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特開2023-118632サーバの劣化と火災の防止方法および劣化・火災防止型データセンター
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023118632
(43)【公開日】2023-08-25
(54)【発明の名称】サーバの劣化と火災の防止方法および劣化・火災防止型データセンター
(51)【国際特許分類】
   G06F 1/20 20060101AFI20230818BHJP
   B01D 53/04 20060101ALI20230818BHJP
   B01D 53/28 20060101ALI20230818BHJP
   G06F 1/16 20060101ALI20230818BHJP
   H05K 7/20 20060101ALI20230818BHJP
【FI】
G06F1/20 C
B01D53/04
B01D53/28
G06F1/20 B
G06F1/20 D
G06F1/16 311A
H05K7/20 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022032991
(22)【出願日】2022-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】519006506
【氏名又は名称】Solution Creators株式会社
(72)【発明者】
【氏名】川端 康晴
【テーマコード(参考)】
4D012
4D052
5E322
【Fターム(参考)】
4D012BA02
4D012CA01
4D012CB05
4D012CG01
4D052CC06
4D052HA01
5E322AA11
5E322BB05
5E322BB06
5E322BC05
5E322CA06
5E322EA11
5E322FA09
(57)【要約】
【課題】 データセンターを構成するサーバや情報通信機器を冷却する空気に含まれる酸素を除去するか、酸素を含まないガスを循環冷却供給させることで、サーバや情報通信機器の酸化劣化と火災発生を防止する方法と、本技術を適用した、劣化・火災防止型のデータセンターを提供する。
【解決手段】 データセンターを構成するサーバと情報通信機器を二重壁構造の筐体で覆い、当該二重壁内部に酸素除去した空気または酸素を含まないガスを循環させながら筐体外壁を介して放熱冷却させることで、無酸素のガスか低酸素濃度の空気を冷却循環供給し、サーバや情報通信機器を構成する部品の酸化劣化と着火および燃焼の拡大による火災の発生を防止する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーバおよび情報通信機器の一方または両方を、酸素除去した空気か酸素を含まないガスを冷却させながら循環供給することで、無酸素または低酸素濃度の低温ガスか低温空気の循環流によってサーバおよび情報通信機器の一方または両方を冷却することを特徴とする、サーバおよび情報通信機器の劣化と火災発生の防止方法
【請求項2】
請求項1に記載の空気中の酸素除去方法が、前記循環冷却ガスの流路内に、循環ガスに含まれる酸素を除去する手段を具備させることを特徴とする、サーバおよび情報通信機器の劣化と火災発生の防止方法
【請求項3】
サーバおよび情報通信機器を内蔵する筐体の一部または全部を二重壁構造とし、前記の筐体の外側壁の内側面に吸熱体と外側面に放熱体を一体化させた熱架橋体とし、当該外壁面の内側と二重壁の内壁との間に形成された二重壁の内部空間にガスの循環流路を形成し、このガス循環流路内に送気ファンを設置して運転させることで、二重壁内部を流れるガス中の熱が、筐体外壁面を介して吸熱され、筐体外に放熱されることで、筐体二重壁を利用してサーバおよび情報通信機器に供給されるガスが冷却循環されることを特徴とする、サーバおよび情報通信機器の冷却方法
【請求項4】
請求項1および請求項2に記載の方法によって無酸素または低酸素濃度となったガスが、請求項3に記載の方法によって筐体二重壁内で冷却されて循環供給されることで、サーバおよび情報通信機器の一方または両方が、無酸素ガスまたは低酸素空気の冷却循環流で冷却されることを特徴とする、サーバおよび情報通信機器の冷却方法
【請求項5】
請求項2に記載の酸素除去手段が、酸素吸着材か、酸素分離膜を利用した酸素製造供給装置からの脱酸素オフガスの供給か、窒素吸着材を利用した窒素製造供給装置からの窒素供給のいずれか一つ以上の方法によって、冷却循環される空気中の酸素濃度が12.5パーセント以下に維持されることを特徴とする、循環冷却空気中の酸素の除去方法
【請求項6】
請求項2と請求項5に記載の酸素除去方法において、冷却循環流路上に酸素濃度センサを具備させ、当該センサの酸素濃度測定結果に応じて酸素吸着材の交換時期通知を行うか、酸素または窒素の製造供給装置の起動停止と運転出力を制御することで、冷却循環流路内のガスの酸素濃度を制御することを特徴とする、循環冷却ガス中の酸素濃度制御方法
【請求項7】
請求項3に記載の吸熱体と放熱体の一方または両方が、高熱伝導性の波状板か、波状多孔板で形成され、二重壁内部を流れる循環冷却ガスからの吸熱と、筐体外壁表面の放熱体から外気への放熱が、それぞれ促進されることを特徴とする、循環冷却ガスの放熱促進方法
【請求項8】
請求項3に記載の循環冷却ガスの冷却方法において、冷却循環流路上のサーバまたは情報通信機器の冷却ガス給気口付近に温度センサを具備させ、当該センサの温度測定結果に応じて循環流路上に設置された送気ファンの回転数を制御することで、冷却循環流路内を流れる冷却ガスの温度を制御することを特徴とする、循環冷却ガスの温度制御方法
【請求項9】
請求項1~請求項3に記載の冷却循環流路内に、さらに除塵フィルタと、吸湿材または吸水フィルタと、塩分、硫化水素、窒素酸化物、硫黄酸化物、有機化合物のいずれか一つ以上の有害物質を吸着する化学吸着フィルタを具備させることで、冷却循環ガス中の水分と有害物質を除去することを特徴とする、循環冷却ガスの除湿浄化方法
【請求項10】
請求項6に記載の方法によって循環冷却ガス中の酸素が除去制御され、請求項8に記載の方法によって循環ガスの放熱と冷却温度が制御され、さらに請求項9に記載の方法によって循環空気中の塵埃と水分および有害物質が吸着除去されることで、低湿度かつ除塵や有害物質の除去がされた低酸素濃度ガスが放熱冷却されて循環供給されることを特徴とする、劣化・火災防止型のデータセンター
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物や筐体内にサーバを収納してデジタルデータの処理を行うデータセンターにおいて、稼働させるサーバの劣化と火災の発生を防止する方法と、本方法を適用したサーバで構成される、劣化・火災防止型のデータセンターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
社会のデジタル化が進展するなか、様々な分野の情報がデジタル化されて演算処理され、これに伴って世界各地でデータセンターが整備・運用されて普及拡大が続いている。一方、データセンターは常時多量のデータ処理を行う際に、サーバの稼働と冷却に多量の電力を消費し、この電力消費に伴って多量の二酸化炭素が排出されることから、データセンターの省エネルギー化や、再生可能エネルギー利用によるグリーン化が求められている。
【0003】
一方、5G通信網等の普及に伴い、多量なデータが発生する場所において高速演算処理し、結果データを高速送信することでデータの地産地消を実現する、エッジ・コンピューティングが注目・期待されており、地方各地の再生可能エネルギー発生地にこうしたエッジ・コンピューティングサーバを設置することで、系統連系が困難な再生可能エネルギー賦存地域において、再生可能エネルギーの地産地消によって、データの地産地消によるオンサイト高速演算処理を可能とする、グリーン・エッジ・コンピューティングが可能となる。
【0004】
このようなグリーン・エッジ・コンピューティングの具体例としては、風の強い海岸地域や洋上に風力発電所を設置し、その近傍にサーバと情報通信設備を併設させる形態や、中山間地の急流河川に流れ込み式の水力発電所を設置してサーバと情報通信設備を併設させる形態のほか、地熱地帯や温泉地域に地熱発電設備や温泉熱バイナリー発電設備と、温泉熱駆動によって冷熱変換供給を行う吸収式または吸着式冷凍機を併設し、これらから得られるグリーン電力とグリーン冷熱でサーバと情報通信設備を稼働させる形態等が考えられる。
【0005】
ただし、このような再生可能エネルギー発生地におけるオンサイト型のデータセンターを考える場合、周囲の外気環境によってサーバが急速に劣化し、状況によっては火災が誘発されるリスクがある。すなわち、海岸地域や洋上で外気を取り込んでサーバや情報通信機器の冷却を行う場合には、外気中の塩分を含む水分がサーバや通信機器の構成部品を劣化させ、熱集中によって高温化した際に、構成部品や外気から取り込まれて堆積した塵や埃から発火し、外気中に含まれる酸素と反応して燃焼が拡大して火災に至るリスクがある。同様に、河川地域で外気を取り込む場合には外気中の水分による結露ショートのリスクがあるほか、地熱地帯や温泉地域で外気を取り込む場合には、硫化水素に代表される地熱由来のガス成分がサーバや通信機器の構成部品を劣化させ、火災を誘発するリスクがある。
【0006】
こうしたリスクのうち、外気中に含まれる水分の除去、すなわち除湿については、サーバを冷却させる空気を除湿しながら循環させることで低減する技術(特許文献1)が知られており、さらに外気に含まれる塵埃や塩分、黄砂、煙等の成分の侵入を防ぎ、除湿のエネルギー消費も削減する、ヒートパイプ熱交換器利用による空気の冷却循環技術(特許文献2)のほか、外気侵入の影響を防ぎながら、除湿と冷却を再生可能エネルギー熱の利用によって行う空気の冷却循環技術(特許文献3)が知られている。
【0007】
一方、サーバや情報通信機器の構成部品が、劣化過熱や結露ショートのほか、静電気帯電等の影響によって発火して燃焼する際には、サーバ冷却のために供給される空気中の酸素と構成部品との燃焼反応が継続し、拡大することによって火災被害が大きくなるが、こうした空気中の酸素を除去する方法としては、サーバ冷却空気からの脱酸素目的ではないものの、アスリート強化や低酸素療法の手段として、酸素分離膜や酸素吸着材等を利用して、空気中の酸素を除去することで、低酸素空気を供給する技術(特許文献4)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第6174386号公報
【特許文献2】特開2013-134032号公報
【特許文献3】特願2021-215585号
【特許文献4】特開2020-131121号公報
【0009】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記の通り、特許文献1の従来技術によれば、サーバ冷却空気の効率的な除湿が可能となり、特許文献2や特許文献3の従来技術によれば、外気中に含まれる微量成分や水分の影響を受けることなくサーバを効率よく冷却することが可能となる。また、特許文献4の技術によれば、外気中に含まれる酸素を除去した低酸素空気の製造供給によって、アスリートの心肺機能強化を行うことが可能となるが、これらの技術には以下に示す4つの課題がある。
【0011】
まず従来技術では、いずれもサーバや情報通信機器を構成する部品の酸化に伴う性能低下のほか、こうした部品の劣化による過熱や静電気帯電による発火と火災のリスクに対し、酸素除去という観点での対策がなされていない。すなわち、サーバや情報通信機器の冷却空気に含まれる酸素を除去することで、部品の酸化劣化を防止するとともに、過熱や静電気帯電と塵埃堆積によって発火が生じうるような状況であっても、着火や燃焼に必要な濃度を下回る低酸素濃度空気の雰囲気下にあれば発火せず、燃焼も継続拡大しないが、サーバや情報通信機器を冷却循環させるガスを無酸素または低酸素空気とすることや、サーバや情報通信機器を無酸素のガスや低酸素濃度の空気を冷却循環させることで冷却するための具体的な方法が開示されていないという課題がある。
【0012】
特に、大規模な建物やコンテナ等の建築構造体の中にサーバや情報通信機器を設置せず、小規模な筐体内にサーバと情報通信機器を高密度で内蔵させる小規模モジュール型のデータセンターでは、サーバや情報通信機器の筐体内発熱を効率よく放熱冷却させることが難しく筐体内が高温化しやすいため、部品の酸化劣化や発火のリスクがさらに高まることから、筐体表面を利用して効率よく放熱冷却することも必要となるが、その具体的な方法も開示されていないという課題がある。
【0013】
一方、従来技術の低酸素空気製造装置は、アスリート強化目的で利用されているものの、データセンターの火災防止という目的では利用されておらず、また外気を取り込んで低酸素空気を一方通行的に供給・排気する形態であり、データセンターの冷却循環する気体を低酸素化するための具体的な方法としては開示されていない。なお、本技術と同様に、酸素分離膜や酸素吸着材を利用することで高濃度酸素を製造供給する酸素療法装置のオフガスも低酸素空気となるが、こうした装置からのオフガス利用についても同じ課題がある。
【0014】
さらに、従来技術で開示されているデータセンターは、サーバや情報通信機器が一定規模の建物やコンテナ等の建築構造物に収納された形態であるため、洋上や河川上の小規模浮体上に、あるいは中山間地域の急流河川近隣や地熱・温泉熱地域の狭小地に小規模筐体を設置して、周囲外気中の塵埃や微量成分による構成機器の劣化と過熱による火災を防止しながら、長期間、安定的に稼働させることが困難であるという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、データセンターを構成するサーバや情報通信機器の酸化劣化と、発火による焼損拡大や火災のリスクを、小型かつ簡素な方法によって大幅に低減させるとともに、サーバや情報通信機器を内蔵する筐体が小規模のモジュール型であっても、筐体表面で簡素かつ効率的な方法によって放熱冷却を行う方法と、本技術を適用した劣化・火災防止型のデータセンターを提供することである。
【0016】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、
サーバおよび情報通信機器の一方または両方を、酸素除去した空気か酸素を含まないガスを冷却させながら循環供給することで、無酸素または低酸素濃度の低温ガスか低温空気の循環流によってサーバおよび情報通信機器の一方または両方を冷却することを特徴とする。
【0017】
請求項2に記載の発明は、
請求項1に記載の空気中の酸素除去方法が、前記循環冷却ガスの流路内に、循環ガスに含まれる酸素を除去する手段を具備させることを特徴とする。
【0018】
請求項3に記載の発明は、
サーバおよび情報通信機器を内蔵する筐体の一部または全部を二重壁構造とし、前記の筐体の外側壁の内側面に吸熱体と外側面に放熱体を一体化させた熱架橋体とし、当該外壁面の内側と二重壁の内壁との間に形成された二重壁の内部空間にガスの循環流路を形成し、このガス循環流路内に送気ファンを設置して運転させることで、二重壁内部を流れるガス中の熱が、筐体外壁面を介して吸熱され、筐体外に放熱されることで、筐体二重壁を利用してサーバおよび情報通信機器に供給されるガスが冷却循環されることを特徴とする。
【0019】
請求項4に記載の発明は、
請求項1および請求項2に記載の方法によって無酸素または低酸素濃度となったガスが、請求項3に記載の方法によって筐体二重壁内で冷却されて循環供給されることで、サーバおよび情報通信機器の一方または両方が、無酸素ガスまたは低酸素空気の冷却循環流で冷却されることを特徴とする。
【0020】
請求項5に記載の発明は、
請求項2に記載の酸素除去手段が、酸素吸着材か、酸素分離膜を利用した酸素製造供給装置からの脱酸素オフガスの供給か、窒素吸着材を利用した窒素製造供給装置からの窒素供給のいずれか一つ以上の方法によって、冷却循環される空気中の酸素濃度が12.5パーセント以下に維持されることを特徴とする。
【0021】
請求項6に記載の発明は、
請求項2と請求項5に記載の酸素除去方法において、冷却循環流路上に酸素濃度センサを具備させ、当該センサの酸素濃度測定結果に応じて酸素吸着材の交換時期通知を行うか、酸素または窒素の製造供給装置の起動停止と運転出力を制御することで、冷却循環流路内のガスの酸素濃度を制御することを特徴とする。
【0022】
請求項7に記載の発明は、
請求項3に記載の吸熱体と放熱体の一方または両方が、高熱伝導性の波状板か、波状多孔板で形成され、二重壁内部を流れる循環冷却ガスからの吸熱と、筐体外壁表面の放熱体から外気への放熱が、それぞれ促進されることを特徴とする。
【0023】
請求項8に記載の発明は、
請求項3に記載の循環冷却ガスの冷却方法において、冷却循環流路上のサーバまたは情報通信機器の冷却ガス給気口付近に温度センサを具備させ、当該センサの温度測定結果に応じて循環流路上に設置された送気ファンの回転数を制御することで、冷却循環流路内を流れる冷却ガスの温度を制御することを特徴とする。
【0024】
請求項9に記載の発明は、
請求項1~請求項3に記載の冷却循環流路内に、さらに除塵フィルタと、吸湿材または吸水フィルタと、塩分、硫化水素、窒素酸化物、硫黄酸化物、有機化合物のいずれか一つ以上の有害物質を吸着する化学吸着フィルタを具備させることで、冷却循環ガス中の水分と有害物質を除去することを特徴とする。
【0025】
請求項10に記載の発明は、
請求項6に記載の方法によって循環冷却ガス中の酸素が除去制御され、請求項8に記載の方法によって循環ガスの放熱と冷却温度が制御され、さらに請求項9に記載の方法によって循環空気中の塵埃と水分および有害物質が吸着除去されることで、低湿度かつ除塵や有害物質の除去がされた低酸素濃度ガスが放熱冷却されて循環供給される、劣化・火災防止型のデータセンターであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、データセンターを構成するサーバや情報通信機器に供給される冷却ガスが無酸素または低酸素に制御されて供給されるために、構成部品の酸化劣化が抑制されるとともに、過熱や静電気による発火が大幅に抑制され、さらに発火した場合にも燃焼が継続拡大しないことから、火災の発生と火災による損害を大幅に抑制することが可能となる。また、データセンターを構成する筐体壁を有効活用して放熱させることで供給ガスを効率よく冷却して循環させ、放熱が困難な小規模モジュール型のデータセンターも長期安定的に稼働することが可能となり、塵埃や水分、化学物質等が含まれる環境における狭小地であっても、小型ながら高性能のデータセンターを整備して運用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明に係る第1実施形態である、劣化・火災防止型のデータセンターを左側面からみた断面図である。
図2】本発明に係る第1実施形態である、劣化・火災防止型のデータセンターを正面からみた断面図である。
図3】本発明に係る第1実施形態である、劣化・火災防止型のデータセンターを天面からみた断面図である。
図4】本発明に係る第2実施形態である、酸素分離膜搭載型の劣化・火災防止型のデータセンターが、河川に設置された小水力発電システムの流路躯体上に併設され、小水力発電の電力が供給されて稼働している態様を示す模式図である。
図5】本発明に係る第3実施形態である、吸着式窒素製造供給装置併設型の窒素冷却循環式劣化・火災防止型のデータセンターが、地上に設置された太陽光発電システムに併設され、太陽光発電の電力が供給されて稼働している態様を示す模式図である。
図6】本発明に係る第4実施形態である、外気吸気換気式の劣化・火災防止型データセンターが、地上に設置されて稼働している態様を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して本発明を実施するための最良の形態について説明する。なお、本発明の範囲は特許請求の範囲記載のものであって、本実施形態に限定されるものではない。
【0029】
(第1実施形態)
【0030】
まず本発明の第1実施形態に係る、脱酸素ガス冷却循環式モジュール型データセンターについて、図1図2および図3に基づいて説明する。
【0031】
図1に示すように、この脱酸素ガス冷却循環式データセンター1は、デジタルデータの演算処理を行い、サーバ内における主要な熱発生源となるGPUボード2とCPUユニット3がマザーボードに接続され、それぞれがサーバ内に内蔵されて熱発生源ともなる電源ユニット4から電力供給を受けて稼働することで、アンテナ付き情報通信ユニット5によって利用者から受信したデジタルデータを演算処理して結果を出力し、出力された演算結果が前記の情報通信ユニット5から利用者にむけて送信されることで、コンパクトな筐体内にデータの送受信機能と高速演算処理機能を内蔵した小規模なモジュールであっても、デジタルデータの高速演算処理サービスを提供できる構成となっている。
【0032】
ここで、本データセンターの左右側面と背面を囲う凹型のモジュール筐体6は、設置基礎の上部に設置される際の底面金属板と一体化された構造としつつ、背面の下部の一部のみ閉鎖循環流路を形成するために矩形に穴あけ加工された構造となっている。このようにすることで、モジュール筐体6は外気侵入の影響を受けやすいサーバ構成機器に塵埃や湿気等を含む外気が侵入することを防ぎ、かつサーバ冷却空気を閉鎖循環させるための、閉鎖循環流路の一部を構成することが可能となっている。
【0033】
また、前記モジュール筐体6の前面を覆う前面放熱パネル7は、筐体の凹部全体を底面の下端から天面の上端まで隙間なく囲う金属板となっているが、その両面の一部には、サーバ内で発生する熱を受熱して熱伝導によって外気側の放熱板で放熱させるヒートブリッジを構成しつつ、GPUボードからの高温排気が隣接するGPUボードの吸気ファンに吸い込まれることを防ぎ、モジュール底部からの冷却給気を整流供給するための高熱伝導性の吸熱整流板8が一体化されている。このように構成することで、サーバ内の主要な熱発生源となるGPUボード2から排気される高温排ガスの熱を、吸熱整流板8によって受熱吸収し、前面放熱パネル7を介して外側に露出している前面外側放熱板9や、前面放熱パネルの外側表面に熱伝導させ、温度の低い周囲の外気側に効率よく放熱させる構成となっている。
【0034】
さらに、前記モジュール筐体6の天面を覆いながら、閉鎖循環流路の一部を構成させる天面カバー10は、筐体6から排気される高温のガスを、筐体背面側に誘導させたうえで、筐体背面パネルに沿った下降流に流れを変えるため、筐体の前面と左右側面の外側は隙間なく囲うものの、背面は閉鎖循環流路の一部を構成するために延長された構造としている。
【0035】
このように、前記モジュール筐体6の前面を前記の前面放熱パネル7が覆い、前記の天面カバー10がモジュール筐体の天面全体を覆ったうえで、筐体の背面と前記の天面カバー10の全体を覆うように、背面放熱カバー11がモジュール筐体の背面全体を覆う構成とすることで、天面カバー10から流下する高温の排気ガスが背面放熱カバー11を流下しながら放熱して低温化し、筐体6の底面に加工された矩形吸気口に還流する構成となっている。なお、この背面放熱カバー11も、前記の前面放熱パネル7と同様に、カバーの内側面と外側面にそれぞれ受熱板と放熱板が一体化されてヒートブリッジを構成しており、背面放熱カバー内を流下する高温の排ガスから、排気受熱板12が熱を吸収し、熱伝導によって低温外気側のカバー外側表面と背面外側放熱板13から放熱されることで、カバー11内部をガスが流下する過程でガスが冷却されて給気側に還流されるようになっている。
【0036】
また、この閉鎖循環流路を流れは、吸気ファン14と、排気ファン15によって形成されるが、吸気ファンの上流部と排気ファンの下流部に各種フィルタを配置させることで、閉鎖循環流路を流れるガスの性状を改善したうえで循環する構成としている。すなわち、吸気ファンの上流部には、大きな異物がサーバ内に侵入しないよう吸気側金属網16が設置され、さらに小さな塵埃が侵入しないよう、不織布等による除塵フィルタ17が設置されたうえで、循環ガス中の湿度分を除去するための吸湿材が塗布された吸湿フィルタ18と、循環ガス中の酸素を吸着する酸素吸着フィルタ19が配置され、吸気ファンを介してサーバ内に供給される循環ガスが、除塵、除湿および脱酸素された性状となって給気される。
【0037】
さらに、排気ファンの下流側には、塩分や硫化水素、窒素酸化物や硫黄酸化物、有機化学物質などの有害物質を吸着除去するための有害物質吸着フィルタ20が配置され、これが排気ガス出口外側の排気側金属網21によって固定されていることで、循環ガス中に含まれる微量な有害化学物質も吸着除去される構成となっている。
【0038】
なお、ここで塵埃の侵入を防ぐ除塵フィルタ17は、綿などの通気性の良い繊維フィルタでよく、吸湿フィルタ18の部分にはシリカゲルなどを収納した吸湿カートリッジを構成しても良い。また、酸素吸着フィルタ19には、酸素吸着性能が高い活性炭フィルタのほか、酸素分離膜のモジュールで酸素侵入を防いでも良い。さらに、有害物質吸着フィルタ20は、サーバ設置場所の環境に応じて影響リスクの高い物質に特化した化学吸着フィルタやゼオライト分離膜モジュールを配置することも可能で、これら各種フィルタやカートリッジ、モジュールは、前面放熱パネルを取り外した際に、初期稼働時および定期メンテナンス時に容易に交換できる構成ではあるものの、その配置位置、配置順序については、設置環境や交換作業の作業性等に応じて、自由に変更して最適化することが可能な構成となっている。
【0039】
また、閉鎖循環流路を流れるガスの温度は、吸気ファン出口でサーバ内の発熱構成部品に供給されるガスの温度を測定する給気温度センサ22によって測定され、温度がサーバ構成部品を冷却するために充分に低くなっていない場合には、吸気ファンと排気ファンの一部または両方の回転数を上げてガス循環速度を増加させる一方、温度が冷却するうえで充分に低くなっている場合には、吸気ファンと排気ファンの一部または両方の回転数を下げることで、放熱冷却のために要する電力消費を削減できるよう、最適制御される構成となっている。なお、筐体内の発熱部品からの熱が対流によって上昇する一方、背面を流下する際には放熱板を介して放熱冷却が促進されることで対流によって下降流となり吸気側に還流する構成となっていることから、筐体内と外気の温度差を有効に活用することで、閉鎖循環流の維持に要するエネルギーを最少化することが可能となっている。
【0040】
また、この筐体側面のうち、アンテナ付き情報通信ユニット5の近傍付近には一部矩形の貫通加工部が設けられ、外部からの電力供給線を接続したり、必要に応じて有線LANや光ケーブルを接続する配線接続部と、各種ソフトウェアの設定やメンテナンスを行う小窓が設けられている。なお、この部分を覆うカバーは、防塵、防水、耐候性を有しつつ、さらにアンテナ付き情報通信ユニットにおけるデジタルデータの送受信に支障をきたさないよう、金属ではなくFRP等の耐候性樹脂材等のカバーで覆われるような構成としている。
【0041】
一方、前記の樹脂カバー部分以外の筐体表面は、堅牢で熱伝導性の高い金属で構成することが望ましく、外側表面には防錆性と遮熱性を兼ね備えた耐候性遮熱塗料を塗布することが好ましい。特に日射の影響を受けやすい天面と前面、背面と両側面の周囲面に遮熱塗料を塗布しておくことで、日射による筐体の温度上昇を抑制できることから、好適である。
【0042】
このように、デジタルデータの演算処理を行うサーバと、デジタルデータの情報通信を行うアンテナ付き情報通信機器が筐体内に収納され、これら機器からの発熱をガスの閉鎖循環流路と筐体表面から効率よく放熱することで、外気の塵埃や水分と微量化学物質等の外気性状の影響を受けることなくデジタルデータの処理と送受信を行うことが可能となる。
【0043】
さらに、サーバとアンテナ付き情報通信機器の冷却を行う循環ガス中の酸素が除去された無酸素ガスとすることで、サーバや情報通信機器の酸化劣化を防止でき、過熱や静電気、落雷等の影響によって筐体内で発火が起きるような場合でも、筐体内が無酸素状態となっていることから燃焼が維持拡大せず、火災の発生を抑制することが可能となる。
(第2実施形態)
【0044】
次に、本発明の第2実施形態に係る、小水力発電システム併設型のモジュール型データセンターを示す模式図について、図4に基づいて説明する。
【0045】
図4に示すように、第2実施形態のシステムでは、データセンターが小水力発電システム23が稼働している河川流路に構成された矩形流路の天面パネル状に配置され、水力発電システムのパワーコンディショナ24からの電力で稼働しているほか、前面放熱パネル7の前面外側放熱板9が河川流路中まで延伸され、筐体内の熱が低温の河川水によって冷却促進されている点が異なる。
【0046】
また、筐体背面の流路には、前記の水力発電電力で稼働する循環ガスブロワ25と、このブロワの下流に酸素透過膜モジュール26が構成されることで、循環ガス流路中に含まれる酸素が酸素透過膜を介して系外に排気される一方、脱酸素された窒素ガスが閉鎖循環流路を流れる点も異なっている。なお、このブロワは吸気ファン下流に配置された酸素濃度センサ27による酸素濃度測定結果に基づいて稼働し、系内の酸素濃度が上昇した際にはブロワ稼働による酸素分離膜モジュールを介した脱酸素空気量の増加を図り、一定時間のブロワ稼働によっても酸素濃度が低下しない場合には酸素分離膜モジュールの劣化判定を行い、メンテナンス通知を行う構成としているほか、流路内のガス量が不足し、閉鎖循環流路内の圧力が低下した際には、差圧自動調整弁28から不足する空気が流入し、これが前記のブロワ25に供給される構成となっている。
【0047】
このような構成とすることで、常に河川からの蒸発水分が存在する環境であっても、河川水の冷熱を利用しながら効率よくサーバを冷却し、無酸素ガスの循環による低火災リスクでの再エネ自立型小規模データセンターの運用が可能となる。
(第3実施形態)
【0048】
次に、本発明の第3実施形態に係る、太陽光発電システム併設型のモジュール型データセンターを示す模式図について、図5に基づいて説明する。
【0049】
図5に示すように、第3実施形態のシステムでは、データセンターが太陽光発電システム29が稼働し、発電電力がパワーコンディショナ24を介してデータセンターに供給されつつ、余剰電力がリチウムイオン蓄電池30に蓄電され、太陽光発電の電力が安定供給される地上に併設され、前面放熱パネル7の外側放熱板9が延伸されて地下深くまで埋設され、筐体内の熱が通年低温で安定している地中熱によって冷却促進されている点が異なる。
【0050】
また、太陽光発電パネルの背面には、前記の太陽光発電電力で稼働する圧力スイング式の窒素製造装置31が設置され、この装置から製造される窒素ガスがデータセンターの背面流路から供給されることで、データセンターの閉鎖循環流路内に窒素ガスが充填されて循環する構成となっている点が異なる。なお、この窒素製造装置は吸気ファン下流に配置された酸素濃度センサ27による酸素濃度測定結果に基づいて稼働し、系内の酸素濃度が増加した際には窒素製造装置を稼働させて窒素供給を行い、一定時間稼働させても酸素濃度が低下しない場合には、窒素製造装置の故障や性能低下の判定を行い、メンテナンス通知を行う構成としている。
【0051】
なお、窒素製造装置の稼働は、データセンターの初期設置時やフィルタ交換作業等のメンテナンス後の空気混入時における空気置換時が主であり、常時循環しているガス中に空気が微量混入することによる酸素濃度上昇での稼働時間は少ないことが想定され、酸素除去のプロセスについても緊急性や短時間処理を要するものでもないため、窒素製造装置は小型のもので、稼働時間も太陽光発電システムの発電電力がデータセンターの消費電力を上回る余剰電力発生時や、リチウムイオン蓄電池30に余剰電力が充分に蓄電されている時間帯を選定して稼働させ、窒素製造に係わるエネルギーは最少化することが望ましい。
【0052】
このような構成とすることで、塵埃や地表からの水分蒸発が多い陸上や海岸等の環境であっても、地中熱を利用しながら効率よくサーバを冷却し、窒素ガスの循環によって低火災リスクで再エネ自立型の小規模データセンターを構築し、運用することが可能となる。(第4実施形態)
【0053】
次に、本発明の第4実施形態に係る、外気吸気換気式の劣化・火災防止型データセンターを示す模式図について、図6に基づいて説明する。
【0054】
図6に示すように、第4実施形態のシステムでは、筐体背面の閉鎖循環流路を形成する背面放熱カバーがない一方、筐体底面の前面、背面および左右側面には、外気を吸気する矩形の底部吸気口32が加工されており、外気取り込みによる空気中の酸素除去と除湿を強化するため、酸素吸着フィルタと除湿フィルタの厚さが増している点が異なる。
【0055】
このような構成とすれば、屋内や化学物質等の影響が少ない環境においては、外気を取り込んで湿度分と酸素を除去した低酸素の除湿空気を筐体内に供給し、発生した高温排ガスは循環させず天面カバーから排気放散させることで、吸排気ファンの動力を大幅に削減して省エネルギー化させながら、外気吸気によって除塵、除湿した低酸素空気換気を行うモジュール型データセンターとして稼働させることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0056】
なお本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、例えば図示した実施形態は、データセンターのサーバ冷却用途に限らず、農林水産物の低温無酸素環境による長期保存等の用途に適用しても良い。
【0057】
このように前記の実施形態は例示であり、本発明の特許請求範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0058】
1・・・・劣化・火災防止型のデータセンター
2・・・・GPUボード
3・・・・CPUユニット
4・・・・電源ユニット
5・・・・アンテナ付き情報通信ユニット
6・・・・モジュール筐体
7・・・・前面放熱パネル
8・・・・吸熱整流板
9・・・・前面外側放熱板
10・・・天面カバー
11・・・背面放熱カバー
12・・・排気受熱板
13・・・背面外側放熱板
14・・・吸気ファン
15・・・排気ファン
16・・・吸気側金属網
17・・・除塵フィルタ
18・・・吸湿フィルタ
19・・・酸素吸着フィルタ
20・・・有害物質吸着フィルタ
21・・・排気側金属網
22・・・給気温度センサ
23・・・小水力発電システム
24・・・パワーコンディショナ
25・・・循環ガスブロワ
26・・・酸素透過膜モジュール
27・・・酸素濃度センサ
28・・・差圧自動調整弁
29・・・太陽光発電システム
30・・・リチウムイオン蓄電池
31・・・窒素製造装置
32・・・底部吸気口
図1
図2
図3
図4
図5
図6