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特開2023-118474転写調節による多元ポリ乳酸の合成法
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  • 特開-転写調節による多元ポリ乳酸の合成法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023118474
(43)【公開日】2023-08-25
(54)【発明の名称】転写調節による多元ポリ乳酸の合成法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/54 20060101AFI20230818BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20230818BHJP
   C12N 15/53 20060101ALI20230818BHJP
   C12N 15/70 20060101ALI20230818BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230818BHJP
   C12P 7/625 20220101ALI20230818BHJP
【FI】
C12N15/54 ZNA
C12N15/31
C12N15/53
C12N15/70 Z
C12N1/21
C12P7/625
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022021439
(22)【出願日】2022-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】801000027
【氏名又は名称】学校法人明治大学
(71)【出願人】
【識別番号】598096991
【氏名又は名称】学校法人東京農業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107870
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100098121
【弁理士】
【氏名又は名称】間山 世津子
(72)【発明者】
【氏名】島田 友裕
(72)【発明者】
【氏名】田口 精一
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AD83
4B064BJ04
4B064CA02
4B064CA19
4B064CB16
4B064CC24
4B064DA16
4B064DA20
4B065AA01X
4B065AA01Y
4B065AA26X
4B065AB01
4B065AC14
4B065CA12
4B065CA60
(57)【要約】
【課題】 3-ヒドロキシ酪酸と乳酸とからなる共重合ポリエステルを効率的に生産する手段を提供する。
【解決手段】 yliH遺伝子のプロモーター、treA遺伝子のプロモーター、又はdps遺伝子のプロモーターと3-ヒドロキシ酪酸と乳酸とからなる共重合ポリエステルの合成に関与する遺伝子とを有するプラスミドで形質転換された微生物を用いて、前記共重合ポリエステルを製造する方法。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝子とプロモーターと有するプラスミドであって、遺伝子が、以下の(a)の遺伝子と(b)の遺伝子と(c1)の遺伝子の組合せ、又は以下の(a)の遺伝子と(b)の遺伝子と(c2)の遺伝子の組合せであり、プロモーターが、以下の(d1)、(d2)、(d3)、(d4)、(d5)、(d6)、(d7)、(d8)、又は(d9)のDNAであることを特徴とするプラスミド、
(a)2分子のアセチルCoAからアセトアセチルCoAが形成される反応を触媒するタンパク質をコードする遺伝子、
(b)アセチルCoAの還元反応を触媒するタンパク質をコードする遺伝子、
(c1)配列番号21に示されるアミノ酸配列の130番目、325番目、477番目及び481番目のアミノ酸の1以上が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるポリヒドロキシアルカン酸の合成反応を触媒するタンパク質をコードする遺伝子、
(c2)配列番号21に示されるアミノ酸配列の130番目、325番目、477番目及び481番目のアミノ酸の1以上が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列において、更に130番目、325番目、477番目及び481番目以外の1以上のアミノ酸が欠失若しくは置換され、又は1以上のアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列からなるポリヒドロキシアルカン酸の合成反応を触媒するタンパク質をコードする遺伝子、
(d1)配列番号1に示される塩基配列からなるDNA、
(d2)配列番号1に示される塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるDNAであって、プロモーター活性を有するDNA、
(d3)配列番号1に示される塩基配列に対して90%以上の配列同一性を有する塩基配列からなるからなるDNAであって、プロモーター活性を有するDNA、
(d4)配列番号2に示される塩基配列からなるDNA、
(d5)配列番号2に示される塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるDNAであって、プロモーター活性を有するDNA、
(d6)配列番号2示される塩基配列に対して90%以上の配列同一性を有する塩基配列からなるからなるDNAであって、プロモーター活性を有するDNA、
(d7)配列番号3に示される塩基配列からなるDNA、
(d8)配列番号3に示される塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるDNAであって、プロモーター活性を有するDNA、
(d9)配列番号3示される塩基配列に対して90%以上の配列同一性を有する塩基配列からなるからなるDNAであって、プロモーター活性を有するDNA。
【請求項2】
プロモーターが、(d1)、(d2)、(d3)、(d4)、(d5)、又は(d6)であることを特徴とする請求項1に記載のプラスミド。
【請求項3】
更に、プロピオン酸及び/又は乳酸にCoAが転移される反応を触媒するタンパク質をコードする遺伝子を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のプラスミド。
【請求項4】
請求項3に記載のプラスミドで形質転換されていることを特徴とする微生物。
【請求項5】
微生物が大腸菌であることを特徴とする請求項4に記載の微生物。
【請求項6】
3-ヒドロキシ酪酸と乳酸とからなる共重合ポリエステルの製造方法であって、(1)請求項4又は5に記載の微生物を、炭素源を含む培地で培養する工程、(2)工程(1)の培養物から前記共重合ポリエステルを回収する工程を含むことを特徴とする前記共重合ポリエステルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3-ヒドロキシ酪酸と乳酸とからなる共重合ポリエステルの製造方法、並びにこれに使用するプラスミド及び微生物に関する。
【背景技術】
【0002】
糖を炭素源としてポリエステルを生産する能力を有する微生物は、これまでに多数報告されており、微生物が生産するポリエステルは、自然界で容易に分解される生分解性プラスチックとして、また糖や植物油などのバイオマスを原料としたバイオプラスチックとして、注目されている。
【0003】
天然の微生物が生産することができる代表的なバイオプラスチックとして、3-ヒドロキシ酪酸(3HB)をモノマー単位とするポリ-3-ヒドロキシ酪酸(P(3HB))や、3HBと他の3-ヒドロキシアルカン酸(例えば、3-ヒドロキシ吉草酸(3HV)、3-ヒドロキシヘキサン酸(3HH)等)からなる共重合ポリエステルが知られている。
【0004】
また、微生物を用いて3-ヒドロキシ酪酸(3HB)と3-ヒドロキシアルカン酸以外のモノマー単位とからなる共重合ポリエステルを製造する方法も開発されている。3HBと乳酸(LA)とからなる共重合ポリエステル(以下、「P(LA-co-3HB)」ともいう)は、3HBホモポリマー(P(3HB))には見られなかった特性を有しており、また、その特性はポリマー内の乳酸分率によっても変化するため、乳酸分率を調整することで所望の物性を示すポリマーが得られることが期待されている。
【0005】
P(LA-co-3HB)は有用なポリマーであることから、その製造方法について以前から幾つか報告がある(特許文献1~3)。特許文献1には、3HB-乳酸共重合体の合成に関与する遺伝子を導入した組換え微生物を、乳酸を添加した培地で培養することによりP(LA-co-3HB)を製造する方法が記載されている。特許文献2には、3HB-乳酸共重合体の合成系を改変した組換え微生物を用いることで、培地に乳酸を添加することなく、糖を原料とした微生物発酵によりP(LA-co-3HB)を生産することが記載されている。特許文献3には、含乳酸ポリエステル合成能力を本来有していないコリネ型細菌に含乳酸ポリエステル合成に関与する遺伝子群を導入した遺伝子組換えコリネ型細菌を作製し、これを用いることで、高い乳酸分率を有する含乳酸ポリエステルを生産することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2008-541719号公報
【特許文献2】国際公開第2009/131186号
【特許文献3】特開2012-152171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
P(LA-co-3HB)は優れた特性を有するバイオプラスチックなので、今後需要の増大が予測される。本発明は、このような背景の下、需要の増大が見込まれるP(LA-co-3HB)を効率的に生産する手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、P(LA-co-3HB)の生産に関与するphaC1AB遺伝子を、大腸菌のyliH遺伝子のプロモーター、treA遺伝子のプロモーター、又はdps遺伝子のプロモーターで制御することにより、P(LA-co-3HB)の生産量が著しく増大することを見出し、本発明を完成するに至った。yliH遺伝子のプロモーターやtreA遺伝子のプロモーターは、これまで高強度のプロモーターとして認識されていなかったことから(Tomohiro Shimada et al., J. Bacteriol. 2004 Nov;186(21):7112-22)、このようなプロモーターを使用することにより、P(LA-co-3HB)の生産量が著しく増大することは全く予想外のことであった。本発明は、以上の知見に基づき完成されたものである。
【0009】
即ち、本発明は、以下の〔1〕~〔6〕を提供する。
〔1〕遺伝子とプロモーターと有するプラスミドであって、遺伝子が、以下の(a)の遺伝子と(b)の遺伝子と(c1)の遺伝子の組合せ、又は以下の(a)の遺伝子と(b)の遺伝子と(c2)の遺伝子の組合せであり、プロモーターが、以下の(d1)、(d2)、(d3)、(d4)、(d5)、(d6)、(d7)、(d8)、又は(d9)のDNAであることを特徴とするプラスミド、
(a)2分子のアセチルCoAからアセトアセチルCoAが形成される反応を触媒するタンパク質をコードする遺伝子、
(b)アセチルCoAの還元反応を触媒するタンパク質をコードする遺伝子、
(c1)配列番号21に示されるアミノ酸配列の130番目、325番目、477番目及び481番目のアミノ酸の1以上が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるポリヒドロキシアルカン酸の合成反応を触媒するタンパク質をコードする遺伝子、
(c2)配列番号21に示されるアミノ酸配列の130番目、325番目、477番目及び481番目のアミノ酸の1以上が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列において、更に130番目、325番目、477番目及び481番目以外の1以上のアミノ酸が欠失若しくは置換され、又は1以上のアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列からなるポリヒドロキシアルカン酸の合成反応を触媒するタンパク質をコードする遺伝子、
(d1)配列番号1に示される塩基配列からなるDNA、
(d2)配列番号1に示される塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるDNAであって、プロモーター活性を有するDNA、
(d3)配列番号1に示される塩基配列に対して90%以上の配列同一性を有する塩基配列からなるからなるDNAであって、プロモーター活性を有するDNA、
(d4)配列番号2に示される塩基配列からなるDNA、
(d5)配列番号2に示される塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるDNAであって、プロモーター活性を有するDNA、
(d6)配列番号2示される塩基配列に対して90%以上の配列同一性を有する塩基配列からなるからなるDNAであって、プロモーター活性を有するDNA、
(d7)配列番号3に示される塩基配列からなるDNA、
(d8)配列番号3に示される塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるDNAであって、プロモーター活性を有するDNA、
(d9)配列番号3示される塩基配列に対して90%以上の配列同一性を有する塩基配列からなるからなるDNAであって、プロモーター活性を有するDNA。
【0010】
〔2〕プロモーターが、(d1)、(d2)、(d3)、(d4)、(d5)、又は(d6)であることを特徴とする〔1〕に記載のプラスミド。
【0011】
〔3〕更に、プロピオン酸及び/又は乳酸にCoAが転移される反応を触媒するタンパク質をコードする遺伝子を有することを特徴とする〔1〕又は〔2〕に記載のプラスミド。
【0012】
〔4〕〔3〕に記載のプラスミドで形質転換されていることを特徴とする微生物。
【0013】
〔5〕微生物が大腸菌であることを特徴とする〔4〕に記載の微生物。
【0014】
〔6〕3-ヒドロキシ酪酸と乳酸とからなる共重合ポリエステルの製造方法であって、(1)〔4〕又は〔5〕に記載の微生物を、炭素源を含む培地で培養する工程、(2)工程(1)の培養物から前記共重合ポリエステルを回収する工程を含むことを特徴とする前記共重合ポリエステルの製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、P(LA-co-3HB)の新規な製造方法を提供する。この方法は、従来の方法よりも効率的にP(LA-co-3HB)を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】各プラスミドを使用した場合のphaC1AB遺伝子のmRNAレベルでの発現量を示す図。
図2】各プラスミドを使用した場合のP(LA-co-3HB)の生産量を示す図。グラフ中の灰色の部分が3HB量を示し、白色の部分が乳酸量を示し、3HB量と乳酸量の合計がP(LA-co-3HB)量を示す。
図3】高グルコース濃度下でのpTV118Npct-PyliHC1AB(STQK)を使用した場合のP(LA-co-3HB)の生産量を示す図。グラフ中の灰色の部分が3HB量を示し、白色の部分が乳酸量を示し、3HB量と乳酸量の合計がP(LA-co-3HB)量を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
(1)プラスミド
本発明のプラスミドは、遺伝子とプロモーターと有するプラスミドであって、遺伝子が、以下の(a)の遺伝子と(b)の遺伝子と(c1)の遺伝子の組合せ、又は以下の(a)の遺伝子と(b)の遺伝子と(c2)の遺伝子の組合せであり、プロモーターが、以下の(d1)、(d2)、(d3)、(d4)、(d5)、(d6)、(d7)、(d8)、又は(d9)のDNAであることを特徴とするプラスミドである。
【0018】
(a)の遺伝子は、2分子のアセチルCoAからアセトアセチルCoAが形成される反応を触媒するタンパク質をコードする遺伝子である。「2分子のアセチルCoAからアセトアセチルCoAが形成される反応を触媒するタンパク質」は、2分子のアセチルCoAが縮合してアセトアセチルCoAが形成される反応を触媒するタンパク質であり、一般的には、βケトチオラーゼ又はアセチル-CoA-CoA-C-アセチルトランスフェラーゼと称されている。以下、本発明では、「2分子のアセチルCoAからアセトアセチルCoAが形成される反応を触媒するタンパク質」を、βKTと表すこととする。
【0019】
これまでの報告されたβKTとしては、例えば、Alkaligenes beijerinckii由来のβKT(Biochem. J., 1973, Vol. 134, pp. 225-238)、R. eutropha由来のβKT(Biochem. J., 1973, Vol. 134, pp. 239-248)、Clostridium pasteurianum由来のβKT(Arch. Microbiol., 1975, Vol. 103, pp. 21-30)、Z. ramigera由来のβKT(United States Patent No. 067,695)を挙げることができる。
【0020】
本発明では、上述したβKTの他にも、これまでに報告されたβKTのいずれも利用することができる。また、「2分子のアセチルCoAからアセトアセチルCoAが形成される反応を触媒するタンパク質」である限り、既知のβKTのアミノ酸配列において1個又は数個、例えば1~数十個、好ましくは1~十数個、より好ましくは10個以下のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であっても、使用することができる。
【0021】
2分子のアセチルCoAからアセトアセチルCoAが形成される反応の触媒活性は、例えばSlaterら(J. Bacteriology、1998年、第180巻、第1979-1987頁)に記載された方法によって測定することができる。
【0022】
本発明における好ましいβKTは、R.ユートロファ(R. eutropha)由来のβKTであり、そのアミノ酸配列を配列番号17に、当該アミノ酸配列をコードする核酸(DNA)の塩基配列の例を配列番号16に示す。
【0023】
(b)の遺伝子は、アセチルCoAの還元反応を触媒するタンパク質をコードする遺伝子である。「アセトアセチルCoAの還元反応を触媒するタンパク質」は、アセトアセチルCoAのNADP等の補酵素の存在下で生じる還元反応によって、D(-)-β-ヒドロキシブチリル-CoAが形成される反応を触媒するタンパク質であり、一般的にはアセトアセチルCoAリダクターゼと称されている。以下、本発明では、「アセトアセチルCoAの還元反応を触媒するタンパク質」を、AACoA-Rと表すこととする。
【0024】
これまでの報告されたAACoA-Rとしては、例えば、Zoogloea由来のAACoA-R(Arch. Microbiol., 1977, Vol. 114, pp. 211-217)、R. eutropha由来のAACoA-R(Accession No. J04987)、Z. ramigera由来のAACoA-R(United States Patent No. 067,695)を挙げることができる。
【0025】
本発明では、上述したAACoA-Rの他にも、これまでに報告されたAACoA-Rのいずれも使用することができる。また、「アセトアセチルCoAの還元反応を触媒するタンパク質」であるかぎり、既知のAACoA-Rのアミノ酸配列において1個又は数個、例えば1~数十個、好ましくは1~十数個、より好ましくは10個以下のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であっても、使用することができる。
【0026】
アセトアセチルCoAの還元反応の触媒活性は、例えばG. W. Haywoodら(FEMS Microbiology Letters、1988年、第52巻、第259-264頁)に記載された方法によって測定することができる。
【0027】
本発明における好ましいAACoA-Rは、R.ユートロファ(R. eutropha)由来のAACoA-Rであり、そのアミノ酸配列を配列番号19に、当該アミノ酸配列をコードする核酸(DNA)の塩基配列の例を配列番号18に示す。
【0028】
その他、これまでに知られているβKTとAACo-Rとしては、Acinetobacter sp. RA3849由来のphaBPCA(Accession No.L37761)、Aeromonas caviae FA440由来のphaPCJ(Accession No.D88825)、Alcaligenes laatus DSM1123由来のphaCAB(Accession No.AF078795)、Alcaligenes laatus DSM1124由来のphaCAB(Accession No.U47026)、Alcaligenes sp. SH-69由来のphaA(Accession No.AF002013)、Alcaligenes sp. SH-69由来のphaBPCA(Accession No.AF002014)、Allochromatium vinosum D由来のphaCEARPB(Accession No.L01112)、Bacillus megaterium ATCC11561由来のphaPBC(Accession No.AF109909)、Burkholderia sp. DSM 9242由来のphaCABR(Accession No.AF153086)、Chromobacterium violaceum DSM30191由来のphaCA(Accession No.AF061446)、Comamonas acidovorans DS-17由来のphaCA(Accession No.AB009273)、Ectothiorhodospira shaposhnikovii由来のphaCEAPB(Accession No.AF307334)、Paracoccus denitrificans由来のphaAB(Accession No.D49326)、Pseudomonas acidophila由来のphaCABR、Pseudomonas sp. 61-3由来のphbRBAC(Accession No.AB014757)、Ralstonia eutropha H16由来のphaAB(Accession No.J04987)、Rrickettsia prowazedkii Madrid E由来のphaCA, phaC, phaB(Accession No.AJ235273)、Sinorhizobium meliloti由来のphaAB(Accession No.U17226)、Sinorhizobium meliloti Rm1021由来のphaC(Accession No.AF031938)、Sunechocystis sp. PCC6803由来のphaCE(Accession No.D90906)、Sunechocystis sp. PCC6803由来のphaAB(Accession No.D90910)、Thiococcus pfennigii由来のphaCE(Accession No.A49465)、Thiocystis violacea 2311由来のphaCE(Accession No.L01113)、Vibrio cholerae由来のphaBAPC(Accession No.AE004398)、Zoogloea ramigera由来のphaA(B) (Accession No.J02631)を挙げることができる。
【0029】
(c1)の遺伝子は、配列番号21に示されるアミノ酸配列の130番目、325番目、477番目及び481番目のアミノ酸の1以上が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるポリヒドロキシアルカン酸の合成反応を触媒するタンパク質をコードする遺伝子であり、(c2)の遺伝子は、配列番号21に示されるアミノ酸配列の130番目、325番目、477番目及び481番目のアミノ酸の1以上が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列において、更に130番目、325番目、477番目及び481番目以外の1以上のアミノ酸が欠失若しくは置換され、又は1以上のアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列からなるポリヒドロキシアルカン酸の合成反応を触媒するタンパク質をコードする遺伝子である。本発明のプラスミドは、(c1)の遺伝子、(c2)の遺伝子のいずれか一方を有すればよい。
【0030】
(c2)の遺伝子において、欠失、置換、挿入されるアミノ酸の個数は、「1以上」であればよいが、好適には、「1~数十個」であり、より好適には、「1~10個」であり、更に好適には、「1~5個」であり、特に好適には「1~3個」である。
【0031】
(c1)及び(c2)の遺伝子がコードするポリヒドロキシアルカン酸の合成を触媒するタンパク質は、国際公開第2003/100055号に記載されている、シュードモナス・スピーシーズ(Pseudomonas sp.)61-3由来のポリヒドロキシアルカン酸合成酵素のアミノ酸配列の一部を変異させたタンパク質である。以下、本発明におけるポリヒドロキシアルカン酸の合成を触媒するタンパク質をPhaCmと表し、また国際公開第2003/100055号の記載を全て本明細書に取り込むこととする。
【0032】
PhaCmの好適な具体例は、配列番号21に示されるアミノ酸配列の130番目、325番目、477番目及び481番目のアミノ酸が、それぞれ単独で置換された単独変異、任意の2つのアミノ酸が置換された二重変異、任意の3つのアミノ酸が置換された三重変異、4つ全てのアミノ酸が置換された四重変異を挙げることができる。好ましいタンパク質は、任意の2つのアミノ酸が置換された二重変異であり、特に好ましくは325番目のSerがThrに、及び481番目のGlnがLysに置換された二重変異(以下、STQKと表す)である。
【0033】
PhaCmをコードするDNAは、シュードモナス・スピーシーズ(Pseudomonas sp.)61-3由来のポリヒドロキシアルカン酸合成酵素のアミノ酸配列(配列番号21)及びそれをコードするDNAの塩基配列(配列番号20)を基に、当業者に知られた部位特異的変異導入法によって組み換え的に作製することができる。また、国際公開第2003/100055号に記載されている通り、PhaCmのポリヒドロキシアルカン酸の合成を触媒する活性は、前記PhaCmを発現可能な核酸で形質転換された宿主細胞を得、当該宿主細胞のポリヒドロキシアルカン酸の蓄積能によって確認することができる。
【0034】
PhaCmを種々選択して使用することにより、製造される共重合ポリエステル中の3HBの含有率を調節することができる。例えば、前記STQKを使用した場合には、3HB:乳酸=94:6の、乳酸がランダムに取り込まれたランダムコポリマーが製造される。また、PhaCmの選択以外に、例えば大腸菌株Jw2293、Jw0885、Jw0886などの乳酸高蓄積性微生物を宿主として使用することで、製造される共重合ポリエステル中のLAのモル分率を高めることができる。例えば、前記の乳酸高蓄積性大腸菌株を宿主として好気的に培養することで、共重合体ポリエステル中のLAのモル分率を30%程度に高めることができる。更に、微生物によるLAの産生量を高める工夫を施すことにより、共重合体ポリエステル中のLAのモル分率をさらに高めることができる。例えば、前記タンパク質をコードする遺伝子で形質転換された宿主微生物を嫌気条件下で培養することにより、宿主微生物自身のLA産生量を増加させることで、製造される共重合ポリエステル中のLAのモル分率を高めることができる。大腸菌を宿主として嫌気条件下に培養することで、共重合体ポリエステル中のLAのモル分率を50%程度に高めることができる。
【0035】
(d1)~(d9)のDNAは、(a)の遺伝子、(b)の遺伝子、及び(c1)若しくは(c2)の遺伝子を制御するプロモーターである。本発明のプラスミドは、(d1)~(d9)のDNAのいずれか一つを有すればよいが、(d1)~(d6)のDNAのいずれか一つを有することが好ましく、(d1)~(d3)のDNAのいずれか一つを有することがより好ましい。
【0036】
(d1)のDNAは、配列番号1に示される塩基配列からなるDNAであり、大腸菌のyliH遺伝子のプロモーターである。後述する実施例に示す通り、このプロモーターを使用することにより、P(LA-co-3HB)の生産量を著しく増大させることができる。
【0037】
(d2)のDNAは、配列番号1に示される塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるDNAであって、プロモーター活性を有するDNAであり、(d1)のDNAと同様に、P(LA-co-3HB)の生産量を著しく増大させることができると考えられる。(d2)のDNAにおいて、欠失、置換、挿入される塩基の個数は、「1又は複数個」であればよいが、好適には、「1~数十個」であり、より好適には、「1~10個」であり、更に好適には、「1~5個」であり、特に好適には「1~3個」である。
【0038】
(d3)のDNAは、配列番号1に示される塩基配列に対して90%以上の配列同一性を有する塩基配列からなるからなるDNAであって、プロモーター活性を有するDNAであり、(d1)のDNAと同様に、P(LA-co-3HB)の生産量を著しく増大させることができると考えられる。(d3)のDNAにおいて配列同一性は、90%以上であればよいが、好適には95%以上であり、より好適には97%以上であり、更に好適には99%以上である。
【0039】
(d4)のDNAは、配列番号2に示される塩基配列からなるDNAであり、大腸菌のtreA遺伝子のプロモーターである。後述する実施例に示す通り、このプロモーターを使用することにより、P(LA-co-3HB)の生産量を増大させることができる。
【0040】
(d5)のDNAは、配列番号2に示される塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるDNAであって、プロモーター活性を有するDNAであり、(d4)のDNAと同様に、P(LA-co-3HB)の生産量を増大させることができると考えられる。(d5)のDNAにおいて、欠失、置換、挿入される塩基の個数は、「1又は複数個」であればよいが、好適には、「1~数十個」であり、より好適には、「1~10個」であり、更に好適には、「1~5個」であり、特に好適には「1~3個」である。
【0041】
(d6)のDNAは、配列番号2示される塩基配列に対して90%以上の配列同一性を有する塩基配列からなるからなるDNAであって、プロモーター活性を有するDNAであり、(d4)のDNAと同様に、P(LA-co-3HB)の生産量を増大させることができると考えられる。(d6)のDNAにおいて配列同一性は、90%以上であればよいが、好適には95%以上であり、より好適には97%以上であり、更に好適には99%以上である。
【0042】
(d7)のDNAは、配列番号3に示される塩基配列からなるDNAであり、大腸菌のdps遺伝子のプロモーターである。後述する実施例に示す通り、このプロモーターを使用することにより、P(LA-co-3HB)の生産量を増大させることができる。
【0043】
(d8)のDNAは、配列番号3に示される塩基配列において、1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるDNAであって、プロモーター活性を有するDNAであり、(d7)のDNAと同様に、P(LA-co-3HB)の生産量を増大させることができると考えられる。(d8)のDNAにおいて、欠失、置換、挿入される塩基の個数は、「1又は複数個」であればよいが、好適には、「1~数十個」であり、より好適には、「1~10個」であり、更に好適には、「1~5個」であり、特に好適には「1~3個」である。
【0044】
(d9)のDNAは、配列番号3示される塩基配列に対して90%以上の配列同一性を有する塩基配列からなるからなるDNAであって、プロモーター活性を有するDNAであり、(d7)のDNAと同様に、P(LA-co-3HB)の生産量を増大させることができると考えられる。(d9)のDNAにおいて配列同一性は、90%以上であればよいが、好適には95%以上であり、より好適には97%以上であり、更に好適には99%以上である。
【0045】
各遺伝子及びDNAの配置は、(d1)~(d9)のDNAは、(a)の遺伝子、(b)の遺伝子、及び(c1)若しくは(c2)の遺伝子を制御するプロモーターなので、これらの遺伝子の上流に配置される必要があるが、それ以外は特に限定されない。但し、上流から、(d1)~(d9)のDNA、(c1)若しくは(c2)の遺伝子、(a)の遺伝子、(b)の遺伝子の順に配置されることが好ましい。
【0046】
本発明のプラスミドは、公知のプラスミド(例えば、pBR322、pUC18、pBLuescriptIIなど)に上記遺伝子及びDNAを挿入することにより作製できる。遺伝子及びDNAの挿入は、当業者に知られた遺伝子組み換え技術を用いて行うことができる。また、本発明のプラスミドには、必要に応じて、遺伝子及びDNAを導入しようとする微生物において利用可能なターミネーター配列、エンハンサー配列、スプライシングシグナル配列、ポリA付加シグナル配列、リボゾーム結合配列(SD配列)、選択マーカー遺伝子などを含めることもできる。選択マーカー遺伝子の例としては、アンピシリン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、カナマシン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子等の薬剤耐性遺伝子の他、アミノ酸や核酸等の栄養素の細胞内生合成に関与する遺伝子、あるいはルシフェラーゼとうの蛍光タンパク質をコードする遺伝子などを挙げることができる。
【0047】
本発明のプラスミドは、上記遺伝子及びDNAの他に、プロピオン酸及び/又は乳酸にCoAが転移される反応を触媒するタンパク質をコードする遺伝子を有することが好ましい。「プロピオン酸及び/又は乳酸にCoAが転移される反応を触媒するタンパク質」は、適当なCoA基質からプロピオン酸及び/又は乳酸にCoAが転移される反応を触媒する活性を有するタンパク質である。このような活性を有するタンパク質は、一般にプロピオニルCoAトランスフェラーゼ(PropionylCoA Transferase、Pct)と称されている。以下、本発明では、当該タンパク質をPctと表すこととする。
【0048】
これまで報告されたPctとしては、Clostridium propionicum由来のPct(Eur. J. Biochem., 2002, Vol. 269, pp. 372-380)、Megasphaera elsdenii由来のPct(United States Patent 7186541)、Staphylococcus aureus由来のPct(Eur. J. Biochem., 2002, Vol. 269, pp. 372-380)、Esherichia coli由来のPct(Eur. J. Biochem., 2002, Vol. 269, pp. 372-380)などを挙げることができる。
【0049】
本発明では、上述したPctの他にも、これまでに報告されたPctのいずれも利用することができる。また、「プロピオン酸及び/又は乳酸にCoAが転移される反応を触媒するタンパク質」である限り、既知のPctのアミノ酸配列において1個又は数個、例えば1~数十個、好ましくは1~十数個、より好ましくは10個以下のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であっても利用することができる。
【0050】
プロピオン酸及び/又は乳酸にCoAが転移される反応の触媒活性は、例えばA. E. Hofmeisterら(Eur. J. Biochem.、第206巻、第547-552頁)に記載された方法に従って測定することができる。
【0051】
本発明における好ましいPctは、メガスファエラ エルスデニ(Megasphaera elsdenii)由来のPctであり、そのアミノ酸配列を配列番号23に、当該アミノ酸配列をコードする核酸(DNA)の塩基配列の例を配列番号22に示す。
【0052】
Pctをコードする遺伝子は、(d1)~(d9)のDNAとは別のプロモーターによって制御されることが好ましい。プロモーターとしては、Pctをコードする遺伝子本来のプロモーターでもよく、他のプロモーターでもよい。他のプロモーターとしては、trpプロモーター、lacプロモーター、PLプロモーター、PRプロモーター、T7プロモーターなどを挙げることができる。
【0053】
Pctをコードする遺伝子は、(d1)~(d9)のDNAの上流側に配置されても、下流側に配置されてもよいが、上流側に配置されることが好ましい。
【0054】
(2)微生物
本発明の微生物は、本発明のプラスミドで形質転換されていることを特徴とするものである。
【0055】
形質転換の方法は特に限定されず、例えば、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法、接合伝達法、カルシウムイオンを用いる方法などを挙げることができる。
【0056】
微生物の種類は特に限定されず、シュードモナス(Pseudomonas)属細菌、ラルストニア(Ralstonia)属細菌、バチルス(Bacillus)属細菌、エシェリヒア(Escherichia)属細菌、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属細菌、サッカロマイセス(Saccharomyces)属酵母、カンジダ(Candida)属酵母などを挙げることができる。好適な微生物としては、大腸菌(Escherichia coli)を挙げることができる。
【0057】
(3)共重合ポリエステルの製造方法
本発明の3-ヒドロキシ酪酸と乳酸とからなる共重合ポリエステルの製造方法は、(1)本発明の微生物を、炭素源を含む培地で培養する工程、(2)工程(1)の培養物から前記共重合ポリエステルを回収する工程を含むことを特徴とするものである。
【0058】
微生物の培養は、培地組成を除き、組み換え微生物の種類に応じて、それぞれの微生物についての一般的な培養条件で行うことが好ましい。特に、微生物を嫌気条件下に培養することで、共重合体ポリエステル中の乳酸のモル分率を高めることができる点で有利である。
【0059】
特殊な組成を有する培地は特に必要とされないが、炭素源以外の窒素源、無機塩類その他の有機栄養源のいずれかを制限した培地を利用することが好ましい。例えば、ラルストニア(Ralstonia)属細菌やシュードモナス(Pseudomonas)属細菌等に核酸を組み込んだ組み換え微生物を培養する培地としては、例えば窒素源を0.01~0.1%に制限した培地が挙げられる。
【0060】
炭素源としては、例えば、グルコース、フラクトース、スクロース、マルトース等の炭水化物が挙げられる。また、炭素数4以上の油脂関連物質を炭素源とすることもできる。炭素数4以上の油脂関連物質としては、コーン油、大豆油、サフラワー油、サンフラワー油、オリーブ油、ヤシ油、パーム油、ナタネ油、魚油、鯨油、豚油又は牛油などの天然油脂、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、オクタン酸、デカン酸、ラウリン酸、オレイン酸、パルミチン酸、リノレン酸、リノール酸若しくはミリスチン酸等の脂肪酸又はこれらの脂肪酸のエステル、オクタノール、ラウリルアルコール、オレイルアルコール若しくはパルミチルアルコール等又はこれらアルコールのエステル等が挙げられる。好適な炭素源としてはグルコースを挙げることができる。培地中の炭素源の濃度は特に限定されないが、例えば、炭素源がグルコースである場合は2.5~3.5(w/v)%とするのが好ましい。
【0061】
窒素源としては、例えば、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等のアンモニウム塩の他、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスティープリカー等が挙げられる。無機物としては、例えばリン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム等が挙げられる。
【0062】
培養は、通常振盪培養などの好気的条件下、25~37℃の範囲で、各遺伝子がコードするタンパク質が転写発現されてから24時間以上行うことが好ましい。嫌気条件下に培養を行うときは、前記時間は48時間以上であることが好ましい。培養中は、カナマイシン、アンピシリン、テトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
【0063】
本発明において、共重合ポリエステルポリエステルの回収は、微生物から共重合ポリエステルを回収するための当業者に公知の方法によって行えばよい。例えば、培養液から遠心分離によって集菌、洗浄した後、乾燥させ、クロロホルムに乾燥菌体を懸濁し、加熱することによって、目的とする共重合ポリエステルをクロロホルム画分に抽出し、さらにこのクロロホルム溶液にメタノールを加えてポリエステルを沈殿させ、濾過や遠心分離によって上澄み液を除去した後、乾燥することで、精製された共重合ポリエステルを得ることができる。
【0064】
回収されたポリエステルが3HBと乳酸とからなる共重合ポリエステルであることの確認は、通常の方法、例えばガスクロマトグラフ法や核磁気共鳴法等により行えばよい。
【実施例0065】
以下に、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0066】
(A)方法
(1)プラスミドの作製方法
pTV118NpctphaC1AB(STQK)を鋳型として、KOD-Plus-Neo(TOYOBO)を使用して、5’-TTATTTTTTCAGTCCCATGGGACCG-3’ (配列番号4)と5’-ATGAGTAACAAGAATAGCGATGACTTGA-3’(配列番号5)のプライマーを用いて8.6 kbの断片(ベクター)を増幅した。また、大腸菌BW25113株のゲノムを鋳型として、下記に示すプライマーペア(それぞれFとR)を用いて各プロモーターのDNA断片(インサート)を増幅した。ギブソンアセンブリシステム(https://www.nebj.jp/f/541と同様の手法で、自前で酵素やバッファーを調整し混合した反応溶液)を用いて、ベクターが50 ng、 各インサートが100 ngとなるようにそれぞれ混合し、50℃で15分間反応させ連結し、大腸菌JM109株に形質転換を行い、LB-Amp寒天培地で選択を行った。形成された大腸菌コロニーからプラスミドを抽出し、シークエンス確認用プライマーを用いて、挿入されたインサートのDNA配列が正確に挿入されていることを確認した。確認できたプラスミドを、それぞれpTV118Npct-PyliHC1AB(STQK)、 pTV118Npct-PtreAC1AB(STQK)、pTV118Npct-PdpsC1AB(STQK)とした。
インサートDNA断片(大腸菌プロモーター)、増幅用プライマー
yliH-F gggactgaaaaaataaGTGATTTCCAGCACTTTCGGG(配列番号6)
yliH-R attcttgttactcatACTTCGATCCTCCTCTTCC(配列番号7)
treA-F gggactgaaaaaataaGCGATACAACCAGAAGAAACGC(配列番号8)
treA-R attcttgttactcatCAATCATTCTCCTTTGGCGAAAC(配列番号9)
dps-F gggactgaaaaaataaCTCGCTACTTTTCCTCTACACC(配列番号10)
dps-R attcttgttactcatAATTTCATATCCTCTTGATGTTATGTC(配列番号11)
【0067】
(2)発現量の測定(RNA抽出~RT-qPCR)
CaCl2法を用いて調整した大腸菌BW25113株のコンピテントセルを用いて、各プラスミドを形質転換し、LB-アンピシリン(終濃度50 μg/ml)の寒天プレートに塗布した。1晩(約14時間)培養後、形成されたコロニーを、各プラスミドを保持した大腸菌株として扱った。まず、LB液体培地 3 ml にアンピシリン(終濃度50 μg/ml) 添加した液体培地に植菌し、前培養として8時間行った。その後20 mlの同培地にグルコースを終濃度で2%添加し、本培養を行った(前培養からは1/100量添加した)。本培養は30℃ 180rpmで行い24時間後の大腸菌細胞から、Total RNAを抽出した。RNA抽出にはIsogen(ニッポンジーン)を用いた。Total RNAからTHUNDERBIRD SYBR qPCR RT kit (Toyobo)を用いてcDNAを合成した。そのcDNAを鋳型にして、各遺伝子検出用プライマーとTHUNDERBIRD SYBR qPCR mix (Toyobo)とを混合し、 LightCycler 96 systemのリアルタイムPCR機器(Roche) を用いてqPCR解析を行った。プライマーは以下に示したものを使用した。qPCR mixは10 μl THUNDERBIRD SYBR qPCR mix, 1 μl のそれぞれのプライマー(50 μM), 7 μl ddH2O、 1 μl cDNAを混合し、次のサイクルでPCRをかけた(95 ℃ 2 分; 95 ℃ 10秒、55 ℃ 20秒を45 サイクル; そして 72 ℃で20秒インキュベーションし終了)。pha遺伝子群のmRNAレベルはphaC1を測定することで定量し、16S rRNA (rrsA) を内部標準とし、Relative Quantification software (Roche)で解析した。結果は3つのサンプルの平均を取り、誤差を示した。
qPCR用プライマー
qPCR phaC1(STQK)-F TGCGTGGAAAAGATCTGCTG(配列番号12)
qPCR phaC1(STQK)-R TCAGCTCGATGCCAAAATGC(配列番号13)
qPCR rrsA-F TGCATCTGATACTGGCAAGC(配列番号14)
qPCR rrsA-R TACGCATTTCACCGCTACAC(配列番号15)
【0068】
(3)P(LA-co-3HB)の生産量の測定(GC-FID法)
CaCl2法を用いて調整した大腸菌BW25113株のコンピテントセルを用いて、各プラスミドを形質転換し、LB-アンピシリン(終濃度50 μg/ml)の寒天プレートに塗布した。1晩(約14時間)培養後、形成されたコロニーを、各プラスミドを保持した大腸菌株として扱った。まず、LB液体培地 3 ml にアンピシリン(終濃度50 μg/ml) 添加した液体培地に植菌し、前培養として8時間行った。その後20 mlの同培地にグルコースを終濃度で2%添加し、本培養を行った(前培養からは1/100量添加した)。培養は30℃ 180rpm で行い、48時間後に集菌し、P(LA-co-3HB)の生産量を測定した。
【0069】
集菌した菌体は、100%メタノール、50%メタノール、ddH2Oで一度ずつ洗い、凍結乾燥を48時間行った(-20℃ 6時間、 -10℃ 6時間、 0℃ 12時間、 20℃ 24時間)。その後、乾燥菌体をクロロホルム2 ml メタノール 1.7 ml 硫酸 0.3 mlの順に添加し、100℃で2時間反応させ、ポリマーをメチル化した。その反応液を常温まで冷まし、1 mlのddH2Oを加えてよく攪拌した後、6000 rpmで10分間遠心分離を行った。その後、下層のクロロホルム層を回収し、分析試料とした。
【0070】
分析試料150 μlと、クロロホルムと内部標準である安息香酸メチルが1000:1の比率で混ざった液体を150 μlを混合し、300 μlとした。そこから1 μl をサンプルとしてGC-FIDで分析した(GC353B、inert cap 1、HG260、GLサイエンス社)。産生されたポリマー量は、メチルDL乳酸とメチル3-ヒドロキシ酪酸を標準物質とし、クロロホルム内の濃度と内部標準である安息香酸メチルと標準物質の面積比で検量線を作成し、そこから算出した。
【0071】
(B)結果
(1)mRNAレベルでの発現量の測定
pTV118NpctphaC1AB(STQK)、pTV118Npct-PyliHC1AB(STQK)、pTV118Npct-PtreAC1AB(STQK)、及びpTV118Npct-PdpsC1AB(STQK)の4種類のプラスミドを使用し、P(LA-co-3HB)の生産に関与するphaC1AB遺伝子のmRNAレベルでの発現量を測定した(図1)。pTV118NpctphaC1AB(STQK)はphaC1AB遺伝子の元々のプロモーター(Pre)を有しており、pTV118Npct-PyliHC1AB(STQK)は大腸菌のyliH遺伝子のプロモーターを有しており、pTV118Npct-PtreAC1AB(STQK)は大腸菌のtreA遺伝子のプロモーターを有しており、pTV118Npct-PdpsC1AB(STQK) は大腸菌のdps遺伝子のプロモーターを有している。
【0072】
yliH遺伝子、treA遺伝子、及びdps遺伝子は、いずれも大腸菌が指数関数的な成長から定常期に移行する際に発現する遺伝子である。本発明者は、このような定常期遺伝子のプロモーターの強度を以前に調べている(Tomohiro Shimada et al., J. Bacteriol. 2004 Nov;186(21):7112-22)。本発明者が調べた多数のプロモーターの中で、相対的に、yliH遺伝子のプロモーターは中程度の強度のプロモーターであり、treA遺伝子のプロモーターは低強度のプロモーターであり、dps遺伝子のプロモーターは高強度のプロモーターであった。
【0073】
図1に示すように、pTV118Npct-PdpsC1AB(STQK)(図中のD)、pTV118Npct-PyliHC1AB(STQK)(図中のY)、及びpTV118Npct-PtreAC1AB(STQK) (図中のT)の発現量は、pTV118NpctphaC1AB(STQK)(図中のPre)の発現量のそれぞれ約6.7倍、約5.5倍、及び約0.5倍であり、phaC1AB遺伝子の発現量はプロモーターの強度と対応したものとなっていた。
【0074】
(2)P(LA-co-3HB)の生産量の測定
pTV118NpctphaC1AB(STQK)、pTV118Npct-PyliHC1AB(STQK)、pTV118Npct-PtreAC1AB(STQK)、及びpTV118Npct-PdpsC1AB(STQK)の4種類のプラスミドを使用し、P(LA-co-3HB)の生産量を測定した(図2)。
【0075】
図2に示すように、P(LA-co-3HB)の生産量はpTV118Npct-PyliHC1AB(STQK)(図中のY)が最も高く、pTV118NpctphaC1AB(STQK)(図中のPre)の生産量の約2.1倍であった。また、pTV118Npct-PtreAC1AB(STQK)(図中のT)は、phaC1AB遺伝子の発現量が低かったにもかかわらず(図1)、P(LA-co-3HB)の生産量は高く、pTV118Npct-PdpsC1AB(STQK)(図中のD)の生産量とあまり変わらなかった。
【0076】
(3)高グルコース濃度でのP(LA-co-3HB)の生産量の測定
上記のように、pTV118Npct-PyliHC1AB(STQK)を使用することにより、P(LA-co-3HB)の生産量が上昇したことから、原料とするグルコースの消費も上昇した可能性があった。そこで、培地中のグルコース濃度を2%から3%に変更し、培養を行い、P(LA-co-3HB)の生産量を測定した(図3)。
【0077】
図3に示すように、pTV118NpctphaC1AB(STQK)(図中のPre)の生産量は、グルコース濃度が2%の場合と同様の結果であったが、pTV118Npct-PyliHC1AB(STQK)(図中のY)の生産量は、グルコース濃度が2%の場合の約3.5倍に上昇した。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、バイオプラスチックに関連する産業において利用可能である。
図1
図2
図3
【配列表】
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