(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023118849
(43)【公開日】2023-08-25
(54)【発明の名称】バイアルアダプタ
(51)【国際特許分類】
A61J 1/20 20060101AFI20230818BHJP
【FI】
A61J1/20
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023109986
(22)【出願日】2023-07-04
(62)【分割の表示】P 2019135166の分割
【原出願日】2019-07-23
(71)【出願人】
【識別番号】000153030
【氏名又は名称】株式会社ジェイ・エム・エス
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】安孫子 諒一
(57)【要約】
【課題】バイアル内の薬液をバイアルから取り出す作業において、バイアル内の薬剤気体が外界へ漏れ出る可能性を低減し、安全性を向上する。
【解決手段】バイアルアダプタ1は、穿刺針20とメスコネクタ50とを備える。穿刺針内に液体流路24及び気体流路25が設けられている。液体流路はメスコネクタに連通し、気体流路は通気口46に連通している。気体流路と通気口とを連通させる気体連通路上に、通気口から気体流路へ気体が流れるのを許容し、これとは逆に気体が流れるのを禁止する一方向弁40が設けられている。気体連通路は、気体流路と一方向弁との間に、気体流路より小さな断面積を有する狭小路35bを備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋭利な先端を有する穿刺針とメスコネクタとを備えたバイアルアダプタであって、
前記穿刺針内に、前記穿刺針の長手方向に沿って延びた液体流路及び気体流路が設けられており、
前記液体流路は前記メスコネクタに連通し、
前記気体流路は、外界に向かって開口した通気口に連通し、
前記穿刺針内の前記気体流路と前記通気口とを連通させる気体連通路上に、前記通気口から前記気体流路へ気体が流れるのを許容し、前記気体流路から前記通気口へ気体が流れるのを禁止する一方向弁が設けられており、
前記気体連通路は、前記気体流路と前記一方向弁との間に、前記気体流路より小さな断面積を有する狭小路を備えることを特徴とするバイアルアダプタ。
【請求項2】
前記狭小路が、互いに異なる第1部品と第2部品とによって規定される請求項1に記載のバイアルアダプタ。
【請求項3】
前記第1部品は、前記穿刺針を一体的に備える請求項2に記載のバイアルアダプタ。
【請求項4】
前記一方向弁は、前記第2部品に取り付けられれている請求項2又は3に記載のバイアルアダプタ。
【請求項5】
前記狭小路の断面積は、前記穿刺針内の前記気体流路の断面積の65%以下である請求項1~4のいずれか一項に記載のバイアルアダプタ。
【請求項6】
前記狭小路の長さは3mm以上である請求項1~5のいずれか一項に記載のバイアルアダプタ。
【請求項7】
前記通気口を開閉することができる栓を更に備える請求項1~6のいずれか一項に記載のバイアルアダプタ。
【請求項8】
前記メスコネクタは、直線状のスリットが形成された隔壁部材を備え、前記隔壁部材は自閉式の弁として機能する請求項1~7のいずれか一項に記載のバイアルアダプタ。
【請求項9】
前記穿刺針がバイアルの栓体を穿刺したとき、前記バイアルに係合するように構成された爪を更に備える請求項1~8のいずれか一項に記載のバイアルアダプタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイアル内の薬液をバイアルから取り出す際に使用されるバイアルアダプタに関する。
【背景技術】
【0002】
密閉されたバイアル内の薬液を患者に点滴するに際しては、薬液をバイアルから薬液バッグに移送して薬液バッグ内で薬液を調製する必要がある。薬液の移送は、一般に、バイアルからシリンジに薬液を吸引し、次いで、シリンジから薬液バッグに薬液を注入することによって行われる。
【0003】
薬液をバイアルからシリンジに吸引する方法として、金属針を用いる方法が知られている。この方法では、シリンジの筒先に取り付けた金属針をバイアルのゴム栓に穿刺して、金属針を介して薬液をシリンジに吸引する。この方法は、薬液をシリンジに吸引することによってバイアル内が陰圧となるため、操作が複雑で熟練を要する。
【0004】
特許文献1には、鋭利な先端を有し、液体流路及び気体流路が形成された移送具が記載されている。液体流路は、移送具の長手方向に沿って延び、移送具を貫通している。気体流路の一端は移送具の先端近傍で開口し、他端は外界に向かって開口した通気口に連通している。通気口には一方向弁が設けられている。一方向弁は、通気口から穿刺針へ気体が流れるのを許容するが、その逆に気体が流れるのを禁止する。移送具をシリンジに接続し、次いで、移送具をバイアルに穿刺する。シリンジとバイアルとが液体流路を介して連通する。バイアルと外界とが気体流路及び一方向弁を介してを連通する。バイアル内の薬液を液体流路を介してシリンジに吸引すると、外界の空気が一方向弁及び気体流路を通ってバイアル内に流入する。バイアル内に陰圧は発生しない。このため、バイアル内の薬液をシリンジに吸引する作業は、非熟練者にも容易である。
【0005】
バイアル内の薬液が抗がん剤のような危険薬物を含む場合がある。この場合、薬液や薬液から気化した薬剤気体が外界に漏れ出ると、作業者が薬剤被爆してしまう可能性がある。気体流路上に一方向弁を備える上記の移送具は、薬剤気体の外界への漏出を防止するのに有効であると一般に考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、実際には、一方向弁が完全に閉じられずに、わずかな隙間が開いている場合がある。このような場合、バイアル内の薬剤気体が、気体流路に進入し一方向弁の隙間を通って外界に漏れ出ることがある。また、バイアルに移送具を介してシリンジを接続した状態でシリンジのプランジャを勢いよく押してしまうと、バイアル内の圧力が急激に上昇し、この圧力上昇が気体流路を介して一方向弁に伝達され、一方向弁が異常変形して、バイアル内の薬剤気体が外界に漏れ出るという事態が起こりうる。
【0008】
本発明の目的は、バイアル内の薬液をバイアルから取り出す作業において、バイアル内の薬剤気体が外界へ漏れ出る可能性を低減し、安全性を向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のバイアルアダプタは、鋭利な先端を有する穿刺針とメスコネクタとを備える。前記穿刺針内に、前記穿刺針の長手方向に沿って延びた液体流路及び気体流路が設けられている。前記液体流路は前記メスコネクタに連通している。前記気体流路は、外界に向かって開口した通気口に連通している。前記穿刺針内の前記気体流路と前記通気口とを連通させる気体連通路上に、前記通気口から前記気体流路へ気体が流れるのを許容し、前記気体流路から前記通気口へ気体が流れるのを禁止する一方向弁が設けられている。前記気体連通路は、前記気体流路と前記一方向弁との間に、前記気体流路より小さな断面積を有する狭小路を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、バイアルで発生した薬剤気体が通気口から外界へ漏れ出る可能性を低減することができる。従って、本発明のバイアルアダプタは、バイアル内の薬液をバイアルから取り出す作業において、作業者が薬剤被爆する可能性を低減させ、安全性を向上させる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態1にかかるバイアルアダプタの上方から見た斜視図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態1にかかるバイアルアダプタの下方から見た斜視図である。
【
図3】
図3は、
図1の3-3線を含む面に沿った、本発明の実施形態1にかかるバイアルアダプタの矢視断面図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施形態1にかかるバイアルアダプタの分解斜視図である。
【
図5】
図5Aは、本発明の実施形態1にかかる通気筒の斜視図である。
図5Bは、本発明の実施形態1にかかる通気筒の別の方向から見た斜視図である。
図5Cは、本発明の実施形態1にかかる通気筒の断面図である。
【
図6】
図6は、本発明のバイアルアダプタが装着されるバイアルの一例の断面図である。
【
図7】
図7は、バイアルに装着された本発明の実施形態1にかかるバイアルアダプタの側面図である。
【
図8】
図8は、
図7の8-8線を含む面に沿った、バイアルアダプタ及びバイアルの断面図である。
【
図9】
図9は、本発明の実施形態1にかかるバイアルアダプタに接続されるオスコネクタ及びシリンジの側面図である。
【
図10】
図10は、本発明の実施形態1にかかるバイアルアダプタに接続されるオスコネクタ及びシリンジの部分拡大断面図である。
【
図11】
図11は、本発明の実施形態1にかかるバイアルアダプタを介してバイアルとシリンジとを接続した状態を示した側面図である。
【
図12】
図12は、
図11の12-12線を含む面に沿った、バイアルアダプタ及びその近傍の部分拡大断面図である。
【
図13】
図13は、本発明の実施形態2にかかるバイアルアダプタの断面図である。
【
図14】
図14Aは、本発明の実施形態2にかかる通気筒の斜視図である。
図14Bは、本発明の実施形態2にかかる通気筒の別の方向から見た斜視図である。
図14Cは、本発明の実施形態2にかかる通気筒の断面図である。
【
図15】
図15は、本発明の実施形態3にかかるバイアルアダプタの断面図である。
【
図16】
図16は、
図15の16-16線を含む面に沿った、本発明の実施形態3にかかるバイアルアダプタの部分拡大断面図である。
【
図17】
図17Aは、本発明の実施形態3にかかる通気筒の斜視図である。
図17Bは、本発明の実施形態3にかかる通気筒の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
上記の本発明のバイアルアダプタにおいて、前記狭小路が、互いに異なる第1部品と第2部品とによって規定されていてもよい。かかる態様によれば、第1部品と第2部品とを組み合わせると、両部品間の隙間として狭小路が形成される。これは、狭小路を備えたバイアルアダプタの構成を簡単にし且つその製造を容易にするのに有利である。
【0013】
前記第1部品は、前記穿刺針を一体的に備えていてもよい。かかる態様は、バイアルアダプタを構成する部品数を少なくし、また、バイアルアダプタの構成を簡単にし且つその製造を容易にするのに有利である。
【0014】
前記一方向弁は、前記第2部品に取り付けられれていてもよい。かかる態様は、バイアルアダプタを構成する部品数を少なくし、また、バイアルアダプタの構成を簡単にし且つその製造を容易にするのに有利である。
【0015】
前記狭小路の断面積は、前記穿刺針内の前記気体流路の断面積の65%以下であってもよい。かかる態様は、バイアルで発生した薬剤気体が通気口から外界へ漏れ出る可能性を更に低減するのに有利である。
【0016】
前記狭小路の長さは3mm以上であってもよい。かかる態様は、バイアルで発生した薬剤気体が通気口から外界へ漏れ出る可能性を更に低減するのに有利である。
【0017】
本発明のバイアルアダプタは、前記通気口を開閉することができる栓を更に備えていてもよい。かかる態様は、バイアルで発生した薬剤気体が通気口から外界へ漏れ出る可能性を更に低減するのに有利である。
【0018】
前記メスコネクタは、直線状のスリットが形成された隔壁部材を備えていてもよい。前記隔壁部材は自閉式の弁として機能してもよい。かかる態様は、本発明のバイアルアダプタをバイアルに装着した状態において、バイアルで発生した薬剤気体がメスコネクタから外界に漏れ出る可能性を低減するのに有利である。
【0019】
本発明のバイアルアダプタは、前記穿刺針がバイアルの栓体を穿刺したとき、前記バイアルに係合するように構成された爪を更に備えていてもよい。かかる態様は、バイアルアダプタがバイアルから意図せずに分離して、薬液や薬液気体が外界に漏れ出る可能性を低減するのに有利である。
【0020】
以下に、本発明を好適な実施形態を示しながら詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されないことはいうまでもない。以下の説明において参照する各図は、説明の便宜上、本発明の実施形態を構成する主要部材を簡略化して示したものである。従って、本発明は以下の各図に示されていない任意の部材を備え得る。また、本発明の範囲内において、以下の各図に示された各部材を変更または省略し得る。各実施形態の説明において引用する図面において、先行する実施形態で引用した図面に示された部材に対応する部材には、当該先行する実施形態の図面で付された符号と同じ符号が付してある。そのような部材については、重複する説明が省略されており、先行する実施形態の説明を適宜参酌すべきである。
【0021】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1にかかるバイアルアダプタ1の上方から見た斜視図である。
図2は、バイアルアダプタ1の下方から見た斜視図である。
図3は、
図1の3-3線を含む面に沿った、バイアルアダプタ1の矢視断面図である。バイアルアダプタ1は、穿刺針(びん針とも呼ばれる)20とメスコネクタ50とを備える。穿刺針20とメスコネクタ50とは略同軸に配置されている。以下の説明の便宜のため、穿刺針20の長手方向と平行な方向を「上下方向」という。上下方向において、メスコネクタ50の側を「上」側、穿刺針20の側を「下」側という。上下方向に垂直な方向を「水平方向」という。但し、「上」、「下」、「水平」は、バイアルアダプタ1の実際の使用時の向きを意味するものではない。
図4はバイアルアダプタ1の分解斜視図である。バイアルアダプタ1は、本体10、通気筒30、一方向弁40、通気キャップ45、隔壁部材55、キャップ57を含む。
【0022】
図2に示されているように、穿刺針20は、まっすぐに延びた棒形状を有し、その先端21は鋭利に形成されている。
図3に示すように、穿刺針20内に、互いに独立した液体流路24及び気体流路25が、穿刺針10の長手方向(上下方向)に沿って延びている。液体流路24の下端は、穿刺針20の先端21の近傍において外界に向かって開口している。液体流路24の上端は、メスコネクタ50の内腔52と連通している。気体流路25の下端は、穿刺針20の先端21の近傍であって、液体流路24の開口よりも先端21により近い位置にて、外界に向かって開口している。気体流路25の上端は、管状部12に連通している。管状部12は、略円筒面である内周面を有し、水平方向に沿って延びている。管状部12の軸方向の一端は開口し、他端は閉じられている。管状部12は、穿刺針20とメスコネクタ50との間に配置されている。気体流路25は、管状部12の内周面に開口している。
【0023】
メスコネクタ50は、略円筒形状を有する筒状部51と、筒状部51の上端に設けられた隔壁部材(以下「セプタム」という)55と、セプタム55にかぶせられたキャップ57とを備える。筒状部51は、穿刺針20内の液体流路24と連通している。セプタム55は、ゴム等の弾性材料からなり、円形の平面視形状を有する薄板である。セプタム55の中央に、セプタム55を上下方向に貫通する直線状のスリット(切り込み)56が形成されている。筒状部51の上端にセプタム55を載置し、セプタム55の上方からキャップ57を筒状部51に装着する。セプタム55は筒状部51とキャップ57とにより上下方向に挟持される。セプタム55のスリット56は、キャップ57の上面に形成された開口58を介して露出する。初期状態のスリット56は、液密及び気密に閉じられている(
図1、
図3参照)。スリット56に、鋭利な先端を有しない筒状のオス部材130(後述する
図10参照)を挿入すると、セプタム55が弾性変形し、メスコネクタ50の内腔52とオス部材130とが連通する(後述する
図12参照)。オス部材130をセプタム55から引き抜くと、セプタム55は直ちに初期状態に復帰し、スリット56は液密及び気密に閉じられる。このように、セプタム55は、自閉式の弁として機能する。このような自閉式のメスコネクタ50は、「ニードルレスポート」とも呼ばれる。
【0024】
穿刺針20の基端に、水平方向に突出したベース27が連結されている。ベース27の下面(穿刺針20側の面)28は、水平方向に平行な平坦面である(
図2参照)。ベース27に、一対のアーム60が穿刺針20に対して対称に設けられている。各アーム60は、ベース27から水平方向にほぼ沿って外側(穿刺針20から離れる側)に向かって延び、続いて、下側(穿刺針20の先端21側)に向かって延びている。アーム60の先端には、穿刺針20に向かって突出した爪62が設けられている。各爪62から下方に向かって2つのリブ65が延びている。リブ65は、上下方向に平行な面に沿った板状物である。リブ65の下側の端縁66は、上方に向かって穿刺針20に近く付くように傾斜している。端縁66の上端は、爪62の先端(穿刺針20に最も近い)で終端している。
【0025】
アーム60は、ベース27との接続部分を固定端とする片持ち支持構造を有している。アーム60は、比較的容易に弾性的に曲げ変形可能である。爪62及びリブ65は、アーム60の自由端に設けられている。アーム60は、爪62及びリブ65が穿刺針20から離れるように弾性的に変形することができる。各アーム60は互いに独立して変形することができる。
【0026】
図5Aは通気筒30の先端側から見た斜視図、
図5Bは通気筒30の基端側から見た斜視図である。
図5Cは、通気筒30の断面図である。通気筒30は、中空の略円筒形状を有する筒本体32と、筒本体32の基端側の開口を塞ぐ底板39とを備えた、有底の筒形状を有する。筒本体32の外周面から略円板状のフランジ34が半径方向外向きに突出している。フランジ34は、筒本体32の軸方向の中央からわずかに開口33寄りの位置に配置されている。
【0027】
筒本体32のフランジ34よりも底板39側の外周面に溝35が形成されている。溝35は、筒本体32の基端(底板39側端)から軸方向に沿って所定長さで延びた第1溝35aと、筒本体32の周方向に約180度の範囲にわたって延びた第2溝35bとを備える。第2溝35bの一端は、第1溝35aの終端に接続され、第2溝35bの他端は、筒本体32を半径方向に貫通する貫通孔36に接続されている。
【0028】
図3に示されているように、通気筒30のフランジ34よりも底板39側の部分が本体10の管状部12に嵌入される。フランジ34が管状部12の開口端に当接するまで、通気筒30は管状部12に挿入される。フランジ34は、管状部12に対する通気筒30の挿入深さを規定する。通気筒30の底板39と管状部12の底面とは隙間15を介して離間する。気体流路25は、隙間15と連通する。管状部12の内周面は、筒本体32の外周面に、溝35を除いて気密に密着する。管状部12の内周面と溝35(第1及び第2溝35a,35b)とによって、隙間15と貫通孔36とを連通させる流路が形成される。
【0029】
通気筒30の開口33(
図4、
図5A及び
図5C参照)に一方向弁40が嵌入される。続いて、通気キャップ45が、一方向弁40を覆うように通気筒30に装着される。通気キャップ45は一方向弁40を通気筒30にしっかりと固定する。通気キャップ45は、一方向弁40に対向する位置に通気口46を備える。通気口46は、外界に向かって開口した貫通孔である。栓47が、自由に屈曲可能なバンド48を介して通気キャップ45に連結されている(
図1、
図2参照)。栓47は、通気口46を繰り返し開閉可能である。栓47は、通気口46を気密に封止することができる。
【0030】
気体流路25、隙間15、第1溝35a、第2溝35a、貫通孔36、通気筒30の内腔31、通気口46が順に連通される。気体流路25と通気口46とを連通させる流路を本発明では「気体連通路」という。一方向弁40は、気体連通路上に、より詳細には内腔31と通気口46との間に、設けられている。一方向弁40は、外界の空気が通気口46から内腔31に向かって(即ち、順方向に)流れるのを許可するが、これとは逆に、内腔31内の気体が通気口46に向かって(即ち、逆方向に)流れるのを禁止する。一方向弁40は、このように流体が一方向にのみ流れることを許容し、逆方向に流れるのを防止する機能を有する弁であり、チェックバルブまたは逆止弁などとも呼ばれる。一方向弁40の構成は、このような機能を有する限り制限はない。本実施形態では、一方向弁40としてダックビル型の一方向弁を用いている。ダックビル型の一方向弁40は、バイアルアダプタ1を小型化するのに有利である。
【0031】
穿刺針20内の気体流路25の断面積は、その長手方向において略一定である。気体流路25と通気口46とをつなぐ気体連通路の断面積は、第2溝35bにおいて最小である。第2溝35bが構成する流路の断面積は、第2溝35bの長手方向において一定である。第2溝35bでの流路の断面積は、気体流路25の断面積より小さい。一実施例では、気体流路25の断面積は0.78mm2であり、第2溝35bでの流路の断面積は0.49mm2である。なお、本発明において、流路の「断面積」とは、流路を流れる流体(例えば気体)の流れ方向に垂直な面での流路の面積を意味する。
【0032】
図4に示すように、本体10は、通気筒30、一方向弁40、通気キャップ45、隔壁部材55、キャップ57を除いた、バイアルアダプタ1を構成する全要素を含む。本体10及び通気キャップ45のそれぞれは、樹脂材料を射出成形することにより一部品として一体的に製造されることが好ましい。本体10及び通気キャップ45に使用できる樹脂材料は、制限はないが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、スチレンエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ブチレンスチレンブロック共重合体などを例示することができるが、医療用に用いられることや弾性曲げ変形される部分を有することを考慮すると、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂が好ましい。通気筒30及びキャップ45の材料は、制限はないが、硬質の材料であることが好ましく、例えば、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリアセタール、ポリアミド、硬質ポリ塩化ビニル、ポリエチレン等の樹脂材料を用いることができる。一方向弁40及び隔壁部材55の材料は、制限はないが、ゴム弾性を有する軟質の材料(いわゆるエラストマー)であることが好ましく、例えば、イソプレンゴム、シリコーンゴム、ブチルゴム等のゴム材料や、熱可塑性エラストマー等を用いることができる。本実施形態1では、本体10は、その全体が一部品として一体的に形成されているが、別個に製造された2以上の部品を組み合わせて構成されていてもよい。
【0033】
本実施形態1のバイアルアダプタ1は、バイアル内の薬液をシリンジに吸引する際に使用される。バイアルアダプタ1の使用方法を説明する。
【0034】
図6は、バイアル80の一例の断面図である。バイアル80は、瓶本体81の上方に向かって開口した口(開口)83に栓体(ゴム栓)86を嵌入して当該口83を気密及び液密に封止した密閉容器である。バイアル80内には、薬液(図示せず)が収容されている。瓶本体81は、ガラスなどの実質的に変形しない硬質材料からなる。口83の周囲を、拡径したフランジ82が取り囲む。フランジ82と、フランジ82のすぐ下のくびれ部分84との間には、両者の外径差に基づく段差が形成されている。
【0035】
栓体86は、フランジ82と略同一外径を有する。栓体86が瓶本体81の口83から脱落するのを防止するために、栓体86及びフランジ82にキャップ88が装着されている。キャップ88は、金属(例えばアルミニウム)、樹脂等のシートからなり、栓体86及びフランジ82に密着している。キャップ88の下端は、フランジ82の略円筒面である外周面よりも下側にまで及んでいる。キャップ88の上端は、栓体86の上面にまで及んでいる。栓体86の上面の中央の領域は、キャップ88に設けられた円形の開口88aを介して外界に露出している。なお、バイアル80はキャップ88を備えていなくてもよい。
【0036】
図7に示すように、バイアル80にバイアルアダプタ1を装着する。
図8は、
図7の8-8線を含む面に沿った矢視断面図である。
【0037】
穿刺針20が栓体86を貫通している。穿刺針20に形成された液体流路24及び気体流路25の先端21側の開口が、栓体86より下側に位置している。液体流路24及び気体流路25とバイアル80の内腔とが連通している。バイアルアダプタ1のベース27の下面28(
図2参照)が、バイアル80の栓体86(またはキャップ88)の上面に当接している。爪62が、くびれ部分84に嵌入し、フランジ82(
図6参照)に係合している。引っ張り力や振動がバイアルアダプタ1及びバイアル80に印加されても、穿刺針10が栓体86から意図せずに抜け出ることはない。
【0038】
詳細な説明を省略するが、穿刺針20の先端21をバイアル80の栓体86に向けて、バイアルアダプタ1をバイアル80に向かって押すだけで、
図7及び
図8のように、バイアルアダプタ1をバイアル80に装着することができる。バイアルアダプタ1のリブ65の端縁66(
図2参照)が、バイアル80のキャップ88の上側端縁88b(
図6参照)に当接しながら上側端縁88b上を摺動する。穿刺針20が栓体86に挿入されるにしたがって、アーム60は曲げ変形される。作業者は、アーム60やリブ65に触れる必要はない。バイアル80に対するバイアルアダプタ1の装着は容易である。
【0039】
図9は、バイアルアダプタ1に接続されるオスコネクタ120及びシリンジ100の側面図である。
図10は、オスコネクタ120及びその近傍の部分拡大断面図である。
【0040】
シリンジ100は、バレル(外筒)101及びプランジャ110を備える。バレル101は、中空の円筒形状を有し、一端(上端)は開口し、他端(下端)に筒先(ノズル)102を備える。筒先102は、バレル101の内腔と連通した棒状のオス部材103と、オス部材103を取り囲む円筒形状の外筒105とを有する。オス部材103の外周面は、オス部材103の先端に近づくにしたがって外径が小さくなるテーパ面(いわゆるオステーパ面)である。外筒105の内周面(オス部材103に対向する面)には雌ネジ106が形成されている。バレル101の上端の開口にプランジャ110が挿抜可能に挿入されている。プランジャ110の先端にはガスケット112が取り付けられている。ガスケット112はバレル101の内周面との間に液密なシールを形成しながら、バレル101の内周面上をバレル101の長手方向に沿って摺動する。
【0041】
筒先102にオスコネクタ120が取り付けられている。オスコネクタ120は、円筒形状の管状部(メスルアー)123を有する。管状部123の内周面は、管状部123の先端に近づくにしたがって内径が大きくなるテーパ面(メステーパ面)である。管状部123の外周面には雄ネジ(螺状突起)126が設けられている。管状部123内にシリンジ100のオス部材103が嵌入される。オス部材103のオステーパ面と管状部123のメステーパ面とが液密にテーパ嵌合する。管状部123の雄ネジ126が外筒105の雌ネジ106に螺合する。
【0042】
オスコネクタ120は、まっすぐに延びた棒形状のオス部材130と、オス部材130を取り囲む円筒形状のフード135を更に備える。オス部材130内に、管状部123と連通した流路131が形成されている。流路131は、オス部材130の長手方向に沿って延び、オス部材130の先端近傍に設けられた横孔132に連通している。フード135に設けられた切欠き内に、ロックレバー137が設けられている。ロックレバー137は、オス部材130と略平行に延びた細長い板状物である。ロックレバー137は、
図10においてその上端を固定端とし、その下端を自由端とする片持ち支持構造を有する。ロックレバー137の自由端から、オス部材130に向かって爪138が突出している。ロックレバー137の外面(オス部材130とは反対側の面)から操作アーム139が管状部123側に延びている。操作アーム139の先端を管状部123に向かって押すと、爪138がオス部材130から離れるように、ロックレバー137は弾性的に曲げ変形する。
【0043】
オス部材130に、カバー140が被せられている。カバー140は、隔壁部材55と同様の、ゴム弾性を有する軟質の材料(いわゆるエラストマー)からなる。カバー140は、中空筒状の筒状壁142と、筒状壁142の先端に設けられた頭部144とを備える。オス部材130の先端は頭部144に設けられた円筒状の孔内に挿入されている。オス部材130の横孔132は、孔の内周面によって塞がれている。孔の最深部には、頭部を貫通する直線状のスリット(切り込み)145が形成されている。
【0044】
図11に示すように、バイアル80に装着したバイアルアダプタ1(
図7及び
図8参照)に、オスコネクタ120を介してシリンジ100(
図9及び
図10参照)を接続する。
図12は、
図11の12-12線を含む面に沿った部分拡大断面図である。メスコネクタ50がフード135内に挿入されている。ロックレバー137の爪138が、メスコネクタ50の段差部53(
図2参照)に係合している。引っ張り力や振動がバイアルアダプタ1及びオスコネクタ120に印加されても、バイアルアダプタ1とオスコネクタ120とが分離することはない。
【0045】
オス部材130が、カバー140のスリット145(
図10参照)を貫通し、更にセプタム55のスリット56(
図1、
図3参照)を貫通している。オス部材130の横孔132は、メスコネクタ50の内腔52内に露出している。セプタム55は、オス部材130が挿入され、且つ、カバー140の頭部144によって押し込まれたことによって、内腔52側に大きく変形している。カバー140の筒状壁142は、オス部材130の長手方向に圧縮変形している。
【0046】
図12に示されているように、バイアル80、液体流路24、メスコネクタ50の内腔52、流路131、管状部123、オス部材103、バレル101が、順に連通される。バイアル80を上に、シリンジ100を下にして、プランジャ110を引く。バイアル80内の薬液は、液体流路24を通ってシリンジ100内に吸引される。バイアル80から薬液が流出すると、外界の空気が、通気口46、一方向弁40、通気筒30の内腔31、貫通孔36、第2溝35b、第1溝35a、隙間15、気体流路25を順に通ってバイアル80内に流入する。このように、バイアル80をバイアルアダプタ1を介してシリンジ100に接続することにより、バイアル80内に陰圧を発生させることなく、バイアル80内の薬液をシリンジ100に吸引することができる。不慣れな作業者であっても、シリンジ100に薬液を吸引する作業を容易に行うことができる。
【0047】
バイアル80内の薬液をシリンジ100に吸引した後、操作アーム139を押して爪138とメスコネクタ50との係合を解除する。オスコネクタ120をバイアルアダプタ1から分離する。オスコネクタ120を、輸液バッグのポート(図示せず)に接続し、シリンジ100内の薬液を輸液バッグに注入する。オスコネクタ120から分離されたバイアルアダプタ1は、バイアル80に装着された状態で廃棄される。
【0048】
バイアルアダプタ1は、気体流路25と一方向弁40との間の気体連通路上に、気体流路25より小さな断面積を有する第2溝35bを備える。第2溝35bの作用を説明する。
【0049】
バイアル80の周囲の温度等によっては、バイアル80内の薬液から薬剤気体が気化することがある。バイアル80にバイアルアダプタ1を装着した状態(
図7及び
図8、または、
図11及び
図12)が長期間にわたると、薬剤気体は、気体流路25に流入し、通気口46へ向かう。
【0050】
本実施形態1と異なり、気体流路25と通気口46とを連通させる気体連通路が、気体流路25より小さな流路断面積を有する部分を有していない場合を考える。この場合、薬剤気体は比較的容易に一方向弁40に到達する。一方向弁40は、内腔31から通気口46へ向かう(即ち、逆方向の)気体の流れを禁止するように構成されている。しかしながら、一方向弁40が、製造誤差等の様々な原因によって、自然状態において完全に閉じられない場合があり得る。バイアル80内で薬剤気体が気化する際、バイアル80内の圧力がわずかに上昇するが、この圧力上昇は、小さく且つ緩やかであるため、一方向弁40を閉じさせるのには十分でない。したがって、薬剤気体は、一方向弁40のわずかな隙間を通って、通気口46から外界に漏れ出る。バイアル80内の薬剤が抗がん剤のような危険薬物である場合には、作業者が危険薬物に被爆してしまう。
【0051】
これに対して、本実施形態1では、気体流路25と一方向弁40との間の気体連通路上に第2溝35bが設けられている。第2溝35bでは、相対的に小さな断面積が所定の長さにわたって続く。薬剤気体が、第2溝35b内で拡散しながら第2溝35bを通過するのには非常に長い時間がかかる。薬剤気体が一方向弁40に到達することは極めて困難である。このため、一方向弁40が完全に閉じていないとしても、バイアル80の薬剤気体が通気口46から外界に漏れ出ることはない。
【0052】
また、バイアル80にバイアルアダプタ1を介してシリンジ100を接続した状態(
図11及び
図12)において、誤ってプランジャ110をバレル101内に強く押し込むと、バイアル80内の圧力が急上昇する。
【0053】
本実施形態1と異なり、気体流路25と通気口46とを連通させる気体連通路が、気体流路25より小さな流路断面積を有する部分を有していない場合を考える。この場合、バイアル80内の圧力上昇によって気体が気体連通路を逆方向に流れる。通常であれば、逆方向の気体の流れは、一方向弁40を閉じさせるように作用する。しかしながら、バイアル80内の圧力が急激に上昇し且つ異常に高いため、一方向弁40は、急激に発生した異常に高速の逆向きの気体の流れを受ける。一方向弁40は、許容限度を越える高圧を瞬時に受けて異常変形し、機能不全に至る。このため、バイアル内の薬剤気体が一方向弁40を通過して外界に漏れ出てしまう。バイアル80内の薬剤が抗がん剤のような危険薬物である場合、作業者が危険薬物に被爆してしまう。
【0054】
これに対して、本実施形態1では、気体流路25と一方向弁40との間の気体連通路上に第2溝35bが設けられている。第2溝35bでは、相対的に小さな断面積が所定の長さにわたって続く。この第2溝35bで、大きな圧力損失が発生する。このため、一方向弁40に、急激に発生した異常に高速の逆向きの気体の流れは作用しない。一方向弁40は、異常変形することなく、通常動作と同様に閉じられる。バイアル内の薬剤気体が一方向弁40を通過して外界に漏れ出ることはない。
【0055】
以上のように、本実施形態1のバイアルアダプタ1は、バイアル80で発生した薬剤気体が通気口46から外界へ漏れ出る可能性を低減する。バイアルアダプタ1は、作業者が薬剤被爆する可能性を低減させ、安全性に優れる。
【0056】
上記の例では、第2溝35bが、筒本体32の外周面上に約180度の範囲にわたって延びていた。しかしながら、第2溝35bは、これに限定されない。第2溝35bが、180度より大きな範囲、または、180度より小さな範囲にわたって筒本体32の周方向に延びていてもよい。あるいは、第2溝35bが、筒本体31の外周面上にらせん状に延びていてもよい。らせん状の第2溝35bは、必要な長さの第2溝35bを確保するのに有利である。
【0057】
液体流路24が連通するメスコネクタ50は、自閉式の弁として機能するセプタム55を備える。このため、バイアルアダプタ1がバイアル80に装着され且つバイアルアダプタ1にオスコネクタ120は接続されていない状態(
図7及び
図8)において、薬剤気体がメスコネクタ50から外界に漏れ出る可能性は低い。
【0058】
なお、バイアル80内の薬液をシリンジ100に吸引する操作をするときを除いて、バイアル80にバイアルアダプタ1を装着した状態(
図7及び
図8、及び、
図11及び
図12)では通気口46を栓47で封止しておくことが好ましい。これにより、通気口46からの薬剤気体の漏れ出しをより確実に防止することができる。なお、栓47を省略してもよい。
【0059】
(実施形態2)
図13は、本発明の実施形態2にかかるバイアルアダプタ2の、
図3と同様の面に沿った断面図である。本実施形態2は、通気筒230に関して、実施形態1と異なる。以下に、実施形態1との相違点を中心に本実施形態2を説明する。
【0060】
図14Aは通気筒230の先端側から見た斜視図、
図14Bは通気筒230の基端側から見た斜視図である。
図14Cは通気筒230の断面図である。本実施形態2では、フランジ34から底板39までの筒本体32の部分が、実施形態1よりわずかに長い。筒本体32のフランジ34よりも底板39側の外周面及び底板39の外面に、溝235が形成されている。溝235は、筒本体32の基端(底板39側端)から軸方向に沿って所定長さで延びた第1溝235aと、底板39の直径方向に延びた第2溝235bとを備える。第1溝235aの始端は、第2溝235bの一端に接続され、第1溝35bの終端は、筒本体32を半径方向に貫通する貫通孔36に接続されている。
【0061】
図13に示されているように、第2溝235bを上下方向と平行にして、通気筒230のフランジ34よりも底板39側の部分が管状部12に嵌入される。フランジ34が管状部12の開口端に当接したとき、通気筒230の底板39は管状部12の底面に、第2溝235bを除いて気密に密着する。管状部12の内周面は、筒本体32の外周面に、第1溝235aを除いて気密に密着する。管状部12の内面と溝235(第1及び第2溝235a,235b)とによって、流路が形成される。気体流路25は、第2溝235bと連通する。よって、溝235(第1及び第2溝235a,235b)は、気体流路25と貫通孔36とを連通させる流路を構成する。
【0062】
気体流路25、第2溝235a、第1溝235a、貫通孔36、通気筒230の内腔31、通気口46が順に連通される。気体流路25と通気口46とをつなぐ気体連通路の断面積は、第2溝235bにおいて最小である。第2溝235bが構成する流路の断面積は、第2溝235bの長手方向において一定である。第2溝235bでの流路の断面積は、気体流路25の断面積より小さい。
【0063】
実施形態1のバイアルアダプタ1と同様に、本実施形態2のバイアルアダプタ2も、気体流路25と一方向弁40との間の気体連通路上に、気体流路25より小さな断面積を有する第2溝235bを備える。このため、バイアルアダプタ2は、バイアル80で発生した薬剤気体が通気口46から外界へ漏れ出る可能性を低減する。バイアルアダプタ2は、作業者が薬剤被爆する可能性を低減させ、安全性に優れる。
【0064】
上記の例では、第2溝235bは、通気筒230の底板39上でまっすぐに延びていたが、第2溝235bはこれに限定されない。例えば、第2溝235bが、底板39上で、湾曲または屈曲等していてもよい。このような第2溝235bは、必要な長さの第2溝235bを確保するのに有利である。あるいは、溝に代えて、底板39を直径方向に貫通する貫通孔を底板39に設けてもよい。貫通孔の断面積は、気体流路25の断面積より小さい。
【0065】
本実施形態2は、上記を除いて実施形態1と同じである。実施形態1の説明が、本実施形態2にも適用される。
【0066】
(実施形態3)
図15は、本発明の実施形態3にかかるバイアルアダプタ3の、
図3と同様の面に沿った断面図である。
図16は、
図15の16-16線を含む面に沿ったバイアルアダプタ3の部分拡大断面図である。本実施形態3は、通気筒330と、通気筒330が嵌入される管状部12の内面形状とに関して、実施形態1と異なる。以下に、実施形態1との相違点を中心に本実施形態3を説明する。
【0067】
図17Aは通気筒330の先端側から見た斜視図、
図17Bは通気筒330の断面図である。通気筒330は、実施形態1の通気筒30が備えていた底板39及び貫通孔36を備えていない。通気筒330の両端が開口している。筒本体32の外周面に、相対的に小径の円筒面である径小部337が形成されている。径小部337は、筒本体32の基端(開口33とは反対側端)338から軸方向に所定の長さの領域にわたって延びている。筒本体32の内周面には、基端338に向かって内径が大きくなるテーパ面(メステーパ面)336が形成されている。テーパ面336は、基端338から筒本体32の軸方向に所定の長さの領域にわたって延びている。
【0068】
図15に示されているように、柱状突起314が、管状部12の底面から、管状部12と同軸に延びている。柱状突起314の外周面は、先端に向かって外径が小さくなるテーパ面(オステーパ面)316である。但し、テーパ面316の一部に平坦面が形成されるように、柱状突起314に切欠き317が形成されている(
図16参照)。切欠き317は、柱状突起314の基端(管状部12の底面)から、柱状突起314の先端まで、柱状突起314の軸方向に沿って連続している。
【0069】
通気筒330のフランジ34よりも基端338側の部分が管状部12に嵌入される。フランジ34が管状部12の開口端に当接したとき、通気筒330の基端338と管状部12の底面とは離間する。管状部12の内周面は、筒本体32の外周面に、径小部337を除いて気密に密着する。通気筒330のテーパ面336は、柱状突起314のテーパ面316と、切欠き317を除いて気密にテーパ嵌合する。通気筒330の内周面と柱状突起314の切欠き317とによって、気体流路25と通気筒330の内腔31とを連通させる流路が形成される。
【0070】
気体流路25、切欠き317、通気筒330の内腔31、通気口46が順に連通される。気体流路25と通気口46とをつなぐ気体連通路の断面積は、切欠き317において最小である。切欠き317が構成する流路の断面積は、切欠き317の長手方向において一定である。切欠き317での流路の断面積は、気体流路25の断面積より小さい。
【0071】
実施形態1のバイアルアダプタ1と同様に、本実施形態3のバイアルアダプタ3も、気体流路25と一方向弁40との間の気体連通路上に、気体流路25より小さな断面積を有する切欠き317を備える。このため、バイアルアダプタ3は、バイアル80で発生した薬剤気体が通気口46から外界へ漏れ出る可能性を低減する。バイアルアダプタ3は、作業者が薬剤被爆する可能性を低減させ、安全性に優れる。
【0072】
本実施形態3において、気体流路25と切欠き317との連通が確保されるのであれば、通気筒330の外周面に径小部337を設けなくてもよい。
【0073】
切欠き317の形状は、任意に変更できる。例えば、切欠き317が、テーパ面316に形成された、一定幅及び一定深さを有する溝であってもよい。溝は、柱状突起314の軸方向に沿ってまっすぐに延びていてもよく、あるいは、湾曲もしくは屈曲していてもよい。湾曲もしくは屈曲した溝は、必要な長さの溝を確保するのに有利である。テーパ面316の切欠き317を省略し、この代わりに、通気筒330のテーパ面336に、気体流路25と内腔31とを連通させる溝(または切欠き)を形成してもよい。
【0074】
本実施形態3は、上記を除いて実施形態1と同じである。実施形態1の説明が、本実施形態3にも適用される。
【0075】
上記の実施形態1~3は例示に過ぎない。本発明は、実施形態1~3に限定されず、適宜変更することができる。
【0076】
本発明のバイアルアダプタは、気体流路25と一方向弁40との間の気体連通路上に、気体流路25より小さな断面積を有する「狭小路」が設けられる。狭小路が、実施形態1では第2溝35bであり、実施形態2では第2溝235bであり、実施形態3では切欠き317であった。しかしながら、本発明の狭小路は、これらに限定されない。狭小路が設けられる場所は、気体流路25と一方向弁40との間の気体連通路において任意に選択しうる。
【0077】
上記の実施形態1~3では、狭小路(35b,235b,317)は、互いに別個の部品である本体(10)と通気筒(30,230,330)とによって規定された。この構成では、本体に通気筒を組み付けると、両者間の隙間として狭小路が形成される。狭小路を形成するための本体及び通気筒の構成が簡単化することができるので、全体としてバイアルアダプタの構成が簡単となり、また、バイアルアダプタの製造が容易になる。実施形態1~3と異なり、狭小路として、小径で長い貫通孔を本体又は通気筒に形成することは一般に困難である。互いに別個の2部品間に狭小路を形成することは、狭小路の形成、更にはバイアルアダプタの製造を容易にする。但し、本発明の狭小路は、本体及び通気筒の間に形成されたものに限定されない。例えば、本体又は通気筒のいずれか一方に、狭小路として機能する連続孔を設けてもよい。本体又は通気筒のいずれか一方を複数の部品で構成し、当該複数の部品間に狭小路を形成してもよい。
【0078】
上記の実施形態1~3では、狭小路を規定する一方の部品である本体(10)に穿刺針20が一体的に設けられ、狭小路を規定する他方の部品である通気筒(30,230,330)に一方向弁40が取り付けられた。この構成は、バイアルアダプタを構成する部品数を少なくし、また、バイアルアダプタの構成を簡単にし且つその製造を容易にするのに有利である。しかしながら、本発明では、本体(10)が、狭小路を規定する部分(管状部12を含む部分)が穿刺針20を含む部分とは別部品となるように、複数の部品で構成されていてもよい。また、一方向弁40を、狭小路を規定する通気筒(30,230,330)とは別の部品(例えば本体10)に取り付けてもよい。
【0079】
気体流路25と一方向弁40との間の気体連通路の一部が、柔軟なチューブで構成されていてもよい。この場合、狭小路は、チューブに対して気体流路25側及び一方向弁40側のいずれに設けられていてもよい。あるいは、チューブが狭小路を構成してもよい。
【0080】
狭小路の断面積は小さい方が、また、狭小路は長い方が、通気口46から薬剤気体が外界へ漏れ出る可能性を低減するのに有利である。具体的には、狭小路の断面積は、0.49mm2以下、更に0.40mm2以下、特に0.35mm2以下であることが好ましい。また、狭小路の長さは、3mm以上、更には4mm以上、特に5mm以上であることが好ましい。但し、狭小路の断面積が小さすぎると、また、狭小路が長すぎると、狭小路での空気の流動抵抗が増大するので、バイアル80内の薬液をシリンジ100に吸引する操作が困難になる。薬液を吸引する操作性を確保する観点から、狭小路の断面積は、0.20mm2以上、更には0.25mm2以上であることが好ましく、また、狭小路の長さは、8mm以下、更には7mm以下であることが好ましい。一般に、狭小路の断面積は、気体流路25の断面積の65%以下、更には55%以下、特に50%以下であることが好ましく、気体流路25の断面積の20%以上、更には25%以上、特に30%以上であることが好ましい。
【0081】
通気口46から薬剤気体が外界へ漏れ出る可能性を低減するためには、気体流路25の断面積も小さいことが好ましい。但し、所望する長さの穿刺針20に小径の気体流路25を形成することは一般に困難である。穿刺針20を樹脂成形する場合には、気体流路25の断面積は0.78mm2以上、更には0.80mm2以上であることが、良好な成形性を確保する観点から好ましい。但し、気体流路25の断面積が大きくなると、穿刺針20の外径が大きくなり、栓体86に穿刺針20を穿刺するためにより大きな力必要となる。このため、気体流路25の断面積は、1.0mm2以下、更に0.90mm2以下であることが好ましい。
【0082】
液体流路24に連通したメスコネクタは、上記の実施形態1~3で示したニードルレスポートに限定されない。例えば、メスコネクタが、セプタム55以外によって実現された自閉式の弁機能を有していてもよい。メスコネクタが、自閉式の弁機能を備えていなくてもよい。この場合、薬剤気体が、メスコネクタから外界に漏れ出るを防止するために、液体流路24とメスコネクタとの間の流路を一時的に封鎖する機構が設けれることが好ましい。液体流路24とメスコネクタとを連通させる流路の一部が、柔軟なチューブで構成されていてもよい。
【0083】
バイアル89に係合する爪62及びアーム60の構成は、適宜変更しうる。バイアルアダプタが備える爪62及びアーム60の数は、それぞれ2つである必要はなく、1つ又は3つ以上であってもよい。例えば、4つの爪が、穿刺針20に対して等角度間隔で配置されていてもよい。爪の数とアームの数とが同じである必要はない。例えば、1つのアームに複数の爪が設けられていてもよい。共通する1つの爪を複数のアームで支持してもよい。本発明のバイアルアダプタは、バイアルに係合する爪を備えていなくてもよい。
【0084】
一方向弁40と通気口46との間に、除菌フィルタが設けられていてもよい。除菌フィルタは、バイアル80内の液体をシリンジ100に吸引する際に、外界の細菌が空気とともに、通気口46からバイアル80を介してシリンジ100へ流入するのを防止するのに有利である。
【0085】
上記の実施形態1~3では、一方向弁40とは別部材である通気キャップ45に通気口46が設けられていたが、本発明の通気口46はこれに限定されない。例えば、一方向弁40の外界に向いた開口を規定する端縁が、通気口であってもよい。
【0086】
バイアル80内の液体は、抗がん剤のような危険薬物を含む薬液に限定されない。危険薬剤以外の薬剤を含む薬液であってもよいし、薬液以外の任意の液体(例えば栄養剤)等であってもよい。
【0087】
メスコネクタ50に接続されるオスコネクタ120の構成は、上記の実施形態1~3に限定されない。オスコネクタ120を用いずに、外筒105を備えない一般的なシリンジの筒先(オス部材)をメスコネクタ50のスリット56に挿入してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の利用分野に制限はなく、医療、食品、化学等の各分野で広範囲に利用することができ、中でも、医療分野において好ましく利用することができる。特に、本発明は、抗がん剤のような危険薬液を貯留したバイアルを用いて薬液を調製する際に利用することができる。
【符号の説明】
【0089】
1,2,3 バイアルアダプタ
10 本体(第1部品)
20 穿刺針
21 穿刺針の先端
24 液体流路
25 気体流路
30 通気筒(第2部品)
35b 第2溝(狭小路)
40 一方向弁
46 通気口
47 栓
50 メスコネクタ
55 隔壁部材(セプタム)
56 スリット
62 爪
80 バイアル
86 バイアルの栓体
230 通気筒(第2部品)
235b 第2溝(狭小路)
317 切欠き(狭小路)
330 通気筒(第2部品)