(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023118629
(43)【公開日】2023-08-25
(54)【発明の名称】溶接装置
(51)【国際特許分類】
B23K 9/10 20060101AFI20230818BHJP
H02H 7/00 20060101ALI20230818BHJP
H02H 5/04 20060101ALI20230818BHJP
【FI】
B23K9/10 Z
H02H7/00 A
H02H5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022026928
(22)【出願日】2022-02-24
(31)【優先権主張番号】P 2022021321
(32)【優先日】2022-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】濱野 善行
(72)【発明者】
【氏名】大山 英俊
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 大樹
【テーマコード(参考)】
4E082
5G053
【Fターム(参考)】
4E082EA03
4E082FA12
5G053AA14
5G053BA06
5G053CA01
5G053DA01
5G053DA03
5G053EA03
5G053EA09
5G053EC02
5G053FA07
(57)【要約】
【課題】溶接装置の生産性を向上する。
【解決手段】アーク溶接装置1に、送風装置10のエンコーダ13の検出結果が所定の回転条件を満たしておらず、かつ温度センサ22の検出結果についての所定の温度条件が満たされていない場合には、電源回路21による電力の供給の停止動作、及び表示器40によるエラー表示画像の出力動作を含む異常時動作が必要であると判定する一方、それ以外の場合には、異常時動作が不要であると判定する判定部31を設ける。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚の羽根を有するファンと、
前記ファンを回転させるモータと、
電力を溶接電極と溶接対象物との間に供給するとともに、前記ファンの送風によって冷却される電源回路と、
前記モータによる回転を検出する回転検出部と、
前記電源回路の温度を検出する温度センサと、
前記回転検出部の検出結果が所定の回転条件を満たしておらず、かつ前記温度センサの検出結果についての所定の温度条件が満たされていない場合には、前記電源回路による前記電力の供給の停止動作と、所定の音声、画像、及び光のうちの少なくとも1つを出力する出力部による出力動作とのうちの少なくとも一方の動作を含む所定の異常時動作が必要であると判定する一方、それ以外の場合には、前記所定の異常時動作が不要であると判定する判定部とを備えたことを特徴とする溶接装置。
【請求項2】
前記温度条件は、前記電源回路の動作開始前、又は前記電源回路の停止から所定時間経過後に、前記温度センサによって検出された温度が所定の気温閾値未満であるという条件を含むことを特徴とする請求項1に記載の溶接装置。
【請求項3】
前記温度条件は、前記回転検出部の検出結果が前記所定の回転条件を満たさないと判定されたときに前記温度センサによって検出された温度が、所定の運転中温度閾値以下であるという条件を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の溶接装置。
【請求項4】
前記回転検出部は、前記モータが所定角度回転する毎に立ち上がるパルス信号を出力し、
前記パルス条件は、前記パルス信号がハイレベルとローレベルとの間で切り替えられるタイミングの間隔が所定の上限閾値以下であるという条件と、前記タイミングの間隔が所定の下限閾値以上であるという条件とのうちの少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の溶接装置。
【請求項5】
前記判定部は、前記所定の異常時動作の要否を、溶接電流及び溶接電圧のうちの少なくとも一方にさらに基づいて判定することを特徴とする請求項4に記載の溶接装置。
【請求項6】
前記電源回路の動作開始前に前記温度センサによって検出された温度に応じて前記モータを制御するモータ制御部をさらに備えたことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の溶接装置。
【請求項7】
前記モータ制御部は、前記電源回路の動作前に前記温度センサによって検出された温度が所定の気温上限閾値よりも高い場合に、低い場合に比べ、溶接開始前に前記ファンの回転速度を高くするように前記モータを制御することを特徴とする請求項6に記載の溶接装置。
【請求項8】
前記所定の異常時動作が、前記出力動作を含まず、
前記判定部は、前記回転検出部の検出結果が前記所定の回転条件を満たしていない場合に、前記出力動作が必要であると判定する一方、前記回転検出部の検出結果が前記所定の回転条件を満たしている場合に、前記出力動作が不要であるとさらに判定することを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却用のファンが故障した場合でも温度条件に応じて運転を継続できる溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電力を溶接電極と溶接対象物との間に供給する溶接電源部と、複数枚の羽根を有するファンとを備えた溶接装置が開示されている。この溶接装置では、ファンを取り付けるためのファン取付板を、ファン取付部に開閉可能に取り付けることで、メンテナンス性を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、冷却用のファンが故障した場合でも温度条件に応じて運転を継続できる溶接装置を提供する。
【0005】
特許文献1には、ファン取付部を開閉可能にすることによりメンテナンス性を向上させることの記載はあるが、冷却用のファンが故障した場合でも温度条件に応じて運転を継続できる溶接装置についての記載が開示されていない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、複数枚の羽根を有するファンと、前記ファンを回転させるモータと、電力を溶接電極と溶接対象物との間に供給するとともに、前記ファンの送風によって冷却される電源回路と、前記モータによる回転を検出する回転検出部と、前記電源回路の温度を検出する温度センサと、前記回転検出部の検出結果が所定の回転条件を満たしておらず、かつ前記温度センサの検出結果についての所定の温度条件が満たされていない場合には、前記電源回路による前記電力の供給の停止動作と、所定の音声、画像、及び光のうちの少なくとも1つを出力する出力部による出力動作とのうちの少なくとも一方の動作を含む所定の異常時動作が必要であると判定する一方、それ以外の場合には、前記所定の異常時動作が不要であると判定する判定部とを備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、溶接装置の生産性が低下することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態1に係るアーク溶接装置の概略斜視図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態1に係るアーク溶接装置の構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態1に係るファン周りの正面図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施形態1に係る電源回路周りの斜視図である。
【
図5】
図5(a)は、本発明の実施形態1に係るエンコーダによって出力されるパルス信号を例示するタイミングチャートである。
図5(b)は、本発明の実施形態1に係るエンコーダによって出力されるパルス信号を例示するタイミングチャートである。
図5(c)は、本発明の実施形態1に係るエンコーダによって出力されるパルス信号を例示するタイミングチャートである。
【
図6】
図6は、本発明の実施形態1に係る表示器によって出力されるエラー表示画像を例示する説明図である。
【
図7】
図7は、本発明の実施形態1に係る制御装置の動作を説明するフローチャートである。
【
図8】
図8は、本発明の実施形態2に係る制御装置の動作を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(本発明に至る経緯)
従来、特許文献1に示す溶接機では、溶接機の電源回路をファンの送風によって冷却している。ここで、ファンに羽根折れ等の異常が発生した時、メンテナンスのために、電源回路による電力の供給を停止する必要がある。しかし、溶接機のメンテナンスには、溶接機を溶接現場から移動させる等、煩雑な作業かつ長い日数を要する場合が多い。したがって、ファンに羽根折れ等の異常が発生する毎に、直ちに溶接作業を停止してメンテナンスを行うようにすると、生産性が悪くなるという課題があった。
【0010】
これに対し、本願発明者らは、ファンに羽根折れ等の異常が発生していても、電源回路周りの温度によっては、溶接機の使用を継続できる場合があることを見出した。そこで、以下の各実施形態では、ファンに羽根折れ等の異常が発生していても、電源回路の温度が所定の条件を満たす場合には、電源回路による電力の供給の停止動作を不要と判定するように構成された溶接装置について説明する。
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。
【0012】
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係るアーク溶接装置1の概略斜視図である。
図2は、実施形態1に係るアーク溶接装置1の構成を示すブロック図である。このアーク溶接装置1は、送風装置10と、電源回路21と、温度センサ22と、溶接電極23と、制御装置30と、表示器40と、筐体50とを備えている。
【0013】
送風装置10は、
図2に示すように、ファン11と、モータ12と、回転検出部としてのエンコーダ13とを備えている。
【0014】
図3は、実施形態1に係るファン11周りの正面図である。ファン11は、
図3に示すように、ハブ11aと、ハブ11aの外周側に突設された複数枚の羽根11bとを有している。ファン11は、筐体50の外壁面に設けられた開口部51に、外側に臨むように配設される。
【0015】
モータ12は、ファン11を回転させる。
【0016】
エンコーダ13は、モータ12が所定角度回転する毎に立ち上がるパルス信号を検出結果として出力するインクリメンタルエンコーダである。
【0017】
図4は、実施形態1に係る電源回路21周りの斜視図である。電源回路21は、図示しない交流電源から送られる交流電力に対して電力変換を行い、電力変換後の電力を溶接電極23と溶接対象物との間に供給する。溶接電極23は、溶接トーチ(図示せず)によって保持されている。この溶接トーチ(図示せず)には、アーク溶接の開始/停止を操作するためのトーチスイッチ(図示せず)が配設されている。電源回路21は、
図4に示すように、3つの半導体部品24を有している。半導体部品24は、図示しない半導体チップと、半導体チップを収容する樹脂製のパッケージ24aとを有している。3つの半導体部品24は、共通のヒートシンク25に取り付けられている。ヒートシンク25は、アルミニウムや銅等の熱伝導率の高い金属からなる。このヒートシンク25は、長方形状の主板部25aと、当該主板部25aの一方の面に突設された矩形状の複数の突出板部25bとで構成されている。突出板部25bはその板面を主板部25aの短手方向に向けて前記主板部25aの長手方向全体に亘って形成されている。上記3つの半導体部品24は、ヒートシンク25の主板部25aにおける突出板部25b非形成面に、主板部25aの長手方向に互いに間隔を空けて取り付けられている。また、ヒートシンク25の主板部25aにおける突出板部25b非形成面には、2つの半導体部品24に挟まれた箇所に、温度センサ22が取り付けられている。この温度センサ22は、電源回路21の温度を検出する。ヒートシンク25は、上記筐体50に収容されている。ヒートシンク25は、ファン11の回転時にファン11からの風がヒートシンク25の突出板部25b間を流れるように配置されている。したがって、電源回路21は、ファン11の送風によって冷却される。
【0018】
制御装置30は、判定部31と、表示指示部32と、モータ制御部33とを備えている。制御装置30の機能は、例えば、マイクロコンピュータを搭載した制御基板によって実現される。
【0019】
図5(a)~
図5(c)は、実施形態1に係るエンコーダ13によって出力されるパルス信号を例示するタイミングチャートである。なお、
図5(b)は、
図5(a)よりもファン11の回転数が低い場合におけるタイミングチャートである。また、
図5(c)は、実施形態1に係るファン11の羽根折れ等に起因するモータ12の偏心が生じた場合におけるタイミングチャートである。
【0020】
判定部31は、エンコーダ13により出力されたパルス信号と、温度センサ22の検出結果とに基づいて、所定の異常時動作の要否を判定する。具体的には、判定部31は、エンコーダ13により出力されるパルス信号が所定の回転条件としてのパルス条件を満たしておらず、かつ温度センサ22の検出結果についての所定の温度条件が満たされていない場合には、前記異常時動作が必要であると判定する。一方、それ以外の場合には、判定部31は、前記異常時動作が不要であると判定する。ここで、パルス条件は、例えば、
図5(a)~
図5(c)のタイミングチャートに示すような波形のパルス信号がハイレベルとローレベルとの間で切り替えられるタイミングの間隔INT(interval)が所定の上限閾値以下であるという条件と、前記タイミングの間隔INTが所定の下限閾値以上であるという条件とを含む。また言い換えると、エンコーダ13により出力されるパルス信号が、所定のパルス条件を満たしている場合は、ファン11の羽根に欠損等が無くファン11の回転状態が安定していることを示し、所定のパルス条件を満たしていない場合は、ファン11の羽根が欠損等によりファン11の回転状態が不安定または送風量不足であることを示す。
【0021】
また、温度条件は、アーク溶接装置1の起動時、又はアーク溶接装置1が溶接を行わない待機状態になってから所定時間が経過したときに温度センサ22によって検出された温度が所定の気温閾値未満であるという条件と、前記パルス信号が前記パルス条件を満たさないと判定されたときに前記温度センサ22によって検出された温度が所定の運転中温度閾値以下であるという条件とを含む。筐体50内における溶接工程中にファン11の風が直接当たらない箇所の温度は、外気温よりも20℃程度高い温度となる。例えば外気温が40℃の状態で、電源回路21を起動させて溶接電極23と溶接対象物との間にアークを発生させると、温度センサ22によって検出される温度は上昇し、80℃~90℃程度で飽和する。また、筐体50内の温度、及び温度センサ22によって検出される温度は、電源回路21の起動後であっても、待機状態で所定時間(例えば30分から60分)が経過すると、電源回路21の設置箇所の温度としての外気温又は室温とほぼ同じ温度まで低下する。ここで、「待機状態」とは、ユーザからアーク溶接装置1の上記トーチスイッチ(図示せず)への操作が停止(トーチスイッチがOFF状態)しており、電源回路21から溶接電極23と溶接対象物との間への電力の供給が停止している状態である。上記トーチスイッチ(図示せず)がONからOFFに切り替えられた瞬間に、溶接工程から待機状態に移行する。ファン11の送風によりヒートシンク25からの放熱が促進されるので、温度センサ22によって検出される温度は、他の部品の温度に比べて速く低下する。
【0022】
なお、トーチスイッチ(図示せず)がONからOFFに切り替えられた瞬間に、溶接工程から待機状態に移行するとしたが、複数の溶接ビードを間欠的に形成する溶接も連続した溶接工程として扱うこととし、トーチスイッチ(図示せず)がONからOFFに切り替えられて所定時間(例えば5分から20分)経過後に、溶接工程から待機状態に移行するとしても良い。
【0023】
また、判定部31は、温度センサ22により検出された温度が所定の異常検出閾値であるか否かを所定時間毎に判定する。そして、判定部31は、温度センサ22により検出された温度が所定の異常検出閾値である場合には、表示指示部32に、温度の異常を示す画像を表示器40に出力させる。異常検出閾値は、運転中温度閾値よりも5℃程度高く設定される。
【0024】
本実施形態1では、外気温が-10℃~40℃である環境でのアーク溶接装置1の使用を想定し、気温閾値を25℃、運転中温度閾値を90℃~100℃としている。しかし、気温閾値及び運転中温度閾値は、他の温度に設定してもよい。外気温(環境温度)が下がれば、温度センサ22によって検出される温度も低下する。判定部31は、異常時の対応動作である異常時動作が必要であると判定した場合、電源回路21による電力の供給を停止させ、異常時動作が不要であると判定した場合、電源回路21による電力の供給を継続させる。
【0025】
図6は、実施形態1に係る表示器40によって出力されるエラー表示画像を例示する説明図である。表示指示部32は、エラー表示画像の出力動作の要否に係る判定部31による判定に基づいて動作する。具体的には、表示指示部32は、判定部31により異常時動作が必要であると判定された場合に、
図6に示すようなエラー表示画像を表示器40に出力させる。一方、判定部31により異常時動作が必要でないと判定された場合には、表示指示部32は、エラー表示画像を表示器40に出力させない。
【0026】
モータ制御部33は、電源回路21の動作開始前に温度センサ22によって検出された温度に応じてモータ12を制御する。具体的には、モータ制御部33は、電源回路21の動作前に温度センサ22によって検出された温度が所定の気温上限閾値よりも高い場合に、低い場合に比べ、溶接開始前にファン11の回転速度を高くするようにモータ12を制御する。
【0027】
表示器40は、液晶ディスプレイ等のFPD(フラットパネルディスプレイ)であり、表示指示部32の指示に応じて、
図6に示すようなエラー表示画像を出力する。つまり、実施形態1において、前記異常時動作は、電源回路21による電力の供給の停止動作と、表示器40によるエラー表示画像の出力動作である。なお、表示器40としては、表示内容の対応が取れれば7セグメントLED表示器を使用しても良い。
【0028】
次に、
図7のフローチャートを参照して、上述のように構成されたアーク溶接装置1の主な動作について説明する。
図7は、実施形態1の制御装置30の動作を説明するフローチャートである。
【0029】
まず、アーク溶接装置1を起動させる。このとき、電源回路21は、待機状態であり、溶接電極23と溶接対象物との間への電力の供給を開始していない。次いで、(S101)において、制御装置30の判定部31が、温度センサ22によって検出された温度を記憶する。以降、判定部31は、温度センサ22により検出された温度を所定の周期毎(例えば、1秒毎)に受信する。
【0030】
なお、アーク溶接装置1を起動させ、電源回路21が、待機状態であり、溶接電極23と溶接対象物との間への電力の供給を開始していない状態では、温度センサ22の検出結果は、アーク溶接装置1に対する外気温又は室温としてのアーク溶接装置1の使用場所の気温に応じた温度となる。また、温度センサ22によって検出される温度は、電源回路21の起動後であっても、待機状態で所定時間(例えば1時間)が経過すると、電源回路21の設置箇所の温度としての外気温又は室温とほぼ同じ温度まで低下する。
【0031】
待機状態で所定時間(例えば1時間)が経過している場合のアーク溶接装置1の再起動は、
図7のフローチャート動作の開始でのアーク溶接装置1の起動に相当する。
【0032】
次いで、(S102)において、判定部31が、溶接電極23と溶接対象物との間でアークの発生が開始している溶接工程中であるか否かを判定する。溶接工程中である場合には、(S103)に進み、溶接工程中でない場合には、(S102)を再び実行する。ここで、「溶接工程中である」とは、ユーザからアーク溶接装置1の上記トーチスイッチ(図示せず)への操作があり、溶接電極23と溶接対象物との間への電力の供給がある状態(トーチスイッチがON状態)であることを意味する。
【0033】
(S103)では、判定部31は、エンコーダ13により出力されたパルス信号を受信し、エンコーダ13により出力されるパルス信号が所定のパルス条件を満たしているか否かを判定し、満たしている場合には、再び(S102)の動作を実行する。一方、満たしていない場合には、(S104)に進む。具体的には、パルス信号がハイレベルとローレベルとの間で切り替えられるタイミングの間隔INTが所定の上限閾値以下であり、かつ間隔INTが所定の下限閾値以上である場合には、再び(S102)の動作を実行する。一方、間隔INTが所定の上限閾値を超えるか、又は間隔INTが所定の下限閾値を下回る場合には、(S104)に進む。
【0034】
(S104)では、判定部31が、予め、(S101)の処理の実行時に記憶した温度が、所定の気温閾値未満であり、かつ現在温度センサ22によって検出された温度(具体的には、パルス信号が前記パルス条件を満たさないと判定されたときに温度センサ22によって検出された温度)が、所定の運転中温度閾値以下であるという温度条件が満たされているか否かを判定する。そして、当該温度条件が満たされている場合には、電源回路21に、溶接電極23と溶接対象物との間への電力の供給を継続させ、(S102)の動作を再び実行する。一方、温度条件が満たされていない場合には、(S105)に進む。つまり、
図7のフローチャートの動作では、(S101)で記憶した温度が、所定の気温閾値未満であり、かつ現在温度センサ22によって検出された温度が、所定の運転中温度閾値以下である場合には、電源回路21に運転を継続させた状態で、(S102)の動作を再び実行する。一方、(S101)で記憶した温度が、所定の気温閾値以上であるか、又は現在温度センサ22によって検出された温度が、所定の運転中温度閾値を超える場合には、(S105)に進む。
【0035】
(S105)では、判定部31が、所定の異常時動作が必要であると判定する。そして、判定部31は、電源回路21に、溶接電極23と溶接対象物との間への電力の供給を停止させる。また、表示指示部32が、
図6に示すようなエラー表示画像を表示器40に出力させる。
【0036】
また、(S101)でアーク溶接装置1に対する外気温として予め最近記憶した温度が例えば25℃以上であり、溶接工程中において、(S103)でパルス条件が満たされない場合には、羽根折れが発生していると判断され、かつ(S104)で温度条件が満たされない場合には、(S105)の処理により溶接電極23と溶接対象物との間への電力の供給が停止する。
【0037】
また、(S101)で外気温が例えば40℃であるときに、溶接工程中において、電源回路21に設けられた温度センサ22は、80℃~90℃程度まで上昇する。本実施形態1では、溶接工程中に(S103)でパルス条件が満たされず、かつ、(S104)で温度センサ22の温度が90℃を超えた場合には、(S105)の処理により溶接電極23と溶接対象物との間への電力の供給を停止させる。
【0038】
また、判定部31は、
図7のフローチャートの処理に加え、温度センサ22により検出された温度が所定の異常検出閾値であるか否かを所定時間毎に判定する。そして、判定部31は、温度センサ22により検出された温度が所定の異常検出閾値である場合には、表示指示部32に、温度の異常を示す画像を表示器40に出力させる。
【0039】
したがって、実施形態1によると、判定部31は、エンコーダ13により出力されるパルス信号と、電源回路21の温度を検出する温度センサ22の検出結果とに基づいて、異常時動作の要否を判定する。モータ12のエンコーダ13により出力されるパルス信号には、羽根折れ等の異常発生の有無が反映される。また、温度センサ22の検出結果は、アーク溶接装置1の使用場所の気温に応じた温度となる。電源回路21の温度が所定の条件を満たす場合には、電源回路21による電力の供給の停止動作を不要と判定する。これにより、ファン11に羽根折れ等の異常が発生していた場合、すなわち判定部31の検出結果が所定の回転条件を満たしていない場合でも、温度センサ22の検出結果が所定の温度条件を満たしていれば、電源回路21による電力の供給を継続できる。したがって、アーク溶接装置1の生産性が低下することを抑制できる。
【0040】
また、アーク溶接装置1の起動時、すなわち電源回路21の動作開始前に温度センサ22によって検出される温度は、溶接工程中のアーク発生による電源回路21の動作の影響を殆ど受けないので、外気温としての、アーク溶接装置1の使用場所の気温とほぼ等しくなる。実施形態では、判定部31が、アーク溶接装置1の起動時に温度センサ22によって検出される温度に基づいて、異常時動作の要否を判定するので、異常時動作の要否の判定に、アーク溶接装置1の使用場所の気温をより厳密に反映できる。
【0041】
詳しくは、ファン11の故障によりパルス信号がパルス条件を満たさない場合であっても、アーク溶接装置1の起動時、又は溶接工程中でないと判定され始めてから所定時間が経過したときに温度センサ22によって検出された温度が、所定の気温閾値未満であり、かつパルス信号がパルス条件を満たさないと判定されたときに、溶接工程中において、温度センサ22によって検出された温度が、所定の運転中温度閾値以下である場合には、電源回路21が電力供給(運転)を停止せず、表示器40がエラー表示画像を出力しない。したがって、ユーザは、溶接作業を継続できる。
【0042】
また、実施形態1では、モータ制御部33は、外気温又は室温として、電源回路21の動作前に温度センサ22によって検出された温度が所定の気温上限閾値よりも高い場合には、低い場合に比べ、溶接開始前におけるファン11の回転速度を高くするので、所定の気温上限閾値以下で外気温が比較的低い場合のファン11の回転速度を相対的に低減できる。
【0043】
(実施形態2)
図8は、実施形態2に係る制御装置30の動作を説明するフローチャートである。実施形態2では、(S102)において、溶接工程中であると判定部31が判定した場合、(S201)に進む。(S201)では、判定部31が、溶接電流が所定の電流閾値未満であるか否かを判定する。当該電流閾値は、例えば、溶接電流の定格電流が350Aである場合、定格電流の0.25倍~0.3倍に設定され、例えば90A~100Aに設定される。そして、判定部31は、溶接電流が所定の電流閾値未満である場合には、(S202)に進む。一方、溶接電流が所定の電流閾値以上である場合には、(S203)に進む。溶接電流が所定の電流閾値未満である場合に、(S202)では、判定部31は、運転中温度閾値を第2の閾値よりも高い第1の閾値に設定し、(S103)に進む。溶接電流が所定の電流閾値以上である場合に、(S203)では、判定部31は、運転中温度閾値を第1の閾値よりも低い第2の閾値に設定し、(S103)に進む。電源回路21の半導体部品24の耐熱温度が、約125℃以下である場合、例えば、第1の閾値が95℃~105℃に設定され、第2の閾値が第1の閾値よりも約10℃低い85℃~95℃に設定される。
【0044】
その他の動作は、実施形態1と同じであるので、共通の動作には同じ符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0045】
このように、実施形態2では、溶接電流が所定の電流閾値以上である場合に比べ、溶接電流が所定の電流閾値未満である場合に、運転中温度閾値を高く設定する。これにより、溶接電流が、所定の電流閾値未満である場合、すなわち電源回路21の温度上昇が比較的緩やかな場合に、メンテナンスが不要な状況で異常時動作が行われるのを抑制し、メンテナンスの回数を減らすとともに生産性を向上できる。
【0046】
なお、上記実施形態1,2では、温度条件に、(S101)、すなわち電源回路21の動作開始前に温度センサ22によって検出された温度が、所定の気温閾値未満であるという条件を含めたが、当該条件に代えて、電源回路21の停止から所定時間経過後に温度センサ22によって検出された温度が、所定の気温閾値未満であるという条件を含めてもよい。また、1つのアーク溶接装置1において、ある状況では、温度条件に、電源回路21の動作開始前に温度センサ22によって検出された温度が所定の気温閾値未満であるという第1条件が含まれる一方、他の状況では、温度条件に、前記第1条件に代えて、電源回路21の停止から所定時間経過後に温度センサ22によって検出された温度が、所定の気温閾値未満であるという第2条件が含まれるようにしてもよい。電源回路21の停止から所定時間経過後に温度センサ22によって検出される温度は、所定時間が十分長く、例えば、30~60分に設定された場合、アーク溶接装置1の使用場所の外気温とほぼ等しくなる。
【0047】
また、上記実施形態2では、(S201)において、判定部31に、溶接電流が所定の電流閾値未満であるか否かを判定させた。しかし、これに代えて、(S201)において、判定部31に、溶接電圧が所定の電圧閾値未満であるか否かを判定させ、具体的には、溶接電圧が、所定の電圧閾値未満である場合には(S202)に進む一方、溶接電圧が、所定の電圧閾値以上である場合には(S203)に進むようにしてもよい。これにより、溶接電圧が、所定の電圧閾値未満である場合、すなわち電源回路21の温度上昇が比較的緩やかな場合に、メンテナンスが不要な状況で異常時動作が行われるのを抑制し、メンテナンスの回数を減らすとともに生産性を向上できる。
【0048】
また、上記実施形態1、2において、
図7及び
図8のフローチャートでは、異常時動作の要否の判定を、電源回路21の動作中に行ったが、異常時動作の要否の判定を、電源回路21の停止中にも行えるようにしてもよい。
図7、8のフローチャートでは、パルス信号が所定のパルス条件を満たしていない場合でも、温度センサ22の検出結果が所定の温度条件を満たしていれば、異常時動作を実行させなかった。しかし、パルス信号が所定のパルス条件を満たしていない場合に、温度センサ22の検出結果が所定の温度条件を満たしていても、電源回路21の停止中であれば、表示器40に、パルス条件に対するエラー表示画像を出力させるようにしてもよい。
【0049】
また、上記実施形態1,2では、(S104)において、判定部31が、温度条件が満たされると判定した場合には、電源回路21の運転を継続させて(S102)の動作を再び実行するようにした。しかし、(S104)において、判定部31が、温度条件が満たされると判定した場合に、電源回路21の運転を継続させて(S102)の動作を再び実行するのに加え、ファン交換を促す出力画像を表示器40に出力させてもよい。また、前記異常時動作が、表示器40によるエラー表示画像の出力動作を含まず、例えば電源回路21による電力の供給の停止動作のみであってもよい。そして、判定部31が、温度センサ22の検出結果に関わらず、パルス信号が前記所定のパルス条件を満たしていない場合には、表示器40によるエラー表示画像の出力動作が必要であると判定する一方、パルス信号が前記所定のパルス条件を満たしている場合には、前記出力動作が不要であるとさらに判定するようにしてもよい。これにより、ユーザは、ファン11の異常を認識し、アーク溶接装置1を使用していないオフタイムにファン11のメンテナンスを行うことができる。
【0050】
また、異常時動作を、表示器40によるエラー表示画像の出力動作だけとしてもよい。例えば、判定部31に、電源回路21による電力の供給の停止動作の要否を判定させず、ユーザが、停止動作の要否を常に判断するようにしてもよい。
【0051】
また、上記実施形態1,2、及び変形例において、アーク溶接装置1に、所定の音声、及び光のうちの少なくとも1つを出力する出力部を表示器40の代わりに設け、エラー表示画像の代わりに当該出力部に所定の音声、及び光のうちの少なくとも1つを出力させてもよい。また、所定の音声、及び光のうちの少なくとも1つを出力する出力部と、表示器40との両方を設け、音声、及び光のうちの少なくとも1つの出力とエラー表示画像の出力との両方によりユーザに異常を認識させるようにしてもよい。
【0052】
また、上記実施形態1,2、及び変形例において、パルス条件を、間隔INTが所定の上限閾値以下であり、かつ、間隔INTが所定の下限閾値以上であるという条件としたが、間隔INTが所定の上限閾値以下であるという条件と、間隔INTが所定の下限閾値以上であるという条件のいずれか一方としてもよい。
【0053】
また、上記実施形態1,2、及び変形例において、出力部として表示器40をアーク溶接装置1の一部として設けたが、アーク溶接装置1とは別に設けてもよい。
【0054】
また、上記実施形態1,2、及び変形例において、送風装置10に、エンコーダ13を回転検出部として設けたが、投光器から照射された光線が受光器に至るまでに羽根によって遮光されるか否かに基づいて、モータ12による所定角度の回転を検出するファンセンサを回転検出部として設けてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、溶接装置の生産性を向上でき、ファンを備えた溶接装置において、ファンが故障した場合でも温度条件に応じて運転を継続できるようにする技術として有用である。
【符号の説明】
【0056】
1 アーク溶接装置
10 送風装置
11 ファン
11a ハブ
11b 羽根
12 モータ
13 エンコーダ(回転検出部)
21 電源回路
22 温度センサ
23 溶接電極
24 半導体部品
24a パッケージ
25 ヒートシンク
25a 主板部
25b 突出板部
30 制御装置
31 判定部
32 表示指示部
33 モータ制御部
40 表示器
50 筐体
51 開口部