(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023118576
(43)【公開日】2023-08-25
(54)【発明の名称】インピーダンス呼吸測定装置およびインピーダンス呼吸測定方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/053 20210101AFI20230818BHJP
【FI】
A61B5/053
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022021589
(22)【出願日】2022-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】000112602
【氏名又は名称】フクダ電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 健一
(72)【発明者】
【氏名】木本 一美
(72)【発明者】
【氏名】岸本 一真
【テーマコード(参考)】
4C127
【Fターム(参考)】
4C127AA06
4C127FF02
4C127KK07
(57)【要約】
【課題】呼吸検出信号の検波時の位相ずれに起因する呼吸の未検出を防止できる、インピーダンス呼吸測定装置を提供すること。
【解決手段】インピーダンス呼吸測定装置は、所定周期をもつ基準信号から電極に印加する検査信号を形成する検査信号形成部と、生体に電極を介して検査信号が印加されたときに電極に現れる電位差を呼吸検出信号として検出する検出部と、マスク信号としてのインヒビット信号を発生するマスク信号発生部と、マルチプレクサによって構成されており、呼吸検出信号を基準信号およびインヒビット信号を用いて検波することにより、呼吸検出信号に含まれる呼吸波形を抽出する検波部と、検波部に入力される基準信号および/またはインヒビット信号の位相を制御する位相制御部と、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の呼吸器官近傍の体表に取り付けられた電極に検査信号を印加したときに得られる検出信号に基づいて呼吸に伴う電極間のインピーダンス変化を検出し、当該インピーダンス変化に基づいて呼吸を測定するインピーダンス呼吸測定装置であって、
所定周期をもつ基準信号から前記電極に印加する検査信号を形成する検査信号形成部と、
前記生体に前記電極を介して前記検査信号が印加されたときに前記電極に現れる電位差を呼吸検出信号として検出する検出部と、
マスク信号としてのインヒビット信号を発生するマスク信号発生部と、
マルチプレクサによって構成されており、前記呼吸検出信号を前記基準信号および前記インヒビット信号を用いて検波することにより、前記呼吸検出信号に含まれる呼吸波形を抽出する検波部と、
前記検波部に入力される前記基準信号および/または前記インヒビット信号の位相を制御する位相制御部と、
を備えるインピーダンス呼吸測定装置。
【請求項2】
前記検波部は、入力した前記呼吸検出信号を、前記基準信号がアクティブの状態のときに出力するとともに、前記基準信号がアクティブの状態であっても前記インヒビット信号がアクティブの状態のときには出力を停止する、
請求項1に記載のインピーダンス呼吸測定装置。
【請求項3】
前記位相制御部は、前記基準信号および/または前記インヒビット信号の位相を90°シフトするモードを有する、
請求項1または2に記載のインピーダンス呼吸測定装置。
【請求項4】
前記位相制御部は、ユーザー操作による操作信号に基づいて、前記基準信号および/または前記インヒビット信号の位相を90°シフトする、
請求項3に記載のインピーダンス呼吸測定装置。
【請求項5】
前記位相制御部は、前記検波部から出力される前記呼吸波形の振幅に基づいて、前記基準信号および/または前記インヒビット信号の位相を制御する、
請求項1または2に記載のインピーダンス呼吸測定装置。
【請求項6】
前記位相制御部は、前記基準信号の立ち上りおよび立ち下り位置において、前記インヒビット信号がアクティブの状態となるように、前記インヒビット信号の位相を制御する、
請求項2から5のいずれか一項に記載のインピーダンス呼吸測定装置。
【請求項7】
前記マスク信号発生部は、さらに、前記インヒビット信号のデューティー比を変更する、
請求項6に記載のインピーダンス呼吸測定装置。
【請求項8】
前記位相制御部は、前記基準信号および前記インヒビット信号の位相を90°シフトすることで90°位相がシフトされた基準信号およびインヒビット信号を形成し、
前記検波部は、それぞれ、位相が90°異なる前記基準信号および前記インヒビット信号を用いて前記呼吸検出信号を検波することにより第1および第2の呼吸波形を得る第1および第2の検波部を備え、
前記インピーダンス呼吸測定装置は、さらに、前記第1および第2の呼吸波形をベクトル合成するベクトル合成部を備える、
請求項1または2に記載のインピーダンス呼吸測定装置。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載のインピーダンス呼吸測定装置を備える、
生体情報モニター。
【請求項10】
生体の呼吸器官近傍の体表に取り付けられた電極に検査信号を印加したときに得られる検出信号に基づいて呼吸に伴う電極間のインピーダンス変化を検出し、当該インピーダンス変化に基づいて呼吸を測定するインピーダンス呼吸測定方法であって、
所定周期をもつ基準信号から前記電極に印加する検査信号を形成するステップと、
前記生体に前記電極を介して前記検査信号が印加されたときに前記電極に現れる電位差を呼吸検出信号として検出するステップと、
マスク信号としてのインヒビット信号を発生するステップと、
前記呼吸検出信号を前記基準信号および前記インヒビット信号を用いて検波することにより、前記呼吸検出信号に含まれる呼吸波形を抽出する検波ステップと、
前記検波ステップで用いる前記基準信号および/または前記インヒビット信号の位相を制御する位相制御ステップと、
を含むインピーダンス呼吸測定方法。
【請求項11】
前記位相制御ステップでは、前記基準信号および前記インヒビット信号の位相を90°シフトすることで90°位相がシフトされた基準信号およびインヒビット信号を形成し、
前記検波ステップでは、それぞれ、位相が90°異なる前記基準信号および前記インヒビット信号を用いて前記呼吸検出信号を検波することにより第1および第2の呼吸波形を得、
前記インピーダンス呼吸測定方法は、さらに、前記第1および第2の呼吸波形をベクトル合成するステップを含む、
請求項10に記載のインピーダンス呼吸測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同期検波方式を用いて呼吸による電極間のインピーダンス変化を検出し、その変化に基づいて呼吸を測定する、インピーダンス呼吸測定装置およびインピーダンス呼吸測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インピーダンス呼吸測定装置は、例えば新生児などの呼気ガスに基づいて呼吸を測定することが困難な被検者の呼吸を測定する装置として広く使用されている。
【0003】
従来のインピーダンス呼吸測定装置に関する技術は、例えば特許文献1で開示されている。インピーダンス呼吸測定装置は、被検者の胸部に貼着された一対の電極に例えば33kHzの検査信号を印加する。そのときに電極で得られる検出信号(以下「呼吸検出信号」と呼ぶことがある)に基づいて、被検者の呼吸による電気インピーダンス変化を検出する。この際、インピーダンス呼吸測定装置は、呼吸検出信号を例えば33kHzの基準信号(検波信号)で同期検波することで、呼吸による変動成分(呼吸波形)を抽出する。インピーダンス呼吸測定装置は、この変動成分に基づいて、被検者の呼吸数などを測定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、生体(被検者)の個体差や電極などの機器の状態に起因して、呼吸検出信号の検波時に、呼吸検出信号、基準信号(検波信号)およびマスク信号(インヒビット信号)の間で位相ずれが生じることがある。この位相ずれが生じると、検波による利得が十分に得られず、呼吸によるインピーダンスの変化を十分に捉えることができなくなる。その結果、実際には呼吸しているにも関わらず、無呼吸であるといった誤った測定結果が得られるおそれがある。
【0006】
本発明は、以上の点を考慮してなされたものであり、呼吸検出信号の検波時の位相ずれに起因する呼吸の未検出を防止できる、インピーダンス呼吸測定装置およびインピーダンス呼吸測定方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のインピーダンス呼吸測定装置の一つの態様は、
生体の呼吸器官近傍の体表に取り付けられた電極に検査信号を印加したときに得られる検出信号に基づいて呼吸に伴う電極間のインピーダンス変化を検出し、当該インピーダンス変化に基づいて呼吸を測定するインピーダンス呼吸測定装置であって、
所定周期をもつ基準信号から前記電極に印加する検査信号を形成する検査信号形成部と、
前記生体に前記電極を介して前記検査信号が印加されたときに前記電極に現れる電位差を呼吸検出信号として検出する検出部と、
マスク信号としてのインヒビット信号を発生するマスク信号発生部と、
マルチプレクサによって構成されており、前記呼吸検出信号を前記基準信号および前記インヒビット信号を用いて検波することにより、前記呼吸検出信号に含まれる呼吸波形を抽出する検波部と、
前記検波部に入力される前記基準信号および/または前記インヒビット信号の位相を制御する位相制御部と、
を備える。
【0008】
本発明のインピーダンス呼吸測定方法の一つの態様は、
生体の呼吸器官近傍の体表に取り付けられた電極に検査信号を印加したときに得られる検出信号に基づいて呼吸に伴う電極間のインピーダンス変化を検出し、当該インピーダンス変化に基づいて呼吸を測定するインピーダンス呼吸測定方法であって、
所定周期をもつ基準信号から前記電極に印加する検査信号を形成するステップと、
前記生体に前記電極を介して前記検査信号が印加されたときに前記電極に現れる電位差を呼吸検出信号として検出するステップと、
マスク信号としてのインヒビット信号を発生するステップと、
前記呼吸検出信号を前記基準信号および前記インヒビット信号を用いて検波することにより、前記呼吸検出信号に含まれる呼吸波形を抽出する検波ステップと、
前記検波ステップで用いる前記基準信号および/または前記インヒビット信号の位相を制御する位相制御ステップと、
を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、呼吸検出信号の検波時の位相ずれに起因する呼吸の未検出を防止できる、インピーダンス呼吸測定装置およびインピーダンス呼吸測定方法を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態に係るインピーダンス呼吸測定装置が搭載される生体情報モニター(ベッドサイドモニター)の外観構成を示す斜視図
【
図3】インピーダンス呼吸測定部の回路構成を示すブロック図
【
図4】インピーダンス呼吸測定に用いられる電極の貼着位置の例を示す図
【
図5】被検者(つまり生体)の電気的等価回路と、検査信号が当該等価回路を通過することにより呼吸検出信号へと変化する様子を示した図
【
図6】インピーダンス呼吸測定部の基本動作の説明に供する図であり(インピーダンス呼吸測定部が位相制御部を有さない場合の動作例を示す図であり)、
図6Aは検波回路に入力される各信号波形を示す図、
図6Bは検波回路からの出力波形を示す図、
図6Cはローパスフィルターを通過させることにより得られる包絡線を示す図、
図6Dは最終的に得られる呼吸波形を示す図
【
図7】インヒビット信号によってマスクされるマスク領域を示す図
【
図8】インヒビット信号によるマスク処理が良好に行われなかった例を示す図
【
図9】インヒビット信号によるマスク処理が良好に行われなかった例を示す図
【
図10】位相制御部によってインヒビット信号の位相を90°シフトさせて検波回路に入力させた例を示す図
【
図11】基準信号(検波信号)の位相は変えずに、インヒビット信号の位相を90°早めた例を示す図
【
図12】インヒビット信号の位相は変えずに、基準信号(検波信号)の位相を90°遅らせた例を示す図
【
図13】基準信号(検波信号)とインヒビット信号の両方の位相を90°遅らせた例を示す図
【
図14】
図14Aは実施の形態による位相制御を行う前の呼吸波形を示す図、
図14Bは実施の形態による位相制御を行った後の呼吸波形を示す図
【
図15】インピーダンス呼吸測定部の他の回路構成例を示すブロック図
【
図16】インヒビット信号のデューティー比を変更した例を示す図
【
図17】インピーダンス呼吸測定部の他の回路構成例を示すブロック図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
<1>生体情報モニターの全体構成
図1は、本実施の形態に係るインピーダンス呼吸測定装置が搭載される生体情報モニター(ベッドサイドモニター)10の外観構成を示す斜視図である。
【0013】
生体情報モニター10は、前面に表示部101が設けられている。また、生体情報モニター10の前面には、スタンバイスイッチ11およびアラームインジケーター12などが設けられている。
【0014】
生体情報モニター10の一側面には、生体情報の測定にかかわるコネクター群が設けられている。具体的には、ECG(Electrocardiogram)コネクター13a、NIBP(Non-Invasive Blood Pressure)コネクター13bおよびSpO2コネクター13cなどが設けられている。また、コネクター群の下方位置には、オプションの生体情報測定処理を実現するためのモジュールが取り付け可能なモジュール接続部14が設けられている。ちなみに、生体情報モニター10の他方の側面(図示せず)には、USBコネクター、LAN接続コネクターおよびレコーダーなどが設けられている。
【0015】
図2は、生体情報モニター10の構成を示すブロック図である。生体情報モニター10は、コネクター部110を介して、心電図およびインピーダンス呼吸を検出するための心電電極111、血圧を検出するための血圧測定用カフ112、体温を検出するための体温センサー113、SpO2を検出するためのSpO2センサー114、および心拍出量を検出するための心拍出量センサー115などの生体情報検出部が接続されている。コネクター部110は、生体情報検出部と計測処理部104との間のインタフェースとして機能する。なお、コネクター部110には、
図1で示したECGコネクター13a、NIBPコネクター13bおよびSpO2コネクター13cが含まれる。
【0016】
計測処理部104は、記憶部105に記憶されたプログラムを実行することで、所定の計測処理を実行する。この計測処理によって、計測処理部104は、コネクター部110に接続された生体情報検出部(心電電極111、血圧測定用カフ112、体温センサー113、SpO2センサー114および心拍出量センサー115)を用いて被検者の生体情報を計測する。なお、上記生体情報検出部を用いた各種生体情報の計測方法については従来周知のものを適用可能であるため、ここではその詳細な説明を省略する。
【0017】
また、計測処理部104は、過去に計測した生体情報を記憶部105に記憶させる動作、および、記憶部105に記憶されている生体情報を読み出す動作を行うことができるようになっている。さらに、計測処理部104によって得られた生体情報は、表示制御部102を介して表示部101に計測値または波形の形式で表示される。
【0018】
表示部101は、例えばタッチパネル付き液晶表示器であり、生体情報を表示する表示機能を有するだけでなく、ユーザーによる入力操作を受け付ける入力部としての機能も有する。具体的には、ユーザーによる表示部101のタッチ操作によって、表示制御部102による表示部101の表示や計測処理部104の処理が変更される。なお、本実施の形態では、表示部101をタッチ操作することで各種設定などのユーザー操作を受け付けるようになっているが、例えばキーボードやマウス、専用のボタンなどを使ってユーザー操作を受け付けるようにしてもよい。
【0019】
また、計測処理部104には、インピーダンス呼吸測定部200が含まれる。インピーダンス呼吸測定部200は、心電電極111により検出されるインピーダンス変化に基づいて被検者の呼吸を測定するようになっている。
【0020】
<2>インピーダンス呼吸測定部200の構成
図3は、インピーダンス呼吸測定部200の回路構成を示すブロック図である。
【0021】
インピーダンス呼吸測定部200は基準信号発生回路201を有し、基準信号発生回路201は基準信号(以下これを「呼吸ドライブ信号」と呼ぶことがある)として例えば33.3kHzの矩形波を発生する。本実施の形態の場合、基準信号発生回路201は基準信号として正相および逆相の基準信号S11、S12を発生して出力する。
【0022】
なお、基準信号発生回路201が発生する基準信号S11、S12の周波数は、これに限らず、例えば数十kHz~数百kHz程度であってもよし、それ以上であってもよい。
【0023】
基準信号S11、S12はそれぞれ、ローパスフィルター(LPF)202およびアンプ(AMP)203を介して検査信号S1、S2とされ、これが被検者(生体)B0に貼着された電極(本実施の形態の場合には、心電電極111)に印加される。
【0024】
また、インピーダンス呼吸測定部200は検波回路205を有する。検波回路205は、アンプ(AMP)204を介して、被検者(生体)B0に貼着された電極(心電電極111)に接続されている。これにより、検波回路205には検査信号S1、S2に被検者の呼吸に起因する低周波変動成分(インピーダンス変化成分と言ってもよい)が重畳された呼吸検出信号S1′、S2′が入力される。
【0025】
また、基準信号発生回路201から出力された基準信号S12は、位相制御部230に入力される。そして、位相制御後の基準信号S30が検波回路205に入力される。以下では、検波回路205に入力される基準信号を「検波信号」と呼ぶことがある。なお、位相制御部230に基準信号S12に代えて基準信号S11を入力させ、基準信号S11を位相制御することで、位相制御後の基準信号S30を形成するようにしてもよい。
【0026】
また、マスク信号発生回路220から出力されたマスク信号としてのインヒビット信号S20は、位相制御部230に入力され、当該位相制御部230によって位相制御され、位相制御後のインヒビット信号S40が検波回路205に入力される。
【0027】
ここで、インヒビット信号S20は、基準信号S11、S12に対して周期が1/2の信号である。
【0028】
図3の例においては、位相制御部230は、ユーザー操作により設定される操作設定情報に基づいて基準信号S12(またはS11)およびインヒビット信号S20の位相を制御する。この位相制御については、後で詳しく説明する。
【0029】
検波回路205は、呼吸検出信号S1′、S2′を位相制御後の基準信号S30で検波することにより呼吸による変動成分を抽出するとともに、不要部分を位相制御後のインヒビット信号S40によってマスクする。
【0030】
検波回路205の出力信号S1”、S2”はそれぞれ、ローパスフィルター(LPF)206を介して差動増幅器207に入力される。差動増幅器207の出力は、ハイパスフィルター(HPF)208、アンプ(AMP)209、ローパスフィルター(LPF)210およびアナログディジタル変換回路211を通過することで、呼吸の周波数に対応する周波数成分(例えば0.1~1.5Hz)のみが通過され増幅されディジタル化され、呼吸波形データS3とされる。
【0031】
呼吸波形データS3によって示される呼吸波形は、表示制御部102を介して表示部101に表示され得る。また、計測処理部104は、呼吸波形データS3に基づいて呼吸数を計測する。計測処理部104は、呼吸数が下限閾値未満となった場合あるいは上限閾値以上になった場合には、アラームインジケーター103をアラームを出力するように制御する。
【0032】
<3>インピーダンス呼吸測定部200の動作
次に、インピーダンス呼吸測定部200の動作について説明する。
【0033】
図4は、インピーダンス呼吸測定に用いられる電極の貼着位置の例を示す図である。本実施の形態の例では、被検者の右鎖骨下部に貼着された電極E1に正相の検査信号S1を印加するとともに、左下腹部に貼着された電極E2に逆相の検査信号S2を印加する。
【0034】
なお、逆相の検査信号S2は、左鎖骨下部に貼着された電極E3に印加されてもよい。さらに、検査信号S1、S2の印加位置は、これに限らず、要は呼吸に起因する生体B0のインピーダンス変化を検出可能な位置であればよい。
【0035】
また、本実施の形態の例では、被検者の右鎖骨下部に貼着された電極E1を介して検査信号S1についての呼吸検出信号S1′を得るとともに、左下腹部に貼着された電極E2を介して検査信号S2についての呼吸検出信号S2′を得る。
【0036】
図5は、被検者(つまり生体B0)の電気的等価回路と、検査信号S1、S2が当該等価回路を通過することにより呼吸検出信号S1′、S2′へと変化する様子を示した図である。図中の記号Zbは生体B0や電極E1、E2の接触抵抗を含む抵抗を示し、記号ΔZは呼吸によるインピーダンス変化を示すものである。このインピーダンス変化ΔZに応じて、検査信号S1、S2がそれぞれ呼吸検出信号S1′、S2′へと変化する。なお、
図5では、信号波形を分かり易く示すために、便宜上、周波数を実際の周波数よりも低く示している。
【0037】
図6は、インピーダンス呼吸測定部200の基本動作の説明に供する図である。
図6は、インピーダンス呼吸測定部200が位相制御部230を有さない場合の動作例である。
図6Aは検波回路205に入力される各信号波形を示す図であり、
図6Bは検波回路205からの出力波形を示す図であり、
図6Cはローパスフィルター206を通過させることにより得られる包絡線を示す図であり、
図6Dは最終的に得られる呼吸波形を示す図である。
【0038】
検波回路205は、例えばマルチプレクサ等のアナログスイッチにより構成されている。検波回路205は、入力された呼吸検出信号S1′、S2′を、基準信号S12に基づいて切り換えながら出力する。これにより、
図6Bから分かるように、検波回路205は、呼吸検出信号S1′、S2′の頂点近傍のみを出力する。
【0039】
さらに、検波回路205は、インヒビット信号S20によって出力を止めることで検波出力の所定領域をマスクする。
図7は、インヒビット信号S20によってマスクされるマスク領域を示す図である。
図7からも分かるように、検波回路205は、インヒビット信号S20に基づき、マルチプレクスの出力信号の切替部分をマスクする。
【0040】
具体的には、検波回路205は、インヒビット信号S20がHighのときに出力を止める。換言すれば、検波回路205は、入力した呼吸検出信号S1′、S2′を、基準信号S12がHighの状態のときに出力するとともに、基準信号S12がHighの状態であってもインヒビット信号S20がHighの状態のときには出力を停止する。
【0041】
これにより、呼吸検出信号S1′、S2′の頂点近傍のみを残すことができるので、続くローパスフィルタリングにより得られる包絡線(
図6C)の形状を整えることができるようになる。換言すれば、包絡線の形状を、呼吸による変動を良く反映したものとすることができる。
【0042】
ここで、
図6に示した例は、インヒビット信号S20によるマスク処理が良好に行われた例である。一方、
図8および
図9は、インヒビット信号S20によるマスク処理が良好に行われなかった例である。
【0043】
図8の例では、インヒビット信号S20のHighの部分がマルチプレクスの切替を制御する基準信号(検波信号)S12の立ち上がりおよび立ち下がり部分からずれているので、検波回路205から出力される呼吸検出信号S1′、S2′の最大振幅の半分程度がマスクされてしまっている。
【0044】
図9の例では、インヒビット信号S20のHighの部分が、マルチプレクスの切替を制御する基準信号(検波信号)S12の立ち上がりおよび立ち下がり部分に一致してはいるものの、呼吸検出信号S1′、S2′のピーク部分と重なってしまっているので、検波回路205から出力される呼吸検出信号S1′、S2′の最大振幅部分がマスクされてしまっている。
【0045】
このように、インヒビット信号S20と基準信号(検波信号)S12との位相関係が不適切である場合(
図8)、あるいは、インヒビット信号S20と呼吸検出信号S1′、S2′との位相関係が不適切である場合(
図9)には、検波回路205からの出力信号において、マスク処理が良好に行われずに、呼吸検出信号S1′、S2′の最大振幅近傍が削られてしまうので、十分な利得が得られず、結果として、呼吸波形(
図6D)の振幅が小さくなってしまう不都合が生じる。すると、上述した発明を解決しようとする課題の項でも説明したように、実際には被検者が呼吸しているにも関わらず、無呼吸であるといった誤った測定結果が得られるおそれがある。
【0046】
本発明は、この点に着目してなされたものであり、インピーダンス呼吸測定部200に位相制御部230を設け、当該位相制御部230によって検波回路205に入力する基準信号S12および/またはインヒビット信号S20の位相を適切に制御することにより、インヒビット信号S40によって呼吸検出信号S1′、S2′の最大振幅近傍をマスクせずに、十分な振幅の呼吸波形(
図6D)を得ることができるようになっている。
【0047】
図10は、
図8に示したような不適切な位相関係から、位相制御部230によってインヒビット信号S20の位相を90°シフトさせてインヒビット信号S40として検波回路205に入力させた例を示す。このようにすることで、インヒビット信号S40が呼吸検出信号S1′、S2′の最大振幅近傍をマスクしなくなり、マルチプレクスの切替部分を良好にマスクできるようになる。
【0048】
なお、
図10の例では、位相制御部230がインヒビット信号S20の位相を90°シフトさせてインヒビット信号S40として検波回路205に入力させた例を示したが、位相制御部230による位相制御はこれに限らない。位相制御部230が行うべき位相制御のパターンは、以下の通りである。
【0049】
・パターン1:
図11に示したように、基準信号(検波信号)S30の位相は変えずに、インヒビット信号S40の位相を90°早める。このパターン1は、上述した
図10と同じである。
【0050】
・パターン2:
図12に示したように、インヒビット信号S40の位相は変えずに、基準信号(検波信号)S30の位相を90°遅らせる。
【0051】
・パターン3:
図13に示したように、基準信号(検波信号)S30とインヒビット信号S40の両方の位相を90°遅らせる。
【0052】
パターン1の位相制御を行うことにより、インヒビット信号S20と呼吸検出信号S1′、S2′との位相の相対関係が、インヒビット信号S20により呼吸検出信号S1′、S2′の最大振幅近傍をマスクしてしまうような関係である場合に、これを回避できるようになる。
【0053】
また、パターン2の位相制御を行うことにより、基準信号(検波信号)S12と呼吸検出信号S1′、S2′との位相の相対関係が、検波の同期が外れてしまうような関係である場合に、これを回避できるようになる。
【0054】
また、パターン3の位相制御を行うことにより、インヒビット信号S20と呼吸検出信号S1′、S2′との位相の相対関係が、インヒビット信号S20により呼吸検出信号S1′、S2′の最大振幅近傍をマスクしてしまうような関係であり、かつ、基準信号(検波信号)S12と呼吸検出信号S1′、S2′との位相の相対関係が、検波の同期が外れてしまうような関係である場合に、これらを回避できるようになる。
【0055】
上記パターン1~3のいずれの位相制御を行うかは、インヒビット信号S20と呼吸検出信号S1′、S2′との位相の相対関係、および、基準信号(検波信号)S12と呼吸検出信号S1′、S2′との位相の相対関係を考慮して行うことが好ましい。
【0056】
図14は、上記パターン1~3の位相制御を行う前(
図14A)と、上記パターン1~3の位相制御を行った後(
図14B)の呼吸波形を示した図である。具体的に説明すると、
図14Aは、インヒビット信号S20および/または基準信号(検波信号)S12の位相ずれに起因して、呼吸波形の振幅が小さくなってしまっている状態を示す。
図14Aのように、呼吸波形の振幅が小さくなると、実際には被検者が呼吸しているにも関わらず、無呼吸であるといった誤った測定結果が得られるおそれがある。
【0057】
これに対して、本実施の形態によれば、パターン1~3の位相制御を行うことで、インヒビット信号S20および/または基準信号(検波信号)S12の位相ずれを解消して、
図14Bに示したような本来の呼吸波形を得ることができるので、呼吸検出信号S1′、S2′の復調時の位相ずれに起因する呼吸の未検出を防止できるようになる。
【0058】
ここで、位相制御部230による上記パターン1~3の位相制御の実現の仕方については、例えば以下のような方法を採用することができる。
【0059】
・方法1: ユーザーが手動でパターン1~3における位相切り替えを行う。この場合、
図3に示したように、位相制御部230にユーザー操作に応じた操作設定情報を入力し、位相制御部230がユーザー操作に応じて上述のパターン1~3のいずれかの位相制御を行う。具体的に説明すると、ユーザーは表示部101に表示された呼吸波形を見ながら、呼吸波形の振幅が小さいと判断した場合には、位相制御部230に上述のパターン1~3のいずれかの制御を行うことを指示するための操作を行う。例えば、ユーザーはタッチパネル構成である表示部101に所定の操作画面が表示された際に、所定位置をタッチ操作することで上記制御を行うことを指示するための操作を行う。この操作に応じて位相制御部230がパターン1~3のいずれかの位相制御を行う。これにより、インヒビット信号S20および/または基準信号(検波信号)S12の位相ずれに起因する呼吸波形の振幅の低下を抑制できるようになる。
【0060】
・方法2:
図3との対応部分に同一符号を付した
図15に示したように、位相制御部230が、検波回路205から出力される呼吸波形の振幅に基づいて基準信号S30および/またはインヒビット信号S40の位相を制御する。具体的には、
図15のインピーダンス呼吸測定部300は、位相制御部230に呼吸波形データS3を入力する。位相制御部230は、呼吸波形の振幅が大きくなるように、上記パターン1~3の位相制御を適宜行う。このようにすることで、インヒビット信号S40および基準信号(検波信号)S30の位相が最適化される。なお、
図15では位相制御部230に呼吸波形データS3を入力させた場合について述べたが、CPU(図示せず)などの他の演算制御部に呼吸波形データS3を入力させ、CPUが呼吸波形の振幅が大きくなるように位相制御部230を制御してもよい。
【0061】
<4>まとめ
以上説明したように、本実施の形態によれば、インピーダンス呼吸測定装置(インピーダンス呼吸測定部200、300、400)は、生体B0の呼吸器官近傍の体表に取り付けられた電極E1~E3に検査信号S1、S2を印加したときに得られる検出信号(呼吸検出信号S1′、S2′)に基づいて呼吸に伴う電極間のインピーダンス変化を検出し、当該インピーダンス変化に基づいて呼吸を測定するインピーダンス呼吸測定装置(インピーダンス呼吸測定部200、300、400)であって、所定周期をもつ基準信号S11、S12から電極E1~E3に印加する検査信号S1、S2を形成する検査信号形成部(ローパスフィルター202、アンプ203)と、生体B0に電極E1~E3を介して検査信号S1、S2が印加されたときに電極E1~E3に現れる電位差を呼吸検出信号として検出する検出部(抵抗R、アンプ204)と、マスク信号としてのインヒビット信号S20を発生するマスク信号発生部(マスク信号発生回路220)と、マルチプレクサによって構成されており、呼吸検出信号S1′、S2′を基準信号S12(S11)およびインヒビット信号S20を用いて検波することにより、呼吸検出信号S1′、S2′に含まれる呼吸波形(呼吸波形データS3)を抽出する検波部(検波回路205)と、検波部(検波回路205)に入力される基準信号S30および/またはインヒビット信号S40の位相を制御する位相制御部230、240と、有する。
【0062】
これにより、位相制御部230、240によって検波部(検波回路205)に入力される基準信号S30および/またはインヒビット信号S40の位相が制御されるので、呼吸検出信号S1′、S2′の検波時において、呼吸波形(呼吸波形データS3)の振幅が小さくなってしまうような、呼吸検出信号S1′、S2′、基準信号(検波信号)S30およびマスク信号(インヒビット信号)S40の間での位相ずれを解消できるようになる。この結果、呼吸検出信号S1′、S2′の検波時の位相ずれに起因する呼吸の未検出を防止できる、インピーダンス呼吸測定装置(インピーダンス呼吸測定部200、300、400)およびインピーダンス呼吸測定方法を実現できる。
【0063】
ちなみに、従来のインピーダンス呼吸測定装置の使用時において、ユーザーは、被検者が呼吸をしているにも関わらず呼吸波形の振幅が小さいと判断した場合には、電極E1~E3を呼吸が取れる位置(つまり呼吸波形の振幅が大きくなる位置)に貼り替えることで対処していた。本実施の形態によれば、このようなユーザーの判断に委ねて電極E1~E3の位置を変更することなしに、検波時の位相ずれに起因する呼吸の未検出を防止できるようになる。
【0064】
上述の実施の形態は、本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその要旨、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【0065】
上述の実施の形態では、基準信号発生回路201が正相および逆相の基準信号S11、S12を発生し、生体B0に正相および逆相の検査信号S1、S2を印加した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、基準信号発生回路201が正相または逆相の基準信号S11またはS12のいずれか一方を発生し、生体B0に正相または逆相のいずれか一方の検査信号S1またはS2を印加した場合にも上述の実施の形態と同様に実施できる。ただし、上述の実施の形態のように正相および逆相の検査信号S1、S2を印加すると、差動増幅器207で大きなゲインを得ることができるので、呼吸の検出精度を向上させることができる。
【0066】
上述の実施の形態では、インヒビット信号を全体的に位相シフトさせることで、基準信号の立ち上りおよび立ち下り位置において、インヒビット信号がHighの状態となるように、インヒビット信号の位相を制御する場合について述べたが、これに限らない。例えば、
図16に示したように、インヒビット信号のデューティー比を、インヒビット信号の中央位置と、基準信号(検波信号)の立ち上りおよび立ち下がり位置とが一致するように変更してもよい。このようにすれば、例えば、位相制御によるマスク処理だけでは位相関係を最適化できなかった場合でも、位相制御を補ってマスク処理を最適化することができるようになる。
【0067】
上述の実施の形態では、呼吸検出信号の検波時の位相ずれに起因する呼吸の未検出を防止するための構成例として、位相制御部230がユーザー操作に基づいて位相制御を行う例(
図3)、および、位相制御部230が呼吸波形データS13に基づいて位相制御を行う例(
図15)について説明した。本発明は、
図3および
図15の構成例に限らず、
図17のような構成を採用することもできる。
【0068】
図3との対応部分に同一符号を付した
図17のインピーダンス呼吸測定部400は、ベクトル合成部410を有する。インピーダンス呼吸測定部400の位相制御部240は、基準信号S12およびインヒビット信号S20の位相を90°シフトすることで90°位相がシフトされた基準信号S30´およびインヒビット信号S40´を形成する。
【0069】
インピーダンス呼吸測定部400は、第1および第2の検波回路205-1、205-2を有し、第1の検波回路205-1は位相シフトされない基準信号S12およびインヒビット信号S20を用いて検波を行い、第2の検波回路205-2は90°位相シフトされた基準信号S30´およびインヒビット信号S40´を用いて検波を行う。
【0070】
検波回路205-1、205-2の検波により得られた呼吸波形データS3-1、S3-2は、ベクトル合成部410によってベクトル合成される。そして、ベクトル合成後の呼吸波形データS4がインピーダンス呼吸測定部400による測定結果として出力される。
【0071】
図18は、ベクトル合成部410による呼吸波形のベクトル合成の説明に供する図である。
図18からも分かるように、位相シフトしない、基準信号S12およびインヒビット信号S20を用いて得られた呼吸波形データS3-1と、90°位相シフトした、基準信号S30´およびインヒビット信号S40´を用いて得られた呼吸波形データS3-2とをベクトル合成することにより、生体(被検者)B0の個体差や電極などの機器の状態に起因して、呼吸検出信号、基準信号(検波信号)およびマスク信号(インヒビット信号)の間でどのような位相ずれが生じても、十分な振幅の呼吸波形データS4を得ることができるようになる。
【0072】
上述の実施の形態では、本発明のインピーダンス呼吸測定装置(インピーダンス呼吸測定部200、300、400)を生体情報モニターに適用した場合について述べたが、本発明のインピーダンス呼吸測定装置は生体情報モニターに限らず、単独で用いられてもよく、他の医療機器に組み込まれて用いられてもよい。
【0073】
上述の実施の形態では、Highの状態の基準信号(検波信号)およびインヒビット信号が入力されたときに検波回路205の出力およびマスクがアクティブになる場合、換言すれば、信号がHighの状態が、その信号がアクティブな状態である場合ついて述べた。しかし、勿論、これとは逆に、Lowの状態の基準信号(検波信号)およびインヒビット信号が入力されたときに検波回路205の出力およびマスクがアクティブになる場合にも、本発明を適用可能である。この場合には、信号がLowの状態が、その信号がアクティブな状態である。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、生体の呼吸によるインピーダンス変化を同期検波方式を用いて検出することで、生体の呼吸を測定するインピーダンス呼吸測定装置およびインピーダンス呼吸測定方法に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0075】
10 生体情報モニター
200、300、400 インピーダンス呼吸測定部
201 基準信号発生回路
205 検波回路(マルチプレクサ)
B0 生体
S1、S2 検査信号
S1´、S2´ 呼吸検出信号
S3、S3-1、S3-2、S4 呼吸波形データ
S11、S12、S30 基準信号(検波信号)
S20、S40 インヒビット信号