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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023118504
(43)【公開日】2023-08-25
(54)【発明の名称】ミクロトームと試料切断方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/06 20060101AFI20230818BHJP
【FI】
G01N1/06 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022021485
(22)【出願日】2022-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(71)【出願人】
【識別番号】595020012
【氏名又は名称】柳下技研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097515
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 実
(74)【代理人】
【識別番号】100136700
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 俊博
(72)【発明者】
【氏名】山澤 建二
(72)【発明者】
【氏名】柳下 裕之
【テーマコード(参考)】
2G052
【Fターム(参考)】
2G052AA28
2G052EC03
2G052EC05
2G052EC22
2G052GA32
2G052GA34
2G052HC06
2G052HC32
2G052HC45
2G052JA06
2G052JA07
(57)【要約】
【課題】試料から超薄切片を切り取る場合でも、良好な切断面を有する超薄切片を得ることを可能にするミクロトームと試料切断方法を提供する。
【解決手段】ミクロトーム10は、試料1を切断して切片2を切り取る刃11と、刃11を支持する支持部12と、試料1を保持する保持部13と、保持部13を移動させることで試料1を刃11に対して移動させる駆動装置14と、試料1が刃11に切断されるように駆動装置14を制御する制御装置16と、試料の切断時に生じる切断抵抗力を計測し当該力計測値を出力する力計測部15とを備える。制御装置16は、力計測値に基づいて駆動装置14を制御する。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を切断して当該試料から切片を切り取る刃と、
当該刃を支持する支持部と、
前記試料を保持する保持部と、
前記保持部を移動させることで前記試料を前記刃に対して移動させる駆動装置と、
前記試料が前記刃に切断されるように前記駆動装置を制御する制御装置と、
前記試料の切断時に生じる切断抵抗力を計測し当該力計測値を出力する力計測部と、を備え、
前記制御装置は、前記力計測値に基づいて前記駆動装置を制御する、ミクロトーム。
【請求項2】
前記制御装置は、前記力計測部が計測した切断抵抗力に基づいて、切断抵抗力が設定値になるように、又は、切断抵抗力が設定値以下になるように、前記駆動装置を制御する、請求項1に記載のミクロトーム。
【請求項3】
試料の切断方向において、前記試料の切断が開始される前記保持部の位置を切断開始位置とし、前記試料の切断が完了する前記保持部の位置を切断完了位置とし、
前記制御装置は、
切断開始位置から切断完了位置までの範囲内の各位置と切断抵抗力の設定値とを互いに対応付けた設定パターンを記憶しており、
前記力計測値と、切断方向における前記保持部の検出位置とに基づいて、切断抵抗力が、設定パターンにおいて当該検出位置に対応する設定値になるように、又は当該設定値以下になるように、駆動装置を制御する、請求項1に記載のミクロトーム。
【請求項4】
前記制御装置は、前記力計測値がしきい値を超える場合には、前記試料の切断を停止するように前記駆動装置を制御する、請求項1~3のいずれか一項に記載のミクロトーム。
【請求項5】
前記制御装置は、前記駆動装置を制御して前記保持部に対し位置決め制御と切断制御を行い、
前記制御装置は、位置決め制御では、試料を切断する切断方向と交差する位置決め方向における目標位置に前記保持部を位置決めし、当該目標位置は、切断方向から見た場合に前記試料が前記刃の刃先と重なるようになる前記保持部の位置であり、
前記制御装置は、切断制御では、前記保持部の位置を前記目標位置に維持したまま、前記試料が前記刃先を通過するように切断方向に前記保持部を直線的に移動させる、請求項1~4のいずれか一項に記載のミクロトーム。
【請求項6】
前記駆動装置は、切断方向に直線的に前記保持部を移動させるリニアモータを有する、請求項4に記載のミクロトーム。
【請求項7】
前記保持部に保持された試料の端面の位置を計測し、当該計測位置を前記制御装置に入力する端面計測部を備え、
前記制御装置は、位置決め制御の前に目標位置の設定処理を行い、
前記制御装置は、
前記設定処理では、切断方向から見た場合に、前記端面が前記刃先の既知の位置から目標厚みだけ突出するようになる前記保持部の位置を前記目標位置として設定し、
位置決め制御では、前記保持部を前記目標位置に位置決めする、請求項5に記載のミクロトーム。
【請求項8】
前記端面計測部は、前記保持部に対して固定されるように設けられている、請求項7に記載のミクロトーム。
【請求項9】
前記制御装置は、前記端面計測部に前記試料の端面の位置を計測させる計測処理と、当該計測位置に基づいて前記目標位置を設定する設定処理を行い、
前記制御装置は、
計測処理と設定処理と位置決め制御と切断制御をこの順で繰り返し、
切断制御の前後の計測処理でそれぞれ得た前記試料の端面の計測位置に基づいて、当該切断制御で前記試料から切り取られた切片の厚みを求め、
当該厚みと前記目標厚みとの差を求め、
次の前記設定処理において設定する前記目標位置を前記差に基づいて補正し、
補正した前記目標位置に基づいて次の位置決め制御を行う、請求項7又は8に記載のミクロトーム。
【請求項10】
前記制御装置は、前記設定処理と位置決め制御と切断制御を繰り返すことにより、繰り返し前記試料を切断し、
切断制御が行われる度に、当該切断制御により新たに形成された前記試料の端面を撮像するカメラを備える、請求項7に記載のミクロトーム。
【請求項11】
前記カメラにより繰り返し撮像された前記端面の画像データに基づいて、前記試料の三次元画像データを生成する画像処理部を備える、請求項10に記載のミクロトーム。
【請求項12】
試料を保持部に保持させ、
支持部に取り付けられた刃に対して、前記保持部を移動させることにより、前記試料を前記刃で切断して、当該試料から切片を切り取り、
前記試料の切断時において、当該切断で生じる切断抵抗力を計測し、計測した切断抵抗力に基づいて、前記保持部の移動速度を制御する、試料切断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織または素材などの試料から切片を切り取るミクロトームに関する。
【背景技術】
【0002】
ミクロトームは、生体組織または素材などの試料を切断して試料から切片を作製する切断装置である。試料から切り取られた切片は、例えば試料の断面や物性などを評価するために、顕微鏡で観察される標本として利用される。ミクロトームは、例えば特許文献1,2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9-236522号公報
【特許文献2】特開2007-57255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ミクロトームにおいて、例えば幅が10mm以上の刃を用いて、厚さが100nm以下であり10nm以上である超薄切片を試料から切り取る場合には、超薄切片がつぶれてしまうこと等により、良好な切断面を有する超薄切片を得ることが困難であった。
【0005】
そこで、本発明の目的は、試料から超薄切片(例えば厚さが100nm以下である切片)を切り取る場合でも、良好な切断面を有する超薄切片を得ることを可能にするミクロトームと試料切断方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によるミクロトームは、試料を切断して当該試料から切片を切り取る刃と、当該刃を支持する支持部と、前記試料を保持する保持部と、前記保持部を移動させることで前記試料を前記刃に対して移動させる駆動装置と、前記試料が前記刃に切断されるように前記駆動装置を制御する制御装置と、
前記試料の切断時に生じる切断抵抗力を計測し当該力計測値を出力する力計測部と、を備える。前記制御装置は、前記力計測値に基づいて前記駆動装置を制御する。
【0007】
本発明による試料切断方法では、試料を保持部に保持させ、支持部に取り付けられた刃に対して、前記保持部を移動させることにより、前記試料を前記刃で切断して当該試料から切片を切り取り、前記試料の切断時において、当該切断で生じる切断抵抗力を計測し、計測した切断抵抗力に基づいて前記保持部の移動速度を制御する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、刃に対して試料を移動させることにより試料を刃で切断する時に、切断抵抗力を計測し、計測された切断抵抗力に基づいて、試料の移動を制御する。これにより、切断抵抗力が大きくなることを防止して、試料から切片を安定して切り取ることができる。したがって、良好な切断面を有する超薄切片を試料から切り取ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1A】本発明の実施形態によるミクロトームの構成を示す。
図1B図1Aにおいて、右側から端面計測部と試料の端面などを見た図である。
図2】ミクロトームの制御装置による制御に関するブロック図である。
図3】本実施形態による試料切断方法を示すフローチャートである。
図4A-4E】ミクロトームによる試料切断方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0011】
(ミクロトーム10の構成)
図1Aは、本発明の実施形態によるミクロトーム10の構成を示す。ミクロトーム10は、生体組織または素材などの試料1から切片2を切り取る。この切片2の厚みは、本実施形態では、例えば、厚さ100nm以下10nm以上(例えば50nm以下10nm以上)であってよい。一例では、切片2の厚みは、10nmである。ただし、ミクロトーム10により切り取られる切片2の厚みは、上記範囲や上記数値に限定されない。
【0012】
ミクロトーム10により切り取られた切片2は、光学顕微鏡または電子顕微鏡での観察対象となってよい。切片2が透過型電子顕微鏡での観察対象となる場合には、切片2は、透過型電子顕微鏡で用いられる電子線が透過可能な厚み(例えば100nm以下の厚み)を有する。
【0013】
なお、図1AのXとYとZは、直交座標系における互いに直交するX軸とY軸とZ軸を示す。以下において、X軸とY軸とZ軸の方向をそれぞれX軸方向とY軸方向とZ軸方向という。
【0014】
ミクロトーム10は、刃11、支持部12、力計測部15、および制御装置16を備える。
【0015】
刃11は、試料1を切断して当該試料1から切片2を切り取る。刃11は、試料1を切断する刃先11aを有する。刃先11aは、刃11の刃幅方向(図1AではY軸方向)に延びている。刃11は、その全体が又は少なくともその刃先11aがダイヤモンドで形成されていてよい。このダイヤモンドは、人工合成のものであってもよいし、天然のものであってもよい。すくい面11bと逃げ面11cとがなす角度は、鋭角であってよく、一例では45度以上55度以下であるが、この範囲に限定されない。
【0016】
刃11は、すくい面11bと逃げ面11cを有する。刃先11aは、すくい面11bと逃げ面11cとの交差部分として形成されている。刃先11aは、直線状に延びていてよい。この場合、刃先11aが延びる方向(Y軸方向)における各位置において、当該方向に直交する断面において、すくい面11bと逃げ面11cとのなす角度は一定であってよい。
【0017】
刃11の刃幅は、例えば7mm以上、8mm以上、又は10mm以上であってよい。この場合、刃幅は、例えば、12mm以下、13mm以下、又は15mm以下であってよい。一例では、刃幅は、10mmである。ただし、刃幅は、これらの範囲や当該値に限定されない。なお、刃幅は、刃先11aが刃幅方向に延びている長さ、すなわち、刃幅方向における刃先11aの寸法を意味してよい。図1Aの例では、刃11は、三角柱形状に形成されているが、この形状に限定されず、上述のように刃先11aを形成するすくい面11bと逃げ面11cを有する形状であればよい。なお、保持部13に保持されている試料1の幅(刃幅方向の寸法)も、例えば同様に7mm以上、8mm以上、又は10mm以上であってよいが、刃幅以下である。
【0018】
支持部12は、刃11が取り付けられる構造部であり、刃11を支持する。例えば、支持部12は、図示しない適宜の機構により刃幅方向に刃11を挟み込むことにより刃11を保持している。刃11は、支持部12に支持されることにより、試料1の切断時において移動することなく一定位置に保持されていてよい。なお、以下において、支持部12に支持された状態の刃11の刃幅方向を、単に刃幅方向ともいう。
【0019】
保持部13は、試料1を保持する。試料1は、その一端部(根元部)が保持部13に取り付けられ、その他端側部(先端側部)が保持部13から後述の位置決め方向(図1AではX軸方向)に突出するように保持部13に適宜の手段により取り付けられてよい。以下において、保持部13に保持されている試料1を、単に試料1ともいう。
【0020】
駆動装置14は、保持部13を移動させることで試料1を刃11に対して移動させる。駆動装置14は、位置決め方向と切断方向に保持部13を移動させる。位置決め方向と切断方向は、互いに交差(例えば直交)する直線方向である。位置決め方向は、試料1の切断前に保持部13(すなわち試料1)を位置決めする方向である。切断方向は、位置決め方向において位置決めされた保持部13(試料1)が、切断のために移動させられる方向であり、試料1が刃11に切断される方向である。図1Aの例では、位置決め方向は正のX軸方向(水平方向)であり、切断方向は負のZ軸方向(鉛直方向)である。
【0021】
なお、切断方向は、刃幅方向に直交する方向であって、逃げ面11cから所定の逃げ角だけ傾いた方向であってよい。所定の逃げ角は、例えば0度より大きく10度以内であってよいが、この範囲に限定されない。
【0022】
駆動装置14は、第1移動部17、第1駆動部18、第2移動部19、および第2駆動部21を有するように構成されてよい。
【0023】
第1移動部17は、基体部22に設けられ、図示しないガイド機構によって基体部22と刃11に対して位置決め方向(図1AではX軸方向)に往復移動可能になっている。第1駆動部18は、基体部22と刃11に対して第1移動部17を位置決め方向に移動させる。
【0024】
第2移動部19は、第1移動部17に設けられ、図示しないガイド機構によって第1移動部17に対して切断方向に往復移動可能である。第2移動部19には、保持部13が設けられている。第2駆動部21は、第1移動部17に対して第2移動部19を切断方向に移動させる。
【0025】
このような駆動装置14の構成で、第1駆動部18が第1移動部17を位置決め方向に移動させることにより、保持部13と試料1が位置決め方向へ移動し、第2駆動部21が第2移動部19を位置決め方向に移動させることにより、保持部13と試料1が切断方向へ移動する。
【0026】
第1駆動部18は、第1移動部17(すなわち保持部13)を位置決め方向に移動させるリニアモータであってよい。この場合、リニアモータ18は、図1Aの例のように、第1移動部17に設けられた可動子18aと、基体部22に設けられ可動子18aを位置決め方向に移動させる固定子18bとを有する。リニアモータ18は、例えば、その位置決め精度が10nm以下となるものであってよいが、これに限定されない。
【0027】
可動子18aと固定子18bの一方は、電流が供給されるコイルにより構成され、可動子18aと固定子18bの他方は、永久磁石により構成される。コイルに供給される電流が制御装置16により制御されることにより、可動子18aが位置決め方向に駆動されて第1移動部17が位置決め方向に移動する。
【0028】
第2駆動部21は、第2移動部19(すなわち保持部13)を切断方向に移動させるリニアモータであってよい。この場合、リニアモータ21は、図1Aの例のように、第2移動部19に設けられた可動子21aと、この可動子21aを切断方向に移動させる固定子21bとを有する。固定子21bは、第1移動部17に設けられてよい。
【0029】
可動子21aと固定子21bの一方は、電流が供給されるコイルにより構成され、可動子21aと固定子21bの他方は、永久磁石により構成される。コイルに供給される電流が制御装置16により制御されることにより、可動子21aが切断方向に駆動されて第2移動部19が切断方向に移動する。
【0030】
基体部22は、静止している構造部であってもよいし、Y軸方向に移動可能であってもよい。後者の場合、図示を省略するが、駆動装置14は、基体部22をY軸方向に移動させる駆動部を更に有していてもよい。
【0031】
力計測部15は、試料1の切断時に生じる切断抵抗力を計測し、当該切断抵抗力の計測値(以下で単に力計測値ともいう)を出力する。力計測部15は、支持部12に設けられてよいが、他の箇所(例えば刃11)に設けられてもよい。力計測部15は、例えば歪みゲージ又は水晶やセラミックス等の圧電素子であってもよい。
【0032】
力計測部15が計測する切断抵抗力は、互いに直交する3つ又は2つの方向(例えば切断方向と位置決め方向)における切断抵抗力の成分の合力であってもよいし、このような合力としての切断抵抗力における所定方向の成分(例えば切断方向の成分または位置決め方向の成分)であってもよい。
【0033】
制御装置16は、駆動装置14を制御することにより、保持部13と、保持部13に保持されている試料1を、刃11に対して移動させる。これにより、試料1が刃11によって切断されて、試料1から切片2が切り取られる。このように試料1が刃11に切断される時に、力計測部15は、切断抵抗力を計測し、制御装置16は、当該力計測値に基づいて、駆動装置14を制御する。
【0034】
制御装置16は、試料1を保持している保持部13に対して位置決め制御と切断制御をこの順で行う。
【0035】
位置決め制御では、制御装置16は、駆動装置14を制御することにより、切断方向から見た場合に試料1が刃先11aと重なるようになる目標位置に、保持部13を位置決めさせる。次いで、切断制御では、制御装置16は、駆動装置14を制御することにより、切断方向に試料1が刃先11aを通過して当該刃先11aで切断されるように、保持部13と試料1を切断方向に直線的に移動させる。
【0036】
切断制御では、切断区間を含む所定区間において、制御装置16が保持部13(試料1)を切断方向に移動させる速度(以下で単に切断用速度ともいう)は、例えば、秒速50mm以下、秒速10mm以下、秒速5mm以下、秒速3mm以下、又は秒速1mm以下であってよい。この場合、当該速度は、秒速0.05mm以上、又は秒速0.01mm以上であってよい。
【0037】
なお、切断区間は、切断開始時点から切断完了時点までの期間である。切断開始時点は、試料1が切断方向に移動する過程において、試料1が最初に刃先11aに接触することで切断抵抗力が生じ始める時点である。切断完了時点は、試料1が刃先11aを通過し終わることで切断抵抗力がゼロになる時点である。
【0038】
制御装置16は、後述する第2位置検出部24からの切断方向における検出位置と、予め設定した上記所定区間とに基づいて、上記所定区間における第2移動部19の移動速度を上述の切断用速度に制御してよい。制御装置16には、上記所定区間と切断用速度とが予め記憶されていてよい。
【0039】
図2は、制御装置16による制御に関するブロック図である。ミクロトーム10は、位置決め制御に用いられる第1位置検出部23を備えていてよい。第1位置検出部23は、位置決め方向における保持部13の位置を検出し、当該検出位置を制御装置16に入力する。第1位置検出部23が検出する保持部13の位置は、位置決め方向における保持部13の位置を表わす基準点(以下で単に第1基準点ともいう)である。第1基準点は、保持部13上の所定の基準点であってよい。
【0040】
制御装置16は、位置決め制御において、第1位置検出部23からの検出位置と、位置決め方向における既知の刃先11aの位置と、第1基準点と試料1との相対位置に関する情報(例えば後述の端面1aの位置計測値、または第1基準点と試料1との既知の間隔など)とに基づいて、上記目標位置に保持部13を位置決めしてよい。制御装置16には、位置決め方向における第1基準点に対する刃先11aの位置が予め設定又は記憶されている。
【0041】
第1位置検出部23(図2)は、図1Aでは図示を省略するが、例えば、第1移動部17と基体部22の一方に設けられるリニアスケールと、第1移動部17と基体部22の他方に設けられる位置検出器とを有してよい。位置検出器は、位置決め方向に延びているリニアスケールに対向して位置決め方向の所定位置に設けられ、リニアスケールの目盛りを読み取ることにより、位置決め方向における保持部13の第1基準点の位置を検出する。検出される当該位置は、第1位置検出部23に設定されている所定の原点に対して表されてよい。
【0042】
ミクロトーム10は、第2位置検出部24を備えていてよい。第2位置検出部24は、切断方向における保持部13の位置を検出し、当該検出位置を制御装置16に入力する。第2位置検出部24が検出する保持部13の位置は、切断方向における保持部13の位置を表わす基準点(以下で単に第2基準点ともいう)である。第2基準点は、保持部13上の所定の基準点であってよい。第2位置検出部24の構成は、第1位置検出部23と同様であってよい。
【0043】
制御装置16は、切断制御で、第2位置検出部24からの検出位置に基づいて、切断方向において、試料1が刃先11aを通過した後になる所定位置に保持部13を停止させてよい。
【0044】
本実施形態では、制御装置16は、上述の位置決め制御と切断制御を繰り返し行うことで、試料1を繰り返し切断して試料1から切片2を繰り返し切り取る。この場合、各切断制御を行った後、試料1が刃11や支持部12などに干渉しないように、当該切断制御の前における切断方向位置へ試料1を移動させてから、次の位置決め制御と切断制御を行う。
【0045】
<切断抵抗力の設定値を用いた制御機能>
制御装置16は、切断制御において、力計測値に基づいて、切断抵抗力が一定の設定値になるように、又は、切断抵抗力が当該設定値以下になるように、駆動装置14を制御してよい。この設定値は、予め制御装置16に記憶されていてよい。なお、当該設定値は、試料1(切片2)の良好な切断面を得るための値であり、例えば、1.0N/mm以下程度の値であるが、これに限定されず、0.5N/mm以上1.5N/mm以下の範囲内の値であってもよいし、0.1N/mm以上2.0N/mm以下の範囲内の値であってもよいし、他の値であってもよい。切断制御が行われている切断期間における各時点で、力計測部15は切断抵抗力を計測し、当該力計測値を制御装置16に入力する。制御装置16は、切断期間における各時点で、力計測部15から入力された力計測値に基づいて、切断抵抗力が設定値になるように、又は、切断抵抗力が設定値以下になるように、駆動装置14が保持部13を切断方向に移動させる速度を制御する。
【0046】
制御装置16は、切断抵抗力が設定値になるように制御する場合には、切断期間における各時点で、設定値よりも小さい力計測値を受けた場合には、(例えば設定値と力計測値の差に応じて)保持部13の移動速度を上昇させ、設定値よりも大きい力計測値を受けた場合には、(例えば設定値と力計測値の差に応じて)保持部13の移動速度を低下させてよい。これにより、例えば、切断方向における保持部13の移動速度が上述の切断用速度から上昇または低下させられる。
【0047】
制御装置16は、切断抵抗力が設定値以下になるように制御する場合には、切断期間における各時点で、設定値よりも大きい力計測値を受けた場合には、(例えば設定値と計測値の差に応じて)保持部13の移動速度を低下させてよい。これにより、例えば、切断方向における保持部13の移動速度が上述の切断用速度から低下させられる。
【0048】
<切断抵抗力の設定パターンを用いた制御機能>
制御装置16は、切断制御において、上述した設定値を用いる代わりに、設定パターンを用いてもよい。設定パターンは、切断方向における切断開始位置から切断完了位置までの切断位置範囲内における位置毎に、切断抵抗力の設定値が定められたものである。すなわち、設定パターンにおいて、切断開始位置から切断完了位置までの切断位置範囲内の各位置(すなわち第2位置検出部24が検出する保持部13の位置)と切断抵抗力の設定値とが互いに対応付けられている。ここで、切断開始位置は、試料1の切断が開始される保持部13の位置であり、切断完了位置は、試料1の切断が完了する保持部13の位置である。なお、設定パターンにおける切断位置範囲内の各位置での上記設定値は、良好な切断面を得るための値であり、例えば、1.0N/mm以下程度の値であるが、これに限定されず、0.5N/mm以上1.5N/mm以下の範囲内の値であってもよいし、0.1N/mm以上2.0N/mm以下の範囲内の値であってもよいし、他の値であってもよい。
【0049】
制御装置16は、切断制御において、力計測値と、第2位置検出部24からの検出位置とに基づいて、切断抵抗力が、設定パターンにおいて当該検出位置に対応する設定値になるように、又は当該設定値以下になるように駆動装置14を制御する。
【0050】
制御装置16は、切断抵抗力が設定パターンにおける設定値になるように制御する場合には次のように切断制御を行う。制御装置16は、各時点で、第2位置検出部24からの検出位置に対応する設定パターンにおける設定値よりも小さい力計測値を受けた場合には、(例えば当該設定値と力計測値の差に応じて)保持部13の移動速度を上昇させ、当該設定値よりも大きい力計測値を受けた場合には、(例えば当該設定値と力計測値の差に応じて)保持部13の移動速度を低下させてよい。これにより、例えば、切断方向における保持部13の移動速度が上述の切断用速度から上昇または低下させられる。
【0051】
制御装置16は、切断抵抗力が設定パターンにおける設定値以下になるように制御する場合には次のように切断制御を行う。制御装置16は、各時点で、第2位置検出部24からの検出位置に対応する設定パターンにおける設定値よりも大きい力計測値を受けた場合には、(例えば当該設定値と力計測値の差に応じて)保持部13の移動速度を低下させてよい。これにより、例えば、切断方向における保持部13の移動速度が上述の切断用速度から低下させられる。
【0052】
<切片の厚み制御機能>
上述したミクロトーム10は、試料1から切り取る切片2の厚みを制御する機能を有していてよい。この場合、制御装置16は、試料1から切り取る切片2の目標厚みを記憶しており、ミクロトーム10は、更に端面計測部25を備えている。
【0053】
目標厚みは、予め定められて制御装置16に記憶させられる。目標厚みは、100nm以下であり10nm以上であってよい(例えば50nm以下であり10nm以上であってよい)。一例では、目標厚みは、10nmである。ただし、目標厚みは、当該範囲や当該数値に限定されず、例えば10nm以下であり5nm以上であってもよい。
【0054】
端面計測部25は、保持部13に保持された試料1の端面1aの位置を計測し、当該計測位置(以下で単に端面1aの計測位置ともいう)を制御装置16に入力する。端面計測部25が計測する端面1aの位置は、位置決め方向における、保持部13の上述した第1基準点に対する位置であってよい。試料1の端面1aは、試料1が保持部13から突出している側の端面である。
【0055】
制御装置16は、位置決め制御を行う前に、端面計測部25に計測指令を出力してよい。これにより、端面計測部25は、試料1の端面1aの位置を計測し、当該計測位置を制御装置16に入力する。
【0056】
切片2の厚み制御する場合、制御装置16は、端面計測部25からの端面1aの計測位置に基づいて、位置決め方向における保持部13の目標位置を設定する。この目標位置は、切断方向から見た場合に、試料1の端面1aが刃先11aの既知の位置から目標厚みだけ突出するようになる保持部13の位置(保持部13における第1基準点の位置)である。
【0057】
制御装置16は、位置決め制御において、端面1aの計測位置と目標厚みとに基づいて、位置決め方向において保持部13(保持部13の第1基準点)を目標位置に位置決めする。より詳しくは、制御装置16は、端面1aの計測位置と、目標厚みと、第1位置検出部23からの検出位置(保持部13の第1基準点の検出位置)と、位置決め方向における既知の刃先11aの位置とに基づいて、位置決め方向において保持部13の第1基準点を目標位置に位置決めする。次いで、制御装置16は、上述のように切断制御を行う。
【0058】
端面計測部25は、保持部13に対して固定されるように設けられる。端面計測部25は、保持部13に支持されている試料1の端面1aよりも、当該端面1aが向いている側に位置するように配置されている。端面計測部25は、取付部26を介して第2移動部19または保持部13に取り付けられてよい。取付部26は、第2移動部19または保持部13(図1Aの例では第2移動部19)から、試料1の端面1aよりも当該端面1aが向いている側の位置まで延びている。端面計測部25は、取付部26の先端部に取り付けられてよい。
【0059】
図1Bは、図1Aにおいて、右側から負のX軸方向に端面計測部25と試料1の端面1aなどを見た図である。端面計測部25と取付部26は、保持部13に保持された試料1が刃11に切断される時のミクロトーム10の各部(刃11、支持部12、カメラ27など)に干渉しないように配置される。
【0060】
端面計測部25は、例えばレーザ変位計を有するものであってよい。このレーザ変位計は、試料1の端面1aにレーザ光を射出することにより当該端面1aまでの距離を計測可能なもの(例えば共焦点方式のレーザ変位計)であってよい。このレーザ変位計は、図1Aのように、試料1の端面1aに対して斜めにレーザ光を射出してよい。この場合、端面計測部25は、レーザ変位計が計測した上記距離と、レーザ変位計のレーザ光射出方向と位置決め方向との成す角度とに基づいて、位置決め方向における上記端面1aの位置を計測してよい。
【0061】
制御装置16は、端面1aの位置計測と位置決め制御と切断制御をこの順に繰り返す場合に、各切断制御により、保持部13に保持されている試料1には、新たな端面1aである切断面が形成される。当該切断制御の後、端面計測部25は、この新たな端面1aの位置を計測し、制御装置16は、次の位置決め制御において、当該計測位置と目標厚み等に基づいて、上述のように位置決め方向において保持部13を目標位置に位置決めし、その後、切断制御を上述のように行う。このように端面1aの位置計測と位置決め制御と切断制御が繰り返されてよい。
【0062】
<目標位置の補正機能>
制御装置16は、上述のように端面1aの位置計測と位置決め制御と切断制御をこの順に繰り返す場合に、以下のように上述の目標位置を補正する機能を有していてもよい。この場合、切断制御が行われた後に、制御装置16は以下のように補正処理を行ってよい。
【0063】
まず、制御装置16は、端面計測部25に計測指令を出力する。これにより、端面計測部25は、直前の切断制御での切断により形成された試料1の新たな端面1aの位置を計測する。制御装置16は、当該切断制御の前に、当該切断制御を行うために端面計測部25が計測した試料1の端面1aの位置と、当該切断制御の後に端面計測部25が計測した試料1の新たな端面1aの位置とに基づいて、当該切断制御で試料1から切り取られた切片2の厚みを求める。例えば、制御装置16は、このような当該切断制御の前後の端面1aの計測位置の差を、切片2の厚みとして求める。
【0064】
制御装置16は、求めた切片2厚みと目標厚みとの差を補正量として、上述の目標位置を補正する。例えば、求めた切片2の厚みが目標厚みよりも小さい場合には、補正量だけ、上述の目標位置を試料1の根本側から先端(端面1a)に向かう位置決め方向(図1Aでは正のX軸方向)にずらした位置が、補正後の目標位置であってよい。求めた切片2厚みが目標厚みよりも大きい場合には、補正量だけ、上述の目標位置を試料1の先端(端面1a)から根本側に向かう位置決め方向(図1Aでは負のX軸方向)にずらした位置が、補正後の目標位置であってよい。
【0065】
制御装置16は、このように目標位置を補正したら、以降において、位置決め制御の前に、上述のように求めた切片2の厚みと目標厚みとの差を補正量として、この補正量を反映させた目標位置を設定してよい。
【0066】
制御装置16は、切断制御を行う度に、又は切断制御を所定の複数回行う度に上述の補正処理を行ってもよい。あるいは、制御装置16は、所定の時間が経過する度に切断制御後に、上述の補正処理を行ってもよい。
【0067】
<試料の切断面チェック機能>
上述したミクロトーム10は、試料1の切断面1aの画像を生成する機能を有してよい。この場合、ミクロトーム10は、カメラ27とディスプレイ28を更に備える。
【0068】
カメラ27は、試料1が切断される度に、試料1の切断面1aを撮像する。すなわち、制御装置16による駆動装置14の制御により上述のように試料1が繰り返し切断される場合に、試料1が切断される度に、当該切断により形成された試料1の新たな端面1a(切断面)を撮像する。カメラ27は、例えば、上述の位置決め制御を行う時の試料1の端面1aに対向する位置に設けられてよい。カメラ27は、図示しない静止構造物に取り付けられてよい。
【0069】
制御装置16は、切断制御を行った後に、試料1の切断面1aがカメラ27に対向するようになる位置に保持部13を移動させ、次いでカメラ27に撮像指令を出力する。これにより、カメラ27は、試料1の切断面1aを撮像する。カメラ27は、撮像した試料1の切断面1aの画像をディスプレイ28に出力する。
【0070】
ディスプレイ28は、カメラ27が撮像した試料1の切断面1aの画像を表示する。人は、この画像を見て、切断面1aを観察できる。その結果、切断面1aにおいて大きな傷がある等の異常が生じている場合には、例えば刃11が損傷しているとして、人が適宜の操作部を操作することによりミクロトーム10による試料1の切断を中止する。
【0071】
<三次元画像の生成機能>
上述したミクロトーム10は、試料1の三次元画像データを生成する機能を有してよい。この場合、ミクロトーム10は、上述のカメラ27と共に画像処理部29を更に備える。
【0072】
画像処理部29は、試料1が切断される度に上述のようにカメラ27により撮像された切断面1aの画像に基づいて、試料1の三次元画像を生成する。カメラ27は、切断制御が行われる度に上述のように撮像した切断面の画像を画像処理部29に出力してよい。画像処理部29は、カメラ27から出力された複数(多数)の切断面1aの画像データに基づいて試料1の三次元画像を生成する。
【0073】
(ミクロトーム10を用いた試料切断方法)
本実施形態による試料切断方法を説明する。この方法は、上述したミクロトーム10を用いて行われてよい。この方法では、支持部12に取り付けられた刃11に対して、試料1を保持している保持部13を移動させることにより、試料1を刃11で切断して試料1から切片2を切り取る。この切断時において、当該切断で生じる切断抵抗力を力計測部15で計測し、当該力計測値に基づいて、制御装置16が上述のように保持部13の移動速度を制御する。以下、試料切断方法をより詳しく説明する。
【0074】
図3は、本実施形態による試料切断方法を示すフローチャートである。図3に示す試料切断方法は、上述した各機能を有するミクロトーム10を用いたものである。この試料切断方法は、ステップS1~S11を有していてよい。
【0075】
ステップS1において、人が適宜の入力装置を操作して、切断抵抗力の設定値または設定パターンと、上述の目標厚みTを制御装置16に入力する。これにより、切断抵抗力の設定値または設定パターンと、上述の目標厚みTが、制御装置16に記憶される。
【0076】
ステップS1で入力する設定値または設定パターンは次のように求めてよい。上述したミクロトーム10により、ステップS1で入力する目標厚みTについて、本試料切断方法の対象となる試料1と組織や材質等が同じ試料1に対して様々な設定値または設定パターンで切断を実験的に行う。その結果、、試料1の切断面1aが良好であった設定値または設定パターンを選択する。選択した設定値または設定パターンをステップS1で制御装置16に入力する。
【0077】
また、ステップS1では、対象の試料1を保持部13に保持させ、刃11を支持部12に取り付ける。ステップS1を行ったら、ステップS2へ進む。
【0078】
ステップS2において、制御装置16に、動作開始指令が入力される。例えば、人が適宜の入力装置を操作することにより、動作開始指令を制御装置16に入力してよい。制御装置16は、動作開始指令を受けると、以下のようにステップS3以降の処理を行う。
【0079】
ステップS3において、制御装置16は、計測処理を行う。この計測処理では、制御装置16は、端面計測部25に計測指令を入力する。これにより、端面計測部25は、上述のように、試料1の端面1aの位置を計測し、当該計測位置を制御装置16に入力する。この計測位置は、位置決め方向における位置であって保持部13の第1基準点(後述の基準点P)に対する位置である。
【0080】
ステップS4において、制御装置16は、設定処理を行う。この設定処理では、制御装置16は、上述のように、ステップS3で得た計測位置等に基づいて、位置決め方向に保持部13(保持部13の第1基準点)を移動させる目標位置を設定する。この目標位置は、切断方向から見た場合に、試料1の端面1aが刃先11aの既知の位置から目標厚みTだけ突出するようになる保持部13の位置である。
【0081】
例えば、ステップS4において、制御装置16は、次の式(1)により、目標位置Xtを設定する。

Xt=Xk-L+T ・・・(1)

ここで、Xt、Xk、L、Tは、次の通りである。
Xkは、位置決め方向における刃11の位置の座標であり、制御装置16に予め設定されていてよい。Xkは、第1位置検出部23による位置検出の上述した原点に対して表された座標である。
Lは、ステップS3において端面計測部25が計測した試料1の端面1aの位置である。すなわち、Lは、保持部13の第1基準点と試料1の端面1aとの位置決め方向の距離の計測値である。
Tは、ステップS1で入力された位置決め方向における目標厚みである。
【0082】
図4A図4Eは、試料切断方法の説明図であり、保持部13と保持部13に保持された試料1と刃11との位置関係を示す。図4A図4Eの例では、上述の保持部13の第1基準点と第2基準点は、共通の基準点Pである。以下で、位置決め方向(X軸方向)の位置Xと切断方向(Z軸方向)の位置Zを示す座標を(X,Z)で表す。なお、上述のステップS3を行う時に、基準点Pは、図4Aのように、例えば初期位置の座標(X0,Z0)に位置していてよい。
【0083】
ステップS5では、制御装置16は位置決め制御を行う。すなわち、ステップS4において、制御装置16は、位置決め方向において、ステップS4で設定した目標位置Xtに保持部13(保持部13の基準点P)を位置決めする。この時、制御装置16は、第1位置検出部23が検出する基準点の検出位置に基づいて、当該検出位置が目標位置Xtになるように保持部13を位置決めする。
【0084】
例えば、制御装置16は、ステップS4で位置決め制御を行うことにより、図4Bのように、保持部13の基準点Pは、座標(X0,Z0)から座標(Xt,Z0)へ位置決め方向に移動させられ、目標位置Xtに位置決めされる。これにより、図4Bのように、試料1の端面1aが、位置決め方向において刃先11aの座標Xkから目標厚みTだけ突出した座標Xeに位置する。
【0085】
次いで、ステップS6において、制御装置16は切断制御を行う。すなわち、ステップS6において、制御装置16は、位置決め方向においては保持部13(基準点P)を目標位置Xtに維持したまま、保持部13を切断方向に移動させる。これにより、試料1が刃先11aを通過して当該刃先11aで切断される。
【0086】
例えば、制御装置16は、ステップS6で切断制御を行うことにより、図4Cのように、保持部13の基準点Pは、座標(Xt,Z0)から座標(Xt,Z1)へ切断方向に直線的に移動させられる。この時、試料1が刃先11aを通過して刃先11aにより試料1から切片2が切り取られる。なお、制御装置16は、第2位置検出部24からの検出位置に基づいて、切断方向において保持部13の基準点Pを座標Z1で停止させてよい。
【0087】
また、ステップS6では、各時点で、力計測部15は、上述のように、刃11による試料1の切断時に生じる切断抵抗力を計測し、この力計測値を制御装置16に入力する。制御装置16は、ステップS6において、各時点で入力されて来る力計測値に基づいて、上述のように、切断抵抗力が設定値になるように又は設定値以下になるように、切断方向における保持部13の移動速度を制御する。あるいは、制御装置16は、ステップS6において、各時点で入力されて来る力計測値に基づいて、上述のように、切断抵抗力が設定パターンにおける設定値になるように又は設定パターンにおける設定値以下になるように、切断方向における保持部13の移動速度を制御する。
【0088】
ステップS7では、制御装置16は、保持部13を、試料1を切断する前の位置に移動させる。例えば、制御装置16は、駆動装置14を制御して、保持部13の基準点Pを、図4Dのように座標(Xt,Z1)から座標(X0,Z1)へ直線的に移動させ、次いで図4Aのように座標(X0,Z1)から再び初期位置の座標(X0,Z0)に直線的に移動させる。
【0089】
なお、上述のステップS5~S7では、以下のように保持部13の移動速度が制御されてよい。
【0090】
ステップS5では、制御装置16は、保持部13の基準点Pが座標(X0,Z0)から座標(Xt,Z0)に至るまで、速度V1で、位置決め方向に保持部13を移動させる。
【0091】
ステップS6では、制御装置16は、図4Eのように、保持部13の基準点Pが、試料1の切断が開始される時の位置よりも若干手前の座標(Xt,Z2)に至るまでは、上述の速度V1で、切断方向に保持部13を移動させる。次いで、制御装置16は、図4Eのように、保持部13の基準点が、この座標(Xt,Z2)から、試料1の切断が完了する時の位置を若干過ぎた座標(Xt,Z3)までは、速度V1よりも高い速度V2(あるいは、速度V1よりも低い速度V2)で、切断方向に保持部13を移動させる。次いで、制御装置16は、保持部13の基準点が、この座標(Xt,Z2)から、試料1の切断が完了する時の位置を過ぎた座標(Xt,Z1)までは、上述の速度V1で、切断方向に保持部13を移動させる。
【0092】
ステップS7で、制御装置16は、保持部13の基準点Pが座標(Xt,Z1)から座標(X0,Z1)へ至るまで、上述の速度V1で保持部13を移動させ、次いで、上述の速度V1で座標(X0,Z1)から初期位置の座標(X0,Z0)まで上述の速度V1で保持部13を移動させる。
【0093】
ステップS7を行ったら、ステップS8へ進む。
ステップS8において、制御装置16は、カメラ27へ撮像指令を出力し、これによりカメラ27は、ステップS6で形成された試料1の切断面である新たな端面1aを撮像する。カメラ27は、撮像した当該画像をディスプレイ28と画像処理部29へ出力する。ディスプレイ28は、この画像を表示する。表示された端面1aの画像から、端面1aに異常があると認められる場合には、刃11が損傷している可能性があるとして、人が適宜の操作部を操作して、ミクロトーム10による試料1の切断を停止させてよい。
【0094】
また、画像処理部29は、後述するように繰り返されるステップS8で繰り返しカメラ27から受けた複数の画像に基づいて試料1の三次元画像を生成する。画像処理部29は、この三次元画像を、例えば、ディスプレイ28に出力し、または、所定の記憶装置に記憶する。ステップS8の後、ステップS9へ進んでよい。
【0095】
ステップS9では、制御装置16は、計測指令を端面計測部25に出力する。これにより、端面計測部25は、ステップS5で形成された試料1の切断面である新たな端面1aの位置を計測し、当該計測位置を制御装置16に入力する。この計測位置は、位置決め方向における位置であって基準点Pに対する位置である。
【0096】
ステップS10では、当制御装置16は、直前のステップS5を行う直前の計測処理(ステップS3又はステップS9)で得た端面1aの計測位置と、直前のステップS9で入力された計測位置とに基づいて、直前のステップS5で試料1から切り取られた切片2の厚みを求める。
【0097】
また、ステップS10では、求めた切片2の当該厚みと目標厚みTとの差を補正量ΔTとして求める。
【0098】
ステップS11では、ステップS10で求められた補正量ΔTを用いて、設定する目標位置を補正する。
【0099】
例えば、ステップS11において、制御装置16は、次の式(2)で表される目標位置Xtを、次の式(3)により補正し、補正後の目標位置Xtaを設定する。

Xt=Xk-L+T ・・・(2)

Xta=Xt-ΔT ・・・(3)

ここで、式(2)と(3)におけるXt、Xk、L、T、ΔTは、次の通りである。
XkとTは、上記式(1)の場合と同じである。
Lは、ステップS9において端面計測部25が計測した試料1の新たな端面1aの位置である。すなわち、Lは、第1基準点と試料1の新たな端面1aの位置との位置決め方向の距離の計測値である。
ΔTは、直前のステップS10で求めた補正量である。
Xtaは、補正された目標位置である。
【0100】
ステップS11を行ったら、ステップS5へ戻る。戻ったステップS5では、ステップS11で設定した補正後の目標位置Xtaに保持部13(保持部13の第1基準点)を位置決めする。次いで、上述したようにステップS6~S11を再び行う。このように、制御装置16は、ステップS5~S11を繰り返す。
【0101】
2回目以降の各ステップS11では、次の式(4)により補正後の目標位置Xtaを設定してよい。

Xta=Xk-L+T-ΣΔT ・・・(4)

ここで、式(4)におけるXt、Xk、L、Tは、次の通りである。
XkとTは、上記式(1)の場合と同じである。
Lは、直前のステップS9において端面計測部25が計測した試料1の新たな端面1aの位置である。すなわち、Lは、第1基準点と試料1の新たな端面1aの位置との位置決め方向の距離の計測値である。
ΣΔTは、今回のステップS11の前の各ステップS10で求めた補正量ΔTの総和である。
【0102】
なお、制御装置16は、ステップS6において、力計測部15が計測した切断抵抗力がしきい値を超える場合には、試料1の切断を停止するように駆動装置14を制御してよい。例えば、制御装置16は、力計測部15から入力された切断抵抗力がしきい値を超えるかを判断し、当該判断の結果が肯定の場合には、保持部13の移動を停止させ、当該判断の結果が否定の場合には、切断制御を継続する。
【0103】
ステップS9~S11は、ステップS7と同時に行われてもよい。この場合、ステップS8は、次のステップS5が行われる前に行われればよい。
【0104】
(実施形態の効果)
本実施形態によると、刃11に対して試料1を移動させることにより試料1を刃11で切断する時に、切断抵抗力を計測し、当該力計測値に基づいて、試料1の移動を制御する。これにより、切断抵抗力が大きくなることを防止して、試料1から切片2を安定して切り取ることができる。したがって、良好な切断面を有する超薄切片2を試料1から切り取ることが可能となる。
【0105】
また、切片2を安定して切り取ることができるので、刃幅が大きな(10mm程度以上の)刃11を用いて、当該刃幅と同程度の幅を有する大きな切片2を試料1から切り取る場合でも、良好な切断面を有する切片2を得ることが可能となる。
【0106】
制御装置16は、力計測値に基づいて、切断抵抗力が設定値になるように、又は、切断抵抗力が設定値以下になるように、駆動装置14を制御する。あるいは、制御装置16は、力計測値と、切断方向における保持部13の検出位置とに基づいて、設定パターンにおいて当該検出位置に対応する設定値になるように、又は当該設定値以下になるように駆動装置14を制御する。このような制御により、切断抵抗力を小さい値に抑えることができる。
【0107】
制御装置16は、力計測値がしきい値を超える場合には、試料1の切断を停止するように駆動装置14を制御する。したがって、切削抵抗力が大きくなり過ぎて刃11が損傷してしまうことを防止できる。
【0108】
制御装置16は、位置決め制御で位置決め方向において試料1の位置が刃先11aと重なるように保持部13を目標位置に位置決めし、この状態で、切断方向に直線的に保持部13を移動させる。このように直線的な移動により試料1を切断するので、この切断は、切削理論に合致し、超薄片である切片2の厚みの予測や制御が容易になる。
【0109】
駆動装置14は、位置決め方向に直線的に試料1を移動させるリニアモータ18を有する。したがって、位置決め方向において保持部13を高精度に(例えば10nm以下の精度で)位置決めできる。これにより、切片2の厚みを高精度に制御でき、超薄片の切片2を得ることができる。
【0110】
試料1を切断する前に、端面計測部25が、保持部13に保持された試料1の端面1aの位置を計測し、この計測位置に基づいて、制御装置16は、切断方向から見た場合に、試料1の端面1aが刃先11aの既知の位置から目標厚みだけ突出するようになる保持部13の位置を目標位置として設定する。制御装置16は、位置決め制御では、保持部13を目標位置に位置決めする。これにより、目標厚みの切片2を得ることが可能となる。
【0111】
また、端面計測部25は、保持部13に対して固定されるように設けられている。これにより、試料1の端面1aの位置の計測誤差を最小限(例えばゼロ)に抑えることができる。
【0112】
切断前後における試料1の端面1aの計測位置に基づいて、切り取った切片2の厚みを求め、この厚みと目標厚さとの差に基づいて、位置決め制御で用いる目標位置を補正する。これにより、目標厚みの切片2が安定的に得られる。
【0113】
切断制御が行われる度に、当該切断制御により新たに形成された試料1の端面1aをカメラ27で撮像する。したがって、この撮像画像に基づいて、試料1の切断面(端面1a)の状態を、例えばディスプレイ28に表示して確認できる。試料1の切断面に、大きな傷などの異常がある場合には、刃11が損傷している等の不具合があるとして、試料1の切断を停止できる。
【0114】
カメラ27により繰り返し撮像された端面1aの画像データに基づいて、画像処理部29は、試料1の三次元画像データを生成する。これにより、顕微鏡の標本である切片2を作製するのと同時に、試料1の三次元画像データを生成することができる。
【0115】
本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の技術的思想の範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、本発明の実施形態によるミクロトーム10と試料切断方法は、上述した複数の事項の全て有していなくてもよく、上述した複数の事項のうち一部のみを有していてもよい。
【0116】
また、以下の変更例1~3のいずれかを単独で採用してもよいし、変更例1~3の2つ以上を任意に組み合わせて採用してもよい。この場合、以下で述べない点は、上述と同じである。
【0117】
(変更例1)
端面計測部25は、保持部13または第2移動部19ではなく、静止構造体に設けられてもよい。この場合、例えば、制御装置16は、端面計測部25が計測した試料1の端面1aの計測位置と、第1位置検出部23が検出した保持部13の位置とに基づいて、保持部13の第1基準点に対する端面1aの位置(上述のL)を求める。
【0118】
(変更例2)
第1駆動部18と第2駆動部21の両方または一方は、リニアモータに限定されず、他の構成を有していてもよい。例えば、第1駆動部18と第2駆動部21の両方または一方は、サーボモータと、サーボモータの回転を位置決め方向の運動に変換する変換機構(ボールねじ)を有するものであってもよい。
【0119】
(変更例3)
ミクロトーム10は、上述のように切り取った切片2を自動的に回収する装置を有していてもよい。例えば、図示を省略するが、刃11は、特開平6-323967号公報に開示されているナイフボートに備えられていてもよい。この場合、切り取られた切片2は、ナイフボートに溜められた水の水面に浮くようになり、この水中に案内され更に水の外に搬送される長尺テープにより回収される。
【符号の説明】
【0120】
1 試料、1a 端面、2 切片、10 ミクロトーム、11 刃、11a 刃先、11b すくい面、11c 逃げ面、12 支持部、13 保持部、14 駆動装置、15 力計測部、16 制御装置、17 第1移動部、18 第1駆動部(リニアモータ)、18a 可動子、18b 固定子、19 第2移動部、21 第2駆動部(リニアモータ)、21a 可動子、21b 固定子、22 基体部、23 第1位置検出部、24 第2位置検出部、25 端面計測部、26 取付部、27 カメラ、28 ディスプレイ、29 画像処理部
図1A
図1B
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E