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特開2023-118414モータコアの製造方法、及びモータコア
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023118414
(43)【公開日】2023-08-25
(54)【発明の名称】モータコアの製造方法、及びモータコア
(51)【国際特許分類】
   H02K 15/02 20060101AFI20230818BHJP
   H02K 1/02 20060101ALI20230818BHJP
   H02K 1/18 20060101ALI20230818BHJP
   H02K 1/22 20060101ALI20230818BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20230818BHJP
【FI】
H02K15/02 F
H02K1/02 Z
H02K1/18 B
H02K1/22 A
H01F41/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022021355
(22)【出願日】2022-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】000191009
【氏名又は名称】新東工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100161425
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 鉄平
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 悠太
(72)【発明者】
【氏名】小林 祐次
【テーマコード(参考)】
5E062
5H601
5H615
【Fターム(参考)】
5E062AA06
5E062AB20
5E062AC20
5H601AA26
5H601CC01
5H601CC15
5H601DD01
5H601DD11
5H601EE19
5H601GA02
5H601HH02
5H601HH18
5H601KK01
5H601KK30
5H615AA01
5H615BB01
5H615BB05
5H615BB14
5H615PP01
5H615PP02
5H615PP07
5H615SS03
5H615SS21
(57)【要約】
【課題】優れた回転性能を有するモータコア及びその製造方法を提供する。
【解決手段】モータコアの製造方法は、複数の電磁鋼板を準備する工程と、複数の電磁鋼板から選択された電磁鋼板の第1主面及び第2主面の少なくとも一方の全面にピーニングする工程と、ピーニングされた電磁鋼板を含む複数の電磁鋼板を用いて積層体を形成する工程と、を含む。
【選択図】図4

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電磁鋼板を準備する工程と、
前記複数の電磁鋼板から選択された電磁鋼板の第1主面及び第2主面の少なくとも一方の全面にピーニングする工程と、
ピーニングされた前記電磁鋼板を含む前記複数の電磁鋼板を用いて積層体を形成する工程と、
を含む、モータコアの製造方法。
【請求項2】
前記電磁鋼板は、前記第1主面及び前記第2主面に絶縁層を有し、
前記ピーニングする工程では、前記ピーニングされる主面の前記絶縁層の表面に、結晶方位を変化させた塑性加工層を形成する、
請求項1に記載のモータコアの製造方法。
【請求項3】
前記塑性加工層の厚さは、1μm~50μmである、請求項2に記載のモータコアの製造方法。
【請求項4】
前記塑性加工層は、表面に平行な面が(001)面又は(011)面となる結晶が表面全体の30%~100%である、請求項2又は3に記載のモータコアの製造方法。
【請求項5】
前記ピーニングする工程では、前記複数の電磁鋼板それぞれの前記第1主面及び前記第2主面に対してピーニングする、請求項1~4の何れか一項に記載のモータコアの製造方法。
【請求項6】
複数の電磁鋼板の積層体を有し、
前記複数の電磁鋼板それぞれは、第1主面及び第2主面に絶縁層を有し、
前記複数の電磁鋼板のうちの少なくとも一つの電磁鋼板における前記絶縁層の表面全体は、塑性加工層であり、
前記塑性加工層は、表面に平行な面が(001)面又は(011)面となる結晶が表面全体の30%~100%である、モータコア。
【請求項7】
前記塑性加工層の厚さは、1μm~50μmである、請求項6に記載のモータコア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、モータコアの製造方法、及びモータコアに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、電磁鋼板を積層させたモータコアの製造方法を開示する。製造方法は、永久磁石が配置される電磁鋼板の開口の周囲の一部のみを硬化させる。硬化部分の面積は、電磁鋼板の全体の表面積の1%~20%である。特許文献1は、硬化部分の総和が20%を超えて大きくなると、電磁鋼板を積層した積層体全体の鉄損が多くなることを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-7943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1記載の製造方法は、モータコアの回転数を向上させる観点から改善の余地がある。本開示は、優れた回転性能を有するモータコア及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一側面に係るモータコアの製造方法は、以下の工程を含む。
(1)複数の電磁鋼板を準備する工程
(2)複数の電磁鋼板から選択された電磁鋼板の第1主面及び第2主面の少なくとも一方の全面にピーニングする工程
(3)ピーニングされた前記電磁鋼板を含む前記複数の電磁鋼板を用いて積層体を形成する工程
【0006】
この製造方法によれば、複数の電磁鋼板が準備される。そして、複数の電磁鋼板から選択された電磁鋼板の第1主面及び第2主面の少なくとも一方の全面がピーニングされる。そして、ピーニングされた電磁鋼板を含む複数の電磁鋼板を用いて積層体が形成される。この製造方法は、電磁鋼板の主面がピーニングされていない電磁鋼板を用いる場合と比べて、優れた回転性能を有するモータコアを製造できる。
【0007】
一実施形態においては、電磁鋼板は、第1主面及び第2主面に絶縁層を有し、ピーニングする工程では、ピーニングされる主面の絶縁層の表面に、結晶方位を変化させた塑性加工層を形成してもよい。この製造方法は、電磁鋼板の絶縁層の全面が塑性加工層を有するモータコアを製造できる。
【0008】
一実施形態においては、塑性加工層の厚さは、1μm~50μmであってもよい。この製造方法は、電磁鋼板の絶縁層の極表面を加工することにより、電磁鋼板の主面がピーニングされていない電磁鋼板を用いる場合と比べて、優れた回転性能を有するモータコアを製造できる。
【0009】
一実施形態においては、塑性加工層は、表面に平行な面が(001)面又は(011)面となる結晶が表面全体の30%~100%であってもよい。この製造方法は、塑性加工層の結晶配向を制御することにより、電磁鋼板の主面がピーニングされていない電磁鋼板を用いる場合と比べて、優れた回転性能を有するモータコアを製造できる。
【0010】
一実施形態においては、ピーニングする工程では、複数の電磁鋼板それぞれの第1主面及び第2主面に対してピーニングしてもよい。この製造方法は、積層体に含まれる電磁鋼板の全てが塑性加工層を有するため、さらに優れた回転性能を有するモータを製造できる。
【0011】
本開示の他の側面に係るモータコアは、複数の電磁鋼板の積層体を有する。複数の電磁鋼板それぞれは、第1主面及び第2主面に絶縁層を有する。複数の電磁鋼板のうちの少なくとも一つの電磁鋼板における絶縁層の表面全体は塑性加工層である。塑性加工層は、表面に平行な面が(001)面又は(011)面となる結晶が表面全体の30%~100%である。
【0012】
このモータコアによれば、複数の電磁鋼板のうちの少なくとも一つの電磁鋼板における絶縁層の表面全体が塑性加工層である。このモータコアは、塑性加工層の結晶配向が制御されているため、主面全体に塑性加工層を有さない電磁鋼板のみを有する場合と比べて、優れた回転性能を有する。
【0013】
一実施形態においては、塑性加工層の厚さは、1μm~50μmであってもよい。このモータコアは、電磁鋼板の絶縁層の極表面が塑性加工層であり、主面全体に塑性加工層を有さない電磁鋼板のみを有する場合と比べて、優れた回転性能を有する。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、優れた回転性能を有するモータコア及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】一実施形態に係るモータコアの斜視図である。
図2図1の電磁鋼板の一例を示す平面図である。
図3図1の電磁鋼板の一例を示す断面図である。
図4】モータコアの製造方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。各図面において同一又は相当の部分に対しては同一の符号を附す。
【0017】
(モータコアの構成)
図1は、一実施形態に係るモータコアの斜視図である。図1に示されるように、モータコア1は、ロータコアであり、ステータに対して回転するモータ部品である。モータコア1は、複数の電磁鋼板10を有する。複数の電磁鋼板10は、圧着、固定又は接着されることによって積層体とされる。積層体は、一例として円筒形状であり、中心には軸穴が設けられる。
【0018】
図2は、図1の電磁鋼板の一例を示す平面図である。図2に示される電磁鋼板10は、軟磁性材料で形成された円盤形状の部材である。電磁鋼板10は、一例として、全方向に磁気特性を有する無方向性電磁鋼板である。電磁鋼板10は、中央に軸穴11が形成される。軸穴11は、モータの出力軸が配置される貫通穴である。電磁鋼板10の外縁には、ロータスロット12が形成される。ロータスロット12は、永久磁石が配置される貫通穴である。電磁鋼板10は、厚さ0.3mm~1.0mm程度である。
【0019】
図3は、図1の電磁鋼板の一例を示す断面図である。図3に示されるように、電磁鋼板10は、軟磁性材料で形成された本体100を有する。本体100は、第1主面100a及び第2主面100bを有する。第1主面100aには、渦電流の発生を抑制するために第1絶縁層101が形成される。同様に、第2主面100bには、渦電流の発生を抑制するために第2絶縁層102が形成される。
【0020】
第1絶縁層101の表面全体(全面)には、第1塑性加工層101Aが形成される。第1塑性加工層101Aは、第1絶縁層101を塑性加工することによって形成される。塑性加工の一例は、ピーニングである。ピーニングは、例えばショットピーニング、バニシング、又は、レーザピーニングである。第1塑性加工層101Aは、第1絶縁層101の結晶方位を変化させることで形成される。第1塑性加工層101Aは、表面に平行な面が(001)面又は(011)面となる結晶が表面全体の30%~100%である。第1塑性加工層101Aは、表面に平行な面が(001)面又は(011)面となる結晶が表面全体の30%~60%となってもよい。第1塑性加工層101Aの厚さは、1μm~50μmであってもよい。第2絶縁層102の表面全体(全面)には、第1絶縁層101と同様に、第2塑性加工層102Aが形成される。第2塑性加工層102Aは、第2絶縁層102を塑性加工することによって形成される。第2塑性加工層102Aの形成方法や寸法形状などは第1塑性加工層101Aと同一である。
【0021】
(モータコアの変形例)
モータコア1は、ロータコアに限定されず、ステータコアであってもよい。モータコア1は、発電機の回転子として採用されてもよい。電磁鋼板10は、第1絶縁層101及び第2絶縁層102のうちの一方のみを備えてもよい。電磁鋼板10は、第1絶縁層101及び第2絶縁層102を備えなくてもよい。複数の電磁鋼板10のうちの少なくとも一つの電磁鋼板10のみが塑性加工層を有してもよい。
【0022】
(モータコアの製造方法)
図4は、モータコアの製造方法の一例を示すフローチャートである。製造方法M1においては、最初に、準備工程(S10)が実行される。準備工程(S10)では、複数の電磁鋼板10が準備される。具体的には、準備工程(S10)は、圧延工程(S12)及び絶縁コーティング工程(S14)を含む。
【0023】
圧延工程(S12)では、原料をローラなどで圧延して薄い板(図3の本体100)にする。圧延は、熱間圧延でもよいし、冷間圧延でもよい。また、焼鈍などの工程を適宜組み合わせてもよい。圧延工程(S12)が終了すると、絶縁コーティング工程(S14)が実行される。
【0024】
絶縁コーティング工程(S14)では、板の主面の全面に絶縁層(図3の第1絶縁層101、第2絶縁層102)を形成する。例えば、板の主面に絶縁コーティング液がロータなどによって塗布される。絶縁コーティング液が固化することで絶縁層が形成される。準備工程(S10)が終了すると、打抜工程(S16)が実行される。
【0025】
打抜工程(S16)では、図2に示される軸穴11及びロータスロット12が、例えばパンチング装置などによって打ち抜きで形成される。打抜工程(S16)が終了すると、ピーニング工程(S18)が実行される。
【0026】
ピーニング工程(S18)では、絶縁層の表面がピーニングされ、塑性加工層が絶縁層の表面に形成される(図3の第1塑性加工層101A、第2塑性加工層102A)。ピーニング工程では、例えば、ショットピーニング、バニシング、又は、レーザピーニングが用いられる。ピーニングは、表面に平行な面が(001)面又は(011)面となる結晶が表面全体の30%~100%となるように実施される。そして、ピーニングは、塑性加工層の厚さが1μm~50μmとなるように実施される。ピーニング工程(S18)が終了すると、形成工程(S20)が実行される。
【0027】
形成工程(S20)では、複数の電磁鋼板10を圧着、固定又は接着し、積層体を形成する。以上の工程を経て、電磁鋼板10が形成される。
【0028】
(モータコアの製造方法の変形例)
ピーニング工程(S18)は、絶縁コーティング工程(S14)と打抜工程(S16)の間に実行されてもよい。ピーニング工程(S18)では、複数の電磁鋼板10それぞれの第1絶縁層101及び第2絶縁層102の全面にピーニングしてもよい。あるいは、複数の電磁鋼板10から選択された電磁鋼板10の第1絶縁層101及び第2絶縁層102の全面にピーニングしてもよい。製造方法M1によって製造されるモータコア1は、ロータコアに限定されず、ステータコアであってもよい。製造方法M1によって製造されるモータコア1は、発電機の回転子として採用されてもよい。
【0029】
以上、例示的実施形態について説明してきたが、上述した例示的実施形態に限定されることなく、様々な省略、置換、及び変更がなされてもよい。
【実施例0030】
以下、モータコアの効果を説明すべく本発明者が実施した実施例及び比較例について述べる。
(実施例1)
複数の電磁鋼板10の両面をショットピーニングし、その後、積層体とした。ショットピーニングは、ガラスビーズを媒体とし、噴射圧力0.2[MPa]、噴射量1.96[kg/min]で行った。
(実施例2)
複数の電磁鋼板10の両面をバニシングし、その後、積層体とした。バニシングは、超硬工具で押圧力を付与し、摺動速度13,500[rpm]、クロスフィード50[μm]、噴射量1.96[kg/min]で行った。
(実施例3)
複数の電磁鋼板10の片面のみをショットピーニングし、その後、積層体とした。ショットピーニングの条件は、実施例1と同一である。
(実施例4)
複数の電磁鋼板10の片面のみをショットピーニングし、その後、積層体とした。ショットピーニングは、スチールショットを媒体とし、噴射圧力0.3[MPa]、噴射量1.96[kg/min]で行った。塑性加工層の厚さは、50~100[μm]であった。
(実施例5)
複数の電磁鋼板10の片面のみをショットピーニングし、その後、積層体とした。ショットピーニングの条件は、実施例1と同一である。実施例3と比較すると、塑性加工層の厚さを計測した点で相違し、その他は同一である。塑性加工層の厚さは、10~30[μm]であった。
(実施例6)
複数の電磁鋼板10の片面のみをショットピーニングし、その後、積層体とした。ショットピーニング時において、ロータスロット以外の領域をマスキングした。実施例3と比較すると、塑性加工層の厚さを計測した点で相違し、その他は同一である。塑性加工層の厚さは、5~20[μm]であった。
(比較例)
未処理の複数の電磁鋼板10を積層体とした。
【0031】
(回転数増加の効果確認)
積層体をモータコアとし、電圧及び電流を制御しながら、非接触式の回転速度計で回転数を確認した。
実施例1:電圧3.4[V]、電流5.3[A]、回転数15000[rpm]
実施例2:電圧3.2[V]、電流5.2[A]、回転数11900[rpm]
実施例3:電圧1.8[V]、電流5.1[A]、回転数11200[rpm]
比較例 :電圧3.2[V]、電流5.3[A]、回転数10100[rpm]
このように、実施例1は、比較例と比べて、回転数が1.5倍ほど向上していることが確認された。また、実施例2は、比較例と比べて、回転数が1.2倍ほど向上していることが確認された。このように、電磁鋼板10をピーニングすることによって、回転数が向上することが確認された。電磁鋼板10の片面のみをピーニングした実施例3は、比較例と比べて、回転数が増加していることが確認された。つまり、電磁鋼板10の片面のみをピーニングする場合であっても回転数増加の効果があることが確認された。
【0032】
(塑性加工層の厚さと回転数の関係について)
塑性加工層の厚さは、実施例4、5、6の順に薄い。実施例4、5、6において、積層体をモータコアとし、電圧及び電流を制御しながら、非接触式の回転速度計で回転数を確認した。
実施例4:電圧3.1[V]、電流5.3[A]、回転数9900[rpm]
実施例5:電圧3.1[V]、電流5.3[A]、回転数10200[rpm]
実施例6:電圧3.4[V]、電流5.3[A]、回転数12000[rpm]
このように、塑性加工層の厚さが薄くなるに従って回転数が上昇することが確認された。また、実施例4は、比較例よりも回転数が少なく、実施例5、6は、比較例よりも回転数が多い。このため、塑性加工層の極表面(厚さは1μm~50μm程度)を加工することにより、優れた回転性能を有するモータコアを製造できることが確認された。
【符号の説明】
【0033】
1…モータコア、10…電磁鋼板、101…第1絶縁層、101A…第1塑性加工層、102…第2絶縁層、102A…第2塑性加工層。
図1
図2
図3
図4