(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023118727
(43)【公開日】2023-08-25
(54)【発明の名称】定量噴射型エアゾール製品
(51)【国際特許分類】
B65D 83/52 20060101AFI20230818BHJP
B05B 9/04 20060101ALI20230818BHJP
【FI】
B65D83/52 100
B05B9/04
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094192
(22)【出願日】2023-06-07
(62)【分割の表示】P 2019558257の分割
【原出願日】2018-12-05
(31)【優先権主張番号】P 2017233574
(32)【優先日】2017-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000100539
【氏名又は名称】アース製薬株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】391021031
【氏名又は名称】株式会社ダイゾー
(71)【出願人】
【識別番号】000141118
【氏名又は名称】株式会社丸一
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿部 練
(72)【発明者】
【氏名】延原 健二
(72)【発明者】
【氏名】新居 慎也
(72)【発明者】
【氏名】松井 和弘
(72)【発明者】
【氏名】中村 泰祐
(57)【要約】
【課題】エアゾール製品の定量噴射バルブ内の定量室をより大きなものとし、1噴射動作で定量室内の内容物の全体が一度に外部に噴射できるようにする。
【解決手段】エアゾール原液と噴射剤から成る内容物を収容したエアゾール容器と、このエアゾール容器の一端に設けられ、内部に定量室(15)を有する定量噴射バルブ(10)と、この定量噴射バルブ(10)のバルブステム(12)に接続する噴射機構とから成るエアゾール製品であって、前記定量室(15)が少なくとも2つの小室から形成されて各小室が連通路(15t)を介して連通され、前記エアゾール原液が粉末を含有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアゾール原液と噴射剤から成る内容物を収容したエアゾール容器と、このエアゾール容器の一端に設けられ、内部に定量室を有する定量噴射バルブと、この定量噴射バルブのバルブステムに接続する噴射機構とから成るエアゾール製品であって、
前記定量室が少なくとも2つの小室から形成されて各小室が連通路を介して連通され、
前記エアゾール原液が粉末を含有する定量噴射型エアゾール製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部に定量室を有する定量噴射バルブを備えたエアゾール容器の内部にエアゾール原液と噴射剤とを収容した定量噴射型エアゾール製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、定量噴射バルブを備えるエアゾール製品は多種多様に存在しており、これらの例として下記特許文献に記載のものを挙げることができる。
【0003】
特許文献1に記載の「定量噴射バルブ装置およびそれを備えるエアゾール式噴射器」にあっては、定量室の大きさを安価に変えることができるようにすることを課題とする。
【0004】
その構成は、定量噴射バルブ装置に、金属製のバルブ装置本体を設け、その装置本体には、筒状で中心に下向きに突出するステム収納部を形成し、ステム収納部内には、ステムの下端部を収納する。そして、ステム収納部の底部に中心孔を形成し、その下部を定量タンク内に圧入する。これにより、バルブ装置本体に定量タンクが取り付けられ、定量室が区画される。これにより1噴射操作ごとに、この定量室内の内容物をステム内を通して噴射することができる。1噴射操作ごとの噴射量を変更したいときには、定量タンクを別の形状のものと取り換えて定量室の大きさを変えることができる。
【0005】
特許文献2に記載の「定量噴射バルブ機構および、この定量噴射バルブ機構を備えたエアゾール式製品」にあっては、既存のバルブ機構の構成要素をそのまま利用しながら、当該定量噴射バルブ機構の定量室容積の自由度を確保することを課題とする。
【0006】
その構成は、ハウジングの外部に上カバー体および下カバー体よりなる付加ユニットを取り付けたものからなる。ステムが下方に押圧されると、ステムの下端に接続されたステム延長用部材のシール作用面が内容物流入口を閉塞し、付加ユニットとハウジングの内部に定量室が形成される。さらにステムが押圧されると孔部(連通横孔/オリフィス)がステムラバーより下方に移動するので、ステムの内部通路域と定量室とが連通して定量室内容物が放出される。ステムの押圧を解除すると、当該連通状態が解除されて、内容物流入口が開放されるので、容器本体の内容物が内容物流入口より定量室空間域に流入することができる。
【0007】
従来使用されている定量噴射型エアゾール製品は、噴射量が0.1~0.4mL程度であって、使用時の使用実感が十分ではなく、使用者が過剰に噴射してしまうという問題があった。そこで相当量の噴射量により使用実感が十分に得られ、また過剰噴射を防止できる定量噴射型エアゾール製品が求められている。或いは、前記エアゾール製品にあっては、その内容物の種類により、所定量の噴射量、例えば、1.0mL以上の噴射量を1回で噴射することが求められているものもある。
【0008】
この課題を解決するために、本出願人は、先に定量室の内容量を大きくしたエアゾール定量バルブを提案している(特許文献3)。
【0009】
この特許文献3に記載の発明は、エアゾール容器の上端マウンティングカップの略中央部に設けられたエアゾールバルブであって、ハウジングと、前記ハウジング内に上端部から嵌入するバルブステムと、前記ハウジングの下端部に設けられた容器内の内容物を吸い上げるチューブと、前記ハウジング内に設けられた定量室と、前記バルブステムを常に上方に付勢する付勢部材とからなり、不使用時に定量室内に貯留している内容物が、前記バルブステムを押下することにより、内容物の流通路が閉鎖されて一定量の内容物が噴射されるエアゾール定量バルブにおいて、前記定量室が前記付勢部材の下方に配置され、前記ハウジングの外径よりも大きい外径を有する略円筒形状に形成され、且つ、前記定量室が内側の内側定量室とその外側の外側定量室とからなり、これら内側定量室と外側定量室が当該定量室の天部から下方に垂下する環状仕切壁によって仕切られ、当該環状仕切壁の下端部で両内側定量室と外側定量室とが連通していることを特徴とする。
上記のように、定量室を内側定量室と外側定量室の2室に形成することによりその全体の内容積を大きくすることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】日本国特開2002-264978号公報
【特許文献2】日本国特開2008-207873号公報
【特許文献3】日本国特開2018-034805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献3に記載の発明においては、エアゾール定量噴射バルブにおいて、エアゾール容器内の内容物が前記定量室内に流入し且つ排出する通路が前記内側定量室の上端部(バルブステム側)に形成されている。
上記の通り、定量室を内側と外側の2室に構成したことにより、当該定量室内への内容物の流入及び排出のための通路は、内側定量室の上端部に設けられることとなる。
【0012】
特許文献3に記載の発明においては、上記構成により定量室の内容積を極めて大きくすることができたが、この先願発明においては、一つの現象が課題として持ち上がってきた。
即ち、バルブステムに連結する噴射機構(例えば、押下ボタン)を押下する1回の噴射動作により、一定量の多くの内容物を噴射することができるものの、その噴射状態において、一時的に噴射が停止してしまう、一時的に噴射が途切れてしまう、という現象(以下、この噴射の一時停止を以下、「噴射不良」とも呼称する。)が発生する場合がある。すなわち、押下ボタンを最下端まで押下した状態のままで、通常は、定量室内の全ての内容物が外部に噴射又は噴霧されることとなるが、この噴射状態が一時的に停止又は途切れてしまう現象が発生する場合が見られた。
【0013】
その際には、使用者がエアゾール製品全体を振ったり、揺り動かしたりすることにより噴射は再開するが、使用者が中断状態又は中止状態を全量が噴射したものと勘違いする可能性があり、その場合、所期の噴射量の噴射がなされたことにはならない。
従って、一定の所定量を噴射するよう設計されている製品にあっては、上記のような噴射不良は問題となる。
【0014】
そこで、本発明は、エアゾール定量噴射バルブの定量室の内容量を大きくして0.8mL以上の噴射量を1回で噴射するとともに、噴射不良を低減することを課題とする。
また、定量室内の内容物が全て効率よく、バルブステムの吐出口から吐出できるようにすることも本発明の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、エアゾール製品内の内容物に粉末を混合することにより、この噴射の噴射不良が減少することを見出し、本発明に至った。
【0016】
すなわち、本発明の第1のものは、エアゾール原液と噴射剤から成る内容物を収容したエアゾール容器と、このエアゾール容器の一端に設けられ、内部に定量室を有する定量噴射バルブと、この定量噴射バルブのバルブステムに接続する噴射機構とから成るエアゾール製品であって、前記定量室が少なくとも2つの小室から形成されて各小室が連通路を介して連通され、前記エアゾール原液が粉末を含有する定量噴射型エアゾール製品である。
【0017】
本発明の第2のものは、上記第1の発明において、前記定量室の内容積が0.8mL以上である定量噴射型エアゾール製品である。
【0018】
本発明の第3のものは、上記第1又は第2の発明において、前記粉末が、無水ケイ酸及びシクロデキストリンからなる群から選択される少なくとも1つの粉末である定量噴射型エアゾール製品である。
【0019】
本発明の第4のものは、上記第1~第3の何れか1つの発明において、前記粉末の含有量が、前記エアゾール原液中0.5w/v%(質量/容量%)以下である定量噴射型エアゾール製品である。
【0020】
本発明の第5のものは、上記第1~第4の何れか1つの発明において、前記定量室の少なくとも2つの小室が前記定量噴射バルブの軸方向の一端側と他端側に配置され、その他端側に位置する小室がさらに内側と外側の2つの区画室に区分されて連通している定量噴射型エアゾール製品である。
【0021】
本発明の第6のものは、上記第5の発明において、前記定量室の、前記定量噴射バルブの軸方向の一端側に位置する小室の壁面部に内容液の充填用バルブを設けた定量噴射型エアゾール製品である。
【発明の効果】
【0022】
本発明の第1のものにおいては、定量噴射型エアゾール製品において、定量噴射バルブ内の定量室が少なくとも2つの小室から形成されており、その位置関係により、例えば、一方の小室をより大きく設計することができ、当該定量室の内容積をより大きく設計することが可能となる。
そして、定量室から噴射機構の噴口へと一定量の内容物が噴射される際、上記した通り、1回の噴射動作において一時的に噴射が停止してしまう噴射不良が発生することがあるが、本発明においては、エアゾール容器内に収容したエアゾール原液に粉末を含有させるので、この噴射不良を防止できる。
【0023】
本発明の第2のものにおいては、前記定量室の内容積について限定したものである。
即ち、当該内容積(定量室の小室の内容積の合計)を0.8mL以上に限定した。
本発明においては、当該定量室の内容積を極めて大きく設定することができ、例えば、内容積を0.8mL乃至10.0mL程度の大型のものとすることが可能で、容器のサイズに応じて大きく設定することが可能となる。
【0024】
本発明の第3のものにおいては、エアゾール原液中の粉末を限定したものであり、即ち、その粉末は無水ケイ酸及びシクロデキストリンからなる群から選択される少なくとも1つの粉末が最適なものとなる。
【0025】
本発明の第4のものにおいては、上記粉末の含有量を特定したもので、当該含有量をエアゾール原液中0.5w/v%以下とした。
【0026】
本発明の第5のものにおいては、前記定量室の少なくとも2つの小室が定量噴射バルブの軸方向の一端側と他端側に配置され、その他端側に位置する小室がさらに内側と外側の2つの区画室に区分されて連通していることを特定したものである。なお、一端側とは定量噴射バルブがエアゾール製品に備えられた際に噴射機構側に位置する側であり、他端側はその反対側である。
この発明においては、定量室の構成をより特定したものであり、他端側に位置する小室を内側と外側の2つの区画室に区分することにより、定量室をより大型に形成することができることとなる。
【0027】
本発明の第6のものにおいては、前記定量噴射バルブの定量室の定量噴射バルブの一端側に位置する小室の壁面部に内容液の充填用バルブを設けたことを限定したものであり、上記エアゾール容器に内容物を充填するための充填用バルブを付加したものを権利範囲に含めたものである。
定量室内の密封性を低くすることにより、噴射不良の発生割合を減らすことができる。
【0028】
以上の構成から成る本発明においては、その定量室の内容積をより大きなものとし、問題となっていた噴射不良を排除することができた。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】
図1は、本発明の定量噴射型エアゾール製品に用いられる定量噴射バルブの第1実施形態に係る中央縦断面図であって、非作動時及び保管時の状態を示している。
【
図2】
図2は、上記第1実施形態に係る定量噴射バルブの作動時の状態を示す中央縦断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の第2実施形態に係る定量噴射バルブの中央縦断面図であって、非作動時及び保管時の状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、添付の図面と共に本発明の実施形態について説明する。
なお、本明細書において、エアゾール製品の軸方向に対して、噴射機構が設けられる側を「一端側」といい、「上方」という場合があり、その反対側を「他端側」といい、「下方」という場合がある。なお、「上」、「下」等の方向は、特段の記載がない限り、図面に示す方向とする。
【0031】
(第1実施形態)
本発明の定量噴射型エアゾール製品(以下、単に「本発明のエアゾール製品」とも称する。)は、エアゾール原液と噴射剤から成る内容物を収容した、一端に開口部を有するエアゾール容器と、このエアゾール容器の一端に設けられ、内部に定量室を有する定量噴射バルブと、この定量噴射バルブのバルブステムに接続する噴射機構とから成る。
【0032】
図1は、本発明のエアゾール製品に用いられる定量噴射バルブの一実施形態に係る中央縦断面図であって、非作動時及び保管時の状態を示している。
図2は、上記実施形態に係る作動時の状態を示す中央縦断面図である。
【0033】
これらの図では、エアゾール容器全体の図示は省略しており、定量噴射バルブ10と、この定量噴射バルブ10が配設されるマウンティングカップ20の部分を図示したものである。マウンティングカップ20は環状の周縁部を備え、その略中央部に貫通孔を有している。定量噴射バルブ10はマウンティングカップ20の貫通孔からバルブステム12を突出させた状態で、マウンティングカップ20に配設される。内容物が充填されたエアゾール容器(不図示)の開口部にマウンティングカップ20の周縁部が加締め止め等により固定され、外方に突出したバルブステム12に噴射機構(不図示)を外嵌してエアゾール製品を得る。噴射機構を外方から押し下げることによりバルブステム12が押し下げられ、定量噴射バルブ10の吐出弁が開き、ガス圧でエアゾール製品内の内容物がバルブステム12の上端開口から吐出される。
【0034】
定量噴射バルブ10は、ハウジング11と、ハウジング11の上端部から嵌入するバルブステム12と、バルブステム12を常に上方に付勢する付勢部材としてのコイルスプリング13と、このコイルスプリング13の下方に配置された定量室15と、ハウジング11の下端部16に接続するディップチューブ17と、前記コイルスプリング13の下端に当接したシールド部材18とを備える。
【0035】
ディップチューブ17からハウジング11内、そしてバルブステム12の上端開口部12k迄はエアゾール容器内の内容物が流通する流通路が形成されており、
図1の非作動状態においては、この流通路は、バルブステム12の上方に設けられたオリフィス12hがステムラバー19の存在により封止された状態となっている。
【0036】
即ち、この
図1の非作動状態においては、バルブステム12の下端の弁棒部12vが最上位置に位置しており、この弁棒部12vと相互に作用して流通路を封止するシールド部材18の上下方向の貫通孔の内周壁に設けられた環状弁部18vとの間に隙間が形成されてエアゾール容器内の内容物が定量室15内及び流通路内に入り込み、貯留し、充満した状態となっている。
【0037】
より詳細には、バルブステム12の構成は、上下に長い棒状のものから成り、その略中央部から上方に向ってその軸芯部に流通路としての孔部12tが形成され、この孔部12tの略中央部やや下方にオリフィス12hが穿孔されており、その下方外周面には環状鍔部12fが設けられている。この環状鍔部12fとシールド部材18の上端面との間に付勢部材としてのコイルスプリング13が介在され装備されている。
【0038】
従って、このバルブステム12は常に上方に付勢されており、
図1の非作動状態においては、バルブステム12のオリフィス12hは、ステムラバー19の存在により、その流通路が遮断され封止された状態となっている。
【0039】
尚、上記定量噴射バルブ10のハウジング11は、その上端縁部がマウンティングカップ20の略中央部によって加締められ挟持され固定されている。
従って、このハウジング11の上端内周縁部とマウンティングカップ20との間で上記ステムラバー19が保持され、バルブステム12のオリフィス12hとの封止、開放作用を行い、エアゾール容器内の内容物の流通を阻止し且つ開放することができる。
【0040】
次に本発明に係る特徴部分の一つである定量室15について詳説する。
上記エアゾール容器に装備された定量噴射バルブ10のハウジング11の下方部分に定量室15は設けられている。
この定量室15は、ハウジング11の下方部分で、その軸芯部に形成されている下方流通路11tの外周に設けられている。
【0041】
つまり、上記ハウジング11の下方部分の上記下方流通路11tの周壁11wの外側に設けられている。
そして、その定量室15内への内容物の流入及び排出を行う通路15tは、定量室15の天部15sの前記下方流通路11tの周壁11wの側に形成されている。
【0042】
更に、この定量室15は2つの小室から形成されており、第1実施形態では、定量室15は内側の内側定量室15iと外側の外側定量室15jとから形成されている。
即ち、この定量室15は、その天部15sから下方に垂下する環状仕切壁15kによって内側定量室15iと外側定量室15jとに区画される。
従って、上記の定量室15内への内容物の流入及び排出を行う通路15tは、上記内側定量室15iの上端部(天部)に形成されることとなる。
【0043】
上記環状仕切壁15kと定量室15の底面との間には、連通路としての間隔又は隙間が設けられており、内側定量室15iと外側定量室15jがこの連通路を介して連通している。
この間隔が設けられていないと、内側定量室15iと外側定量室15jが連通せず、1つの定量室15を形成することができない。
このように定量室15を内側定量室15iと外側定量室15jとの二重構造とすることにより、この定量室15の内容積を適宜必要に応じて大きく形成することができる。
【0044】
次に、本発明に係る定量噴射バルブ10の作動について
図2を用いて詳説する。
図2は、上記
図1の非作動状態においてバルブステム12を矢印Dの方向に押下した状態を示し、定量室15内の内容物がバルブステム12の上端開口部12kから吐出される。
【0045】
詳細には、バルブステム12が矢印Dの方向に押下されると、コイルスプリング13が収縮し、バルブステム12の下方部分の弁棒部12vがシールド部材18の貫通孔の内周壁に設けられた環状弁部18vと係合して流通路が閉鎖され封止される。
【0046】
同時に、バルブステム12のオリフィス12hがハウジング11内の上方流通路11rと連通し、内側定量室15i及び外側定量室15jの内部に貯留した内容物が定量室15の天部15sに設けられた通路15tを通過してハウジング11内の上方流通路11rを流通し、バルブステム12のオリフィス12hを通過し、バルブステム12の上方の軸芯部の流通路としての孔部12tを通過してバルブステム12の上端開口部12kから吐出されることとなる。
【0047】
上記1回の押下動作により、定量室15内及びハウジング11の上方流通路11r内の内容物が排出、吐出され、この定量室15の内容積を適宜設計することにより、適宜必要な一定のより大量の内容物を吐出することができる。
【0048】
本発明において、定量室15の内容積(定量室15の小室の内容積の合計)は0.8mL以上であることが好ましい。内容積が0.8mL以上であると、使用実感が十分に得られ、過剰使用を防止できる。内容積は、0.8~10.0mLの間で適宜設定することができる。
【0049】
ここで、このような定量室15の構成を採用したのは、上記した通り、適宜大きさの内容積を確保するためばかりではなく、このような定量室の二重構造により、その内部に貯留される内容物の液相及び気相の状態を適切なものとすることができ、これによって前記気相の圧力により定量室内の内容物をより完全に近いかたちで外部に吐出することができるからである。
【0050】
(第2実施形態)
図3は、本発明の第2実施形態に係るエアゾール製品の定量噴射バルブの中央縦断面図であって、非作動状態及び保管時の状態を示している。
この
図3に図示した定量噴射バルブ30は、上記第1実施形態と基本的な構造は同じであり、充填用バルブ33が設けられている点のみが異なっている。
【0051】
この充填用バルブ33は、エアゾール容器内へ内容物を充填する際に使用するもので、バルブステム12を押下しつつ、エアゾール容器内へ内容物を充填する際に使用する。
この充填用バルブ33は、柔軟な素材から成る環状ベルト33bと、横穴33hとから成り、強制的に内容物を充填することにより、上記環状ベルト33bと横穴33hとの封止が解除され、エアゾール容器内に内容物が充填される構造である。
その他の構成は、上記第1の実施形態と同じであるため、説明は省略する。
【0052】
本発明において、定量噴射バルブの形状、サイズ及び材質等は適宜最も相応しいものを選択して利用することができる。
【0053】
例えば、第1実施形態及び第2実施形態において、バルブステム12の下方部の弁棒部12vとシールド部材18との封止に関しては、バルブステム12が押下されることにより流通路が封止できればよく、シールド部材18を別体に形成せずにハウジング11の流通路の内部に環状弁部を設けて実施することもできる。
【0054】
また、ハウジングの作製に関しても、上記実施形態においては、下方部材と上方部材とを合体させるようにして作製しているが、これに関しても自由に設計し、組み付けすることができる。
【0055】
以上により本発明に係るエアゾール製品のエアゾール容器の構造・構成について説明したが、以下その内容物について説明する。
【0056】
本発明者らの検討により、定量噴射型エアゾール製品の噴射不良について、その原因は不明であるが、内容物、とりわけ噴射剤の突沸現象が関与しているのではないかと推測される。本発明においては、エアゾール原液中に無水ケイ酸やシクロデキストリンのような粉末を混入させることによって、上記噴射不良を改善させることができた。
【0057】
本発明のエアゾール製品の内容物は、エアゾール原液と噴射剤とから成る。エアゾール原液は、溶剤、粉末、有効成分等を含有する。
【0058】
<溶剤>
エアゾール原液に用いられる溶剤としては、有機溶剤、水等が挙げられる。有機溶剤としては、例えば、高級脂肪酸エステル、及びアルコール類、もしくは炭化水素系溶剤、炭素数3~6のグリコールエーテル類、及びケトン系溶剤等を挙げることができる。高級脂肪酸エステルとしては、炭素数の総数が16~20のものが好ましく、例えば、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸ブチル、ラウリン酸ヘキシル、パルミチン酸イソプロピル等が挙げられる。これらのうち、ミリスチン酸イソプロピルが特に好適である。アルコール類としては、エタノール、イソプロパノール等の炭素数が2~3の低級アルコールが好ましい。炭化水素系溶剤としては、n-パラフィン、及びイソパラフィンが好ましい。水としては、例えば、水道水、イオン交換水、純水、精製水等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
<粉末>
粉末は、従来公知のものが使用でき、その材質、形状、粒子径、粒子構造等は適宜選択できる。例えば、無機粉末、有機粉末、顔料等を挙げることができる。
無機粉末としては、例えば、無水ケイ酸(シリカ)、酸化チタン、炭酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、酸化チタン、ゼオライト、タルク、カオリン、雲母、セリサイト、炭酸マグネシウム、硫酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト、セラミックパウダー、チッ化ホウ素、二硫化モリブデン等が挙げられる。有機粉末としては、例えば、シクロデキストリン、ポリアミド樹脂粉末、ポリエチレン粉末、ポリスチレン粉末、ポリメタクリル酸メチル粉末、セルロース粉末、シリコーン樹脂粉末、クロルヒドロキシアルミニウム、トルナフテート、リドカイン、グルコン酸クロロヘキシジン等が挙げられる。顔料としては、例えば、二酸化チタン、酸化鉄、黄酸化鉄、カーボンブラック、群青、アルミニウムパウダー、カッパーパウダー等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、定量噴射エアゾールの噴射不良を改善させる点から、無水ケイ酸及びシクロデキストリンからなる群から選択される少なくとも1つの粉末を用いることが好ましい。
【0060】
粉末の形状は、特に限定されないが、例えば、球状、棒状、板状、針状、不定形状、鱗片状、紡錘状等が挙げられる。これらの中でも、定量噴射バルブや噴射機構内における詰まりを防止する観点から球状の粉末が好ましい。
【0061】
粉末の粒子径は、平均粒子径として0.1~20μmであることが好ましく、1~10μmがより好ましく、2~5μmが更に好ましい。粉末の平均粒子径が前記範囲であると、内容物を霧状等の所望の形態で噴射することができ、噴射パターンを乱すことがない。
【0062】
粉末の比表面積は、100~1000m2/gであることが好ましく、100~800m2/gがより好ましく、200~800m2/gが更に好ましい。粉末の比表面積が前記範囲であると、噴射不良が改善しやすい。
【0063】
また、粉末は多孔質、無孔質、中空のいずれであってもよい。
【0064】
粉末の含有量は、エアゾール原液中0.001~5w/v%であることが好ましく、0.005~1w/v%がより好ましく、0.01~0.5w/v%が更に好ましく、0.05~0.5w/v%が特に好ましい。粉末を0.001w/v%以上含有することにより本発明の効果を得られやすく、また5w/v%以下であると噴射不良が改善しやすい。
【0065】
<有効成分>
有効成分は、所望の効果を付与するために含有される成分である。
有効成分としては、例えば、
ピレトリン、アレスリン、フタルスリン、レスメトリン、フラメトリン、フェノトリン、ペルメトリン、エムペントリン、プラレトリン、シフェノトリン、イミプロトリン、トランスフルトリン、メトフルトリン、モンフルオロトリン等のピレスロイド系化合物、フェニトロチオン、ジクロルボス、クロルピリホスメチル、ダイアジノン、フェンチオン等の有機リン系化合物、カルバリル、プロポクスル等のカーバメイト系化合物、ハッカ油、オレンジ油、ウイキョウ油、ケイヒ油、チョウジ油、テレビン油、ユーカリ油、ヒバ油、ジャスミンオイル、ネロリオイル、ペパーミントオイル、ベルガモットオイル、ブチグレンオイル、レモンオイル、レモングラスオイル、シナモンオイル、シトロネラオイル、ゼラニウムオイル、シトラール、l-メントール、酢酸シトロネリル、シンナミックアルデヒド、テルピネオール、ノニルアルコール、cis-ジャスモン、リモネン、リナロール、1,8-シネオール、ゲラニオール、α-ピネン、p-メンタン-3,8-ジオール、オイゲノール、酢酸メンチル、チモール、安息香酸ベンジル、サリチル酸ベンジル等の各種殺虫性の精油成分、その他メトプレン、ピリプロキシフェン、メトキサジアゾン、フィプロニル、アミドフルメト等の殺虫剤、
p-メンタン-3,8-ジオール、ディート、ジ-n-ブチルサクシネート、ヒドロキシアニソール、IR3535、イカリジン等の害虫忌避剤忌避剤、
トリクロサン等のフェノール系殺菌剤、トリクロロカルバニリド等のカーバニリド系殺菌剤、ジンクピリチオン等のピリジン系殺菌剤、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンザルコニウム等のカチオン系殺菌剤、トリアルキルトリアミン等のアミン系殺菌剤等の殺菌剤、
ハッカ油、ペパーミント油、スペアミント油、イグサ、ヒノキ、シトロネラ、シトラール、シトロネラール、レモン、レモングラス、オレンジ、ユーカリ、ラベンダー等の精油成分からなる天然香料、ゲラニオール、シトロネラール、オイゲノール、ウンデカラクトン、リモネン、フェネチルアルコール等の人工香料、これら天然香料及び人工香料を調整して得られる調合香料等の芳香剤、
柿抽出物、緑茶抽出物、グレープフルーツ抽出物、グレープフルーツ種子抽出物、ユズ抽出物、モウソウチク抽出物、モウソウチク乾留物、ユズ種子抽出物、オレンジ抽出物、ルイボス茶抽出物、ユッカ抽出物、オリーブ葉エキス末、キトサン、ウーロン茶抽出物、ブドウ種子エキス、ムルレイヤエキス、シソオイル、チャ乾留物、甘草油性抽出物、シソの実エキス、からし抽出物、ブロッコリーパウダー、ショウガ抽出物、エゴノキ抽出物、カワラヨモギ抽出物、ホオノキ抽出物、レンギョウ抽出物、モミガラ抽出物、ペッパー抽出物、柑橘種子抽出物、生大豆抽出物、ピメンタ抽出物、果実抽出物、果実種子抽出物等の各種植物抽出物等の消臭剤
等が挙げられる。
【0066】
有効成分の含有量は所望の効果を得られる限り特に限定されないが、例えば、エアゾール原液中に0.01~99.9w/v%であることが好ましく、0.1~90w/v%がより好ましく、0.5~70w/v%が更に好ましい。
【0067】
エアゾール原液は、上記した成分のうち粉末以外の液体成分を混合し、粉末を分散させて得られる。
【0068】
<噴射剤>
本発明のエアゾール製品で用いる噴射剤としては、液化石油ガス(LPG)、ジメチルエーテル(DME)、トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロパ-1-エン、トランス-2,3,3,3-テトラフルオロプロパ-1-エン等のハイドロフルオロオレフィン、窒素ガス、炭酸ガス、亜酸化窒素、圧縮空気等が挙げられる。上記の噴射剤は、単独又は混合状態で使用することができるが、LPGもしくはDMEを主成分としたものが使い易いため好ましい。
【0069】
エアゾール製品における、エアゾール原液と噴射剤との配合比は、所望の噴射形態(噴霧粒子の大きさ、噴射パターン、噴射圧、噴霧量等)に応じて適宜決定すればよい。
【0070】
以上、本発明に関する実施形態について説明したが、本発明においては種々設計変更することができる。
【実施例0071】
以下、本発明に係るエアゾール製品の内容物に様々な粉末を混入させ、当該エアゾール製品の噴射状態に関する評価試験結果について説明する。
【0072】
A.低温におけるベース処方での様々な粉末における評価試験
<方法>
(1)5℃条件下で一晩検体(エアゾール製品)を正立保管した。
(2)検体を取り出し、直後に噴射を行い、噴射状態の確認を行った。
(3)その後1日以上の間隔を開け、同様の試験を計5回行った。
(4)振らないと定量の全量噴射ができない噴射不良の割合を算出した。
【0073】
検体に関しては、下記表1乃至表3にその処方を示している。
エアゾール製品の有効成分としては、ハエ・カ・ゴキブリ等の殺虫成分であるトランスフルトリンを使用した。
試験する粉末の種類は、試験結果の表中に示している。
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
エアゾール容器に関しては、下記通りである。
(a)バルブ:1mL定量噴射バルブ(上記第1実施形態)/充填用バルブ付き1mL定量噴射バルブ(上記第2実施形態)
(b)噴射機構:噴口径φ2.0mm押下ボタン
(c)エアゾール缶:AE220ブリキ缶(満注容量 289mL)
【0078】
評価試験結果は以下の通りである。
【0079】
【0080】
検体1、2は、充填用バルブ付き1mL定量噴射バルブを備えたエアゾール容器(上記第2実施形態)を用い、エアゾール原液に無水ケイ酸を混合した場合の試験結果である。
表4からわかる通り、検体3(粉末なし)の場合には、その噴射時の80%が噴射不良を発生していたが、検体1、2では噴射不良が見られなかった。
【0081】
【0082】
検体4~7は、他の無水ケイ酸での試験結果である。
表5の結果から、検体4~7はいずれも、検体3(粉末なし)に比べて噴射不良を低減することができ、特に検体4、6では噴射不良が見られなかった。
【0083】
【0084】
検体8~11は、同様に無水ケイ酸以外の粉末での試験結果である。
表6の結果から、検体8~11はいずれも、検体3(粉末なし)に比べて噴射不良を低減することができ、特に検体8で噴射不良は見られなかった。
【0085】
【0086】
検体12~15は、無水ケイ酸に関して、充填用バルブの装備の有無での試験結果であり、換言すれば、上記第1実施形態(装備なし、1mL定量噴射バルブ)と上記第2実施形態(装備あり、充填用バルブ付き1mL定量噴射バルブ)に係る定量噴射バルブを備えた検体での試験結果を示している。
表7からわかる通り、検体12~15はいずれも、粉末を含有しない検体16、17に比べて噴射不良を低減することができ、また、検体16、17はいずれの定量噴射バルブにおいても噴射不良の割合は同じであったが、粉末を含有する場合は充填用バルブ付き定量噴射バルブを備える検体13、15の方が、噴射不良を発生する割合が少なかった。
【0087】
B.他の様々な処方における評価試験
<方法>
(1)各温度条件下で一晩検体(エアゾール製品)を正立保管した。
(2)検体を取り出し、直後に噴射を行い、噴射状態の確認を行った。
(3)その後1日以上の間隔を開け、各検体を2~5本ずつ、同様の試験を5回行った。
(4)振らないと噴射ができない噴射不良の割合を算出した。
【0088】
検体に関しては、下記表8乃至表10にその処方を示している。
【0089】
【0090】
【0091】
【0092】
エアゾール容器に関しては、下記通りである。
(a)バルブ:1mL定量噴射バルブ(上記第1実施形態)
(b)噴射機構:噴口径φ2.0mm押下ボタン
(c)エアゾール缶:AE220ブリキ缶(満注容量 289mL)
【0093】
評価試験結果は以下の通りである。
【0094】
【0095】
表11からわかる通り、エアゾール原液中の粉末の含有量が多くなる程、噴射不良を発生する割合は少なくなる傾向にあった。
ただし、粉末を多く入れ過ぎると、バルブの作動不良(具体的に、バルブステムの動きが悪くなること)が生じることがあったが、エアゾール原液中の粉末量が処方1、2では0.5w/v%以下で、処方3では0.05w/v%以下でほとんど見られなかった。そのため、処方にもよるが、粉末の含有量は、バルブの作動不良を生じさせないため、エアゾール原液中0.5w/v%以下であることが特に好ましいことが判明した。
【0096】
以上、本発明においては、エアゾール製品の定量噴射バルブ内の定量室をより大きなものとすることができ、また、それによる噴射不良を無くすために、内容物内にパウダーを混入させることにより前記噴射不良を排除させることができ、その定量室内の内容物をより完全に吐出させることのできる定量噴射型エアゾール製品を提供することができた。
【0097】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は、2017年12月5日出願の日本特許出願(特願2017-233574)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。