(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023118400
(43)【公開日】2023-08-25
(54)【発明の名称】細胞構造体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20230818BHJP
C12N 5/077 20100101ALN20230818BHJP
C12N 5/078 20100101ALN20230818BHJP
C12N 5/09 20100101ALN20230818BHJP
【FI】
C12N5/071
C12N5/077
C12N5/078
C12N5/09
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022021336
(22)【出願日】2022-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】北野 史朗
(72)【発明者】
【氏名】塚本 圭
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 瑞穂
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AC20
4B065BC46
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】より生体に近い状態のがん細胞を含む細胞構造体及びその製造方法の提供。
【解決手段】表面に脈管内皮細胞からなる内皮細胞層が形成されており、内部に前記脈管内皮細胞以外の細胞(但し、がん細胞を除く)が存在しており、前記内皮細胞層の外表面にがん細胞が存在している、細胞構造体、前記内皮細胞層の外表面に前記がん細胞は、細胞塊として存在しており、前記細胞塊の前記細胞構造体の厚み方向の断面形状の楕円率が3.0以下である、前記細胞構造体、及び、表面に脈管内皮細胞からなる内皮細胞層が形成されており、内部に前記脈管内皮細胞以外の細胞(但し、がん細胞を除く)が存在している立体構造体を製造した後、前記立体構造体に、がん細胞を播種して培養することによって、前記内皮細胞層の外表面にがん細胞が存在している細胞構造体を製造する、細胞構造体の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に脈管内皮細胞からなる内皮細胞層が形成されており、内部に前記脈管内皮細胞以外の細胞(但し、がん細胞を除く)が存在しており、
前記内皮細胞層の外表面にがん細胞が存在している、細胞構造体。
【請求項2】
前記内部に、少なくとも間質細胞を含む、請求項1に記載の細胞構造体。
【請求項3】
前記間質細胞が、繊維芽細胞、樹状細胞、マクロファージ、及び肥満細胞からなる群より選択される1種以上である、請求項2に記載の細胞構造体。
【請求項4】
前記内部に、上皮細胞、神経細胞、心筋細胞、肝細胞、膵島細胞、平滑筋細胞、間葉系幹細胞及び骨細胞からなる群より選択される1種以上を含有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の細胞構造体。
【請求項5】
前記細胞構造体を構成する全細胞のうち、前記脈管内皮細胞と前記がん細胞以外の細胞の総数に対する、前記脈管内皮細胞の数の比率が6%以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載の細胞構造体。
【請求項6】
前記内皮細胞層の外表面に前記がん細胞は、細胞塊として存在しており、
前記細胞塊の前記細胞構造体の厚み方向の断面形状の楕円率が3.0以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の細胞構造体。
【請求項7】
細胞構造体の製造方法であって、
表面に脈管内皮細胞からなる内皮細胞層が形成されており、内部に前記脈管内皮細胞以外の細胞(但し、がん細胞を除く)が存在している立体構造体を、
(A)細胞が、カチオン性物質、細胞外マトリックス成分、及び高分子電解質を少なくとも含む溶液に懸濁されている混合物を得る工程と、
(B)得られた前記混合物から前記細胞を集め、基材上に細胞集合体を形成する工程と、
(C)前記細胞を培養して、細胞構造体を得る工程と、
を含み、かつ前記工程(A)及び前記工程(B)を少なくとも1回行った後、前記工程(C)を行う方法によって製造した後、
前記立体構造体に、がん細胞を播種して培養することによって、前記内皮細胞層の外表面にがん細胞が存在している細胞構造体を製造し、
前記(A)における前記細胞は、少なくとも脈管内皮細胞を含むが、がん細胞は含まず、かつ、前記脈管内皮細胞以外の細胞の総数に対する、前記脈管内皮細胞の数の比率が6%以上である、
細胞構造体の製造方法。
【請求項8】
前記(A)における前記細胞が、少なくとも間質細胞を含む、請求項7に記載の細胞構造体の製造方法。
【請求項9】
前記間質細胞が、繊維芽細胞、樹状細胞、マクロファージ、及び肥満細胞からなる群より選択される1種以上である、請求項8に記載の細胞構造体の製造方法。
【請求項10】
前記(A)における前記細胞の総数が、理論細胞層数が15~25層となる個数である、請求項7~9のいずれか一項に記載の細胞構造体の製造方法。
【請求項11】
前記内皮細胞層の外表面に、前記がん細胞が、前記細胞構造体の厚み方向の断面形状の楕円率が3.0以下である細胞塊として存在している細胞構造体を製造する、請求項7~10のいずれか一項に記載の細胞構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がん細胞の性質や機能の解析に用いられる細胞構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、再生医療はもとより、生体に近い環境が求められる薬剤のアッセイ系において、平板上で成育させた細胞よりも立体的に組織化させた三次元細胞組織を使用することの優位性が示されている(非特許文献1)。そのため、生体外で細胞の三次元組織を構築するための様々な技術が開発されている。なかでも、血管等の脈管は、生体内の組織が正常に機能するために必要な酸素や栄養、ホルモン等の供給に重要な役割を果たしており、その機能のさらなる解明が望まれている。また、特に、血管やリンパ管等の脈管は、がん(腫瘍)の成長や、浸潤、転移等の悪性化及び進行に深く係わっていることが知られており、抗がん剤の評価等には、がん細胞に加えて脈管構造が形成された細胞構造体が利用されている(特許文献1)。
【0003】
脈管構造が形成された細胞構造体の製造方法としては、例えば、血管内皮細胞と間質細胞との細胞混合物を調製し、当該細胞混合物から細胞層を形成する工程と、形成された細胞層を、細胞外マトリックス成分を含有する溶液に接触させる工程と、を交互に繰り返すことにより、連続的に細胞層を積層する方法が挙げられる(特許文献2)。また、血管内皮細胞と間質細胞を、それぞれ2種類の細胞外マトリックス成分で交互に被覆した被覆細胞を調製し、これらを積層させて互いに接着させた後、培養することによって脈管網が構築された細胞構造体を形成する方法がある(特許文献3)。さらに、血管内皮細胞と間質細胞を、カチオン性緩衝液、細胞外マトリックス成分、及び高分子電解質を少なくとも含む溶液に懸濁した細胞混合物を基材上に集めた後に培養することによって、脈管網が構築された細胞構造体を形成する方法もある(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2017/183673号
【特許文献2】特許第4919464号公報
【特許文献3】特許第5850419号公報
【特許文献4】特許第6427836号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Imamura et al, ONCOLOGY REPORTS, 2015, vol.33, p.1837-1843.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の解決すべき課題は、より生体に近い状態のがん細胞を含む細胞構造体及びその製造方法を提供すること等である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決せんと鋭意研究を重ねたところ、細胞構造体を構築させる原料となる細胞の総数に占める脈管内皮細胞の比率を、従来の脈管網を形成させるよりもはるかに多くすることにより、表面に脈管内皮細胞からなる細胞層が形成され、内部に脈管内皮細胞以外の細胞が存在している細胞構造体が形成されることを見出した。さらに、当該細胞構造体にがん細胞を接触させると、表面の脈管内皮細胞層にがん細胞接触した状態の細胞構造体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明の第一態様に係る細胞構造体は、表面に脈管内皮細胞からなる内皮細胞層が形成されており、内部に前記脈管内皮細胞以外の細胞(但し、がん細胞を除く)が存在しており、前記内皮細胞層の外表面にがん細胞が存在している、細胞構造体である。
本発明の第二態様に係る細胞構造体の製造方法は、表面に脈管内皮細胞からなる内皮細胞層が形成されており、内部に前記脈管内皮細胞以外の細胞(但し、がん細胞を除く)が存在している立体構造体を、(A)細胞が、カチオン性物質、細胞外マトリックス成分、及び高分子電解質を少なくとも含む溶液に懸濁されている混合物を得る工程と、(B)得られた前記混合物から前記細胞を集め、基材上に細胞集合体を形成する工程と、(C)前記細胞を培養して、細胞構造体を得る工程と、を含み、かつ前記工程(A)及び前記工程(B)を少なくとも1回行った後、前記工程(C)を行う方法によって製造した後、前記立体構造体に、がん細胞を播種して培養することによって、前記内皮細胞層の外表面にがん細胞が存在している細胞構造体を製造し、前記(A)における前記細胞は、少なくとも脈管内皮細胞を含むが、がん細胞は含まず、かつ、前記脈管内皮細胞以外の細胞の総数に対する、前記脈管内皮細胞の数の比率が6%以上である、細胞構造体の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る細胞構造体は、内皮細胞層が表面に露出しており、間質細胞等の内皮細胞以外の細胞が内皮細胞層で被覆されている立体構造体の表面にがん細胞が存在している、ユニークな構造である。このため、本発明に係る細胞構造体は、血管やリンパ管内に存在しているがん細胞のモデルとして、がん細胞の脈管内における挙動や機能の解明や抗がん剤等の薬効成分の評価等に好適に用いられる。
また、本発明に係る細胞構造体を製造する方法により、前記細胞構造体を効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1において、N
E比率(GFP-HUVECのNHDFに対する比率)が10%(左列)と1.5%(右列)の細胞から製造された各細胞構造体のCD31染色とEpCAM染色の染色像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態及び本願明細書において、「細胞構造体」とは、複数の細胞層が積層された3次元構造体である。「細胞層」とは、細胞構造体の厚み方向の断面の切片画像において、細胞核を認識できる倍率、つまり、染色した切片の厚みの全体が視野に入る倍率で観察した際に、厚み方向と直交する方向に存在し、厚み方向に対して細胞核が重ならないで存在する一群の細胞及び間質によって構成される層のことである。また、「層状」とは、異なる細胞層が厚み方向に2層以上重ねられているという意味である。
【0012】
<細胞構造体>
本発明の一実施形態に係る細胞構造体は、表面に脈管内皮細胞からなる内皮細胞層が形成されており、内部に前記脈管内皮細胞以外の細胞(但し、がん細胞を除く)が存在しており、前記内皮細胞層の外表面にがん細胞が存在している、細胞構造体である。
【0013】
従来の脈管網とがん細胞を有する細胞構造体では、間質細胞層の内部に脈管が網状に形成されており、がん細胞は間質細胞層内に存在している。脈管内部にがん細胞が存在している細胞構造体を構築することは困難であり、このため、脈管内部におけるがん細胞の挙動や機能を解析することは困難であった。これに対して、本発明に係る細胞構造体は、構造体表面が脈管内皮細胞で被覆されており、従来の脈管網含有細胞構造体が反転したような構造であり、構造体表面の脈管内皮細胞層にがん細胞が接着している。このように、本発明に係る細胞構造体では、通常は脈管内部の内皮細胞層又はその付近に存在しているがん細胞が、細胞構造体の表面又はその付近に存在しており、解析が容易である。このため、本発明に係る細胞構造体は、脈管及びこれを介したがん細胞の生理現象を解析したり、評価するための細胞モデルとして好適である。当該生理現象としては、例えば、がん細胞の浸潤、血中遊離がん細胞(CTC)の血管内挙動等の、内皮細胞の基底膜上におけるがん細胞の生理現象が挙げられる。
【0014】
本発明に係る細胞構造体に含まれる内皮細胞としては、血管内皮細胞であってもよく、リンパ管内皮細胞であってもよい。また、血管内皮細胞とリンパ管内皮細胞の両方を含んでいてもよい。
【0015】
本発明に係る細胞構造体に含まれる内皮細胞以外の細胞の細胞種としては、内皮細胞が互いに近接して細胞構造体の表面層を形成することを阻害しないものであれば特に限定されるものではない。本発明に係る細胞構造体中の内皮細胞以外の細胞としては、内皮細胞層が本来の機能を保持しやすいことから、生体内において脈管の周辺組織を構成する細胞であることが好ましい。このような細胞としては、間質細胞が好ましく、繊維芽細胞、免疫細胞、及び肥満細胞からなる群より選択される1種以上がより好ましく、繊維芽細胞、樹状細胞、マクロファージ、繊維芽細胞からなる群より選択される1種以上がさらに好ましい。細胞構造体に含まれる内皮細胞以外の細胞は、1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。細胞構造体に含まれる内皮細胞以外の細胞としては、内皮細胞と同種の生物種由来の細胞であってもよく、異種の生物種由来の細胞であってもよい。
【0016】
本発明に係る細胞構造体としては、内皮細胞以外の細胞として少なくとも繊維芽細胞を含むものが好ましく、血管内皮細胞と繊維芽細胞を含むもの、リンパ管内皮細胞と繊維芽細胞を含むもの、又は血管内皮細胞とリンパ管内皮細胞と繊維芽細胞を含むものがより好ましい。特に、本発明に係る細胞構造体としては、血管内皮細胞と繊維芽細胞から構成されるもの、リンパ管内皮細胞と繊維芽細胞から構成されるもの、又は血管内皮細胞とリンパ管内皮細胞と繊維芽細胞から構成されるものが好ましい。
【0017】
本発明に係る細胞構造体は、内皮細胞以外の細胞として、間質細胞とがん細胞以外の細胞を含んでいてもよい。当該細胞としては、例えば、上皮細胞、神経細胞、心筋細胞、肝細胞、膵島細胞、間葉系幹細胞、平滑筋細胞、骨細胞等が挙げられる。
【0018】
本発明に係る細胞構造体は、脈管内皮細胞からなる内皮細胞層で被覆された立体構造体の表面に、がん細胞が存在している。当該がん細胞は、内皮細胞層の少なくとも一部を被覆するような細胞層であってもよいが、細胞塊として存在していることが好ましい。がん細胞層よりも、生体内と同様に三次元構造を形成しているがん細胞塊のほうが、より生体内のがん組織のモデルとして優れている(非特許文献1)。
【0019】
本発明に係る細胞構造体の内皮細胞層の外表面に存在しているがん細胞が、細胞塊を形成しているか否かは、その細胞構造体の厚み方向の断面形状で判断できる。細胞構造体中のがん細胞の集合体の細胞構造体の厚み方向の断面形状は、細胞構造体の厚み方向の切片の細胞画像から求めることができる。細胞構造体中のがん細胞の集合体の細胞構造体の厚み方向の断面形状の楕円率は、層状の細胞では大きくなり、塊状になるほど小さくなる。本発明に係る細胞構造体の内皮細胞層の外表面に存在しているがん細胞の形状としては、細胞構造体の厚み方向の断面形状の楕円率が3.0以下であることが好ましい。
【0020】
なお、細胞構造体中のがん細胞の細胞構造体の厚み方向の断面形状の楕円率は、細胞構造体の厚み方向の切片のがん細胞の染色画像を、ImageJなどの画像解析ソフトウェアを用いて求めることができる。また、本発明及び本願明細書において、細胞構造体中のがん細胞の楕円率とは、細胞構造体の厚み方向の切片画像中のがん細胞の集合体を包み込む最小楕円の長径と短径の比(長径/短径比)を意味する。
【0021】
がん細胞とは、体細胞から派生して無限の増殖能を獲得した細胞である。がん細胞の由来となるがんとしては、例えば、乳がん(例えば、浸潤性乳管がん、非浸潤性乳管がん、炎症性乳がん等)、前立腺がん(例えば、ホルモン依存性前立腺がん、ホルモン非依存性前立腺がん等)、膵がん(例えば、膵管がん等)、胃がん(例えば、乳頭腺がん、粘液性腺がん、腺扁平上皮がん等)、肺がん(例えば、非小細胞肺がん、小細胞肺がん、悪性中皮腫等)、結腸がん(例えば、消化管間質腫瘍等)、直腸がん(例えば、消化管間質腫瘍等)、大腸がん(例えば、家族性大腸がん、遺伝性非ポリポーシス大腸がん、消化管間質腫瘍等)、小腸がん(例えば、非ホジキンリンパ腫、消化管間質腫瘍等)、食道がん、十二指腸がん、舌がん、咽頭がん(例えば、上咽頭がん、中咽頭がん、下咽頭がん等)、頭頚部がん、唾液腺がん、脳腫瘍(例えば、松果体星細胞腫瘍、毛様細胞性星細胞腫、びまん性星細胞腫、退形成性星細胞腫等)、神経鞘腫、肝臓がん(例えば、原発性肝がん、肝外胆管がん等)、腎臓がん(例えば、腎細胞がん、腎盂と尿管の移行上皮がん等)、胆嚢がん、胆管がん、膵臓がん、肝がん、子宮内膜がん、子宮頸がん、卵巣がん(例、上皮性卵巣がん、性腺外胚細胞腫瘍、卵巣性胚細胞腫瘍、卵巣低悪性度腫瘍等)、膀胱がん、尿道がん、皮膚がん(例えば、眼内(眼)黒色腫、メルケル細胞がん等)、血管腫、悪性リンパ腫(例えば、細網肉腫、リンパ肉腫、ホジキン病等)、メラノーマ(悪性黒色腫)、甲状腺がん(例えば、甲状腺髄様がん等)、副甲状腺がん、鼻腔がん、副鼻腔がん、骨腫瘍(例えば、骨肉腫、ユーイング腫瘍、子宮肉腫、軟部組織肉腫等)、転移性髄芽腫、血管線維腫、隆起性皮膚線維肉腫、網膜肉腫、陰茎癌、精巣腫瘍、小児固形がん(例えば、ウィルムス腫瘍、小児腎腫瘍等)、カポジ肉腫、AIDSに起因するカポジ肉腫、上顎洞腫瘍、線維性組織球腫、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、慢性骨髄増殖性疾患、白血病(例えば、急性骨髄性白血病、急性リンパ芽球性白血病等)等が挙げられ、これらに限定されない。
【0022】
本発明に係る細胞構造体を構成する細胞の種類は特に限定されるものではなく、動物から採取された細胞であってもよく、動物から採取された細胞を培養した細胞であってもよく、動物から採取された細胞に各種処理を施した細胞であってもよく、培養細胞株であってもよい。動物から採取された細胞の場合、採取部位は特に限定されず、骨、筋肉、内臓、神経、脳、骨、皮膚、血液などに由来する体細胞であってもよく、生殖細胞であってもよく、胚性幹細胞(ES細胞)であってもよく、組織幹細胞であってもよい。また、本発明に係る細胞構造体を構成する細胞が由来する生物種は特に限定されるものではなく、例えば、ヒト、サル、イヌ、ネコ、ウサギ、ブタ、ウシ、マウス、ラット等の動物に由来する細胞を用いることができる。動物から採取された細胞を培養した細胞としては、初代培養細胞であってもよく、継代培養細胞であってもよい。また、各種処理を施した細胞としては、誘導多能性幹細胞(iPS細胞)や、分化誘導後の細胞が挙げられる。また、本発明に係る細胞構造体は、同種の生物種由来の細胞のみから構成されていてもよく、複数種類の生物種由来の細胞により構成されていてもよい。
【0023】
本発明に係る細胞構造体中の脈管内皮細胞の数は、細胞構造体を構成する全細胞のうち、脈管内皮細胞とがん細胞以外の細胞の総数に対する、脈管内皮細胞の数の比率が6%以上となる数であることが好ましい。具体的には、細胞構造体を構成する全細胞の数をNA、脈管内皮細胞の数をNE、がん細胞の数をNCとした場合に、NE/(NA-NC-NE)×100(%)(以下、NE比率ということがある)が6%以上であることが好ましい。NE比率が6%以上であることにより、脈管内皮細胞とそれ以外の細胞の存在比が適切となり、脈管内皮細胞による層がその他の細胞集団を内包した立体構造体が形成できる。なお、NE比率が1~3%程度の場合、従来の脈管網が形成された細胞構造体が得られるが、NE比率が5%以上になると、おそらくは脈管内皮細胞同志の凝集が起こりやすくなるために、脈管の形成が困難になる。
【0024】
本発明に係る細胞構造体中の脈管内皮細胞の数は、NE比率が6%以上となる細胞数であれば特に限定されるものではないが、脈管内皮細胞が構造体表面に層を形成しやすいことから、NE比率が10~40%となる細胞数が好ましく、NE比率が10~3.0%となる細胞数がより好ましく、NE比率が10~25%となる細胞数がさらに好ましく、NE比率が10~20%となる細胞数がよりさらに好ましい。
【0025】
本発明に係る細胞構造体を構成する総細胞数は、特に限定されるものではないが、脈管内皮細胞による層がその他の細胞集団を内包した構造が形成されやすいこと、及び形成された細胞構造体の観察がしやすいことなどの点から、理論細胞層数が15~25層となる細胞数であることが好ましい。なお、理論細胞層数とは、下記式で表される。式中、「NA」は細胞構造体を構成する全細胞の数、「NS」は同種の基材に同種の細胞で細胞構造体を構築した際の1層当たりの細胞数、「L」が理論細胞層数を表す。
【0026】
[L]=[NA]/[NS]
【0027】
NSは、実験的に求めることができる。例えば、96ウェルプレートを基材とし、0.9×106個のNHDFと0.0135×106個のHUVECで細胞懸濁液を調製した場合、構築された細胞構造体では、20核程度が縦に積み重なっている。そこで、96ウェルプレートを基材とし、NHDFとHUVECを用いて構築された細胞構造体の場合、NAは、0.45×105個とする。
【0028】
一般的に、本発明に係る細胞構造体は、細胞培養容器中に構築される。当該細胞培養容器としては、細胞構造体の構築が可能であり、かつ構築された細胞構造体の培養が可能な容器であれば特に限定されるものではない。
【0029】
<細胞構造体の製造方法>
本発明の一実施形態に係る細胞構造体の製造方法は、細胞構造体の製造方法であって、表面に脈管内皮細胞からなる内皮細胞層が形成されており、内部に前記脈管内皮細胞以外の細胞(但し、がん細胞を除く)が存在している立体構造体(すなわち、脈管内皮細胞からなる内皮細胞層で被覆された立体構造体)を製造した後、前記立体構造体に、がん細胞を播種して培養することによって、前記内皮細胞層の外表面にがん細胞が存在している細胞構造体を製造する方法である。表面に脈管内皮細胞からなる内皮細胞層が形成されており、内部に前記脈管内皮細胞以外の細胞(但し、がん細胞を除く)が存在している立体構造体は、工程(A)及び工程(B)を少なくとも1回行った後、工程(C)を行うことによって製造する。
(A)細胞が、カチオン性物質、細胞外マトリックス成分、及び高分子電解質を少なくとも含む溶液に懸濁されている混合物を得る工程と、
(B)得られた前記混合物から前記細胞を集め、基材上に細胞集合体を形成する工程と、
(C)前記細胞を培養して、細胞構造体を得る工程。
【0030】
本明細書及び本願明細書において、「細胞集合体」とは細胞の集団を意味する。細胞集合体には、遠心分離や濾過などによって得られる細胞の沈殿体(細胞を沈殿させることにより形成された細胞の集合体)も含まれる。ある実施形態では、細胞集合体はスラリー状の粘稠体である。本明細書において、「スラリー状の粘稠体」とは、Akihiro Nishiguchi et al., Macromol Biosci. 2015 Mar;15(3):312-7に記載されるようなゲル様の細胞集合体を指す。
【0031】
工程(A)は、カチオン性物質、細胞外マトリックス成分、及び高分子電解質を少なくとも含む溶液(以下、「細胞懸濁用溶液」ということがある。)に、細胞構造体の構築に使用する細胞を懸濁させることにより行う。細胞懸濁用溶液に懸濁させる細胞集団は、脈管内皮細胞からなる内皮細胞層で被覆された立体構造体の構築に使用する全細胞であってもよく、その一部であってもよい。細胞懸濁用溶液に懸濁させる細胞集団が、前記立体構造体の製造に使用する全細胞である場合には、脈管内皮細胞と脈管内皮細胞以外の細胞を含み、NE比率が6%以上、好ましくは10~25%となる細胞集団を、細胞懸濁用溶液に懸濁させて混合物を得ることが好ましい。本実施形態に係る方法に用いられる細胞は、前記の本発明に係る細胞構造体を構成する細胞と同様の細胞を用いることができる。
【0032】
本実施形態で用いられるカチオン性物質としては、細胞の生育及び細胞集合体の形成に悪影響を及ぼさない限り、任意の正電荷を有する物質を用いることができる。カチオン性物質には、トリス-塩酸緩衝液、トリス-マレイン酸緩衝液、ビス-トリス-緩衝液、及びHEPESなどのカチオン性緩衝液や、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン、ポリリシン、ポリヒスチジン、及びポリアルギニン等が挙げられる。本実施形態で用いられるカチオン性物質はカチオン性緩衝液であることが好ましい。
【0033】
カチオン性物質の濃度は、細胞の生育及び細胞集合体の形成に悪影響を及ぼさない限り、特に限定されない。本実施形態で用いられるカチオン性物質の濃度は10~100mMであることが好ましい。例えば、本実施形態で用いられるカチオン性物質の濃度は、20~90mM、3.0~80mM、40~70mM、45~60mMであることが好ましい。本実施形態で用いられるカチオン性物質の濃度は50mMであることがより好ましい。
【0034】
カチオン性物質としてカチオン性緩衝液が用いられる場合、カチオン性緩衝液のpHは、細胞の生育及び細胞集合体の形成に悪影響を及ぼさない限り、特に限定されない。本実施形態で用いられるカチオン性緩衝液のpHは6.0~8.0であることが好ましい。例えば、本実施形態で用いられるカチオン性緩衝液のpHは、7.0、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8、7.9、又は8.0である。本実施形態で用いられるカチオン性緩衝液のpHは7.2~7.6であることがより好ましい。本実施形態で用いられるカチオン性緩衝液のpHは7.4であることがさらに好ましい。
【0035】
本発明及び本願明細書において、「高分子電解質」とは、高分子鎖中に解離可能な官能基を有する高分子を意味する。本実施形態で用いられる高分子電解質としては、細胞の生育及び細胞構造体の形成に悪影響を及ぼさない限り、任意の高分子電解質を用いることができる。高分子電解質には、ヘパリンや、コンドロイチン硫酸( 例えば、コンドロイチン4-硫酸、コンドロイチン6-硫酸)、ヘパラン硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸、ヒアルロン酸等のグリコサミノグリカン; デキストラン硫酸や、ラムナン硫酸、フコイダンや、カラギナン、ポリスチレンスルホン酸、及びポリアクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、ポリアクリル酸等が挙げられるが、これらに限定されない。工程(A)において調製される混合物には、高分子電解質を1種類のみ混合させてもよく、2種類以上を組み合わせて混合させてもよい。本発明に係る細胞構造体の製造においては、グリコサミノグリカンを用いることが好ましく、ヘパリン及び/又はデキストラン硫酸を用いることがより好ましい。前記細胞懸濁用溶液に混合する高分子電解質の量は、細胞の生育及び細胞構造体の製造に悪影響を及ぼさない限り、特に限定されない。例えば、細胞懸濁用溶液中の高分子電解質の濃度は、0mg/mL超であればよく、0.010mg/mL以上が好ましく、0.020mg/mL以上がより好ましく、0.025mg/mL以上がさらに好ましく、0.05mg/mL以上がよりさらに好ましい。また、細胞懸濁用溶液中の高分子電解質の濃度は、1.0mg/mL未満が好ましく、0.75mg/mL以下がより好ましく、0.5mg/mL以下がさらに好ましく、0.25mg/mL以下がよりさらに好ましく、0.1mg/mL以下が特に好ましい。
【0036】
本実施形態で用いられる細胞外マトリックス成分としては、細胞の生育及び細胞集合体の形成に悪影響を及ぼさない限り、細胞外マトリックス(ECM)を構成する任意の成分を用いることができる。コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、エラスチン、テネイシン、エンタクチン、フィブリリン、プロテオグリカン、グリコサミノグリカン、又はこれらの改変体若しくはバリアント等が挙げられる。プロテオグリカンには、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、ケラタン硫酸プロテオグリカン、デルマタン硫酸プロテオグリカン等が挙げられる。グリコサミノグリカンには、ヒアルロン酸、コンドロイチン4-硫酸、コンドロイチン6-硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸、ヘパラン硫酸、ヘパリン等が挙げられる。工程(A)において調製される混合物には、細胞外マトリックス成分を1種類のみ混合させてもよく、2種類以上を組み合わせて混合させてもよい。本発明に係る細胞構造体の製造においては、コラーゲン、ラミニン、及びフィブロネクチンからなる群より選択される1種以上を用いることが好ましく、中でもコラーゲンであることが好ましい。前記細胞懸濁用溶液に混合する細胞外マトリックス成分の量は、細胞の生育及び細胞構造体の製造に悪影響を及ぼさない限り、特に限定されない。例えば、細胞懸濁用溶液中の細胞外マトリックス成分の濃度は、0mg/mL超であればよく、0.010mg/mL以上が好ましく、0.020mg/mL以上がより好ましく、0.025mg/mL以上がさらに好ましく、0.05mg/mL以上がよりさらに好ましい。また、細胞懸濁用溶液中の細胞外マトリックス成分の濃度は、1.0mg/mL未満が好ましく、0.75mg/mL以下がより好ましく、0.5mg/mL以下がさらに好ましく、0.25mg/mL以下がよりさらに好ましく、0.1mg/mL以下が特に好ましい。
【0037】
前記細胞懸濁用溶液に混合する高分子電解質と細胞外マトリックス成分の配合比は、1:2~2:1である。本発明に係る細胞構造体の製造においては、高分子電解質と細胞外マトリックス成分の配合比が、1:1.5~1.5:1であることが好ましく、1:1であることがより好ましい。
【0038】
本発明に係る細胞構造体のうち、脈管内皮細胞からなる内皮細胞層で被覆された立体構造体の製造は、工程(A)及び工程(B)を少なくとも1回行った後、工程(C)を行う。工程(A)~工程(C)を繰り返す、具体的には、工程(C)で得られた細胞構造体の上に、工程(B)として工程(A)で調製した混合物を播種した後、工程(C)を行うことを繰り返すことにより、充分な厚みの立体構造体を構築することができる。工程(C)で得られた立体構造体の上に新たに播種する混合物の細胞組成は、既に構築されている立体構造体を構成する細胞組成と同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0039】
本実施形態に係る方法では、工程(A)の後に、(A’-1)得られた混合物から液体部分を除去し、細胞集合体を得る工程、及び(A’-2)細胞集合体を溶液に懸濁する工程、を含み、かつ工程(B)に代えて、(B’)得られた懸濁液から細胞を沈殿し、基材上に細胞の沈殿体を形成する工程を含んでもよい。
【0040】
本実施形態の方法において、細胞と細胞懸濁用溶液との混合は、ディッシュ、チューブ、フラスコ、ボトル、プレートなどの適当な容器中で行われてもよく、工程(B)において用いられる基材上で行われてもよい。工程(A’-2)における懸濁もまた、ディッシュ、チューブ、フラスコ、ボトル、プレートなどの適当な容器中で行われてもよく、工程(B’)において用いられる基材上で行われてもよい。
【0041】
本実施形態の上記方法では、工程(A’-1)における液体部分を除去する手段として、当業者に公知の手法を用いることができる。例えば、遠心分離や濾過によって、液体部分を除去してもよい。遠心分離の条件は、細胞の生育及び細胞集合体の形成に悪影響を及ぼさない限り、特に限定されない。例えば、混合物の入ったマイクロチューブを室温、400×gで1分間の遠心分離に供して液体部分と細胞集合体とを分離することによって、液体部分を除去する。あるいは、自然沈降によって細胞を集めた後、液体部分を除去してもよい。
【0042】
本実施形態の上記方法の工程(A’-2)において用いられる溶液は、細胞の生育及び細胞集合体の形成に悪影響を及ぼさない限り、特に限定されない。例えば、使用される細胞に適した細胞培養培地又は緩衝液が用いられる。
【0043】
本実施形態の上記方法の工程(B)又は(B’)において用いられる基材には、細胞の培養に用いるための培養容器が挙げられる。培養容器は、細胞や微生物の培養に通常用いられている素材、形状を有する容器であってよい。培養容器の素材としては、ガラスや、ステンレス、プラスチックなどが挙げられるが、これらに限定されない。培養容器としては、ディッシュや、チューブ、フラスコ、ボトル、プレートなどが挙げられるが、これらに限定されない。基材は、例えば、液体中の細胞を通過させず、液体を通すことが可能な材料である。
【0044】
本実施形態で用いられる基材は透過膜であることが好ましい。かかる透過膜を有する容器としては、Transwell(登録商標)インサート、Netwell(登録商標)インサート、Falcon(登録商標)セルカルチャーインサート、Millicell(登録商標)セルカルチャーインサートなどのセルカルチャーインサートが挙げられるが、これらに限定されない。
【0045】
本実施形態の上記方法では、工程(B)又は(B’)における細胞を集める手段として、当業者に公知の手法を用いることができる。例えば、遠心分離、磁性分離、又は濾過によって、細胞を集めてもよい。遠心分離の条件は、細胞の生育に悪影響を及ぼさない限り、特に限定されない。例えば、混合物又は懸濁液をセルカルチャーインサートに播種し、室温(25℃)、400×gで1分間の遠心分離に供することで、細胞を集める。あるいは、自然沈降によって細胞を集めてもよい。工程(B’)では、例えば遠心分離や濾過によって懸濁液から液体部分を除去することで、基材上に細胞の沈殿体を形成してもよい。あるいは、自然沈降によって基材上に細胞の沈殿体を形成してもよい。工程(B)における細胞集合体又は工程(B’)における細胞の沈殿体は層状であってもよい。
【0046】
本実施形態の上記方法の工程(C)における培養により、基材上に、表面が前記脈管内皮細胞からなる内皮細胞層であり、内部に前記脈管内皮細胞以外の細胞が存在している立体構造体が、1個又は複数個形成される。工程(C)における細胞の培養は、培養される細胞に適した培養条件下で行うことができる。当業者は、細胞の種類や所望の機能に応じて適切な培地を選択することができる。培養温度や培養時間等の諸条件もまた、当業者が容易に定めうる。
【0047】
工程(C)における培養に用いる培養培地としては、立体構造体を構成する細胞が生育可能な培地であれば特に限定されるものではないが、上皮成長因子(EGF)、血管上皮成長因子(VEGF)、繊維芽細胞成長因子(FGF)、インスリン様成長因子(IGF)等の成長因子の含有量が低い、又は含有していない培地や、血清の含有量が低い、又は含有していない培地が好ましい。各種成長因子等の含有量が多い場合には、脈管形成が促進される場合がある。本実施形態においては、成長因子が添加されていない培地が好ましく、無血清培地がより好ましい。
【0048】
工程(C)により製造された脈管内皮細胞からなる内皮細胞層で被覆された立体構造体に、がん細胞を播種して培養することにより、当該立体構造体の表面の内皮細胞層にがん細胞が接着した細胞構造体が得られる。がん細胞の播種は、工程(C)において少なくとも24時間培養した後が好ましい。播種するがん細胞の数は、特に限定されるものではなく、立体構造体を形成した容器当たり、例えば、100個以上、好ましくは500個以上が好ましい。また、立体構造体に播種したがん細胞が細胞塊を形成しやすい点から、播種するがん細胞の数は、NS/2(NS:同種の基材に同種の細胞で細胞構造体を構築した際の1層当たりの細胞数)個以下が好ましく、NS/4個以下がより好ましく、NS/10個以下がさらに好ましい。
【実施例0049】
以下に実施例を示して本発明をより詳細かつ具体的に説明するが、実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0050】
[実施例1]
脈管内皮細胞として、蛍光タンパク質GFPで標識されたヒト臍帯静脈内皮細胞(GFP-HUVEC)(型番:cAP-0001GFP、フナコシ社製)を用い、間質細胞として、ヒト新生児由来皮膚線維芽細胞(NHDF)(型番:CC-2509、Lonza社製)を用い、がん細胞として、結腸直腸がん細胞株HT29(型番:HTB-38、ATCC社製)を用い、NHDFがGFP-HUVECにより被覆された細胞構造体を調製した。細胞構造体を製造するにあたり、高分子電解質として、ヘパリン(Heparin sodium salt from porcine intestinal mucosa Grade I-A)(型番:H3393-100KU、Sigma社製)を用い、細胞外マトリックス成分として、コラーゲン(Collagen Type I, Bovine Skin, Acid Soluble)(型番:ASC-1-100-100、NIP社製)を用いた。
【0051】
まず、細胞懸濁用溶液として、0.1mg/mLのヘパリン/50mM トリス-塩酸緩衝液(pH7.4)溶液と、0.1mg/mLのコラーゲン/酢酸溶液(pH3.7)とを等量ずつ混合した溶液(すなわち、コラーゲン及びヘパリンの終濃度はそれぞれ0.05mg/mLであった)を調製した。次いで、当該細胞懸濁用溶液に、NHDFに対して、1.5、3,4.5、6、10、15、又は20%の比率になるようにGFP-HUVECを混合した細胞集団を懸濁させ、細胞混合物を調製した。次いで、当該細胞混合物を、室温、15000rpm、5分間遠心処理し、上清を除去した後、培養用培地を添加して、20層用細胞懸濁液と30層用細胞懸濁液を調製した。20層用細胞懸濁液は、135μL当たり、NHDFが0.9×106個含まれており、かつ総細胞数が理論細胞層数が20となる量になるように調整した。30層用細胞懸濁液は、135μL当たり、NHDFが1.35×106個含まれており、かつ総細胞数が理論細胞層数が30となる量になるように調整した。培養用培地は、ペニシリンストレプトマイシン溶液(×100)(型番:168-23191、Wako社製)を添加した10%FBS含有高グルコースD-MEM(型番:043-3.0085、Wako社製)を用いた。
【0052】
次いで、20層用細胞懸濁液又は30層用細胞懸濁液を、トランズウェルインサート一体型96ウェル(0.4μm、型番:7369、Corning社製)に、1ウェル当たり135μLずつ分注して細胞を播種した後、インサート外の培地を交換し、CO2インキュベーター(37℃、5%CO2)内で24時間培養した。次いで、がん細胞HT29を、追加で1ウェル当たり1000細胞ずつ分注して細胞を播種した後、インサート外の培地を交換し、CO2インキュベーター(37℃、5%CO2)内で培養した。培養開始日(細胞懸濁液をウェルに播種した日)を培養0日目とし、培養1日目にがん細胞を播種し、培養2日目、5日目及び8日目に培地交換を行った。培養8日目の培地交換後の各ウェル内の細胞構造体について、ウェル天面からのGFP蛍光画像を撮像した。その後、各細胞構造体をホルマリン固定した後、インサートの底面に垂直の方向の切片を作製し、当該切片をEpCAM染色(抗EpCAM抗体を用いた免疫染色)及びCD31染色(抗CD31抗体を用いた免疫染色)して、がん細胞とHUVEC細胞の局在を調べた。
【0053】
各細胞構造体のGFP画像の結果から、NHDFとGFP-HUVECの総細胞数が理論細胞層数が20層分となる数で構築した細胞構造体においては、NHDFに対するGFP-HUVECの細胞数の比(N
E比率)が1.5%~4.5%では、GFP画像から、GFP-HUVECが管状に存在していること、すなわち脈管網を形成していることが確認された。切片のCD31染色像でも、細胞構造体の内部に管状の空間の表面が染色されており、当該管の表面にGFP-HUVECが局在していることが確認された。これに対して、N
E比率が6%以上の細胞構造体では、細胞構造体全体にGFP-HUVECが存在しており、脈管網の形成は確認されず、切片のCD31染色像では、ほぼ全ての染色されていない細胞(NHDF)が染色された細胞(GFP-HUVEC)に被覆されている状態で存在していることが確認された。N
E比率10%のCD31染色とEpCAM染色の染色像を
図1の左列に、N
E比率1.5%のCD31染色とEpCAM染色の染色像を
図1の右列に、それぞれ示す。NHDFとGFP-HUVECの総細胞数が理論細胞層数が30層分となる数で構築した細胞構造体においても、同様の結果が観察された。
【0054】
表1の上段に、各細胞構造体において、NHDFがGFP-HUVECに被覆された構造が観察されたか否かを示す。表中、「〇」がNHDFがGFP-HUVECに被覆された構造が観察されたことを示し、「×」は、脈管網の形成が観察されたことを示す。
【0055】
【0056】
これらの結果から、NE比率を6%以上とすることにより、表面に脈管内皮細胞からなる内皮細胞層が形成されており、内部に間質細胞が存在している細胞構造体を製造できることがわかった。
【0057】
また、各細胞構造体のEpCAM染色像から、がん細胞の局在を調べた。また、画像解析ソフトウェア「ImageJ」を用いた画像解析により、各EpCAM染色像中のがん細胞の楕円率を求めた。各細胞構造体中のがん細胞の楕円率を測定した結果を、表1の下段に示す。
【0058】
この結果、NHDFとGFP-HUVECの総細胞数が理論細胞層数が20層分となる数で構築した細胞構造体において、NE比率が1.5~4.5%の細胞構造体では、内部に脈管網が形成されたNHDFとGFP-HUVECからなる立体構造体の天面にがん細胞が層状(楕円率が5.6以上)に存在していた。一方で、NE比率が6%以上のNHDFがGFP-HUVECに被覆された立体構造体の表面に、がん細胞塊(楕円率が3.0以下)が構築されていた。NHDFとGFP-HUVECの総細胞数が理論細胞層数が30層分となる数で構築した細胞構造体においても、同様の結果が観察された。