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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023118508
(43)【公開日】2023-08-25
(54)【発明の名称】パワーモジュール
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/36 20060101AFI20230818BHJP
   H01L 23/12 20060101ALI20230818BHJP
   H01L 23/28 20060101ALI20230818BHJP
   H05K 1/05 20060101ALI20230818BHJP
【FI】
H01L23/36 C
H01L23/12 J
H01L23/28 B
H05K1/05 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022021491
(22)【出願日】2022-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】原田 隆博
(72)【発明者】
【氏名】小坂 弥
(72)【発明者】
【氏名】山本 晋也
(72)【発明者】
【氏名】黒田 洋史
(72)【発明者】
【氏名】西川 敦准
【テーマコード(参考)】
4M109
5E315
5F136
【Fターム(参考)】
4M109AA01
4M109BA04
4M109CA21
4M109EA02
4M109EA10
4M109EB02
4M109EB04
4M109EB12
4M109EC04
4M109GA05
5E315AA03
5E315BB04
5E315BB14
5E315BB15
5E315GG22
5F136BA30
5F136BB05
5F136DA27
5F136FA03
(57)【要約】
【課題】パワー半導体素子を搭載する放熱基板の反りを低減する。
【解決手段】パワーモジュール10は、矩形形状の放熱基板20と、パワー半導体素子1と、パワー半導体素子1と放熱基板20とを接合した接合層2と、パワー半導体素子1を封止する樹脂封止層7とを有し、放熱基板20は、放熱シート4と、放熱シート4の一方の面に設けられたCuパターン部3と、放熱シート4の他方の面に設けられたCuベースプレート5とを有し、熱基板20の短辺が80mm以上であって、樹脂封止層7の線膨張係数が10~15ppm/℃であり、パワー半導体素子1はCuパターン部3に設けられており、放熱シート4の線膨張係数が8~11ppm/℃であり、Cuパターン部3とCuベースプレート5の厚みは0.3mm以上であり、放熱基板20を縦横それぞれ3分割して9分割領域とした場合に、9分割領域のそれぞれにおいて平たん度が±0μmの地点を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
矩形形状の放熱基板と、
前記放熱基板の一方の面に設けられたパワー半導体素子と、
前記パワー半導体素子と前記放熱基板とを半田又はシンタリング剤により接合する接合層と、
前記パワー半導体素子を樹脂材料の硬化物で封止する樹脂封止層と、
を有し、
前記放熱基板は、
放熱シートと、
前記放熱シートの一方の面に設けられた厚銅からなる第1の金属層と、
前記放熱シートの他方の面に設けられた厚銅からなる第2の金属層と、を有し、
前記矩形形状の短辺が80mm以上であって、
前記樹脂封止層の硬化物の線膨張係数が10ppm/℃以上15ppm/℃以下であり
前記パワー半導体素子は前記第1の金属層に設けられており、
前記放熱シートの線膨張係数が8ppm/℃以上11ppm/℃以下であり、
前記第1の金属層と前記第2の金属層の厚みは0.3mm以上であり、
前記放熱基板を縦横それぞれ3分割して9分割領域とした場合に、9分割領域のそれぞれにおいて平たん度が±0μmの地点を有する、パワーモジュール。
【請求項2】
前記放熱基板の平面度が20μm以下である、請求項1に記載のパワーモジュール。
【請求項3】
前記樹脂封止層の樹脂材料は、多芳香環樹脂(MAR:Multi Aromatic Resin)を含有するエポキシ樹脂を有している、請求項1または2に記載のパワーモジュール。
【請求項4】
前記第1の金属層と前記第2の金属層の厚みは0.5mm以上2mm以下である、請求項1から3までのいずれか1項に記載のパワーモジュール。
【請求項5】
前記放熱シートのボイド率が0.001%以下である、請求項1から4までのいずれか1項に記載のパワーモジュール。
【請求項6】
前記樹脂封止層の表面における比較トラッキング指数(CTI)が600V以上である、請求項1から5までのいずれか1項に記載のパワーモジュール。
【請求項7】
-50℃、30分と150℃、30分の温度条件を1サイクルとした冷熱サイクル試験を1000回実施したときに、前記樹脂封止層が破壊されない、請求項1から6までのいずれか1項に記載のパワーモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワーモジュールに係り、例えばパワー半導体素子と、パワー半導体素子を一方の面に設けた金属回路基板と、を有すパワーモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
パワー半導体素子を伝熱用の金属回路基板を設けたパワーモジュールの市場が拡大している。そのようなパワーモジュールでは、高い放熱性を実現するために各種の技術が提案されている。例えば、高熱伝導性のフィラーと結晶性ポリマーとを含み、一体成形されたフィン付きヒートシンクおよび基材と、前記基材上に形成され、絶縁性の熱伝導性フィラーと結晶性ポリマーとを含む絶縁層と、前記絶縁層上に形成された金属層とを有し、前記フィン付きヒートシンクおよび基材中の高熱伝導性フィラーの含有率が15~65vol%であり、前記絶縁層中の熱伝導性フィラーの含有率が15~65vol%であるフィン付きヒートシンク一体回路基板用積層板が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-28421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、パワーモジュールの大型化が進んでいるが、大型化に伴い基板の反りの影響が大きくなっている。すなわち、パワーモジュールのサイズが小さい場合、基板に反りが生じていても、絶対値としては小さく、製品として許容されるレベルであった。しかし、基板のサイズが大きくなると、反りの影響が顕在化しることから、基板のサイズが大きくなった場合であって対応できる技術が求められていた。特許文献1の技術では、近年の基板サイズの大型化に対して十分な考慮がされておらず別の技術が求められていた。
【0005】
本発明はこの様な状況に鑑みなされたものであって、パワー半導体素子を搭載する放熱基板の反りを低減する技術、特に基板サイズの大型化による反りの影響を低減する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、
矩形形状の放熱基板と、
前記放熱基板の一方の面に設けられたパワー半導体素子と、
前記パワー半導体素子と前記放熱基板とを半田又はシンタリング剤により接合する接合層と、
前記パワー半導体素子を樹脂材料の硬化物で封止する樹脂封止層と、
を有し、
前記放熱基板は、
放熱シートと、
前記放熱シートの一方の面に設けられた厚銅からなる第1の金属層と、
前記放熱シートの他方の面に設けられた厚銅からなる第2の金属層と、を有し、
前記矩形形状の短辺が80mm以上であって、
前記樹脂封止層の硬化物の線膨張係数が10ppm/℃以上15ppm/℃以下であり
前記パワー半導体素子は前記第1の金属層に設けられており、
前記放熱シートの線膨張係数が8ppm/℃以上11ppm/℃以下であり、
前記第1の金属層と前記第2の金属層の厚みは0.3mm以上であり、
前記放熱基板を縦横それぞれ3分割して9分割領域とした場合に、9分割領域のそれぞれにおいて平たん度が±0μmの地点を有する、パワーモジュールが提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、パワー半導体素子を搭載する放熱基板の反りを低減する技術、特に基板サイズの大型化による反りの影響を低減する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態のパワーモジュールを模式的に示した平面図である。
図2】本実施形態のパワーモジュールを模式的に示した断面図である。
図3】本実施形態の放熱基板を縦横それぞれ3分割して9分割領域とした状態を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。図面はあくまで説明用のものである。図面中の各部材の形状や寸法比などは、必ずしも現実の物品と対応するものではない。
【0010】
<発明の概要>
<パワーモジュール10>
本実施形態に係るパワーモジュール10について説明する。図1は、本発明の実施形態に係るパワーモジュール10を模式的に示した平面図である。図2は、パワーモジュール10を模式的に示した断面図であって、図1のX1-X1断面図である。以下では、説明を簡単にするため、パワーモジュール10の各構成要素の位置関係(上下関係等)が各図に示す関係であるものとして説明を行う場合がある。ただし、この説明における位置関係は、パワーモジュール10の使用時や製造時の位置関係とは無関係である。
【0011】
パワーモジュール10は、放熱基板20と、放熱基板20上に接合層2(シンタリング層or半田層)を介して設けられたパワー半導体チップ1と、リードフレーム6と、パワー半導体素子1を樹脂材料の硬化物で封止する樹脂封止層7(封止材)とを有する。放熱基板20は、放熱シート4と、放熱シート4の一方の面(上面4a)に設けられた厚銅からなる第1の金属層(ここではCuパターン部3)と、放熱シート4の他方の面(下面4b)に設けられた厚銅からなる第2の金属層(ここではCuベースプレート5)と、を有する。パワー半導体チップ1とCuパターン部3は、ワイヤーフレーム8により接続されている。なお、パワー半導体チップ1以外の電子部品が放熱基板20に搭載されてもよい。
【0012】
<パワー半導体チップ1>
パワー半導体チップ1は、例えば、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT;Insulated Gate Bipolar Transistor)およびダイオード等である。パワー半導体チップ1の上面には図示しない電極パターンが形成され、パワー半導体チップ1の下面には図示しない導電パターンが形成されている。
パワー半導体チップ1の下面1bは、接合層である接合層2を介してCuパターン部3の一方の面(すなわち上面3a)に接合されている。パワー半導体チップ1の上面1aの電極パターンは、ワイヤーフレーム8によりCuパターン部3に接続されて、さらにCuパターン部3を介してリードフレーム6に対して接続されている。
【0013】
<接合層2>
接合層2は、シンタリング層又は半田層により構成されている。接合層2がシンタリング層である場合、シンタリング層に用いられるシンタリングペーストとしては、銀粒子を含有するAgシンタリングペースト、アルミニウム粒子を含有するALシンタリングペースト、銅粒子を含有するCuシンタリングペーストのいずれかを用いることができる。パワー半導体チップ1とCuパターン部3との間に上記のようなシンタリングペーストを設けて積層し、焼結工程を行うことにより、パワー半導体チップ1とCuパターン部3が接合層2により接合される。
【0014】
シンタリング層からなる接合層2では、金属粒子によるシンタリングネットワーク(金属結合バス)が形成されており、高熱伝導性や低い電気抵抗が実現される。なお、接合層2による接合性の向上の観点から、Cuパターン部3やリードフレーム6に、シンタリングペーストに含有される金属によるメッキの表面処理が施されてもよい。具体的には、本実施形態では、Cuパターン部3やリードフレーム6の表面にAgメッキが施されてもよい。
【0015】
接合層2が半田層である場合、半田層は、例えば、Sn-Ag系、Sn-Cu系、Sn-Zn系、Sn-Ag-Cu系のような鉛フリーはんだで構成されていてもよい。この中でもうち、Snを主成分とし、Agを副成分とする鉛フリーはんだを用いてもよい。
【0016】
<放熱基板20>
放熱基板20は、放熱基板20の形状は、上面視で矩形形状を呈する。矩形形状の短辺が80mm以上であって、いわゆる大型放熱基板である。放熱基板20は、放熱シート4と、放熱シート4の一方の面(ここでは上面4a)に設けられた厚銅からなるCuパターン部3と、放熱シート4の他方の面(ここでは下面4b)に設けられた厚銅からなるCuベースプレート5と、を有する。
【0017】
<放熱基板20の平面度>
放熱基板20の平面度が20μm以下である。平面度は、JIS B 0621「幾何偏差の定義及び表示」に準拠して測定される。測定装置として、シャドーモアレ法を用いた高精度計測装置を用いることができる。ここでは、放熱基板20の下面(すなわちCuベースプレート5b)を測定し、取得したデータから最小二乗平面を作り、最小二乗平面を基準面とした時の「最大値-最小値」を平面度として算出する。平面度を上記範囲とすることで、放熱基板20の反りが小さく、放熱基板20を構成するCuパターン部3、放熱シート4及びCuベースプレート5の界面での剥離を回避できる。
【0018】
<放熱基板20の平たん度>
図3は、放熱基板20を縦横それぞれ3分割して9分割領域(第1~第9領域A1~A9)とした状態を模式的に示す図である。図示のように放熱基板20を9分割領域(第1~第9領域A1~A9)とした場合に、放熱基板20は、9分割領域(第1~第9領域A1~A9)のそれぞれにおいて平たん度が±0μmの地点を有する。平たん度が±0μmとは、上記の平面度を算出する際に求めた基準面に一致することを意味する。したがって、平たん度が±0μmの地点が9分割領域(第1~第9領域A1~A9)のそれぞれに必ず1箇所は存在することから、放熱基板20の凹凸の状態(すなわち反りの状態)は、一部領域が反っているといった状態ではなく、基板全体に平均化されている。
【0019】
<Cuパターン部3>
Cuパターン部3は、導電性を有する金属材料、より具体的には銅で回路パターンが形成された金属回路基板である。Cuパターン部3の上面3aに、接合層2を介して、パワー半導体チップ1が設けられている。
【0020】
Cuパターン部3は、厚銅(圧延銅)をパターンニングした回路基板である。Cuパターン部3を構成する金属材料には、例えば、厚銅(圧延銅)を好適に用いることができる。これにより、Cuパターン部3は、比較的抵抗値が小さくなる。なお、Cuパターン部3は、その少なくとも一部がソルダーレジスト層で覆われていてもよい。
【0021】
Cuパターン部3は、例えば、Cuベースプレート5の上面5aに放熱シート4を介して積層された金属層(厚銅など)を切削及びエッチングにより所定のパターンに加工することにより形成されたり、または予め所定のパターンに加工された状態で放熱シート4の上面4aに貼りつけられる。
【0022】
Cuパターン部3の厚み0.3mm以上であり、好ましくは0.5mm以上2mm以下である。このような数値以上であれば、高電流を要する用途であっても、回路パターンの発熱を抑えることができる。厚みの下限は、好ましくは0.5mm以上であり、より好ましくは1mm以上である。厚みの上限は、好ましくは1.8mm以下であり、より好ましくは1.5mm以下である。このような数値以下であれば、回路加工性を向上させることができ、また、放熱基板20としての薄型化を図ることができる。
【0023】
<放熱シート4>
放熱シート4は、Cuパターン部3とCuベースプレート5との間に配置される。パワー半導体チップ1の熱をCuパターン部3で受け、さらに、放熱シート4を介して放熱手段であるCuベースプレート5に伝熱される。これにより、パワーモジュール10の絶縁性を保ちつつ、発熱体であるパワー半導体チップ1から生じる熱を、パワーモジュール10の外部へ効果的に放散させることができる。このため、パワーモジュール10の絶縁信頼性を向上させることが可能となる。
【0024】
放熱シート4の平面形状は、特に限定されず、Cuパターン部3やCuベースプレート5の形状に合わせて適宜選択することが可能であるが、例えば矩形とすることができる。放熱シート4の厚みは、例えば50μm以上250μm以下である。これにより、機械的強度や耐熱性の向上を図りつつ、Cuパターン部3(Cu回路)の熱をより効果的にCuベースプレート5へ伝えることができる。さらに、放熱シート4の放熱性と絶縁性のバランスが優れる。
【0025】
<放熱シート4の線膨張係数>
放熱シート4の線膨張係数が8ppm/℃以上11ppm/℃以下である。下限値は、好ましくは8。5ppm/℃以上であり、より好ましくは9ppm/℃以上である。上限値は、好ましくは10.5ppm/℃以下であり、より好ましくは10ppm/℃以下である。放熱シート4の線膨張係数をこのような範囲とすることで、Cuパターン部3やCuベースプレート5との線膨張係数の差を抑制し、それらとの界面において線膨張係数の差に起因する反りを抑制することができる。
【0026】
<放熱シート4のボイド率>
放熱シート4のボイド率が0.001%以下である。ボイド率を上記範囲とすることで、反りを抑制することができる。
【0027】
<放熱シート4の熱伝導率>
放熱シート4の熱伝導率として、特に限定はしないが、好ましくは10W/mK(175℃)以上、より好ましくは15W/mK(175℃)以上のものが用いられる。
【0028】
[放熱シート4の材質]
放熱シート4は、例えば樹脂シートであって、シート用樹脂組成物を用いて形成されている。以下、シート用樹脂組成物について説明する。
本実施形態において、シート用樹脂組成物は、熱硬化性樹脂(A)、充填剤(B)、および硬化剤(C)などを含むことが好ましい。熱硬化性樹脂を含む場合、放熱絶縁シートは、熱硬化性樹脂(A)をBステージ化したものである。
【0029】
[熱硬化性樹脂(A)]
熱硬化性樹脂(A)としては、例えば、エポキシ樹脂、シアネート樹脂、ポリイミド樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、ビスマレイミド樹脂、フェノキシ樹脂、およびアクリル樹脂等が挙げられる。熱硬化性樹脂(A)として、これらの中の1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
なかでも、高い絶縁性を有する観点から、熱硬化性樹脂(A)としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、およびフェノキシ樹脂であることが好ましい。
【0030】
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールM型エポキシ樹脂(4,4'-(1,3-フェニレンジイソプリジエン)ビスフェノール型エポキシ樹脂)、ビスフェノールP型エポキシ樹脂(4,4'-(1,4-フェニレンジイソプリジエン)ビスフェノール型エポキシ樹脂)、ビスフェノールZ型エポキシ樹脂(4,4'-シクロヘキシジエンビスフェノール型エポキシ樹脂)等のビスフェノール型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリスフェノール基メタン型ノボラック型エポキシ樹脂、テトラフェノール基エタン型ノボラック型エポキシ樹脂、縮合環芳香族炭化水素構造を有するノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂;キシリレン型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂等のアリールアルキレン型エポキシ樹脂;ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂、ナフタレンジオール型エポキシ樹脂、2官能ないし4官能エポキシ型ナフタレン樹脂、ビナフチル型エポキシ樹脂、ナフタレンアラルキル型エポキシ樹脂等のナフタレン型エポキシ樹脂;アントラセン型エポキシ樹脂;フェノキシ型エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂;ノルボルネン型エポキシ樹脂;アダマンタン型エポキシ樹脂;フルオレン型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらの中の1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0031】
エポキシ樹脂の中でも、耐熱性および絶縁信頼性をより一層向上できる観点から、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、アリールアルキレン型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂からなる群から選択される1種または2種以上であることが好ましい。
【0032】
フェノール樹脂としては、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂等のノボラック型フェノール樹脂、およびレゾール型フェノール樹脂等が挙げられる。これらの中の1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
フェノール樹脂の中でも、フェノールノボラック樹脂であることが好ましい。
【0033】
熱硬化性樹脂(A)の含有量は、シート用樹脂組成物全量に対し、1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましい。一方、当該含有量は、シート用樹脂組成物全量に対し、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。
熱硬化性樹脂(A)の含有量が上記下限値以上であると、シート用樹脂組成物のハンドリング性が向上し、放熱絶縁シートを形成するのが容易となるとともに、放熱絶縁シートの強度が向上する。
熱硬化性樹脂(A)の含有量が上記上限値以下であると、放熱絶縁シートの線膨張率や弾性率がより一層向上したり、熱伝導性がより一層向上したりする。
【0034】
[充填剤(B)]
本実施形態における充填剤(B)は、放熱絶縁シート熱伝導性を向上させるとともに強度を得る観点から用いられる。
【0035】
充填剤(B)としては、熱伝導性フィラーであることが好ましい。より具体的には、充填剤(B)としては、熱伝導性と電気絶縁性とのバランスを図る観点から、例えば、シリカ、アルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、および炭化ケイ素等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。なかでも、充填剤(B)は、アルミナ、窒化ホウ素であることが好ましい。
【0036】
充填剤(B)の含有量は、シート用樹脂組成物全量に対し、90質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましい。一方、熱伝導性の観点から、当該含有量は、シート用樹脂組成物全量に対し、40質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましい。
【0037】
[硬化剤(C)]
シート用樹脂組成物は、熱硬化性樹脂(A)としてエポキシ樹脂、またはフェノール樹脂を用いる場合、さらに硬化剤(C)を含むことが好ましい。
【0038】
硬化剤(C)としては、硬化触媒(C-1)およびフェノール系硬化剤(C-2)から選択される1種以上を用いることができる。
硬化触媒(C-1)としては、例えば、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、オクチル酸スズ、オクチル酸コバルト、ビスアセチルアセトナートコバルト(II)、トリスアセチルアセトナートコバルト(III)等の有機金属塩;トリエチルアミン、トリブチルアミン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン等の3級アミン類;2-フェニル-4-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2,4-ジエチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール等のイミダゾール類;トリフェニルホスフィン、トリ-p-トリルホスフィン、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート、トリフェニルホスフィン・トリフェニルボラン、1,2-ビス-(ジフェニルホス
フィノ)エタン等の有機リン化合物;フェノール、ビスフェノールA、ノニルフェノール等のフェノール化合物;酢酸、安息香酸、サリチル酸、p-トルエンスルホン酸等の有機酸;等、またはこの混合物が挙げられる。硬化触媒(C-1)として、これらの中の誘導体も含めて1種類を単独で用いることもできるし、これらの誘導体も含めて2種類以上を併用したりすることもできる。
硬化触媒(C-1)の含有量は、特に限定されないが、シート用樹脂組成物全量に対し、0.001質量%以上1質量%以下が好ましい。
【0039】
また、フェノール系硬化剤(C-2)としては、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、トリスフェノールメタン型ノボラック樹脂、ナフトールノボラック樹脂、アミノトリアジンノボラック樹脂等のノボラック型フェノール樹脂;テルペン変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂等の変性フェノール樹脂;フェニレン骨格及び/又はビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂、フェニレン骨格及び/又はビフェニレン骨格を有するナフトールアラルキル樹脂等のアラルキル型樹脂;ビスフェノールA、ビスフェノールF等のビスフェノール化合物;レゾール型フェノール樹脂等が挙げられ、これらは1種類を単独で用いても2種類以上を併用してもよい。
これらの中でも、ガラス転移温度の向上及び線膨張係数の低減の観点から、フェノール系硬化剤(C-2)がノボラック型フェノール樹脂またはレゾール型フェノール樹脂が好ましい。
【0040】
フェノール系硬化剤(C-2)の含有量は、特に限定されないが、シート用樹脂組成物全量に対し、1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましい。一方、当該含有量は、シート用樹脂組成物全量に対し、30質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましい。
【0041】
[カップリング剤(D)]
シート用樹脂組成物は、カップリング剤(D)を含んでもよい。カップリング剤(D)は、熱硬化性樹脂(A)と充填剤(B)との界面の濡れ性を向上させることができる。
【0042】
カップリング剤(D)としては、特に限定されないが、例えば、エポキシシランカップリング剤、カチオニックシランカップリング剤、アミノシランカップリング剤、チタネート系カップリング剤およびシリコーンオイル型カップリング剤の中から選ばれる1種または2種以上のカップリング剤を使用することが好ましい。
カップリング剤(D)の含有量は、特に限定されないが、充填剤(B)100質量%に対して、0.05質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましい。一方、当該含有量は、充填剤(B)100質量%に対して、3質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ましい。
【0043】
[フェノキシ樹脂(E)]
さらに、シート用樹脂組成物は、フェノキシ樹脂(E)を含んでもよい。フェノキシ樹脂(E)を含むことにより放熱絶縁シートの耐屈曲性を向上できる。
また、フェノキシ樹脂(E)を含むことにより、放熱絶縁シートの弾性率を低下させることが可能となり、放熱絶縁シートの応力緩和力を向上させることができる。
【0044】
また、フェノキシ樹脂(E)を含むと、粘度上昇により、流動性が低減し、ボイド等が発生することを抑制できる。また、放熱絶縁シートを金属部材と密着させて用いる場合などに、金属とシート用樹脂組成物の硬化体との密着性を向上できる。これらの相乗効果により、半導体装置の絶縁信頼性をより一層高めることができる。
【0045】
フェノキシ樹脂(E)としては、例えば、ビスフェノール骨格を有するフェノキシ樹
脂、ナフタレン骨格を有するフェノキシ樹脂、アントラセン骨格を有するフェノキシ樹脂、およびビフェニル骨格を有するフェノキシ樹脂等が挙げられる。また、これらの骨格を複数種有した構造のフェノキシ樹脂を用いることもできる。
【0046】
フェノキシ樹脂(E)の含有量は、例えば、シート用樹脂組成物全量に対して、3質量%以上10質量%以下であることが好ましい。
【0047】
[その他の成分]
シート用樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、ほかに酸化防止剤、レベリング剤等を含むことができる。
【0048】
<Cuベースプレート5>
Cuベースプレート5は、銅からなる放熱部材の一種であって、本実施形態のように所定厚みの板状部材として構成されている。
Cuベースプレート5の厚みは0.3mm以上であり、好ましくは0.5mm以上2mm以下であるこのような数値以上であれば、高電流を要する用途であっても、回路パターンの発熱を抑えることができる。厚みの下限は、好ましくは0.7mm以上であり、より好ましくは1mm以上である。厚みの上限は、好ましくは1.8mm以下であり、より好ましくは1.5mm以下である。このような数値以下であれば、回路加工性を向上させることができ、また、放熱基板20としての薄型化を図ることができる。
【0049】
放熱部材として、Cuベースプレート5の他に、例えばアルミニウムのベースプレートが採用されてもよい。また、パワー半導体チップ1の発熱をCuパターン部3を介して取得して他に逃がす機能を有すれば、一般的な放熱部材に限らず、他の構成の一部(例えばハウジング)などであってもよい。その場合であっても、放熱シート4が用いられる。
【0050】
<リードフレーム6>
リードフレーム6は、パワー半導体チップ1を支持固定し、また外部配線との電気的接続をするものであって、銅や鉄などの金属素材の薄板をプレス加工やエッチング加工等によって作られた部品である。
【0051】
<樹脂封止層7(封止材)>
樹脂封止層7(封止材)は、例えばモールド樹脂であって、パワー半導体チップ1と、接合層2と、Cuパターン部3と、放熱シート4と、Cuベースプレート5と、リードフレーム6とを内部に一体封止している。樹脂封止層7として、モールド樹脂の他に、シリコーンゲルなどが用いられてもよい。以下では、モールド樹脂で一体封止する構成について説明する。
【0052】
この封止において、リードフレーム6の一部が封止され、封止されない他部は、外部機器に接続される。また、Cuベースプレート5については、Cuベースプレート5の上面5a及び側面5cが、樹脂封止層7により覆われ封止されている。Cuベースプレート5の下面5bは樹脂封止層7に覆われていない。すなわち、樹脂封止層7は、Cuベースプレート5の厚み方向の側面の一部又は全部を覆うように、パワー半導体チップ1を覆って封止している。図1および図2では、Cuベースプレート5の側面の全てが樹脂封止層7(封止材)により覆われている構成を例示している。
【0053】
[樹脂封止層7の成分]
樹脂封止層7のモールド樹脂は、熱硬化性樹脂(A)および無機充填材(B)を含む熱硬化性組成物(C)の硬化体である。熱硬化性組成物(C)には、硬化促進剤(D)が含まれる。
【0054】
[硬化促進剤(D)]
本実施形態の硬化促進剤(D)は、活性が強いものである。これにより、低温硬化を実現する一方で、特段の工夫をせずにそのまま用いると保存中に反応が進行する等し、保存性が低下する。
硬化促進剤(D)としては、例えば、有機ホスフィン、テトラ置換ホスホニウム化合物、ホスホベタイン化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物、または、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物等のリン原子含有化合物;1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7、イミダゾール等のアミジン系化合物;ベンジルジメチルアミン等の3級アミン、アミジニウム塩、またはアンモニウム塩等の窒素原子含有化合物等が挙げられる。
なかでも、硬化促進剤(D)が、イミダゾール系硬化促進剤またはリン系硬化促進剤であることが好ましい。イミダゾール系硬化促進剤として、例えば、アミジン系化合物のイミダゾール化合物を含むことがより好ましい。イミダゾール化合物としては、2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、イダゾール-2-カルボアルデヒド、5-アザベンゾイミダゾール、4-アザベンゾイミダゾール等が挙げられるがこれらに限定されない。中でも、2-メチルイミダゾールが好ましく用いられる。
【0055】
封止樹脂組成物中における硬化促進剤(D)の含有量は、とくに限定されないが、例えば封止樹脂組成物全体に対して、0.1質量%以上5質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以上4質量%以下であることがより好ましい。
硬化促進剤(D)の含有量を上記下限値以上とすることにより、封止樹脂組成物を適切に硬化しやすくなる。一方、硬化促進剤(D)の含有量を上記上限値以下とすることにより、溶融状態を長くし、より低粘度状態を長くできる結果、低温封止を実現しやすくなる。
【0056】
[熱硬化性樹脂(A)]
熱硬化性樹脂(A)としては、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、およびポリウレタン等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。中でも、フェノール樹脂およびエポキシ樹脂のうちの少なくとも一方を含むことが好ましく、エポキシ樹脂を含むことがより好ましい。
【0057】
エポキシ樹脂としては、1分子内にエポキシ基を2個以上有するモノマー、オリゴマー、ポリマー全般を用いることができ、その分子量や分子構造は特に限定されない。
エポキシ樹脂としては、多芳香環樹脂(MAR:Multi Aromatic Resin)を含有するエポキシ樹脂が好ましい。
具体的には、エポキシ樹脂硬化物の架橋構造中に芳香族類及び/又は多芳香族類を含ませる点、好ましくは、フェニル誘導体及びビフェニル誘導体の1種以上を含ませる点で、分子中に芳香族類及び/又は多芳香族類を含むエポキシ樹脂、好ましくは、エポキシ基を持たないフェニル誘導体、ビフェニル誘導体及び3~4個のエポキシ基が結合した芳香族類の1種以上を含むエポキシ樹脂を特に好適に用いることができる。この場合、エポキシ基を持たないフェニル誘導体を含むエポキシ樹脂としては、例えば後述する式(1)のフェノールフェニルアラルキルエポキシ樹脂等が挙げられ、ビフェニル誘導体を含むエポキシ樹脂としては、例えば後述する式(2)のフェノールビフェニルアラルキルエポキシ樹脂、式(4)のビフェニル-4,4'-ジグリシジルエーテルエポキシ樹脂と3,3',5,5'-テトラメチルビフェニル-4,4'-ジグリシジルエーテルエポキシ樹脂との組み合わせ等が挙げられ、3~4個のエポキシ基が結合した芳香族類を含むエポキシ樹脂としては、例えば後述する式(3)のテトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂等が挙げられる。また、分子中に多芳香族類を含有するエポキシ樹脂の中で、ナフタレン誘導体を含むナフトールアラルキル型エポキシ樹脂等を用いてもよい。さらに、分子中に芳香族類を含有するエポキシ樹脂の中で、例えば後述する式(8)のビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂及びこれらの類縁体を用いてもよい。エポキシ樹脂(A)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0058】
フェノール系樹脂としては、エポキシ樹脂硬化物の架橋構造中に芳香族類及び/又は多芳香族類を含ませる点、好ましくは、フェニル誘導体及びビフェニル誘導体の1種以上を含ませる点で、分子中に芳香族類及び/又は多芳香族類を含むフェノール系樹脂、好ましくは、水酸基を持たないフェニル誘導体及びビフェニル誘導体の1種以上を含むフェノール系樹脂を特に好適に用いることができる。この場合、水酸基を持たないフェニル誘導体を含むフェノール系樹脂としては、例えば後述する式(9)のフェノールフェニルアラルキル樹脂等が挙げられ、水酸基を持たないビフェニル誘導体を含むフェノール系樹脂としては、例えば後述する式(10)、(13)のフェノールビフェニルアラルキル樹脂等が挙げられる。また、分子中に多芳香族類を含有するフェノール系樹脂の中で、ナフタレン誘導体を含むナフトールアラルキル型樹脂等を用いてもよい。フェノール系樹脂(B)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。この中でも特に難燃性の点でフェノールビフェニルアラルキル樹脂が好ましい。
【0059】
この場合、前述した分子中に芳香族類及び/又は多芳香族類を含むエポキシ樹脂は、総エポキシ樹脂中に30~100重量%含まれることが難燃性向上の点で好ましい。同様に、前述した分子中に芳香族類及び/又は多芳香族類を含むフェノール系樹脂は、総フェノール系樹脂中に30~100重量%含まれることが難燃性向上の点で好ましい。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【0060】
熱硬化性樹脂(A)の150℃におけるICI粘度は、無機充填材(B)の含有量により適宜設定されることが好適であるが、例えば、上限値は、好ましくは60ポアズ以下であり、より好ましくは50ポアズ以下であり、さらに好ましくは40ポアズ以下である。これにより、封止用樹脂組成物の流動性を向上させ、また、低温封止を実現しやすくする。
一方、熱硬化性樹脂(A)の150℃におけるICI粘度の下限値は、特に限定されないが、例えば、0.01ポアズ以上としてもよい。なお、1ポアズは、0.1Pa・sである。
【0061】
熱硬化性樹脂(A)の含有量は、とくに限定されないが、例えば封止樹脂組成物全体に対して、1質量%以上50質量%以下であることが好ましく、2質量%以上30質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上20質量%以下であることがさらに好ましい。
熱硬化性樹脂(A)の含有量を上記下限値以上とすることにより、封止樹脂組成物の流動性や成型性をより効果的に向上させることができる。また、熱硬化性樹脂(A)の含有量を上記上限値以下とすることにより、硬化物の機械的強度を向上させることができる。
【0062】
[無機充填材(B)]
無機充填材(B)としては、例えば、シリカ、アルミナ、カオリン、タルク、クレイ、マイカ、ロックウール、ウォラストナイト、ガラスパウダー、ガラスフレーク、ガラスビーズ、ガラスファイバー、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミ、カーボンブラック、グラファイト、二酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、セルロース、アラミド、または木材等が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0063】
上記のシリカとしては、結晶性シリカ(破砕状の結晶性シリカ)、溶融シリカ(破砕状のアモルファスシリカ、球状のアモルファスシリカ)、および液状封止シリカ(液状封止用の球状のアモルファス止シリカ)が挙げられる。なかでも、低温、低圧封止を実現しやすくする観点から、溶融球状シリカであることが好ましい。
【0064】
無機充填剤(B)の平均粒径は、特に限定されないが、典型的には1~100μm、好ましくは1~50μm、より好ましくは1~20μmである。平均粒径が適当であることにより、後述の造粒工程において、溶融混合物を含むシェルがより均一にコーティングされる等の効果が得られると考えられる。また、最終的に得られたコアシェル粒子を半導体封止材として使用するときに、金型キャビティ内での半導体素子周辺への充填性を高めることができる。
なお、無機充填材(B)の体積基準粒度分布は、市販のレーザー式粒度分布計(例えば、株式会社島津製作所製、SALD-7000)で測定することができる。
【0065】
無機充填材(B)の含有量は、とくに限定されないが、例えば封止樹脂組成物全体に対して、50質量%以上95質量%以下であることが好ましく、60質量%以上95質量%以下であることがより好ましく、65質量%以上85質量%以下であることがさらに好ましい。
無機充填材(B)の含有量を上記下限値以上とすることにより、硬化物の機械的強度を向上させることができる。また、無機充填材(B)の含有量を上記上限値以下とすることにより、封止樹脂組成物の流動性を良好なものとし、成形性をより効果的に向上させることが可能となる。
【0066】
本実施形態の封止樹脂組成物は、上記以外に、以下の成分を含んでもよい。
[硬化剤(C)]
封止樹脂組成物は、硬化剤(C)を含むことができる。硬化剤(C)としては、熱硬化性樹脂(A)と反応して硬化させるものであればとくに限定されないが、例えば、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、および、ヘキサメチレンジアミン等の炭素数2~20の直鎖脂肪族ジアミン、ならびに、メタフェニレンジアミン、パラフェニレンジアミン、パラキシレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジシクロヘキサン、ビス(4-アミノフェニル)フェニルメタン、1,5-ジアミノナフタレン、メタキシレンジアミン、パラキシレンジアミン、1,1-ビス(4-アミノフェニル)シクロヘキサン、ジシアノジアミド等のアミン類;アニリン変性レゾール樹脂、ジメチルエーテルレゾール樹脂等のレゾール型フェノール樹脂;フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、tert-ブチルフェノールノボラック樹脂、ノニルフェノールノボラック樹脂等のノボラック型フェノール樹脂;フェニレン骨格含有フェノールアラルキル樹脂、ビフェニレン骨格含有フェノールアラルキル樹脂等のフェノールアラルキル樹脂;ナフタレン骨格やアントラセン骨格のような縮合多環構造を有するフェノール樹脂;ポリパラオキシスチレン等のポリオキシスチレン;ヘキサヒドロ無水フタル酸(HHPA)、メチルテトラヒドロ無水フタル酸(MTHPA)等の脂環族酸無水物、無水トリメリット酸(TMA)、無水ピロメリット酸(PMDA)、ベンゾフェノンテトラカルボン酸(BTDA)等の芳香族酸無水物等を含む酸無水物等;ポリサルファイド、チオエステル、チオエーテル等のポリメルカプタン化合物;イソシアネートプレポリマー、ブロック化イソシアネート等のイソシアネート化合物;カルボン酸含有ポリエステル樹脂等の有機酸類が挙げられる。これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、封止樹脂組成物の低温・低圧封止を実現させる観点からは、ノボラック型フェノール樹脂またはフェノールアラルキル樹脂のうちの少なくとも一方を用いることがより好ましい。
【0067】
封止樹脂組成物中における硬化剤(C)の含有量は、とくに限定されないが、例えば封止樹脂組成物全体に対して、1質量%以上12質量%以下であることが好ましく、3質量%以上10質量%以下であることがより好ましい。
硬化剤(C)の含有量を上記下限値以上とすることにより、封止樹脂組成物を適切に硬化しやすくなる。一方、硬化剤(C)の含有量を上記上限値以下とすることにより、適度な流動性を保持し、低温・低圧封止を実現しやすくなる。
【0068】
[カップリング剤(E)]
封止樹脂組成物は、例えばカップリング剤(E)を含むことができる。カップリング剤(E)としては、例えばエポキシシラン、メルカプトシラン、アミノシラン、アルキルシラン、ウレイドシラン、ビニルシラン等の各種シラン系化合物、チタン系化合物、アルミニウムキレート類、アルミニウム/ジルコニウム系化合物等の公知のカップリング剤を用いることができる。
より具体的には、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アニリノプロピルトリメトキシシラン、γ-アニリノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-[ビス(β-ヒドロキシエチル)]アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-(β-アミノエチル)アミノプロピルジメトキシメチルシラン、N-(トリメトキシシリルプロピル)エチレンジアミン、N-(ジメトキシメチルシリルイソプロピル)エチレンジアミン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチルーブチリデン)プロピルアミンの加水分解物等のシラン系カップリング剤;イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、イソプロピルトリ(N-アミノエチル-アミノエチル)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2-ジアリルオキシメチル-1-ブチル)ビス(ジトリデシル)ホスファイトチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルホスフェート)チタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート等のチタネート系カップリング剤が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
封止樹脂組成物中におけるカップリング剤(E)の含有量は、とくに限定されないが、例えば封止樹脂組成物全体に対して、0.05質量%以上3質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上2質量%以下であることがさらに好ましい。カップリング剤(E)の含有量を上記下限値以上とすることにより、封止樹脂組成物中における無機充填材(B)分散性を良好なものとすることができる。また、カップリング剤(E)の含有量を上記上限値以下とすることにより、封止樹脂組成物の流動性を良好なものとし、成形性の向上を図ることができる。
【0070】
さらに、本実施形態の封止樹脂組成物は、上記成分の他に、例えば、カーボンブラック等の着色剤;天然ワックス、合成ワックス、高級脂肪酸もしくはその金属塩類、パラフィン、酸化ポリエチレン等の離型剤;ハイドロタルサイト等のイオン捕捉剤;シリコーンオイル、シリコーンゴム等の低応力剤;水酸化アルミニウム等の難燃剤;酸化防止剤等の各種添加剤を含むことができる。
【0071】
<樹脂封止層7の線膨張係数>
樹脂封止層7の硬化物の線膨張係数が10ppm/℃以上15ppm/℃以下である。
線膨張係数の下限値は、好ましくは11ppm/℃以上であり、より好ましくは12ppm/℃以上である。線膨張係数の上限値は、好ましくは14ppm/℃以下であり、より好ましくは13ppm/℃以下である。樹脂封止層7の線膨張係数を上記範囲とすることで、Cuパターン部3やCuベースプレート5の線膨張係数との差を小さくすることができる。すなわち、線膨張係数の差に起因する、樹脂封止層7とCuパターン部3やCuベースプレート5との界面における剥離を抑制できる。また、そのような剥離が生じないことから、放電等に対する耐性を高めることができる。
【0072】
<樹脂封止層7(封止材)の耐トラッキング性>
樹脂封止層7の表面7aにおける、比較トラッキング指数(CTI)が600V以上である。比較トラッキング指数は、JIS C 2134(IEC112)に準じて測定される。比較トラッキング指数の下限値は、好ましくは700V以上であり、より好ましくは800V以上である。比較トラッキング指数(CTI)の上限値は、高い耐電圧を実現する観点から特に制限はない。
【0073】
<パワーモジュール10全体の信頼性(冷熱サイクル試験)>
パワーモジュール10は、-50℃、30分と150℃、30分の温度条件を一サイクルとした冷熱サイクル試験を1000回実施したときに、樹脂封止層7が破壊されない。樹脂封止層7の破壊の有無は、試験片のパワーモジュール10を取り出し、放熱基板20に搭載されたパワー半導体チップ1が電気的にCuパターン部3と接続しているか否か、樹脂封止層7のクラック発生の有無を調べた。確認は、テスターによる導通確認と外観検査によるクラックの発生状態の有無を目視確認する方法により行った。
これにより、パワー半導体チップ1や樹脂封止層7、接合層2を含めたパワーモジュール10の信頼性を評価できる。
【0074】
<放熱シート4の寸法変化率>
【0075】
熱硬化性樹脂組成物の硬化物である放熱シート4(絶縁樹脂層)について、TMA(熱機械分析測定)により、20℃から310℃の温度範囲、昇温速度10℃/min、引張測定モードの条件にて寸法変化率を測定する。具体的には、20℃から310℃までの第1昇温過程と310℃から20℃までの第1降温過程とからなる一回目の熱機械分析測定(TMA)を行い、一回目の熱機械分析測定の後、20℃から310℃までの第2昇温過程と310℃から20℃までの第2降温過程とからなる二回目の熱機械分析測定(TMA)を行う。
このとき、熱硬化性樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度をTg、一回目の熱機械分析測定を行う前の絶縁樹脂層の面内方向の長さを基準長、第2昇温過程における、Tg+30℃での絶縁樹脂層の面内方向の基準長からの変化量をL1TU、第2昇降温過程における、Tg+30℃での絶縁樹脂層の面内方向の基準長からの変化量をL1TD、第2昇温過程における、室温25℃での絶縁樹脂層の面内方向の基準長からの変化量をL125U、および、第2昇降温過程における、室温25℃での絶縁樹脂層の面内方向の基準長からの変化量をL125Dとする。
【0076】
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、|L1TD-L1TU|が、0ppmより大きく1000ppm以下となるように構成される。
【0077】
|L125D-L125U|の上限は、1000pm以下、好ましくは700ppm以下、より好ましくは550ppm以下である。これにより、吸湿処理後のマクロクラック発生抑制や絶縁信頼性の向上等の熱時耐久性を向上できる。
一方、|L125D-L125U|の下限は、とくに限定されないが、0ppmより大きい。
【0078】
|L1TD-L1TU|の上限は、例えば、1000ppm以下、好ましくは600ppm以下、より好ましくは400ppm以下である。これにより、熱時耐久性を向上できる。
一方、|L1TD-L1TU|の下限は、とくに限定されないが、0ppmより大きい。
【0079】
L125Dは、例えば、-1000ppm以上+1000ppm以下、好ましくは-500ppm以上+500ppm以下、より好ましくは-300ppm以上+300ppm以下である。このような範囲内とすることにより、熱時耐久性を向上できる。
【0080】
L1TUは、例えば、+2000ppm以上+8000ppm以下、好ましくは+4000ppm以上+8000ppm以下、より好ましくは+5000ppm以上+7500ppm以下である。このような範囲内とすることにより、熱時耐久性を向上できる。
【0081】
本実施形態では、たとえば熱硬化性樹脂組成物中に含まれる各成分の種類や配合量、熱硬化性樹脂組成物の調製方法等を適切に選択することにより、上記|L1TD-L1TU|、|L125D-L125U|、L125DおよびL1TUを制御することが可能である。これらの中でも、たとえば、シアネート樹脂等の高剛性の材料を使用すること、多官能フェノール系硬化剤などを用いて樹脂の架橋密度を小さくすること等が、上記|L1TD-L1TU|、|L125D-L125U|、L125DおよびL1TUを所望の数値範囲とするための要素として挙げられる。
詳細なメカニズムは定かではないが、フェノール系硬化剤により緩やかに架橋反応を進めることで、未反応部分を極力減らし、熱による硬化構造の変化を抑制できる上、フェノール系硬化剤を使わない場合と比べて架橋密度も疎になるため、硬化物中から水が抜けやすくなり、吸湿時耐熱特性を向上できると考えられる。
【0082】
<パワーモジュール10の特徴・効果>
本実施形態の特徴・効果をまとめると次の通りである。
(1)本実施形態のパワーモジュール10は、
矩形形状の放熱基板20と、
放熱基板20の一方の面に設けられたパワー半導体素子1と、
パワー半導体素子1と放熱基板20とを半田又はシンタリング剤により接合する接合層2と、
パワー半導体素子1を樹脂材料の硬化物で封止する樹脂封止層7(封止材)と、
を有し、
放熱基板20は、
放熱シート4と、
放熱シート4の一方の面(上面4a)に設けられた厚銅からなる第1の金属層(Cuパターン部3)と、
前記放熱シート4の他方の面(下面4b)に設けられた厚銅からなる第2の金属層(Cuベースプレート5)と、を有し、
放熱基板20が呈する矩形形状の短辺が80mm以上であって、
樹脂封止層7の硬化物の線膨張係数が10ppm/℃以上15ppm/℃以下であり、
パワー半導体素子1は第1の金属層(Cuパターン部3)に設けられており、
放熱シート4の線膨張係数が8ppm/℃以上11ppm/℃以下であり、
第1の金属層(Cuパターン部3)と第2の金属層(Cuベースプレート5)の厚みt1は0.3mm以上であり、
放熱基板20を縦横それぞれ3分割して9分割領域(第1~第9領域A1~A9)とした場合に、9分割領域(第1~第9領域A1~A9)のそれぞれにおいて平たん度が±0μmの地点を有する。
このような構成のパワーモジュール10とすることで、放熱基板20を大型基板とした場合でも、基板反りを非常に小さくでき、複数のパワー半導体チップ1を、大型放熱基板である放熱基板20に一括で実装することができる。換言すると、従来であれば複数のモジュール(基板)を1セットとして組み合わせて構成するサイズのパワーモジュールでも、本実施形態によりば大型のパワーモジュール10(放熱基板20)を1つのみで実現できる。その結果、製造コストの削減が可能となる。また、複数のモジュール(基板)を組み合わせる場合に必要となる余領域を省くことができ、小型化が可能となる。
(2)放熱基板20の平面度(定義を記載する)が20μm以下である。
(3)樹脂封止層7の樹脂材料は、多芳香環樹脂(MAR:Multi Aromatic Resin)を含有するエポキシ樹脂を有している。
(4)第1の金属層(Cuパターン部3)と第2の金属層(Cuベースプレート5)の厚みt1は0.5mm以上2mm以下である。
(5)放熱シート4のボイド率が0.001%以下である。成形性や機械的強度を高めやすい観点から、
(6)樹脂封止層7の表面7aにおける比較トラッキング指数(CTI)が600V以上である。
(7)-50℃、30分と150℃、30分の温度条件を一サイクルとした冷熱サイクル試験を1000回実施したときに、前記樹脂封止層が破壊されない。
【0083】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例0084】
本発明の実施態様を実施例に基づき詳細に説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0085】
表1に実施例1~3および比較例1~6の構成および評価結果を示す。表2に封止材の各成分を示す。表3に放熱シートの各成分を示す。
【0086】
(パワーモジュール用基板の作製)
パワーモジュール用基板として、実施例1~3および比較例3、4は実施形態の放熱シート(樹脂シート)を有する放熱基板、比較例1、2は放熱シート(樹脂シート)の代わりにセラミックシートを用いたDBC基板とした。
実施例1~3および比較例3について、以下のようにパワーモジュール用基板を作製した。
まず、表2に示す配合に従い、熱硬化性樹脂、フェノキシ樹脂、硬化剤、および硬化触媒をメチルエチルケトンに添加し、これを撹拌して熱硬化性樹脂組成物の溶液を得た。次いで、この溶液に無機充填材を入れて予備混合した後、三本ロールにて混練し、無機充填材を均一に分散させたワニス状の熱硬化性樹脂組成物を得た。次いで、得られた熱硬化性樹脂組成物に対し、60℃、15時間の条件によりエージングを行った。次いで、熱硬化性樹脂組成物の両面に、1.0mm厚の銅板(タフピッチ銅)を張り合わせ、真空プレスで、プレス圧100kg/cmで180℃40分の条件下でプレスして銅板(第1の金属層)、絶縁樹脂層、および銅板(第2の金属層)を有するパワーモジュール用基板(絶縁樹脂層の厚さ:200μm)を得た。
比較例1、2については、厚さ200μmのセラミックシートの両面に、1.0mm厚の銅板(タフピッチ銅)を張り合わせ、真空プレスで、プレス圧100kg/cmで180℃40分の条件下でプレスして銅板(第1の金属層)、セラミックシート、および銅板(第2の金属層)を有するパワーモジュール用基板(セラミックシートの厚さ:200μm)を得た。
比較例4については、実施例1~3および比較例3と同様にして得られた熱硬化性樹脂組成物の両面に銅箔(厚さ0.1mm、古河電気工業株式会社製、GTS-MP箔)上にドクターブレード法を用いて塗布した後、これを100℃、30分間の熱処理により乾燥して、銅箔(第1の金属層)、絶縁樹脂層、および銅箔(第2の金属層)を有するパワーモジュール用基板(絶縁樹脂層の厚さ:200μm)を得た。
【0087】
下記表2中における封止材の各成分の詳細は下記のとおりである。
【0088】
(熱硬化性樹脂)
・エポキシ樹脂1:ビフェニレン骨格含有フェノールアラルキル型エポキシ樹脂(日本火薬株式会社製、NC3000)
・エポキシ樹脂2:トリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂(三菱化学株式会社製、jER 1032H60)
・硬化剤1:フェノール・レゾルシン-4,4'-ビスクロロメチルビフェニル重縮合物(国際公開2013/136685号の式(12A)で表される多官能ビフェニルアラルキル型フェノール樹脂)(明和化成株式会社製)
・無機充填剤1:溶融球状シリカ(デンカ社製、FB-560)
・無機充填剤2:球状シリカ(アドマテックス株式会社製、SO-25R)
・硬化促進剤1:テトラフェニルフォスフォニウム-4,4'-スルフォニルジフェノラースルフォニルジフェノラート
・カップリング剤1:3-グリシドキシプリピルトリメトキシシラン(JNC社製、S510)
・離型剤1:グリセリントリモンタン酸エステル(クラリアント・ジャパン社製、リコルブ-WE-4)
・着色剤1:カーボンブラック(三菱化学社製、MA-600)
【0089】
下記表3中における放熱シートの各成分の詳細は下記のとおりである。
【0090】
(熱硬化性樹脂)
・エポキシ樹脂1:クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(N-690、大日本インキ社製)
・エポキシ樹脂2:ジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂(XD-1000、日本化薬社製)
・エポキシ樹脂3:ビスフェノールF型エポキシ樹脂(830S、大日本インキ社製)
・シアネート樹脂1:フェノールノボラック型シアネート樹脂(PT-30、ロンザジャパン社製)
(硬化剤)
・フェノール系硬化剤1:トリスフェニルメタン型のフェノールノボラック樹脂(MEH-7500、明和化成社製)
(硬化触媒)
・硬化触媒1:2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール(2PHZ-PW、四国化成社製)
【0091】
(無機充填材)
・無機充填材1:下記作製例により作製された窒化ホウ素
(窒化ホウ素の作製)
ホウ酸メラミンと鱗片状窒化ホウ素粉末(平均長径:15μm)を混合して得られた混合物を、ポリアクリル酸アンモニウム水溶液へ添加し、2時間混合して噴霧用スラリーを調製した。次いで、このスラリーを噴霧造粒機に供給し、アトマイザーの回転数15000rpm、温度200℃、スラリー供給量5ml/minの条件で噴霧することにより、複合粒子を作製した。次いで、得られた複合粒子を、窒素雰囲気下、2000℃の条件で焼成することにより形成した。
【0092】
得られたパワーモジュール用基板から金属板と金属層を剥離して、絶縁樹脂層を得て、これを評価用試験板として用いた。
【0093】
(平面度、平たん度)
平面度は、JIS B 0621「幾何偏差の定義及び表示」に準拠して測定した。測定装置として、シャドーモアレ法を用いた高精度計測装置(サーマプレシジョン社製)を用いた。
平たん度は、放熱基板を縦横それぞれ3分割して9分割領域のそれぞれにおいて、上記の平面度を算出する際に求めた基準面(±0μm)に一致する領域が存在するか否かで判断した。
【0094】
(線膨張係数)
得られた熱硬化性樹脂組成物の硬化物の線膨張係数(CTE1)を、以下のように測定した。まず、低圧トランスファー成形機(コータキ精機(株)製「KTS-15」)を用いて金型温度175℃、注入圧力6.9MPa、硬化時間120秒で封止用熱硬化性樹脂組成物を注入成形し、10mm×4mm×4mmの試験片を得た。次いで、得られた試験片を175℃、4時間で後硬化した後、熱機械分析装置(セイコー電子工業(株)製、TMA100)を用いて、測定温度範囲0℃~320℃、昇温速度5℃/分の条件下で測定を行った。この測定結果から、ガラス転移温度以下における線膨張係数(CTE1)を算出した。
【0095】
(比較トラッキング指数CTI)
JIS C 2134に準じて、比較トラッキング指数(V)を測定した。具体的には、0.1重量%塩化アンモニウム水溶液、白金電極を用い、試験片にトラッキングが生じる印加電圧(V:ボルト)を求め、この数値を比較トラッキング指数(V)とした。600V以上の場合が「○」600V未満を「×」とした。
【0096】
(冷熱サイクル試験)
-50℃、30分と150℃、30分の温度条件を1サイクルとした冷熱サイクル試験を1000回実施した。樹脂封止層が破壊されないことを「○」、破壊があれば「×」とした。
樹脂封止層の破壊の有無は、試験片を取り出し、放熱基板に搭載されたパワー半導体チップが電気的にCuパターン部と接続しているか否か、樹脂封止層のクラック発生の有無を調べた。確認は、テスターによる導通確認と外観検査によるクラックの発生状態の有無を目視確認する方法により行った。
【0097】
(Tg(ガラス転移温度)の測定)
実施例2、3及び比較例5、6について、放熱シートのガラス転移温度(Tg)を測定した。
得られた絶縁樹脂層のガラス転移温度(Tg)を、DMA(動的粘弾性測定)により昇温速度5℃/min、周波数1Hzの条件で測定した。
【0098】
(寸法変化率の測定)
実施例1~3及び比較例5、6について、寸法変化率の測定を行い評価した。
得られた絶縁樹脂層を評価用試験板として用い、当該絶縁樹脂層の面内方向における長さ変化を、TMA(熱機械分析測定)により、20℃から310℃の温度範囲、昇温速度10℃/min、引張測定モードの条件で測定した。
20℃から310℃までの第1昇温過程と310℃から20℃までの第1降温過程とからなる一回目の熱機械分析測定(TMA)を行い、一回目の熱機械分析測定の後、20℃から310℃までの第2昇温過程と310℃から20℃までの第2降温過程とからなる二回目の熱機械分析測定(TMA)を行ったとき、絶縁樹脂層(熱硬化性樹脂組成物の硬化物)のガラス転移温度をTg、一回目の熱機械分析測定を行う前の絶縁樹脂層の面内方向の長さを基準長、第2昇温過程における、Tg+30℃での絶縁樹脂層の面内方向の基準長からの変化量をL1TU、第2昇降温過程における、Tg+30℃での絶縁樹脂層の面内方向の基準長からの変化量をL1TD、第2昇温過程における、室温25℃での絶縁樹脂層の面内方向の基準長からの変化量をL125U、および、第2昇降温過程における、室温25℃での絶縁樹脂層の面内方向の基準長からの変化量をL125Dとした。
上記変化量をもとに、|L1TD-L1TU|、|L125D-L125U|を算出した。
【0099】
【表1】
【0100】
【表2】
【0101】
【表3】
【符号の説明】
【0102】
1 パワー半導体チップ
2 接合層
3 Cuパターン部
4 放熱シート
5 Cuベースプレート
6 リードフレーム
7 樹脂封止層
8 ワイヤーフレーム
10 パワーモジュール
20 放熱基板
図1
図2
図3