(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023011868
(43)【公開日】2023-01-24
(54)【発明の名称】MPS-I関連失明の治療のためのAAV-IDUAベクター
(51)【国際特許分類】
C12N 15/56 20060101AFI20230117BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20230117BHJP
C12N 7/01 20060101ALI20230117BHJP
C12N 9/24 20060101ALI20230117BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20230117BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20230117BHJP
A61K 38/46 20060101ALI20230117BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230117BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20230117BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230117BHJP
【FI】
C12N15/56 ZNA
C12N15/864 100Z
C12N7/01
C12N9/24
C12N15/12
A61K35/76
A61K38/46
A61K48/00
A61P27/02
A61P43/00 111
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022177564
(22)【出願日】2022-11-04
(62)【分割の表示】P 2018563395の分割
【原出願日】2017-02-22
(31)【優先権主張番号】62/298,126
(32)【優先日】2016-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】518296447
【氏名又は名称】ザ ユニヴァーシティー オブ ノース カロライナ アト チャペル ヒル
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 博司
(72)【発明者】
【氏名】マシュー ルイス ハーシュ
(72)【発明者】
【氏名】リチャード ジュード サミュルスキ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】対象の角膜にα-L-イズロニダーゼを送達するためのウイルスベクター並びに対象におけるムコ多糖症I型による角膜混濁又は失明の治療又は予防のための該ウイルスベクターの使用方法を提供する。
【解決手段】ヒトα-L-イズロニダーゼ(IDUA)を発現するアデノ随伴ウイルス(AAV)粒子を含む剤であって、対象の角膜にIDUAを送達することにおいて使用する為の前記剤を提供する。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトα-L-イズロニダーゼ(IDUA)をコードする配列を含む組換え核酸であって、ヌクレオチド配列がヒト細胞内での発現のためにコドン最適化されている、組換え核酸。
【請求項2】
配列番号1と90%以上同一のヌクレオチド配列を含む、請求項1に記載の組換え核酸。
【請求項3】
配列番号1のヌクレオチド配列を含む、請求項1に記載の組換え核酸。
【請求項4】
請求項1に記載の核酸を含むアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターゲノム。
【請求項5】
前記核酸が構成型プロモーターに作動可能に連結されている,請求項4に記載のAAVベクターゲノム。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載のAAVベクターゲノムを含むインビトロ細胞。
【請求項7】
前記ベクターゲノムが細胞ゲノムに安定的に組み込まれている、請求項6に記載の細胞。
【請求項8】
請求項4又は請求項5に記載のAAVベクターゲノムを含むAAV粒子。
【請求項9】
AAVカプシドを含む組換えAAV粒子の生産方法であって、
インビトロで細胞に、AAV Cap及びAAV Repをコードする配列、請求項4又は請求項5に記載のAAVベクターゲノム並びに増殖的AAV感染を発生させるためのヘルパー機能を与えること、及び
AAVカプシドを含み、かつAAVベクターゲノムをカプシド内に被包する組換えAAV粒子を組み立てさせること
を含む方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法によって生産されたAAV粒子。
【請求項11】
当該AAV粒子がAAV2、AAV8又はAAV9粒子である、請求項8又は請求項10に記載のAAV粒子。
【請求項12】
当該AAV粒子がキメラAAV8/AAV9粒子である、請求項8又は請求項10に記載のAAV粒子。
【請求項13】
請求項8又は請求項10乃至請求項12のいずれか1項に記載のAAV粒子と薬学的に許容される媒体とを含む医薬製剤。
【請求項14】
対象の角膜にIDUAを送達する方法であって、対象の角膜に、IDUAを発現するAAV粒子の有効量を投与し、もって対象の角膜にIDUAを送達することを含む方法。
【請求項15】
対象におけるムコ多糖症I型(MPS-I)関連角膜混濁を治療又はその発症を遅延させる方法であって、対象の角膜に、IDUAを発現するAAV粒子の治療有効量を投与し、もって対象におけるMSP-I関連角膜混濁を治療又はその発症を遅延させることを含む方法。
【請求項16】
インビトロ又はエクスビボで角膜にIDUAを送達する方法であって、角膜を、IDUAを発現するAAV粒子の有効量と接触させ、もって角膜にIDUAを送達することを含む方法。
【請求項17】
前記角膜を、それを必要とする対象に移植することをさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記AAV粒子が、請求項8又は請求項10乃至請求項12のいずれか1項に記載のAAV粒子或いは請求項13に記載の医薬製剤である、請求項14乃至請求項17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記AAV粒子が、実質内注射によって角膜に投与される、請求項14乃至請求項18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記AAV粒子が角膜に局所的に投与される、請求項14乃至請求項18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記対象がヒト患者である、請求項14乃至請求項20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記対象がMPS-Iと診断されている、請求項14乃至請求項21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記対象が角膜の混濁を未だに発症していない、請求項14乃至請求項22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記対象が角膜の混濁を発症している、請求項14乃至請求項22のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象の角膜にα-L-イズロニダーゼを送達するためのウイルスベクター並びに対象におけるムコ多糖症I型による角膜混濁及び失明の治療又は予防のための該ウイルスベクターの使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ムコ多糖症I型(MPS-I)は、グリコサミノグリカン(GAG)を分解する偏在性細胞内分泌酵素であるα-L-イズロニダーゼ(IDUA)をコードする遺伝子のヌル変異又はナンセンス変異に起因する常染色体劣性リソソーム蓄積症である。機能性IDUAが存在しないと、リソソームにGAGが蓄積して脂質、糖及びタンパク質の正常な細胞内輸送を損なって、多系統終末器官障害を生じる。MPSの発症頻度は約100000人に1人であり、この疾患は肝脾腫、心不全、骨及び関節の変形、低身長、精神発達遅滞及び重篤な神経系障害によって特徴づけられ、10歳までに死亡することが多い。追加の症状として、難聴、関節拘縮、及び失明に至る角膜の混濁が挙げられる(Aldenhoven et al., Blood 125(13):2164(2015))。
【0003】
現行のMPS-I治療法には、静脈内注射によるIDUA酵素補充療法(enzyme replacementtreatment:ERT)(ALDURAZYME(登録商標))があり、これは病状の軽いMPS-I患者における肝脾腫の軽減、並びに心筋機能、肺症状及び運動性の改善に有用であることが判明している。さらに有望な治療法は、同種造血幹細胞移植(HSCT)に依拠するものであり、これは過去20~30年間にわたりMPS-I患者に用いられている。HSCTは、認知機能の改善、肝脾腫の軽減、虚血性心疾患の予防及び患者の寿命の(場合によっては数十年もの)延長に成功したことが判明している。臨床成績は、骨髄破壊的化学療法及び臍帯血ドナー(提供者)を用いたときが最良であり、持続的ドナーキメリズムの程度にも相関している。依然として前臨床評価段階にある第3のMPS-I治療法はアデノ随伴ウイルス(AAV)IDUA遺伝子付加戦略に依拠するものである。マウス、ネコ及びイヌMPS-Iモデルにおいて頸動脈、脳実質内、脳室内及びくも膜下腔内を含めた幾つかの経路での投与による中枢神経系標的AAV-IDUA遺伝子治療が研究されている(Janson et al., Neurosurgery 74(1):99(2014); Wolf et al., Neurobiol. Dis. 43(1):123(2011); Hinderer et al., Mol. Ther. 22(12):2018(2014))。これらの遺伝子治療研究では、組織学的、生化学的及び特に認知機能の改善が独立に報告されており、IDUA関連毒性も観察されていない。しかし、ERT、HSCT及びAAVによるCNS標的又は全身遺伝子治療には共通の短所がある。すなわち、関節及び眼を含む特権区画でのMPS-I関連疾患を是正できないことである。
【0004】
眼の異常に関して、MPS-Iの小児の約90%が角膜混濁のため視力を失うが、これは空胞化した実質細胞が原因とされている(Huang et al., Exp. Eye Res. 62(4):377(1996))。MPS-Iヒト角膜の詳細な分析によって、コンドロイチン及びデルマタン硫酸GAGが蓄積し、コラーゲン繊維の均一分布、構造及びサイズを変化させることが実証されている(Alroy et al., Exp. Eye Res. 68(5):523(1999); Fahnehjelm et al., Acta Ophthalmol. Scand. 84(6):781(2006))。角膜失明に対処するためMPS-I小児で角膜移植が用いられてきたが、近年では高い拒絶率のため、この治療法を標準的治療法とするのははばかられている。対照的に、HSCTを用いた複数の別個の報告は、角膜の透明度を安定化、改善及び場合によっては回復することができることを実証している(Fahnehjelm et al., Acta Ophthalmol. Scand. 84(6):781(2006); Hobbs, Lancet 2(8249):735(1981); Hoogerbrugge et al., Lancet, 345(8962):1398(1995); Vellodi et al., Arch. Dis. Child. 76(2):92(1997); Gullingsrud et al., Ophthalmology, 105(6):1099(1998); Souillet et al., Bone Marrow Transplant 31(12):1105(2003))。
【0005】
本発明は、角膜でIDUAを発現させるためのウイルスベクター並びにMSP-I関連角膜混濁又は失明の治療又は予防するための方法を提供する。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、MPS-Iの対象の角膜にIDUAを送達するためのAAVベクターの使用が、角膜全体でのIDUAの発現に有効であるという知見に基づくものである。従って、本発明の一つの態様は、ヒトα-L-イズロニダーゼ(IDUA)をコードするヌクレオチド配列を含む組換え核酸であって、該ヌクレオチド配列がヒト細胞内での発現のためにコドン最適化されている、組換え核酸に関する。
【0007】
本発明の別の態様は、本発明の核酸を含むAAVベクターゲノム、該AAVベクターゲノムを含むAAV粒子並びに該AAV粒子を含む医薬組成物に関する。
本発明の別の態様は、IDUAを発現するAAV粒子を含む剤であって、対象の角膜にIDUAを送達することにおいて使用する為の該剤に関する。
本発明の別の態様は、IDUAを発現するアデノ随伴ウイルス(AAV)粒子を含む剤であって、対象におけるムコ多糖症I型(MPS-I)関連角膜混濁を治療又はその発症を遅延することにおいて使用する為の該剤に関する。
【0008】
本発明のさらに別の態様は、AAVカプシドを含む組換えAAV粒子の生産方法であって、インビトロで細胞に、AAV Cap及びAAV Repをコードする配列、本発明のAAVベクターゲノム並びに増殖的AAV感染を発生させるためのヘルパー機能を与えること、及びAAVカプシドを含み、かつAAVベクターゲノムをカプシド内に被包する組換えAAV粒子を組み立てさせることを含む方法に関する。
【0009】
本発明の追加の態様は、対象の角膜にIDUAを送達する方法であって、対象の角膜に、IDUAを発現するAAV粒子の有効量を投与し、もって対象の角膜にIDUAを送達することを含む方法に関する。
【0010】
本発明の別の態様は、対象におけるMPS-I関連角膜混濁を治療又はその発症を遅延させる方法であって、対象の角膜に、IDUAを発現するAAV粒子の治療有効量を投与し、もって対象におけるMSP-I関連角膜混濁を治療又はその発症を遅延させることを含む方法に関する。
【0011】
本発明の上記その他の態様について、以下の本発明の説明でさらに詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1A~
図1DはAAV遺伝子治療によるMPS-I患者繊維芽細胞でのIDUA活性の回復を示す。(A)AAV-IDUA最適化ベクター構築物の概略図。(B)AAV2感染及び非感染繊維芽細胞、正常ヒト繊維芽細胞(NHF)又はMPS-I繊維芽細胞から得られた細胞溶解物(左図)及び上清(右図)をIDUAタンパク質発現について分析した。細胞溶解物中の全タンパク質のローディング対照としてβ-アクチンの検出を行った。(C,D)AAV2感染及び非感染繊維芽細胞、NHF又はMPS-I繊維芽細胞から得られた細胞溶解物(C)及び上清(D)について、IDUAタンパク質の機能活性を得た。細胞溶解物に関しては、4-MUのナノモル数を1時間の反応及びmg全タンパク質に対して標準化した。細胞上清に関しては、5-MUのナノモル数を10μlの試料に対して標準化した。4-MU:4-メチルウンベリフェロン、CMV:サイトメガロウイルスプロモーター、ITR:末端逆位反復配列、GFP:緑色蛍光タンパク質。
【
図2】
図2は、MPS-I線維芽細胞へのAAV2-GFP及びAAV2-optIDUA投与後に細胞毒性がみられないことを示す。
【
図3】
図3は、角膜注射後の墨汁含有ビヒクルの分布を示す。
【
図4】
図4A~
図4Cは、ヒト角膜におけるAAVカプシドセロタイプ評価を示す。(A)AAVセロタイプ8、9又は8/9キメラ8G9にカプシド被包された自己相補的CMV-GFPカセットをヒト角膜実質に注射した。7日後にウェスタンブロットを用いてGFPを検出した。PBSは、PBS(ビヒクル対照)のみを注射したヒト角膜に相当する。ローディング対照としてβ-アクチンの検出を行った。(B)一本鎖AAV8G9-CMV-GFPをヒト角膜実質内に注射し、7日後に組織検査のために採取した。左:ヒト角膜切片での組換えAAV8G9-GFPウイルス感染の分布を示す免疫蛍光画像。PBSを注射したヒト角膜を陰性対照とした。画像は10×対物レンズで取得し、スティッチ処理によって合成した。スケールバーは2000μmである。右:20×対物レンズで撮像した同一の染色ヒト角膜の異なる領域。スケールバーは100μmである。DAPIを核対比染色に用いた。(C)GFP及び表記の細胞マーカーで染色した(B)の角膜の代表的切片。スケールバーは10μmである。DAPIを核対比染色に用いた。
【
図5】
図5A~
図5Cは、AAV8G9-opt-IDUAによるヒト角膜でのIDUA活性の回復を示す。(A)IDUA抗体及び細胞マーカーで染色した正常な非注射角膜の代表的切片。DAPIを核対比染色に用いた。スケールバーは10μmである。(B)AAV8G9-IDUA注射後のIDUA産生量を検出するウエスタンブロット。AAV8G9-GFPの投与をベクター感染対照とした。B-アクチンをローディング対照とした。(C)AAV8G9-opt-IDUA注射後7日目のヒト角膜から得られたIDUAタンパク質の機能活性。AAV8G9-GFPを陰性対照として用いた。4-MUのナノモル数を1時間の反応及びmg全タンパク質に対して標準化した。PBSは、ビヒクル対照のみを注射したヒト角膜に相当する。
【
図6】
図6A~
図6Bは、AAV8G9-opt-IDUA形質導入後のIDUAタンパク質の分布を示す。(A)AAV8G9-opt-IDUA又はPBS(ビヒクル)注射後7日目のヒト角膜切片でのIDUAタンパク質の分布を示す免疫蛍光画像。画像は10×対物レンズで取得し、スティッチ処理によって合成した。スケールバーは2000μmである。DAPIを核対比染色に用いた。(B)20×対物レンズで撮像した同一の染色ヒト角膜の断面。一番上の図は染色の陰性対照であり、一次抗体を用いないこと以外は他の試料と全く同じように実施した。DAPIを核対比染色に用いた。スケールバーは100μmである。
【
図7】
図7A~
図7Bは、ヒト角膜においてAAV8G9-opt-IDUA注射後に細胞毒性がないことを示す。(A)PBS、AAV8G9-GFP又はAAV8G9-opt-IDUAを注射したヒト角膜を7日後にTUNEL染色処理した。上図は10倍で撮像した画像。下図は20倍で撮像した画像。陽性対照として、PBSを注射したヒト角膜をヌクレアーゼ処理した。スケールバーは100μmである。(B)(A)で実施した染色全体のピクセル面積の定量。AAV8G9-GFP又はAAV8G9-opt-IDUAを注射した角膜で細胞毒性に統計学的差異は観察されなかった(p>0.05)。
【
図8】
図8A~
図8Eは、MPS1イヌにおけるAAV8G9-opt-IDUAの実質内注射を示す。イヌI-712の左眼にAAV8G9-CMV-optIDUA(1e
9vg/μl)溶液を注射した。インスリン注射器の針先を角膜実質に挿入し(A)、溶液を徐々に注入して(B)全量(65μl)を投与した(C)。注射直後に、液体保持領域が、角膜表面の30%の部分の、軸角膜の曇り又は浮腫として視認された(D)。(E)眼科用超音波生体顕微鏡によって、表記時点での中心角膜厚を測定することができた。
【
図9】
図9A~
図9Bは、MPS1イヌにおいてAAV8G9-CMV-optIDUAが角膜混濁を消失させることを示す。A)MPS1イヌの片眼にAAV8G9-opt-IDUAを、反対側の眼に対照としてAAV-GFPを、いずれも実質内注射によって投与した。眼底の反帰光線法での輝板の反射率の向上は、表記の期間の角膜の透明度を示す。B)角膜浮腫及び回復。イヌI-709は、急性角膜浮腫を、5週目に左眼で(発症した週の画像は示していない)を、次いで10週目に右眼で発症した。角膜浮腫は、全身性ステロイド薬(SS)と共に又は無しで局所ステロイド薬(TS)を投与した間の2~3週間以内に収縮し、注射後19週までいずれの眼でも再発しなかった。重要なことに、一時的な免疫反応から回復した後も、IDUAを注射した左眼では治療効果がはっきりと残っていた。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付の図面を参照しながら本発明について説明し、本発明の好ましい実施形態を示す。ただし、本発明は、異なる形態で実施することもでき、本明細書に記載された実施形態に限定されるものではない。これらの実施形態は、本明細書の開示内容を十分かつ完璧なものとするとともに、当業者に本発明の技術的範囲を十分に伝えるためのものである。
【0014】
別途定義しない限り、本明細書で用いる技術用語及び科学用語はすべて、当業者が通常理解する通りの意味を有する。本明細書で本発明の説明に用いる用語は、特定の実施形態を説明するためのものにすぎず、本発明を限定するものではない。本明細書で引用する刊行物、特許出願、特許その他の文献の開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす。
【0015】
本明細書では、ヌクレオチド配列は、別途記載しない限り、5’から3’方向の一本鎖のみで左から右に向かって記載する。ヌクレオチド及びアミノ酸は、IUPAC-IUB Biochemical Nomenclature Commissionの推奨する方法或いは(アミノ酸については)一文字略号又は三文字略号のいずれかによって表記するが、いずれも37CFR§1.822及び慣例に合致するものである。例えば、PatentIn User Manual, 99-102(Nov.1990)(米国特許商標庁)参照。
【0016】
別途記載する場合を除いて、組換えパルボウイルス及びAAV(rAAV)構築物、パルボウイルスRep及び/又はCap配列を発現するパッケージングベクター、並びに一過的及び安定的に形質移入されたパッケージング細胞の構築には、当業者に公知の標準法を使用し得る。かかる技術は、当業者に公知である。例えば、SAMBROOK et al., MOLECULAR CLONING: A LABORATORY MANUAL 2nd Ed.(Cold Spring Harbor, NY, 1989); AUSUBEL et al., CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY(Green Publishing Associates, Inc. and John Wiley & Sons, Inc., New York)参照。
【0017】
さらに、本発明では、本発明の実施形態によっては、本明細書に記載された特徴のいずれか又は特徴の組合せを除外又は省略してもよいと想定される。
【0018】
さらに説明すると、例えば、明細書に特定のアミノ酸をA、G、I、L及び/又はVから選択することができると記載されている場合、この記載は、例えばA、G、I又はL;A、G、I又はV;A又はG;Lのみ等の、これらのアミノ酸の任意の部分集合からアミノ酸を選択できることを意味し、そのようなサブコンビネーションが本明細書にすべて明示的に記載されているものとして扱われる。さらに、このような記載は、特定されたアミノ酸の1以上を権利範囲から除外できることを示す。例えば、ある特定の実施形態では、アミノ酸はA、G又はIではない;Aではない;G又はVではない等、そのような可能な除外規定がすべて明細書に明示的に記載されているものとして扱われる。
【0019】
定義
本明細書及び添付の特許請求の範囲では、以下の用語を用いる。
【0020】
単数形で記載されたものであっても、文脈から別途明らかでない限り、複数の場合も含む。
【0021】
さらに、本明細書において測定可能な数値(例えばポリヌクレオチド又はポリペプチド配列の長さ、投与量、時間、温度等)に言及する際に用いられる「約」という用語は、記載された量の20%、10%、5%、1%、0.5%、さらには0.1%の変動を包含することを意味する。
【0022】
また、本明細書で用いる「及び/又は」という用語は、その用語と共に列挙されたものの1以上のあらゆる可能な組合せに加えて、選択肢(「又は」)として解釈した場合の組合せの欠如も示し、それらを包含する。
【0023】
本明細書で用いる「から本質的になる」という移行句は、請求項に係る発明(例えば、rAAV複製)について記載された物質又は工程「並びに基本的かつ新規な特徴に実質的な影響を与えないもの」を含むと解釈すべきである。従って、本明細書で用いる「から本質的になる」という用語は、「含む」と同義に解釈すべきではない。
【0024】
本発明のポリヌクレオチド又はポリペプチド配列に対して用いられる「から本質的になる」という記載(及び文法的変形)は、記載された配列(例えば、配列番号)からなるポリヌクレオチド又はポリペプチドだけでなく、ポリヌクレオチド又はポリペプチドの機能が実質的に変化しないように、記載された配列の5’及び/又は3’或いはN末端及び/又はC末端に合計10個以下(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10個)の追加のヌクレオチド又はアミノ酸が付加したものも意味する。合計10個以下の追加のヌクレオチド又はアミノ酸は、両端に付加された追加のヌクレオチド又アミノ酸を合計した数である。本発明のポリヌクレオチドに対して用いられる「実質的に変化」という用語は、コードされたポリペプチドを発現する能力の増減が、記載された配列からなるポリヌクレオチドの発現レベルと比較して、50%以上であることをいう。本発明のポリペプチドに対して用いられる「実質的に変化」という用語は、記載された配列からなるポリペプチドの活性と比較して、酵素活性の増減が50%以上であることをいう。
【0025】
本明細書で用いる「パルボウイルス」という用語は、自律的複製パルボウイルス及びディペンドウイルスを含めて、パルボウイルス科(Parvoviridae)を包含する。自律的パルボウイルスには、パルボウイルス属(Parvovirus)、エリスロウイルス属(Erythrovirus)、デンソウイルス属(Densovirus)、イテラウイルス属(Iteravirus)及びコントラウイルス属(Contravirus)に属するものが挙げられる。自律的パルボウイルスの具体例としては、マウス微小ウイルス、ウシパルボウイルス、イヌパルボウイルス、ニワトリパルボウイルス、ネコ汎白血球減少症ウイルス、ネコパルボウイルス、ガチョウパルボウイルス、H1パルボウイルス、ノバリケンパルボウイルス、ヘビパルボウイルス及びB19ウイルスが挙げられるが、これらに限定されない。他の自律的パルボウイルスも当業者に公知である。例えば、FIELDS et al., VIROLOGY, volume 2, chapter 69(4th ed., Lippincott-Raven Publishers)参照。
【0026】
ディペンドウイルス属(Dependovirus)はアデノ随伴ウイルスを含み、AAV1型、AAV2型、AAV3型(3A型及び3B型を含む)、AAV4型、AAV5型、AAV6型、AAV7型、AAV8型、AAV9型、AAV10型、AAV11型、AAV12型、AAV13型、トリAAV、ウシAAV、イヌAAV、ヤギAAV、ヘビAAV、ウマAAV及びヒツジAAVが挙げられるが、これらに限定されない。例えば、FIELDS et al., VIROLOGY, volume 2, chapter 69(4th ed., Lippincott-Raven Publishers);並びに表1参照。
【0027】
本明細書で用いる「アデノ随伴ウイルス」(AAV)という用語には、AAV1型、AAV2型、AAV3型(3A型及び3B型を含む)、AAV4型、AAV5型、AAV6型、AAV7型、AAV8型、AAV9型、AAV10型、AAV11型、AAV12型、AAV13型、ヘビAAV、トリAAV、ウシAAV、イヌAAV、ウマAAV、ヒツジAAV、ヤギAAV、エビAAV或いは既知の又は後日発見される他のAAVが包含されるが、これらに限定されない。例えば、FIELDS et al., VIROLOGY, volume 2, chapter 69(4th ed., Lippincott-Raven Publishers)参照。多数の比較的新しいAAVセロタイプ及びクレードが同定されている(例えば、Gao et al.,(2004) J. Virol. 78:6381; Moris et al.,(2004) Virol. 33-:375並びに表1参照)。
【0028】
本発明のパルボウイルスベクター、粒子及びゲノムは、限定されるものではないが、AAV由来のものであってもよい。AAV及び自律的パルボウイルスの様々なセロタイプのゲノム配列、並びに天然ITR、Repタンパク質及びカプシドサブユニットの配列が公知である。こうした配列は文献又はGenBankのような公開データベースに見出すことができる。例えば、GenBank受託番号NC_002077、NC_001401、NC_001729、NC_001863、NC_001829、NC_001862、NC_000883、NC_001701、NC_001510、NC_006152、NC_006261、AF063497、U89790、AF043303、AF028705、AF028704、J02275、J01901、J02275、X01457、AF288061、AH009962、AY028226、AY028223、AY631966、AX753250、EU285562、NC_001358、NC_001540、AF513851、AF513852及びAY530579を参照されたい。なお、これらの開示内容はパルボウイルス及びAAVの核酸及びアミノ酸配列の教示に関して援用によって本明細書の内容の一部をなす。また、例えば、Bantel-Schaal et al.,(1999) J. Virol. 73: 939; Chiorini et al.,(1997) J. Virol. 71:6823; Chiorini et al.,(1999) J. Virol. 73:1309; Gao et al.,(2002) Proc. Nat. Acad. Sci. USA 99:11854; Moris et al.,(2004) Virol. 33-:375-383; Mori et al.,(2004) Virol. 330:375; Muramatsu et al.,(1996) Virol. 221:208; Ruffing et al.,(1994) J. Gen. Virol. 75:3385; Rutledge et al.,(1998) J. Virol. 72:309; Schmidt et al.,(2008) J. Virol. 82:8911; Shade et al.,(1986) J. Virol. 58:921; Srivastava et al.,(1983) J. Virol. 45:555; Xiao et al.,(1999) J. Virol. 73:3994;国際公開第00/28061号、同第99/61601号、同第98/11244号及び米国特許第6156303号も参照されたい。なお、これらの開示内容はパルボウイルス及びAAVの核酸及びアミノ酸配列の教示に関して援用によって本明細書の内容の一部をなす。また、表1も参照されたい。AAV1、AAV2及びAAV3のITR配列に関する初期の記載は、Xiao, X.,(1996), “Characterization of Adeno-associated virus(AAV) DNA replication and integration,”博士論文,University of Pittsburgh(米国ペンシルヴァニア州ピッツバーグ)(その開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす。)でなされている。
【0029】
本明細書で用いる「トロピズム」という用語は、細胞へのウイルスの進入、任意には及び好ましくは、それに続くウイルスゲノムによって運搬される配列の細胞内での発現(例えば転写及び任意には翻訳)、例えば組換えウイルスでは異種配列の発現をいう。当業者には明らかであろうが、ウィルスゲノムからの異種核酸配列の転写は、例えば誘導性プロモーターその他で制御された核酸配列について、トランス作用性因子の非存在下では開始されないことがある。AAVの場合、ウイルスゲノム由来の遺伝子発現は、安定的に組み込まれたプロウイルス、非組込みエピソームその他ウイルスが細胞内で取り得る任意の形態に由来し得る。
【0030】
本明細書において、パルボウイルス又はAAVによる細胞の「形質導入」とは、パルボウイルス/AAVによって媒介される細胞への遺伝物質の導入をいう。例えば、FIELDS et al., VIROLOGY, volume 2, chapter 69(3d ed., Lippincott-Raven Publishers)参照。
【0031】
「5’部分」及び「3’部分」という用語は、2以上のエレメント間の空間的関係を規定する相対的な用語である。例えば、ポリヌクレオチドの「3’部分」は、別のセグメントの下流にあるポリヌクレオチドのセグメントを示す。「3’部分」という用語は、そのセグメントが、ポリヌクレオチドの3’末端にあっても、ポリヌクレオチドの3’側の半分にあってもよいが、必ずしもポリヌクレオチドの3’末端にあることを示すものでもなければ、必ずしもポリヌクレオチドの3’側の半分にあることを示すものでもない。同様に、ポリヌクレオチドの「5’部分」は、別のセグメントの上流にあるポリヌクレオチドのセグメントを示す。「5’部分」という用語は、そのセグメントが、ポリヌクレオチドの5’末端にあっても、ポリヌクレオチドの5’側の半分にあってもよいが、必ずしもポリヌクレオチドの5’末端にあることを示すものでもなければ、必ずしもポリヌクレオチドの5’側の半分にあることを示すものでもない。
【0032】
本明細書で用いる「ポリペプチド」という用語は、別途記載しない限り、ペプチド及びタンパク質の両方を包含する。
【0033】
「ポリヌクレオチド」は、ヌクレオチド塩基の配列であり、RNA、DNA又はDNA-RNAハイブリッド配列(天然ヌクレオチド及び非天然ヌクレオチドの両方を包含する)であり、一本鎖又は二本鎖DNA配列のいずれであってもよい。
【0034】
本明細書で用いる「配列同一性」という用語は、当技術分野における通常の意味を有する。当技術分野で公知の通り、ポリヌクレオチド又はポリペプチドが既知の配列と配列同一性又は類似性を有するか否かを決定するのに、多種多様なプログラムを使用することができる。配列同一性又は類似性は、当技術分野で公知の標準技術、例えば、限定されるものではないが、Smith & Waterman, Adv. Appl. Math. 2:482(1981)の局所的配列同一性アルゴリズム、Needleman & Wunsch, J. Mol. Biol. 48:443(1970)の配列同一性アラインメントアルゴリズム、Pearson & Lipman, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:2444(1988)の類似性検索法、これらのアルゴリズムのコンピューター実装手段(Genetics Computer Group(米国ワイオミング州マディソン、サイエンス・ドライブ575)のWisconsin Genetics Software Package内のGAP、BESTFIT、FASTA及びTFASTA)、Devereux et al., Nucl. Acid Res. 12:387(1984)に記載されたベストフィット配列プログラムによって、好ましくはデフォルト設定を用いて、或いは検査によって決定し得る。
【0035】
【0036】
有用なアルゴリズムの一例はPILEUPである。PILEUPは、一群の関連配列から、累進的ペアワイズアライメントを用いて多重配列アラインメントを生成する。これは、アラインメント生成に用いたクラスター関係を示すツリーをプロットすることもできる。PILEUPは、Feng & Doolittle, J. Mol. Evol. 25:351(1987)の累進的アライメント法の簡易法を使用するが、この方法は、Higgins & Sharp, CABIOS 5:151(1989)に記載されたものと同様である。
【0037】
有用なアルゴリズムの別の例は、Altschul et al., J. Mol. Biol. 215:403(1990)及びKarlin et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873(1993)に記載されたBLASTアルゴリズムである。特に有用なBLASTプログラムは、Altschul et al., Meth. Enzymol., 266:460(1996); blast.wustl/edu/blast/README.htmlから得られるWU-BLAST-2プログラムである。WU-BLAST-2では、幾つかの検索パラメーターが用いられるが、これらは好ましくはデフォルト値に設定される。パラメーターは動的な値であり、特定の配列の構成及び関心配列が検索される特定のデータベースの構成に応じて、プログラム自体によって確立されるが、感度を高めるため値を調整してもよい。
【0038】
別の有用なアルゴリズムは、Altschul et al., Nucleic Acids Res. 25:3389(1997)に記載されたGapped BLAST法である。
【0039】
アミノ酸配列同一性(%)の値は、一致する同一残基の数を、整列領域における「長い方の」配列の残基の総数で除することによって求められる。「長い方の」配列は、整列領域において実残基が最も多い配列である(アライメントスコアを最大にするためにWU-Blast-2によって導入されるギャップは無視される。)。
【0040】
同様に、核酸配列同一性(%)は、候補配列において、本明細書に具体的に開示されたポリヌクレオチドのヌクレオチドと同一のヌクレオチド残基の百分率と定義される。
【0041】
アライメントは、アライメントすべき配列へのギャップの導入を含んでいてもよい。さらに、本明細書に具体的に開示されたポリヌクレオチドよりもヌクレオチド数の多い又は少ない配列については、一実施形態では、配列同一性の百分率は、ヌクレオチドの総数に対する同一ヌクレオチドの数に基づいて決定される。例えば、本明細書に具体的に開示された配列よりも短い配列の配列同一性は、一実施形態では、その短い方の配列のヌクレオチド数を用いて決定される。同一性(%)の計算において、相対的重みは、挿入、欠失、置換等の配列変異の様々な表出には割り当てられない。
【0042】
一実施形態では、同一性だけに正(+1)のスコアが割り当てられ、ギャップを含めたあらゆる形態の配列変異には「0」の値が割り当てられて、配列類似性計算のための後述の重み付きスケール又はパラメーターの必要性が排除される。配列同一性(%)は、例えば、一致する同一残基の数を、整列領域における「短い方の」配列の残基の総数で除し、100を乗じることによって計算することができる。「長い方の」配列は、整列領域において実残基が最も多い配列である。
【0043】
本明細書で用いる「単離」ポリヌクレオチド(例えば「単離DNA」又は「単離RNA」)は、天然に存在する生物又はウイルスの残りの成分(例えばそのポリヌクレオチドに関して通常見出される細胞又はウイルスの構造成分又は他のポリペプチドもしくは核酸)の少なくとも一部から分離された或いはそれらを実質的に含まないポリヌクレオチドを意味する。
【0044】
同様に、「単離」ポリペプチドは、天然に存在する生物又はウイルスの残りの成分(例えばそのポリペプチドに関して通常見出される細胞又はウイルスの構造成分又は他のポリペプチドもしくは核酸)の少なくとも一部から分離された或いはそれらを実質的に含まないポリペプチドを意味する。
【0045】
「治療用ポリペプチド」は、細胞又は対象におけるタンパク質の欠如又は欠損に起因する症状を緩和又は軽減し得るポリペプチドである。或いは、「治療用ポリペプチド」は、対象に恩恵(例えば抗癌作用又は移植生存率の向上等)をもたらすものである。
【0046】
本明細書において、ポリヌクレオチド又はポリペプチド配列に対して用いられる「修飾」という用語は、1以上の欠失、付加、置換又はそれらの組合せのため、野生型配列とは異なる配列をいう。
【0047】
本明細書において、ウイルスベクターの「単離」又は「精製」とは、ウイルスベクターを、出発材料中の残りの成分の少なくとも一部から少なくとも部分的に分離することを意味する。
【0048】
「治療」という用語は、対象の状態の重症度が低減、少なくとも部分的に改善又は安定化されること及び/又は1以上の臨床症状のある程度の緩和、軽減、減少又は安定化が達成されること及び/又は疾患又は障害の進行の遅延があることを意味する。
【0049】
「予防」という用語は、本発明の方法なしで起こるであろうものに比べて、対象における疾患、障害及び/又は臨床症状の予防及び/又は発症の遅延並びに/或いは疾患、障害及び/又は臨床症状の発症の重症度の低減を意味する。予防は完全なもの(例えば疾患、障害及び/又は臨床症状が全く存在しない等)であることもある。予防は部分的なものであって、対象における疾患、障害及び/又は臨床症状の発生並びに/或いは発症の重症度が本発明なしで起こるであろうものに比べて低減することもある。
【0050】
本明細書で用いる「治療有効」量は、対象にいくらかの改善又は恩恵をもたらすのに十分な量である。別の言い方をすると、「治療有効」量は、対象の1以上の臨床症状にある程度の緩和、軽減、減少又は安定化をもたらす量である。当業者には明らかであろうが、いくらかの恩恵が対象にもたらされる限り、治療効果が完全又は根治的である必要はない。
【0051】
本明細書で用いる「予防有効」量は、本発明の方法なしで起こるであろうものに比べて、対象における疾患、障害及び/又は臨床症状の予防及び/又は発症の遅延並びに/或いは疾患、障害及び/又は臨床症状の発症の重症度の低減をもたらすのに十分な量である。当業者には明らかであろうが、いくらかの恩恵が対象にもたらされる限り、予防のレベルは完全である必要はない。
【0052】
「異種ヌクレオチド配列」及び「異種核酸」という用語は、本明細書では互換的に用いられ、ウイルスに天然には存在しない配列をいう。幾つかの実施形態では、異種核酸は、目的の(例えば、細胞又は対象に送達するための)ポリペプチドをコードするオープンリーディングフレーム又は非翻訳RNAを含む。
【0053】
本明細書で用いる「ウイルスベクター」、「ベクター」又は「遺伝子送達ベクター」という用語は、核酸送達ビヒクルとして機能し、ビリオン内にパッケージングされたベクターゲノム(例えばウイルスDNA[vDNA])を含むウイルス(例えばAAV)粒子をいう。或いは、文脈によっては、「ベクター」という用語は、ベクターゲノム/vDNA単独又はプラスミドをいうのに用いられることもある。
【0054】
本発明のウイルスベクターは、国際公開第01/92551号(その開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす。)に記載されているような二重鎖パルボウイルス粒子であってもよい。したがって、ある実施形態では、二本鎖(二重鎖)ゲノムをパッケージングすることができる。
【0055】
「rAAVベクターゲノム」又は「rAAVゲノム」は、1以上の異種核酸配列を含むAAVゲノム(すなわち、vDNA)である。rAAVベクターは、一般にウイルスを生成するためにシスの145塩基のITRしか必要としない。他のすべてのウイルス配列は不必要であり、トランスで提供してもよい(Muzyczka(1992) Curr. Topics Microbiol. Immunol. 158:97)。典型的には、rAAVベクターゲノムは、ベクターに効率的にパッケージングできる導入遺伝子のサイズを最大にするため1以上のITR配列しか保持していない。構造及び非構造タンパク質コード配列は、トランスで(例えば、プラスミドのようなベクターから、或いは配列をパッケージング細胞に安定的に組み込むことによって)で提供し得る。本発明の実施形態では、rAAVベクターゲノムは、1以上のITR配列(例えばAAV ITR配列)、任意には2つのITR(例えば2つのAAV ITR)を含んでおり、これらは典型的にはベクターゲノムの5’及び3’末端に位置し、異種核酸に隣接しているが、それらと接している必要はない。これらのITRは互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0056】
「末端反復」又は「TR」という用語は、ヘアピン構造を形成するとともに、末端逆位反復として機能する(すなわち、複製、ウイルスパッケージング、組込み及び/又はプロウイルスレスキュー等の所望の機能を媒介する)あらゆるウイルス末端反復又は合成配列を包含する。ITRはAAV ITRでも、非AAV ITRでもよい。例えば、他のパルボウイルス(例えば、イヌパルボウイルス、ウシパルボウイルス、マウスパルボウイルス、ブタパルボウイルス、ヒトパルボウイルスB-19)のもの或いはSV40複製の起点として作用するSV40ヘアピンのような非AAV ITR配列を、ITRとして使用することができ、これらはさらに、トランケーション、置換、欠失、挿入及び/又は付加によってさらに修飾できる。さらに、ITRは、Samulski他の米国特許第5478745号に記載された「二重D配列」のように、部分的又は完全に合成されたものであってもよい。
【0057】
パルボウイルスゲノムは、その5’及び3’末端の両方にパリンドローム配列を有する。配列がパリンドロームであることから、相補的塩基対の間での水素結合の形成によって安定化されるヘアピン構造の形成をもたらす。このヘアピン構造は、「Y」形又は「T」形をとると考えられている。例えばFIELDS et al., VIROLOGY, volume 2, chapters 69 & 70(4th ed., Lippincott-Raven Publishers)参照。
【0058】
「AAV末端逆位反復」又は「AAV ITR」は、限定されるものではないが、セロタイプ1、2、3a、3b、4、5、6、7、8、9、10、11又は13、ヘビAAV、トリAAV、ウシAAV、イヌAAV、ウマAAV、ヒツジAAV、ヤギAAV、エビAAV或いは既知の又は後日発見される他のAAV(例えば表1参照)を始めとする任意のAAVに由来し得る。AAV ITRは、末端反復が所望の機能(例えば、複製、ウイルスパッケージング、持続性及び/又はプロウイルスレスキュー等)を媒介する限り、ネイティブ末端反復配列を有している必要はない(例えば、ネイティブAAV ITR配列は、挿入、欠失、トランケーション及び/又はミスセンス変異によって改変し得る)。
【0059】
本発明のウイルスベクターは、「標的」ウイルスベクター(例えば、指向性トロピズムを有するもの)及び/又は国際公開第00/28004号及びChao et al.,(2000) Mol. Therapy 2:619に記載されているような「ハイブリッド」パルボウイルス(すなわち、ウイルスITRとウイルスカプシドとが異なるパルボウイルスに由来するもの)であってもよい。
【0060】
さらに、ウイルスカプシド又はゲノムエレメントは、挿入、欠失及び/又は置換を含めた他の改変を含んでいてもよい。
【0061】
本明細書で用いる「アミノ酸」という用語は、天然に存在するアミノ酸、その修飾形及び合成アミノ酸を包含する。
【0062】
天然に存在する左旋性(L-)アミノ酸を表2に示す。
【0063】
【0064】
或いは、アミノ酸は、修飾アミノ酸残基(非限定的な例を表3に示す)であってもよいし、或いは翻訳後修飾(例えば、アセチル化、アミド化、ホルミル化、ヒドロキシル化、メチル化、リン酸化又は硫酸化)によって修飾されたアミノ酸であってもよい。
【0065】
【0066】
さらに、天然に存在しないアミノ酸は、Wang et al.,(2006) Annu. Rev. Biophys. Biomol. Struct. 35:225-49に記載されているような「非天然」アミノ酸であってもよい。これらの非天然アミノ酸は、関心分子をAAVカプシドタンパク質に化学的に連結するのに好適に使用することができる。
【0067】
本明細書で用いる「鋳型」又は「基質」という用語は、パルボウイルスウイルスDNAの生産のため複製し得るポリヌクレオチド配列をいう。ベクター生産の目的に関しては、鋳型は、限定されるものではないが、プラスミド、ネイキッドDNAベクター、細菌人工染色体(BAC)、酵母人工染色体(YAC)又はウイルスベクター(例えば、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、エプスタイン-バールウイルス、AAV、バキュロウイルス、レトロウイルスベクター等)を始めとする、もっと大きなヌクレオチド配列又は構築物に埋め込まれる。或いは、鋳型は、パッケージング細胞の染色体に安定的に組み込まれていてもよい。
【0068】
本明細書において、パルボウイルス又はAAV「Repコード配列」は、ウイルス複製及び新たなウイルス粒子の産生を媒介するパルボウイルス又はAAV非構造タンパク質をコードする核酸配列を示す。パルボウイルス及びAAV複製遺伝子及びタンパク質については、例えばFIELDS et al., VIROLOGY, volume 2, chapters 69 & 70(4th ed., Lippincott-Raven Publishers)に記載されている。
【0069】
「Repコード配列」は、パルボウイルス又はAAV Repタンパク質のすべてをコードする必要はない。例えば、AAVに関して、Repコード配列は4種のAAV Repタンパク質(Rep78、Rep68、Rep52及びRep40)のすべてをコードする必要はなく、実際、AAV5はスプライシングされたRep68及びRep40タンパク質しか発現しないと考えられている。代表的な実施形態では、Repコード配列は、少なくとも、ウイルスゲノムの複製及び新ビリオンへのパッケージングに必要な複製タンパク質をコードする。Repコード配列は、一般に、1以上の大型Repタンパク質(すなわち、Rep78/68)と1つの小型Repタンパク質(すなわち、Rep52/40)をコードする。特定の実施形態では、Repコード配列は、AAV Rep78タンパク質とAAV Rep52及び/又はRep40タンパク質をコードする。別の実施形態では、Repコード配列は、Rep68及びRep52及び/又はRep40タンパク質をコードする。さらに別の実施形態では、Repコード配列は、Rep68及びRep52タンパク質、Rep68及びRep40タンパク質、Rep78及びRep52タンパク質、又はRep78及びRep40タンパク質をコードする。
【0070】
本明細書で用いる「大型Repタンパク質」という用語は、Rep68及び/又はRep78をいう。請求項に係る発明の大型Repタンパク質は、野生型又は合成のいずれでもよい。野生型の大型Repタンパク質は、セロタイプ1、2、3a、3b、4、5、6、7、8、9、10、11又は13或いは既知の又は後日発見される他のAAV(例えば表1参照)を始めとする任意のAAV或いはパルボウイルスに由来し得る。合成大型Repタンパク質は、挿入、欠失、トランケーション及び/又はミスセンス変異によって改変し得る。
【0071】
当業者には明らかであろうが、複製タンパク質は同一のポリヌクレオチドにコードされている必要はない。例えば、MVMについて、NS-1及びNS-2タンパク質(これらはスプライスバリアントである)は互いに独立に発現し得る。同様に、AAVについて、p19プロモーターを不活性化してもよく、1以上の大型Repタンパク質を1つのポリヌクレオチドから発現させ、1以上の小型Repタンパク質を異なるポリヌクレオチドから発現させてもよい。ただし、典型的には、単一の構築物から複製タンパク質を発現させる方が便利であろう。系によっては、ウイルスプロモーター(例えばAAV p19プロモーター)は細胞によって認識されないことがあり、別々の発現カセットから大型及び小型Repタンパク質を発現させる必要がある。別の事例では、大型Repタンパク質及び小型Repタンパク質を別々に、つまり別個の転写及び/又は翻訳調節エレメントの制御下で発現させることが望ましい場合がある。例えば、大型Repタンパク質と小型Repタンパク質との比を減少させるため、大型Repタンパク質の発現を制御するのが望ましいことがある。昆虫細胞の場合、細胞への毒性を避けるために大型Repタンパク質(例えばRep78/68)の発現を下方制御するのが有利なことがある(例えば、Urabe et al.,(2002) Human Gene Therapy 13:1935参照)。
【0072】
本明細書において、パルボウイルス又はAAV「capコード配列」は、機能的パルボウイルス又はAAVカプシドを形成する(つまり、DNAをパッケージングし、標的細胞を感染させることができる)構造タンパク質をコードする。典型的には、capコード配列は、パルボウイルス又はAAVカプシドサブユニットのすべてをコードするが、機能的カプシドが産生される限り、カプシドサブユニットの一部をコードするものでもよい。必須ではないが、典型的には、capコード配列は単一の核酸分子上に存在する。
【0073】
自律性パルボウイルス及びAAVのカプシド構造は、BERNARD N. FIELDS et al., VIROLOGY, volume 2, chapters 69 & 70(4th ed., Lippincott-Raven Publishers)に詳細に記載されている。
【0074】
IDUAを発現するパルボウイルスベクター
本発明は、IDUAをコードするヌクレオチド配列を含んでいて、対象の角膜においてIDUAを発現させることができるパルボウイルスベクター(例えばAAVベクター)を提供する。
【0075】
本発明の一つの態様は、ヒトα-L-イズロニダーゼ(IDUA)をコードするヌクレオチド配列を含むか、該配列から本質的になるか、或いは該配列からなる組換え核酸であって、ヌクレオチド配列が、ヒト細胞内での発現のためにコドン最適化されている組換え核酸に関する。ある実施形態では、核酸は、天然には存在しない配列である。幾つかの実施形態では、核酸は、配列番号1と90%以上同一のヌクレオチド配列、例えば配列番号1と91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上又は99%以上同一のヌクレオチド配列を含むか、該配列から本質的になるか、或いは該配列からなる。幾つかの実施形態では、核酸は、配列番号1のヌクレオチド配列を含むか、該配列から本質的になるか、或いは該配列からなる。幾つかの実施形態では、核酸は、配列番号1の連続したヌクレオチドを10個以上(例えば、少なくとも10、25、50、100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000、1100、1200、1300、1400、1500、1600、1700、1800個又はそれ以上)含む。
【0076】
配列番号1
1 CACCGGTCGC CACCATGCGA CCACTGAGACCACGGGCCGC TCTGCTGGCT
51 CTGCTGGCTT CACTGCTGGC CGCTCCCCCT GTCGCTCCTGCTGAGGCTCC
101 CCACCTGGTG CATGTGGACG CAGCTCGCGC CCTGTGGCCACTGAGGAGAT
151 TCTGGAGGAG CACAGGCTTT TGCCCACCTC TGCCTCACAGCCAGGCTGAC
201 CAGTACGTGC TGTCCTGGGA TCAGCAGCTG AACCTGGCATATGTGGGAGC
251 CGTCCCCCAC AGGGGGATCA AACAGGTGAG AACTCATTGGCTGCTGGAGC
301 TGGTCACCAC ACGAGGATCT ACTGGAAGGG GGCTGAGTTACAACTTCACC
351 CACCTGGACG GCTATCTGGA TCTGCTGAGA GAGAATCAGCTGCTGCCTGG
401 ATTTGAACTG ATGGGCTCAG CCAGCGGACA TTTCACCGACTTTGAGGATA
451 AGCAGCAGGT GTTCGAATGG AAAGACCTGG TCAGCTCCCTGGCTCGGCGC
501 TACATTGGGC GGTATGGCCT GGCACACGTG AGTAAGTGGAACTTTGAGAC
551 TTGGAATGAA CCAGACCACC ATGACTTCGA TAACGTGTCAATGACCATGC
601 AGGGGTTTCT GAATTACTAT GATGCCTGCT CCGAGGGCCTGCGGGCAGCC
651 TCTCCAGCTC TGCGACTGGG AGGACCAGGC GATTCCTTCCACACACCACC
701 CAGAAGTCCC CTGTCATGGG GCCTGCTGCG GCACTGTCATGACGGAACCA
751 ACTTCTTTAC AGGAGAAGCA GGGGTGAGAC TGGATTACATCTCCCTGCAT
801 CGAAAGGGGG CCAGGTCTAG TATCTCTATT CTGGAGCAGGAAAAGGTGGT
851 CGCTCAGCAG ATCCGGCAGC TGTTCCCCAA ATTTGCCGACACACCTATCT
901 ACAATGACGA GGCTGATCCT CTGGTGGGAT GGTCTCTGCCTCAGCCATGG
951 CGAGCCGATG TGACTTATGC TGCAATGGTG GTCAAAGTCATTGCTCAGCA
1001 CCAGAACCTG CTGCTGGCAA ATACTACCAG TGCTTTCCCATACGCACTGC
1051 TGAGTAACGA CAATGCCTTC CTGTCATATC ACCCCCATCCTTTTGCCCAG
1101 AGAACACTGA CTGCTCGGTT TCAGGTGAAC AATACCCGACCTCCACATGT
1151 GCAGCTGCTG AGGAAGCCTG TCCTGACAGC CATGGGCCTGCTGGCTCTGC
1201 TGGACGAGGA ACAGCTGTGG GCAGAGGTGT CTCAGGCCGGGACTGTCCTG
1251 GATAGTAACC ACACCGTGGG CGTCCTGGCT TCTGCACATCGACCTCAGGG
1301 ACCAGCAGAC GCTTGGCGAG CAGCTGTGCT GATCTACGCATCAGACGATA
1351 CACGAGCACA CCCTAACCGA AGCGTGGCAG TCACTCTGCGACTGCGAGGA
1401 GTGCCACCTG GACCAGGACT GGTGTACGTC ACCCGCTATCTGGACAATGG
1451 CCTGTGCTCT CCCGATGGAG AGTGGCGAAG GCTGGGGAGGCCCGTGTTCC
1501 CTACAGCAGA GCAGTTTAGA CGGATGAGAG CAGCCGAAGATCCAGTGGCT
1551 GCAGCACCAC GACCACTGCC TGCAGGAGGC AGACTGACCCTGCGGCCAGC
1601 CCTGCGCCTG CCAAGCCTGC TGCTGGTGCA CGTCTGCGCAAGGCCTGAAA
1651 AGCCACCCGG ACAGGTGACA AGGCTGAGAG CTCTGCCACTGACTCAGGGA
1701 CAGCTGGTGC TGGTCTGGTC AGACGAGCAT GTGGGGAGCAAATGTCTGTG
1751 GACTTACGAA ATTCAGTTCA GCCAGGATGG GAAGGCCTATACCCCTGTGA
1801 GCCGGAAACC CAGCACCTTC AACCTGTTCG TCTTTTCCCCAGACACCGGG
1851 GCCGTGTCCG GCTCTTACCG GGTCCGCGCT CTGGACTATTGGGCAAGGCC
1901 AGGCCCCTTC AGCGATCCTG TGCCATACCT GGAAGTGCCTGTGCCTCGCG
1951 GCCCACCATC TCCTGGAAAC CCTTGAGGGG ATCCGTCGAC TAG
【0077】
ある生物での発現を最大にするためのヌクレオチド配列のコドン最適化の方法は、当技術分野で周知であり、公衆に利用可能なソフトウェアを用いて実施することができる。ヒトIDUAの野生型配列は当技術分野で公知であり、GenBank等のデータベースで見出すことができる。ヒトIDUA受託番号の具体例には、A26494、AK291816及びAH002600があり、その記載内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす。
【0078】
本発明は、本発明のIDUA核酸を含むウイルスベクターゲノムも提供する。特定の実施形態では、IDUA核酸は、野生型ヒトIDUA配列又はコドン最適化配列である。ウイルスベクターゲノムは、パルボウイルスベクターゲノム、例えばAAVベクターゲノムとし得る。ウイルスベクターは、IDUA核酸に作動可能に連結されたプロモーターをさらに含んでいてもよい。幾つかの実施形態では、プロモーターは構成型プロモーター、例えばCMVプロモーターとし得る。別の実施形態では、プロモーターは、組織特異的又は優先的プロモーターであってもよい。本発明はさらに、本発明のAAVベクターゲノムを含むインビトロ細胞、例えば該AAVベクターゲノムが細胞のゲノムに安定的に組み込まれたインビトロ細胞を提供する。本発明はさらに、本発明のウイルスベクターゲノムを含む組換えパルボウイルス粒子(例えば、組換えAAV粒子)を提供する。ウイルスベクター及びウイルス粒子については、以下でさらに説明する。
【0079】
特定の実施形態では、ウイルスベクターは、本発明のカプシドタンパク質の存在により、改変トロピズムを示す。一実施形態では、パルボウイルスベクターは、角膜に対して全身性トロピズムを示す。別の実施形態では、パルボウイルスベクターは、野生型カプシドタンパク質を含むウイルスベクターに比べて、肝臓に対するトロピズムが低下している。
【0080】
ウイルスベクターの生産方法
本発明はさらに、ウイルスベクターの生産方法を提供する。ある特定の実施形態では、本発明は、組換えパルボウイルス粒子の生産方法であって、パルボウイルス複製を許容する細胞に、(a)(i)IDUAをコードする核酸と(ii)パルボウイルスITRとを含む組換えパルボウイルス鋳型、(b)Rep及びCapコード配列を含むポリヌクレオチドを、組換えパルボウイルス鋳型の複製及びパッケージングに十分な条件下で、与え、もって細胞内で組換えパルボウイルス粒子を産生させることを含む方法を提供する。組換えパルボウイルス鋳型の複製及びパッケージングに十分な条件は、例えば、パルボウイルス鋳型の複製及びパルボウイルスカプシド内への被包に十分なAAV配列(例えば、パルボウイルスrep配列及びパルボウイルスcap配列)の存在並びにアデノウイルス及び/又はヘルペスウイルス由来のヘルパー配列の存在である。特定の実施形態では、パルボウイルス鋳型は2つのパルボウイルスITR配列を含んでいて、それらは異種核酸配列の5’側及び3’側に位置するが、異種核酸配列と直接接している必要はない。
【0081】
幾つかの実施形態では、組換えパルボウイルス鋳型は、国際公開第01/92551号に記載されているように二重鎖AAVベクターとするためRepによって分離しないITRを含む。
【0082】
パルボウイルス鋳型並びにパルボウイルスrep及びcap配列は、パルボウイルスカプシド内にパルボウイルス鋳型がパッケージングされたウイルスベクターが細胞内で産生されるような条件下で提供される。本方法は、細胞からウイルスベクターを回収する工程をさらに含んでいてもよい。ウイルスベクターは、培地から及び/又は細胞の溶解によって回収できる。
【0083】
細胞は、パルボウイルスのウイルス複製を許容する細胞とすることができる。当技術分野で公知の適切な細胞を用いることができる。特定の実施形態では、細胞は哺乳動物細胞(例えば、霊長類又はヒト細胞)である。別の選択肢として、細胞は、複製欠損型ヘルパーウイルスから欠失した機能を与えるトランス相補性パッケージング細胞株(例えば293細胞その他のE1aトランス相補細胞)であってもよい。
【0084】
パルボウイルス複製及びカプシド配列は、当技術分野で公知の方法によって提供し得る。現在のプロトコールでは、典型的には、単一プラスミド上でパルボウイルスrep/cap遺伝子を発現する。パルボウイルス複製及びパッケージング配列は一緒に提供する必要はないが、それが好都合なこともある。パルボウイルスrep及び/又はcap配列は、任意のウイルスベクター又は非ウイルスベクターによって提供し得る。例えば、rep/cap配列は、ハイブリッドアデノウイルス又はヘルペスウイルスベクターによって提供し得る(例えば、欠失アデノウイルスベクターのE1a又はE3領域に挿入される)。EBVベクターも、パルボウイルスcap遺伝子及びrep遺伝子の発現に使用し得る。この方法の一つの利点は、EBVベクターはエピソームであり、連続的な細胞分裂の間終始高いコピー数を維持することである(すなわち、「EBV系核エピソーム」と呼ばれる染色体外エレメントとして細胞に安定的に組み込まれる。Margolski,(1992) Curr. Top. Microbiol. Immun. 158:67参照。)。
【0085】
さらに別の選択肢として、rep/cap配列を細胞に安定的に組み込んでもよい。
【0086】
典型的には、パルボウイルスrep/cap配列は、これらの配列のレスキュー及び/又はパッケージングを防ぐため、TRに隣接していない。
【0087】
パルボウイルス鋳型は、当技術分野で公知の方法を用いて細胞に与えることができる。例えば、鋳型は、非ウイルスベクター(例えばプラスミド)又はウイルスベクターによって与え得る。特定の実施形態では、パルボウイルス鋳型は、ヘルペスウイルス又はアデノウイルスベクターによって提供される(例えば、欠失アデノウイルスのE1a又はE3領域に挿入される)。別の具体例として、Palombo et al.,(1998) J. Virology 72:5025には、AAV TRに隣接するレポーター遺伝子を有するバキュロウイルスベクターが記載されている。rep/cap遺伝子に関して上述したように、EBVベクターを用いて鋳型を送達することもできる。
【0088】
別の代表的な実施形態では、パルボウイルス鋳型は、増殖性rAAVウイルスによって提供される。さらに別の実施形態では、パルボウイルス鋳型を含むAAVプロウイルスを細胞の染色体に安定的に組み込む。
【0089】
ウイルス力価を高めるため、増殖性パルボウイルス感染を促進するヘルパーウイルス機能(例えば、アデノウイルス又はヘルペスウイルス)を細胞に与えることができる。パルボウイルス複製に必要なヘルパーウイルス配列は、当技術分野で公知である。典型的には、これらの配列は、ヘルパーアデノウイルス又はヘルペスウイルスベクターによってもたらされる。或いは、アデノウイルス又はヘルペスウイルス配列は、別の非ウイルスベクター又はウイルスベクター(例えばFerrari et al.,(1997) Nature Med. 3:1295並びに米国特許第6040183号及び同第6093570号に記載されているような効率的パルボウイルス産生を促進するヘルパー遺伝子のすべてを保有する非感染性アデノウイルスミニプラスミド)によって提供することもできる。
【0090】
さらに、ヘルパーウイルス機能は、ヘルパー配列が染色体に埋め込まれた又は安定な染色体外エレメントとして維持されているパッケージング細胞によって提供してもよい。一般に、ヘルパーウイルス配列は、AAVビリオン内にはパッケージングすることができず、例えばITRに隣接しない。
【0091】
当業者には明らかであろうが、パルボウイルス複製及びカプシド配列とヘルパーウイルス配列(例えばアデノウイルス配列)とを単一のヘルパー構築物で提供できれば有利であることもある。このヘルパー構築物は、非ウイルス系又はウイルス系構築物とし得る。ある非限定的な例として、ヘルパー構築物は、AAV rep/cap遺伝子を含むハイブリッドアデノウイルス又はハイブリッドヘルペスウイルスとすることができる。
【0092】
ある特定の実施形態では、パルボウイルスrep/cap配列及びアデノウイルスヘルパー配列は、単一のアデノウイルスヘルパーベクターによって提供される。このベクターは、パルボウイルス鋳型をさらに含んでいてもよい。パルボウイルスrep/cap配列及び/又はパルボウイルス鋳型は、アデノウイルスの欠失領域(例えば、E1a又はE3領域)に挿入することができる。
【0093】
さらに別の実施形態では、パルボウイルスrep/cap配列及びアデノウイルスヘルパー配列は、単一のアデノウイルスヘルパーベクターによって提供される。この実施形態では、パルボウイルス鋳型はプラスミド鋳型として提供することができる。
【0094】
別の例示的な実施形態では、パルボウイルスrep/cap配列及びアデノウイルスヘルパー配列は単一のアデノウイルスヘルパーベクターによって提供され、パルボウイルス鋳型は細胞にプロウイルスとして組み込まれる。或いは、パルボウイルス鋳型は、細胞内に染色体外エレメント(例えば、EBV系核エピソーム)として維持されるEBVベクターによって与えられる。
【0095】
さらに別の例示的な実施形態では、パルボウイルスrep/cap配列及びアデノウイルスヘルパー配列は、単一のアデノウイルスヘルパーによって提供される。パルボウイルス鋳型は、別個の増殖性ウイルスベクターとして提供できる。例えば、パルボウイルス鋳型は、パルボウイルス粒子又は第2の組換えアデノウイルス粒子によって提供できる。
【0096】
前述の方法では、ハイブリッドアデノウイルスベクターは、典型的には、アデノウイルス複製及びパッケージングに十分なアデノウイルス5’及び3’シス配列(すなわち、アデノウイルス末端反復及びPAC配列)を含む。パルボウイルスrep/cap配列及び(存在する場合には)AAV鋳型はアデノウイルス骨格に埋め込まれ、これらの配列がアデノウイルスカプシド内にパッケージングできるように5’及び3’シス配列に隣接する。上述の通り、アデノウイルスヘルパー配列及びパルボウイルスrep/cap配列は一般にITRに隣接しておらず、これらの配列はパルボウイルスビリオン内にパッケージングされない。
【0097】
Zhang et al.,(2001) Gene Ther. 18:704-12には、アデノウイルスとAAV rep及びcap遺伝子とを両方共含むキメラヘルパーが記載されている。
【0098】
ヘルペスウイルスも、パルボウイルスパッケージング法におけるヘルパーウイルスとして使用し得る。1以上のパルボウイルスRepタンパク質をコードするハイブリッドヘルペスウイルスは、好適には、スケーラブルなパルボウイルスベクター産生機構を促進し得る。AAV-2 rep及びcap遺伝子を発現するハイブリッド単純ヘルペスウイルスI型(HSV-1)ベクターは既に報告されている(Conway et al.,(1999) Gene Ther. 6:986及び国際公開第00/17377号)。
【0099】
さらに別の選択肢として、本発明のウイルスベクターは、例えばUrabe et al.,(2002) Human Gene Ther. 13:1935-43に記載されているように、rep/cap遺伝子及びパルボウイルス鋳型を送達するためのバキュロウイルスベクターを用いて昆虫細胞で産生させることができる。
【0100】
夾雑ヘルパーウイルスを含まないパルボウイルスベクターストックは、当技術分野で公知の方法によって得ることができる。例えば、パルボウイルス及びヘルパーウイルスは、サイズに基づいて容易に区別し得る。パルボウイルスは、ヘパリン基質に対する親和性に基づいてヘルパーウイルスから分離することもできる(Zolotukhin et al.,(1999) Gene Therapy 6:973)。夾雑ヘルパーウイルスが複製能をもたないように、欠失した複製欠損型ヘルパーウイルスを使用することができる。さらに別の方法として、パルボウイルスのパッケージングの媒介にはアデノウイルスの初期遺伝子発現しか必要とされないので、後期遺伝子発現を欠くアデノウイルスヘルパーを使用することができる。後期遺伝子発現が欠損したアデノウィルス突然変異体は当技術分野で公知である(例えば、ts100K及びts149アデノウィルス突然変異体)。
【0101】
組換えウイルスベクター
本発明のウイルスベクターは、インビトロ、エクスビボ及びインビボでの細胞への核酸の送達に有用である。特に、本ウイルスベクターは、哺乳動物細胞を始めとする動物に核酸を送達又は導入するのに好適に使用できる。特に、本発明のウイルスベクターは、IDUAをコードする核酸を対象の角膜に送達するのに有用である。
【0102】
角膜標的AAV遺伝子治療は、主に、創傷治癒アッセイにおける局所適用と角膜実質への直接注入との2通りの投与経路による動物モデルで研究されている。局所適用に関して、AAVセロタイプ9(AAV9)が実質形質導入に最も効率的であると報告されているが、これはほぼ完全に上皮/実質境界に局在化している(Sharma et al., Exp. Eye Res. 91(3):440 (2010))。ヒト角膜外植片への実質内注射後のAAV遺伝子送達に関して、AAV8は、CD34+角膜実質細胞及びマクロファージを含めた複数の細胞型を含む実質形質導入についてAAV2又はAAV1よりも効率的であることが観察されている(Hippert et al., PLoS One, 7(4):e35318 (2012))。重要なことに、これらの薬物投与経路のいずれも、AAVベクターに関連した有害な結果は観察されていない(Sharma et al., Exp. Eye Res. 91(3):440 (2010); Hippert et al., PLoS One, 7(4):e35318 (2012); Mohan et al., PLoS One 6(10):e26432 (2011))。
【0103】
当業者には明らかであろうが、IDUAをコードする核酸は、適切な調節配列と作動可能に連結していてもよい。例えば、核酸は、転写/翻訳調節シグナル、複製開始点、ポリアデニル化シグナル、配列内リボソーム進入部位(IRES)、プロモーター及び/又はエンハンサー等のような発現調節エレメントと作動可能に連結し得る。
【0104】
当業者には明らかであろうが、所望のレベル及び組織特異的発現に応じて、様々なプロモーター/エンハンサーエレメントを使用できる。プロモーター/エンハンサーは、所望の発現パターンに応じて、構成型又は誘導型とし得る。プロモーター/エンハンサーはネイティブ又は外来であってよく、天然又は合成配列であってもよい。外来とは、転写開始領域が野生型宿主にはなく、野生型宿主に転写開始領域が導入されることを意図する。
【0105】
特定の実施形態では、プロモーター/エンハンサーエレメントは、標的細胞又は治療すべき対象にネイティブなものであってもよい。代表的な実施形態では、プロモーター/エンハンサーエレメントは、IDUA核酸配列にネイティブなものであってもよい。プロモーター/エンハンサーエレメントは、一般に、関心の標的細胞で機能するように選択される。さらに、特定の実施形態では、プロモーター/エンハンサーエレメントは、哺乳動物プロモーター/エンハンサーエレメントである。プロモーター/エンハンサーエレメントは、構成型でも誘導型でもよい。
【0106】
誘導型発現調節エレメントは、典型的には、核酸配列の発現の調節が望まれる用途において有利である。遺伝子送達のための誘導型プロモーター/エンハンサーエレメントは、組織特異的又は優先的プロモーター/エンハンサーエレメントとすることができ、眼特異的又は優先的(網膜特異的及び角膜特異的なものを包含する)プロモーター/エンハンサーエレメントが包含される。他の誘導型プロモーター/エンハンサーエレメントとしては、ホルモン誘導性及び金属誘導性エレメントが挙げられる。例示的な誘導型プロモーター/エンハンサーエレメントとしては、限定されるものではないが、Tetオン/オフエレメント、RU486誘導性プロモーター、エクジソン誘導性プロモーター、ラパマイシン誘導性プロモーター及びメタロチオネインプロモーターが挙げられる。
【0107】
核酸配列が標的細胞内で転写及び翻訳される実施形態では、一般に、挿入されたタンパク質コード配列の効率的な翻訳のため特異的開始シグナルが含まれる。これらの外来性翻訳調節配列は、ATG開始コドン及び隣接配列を含んでいてもよく、天然及び合成のものを含め、様々な起源のものとし得る。
【0108】
本発明のウイルスベクターは、パルボウイルスベクター、例えばAAVベクターとすることができる。AAVベクターはどのようなAAVセロタイプであってもよい。幾つかの実施形態では、AAVベクターはAAV2、AAV8又はAAV9ベクターである。幾つかの実施形態では、AAVベクターはハイブリッドベクターであり、例えばあるセロタイプ由来のカプシドタンパク質と別のセロタイプ由来のゲノムとを有するもの或いは合成カプシドタンパク質を有するものである。特定の実施形態では、ベクターは、改変されたトロピズムを有するハイブリッドカプシドを含む。一例では、ハイブリッドカプシドは、あるセロタイプ(例えばAAV9)由来のグリカン結合部位(例えばガラクトース結合部位)を、別のセロタイプ(例えばAAV8)由来のカプシド配列内に含む(例えば、国際公開第2014/144229号参照、その開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす。)
【0109】
本発明に係るウイルスベクターは、分裂細胞及び非分裂細胞を包含する広範な細胞にIDUA核酸を送達するための手段を提供する。ウイルスベクターは、例えばインビトロでのポリペプチド生産のため又はエクスビボ遺伝子治療のため、インビトロで細胞に核酸を送達するのに使用し得る。ウイルスベクターは、また、核酸を必要とする対象に(例えばIDUAを発現させるために)核酸を送達する方法で有用である。このようにして、対象においてインビボでポリペプチドを産生させることができる。対象は、ポリペプチドの欠損を有していて、ポリペプチドを必要とするものであってもよい。さらに、本方法は、対象でのポリペプチドの産生がある有益な効果を与え得るので、実施することができる。
【0110】
ウイルスベクターはまた、培養細胞又は対象で(例えば、対象を、ポリペプチドを生産するための或いは対象における(例えばスクリーニング法に関連した)ポリペプチドの効果を観察するためのバイオリアクターとして用いて)IDUAを産生させるのにも使用できる。
【0111】
本発明のウイルスベクターは、IDUAを送達することが有益である病態(例えばMPS-I)の治療及び/又は予防のために、IDUAをコードする核酸を送達するのに使用することができる。
【0112】
本発明に係るウイルスベクターは、細胞培養系、器官又は器官培養物(例えば、眼)、或いはトランスジェニック動物モデルにおいてIDUA核酸を一過的に又は安定に発現させる診断及びスクリーニング方法に用途を見出すことができる。
【0113】
本発明のウイルスベクターは、治療以外の目的にも使用することができ、その例として、当業者には明らかであろうが、遺伝子ターゲティング、クリアランス、転写、翻訳等を評価するためのプロトコルでの使用が挙げられるが、これらに限定されるものではない。ウイルスベクターは、安全性(伝播、毒性、免疫原性等)の評価の目的にも使用することができる。このようなデータは、例えば、臨床的有効性の評価前の規制当局による承認プロセスの一部として米国食品医薬品局によって考慮される。
【0114】
或いは、ウイルスベクターをエクスビボ細胞(例えば角膜外植片)に投与し、改変細胞又は外植片を対象に投与することができる。IDUA核酸を含むウイルスベクターを細胞に導入し、細胞を対象に投与すると、そこで核酸を発現させることができる。
【0115】
対象、医薬製剤及び投与モード
本発明に係るウイルスベクター及びカプシドは、獣医学用途及び医学用途の両方に用途が見出される。適切な対象には、鳥類及び哺乳動物が包含される。本明細書で用いる「鳥類」という用語には、ニワトリ、アヒル、ガチョウ、ウズラ、シチメンチョウ、キジ、オウム、インコ等が包含されるが、これらに限定されない。本明細書で用いる「哺乳動物」という用語には、ヒト、ヒト以外の霊長類、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ネコ、イヌ、ウサギ等が包含されるが、これらに限定されない。ヒト患者には、新生児、乳児、少年及び成人が包含される。
【0116】
特定の実施形態では、本発明は、医薬組成物であって、薬学的に許容される媒体中の本発明のウイルスベクター、及び任意には他の医薬、薬剤、安定化剤、緩衝剤、媒体、アジュバント、希釈剤等を含む医薬組成物を提供する。注射用では、媒体は典型的には液体である。他の投与方法では、媒体は固体又は液体とし得る。吸入投与では、媒体は呼吸可能なものであり、任意には固体又は液体の微粒子形態とし得る。
【0117】
「薬学的に許容される」とは、有毒でもないしその他の不都合もない物質を意味し、換言すると、該物質は、望ましくない生物学的作用を起こさずに対象に投与し得る。
【0118】
本発明の一つの態様は、インビトロで核酸を細胞に導入する方法である。ウイルスベクターは、特定の標的細胞に適した標準的な形質導入方法によって適切な感染多重度で細胞に導入することができる。投与されるウイルスベクターの力価は、標的細胞の種類及び数並びに特定のウイルスベクターに応じて、変更することができ、当業者であれば過度の実験を要することなく決定することができる。代表的な実施形態では、約103感染単位以上、さらに好ましくは約105感染単位以上で細胞に導入される。
【0119】
ウイルスベクターが導入される細胞は、どのようなタイプのものでもよく、限定されるものではないが、眼の細胞(網膜細胞、網膜色素上皮、及び角膜細胞(例えば、角膜実質細胞、上皮細胞及び内皮細胞等)が包含される。さらに、細胞は、上述の通り、どのような種を起源とするものであってもよい。
【0120】
ウイルスベクターは、対象に改変細胞を投与する目的のため、インビトロ細胞に導入することができる。特定の実施形態では、対象から細胞を取り出して、それにウイルスベクターを導入し、次いで細胞を対象に投与して戻す。エクスビボで操作するため対象から細胞を取り出し、次いで対象に戻す方法は、当技術分野で公知である(例えば、米国特許第5399346号参照)。或いは、組換えウイルスベクターは、ドナーからの細胞、培養細胞又は他の適切な供給源からの細胞に導入し、その細胞をそれを必要とする対象(すなわち「レシピエント」)に投与することもできる。
【0121】
エクスビボ遺伝子送達に適した細胞は上述の通りである。対象への細胞の投与量は、対象の年齢、状態及び種、細胞の種類、細胞で発現される核酸、投与モード等によって変化する。典型的には、薬学的に許容される媒体中で1用量当たり、少なくとも約102乃至約108個の細胞又は少なくとも約103乃至約106個の細胞が投与される。特定の実施形態では、ウイルスベクターで形質導入した細胞は、医薬媒体と組合せて治療有効量又は予防有効量で対象に投与される。
【0122】
本発明の別の態様は、対象にウイルスベクターを投与する方法である。それを必要とするヒト患者又は動物への本発明のウイルスベクターの投与は、当技術分野で公知の手段によることができる。任意には、ウイルスベクターは、薬学的に許容される媒体中で治療有効量又は予防有効量で送達される。
【0123】
対象に投与されるウイルスベクターの量は、投与モード、治療及び/又は予防すべき疾患又は状態、個々の対象の状態、特定のウイルスベクター及び送達すべき核酸等に依存し、常法によって決定することができる。治療効果を達成するための例示的な用量は、少なくとも約105、106、107、108、109、1010、1011、1012、1013、1014、1015形質導入単位、任意には約108~約1013形質導入単位の力価である。
【0124】
特定の実施形態では、所望のレベルの遺伝子発現を達成するため、2回以上の投与(例えば、2回、3回、4回又はそれ以上の投与)を様々な間隔(例えば毎日、毎週、毎月、毎年)の期間にわたって行ってもよい。
【0125】
角膜への例示的な投与モードには、実質内、局所、硝子体内及び網膜下が包含される。
【0126】
標的組織への送達は、ウイルスベクターを含むデポーを送達することによっても達成できる。代表的な実施形態では、ウイルスベクターを含むデポーを角膜その他の眼の組織に植え込むか、或いは組織を、ウイルスベクターを含むフィルムその他のマトリックスと接触させることができる。このような植込み型マトリックス又は基材は米国特許第7201898号に記載されている。
【0127】
特定の実施形態では、MPS-Iに関連する角膜混濁及び/又は失明の治療、発症の遅延及び/又は予防のため、本発明のウイルスベクターを角膜に投与する。
【0128】
そこで、一つの態様として、本発明は、対象の角膜にIDUAを送達する方法であって、対象の角膜に、IDUAを発現するAAV粒子の有効量を投与し、もって対象の角膜にIDUAを送達することを含む方法をさらに包含する。
【0129】
別の態様では、本発明は、対象におけるMPS-I関連角膜混濁の治療、発症の遅延及び/又は予防を行う方法であって、対象の角膜に、IDUAを発現するAAV粒子の治療有効量を投与し、もって対象におけるMSP-I関連角膜混濁の治療、発症の遅延、及び/又は予防を行うことを含む方法をさらに包含する。
【0130】
別の態様では、本発明は、インビトロ又はエクスビボで(例えば、対象における移植前に)角膜にIDUAを送達する方法であって、角膜を、IDUAを発現するAAV粒子の有効量と接触させ、もって角膜にIDUAを送達することを含む方法をさらに包含する。幾つかの実施形態では、角膜をAAV粒子と共にインキュベートしてもよいし、或いはAAV粒子を角膜に注射してもよい。
【0131】
本発明の方法において、対象は、MPS-Iと診断されたものであっても、MPS-Iが疑われるものであってもよい。特定の実施形態では、対象は、例えば18歳未満、例えば18歳未満、17歳未満、16歳未満、15歳未満、14歳未満、13歳未満、12歳未満、11歳未満、10歳未満、9歳未満、8歳未満、7歳未満、6歳未満又は5歳未満の乳児又は子供である。幾つかの実施形態では、対象は、角膜の混濁を発症していない。
別の実施形態では、対象は、角膜の少なくとも部分的な混濁を有し、例えば、対象の視力は、MPS-Iを有していない対象に比して、約10%未満、例えば、約10%未満、20%未満、30%未満、40%未満、50%未満、60%未満、70%未満、80%未満又は90%未満低下する。
【0132】
注射剤は、慣用の形態で、液体溶液又は懸濁液、注射前に液体中で溶液又は懸濁液とするのに適した固体形態、或いはエマルションのいずれかとして調製できる。或いは、本発明のウイルスベクター及び/又はウイルスカプシドを局所的に、例えばデポー又は徐放性製剤中で投与することもできる。さらに、ウイルスベクター及び/又はウイルスカプシドは、(例えば、米国特許公開第2004/0013645号に記載されているような)外科植込み型マトリックスに付着させて送達することもできる。
【0133】
以上本発明を説明してきたが、以下の実施例で本発明をさらに詳しく説明する。ただし、以下の実施例は例示のためのものにすぎず、本発明を限定するものではない。
【実施例0134】
実施例1
材料及び方法
AAVベクターの作製:細胞培養実験に関して、実施例で使用したベクターの生産には、文献に記載されたトリプルトランスフェクション法を使用した(Grieger et al., Nat. Protoc. 1(3):1412(2006))。この方法ではpXR2又はpXR8G9プラスミドを使用したが、これらはいずれもAAVのrep2を含んでおり、それぞれ表記のセロタイプのカプシド遺伝子を含む。pTR-CMV-eGFPのegfp遺伝子をAgeI及びSalI部位でコドン最適化IDUA cDNA(GenScript社から提供)で置換することによって、所期のAAVゲノムを含むプラスミドを最初に構築した。AAV産生及び塩化セシウム勾配分離(Grieger et al., Nat. Protoc. 1(3):1412(2006))後に、ピーク画分をPBSで透析し、定量的PCR(CMV_F CAA GTA CGC CCC CTA TTG AC(配列番号2)、CMV_R AAG TCC CGT TGA TTT TGG TG(配列番号3))で力価を測定し、これをサザンドットブロット(Grieger et al., Nat. Protoc. 1(3):1412(2006))で確認した。ヒト外植片での実験のため、GMPグレードのベクター標品はUNC Vector Coreから提供された。
【0135】
細胞培養及びベクター形質導入:ヒト胎児腎臓293細胞、MPS-I患者線維芽細胞及び正常ヒト線維芽細胞(Simpson et al., J. Carcinog. 4:18(2005))は、10%ウシ胎仔血清及びペニシリン-ストレプトマイシン(100U/ml)を添加したダルベッコ改変イーグル培地(Sigma社)中、5%CO2雰囲気中で37℃に維持した。培養細胞の形質導入は、24ウェルプレート中で一定の体積で実施した。これらの実験に関して、ベクターは、表記のウイルスゲノム/細胞量でウェルに添加し、実験期間中は除去しなかった。
【0136】
ヒト角膜実験:すべての実験プロトコルは、ノースカロライナ大学チャペルヒル校(University of North Carolina at Chapel Hill)によって承認された。人間の角膜は視覚組織調達バンクの尽力によって提供された。これらの匿名化死後組織実験は、ノースカロライナ大学チャペルヒル校の人を対象とする研究の人研究倫理オフィス(IRB-14-1019)に従って実施した。両性別の角膜を、37℃、5%CO2雰囲気中、提供されたOpti-Mem中で維持した。注射は、31ゲージのインスリン注射器で行った。注射を検証するための色素として墨汁を使用した。角膜を7日間培養し、本明細書に記載の通り分析した。
【0137】
機能的IDUAアッセイ:定量的IDUA酵素活性は、文献に記載された通り測定した(Garcia-Rivera et al., Brain Res. Bull. 74(6):429(2007))。簡潔に説明すると、10μlの上清又は細胞溶解溶液を、0.2%Triton X-100を含有する0.4Mギ酸ナトリウム緩衝液(pH3.5)中の50μMの4-メチルウンベリフェリルα-L-イズロニドと暗所で60分間37℃でインキュベートした。80μlの0.5M NaOH/グリシン緩衝液pH10.3を添加して反応を停止させた。96ウェルプレートを4℃で1分間13000rpmで遠心分離し、その上清を、365nmの励起後450nmで蛍光測定するため蓋付きで底が透明な黒色96ウェルプレートに移した。開裂した基質の量は、4-メチルウンベリフェロンで予め確立しておいた標準曲線から計算し、細胞溶解液中の酵素活性はnmol/h/mg単位、上清の分析値はnmol/h/10μl単位で表す。各サンプルのタンパク質量はBCAアッセイで求めた。
【0138】
TUNELアッセイ:AAV形質導入時の細胞毒性によるアポトーシス細胞は、DABによるデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)媒介dUTP-ビオチンニックエンド標識によって決定した。TUNELアッセイは、TACS2 TdT-Blue Labelインサイチュアポトーシス検出キット(Trevigen社(米国メリーランド州ゲイザースバーグ))を用いて行った。簡単に説明すると、脱パラフィン及び再水和後、ヒト角膜切片をプロテイナーゼKで20分間消化した。スライドを1×PBSで洗浄し、組織をメタノール中3%H2O2溶液とインキュベートすることによって内在性ペルオキシダーゼ活性を消失させた。スライドを1×PBSで洗浄した後、組織切片を1×TdT標識緩衝液と5分間インキュベートした。標識反応は、角膜組織を、TdT酵素、ビオチン化dUTPを有するdNTP、及び1×TdT標識緩衝液中の1×塩化マンガンと37℃の加湿チャンバー内で1時間インキュベートすることからなる。反応は1×TdT停止緩衝液とインキュベートすることによって完了させた。断片化されたDNAは、切片をストレプトアビジン結合西洋ワサビペルオキシダーゼ及びDAB溶液で処理することによって視覚化した。
【0139】
免疫蛍光染色:ヒト角膜組織をパラフィンに包埋し、ミクロトームを用いて厚さ5μmの切片とした。スライドを免疫蛍光抗体で染色するため、スライドをキシレン中で5分間計2回インキュベートして脱パラフィンした後、100%、95%及び70%エタノール溶液中に各5分間、最後に水中に5分間順次浸漬することにより再水和した。切片を染色する前に、パラフィン包埋プロセスのためにマスクされていたエピトープを露出させるための抗原賦活化手順を行った。具体的には、スライドを、予熱しておいた抗原賦活化溶液(Dako)中に98℃で7分間浸漬した。次いで、スライドを1×PBS中10%NGSと室温で1時間インキュベートすることによって、組織内の非特異的結合部位をブロックした。スライドを1×PBS中2%NGSで各5分間2回洗浄した。次いで、切片を1×PBS中の2%NGS溶液で適度に希釈した一次抗体と4℃で一晩インキュベートした。一次抗体とのインキュベーション後、非特異的に結合した一次抗体を除去するためスライドを各5分間3回洗浄した。洗浄液は1×PBS中2%NGSを含んでいた。次いで、適切な蛍光標識二次抗体(5μg/ml)を、1×PBS中2%NGSで希釈したスライドに添加し、スライドを4℃で1時間インキュベートした。最後に、スライドを2回1×PBS中2%NGSで各5分間3回洗浄し、最後に4℃で1×PBSで洗浄した。切片内の核を対比染色するため、数滴のHoechst(Molecular probes-Life technologies、H3569 Hoechst 33258、五水和物-1μg/ml)を7分間添加し、次いで水洗した。スライドを次いでCytoseal 60(Thermo Fisher Scientific(NYSE:TMO))と共にカバーグラスで覆った。
【0140】
本研究に用いた一次抗体は以下の通りであった:IDUA染色用には、ウサギポリクローナルIDUA抗体(Biorbyt社、カタログ番号orb157615、1/50希釈)、GFP染色用には、ニワトリ抗GFP抗体(Aves社、カタログ番号GFP-1020、1/100希釈)、CD34染色用には、マウスモノクローナル抗体(クローン:B-6)(Santa Cruz社、sc-74499、1/100希釈)、α-平滑筋アクチン染色用には、マウスモノクローナル抗体(R&D社、クローン#1A4、カタログ番号MAB1420、1/100希釈)、及びF4/80マーカー染色用には、ラットモノクローナル抗体(クローン:BM8)(Santa Cruz社、sc-52664、1/100希釈)。二次抗体は以下の通りであった:Alexa Fluor(登録商標)594ヤギ抗ウサギIgG(A-11012)(Gibco-Invitrogen社(米国カリフォルニア州カールスバッド))、Alexa Fluor(登録商標)594ヤギ抗ニワトリIgG(A-11039)(Gibco-Invitrogen社(米国カリフォルニア州カールスバッド))、Alexa Fluor(登録商標)594ヤギ抗ラットIgG(A-11006)(Gibco-Invitrogen社(米国カリフォルニア州カールスバッド))及びAlexa Fluor(登録商標)488ヤギ抗マウスIgG(A-11001)(Gibco-Invitrogen社(米国カリフォルニア州カールスバッド))。各スライドからの画像は、40×対物レンズ(オリンパス(株))を装着したZeiss LSM 780共焦点顕微鏡を用いて撮影した。完全なヒト角膜を構成する画像は、10×対物レンズで撮影し、タイトル機能、次いでスティッチ処理した。画像は次いでAdobe Photoshopを用いて処理した。すべての実験において陰性対照染色として、各組織からの切片を二次抗体単独で染色した。
【0141】
MPS-I細胞形質移入及びウエスタンブロット:MPS-I患者繊維芽細胞を24ウェルプレートにウェル当たり20000個播種した。24時間後、各ウェルに1μgのプラスミドDNAと3μlのPEIと60μlのDMEMのミックスを添加して、各処理毎に9つのウェルを形質移入した。形質移入して24時間後に、各ウェルから40μlの上清を回収し、3つのウェルを一緒にして各サンプルとした。40μlのDMEMを各ウェルに添加して、後の上清回収のため同一容積に維持した。形質移入して48時間後に、3つのウェルを一緒にして全上清を回収し、三つ組を再度形成した。この時点で、ウェル当たり70μlのMammalian Protein Extraction Reagent(Thermo Scientific社カタログ番号78501)を試薬プロトコルに従って添加することによって全細胞タンパク質を回収した。
ウェスタンブロット用に、タンパク質溶解物を4×Nupageサンプル緩衝液中の5%β-メルカプトエタノール溶液に添加した。得られた溶液を10分間煮沸し、氷上で10分間冷却し、次いで10%ビス-トリスプレキャストゲルに流した。ゲルを1×MOPSランニング緩衝液中で泳動し、ニトロセルロースメンブレンに移した。メンブレンをddH2O中の5%ミルクでブロッキングし、PBS-Tween溶液(1×PBS中0.5%Tween20)で1:500希釈したマウス宿主IDUA抗体(R&D Systems MAB-4119)で2時間又はPBS-Tweenで1:5000希釈したマウス宿主β-アクチン抗体(Sigma社)と反応させた。次いで、PBS-Tweenで1:10000希釈したマウス西洋ワサビペルオキシダーゼ二次抗体を反応させた。Western-Bright Sirius化学発光試薬を製品プロトコールに従って使用し、ブロットをオートラジオグラフィーフィルムを用いて露光した。
【0142】
コドン最適化IDUAに対する野生型の293細胞形質移入の比較:293細胞を24ウェルプレートにウェル当たり100000個播種した。24時間後、ウェル当たり1μgのプラスミドDNAと3μlのPEIと60μlのDMEMのミックスを用いて3つのウェルを形質移入した。72時間後に、細胞培養上清を保存してから、各ウェルに70μlのMammalian Protein Extraction Reagent(Thermo Scientific社カタログ番号78501)を添加することによって、全細胞タンパク質を回収した。
【0143】
MPS-I患者の細胞毒性アッセイ:患者細胞を24ウェルプレートにウェル当たり20000個播種した。24時間後に、AAV-2 316を四つ組で添加した。72時間後に上清を保存し、細胞を0.05%トリプシンとそれらの対応する上清を用いて再懸濁した。すべてのサンプルを、Beckman Vi-CELL XR生死細胞アナライザーを用いて分析した。
【0144】
実施例2
MPS-I線維芽細胞におけるAAV IDUA発現カセット
AAV IDUA発現カセットを開発するために、ヒトidua cDNA(NM_000203)をヒト発現のためにコドン最適化し(opt-IDUA)、AAV末端逆位反復配列セロタイプ2プラスミドコンテクストにおけるCMVプロモーターとSV40ポリアデニル化配列との間に配置させた(
図1A)。AAV2-opt-IDUAベクターを文献に記載の通り調製し(Grieger et al.,Adv. Biochem. Eng. Biotechnol. 99:119(2005))、MPS-I患者由来線維芽細胞の特性解析に使用した。不死化正常ヒト線維芽細胞(NHF)を対照細胞株として用いた(Simpson et al.,J. Carcinog. 4:18(2005))。用量漸増実験において、MPS-I線維芽細胞のAAV2-opt-IDUA形質導入によって、細胞溶解物及び培養上清の両方でIDUA回復レベルが増加した(
図1B)。実際、NHFにおけるIDUAの静止レベルは比較的低いので、5000ウイルスゲノム/細胞の用量で、細胞溶解物及び培養上清のいずれにおいても既に超生理的レベルとなった(
図1B)。IDUA機能は、形質導入したMPS-I患者の線維芽細胞において一貫して回復及び上昇し、検討した最も高い用量では細胞溶解物及び上清においてそれぞれ10倍及び30倍増大した(
図1C及び
図1D)。AAVベクター形質導入後のIDUA過剰産生にもかかわらず、色素排除アッセイではいずれの用量でも患者線維芽細胞に毒性は観察されなかった(
図2)。重要な点として、これらの結果は、MPS-I患者におけるAAV2-opt-IDUAの機能性及び安全性を実証している。
【0145】
実施例3
角膜におけるAAV IDUA発現カセット
MPS1患者の角膜の分析から、角膜実質異常が、失明をもたらす角膜混濁の原因とされている(Huang et al.,Exp. Eye Res. 62(4):377(1996))。したがって、AAV-opt-IDUAの直接投与は、MPS-I患者の角膜実質区画におけるIDUA活性を回復し、MPS-I表現型を予防又は逆転させると期待される。以前の報告では、角膜に存在する最も一般的な細胞型の1つであるヒト角膜実質細胞の形質導入に対するAAV8(Hippert et al.,PLoS One、7(4):e35318(2012))及びAAV9(Sharma et al.,Exp. Eye Res. 91(3):440(2010))の有用性が実証されている。そこで、死後数週間生存可能である正常ヒト角膜外植片において、自己相補性(sc)AAV-CMV-GFPゲノムを有するこれらのカプシドを評価した。予備実験で、角膜実質への体積50μlの注射が、最小限の組織膨張及び成人角膜の約50%分布を伴って容認されることが墨汁を含有するベクタービヒクルを用いて実証された(
図3)。したがって、GFPレポーター遺伝子を含むAAVセロタイプ8又は9を注射(50μl中1e
10vg)によってヒト角膜実質に投与し、7日後にウェスタンブロッティングによって分析した。角膜形質導入に関するセロタイプ8及び9の両者についての報告があるので、AAV8カプシドにAAV9のガラクトース受容体を合体させたAAV8/9キメラカプシド(8G9)についても、同様の方法で検討した(Sharma et al.,Exp. Eye Res. 91(3):440(2010); Hippert et al.,PLoS One,7(4):e35318(2012))。ウェスタンブロッティングは、AAV8G9-GFPがいずれかの親セロタイプよりも大きな形質導入をもたすことを示している(
図4A)。
【0146】
一本鎖AAV8G9-GFP形質導入(最終体積50μl)の生体内分布を決定するために、ヒト角膜断面でGFP免疫蛍光を行った。結果は、ベクター形質導入が角膜を横断して横方向に広がるだけでなく、若干の内皮細胞形質導入を含め、深い実質層への浸透を伴うことを示している(
図4B)。角膜実質細胞のマーカーであるCD34、分化した角膜実質の指標となるα平滑筋アクチン(α-SM)及びマクロファージマーカーであるF4/80との同時染色は、AAV8G9カプシドに対して角膜細胞が無差別に交わることを示している(
図4C)。
【0147】
AAV8G9カプシドが角膜実質形質導入に最も効率的であることを確認した後、AAV8G9で形質導入した細胞型がIDUAを自然に産生するか否かを決定した。これを行うために、細胞型マーカー及びIDUAタンパク質での二重染色を、正常な未処理ヒト角膜で実施した。結果は、AAV8G9で形質導入した確認されるすべての角膜細胞がIDUAを自然に産生することを示している(
図5A)。
【0148】
次に、AAV8G9-opt-IDUA前臨床ベクター標品をUNC Vector Coreで作成し、エクスビボ正常ヒト角膜で評価した。これらの実験では、一本鎖AAV8G9-GFPの注射を評価し、PBSを陰性対照として用いた。注射7日後(50μl中1e
10vg)、全タンパク質を回収し、IDUAの存在量をウェスタンブロッティングで調べた。全角膜溶解物では、IDUAの静止レベルが比較的低く、ベクター由来のIDUA(前駆体及び切断型の両方)が容易に検出された(
図5B)。一貫して、AAV8G9-opt-IDUAを注射した角膜では、ヒト角膜における正常レベルと比較して、IDUA活性が10倍上昇したことが観察された(
図5C)。
【0149】
免疫蛍光染色及びヒト角膜断面での検出によって、IDUAの静止レベル及び分布を求めた(
図6)。MPS-I患者の角膜は稀少であるので、同一条件下でのIDUA一次抗体なしでの染色を陰性対照として用いた。結果は、比較的低レベルのIDUAが角膜実質内だけでなく、角膜上皮、及び量は少ないが内皮細胞層にも存在することを示している(
図6)。AAV8G9-opt-IDUAを注射したヒト角膜の横断面でもIDUA染色を行った。その結果をIDUAウエスタンブロット及び機能アッセイの結果と相関させると(
図5A~
図5C)、ヒト角膜における安静時のレベルと比較して、AAV8G9-opt-IDUAを投与すると正常ヒト角膜でIDUAの約5~10倍の増加がみられる(
図6)。さらに、AAV8G9-GFPで観察された結果と同様に、ベクター由来IDUAも十分に分布していた(
図4B及び
図6)。
【0150】
細胞毒性実験を、正常ヒト角膜においてssAAV8G9-GFP又はAAV8G9-opt-IDUA実質注射(1e
10vg)後に実施した。細胞アポトーシスの指標となる断片化DNAを検出するTUNEL染色を注射後7日目に行った。ヌクレアーゼ処理した陽性対照サンプルは広範なTUNEL染色を示したが、IDUA存在量/機能が格段に上昇した角膜は、非注射又はAAV8G9-GFP注射角膜と有意差がなかった(
図7)。これらの結果は、MPS-I患者線維芽細胞を用いて得られた結果と一致し、総合的に、MPS-I患者角膜におけるAAV8G9-opt-IDUA遺伝子治療の安全性を補強する。
【0151】
骨髄破壊的化学療法後に同種骨髄又は臍帯血ドナーを用いた造血幹細胞移植は、特に2歳未満の小児MPS-Iで行った場合に、寿命を延長し、その全体的質を改善することが報告されている(Shapiro et al.,J. Inherit. Metab. Dis. 18(4):413(1005); Whitley et al.,Am. J. Med. Genet. 46(2):209(1993); Prasad et al.,Blood 112(7):2979(2008); Boelens et al.,Bone Marrow Transplant. 43(8):655(2009); Summers et al.,Ophthalmology 96(7):977(1989))。移植ドナー細胞は全身性IDUA源となり、ドナー小グリア細胞の生着を通して脳における酵素補充をもたらす。移植した小児で、HSCT後10乃至20年生存し、完全なドナーキメリズムを示す者は、正常な血液IDUAレベルを有し、正常乃至ほぼ正常な認知及び心臓機能をもつ。移植後のMPS-Iでみられる後及び進行性の症状は、一般に関節、骨及び眼に限定され、これらはすべてドナー由来のIDUAが少量しか存在せず届きにくい器官である。従って、本明細書において本発明者らが検討した前臨床角膜アプローチは、幹細胞移植及びCNS標的AAV遺伝子治療の短所に対処するための補充MPS-I療法として設計された。
【0152】
MPS-I患者の角膜は稀にしか入手できないので、最初にMPS-I患者の線維芽細胞における疾患の是正について検討した。データは、低用量のベクターでIDUA機能の回復を示す。これは、部分的には、正常線維芽細胞におけるIDUAレベルが比較的低く、おそらく正常な細胞生理学には十分であることによる(
図1)。一貫して、正常ヒト角膜でみられるIDUAの存在量も余り多くなかった。実際、全角膜溶解物において、IDUAの存在はウエスタンブロッティングでは容易には検出されなかったが、組織学的検査によって角膜上皮、内皮、及び実質内にある複数の細胞型の大半におけるIDUAの静止レベルが同定された(
図5及び
図6)。このIDUA存在量及びAAV媒介回復の評価は、主に、MPS-I小児の角膜のWT IDUA機能を回復させるには少量のIDUAしか必要としないという、本発明の角膜遺伝子治療アプローチの非常に重要な側面を明らかにしている。角膜外植片で選択したAAV量(1e
10vg)は過剰であることが判明し、IDUA機能の10倍もの超生理学的上昇をもたらした。ただし、このような高いIDUAレベルであっても、毒性は全く検出されなかった(
図5、
図6、
図7)。分泌されるIDUAが隣接細胞も横断的に是正することができること、正常ヒト角膜の静止レベル、及びヒト角膜形質導入に対するAAV8G9-opt-IDUAの効率を考慮すると、本明細書のデータは、低いベクター用量であっても、MPS-I患者の角膜に正常レベルのIDUAをもたらすことを示唆している。さらに、ヒト角膜には抗体が存在しないので、IDUA導入遺伝子産物(IDUA)に対する中和抗体応答に関連して報告された合併症は起こらないと予想される(Hinderer et al.,Mol. Ther. 23(8):1298(2015))。
【0153】
本明細書のデータを総合すると、MPS-I角膜におけるIDUA機能の回復は実現性が高いと思われる。さらに、AAV8G9は、内皮層並びにIDUAを天然に産生する実質細胞におけるIDUA産生を惹起する(
図6)。本発明のAAV-opt-IDUA戦略は、これらの区画の両方を形質導入することができるので(
図6)、HSCT又はAAV全身性遺伝子送達に対する補助療法として、MPS-I関連角膜失明を治療又は予防する見込みは、実現性を保ち続けている。
【0154】
実施例4
インビボでの角膜におけるAAV IDUA発現カセット
インビボでのAAV IDUA発現の効果をMPS1イヌで試験した。イヌI-712の左眼に、
図8A~
図8Dに示すようにAAV8G9-CMV-optIDUA(1e
9vg/μl)溶液を注射した。インスリン注射器の針先を角膜実質に挿入し(A)、溶液を徐々に注入して(B)全量(65μl)を投与した(C)。注射直後に、液体保持領域が、角膜表面の30%の部分の、軸角膜の曇り又は浮腫として視認された(D)。眼科用超音波生体顕微鏡によって、表記時点での中心角膜厚を測定することができた(
図8E)。注射2分後にみられた膨張は2日以内に解消した。
【0155】
次の実験において、2匹のMPS1イヌの片眼にAAV8G9-opt-IDUAを、反対側の眼に対照としてAAV-GFPを、いずれも実質内注射によって投与した。眼底の反帰光線法での輝板の反射率の向上は、表記の期間の角膜の透明度を示す(
図9A)。両方のイヌで、反射率の大幅な改善が7日以内に観察されて113日間維持され、IDUA発現によって角膜混濁が解消したことが実証された。
【0156】
イヌI-709は、急性角膜浮腫を、5週目に左眼で(発症した週の画像は示していない)を、次いで10週目に右眼で発症した(
図9B)。角膜浮腫は、全身性ステロイド薬(SS)と共に又は無しで局所ステロイド薬(TS)を投与した間の2~3週間以内に収縮し、注射後19週までいずれの眼でも再発しなかった。重要なことに、一時的な免疫反応から回復した後も、IDUAを注射した左眼では治療効果がはっきりと残っていた。
【0157】
以上は本発明の例示であり、本発明を限定するものではない。本発明は、添付の特許請求の範囲によって規定され、特許請求の範囲の均等もその技術的範囲に属する。
ヒトα-L-イズロニダーゼ(IDUA)を発現するアデノ随伴ウイルス(AAV)粒子を含む剤であって、対象の角膜にIDUAを送達することにおいて使用する為の前記剤。
ヒトα-L-イズロニダーゼ(IDUA)を発現するアデノ随伴ウイルス(AAV)粒子を含む剤であって、対象におけるムコ多糖症I型(MPS-I)関連角膜混濁を治療又はその発症を遅延することにおいて使用する為の前記剤。
インビトロ又はエクスビボで角膜にヒトα-L-イズロニダーゼ(IDUA)を送達する方法であって、前記角膜を、IDUAを発現するアデノ随伴ウイルス(AAV)粒子の有効量と接触させ、もって角膜にIDUAを送達することを含む方法。