(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023118972
(43)【公開日】2023-08-25
(54)【発明の名称】陰イオン電荷を有するキトサン
(51)【国際特許分類】
C08B 37/08 20060101AFI20230818BHJP
A61K 31/722 20060101ALI20230818BHJP
A61K 31/728 20060101ALI20230818BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20230818BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20230818BHJP
A61K 36/06 20060101ALI20230818BHJP
A61K 36/062 20060101ALI20230818BHJP
A61K 36/07 20060101ALI20230818BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20230818BHJP
【FI】
C08B37/08 A
A61K31/722
A61K31/728
A61P19/02
A61K47/26
A61K36/06 A
A61K36/062
A61K36/07
A61K9/08
【審査請求】有
【請求項の数】45
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023112353
(22)【出願日】2023-07-07
(62)【分割の表示】P 2020528953の分割
【原出願日】2018-11-09
(31)【優先権主張番号】1761314
(32)【優先日】2017-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(71)【出願人】
【識別番号】517032093
【氏名又は名称】キオメッド ファーマ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100182730
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 浩明
(72)【発明者】
【氏名】ミカエル ショーソン
(72)【発明者】
【氏名】ピエール ドゥエット
(72)【発明者】
【氏名】サンドリーヌ エミリア ゴーチエ
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ バエサン
(72)【発明者】
【氏名】ウータイ シュマーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ギェルモ ロカサルバス
(57)【要約】
【課題】本発明は、pH7.5で測定して、-20mVよりも低いか又はそれに等しいゼータ電位を有するカルボキシメチルキトサン、それを含む組成物、それを製造する方法、特に治療、リウマチ学、眼科、美容医学、形成外科、内科的外科、皮膚科又は化粧品の分野における、その種々の用途に関する。
【解決手段】驚くべきことに、本発明のキトサン誘導体が、上記の用途における様々な技術的問題の少なくとも1つ、及び好ましくは全ての解決を可能にすることが見出された。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルコサミンユニット、N-アセチル-グルコサミンユニット、及びカルボキシアルキル基により置換されたグルコサミンユニットを有し、pH7.5で測定される場合、-18mVよりも低いか又は-18mVに等しいゼータ電位を有するカルボキシアルキルキトサンであって、当該カルボキシアルキルキトサンが、総ユニットのモル数に対するN-アセチル-グルコサミンユニットのモル数で表すと、40%~80%の範囲のアセチル化度を有し、当該カルボキシアルキルキトサンが、総ユニットのモル数に対する置換基のモル数として表すと20%以上である、カルボキシアルキル基による置換度を有する、カルボキシアルキルキトサン。
【請求項2】
前記カルボキシアルキルキトサンが、総ユニットのモル数に対する置換基のモル数として表すと50%以上である、カルボキシアルキル基による置換度を有する、請求項1に記載のカルボキシアルキルキトサン。
【請求項3】
前記カルボキシアルキルキトサンが、pH7.5で測定される場合、-20mVよりも低いか又は-20mVに等しいゼータ電位を有することを特徴とする、請求項1に記載のカルボキシアルキルキトサン。
【請求項4】
前記カルボキシアルキルキトサンが、総ユニットのモル数に対する置換基のモル数として表すと、70%以上である、カルボキシアルキル基による置換度を有することを特徴とする、請求項1に記載のカルボキシアルキルキトサン。
【請求項5】
前カルボキシアルキル基による置換度が、総ユニットのモル数に対する置換カルボキシアルキル基のモル数として表すと70%以上かつ200%未満である、請求項1に記載のカルボキシアルキルキトサン。
【請求項6】
前記カルボキシアルキルキトサンが、少なくともpH3.1~9の範囲において水溶性である、請求項1に記載のカルボキシアルキルキトサン。
【請求項7】
前記カルボキシルアルキルキトサンを形成する元のキトサンが、真菌Basidiomycetesに、及び/又は子嚢菌型の真菌の菌糸体に由来することを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載のカルボキシアルキルキトサン。
【請求項8】
前記カルボキシルアルキルキトサンを形成する元のキトサンが、Aspergillus nigerの菌糸体に由来することを特徴とする、請求項7に記載のカルボキシアルキルキトサン。
【請求項9】
前記カルボキシルアルキルキトサンを形成する元のキトサンが、Lentinula edodes(シイタケ)の菌糸体に由来することを特徴とする、請求項7に記載のカルボキシアルキルキトサン。
【請求項10】
前記カルボキシルアルキルキトサンを形成する元のキトサンが、Agaricus bisporus(ボタンマッシュルーム)の菌糸体に由来することを特徴とする、請求項7に記載のカルボキシアルキルキトサン。
【請求項11】
前記カルボキシアルキルキトサンが、N-カルボキシアルキル化及びO-カルボキシアルキル化キトサンであることを特徴とする、請求項1に記載のカルボキシアルキルキトサン。
【請求項12】
前記カルボキシアルキルキトサンが再アセチル化もされていることを特徴とする、請求項1に記載のカルボキシアルキルキトサン。
【請求項13】
前記カルボキシアルキルキトサンが殺菌されることを特徴とする、請求項1に記載のカルボキシアルキルキトサン。
【請求項14】
少なくとも1つの請求項1~13のいずれか1項に定義されるカルボキシアルキルキトサンを含むことを特徴とする組成物。
【請求項15】
前記組成物が、当該組成物の総質量に対する質量(m/m)で10%未満の濃度で前記カルボキシアルキルキトサンを含有することを特徴とする、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
前記組成物が、当該組成物の総質量に対する質量(m/m)で5%未満の濃度で前記カルボキシアルキルキトサンを含有することを特徴とする、請求項14に記載の組成物。
【請求項17】
前記組成物が、共有結合によって架橋された、又は架橋されていない、ヒアルロン酸又はヒアルロン酸ナトリウムを含むことを特徴とする、請求項14に記載の組成物。
【請求項18】
少なくとも1つの請求項1~13のいずれか1項に定義されるカルボキシアルキルキトサンを含むことを特徴とする注射用組成物。
【請求項19】
少なくとも1つの請求項1~13のいずれか1項に定義されるカルボキシアルキルキトサンを含むことを特徴とする医薬組成物。
【請求項20】
前記組成物が、共有結合によって架橋された、又は架橋されていない、ヒアルロン酸又はヒアルロン酸ナトリウムを含むことを特徴とする、請求項18又は19のいずれかに記載の組成物。
【請求項21】
前記組成物が、注射可能な医薬組成物、移植可能な医薬組成物、点眼に適した医薬組成物、又は注射可能な医薬機器、移植可能な医薬機器、又は点眼に適した医薬機器であることを特徴とする、請求項18又は19のいずれかに記載の組成物。
【請求項22】
治療法への使用のための、請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
前記組成物が、皮下、皮内、眼、眼内又は関節内経路を介して、修復又は補足を必要とする少なくとも1つの体組織の修復又は補足のために、点眼又は注入されることを特徴とする、請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
前記体組織が、声帯、筋肉、靭帯、腱、軟骨、性器、骨、関節、目、真皮、表皮、又は、それらの組み合わせのいずれかから選択されることを特徴とする、請求項23に記載の組成物。
【請求項25】
前記体組織が関節に属する組織である、請求項23に記載の組成物。
【請求項26】
変形性関節症の治療のための治療法、又は任意で滑液への注射によるか、又は血液と混合し、そして軟骨への移植の後の軟骨欠損の修復への使用のための、請求項22に記載の組成物。
【請求項27】
還元糖を含有する、請求項14に記載の組成物。
【請求項28】
請求項14~27のいずれか1項に定義される組成物を含むか、又はそれから成ることを特徴とする医療機器。
【請求項29】
請求項14~27のいずれか1項に定義されるカルボキシアルキルキトサンを含む組成物の調製方法であって、
-任意で緩衝化された水溶液への請求項1~13のいずれか1項に定義されるカルボキシアルキルキトサンの溶解;
-所望のpHへのpHの任意の調整;
-他の賦形剤の任意の添加;
-組成物の最終浸透圧の任意の調整、
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボキシアルキルキトサン、それを含む組成物、その製造方法、及び特に治療、リウマチ学、眼科、美容医学、形成外科、内科、皮膚科又は化粧品の分野におけるその種々の用途に関する。
【背景技術】
【0002】
キトサン誘導体は、既に知られており、特に、国際公開第2016/016463号及び第2016/016464号で公開されたKiomed Pharmaの特許出願及びその対応する特許に開示されている。それらの特許出願は、キトサン誘導体の物理的、化学的又は物理化学的性質に焦点を向けている。しかしながら、そのような組成物を使用し、そして特に効果/リスク比を高めるべきである患者に最適化された治療効果を提供するために、特に治療処置の状況において、改善されるべきそれらの組成物についての必要性が依然として存在する。
【0003】
真菌キトサンの再アセチル化によりアセチル化度(DA)を高めることにより、可溶性キトサンを得ることは可能である。真菌キトサンの再アセチル化により、生理的pHで溶解できる製剤を得ることが事実上可能であるが、以下のことが発生することが指摘されている:
-インビボ、又は類似する条件下での非常に急速な分解;
-このキトサンが、例えば注射又は関節内移植により、注入されるか又は移植されている対象における免疫反応の出現;
-標的化された用途に適切でなく、そして従って、注射又は関節内移植により、キトサンの十分に満足する治療用途を確保するのに役立たないキトサン。
【0004】
本質的にキトサンを溶解する目的での、キトサンのカルボキシアルキル化及び特に、キトサンのカルボキシメチル化に関する種々の出版物が存在する。理論的には、キトサンは、N-アセチル-グルコサミンユニットのない式を有するが、しかし実際には、キトサンは、その一部としてN-アセチル-グルコサミンユニットを含むキチンに由来し、そしてキトサンは、キトサンにおけるN-アセチル-グルコサミンユニットの割合である、特定のアセチル化度(DA)を有する。キトサンのDAは一般的に低い。その上、特に30%以上で、それは一般的に再アセチル化されたキトサンである。
【0005】
さらに、中国特許出願第CN1431220A号は、カルボキシメチル化されたキトサン誘導体、より特定には、その水和能力に関するものであるが、それはこの特性の限定されている。
【0006】
動物源、特に甲殻類起源に由来するキチンのカルボキシメチル化もまた、従来技術において想定される。しかしながら、甲殻類起源のキチンは代用するのが難しく;特にそれを代用できるためには、それを凍結し、そしてアルカリ化する必要がある(例えば、中国特許出願第CN106474569号を参照のこと)。その工程は、実現が難しく、そして特に、産業規模での運用が困難である。一方では、甲殻類起源のキチンに基づくそのような代用工程はエネルギーの点で費用がかかり、低い再現性を有し、そしてポリマーを分解し、そしてN-アセチル-グルコサミンユニットのアセチル基をかなりの程度まで加水分解する傾向があり、制御が困難である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、特に治療、リウマチ学、眼科、美容医学、形成外科、内科、皮膚科又は化粧品の分野において、ヒト又は動物への使用に適した適切なキトサン誘導体を提供する技術的問題を解決することである。
【0008】
より具体的には、本発明の目的は、治療分野におけるヒト又は動物への使用のために適切であり、そして特に、粘性サプリメントとして使用可能であり、そして特に、滑液に注入されるか、又は混合される能力を有する適切なキトサン誘導体を提供する技術的問題を解決することである。
【0009】
本発明の目的は、再構成された滑液、すなわち例えば、軟骨の表面を潤滑にする能力を提供することにより、関節の特性を復元する組成物を提供する技術的問題を解決することである。
【0010】
本発明の別の目的は、例えば関節又は関節の病理又は問題の滑液の悪化を治療するために、滑液、特にヒト又は動物対象の滑液との混合物において良好な特性及び適合性を示す、キトサン誘導体又はそれを含む組成物を提供する技術的問題を解決することである。
【0011】
本発明の目的はまた、例えば、注射による、キトサン誘導体又はそれを含む組成物のそのような投与を受ける、対象、特にヒト又は動物対象の免疫反応を制限する、キトサン誘導体又はそれを含む組成物を提供する技術的問題を解決することである。
【0012】
本発明の別の目的はまた、pHに基づく低い変動性を有する特徴を示す、キトサン誘導体又はそれを含む組成物を提供する技術的問題を解決することである。
【0013】
本発明の目的は、再生医療に関して、標的化された治療指標に依存して、ヒト又は動物対象の組織との接触におけるその使用に適切であり、そして現場寿命、免疫学的反応及び/又は異物反応及び生態力学的特性の点で許容できると見なされる適切な浸透圧及びpH値を有する、キトサン誘導体又はそれを含む組成物を提供する技術的問題を解決することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のキトサン誘導体が、上記の技術的問題の少なくとも1つ、及び好ましくは全ての解決を可能にすることが驚くべきことには、発見された。
【0015】
驚くべきことには、キトサン誘導体が、それが投与される媒体のpH付近のpH範囲、及び特に、説明又は提供された技術的問題の少なくとも1つ及び好ましくは全ての解決を可能にした特定値よりも低い、7.5に等しいpHで、静電荷(ゼータ電位により特徴づけられる)を示すことが発見された。特に、そのようなキトサン誘導体は、キトサン誘導体又はそれを含む組成物が、典型的には、注射又は移植により投与された対象の免疫応答を制限する手段を提供する。
【0016】
本発明は、第2の側面によれば、グルコサミンユニット、N-アセチル-グルコサミンユニット、及びカルボキシアルキル基により置換されたグルコサミンユニットを有するキトサン誘導体に関し、前記カルボキシアルキルキトサンは、pH7.5で測定されると、-10mVよりも低いか又は等しく、そして好ましくは-15mVよりも低いか又は等しいゼータ電位を有する。
【0017】
特に、真菌起源のキトサン誘導体が、記載されるか又は示唆された技術的問題の少なくとも1つ及び好ましくは全ての解決を可能にすることが発現された。特に、真菌起源のキトサン誘導体は、典型的には、注射又は移植により、キトサン誘導体又はそれを含む組成物が投与されている対象の免疫応答を制限する手段を提供する。
【0018】
第1の側面によれば、本発明は、グルコサミンユニット、N-アセチルグルコサミンユニット、及びカルボキシアルキル基により置換されたグルコサミンユニットを有する、真菌起源のカルボキシアルキルキトサンに関し、前記カルボキシアルキルキトサンは好ましくは、総ユニットのモル数に対する置換基のモル数として表すと、20%よりも高いカルボキシアルキル基による置換度を有する。
【0019】
キトサン誘導体又は置換されたキトサン誘導体もまた参照される。
【0020】
例えば、キトサンは、Chemical Abstracts Service Registry Number (CAS 番号) 9012-76-4下で参照される。
【0021】
本発明に使用されるキトサンは、好都合には、真菌起源であり、そして好ましくは子嚢菌型の真菌の菌糸体、及び特にAspergillus niger、及び/又は真菌Basidiomycetes、及びLentinula edodes(シイタケ)及び/又はAgaricus bisporus(ボタンマッシュルーム)に由来し、好ましくはAgaricus bisporusに由来する。好ましくは、キトサンは、Agaricus bisporus由来である。キトサンは好ましくは、非常に純粋であり、すなわちその真菌起源又は製造工程に由来し、そしてインプラント又は医薬組成物としてのその使用に適する微生物学的品質の非常に低い不純物含有量を有する。キトサンを調製するための1つの調製方法は、国際公開第03/068824号(欧州特許弟1483299号;米国特許第7556946号)に記載されているものである。
【0022】
一般的に、キチンは、水酸化ナトリウムの存在下で水性懸濁液に配置され、その後、媒体が、所望の分子量に応じて変化する様々な期間、高温にされる。続いて、キトサンは、酸性媒体下での可溶化により精製され、そしてアルカリ性媒体下で沈殿され、次に洗浄され、そして乾燥される。
【0023】
好ましくは、キトサンは、医薬用途に適した十分に純粋なグレードのものである。
【0024】
キトサンは有利に精製され、そして次に、好ましくは乾燥される。精製の後、本発明の方法は、カルボキシアルキルキトサンを乾燥し、次に任意には、粉末を得るために、それを粉砕する工程を含むことができる。カルボキシアルキルキトサンは例えば、水の蒸発により、例えば噴霧乾燥工程により、流動床工程により、又は真空下又は大気圧下での加熱乾燥により、又は凍結乾燥でさえも乾燥され得る。
【0025】
カルボキシアルキルキトサンは、水溶液、及び例えば体内及び特に人体への注射又は移植に適した医薬的に許容できる品質の水に溶解され得る。
【0026】
調製されたキトサンは、種々の異なる分子量のものであり得、そして一般的に10,000~500,000の範囲である。
【0027】
1つの変形によれば、平均分子量は、20,000~60,000の間に含まれる。
【0028】
別の変形によれば、平均分子量は、60,000~100,000の間に含まれる。
【0029】
別の変形によれば、平均分子量は、100,000~120,000の間に含まれる。
【0030】
別の変形によれば、平均分子量は、120,000~150,000の間に含まれる。
【0031】
別の変形によれば、平均分子量は、150,000~220,000の間に含まれる。
【0032】
別の変形によれば、平均分子量は、220,000~300,000の間に含まれる。
【0033】
別の変形によれば、平均分子量は、300,000~500,000の間に含まれる。
【0034】
キトサンが架橋される場合、架橋されたポリマーの分子量は、確かに、はるかに大きくなる可能性がある。
【0035】
その分子量を低めるためには、キトサンを加水分解することが可能である。
【0036】
ここで好ましくは、平均分子量は、Mark-Houwink等式による固有粘度に基づいて計算された粘度(Mv)での平均分子量である。固有粘度は、欧州薬局方のモノグラフ2.2.9の方法に従って、Ubbelohde型の毛管粘度測定を用いた毛管粘度計により測定される。適切な毛管(Lauda、例えば0.53mmの直径のUbbelohde51001毛管)を用いて溶液が流れる流動時間の測定は、まず、初期キトサン濃度で、次にいくつかの希釈液について、自動粘度計I-Visc(Lauda)により、例えばモノグラフ2.2.9の推奨事項に従って行われる。固有粘度の低下は、各濃度についてそこから推定される。低下した粘度は、温度の関数としてプロットされ、そして濃度0での値が、固有粘度から推定するために外挿される。例えば、式5に従って、i希釈液の低められた粘度(ml/gでのhred)を、i希釈液の濃度(g/ml)の関数としてプロットする必要がある。
式2.[hred]=(t1-t0)-(1-C)。
【0037】
平均粘度測定質量を計算するために、Mark-Houwink等式が、以下の3つの式の1つに従って、キトサンのアセチル化度(DA)に応じて、Rinaudo et al. (in : Int J Biol Macromol, 15, 281, 1993)により推奨された定数k及びαにより適用される。
式3. Mv=([h] / 0.082)(1/0,76)、DAが2%の場合 ;
式4. Mv = ([h] / 0.076)(1/0,76)、 DAが10%の場合(例えば、11.5%) ;
式5. Mv = ([h] / 0.074)(1/0,76)、DAが20%の場合(例えば、21%) 。
【0038】
中間DA値に関して、平均粘度測定質量(Mv)を計算するために、線形補間が実行される。
【0039】
好ましくは、使用されるキトサンは、120,000~150,000、又は150,000~220,000、又は実際、220,000~300,000、又はさらに300,000以上、及び一般的に500,000までの平均分子量を有する。
【0040】
カルボキシアルキルキトサンの最終分子量を測定することも可能である:例えば、毛管粘度によりその固有粘度を測定し、それから、その平均分子量(Mw)(カルボキシアルキルキトサンのパラメーターk及びαを事前に決定することにより、又はクロマトグラフィー法、例えばゲル浸透クロマトグラフィーにより)を、推定することが可能である。
【0041】
典型的には、本発明のカルボキシアルキルキトサンにおいては、グルコサミンユニットは、D-グルコサミンユニット(D-グルコサミンユニット、N-アセチル-D-グルコサミンユニット、及びD-グルコサミンユニット及びN-アセチル-D-グルコサミンユニットの少なくとも1つが置換されている)である。
【0042】
1つの変形によれば、置換されたキトサンは、D-グルコサミンユニットのみの置換を有する。
【0043】
別の変形によれば、置換されたキトサンは、D-グルコサミンユニット及びN-アセチル-D-グルコサミンユニットの同時置換を有し、ここでカルボキシアルキル基は、1つの変形によれば、キトサンのアミン基のみに共有結合されるか、又は別の変形によれば、キトサンのアミン及びヒドロキシル基に同時に共有結合される。
【0044】
置換は一般的に、部分的であり、すべてのユニットが必ずしも置換されるわけではない。
【0045】
1つの実施形態によれば、置換されたキトサンの総ユニット(D-グルコサミン及びN-アセチル-D-グルコサミンユニット、置換されているか又は置換されていない)のモル数に対するD-グルコサミンユニットのモル数で表されるD-グルコサミンユニットの置換度は、30%~250%の範囲である。
【0046】
1つの実施形態によれば、総ユニットのモル数に対する置換基のモル数で表される、カルボキシアルキル基による置換度は、50%よりも高い。
【0047】
1つの実施形態によれば、置換されたキトサンの総ユニット(D-グルコサミン及びN-アセチル-D-グルコサミンユニット、置換されているか又は置換されていない)のモル数に対するD-グルコサミンユニットのモル数で表されるD-グルコサミンユニットの置換度は、50%~200%の範囲であり、及び好ましくは、70%よりも高い。
【0048】
1つの実施形態によれば、総ユニットのモル数に対する置換基のモル数で表される、カルボキシアルキル基による置換度は、80%よりも低い。
【0049】
典型的には、置換は共有結合により行われる。
【0050】
1つの変形によれば、カルボキシアルキルキトサンは、N, O-カルボキシアルキルキトサンである。O位置(グルコサミン及び/又はN-アセチル-グルコサミンユニットのO3又はO6のいずれか)及び/又はN位置(グルコサミンユニットの)におけるカルボキシアルキル基により置換されるユニットの割合は異なる。従って、置換度は、100%よりも高くなることがある。
【0051】
好都合には、カルボキシアルキルキトサンの置換度(DS)及びアセチル化度(DA)は、PH MAS VTN 400SB BL4 NP / Hプローブを備えたBruker分光計(Avance III HD 400 MHz)を用いて、固体炭素-13核磁気共鳴(NMR)分光法により測定される。例えば、スペクトルが、周囲温度で記録され、緩和時間は1~8秒であり、そしてスキャン数は64~512である。炭素シグナルの領域は、デコンボリューションの後に決定される。考慮される炭素は以下の通りである:「アセチルCH3」(N-アセチル-グルコサミンユニットのアセチル基のメチル炭素、置換又は非置換)、「C1」(グルコサミン及びN-アセチル-グルコサミンユニットの位置1での炭素)及び「C=O」(カルボキシメチル置換基のカルボニル炭素、及びN-アセチル-グルコサミンユニットのアセチル基のカルボニル炭素C=O、置換又は非置換)。所定のカルボキシアルキルキトサンのDSを決定するために、このカルボキシアルキルキトサンの前駆体キトサンの炭素13NMRスペクトルを記録することも必要である。前駆体キトサンスペクトルに基づいて、「CSU比」が計算され、すなわち「アセチルCH3」基(N-アセチル-グルコサミンユニットのアセチル基のメチル炭素)のシグナルの領域と、「C=O」(N-アセチル-D-グルコサミンユニットのアセチル基のカルボニル炭素)のシグナルの領域との間の比が計算される。カルボキシアルキルキトサンのDAが式1に従って計算され、そしてDSが式2に従って、計算され、ここでIは考慮される炭素のシグナルの領域を表す。
式1:
式2:
【0052】
DA及びDSは、例えば分析前に重水素化塩酸の濃溶液を添加することによるカルボキシアルキルキトサンの事前加水分解を伴って、Liu et al. (in : Carb Polym 137, 600, 2016)により記載される方法に従って、カルボキシアルキルキトサンについて他の既知方法を使用することにより、例えば磁気共鳴分光計を用いての水性媒体中プロトンNMRにより決定され得る。
【0053】
信頼できる方法で置換度を推定するのにより有利である別のNMR法がある場合、その代替法が使用されるべきである。上記方法は、特に分解能、ロバスト性及び置換度を計算するために使用されるシグナルのプロトンの位置の関数として、サンプルの調製及び統合されるシグナルに関して当業者により適合されるべきである。
【0054】
キトサンのカルボキシアルキル化度は好都合には総ユニットのモル数に対するカルボキシアルキルのモル数で表して、20~250%、好ましくは50~200%、及び例えば70~170%で変動することができる。
【0055】
1つの変形によれば、キトサンのカルボキシアルキル化度は好都合には総ユニットのモル数に対するカルボキシアルキルのモル数で表して、40~130%、及び例えば70~130%で変動することができる。
【0056】
キトサンの置換度は典型的には、反応の開始でのキトサンに対する出発試薬の質量比と相関する。カルボキシアルキル化剤として、酸塩化物(又はその塩、例えばモノクロロ酢酸ナトリウム)、例えば1又は2以上のカルボキシメチル、カルボキシエチル、カルボキシプロピル、カルボキシブチル基、等を担持するそれらのものについて言及することができる。
【0057】
1つの変形によれば、本発明は、カルボキシアルキルのアルキル部分が直鎖又は分枝のいずれかのC1-C5アルキル基であるカルボキシアルキルキトサンに関する。
【0058】
1つの変形によれば、本発明は、カルボキシメチルキトサンに関する。
【0059】
この変形によれば、置換されたキトサンは、N-カルボキシアルキル化されたキトサンである。
【0060】
この変形によれば、置換されたキトサンは、O-カルボキシアルキル化されたキトサンである。
【0061】
この変形によれば、置換されたキトサンは、N-カルボキシアルキル化された及びO-カルボキシアルキル化されたキトサンである。
【0062】
好都合には、ゼータ電位はpH7.5で測定された場合、-18mVよりも低いか又はそれに等しい。
【0063】
好都合には、カルボキシアルキルキトサンは、pH7.5で測定される場合、-22mVよりも低いか又はそれに等しく、そして好ましくは-24mVよりも低いか又はそれに等しい。
【0064】
1つの特定の変形によれば、置換されたキトサンは好ましくは、150,000~220,000の平均分子量及び50~200%の範囲の置換度を有し、前記分子量は好ましくは、置換の前に表される。
【0065】
別の特定の変形によれば、置換されたキトサンは好ましくは、120,000~150,000の平均分子量及び70~200%の範囲の置換度を有し、前記分子量は好ましくは、置換の前に表される。
【0066】
1つの特定の変形によれば、置換されたキトサンは好ましくは、220,000~300,000の平均分子量及び70~200%の範囲の置換度を有し、前記分子量は好ましくは、置換の前に表される。
【0067】
別の特定の変形によれば、置換されたキトサンは好ましくは、220,000~300,000の平均分子量及び50~200%の範囲の置換度を有し、前記分子量は好ましくは、置換の前に表される。
【0068】
別の特定の変形によれば、置換されたキトサンは好ましくは、300,000~500,000の平均分子量及び50~200%の範囲の置換度を有し、前記分子量は好ましくは、置換の前に表される。
【0069】
別の特定の変形によれば、置換されたキトサンは好ましくは、300,000~500,000の平均分子量及び70~200%の範囲の置換度を有し、前記分子量は好ましくは、置換の前に表される。
【0070】
1つの特定の変形によれば、置換されたキトサンは好ましくは、120,000~150,000の平均分子量及び20~50%の範囲の置換度を有し、前記分子量は好ましくは、置換の前に表される。
【0071】
別の特定の変形によれば、置換されたキトサンは好ましくは、220,000~300,000の平均分子量及び20~50%の範囲の置換度を有し、前記分子量は好ましくは、置換の前に表される。
【0072】
別の特定の変形によれば、置換されたキトサンは好ましくは、300,000~500,000の平均分子量及び20~50%の範囲の置換度を有し、前記分子量は好ましくは、置換の前に表される。
【0073】
1つの特定の変形によれば、置換されたキトサンは、20~80%、及び好ましくは40~60%の範囲の置換度、及び20~80%、及び好ましくは30~75%の範囲のアセチル化度を有する。
【0074】
1つの特定の変形によれば、置換されたキトサンは、50~200%、及び好ましくは70~200%の範囲の置換度、及び20~80%、及び好ましくは30~75%の範囲のアセチル化度を有する。
【0075】
1つの特定の変形によれば、置換されたキトサンは、50~200%、及び好ましくは70~200%の範囲の置換度、及び20~50%、及び好ましくは20~40%の範囲のアセチル化度を有する。
【0076】
1つの特定の変形によれば、置換されたキトサンは、50~200%、及び好ましくは70~200%の範囲の置換度、及び50~75%の範囲のアセチル化度を有する。
【0077】
別の特定の変形によれば、置換されたキトサンは、90~200%、及び好ましくは90~150%の範囲の置換度、及び20~80%の範囲のアセチル化度を有し、前記分子量は好ましくは、置換の前に表される。
【0078】
1つの特定の変形によれば、置換されたキトサンは、90~200%、及び好ましくは90~150%の範囲の置換度、及び20~50%、及び好ましくは20~40%の範囲のアセチル化度を有する。
【0079】
1つの特定の変形によれば、置換されたキトサンは、90~200%、及び好ましくは90~150%の範囲の置換度、及び50~75%の範囲のアセチル化度を有する。
【0080】
1つの特定の変形によれば、置換されたキトサンは好ましくは、220,000~300,000の平均分子量、90~200%及び好ましくは90~150%の範囲の置換度、及び50~75%の範囲のアセチル化度を有し、前記分子量は好ましくは、置換の前に表される。
【0081】
1つの変形によれば、カルボキシアルキルキトサンは架橋される。従って、いくつかのキトサン鎖は、例えば架橋剤、例えば多糖類の架橋に使用される架橋剤、例えばゲニピン、ブチルビグリシジルエーテル、グルタルアルデヒド、エピクロロヒドリン、1-ブロモ-3、4-エポキシブタン、1-ブロモ-4,5-エポキシペンタン、l-クロロ-2,3-エピチオ-プロパン、1-ブロモ-2,3-エピチオプロパン、1-ブロモ-3,4-エピチオ-ブタン、1-ブロモ-4,5-エピチオペンタン、2,3-ジブロモプロパノール、2,4-ジブロモブタノール、2,5-ジブロモペンタノール、2,3-ジブロモプロパンチオール、2,4-ジブロモブタンチオール、2,5-ジブロモペンタン-チオールエピクロロヒドリン、2,3-ジブロモプロパノール、1-クロロ-2,3-エピチオプロパン、ジメチルアミノプロピルカルボジイミド、酸化デキストラン、没食子酸、エピガロカテキンガレート、クルクミン、タンニン酸、又はさらにはジイソシアネート化合物、例えばヘキサメチレンジイソシアネート又はトルエンジイソシアネートとの反応により架橋され得る。
【0082】
架橋されたカルボキシアルキルキトサンの場合、分子量は非常に大きくなる可能性がある。
【0083】
キトサンを置換することにより、pHが広範囲にわたって変化する水溶液に溶解できるカルボキシアルキルキトサンの溶液を調製することが可能であるが、ところが非置換キトサンは5.5~6.5以下のpHでのみ溶解できる。従って、カルボキシアルキルキトサンは、その溶解度プロファイルを変更するカルボキシアルキル基の存在のおかげで、種々の異なるpH値で、及び特に生理学的pHで、又は病理学、例えば炎症性病理学により変更される生理的液体のpHで溶解される能力を有する。生理学的液体、例えば滑液、房水、硝子体液、涙のpHは、種々の因子、例えば年齢、病理などにより、個人間で大幅に異なる可能性があることが知られている。従って、カルボキシアルキルキトサンは、広範囲のpHにわたって、例えば6.0~8.5、又はさらに5.0~8.5、又は実際には4.5~8.5のpHで可溶性を維持できることは好都合である。
【0084】
1つの実施形態によれば、置換されたキトサン製剤は、100~700mosm/kg、好ましくは200~500mosm/kgの浸透圧を有する。
【0085】
好都合には、置換されたキトサン製剤は、250~400mosm/kg、好ましくは275~325mosm/kgの浸透圧を有する。
【0086】
1つの変形によれば、置換されたキトサン製剤は、関節に適合する浸透圧を有する。
【0087】
1つの変形によれば、置換されたキトサン製剤は、眼又は眼内の表面に適合する浸透圧を有する。
【0088】
置換されたキトサン製剤の浸透圧は、250~400、及びより具体的には、250~380mosm/kgであることが好ましい。
【0089】
用語「水に可溶」とは、カルボキシアルキルキトサンが、水溶液に置かれた場合、肉眼で見える濁りを示すと理解されている。より特定には、置換されたキトサンの不在下で、測定されるサンプルのために使用される水性溶媒のみを含む参照タンクを参照して、500nmの波長でUV可視分光法により測定される場合、0.5よりも低い、及び好ましくは0.2よりも低い光学密度を伴って、水、又は緩衝液、例えばリン酸緩衝液中、1%(m/m)の濃度でのカルボキシアルキルキトサンの溶液の溶解性、すなわち濁りの不在を確認することが可能である。別の方法は、欧州薬局方のモノグラフ2.9.20に従っての目視検査から構成される。キトサンが十分に置換されていない場合、組成物は、周囲温度で、満足できるpH範囲、例えばpH6.0~pH8.5の範囲で溶解しない。
【0090】
キトサンのアセチル化度(DA)は、例えば国際公開第2017009335及び第2017009346号に記載されるようにして、電位差滴定により決定される。他方では、DAは、キトサンについて知られている他の方法、例えばプロトン核磁気共鳴(NMR)分光法、固体炭素-13 NMR、赤外分光法により測定され得る。
【0091】
好都合には、カルボキシアルキルキトサンは、総ユニットのモル数に対するN-アセチル-グルコサミンユニットのモル数で表して、5~80%のアセチル化度を有する。アセチル化度は、存在する総N-アセチル-D-グルコサミン及びD-グルコサミンユニットの数に対するN-アセチル-D-グルコサミンユニットの数で表される。
【0092】
好都合には、カルボキシアルキルキトサンは、総ユニットのモル数に対するN-アセチル-グルコサミンのモル数で表すと、40~80%のアセチル化度を有する。
【0093】
1つの変形によれば、アセチル化度は、5~20%の範囲である。
【0094】
1つの変形によれば、アセチル化度は、15~25%の範囲である。
【0095】
1つの変形によれば、アセチル化度は、20~45%の範囲である。
【0096】
1つの変形によれば、アセチル化度は、20~30%の範囲である。
【0097】
1つの変形によれば、アセチル化度は、25~40%の範囲である。
【0098】
1つの変形によれば、アセチル化度は、40~50%の範囲である。
【0099】
1つの変形によれば、アセチル化度は、50~60%の範囲である。
【0100】
1つの変形によれば、アセチル化度は、60~75%の範囲である。
【0101】
アセチル化度は、DSの決定についてと同じ方法に従って、13炭素NMR又はプロトンNMRにより決定される。カルボキシアルキルキトサンは、好都合には、制御されたアセチル化度を有する。用語「制御されたアセチル化度を有するキトサン」とは、アセチル化度、すなわちN-アセチル-グルコサミンユニットの割合が、特にアセチル化反応により、制御された方法で調整され得る生成物を言及すると理解される。
【0102】
1つの変形によれば、本発明の組成物は、溶液の形で存在することができ、そして温度の変動によりゲル化され得ない(熱ゲル化できない)。
【0103】
1つの変形によれば、本発明の溶液のレオロジー特性は、温度と共に変化するが、しかしゾル-ゲル転移を経ることはない。本発明の溶液のレオロジー特性は、特に、弾性率(G′)及び/又は損失弾性率(G’’)、又は複素弾性率(G*)により証明され得る。
【0104】
1つの変形によれば、本発明の溶液のレオロジー特性は温度に関係なく実質的に一定である。
【0105】
1つの変形によれば、本発明の組成物は、溶液の形で存在することができ、そして熱ゲル化できる。
【0106】
1つの変形によれば、本発明の組成物は、ゲルの形で存在することができ、そして熱ゲル化できない。
【0107】
従って、本発明は、1つの変形によれば、使用温度以下の温度、典型的には、生理学的温度よりも低い温度、例えば37℃で液体であるが、しかし想定される使用に適する浸透圧を伴って、使用温度、典型的には生理学的温度、例えば37℃で、中性pH(pH7)又は生理学的pH及び例えば7~8.5のpHでゲルの形で存在する、熱ゲル化できる組成物の調製を可能にする。例えば前記浸透圧は生理学的浸透圧である。
【0108】
1つの変形によれば、熱ゲル化できる組成物は、熱可逆的なゾル-ゲル転移を有する。
【0109】
好都合には、本発明は、低濃度の置換されたキトサンを含む組成物の製造を可能にする。
【0110】
好都合には、カルボキシアルキルキトサンの濃度は、組成物の総質量(m/m)に対して質量で10%よりも低く、例えば5%よりも低いか又はそれに等しい。
【0111】
1つの変形によれば、キトサンの濃度は、組成物の総質量(m/m)に対して質量で4%よりも低く、例えば3%よりも低いか又はそれに等しく、又はさらに、例えば2%よりも低いか又はそれに等しい。
【0112】
好都合には、本発明の組成物はまた、置換されたキトサン以外のバイオポリマーも含むことができる。この好都合な変形によれば、バイオポリマーは、酸化されているかどうかに関係なく、共有結合により架橋されているか、又は架橋されていない多糖類、例えばヒアルロン酸又はヒアルロン酸ナトリウムである。
【0113】
ヒアルロン酸は、500万Daまでの分子量を有することができる。ヒアルロン酸の分子量は、その固有粘度又はその動的粘度によって反映され得る。ヒアルロン酸は、1~4m3/kgの範囲の密度を有し、そして例えば、低い1~2m3/kg)又は高い(例えば、約2~4m3/kg)の分子量を有するものとして特徴づけられ得る。
【0114】
好都合には、ヒアルロン酸の濃度は、組成物の総質量(m/m)に対する質量で、4%よりも低く、例えば3%よりも低いか又はそれに等しく、又はさらに2%よりも低いか又はそれに等しい。
【0115】
1つの特定の変形によれば、ヒアルロン酸の濃度は、最終組成物の質量に対する質量で表して、1.9%(m/m)よりも低い。好都合には、ヒアルロン酸の濃度は、最終組成物の質量に対する質量で表して、0.5~1.5%(m/m)である。1つの特定の変形によれば、ヒアルロン酸の濃度は、最終組成物の質量に対する質量で表して、0.9%、1.0%、1.1%、1.2%、1.3%、1.5%(m/m)である。
【0116】
キトサンとヒアルロン酸との間の比率は、例えば5~90%、例えば10~90%及びさらに、例えば30~70%の置換されたキトサン、及び5~95%、例えば10~90%及びさらに、例えば30~70%のヒアルロン酸で変化し、その%は、置換されたキトサンの乾燥質量/ヒアルロン酸の乾燥質量で表される。1つの変形によれば、キトサンとヒアルロン酸との間のこの比率は1/1である(すなわち、キトサンの50%及びヒアルロン酸の50%)。別の変形によれば、キトサンとヒアルロン酸との間の比率は1.5/0.5である(すなわち、キトサンの75%及びヒアルロン酸の25%)。
【0117】
1つの変形によれば、ヒアルロン酸は、ヒアルロン酸の異なる鎖間で架橋され得る。
【0118】
本発明はまた、カルボキシアルキルキトサンを調製するための調製方法にも関する。
【0119】
1つの変形によれば、本発明のカルボキシアルキルキトサンを調製するための調製方法は、真菌起源のキトサンの調製、キトサンの再アセチル化、及び再アセチル化されたキトサンのカルボキシアルキル化を含む。従って、本発明は、再アセチル化されたキトサン、又は再アセチル化されたカルボキシアルキルキトサンに関する。
【0120】
従って、1つの実施形態によれば、キトサンを、好ましくはわずかに酸性化された(例えば、pH)水性媒体に溶解することが可能である。無水酢酸が、キトサン溶液に、1又は2以上回、加えられる。次に、塩基性剤、例えば水酸化ナトリウム及び/又は尿素が添加される。その後、アルキル化剤、例えばモノクロロ酢酸ナトリウム(すなわち、クロロ酢酸のナトリウム塩)又はクロロ酢酸が添加される。続いて、置換されたキトサンが精製され、回収され、そして乾燥される。
【0121】
1つの変形によれば、本発明のカルボキシアルキルキトサンを調製するための調製方法は、キトサンンの調製、キトサンのカルボキシアルキル化、次に、カルボキシアルキル化されたキトサンの再アセチル化を含む。好都合には、そのような方法は、最終カルボキシアルキルキトサンのアセチル化度の正確な制御を可能にし、そして特に、例えば40%以上の高いアセチル化度を得るのに役立つ。従って、本発明は、再アセチル化された、次にカルボキシアルキル化されたキトサン、又は再アセチル化されたカルボキシアルキルキトサンに関する。
【0122】
1つの変形によれば、本発明のカルボキシアルキルキトサンを調製するための調製方法は、真菌起源のキチンの調製、キチンの脱アセチル化、キチンのカルボキシアルキル化、及び任意には、本発明のカルボキシアルキルキトサンを得るために、カルボキシアルキル化されたキチンの再サセチル化を含む。
【0123】
1つの変形によれば、本発明のカルボキシアルキルキトサンを調製するための調製方法は、真菌起源のキチンの調製、キチンのカルボキシアルキル化、及び任意には、本発明のカルボキシアルキルキトサンを得るために、カルボキシアルキル化されたキチンの再サセチル化を含む。
【0124】
1つの実施形態によれば、カルボキシアルキル化工程は、例えばグルコサミンユニットのN位置及びグルコサミン及びN-アセチル-グルコサミンユニットのO位置の両方において、高い置換度を促進するために、キトサンのヒドロキシル基のアルキル化のためのアルキル化工程を含む。
【0125】
1つの実施形態によれば、本発明の方法は、塩基性剤、例えば水酸化ナトリウムの存在下でのイソプロパノールなどのアルコール溶液でのキトサンの分散、及び最低-32℃及び好ましくは最大15℃の温度で少なくとも1時間の攪拌を含むアルキル化工程を含む。次に、この懸濁液に、アルキル化剤、例えばモノクロロ酢酸を添加する。その後、置換されたキトサンが精製され、回収され、そして次に、乾燥される。
【0126】
1つの変形によれば、本発明のカルボキシアルキル化されたキトサンを調製するための調製方法は、キトサンの調製、キトサンのカルボキシアルキル化、及び続いて、カルボキシアルキル化されたキトサンの再アセチル化を含む。
【0127】
1つの実施形態によれば、カルボキシアルキル化工程は、アルキル化工程を含まない。
【0128】
例えば、カルボキシアルキルキトサンの再アセチル化の工程は、カルボキシアルキルキトサン溶液への無水酢酸の1又は2回以上の添加を含むことができる。
【0129】
精製されたカルボキシアルキルキトサンを収集するための精製、濾過及び乾燥の最終工程は、一般的に想定される用途に依存する、所望の純度に従ってカルボキシアルキルキトサンを得ることを視野に入れて、既知の方法に従って、例えば沈殿及び可溶化のサイクル、又は透析により実施される。
【0130】
1つの変形によれば、無水酢酸/キトサンの比(体積/質量)は、再アセチル化工程の間、0.1~10、及び好ましくは0.1~2で変化する。
【0131】
1つの変形によれば、カルボキシアルキル化剤/キトサンの質量比は、カルボキシアルキル化工程の間、1~50、及び好ましくは2.5~25で変化する。
【0132】
1つの変形によれば、所望の置換度を得るために必要かつ十分である塩基性剤に対する、カルボキシアルキル基を提供する試薬(すなわち、アルキル化剤)の質量比が使用される。例えば、塩基性剤に対するアルキル化剤の質量比は、1よりも大きく
そして10よりも小さく、そして好ましくは1.4~3.3の範囲である。
【0133】
本発明はまた、本発明の組成物を調製するための調製方法にも関する。
【0134】
1つの変形によれば、本発明は典型的には、以下を含む:
-水溶液、好ましくは6.2~8.5、及び好ましくは6.5~7.5のpHを有する緩衝化された溶液への置換されたキトサンの溶解;
-例えば、緩衝剤、酸又は塩基を添加することにより、所望するpH、一般的に標的化された用途のための生理学的pHへの前記pHの任意の調整;
-他の賦形剤、例えば還元糖、例えばソルビトール又はマンニトールの任意の添加;
-組成物の最終浸透圧の任意の調整。
【0135】
好都合には、前記方法はまた、さらに、注射又は移植装置、例えば注射器を、カルボキシアルキルキトサン又はそれを含む組成物により充填するための充填工程を含む。好都合には、次に、注射装置、例えば注射器は、蒸発滅菌工程にゆだねられ得る。次に、この装置、例えば注射器は、好ましくは無菌の方法で充填され得る。それはまた、カルボキシアルキルキトサン溶液の滴下を可能にするのに役立つバイアル又はボトルであり得る。
【0136】
意図される用途のための十分な純度を有するキトサンを使用することは好都合である。
【0137】
好都合には、この方法はまた注射、移植又は点眼装置、例えば注射器を、本発明の組成物により充填するための追加の充填工程も含む。好都合には、注射装置、例えば注射器は、蒸気滅菌工程にゆだねられ得る。次に、この装置、例えば注射器は、好ましくは、無菌の方法で充填され得る。
【0138】
1つの変形によれば、本発明のカルボキシアルキルキトサンは、注射、移植又は点眼装置、例えば注射器又はバイアルの充填の前、濾過及び/又は蒸気滅菌により滅菌される。
【0139】
意図する用途のために十分な純度を有するキトサンを使用することは好都合である。
【0140】
本発明は、より具体的には、本発明のカルボキシアルキルキトサンを含む注射可能組成物に関する。
【0141】
本発明はまた、本発明に従って定義される少なくとも1つのカルボキシアルキルキトサンを含む医薬組成物にも関する。
【0142】
1つの変形によれば、カルボキシアルキルキトサン又はそれを含む組成物は、注射可能、移植可能、又は点眼のために適切である医薬組成物、又は注射可能、移植可能、又は点眼に適した医療装置として使用される。
【0143】
本発明はまた、乾燥形での、特に凍結乾燥形での、カルボキシアルキルキトサン又はそれを含む組成物を網羅する。特に、使用の前、凍結乾燥製品を、(再)分散させ、そして好ましくは溶解することが可能である。
【0144】
本発明は、より具体的には、修復又は補足を必要とする少なくとも1つの体組織の修復、再生又は補足のために、皮下、眼内又は関節内経路を介して、本発明の組成物の注射を含む治療処置への使用のための本発明の組成物に関する。
【0145】
好都合には、1つの実施形態によれば、本発明のカルボキシアルキルキトサンは、注射の24時間後、及び10×106個の細胞/mlよりも低い、及び好ましくは8×106個の細胞/mlよりも低い白血球の数により表されるように、マウス空気ポーチモデルを使用して、真菌起源のカルボキシメチルキトサンの製剤の免疫適合性を示す。
【0146】
好都合には、本発明のカルボキシアルキルキトサンは、注射の24時間後、及び10×10-9g/mlよりも低い、及び好ましくは5×10-9g/mlよりも低いインターロイキン1β(IL1-β)の濃度により表されるように、マウス空気ポーチモデルを使用して、真菌起源のカルボキシメチルキトサンの製剤の免疫適合性を示す。
【0147】
好都合には、本発明のカルボキシアルキルキトサンは、注射の24時間後、及び50×10-9g/mlよりも低い、及び好ましくは30×10-9g/mlよりも低いケモカインC-X-Cモチーフリガンド1(KC / CXCL1)の濃度により表されるように、マウス空気ポーチモデルを使用して、真菌起源のカルボキシメチルキトサンの製剤の免疫適合性を示す。
【0148】
好都合には、本発明のカルボキシアルキルキトサンは、注射の24時間後、及び50×10-9g/mlよりも低い、及び好ましくは30×10-9g/mlよりも低い腫瘍壊死因子α(TNF-α)の濃度により表されるように、マウス空気ポーチモデルを使用して、真菌起源のカルボキシメチルキトサンの製剤の免疫適合性を示す。
【0149】
好都合には、本発明のカルボキシアルキルキトサンは、注射の24時間後、及び150×10-9g/mlよりも低い、及び好ましくは125×10-9g/mlよりも低いケモカインC-X-Cモチーフリガンド1(KC / CXCL1)の濃度により表されるように、マウス空気ポーチモデルを使用して、真菌起源のカルボキシメチルキトサンの製剤の免疫適合性を示す。
【0150】
好都合には、本発明のカルボキシアルキルキトサンは、注射の24時間後、同時に、白血球の数、及びIL1-β、KC / CXCL1及びTNF-αの濃度の点で、上で本明細書に記載される最大制限を満たす、マウス空気ポーチモデルを使用して、真菌起源のカルボキシメチルキトサンの製剤の免疫適合性を示す。
【0151】
白血球の数及びIL1-β、KC / CXCL1及びTNF-αの濃度の測定が、実施例に示されるプロトコルに従って行われる。
【0152】
好都合には、1つの実施形態によれば、本発明のカルボキシアルキルキトサンは、実施例6における測定プロトコルによれば、酵素リゾチーム及びヒアルロニダーゼの混合物の存在下で、500分以上の半減期を有する。
【0153】
好都合には、1つの実施形態によれば、特に関節内適用において、本発明のカルボキシアルキルキトサンは、5よりも低い、及び好ましくは4よりも低いか又はそれに等しい摩擦係数(COF0)を有する(実施例9におけるプロトコルによる)。
【0154】
本発明は特に、リウマチ学、眼科、美容医学、形成外科、内科の領域における治療、例えば美容又は皮膚科手術における手術後の組織癒着の防止への使用のための本発明の組成物に関する。
【0155】
1つの変形によれば、体組織は、声帯、筋肉、靭帯、腱、軟骨、性器、骨、関節、目、真皮、表皮、皮膚の1又は2以上の層、中胚葉、又はそれらの組み合わせのいずれか1つに属する組織、及びより具体的には、眼、真皮及び関節に属する組織から選択される。
【0156】
本発明はまた、ドライアイ症候群、角膜損傷又は外傷、又は関節炎症の治療的処置への使用のための本発明の組成物にも関する。
【0157】
本発明はさらに、特に、眼の表面を潤滑又は再生する点から、角膜損傷又は外傷、又はドライアイ症候群を予防するか又はそれと戦うために、眼の表面上への点眼による本発明の組成物の適用にも関する。
【0158】
従って、本発明はまた、本発明に従って定義されるカルボキシアルキルキトサンを含む点眼用組成物にも関する。
【0159】
1つの変形によれば、対象は、炎症性病理(例えば、変形性関節炎)に罹患している。
【0160】
本発明はさらに具体的には、滑膜腔中への注射により、又は軟骨欠損の部位への移植により、関節症(変形関節症)、関節炎の処置、又は軟骨欠損の修復のための本発明の組成物に関する。
【0161】
本発明は、より具体的には、本発明の組成物を含むか又はそれから成ることを特徴とする医療装置、例えば医療用インプラントに関する。
【0162】
従って、1つの好ましい変形によれば、本発明は、乾燥形、特に凍結乾燥形でのカルボキシアルキルキトサンを含むチャンバー、及び任意には、1又は2以上の活性生成物、添加剤又は賦形剤を含む1又は2以上の他のチャンバーを含む医療装置に関する。
【0163】
本発明の組成物はまた、その特性の調節を可能にする1又は2以上の添加剤又は賦形剤も含むことができる。
【0164】
本発明はまた、例えば修復又は補足を必要とする少なくとも1つの体組織の修復又は補足のために、皮下、皮内、眼球、眼内又は関節内経路を介しての前記組成物の点滴又は注射を含む治療処置法への使用のためへの本発明の組成物にも関する。
【0165】
本発明はまた、例えば滑液中への注射によるか、又は血液との混合の後、軟骨への移植により、変形性関節症の治療のためへの、又は軟骨欠損の修復へのその使用のための本発明の組成物にも関する。
【0166】
本発明はまた、真皮を補足すること(「真皮補足」)により提供される治療方法又は美容ケア方法への使用のための本発明の組成物にも関する。これは、特に、例えば本発明の組成物を皮下又は皮内に注射することを含む。
【0167】
本発明はまた、皮内経路を介して複数回の注射による皮膚の表面処置のための治療方法への使用のための本発明の組成物にも関する。そのような組成物は、美的目的を意図した治療として、典型的には皮膚科学に使用され得る。そのような方法は、例えば皮膚をふっくらさせ、そのしわのある外観(しわ及び/又は小じわの治療)をなくす目的を果たす。そのような治療は、若返った外見でそれらの皮膚の外観を強化したい対象に向けられ得る。
【0168】
本発明はまた、組成物が増粘剤である治療方法への使用のための本発明の組成物にも関する。この場合、例えば、特に関節の軟骨表面の摩擦を制限するために、関節内部位への本発明の組成物の注入を含む。
【0169】
本発明はまた、1又は2以上の細胞型、及び/又は1又は2以上の活性剤のための細胞ベクターとして使用するための本発明の組成物にも関する。それらは、医薬的又は生物学的観点から活性剤であり得る。本発明の組成物は、実際には、細胞、好ましくは生存細胞の存在と適合できる。目的の生存細胞の中で、例えば以下を言及できる:軟骨細胞(関節軟骨)、線維軟骨細胞(半月板)、靭帯線維芽細胞(靭帯)、皮膚線維芽細胞(皮膚)、腱細胞(腱)、筋線維芽細胞(筋肉)、間葉系幹細胞、赤血球(血液)、及びケラチノサイト(皮膚)。本発明の組成物はまた、少なくとも1つの治療剤の標的化された送達及び/又は制御された放出のための治療ベクターとして想定され得る。
【0170】
1つの変形によれば、本発明の組成物の血液、又は血漿、又は血小板溶解物、又は多血小板血漿、又は任意の生物学的流体への添加により、例えば製品の性能側面の増強を可能にする。
【0171】
1つの変形によれば、本発明の組成物は、それが移植されると可溶化される個体形(例えば、フィルム又は多孔性フォーム)で処方される。
【0172】
1つの変形によれば、組成物は、噴霧可能(スプレー)組成物の形で処方される。
【0173】
本発明はまた、火傷の場合のように過度の温度により影響される1又は2以上の組織又は器官の治療方法又は美容ケア方法への使用のための本発明の組成物にも関する。
【0174】
本発明はまた、軟骨を修復するための軟骨治療方法(例えば、そのような軟骨の再生を促進するために、軟骨欠損上への移植による)への使用のための本発明の組成物にも関する。
【0175】
本発明はまた、手術後、組織癒着を防止するための治療方法への使用のための本発明の組成物にも関する:製品は例えば、婦人科手術などの手術の終わりに組織に適用される。
【0176】
本発明はまた、本発明のカルボキシジアルキルキトサンを含む、人工滑液として意図される組成物にも関する。
【0177】
本発明の組成物は、例えば関節の摩擦を低減するためにその潤滑能力、及び/又はその衝撃吸収特性(発生率G’により同定できる)を改善することを試みることにより、健康な滑液を模倣し、又は健康又は欠陥又は変性滑液を改善する能力を提供し、同時に、例えば注射器を充填し、又はヒト又は動物の体への注入のために容易に注入できる。あくまでも目安として、健康な滑液の弾性率G′は40~100Paで構成され、そしてその損失弾性率G’’は1~10Paで構成される。
【0178】
1つの変形によれば、カルボキシアルキルキトサン、又はそれを含む組成物は、溶液の形で注入される。好都合には、この変形によれば、カルボキシアルキルキトサン、又はそれを含む組成物は、周囲温度で、細かい針、例えば21ゲージの直径を有する針を通して容易に注射可能である。用語「容易な」とは、本発明の組成物の21ゲージの針を通しての流れを引き起こすために、そのような注射器に加えられる力が、好ましくは50ニュートンよりも低く、好ましくは20ニュートンよりも低いことを示すことが理解される。
【0179】
本発明はまた、本発明のカルボキシアルキルキトサンを含む、人工涙液として適用するための組成物にも関する。
【0180】
一般的に、生物医学的用途で求められる浸透圧及びpH値の範囲は、以下の範囲に近い。
【0181】
-浸透圧:
-血漿との等浸透圧:285~295mosm/kg;
-滑液との等浸透圧:「Clin Orthop Relat Res、235、289-95、1988」及び「Biochem Biophys Res Comm、422、455-461、2012」によると、404±57mosm/kg;
-280~350mosm/kg。
【0182】
-pH;
一般的に、生理学的pHは、6.8以上、特に7.0以上、及び特に7.4(血漿又は滑液の場合)である。
【0183】
一般的に、血漿のpHは7.4である。一般的に、滑液のpHは、「J Bone Joint Surg Br, 41-B (2), 388-400, 1959」によれば、7.768+/-0.044;又は「Acta Orthop Scand 634-641、1969」、又は「Clin Rheumatol 25、886-888、2006」によれば、7.3である。
【0184】
一般的に、変形性関節症又は関節炎の場合、滑液のpHは、健康な滑液のpHよりも低いと考えられている。
【0185】
従って、本発明は、例えば(i)カルボキシアルキルキトサン又はそれを含む組成物と、(ii)滑液との間の体積比に基づいて、20/80~80/20(v/v)の範囲であり、そして例えば50/50(v/v)である、本発明の組成物と滑液との混合物に関する。
【0186】
好都合には、本発明の組成物は無菌である。非常に好都合には、本発明の組成物は、温度を上げることにより、好ましくはオートクレオーブにおいて滅菌される。
【0187】
1つの変形によれば、本発明の組成物は、透明又は半透明である。
【0188】
用語「半透明」とは、組成物が観察者の目と物体との間に置かれる場合、前記物体が区別され得ることを示すと理解される。用語「透明」とは、組成物が観察者と観察される文字との間に置かれる場合、英数字の文字を区別することが可能であることを示すと理解される。一般的に、この評価は、約1cmの厚さの組成物で行われる。目視検査のために、欧州薬局方のモノグラフ2.9.20の方法に従うことも可能である。例えば、500nmでのUV-可視分光法により組成物の光学密度を測定し、そして光学密度が参照溶媒と比較して、0.5よりも低く、好ましくは0.2であることを確実にすることも可能である。
【0189】
1つの変形によれば、本発明の組成物は、乳白色ではないか、又はごくわずかに乳白色である。
【0190】
用語「乳白色」とは、溶液が、例えば欧州薬局方のモノグラフ2.9.20における方法による目視検査により、及び欧州薬局方とは異なるレベルの乳白光を有する参照溶液との比較により、肉眼で見えるその光の回折をもたらすことを示すと理解される。1つの変形によれば、本発明の組成物は無色であり、すなわち、特に、肉眼で観察する観察者は特定の色を組成物に帰するものではない。1つの変形によれば、乳白光は、意図された用途のための最大許容レベルよりも低い。
【0191】
本発明は特に、本発明の組成物を予め充填された1又は2以上の点滴又は注入装置を含む、好ましくは無菌の物品又はパッケージングに関する。それらは典型的には、製品を、液滴の形で、又は予備充填された注射器に点滴注入できるようにする装置である。
【0192】
本発明の組成物は好都合には、滅菌され得る。従って、本発明は、滅菌されたカルボキシアルキルキトサンに関する。従って、カルボキシアルキルキトサンは特に、それを必要とする用途に関しては、無菌である。
【0193】
1つの変形によれば、本発明の組成物は、例えばオートクレーブにおいて、滅菌のために十分な時間、例えば一般的には、15~20分間、温度を、100℃よりも高い、及び好ましくは120℃よりも高い、例えば120~138℃の温度に上げることにより、蒸気滅菌される。別の変形によれば、組成物は、この目的のために適合されたフィルター、例えば0.2μmよりも小さいか又はそれに等しい多孔度を有するフィルターを用いることによる濾過により滅菌される。
【0194】
好都合には、1つの好ましい実施形態によれば、蒸気滅菌工程の間のカルボキシアルキルキトサンの固有粘度の損失は、40%よりも低い。
【0195】
本発明はまた、乾燥形、特に凍結乾燥形での本発明の組成物も包含する。
【0196】
特に、この凍結乾燥された組成物を、使用の前、(再)分散することが可能である。
【0197】
本発明はまた、本発明の組成物の注射を含む治療方法も包含する。
【0198】
本発明はまた、例えば、本発明により具体的に定義されるように、医薬組成物の調製、特に治療処置のためへの本発明の組成物の使用も包含する。
【0199】
本発明はまた、本発明の組成物の注射を含む、美的ケア、言い換えれば非治療方法も包含する。これは、例えば、美的目的のために、例えば事故又は外科的介入に続いて、しわを補足すること、又は損傷した可視組織の1又は2以上の領域の補足を含む。
【0200】
組織は、機能単位として一緒にグループ化された、類似し、そして同じ起源を有し、すなわち同じ所定の機能に寄与する細胞の組である。組織の中で、上皮組織、結合組織、筋肉組織及び神経組織を言及する。
【0201】
用語「本発明の組成物」又は同等の用語とは、好ましい特徴的な特性によるものを含む、それらの組み合わせのいずれか1つとは独立して、又はそれらの組み合わせのいずれか1つに従って、特定の又は具体的な実施形態のいずれか1つに従って含む、本発明におけるように定義された組成物を言及すると理解される。
【0202】
本発明の他の目的、特徴的特性及び利点は、単に例示により与えられ、そして本発明の範囲を決して限定できない例を参照する説明を読んだ後、当業者に明らかになるであろう。
【0203】
実施例は、本発明の不可欠な部分を形成し、そして実施例を含む、全体として考慮される説明に基づいて、任意の従来の技術的文書と比較して、新規であると思われる任意の特徴的な特性は、その機能及び一般性の点で本発明の不可欠な部分を形成する。
【0204】
従って、各実施例は一般的な範囲である。
【0205】
一方、実施例において、特にことわらない限り、百分率のすべては質量によるものであり、そして温度は、特にことわらない限り、摂氏で表され、そして圧力は、特にことわらない限り、大気圧である。
【実施例0206】
本発明の置換されたキトサンの前駆体キトサンは、粘度における平均分子量(毛管粘度測定により決定される)及びアセチル化度(DA、電位差滴定により決定される、N-アセチル-D-グルコサミンユニットの割合)を有し、それらは、表1の範囲に含まれる。キトサンの分子量はまた、表1に記載されるように、回転スピンドル粘度計、例えばBrookfield粘度計により測定されるように、1%(v/v)の濃度を有する酢酸中、1%(m/m)の濃度のキトサンを有する溶液の動的粘度によっても定義される。
【0207】
【0208】
以下の方法を、特にことわらない限り、本発明において使用する。
ゼータ電位の測定方法
分析されるべき製剤を、0.05%の最終ポリマー濃度を得るために、リン酸緩衝液に希釈し、次に均質化を達成するまで、わずかに攪拌する。次に、その溶液を異なる画分に分け、そして各画分のpHを、pH4~8の所望する値に、水酸化ナトリウム(0.1N)又は塩酸(0.1N)のいずれかを添加することにより調整する。各画分のゼータ電位を、「Nano-Z」装置(Zeta-Sizer range、 Malvern Instruments)を用いて測定する。
【0209】
キトサンポリマーの溶解度範囲の測定方法
溶解度範囲は、1%の濃度及び9のpHで試験されるポリマーの溶液を調製し、pHが9~1の範囲で異なるpH値に調製されるいくつかの画分に、それを分けることにより確立される。各画分について、ポリマーが、欧州薬局方のモノグラフ2.9.20の目視検査方法に従って、可溶性であること、すなわちいずれの濁りも形成しないことを確認するために調べられる。ポリマーが可溶性又は不溶性であるpH範囲を記録する。
【0210】
マウス皮下空気ポーチモデル
真菌起源のキトサンに由来する種々の異なるポリマーの異物反応及び免疫適合性を評価するために、マウス皮下空気ポーチモデルを使用した。このモデルにおいては、空気ポーチの空洞を、マウスの背への無菌空気の反復皮下注射により生成する。空気による膨張により生成されるポーチは滑膜腔を模倣し、従って、Segwick et al. (in : J Pathol 141, 483, 1983) 及びSin et al. (in : Ann Rheum Dis 45, 873, 1986)により説明されるように、空気ポーチ及び周囲の組織から引き出された流体における炎症応答の刺激の研究を可能にする局所環境を提供する。空気ポーチの空洞は、約30gの動物に最大1mlの製品の注入手段を提供する。Dawson et al. (in : Int J Tiss Reac 8, 171, 1991)により記載されるプロトコルによると、空気ポーチは、5ml及び次に3mlの無菌空気の反復された注入により、0日目及び4日目のタイムラインで非血縁の雄CD-1スイスアルビノマウス(病原体フリー、受付時25~35gの体重)において確立される。7日目、1mlの製品の1回の皮下注射を、空気ポーチ腔に直接投与する。生理食塩水1ml及びカラギーナンの1%溶液が、それぞれ陰性及び陽性対照として機能する。全身又は局所毒性の可能な臨床的徴候を検出するために、注射後数時間、規則的に動物がモニターされ、そして注射及び殺害時に、体重及び体温の増加をもたらされる。動物は、製品との24時間の接触の後、安楽死される(製品当たり3匹の動物)。ポーチから回収された洗浄液の免疫学的評価は、細胞学的分析(白血球及び赤血球の数及び分布)、及び説明書に従って行われる、「ELISA」キット(AbCam)を用いての主要な炎症性メディエーター(IL-1-β、TNF-α及びKC/CXCL1)の定量化を含む。周囲の皮膚組織のヘマトキシリン/エオシン染色による肉眼的分析及び組織病理学も実施する。周囲の組織への製品の局在化、及び液体へのその吸収に特に注意が払われる。
【0211】
ヒツジモデルにおける関節内投与の局所耐性を評価するためのモデル
文献、及びOsteoarthritis Research Society International (OARSI)の推奨事項によれば、ヒツジは、革新的な治療の関節内注射の効果を評価するための良く特徴づけされたモデルであるとして認識される(Little et al. In : Osteoarthritis Cartilage 18, S80, 2010 ; Edouard et al. In : Phys Ther Sport 14, 116, 2013 ; McCoy et al. In : Vet Pathol 52, 803, 2015)。ヒツジモデルは、ヒトにおける粘性補充の臨床使用をシュミレートする、一定量の製剤の関節内経路を介しての注射のための手段を提供する(Fraser et al. In : Semin Arthritis Rheum 22, 9, 1993)。局所耐容性の測定は、Shafford et al. (in : Vet Anaesth Analg 31, 20, 2004) 及びKaler et al. (in : Vet J 180, 189, 2009)により記載される、検証済みの判定量的臨床尺度を使用することによる滑膜炎症の臨床的徴候(滲出、跛行、快適さ)、及び滑液の細胞学的評価を含む。いくつかの場合、それらの分析は、注射された四肢の解剖学的及び組織学的評価により充填され得る。2mlの体積の製剤が、健康なヒツジ(2~6歳、体重60~80kg)の関節(膝)に注射される。注射の後、動物の臨床的症状を、滲出液(膝の触診による)及び跛行について0~4の判定量的尺度に基づいて、15日間にわたって毎日記録する。全観察期間にわたって各スコアで発生した徴候の数が報告される。同じ所定の製剤の反復注射の効果を評価するために、同じ動物の関節に1カ月後、2回目の注射を投与し、そして動物を、最初の注射と同じプロトコルに従ってモニターする。さらに、滑液の穿刺を、15日目で実施し、そして肉眼的(色、粘度)、細胞学的(白血球及び赤血球の数及び分布)パラメーター、及び総血清タンパク質の量を、従来の方法に従って決定する。滑液は、その外観が透明で粘性があり、そしてわずかに黄色がかっている場合、正常であるとを見なされ、そして細胞学的分析は、白血球の数が1×105個の細胞/mlよりも低く,おして総タンパク質の濃度が約25mg/mlであることを示す。
【0212】
実施例1-N-スクシニル-キトサン
異なる分子量及び分子構造(アセチル化度(DA)、及びスクシニル基による置換度(DS))を有するN-スクシニルキトサンを、国際公開第2016/016463号又は第2016/016464号(欧州特許第3016663号)に記載される一般方法に従って、調製し、そして特徴づけた。ポリマーCSS-1(表1a)を除いて、アセチル化度を高めるために、無水酢酸の添加による最初のアセチル化工程を実施した。
【0213】
製剤を、生理学的pH及び浸透圧で、2%の濃度で、それらのN-スクシニルキトサン(CSS)により調製し、そしてガラス製注射器に充填した。注射器を、標準サイクル(121℃で15分間)のオートクレーブにより滅菌する。欧州薬局方のモノグラフ2.9.20の目視検査により、生理学的pH(pH6.5~7.5)付近の広いpH範囲にわたって不溶性物質又は濁度を示さないことを確認するために、製剤を調べる。欧州薬局方のモノグラフ2.6.14(D)の方法に従って、製剤中の細菌内毒素のレベルが20EU/ml以下であり、そして微生物学的負荷が、インビボでのそれらの免疫適合性の評価を実施する前、欧州薬局方の方法2.6.12によれば、100cfu/gよりも低いことが確認される。
【0214】
【表2】
*:表1によれば、前駆体キトサンの分子量;**:欧州特許弟3016663号に記載される方法に従って、プロトンNMRにより測定されたDA及びDS。
【0215】
CSS製剤の免疫適合性を、マウス皮下空気ポートモデルにより評価する(表1b)。観察される反応を、生理食塩水(負の対照)、非常に反応性の正の対照(カラギーナンの1%溶液)、及び部分的に架橋されたヒアルロン酸HylanGF-20に基づく市販の製品(Synvisc(登録商標)、Sanofi)の注入後に観察される反応と比較する。
【0216】
【表3】
*:3匹の動物の平均値;**:検出限界:IL1-βについて3×10
-9g/ml、及びTNF-αについて125×10
-9g/ml。
【0217】
一般的に、それらのCSSベースの製剤は、細胞浸潤物中の白血球の数が負の対照の場合よりも多いが、しかしながら、正の対照ほどではない(1%カラギーナン)ことにより明白なように、異物反応タイプの免疫学的反応を引き起こす。製剤により誘発された反応を、負の対照及びSynvisc(登録商標)製品よりも高濃度のマーカーKC/CXCL1により明らかなように、好中球の活性化により特徴づける。マーカーIL1-β及びTNF-αに関しては、それらのレベルは低い。
【0218】
CSSのDA及び/又はDSの変更、又は実際、その分子量の変更は、免疫学的反応に、いずれの差異もたらさない。CSS製剤は局所的に組織に対していずれの有害な効果を引き起こさないが、例えばドライアイの症候群、角膜損傷、又は関節病変に関連する炎症など、関連する根本的な病理により弱められる組織を標的とする治療用途の場合、より高いレベルの免疫適合成を得ることができる必要がある。
【0219】
実施例2-動物起源のカルボキシメチルキトサン
移植可能又は注射可能である医薬又は医療用途のために、動物起源の2種のカルボキシメチルキトサンを取得することは可能であった(表2aにおけるCC-1及びCC-2)。
【0220】
2つの他のカルボキシメチルキトサンを試験した:
-動物起源のキチンのカルボキシメチル化により得られた1つのCC(CC-3)、
-動物起源のキチンの脱アセチル化により調製された、動物起源のキトサンのカルボキシメチル化により得られた1つのCC(CC-4)。
【0221】
カルボキシメチルキトサン(CC)を、約±10%で推定される誤差を伴って、それらの同一性を確認し、そしてDA(アセチル化度)及びDS(カルボキシメチル基による置換度)の値を決定するために、炭素13 NMRにより特徴づける(表2a)。ポリマーの静電荷を、pH8~pH4までのpH範囲にわたって0.05%(m/m)の濃度でゼータ電位を測定することにより特徴づけ、そしてpH7.5でのゼータ電位(表2a)を報告する。pH7.5でのゼータ電位の値が炭素13 NMRによって決定されるように、DSの値と比較的良く相関することが観察される。例えばポリマーCC-3は、アニオン性カルボキシメチル基(pH7.5でのカルボキシレート形での)により、ポリマーCC-4よりも多く置換されており、そして類似するDAを有するためにその全体的な負の電荷が大きい(pH7.5で-28mV対-11mV)。
【0222】
ポリマーCC-1及びCC-2は、生理学的pH範囲(pH6.5~7.5)であまり溶解しないことが観察される。マウス皮下空気ポーチモデルを用いて、それらの免疫適合性を評価することは不可能である。ポリマーCC-3及びCC-4は、1~9の広いpH範囲で実際、溶解できる。
【0223】
【表4】
*:カルボキシメチルキトサンポリマーのDA及びDS値は、固体炭素-13核磁気共鳴(NMR)分光法により決定される。
【0224】
次に、CC-3(2%)及びCC-4(1.5%)製剤を、実施例1と同じ方法に従って調製し、ガラス製注射器充填し、そして次に、121℃での15分間の標準サイクルに従って、オートレーブにより減菌した(表2a)。ポリマーCC-3の2%製剤は、ポリマーの加水分解を反映する約60%のその固有粘度の損失、及びその貯蔵弾性率G′の98%の損失により明らかなように、オートクレーブにより最終滅菌に耐えないことが見出される。最終オートグレーブ滅菌の代わりに、マウス空気ポーチモデルを用いて評価され得る製剤を生成するために、製剤CC-3を、注射器に充填する前、濾過する。
【0225】
CC-3(2%、濾過された)及びCC-4(1.5%、オートグレーブにより滅菌された)の製剤を調べ、エンドトキシン及び微生物学的負荷のレベルが20EU/ml及び100cfu/gよりも低く、そして次にそれらの免疫学的適合性がマウス皮下空気ポーチモデルの使用により評価されることを確認する(表2b)。
【0226】
【表5】
*:3人の対象にわたっての平均値、**:検出限界:IL1-βについて3×10
-9g/ml及びTNF-αについて125×10
-9g/ml。
【0227】
CC-4の製剤は、浸潤液中の高濃度の2つのマーカーKC/CXCL1(好中球の活性化)及びTNF-αを同時に特徴づける有意な反応を引き起こす。実施例2に記載されるCSS製剤又はSynvisc(登録商標)(Hylan GF-20)の注射後、マーカーTNF-αは検出されなかった。しかしながら、マーカーTNF-αにより特徴づけられる反応を誘発することは望ましくない。ドライアイ症候群、角膜損傷又は外傷、又は関節炎症などの根本的な病理により弱体化される組織と製剤が接触し、そして好中球及びTNF-αの活性化を避けることが予測される治療用途の場合、良好な免疫適合性が所望されるので、動物起源のカルボキシメチルキトサンCC-4は適切ではない。
【0228】
製剤CC-3は、コンパレータ製品Synvisc(登録商品)のレベルに類似するが、しかし負の対照(生理食塩水)のレベルよりも高い、多数の白血球及び中程度の濃度のマーカーKC/CXCL1により特徴づけられるより低い反応を誘発する。従って、CC-3製剤は、CSS製剤及びCC-4製剤よりも低い免疫反応性であるようである。しかしながら、CC-3製剤は、対象が非常に良好な免疫適合性を必要とする治療法のためには不適切であることがわかっている一定濃度のマーカーKC/CXCL1を有する欠点、及び製造工程の最後での最終段階の間、すなわち注射器を製剤による充填の後、オートクレーブによるその滅菌を不可能にする、熱の影響下での高分子鎖の非常に有意な加水分解をおこす欠点を提供する。
【0229】
実施例3-真菌起源のカルボキシメチルキトサン
真菌起源のキチン又はキトサンから出発して表3a及び3bのカルボキシメチルキトサンを得るために、以下の反応を実施する:
-再アセチル化、それに続く、「超高」分子量の真菌キトサンのカルボキシメチル化(表3aのCC-5);
-カルボキシメチル化、それに続く、「超高」分子量の真菌キトサンの再アセチル化(CC-5~CC-9);
-「超高」分子量の真菌キトサンのカルボキシメチル化(CC-11);
-真菌キチンのカルボキシメチル化(CC-10)。
【0230】
例によれば、CC-8の調製は以下の方法で行われる:10gの「超高」キトサンを、220mlのイソプロパノール及び68mlの40%水酸化ナトリウム(m/v)に分散する。45gのアルキル化剤モノクロロ酢酸(MCA)を、45mlのイソプロパノールに溶解し、そしてキトサンの懸濁液に添加する。反応を、25℃で16時間、続ける。ポリマーを、エタノール中での沈殿により回収し、次に、エタノール中での可溶化/沈殿のサイクルにより精製する。沈殿物を換気オーブンにおいて乾燥させる。15gの沈殿物を水に分散し、そして3.75mlの酸無水物をそれに添加する。周囲温度での30分間の攪拌の後、培地のpHを6に調節し、そして3.75mlの酸無水物(AC)をそれに添加する。周囲温度での30分の攪拌の後、培地を中和し、そしてエタノールにおいて沈殿する。このようにして得られた沈殿物を再溶解し、そして再び沈殿する。カルボキシメチルキトサン(CC-8)の最終沈殿物を、換気オーブンにおいて乾燥する。
【0231】
他のCCを調製するために適用される合成のパラメーターは、表3aに記載される。
【0232】
【表6】
*:MCA:モノクロロ酢酸;SCA:モノクロロ酢酸のナトリウム塩。
【0233】
【0234】
得られた真菌起源のカルボキシメチルキトサン(CC)を、それらの構造を確認し、そしてDA及びDSの値を決定するために、炭素13 NMRにより特徴づける(表3c)。炭素13 NMR分光法に固有の標準偏差(約±10%)を考慮すると、pH7.5でのゼータ電位の値が分子構造、特にDSと相関していることが観察される。
【0235】
【表8】
*:13C-NMRにより決定されたDA及びDS;**:滅菌前/後の固有粘度の損失が40%未満の場合、滅菌可能と見なされる。
【0236】
得られたCCは、乳白色を伴うことなく、広いpH範囲、特に4.0~8.5のpH範囲ですべて溶解できる。
【0237】
製剤を、1.5又は2%のCC濃度で調製し、ガラス製注射器に充填し、次に121℃で、標準の15分サイクルに従って、オートクレーブにより滅菌する。製剤がオートクレーブにより滅菌できるかどうかを評価するために、ポリマーの固有粘度を、リン酸緩衝液により25倍に希釈した後、毛管粘度計により、オートクレーブ処理の前後に測定する。CCの固有粘度の損失は40%よりも低く、このことは、実施例2に記載されるCC-3製剤(その固有粘度は約60%の損失を受けた)とは対照的に、許容できる耐性を示す。
【0238】
表3cに含まれる、滅菌された製剤の目視検査は、それらが透明であり、乳白色ではないことを示す。次に、それらを、エンドトキシンのレベル及び微生物学的負荷が20EU/ml及び100cfu/gよりも低いことを確認するために検査し、そしてその後、それらの免疫適合性を、マウス皮下空気ポーチモデルを使用して評価する。
【0239】
【表9】
*:3人の対象の平均値;**:検出限界:IL1-βについて3.10
-9g/ml及びTNF-αについて125.10
-9g/ml。
【0240】
一般的に、実施例1に記載されるN-スクシニルキトサンの製剤、及び実施例2に記載される動物起源のカルボキシメチルキトサンの製剤に比較して、真菌起源のCC製剤には、免疫反応の減衰又は抑制を伴う良好な免疫適合性が存在することが注目される。
【0241】
低濃度のマーカーKC/CXCL1が、負の対照(生理食塩水)と同じレベルで、及び製品Synvisc(登録商標)より低いレベルで、真菌起源のCCの製剤により誘発されることが注目される。これは、CSS(実施例1)及び動物起源のCC(実施例2)の製剤の注射後に報告されたレベルとは逆に、無視できるか、又はまったくない好中球の活性化を反映している。
【0242】
さらに、真菌起源のCCの特定の製剤(すなわち、CC-8及びCC-10)に関して、免疫反応の4つのパラメーター、すなわち白血球、マーカーIL1-β、マーカーKC-CXCL1及びマーカーTNF-αの総数が減衰又は抑制されることが注目される。これは、CSS製剤又は動物起源のCCの製剤では起こらない。
【0243】
真菌起源のCCについて、4つのパラメーターのこの同時減衰を示す製剤は、最高の負の電荷を有する製剤である(例えば、CC-8については、-26mV、及びpH7.5でのCC-10については、-24.5mV)と思われる。
【0244】
実施例2に記載される動物起源のCC-4の製剤及びカルボキシアルキル基により弱く置換された真菌起源のCC-5の製剤は、マーカーTNF-αの特定の活性化を引き起こし、そして他方では、動物起源のCC-4の製剤は、マーカーKC/CXCL1の有意な分泌を導くことが観察される。実施例2に記載される動物起源のCC-3の製剤とは異なり、CC-10(真菌起源の)の製剤は、好中球の活性化をもたらさなかったこともまた観察される。
【0245】
実施例4-ヒツジモデルを用いての真菌起源のカルボキシメチルキトサンの製剤の関節内投与の局所耐性の評価
実施例3に記載される真菌起源の2つのカルボキシメチルキトサン(CC-8及びCC-10)の2%を含む製剤を調製し、ヒツジモデルにより、関節内注射を介しての使用のためのそれらの可能性を評価する。体積2mlの2つの製剤を、ヒツジに投与し、そしてその関節内注射により誘発される局所反応を、2週間にわたって評価する。最初の注射日の後1ヵ月で、同じ関節におけるCC-8製剤の第2注射の効果をまた評価した。製品Synvisc(登録商標)を、1ml又は2mlの体積で、同じ方法で投与する。
【0246】
臨床学的徴候を、15日間にわたって関節の触診及び跛行の観察により、毎日モニタリングし、そして滲出液について0(徴候なし)~最大評点3(跛行については、5)の半定量的評点に基いて判断する。15日間にわたっての全体の臨床学的結果を、評点による発生率(表4)、及び15日で生成される滑液の特徴づけにより報告する。
【0247】
【0248】
実施例5-ウサギにおける皮内注射後の真菌起源のカルボキシメチルキトサンの製剤の局部耐性の評価
生理学的pH及び浸透圧での真菌起源の3種のカルボキシメチルキトサンの製剤を、ウサギモデルの使用により、皮内投与についてのそれらの可能性の評価の観点から調製する(表5a)。真菌起源のCC-12、CC-13、CC-14及びCC-15を、カルボキシメチル化、続いてCC-3については、実施例3に記載される一般方法に従っての再アセチル化により調製し、そしてDA及びDSの変化を引起すために、合成のパラメーターを調節する。CC-13及びCC-14は、それぞれ、41%及び51%の低いDS、及びそれぞれ、74%及び69%の高いDAを提供する。
【0249】
製剤を、1mlのガラス製注射器に充填し、そして次に、標準サイクル(121℃で15分)に従ってオートクレーブにより滅菌する。3種の製剤は、オートクレーブ滅菌に対して耐性であり、固有粘度の損失は40%よりも低い。最終的に、細菌性エンドトキシンのレベルが40EU/mlよりも低く、そして微生物負荷が100cfu/mlよりも低いことを確認するために、製剤を調べる。
【0250】
体積200μlの製剤を、皮内インプラントにより誘発される一次刺激の評価のために、標準ISO10993(パート10)と準拠しているプロトコルに従って、27ゲージ直径の針(非常に小さな直径の針)を介しての皮内注射により、ウサギに投与する。6匹のウサギは、各製剤の3回の注射を個々に受ける。架橋されたヒアルロン酸に基づく市販の真皮フィラー製品の、Juvederm(登録商標)Voluma(Allergan)をまた、27ゲージ直径の針を介して注射する。皮膚刺激の巨視的シグナルを、0(シグナルなし)~4(最大のシグナル)の評価に基づいて、半定量的尺度での紅斑、焼痂、浮腫及び硬結の可能な出現を評価することにより、一次刺激液評価を決定する観点から、12、24及び48時間で注射された全ての動物及び部位について報告する。各製品についての一時刺激評点を、次の方法で決定する:24、48及び72時間で注射された18部位の紅斑評点の平均を加える。浮腫の評点の平均の合計を同じ方法で計算する。2つの合計(紅斑及び浮腫)を加え、そして次に平均一次刺激評点を得るために、54で割算する。刺激評点は、表5bに報告される。CC製剤に関しては、すべての場合において、Juvederm(登録商標)Volumaにより誘発された評点よりも低い評点を伴って、浮腫の徴候はなく、そして紅斑の徴候はほとんどないことが観察される。製剤は、非刺激性であり、そしてJuvederm(登録商標)Volumaよりも低い刺激性であることが結論づけられる。
【0251】
【表11】
*:13C―NMRにより決定される場合;**;オートクレーブによる滅菌の前後での固有粘度の損失が40%よりも低いか又はそれに等しい場合、滅菌可能と見なされる;***:DS(±20%)の関数としてのpH7.5でのゼータ電位曲線の多項式回帰から評価された値。
【0252】
【0253】
観察期間を、5、7、9、11及び14日目での臨床学的シグナルの評価を伴って、注射後2週間目まで拡張する。可能性ある組織学的分析を実施するために、2匹の動物を、注射後3日目、7日目及び14日目に殺害する。総評点を、表5cに報告する。4つの製剤は、皮内注射後2週間にわたって卓越した局所耐性を示し、そしてそれらの評点は、全ての又は巨視的徴候について、製品Juvederm(登録商標)Volumaにより観察される評点よりも低く、そして焼痂又は浮腫の徴候はなかったことが観察される。CC-12及びCC-13製剤は、11日目で消出した低い評点の紅斑のいくつかの徴候を示す。CC-13製剤は、9日目で33%の発生率を伴って、2つの最大評点を有する紅斑のいくらかの徴候を示すが、それらはまた、11日目で消出し、そして組織に対して有害な効果をもたらさなかった。
【0254】
【表13】
*:注射後の各時間枠で巨視的に評価された部位の数。
【0255】
さらに、4つの組成物(CC-12、CC-13、CC-14及びCC-15)は、皮内投与のために適切な、細かい27ゲージの針を通して容易に注射され得る。
【0256】
実施例6-インビトロでの酵素分解に対する感受性
この実施例においては、生体液(例えば、滑液、涙液又は結合組織の間質液)に存在する2つの酵素リゾチーム及びヒアルロニダーゼの混合物の存在下で製剤が分解される速度の比較を行う。酵素リゾチームは、一般的に、キトサンベースの生体材料を加水分解するその能力について理解される。
【0257】
真菌カルボキシメチルキトサンCC-16は、DA及びDSを調整するために、合成のパラメーターを調整することにより、実施例3に示されるCC-8と同じ方法で調製される。CC-16、CCl-8(実施例3)及びCC-10(実施例3)の2%製剤を、3.5%のソルビトールを含むリン酸緩衝液において調製する。動物起源のCC-3の2%製剤(実施例2)及び非架橋のヒアルロン酸に基づく2種の市販の粘度補充製品(HA-1及びHA-2)の評価をまた実施する。
【0258】
製剤を、リン酸緩衝液により25倍に希釈する。次に、その溶液を、12時間、攪拌し、そして酵素リゾチーム及びヒアルロニダーゼの混合物を、前記希釈溶液に、184単位/ml及び2.6単位/mlの用量で添加する。固有粘度の測定を、Ubbelohde型キャピラリー(モデル0a)を備えた自動毛管粘度計I-Visc(Lauda)により、定期的に実施する。次に、各製剤の半減期、すなわちポリマーの固有粘度がその初期値の半分に到達するのに必要な時間を計算する(表6)。
【0259】
【表14】
*:固体炭素-13核磁気共鳴(NMR)分光法により決定される。
【0260】
カルボキシメチルキトサンの製剤がリゾチーム/ヒアルロニダーゼ混合物により加水分解され、そして加水分解の速度論がカルボキシメチルキトサンの分子構造を介して調整されることが、結果から理解される。これが、標的化された治療用途に従って滞留時間の張性を可能にする。真菌起源のカルボキシメチルキトサンが、動物起源のカルボキシメチルキトサン、及びヒアルロン酸に基づく2つの市販の製品よりも、より遅いこともまた、それから推測される。
【0261】
実施例7-熱の影響
この実施例においては、製剤を含む注射器を、60℃に制御された温度でのオーブンに11日間、配置し、それが、通常の貯蔵温度よりも高い温度での耐熱性の評価を可能にする。各時間枠で注射器を引き抜き、そしてポリマーの固有粘度を、実施例6に記載される方法に従って測定する。所定の時間枠での粘度と、初期粘度との比率を報告する(初期粘度の%)。
【0262】
真菌起源の2つのカルボキシメチルキトサンCC-17及びCC-18を、DA及びDSを調整するために合成のパラメーターを調整することにより、実施例3のCC-8と同じ方法で調製し、そして炭素13-NMRにより特徴づける(表7)。それらを、それぞれ、還元糖、ソルビトール又はマンニトールの存在下で2%の濃度で処方する。実施例2に示される動物起源のCC-3の2%製剤(3.5%のソルビトールを含む)、及び実施例6に示される非架橋ヒアルロン酸に基づく市販の粘性補充製品(HA-2)の評価を行う。
【0263】
【表15】
*:固体炭素-13核磁気共鳴(NMR)分光法により決定される。
【0264】
真菌起源のカルボキシメチルキトサンの製剤が熱に耐性があり、そして動物起源の製剤(CC-3)及び市販のヒアルロン酸ベースの製品の両方よりも低い感受性であることが結論付けられる。
【0265】
実施例8-カルボキシメチルキトサンの微生物学的負荷を低めるための方法
真菌起源のカルボキシメチルキトサンCC-19を、「超高」キトサンから出発して、実施例3のCC-8を調製するのに使用される方法に従って製造する。その特徴は以下の通りである:DA67%及びDS115%(炭素13 NMRにより測定される)、任意のpHで可溶性、透明、非乳白色。製剤のpH7.5でのゼータ電位が、-27mVと推定される(DSの関数としてのゼータ電位曲線の多項式回帰から)。3.5%のソルビトールを含むリン酸緩衝液中、2%CC-19製剤を、実施例3に記載のようにして調製する。その特徴は以下の通りである:pH7.3及び浸透圧279mOSm/kg。それらの実現可能性及び製剤の最終特徴への影響を試験するために、2つの既知の方法を効果的に実行し、水性製剤の微生物学的負荷及び製剤の固有粘度(25倍に希釈された)を低めるために、I-Visc毛管粘度計(Lauda、キャピラリーOa)の使用により比較し、そしてその屈折率を、その工程の前後、HI88713屈折計(Hanna)の使用により測定する。2つの方法は以下の通りである:
-オートクレーブ:製剤をガラス製注射器に充填し、そして次に、注射器を、標準工程(121℃で15分間)に従ってオートクレーブ処理する;
-濾過:体積300mlの製剤を、0.2μmの気孔率フィルター(Preflowカプセルフィルター、Pall)を用いて濾過する。
【0266】
0.2μmのフィルター上での濾過工程は、2バールの一定圧力及び1時間当たり約6lの一定の流速で、適切な方法で行われる。
【0267】
【0268】
それらの2つの方法は、材料の削減(屈折率)及びポリマーの分解(固有粘度)の点で低い影響を有することと結論づけている。従って、カルボキシメチルキトサン製剤に基く医療機器及び医薬品を得るために、それらは工業的に適用できる。
【0269】
実施例9-真菌起源のカルボキシメチルキトサンの製剤のインビトロでの潤滑能力
この実施例は、真菌起源の2つのカルボキシメチルキトサン、例えば実施例3に示されるCC-8(2%及び1%)及び実施例8に示されるCC-19(2%)の製剤の潤滑能力を、関節内粘性補充剤として、又は眼球表面用の点眼薬としてのその可能な限りの使用の観点から説明しようとしている。潤滑能力は、2つの表面間の摩擦の減少の評価を可能にするインビトロモデルの使用により評価される。実施例2に示される動物起源のCC-3(2%)の製剤、及びヒアルロン酸に基づく市販の製品をまた特徴づける:
-関節内粘性補充剤:Synvisc(登録商標)(Sanofi)、及び非架橋のヒアルロン酸に基づく2つの粘性補充剤HA-2(実施例6及び7に示される)及びHA-3;
-点眼剤:非架橋のヒアルロン酸に基づく2つの製品(HA-4及びHA-5)。
【0270】
さらに、滑液サンプルを、変形性関節症の患者の膝から、人口膝関節の配置のための外科的処置の前、採取する。滑液は、-20℃で貯蔵され、次に、摩擦係数を分析する前、25℃にされる。
【0271】
摩擦係数を、次の方法に従って測定する。直径16.15mmの疎水性眼内レンズの製造に使用されるポリアクリレートタイプの生体材料から製造された2つのディスク(欧州特許第1830898号に記載される)を、60℃での水に約2時間、浸すことにより、あらかじめ水和化し、次に、Discovery Hybrid Rheometer-2 (DHR-2) (TA Instruments)の上部及び下部の形状に固定する。試験される液体の約100μlの体積を、下部ディスク上に配置し、次に上部形状を、2つのディスクが接触するまで下げ、最大5ニュートンの垂直力を加える。摩擦係数の測定を、25℃で150秒間、一定の垂直力(5N)、1.256 rad/sの振動数及び約0,05ラジアンの変形角度で、Waller et al. (in : J Rheumatol 39, 7, 1473, 2012)により記載されるプロトコルから適応されたプロトコルに従って行う。オプション「振盪運動の開始のゼロ点へのコンプライアンス」を有効にする。各測定点で、トルクの値を記録し、そして次に、摩擦係数(COF)を、次の式に従って計算する:COF=トルク/(1/3×ディスクの直径×垂直力)。各製剤について、測定は5回、反復される。摩擦係数の値を、時間の関数としての各COF曲線の開始での切片の外挿により報告する(COF0、表7)。
【0272】
【0273】
2%及び1%のカルボキシメチルキトサンの製剤の存在下で、摩擦係数は、測定の条件下で、関節内及び眼科用の市販の製品よりも低いか、同じ大きさか、又はされに低く、そして関節炎の滑液よりも著しく弱い。カルボキシメチルキトサン製剤は、2つの表面、例えば関節内注射後の軟骨表面又は液滴の形での点眼後の眼表面の間の摩擦を低めることにより、潤滑剤として作用する可能性を有することが、それから推測される。真菌起源のCCの製剤は、動物起源のCC-3の製剤よりも摩擦を低めることにおいて、より効果的である。
【0274】
実施例10-皮内経路を介しての真菌起源のカルボキシメチルキトサンの製剤の投与のための微細針の使用
この実施例は、真菌起源の2%のカルボキシメチルキトサンの製剤が、特に、真皮の表層への注射のために企画された非常に細かな針を用いることにより、真皮中に簡単に注射され得ることを示している。この試験は、圧縮試験ベンチを使用して、針を備えた注射器から製品を、所定の排出速度で排出するのに必要な力を測定することから成る。この試験により測定されるような排出力が50ニュートンよりも低く、そして排出が規則的且つ快適であると、経験的に考えられる。注射時の痛み及び出血、及びそれに続く血腫及び皮膚の発赤のリスクを最小限にするために、直径0.3mm(30G)未満の針を用いることにより製品を投与できることは好都合である。
【0275】
参照真菌起源のカルボキシメチルキトサンCC-20を、「超高」型のキトサンから出発して、以下の変更により、実施例3に示されるCC-8の一般方法に従って生成する:10gのキトサンについては、228mlのイソプロパノール、57mlの40%水酸化ナトリウム及び47gのMCAを用いる。反応は、35℃で23時間、行われる。15gの中間体カルボキシメチルキトサンの場合、7.5mlの無水酢酸を、各添加ごとに使用し、そして3つの追加の精製サイクルを、最終カルボキシメチルキトサンの乾燥及び回収の前、適用する。CC-20の特徴は以下の通りである:DA53%及びDS85%(炭素13 NMRにより決定される)、任意のpHで水に溶解できる(上記の方法によれば)、透明で且つ乳白色でない溶液の形成、-24mVで推定されるpH7.5でのゼータ電位(DSの関数としてのゼータ電位曲線の多項式回帰から)。
【0276】
2%(m/m)CC-20製剤を、実施例3に記載のようにして調製する。製剤を、針が取り付けられている1mlのガラス製注射器(BD-Medical)に充填する。100N圧縮セルを備えたMultiTest 2.5-i圧縮試験ベンチ(Mecesin)により、製品を排出するのに必要とされる力を、80mm/分の一定の排出速度を適用することにより、測定する。装置により許容される最大の力は、約70ニュートンである。次の針を試験する:30G、32G、33G、及びInvisible Needle( 登録商標)(TSK Laboratory)、それらの寸法(外径×長さ)が表10に報告されている。
【0277】
比較目的で、非架橋ヒアルロン酸(参照HA-6、HA-7)及び架橋ヒアルロン酸(HA-8)に基づく市販の製品(皮内経路を介して皮膚の若返りを示されている)を、それらの元の注射器で、同じ方法に従って評価する。
【0278】
実施例11-点眼薬としての表示の観点からの真菌起源のカルボキシメチルキトサンの低濃度製剤
この実施例は、真菌起源のカルボキシメチルキトサンの低濃度溶液が、眼表面の損傷の症状を軽減するために、又はそれを保護するための使用を意図した点眼薬の調製のために適用できることを示すことを目的とする。生理学的特性、すなわち好ましくは、約7.2のpH及び約200mOsm/kgの浸透圧に加えて、点眼薬は好ましくは、以下の物理化学的特性を有するべきである:低屈折率(1.33に近い)、及び眼表面と結膜及びまぶたとの間の摩擦を最小限にする能力(潤滑能力)。最終的に、そのレオロジープロファイルは、製品が流動性が高すぎて眼上に付着できないようなものではなく、むしろ均一に広がり、そしてべたつかないものである。そのレオロジープロファイルは、まぶたのまばたきが、蓄積することなく、容易であり、すなわち高剪断速度で低粘度になる様なものであるべきである。特に、Orobiaなどは、眼球運動の間の粘度(まぶたのまばたきを除く)は好都合には、10mPa.sよりも高く、例えば約20mPa.sであると思われる(Clinical Ophthalmology 12, 453, 2018)。粘度の値は、測定方法、及び機器、測定モード及びパラメーター、試験される製品に適用される温度及び剪断速度に応じて変化する傾向があることは注目されるべきである。
【0279】
参照の真菌起源のカルボキシメチルキトサンCC-21を、実施例10に示されるCC-20と同じ方法に従って生成する。Chen et al. (Carbohydrate Polymers 53, 355, 2003)により説明される方法に従って、ID7-ATR(Thermo Scientifics)を備えたNicolet iSS分光計を用いて、Fourrier変換赤外分光法により、酸形でのCC-20及びCC-21の分子構造の比較を行う。それらの分子構造は、1200~1800cm-1の波長領域で99%同一であり、そして結果として、それらのDA及びDSは類似していることが判断される。
【0280】
濃度0.7%及び0.4%(m/m)のカルボキシメチルキトサンCC-21の2つの製剤を、グリセロールを含むリン酸緩衝液において調製する。pHを7.2±0.2に、及び浸透圧を200±20OmOsm/kgに調整し、そして次に、製剤を濾過し、これに従って、それらの潤滑能力及びそれらの粘度プロファイルを、以下の方法に従って特徴づける。種々の組成のヒアルロン酸(HA)ベースの点眼薬を、同じ方法(HA-5~HA-9)に従って特徴づける。結果は、表11bに報告される。
【0281】
摩擦係数の測定方法(点眼薬に適切である)
潤滑する能力、すなわち接触している2つの表面間の摩擦を低減する能力を、実施例9に示されるものと同一であるポリアクリレート生体材料から製造された2つのディスク間の摩擦係数を測定することにより評価する。2つのディスクを、DHR-2レオメーター(TA Instruments)の上部及び下部形状に固定し、試験される製品の約100μlの容量を、下部ディスク上に配置し、次に、上部形状を、2つのディスク間で、5ニュートンの負荷される通常の力により、接触するまで、下げる。摩擦係数の測定を、Waller et al. (J Rheumatol 39, 7, 1473, 2012)から採用されたプロトコル、及びKwon et al. (J Royal Society Interface 10, 2, 2013)により記載されるまぶたのまばたきの運動学的条件を模倣するパラメーターに従って、250で60秒間、一定の垂直力(5N)、6rad/sの発振周波数及び約1.71ラジアンの変形角度で実施する。オプション「振動運動の開始のゼロ点への準拠」が有効になる。各測定点で、トルクの値を記録し、次に摩擦係数(COF)を、次の式に従って計算する:トルク/(1/3×ディスクの直径×垂直力)。COFの平均値を、0~60秒間で決定する。従って、平均摩擦係数及び5回の連続測定の標準偏差を計算する。2つの表面が接触していない場合、COFの最小値は52である。CDFの上限は、2つのディスクが相互に関連して運動していない場合に対応する。
【0282】
COF値がシリーズごとに変動するので、同じディスクを、ランダムに使用し、同じ所定のシリーズで比較される製品を特徴づける必要がある。次に、表11aの基準に従って、同じシリーズで試験される製品を、最も効果的な(評点1)から、少なくとも効果的な(評点3)まで分類するために、相対評点の尺度を使用する。限界「COFA」及び「COFB」は、各シリーズのための参照として採用された2つの市販の点眼薬のCOFにより定義される:液滴A(0.15%のHA及び0.25%のカルボマーにより構成される)及び液滴B(0.15%のHA)。この尺度によれば、摩擦を低減するための評点が1又は2、好ましくは1であることが、眼の表面を潤滑にするための潤滑滴として使用するのに好都合である。3の評点の製品の場合、潤滑能力は、満足のいくものではなく、そして測定値の変動は非常に大きくなる。
【0283】
【0284】
剪断の関数としての粘度の測定方法
Simmonsなどは、開いた眼の動きの間の剪断速度が焼く10s-1であり、そしてまばたきが約10000s-1であることを確認している(Clinical Ophthalmology 11, 1637, 2017)。レオメトリック測定方法を、研究される剪断速度の範囲に応じて、及び製品が低粘度の流体溶液であることを考慮して、選択する:
-眼球運動に対応する剪断範囲。粘度は、Peltierプレート及び直径60mmの「円錐」型の形状及び2度の切断角度を備えた応力制御されたDHR-2レオメーター(TA Instruments)により、フロースイープ試験付の回転モードで測定される。製品は、37℃で1分間、平衡化され、温度はPeltierにより制御される。蒸発を回避するために、システムは、溶媒トラップ及び金属カバーを装備されている。次に、フロースイープ試験が開始され、そして粘度が剪断速度の関数として、0.001s-1からから100s-1まで測定される。10s-1での粘度値が報告される。
-まぶたのまばたきに対応する剪断範囲。粘度は、「ダブルギャップクエット(円筒形)」タイプの形状及びPeltier同心円筒を装備し、そして溶媒とラップ及び金属カバーを装備された応力制御されたDHR-2レオメーター(TA Instruments)により、フロースイープ試験付の回転モードで測定される。製品は、37℃で1分間、平衡化され、そして次に、0.001s-1から10000s-1まで変化する可変剪断速度が適用される。10000s-1での粘度値を、10s-1でのその値と比較する。
【0285】
【0286】
結果は、真菌起源のカルボキシメチルキトサンCC-21の2つの製剤が、点眼薬のための技術的仕様を満たしていることを確認する:それらは、定屈折率、十分な摩擦係数(評点1、すなわち市販の最も高い潤滑性の眼薬と同じくらい効果的である)、眼球運動の状態下で10~30mPa.sの粘度、及びまぶたのまばたきの状態での低い粘度を有する。カルボキシメチルキトサンがなければ、グリセロールを補充されたリン酸緩衝液は、点眼薬のための技術仕様を満たす手段を提供しない。最後に、摩擦を低減する能力を不利に変更しないで、カルボキシメチルキトサンの濃度を下げることにより(例えば、0.7から0.4%に)、粘度は下げられ得る(評点1)ことが注目される。
前記組成物が、注射可能な医薬組成物、移植可能な医薬組成物、点眼に適した医薬組成物、又は注射可能な医薬機器、移植可能な医薬機器、又は点眼に適した医薬機器であることを特徴とする、請求項15又は16のいずれかに記載の組成物。
前記組成物が、皮下、皮内、眼、眼内又は関節内経路を介して、修復又は補足を必要とする少なくとも1つの体組織の修復又は補足のために、点眼又は注入されることを特徴とする、請求項25に記載の組成物。