(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023011874
(43)【公開日】2023-01-24
(54)【発明の名称】Cyclic-di-AMPナトリウム塩結晶
(51)【国際特許分類】
C07H 21/02 20060101AFI20230117BHJP
C07H 1/06 20060101ALI20230117BHJP
【FI】
C07H21/02
C07H1/06 CSP
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022177835
(22)【出願日】2022-11-07
(62)【分割の表示】P 2020554017の分割
【原出願日】2019-10-31
(31)【優先権主張番号】P 2018206292
(32)【優先日】2018-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006770
【氏名又は名称】ヤマサ醤油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼松 美沙樹
(72)【発明者】
【氏名】▲吉▼田 晃
(72)【発明者】
【氏名】松永 万里恵
(72)【発明者】
【氏名】石毛 和也
(57)【要約】 (修正有)
【課題】簡便かつ大量に取得でき、かつ、105℃の過酷条件下における安定性に優れたCyclic-di-AMP結晶を提供することを課題とする。
【解決手段】Cyclic-di-AMP水溶液のpHを5.2~12.0に調整し、有機溶媒を添加し、析出する結晶を取得する工程からなる、Cyclic-di-AMPナトリウム塩結晶の製造法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cyclic-di-AMPナトリウム塩結晶。
【請求項2】
Cu-Kα線を用いた粉末X線回折の回折角(2θ)として、10.9±0.5、23.9±1.2(°)に特徴的なピークを有することを特徴とする、Cyclic-di-AMPナトリウム塩結晶α。
【請求項3】
Cu-Kα線を用いた粉末X線回折の回折角(2θ)として、9.3±0.5、23.6±1.2、24.3±1.2(°)に特徴的なピークを有することを特徴とする、Cyclic-di-AMPナトリウム塩結晶β。
【請求項4】
Cyclic-di-AMP水溶液のpHを5.2~12.0に調整し、有機溶媒を添加し、析出する結晶を取得する工程からなる、請求項1から3のいずれか一項に記載のCyclic-di-AMPナトリウム塩結晶の製造法。
【請求項5】
(1)c-di-AMP水溶液に塩基及び/又は酸を添加し、pHを5.2~12.0に調整する工程、
(2)c-di-AMP水溶液を測定波長257nmにおける吸光度OD257を500~20000とする工程、
(3)c-di-AMP水溶液を30~70℃まで加熱する工程、
(4)c-di-AMP水溶液に有機溶媒を添加する工程、
(5)c-di-AMP水溶液を1~30℃になるまで冷却する工程
を含むことを特徴とする、請求項3に記載のCyclic-di-AMPナトリウム塩結晶の製造法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアジュバントとして有用な物質になりうると考えられるCyclic-di-AMPのナトリウム塩結晶に関するものである。
【背景技術】
【0002】
Cyclic-di-AMP(以下「c-di-AMP」と表記)は細菌のセカンドメッセンジャーとして発見された物質である。近年になって本物質は1型インターフェロンを誘発しうることが報告されるなど医薬品としての利用が期待される(非特許文献1)。これまでにc-di-AMPの製造方法としては、化学合成法(非特許文献2、3)およびBacillus属やStreptococcus属などに由来するジアデニレートシクラーゼを用いた酵素合成法が知られている(非特許文献4、5)。
現在一般的に販売されているc-di-AMPは凍結乾燥品であり、また結晶の取得については特許文献1に示す遊離酸結晶についてのみ報告がなされている(特許文献1)。一部には結晶性固体("crystalline solid")として販売されているものも存在するが、不定形で、かつ、押し潰した際には劈開せずに展延するため、市販の結晶性固体は結晶とは言えなかった(
図1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Science, 328, 1703-1705(2010)
【非特許文献2】SYNTHESIS, 24, 4230-4236(2006)
【非特許文献3】Nucleosides Nucleotides Nucleic Acids, 32, 1-16(2013)
【非特許文献4】Molecular Cell, 30, 167-178(2008)
【非特許文献5】Nagoya J. Med. Sci., 73, 49-57(2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
c-di-AMPは凍結乾燥品が一般的に知られているが、凍結乾燥品はその製造過程において凍結乾燥機が必要となり、大量生産のためにスケールアップをするにも自ずと限界がある。そこで凍結乾燥機のような特別な装置を使用することなく、かつ簡便に大量に取得できる結晶取得法の開発が望まれていた。
【0006】
また、本発明者らの検討において、既存のc-di-AMP遊離酸結晶は過酷条件下、たとえば105℃条件下において、安定性が低下するという欠点が見出された。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、c-di-AMPの結晶化に関して鋭意研究を重ねた結果、c-di-AMPのナトリウム塩結晶を初めて取得し、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0008】
本発明者らの検討で、(1)c-di-AMP水溶液に塩基及び/又は酸を添加し、pHを5.2~12.0に調整する工程、(2)c-di-AMP水溶液を測定波長257nmにおける吸光度OD257を500~20000とする工程、(3)c-di-AMP水溶液を30~70℃まで加熱する工程、(4)c-di-AMP水溶液に有機溶媒を添加する工程、(5)c-di-AMP水溶液を1~30℃になるまで冷却する工程を経ることで、本発明のc-di-AMPナトリウム塩結晶を取得でき、得られたc-di-AMPナトリウム塩結晶は、105℃の過酷条件下においても極めて安定であることが明らかとなった。さらに、本発明のc-di-AMPナトリウム塩結晶は、既存のc-di-AMP遊離酸結晶と比較して、高い溶解性を示した。
【0009】
特に、結晶化のためには(1)工程のpHが重要で、pH5.2未満の酸性条件では、結晶化自体が困難であり、仮に結晶を取得できた場合でも収率が低くなることから、好ましいものではない。それに対し、pHが5.2以上の条件では、ナトリウム塩結晶のみを容易に取得することが可能である。したがって、本発明のc-di-AMPナトリウム塩結晶の製造法は、c-di-AMP塩結晶の大量製造に好適な方法である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、市販c-di-AMP結晶性固体を展延した際の外観写真を示す。
【
図2】
図2は、実施例1で得られたc-di-AMPナトリウム塩結晶αの結晶写真を示す。
【
図3】
図3は、実施例1で得られたc-di-AMPナトリウム塩結晶αのX線回折スペクトルを示す。
【
図4】
図4は、実施例1で得られたc-di-AMPナトリウム塩結晶αの赤外線吸収スペクトルを示す。
【
図5】
図5は、実施例1で得られたc-di-AMPナトリウム塩結晶αの熱重量測定/示差熱分析結果を示す。
【
図6】
図6は、実施例2で得られたc-di-AMPナトリウム塩結晶αの結晶写真を示す。
【
図7】
図7は、実施例2で得られたc-di-AMPナトリウム塩結晶αのX線回折スペクトルを示す。
【
図8】
図8は、実施例2で得られたc-di-AMPナトリウム塩結晶αの赤外線吸収スペクトルを示す。
【
図9】
図9は、実施例2で得られたc-di-AMPナトリウム塩結晶αの熱重量測定/示差熱分析結果を示す。
【
図10】
図10は、実施例4で得られたc-di-AMPナトリウム塩結晶βの結晶写真を示す。
【
図11】
図11は、実施例4で得られたc-di-AMPナトリウム塩結晶βのX線回折スペクトルを示す。
【
図12】
図12は、実施例4で得られたc-di-AMPナトリウム塩結晶βの赤外線吸収スペクトルを示す。
【
図13】
図13は、実施例4で得られたc-di-AMPナトリウム塩結晶βの熱重量測定/示差熱分析結果を示す。
【
図14】
図14は、c-di-AMP遊離酸結晶の結晶写真を示す。
【
図15】
図15は、c-di-AMP遊離酸結晶のX線回折スペクトルを示す。
【
図16】
図16は、c-di-AMP遊離酸結晶の赤外線吸収スペクトルを示す。
【
図17】
図17は、c-di-AMP遊離酸結晶の熱重量測定/示差熱分析結果を示す。
【
図18】
図18は、参考例で得られたc-di-AMP遊離酸結晶、実施例1及び実施例2で得られたナトリウム塩結晶α、及び実施例4で得られたナトリウム塩結晶βの過酷条件(105℃)下での安定性試験結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、下記の構造式で示されるc-di-AMPのナトリウム塩結晶を提供するものである。下記構造式中のXは、水素原子(H)又はナトリウム原子(Na)のいずれかであり、式中にある2つのXのうち少なくとも一方はナトリウム原子である。
【0012】
【0013】
本発明のc-di-AMPのナトリウム塩結晶は、調製時のc-di-AMP水溶液のpHに応じて、2つの形態を取り得る。以下においては、調製時のpHが6.0~12.0の範囲であるc-di-AMP結晶を結晶α、調製時のpHが5.2~6.0の範囲であるものを結晶βと定義する。
【0014】
本発明のc-di-AMPナトリウム塩結晶αは、原子吸光光度法で分析すると、ナトリウム含量が6.2~6.8%の範囲内となる。このことから、結晶αにおいて、c-di-AMP1分子に対するナトリウム原子の存在量比は2であることが分かる。
【0015】
本発明のc-di-AMPナトリウム塩結晶αは、柱状結晶として得られる(
図2および
図6参照)。
【0016】
また、本発明のナトリウム塩結晶αをCu-Kα線を用いた粉末X線回折装置で分析すると、後述実施例に示すように、回折角(2θ)が、10.9、23.9(°)付近に特徴的なピークを示す(
図3および
図7参照)。
【0017】
なお一般に、粉末X線回折における回折角(2θ)は、5%未満の誤差範囲を含む場合があることから、粉末X線回折におけるピークの回折角が完全に一致する結晶のほか、ピークの回折角が5%未満の誤差で一致する結晶も、本発明のナトリウム塩結晶αに包含される。例えば、粉末X線回折において、回折角(2θ)は、10.9±0.5、23.9±1.2(°)に特徴的なピークを有する。
【0018】
本発明のナトリウム塩結晶αは、赤外線吸収スペクトルを測定したとき、3118、1604、1221、1074(cm
-1)付近に特徴的なピークを有する(
図4および
図8参照)。
【0019】
なお、赤外線吸収スペクトル測定では、一般に2(cm-1)未満の誤差範囲を含む場合があることから、上記数値と赤外線吸収スペクトルにおけるピークの位置が完全に一致する結晶のほか、ピークが2cm-1未満の誤差で一致する結晶も、本発明のナトリウム塩結晶αに包含される。例えば、赤外線吸収スペクトルを測定したとき、3118±1.9、1604±1.9、1221±1.9、1074±1.9(cm-1)に特徴的なピークを有する。
【0020】
本発明のナトリウム塩結晶αは、熱重量測定/示差熱分析(TG/DTA)装置(昇温速度5℃/分)で分析したとき、255℃付近に吸熱ピークを有する(
図5および
図9参照)。
【0021】
本発明のc-di-AMPナトリウム塩結晶βは、原子吸光光度法で分析すると、ナトリウム含量が4.7~5.2%の範囲内となる。このことから、結晶βにおいて、c-di-AMP1分子に対するナトリウム原子の存在量比は1.5であることが分かる。
【0022】
本発明のc-di-AMPナトリウム塩結晶βは、立方体状結晶として得られる(
図10参照)。
【0023】
また、本発明のナトリウム塩結晶βをCu-Kα線を用いた粉末X線回折装置で分析すると、後述実施例に示すように、回折角(2θ)が、9.3、23.6、24.3(°)付近に特徴的なピークを示す(
図11参照)。
【0024】
なお一般に、粉末X線回折における回折角(2θ)は、5%未満の誤差範囲を含む場合があることから、粉末X線回折におけるピークの回折角が完全に一致する結晶のほか、ピークの回折角が5%未満の誤差で一致する結晶も、本発明のナトリウム塩結晶βに包含される。例えば、粉末X線回折において、回折角(2θ)は、9.3±0.5、23.6±1.2、24.3±1.2(°)に特徴的なピークを有する。
【0025】
本発明のナトリウム塩結晶βは、赤外線吸収スペクトルを測定したとき、3119、1606、1222、1074(cm
-1)付近に特徴的なピークを有する(
図12参照)。
【0026】
なお、赤外線吸収スペクトル測定では、一般に2(cm-1)未満の誤差範囲を含む場合があることから、上記数値と赤外線吸収スペクトルにおけるピークの位置が完全に一致する結晶のほか、ピークが2cm-1未満の誤差で一致する結晶も、本発明のナトリウム塩結晶βに包含される。例えば、赤外線吸収スペクトルを測定したとき、3119±1.9、1606±1.9、1222±1.9、1074±1.9(cm-1)に特徴的なピークを有する。
【0027】
本発明のナトリウム塩結晶βは、熱重量測定/示差熱分析(TG/DTA)装置(昇温速度5℃/分)で分析したとき、239℃付近に吸熱ピークを有する(
図13参照)。
【0028】
本発明のc-di-AMPナトリウム塩結晶は、高速液体クロマトグラフィー法にて純度検定したとき、97%以上、より好ましくは99%以上の純度を有する。さらに、本発明のc-di-AMPナトリウム塩結晶は、既存のc-di-AMP遊離酸結晶と比較して、高い溶解性を示す。
【0029】
次に、本発明のc-di-AMPのナトリウム塩結晶の調製法について説明すれば、結晶化に用いるc-di-AMPは、酵素合成法や化学合成法など公知の方法によって合成すればよい。合成を行うに当たっては既知の方法に従えばよく、たとえば非特許文献2~5に記載の方法を用いることができる。反応後、反応液中に生成したc-di-AMPは、活性炭や逆相クロマトグラフィーなどにより精製することができる。
【0030】
本発明のナトリウム塩結晶は、c-di-AMP水溶液をpH5.2~12.0となるよう調整し、有機溶媒を添加することにより、得ることができる。
c-di-AMP水溶液のpHが5.2~6.0である場合には、取得されるナトリウム塩結晶は結晶βとなり、pHが6.0~12.0である場合には、取得されるナトリウム塩結晶は結晶αとなる。
pHが5.2未満である場合には、高濃度のc-di-AMP水溶液を調製しようとすると水溶液中に沈殿が生じてしまい、純粋なc-di-AMPナトリウム塩結晶を取得することが困難となる。沈殿の生成を回避するため、c-di-AMP水溶液の濃度を低濃度とした場合には、c-di-AMPナトリウム塩結晶が全く取得できず、もしくは極微量しか取得できないために、効率的な結晶の製造ができない。結果として、c-di-AMP塩結晶を工業上利用可能な水準で大量かつ効率的に調製するためには、pHを5.2以上とすることが必須となる。
【0031】
上記結晶化においては、より高い収率で結晶を得るため、(1)c-di-AMP水溶液に塩基及び/又は酸を添加し、pHを5.2~12.0に調整する工程、(2)c-di-AMP水溶液を測定波長257nmにおける吸光度OD257を500~20000とする工程、(3)c-di-AMP水溶液を30~70℃まで加熱する工程、(4)c-di-AMP水溶液に有機溶媒を添加する工程、(5)c-di-AMP水溶液を1~30℃になるまで冷却する工程、を行うことが好ましい。
【0032】
上記工程(1)におけるc-di-AMP水溶液のpHは、5.2~12.0の範囲内であればc-di-AMPナトリウム塩結晶を取得することができるが、高濃度の水溶液の調製が容易であるという観点から、pHは5.4以上であることが好ましく、5.6以上であることが特に好ましい。さらに、結晶を溶解させた際に水溶液のpHが中性付近となり利便性が高いことから、c-di-AMP水溶液のpHは、好ましくはpH7.0~11.0であり、より好ましくはpH7.0~10.0であり、より好ましくはpH7.0~8.5であり、この場合には有機溶媒を添加することによって結晶αが取得される。
【0033】
上記工程(1)で使用する酸としては、塩酸、硫酸、硝酸を例示することができるが、これらに限定されない。使用する塩基としては、水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウムなどを例示することができるが、これらに限定されない。酸又は塩基を急激に添加することによるアモルファス化や急激な結晶析出を防ぐため、添加はゆっくり行うことが好ましい。
【0034】
上記工程(2)において、c-di-AMP水溶液の測定波長257nmにおける吸光度OD257は、500以上である場合には有機溶媒の添加によって結晶を取得することができるが、結晶を析出させるために必要な有機溶媒の添加量を低減できることから、1000以上であることがより好ましく、2000以上であることがより好ましく、3000以上であることがより好ましい。一方で、c-di-AMP水溶液が高濃度となる場合には、溶液の粘度が高くなり取扱い性が低下することから、c-di-AMP水溶液の測定波長257nmにおける吸光度OD257は20000以下であることが好ましく、15000以下であることがより好ましく、10000以下であることがより好ましい。
【0035】
上記工程(3)においては、c-di-AMP水溶液の温度を30~70℃まで加熱する。工程(5)での冷却時と温度差がある程結晶が析出しやすいため、工程(3)での水溶液の温度は40℃以上であることがより好ましく、50℃以上であることがより好ましい。
【0036】
本結晶取得工程に用いる、有機溶媒添加前のc-di-AMP水溶液には、結晶が析出しない範囲内で有機溶媒を含有こともできる。しかし、予期しない結晶析出を防止する観点から、有機溶媒の含有量は30%(v/v)以下であることが好ましく、20%(v/v)以下であることがより好ましく、10%(v/v)以下であることがより好ましく、5%(v/v)以下であることがより好ましく、有機溶媒を実質的に含まないことがより好ましい。
【0037】
上記工程(4)で使用する有機溶媒としては、メタノール、エタノール等の炭素数6以下のアルコール類、アセトン等のケトン類、ジオキサン等のエーテル類、アセトニトリル等のニトリル類、ジメチルホルムアミド等のアミド類等を例示することができるが、これらに限定されない。特に、入手容易性及び安全性の観点から、炭素数6以下のアルコール類が好ましく、中でもエタノールを用いることが好ましい。
【0038】
上記工程(5)においては、c-di-AMP水溶液を1~30℃になるまで冷却する。工程(3)での加熱時と温度差がある程結晶が析出しやすいため、工程(5)での水溶液の温度は20℃以下であることがより好ましく、10℃以下であることがより好ましい。
【0039】
さらに、上記(1)~(5)の工程は順に行うことが好ましいが、適宜連続する工程を同時に行うこともできる。
【0040】
上記製法によって得られたc-di-AMPナトリウム塩結晶は、濾取した後に乾燥させることで、製品とすることができる。乾燥させる際には、減圧乾燥等の方法を適宜利用することができる。
【実施例0041】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明がこれに限定されないのは明らかである。
【0042】
(実施例1)pH8.2におけるc-di-AMPナトリウム塩結晶αの製造
公知の方法により、酵素的にc-di-AMPを合成し、精製を行った。
精製して得られたOD257が4710、pH8.2のc-di-AMP溶液(102mL)を40℃に加温した。そこに撹拌しながら、142mLの99.5%(w/w)エタノールをゆっくり添加したのち、液温が4℃になるまで冷却し、結晶を析出させた。このようにして析出した結晶はバスケット分離機にて濾取し、湿結晶を得た。湿結晶は2時間、30℃で乾燥して、乾燥結晶9.8gを得た。
【0043】
(A)ナトリウム塩の形態分析
原子吸光光度法で分析したところ、本実施例のc-di-AMPナトリウム塩結晶におけるナトリウム含量は、6.4%であった。このことから、c-di-AMP1分子に対するナトリウム原子の存在量は2.0となり、本実施例のc-di-AMPナトリウム塩結晶αは、2ナトリウム塩の形態を取っていることが明らかとなった。
【0044】
(B)純度検定
上記実施例1で得られたc-di-AMPナトリウム塩結晶αの純度を、高速液体クロマトグラフィー法で分析した結果、c-di-AMP純度は100%であった。なお、高速液体クロマトグラフィー法は以下の条件で行った。
(条件)
カラム:Hydrosphere C18(YMC社製)
溶出液:0.1M TEA-P(pH6.0)+4.5% ACN
検出法:UV260nmによる検出
【0045】
(C)結晶形
本実施例におけるc-di-AMPナトリウム塩結晶αの写真を
図2に示す。
図2に示すように、c-di-AMPナトリウム塩結晶αは柱状の結晶形を示すことが明らかとなった。
【0046】
(D)粉末X線回折
本実施例のc-di-AMPナトリウム塩結晶αについて、X線回折装置X'Pert PRO MPD(スペクトリス)を用い、下記の測定条件でX線回折スペクトルを測定した。
(測定条件)
ターゲット:Cu
X線管電流:40mA
X線管電圧:45kV
走査範囲:2θ=4.0~40.0°
前処理:めのう製乳鉢を用いて粉砕
【0047】
図3および表1に示すように、本実施例のc-di-AMPナトリウム塩結晶αは、回折角(2θ)が、6.2、10.9、12.6、23.9(°)付近にピークを示し、特に10.9、23.9(°)付近に特徴的なピークを示した。
【0048】
【0049】
(E)赤外線吸収スペクトル
本実施例のc-di-AMPナトリウム塩結晶αについて、フーリエ変換赤外分光光度計Spectrum One(Perkin Elmer)を用いてATR(Attenuated Total Reflectance、減衰全反射)法によって赤外線吸収スペクトルを測定した。
【0050】
本実施例のc-di-AMPナトリウム塩結晶αは、3119、1604、1220、1073(cm
-1)付近に特徴的なピークを有していた。これらの結果を
図4に示す。
【0051】
(F)示差走査熱量分析
熱重量測定/示差熱分析(TG/DTA)装置(昇温速度5℃/分)で分析したところ、本実施例のc-di-AMPナトリウム塩結晶αは、255℃付近に吸熱ピークを有した(
図5)。
【0052】
(実施例2)pH10.0におけるc-di-AMPナトリウム塩結晶αの製造
公知の方法により、酵素的にc-di-AMPを合成し、精製を行った。
精製して得られたOD257が6600、pH10.0のc-di-AMP溶液(50mL)を40℃に加温した。そこに撹拌しながら、45mLのエタノールをゆっくり添加したのち、液温が4℃になるまで冷却し、結晶を析出させた。このようにして析出した結晶はメンブレンフィルター(3μm)にて濾取し、湿結晶を得た。湿結晶は1時間半、20℃で乾燥して、乾燥結晶7gを得た。
【0053】
(A)ナトリウム塩の形態分析
原子吸光光度法で分析したところ、本実施例のc-di-AMPナトリウム塩結晶αにおけるナトリウム含量は、6.6%であった。このことから、c-di-AMP1分子に対するナトリウム原子の存在量は2.0となり、本実施例のc-di-AMPナトリウム塩結晶αは、2ナトリウム塩の形態を取っていることが明らかとなった。
【0054】
(B)純度検定
上記実施例2で得られたc-di-AMPナトリウム塩結晶αの純度を、高速液体クロマトグラフィー法で分析した結果、c-di-AMP純度は100%であった。なお、高速液体クロマトグラフィー法は以下の条件で行った。
(条件)
カラム:Hydrosphere C18(YMC社製)
溶出液:0.1M TEA-P(pH6.0)+4.5% ACN
検出法:UV260nmによる検出
【0055】
(C)結晶形
本実施例のc-di-AMPナトリウム結晶αの写真を
図6に示す。
図6に示すように、c-di-AMPナトリウム塩結晶αは柱状の結晶形を示すことが明らかとなった。
【0056】
(D)粉末X線回折
本実施例のc-di-AMPナトリウム塩結晶αについて、X線回折装置X'Pert PRO MPD(スペクトリス)を用い、下記の測定条件でX線回折スペクトルを測定した。
(測定条件)
ターゲット:Cu
X線管電流:40mA
X線管電圧:45kV
走査範囲:2θ=4.0~40.0°
前処理:めのう製乳鉢を用いて粉砕
【0057】
図7および表2に示すように、本実施例のc-di-AMPナトリウム塩結晶αは、回折角(2θ)が、10.9、24.0(°)付近に特徴的なピークを示した。
【0058】
【0059】
(E)赤外線吸収スペクトル
本実施例のc-di-AMPナトリウム塩結晶αについて、フーリエ変換赤外分光光度計Spectrum One(Perkin Elmer)を用いてATR(Attenuated Total Reflectance、減衰全反射)法によって赤外線吸収スペクトルを測定した。
【0060】
本実施例のc-di-AMPナトリウム塩結晶αは、3118、1604、1221、1074(cm
-1)付近に特徴的なピークを有していた。これらの結果を
図8に示す。
【0061】
(F)示差走査熱量分析
熱重量測定/示差熱分析(TG/DTA)装置(昇温速度5℃/分)で分析したところ、本実施例のc-di-AMPナトリウム塩結晶αは、255℃付近に吸熱ピークを有した(
図9)。
【0062】
(実施例3)低pH領域(pH5.0~6.5)におけるc-di-AMPナトリウム塩結晶の取得試験
c-di-AMPナトリウム塩結晶を取得できるpH範囲を決定するために、低pH領域(pH5.0~6.5)における結晶の取得試験を実施した。
【0063】
公知の方法により、酵素的にc-di-AMPを合成し、精製を行った。
精製して得られたc-di-AMPを用いて、OD257が2500、pHが5.0,5.2,5.4,5.6,5.8,6.0又は6.5であるc-di-AMP水溶液を調製した。得られたOD257が2500のc-di-AMP溶液(0.2mL)を30℃に加温した。そこに、1mLの99.5%(w/w)エタノールをゆっくり添加したのち、密閉して一晩から数日間30℃下で静置し、結晶を析出させた。このようにして析出した結晶はメンブレンフィルターにて濾取し、湿結晶を得た。
【0064】
得られた結果を以下の表3に示す。下記表3中で、「結晶」とあるのは結晶取得可否を表しており、
○:問題なく結晶が取得できた
△:結晶を取得することはできたが、その量は他のpHと比べると少量であった
×:水溶液を調製することができず、結晶を取得できなかった
ことを表している。
【0065】
【0066】
上記表3に示す通り、pH5.0においてはc-di-AMPの溶解度が低く、そもそもOD257が2500のc-di-AMP水溶液を調製することができなかった。希釈することで低濃度のc-di-AMP水溶液は調製できたものの、以降同様の操作を行っても結晶を取得することはできなかった。pH5.2においては、結晶を取得することはできたが、析出した結晶の量は、5.4以上に比べて少量であった。pH5.4以上では、問題なく結晶を取得することができた。
【0067】
pH5.4以上6.0未満の範囲で得られたc-di-AMP結晶は、立方体状の外観を示すなどいずれも同様の性状であり、同一の形態であると考えられた。pH6.0では、結晶として立方体状のものと柱状のものが混在していた。pH6.0より高いpH領域において得られたc-di-AMP結晶は、柱状の外観を示すなど、実施例1及び2において取得された結晶と同様の性状を示した。以上の結果から、c-di-AMP水溶液のpHが5.2~6.0の範囲である場合には本実施例の形態のc-di-AMP結晶βが取得され、pH6.0~12.0の範囲である場合にはc-di-AMPナトリウム塩結晶αが取得されることが明らかとなった。
【0068】
(実施例4)pH5.6におけるc-di-AMPナトリウム塩結晶βの製造
公知の方法により、酵素的にc-di-AMPを合成し、精製を行った。
精製して得られたOD257が3000、pH5.6のc-di-AMP溶液(15mL)を30℃に加温した。そこに撹拌しながら、15mLのエタノールをゆっくり添加したのち、液温が4℃になるまで冷却し、結晶を析出させた。このようにして析出した結晶はメンブレンフィルターにて濾取し、湿結晶を得た。湿結晶は2時間、25℃で乾燥して、乾燥結晶1.0gを得た。
【0069】
(A)ナトリウム塩の形態分析
原子吸光光度法で分析したところ、本実施例のc-di-AMPナトリウム塩結晶βにおけるナトリウム含量は、5.2%であった。このことから、c-di-AMP1分子に対するナトリウム原子の存在量は1.5であることが分かった。
【0070】
(B)純度検定
本実施例で得られたc-di-AMPナトリウム塩結晶βの純度を、高速液体クロマトグラフィー法で分析した結果、c-di-AMP純度は100%であった。なお、高速液体クロマトグラフィー法は以下の条件で行った。
(条件)
カラム:YMC-Triart C18(YMC社製)
溶出液:0.1M TEA-P(pH6.0)+4.5% ACN
検出法:UV260nmによる検出
【0071】
(C)結晶形
本実施例におけるc-di-AMPナトリウム塩結晶βの写真を
図10に示す。
図10に示すように、c-di-AMPナトリウム塩結晶βは、立方体状の結晶形を示すことが明らかとなった。
【0072】
(D)粉末X線回折
本実施例のc-di-AMPナトリウム塩結晶について、X線回折装置X'Pert PRO MPD(スペクトリス)を用い、下記の測定条件でX線回折スペクトルを測定した。
(測定条件)
ターゲット:Cu
X線管電流:40mA
X線管電圧:45kV
走査範囲:2θ=4.0~40.0°
前処理:めのう製乳鉢を用いて粉砕
【0073】
図11および表4に示すように、本実施例のc-di-AMPナトリウム塩結晶βは、回折角(2θ)が、9.3、23.6、24.3(°)付近にピークを示した。
【0074】
【0075】
(E)赤外線吸収スペクトル
本実施例のc-di-AMPナトリウム塩結晶βについて、フーリエ変換赤外分光光度計Spectrum One(Perkin Elmer)を用いてATR(Attenuated Total Reflectance、減衰全反射)法によって赤外線吸収スペクトルを測定した。
【0076】
本実施例のc-di-AMPナトリウム塩結晶βは、3119、1606、1222、1074(cm
-1)付近に特徴的なピークを有していた。これらの結果を
図12に示す。
【0077】
(F)示差走査熱量分析
熱重量測定/示差熱分析(TG/DTA)装置(昇温速度5℃/分)で分析したところ、本実施例のc-di-AMPナトリウム塩結晶βは、239℃付近に吸熱ピークを有した(
図13)。
【0078】
(参考例)c-di-AMP遊離酸結晶の製造
公知の方法により、酵素的にc-di-AMPを合成し、精製を行った。
精製して得られたc-di-AMP溶液から、特許文献1に記載の方法によってc-di-AMP遊離酸結晶を取得した。すなわち、OD257が114のc-di-AMP溶液(980mL)を50℃に加温した。そこに、2N HClを少しずつ添加し、pH1.8まで調製し、液温が4℃になるまで冷却して結晶を析出させた。このようにして析出した結晶はグラスフィルター(G3)にて濾取し、湿結晶を得た。湿結晶は1時間、20℃で乾燥して、乾燥結晶2.8gを得た。
【0079】
(A)純度検定
上記参考例で得られたc-di-AMP遊離酸結晶の純度を、高速液体クロマトグラフィー法で分析した結果、c-di-AMP純度は100%であった。なお、高速液体クロマトグラフィー法は以下の条件で行った。
(条件)
カラム:Hydrosphere C18(YMC社製)
溶出液:0.1M TEA-P(pH6.0)+4.5% ACN
検出法:UV260nmによる検出
【0080】
(B)結晶形
c-di-AMP遊離酸結晶の代表的な写真を
図14に示す。c-di-AMP遊離酸結晶は、針状の結晶形を示す。
【0081】
(C)粉末X線回折
c-di-AMP遊離酸結晶について、X線回折装置X'Pert PRO MPD(スペクトリス)を用いて、下記の測定条件でX線回折スペクトルを測定した。
(測定条件)
ターゲット:Cu
X線管電流:40mA
X線管電圧:45kV
走査範囲:2θ=4.0~40.0°
前処理:めのう製乳鉢を用いて粉砕
【0082】
図15および表5に示すように、特許文献1に記載のc-di-AMP遊離酸結晶は、回折角(2θ)が、9.2、10.2、10.9、11.1、13.7、15.2、19.0、20.6、22.4、23.1、24.3、26.6、26.8(°)付近に特徴的なピークを示した。
【0083】
【0084】
(D)赤外線吸収スペクトル
c-di-AMP遊離酸結晶を、フーリエ変換赤外分光光度計Spectrum One(Perkin Elmer)を用いてATR(Attenuated Total Reflectance、減衰全反射)法によって赤外線吸収スペクトルを測定した結果について、特許文献1に記載がある。
【0085】
特許文献1に記載のc-di-AMP遊離酸結晶は、3087、1686、1604、1504、1473、1415、1328、1213(cm
-1)付近に特徴的なピークを有していた。これらの結果を
図16に示す。
【0086】
(E)示差走査熱量分析
特許文献1に記載のc-di-AMP遊離酸結晶は、熱重量測定/示差熱分析(TG/DTA)装置(昇温速度5℃/分)で分析すると、193℃付近に吸熱ピークを有した(
図17)。
【0087】
(実施例4)105℃条件下における取得結晶の安定性試験
上記実施例1、実施例2、実施例4及び参考例にて得られた結晶を、105℃条件下で静置した。そこから経時的に結晶を回収し、水溶液を調製し、高速液体クロマトグラフィー法で結晶の純度を分析した。得られた結果を
図18および表6に示す。
【0088】
【表6】
表6に示す通り、本発明に属するc-di-AMPナトリウム塩結晶は、既存のc-di-AMP遊離酸結晶と比べて、105℃という過酷条件下においても安定性に優れていることが分かった。さらに、既存のc-di-AMP遊離酸結晶を溶解させる際には撹拌操作が必要であったのに対し、本発明のc-di-AMPナトリウム塩結晶は迅速に溶解した。このことから、本発明のc-di-AMPナトリウム塩結晶は、既存のc-di-AMP遊離酸結晶と比較して、高い溶解性を示すことが明らかとなった。