器を備えてもよい。
【0059】
プラテン駆動装置50は、ウェハ保持装置52と、往復運動機構54と、ツイスト角度調整機構56と、チルト角度調整機構58を備える。
【0060】
イオンビームが照射されるウェハWを保持するためのウェハ保持装置52はウェハWを支持する支持機構を構成し、支持されたウェハWを静電引力によって保持する静電保持機構としての静電チャックを備える。ウェハ保持装置52は、イオン注入されるウェハWを加熱または冷却するための温度調整装置を備えてもよい。温度調整装置は、ウェハWを室温より20℃以上、50℃以上、100℃以上高い温度に加熱する加熱装置であってもよいし、ウェハWを室温より20℃以上、50℃以上、100℃以上低い温度に冷却する冷却装置であってもよい。ウェハWの温度は、ウェハWに注入されるイオンの濃度分布(注入プロファイル)やイオン注入によってウェハWに形成される結晶欠陥(注入ダメージ)に影響を及ぼす。室温より高温のウェハWにイオンビームを照射する処理は高温注入とも呼ばれる。また、室温より低温のウェハWにイオンビームを照射する処理は低温注入とも呼ばれる。
【0061】
往復運動機構54は、支持機構を含むウェハ保持装置52をイオンビームと交差する方向に往復移動させる駆動機構である。往復運動機構54は、ビーム走査方向(x方向)と直交する往復運動方向(y方向)に支持機構を含むウェハ保持装置52を往復運動させることで、ウェハ保持装置52で保持されたウェハWをy方向に往復運動させる。
図2において、矢印YによってウェハWの往復運動の方向および範囲が例示されている。
【0062】
注入角度調整機構を構成するツイスト角度調整機構56はウェハWの回転角を調整する機構であり、ウェハ被処理面の中央において当該ウェハ被処理面に対して直交する法線を回転軸としてウェハWを回転させることで、ウェハWの外周部に設けられるアライメントマークと基準位置の間のツイスト角度を調整する。ここで、ウェハWのアライメントマークは、例えばウェハWの外周部に設けられるノッチやオリフラであり、ウェハWの結晶方向やウェハWの周方向の角度位置の基準となる。ツイスト角度調整機構56は、ウェハ保持装置52と往復運動機構54の間に設けられ、ウェハ保持装置52と共に往復運動機構54によって往復運動される。
【0063】
注入角度調整機構を構成するチルト角度調整機構58はウェハWの傾きを調整する機構であり、ウェハ被処理面に向かうイオンビームの進行方向とウェハ被処理面の法線の間のチルト角度を調整する。
図2の例では、ウェハWの傾斜角のうちx方向の軸を回転の中心軸とする回転角がチルト角度としてチルト角度調整機構58によって調整される。チルト角度調整機構58は、往復運動機構54と注入処理室16の内壁の間に設けられており、往復運動機構54を含むプラテン駆動装置50全体をR方向(
図2)に回転させることでウェハWのチルト角度を調整する。
【0064】
プラテン駆動装置50は、イオンビームがウェハWに照射されるイオン注入位置と、ウェハ搬送装置18との間でウェハWが搬入または搬出される搬送位置との間でウェハWが移動可能となるようにウェハWを保持する。すなわち、プラテン駆動装置50は、ウェハ保持装置52で支持されたウェハWにイオンビームが照射されるイオン注入位置と、ウェハ搬送装置18がウェハ保持装置52との間でウェハWを搬送可能な搬送位置の間で、ウェハ保持装置52を移動させる移動装置を構成する。
図2は、ウェハWおよびウェハ保持装置52がイオン注入位置にある状態を示しており、ウェハ保持装置52はビームラインAと交差するようにウェハWを保持する。ウェハWの搬送位置は、ウェハ搬送装置18に設けられる搬送機構または搬送ロボットが搬送口48を通じてウェハWを搬入または搬出する際のウェハ保持装置52の位置に対応する。
【0065】
ビームストッパ46はビームラインAの最下流に設けられ、例えば注入処理室16の内壁に取り付けられる。ビームラインA上にウェハWおよびプロファイラカップ44が存在しない場合のイオンビームがビームストッパ46に入射する。ビームストッパ46は、注入処理室16とウェハ搬送装置18の間を接続する搬送口48の近くに配置され、
図2の例では搬送口48より鉛直下方(-y方向)の位置に設けられる。
【0066】
ビームストッパ46には、複数のチューニングカップ47(47a、47b、47c、47d)が設けられる。各チューニングカップ47は、ビームストッパ46に入射するイオンビームの一部のビーム電流を測定するファラデーカップである。複数のチューニングカップ47は、x方向に沿って離間して配置されている。各チューニングカップ47は、例えば、イオン注入位置におけるビーム電流をプロファイラカップ44によらず簡易的に測定するために用いられる。これらのチューニングカップ47および/または前述のサイドカップ42は、イオンビームの一部がウェハWに照射される際に、当該ウェハWに照射されない当該イオンビームの他の部分をビーム電流として測定するドーズ制御用のビーム電流測定器を構成する。
【0067】
イオン注入装置10は、その動作全般を制御する制御装置60を更に備える。制御装置60は、コンピュータの中央演算処理装置、メモリ、入力装置、出力装置、コンピュータに接続される周辺機器等のハードウェア資源と、それらを用いて実行されるソフトウェアの協働により実現される。コンピュータの種類や設置場所は問わず、制御装置60の各機能は、単一のコンピュータのハードウェア資源で実現してもよいし、複数のコンピュータに分散したハードウェア資源を組み合わせて実現してもよい。制御装置60の詳細については後述する。
【0068】
図10は、イオンビームBが照射されるウェハWの被処理面WSを正面から(-z方向から)見た正面図であり、注入処理室16内の概略構成を示す。イオンビームBは、矢印Xで示されるようにビーム走査装置32によってx方向に往復走査され、x方向に延びる照射範囲66を順次照射するスキャンビームSBを構成する。ここで、注入工程においてウェハWの被処理面WSにスキャンビームSBが入射してイオンが注入されるイオン注入位置70が細実線で示されている。
【0069】
イオンビームBは、ウェハWが位置する注入範囲62と、当該注入範囲62より外側のモニタ範囲64R、64Lを含む照射範囲66に亘って往復走査される。左右のモニタ範囲64R、64Lには、前述の左右のサイドカップ42R、42Lが配置される。左右のサイドカップ42R、42Lは、注入工程においてモニタ範囲64R、64LまでオーバースキャンされるイオンビームBを測定できる。イオン注入位置70のx方向の範囲は、注入範囲62と一致する。イオン注入位置70のy方向の範囲は、イオンビームBまたはスキャンビームSBのy方向の照射範囲と一致する。イオン注入位置70のz方向の位置は、ウェハWの被処理面WSのz方向の位置と一致する。
【0070】
前述のプロファイラカップ44は、注入工程において照射範囲66より外側の非照射範囲68(68R、68L)に待避されている。駆動部45が右側に配置された図示の例では、注入工程において第1プロファイラカップ44aおよび第2プロファイラカップ44bが右側の非照射範囲68Rに待避されている。なお、駆動部45が左側に配置される場合は、注入工程において第1プロファイラカップ44aおよび第2プロファイラカップ44bが左側の非照射範囲68Lに待避されてもよい。
【0071】
前述の遮蔽部材43も右側の非照射範囲68Rに設けられ、ビーム進行方向(z方向)において第2プロファイラカップ44bと重なるように配置されている。換言すれば、遮蔽部材43のビーム進行方向と直交する方向(x方向およびy方向)の範囲は、第2プロファイラカップ44bのビーム進行方向と直交する方向の範囲と少なくとも部分的に重複している。遮蔽部材43は、校正工程を除いて第2プロファイラカップ44bに向かうイオンビームBを遮蔽する。遮蔽部材43によって校正工程を除いてイオンビームBが第2プロファイラカップ44bに入射できないため、イオンビームBによる第2プロファイラカップ44bの消耗や汚損を防止できる。
【0072】
ウェハW(W1、W1’、W2、W2’)は、矢印Yで示されるようにプラテン駆動装置50の往復運動機構54によってy方向に往復駆動され、y方向に延びる往復移動範囲69を順次移動する。ここで、往復移動範囲69は、例えばウェハWの被処理面WSの中心(O1、O1’、O2、O2’)が通過するy方向の範囲である。往復移動範囲69の上端のy方向の位置は、上方の反転端まで移動したウェハW1の中心O1のy方向の位置に対応し、往復移動範囲69の下端のy方向の位置は、下方の反転端まで移動したウェハW2の中心O2のy方向の位置に対応する。
【0073】
往復移動範囲69は、ウェハWの被処理面WSの少なくとも一部にイオンビームBが照射されるビーム照射範囲65と、当該ビーム照射範囲65の少なくとも一方の端に隣接しウェハWの被処理面WSにイオンビームBが照射されないビーム非照射範囲67(67U、67D)を含む。
図10の例では、ビーム非照射範囲67は、ビーム照射範囲65の上端に隣接する第1ビーム非照射範囲67Uおよびビーム照射範囲65の下端に隣接する第2ビーム非照射範囲67Dを含む。
【0074】
ここで、第1ビーム非照射範囲67Uの上端は、往復移動範囲69の上方の反転端と一致し、第1ビーム非照射範囲67Uの下端(ビーム照射範囲65の上端)は、例えばウェハW1’の下端がイオン注入位置70を上方に離脱した際の被処理面WSの中心O1’のy方向の位置に対応する。また、第2ビーム非照射範囲67Dの下端は、往復移動範囲69の下方の反転端と一致し、第2ビーム非照射範囲67Dの上端(ビーム照射範囲65の下端)は、例えばウェハW2’の下端がイオン注入位置70を下方に離脱した際の被処理面WSの中心O2’のy方向の位置に対応する。
【0075】
続いて、制御装置60の制御の下で実行されるイオン注入装置10の注入工程、準備工程、校正工程について説明する。
【0076】
図11は、注入工程における注入処理室16内を模式的に示す上面図である。注入工程において、ウェハWは注入範囲62に配置され、プロファイラカップ44は非照射範囲68に配置される。第1プロファイラカップ44aは、破線で示される第1待避位置71に配置され、第2プロファイラカップ44bは、破線で示される第2待避位置72に配置される。第1待避位置71および第2待避位置72は、右側の非照射範囲68R内においてx方向に隣り合っている。第1待避位置71は、第2待避位置72よりイオン注入位置70に近い左側に位置する。遮蔽部材43は、第2待避位置72にある第2プロファイラカップ44bの入口を塞ぐように配置されている。
【0077】
注入工程ではサイドカップ42R、42Lによって常時ビーム電流を測定できる。一方、注入工程におけるプロファイラカップ44やチューニングカップ47は、ビーム電流の間欠的な測定しかできない。このため、注入工程ではサイドカップ42R、42Lによって測定されるビーム電流値に基づいて、ウェハWの被処理面WSに注入されるイオンのドーズ量が制御される。注入工程中にサイドカップ42R、42Lによって測定されるビーム電流値が変化した場合、往復運動機構54によってウェハWのy方向の往復運動の速度を変化させることで、ウェハWの被処理面WSのドーズ量分布が調整される。例えば、被処理面WS内で均一なドーズ量分布を実現したい場合、サイドカップ42R、42Lによってモニタされるビーム電流値に比例する速度でウェハWを往復運動させる。具体的には、モニタされたビーム電流値が増加した場合にはウェハWの往復運動を速くし、モニタされたビーム電流値が減少した場合にはウェハWの往復運度を遅くする。これによって、スキャンビームSBのビーム電流の変動に起因する被処理面WS内におけるドーズ量のばらつきを防止できる。なお、サイドカップ42R、42Lによって測定されたビーム電流値が所定の電流値から例えば±10%以上乖離した場合は、異常値としてイオン注入装置10を停止させてもよい。
【0078】
注入工程において、制御装置60はサイドカップ42R、42Lによって測定されたビーム電流値を取得し、それに基づいてプラテン駆動装置50の動作を制御する。例えば、制御装置60は、サイドカップ42R、42Lから取得したビーム電流値に比例する速度でウェハWがy方向に往復運動されるように、プラテン駆動装置50に対する速度指令を生成する。
【0079】
図12は、準備工程における注入処理室16内を模式的に示す上面図である。注入工程の前に実行される準備工程では、注入範囲62およびモニタ範囲64R、64L(すなわち照射範囲66全体)に亘ってスキャンビームSBのビーム電流が測定される。注入範囲62におけるビーム電流は、第1プロファイラカップ44aおよび/またはチューニングカップ47によって測定される。モニタ範囲64R、64Lにおけるビーム電流は、注入工程と同様にサイドカップ42R、42Lによって測定される。
【0080】
準備工程では第1プロファイラカップ44aが、第1待避位置71から一または複数の第1測定位置76にx方向に移動する。各第1測定位置76は、ビーム進行方向(z方向)においてイオン注入位置70(または注入範囲62)と重なり、注入工程における被処理面WSに一致する平面(以下では測定面MSともいう)上にある。従って、第1プロファイラカップ44aは、注入工程においてウェハWにイオンが注入されるイオン注入位置70に含まれる第1測定位置76でビーム電流を測定できる。第1プロファイラカップ44aは、x方向に沿って複数の第1測定位置76の間を移動しながらビーム電流を測定することで、イオン注入位置70(または測定面MS)におけるx方向のビーム電流分布を取得してもよい。
【0081】
複数のチューニングカップ47は、第1測定位置76と同様にビーム進行方向(z方向)においてイオン注入位置70(または注入範囲62)と重なるが、イオン注入位置70(または測定面MS)より下流側(+z方向側)に離れている。複数のチューニングカップ47は、第1プロファイラカップ44aのように待避位置と測定位置の間で移動させる必要がないため、第1プロファイラカップ44aに比べて簡易的に注入範囲62におけるビーム電流を測定できる。
【0082】
準備工程において、制御装置60は注入処理室16内の各種のファラデーカップ、具体的には、サイドカップ42R、42L、第1プロファイラカップ44a、複数のチューニングカップ47によって測定されたビーム電流値を取得する。制御装置60は、各ファラデーカップから取得した各ビーム電流値の間の比率を記憶し、注入工程においてサイドカップ42R、42Lによって測定されるモニタ範囲64R、64Lにおけるビーム電流値に基づいて、注入範囲62(イオン注入位置70または被処理面WS)における所望のビーム電流値を算出する。通常、各ファラデーカップで測定される各ビーム電流値の間の比率は、ビームライン装置14の光学系の構成や設定に依存し、イオン生成装置12から引き出されるイオンビームBのビーム電流が多少変動したとしても略一定である。つまり、準備工程においてビームライン装置14の光学系の構成や設定が決定されれば、その後の注入工程でも各ビーム電流値間の比率はほとんど変わらない。従って、準備工程において記憶された各ビーム電流値間の比率と、注入工程においてサイドカップ42R、42Lによって測定されるビーム電流値に基づいて、注入工程においてウェハWにイオンが注入されるイオン注入位置70(注入範囲62または被処理面WS)でのビーム電流値を算出できる。
【0083】
なお、
図11の注入工程および
図12の準備工程では、第2プロファイラカップ44bは使用されない。第2プロファイラカップ44bは、準備工程および注入工程を通じて、遮蔽部材43によってスキャンビームSBが遮られる第2待避位置72に留まる。第2プロファイラカップ44bは、第1プロファイラカップ44aのビーム電流の測定値を校正するための校正工程において使用される。校正工程は、未使用のイオン注入装置10の運用開始時や、第1プロファイラカップ44aのクリーニングや交換のためのメンテナンス時等に実行される。
【0084】
図13は、校正工程における注入処理室16内を模式的に示す上面図である。校正工程では第2プロファイラカップ44bが、第2待避位置72から一または複数の第2測定位置77にx方向に移動する。各第2測定位置77は、各第1測定位置76と同様にビーム進行方向(z方向)においてイオン注入位置70(または注入範囲62)と重なり、注入工程における被処理面WSに一致する平面(測定面MS)上にある。各第2測定位置77は、各第1測定位置76と少なくとも部分的に一致する。第2プロファイラカップ44bは、注入工程における被処理面WSと同じ位置でビーム電流を測定可能であり、準備工程における第1プロファイラカップ44aと同じ位置でビーム電流を測定可能である。第2プロファイラカップ44bは、x方向に沿って複数の第2測定位置77の間を移動しながらビーム電流を測定することで、イオン注入位置70(または測定面MS)におけるx方向のビーム電流分布を取得してもよい。
【0085】
校正工程における第1プロファイラカップ44aは、第1待避位置71と異なる第3待避位置73に配置されてもよい。図示の例では第3待避位置73が、左側の非照射範囲68L内にある。この場合の第3待避位置73は、注入範囲62を挟んで第1待避位置71および第2待避位置72と反対側にある。第1プロファイラカップ44aを第3待避位置73に待避させることで、第2プロファイラカップ44bが第2待避位置72から第2測定位置77に移動する際に第1プロファイラカップ44aと干渉しなくなる。
【0086】
校正工程では、第1プロファイラカップ44aおよび第2プロファイラカップ44bを別個または独立に駆動してもよいし同時に駆動してもよい。前者の独立駆動の場合、最初に第1プロファイラカップ44aが第1測定位置76の少なくとも一つに移動され、イオン注入位置70におけるビーム電流値を測定する。続いて第2プロファイラカップ44bが第2測定位置77の少なくとも一つに移動され、イオン注入位置70におけるビーム電流値を測定する。また、同時駆動の場合は、第1プロファイラカップ44aが第1待避位置71から第3待避位置73に向かってx方向に移動しながら、一または複数の第1測定位置76でビーム電流値を測定する。これと同時に、第2プロファイラカップ44bが第2待避位置72から第2測定位置77の少なくとも一つに移動してビーム電流値を測定する。以上のようにプロファイラカップ44を動作させることで、第1プロファイラカップ44aおよび第2プロファイラカップ44bによって、イオン注入位置70における同一の測定位置でスキャンビームSBを同一の条件で測定できる。
【0087】
制御装置60は、第1プロファイラカップ44aおよび第2プロファイラカップ44bによって測定されたビーム電流値に基づいて、第1プロファイラカップ44aの測定値を校正するための校正パラメータを決定する。校正工程において第1プロファイラカップ44aによって取得された第1ビーム電流測定値をI1とし、校正工程において第2プロファイラカップ44bによって取得された第2ビーム電流測定値をI2とした場合、校正パラメータkは第1ビーム電流測定値I1と第2ビーム電流測定値I2の比率I2/I1で表される(k=I2/I1)。校正パラメータkによって、準備工程において第1プロファイラカップ44aによって取得されるビーム電流測定値I1に基づいて、第2プロファイラカップ44bを基準とする校正されたビーム電流値I2をI2=k×I1によって算出できる。注入工程では、校正パラメータkによって校正されたビーム電流値k×I1を基準としてウェハWの被処理面WSにおけるイオンのドーズ量が制御される。
【0088】
続いて、ツイスト角度調整機構56およびチルト角度調整機構58によって構成される注入角度調整機構について説明する。この注入角度調整機構は、ウェハ保持装置52で支持されたウェハWのイオンビームに対する注入角度を調整する。本実施形態では、注入条件(注入角度)の異なる複数のイオン注入工程を同一のウェハWに対して連続的に実行する。以下では、注入角度調整機構が注入角度を4通りに調整し、当該各注入角度での4回に亘るイオン注入工程を同一のウェハWに対して連続的に実行する例を説明する。各注入角度は、チルト角度調整機構58によって設定される0度ではない一定のチルト角度θと、ツイスト角度調整機構56によって設定される互いに異なる4通りのツイスト角度φ(例えば、0度、90度、180度、270度)の組によって定まる。なお、注入角度が異なる各イオン注入工程では、ウェハWの被処理面WS内のドーズ量分布が所望の不均一形状となるように設定されてもよく、被処理面WS内の領域毎に照射されるイオンビームの電流密度分布が変化するようにイオン注入条件が設定されてもよい。
【0089】
図14は、非零のチルト角度θによる注入工程を模式的に示す図である。ここでは、ゲート80、ドレイン領域83、ソース領域84が被処理面WSに形成されたウェハWがイオンビームBに対してチルト角度θで傾けられ、ゲート80の下部に照射されたイオンビームBがハロー注入領域85を形成する様子が示されている。ウェハWのチルト角度θは、ゲート80の下部に効果的にイオンビームBが照射されるように、数度以上、好ましくは十度以上に設定される。なお、このような「非零チルト角度注入工程」は、ハロー注入領域とは異なる任意のイオン注入領域を形成するために実行されてもよい。
【0090】
図15(a)~(d)は、ツイスト角度調整機構56によるツイスト角度φの変化を模式的に示す。ツイスト角度φは、ウェハWの被処理面の中心を通る法線(
図15の紙面に垂直な直線)を回転軸とするウェハWの回転角度である。ツイスト角度φは、例えばウェハWの外周部に設けられるアライメントマーク88の回転位置(ノッチ位置)に対応する。
図15(a)においてアライメントマーク88がウェハWの下端にある状態のツイスト角度φをφ
0とすれば、
図15(b)においてアライメントマーク88がウェハWの左端にある状態のツイスト角度φはφ
0+90度であり、
図15(c)においてアライメントマーク88がウェハWの上端にある状態のツイスト角度φはφ
0+180度であり、
図15(d)においてアライメントマーク88がウェハWの右端にある状態のツイスト角度φはφ
0+270度である。なお、
図15(a)~(d)では、第1方向に延在するゲート81と、第1方向と直交する第2方向に延在するゲート82がウェハWの被処理面に形成されている。このウェハWはツイスト角度調整機構56によって4通りのツイスト角度φ
0、φ
0+90度、φ
0+180度、φ
0+270度に順次切り替えられ、当該各ツイスト角度φでの4回に亘るイオン注入工程が同一のウェハWに対して連続的に実行される。
【0091】
以下では、ツイスト角度調整機構56がウェハWのツイスト角度φを切り替える際の、切り替え前のツイスト角度φを第1ツイスト角度φ1と総称し、切り替え後のツイスト角度φを第2ツイスト角度φ2と総称する。また、第1ツイスト角度φ1(および所定チルト角度θ
0)による注入角度を第1注入角度と総称し、第2ツイスト角度φ2(および所定チルト角度θ
0)による注入角度を第2注入角度と総称する。第1ツイスト角度φ1と第2ツイスト角度φ2の差は0度より大きく180度以下とするのが好ましい。
図15の例において(a)→(b)→(c)→(d)のようにツイスト角度φが順に切り替えられる場合、第1ツイスト角度φ1と第2ツイスト角度φ2の差は90度で一定である。このように、同一のウェハWに対してN通り(Nは2以上の自然数であり、
図15ではN=4)のツイスト角度φを適用する場合、第1ツイスト角度φ1と第2ツイスト角度φ2の差はN回全てで等しい(
図15では90度で一定)のが好ましい。この時、第1ツイスト角度φ1と第2ツイスト角度φ2の差は、360度をNで除した角度となる(
図15では、360度÷4=90度)。また、ツイスト角度φの適用数Nは2以上かつ32以下の偶数とするのが好ましい。
【0092】
図16(a)~(d)は、
図15(a)~(d)のようにツイスト角度φが異なる非零チルト角度注入工程を模式的に示す。ウェハWのチルト角度θを非零のθ
0に保持した状態で、
図15(a)~(d)のようにツイスト角度φを切り替えながら4回に亘る注入工程を実行することで、延在方向が互いに異なるゲート81およびゲート82の両方の直下にハロー注入領域85a~85dを形成できる。
【0093】
図16(a)では、ゲート81の延在方向(第1方向)がx方向となるツイスト角度φ
0に設定されることで、ゲート81の一方の隣接領域(
図16(a)におけるゲート81の左下領域)に第1ハロー注入領域85aが形成される。
図16(b)では、ゲート82の延在方向(第2方向)がx方向となるツイスト角度φ
0+90度に切り替えられることで、ゲート82の一方の隣接領域(
図16(b)におけるゲート82の左下領域)に第2ハロー注入領域85bが形成される。
図16(c)では、ゲート81の延在方向(第1方向)が
図16(a)とは逆のx方向となるツイスト角度φ
0+180度に切り替えられることで、ゲート81の他方の隣接領域(
図16(c)におけるゲート81の左下領域、かつ、
図16(a)におけるゲート81の右上領域)に第3ハロー注入領域85cが形成される。
図16(d)では、ゲート82の延在方向(第2方向)が
図16(b)とは逆のx方向となるツイスト角度φ
0+270度に切り替えられることで、ゲート82の他方の隣接領域(
図16(d)におけるゲート82の左下領域、かつ、
図16(b)におけるゲート82の右上領域)に第4ハロー注入領域85dが形成される。
【0094】
以上のように、ツイスト角度φを変えながら非零チルト角度注入工程を複数回に亘って実行することで、異なる方向に延びるゲートの両側のドレイン領域およびソース領域に対応する箇所にハロー注入領域を形成できる。
【0095】
図14~
図16では、チルト角度調整機構58によって設定されるチルト角度θと、ツイスト角度調整機構56によって設定されるツイスト角度φの組によって、ウェハWの注入角度が切り替えられたが、他のパラメータによってウェハWの注入角度を切り替えてもよい。例えば、
図10において、ウェハWの被処理面WS内(
図10における紙面内)で交差する二つの回転軸(例えば、
図10における上下方向(y方向)の回転軸と左右方向(x方向)の回転軸)の周りの回転角度の組によってウェハWの注入角度を切り替えてもよい。
【0096】
図17は、イオン注入装置10の機能ブロック図である。イオン注入装置10の制御装置60は、プロセッサ61およびメモリ63を備える。プロセッサ61は、ビーム偏向装置24(ビームパーク装置24等)、ビーム遮断機構28(インジェクタファラデーカップ28等)、ビーム走査装置32、ビーム電流測定器42、44、47(サイドカップ42、プロファイラカップ44、チューニングカップ47等)、プラテン駆動装置50(ツイスト角度調整機構56およびチルト角度調整機構58によって構成される注入角度調整機構と、往復運動機構54を含む)等のイオン注入装置10の各部を制御する。メモリ63は、プロセッサ61によって実行されるプログラムを格納する。プロセッサ61は、メモリ63に格納されたプログラムに基づいてイオン注入装置10の各部を制御し、以下の一連のステップを実行する。
【0097】
図18は、プロセッサ61がメモリ63に格納されたプログラムに基づいて実行するイオン注入装置10の注入工程における基本動作を模式的に示すタイミングチャートである。
図18における各行は、イオン注入装置10の被処理物としてのウェハWのy方向の速度、注入角度調整機構によるウェハWの注入角度、ビーム偏向装置24およびビーム遮断機構28の動作状態を模式的に示す。
【0098】
また、
図18における各列は、イオン注入装置10の基本動作を構成する一連のステップを経時的に示す。各ステップは
図10におけるウェハWのy方向の位置または範囲に対応しており、具体的には
図18の左から順に、1列目の「ビーム照射範囲」ではウェハWがビーム照射範囲65内を一方のビーム非照射範囲67に向かって移動しており、2列目の「ビーム非照射範囲」ではウェハWが一方のビーム非照射範囲67内を往復移動範囲69の反転端に向かって移動しており、3列目の「反転端」ではウェハWが往復移動範囲69の反転端で停止しており、4列目の「ビーム非照射範囲」ではウェハWが一方のビーム非照射範囲67内をビーム照射範囲65に向かって移動しており、5列目の「ビーム照射範囲」ではウェハWがビーム照射範囲65内を他方のビーム非照射範囲67に向かって移動している。
【0099】
図18の1列目の「ビーム照射範囲」におけるステップ(a)では、プロセッサ61が、注入角度調整機構によって第1注入角度に調整されたウェハWを、往復運動機構54によってビーム照射範囲65から一方のビーム非照射範囲67(67Uまたは67D)に向けて移動させる。第1注入角度は例えば
図16(a)の状態に対応し、ツイスト角度φ
0およびチルト角度θ
0でビーム照射範囲65内を移動中のウェハWに対してイオンビームBが照射される。この「ビーム照射範囲」におけるウェハWのy方向の速度v
yは一定でもよいし、
図11の注入工程に関して説明したように均一なドーズ量分布を実現するためにビーム電流測定器42、44、47によって測定されるビーム電流値に応じて制御される速度としてもよい。例えば、v
yの大きさは注入工程においてサイドカップ42R、42Lによって測定されるビーム電流値に比例する。または、v
yの大きさはウェハ被処理面内に所望のドーズ不均一性を実現するために、測定されるビーム電流値とウェハWのy方向の位置に応じて制御されてもよい。
【0100】
図18の2列目の「ビーム非照射範囲」におけるステップ(b)では、プロセッサ61が、ステップ(a)に続いて、往復運動機構54によって第1注入角度のウェハWがビーム照射範囲65から一方のビーム非照射範囲67に移った後に当該ビーム非照射範囲67内で移動している間に、注入角度調整機構によってウェハWの第1注入角度から第2注入角度への変更を開始する。ステップ(b)は、図示のようにウェハWが一方のビーム非照射範囲67に入ってから所定時間後に実行されてもよいし、ウェハWが一方のビーム非照射範囲67に入った直後に実行されてもよい。なお、ウェハWの注入角度を切り替えるためのステップ(b)は、ウェハWがビーム非照射範囲67に入る度に実行されてもよいし、ウェハWがビーム照射範囲65の移動を所定の複数回行った後に入るビーム非照射範囲67において実行されてもよい。
【0101】
ここで、ウェハWがビーム非照射範囲67に入ったことは、
図11におけるチューニングカップ47によって検知してもよい。ウェハWがビーム照射範囲65内にいる間は、チューニングカップ47の少なくとも一つがウェハWによって遮蔽されているが、ウェハWがビーム非照射範囲67に移った後は全てのチューニングカップ47にスキャンビームSBが入射する。従って、各チューニングカップ47のビーム電流の測定値をモニタすることで、ウェハWがビーム非照射範囲67に入ったことを検知できる。
【0102】
また、ステップ(b)は、図示のようにウェハWが往復移動範囲69の反転端に到着する前に実行されるのが好ましい。ステップ(b)において一方のビーム非照射範囲67内で移動中のウェハWは、当該ビーム非照射範囲67の端でもある往復移動範囲69の反転端に対して往復運動機構54によって減速(vy→0)される。図示の例では「ビーム非照射範囲」の全時間に亘ってウェハWが減速されているが、「ビーム非照射範囲」の一部の時間に亘ってウェハWを減速してもよい。
【0103】
図18の3列目の「反転端」におけるステップ(c-1)では、プロセッサ61が、ステップ(b)に続いて、往復運動機構54によって一方のビーム非照射範囲67の反転端でウェハWの移動方向を反転させてビーム照射範囲65に向けて移動させる。図示されるように、ステップ(c-1)では、ウェハWが一方のビーム非照射範囲67の反転端で所定の停止時間に亘って停止されてもよい。この間の「ウェハ速度」は「0」になっている。一方、ステップ(b)で開始された注入角度調整機構によるウェハWの第1注入角度から第2注入角度への変更は、ウェハWが反転端で停止している間も継続している。また、ステップ(c-1)におけるウェハWの移動方向反転後に一方のビーム非照射範囲67内で移動中のウェハWは、ビーム照射範囲65に向けて往復運動機構54によって加速(0→-v
y)される。図示の例では「ビーム非照射範囲」の全時間に亘ってウェハWが加速されているが、「ビーム非照射範囲」の一部の時間に亘ってウェハWを加速してもよい。
【0104】
図18の4列目の「ビーム非照射範囲」におけるステップ(c-2)では、ステップ(b)に続いて、往復運動機構54によってウェハWが一方のビーム非照射範囲67からビーム照射範囲65に戻る前に当該ビーム非照射範囲67内で移動している間に、プロセッサ61が、ステップ(b)で開始された注入角度調整機構によるウェハWの第1注入角度から第2注入角度への変更を完了する。なお、注入角度調整機構によるウェハWの第1注入角度から第2注入角度への変更は、2列目の「ビーム非照射範囲」でウェハWが一方のビーム非照射範囲67内を往復移動範囲69の反転端に向かって移動している間や、3列目の「反転端」でウェハWが往復移動範囲69の反転端で停止している間に完了してもよい。
【0105】
図18の5列目の「ビーム照射範囲」では、プロセッサ61が、ステップ(c-2)によって第2注入角度に調整されたウェハWを、往復運動機構54によってビーム照射範囲65内を他方のビーム非照射範囲67(67Dまたは67U)に向けて移動させる。第2注入角度は例えば
図16(b)の状態に対応し、ツイスト角度φ
0+90度およびチルト角度θ
0でビーム照射範囲65内を移動中のウェハWに対してイオンビームBが照射される。この「ビーム照射範囲」におけるウェハWのy方向の速度-v
y(1列目の「ビーム照射範囲」と逆方向の速度であることを示す「-」が付されている)は一定でもよいし、
図11の注入工程に関して説明したように均一なドーズ量分布を実現するためにビーム電流測定器42、44、47によって測定されるビーム電流値に応じて制御される速度としてもよい。例えば、-v
yの大きさは注入工程においてサイドカップ42R、42Lによって測定されるビーム電流値に比例する。または、-v
yの大きさはウェハ被処理面内に所望のドーズ不均一性を実現するために、測定されるビーム電流値とウェハWのy方向の位置に応じて制御されてもよい。
【0106】
本実施形態によれば、第1注入角度のウェハWがビーム照射範囲65からビーム非照射範囲67に移動して当該ビーム非照射範囲67の反転端に到着する前に第2注入角度への変更が開始し(ステップ(b))、当該ウェハWがビーム非照射範囲67からビーム照射範囲65に戻る前に当該ビーム非照射範囲67内で移動または停止している間に第2注入角度への変更が完了する(ステップ(c-2))。このように、ビーム非照射範囲67内でのウェハWの移動および移動方向反転と注入角度の変更を並行して行うことで、ウェハWのビーム非照射範囲67における滞在時間を短縮できる。この結果、ウェハWにスキャンビームSBが照射されるビーム照射範囲65の滞在時間が相対的に長くなるため、イオン注入処理の効率を向上できる。
【0107】
ウェハWがビーム非照射範囲67に滞在している間に第1注入角度から第2注入角度への変更を完了させるために、ウェハWがビーム非照射範囲67内を当該ビーム非照射範囲67の反転端に向けて移動する時間T1、反転端における停止時間T2、ウェハWがビーム非照射範囲67内をビーム照射範囲65に向けて移動する時間T3の合計は、注入角度調整機構によるウェハWの第1注入角度から第2注入角度への変更に要する時間以上とするのが好ましく、具体的にはT1+T2+T3は0.05秒以上かつ1秒以下、0.2秒以上かつ0.8秒以下、0.3秒以上かつ0.6秒以下等とするのが好ましい。特に、反転端における停止時間T2は0秒より大きく0.45秒以下とするのが好ましい。
【0108】
ウェハWを反転端で停止することなく注入角度調整機構によるウェハWの第1注入角度から第2注入角度への変更を完了できる場合は、ウェハWのビーム非照射範囲67における滞在時間T1+T2+T3を最小化できる(T2=0)。一方、ウェハWのビーム非照射範囲67における往復移動時間T1+T3だけでは注入角度調整機構によるウェハWの第1注入角度から第2注入角度への変更を完了できない場合は、注入角度の変更に追加的に必要な時間T2だけウェハWを反転端で停止させればよい。換言すれば、ウェハWの反転端における停止時間T2を、注入角度の変更を完了させるという観点で柔軟に設定できる。
【0109】
図18の3行目の「ビーム偏向装置」および4行目の「ビーム遮断機構」は、ビーム非照射範囲67内のウェハWの注入角度を変更している間に、スキャンビームSBがウェハWに誤って照射されないようにイオンビームBを確実に退避させるためにプロセッサ61によって制御される。「ビーム偏向装置」における「ON」および「OFF」は、ビーム偏向装置24の稼働状態を示し、「ON」の時はビーム偏向装置24がイオンビームBを照射不能方向に偏向し、ビーム偏向装置24が稼働していない「OFF」の時はイオンビームBが照射可能方向に進む。「ビーム遮断機構」における「ON」および「OFF」は、ビーム遮断機構28の稼働状態を示し、「ON」の時はビーム遮断機構28がイオンビームBを物理的に遮断する遮断状態にあり、「OFF」の時はビーム遮断機構28がイオンビームBを通過させる非遮断状態にある。
【0110】
ステップ(d)では、プロセッサ61が、ステップ(b)において往復運動機構54によってウェハWがビーム非照射範囲67内で移動している間であって、注入角度調整機構によってウェハWの第1注入角度から第2注入角度への変更が開始する前に、ビーム偏向装置24を照射不能状態「ON」に切り替える。ステップ(f)では、プロセッサ61が、ステップ(d)より後にビーム遮断機構28を遮断状態「ON」に切り替える。ステップ(f)は、ステップ(b)において注入角度調整機構によってウェハWの第1注入角度から第2注入角度への変更が開始する前に実行されるのが好ましい。ビーム偏向装置24によって偏向されたイオンビームBは照射不能方向に進み、更にビーム偏向装置24が正常に動作しない場合に備えてビーム遮断機構28がイオンビームBを物理的に遮断するため、ビーム非照射範囲67内のウェハWの注入角度を変更している間に、スキャンビームSBがウェハWに誤って照射されることを確実に防止できる。
【0111】
ステップ(e)では、プロセッサ61が、ステップ(c-1)において往復運動機構54によってウェハWがビーム非照射範囲67内で移動している間であって、ステップ(c-2)において注入角度調整機構によってウェハWの第1注入角度から第2注入角度への変更が完了した後に、ビーム偏向装置24を照射可能状態「OFF」に切り替える。ステップ(g)では、プロセッサ61が、ステップ(e)より前にビーム遮断機構28を非遮断状態「OFF」に切り替える。ステップ(g)は、ステップ(c-2)において注入角度調整機構によってウェハWの第1注入角度から第2注入角度への変更が完了した後に実行されるのが好ましい。
【0112】
続いて、上記のイオン注入装置10の注入工程における基本動作の変形例を説明する。
【0113】
第1の変形例では、ビーム遮断機構28に加えて、第1ビーム電流測定器46および/または第2ビーム電流測定器42が利用される。プロセッサ61は、照射可能方向に向かうイオンビームのビーム電流を測定する第1ビーム電流測定器46(ビーム電流測定器として構成されるビームストッパ46等)によって第1所定値以上のビーム電流が測定されない場合、照射不能状態にあるものと判断してビーム遮断機構28を遮断状態に切り替えてもよい。すなわち、第1ビーム電流測定器46で測定されたビーム電流が第1所定値未満の場合は、注入処理室16におけるイオン注入処理に使用されるイオンビームの強度が不足している恐れがあるため、ビーム遮断機構28を遮断状態に切り替えた上でイオン注入処理を中断または中止する。なお、第1ビーム電流測定器46に加えてまたは代えて、第2ビーム電流測定器42(サイドカップ42等)やチューニングカップ47によって第1所定値またはそれに相当する所定値以上のビーム電流が測定されない場合、照射不能状態にあるものと判断してビーム遮断機構28を遮断状態に切り替えてもよい。
【0114】
プロセッサ61は、照射不能方向に向かうイオンビームのビーム電流を測定する第2ビーム電流測定器42(サイドカップ42等)によって第2所定値以上のビーム電流が測定される場合、照射不能状態にあるものと判断してビーム遮断機構28を遮断状態に切り替えてもよい。すなわち、第2ビーム電流測定器42で測定されたビーム電流が第2所定値以上の場合は、注入処理室16におけるイオン注入処理に使用されないイオンビームの強度が過剰である恐れがあるため、ビーム遮断機構28を遮断状態に切り替えた上でイオン注入処理を中断または中止する。なお、第2所定値は、そこから換算されるビーム電流密度が第1所定値から換算されるビーム電流密度より大きくなるように設定するのが好ましい。
【0115】
第2の変形例では、ビーム走査装置32がビーム偏向装置24としても利用される。例えば、
図1および
図2においてビーム偏向装置24として機能していたビームパーク装置24に代えてまたは加えて、ビーム走査装置32によってビーム偏向装置24の機能を実現する。この場合、ビーム偏向装置24およびビーム走査装置32は同じ装置である。
図19は、ビーム走査装置32としてのビーム走査機能とビーム偏向装置24としてのビーム偏向機能を、一つのビーム走査装置32で実現する例を模式的に示す。
【0116】
ビーム走査装置32は、本来のビーム走査機能を実現する場合は、ウェハWに照射されるイオンビームでx方向の所定の走査角度範囲(
図10における照射範囲66)を往復走査する。ここで、走査角度範囲は照射可能方向(ウェハに到達可能なビームラインAの方向)を含む角度範囲であり、図示されるθ2は走査角度範囲の最外角度が基準軌道方向(ビーム走査装置32の走査電極対の間に印加される電圧が略零の非走査状態におけるビームラインAの方向)となす最大走査角度である。換言すれば、ビーム走査装置32の走査角度範囲は、基準軌道方向に対して±θ2の範囲である。
【0117】
一方、ビーム走査装置32がビーム偏向装置24として機能する場合は、イオンビームを走査角度範囲外の照射不能方向に偏向させる。ここで、イオンビームの偏向角度θ1は、照射不能方向が基準軌道方向となす角度であり、最大走査角度θ2より大きい(θ1>θ2)。偏向角度θ1で偏向されたイオンビームの進路上にはウェハWが配置されないため、偏向角度θ1はイオンビームがウェハWに照射不能な照射不能方向となる。なお、ビーム偏向装置24として機能するビーム走査装置32は、イオンビームを-θ1の偏向角度に偏向させてもよい。また、偏向角度θ1(または-θ1)で偏向されたイオンビームの進路上に、イオンビームが衝突して遮蔽されるビームダンプ等を設けてもよい。
【0118】
図18の注入工程の基本動作における「ビーム照射範囲」では、ビーム走査装置32は本来のビーム走査機能を実現し、ウェハWに照射されるイオンビームで走査角度範囲(-θ2~+θ2)を往復走査する。また、
図18の注入工程の基本動作における「ビーム非照射範囲」および「反転端」では、ビーム走査装置32はビーム偏向装置24として機能し、イオンビームを走査角度範囲外の照射不能方向(θ1または-θ1)に偏向させる。
【0119】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明した。実施形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0120】
なお、実施形態で説明した各装置の機能構成はハードウェア資源またはソフトウェア資源により、あるいはハードウェア資源とソフトウェア資源の協働により実現できる。ハードウェア資源としてプロセッサ、ROM、RAM、その他のLSIを利用できる。ソフトウェア資源としてオペレーティングシステム、アプリケーション等のプログラムを利用できる。
【符号の説明】
【0121】
10 イオン注入装置、12 イオン生成装置、14 ビームライン装置、16 注入処理室、23 質量分析スリット、24 ビーム偏向装置、28 ビーム遮断機構、32 ビーム走査装置、42 第2ビーム電流測定器、46 第1ビーム電流測定器、47 チューニングカップ、50 プラテン駆動装置、52 ウェハ保持装置、54 往復運動機構、56 ツイスト角度調整機構、58 チルト角度調整機構、60 制御装置、61 プロセッサ、63 メモリ、65 ビーム照射範囲、67 ビーム非照射範囲、69 往復移動範囲。