(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023118530
(43)【公開日】2023-08-25
(54)【発明の名称】ワーク加工用保護シートおよびワーク個片化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/301 20060101AFI20230818BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20230818BHJP
C09J 201/00 20060101ALI20230818BHJP
C09J 133/00 20060101ALI20230818BHJP
C09J 5/00 20060101ALI20230818BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20230818BHJP
H01L 21/683 20060101ALI20230818BHJP
【FI】
H01L21/78 M
C09J7/38
C09J201/00
C09J133/00
C09J5/00
H01L21/304 622J
H01L21/304 631
H01L21/78 Q
H01L21/68 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022021527
(22)【出願日】2022-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】大倉 大和
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 裕也
(72)【発明者】
【氏名】田村 和幸
【テーマコード(参考)】
4J004
4J040
5F057
5F063
5F131
【Fターム(参考)】
4J004AB01
4J004CA06
4J004CB03
4J004CC02
4J004CC03
4J040DF021
4J040EF282
4J040GA05
4J040GA07
4J040JA09
4J040JB07
4J040JB09
4J040KA13
4J040KA17
4J040LA02
4J040LA06
4J040PA00
4J040PA20
4J040PA42
5F057AA05
5F057AA21
5F057AA31
5F057BA11
5F057BA26
5F057BB03
5F057BB06
5F057BB07
5F057BB08
5F057BB09
5F057BB11
5F057CA14
5F057CA32
5F057CA36
5F057DA11
5F057EC06
5F057EC07
5F057EC08
5F057EC09
5F057EC16
5F057EC17
5F057EC18
5F057EC19
5F057FA28
5F057FA30
5F063AA05
5F063AA11
5F063AA16
5F063AA18
5F063BA07
5F063BA17
5F063BA20
5F063BA43
5F063BA44
5F063BA45
5F063BA48
5F063CB02
5F063CB03
5F063CB05
5F063CB06
5F063CB07
5F063CB08
5F063CB24
5F063DD25
5F063DD59
5F063DD64
5F063DD85
5F063DG04
5F063DG13
5F063DG32
5F063EE02
5F063EE05
5F063EE07
5F063EE08
5F063EE22
5F063EE23
5F063EE25
5F063EE27
5F063EE43
5F063EE44
5F063EE86
5F131AA02
5F131AA04
5F131BA32
5F131BA52
5F131BA53
5F131BA54
5F131CA09
5F131CA12
5F131EC33
5F131EC34
5F131EC53
5F131EC54
5F131EC55
5F131EC62
5F131EC64
5F131EC72
(57)【要約】
【課題】LDBGによりワークを研削して個片化されたワーク個片化物を得る場合であっても、研削後のワーク個片化物不良を低減できるワーク加工用保護シートを提供すること。
【解決手段】基材と、基材の一方の主面上に配置された粘着剤層と、を有するワーク加工用保護シートであって、55℃における粘着剤層のせん断貯蔵弾性率が40,000Pa以上、55℃における粘着剤層の1秒後のせん断応力緩和率が30%以上であり、23℃において、ワーク加工用保護シートに引っ張り荷重を印加し始めてから、引っ張り荷重が30N/15mmに到達した時のワーク加工用保護シートの伸度が2.5%以下であるワーク加工用保護シートである。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の一方の主面上に配置された粘着剤層と、を有するワーク加工用保護シートであって、
55℃における前記粘着剤層のせん断貯蔵弾性率が40,000Pa以上、55℃における前記粘着剤層の1秒後のせん断応力緩和率が30%以上であり、
23℃において、前記ワーク加工用保護シートに引っ張り荷重を印加し始めてから、引っ張り荷重が30N/15mmに到達した時の前記ワーク加工用保護シートの伸度が2.5%以下であるワーク加工用保護シート。
【請求項2】
前記基材の他方の主面上に緩衝層が配置されている請求項1に記載のワーク加工用保護シート。
【請求項3】
23℃における前記ワーク加工用保護シートの1分後の引張応力緩和率が40%未満である請求項1または2に記載のワーク加工用保護シート。
【請求項4】
前記粘着剤層は、エネルギー線硬化性のアクリル系粘着剤から構成され、
前記アクリル系粘着剤は、アクリル系重合体に、エネルギー線硬化性基が結合された重合体と、エネルギー線硬化性化合物と、を含む請求項1から3のいずれかに記載のワーク加工用保護シート。
【請求項5】
内部に改質領域が形成されたワークの裏面を研削することによりワークをワーク個片化物に個片化する工程において、ワークの表面に貼付されて使用される請求項1から4のいずれかに記載のワーク加工用保護シート。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載のワーク加工用保護シートを、ワークの表面に貼付する工程と、
前記ワークの表面もしくは裏面から前記ワーク内部に改質領域を形成する工程と、
前記ワーク加工用保護シートが表面に貼付され、かつ前記改質領域が形成されたワークを裏面側から研削して、前記改質領域を起点として複数のワーク個片化物に個片化させる工程と、
個片化が済んだワークから、前記ワーク加工用保護シートを剥離する工程と、を有するワーク個片化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワーク加工用保護シートおよびワーク個片化物の製造方法に関する。特に、ワークの裏面研削を行い、その応力等でワークを個片化する方法に好適に使用されるワーク加工用保護シート、および、当該ワーク加工用保護シートを用いるワーク個片化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種電子機器の小型化、多機能化が進む中、それらに搭載される半導体チップも同様に、小型化、薄型化が求められている。チップの薄型化のために、半導体ウエハの裏面を研削して厚さ調整を行うことが一般的である。また、薄型化されたチップを得るために、ウエハの表面側から所定深さの溝をダイシングブレードにより形成した後、ウエハ裏面側から研削を行い、研削によりウエハを個片化し、チップを得る先ダイシング法(DBG:Dicing Before Grinding)と呼ばれる工法を利用することもある。DBGでは、ウエハの裏面研削と、ウエハの個片化を同時に行うことができるので、薄型チップを効率よく製造できる。
【0003】
従来、半導体ウエハ等のワークの裏面研削時や、DBGによる半導体チップ等のワーク個片化物の製造時には、ワーク表面の回路を保護し、また、ワーク及びワーク個片化物を保持するために、ワーク表面にバックグラインドシートと呼ばれる粘着テープを貼付するのが一般的である。
【0004】
DBGにおいて使用するバックグラインドシートとしては、基材と、基材の一方の面に設けられた粘着剤層とを備える粘着テープが使用されている。このような粘着テープの一例として、特許文献1には、ヤング率の高い基材と、基材の一方の面に粘着剤層が設けられ、さらに他方の面に緩衝層が設けられた粘着テープが開示されている。
【0005】
近年、先ダイシング法の変形例として、レーザーでウエハ内部に改質領域を設け、ウエハ裏面研削時の応力等でウエハの個片化を行う方法が提案されている。以下、この方法をLDBG(Laser Dicing Before Grinding)と記載することがある。LDBGでは、ウエハは改質領域を起点として結晶方向に切断されるため、ダイシングブレードを用いた先ダイシング法よりもチッピングの発生を低減できる。また、ダイシングブレードによりウエハ表面に所定深さの溝を形成するDBGと比較して、ダイシングブレードによりウエハを削り取る領域がないため、つまり、カーフ幅が極小であるため、チップの収率に優れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の粘着テープを用いて、LDBGにより、ウエハ等のワークの個片化を行うと、チップ等のワーク個片化物に印加されるせん断力により、ワーク個片化物が僅かに動いてしまい、ワーク個片化物同士の接触が発生するという問題があった。その結果、ワーク個片化物にクラック(意図しないひび)が生じてしまう。クラックが生じ易いことは、上述したように、カーフ幅が極小であることにも起因している。特に、ワーク個片化物に生じたクラックが大きい場合、ワーク個片化物不良に直結し、ワーク個片化物の収率に多大な影響を与える。
【0008】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、LDBGによりワークを研削して個片化されたワーク個片化物を得る場合であっても、研削後のワーク個片化物不良を低減できるワーク加工用保護シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の態様は、以下の通りである。
【0010】
[1]基材と、基材の一方の主面上に配置された粘着剤層と、を有するワーク加工用保護シートであって、
55℃における粘着剤層のせん断貯蔵弾性率が40,000Pa以上、55℃における粘着剤層の1秒後のせん断応力緩和率が30%以上であり、
23℃において、ワーク加工用保護シートに引っ張り荷重を印加し始めてから、引っ張り荷重が30N/15mmに到達した時のワーク加工用保護シートの伸度が2.5%以下であるワーク加工用保護シートである。
【0011】
[2]基材の他方の主面上に緩衝層が配置されている[1]に記載のワーク加工用保護シートである。
【0012】
[3]23℃におけるワーク加工用保護シートの1分後の引張応力緩和率が40%未満である[1]または[2]に記載のワーク加工用保護シートである。
【0013】
[4]粘着剤層は、エネルギー線硬化性のアクリル系粘着剤から構成され、
アクリル系粘着剤は、アクリル系重合体に、エネルギー線硬化性基が結合された重合体と、エネルギー線硬化性化合物と、を含む[1]から[3]のいずれかに記載のワーク加工用保護シートである。
【0014】
[5]内部に改質領域が形成されたワークの裏面を研削することによりワークをワーク個片化物に個片化する工程において、ワークの表面に貼付されて使用される[1]から[4]のいずれかに記載のワーク加工用保護シートである。
【0015】
[6][1]から[5]のいずれかに記載のワーク加工用保護シートを、ワークの表面に貼付する工程と、
ワークの表面もしくは裏面からワーク内部に改質領域を形成する工程と、
ワーク加工用保護シートが表面に貼付され、かつ改質領域が形成されたワークを裏面側から研削して、改質領域を起点として複数のワーク個片化物に個片化させる工程と、
個片化が済んだワークから、ワーク加工用保護シートを剥離する工程と、を有するワーク個片化物の製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、LDBGによりワークを研削して個片化されたワーク個片化物を得る場合であっても、研削後のワーク個片化物不良を低減できるワーク加工用保護シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1A】
図1Aは、本実施形態に係るワーク加工用保護シートの一例を示す断面模式図である。
【
図1B】
図1Bは、本実施形態に係るワーク加工用保護シートの他の例を示す断面模式図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係るワーク加工用保護シートがワークの表面に貼付された様子を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を、具体的な実施形態に基づき、図面を用いて詳細に説明する。まず、本明細書で使用する主な用語を説明する。
【0019】
ワークとは本実施形態に係るワーク加工用保護シートが貼付されて、その後、個片化される板状体を言う。ワークとしては、円形(ただし、オリエンテーションフラットを有する場合を含む)のウエハ、角形のパネルレベルパッケージおよびモールド樹脂封止を施したストリップ(短冊形基板)等が挙げられ、その中でも本発明の効果が得られ易い観点から、ウエハが好ましい。ウエハとしては、例えばシリコンウエハ、ガリウム砒素ウエハ、炭化ケイ素ウエハ、窒化ガリウムウエハ、インジウム燐ウエハなどの半導体ウエハや、ガラスウエハ、タンタル酸リチウムウエハ、ニオブ酸リチウムウエハなどの絶縁体ウエハであってもよく、また、ファンアウトパッケージ等の作製に用いる樹脂と半導体から成る再構成ウエハであってもよい。本発明の効果が得られ易い観点から、ウエハとしては、半導体ウエハまたは絶縁体ウエハが好ましく、半導体ウエハがより好ましい。
【0020】
ワークの個片化は、ワークを回路毎に分割し、ワーク個片化物を得ることを言う。例えば、ワークがウエハである場合には、ワーク個片化物はチップであり、ワークがパネルレベルパッケージまたはモールド樹脂封止を施したストリップ(短冊形基板)である場合には、ワーク個片化物は半導体パッケージである。
【0021】
ワークの「表面」は、回路、電極等が形成された面を指し、ワークの「裏面」は、回路等が形成されていない面を指す。電極としては、バンプ等の凸状電極であってもよい。
【0022】
DBGとは、ワークの表面側に所定深さの溝を形成した後、ワーク裏面側から研削を行い、研削によりワークを個片化する方法を言う。ワークの表面側に形成される溝は、ブレードダイシング、レーザーダイシング、プラズマダイシングなどの方法により形成される。
【0023】
また、LDBGとは、DBGの変形例であり、レーザーでワーク(例えばウエハ)内部に脆弱な改質領域を設け、ワーク裏面研削時の応力等により、改質領域を起点とする亀裂を進展させてワークの個片化を行う方法を言う。
【0024】
「ワーク個片化物群」とは、ワークの個片化後に、本発明に係るワーク加工用保護シート上に保持された、複数のワーク個片化物をいう。これらのワーク個片化物は、全体として、ワークの形状と同様の形状を構成する。また、「チップ群」とは、ワークとしてのウエハの個片化後に、本発明に係るワーク加工用保護シート上に保持された、複数のチップをいう。これらのチップは、全体として、ウエハの形状と同様の形状を構成する。
【0025】
「(メタ)アクリレート」は、「アクリレート」および「メタクリレート」の双方を示す語として用いており、他の類似用語についても同様である。
【0026】
「エネルギー線」は、紫外線、電子線等を指し、好ましくは紫外線である。
【0027】
「重量平均分子量」は、特に断りのない限り、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)法により測定されるポリスチレン換算値である。このような方法による測定は、たとえば、東ソー社製の高速GPC装置「HLC-8120GPC」に、高速カラム「TSK guard column HXL-H」、「TSK Gel GMHXL」、「TSK Gel G2000 HXL」(以上、全て東ソー社製)をこの順序で連結したものを用い、カラム温度:40℃、送液速度:1.0mL/分の条件で、検出器を示差屈折率計として行われる。
【0028】
剥離シートは、粘着剤層を剥離可能に支持するシートである。シートとは、厚みを限定するものではなく、フィルムを含む概念で用いる。
【0029】
粘着剤層用組成物等の組成物に関する説明における質量比は、有効成分(固形分)に基づいており、特段の説明が無い限り、溶媒は算入しない。
【0030】
(1.ワーク加工用保護シート)
本実施形態に係るワーク加工用保護シート1は、
図1Aに示すように、基材10と、基材10上に配置された粘着剤層20と、を有している。
【0031】
本実施形態では、
図2に示すように、ワーク加工用保護シート1は、ワーク100(例えばウエハ)の表面100aに粘着剤層の主面20aが貼付されて使用される。ワーク100の表面100aは回路、電極等を有する面である。回路を有する面は、回路が露出している面であってもよいし、回路を保護するために回路上に形成されている保護層の主面であってもよい。また、回路上には、バンプ等の凸状電極が形成されていてもよい。
【0032】
本実施形態では、ワーク加工用保護シートが貼付されたワークは、裏面研削後に複数のワーク個片化物に個片化される。ワークを個片化する方法としては、DBGを採用してもよいが、本実施形態に係るワーク加工用保護シート1は、LDBGによるワークの個片化に好適に用いられる。
【0033】
具体的には、ワークの内部に改質領域が形成された後に、ワーク加工用保護シート1が表面100aに貼付されたワーク100は、表面100aとは反対側の主面である裏面100bが研削される。
【0034】
研削が進行すると、ワークが薄くなっていくことと同時に、ワークの内部に形成された改質領域に印加されたせん断力および圧力により、改質領域に亀裂が生じてワーク両面まで進展する。その結果、ワークが個片化される。LDBGによる個片化では、ワークから削り取られる領域がほぼないので、ワーク個片化物(ワーク個片化物群)において、ワーク個片化物と隣り合うワーク個片化物との間隔(カーフ幅)は非常に小さい。
【0035】
また、ワークが個片化されるタイミングは同時ではなく、ワークの一部が個片化され始めてから、ワーク全体が個片化されるまで研削は進行する。したがって、ワーク個片化物にも、研削ホイールによるせん断力が印加され続ける。平滑ではない研削ホイール表面が絶えず回転しながらワーク個片化物群に接触しているため、すべてのワーク個片化物に同時に同じせん断力が印加されてはおらず、ワーク個片化物に印加されるせん断力はワーク個片化物ごとに異なる。そのため、ワーク平面(すなわち、ワーク個片化物群の平面)と平行方向において、個々のワーク個片化物の移動がばらばらに生じ、かつカーフ幅が小さいので、ワーク個片化物同士が接触することがある。このような接触が生じると、ワーク個片化物にクラックが生じやすくなる。特に、ワーク個片化物不良につながる大きなクラックがワーク個片化物に生じやすくなる。このような大きなクラックが発生すると、ワーク個片化物の収率が低下してしまうという問題が生じる。ワークおよびワーク個片化物群の研削後の厚みが20μm未満の薄い場合、20μm以上の場合よりもワーク個片化物が脆弱となるため、大きなクラックがより発生し易い。
【0036】
このような問題に対して、研削時のワーク個片化物の移動を抑制するために、硬いワーク加工用保護シートによりワーク個片化物を固く保持することが考えられる。しかしながら、硬いだけではせん断力等に対抗できず、逆に、せん断力等に起因するせん断応力が作用して、ワーク個片化物同士が衝突しやすくなり、ワーク個片化物のクラックが増えてしまう。そこで、たとえば、基材および粘着剤層に加えて、応力緩和性の高い層を配置してせん断応力を解消することが行われている。しかしながら、このような層によるせん断応力の解消は不十分という問題が顕在化した。
【0037】
このような問題に対して、本発明者は、ワークに最も近く、接している粘着材層に応力緩和性を付与することを想到した。粘着剤層はワークとワーク加工用保護シートとを密着させることが最も重要な機能であり、このような粘着剤層に応力緩和性を付与するという発想は存在しなかった。
【0038】
本発明者は、粘着剤層本来の機能を維持しつつ、粘着剤層に後述する応力緩和性を付与することにより、ワーク個片化物不良につながる大きなクラックの発生を抑制できることを見出した。
【0039】
以下では、
図1Aに示すワーク加工用保護シート1の構成要素について詳細に説明する。
【0040】
(2.基材)
基材は、ワーク加工用保護シートの剛性を担う部材である。基材としては、ワークを支持できる材料で構成されていれば制限されない。たとえば、バックグラインドテープの基材として使用されている各種の樹脂フィルムが例示される。このような樹脂フィルムを用いることにより、研削によりワークの厚みが薄くなっても破損することなくワークを保持できる。基材は、1つの樹脂フィルムからなる単層フィルムから構成されていてもよいし、複数の樹脂フィルムが積層された複層フィルムから構成されていてもよい。
【0041】
(2.1 基材の材質)
本実施形態では、基材の材質としては、たとえば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、全芳香族ポリエステル等のポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、変性ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、二軸延伸ポリプロピレン等が挙げられる。これらの中でも、ポリエステルが好ましく、ポリエチレンテレフタレートがより好ましい。
【0042】
基材の厚さは、ワーク加工用保護シートの剛性に影響するため、基材の材質に応じて設定すればよい。たとえば、ワーク加工用保護シートの物性が後述する範囲内となるように基材の厚さを設定すればよい。本実施形態では、基材の厚さは25μm以上200μm以下であることが好ましく、35μm以上150μm以下であることがより好ましく、40μm以上150μm以下であることがさらに好ましい。
【0043】
基材の少なくとも一方の主面には、主面上に形成される層との密着性を向上させるために、コロナ処理等の接着処理を施してもよい。また、基材の少なくとも一方の主面には、主面上に形成される層との密着性を向上させるために、易接着層が形成されていてもよい。
【0044】
(3.粘着剤層)
粘着剤層は、ワークにおける表面(すなわち、回路、電極等が形成された面)に貼付される。粘着剤層は、当該表面から剥離されるまで表面を保護し、ワークを支持する役割を有する。
【0045】
粘着剤層は1層(単層)から構成されていてもよいし、2層以上の複数層から構成されていてもよい。粘着剤層が複数層を有する場合、これら複数層は、互いに同一でも異なっていてもよく、これら複数層を構成する層の組み合わせは特に制限されない。
【0046】
本実施形態では、粘着剤層が下記の物性を有していることにより、個片化されたワーク個片化物同士の衝突が緩和される。その結果、ワーク個片化物同士の衝突に起因するワーク個片化物のクラック、特に、大きなクラックの発生を抑制することができる。
【0047】
(3.1.粘着剤層のせん断貯蔵弾性率)
本実施形態では、55℃における粘着剤層のせん断貯蔵弾性率(G’)が40,000Pa以上である。ワークの裏面研削時には、研削面において熱が発生し、その熱は粘着剤層にも伝播する。その結果、粘着剤層の温度はたとえば50から60℃程度まで上昇する。55℃における粘着剤層のせん断貯蔵弾性率が上記の範囲内であることにより、ワークの裏面研削時においても粘着剤層は比較的に硬く維持されている。したがって、裏面研削時にワークに印加されるせん断力等が粘着剤層に伝わっても、粘着剤層の変形が抑制される。その結果、粘着剤層に保持されているワーク個片化物群の移動量が少なくなり、ワーク個片化物同士の衝突が抑制される。
【0048】
55℃における粘着剤層のせん断貯蔵弾性率は、45,000Pa以上であることが好ましく、50,000Pa以上であることがより好ましく、55,000Pa以上であることがさらに好ましい。
【0049】
粘着剤層のせん断貯蔵弾性率の数値範囲と、後述する粘着剤層のせん断応力緩和率の数値範囲とを両立して達成し易い観点から、55℃における粘着剤層のせん断貯蔵弾性率は、200,000Pa以下であることが好ましく、150,000Pa以下であることがより好ましく、100,000Pa以下であることがさらに好ましい。
【0050】
55℃における粘着剤層のせん断貯蔵弾性率は以下のようにして測定することができる。まず、粘着剤層を構成する材料を所定の大きさの測定用試料とする。動的粘弾性測定装置により、所定の温度範囲内において、所定の周波数で測定用試料を捻って測定用試料にせん断ひずみを与えて、測定用試料の弾性率を測定する。測定された弾性率から55℃における粘着剤層のせん断貯蔵弾性率を算出する。測定の詳細は実施例において説明する。
【0051】
(3.2.粘着剤層のせん断応力緩和率)
本実施形態では、55℃における粘着剤層の1秒後のせん断応力緩和率が30%以上である。ワークの研削が進行し、ワークが複数のワーク個片化物に個片化され始め、個片化前の繋がった状態、および個片化後のワーク個片化物が混在するタイミングにおいて、研削ホイールによって個々のワーク個片化物に印加されるせん断力に不均一さが生じることがある。上記のように、粘着剤層のせん断貯蔵弾性率が高いことによって、せん断力等による粘着剤層の変形は比較的抑制されているものの、印加されるせん断力が不均一になったワーク個片化物のうち、一時的にせん断力が高い領域に位置するワーク個片化物は、粘着剤層が変形することがある。55℃における粘着剤層のせん断応力緩和率を上記の範囲内に制御していない場合、一時的な高いせん断力が印加されなくなった時に、変形していない通常の状態に復帰するまでに要する時間が短く、隣接するワーク個片化物同士でより強い衝突が生じ易くなる。しかしながら、55℃における粘着剤層のせん断応力緩和率を上記の範囲内に制御することにより、一時的な高いせん断力で粘着剤層が変形した場合であっても、せん断応力が短時間で緩和されることにより、一時的な高いせん断力が印加されなくなった時に、変形していない通常の状態に復帰するまでに要する時間が長くすることができる。したがって、粘着剤層に保持されているワーク個片化物群の加速が抑制され、ワーク個片化物同士の比較的強い衝突が抑制される。
【0052】
55℃における粘着剤層のせん断応力緩和率は、35%以上であることが好ましく、38%以上であることがより好ましい。
【0053】
55℃における粘着剤層のせん断応力緩和率の上限値は、本発明の効果が得られる範囲内において特に制限されない。本実施形態では、55℃における粘着剤層のせん断応力緩和率の上限値は、粘着剤層の他物性との両立の観点から、65%が好ましく、60%がより好ましい。
【0054】
本実施形態では、粘着剤層のせん断応力緩和率は以下のようにして測定することができる。粘着剤層を構成する材料を所定の大きさの測定用試料とする。動的粘弾性測定装置により、温度が55℃である測定用試料を捻って測定用試料にせん断ひずみを与える。本実施形態では、せん断応力を短時間で緩和することを考慮して、ひずみを与えた直後のせん断応力とひずみを与え始めてから1秒後のせん断応力とから、せん断応力緩和率を算出する。測定の詳細は実施例において説明する。
【0055】
(3.3.粘着剤層の組成)
粘着剤層は、上述した物性を満足する粘着剤で構成されていれば特に制限されない。本実施形態では、粘着剤層は、エネルギー線硬化性粘着剤から形成されることが好ましい。ワーク加工用保護シートの粘着剤層がエネルギー線硬化性粘着剤から形成されることにより、ワークに貼付する際には高い粘着力でワークに貼り付き、ワークから剥離される際には、エネルギー線を照射することで粘着力を低下させることができる。そのため、ワークの回路等を適切に保護しつつ、ワーク加工用保護シートを剥離する際、ワーク表面の回路、電極等の破壊、ワーク上への粘着剤の付着が防止される。
【0056】
エネルギー線硬化性粘着剤を構成する粘着剤層用組成物としては、例えば、非エネルギー線硬化性の粘着性樹脂(「粘着性樹脂I」ともいう)を主成分として含み、粘着性樹脂以外のエネルギー線硬化性化合物を含むエネルギー線硬化性粘着剤層用組成物(以下、「X型の粘着剤層用組成物」ともいう)が使用可能である。
【0057】
また、エネルギー線硬化性粘着剤を構成する粘着剤層用組成物として、非エネルギー線硬化性の粘着性樹脂の側鎖に不飽和基を導入したエネルギー線硬化性の粘着性樹脂(以下、「粘着性樹脂II」ともいう)を主成分として含み、粘着性樹脂以外のエネルギー線硬化性化合物を含まないエネルギー線硬化性粘着剤層用組成物(以下、「Y型の粘着剤層用組成物」ともいう)も使用してもよい。
【0058】
さらに、エネルギー線硬化性粘着剤を構成する粘着剤層用組成物としては、X型とY型の併用型、すなわち、エネルギー線硬化性の粘着性樹脂IIを主成分として含み、粘着性樹脂以外のエネルギー線硬化性化合物も含むエネルギー線硬化性粘着剤層用組成物(以下、「XY型の粘着剤層用組成物」ともいう)を使用してもよい。
【0059】
ただし、粘着剤層は、エネルギー線を照射しても硬化しない非エネルギー線硬化性粘着剤から形成してもよい。非エネルギー線硬化性粘着剤を構成する粘着剤層用組成物は、少なくとも非エネルギー線硬化性の粘着性樹脂Iを含有する一方、上記したエネルギー線硬化性の粘着性樹脂II及びエネルギー線硬化性化合物を含有しないものである。
【0060】
本実施形態では、上述した粘着剤層の物性を達成するために、エネルギー線硬化性粘着剤として、XY型の粘着剤層用組成物を使用することが好ましい。XY型のものを使用することで、粘着性樹脂IIの重合構造に、流動性のあるエネルギー線硬化性化合物が含まれることになり、せん断貯蔵弾性率に影響が出ない範囲で応力緩和性を制御することがより容易となる。さらに、エネルギー線硬化前においては十分な粘着特性を有する一方で、エネルギー線硬化後においては、ワークに対する剥離強度を十分に低くすることがより容易となる。
【0061】
なお、以下の説明において「粘着性樹脂」は、上記した粘着性樹脂I及び粘着性樹脂IIの一方又は両方を指す用語として使用する。具体的な粘着性樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ゴム系樹脂、シリコーン系樹脂等が例示される。本実施形態では、粘着剤層のせん断貯蔵弾性率およびせん断応力緩和率を上述の範囲に制御し易い観点、およびコスト低減の観点から、アクリル系粘着剤が好ましい。
【0062】
以下、粘着性樹脂として、アクリル系樹脂が使用されるアクリル系粘着剤についてより詳述に説明する。
【0063】
(3.3.1.アクリル系重合体)
アクリル系樹脂には、アクリル系重合体が使用される。アクリル系重合体は、少なくともアルキル(メタ)アクリレートを含むモノマーを重合して得たものであり、アルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位を含む。アルキル(メタ)アクリレートとしては、アルキル基の炭素数が1~20のものが挙げられ、アルキル基は直鎖であってもよいし、分岐であってもよい。アルキル(メタ)アクリレートの具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。アルキル(メタ)アクリレートは、単独で又は2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0064】
また、アクリル系重合体は、粘着剤層の粘着力を向上させる観点、および、粘着剤層のせん断応力緩和率を上述の範囲に制御し易い観点から、アルキル基の炭素数が4以上であるアルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位を含むことが好ましい。該アルキル(メタ)アクリレートの炭素数としては、好ましくは4~12、さらに好ましくは4~6である。また、アルキル基の炭素数が4以上であるアルキル(メタ)アクリレートは、アルキルアクリレートであることが好ましい。このようなアルキルアクリレートとしては、n-ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、ドデシルアクリレート等が例示される。
【0065】
アクリル系重合体において、アルキル基の炭素数が4以上であるアルキル(メタ)アクリレートの含有量、アクリル系重合体を構成するモノマー全量(以下単に“モノマー全量”ともいう)100質量部に対して、好ましくは40~98質量部、より好ましくは45~95質量部、さらに好ましくは50~90質量部である。
【0066】
アクリル系重合体は、アルキル基の炭素数が4以上であるアルキル(メタ)アクレート由来の構成単位に加えて、粘着剤層の糊残りの低減の観点、粘着力の増加の観点、および、粘着剤層のせん断貯蔵弾性率およびせん断応力緩和率を上述の範囲に制御し易い観点から、重合してホモポリマーを成した時にガラス転移温度(Tg)の比較的高いポリマーとなるモノマー由来の構成単位を含む共重合体であることが好ましい。具体的には、重合してホモポリマーを成した時にガラス転移温度が50℃以上であるモノマーが好ましく、ガラス転移温度が70℃以上であるモノマーがより好ましく、ガラス転移温度が90℃以上150℃以下であるモノマーがさらに好ましい。ホモポリマーのTgは、高分子データ・ハンドブック、粘着ハンドブック又はPolymer Handbook等に記載されている値を使用できる。
【0067】
このようなモノマーとしては、ジメチルアクリルアミド、メチルメタクリレート、アクリロイルモルフォリン等が例示される。これらの中では、ジメチルアクリルアミド、メチルメタクリレートが好ましく、ジメチルアクリルアミドがより好ましい。
【0068】
アクリル系重合体において、ホモポリマーを形成した時にガラス転移温度が50℃以上であるモノマーの含有量は、モノマー全量100質量部に対して、好ましくは2~40質量部、より好ましくは5~30質量部、さらに好ましくは8~25質量部である。
【0069】
アクリル系重合体は、上記した構成単位に加えて、官能基含有モノマー由来の構成単位を有することが好ましい。官能基含有モノマーの官能基としては、水酸基、カルボキシ基、アミノ基、エポキシ基等が挙げられる。官能基含有モノマーは、後述の架橋剤と反応し、架橋起点となったり、後述の不飽和基含有物質と反応して、アクリル系重合体の側鎖に不飽和基を導入させたりすることが可能である。
【0070】
官能基含有モノマーとしては、水酸基含有モノマー、カルボキシ基含有モノマー、アミノ基含有モノマー、エポキシ基含有モノマー等が挙げられ、これらは、単独で又は2種以上組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、水酸基含有モノマーおよびカルボキシ基含有モノマーを用いることが好ましく、水酸基含有モノマーを用いることがより好ましい。
【0071】
水酸基含有モノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタアクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;ビニルアルコール、アリルアルコール等の不飽和アルコール等が挙げられる。
【0072】
カルボキシ基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸;フマル酸、イタコン酸、マレイン酸、シトラコン酸等のエチレン性不飽和ジカルボン酸及びその無水物、2-カルボキシエチルメタクリレート等が挙げられる。
【0073】
官能基含有モノマーの含有量は、アクリル系重合体を構成するモノマー全量100質量部に対して、好ましくは1~35質量部、より好ましくは3~32質量部、さらに好ましくは6~30質量部である。
【0074】
また、アクリル系重合体は、上記以外にも、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、アクリロニトリル等の上記のアクリル系モノマーと共重合可能なモノマー由来の構成単位を含んでもよい。
【0075】
上記アクリル系重合体は、非エネルギー線硬化性の粘着性樹脂Iとして使用することができる。また、エネルギー線硬化性の粘着性樹脂IIとしては、上記非エネルギー線硬化性のアクリル系重合体の官能基に、エネルギー線硬化性基を有する物質(不飽和基含有物質ともいう)を反応させて結合させたものが挙げられる。
【0076】
不飽和基含有物質は、アクリル系重合体の官能基と結合可能な置換基、及びエネルギー線硬化性基の双方を有する物質である。エネルギー線硬化性基としては、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基、ビニルベンジル基等が挙げられ、(メタ)アクリロイル基が好ましい。また、不飽和基含有物質が有する、アクリル系重合体の官能基と結合可能な置換基としては、イソシアネート基やグリシジル基等が挙げられる。したがって、不飽和基含有物質としては、例えば、(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、(メタ)アクリロイルイソシアネート、グリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0077】
また、不飽和基含有物質は、アクリル系重合体の官能基の一部に反応することが好ましく、具体的には、アクリル系重合体が有する官能基の50~98モル%に、不飽和基含有物質を反応させることが好ましく、55~93モル%反応させることがより好ましい。このように、エネルギー線硬化性アクリル系樹脂において、官能基の一部が不飽和基含有物質と反応せずに残存することで、架橋剤によって架橋されやすくなる。なお、アクリル系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは30万~160万、より好ましくは40万~140万、さらに好ましくは50万~120万である。
【0078】
(3.3.2.エネルギー線硬化性化合物)
X型又はXY型の粘着剤層用組成物に含有されるエネルギー線硬化性化合物としては、分子内に不飽和基を有し、エネルギー線照射により重合硬化可能なモノマー又はオリゴマーが好ましい。このようなエネルギー線硬化性化合物としては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトール(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,4-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-へキサンジオール(メタ)アクリレート等の多価(メタ)アクリレートモノマー、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート,ポリエーテル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート等のオリゴマーが挙げられる。
【0079】
これらの中でも、比較的分子量が高く、粘着剤層のせん断貯蔵弾性率を低下させにくい観点から、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーが好ましい。エネルギー線硬化性化合物の分子量(オリゴマーの場合は重量平均分子量)は、好ましくは100~12000、より好ましくは200~10000、さらに好ましくは400~8000、特に好ましくは600~6000である。
【0080】
X型の粘着剤層用組成物におけるエネルギー線硬化性化合物の含有量は、粘着性樹脂100質量部に対して、好ましくは40~200質量部、より好ましくは50~150質量部、さらに好ましくは60~90質量部である。
【0081】
一方、XY型の粘着剤層用組成物におけるエネルギー線硬化性化合物の含有量は、粘着性樹脂100質量部に対して、好ましくは4~90質量部、より好ましくは7~50質量部、さらに好ましくは9~25質量部である。エネルギー線硬化性化合物の含有量を上記の範囲内とすることにより、粘着剤層のせん断応力緩和率を制御することがより容易となる。また、XY型の粘着剤層用組成物では、粘着性樹脂が、エネルギー線硬化性であるため、エネルギー線硬化性化合物の含有量が少なくても、エネルギー線照射後、十分に剥離強度を低下させることが可能である。
【0082】
(3.3.3.架橋剤)
粘着剤層用組成物は、粘着剤層のせん断貯蔵弾性率をより上昇させやすい観点から、さらに架橋剤を含有することが好ましい。架橋剤は、たとえば、粘着性樹脂が有する官能基と反応して、樹脂同士を架橋する。
【0083】
架橋剤としては、たとえば、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、これらジイソシアネートのアダクト体等のイソシアネート系架橋剤(イソシアネート基を有する架橋剤);エチレングリコールグリシジルエーテル等のエポキシ系架橋剤(グリシジル基を有する架橋剤);ヘキサ[1-(2-メチル)-アジリジニル]トリフオスファトリアジン等のアジリジン系架橋剤(アジリジニル基を有する架橋剤);アルミニウムキレート等の金属キレート系架橋剤(金属キレート構造を有する架橋剤);イソシアヌレート系架橋剤(イソシアヌル酸骨格を有する架橋剤)等が挙げられる。これらの架橋剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0084】
粘着剤の凝集力を向上させて、粘着剤層をワーク個片化物からの剥離する時の糊残り低減の観点、粘着剤層のせん断貯蔵弾性率を上昇させて上述の範囲に制御し易い観点、および入手の容易性の観点から、架橋剤はイソシアネート系架橋剤であることが好ましい。
【0085】
架橋剤の配合量は、架橋反応を促進させる観点から、粘着性樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01~10質量部、より好ましくは0.03~7質量部、さらに好ましくは0.05~4質量部である。
【0086】
(3.3.4.光重合開始剤)
粘着剤層用組成物がエネルギー線硬化性である場合には、粘着剤層用組成物は、さらに光重合開始剤を含有することが好ましい。粘着剤層用組成物が光重合開始剤を含有することにより、紫外線等の比較的低エネルギーのエネルギー線を照射しても、十分に硬化反応が進行する。
【0087】
光重合開始剤としては、ベンゾイン化合物、アセトフェノン化合物、アシルフォスフィンオキサイド化合物、チタノセン化合物、チオキサントン化合物、パーオキサイド化合物等の光開始剤、アミンやキノン等の光増感剤などが挙げられる。具体的には、α-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンジルジフェニルサルファイド、ベンジルジメチルケタール、テトラメチルチウラムモノサルファイド、アゾビスイソブチロニトリル、ジベンジル、ジアセチル、β-クロールアンスラキノン、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイドなどが例示される。これらの光重合開始剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0088】
光重合開始剤の配合量は、粘着性樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01~10質量部、より好ましくは0.03~5質量部、さらに好ましくは0.05~5質量部である。
【0089】
(3.3.5.その他の添加剤)
粘着剤層用組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、その他の添加剤を含有してもよい。その他の添加剤としては、例えば、帯電防止剤、酸化防止剤、軟化剤(可塑剤)、充填剤、防錆剤、顔料、染料等が挙げられる。これらの添加剤を配合する場合、添加剤の配合量は、粘着性樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01~6質量部である。
【0090】
(3.4.粘着剤層のガラス転移温度)
本実施形態では、粘着剤層のガラス転移温度(Tg)は、-50℃以上30℃以下であることが好ましい。上述したように、裏面研削時には、研削熱によりワーク(個片化済みのワーク個片化物群である場合を含む)が50~60℃程度まで加熱される。加熱はワーク全面で同一の昇温速度では成されず、研削の進行に応じて、ワーク研削面内に温度の不均一さが生じることがある。この加熱に伴い、ワークに直接接している粘着剤層も同程度の温度まで加熱される。一方、粘着剤層が粘着性樹脂で構成される場合、粘着性樹脂の物性は、粘着性樹脂のガラス転移温度近傍で大きく変化しやすい。
【0091】
たとえば、粘着剤層のガラス転移温度が上記の範囲よりも大きい場合、裏面研削の進行に応じて粘着剤層の物性が変化し易く、特に、上述のように、ワークの温度が面内で不均一になると、粘着剤層の物性も面内で不均一となり易い。それに伴い、ワーク個片化物のクラックがより発生しやすい傾向にある。したがって、裏面研削時に粘着剤層の物性が大きく変化しないように、粘着剤層のガラス転移温度は、裏面研削時に粘着剤層が加熱される温度(50~60℃)から離れていることが好ましい。
【0092】
ところで、上述したように、本実施形態では、粘着剤層の糊残りの低減および粘着力の増加等を目的として、粘着剤層用組成物は、ホモポリマーのガラス転移温度が高いモノマーを含むことが好ましい。そこで、粘着剤層用組成物がホモポリマーのガラス転移温度が高いモノマーを含む場合であっても、粘着剤層のガラス転移温度を上記の範囲内に制御することが好ましい。
【0093】
粘着剤層のガラス転移温度は、-40℃以上であることがより好ましく、-30℃以上であることがさらに好ましく、-20℃以上であることがさらに好ましく、-10℃以上であることが特に好ましい。一方、粘着剤層のガラス転移温度は、20℃以下であることがより好ましく、10℃以下であることがさらに好ましく、0℃未満であることが特に好ましい。
【0094】
粘着剤層のガラス転移温度は以下のようにして測定することができる。まず、粘着剤層を構成する材料を所定の大きさの測定用試料とする。動的粘弾性測定装置により、所定の温度範囲内において、所定の周波数で測定用試料を捻って測定用試料にせん断ひずみを与えて、測定用試料の貯蔵弾性率および損失弾性率を測定して、各温度における損失正接(tanδ)を算出する。測定された損失正接のピーク温度を、粘着剤層のガラス転移温度(Tg)とする。測定の詳細は実施例において説明する。
【0095】
本実施形態では、粘着剤層の厚さは、50μm未満であることが好ましく、45μm以下であることがより好ましく、40μm以下であることがさらに好ましい。粘着剤層の厚さが上記の範囲内であることにより、研削時に印加されるワークまたはワーク個片化物群への圧力に起因するワーク個片化物の微小な動きを抑制することができる。その結果、ワーク個片化物同士が接触する確率が低くなり、クラック発生率をより抑制することができる。
【0096】
一方、ワークに形成された回路、電極等を粘着剤層に埋め込む観点から、粘着剤層の厚さは10μm以上であることが好ましい。
【0097】
なお、粘着剤層の厚さは、粘着剤層全体の厚さを意味する。たとえば、複数層から構成される粘着剤層の厚さは、粘着剤層を構成するすべての層の合計の厚さを意味する。
【0098】
(4.ワーク加工用保護シートの物性)
本実施形態では、上記の粘着剤層の物性に加えて、ワーク加工用保護シートとしての物性が以下のように制御されている。
【0099】
(4.1.ワーク加工用保護シートの伸度)
本実施形態では、23℃におけるワーク加工用保護シートの伸度は2.5%以下である。この伸度は、ワーク加工用保護シートの両端を引張り始めてから、引張荷重が最初に30N/15mmに到達した時の伸度である。
【0100】
このパラメータは、ワーク加工用保護シートに張力を印加しながらワークに貼付する状況を想定している。ワーク加工用保護シートがワークに貼付される雰囲気は、通常、室温であるため、23℃におけるワーク加工用保護シートの伸度をパラメータとして規定している。
【0101】
23℃におけるワーク加工用保護シートの伸度が上記の範囲内であることにより、ワーク加工用保護シートの貼付時に加わる張力に起因する引張応力により発生する裏面研削時のワーク加工用保護シートの変形を抑制することができる。その結果、ワーク加工用保護シートの変形に起因するワーク個片化物のシフトを抑制することができる。
【0102】
23℃におけるワーク加工用保護シートの伸度は、2.1%以下であることが好ましく、1.8%以下であることがより好ましく、1.5%以下であることがさらに好ましい。
【0103】
23℃におけるワーク加工用保護シートの伸度は引張試験機を用いて測定することができる。測定の詳細は実施例において説明する。
【0104】
(4.2.ワーク加工用保護シートの引張応力緩和率)
本実施形態では、23℃におけるワーク加工用保護シートの引張応力緩和率は40%未満であることが好ましい。この引張応力緩和率は、ワーク加工用保護シートの両端を引っ張り、引っ張り前の長さから10%伸張した時点の応力と、10%伸張した時点で引っ張りを停止し、停止してから1分後の応力と、から算出される緩和率である。
【0105】
この引張応力緩和率が上記の範囲内であることにより、裏面研削時に、ワーク加工用保護シートが全体として変形せずに支持されて吸着テーブルに固定される。その結果、ワーク加工用保護シートに保持されているワーク(ワーク個片化物群)の移動量も抑制されるので、ワーク個片化物同士の衝突に起因するクラックをより抑制できる。
【0106】
23℃におけるワーク加工用保護シートの引張応力緩和率は、38%以下であることがより好ましく、36%以下であることがさらに好ましく、34%以下であることが特に好ましい。
【0107】
また、23℃におけるワーク加工用保護シートの引張応力緩和率の下限値は、特に制限されないが、ワーク加工用保護シートの貼付作業性とコスト等の観点から、5%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましい。
【0108】
23℃におけるワーク加工用保護シートの引張応力緩和率は引張試験機を用いて測定することができる。測定の詳細は実施例において説明する。
【0109】
(5.緩衝層)
本実施形態では、ワーク加工用保護シートは、
図1Aに記載の構成に限定されず、本発明の効果が得られる限りにおいて、他の層を有していてもよい。すなわち、基材10上に粘着剤層20が配置された構成を有していれば、たとえば、基材10と粘着剤層20との間に他の層が形成されていてもよいし、粘着剤層20を被着体に貼り付けするまで粘着剤層20を保護するために、粘着剤層20の主面20aに剥離シートが配置されていてもよい。
【0110】
特に、本実施形態では、
図1Bに示すように、ワーク加工用保護シート1は、基材10と粘着剤層20とに加えて、緩衝層30を有していることが好ましい。緩衝層30は、粘着剤層20が形成されている基材の主面10aとは反対側の主面10b上に形成されている。
【0111】
また、
図1Aおよび
図1Bに示すワーク加工用保護シートの最外面に、必要に応じて、所望の機能を発揮する層が形成されていてもよい。
【0112】
緩衝層30は、基材と比較して軟質の層であり、ワークの裏面研削時に生じる応力をさらに緩和して、ワークにクラックが生じることをさらに防止できる場合がある。また、ワーク加工用保護シートを貼付したワークは、裏面研削時に、ワーク加工用保護シートを介して吸着テーブル上に配置されるが、ワーク加工用保護シートの構成層として緩衝層を有することで、吸着テーブルに適切に保持されやすくなる。
【0113】
一方で、原材料のコストを低減する観点や、構成する厚い層が増えることによってワーク加工用保護シート製造時の厚みバラツキが生じるリスクを低減する観点においては、緩衝層30を実質的に有しないことが好ましい。実質的に有しないとは、緩衝層が全く存在しない又は厚みが1μm未満であることを言う。
【0114】
緩衝層の厚さは、1~100μmであることが好ましく、5~80μmであることがより好ましく、10~60μmであることがさらに好ましい。緩衝層の厚さを上記範囲とすることで、緩衝層が裏面研削時の応力を適切に緩和できるようになる。
【0115】
緩衝層は、エネルギー線重合性化合物を含む緩衝層用組成物から形成される層であってもよいし、ポリプロピレンフィルム、エチレン-酢酸ビニル共重合体フィルム、アイオノマー樹脂フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム、LDPEフィルム、LLDPEフィルム等のフィルムであってもよい。
【0116】
なお、緩衝層を有する基材は、基材に緩衝層をラミネートして得られる。
【0117】
(5.1 緩衝層用組成物)
エネルギー線重合性化合物を含む緩衝層用組成物は、エネルギー線が照射されることで硬化することが可能になる。
【0118】
また、エネルギー線重合性化合物を含む緩衝層用組成物は、より具体的には、ウレタン(メタ)アクリレート(d1)と、環形成原子数6~20の脂環基又は複素環基を有する重合性化合物(d2)および/または多官能重合性化合物(d3)と、を含むことが好ましい。また、緩衝層用組成物は、上記(d1)から(d3)成分に加えて、官能基を有する重合性化合物(d4)を含有してもよい。また、緩衝層用組成物は、上記の成分に加えて、光重合開始剤を含有してもよい。さらに、緩衝層用組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、その他の添加剤や樹脂成分を含有してもよい。
【0119】
以下、エネルギー線重合性化合物を含む緩衝層用組成物中に含まれる各成分について詳細に説明する。
【0120】
(5.1.1 ウレタン(メタ)アクリレート(d1))
ウレタン(メタ)アクリレート(d1)とは、少なくとも(メタ)アクリロイル基及びウレタン結合を有する化合物であり、エネルギー線照射により重合硬化する性質を有するものである。ウレタン(メタ)アクリレート(d1)は、オリゴマーまたはポリマーである。
【0121】
成分(d1)の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1,000~100,000、より好ましくは2,000~60,000、さらに好ましくは3,000~20,000である。また、成分(d1)中の(メタ)アクリロイル基数(以下、「官能基数」ともいう)としては、単官能、2官能、もしくは3官能以上でもよいが、単官能又は2官能であることが好ましい。
【0122】
成分(d1)は、例えば、ポリオール化合物と、多価イソシアネート化合物とを反応させて得られる末端イソシアネートウレタンプレポリマーに、ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリレートを反応させて得ることができる。なお、成分(d1)は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0123】
緩衝層用組成物中の成分(d1)の含有量は、緩衝層用組成物100質量部に対して、好ましくは10~70質量部、より好ましくは20~60質量部、さらに好ましくは25~55質量部である。
【0124】
(5.1.2.環形成原子数6~20の脂環基又は複素環基を有する重合性化合物(d2))
成分(d2)は、環形成原子数6~20の脂環基又は複素環基を有する重合性化合物であり、さらには、少なくとも1つの(メタ)アクリロイル基を有する化合物であることが好ましく、より好ましくは1つの(メタ)アクリロイル基を有する化合物である。成分(d2)を用いることで、得られる緩衝層用組成物の成膜性を向上させることができる。
【0125】
なお、成分(d2)の定義と、後述する成分(d3)や成分(d4)の定義とは重複する部分があるが、重複部分は成分(d3)または成分(d4)に含まれる。例えば、少なくとも1つの(メタ)アクリロイル基と、環形成原子数6~20の脂環基又は複素環基と、水酸基、エポキシ基、アミド基、アミノ基等の官能基とを有する化合物は、成分(d2)と成分(d4)の両方の定義に含まれるが、本発明において当該化合物は、成分(d4)に含まれるものとする。
【0126】
具体的な成分(d2)としては、例えば、イソボルニル(メタ)アクリレート等の脂環基含有(メタ)アクリレート;テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート等の複素環基含有(メタ)アクリレート;等が挙げられる。なお、成分(d2)は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0127】
緩衝層用組成物中の成分(d2)の含有量は、緩衝層用組成物100質量部に対して、好ましくは10~70質量部、より好ましくは20~60質量部、さらに好ましくは25~55質量部である。
【0128】
(5.1.3.多官能重合性化合物(d3))
多官能重合性化合物とは、エネルギー線硬化性基を2つ以上有する化合物をいう。エネルギー線硬化性基は、炭素-炭素二重結合を含む官能基であり、例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基、ビニルベンジル基等が挙げられる。エネルギー線硬化性基は2種以上を組み合わせてもよい。多官能重合性化合物中のエネルギー線硬化性基と成分(d1)中の(メタ)アクリロイル基とが反応したり、成分(d3)中のエネルギー線硬化性基同士が反応することで、三次元網目構造(架橋構造)が形成される。多官能重合性化合物を使用すると、エネルギー線硬化性基を1つしか含まない化合物を使用した場合と比較して、エネルギー線照射により形成される架橋構造が増加するため、緩衝層が特異な粘弾性を示し、裏面研削時の応力を緩和することがより容易となる。
【0129】
なお、成分(d3)の定義と、後述する成分(d4)の定義とは重複する部分があるが、重複部分は成分(d3)に含まれる。例えば、水酸基、エポキシ基、アミド基、アミノ基等の官能基を含有し、(メタ)アクリロイル基を2つ以上有する化合物は、成分(d3)と成分(d4)の両方の定義に含まれるが、本発明において当該化合物は、成分(d3)に含まれるものとする。
【0130】
上記観点から、多官能重合性化合物中におけるエネルギー線硬化性基の数(官能基数)は、2~10が好ましく、3~6がより好ましい。
【0131】
また、成分(d3)の重量平均分子量は、好ましくは30~40000、より好ましくは100~10000、さらに好ましくは200~1000である。
【0132】
具体的な成分(d3)としては、例えば、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、(メタ)アクリル酸ビニル、アジピン酸ジビニル、N,N'-メチレンビス(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。これらの中でも、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートが好ましい。なお、成分(d3)は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0133】
緩衝層用組成物中の成分(d3)の含有量は、緩衝層用組成物100質量部に対して、好ましくは2~40質量部、より好ましくは3~20質量部、さらに好ましくは5~15質量部である。
【0134】
(5.1.4 官能基を有する重合性化合物(d4))
成分(d4)は、水酸基、エポキシ基、アミド基、アミノ基等の官能基を含有する重合性化合物であり、さらには、少なくとも1つの(メタ)アクリロイル基を有する化合物であることが好ましく、より好ましくは1つの(メタ)アクリロイル基を有する化合物である。
【0135】
成分(d4)は、成分(d1)との相溶性が良好であり、緩衝層用組成物の粘度を適度な範囲に調整しやすくなる。また、緩衝層を比較的薄くしても緩衝性能が良好になる。
【0136】
成分(d4)としては、例えば、水酸基含有(メタ)アクリレート、エポキシ基含有化合物、アミド基含有化合物、アミノ基含有(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中でも、水酸基含有(メタ)アクリレートが好ましい。
【0137】
緩衝層用組成物中の成分(d4)の含有量は、緩衝層用組成物の成膜性を向上させるために、緩衝層用組成物100質量部に対して、好ましくは5~40質量部、より好ましくは7~35質量部、さらに好ましくは10~30質量部である。
【0138】
(5.1.5 成分(d1)~(d4)以外の重合性化合物(d5))
緩衝層形成用組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、上記の成分(d1)~(d4)以外のその他の重合性化合物(d5)を含有してもよい。
【0139】
成分(d5)としては、例えば、炭素数1~20のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート;ビニル化合物等が挙げられる。
【0140】
緩衝層用組成物中の成分(d5)の含有量は、緩衝層用組成物100質量部に対して、好ましくは0~20質量部、より好ましくは0~10質量部、さらに好ましくは0~5質量部である。
【0141】
(5.1.6 光重合開始剤)
緩衝層用組成物には、緩衝層を形成する際、光照射による重合時間を短縮させ、また、光照射量を低減させる観点から、さらに光重合開始剤を含有することが好ましい。
【0142】
光重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン化合物、アセトフェノン化合物、アシルフォスフィノキサイド化合物、チタノセン化合物、チオキサントン化合物、パーオキサイド化合物、さらには、アミンやキノン等の光増感剤等が挙げられ、より具体的には、例えば、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン等が挙げられる。これらの光重合開始剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0143】
緩衝層用組成物中の光重合開始剤の含有量は、エネルギー線重合性化合物の合計量100質量部に対して、好ましくは0.05~15質量部、より好ましくは0.1~10質量部、さらに好ましくは0.3~5質量部である。
【0144】
(5.1.7 その他の添加剤)
緩衝層用組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、その他の添加剤を含有してもよい。その他の添加剤としては、例えば、帯電防止剤、酸化防止剤、軟化剤(可塑剤)、充填剤、防錆剤、顔料、染料等が挙げられる。これらの添加剤を配合する場合、緩衝層用組成物中の各添加剤の含有量は、エネルギー線重合性化合物の合計量100質量部に対して、好ましくは0.01~6質量部、より好ましくは0.1~3質量部である。
【0145】
エネルギー線重合性化合物を含む緩衝層用組成物から形成される緩衝層は、上記組成の緩衝層用組成物をエネルギー線照射により重合硬化して得られる。つまり、当該緩衝層は、緩衝層用組成物を硬化した物である。
【0146】
(6.ワーク加工用保護シートの製造方法)
本実施形態に係るワーク加工用保護シートを製造する方法は公知の方法であればよい。たとえば、基材と、基材の一方の主面上に形成された粘着剤層とを有するワーク加工用保護シートは以下のようにして製造すればよい。
【0147】
まず、粘着剤層を形成するための組成物として、たとえば、粘着剤層を構成する粘着剤層用組成物、または、当該粘着剤層用組成物を溶媒で希釈した組成物(この2つの組成物を「粘着剤層用塗布剤」と称する。)を調製する。調製した粘着剤層用塗布剤を、剥離フィルムの剥離面に塗布し、必要に応じて乾燥させ剥離フィルム上に粘着剤層を形成する。その後、基材の一方の主面と、粘着剤層とを貼り合わせて、基材の一方の主面上に粘着剤層が形成されたワーク加工用保護シートが得られる。あるいは、調製した粘着剤層用塗布剤を、基材の一方の主面に直接塗布して、粘着剤層を形成してもよい。
【0148】
また、基材と、基材の一方の主面上に形成された粘着剤層と、基材の他方の主面上に形成された緩衝層とを有するワーク加工用保護シートは以下のようにして製造すればよい。
【0149】
上記と同様に、粘着剤層を形成するための粘着剤層用塗布剤を調製する。続いて、緩衝層を形成するための組成物として、たとえば、緩衝層を構成する緩衝層用組成物、または、当該緩衝層用組成物を溶媒で希釈した組成物(この2つの組成物を「緩衝層用塗布剤」と称する。)を調製する。調製した緩衝層用塗布剤を、剥離フィルムの剥離面に塗布し、必要に応じて乾燥させ剥離フィルム上に塗布膜を形成し、この塗布膜を硬化することにより(たとえば、エネルギー線の照射)、緩衝層を形成することができる。その後、基材の一方の主面と緩衝層とを貼り合わせる。この緩衝層が、依然としてエネルギー線硬化性を有している場合には、必要に応じてさらに硬化(たとえば、エネルギー線の照射)してもよい。
【0150】
また、調製した粘着剤層用塗布剤を、剥離フィルムの剥離面に塗布し、必要に応じて乾燥させ剥離フィルム上に粘着剤層を形成する。その後、基材において、緩衝層が形成されていない側の主面と、粘着剤層とを貼り合わせて、基材の一方の主面上に粘着剤層が形成され、基材の他方の主面上に緩衝層が形成されたワーク加工用保護シートが得られる。上記の粘着剤層を形成する場合と同様に、緩衝層用塗布剤を基材の一方の主面に直接塗布して、緩衝層を形成してもよい。
【0151】
(7.ワーク個片化物の製造方法)
本発明に係るワーク加工用保護シートは、上述したように、LDBGを利用してワークを個片化する方法に好適に使用される。
【0152】
ワーク加工用保護シートの非限定的な使用例として、以下に、LDBGを利用するワーク個片化物(例えばチップ)の製造方法について具体的に説明する。
【0153】
ワーク個片化物の製造方法は、具体的には、以下の工程1~工程4を少なくとも備える。
工程1:上記のワーク加工用保護シートを、ワークの表面に貼付する工程
工程2:当該ワークの表面もしくは裏面から当該ワーク内部に改質領域を形成する工程
工程3:ワーク加工用保護シートが表面に貼付され、かつ改質領域が形成されたワークを裏面側から研削して、改質領域を起点として、複数のワーク個片化物に個片化させる工程
工程4:個片化が済んだワーク(すなわち、複数のワーク個片化物)から、ワーク加工用保護シートを剥離する工程
以下、上記ワーク個片化物の製造方法の各工程を詳細に説明する。説明には、ワークの具体例としてウエハを用い、ワーク個片化物の具体例としてチップを用いる。
【0154】
(工程1)
工程1では、ウエハ表面に、本実施形態に係るワーク加工用保護シートの粘着剤層を貼付する。このとき、ワーク加工用保護シートに張力が印加されるが、ワーク加工用保護シートの引張応力緩和率が上記の範囲内であるので、裏面研削時に、ワーク加工用保護シートが変形せずに吸着テーブルに十分に固定される。その結果、裏面研削時のチップの移動が抑制され、クラックの発生が抑制される。本工程は、後述する工程2の後に行ってもよいが、ワーク加工用保護シートを貼付する際にウエハが意図せずに個片化するリスクを低減する観点から、工程2の前に行われることが好ましい。
【0155】
また、ウエハの表面に回路が形成されている。ウエハ表面への回路の形成は、エッチング法、リフトオフ法などの従来汎用されている方法を含む様々な方法により行うことができる。
【0156】
形成された回路は露出していてもよいし、回路を保護するために回路保護層が形成されていてもよい。また、回路に、バンプ、ピラー等の凸状電極が形成されていてもよい。
【0157】
(工程2)
工程2では、ウエハの表面または裏面からウエハの内部に改質領域を形成する。
【0158】
本工程で形成される改質領域は、ウエハにおいて、脆質化された部分である。改質領域では、ウエハに印加されるせん断力および圧力による亀裂が生じやすい。このような亀裂はウエハの分割の起点となる。すなわち、工程2における改質領域は、後述する工程3において、ウエハが分割されてチップに個片化される際の分割線に沿うように形成される。
【0159】
改質領域の形成は、ウエハの内部に焦点を合わせたレーザーの照射により行う。したがって、改質領域は、ウエハの内部に形成される。レーザーの照射は、ウエハの表面側から行っても、裏面側から行ってもよい。なお、工程2を工程1の後に行いウエハの表面からレーザー照射を行う場合、ワーク加工用保護シートを介してウエハにレーザーを照射することになる。
【0160】
ワーク加工用保護シートが貼付され、かつ改質領域を形成したウエハは、吸着テーブル上に載せられ、吸着テーブルにより保持される。この際、ウエハの表面側がワーク加工用保護シートを介して吸着テーブル側に配置され吸着される。
【0161】
(工程3)
工程1および工程2の後、吸着テーブル上のウエハの裏面を研削して、ウエハを複数のチップに個片化する。
【0162】
ここで、裏面研削は、研削面(ウエハ裏面)が改質領域に至るまで行ってもよいが、研削面が厳密に改質領域まで至らなくてもよい。すなわち、改質領域を起点としてウエハが分割され個片化されたチップが得られるように、改質領域に近接する位置まで研削すればよい。
【0163】
また、研削ホイールを用いた裏面研削の終了後、ドライポリッシュ等のストレスリリーフを行ってもよい。
【0164】
個片化されたチップの形状は、方形でもよいし、矩形等の細長形状となっていてもよい。また、個片化されたチップの厚さは特に限定されないが、好ましくは5~100μm程度、より好ましくは10~45μmである。LDBGによれば、個片化されたチップの厚さを50μm以下、より好ましくは10~45μmとすることが容易になる。また、個片化されたチップの大きさは、特に限定されない。たとえば、チップ面積が好ましくは600mm2未満、より好ましくは400mm2未満、さらに好ましくは120mm2未満である。
【0165】
本実施形態に係るワーク加工用保護シートを使用することにより、裏面研削(工程3)終了後のチップにおいて、チップ不良につながる大きなクラックが低減される。
【0166】
(工程4)
次に、個片化されたウエハ(すなわち、チップ群)から、ワーク加工用保護シートを剥離する。本工程は、例えば、以下の方法により行う。
【0167】
まず、ワーク加工用保護シートの粘着剤層が、エネルギー線硬化性粘着剤から形成される場合には、エネルギー線を照射して粘着剤層を硬化する。例えば、エネルギー線の照度は、120~280mW/cm2、エネルギー線の光量は、100~1000mJ/cm2であることが好ましい。エネルギー線としては、紫外線が好ましい。次いで、チップ群の裏面側に、ピックアップテープを貼付し、ピックアップが可能なように位置および方向合わせを行う。この際、ウエハの外周側に位置するリングフレームもピックアップテープに貼り合わせ、ピックアップテープの外周縁部をリングフレームに固定する。ピックアップテープには、ウエハとリングフレームとを同時に貼り合わせてもよいし、別々のタイミングで貼り合わせてもよい。次いで、ピックアップテープ上に保持された複数のチップからワーク加工用保護シートを剥離する。
【0168】
その後、ピックアップテープ上にある複数のチップをピックアップする。次いで、装置用の基板等の上にチップを固定して、装置を製造する。例えば、チップが半導体の場合には、半導体装置用の基板等の上にチップを固定して、半導体装置を製造する。
【0169】
なお、ピックアップテープは、特に限定されないが、例えば、基材と、基材の一方の面に設けられた粘着剤層とを備える粘着シートである。
【0170】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は上記の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の範囲内において種々の態様で改変しても良い。
【実施例0171】
以下、実施例を用いて、発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0172】
本実施例における測定方法および評価方法は以下の通りである。
【0173】
(粘着剤層のせん断貯蔵弾性率)
後述する実施例および比較例において、粘着剤層用組成物を用いて剥離フィルム上に粘着剤層を形成した。このように形成した粘着剤層を複数準備し、剥離フィルムを剥離して剥離面同士を合わせて積層することにより、厚さが1mmである粘着剤層の積層体を作製した。
【0174】
得られた粘着剤層の積層体を直径8mmの円柱状に打ち抜き、せん断貯蔵弾性率を測定するための試料とした。
【0175】
粘着剤層のせん断貯蔵弾性率(G’)の測定は、Anton Paar社製レオメーターMCR302を用いて行った。試料の厚さ方向における両端をパラレルプレートにより挟み込み、測定温度-40~100℃、昇温速度3℃/分、ギャップ1mm、ひずみ0.05~0.5%、角周波数1Hzの条件で、試料の厚さ方向を回転軸として、試料を捻って試料にせん断力を加えて、せん断貯蔵弾性率測定した。得られた測定値から55℃におけるせん断貯蔵弾性率(G’)を算出した。
【0176】
(粘着剤層のせん断応力緩和率)
せん断貯蔵弾性率を測定するための試料と同様にして、せん断応力緩和率を測定するための試料を作製した。粘着剤層のせん断応力緩和率の測定は、Anton Paar社製レオメーターMCR302を用いて行った。試料を加熱して55℃を維持しながら、ギャップ1mm、角周波数1Hzの条件で、試料の厚さ方向を回転軸として試料を捻って試料にせん断応力を加えて、試料のひずみが5%(角度18°)に達した瞬間(0秒)の応力をA0とし、5%のひずみを維持しながら、1秒後に発生している応力をA1とした時に、下記の式からせん断応力緩和率を算出した。
せん断応力緩和率={(A0-A1)/A0}×100(%)
【0177】
(粘着剤層のガラス転移温度(Tg))
せん断貯蔵弾性率を測定するための試料と同様にして、ガラス転移温度(Tg)を測定するための試料を作製した。粘着剤層のガラス転移温度の測定は、Anton Paar社製レオメーターMCR302を用いて行った。試料の厚さ方向における両端をパラレルプレートにより挟み込み、測定温度-40~100℃、昇温速度3℃/分、ギャップ1mm、ひずみ0.05~0.5%、角周波数1Hzの条件で、試料の厚さ方向を回転軸として、試料を捻って試料にせん断力を加えて、損失弾性率を測定して、損失弾性率と上記せん断貯蔵弾性率とを用いて、各温度における損失正接tanδを算出した。得られた各温度におけるtanδのチャートから、ピーク温度を確認し、これを粘着剤層のガラス転移温度(Tg)とした。
【0178】
(ワーク加工用保護シートの伸度および引張応力緩和率)
実施例および比較例で作製したワーク加工用保護シートを、長さ140mm、幅15mmのサイズにカットし、伸度および引張応力緩和率を測定するための試料を得た。万能引張試験機(SHIMADZU社製、オートグラフ(登録商標)AG-10kNIS)を用いて、試料の長さ方向の両端を掴み具で20mm掴んで(すなわち、初期の掴み具間距離は100mm)、引張荷重を記録しながら、23℃の環境で、200mm/分の速度で試料を試料の長さ方向に伸張した。引張荷重が最初に30N/15mmに到達した時点での試料の伸度を測定した。
【0179】
また、上記の条件で試料を試料の長さ方向に伸張し、試料が10%伸張した時点(すなわち、掴み具間距離は110mm)で引張りを停止した。引張開始から停止までの応力のうち最大応力をA(N/m2)とし、試料の伸張停止から1分後の応力B(N/m2)とを測定した。測定された応力AおよびBの値から、下記の式により引張応力緩和率を算出した。
引張応力緩和率={(A-B)/A}×100(%)
【0180】
(クラック発生率)
バックグラインド用テープラミネーター(リンテック社製、RAD-3510F/12)を用いて、直径300mm、厚み780μmのワークとしてのシリコンミラーウエハに、実施例および比較例で作製したワーク加工用保護シートを貼付した。貼付温度は50℃であった。続いて、ステルスダイシング装置(ディスコ社製、DFL7361)を用いて、ウエハにステルスダイシング加工を行い、格子状の改質領域を形成した。なお、格子サイズは10mm×10mmであった。
【0181】
次に、裏面研削装置(ディスコ社製、DGP8761)を用いて、改質領域を形成したウエハのワーク加工用保護シートを貼付した面の反対側の面を厚さ18μmになるまで研削(ドライポリッシュを含む)を行い、ウエハを複数のチップに個片化してチップ群とした。研削工程後、チップに生じたクラックを観察しやすくするために、ワーク加工用保護シート付きのチップ群におけるチップ群側の面(すなわち、研削された面)、及び、12インチ用リングフレームに対し、ウエハマウンター(リンテック社製、RAD-2510F/12)を用いて、ダイシングテープ(リンテック社製、D-175D)を貼付した。
【0182】
次に、ワーク加工用保護シートに対して、エネルギー線(紫外線)照射を行い、ワーク加工用保護シートを剥離して、ウエハ(チップ群)の表面を露出させた。ステルスダイシング装置(ディスコ社製DFL7361)に内蔵される赤外線カメラを用いて、ウエハ表面側からチップのクラックを観察し数えた。観察範囲は、ウエハ中心から半径145mmの範囲(直径で290mm)とした。観察したクラックを長さを基準として下記に示すように分類した。
・1つのクラックにおいて、最も長い長さが10μm未満のものを、小クラックと定義した。
・1つのクラックにおいて、最も長い長さが10μm以上20μm未満のものを、中クラックと定義した。
・1つのクラックにおいて、最も長い長さが20μm 以上のものを、大クラックと定義した。
【0183】
分類したクラック種を用いて、下記の式から、クラックスコアを算出した。
クラックスコア= 0×小クラックの数 + 1×中クラックの数 + 10×大クラックの数
本実施例では、クラックスコアが0以上20以下である場合をA判定とし、クラックスコアが21以上40以下である場合をB判定とし、クラックスコアが41以上55以下である場合をC判定とし、クラックスコアが56以上である場合をD判定とした。A判定およびB判定である試料を合格とした。
【0184】
(実施例1)
(1)基材
まず、基材として、両面易接着コート層付きPETフィルム(厚み:50μm、23℃におけるヤング率:4000MPa)を準備した。
【0185】
(2)粘着剤層
(粘着剤層用組成物の調製)
n-ブチルアクリレート(BA)52質量部、ジメチルアクリルアミド(DMAA)20質量部、及び2-ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)28質量部を共重合して得たアクリル系重合体に、アクリル系重合体の全水酸基(100当量)のうち90当量の水酸基に付加するように、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(MOI)を反応させて、エネルギー線硬化性のアクリル系共重合体(Mw:約75万)を得た(BA/DMAA/HEA(MOI)=52/20/28(90mol%)(A-1)。
【0186】
このエネルギー線硬化性のアクリル系共重合体100質量部に、エネルギー線硬化性樹脂である多官能ウレタンアクリレート(三菱ケミカル社製、シコウUT-4332)を12質量部、イソシアネート系架橋剤(東ソー社製、コロネートL)を1.07質量部、光重合開始剤としてビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキシドを1.4質量部配合し、メチルエチルケトンで希釈し、固形分濃度34質量%の粘着剤層用組成物の塗布剤を調製した。
【0187】
(3)緩衝層
(緩衝層形成用組成物の調製)
エネルギー線重合性化合物として、ウレタンアクリレート系オリゴマー(サートマー社製、CN8888)50質量部(成分d1)、イソボルニルアクリレート(IBXA)40質量部(成分d2)、ネオペンチルグリコールジアクリレート10質量部(成分d3)配合し、さらに光重合開始剤として、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン(BASF社製、Omnirad 1173)を2.0質量部配合し、緩衝層形成用組成物を調製した。
【0188】
剥離シート(リンテック社製、SP-PET381031、厚さ:38μm)のシリコーン剥離処理面に、上記の緩衝層形成用組成物を塗布し塗布膜を形成した。そして、当該塗布膜に対して、紫外線を照射して、当該塗布膜を半硬化させ、厚さ30μmの緩衝層の半硬化膜を形成した。
【0189】
なお、上記の紫外線照射は、ベルトコンベア式紫外線照射装置(アイグラフィクス社製、ECS-401GX)及び高圧水銀ランプ(アイグラフィクス社製、H04-L41)を使用し、ランプ高さ260mm、出力80W/cm、照度70mW/cm2、照射量30mW/cm2の照射条件下にて行った。そして、形成した半硬化膜の表面と、基材の第1のコート層とを貼り合わせ、半硬化膜上の剥離シート側から再度紫外線を照射して、当該半硬化膜を完全に硬化させ、厚さ30μmの緩衝層を形成した。
【0190】
(ワーク加工用保護シートの作製)
剥離シート(リンテック社製、SP-PET381031、厚さ:38μm)のシリコーン剥離処理面に、上記の粘着剤層用組成物の塗布剤を塗工し、加熱乾燥させて、剥離シート上に厚さが20μmの粘着剤層を形成した。粘着剤層のガラス転移温度(Tg)は7.4℃であった。
【0191】
次いで、上記両面コート層付きPETフィルムの第2のコート層上に、上記粘着剤層付き剥離シートの粘着剤層を貼り合わせワーク加工用保護シートを作製した。すなわち、
図1Bに示すワーク加工用保護シートを製造した。
【0192】
(実施例2)
アクリル系共重合体として、下記で得られたアクリル系共重合体を用いて、イソシアネート系架橋剤(東ソー社製、コロネートL)の添加量を0.27質量部に変更した以外は実施例1と同じ方法により、ワーク加工用保護シートを得た。粘着剤層のガラス転移温度を表1に示す。
【0193】
n-ブチルアクリレート(BA)70質量部、メチルメタクリレート(MMA)20質量部、及び2-ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)10質量部を共重合して得たアクリル系重合体に、アクリル系重合体の全水酸基(100当量)のうち70当量の水酸基に付加するように、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(MOI)を反応させて、エネルギー線硬化性のアクリル系共重合体(Mw:約75万)を得た(BA/MMA/HEA(MOI)=70/20/10(70mol%)(A-4)。
【0194】
(実施例3)
イソシアネート系架橋剤(東ソー社製、コロネートL)の添加量を0.54質量部に変更した以外は実施例2と同じ方法により、ワーク加工用保護シートを得た。粘着剤層のガラス転移温度を表1に示す。
【0195】
(実施例4)
イソシアネート系架橋剤(東ソー社製、コロネートL)の添加量を1.07質量部に変更した以外は実施例2と同じ方法により、ワーク加工用保護シートを得た。粘着剤層のガラス転移温度を表1に示す。
【0196】
(実施例5)
アクリル系共重合体として、下記で得られたアクリル系共重合体を用いて、イソシアネート系架橋剤(東ソー社製、コロネートL)の添加量を0.27質量部に変更した以外は実施例1と同じ方法により、ワーク加工用保護シートを得た。粘着剤層のガラス転移温度を表1に示す。
【0197】
n-ブチルアクリレート(BA)80質量部、メチルメタクリレート(MMA)10質量部、及び2-ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)10質量部を共重合して得たアクリル系重合体に、アクリル系重合体の全水酸基(100当量)のうち70当量の水酸基に付加するように、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(MOI)を反応させて、エネルギー線硬化性のアクリル系共重合体(Mw:約75万)を得た(BA/MMA/HEA(MOI)=80/10/10(70mol%)(A-3)。
【0198】
(実施例6)
緩衝層を形成しなかった以外は実施例1と同じ方法によりワーク加工用保護シートを製造した。粘着剤のガラス転移温度を表1に示す。
【0199】
(実施例7)
緩衝層を形成しなかった以外は実施例2と同じ方法によりワーク加工用保護シートを製造した。粘着剤のガラス転移温度を表1に示す。
【0200】
(実施例8)
緩衝層を形成しなかった以外は実施例3と同じ方法によりワーク加工用保護シートを製造した。粘着剤のガラス転移温度を表1に示す。
【0201】
(実施例9)
緩衝層を形成しなかった以外は実施例4と同じ方法によりワーク加工用保護シートを製造した。粘着剤のガラス転移温度を表1に示す。
【0202】
(実施例10)
緩衝層を形成しなかった以外は実施例5と同じ方法によりワーク加工用保護シートを製造した。粘着剤のガラス転移温度を表1に示す。
【0203】
(比較例1)
アクリル系共重合体として、下記で得られたアクリル系共重合体を用いて、イソシアネート系架橋剤(東ソー社製、コロネートL)の添加量を0.27質量部に変更した以外は実施例1と同じ方法により、ワーク加工用保護シートを得た。粘着剤層のガラス転移温度を表1に示す。
【0204】
n-ブチルアクリレート(BA)90質量部および2-ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)10質量部を共重合して得たアクリル系重合体に、アクリル系重合体の全水酸基(100当量)のうち70当量の水酸基に付加するように、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(MOI)を反応させて、エネルギー線硬化性のアクリル系共重合体(Mw:約75万)を得た(BA/HEA(MOI)=90/10(70mol%)(A-2)。
【0205】
(比較例2)
アクリル系共重合体として、下記で得られたアクリル系共重合体を用いた以外は実施例1と同じ方法により、ワーク加工用保護シートを得た。粘着剤層のガラス転移温度を表1に示す。
【0206】
n-ブチルアクリレート(BA)85質量部、メチルメタクリレート(MMA)5質量部、及び2-ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)10質量部を共重合して得たアクリル系重合体に、アクリル系重合体の全水酸基(100当量)のうち70当量の水酸基に付加するように、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(MOI)を反応させて、エネルギー線硬化性のアクリル系共重合体(Mw:約75万)を得た(BA/MMA/HEA(MOI)=85/5/10(70mol%)(A-5)。
【0207】
(比較例3)
イソシアネート系架橋剤(東ソー社製、コロネートL)の添加量を4質量部に変更した以外は比較例1と同じ方法により、ワーク加工用保護シートを得た。粘着剤のガラス転移温度を表1に示す。
【0208】
(比較例4)
基材の厚さを20μmに変更した以外は実施例2と同じ方法により、ワーク加工用保護シートを得た。粘着剤のガラス転移温度を表1に示す。
【0209】
得られた試料(実施例1~10および比較例1~4)に対して、上記の測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0210】
【0211】
表1より、粘着剤のせん断貯蔵弾性率およびせん断応力緩和率と、ワーク加工用保護シートの伸度とが上述した範囲内である場合には、ウエハをLDBGにより個片化しても、チップ不良(すなわち、ワーク個片化物不良)につながる大きなクラックが発生しにくいことが確認できた。