IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ボストン サイエンティフィック サイムド,インコーポレイテッドの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023118721
(43)【公開日】2023-08-25
(54)【発明の名称】止血を達成するための粉末
(51)【国際特許分類】
   A61L 15/28 20060101AFI20230818BHJP
   A61L 15/22 20060101ALI20230818BHJP
   A61L 31/04 20060101ALI20230818BHJP
   A61L 15/42 20060101ALI20230818BHJP
【FI】
A61L15/28 100
A61L15/22 310
A61L31/04 120
A61L15/42
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023093992
(22)【出願日】2023-06-07
(62)【分割の表示】P 2020538608の分割
【原出願日】2019-01-11
(31)【優先権主張番号】62/616,751
(32)【優先日】2018-01-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】506192652
【氏名又は名称】ボストン サイエンティフィック サイムド,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】BOSTON SCIENTIFIC SCIMED,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】フレドリクソン、ジェラルド
(72)【発明者】
【氏名】スミス、アマンダ エル.
(72)【発明者】
【氏名】ピック、アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】ゲルバシオ、ソフィア
(72)【発明者】
【氏名】ライデッカー、ローレン
(57)【要約】
【課題】様々な実施形態において、本発明は、キトサン粉末組成物を組織部位に適用することを含む、組織部位での出血を治療又は予防する方法に関する。
【解決手段】様々な態様において、本発明は、組織部位への適用のためのキトサン粉末組成物に関し、粉末組成物は、キトサン塩、架橋キトサン、誘導体化キトサン、又はそれらの組み合わせを含む。様々な態様において、本発明は、キトサン粉末組成物が予め装填され、キトサン粉末組成物を組織部位に送達するように構成されているカテーテルアセンブリに関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織部位に適用するための粉末組成物において、粉末組成物は、キトサン、キトサン塩又は誘導体化キトサンを含む第1の粒子を含み、前記第1の粒子には第2の粒子が混合され、前記第2の粒子は湿気にさらされると前記第1の粒子と共有結合又は非共有結合で相互作用する架橋剤を含む、粉末組成物。
【請求項2】
前記第1の粒子がキトサン塩を含み、前記架橋剤がポリアニオン架橋剤である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記第1の粒子がキトサン又はキトサン塩を含み、前記架橋剤は、共有結合架橋剤である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記共有結合架橋剤が、多官能性エポキシ、多官能性アルデヒド、多官能性アクリレート、及びゲニピンからなる群から選択される、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記共有結合架橋剤が誘導体化ポリマーである、請求項3~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記誘導体化ポリマーが、アルデヒド誘導体化ポリマー、エポキシ誘導体化ポリマー、アクリレート誘導体化ポリマー及びゲニピン誘導体化ポリマーからなる群から選択される、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記第1の粒子が誘導体化キトサンを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記第2の粒子が共有結合架橋剤を含む、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記共有結合架橋剤がポリマー架橋剤である、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記第1の粒子がチオール修飾キトサンを含み、前記第2の粒子が複数の不飽和基を有する分子を含む、請求項7~9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
組織部位に適用するための粉末組成物であって、誘導体化キトサン又はキトサン塩を含む粉末組成物。
【請求項12】
前記誘導体化キトサンが湿気に曝されると組織中のシステイン基と反応するか、又はキトサン塩が組織又は血液中の負に帯電した種とイオン的に架橋する、請求項11に記載の粉末。
【請求項13】
前記誘導体化キトサンが多官能性アルデヒドで誘導体化されたキトサンであるか、前記誘導体化キトサンが多官能性エポキシドで誘導体化されたキトサンであるか、又は誘導体化キトサンがゲニピンで誘導体化されたキトサンである、請求項11~12のいずれか1項に記載の粉末。
【請求項14】
前記誘導体化キトサンが、湿気に曝されると組織中のシステインと相互作用する、請求項13に記載の粉末。
【請求項15】
前記誘導体化キトサンが不飽和基で誘導体化されたキトサンであるか、又は前記誘導体化キトサンがチオール基で誘導体化されている、請求項14に記載の粉末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は止血を達成するための粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
胃腸出血は毎年何百万もの人々に影響を及ぼしている。内出血の特定のケースは、クリップ、焼灼、又はバンド結紮などの現在の止血技術では効果的に制御できない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
とりわけ、創傷、手術部位、病変組織、潰瘍床、及び胃静脈瘤は、従来の止血手段が失敗し、長期の入院又は死亡につながる可能性がある場所である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
様々な態様において、本発明は、キトサン粉末組成物を組織部位に適用することを含む、組織部位での出血を治療又は予防する方法に関し、キトサン粉末組成物は、キトサン塩、架橋キトサン、誘導体化キトサン、又はそれらの組み合わせを含むものである。
【0005】
様々な実施形態では、組織部位は、体腔、例えば、胃腸管内の部位であり得る。組織部位が体腔である場合、キトサン粉末は、例えば、カテーテル又は他の適切なデバイスを介して適用され得る。
【0006】
上記の態様及び実施形態と併せて使用することができる様々な実施形態では、粉末をガス(例えば、CO、窒素、空気など)中で流動化して、流動化粉末を形成し、組織部位に吹き付けることができる。そのような実施形態では、流動化した粉末は、他の可能な速度の中でも、15~50m/sの範囲の速度でカテーテルから放出されることが可能である。
【0007】
様々な態様において、本発明は、組織部位への適用のための粉末組成物に関し、粉末組成物は、キトサン、キトサン塩又は誘導体化キトサンを含有する第1の粒子を含み、第1の粒子は架橋剤を含有する第2の粒子と混合され、架橋剤は湿気にさらされると、第1の粒子と共有結合又は非共有結合で相互作用する。
【0008】
いくつかの実施形態では、第1の粒子はキトサン塩を含んでもよく、架橋剤はポリアニオン性架橋剤であってもよい。例えば、第1の粒子はキトサン又はキトサン塩を含んでもよく、架橋剤は共有結合架橋剤であってもよい。共有結合架橋剤の例には、例えば、他の可能性の中でもとりわけ、多官能性エポキシ、多官能性アルデヒド、多官能性アクリレート、ゲニピン、又は誘導体化ポリマー(例えば、アルデヒド誘導体化ポリマー、エポキシ誘導体化ポリマー、アクリレート誘導体化ポリマー又はゲニピン誘導体化ポリマー)が挙げられる。
【0009】
上記の態様及び実施形態と併せて使用することができるいくつかの実施形態では、第1の粒子は誘導体化キトサンを含むことができ、第2の粒子は共有結合架橋剤を含むことができる。特定の一例では、第1の粒子はチオール修飾キトサンを含むことができ、第2の粒子は複数の不飽和基を有する分子を含むことができる。
【0010】
様々な態様において、本発明は、誘導体化キトサンを含む、組織部位への適用のための粉末組成物に関する。
いくつかの実施形態では、誘導体化キトサンは、湿気にさらされると組織内のシステイン基と反応する。例えば、誘導体化キトサンは、多官能性アルデヒドで誘導体化されたキトサンであり得、誘導体化キトサンは、多官能性エポキシドで誘導体化されたキトサンであり得、誘導体化キトサンは、多官能性アクリレートで誘導体化されたキトサンであり得るか、又は誘導体化キトサンは、ゲニピンで誘導体化されたキトサンであり得る。
【0011】
上記の態様及び実施形態と併せて使用することができるいくつかの実施形態では、誘導体化キトサンは、湿気にさらされると組織内のチオール基と相互作用することができる。
上記の態様及び実施形態と併せて使用され得るいくつかの実施形態では、誘導体化キトサンは、とりわけ、不飽和基で誘導体化されたキトサンであり得るか、又は誘導体化キトサンは、チオール基で誘導体化され得る。
【0012】
様々な態様において、本開示は、キトサン塩を含む、組織部位への適用のための粉末組成物に関する。
いくつかの実施形態では、キトサン塩は、組織又は血液中の負に帯電した種とイオン的に架橋する。
【0013】
上記の態様及び実施形態と併せて使用することができる様々な態様では、本発明は、キトサン粉末組成物が予め装填され、キトサン粉末組成物を組織部位に送達するように構成されるカテーテルアセンブリに関する。
【0014】
これら及び他の態様及び実施形態は、以下の詳細な説明でさらに説明される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
様々な態様では、本発明は、組織部位(例えば、創傷、手術部位、病変組織部位、潰瘍床、胃静脈瘤など)を治療する方法に関し、これら組織部位にはキトサン粉末が適用される。キトサン粉末は、例えば、既存の出血に対処するため、又は起こり得る将来の出血を防止又は最小化するために適用され得る。様々な実施形態では、組織部位は、体腔、例えば、胃腸管の壁を囲む組織である。キトサン粉末は、例えば、キトサン、キトサン塩、架橋キトサン、誘導体化キトサン、又はそれらを含む天然又は合成ポリマーブレンドを含み得る。以下でより詳細に論じるように、特定の実施形態では、キトサン粉末は、例えば、キトサン塩、架橋キトサン、誘導体化キトサン、又はそれらの組み合わせを含むことができる。
【0016】
様々な実施形態では、キトサン粉末は、カテーテルを介して組織部位に適用されてもよい。これらの例には、粉末がガス(例えば、圧縮空気、窒素、二酸化炭素など)中で流動化されて流動化粉末を形成し、次に組織部位に吹き付けられるカテーテルアセンブリを含む。例えば、(a)内部を通って延在する管腔と、近位端と、出口オリフィスを有する遠位端とを有するカテーテルと、(b)キトサン粉末を収容するリザーバーとを備える、カテーテルアセンブリが提供され得る。カテーテルアセンブリは、キトサン粉末をリザーバーから、管腔を通し、そして出口オリフィスから送達するように構成され得る。特定の実施形態では、カテーテルアセンブリは、キトサン粉末をリザーバーから管腔を通して出口オリフィスから送達するための加圧ガスを収容した加圧リザーバーを有し得る。例えば、加圧リザーバーは、リザーバーの上流に配置され、加圧ガスはキトサン粉末を通過し、それにより、ガス内のキトサン粉末を流動化させて、管腔を通って出口オリフィスから送出することができる。特定の実施形態では、カテーテルは、流動化粉末が15m/秒~50m/秒の範囲の速度でカテーテルを出るように操作される。胃腸管に適用される場合、キトサン粉末は内視鏡を通して適用されてもよい。
【0017】
様々な態様において、本開示は、キトサン粉末が予め装填されたカテーテルに関する。例えば、近位端と遠位端とを有し、キトサン粉末が部分的に充填された(残りの体積が空気である)カテーテルを含むシステムが提供されてもよい。カテーテルはまた、カテーテルの近位端及び遠位端に、キトサン粉末を保持するためのプラグ、キャップ、又は他の機構などによる密閉部を含み得る。システムは、近位密閉部を破壊し、カテーテル内の粉末を流動化し、遠位密閉部を排出し、流動化したキトサン粉末をカテーテルの遠位端から治療部位に分散させるのに十分な圧力でカテーテルにガスを加えるためのメカニズムをさらに備えてもよい。
【0018】
組織部位に適用されると、本発明によるキトサン粉末は、組織部位に関連する出血に対するバリアとして機能する。キトサン粉末は、液体を吸収することによってバリアとして機能するが、液体は、例えば、組織の部位に存在する血液や胃腸液(例えば、膵液、胆汁液、唾液など)などの体液であるか、又は生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、又はキトサン粉末の塗布の前、同時、又は後に組織部位に塗布される造影液などの液体である。キトサン粉末は、活発な出血の部位で止血を達成するために使用することができ、又は他の用途の中でもとりわけ、クリッピングされた領域、縫合部位、又は出血の可能性がある他のものに対する予防剤として使用できる。
【0019】
様々な態様において、本発明は、他の可能な用途の中でも、止血のために使用することができるキトサン粉末に関する。
本発明で使用するためのキトサン粉末は、任意の適切な粒径のものであってよい。様々な実施形態において、粒子サイズは、例えば、その他の可能性の中でもとりわけ、1μm未満から1000μmまでの範囲(例えば、1μm~2.5μm、10μmまで、25μmまで、50μmまで、100μmまで、250μmまでの範囲であり得る。これに関して、50μm~425μmの間のサイズの粒子を有するキトサン粉末は、8フレンチのカテーテルを通して分配されたときに良好に機能する。
【0020】
上記のように、キトサン粉末は、例えば、キトサン、キトサン塩、誘導体化キトサン、又は架橋キトサン、及び任意選択で天然又は合成ポリマーを含むことができる。
キトサンは、ランダムに分布した、β-(1-4)-結合のD-グルコサミンとN-アセチル-D-グルコサミンモノマー単位を含む修飾された多糖である。キトサンはキチンのアルカリ性N-脱アセチル化によって商業的に生産され、それは主に修飾グルコース、特にN-アセチル-D-グルコサミンの非分岐鎖からなるセルロース様ポリマーである。
【0021】
市販のキトサンにおける脱アセチル化の程度は、概ね任意の程度の脱アセチル化が可能であるが、典型的には75~100%の範囲である。キトサンは酸性から中性の溶液中で正に帯電し、電荷密度はpH及び脱アセチル化の程度に依る。キトサンのpKa値は、脱アセチル化の程度に応じて、一般的に6.1~7.0の範囲にある。したがって、典型的には蒸留水に実質的に不溶性であるが、キトサンは一般に水性酸性溶液(例えば、pH約6.5以下)に可溶である。
【0022】
キトサン塩の例としては、キトサンハロゲン化物例えば、キトサンフッ化物、キトサン塩化物、キトサン臭化物、キトサンヨウ化物、キトサンリン酸塩、キトサン硝酸塩、キトサン硫酸塩、有機一酸のキトサン塩、例えばギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩、有機二酸例えば、キトサン塩シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、もしくはグルタル酸塩、又は、ヒドロキシ酸の塩例えば、グリコール酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、もしくはグルコン酸塩が含まれる。
【0023】
様々な実施形態では、改良された接着を含む増強された特性を示す修飾キトサンを使用することができる。例えば、チオール修飾キトサンは、キトサンと、キトサンへの結合のための1つ以上のチオール基及び1つ以上の追加の基(例えば、カルボン酸基、本明細書ではカルボキシル基とも呼ばれ得る)を有する分子との反応により形成され得る。特定の例では、チオ乳酸のカルボン酸基は、適切な化学反応によってキトサンの第一級アミン基と反応して、共有アミド結合を形成することができる。例えば、カルボジイミドの共役は、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)などの適切なカルボジイミドでカルボン酸基を活性化し、アミド結合の形成を介した第一級アミン(キトサンの第一級アミン基など)への直接共役の役割を果たす。同様に、カルボニルジイミダゾール(CDI)を非水性条件で使用して、カルボン酸を活性化し、アミド結合を介して一級アミン(キトサンの一級アミン基など)に直接共役させることができる。修飾されたキトサンのチオールは、システインに富んだ組織と相互作用して共有結合を形成することにより、結合を強化できる。
【0024】
修飾キトサンの他の例には、組織で見られるアミン基と反応する基を含む、組織との共有反応を可能にする基で修飾されたキトサンが含まれる。例えば、多官能性アルデヒド分子などの多官能性(例えば、二官能性、三官能性など)反応性分子をキトサン上のアミン基と反応させて、アルデヒド修飾キトサン(ペンダントアルデヒド基を有するキトサン)を形成することができる。別の例として、多官能性エポキシド分子などの多官能性(例えば、二官能性、三官能性など)反応性分子をキトサン上のアミン基と反応させて、エポキシ修飾キトサン(すなわち、ペンダントエポキシド基を有するキトサン)を形成することができる。別の例として、多官能性アクリレート分子などの多官能性(たとえば、二官能性、三官能性など)反応性分子、又はキトサンと反応し、PEGジアクリレートなどの少なくとも1つのアクリレート基を有する1つ又は複数の基を有する別の分子を、生理学的pH条件かつ体温の温度でマイケル付加クリック反応を介してチオール修飾キトサンのチオール基と反応し、キトサン-PEG架橋ネットワーク(すなわち、組織に共有結合するように修正可能なペンダントチオール基が過剰にあるキトサン-PEG架橋ゲル)を形成することができる。別の例として、ゲニピンなどの多官能性(例えば、二官能性、三官能性など)反応性分子をキトサン上のアミン基と反応させて、ゲニピン修飾キトサン(すなわち、ペンダントゲニピン基を有するキトサン)を形成することができる。特定の実施形態において、多官能性反応性分子(例えば、多官能性アルデヒド分子、多官能性エポキシド分子、又はゲニピン)は、多官能性反応性分子がキトサン上のアミン基のモル数に対して最小値で1×モルで提供されるような相対量でキトサンと反応することができ、これにより、アミン基のすべて又は本質的にすべてが反応し、ペンダント反応基を有することになる。
【0025】
多官能性アルデヒドの例には、グルタルアルデヒド、グリオキサール、及びアルデヒド末端親水性ポリマーが含まれる。多官能性エポキシドの例には、4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、及びエポキシド末端親水性ポリマーが含まれる。アルデヒド又はエポキシド末端を備えた親水性ポリマーには、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリアクリルアミド、ポリ(アクリル酸)、及びポリ(メタクリル酸ヒドロキシエチル)(PHEMA)が含まれる。適切な親水性ポリマーは、他の可能性の中でもとりわけ、例えば、長さが2~250モノマーの範囲であり得る。
【0026】
特定の実施形態では、修飾されたキトサンは、反応性分子がキトサンのアミン基のモル数に対して最小値で1×モルにて提供されるような相対量で、PEGジエポキシド又はPEGジアルデヒドなどの反応性合成分子と反応させることによって形成されることができ、これによりキトサンのアミン基のすべて又は本質的にすべてが反応し、ペンダントエポキシド末端PEG基又はアルデヒド末端PEG基を有するようになる。
【0027】
一部の実施形態では、キトサンを直接に酸化し、それによりキトサン上にアルデヒド基を形成することができる。
いくつかの実施形態では、キトサン、キトサン塩、修飾キトサン、又はそれらの組み合わせが、組織部位への適用前、又は組織部位への適用時に、非共有結合架橋又は共有結合架橋されているキトサン粉末が使用され得る。
【0028】
例えば、いくつかの実施形態では、2つ以上のアニオン基(例えば、カルボン酸基、又はスルホネート基)を有する多官能アニオン分子などのイオン架橋剤を提供して、キトサンにある正に荷電したアミン基を介してキトサンをイオン架橋することができる。多官能性アニオン分子の例には、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、又はグルタル酸塩などの有機二酸、又は酒石酸塩、リンゴ酸塩、又はクエン酸塩などのヒドロキシ酸の塩が含まれる。多官能性アニオン性分子の例には、ポリアニオン性ポリマーも含まれる。
【0029】
いくつかの実施形態では、多官能性アニオン性分子は、組織に適用する前にキトサンと組み合わされてイオン架橋され、所望又は必要に応じて、架橋生成物を粉末に粉砕する。いくつかの実施形態では、多官能性アニオン性分子は、組織表面でイオン的に架橋される。例えば、多官能性アニオン性分子(例えば、とりわけクエン酸)は、粉末形態のキトサンと組み合わされ、その混合物が組織に適用されてもよい。この混合物が水分(例えば、体液及び/又は別個に塗布された液体によって提供される)の多い環境に接触すると、液体が吸収され、粉末成分が溶解して架橋し、塗布部位全体にわたって粒子の少ない、より固く粘着性の高いゲルが作成される。
【0030】
いくつかの実施形態では、キトサン又は修飾キトサンは、投与前に共有結合で架橋され、その後組織に適用されてもよい。例えば、キトサン又は修飾キトサンは、キトサンと反応する(例えば、キトサンのアミン基又は修飾キトサンのカルボキシメチル基と反応する)2つ以上の基(例えば、カルボン酸基、アミン基、エポキシ基、又はアルデヒド基)を有する多官能性分子と反応し得る。例えば、末端カルボン酸基を有する生体適合性親水性ポリマー(例えば、とりわけ上に挙げた親水性ポリマー)は、任意の適切な化学反応(例えば、カルボジイミド又はカルボニルジイミダゾールの化学反応を使用する)により、キトサンの第一級アミン基と反応し、キトサンを共有結合で架橋することができる。特定の一実施形態では、PEGジカルボキシレートのカルボン酸基を、カルボジイミド又はカルボニルジイミダゾール化学反応を使用してキトサンのアミン基と反応させ、それによりキトサンを共有結合的に架橋することができる。別の例として、誘導体化キトサン(例えば、カルボン酸基で誘導体化されたキトサン)は、キトサンを共有結合で架橋するために、任意の適切な化学反応(例えば、カルボジイミド又はカルボニルジイミダゾール化学反応を使用)を通じて、末端アミン基を有した生体適合性親水性ポリマー(例えば、とりわけ上記の親水性ポリマー)と架橋される。特定の一実施形態では、PEGジアミンのアミン基は、カルボジイミド又はカルボニルジイミダゾールの化学反応を使用してカルボキシメチルキトサンのカルボン酸基と反応し、それによりキトサンを共有結合的に架橋することができる。得られた製品は、所望又は必要に応じて、製品を粉末に粉砕した後、組織に適用される。これにより、一般に粉末の全体的な構造的完全性が改善される。
【0031】
いくつかの実施形態では、キトサン粉末が提供されてから、組織への投与時に共有結合的に架橋されるようになる。
例えば、アミンと反応する多官能性(例えば、二官能性、三官能性など)反応性分子を含む第1の粒子、例えば、ゲニピン、多官能性アルデヒド分子、又は上記のような多官能性エポキシド分子(例えば、PEGジエポキシド、PEGジアルデヒド又は固体である任意の小分子ジアルデヒド又は小分子ジエポキシド)は、キトサン又はキトサン塩粉末と混合され、乾燥形態で組織に適用されてもよい。特定の実施形態において、多官能性反応性分子は、例えば、上記のアルデヒド修飾キトサン(ペンダントアルデヒド基を有するキトサン)、エポキシ修飾キトサン(すなわち、ペンダントを有するキトサン)及びゲニピン修飾キトサン(すなわち、ペンダントゲニピン基を有するキトサン)から選択され得る、上記のものなどの修飾キトサンである。混合された粉末が濡れると(例えば、体液及び/又は液体の適用により)、粉末成分が溶解し、多官能性反応性分子がキトサン又はキトサン塩にあるアミンと架橋し、さらに組織のアミンと反応する。
【0032】
別の例として、上記のチオール修飾キトサンを含む第1の粒子を、2つ以上の不飽和基を含む分子を含む第2の粒子と混合し、乾燥形態で組織に適用することができる。2つ以上の不飽和基を含む分子の例には、アクリレート末端親水性ポリマーが含まれる。不飽和末端を備えることができる親水性ポリマーには、上記の親水性ポリマーが含まれる。2つ以上の不飽和基を含む分子の特定の例は、PEGジアクリレートである。そのような粉末を組織に適用し、続いて生理食塩水とその場で混合すると、マイケル付加反応スキームに従う。体温かつ生理食塩水のpH(7.4)の条件で、2つの粉末が架橋して凝集パッチを形成する。特定の実施形態では、第1の粒子又は第2の粒子は、塩基又は求核試薬などの触媒を含み得る。
【0033】
本開示の様々なさらなる態様は、以下の列挙された段落に与えられるものである。
実施形態A1 組織部位での出血を治療又は予防する方法であって、キトサン粉末を組織部位に適用することを含み、キトサン粉末は、キトサン塩、架橋キトサン、誘導体化キトサン、又はそれらの組み合わせを含むことを要旨とする。
【0034】
実施形態A2 組織部位が体腔内にある、実施形態A1の方法を要旨とする。
実施形態A3 体腔が胃腸管である、実施形態A2の方法を要旨とする。
実施形態A4 実施形態A1~A3のいずれかの方法であって、キトサン粉末はカテーテルを介して適用されることを要旨とする。
【0035】
実施形態A5 粉末がガス中で流動化されて流動粉末を形成し、組織部位に吹き付けられる、実施形態A1~A4のいずれかの方法を要旨とする。
実施形態A6 流動化ガスがCOである、実施形態A6の方法を要旨とする。
【0036】
実施形態A7 流動化した粉末が、15~50m/sの範囲の速度でカテーテルを出る、任意の実施形態A6~A7の方法を要旨とする。
実施形態B1 予め充填されたカテーテルアセンブリであって、内部を貫通する管腔と、近位端と、出口オリフィスを有する遠位端とを有するカテーテルと、キトサン粉末を含むリザーバーとを有し、カテーテルアセンブリは、キトサン粉末を、リザーバーからルーメンを通って、そして出口オリフィスから送達することを要旨とする。
【0037】
実施形態B2 実施形態B1の予め装填されたカテーテルであって、カテーテルアセンブリは、キトサン粉末をリザーバーから管腔を通って出口オリフィスから送出するための加圧ガスを含む加圧リザーバーをさらに備えることを要旨とする。
【0038】
実施形態B3 加圧リザーバーがリザーバーの上流に配置され、加圧ガスがキトサン粉末を通過し、それにより、管腔を通って出口オリフィスから送出するためにガス中にキトサン粉末を流動化する、実施形態B2の予め装填されたカテーテルを要旨とする。
【0039】
実施形態B4 実施形態B1の予め装填されたカテーテルにおいて、キトサン粉末は、キトサン、キトサン塩、架橋キトサン、誘導体化キトサン、又はそれらの組み合わせを含むことを要旨とする。
【0040】
実施形態C1 組織部位に適用するための粉末組成物において、粉末組成物は、キトサン、キトサン塩又は誘導体化キトサンを含む第1の粒子を含み、第1の粒子には第2の粒子が混合され、第2の粒子は湿気にさらされると第1の粒子と共有又は非共有相互作用する架橋剤を含む、粉末組成物を要旨とする。
【0041】
実施形態C2 第1の粒子がキトサン塩を含む、実施形態C1の組成物を要旨とする。
実施形態C3 架橋剤がポリアニオン性架橋剤である、実施形態C2の組成物を要旨とする。
【0042】
実施形態C4 第1の粒子がキトサン又はキトサン塩を含み、架橋剤が共有結合架橋剤である、実施形態C1の組成物を要旨とする。
実施形態C5 共有結合架橋剤が多官能性エポキシ、多官能性アルデヒド、及びゲニピンから選択される、実施形態C4の組成物を要旨とする。
【0043】
実施形態C6 共有結合架橋剤が誘導体化ポリマーである、実施形態C4の組成物を要旨とする。
実施形態C7 誘導体化ポリマーが、アルデヒド誘導体化ポリマー、エポキシ誘導体化ポリマー、及びゲニピン誘導体化ポリマーから選択される、実施形態C6の組成物を要旨とする。
【0044】
実施形態C8 誘導体化ポリマーが誘導体化キトサンである、実施形態C6の組成物を要旨とする。
実施形態C9 誘導体化キトサンが、アルデヒド誘導体化キトサン、エポキシ誘導体化キトサン、及びゲニピン誘導体化キトサンから選択される、実施形態C8の組成物を要旨とする。
【0045】
実施形態C10 第1の粒子が誘導体化キトサンを含む、実施形態C1の組成物を要旨とする。
実施形態C11 第2の粒子が共有架橋剤を含む、実施形態C10の組成物を要旨とする。
【0046】
実施形態C12 共有結合架橋剤がポリマー架橋剤である、実施形態C11の組成物を要旨とする。
実施形態C13 第1の粒子がチオール修飾キトサンを含み、第2の粒子が複数の不飽和基を有する分子を含む、実施形態C10の組成物を要旨とする。
【0047】
実施形態C14 複数の不飽和基を有する分子が、不飽和末端基を有する親水性ポリマーである、実施形態C13の組成物を要旨とする。
実施形態D1 組織部位に適用するための粉末組成物であって、多官能性カルボキシル化ポリマーで架橋されたキトサンを含む粉末組成物を要旨とする。
【0048】
実施形態D2 カルボキシル化ポリマーがカルボン酸末端基を有する親水性ポリマーである、実施形態D1の組成物を要旨とする。
実施形態D3 実施形態D1又はD2の組成物において、キトサンは、ジイミドカップリングを使用して多官能性カルボキシル化ポリマーと架橋されることを要旨とする。
【0049】
実施形態E1 組織部位に適用するための粉末組成物であって、誘導体化キトサンを含む粉末組成物を要旨とする。
実施形態E2 誘導体化されたキトサンが水分に曝されると組織と反応する、実施形態E1の粉末を要旨とする。
【0050】
実施形態E3 誘導体化されたキトサンが水分に曝されると組織中の第一級アミン基と反応する、実施形態E1の粉末を要旨とする。
実施形態E4 誘導体化キトサンが、多官能性アルデヒドで誘導体化されたキトサンである、実施形態E2の粉末を要旨とする。
【0051】
実施形態E5 誘導体化キトサンが多官能性エポキシドで誘導体化されたキトサンである、実施形態E2の粉末を要旨とする。
実施形態E6 誘導体化キトサンがゲニピンで誘導体化されたキトサンである、実施形態E2の粉末を要旨とする。
【0052】
実施形態E7 誘導体化されたキトサンが水分に曝されると組織中のチオール基と相互作用する、実施形態E1の粉末を要旨とする。
実施形態E8 誘導体化キトサンが不飽和基で誘導体化されたキトサンである、実施形態E7の粉末を要旨とする。
【0053】
実施形態E9 誘導体化キトサンがチオール基で誘導体化されている、実施形態E7の粉末を要旨とする。
実施形態E10 キトサンが、カルボン酸基及びチオール基を含む化合物で誘導体化されている、実施形態E9の粉末を要旨とする。
【0054】
実施形態E11 キトサンがジイミド(例えば、EDC又はDCC)カップリングを使用して誘導体化される、実施形態E10の粉末を要旨とする。
(実施例)
シグマ・アルドリッチ社から入手したキトサンは、キトサン2重量%と水98重量%の濃度で水に懸濁される。混合物は、機械ミキサーを使用して室温で撹拌される。次に、撹拌中に酢酸を添加して、5時間撹拌した後、pHが5.0近くになるようにする。(最初に使用したキトサンの重量に対して)2重量%のクエン酸を容器に加え、さらに5時間混合する。このプロセスでゲルが形成され、その後乾燥される。乾燥したゲルは、使用のために細かい粉末に粉砕される。
【手続補正書】
【提出日】2023-07-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多官能性アルデヒドで誘導体化されたキトサンを含む第1の粒子と、
共有結合架橋剤を含む第2の粒子とを含む、粉末の形状をした組成物。
【請求項2】
前記多官能性アルデヒドで誘導体化された前記キトサンは、ペンダントアルデヒド基を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記多官能性アルデヒドは、グルタルアルデヒド、グリオキサール、又はアルデヒド末端親水性ポリマーを含む、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記多官能性アルデヒドは、前記アルデヒド末端親水性ポリマーを含み、前記アルデヒド末端親水性ポリマーは、ポリ(エチレングリコール)、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリ(アクリル酸)、又はポリ(メタクリル酸ヒドロキシエチル)を含む、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記多官能性アルデヒドは、ポリ(エチレングリコール)ジアルデヒドである、請求項3に記載の組成物。
【請求項6】
前記共有結合架橋剤はポリマー架橋剤である、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記共有結合架橋剤は、2つ以上の官能基を有する多官能性分子を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記共有結合架橋剤は、末端カルボン酸基を有する生体適合性親水性ポリマーである、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記2つ以上の官能基は、カルボン酸基、アミン基、エポキシ基、および/またはアルデヒド基を含む、請求項7に記載の組成物。
【請求項10】
前記第1の粒子は、100μm~500μmの範囲のサイズを有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
胃腸管の組織である組織部位における出血を治療又は防止するための、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項12】
前記組成物は、ガス中で流動体化された流動体化粉末を形成し、前記組織部位に吹き付けられる、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
前記ガスはCO である、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
前記流動体化粉末はカテーテルを介して適用され、前記流動体化粉末は、15m/秒~50m/秒の範囲の速度でカテーテルを出る、請求項12又は13に記載の使用。
【請求項15】
前記組成物は、内視鏡を通して適用される、請求項11~14のいずれか一項に記載の使用。
【外国語明細書】