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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023118535
(43)【公開日】2023-08-25
(54)【発明の名称】作業機械
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/02 20060101AFI20230818BHJP
   F16D 21/00 20060101ALI20230818BHJP
   F16D 23/00 20060101ALI20230818BHJP
   B60T 7/12 20060101ALI20230818BHJP
   B60T 1/06 20060101ALI20230818BHJP
   B62D 11/08 20060101ALI20230818BHJP
   B60W 10/10 20120101ALI20230818BHJP
   B60W 10/04 20060101ALI20230818BHJP
   B60W 10/188 20120101ALI20230818BHJP
   B60W 10/00 20060101ALI20230818BHJP
【FI】
B60W10/00 122
F16D21/00
F16D23/00 M
B60T7/12 A
B60T1/06 F
B62D11/08 G
B60W10/00 126
B60W10/04
B60W10/10
B60W10/188
B60W10/02
B60W10/00 150
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022021535
(22)【出願日】2022-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】林 明音
(72)【発明者】
【氏名】吉川 剛史
(72)【発明者】
【氏名】秋山 直也
(72)【発明者】
【氏名】竹島 宏明
【テーマコード(参考)】
3D052
3D241
3D246
3J056
【Fターム(参考)】
3D052DD01
3D052EE01
3D052FF01
3D052HH02
3D052JJ10
3D241AA00
3D241AB07
3D241AC02
3D241AC06
3D241AC18
3D241AC26
3D241AE02
3D241AE14
3D241AE30
3D241AE41
3D246AA14
3D246BA01
3D246DA01
3D246DA02
3D246EA10
3D246GB15
3D246LA12Z
3J056AA60
3J056AA63
3J056BA06
3J056BB02
3J056BB05
3J056BB15
3J056CA07
3J056DA05
3J056DA07
3J056GA17
(57)【要約】
【課題】動作安定性を向上可能な作業機械を提供する。
【解決手段】コントローラ100は、ブルドーザ1が第1走行状態から停止状態に移行したことを認識後、走行状態において係合状態にあった速度段クラッチ23dの係合状態を維持したまま走行状態において開放状態にあった速度段クラッチ23cを係合させることによって二重係合状態を作るとともに、左右のサービスブレーキ50L,50Rに油圧を供給して開放させる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前進用及び後進用の方向段クラッチと、少なくとも第1の速度段クラッチと第2の速度段クラッチを有するトランスミッションと、
前記トランスミッションからの動力によって回転する左右の出力軸と、
前記左右の出力軸の回転を制動する左右のサービスブレーキと、
前記トランスミッション及び前記左右のサービスブレーキを制御するコントローラと、
を備え、
前記左右のサービスブレーキは、圧油の供給によって開放されるネガティブ式のブレーキであり、
前記第1の速度段クラッチと第2の速度段クラッチとは、走行状態において、一方が開放状態にあるとともに他方が係合状態となる関係を有し、
前記コントローラは、走行状態から停止状態に移行した後に、走行状態において係合状態にある前記一方の速度段クラッチの係合状態を維持したまま走行状態において開放状態にある前記他方の速度段クラッチを係合させて二重係合状態を作るとともに、前記左右のサービスブレーキに油圧を供給して開放させる、
作業機械。
【請求項2】
前記トランスミッションと前記左右の出力軸との間に配置される差動操向機構を備え、
前記コントローラは、前記走行状態から前記停止状態への移行と同時にもしくは移行した後に、前記左右の出力軸を回転不能にする、
請求項1に記載の作業機械。
【請求項3】
前記差動操向機構は、
入力軸と、
前記入力軸と前記左右の出力軸との間に配置される左右の遊星歯車機構と、
前記入力軸から前記左右の出力軸への前記左右の遊星歯車機構を介した回転動力の伝達及び遮断を切り替える左右のステアリングクラッチと、
前記左右のステアリングクラッチを互いに逆回転させることによって前記左右の出力軸に回転数差を生じさせる旋回モータと、
を有し、
前記コントローラは、前記走行状態から前記停止状態に移行した場合、前記旋回モータの出力軸を固定することによって前記左右の出力軸を回転不能にする、
請求項2に記載の作業機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数のクラッチを有するトランスミッションと、左右の駆動輪に連結された左右の出力軸を制動する左右のサービスブレーキとを備える作業機械が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1には、トランスミッションをニュートラル状態に切り替え、かつ、左右のサービスブレーキを作動させることによって走行状態から停止状態に移行した場合、トランスミッションが有する1つ以上のクラッチを係合させる手法が開示されている。特許文献1に記載の手法によれば、傾斜地に停止した場合に作業機械がずり下がることを抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第11148714号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、作業機械では、安全性の観点から、左右のサービスブレーキとして、圧油の供給によって開放されるネガティブ式のブレーキが用いられる。従って、停止状態から走行状態に移行する場合には、トランスミッションの方向段クラッチと左右のサービスブレーキとの両方に圧油を供給する必要があるため、圧油の取り合いが生じて作業機械の動作が不安定になってしまう。
【0006】
本開示の目的は、動作安定性を向上可能な作業機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一側面に係る作業機械は、前進用及び後進用の方向段クラッチと、少なくとも第1の速度段クラッチと第2の速度段クラッチを有するトランスミッションと、トランスミッションからの動力によって回転する左右の出力軸と、左右の出力軸の回転を制動する左右のサービスブレーキと、トランスミッション及び左右のサービスブレーキを制御するコントローラとを備える。左右のサービスブレーキは、圧油の供給によって開放されるネガティブ式のブレーキである。第1の速度段クラッチと第2の速度段クラッチは、走行状態において、一方が開放状態にあるとともに他方が係合状態となる関係を有する。コントローラは、走行状態から停止状態に移行した後に、走行状態において係合状態にある前記一方の速度段クラッチの係合状態を維持したまま走行状態において開放状態にある前記他方の速度段クラッチを係合させて二重係合状態を作るとともに、前記左右のサービスブレーキに油圧を供給して開放させる。
【発明の効果】
【0008】
本開示に係る技術によれば、動作安定性を向上可能な作業機械を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係るブルドーザの側面図である。
図2】実施形態に係るブルドーザの概略システム構成図である。
図3】実施形態に係るコントローラによる制御内容を示す表である。
図4】変形例1に係るブルドーザの概略システム構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(ブルドーザ1の外観構成)
図1は、作業機械の一例であるブルドーザ1の側面図である。
【0011】
図1に示すように、ブルドーザ1は、車体2と、作業装置3と、左右一対の履帯装置1Aとを備える。
【0012】
車体2は、キャブ4と、エンジン室5と、車体フレーム(不図示)とを有する。キャブ4は、車体2の後上部に配置される。エンジン室5は、キャブ4の前方に配置される。
【0013】
作業装置3は、車体2に取り付けられる。作業装置3は、ブレード6と、フレーム7と、アングルシリンダ8と、昇降シリンダ9とを有する。ブレード6は、本開示に係る「作業機」の一例である。ブレード6は、車体2の前方に配置される。ブレード6は、フレーム7によって支持される。フレーム7の前端は、ブレード6の後面に回転自在に取り付けられている。フレーム7の後端は、車体2の側面に回転自在に支持される。
【0014】
ブレード6は、アングルシリンダ8及び昇降シリンダ9によって駆動される。アングルシリンダ8及び昇降シリンダ9それぞれは、本開示に係る「作業機シリンダ」の一例である。
【0015】
アングルシリンダ8の前端は、ブレード6の後面に回転自在に支持される。アングルシリンダ8の後端は、車体2の側面に回転自在に支持される。アングルシリンダ8が油圧によって伸縮することで、ブレード6が前後方向に傾動する。
【0016】
昇降シリンダ9の下端はフレーム7の上面に回転自在に支持される。昇降シリンダ9の中間部は車体2の側面に回転自在に支持される。昇降シリンダ9が油圧によって伸縮することで、ブレード6は上下方向に移動する。
【0017】
左右一対の履帯装置1Aは、ブルドーザ1の走行装置である。左右一対の履帯装置1Aは、車体2を挟むように配置される。
【0018】
左右一対の履帯装置1Aそれぞれは、履帯2Aと、駆動輪(スプロケット)3Aと、遊動輪(アイドラ)4Aと、トラックフレーム5Aとを有する。
【0019】
履帯2Aは、環状(無端状)に構成されており、駆動輪3Aおよび遊動輪4Aに巻きかけられている。履帯2Aは、駆動輪3Aに噛み合わされており、駆動輪3Aの回転駆動により回転する。
【0020】
駆動輪3A及びトラックフレーム5Aそれぞれは、車体2の側部に取り付けられる。駆動輪3Aは、トラックフレーム5Aの後方において回転駆動可能に配置される。左右一対の駆動輪3Aは、後述する左右の終減速装置70L,70Rに支持される。遊動輪4Aはトラックフレーム5Aの前端部に回転可能に配置される。
【0021】
(ブルドーザ1の内部構成)
図2は、ブルドーザ1の概略システム構成図である。
【0022】
図2に示すように、ブルドーザ1は、エンジン10と、トルクコンバータ15と、トランスミッション20と、差動操向機構30と、左右のサービスブレーキ50L,50Rと、左右の出力軸60L,60Rと、左右の終減速装置70L,70Rと、コントローラ100とを有する。
【0023】
エンジン10は、ブルドーザ1の動力源である。トルクコンバータ15は、エンジン10の動力を、流体を介してトランスミッション20に伝達する。
【0024】
[トランスミッション20]
トランスミッション20は、トルクコンバータ15から伝達される回転運動を変速する。本実施形態に係るトランスミッション20は、遊星歯車式変速機である。
【0025】
トランスミッション20は、複数の遊星歯車機構21a~21fと、前進用及び後進用の方向段クラッチ22(後進用クラッチ22aと前進用クラッチ22bとを含む。)と、複数の速度段クラッチ23a~23dと、入力軸24と、出力軸25を有する。
【0026】
複数の遊星歯車機構21a~21fは、入力側から出力側に向かって、この順で配置される。
【0027】
遊星歯車機構21aは、サンギヤ111と、複数のプラネタリギヤ112と、リングギヤ113と、キャリア114とを有する。サンギヤ111は、入力軸24の径方向外側に配置される。サンギヤ111は、入力軸24を中心として回転する。各プラネタリギヤ112は、サンギヤ111と噛み合う。各プラネタリギヤ112は、サンギヤ111の径方向外側に配置される。各プラネタリギヤ112は、キャリア114に支持される。各プラネタリギヤ112は、サンギヤ111の周りを自転しながら公転する。リングギヤ113は、各プラネタリギヤ112と噛み合う。リングギヤ113は、後述するキャリア124に固定され、キャリア124と一体的に回転する。キャリア114には、後進用クラッチ22aが接続される。キャリア114の回転は、後進用クラッチ22aが係合することによって制動される。
【0028】
遊星歯車機構21bは、サンギヤ121と、複数のプラネタリギヤ122と、リングギヤ123と、キャリア124とを有する。サンギヤ121、プラネタリギヤ122及びリングギヤ123は、それぞれ上述したサンギヤ111、プラネタリギヤ112及びリングギヤ113と同様の構成を有する。各プラネタリギヤ122は、キャリア124によって支持される。リングギヤ123には、前進用クラッチ22bが接続される。リングギヤ123の回転は、前進用クラッチ22bが係合することによって制動される。キャリア124は、各プラネタリギヤ122を支持する。
【0029】
遊星歯車機構21cは、サンギヤ131と、複数のプラネタリギヤ132と、リングギヤ133とを有する。サンギヤ131、プラネタリギヤ132及びリングギヤ133は、それぞれ上述したサンギヤ111、プラネタリギヤ112及びリングギヤ113と同様の構成を有する。サンギヤ131は、出力軸25の径方向外側に配置される。サンギヤ131は、出力軸25を中心として回転する。各プラネタリギヤ132は、キャリア124によって支持される。リングギヤ133は、後述するキャリア144に固定され、キャリア144と一体的に回転する。リングギヤ133には、速度段クラッチ23aが接続される。リングギヤ133の回転は、速度段クラッチ23aが係合することによって制動される。
【0030】
遊星歯車機構21dは、サンギヤ141と、複数のプラネタリギヤ142と、リングギヤ143と、キャリア144とを有する。サンギヤ141、プラネタリギヤ142及びリングギヤ143は、それぞれ上述したサンギヤ131、プラネタリギヤ132及びリングギヤ133と同様の構成を有する。リングギヤ143には、速度段クラッチ23bが接続される。リングギヤ143の回転は、速度段クラッチ23bが係合することによって制動される。キャリア144は、各プラネタリギヤ142を支持する。
【0031】
遊星歯車機構21eは、サンギヤ151と、複数のプラネタリギヤ152と、リングギヤ153とを有する。サンギヤ151、プラネタリギヤ152及びリングギヤ153は、それぞれ上述したサンギヤ131、プラネタリギヤ132及びリングギヤ133と同様の構成を有する。各プラネタリギヤ152は、キャリア144によって支持される。リングギヤ153は、後述するキャリア164に固定され、キャリア164と一体的に回転する。リングギヤ153には、速度段クラッチ23cが接続される。リングギヤ153の回転は、速度段クラッチ23cが係合することによって制動される。
【0032】
遊星歯車機構21fは、サンギヤ161と、複数のプラネタリギヤ162と、リングギヤ163と、キャリア164とを有する。サンギヤ161、プラネタリギヤ162及びリングギヤ163は、それぞれ上述したサンギヤ131、プラネタリギヤ132及びリングギヤ133と同様の構成を有する。リングギヤ163には、速度段クラッチ23dが接続される。リングギヤ163の回転は、速度段クラッチ23dが係合することによって制動される。キャリア164は、各プラネタリギヤ162を支持する。
【0033】
入力軸24には、トルクコンバータ15を介してエンジン10の動力が入力される。複数の遊星歯車機構21a~21fによって回転速度が変速された動力は、出力軸25から出力される。出力軸25は、入力軸24と同軸上に配置される。
【0034】
ここで、後進用クラッチ22a、前進用クラッチ22b及び複数の速度段クラッチ23a~23dは、圧油の供給によって係合されるポジティブ式の湿式多板油圧クラッチである。後進用クラッチ22a、前進用クラッチ22b及び複数の速度段クラッチ23a~23dの係合及び開放は、コントローラ100によって制御される。後進用クラッチ22a及び前進用クラッチ22bの係合及び開放が制御されることによって、ブルドーザ1の前後進(F,R)が切り替えられる。複数の速度段クラッチ23a~23dの係合及び開放が制御されることによって、ブルドーザ1の速度段(1ST,2ND,3RD,4TH)が切り替えられる。ブルドーザ1の走行中、複数の速度段クラッチ23a~23dのうちいずれか1つのクラッチが係合状態となり、残りのクラッチは開放状態となる。
【0035】
出力軸25は、ピニオン27及びベベルギヤ28を介して差動操向機構30に連結される。トランスミッション20から出力される動力は、ピニオン27及びベベルギヤ28を介して差動操向機構30に入力される。
【0036】
[差動操向機構30]
差動操向機構30は、トランスミッション20と左右の出力軸60L,60Rとの間に配置される。差動操向機構30は、入力軸30aと、左右の遊星歯車機構30L,30Rと、左右のステアリングクラッチ40L,40Rと、旋回モータ80と、モータ動力伝達部90とを有する。
【0037】
左右の遊星歯車機構30L,30Rは、左右のリングギヤ31L,31R、左右のプラネタリギヤ32L,32R、左右のサンギヤ33L,33R及び左右のキャリア34L,34Rを有する。
【0038】
左右のリングギヤ31L,31Rは、入力軸30aに連結される。左右のプラネタリギヤ32L,32Rは、入力軸30aを中心とする径方向において、左右のリングギヤ31L,31Rの内側に配置される。左右のプラネタリギヤ32L,32Rは、左右のリングギヤ31L,31Rと左右のサンギヤ33L,33Rとに噛み合っている。左右のサンギヤ33L,33Rは、入力軸30aに対して回転自在に取り付けられる。左右のサンギヤ33L,33Rは、径方向において、左右のプラネタリギヤ32L,32Rの内側に配置される。左右のサンギヤ33L,33Rは、左右のステアリングクラッチ40L,40Rに連結される。左右のプラネタリギヤ32L,32Rを支持する左右のキャリア34L,34Rは、左右の出力軸60L,60Rに連結される。左右のキャリア34L,34Rには、後述する左右のサービスブレーキ50L,50Rが取り付けられている。
【0039】
左右のステアリングクラッチ40L,40Rは、圧油の供給によって係合されるポジティブ式の湿式多板油圧クラッチ、又は、圧油の供給によって開放されるネガティブ式の湿式多板油圧クラッチである。左右のステアリングクラッチ40L,40Rは、左右のサンギヤ33L,33Rに対して係合及び開放可能である。左右のステアリングクラッチ40L,40Rの係合及び開放は、コントローラ100によって制御される。
【0040】
左右のステアリングクラッチ40L,40Rは、入力軸30a及び旋回モータ80から左右の出力軸60L,60Rへの左右の遊星歯車機構30L,30Rを介した回転動力の伝達及び遮断を切り替える。
【0041】
具体的には、左ステアリングクラッチ40Lが係合されると、副軸93(詳細は後述)が回転自由な状態となっている場合を除き、入力軸30aの回転は左リングギヤ31L、左プラネタリギヤ32L及び左キャリア34Lを介して左出力軸60Lに伝達される。一方、左ステアリングクラッチ40Lが開放されると、左サンギヤ33Lは自由回転状態になって、入力軸30aから左出力軸60Lへの回転動力の伝達は遮断される。同様に、右ステアリングクラッチ40Rは、その係合及び開放に応じて、入力軸30aから右出力軸60Rへの回転動力の伝達及び遮断を切り替える。
【0042】
ここで、左右のステアリングクラッチ40L,40Rは左右のクラッチギヤ91L,91Rと接続され、左右のクラッチギヤ91L,91Rとは入力軸30aを中心として回転可能である。左右のクラッチギヤ91L,91Rは、モータ動力伝達部90を介して伝達される旋回モータ80からの回転動力によって、互いに逆方向に回転する。
【0043】
旋回モータ80は、エンジン10の動力によって駆動される。旋回モータ80は、正回転方向及び反回転方向のいずれかで回転する。旋回モータ80の回転方向及び回転数は、コントローラ100によって制御される。なお、旋回モータ80は、油圧モータであっても電動モータであってもよい。
【0044】
旋回モータ80の回転動力は、モータ動力伝達部90を介して左右のステアリングクラッチ40L,40Rに伝達される。旋回モータ80は、左右のステアリングクラッチ40L,40Rがともに接続された状態において、左右のクラッチギヤ91L,91Rを互いに逆方向に回転させることによって左右の出力軸60L,60Rに回転数差を生じさせる。
モータ動力伝達部90は、左右のクラッチギヤ91L,91Rと、第1トランスファギヤ92と、副軸93と、第2トランスファギヤ94と、アイドラギヤ95と、ピニオンギヤ96と、差動ロックブレーキ97とを有する。
【0045】
左右のクラッチギヤ91L,91Rは、左右のステアリングクラッチ40L,40Rを介して左右のサンギヤ33L,33Rと離接可能である。左クラッチギヤ91Lは、アイドラギヤ95と噛み合う。右クラッチギヤ91Rは、第1トランスファギヤ92と噛み合う。第1トランスファギヤ92及び第2トランスファギヤ94は、副軸93によって互いに連結される。第2トランスファギヤ94は、アイドラギヤ95と噛み合う。アイドラギヤ95の回転は、左クラッチギヤ91Lに直接的に伝達されるとともに、第2トランスファギヤ94、副軸93及び第1トランスファギヤ92を介して右クラッチギヤ91Rに伝達される。左右のクラッチギヤ91L,91Rは、アイドラギヤ95から伝達される回転によって互いに逆方向に回転する。
【0046】
アイドラギヤ95は、左クラッチギヤ91L、第2トランスファギヤ94及びピニオンギヤ96と噛み合い、ピニオンギヤ96の回転を左クラッチギヤ91Lおよび第2トランスファギヤ94に伝達する。ピニオンギヤ96は、旋回モータ80の回転軸80aに連結される。ピニオンギヤ96は、回転軸80aを中心として回転する。
【0047】
差動ロックブレーキ97は、回転軸80aに取り付けられる。差動ロックブレーキ97は、圧油の供給によって係合されるポジティブ式の湿式多板油圧クラッチである。差動ロックブレーキ97の係合及び開放は、コントローラ100によって制御される。差動ロックブレーキ97が係合されると回転軸80aは回転不能になり、差動ロックブレーキ97が開放されると回転軸80aは回転可能になる。
【0048】
[左右のサービスブレーキ50L,50R]
左右のサービスブレーキ50L,50Rは、左右の出力軸60L,60Rの回転を制動する。左右のサービスブレーキ50L,50Rは、圧油の供給によって開放されるネガティブ式の湿式多板油圧ブレーキである。左右のサービスブレーキ50L,50Rの係合及び開放は、コントローラ100によって制御される。左右のサービスブレーキ50L,50Rは、圧油が供給されると開放され、圧油が供給されなければ係合される。
【0049】
[左右の出力軸60L,60R]
左右の出力軸60L,60Rは、トランスミッション20からの動力によって回転する。左右の出力軸60L,60Rの回転は、左右のサービスブレーキ50L,50Rが係合されると制動され、左右のサービスブレーキ50L,50Rが開放されると制動されない。
【0050】
[左右の終減速装置70L,70R]
左右の終減速装置70L,70Rは、左右の出力軸60L,60Rに取り付けられる。左右の終減速装置70L,70Rそれぞれには、駆動輪3Aが取り付けられる。
【0051】
[コントローラ100]
コントローラ100は、ブルドーザ1を走行させるために、エンジン10とトランスミッション20とを制御する。コントローラ100は、ブルドーザ1を停止させるために、トランスミッション20と、左右のサービスブレーキ50L,50Rとを制御する。
【0052】
コントローラ100は、走行中のブルドーザ1を旋回させるために、左右のステアリングクラッチ40L,40Rと、左右のサービスブレーキ50L,50Rと、旋回モータ80を制御する。
【0053】
本開示において、旋回は走行状態の一形態である。旋回は、緩旋回、信地旋回及び超信地旋回を含む概念である。緩旋回とは、左右の履帯装置1Aが異なる回転速度で回転することによってブルドーザ1が左又は右に曲がることを意味する。信地旋回とは、左右の履帯装置1Aの一方が停止し、他方が回転することによってブルドーザ1が所定の旋回中心周りに回ることを意味する。超信地旋回とは、左右の履帯装置1Aが同じ回転速度で逆向きに回転することによってブルドーザ1がその場で回転することを意味する。
【0054】
緩旋回では、左右のステアリングクラッチ40L,40Rの両方が係合され、旋回モータ80が左右の出力軸60L,60Rを同じ向きに異なる回転数で回転させ、かつ、左右のサービスブレーキ50L,50Rの両方が開放される。信地旋回では、左右のステアリングクラッチ40L,40Rのうち旋回側と反対のステアリングクラッチだけが係合され、旋回モータ80が左右の出力軸60L,60Rのうち旋回側と反対の出力軸だけを回転させ、かつ、左右のサービスブレーキ50L,50Rのうち旋回側のサービスブレーキだけが係合される。超信地旋回では、左右のステアリングクラッチ40L,40Rの両方が係合され、旋回モータ80が左右の出力軸60L,60Rを異なる向きに同じ回転数で回転させ、かつ、左右のサービスブレーキ50L,50Rの両方が開放される。
【0055】
図3は、ブルドーザ1が第1走行状態から停止状態に移行した後、停止状態から第2走行状態に移行するときのコントローラ100による制御内容を示す表である。図3では、第1及び第2走行状態として、1STの速度段でステアリング操作を行わずに前進する状態が想定されている。すなわち、図3では、前進1速で直進後に停止し、その後再び前進1速で直進する状態が想定されている。
【0056】
第1及び第2走行状態それぞれは、前進用クラッチ22b及び速度段クラッチ23dが係合され、かつ、後進用クラッチ22a、速度段クラッチ23a~23c、左右のサービスブレーキ50L,50R及び差動ロックブレーキ97が開放された状態である。
【0057】
停止状態は、速度段クラッチ23dが係合され、かつ、前進用クラッチ22b、速度段クラッチ23a~23c及び差動ロックブレーキ97が開放された状態である。
【0058】
ここで、コントローラ100は、ブルドーザ1が第1走行状態から停止状態に移行したことを認識後、速度段クラッチ23c及び差動ロックブレーキ97を係合させ、かつ、左右のサービスブレーキ50L,50Rに油圧を供給して開放させている。
【0059】
このように、走行状態において係合状態にあった速度段クラッチ23dの係合状態を維持したまま走行状態において開放状態にあった速度段クラッチ23cを係合させることによって、速度段クラッチ23c及び速度段クラッチ23dによる二重係合状態が作られる。これによって、左右のサービスブレーキ50L,50Rを開放させてもブルドーザ1を停止状態に保持することができる。特に、ブルドーザ1が傾斜地に停止している場合、速度段クラッチ23dのみの係合ではブルドーザ1がずり下がるおそれがあるが、速度段クラッチ23c及び速度段クラッチ23dを二重係合させることでブルドーザ1がずり下がることを抑制できる。また、停止状態から第2走行状態に移行する前に、左右のサービスブレーキ50L,50Rが開放されているため、停止状態から第2走行状態に移行するときに、左右のサービスブレーキ50L,50Rに圧油を供給する必要がない。よって、前進用クラッチ22bのみに圧油を供給すればよいため、前進用クラッチ22bと左右のサービスブレーキ50L,50Rとの間で圧油の取り合いが生じない。その結果、停止状態から第2走行状態に移行するときにブルドーザ1の動作が不安定になってしまうことを抑制できる。
【0060】
上記効果は、第2走行状態が超信地旋回である場合、すなわち、停止状態から超信地旋回に移行する場合において特に有効である。具体的には、停止状態におけるブルドーザ1のずり下がりが抑制されることによって、停止状態から安定した超信地旋回に移行することができる。また、超信地旋回へ移行する際に左右のサービスブレーキ50L,50Rへ圧油を供給する必要がないため、オペレータの操作に応じて速やかに超信地旋回へ移行することができる。
【0061】
また、差動ロックブレーキ97を係合させることによって左右の出力軸60L,60Rが回転不能になるため、左右の履帯装置1Aに不均衡な負荷がかかっていたとしても、差動操向機構30の差動作用によってブルドーザ1が回転してしまうことを抑制できる。
【0062】
なお、上述の実施形態では、差動ロックブレーキ97を有するものについて説明したが、差動ロックブレーキ97は必ずしも必要ではない。旋回モータ80を回転させない状態において旋回モータ80の回転抵抗だけで差動機構30の差動作用を止めることができる場合には(すなわち、旋回モータ80のブレーキ力だけで差動作用を止めることができる場合には)、差動ロックブレーキ97は不要である。
【0063】
また、上述の実施形態では、左右のステアリングクラッチ40L,40Rを有するものについて説明したが、左右のステアリングクラッチ40L,40Rは必ずしも必要ではない。
【0064】
(実施形態の変形例)
本発明は以上のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形又は修正が可能である。
【0065】
(変形例1)
上記実施形態において、ブルドーザ1は、差動操向機構30を備えることとしたが、差動操向機構30を備えていなくてよい。
【0066】
例えば、図4に示すように、ブルドーザ1aは、入力軸30bと、左右のステアリングクラッチ41L,41Rと、左右のキャリア42L,42Rとを備えていてよい。
【0067】
左右のステアリングクラッチ41L,41Rは、入力軸30bの両端に接続される。左右のステアリングクラッチ41L,41Rは、圧油の供給によって係合されるポジティブ式の湿式多板油圧クラッチ又は、圧油の供給によって開放されるネガティブ式の湿式多板油圧クラッチである。左右のクラッチドラム42L,42Rは、左右のステアリングクラッチ41L,41Rと左右の出力軸60L,60Rとを連結する。左右のクラッチドラム42L,42Rには、左右のサービスブレーキ50L,50Rが取り付けられている。上記実施形態にて説明したとおり、左右のサービスブレーキ50L,50Rは、ネガティブ式の湿式多板油圧ブレーキである。
【0068】
このように、差動操向機構30を備えないブルドーザ1aにおいても、図3で説明したように各種クラッチ及びサービスブレーキ50L,50Rを制御することによって、停止状態から第2走行状態に移行するときにブルドーザ1の動作が不安定になってしまうことを抑制できる。
【0069】
(変形例2)
上記実施形態において、差動操向機構30は、左右の遊星歯車機構30L,30Rを含むこととしたが、左右の遊星歯車機構30L,30Rを含んでいなくてよい。
【0070】
(変形例3)
上記実施形態において、コントローラ100は、差動ロックブレーキ97を係合させることによって左右の出力軸60L,60Rを回転不能にすることとしたが、左右の出力軸60L,60Rを回転不能にする方法はこれに限られない。例えば、アイドラギヤ95やピニオンギヤ96を機械的に固定することによって左右の出力軸60L,60Rを回転不能としてもよい。
【0071】
(変形例4)
上記実施形態において、コントローラ100は、速度段クラッチ23c及び速度段クラッチ23dを二重係合させることとしたが、二重係合させるクラッチの組み合わせはこれに限られない。コントローラ100は、走行状態から停止状態に移行した後、複数の速度段クラッチのうち走行状態において係合状態にある速度段クラッチと走行状態において開放状態にある速度段クラッチとを二重係合させればよい。走行状態において係合状態にある速度段クラッチは本開示に係る「第1の速度段クラッチ」であり、走行状態において開放状態にある速度段クラッチは本開示に係る「第2の速度段クラッチ」である。第1の速度段クラッチと第2の速度段クラッチとは、走行状態において、一方が開放状態にあるとともに他方が係合状態となる関係を有する。
【0072】
(変形例5)
上記実施形態において、トランスミッション20は、速度段クラッチ23a~23dを有することとしたが、これに限られない。トランスミッション20は、少なくとも2つの速度段クラッチを有していればよい。例えば、トランスミッション20が速度段クラッチを2つ有している場合、走行状態において係合状態にある一方の速度段クラッチが本開示に係る「第1の速度段クラッチ」であり、走行状態において開放状態にある他方の速度段クラッチが本開示に係る「第2の速度段クラッチ」である。
【0073】
(変形例6)
上記実施形態において、コントローラ100は、ブルドーザ1が走行状態から停止状態に移行した後に差動ロックブレーキ97を係合させることとしたが、走行状態から停止状態に移行すると同時に差動ロックブレーキ97を係合させてよい。
【符号の説明】
【0074】
1,1a,1b ブルドーザ
10 エンジン
20 トランスミッション
22 方向段クラッチ
23a~23d 速度段クラッチ
30 差動操向機構
40L,40R 左右のステアリングクラッチ
50L,50R 左右のサービスブレーキ
60L,60R 左右の出力軸
80,81 旋回モータ
100 コントローラ
図1
図2
図3
図4