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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023118515
(43)【公開日】2023-08-25
(54)【発明の名称】循環式陸上養殖システム
(51)【国際特許分類】
   A01K 63/04 20060101AFI20230818BHJP
   C02F 1/32 20230101ALI20230818BHJP
   C02F 1/72 20230101ALI20230818BHJP
   C02F 3/06 20230101ALI20230818BHJP
   C02F 1/44 20230101ALI20230818BHJP
【FI】
A01K63/04 C
A01K63/04 A
A01K63/04 Z
C02F1/32
C02F1/72 101
C02F1/72 B
C02F3/06
C02F1/44 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022021507
(22)【出願日】2022-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】518297260
【氏名又は名称】株式会社アイティー技研
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(71)【出願人】
【識別番号】000140292
【氏名又は名称】株式会社奥村組
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】今中 忠行
(72)【発明者】
【氏名】竹本 正
(72)【発明者】
【氏名】白石 祐彰
(72)【発明者】
【氏名】大谷 明
(72)【発明者】
【氏名】小河 篤史
(72)【発明者】
【氏名】黒瀬 英俊
【テーマコード(参考)】
2B104
4D003
4D006
4D037
4D050
【Fターム(参考)】
2B104EA01
2B104EB01
2B104EB03
2B104ED01
2B104ED08
2B104ED19
2B104ED36
2B104EE11
2B104EE13
2B104EF09
4D003AA01
4D003AB05
4D003AB08
4D003CA08
4D003EA01
4D003EA03
4D003EA23
4D003EA24
4D003EA25
4D003EA30
4D003FA06
4D003FA10
4D006GA06
4D006GA07
4D006KA01
4D006KA72
4D006KB04
4D006KB13
4D006KB14
4D006KB23
4D006KB25
4D006KB30
4D006PA01
4D006PB07
4D006PB08
4D006PB27
4D006PC80
4D037AA09
4D037BA18
4D037CA02
4D037CA03
4D037CA06
4D037CA07
4D037CA12
4D050AA08
4D050AB35
4D050BB01
4D050BC06
4D050BD02
4D050BD06
4D050CA09
4D050CA15
4D050CA17
(57)【要約】
【課題】水生生物の生育が阻害されるおそれの解消を図ることが可能な循環式陸上養殖システムを提供する。
【解決手段】循環式陸上養殖システム100は、有底円筒形状であって、内部に飼育水Aを収容する水槽10と、飼育水10に酸素又は空気のナノバブルを供給するナノバブル供給装置20と、水槽10から取水した飼育水Aを光触媒の存在下において紫外線を照射した後に、水槽10内に戻す光触媒装置30とを備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底円筒形状であって、内部に飼育水を収容する水槽と、
前記飼育水に酸素又は空気のナノバブルを供給するナノバブル供給装置と、
前記水槽から取水した前記飼育水を光触媒の存在下において紫外線を照射した後に、前記水槽内に戻す光触媒装置とを備えることを特徴とする循環式陸上養殖システム。
【請求項2】
前記水槽内の前記飼育水に周方向回りの水流を発生させる水流発生装置を備えることを特徴とする請求項1に記載の循環式陸上養殖システム。
【請求項3】
前記ナノバブル供給装置は、平面視において前記水槽の中央に向けて、又は、前記水流の発生向に向けて、前記ナノバブルを供給することを特徴とする請求項2に記載の循環式陸上養殖システム。
【請求項4】
前記ナノバブル供給装置は、側面視において前記水槽の下方向に向けて、又は、水平方向に向けて、前記ナノバブルを供給することを特徴とする請求項1から3に記載の循環式陸上養殖システム。
【請求項5】
前記水槽内の底部又は側部にろ材が配置され、前記ろ材に微生物が担持されることにより生物接触ろ過装置を形成してなることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の循環式陸上養殖システム。
【請求項6】
前記ろ材が複数の区画に分割され、前記区画の間に隙間を設けて配置されていることを特徴とする請求項5に記載の循環式陸上養殖システム。
【請求項7】
前記水槽から取水した前記飼育水を、ろ過器又は沈殿槽を介して前記光触媒装置に供給することを特徴とする請求項1から6の何れか1項に記載の循環式陸上養殖システム。
【請求項8】
前記水槽の上部又は下部から前記飼育水を取水して、前記光触媒装置を介して当該水槽の上部から当該水槽内に戻すことを特徴とする請求項1から7の何れか1項に記載の循環式陸上養殖システム。
【請求項9】
前記水槽から取水した前記飼育水を、アンモニア態窒素をろ過する膜ろ過装置を介して前記光触媒装置に供給することを特徴とする請求項1から8の何れか1項に記載の循環式陸上養殖システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、循環式陸上養殖システムに関する。
【背景技術】
【0002】
陸上養殖は、陸上に人工的に創設した施設で水生生物を養殖するものであり、かけ流し式と閉鎖循環式がある。かけ流し式は、継続的に飼育水を海などから引き込み、閉鎖循環式は、飼育水を水処理設備により浄化して循環利用している。
【0003】
閉鎖循環式は、内陸部にも設置でき設置場所が制限されない、飼育環境を人工的に管理可能であるので生育が早いなどの利点を有する。しかし、閉鎖循環式は、水処理設備が必須となる。
【0004】
水生生物の排泄物や残餌などは、飼育水中の微生物により分解されると、アンモニア態窒素(NH3またはNH4 +)が発生する。アンモニア態窒素は、水生生物の生育を阻害するので、浄化しなければならない。閉鎖循環式陸上養殖システムにおいては、従来、物理ろ過と生物接触ろ過を組み合わせてアンモニア態窒素を浄化する水処理設備を備えている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-23841号公報
【特許文献2】特許5847376号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、生物接触ろ過においては、微生物が十分に増殖するまで数週間又は数か月の期間がかかり、この期間においては、アンモニア態窒素の浄化を十分に行うことができず、水生生物の生育が阻害されるおそれがあるという課題があった。
【0007】
本発明は、以上の点に鑑み、水生生物の生育が阻害されるおそれの解消を図ることが可能な循環式陸上養殖システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の循環式陸上養殖システムは、有底円筒形状であって、内部に飼育水を収容する水槽と、前記飼育水に酸素又は空気のナノバブルを供給するナノバブル供給装置と、前記水槽から取水した前記飼育水を光触媒の存在下において紫外線を照射した後に、前記水槽内に戻す光触媒装置とを備えることを特徴とする。
【0009】
本発明の循環式陸上養殖システムによれば、ナノバブル供給装置から供給されたナノバブル状態の酸素又は空気に含まれる酸素は飼育水に溶解して拡散し易いので、飼育水に高濃度の酸素が溶存した高度な好気性環境を創出することができる。また、光触媒装置により飼育水を処理することにより、飼育水中のアンモニア態窒素を亜硝酸態窒素あるいは窒素に分解することができる。よって、養殖する水生生物の生育阻害要因の解消に寄与することができる。
【0010】
本発明の循環式陸上養殖システムにおいて、前記水槽内の前記飼育水に周方向回りの水流を発生させる水流発生装置を備えることが好ましい。
【0011】
この場合、ナノバブル供給装置から供給されるナノバブルを水流によって水槽全体に行き渡らせることができるので、水槽全体に亘って高度な好気性環境を創出することが可能となる。
【0012】
また、本発明の循環式陸上養殖システムにおいて、前記ナノバブル供給装置は、平面視において前記水槽の中央に向けて、又は、前記水流の発生方向に向けて、前記ナノバブルを供給することが好ましい。
【0013】
ナノバブル供給装置から水槽の中央に向けてナノバブルを供給する場合、ナノバブルを水流によって水槽全体に行き渡らせることにより、さらに、水槽全体に亘って高度な好気性環境を創出することが可能となる。一方、ナノバブル供給装置から水流の発生方向に向けてナノバブルを供給する場合、水流を助長させることが可能となる。
【0014】
また、本発明の循環式陸上養殖システムにおいて、前記ナノバブル供給装置は、側面視において前記水槽の下方向に向けて、又は、水平方向に向けて、前記ナノバブルを供給することが好ましい。
【0015】
この場合、ナノバブルは時間経過に従って徐々にではあるが上昇するので、水槽の上方向に向けて供給する場合と比較して、水槽内全体に亘って飼育水に酸素を溶存させることが可能となる。
【0016】
また、本発明の循環式陸上養殖システムにおいて、前記水槽内の底部又は側部にろ材が配置され、前記ろ材に微生物が担持されることにより生物接触ろ過装置を形成してなることが好ましい。
【0017】
この場合、生物接触ろ過装置によって、飼育水中のアンモニア態窒素を浄化することが可能となる。そして、上述したように、水槽は高度な好気性環境となっているので、微生物、特に好気性細菌の増殖が促進され、十分なアンモニア態窒素を浄化することができるまでに微生物が増殖する期間の短縮化を図ることが可能となる。よって、水生生物の生育阻害要因の解消に寄与することができる。
【0018】
また、本発明の循環式陸上養殖システムにおいて、前記ろ材が複数の区画に分割され、前記区画の間に隙間を設けて配置されていることが好ましい。
【0019】
この場合、ろ材が水流と接触する面積が増加するので、水流によって運ばれる飼育水に溶存する酸素が効率良くろ材に担持される微生物に供給される。これにより、微生物、特に好気性細菌の増殖が図られ、アンモニア態窒素の浄化能力の増大を図ることが可能となる。
【0020】
また、本発明の循環式陸上養殖システムにおいて、前記水槽から取水した前記飼育水を、ろ過器又は沈殿槽を介して前記光触媒装置に供給することが好ましい。
【0021】
この場合、ろ過器又は沈殿槽により懸濁物を分離することができるので、懸濁物が入り込むことによる光触媒装置のアンモニア態窒素の浄化能力の低下を抑制することが可能となる。
【0022】
また、本発明の循環式陸上養殖システムにおいて、前記水槽の上部又は下部から前記飼育水を取水して、前記光触媒装置を介して当該水槽の上部から当該水槽内に戻すことが好ましい。
【0023】
水槽の上部から飼育水を取水する場合、懸濁物は水槽の上部には比較的存在しないので、懸濁物が入り込むことによる光触媒装置のアンモニア態窒素の浄化能力の低下を抑制することが可能となる。一方、ろ過器又は沈殿槽を介して光触媒装置に飼育水を供給する場合、懸濁物は水槽の下部に比較的多く存在するので、ろ過器又は沈殿槽を用いて多くの懸濁物を分離することができ、水槽内の懸濁物を減少させることが可能となる。
【0024】
また、本発明の循環式陸上養殖システムにおいて、前記水槽から取水した前記飼育水を、アンモニア態窒素をろ過する膜ろ過装置を介して前記光触媒装置に供給することが好ましい。
【0025】
この場合、膜ろ過装置によりアンモニア態窒素をろ過するので、光触媒装置において浄化すべきアンモニア態窒素の量を低減することが可能となる。
【0026】
また、本発明の循環式陸上養殖システムにおいて、前記水槽の底面に設けられ、前記飼育水を排水する排水口を備えることが好ましい。
【0027】
この場合、水槽の底面に蓄積した懸濁物などの沈殿物を多く含んだ飼育水を排水口から外部に排出することができる。これにより、水槽内の懸濁物を減少させることが可能となる。
【0028】
また、本発明の循環式陸上養殖システムにおいて、前記排水口は、前記水槽の漏斗状に傾斜した底部の中央部に設けられていることが好ましい。
【0029】
この場合、水槽の底部の漏斗状の傾斜により懸濁物などの沈殿物が排出口に向かって集まるので、これら沈殿物を排出口から外部に効率的に排出することができる。これにより、水槽内の懸濁物をさらに減少させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の第1の実施形態に係る循環式陸上養殖システムの模式上面図。
図2】本発明の第1の実施形態に係る循環式陸上養殖システムの模式縦断面図。
図3】本発明の第2の実施形態に係る循環式陸上養殖システムの模式上面図。
図4】本発明の第2の実施形態に係る循環式陸上養殖システムの模式縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の実施形態に係る循環式陸上養殖システム(以下、単に養殖システムともいう)100、200について、図1から図4を参照して説明する。本養殖システム100、200は、魚介類や甲殻類などの水生生物を陸上で養殖するための施設である。
【0032】
図1及び図2は第1の実施形態に係る養殖システム100を、図3及び図4は第2の実施形態に係る養殖システム200をそれぞれ模式的に説明するための図である。なお、図1から図4は、分り易いように、構成要素の形状、寸法などはデフォルメされている。
【0033】
本養殖システム100、200は、円筒形状であって、内部に飼育水Aを収容する水槽10、水槽10内の飼育水Aに酸素又は空気のナノバブルを供給するナノバブル供給装置20、及び、水槽10から取水した飼育水Aを光触媒の存在下において紫外線を照射した後に、水槽10内に戻す光触媒装置30を備えている。
【0034】
水槽10は、有底円筒形状であり、魚介類や甲殻類などの水生生物を飼育するに適した、海水や淡水などからなる飼育水Aが内部に収容されている。水槽10は、外形が円筒形状であればよく、中央のない円環筒状(ドーナツ形状)であってもよい。水槽10は、外形が円筒形状であるため、大きな水圧に耐えることができ、大型化することが可能である。また、後述する飼育水Aに水流を発生させる際に好適である。
【0035】
養殖システム100、200においては、さらに、水槽10内の飼育水Aを周方向回りの所定の一方向、ここでは、図1及び図3における白抜け矢印で示す時計回り方向に循環する水流(回流)を発生させる水流発生装置40を備えている。水流発生装置40は、例えば、循環ポンプやサーキュレータなどであるが、適宜な水流を発生させることが可能であれば任意の形式のポンプを使用することができる。なお、養殖システム100が水流発生装置40を備えていてもよい。また、水流発生装置40は、その駆動部を必ずしも水槽10内に設ける必要はなく、例えば、水槽10の平面上における異なる位置に取水口と給水口を設け、これら両者の配管中にポンプを設けることにより構成されてもよい。
【0036】
養殖システム100、200は、また、水槽10内に外部から飼育水Aを供給する貯水タンクや給水車などの飼育水供給装置50と接続されていてもよい。これにより、飼育水Aを水槽10内に外部から追加することができ、水槽10内に収容されている飼育水Aが蒸発やサンプリング、浄化処理上の操作などにより、減少した場合であっても、所定量に維持することが可能となる。さらには、後述するアンモニア態窒素をはじめとする水生生物の生育阻害因子の濃度がトラブル等により処理範囲を超えて過剰となった場合のフェールセーフとして、当該高濃度の飼育水Aを希釈することも可能となる。
【0037】
養殖システム100、200において、ナノバブル供給装置20は水槽10内に配置されている。ナノバブル供給装置20は、水槽10内の飼育水Aに高濃度酸素のナノバブルを大量に供給するものであり、例えば、高濃度酸素供給装置21から供給される高濃度酸素を用いてナノバルブを発生させる市販のナノバブル発生機などからなる。高濃度酸素供給装置21は、例えば、大気中から約90%などの高濃度で酸素を抽出する市販の装置である。ただし、ナノバルブ供給装置20は、高濃度酸素ではない例えば90%未満の濃度の酸素を用いてナノバルブを供給するものであってもよい。また、ナノバルブ供給装置20は、例えば図示しない空気取込み手段により大気から取り込み、空気からなるナノバルブを供給するものであってもよい。なお、ナノバブル供給装置20は、図示しない酸素ボンベなどの酸素源から酸素を取り込んでもよい。
【0038】
ナノバブルが飼育水Aに供給されると、ナノバブル状態の酸素が飼育水Aに溶解して拡散するので、飼育水Aに多くの酸素が溶存した高度な好気性環境を創出することが可能となる。これにより、飼育水A中に存在する微生物、特に好気性細菌が水生生物の排泄物や残餌などの有機物を分解することの促進を図ることが可能となる。また、微生物の増殖の促進を図り、アンモニア態窒素(NH3またはNH4 +)の分解能力の増大を図ることも可能となる。
【0039】
ナノバブル供給装置20は、ここでは、図2及び図4に示すように、水槽10の下部に設置されている。これにより、ナノバブル供給装置20が供給するナノバブルは時間経過に伴って徐々にではあるが上昇することから、水流の発生と相俟って、水槽10内全体に亘ってナノバブル状態の酸素を飼育水Aに溶存させることが可能となる。ただし、ナノバブルは通常の気泡と比較して上昇速度が非常に遅いので、ナノバブル供給装置20は、水槽10の上下方向の中間部又は上部に設置していてもよい。
【0040】
養殖システム100においては、ナノバブル供給装置20は、水平方向に向けて、ナノバブルを供給している。ここでは、ナノバブル供給装置20は、水槽10内に2台配置されており、水流発生装置40が発生させた水流の向きに合わせて、周方向にナノバブルを供給している。これにより、水槽10内の平面方向において、ナノバブルを全体に行き渡らせることができる。また、ナノバブルによって水流を助長することが可能となる。
【0041】
一方、養殖システム200においては、ナノバブル供給装置20は、平面視において水槽10の中央に向かってナノバブルを供給している。これにより、ナノバブル供給装置20から供給されたナノバブルは、水槽10の半径方向に亘って広がり、さらに、周方向回りの水流に乗って拡散される。
【0042】
これら何れにおいても、水槽10内全体に亘ってナノバブルが存在することになり、そして、ナノバブル状態の酸素は飼育水Aに溶け込み易いので、高濃度の酸素が飼育水Aに溶在する高度な好気性環境を創出することが可能となる。
【0043】
なお、養殖システム100、200は、水流発生装置40を備えないものであってもよい。この場合、ナノバブル供給装置20がナノバブルを周方向に向かって供給することによって、飼育水Aに周方向回りの水流を形成することができる。
【0044】
さらに、ナノバブル供給装置20は、ナノバブルを、側面視における上下方向に関して、水槽10の下方に向けて供給する、又は、水平に供給することが好ましい。これは、ナノバブルは、前述したように時間経過に伴って徐々に上昇するからである。
【0045】
なお、ナノバブル供給装置20は、装置の仕様によっては、水槽10の外部に配置してもよい。この場合、ナノバブル供給装置20が供給するナノバブルの供給口が、水槽10の内部に位置するか、水槽10の内部と連通していればよい。
【0046】
養殖システム100、200において、光触媒装置30は、水槽10の外部に配置されている。水槽10からポンプ31を介して飼育水Aを取水し、光触媒装置30を通過させた飼育水Aを水槽10内へ戻している。
【0047】
光触媒装置30は、詳細は図示しないが、酸化チタンなどの光触媒が充填された反応管の内部に飼育水Aが供給され、反応管を通過する飼育水に対して紫外線が照射される。そして、反応管を通過した飼育水Aは水槽10内に戻される。光触媒装置30を通過させることによりその強い酸化作用により、飼育水A中のアンモニア態窒素を亜硝酸態窒素あるいは窒素(N2)に分解(脱窒)することができる。光触媒装置30は、公知の構成を有した装置を用いればよい。光触媒装置30を通過した飼育水Aは、水槽10内に戻される。このように、本実施形態においては、飼育水Aは、光触媒装置30を介して循環利用される。
【0048】
養殖システム100、200において、水槽10から飼育水Aを取水して光触媒装置30に供給する流路にバイパス流路を設けて、このバイパス流路に膜ろ過装置60を設けている。そして、水槽10から取水した飼育水Aのアンモニア態窒素が高濃度の場合、切替弁90の操作により、膜ろ過装置60を介して光触媒装置30に供給することが好ましい。
【0049】
膜ろ過装置60は、アンモニア態窒素を分離することが可能な精密ろ過膜、限外ろ過膜などのろ過膜を備えた装置である。このように、膜ろ過装置60で予めアンモニア態窒素をある程度除去することにより、光触媒装置30にて分解すべきアンモニア態窒素の濃度が低減でき、光触媒装置30の負荷の低減を図ることが可能となる。
【0050】
さらに、飼育水Aには水生生物の排泄物や残餌などの有機物等からなる懸濁物が含まれているが、このような懸濁物が光触媒装置30に入り込むと、光触媒装置30の分解能が低下するおそれがある。なお、膜ろ過装置60によって懸濁物を分離することは可能であるが、ろ過膜に懸濁物が付着すると分離性能が低下するので、好ましくない。
【0051】
そこで、養殖システム100においては、水槽10の上部から取水した飼育水Aが光触媒装置30や膜ろ過装置60に供給される。これは、懸濁物は水槽の下部に沈降し易いので、懸濁物が比較的含まれ難い水槽10の上部から飼育水Aを取水することにより、光触媒装置30や膜ろ過装置60が懸濁物の存在により汚染されて、分解や除去の性能が低下することの抑制を図ることが可能となる。
【0052】
なお、養殖システム100においては、水槽10の下部に溜まった残餌などの汚泥化した沈殿物は、水槽10の底部に設けられた排出口11から外部に排出される。ここでは、水槽10の底部全体が漏斗状(すり鉢状)に傾斜しており、底部の中央部である傾斜の最下部に、排出口11が設けられている。なお、水槽10の底部は、中央部を含む部分が部分的に漏斗状に傾斜していてもよい。
【0053】
また、排出口11からの沈殿物の排出は、常時行うものであってもよいが、図示しない止水弁などを備え、制御装置により自動的に又は作業者により手動的に操作され、随時排出を行うものであってもよい。
【0054】
一方、養殖システム200においては、水槽10から取水した飼育水Aは、飼育水Aの懸濁物を沈殿分離する沈殿槽71、さらには、ストレーナ、フィルタなどの懸濁物を分離させるろ過器72、73を介して、光触媒装置30や膜ろ過装置60に供給される。
【0055】
ここでは、具体的には、水槽10から取水された飼育水Aはポンプ74を介して貯水タンクからなる沈殿槽71に供給される。この沈殿槽71は、貯水タンクというべきものであり、懸濁物は沈下して貯水タンク71内の下部に堆積し、上澄み液がポンプ75を介してフィルタからなるろ過器72に供給される。このろ過器72により、さらに細かい懸濁物が分離され、浄化された飼育水Aが光触媒装置30や膜ろ過装置60に供給される。ここでは、沈殿槽71とろ過器72は、物理的ろ過手段としての固液分離装置を構成している。
【0056】
また、取水口12は、水槽10の底部に形成され、その上流側(上方)に、ストレーナからなるろ過器73が配置されている。このろ過器73により、懸濁物や沈殿物が分離され、浄化された飼育水Aが沈殿槽71に供給される。取水口12は、ここでは、水槽10の水平面状である底面の中央部に設けられている。ただし、取水口12は、養殖システム100の排出口11のように、水槽10の漏斗状に傾斜した底部の最下部に設けられていてもよい。取水口12から沈殿物などを含む飼育水Aは常時排出され、沈殿槽71に供給される。
【0057】
養殖システム200においては、ストレーナからなるろ過器73、貯水タンクからなる沈殿槽71、フィルタからなるろ過器72の順に配置されている。しかし、これらの配置順はこれに限定されず、また、これらの一部が省かれていても、他の構成の物理的ろ過装置を追加的に又は交換的に備えるものであってもよい。
【0058】
以上のように、養殖システム200においては、飼育水Aを水槽10の下部から取水して、水槽10の上部に戻している。これは、水槽10の下部に存在し易い沈殿物が含まれた飼育水Aが取水され、この沈殿物やこれに含まれる懸濁物を、沈殿槽71やろ過器72、73を用いて懸濁物を除去することにより、光触媒装置30や膜ろ過装置60における分解能の低下が抑制され、水槽10内の飼育水Aの浄化を図ることができるので、閉鎖循環式養殖システムを確立することが可能となる。
【0059】
さらに、養殖システム100、200は、水槽10内にろ材81、82が配置され、ろ材81、82に高濃度に微生物が担持されてなる生物接触ろ過装置80を備えている。生物ろ過装置80は、ろ材81、82に好気性のアンモニア酸化細菌と亜硝酸酸化細菌を担持させている。これらの微生物により、飼育水A内のアンモニア態窒素を酸化して亜硝酸態窒素(亜硝酸イオン(NO2―)又は亜硝酸塩に含まれている窒素)に変化させ、さらに、亜硝酸態窒素を酸化して硝酸(NO3)に変化させる。そして、これらの変化を微生物の高濃度化により、迅速に(効率的に)行うことができる。
【0060】
生物ろ過装置80は、嫌気性脱窒細菌が担持させたろ材を、さらに備えるものであってもよい。この場合、ろ材81、82の水流との接触が少ない部分に同微生物を担持させることができる。これにより、硝酸を窒素ガス(N2)に変化させて、大気中に放出させることができる。
【0061】
なお、ろ材81、82とは、例えば、活性炭、多孔質セラミックス、合成繊維、ゼオライトなどからなる管状、球状、粒状、ハニカム状、ポーラス状などの形状の担体が充填されてなるものであり、その表面積の広さから、微生物を高濃度に担持できるものである。
【0062】
養殖システム100、200において、ろ材81、82は、水槽10の底部に配置されている。養殖システム100においては、ろ材81は、複数の区画に分割され配置されており、区画の間に隙間が設けられている。
【0063】
具体的には、図1に示すように、ろ材81は、水槽10の周方向に複数の区画に分割して配置されている。そして、ろ材81は、全体として円環筒状(ドーナツ状)に配置されている。ろ材81は、水槽10内に設置した多段ラック上に載置することなどにより配置される。なお、図示しないが、ろ材81を、水槽10の半経方向に複数の区画に分割して配置してもよい。また、図2に示すように、ろ材81は、水槽10の深さ方向に複数の区画に分割して配置されている。
【0064】
このように、ろ材81を複数の区画に分割して配置することにより、ろ材81が水流と接触する面積が増加するので、水流によって運ばれる飼育水Aに溶存する酸素が効率良くろ材81に担持される微生物に供給される。これにより、微生物、特に好気性細菌が良好に増殖するので、微生物によるアンモニア態窒素の分解能力の増大を図ることが可能となる。
【0065】
一方、養殖システム200においては、ろ材82は、水槽10の底部全体に渡って所定の高さとなるように配置されている。このように、水槽10の底部全体に渡って配置することにより、水槽10の水生生物が生育する空間を確保したうえで、多くのろ材82を配置することが可能となる。また、ろ材82の下層においては、酸素と接触が少なく嫌気性の脱窒細菌を担持させることができ、アンモニア態窒素の最終処理となる脱窒を促進することができる。
【0066】
さらに、図2に示すように、ろ材83を複数個に分けた状態で水槽10内に吊り下げるように配置してもよい。この場合も、ろ材83が水流と接触する面積が増加するので、アンモニア態窒素の分解能を向上することが可能となる。
【0067】
また、図示しないが、水槽10の側部にろ材が配置されていてもよい。この場合、例えば、水槽10の内周面全周に渡ってろ材を配置してもよく、水槽10の周方向や半径方向に区画して水槽10の内周面又は内周面と隙間を設けてろ材を配置してもよい。
【0068】
さらに、前述したナノバブル供給装置20からナノバブルをろ材81~83に向けて供給することが好ましい、これにより、ろ材81~83に担持されている微生物にナノバブル状態の酸素が供給され、微生物の増殖の向上を図ることが可能となる。
【0069】
上述したように、養殖システム100、200によれば、ナノバブル供給装置20から供給されたナノバブル状態の酸素は飼育水Aに溶解して拡散し易いので、飼育水Aに高濃度の酸素が溶存した高度な好気性環境を創出することができる。飼育水A中の好気性微生物を活性化させることにより、水生生物の排泄物や残餌の分解処理のみならず、アンモニア態窒素の分解処理を促進させることができる。また、光触媒装置30により飼育水Aを循環式に処理することにより、飼育水A中のアンモニア態窒素を亜硝酸態窒素あるいは窒素に分解することができる。これらの作用により、水生生物の生育阻害要因であるアンモニア態窒素の分解処理を効率よくかつ安定的に行うことができ、水生生物の生育の促進を図ることが可能となる。
【0070】
さらに、養殖システム100、200は、生物接触ろ過装置80によっても、飼育水A中のアンモニア態窒素を分解することが可能となる。これにより、水生生物の生育の促進をさらに図ることが可能となる。
【0071】
なお、生物接触ろ過装置80においては、微生物が十分に増殖して多量のアンモニア態窒素を浄化することが可能となるまでに数週間から数か月の期間を要する。しかし、この期間中も、ナノバブルの供給や光触媒装置30によりアンモニア態窒素を浄化することができる。そして、水生生物が生育に伴いアンモニア態窒素が増加しても、生物接触ろ過装置80により十分に浄化することが可能となる。
【0072】
さらに、ナノバブル供給装置20から供給されたナノバブルにより飼育水Aは高度な好気性環境となるので、微生物、特に好気性細菌の増殖を促進することができ、前記期間の短縮化を図ることも可能である。また、このナノバブルにより、残餌などからなる有機物の分解を図ることができ、アンモニア態窒素の発生を抑制することも可能となる。
【0073】
なお、本発明の循環式陸上養殖システムは、水槽10、ナノバブル供給装置20及び光触媒装置30にそれぞれ相当するものを備えていれば十分である。
【0074】
本発明は、上述した循環式陸上養殖システム100、200に限定されるものではなく、適宜変更することが可能である。例えば、循環式陸上養殖システム100、200の構成を部分的に適宜組み合わせたものであってもよい。また、生物接触ろ過装置80と同等又は類似した構成の生物接触ろ過槽を水槽10の外部に設置してもよい。さらに、オゾン処理装置、電界処理装置などの各種の物理処理装置や生物処理装置を追加的に備えるものであってもよい。また、本発明の循環式陸上養殖システムは、商業養殖用のシステムだけでなく、水族館などにおける水生生物の養殖を行うシステムにも適用することができる。
【符号の説明】
【0075】
10…水槽、 11…排出口、 12…取水口、 20…ナノバブル供給装置、 21…高濃度酸素供給装置、 30…光触媒装置、 31…ポンプ、 40…水流発生装置、 50…飼育水供給装置、 60…膜ろ過装置、 71…沈殿槽、貯水タンク、 72…ろ過器、フィルタ、 73…ろ過器、ストレーナ、 74、75…ポンプ、 80…生物接触ろ過装置、 81~83…ろ材、 90…切替弁、 A…飼育水、 100、200…循環式陸上養殖システム、養殖システム。
図1
図2
図3
図4